説明

クロックアンドデータリカバリ回路

【課題】クロックアンドデータリカバリ回路において、周波数追従ループのジッタ耐性を安定させる。
【解決手段】位相検出器210は、位相補間器270からの同期クロックとシリアルデータの位相を比較して比較結果に応じた位相誤差信号を出力する。第1の積分器230は、位相誤差信号を積分してシリアルデータの位相変動に追従するための位相補正制御信号を得る。第2の積分器240は、位相補正制御信号をさらに積分してアップ/ダウン信号を得る。パターン発生器250は、アップ/ダウン信号からシリアルデータの周波数変動に追従するための周波数補正制御信号を生成する。パターン発生器250のパターン長と第2の積分器240のカウント幅の積は、第1の積分器230のカウント幅が大きいほど大きくなる大きさの閾値以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LSI間をシリアルでデータを伝送する際に、受信側LSIにおいて、入力データから同期クロック信号を抽出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体技術の進歩に伴い、近年、LSI間のデータ伝送をシリアル化することが行われている。シリアルでデータ伝送する際に、EMI(ElectroMagnetic Interface)を低減するために、送信LSIにおいてスペクトラム拡散クロック(Spread Spectrum Clock)を用いて周波数変調をかけ、受信LSIにおいて、クロックアンドデータリカバリ回路によって周波数変調されたシリアルデータからクロックを抽出する手法が知られている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
図11は特許文献1の図1であり、特許文献1に開示されたクロックアンドデータリカバリ回路を示す。このクロックアンドデータリカバリ回路は、位相検出器101、積分器102、積分器103、パターン発生器104、混合器105、位相補間器106を備える。位相検出器101は、入力されるシリアルデータと、位相補間器106が出力したクロック信号の位相を比較して、比較結果を出力する。この比較結果に基づいて、積分器103とパターン発生器104から構成される周波数追従ループは低い周波数の位相変動すなわち周波数変動に追従し、積分器102から構成される位相追従ループは周波数追従ループが追従できない高い周波数の位相変動に追従する。混合器105は、周波数追従ループと位相追従ループの結果を混合する回路であり、混合した結果に基づいて位相補間器106が出力する同期クロック信号の位相を制御することにより、シリアルデータの同期クロックを抽出する。
【0004】
位相検出器101は、シリアルデータと同期クロック信号の位相の差異を検出して、この差異を示すアップ信号またはダウン信号を比較結果として出力する。積分器102と積分器103は、この比較結果を平滑して制御信号として出力するアップダウンカウンタであり、それぞれ所定のカウント幅を有する。パターン発生器104は、積分器103から出力された制御信号UP3/DOWN3に基づいて、クロック信号の周波数を補正する制御信号UP4/DOWN4を生成する。
【0005】
図12は特許文献1の図10であり、特許文献1に開示された別のクロックアンドデータリカバリ回路を示す。このクロックアンドデータリカバリ回路は、図11に示すクロックアンドデータリカバリ回路に対して、周波数追従ループと位相追従ループが積分器102を共有するようにしたものである。
【0006】
図13は特許文献1の図7であり、上述した2つのクロックアンドデータリカバリ回路に用いられるパターン発生器104の構成を示す。パターン発生器104は、クロック信号を入力し、クロックに同期して0から所定の上限値までの値を繰り返しカウントするカウンタ141と、アップダウンカウンタで構成された積分器103からの制御信号UP3/DOWN3、およびクロック信号を入力してアップカウントまたはダウンカウントするアップダウンカウンタ142と、カウンタ141とアップダウンカウンタ142のそれぞれのカウント値を入力してデコードし、周波数追従ループの結果として出力するデコーダ143を備える。
【特許文献1】特開2005−5999号公報
【特許文献2】特開2006−80991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、本願発明者は、図11図12に示す回路における周波数追従ループの性能について研究した結果、下記のことを知見した。
【0008】
図10は、図12の回路における積分器102のカウント幅mが5である場合に、この回路のジッタ耐力特性(以下ジッタ耐性ともいう)を示す。なお、図10に示す例では、パターン発生器104のパターン長pは32である。
【0009】
図10に示すように、この場合において、図12に示す回路のジッタ耐性は、中間周波数帯のある周波数のジッタに対して急激な落込みを示している。
【0010】
このような落込みの存在により、周波数追従ループの性能は安定性が欠け、シリアルデータから正しい同期クロック信号を抽出できない恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの態様は、クロックアンドデータリカバリ回路である。クロック信号を生成するクロック生成部と、該クロック生成部により得られたクロック信号と入力シリアルデータの位相を比較し比較結果に応じた位相誤差信号を得る位相検出器と、位相誤差信号に基づいて入力シリアルデータの位相変動を追従するための位相補正制御信号を取得する位相追従ループと、位相誤差信号に基づいて入力シリアルデータの周波数変動に追従するための周波数補正制御信号を取得する周波数追従ループとを備える。
クロック生成部は、周波数補正制御信号と位相補正制御信号とに基づいてクロック信号の位相を補正する。
位相追従ループは、第1の積分器を有する。第1の積分器は、所定のカウント幅を有するアップダウンカウンタであって、位相検出器からの位相誤差信号を平滑して位相補正制御信号を得る。
周波数追従ループは、位相追従ループの第1の積分器の積分値を計数し、計数結果に基づいて周波数補正制御信号を生成するパターン発生器を有する。該パターン発生器のパターン長は、第1の積分器のカウント幅が大きいほど大きくなる大きさの閾値以上である。
【0012】
なお、上記クロックアンドデータリカバリ回路を方法、装置、システムに置き換えて表現したものも、本発明の態様としては有効である。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる技術によれば、シリアルデータから同期クロック信号を抽出するクロックアンドデータリカバリ回路において、周波数追従ループの性能を安定させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の具体的な実施の形態を説明する前に、まず、本発明にかかる技術の原理について説明する。
【0015】
本願発明者は、研究模索した結果、クロックアンドデータリカバリ回路のジッタ耐性の不安定性を解消する手法を確立した。
【0016】
図1は、図12に示す回路に対して、積分器102のカウント幅をそれぞれ5、8、16とした場合の、ジッタ耐性のシミュレーション結果である。図中mは、積分器102のカウント幅を示し、pは、パターン発生器104のパターン長を示す。
【0017】
図示のように、積分器102のカウント幅が5である場合において、パターン発生器104のパターン長が64より小さいときに、ジッタ耐性の落込みは生じている。一方、パターン発生器104のパターン長が64以上であれば、ジッタ耐性の落込みは顕著ではない。
【0018】
積分器102のカウント幅が8である場合にも、パターン発生器104のパターン長が64より小さいときに、ジッタ耐性の落込みは生じている。一方、パターン発生器104のパターン長が64以上であれば、ジッタ耐性の落込みは顕著ではない。
【0019】
積分器102のカウント幅が16である場合において、パターン発生器104のパターン長が96より小さいときに、ジッタ耐性の落込みは生じている。一方、パターン発生器104のパターン長が96以上であれば、ジッタ耐性の落込みは顕著ではない。
【0020】
すなわち、図12に示すクロックアンドデータリカバリ回路に対して、パターン発生器104のパターン長を、ジッタ耐性の安定性を示す指標として用いることができ、その値が所定の閾値以上であれば、ジッタ耐性が安定する。この閾値は、積分器102のカウント幅に依存し、積分器102のカウント幅が大きいほど大きくなる。
【0021】
本願発明者は、さらに他の態様のクロックアンドデータリカバリ回路ついてのジッタ耐性も研究した。図2は、本願発明者が研究した周波数追従ループの一例を示す模式図である。この周波数追従ループは、図12に示すクロックアンドデータリカバリ回路における周波数追従ループを代替するものであり、分かりやすいように、図2の各機能ブロックに対して、図12におけるクロックアンドデータリカバリ回路における相対応するものと同じ符号を付与すると共に、図12に示すクロックアンドデータリカバリ回路の周波数追従ループに対して追加された積分器108を追加積分器という。
【0022】
図3は、図2に示す周波数追従ループにおけるパターン発生器104のパターン長が32である場合について、追加積分器108のカウント幅がそれぞれ1、2、3、4であるときのジッタ耐性のシミュレーション結果の例を示す。この例では積分器102のカウント幅は図中mで示す5であり、図中n、pは、追加積分器108のカウント幅とパターン発生器104のパターン長をそれぞれ示す。「1」であるnは、パターン発生器104と、積分器102との間に追加積分器108を設けない場合に相当する。
【0023】
図3に示すように、積分器102のカウント幅が1でありすなわち図12に示すクロックアンドデータリカバリ回路の構成の場合において、中間周波数帯のある周波数のジッタに対して、ジッタ耐性が急な落込みを示している。これについては前述した。
【0024】
ところで、追加積分器108のカウント幅が2以上である場合には、このような落込みは顕著ではない。
【0025】
図4は、図2に示す周波数追従ループにおけるパターン発生器104のパターン長が16である場合について、追加積分器108のカウント幅がそれぞれ3、4、6、8である場合のジッタ耐性を示している。図示のように、追加積分器108のカウント幅が3である場合に、中間周波数帯のある周波数のジッタに対して、ジッタ耐性が急な落込みを示している。また、追加積分器108のカウント幅が4以上である場合には、このような落込みは顕著ではない。
【0026】
すなわち、図2に示す構成の周波数追従ループでは、積分器102のカウント幅が5である場合に、追加積分器108のカウント幅と、パターン発生器104のパターン長の積を64以上にすれば、回路のジッタ耐性の落込みを防ぐことができる。
【0027】
図5は、図2に示す周波数追従ループに対して、積分器102のカウント幅を8と16にそれぞれした場合のジッタ耐性のシミュレーション結果を示す。図示のように、積分器102のカウント幅が8である場合に、追加積分器108のカウント幅と、パターン発生器104のパターン長の積を64以上にすれば、ジッタ耐性の落込みを防ぐことができる。一方、積分器102のカウント幅が16である場合に、ジッタ耐性の落込みを防ぐためには、追加積分器108のカウント幅と、パターン発生器104のパターン長の積を96以上にする必要がある。
【0028】
すなわち、図2に示す周波数追従ループにおいて、パターン発生器104のパターン長pと追加積分器108のカウント幅nの積がジッタ耐性の安定性を示す指標として用いることができ、その値が所定の閾値以上であれば、回路のジッタ耐性が安定する。この閾値は、積分器103のカウント幅mに依存し、積分器103のカウント幅mが大きいほど大きくなる。
【0029】
このように、本願発明者は、図2に示す周波数追従ループを用いたクロックアンドデータリカバリ回路のジッタ耐性の安定性を示す指標として、追加積分器108のカウント幅n(n>1)とパターン発生器104のパターン長pの積を使用できることを知見した。また、追加積分器108のカウント幅nが1であることは、追加積分器108が設けられていない場合を意味するので、図12に示すクロックアンドデータリカバリ回路のジッタ耐性についても同じことを言える。以下の説明において、追加積分器108のカウント幅n(n≧1)とパターン発生器104のパターン長pの積をクロックアンドデータリカバリ回路のジッタ耐性の安定度係数という。この安定度係数が小さいときに、周波数追従ループによる位相遅れのフィードバック成分が位相追従ループによるフィードバック成分に対して強くなるためにジッタ耐性の落込みが生じる原因であることも考えられる。
【0030】
本発明は、上記研究に基づいてなされ、ジッタ耐性の安定度係数を、位相検出器に接続した積分器(図2と図12の回路における積分器102)のカウント幅が大きいほど大きくなる所定の閾値以上にすることによって、ジッタ耐性の安定を図る。
【0031】
図12に示す回路は、周波数追従ループと位相追従ループとで積分器を共有することによって回路規模の削減を図ろうとしているが、上述したように、ジッタ耐性を安定させるために、パターン発生器104のパターン長を長くする必要がある。したがって、図12に示すような回路では、必ずしも回路規模を小さくできるとは限らない。
【0032】
そこで、本願発明者は、図12に示すクロックアンドデータリカバリ回路に対して、ジッタ耐性を安定させると共に、回路規模を小さくできる手法を確立した。この手法は、図12に示すクロックアンドデータリカバリ回路において、周波数追従ループと位相追従ループとで共有される積分器102と、パターン発生器104との間に別の積分器を設ける発想に基づく。
【0033】
この発想に基づく周波数追従ループの模式は、図2に示すクロックアンドリカバリ回路に該当する。ここで、追加積分器108からパターン発生器104に入力される信号をUP/DOWN信号と示す。
【0034】
まず、パターン発生器104の各構成を詳細に説明する。
図13に示すように、パターン発生器104は、カウンタ141、アップダウンカウンタ142、デコーダ143を有する。カウンタ141とアップダウンカウンタ142は、主にFFにより構成され、それらに含まれるFFの数は、パターン発生器104のパターン長に対応する。図6、図7は、パターン長が16である場合におけるカウンタ141とアップダウンカウンタ142の構成をそれぞれ示す。
【0035】
カウンタ141のカウント幅がパターン発生器104のパターン長に対応して、図6の例では「16」となり、カウンタ141は、「0」〜「15」をカウントする。そのため、カウンタ141に備えられるFFの数が、4である。
【0036】
アップダウンカウンタ142は、パターン発生器104のパターン長に対応して「−15」〜「+15」をカウントする。そのため、図7に示すように、アップダウンカウンタ142に備えられるFFの数が5である。
【0037】
カウンタ141に備えられるFFの数、アップダウンカウンタ142に備えられるFFの数、パターン発生器104のパターン長をそれぞれX、Y、pとすると、下記の式(1)に示す関係が得られる。

X=Y−1 (1)
p=2=2(Y−1)
但し,X:カウンタ141におけるFFの数
Y:アップダウンカウンタ142に備えられるFFの数
p:パターン発生器104のパターン長
【0038】
また、図2に示す追加積分器108に備えられるFFの数をZとすると、該追加積分器108のカウント幅が2(Z−1)となる。
【0039】
また、図2に示す周波数追従ループにおいて、積分器102におけるFFを除いたFFの総数Wは式(2)で表すことができる。

W=Z+X+Y=Z+2Y−1 (2)
但し,W:FFの総数
X:カウンタ141におけるFFの数
Y:アップダウンカウンタ142に備えられるFFの数
Z:追加積分器108におけるFFの数
【0040】
一方、前述したように、ジッタ耐性の安定度係数として、追加積分器108のカウント幅とパターン発生器104のパターン長の積を用いることができる。この安定度係数が大きいほどジッタ耐性が安定する。安定度係数をQで表すと、図2に示す周波数追従ループを用いた回路のジッタ耐性度係数を式(3)で表すことができる。
Q=(追加積分器108のカウント幅)×パターン発生器104のパターン長 (3)
但し,Q:安定度係数
【0041】
追加積分器108のカウント幅2(Z−1)と、式(1)に示すパターン発生器104のパターン長pを式(3)に代入して演算した結果、式(4)を得ることができる。
【0042】
Q=2(Z+Y−2) (4)
但し,Q:安定度係数
Y:アップダウンカウンタ142におけるFFの数
Z:追加積分器108におけるFFの数
【0043】
一方、図2に示す周波数追従ループにおいて、追加積分器108が設けられていない場合には、上記式(3)における追加積分器108のカウント幅が1となるため、安定度係数はパターン発生器104のパターン長となる。パターン発生器104のパターン長を式(2)に示すように、アップダウンカウンタ142におけるFFの数Yで表すようにすると、下記の式(5)を得ることができる。なお、式(5)において、追加積分器108が設けられている場合と区別するために、安定度係数、アップダウンカウンタ142におけるFFの数をそれぞれQ1とY1で表している。
【0044】
Q1=2(Y1−1) (5)
但し,Q1:安定度係数
Y1:アップダウンカウンタ142におけるFFの数
【0045】
なお、この場合において、積分器102におけるFFを除いたFFの総数W1は、式(6)に示す通りである。
W1=X1+Y1=2Y1−1 (6)
但し,W1:FFの総数
X1:カウンタ141におけるFFの数
Y1:アップダウンカウンタ142におけるFFの数
【0046】
ここで、追加積分器108を設ける場合と設けない場合とで、ジッタ耐性の性能が同様である前提において、図2において点線で囲まれた部分のFFの数について考える。
【0047】
ジッタ耐性の性能が同様であることから、式(4)に示す安定度係数Qと式(5)に示す安定度係数Q1が等しくなるため、この2つの式から下記の式(7)を導き出すことができる。
Y1=Y+Z−1 (7)
但し,Y1:アップダウンカウンタ142におけるFFの数
(追加積分器108無し)
Y:アップダウンカウンタ142におけるFFの数
(追加積分器108あり)
Z:追加積分器108におけるFFの数
【0048】
また、式(2)と式(6)から、この2つの場合におけるFFの総数の差W0を式(8)に示すように得ることができる。
W0=W1−W=2Y1−Z−2Y (8)
但し,W0:FFの総数の差
W1:FFの総数
(追加積分器108無し)
W:FFの総数
(追加積分器108あり)
【0049】
式(7)を式(8)に代入すると、下記の式(9)を得ることができる。
W0=W1−W=Z−2 (9)
但し,W0:FFの総数の差
Z:追加積分器108におけるFFの数
【0050】
式(9)から分かるように、追加積分器108のFFの数Zが3以上(対応して、カウント幅も3以上)であれば、FFの総数の差W0が1より大きくなる。すなわち、追加積分器108が設けられた場合のFFの総数Wは、追加積分器108が設けられない場合のFFの総数W1より、少なくとも1つ少ないことになる。
【0051】
なお、この結果は、ジッタ耐性の性能が同様であることを前提にして導き出している。すなわち、図2に示す周波数追従ループにおいて、FFの数が3以上の追加積分器108を設けることによって、追加積分器108を設けない周波数追従ループ(図12に示すクロックアンドデータリカバリ回路における周波数追従ループ)と同等な性能を果たしながら、FFの数を減らし、回路規模を小さくすることができる。
【0052】
さらに、同等な性能を果たす前提下において、追加積分器108を設けた場合におけるパターン発生器104のパターン長が、追加積分器108を設けない場合におけるパターン発生器104のパターン長より小さい。そのため、追加積分器108を設けた場合において、パターン発生器104におけるデコーダ143に入力されるデータのビット数が小さいので、デコーダ143の回路規模も小さくできる。
【0053】
なお、追加積分器108のFFの数が2である場合には、上記FFの総数の差が0となり、追加積分器108が設けられた場合のFFの総数Wと、追加積分器108が設けられない場合のFFの総数W1と同値になる。しかし、追加積分器108を設けたときには、パターン発生器104のパターン長が小さいため、デコーダ143に入力されるデータのビット数が小さいので、デコーダ143の回路規模が小さくできる。すなわち、追加積分器108のFFの数が2である場合においても、回路規模を削減することができる。
【0054】
パターン発生器104のパターン長とデコーダ143の回路規模との関係について、以下の具体例を説明する際にさらに詳細に説明する。
【0055】
上述した知見を踏まえて、本発明にかかる実施の形態を具体的に説明する。
図8は、本発明の実施の形態にかかるクロックアンドデータリカバリ回路200を示す。クロックアンドデータリカバリ回路200は、ペクトラム拡散クロック(Spread Spectrum Clock)で周波数変調されたシリアルデータの受信装置に設けられており、受信したシリアルデータから同期クロック信号を抽出するものである。
【0056】
クロックアンドデータリカバリ回路200は、位相検出器210と、制御信号取得部220と、混合器260と、位相補間器270を備える。
【0057】
位相補間器270は、入力クロックの位相を変更して同期クロックを得る。すなわち、位相補間器270は、クロック生成部として機能する。
【0058】
位相検出器210には、同期クロックとシリアルデータが入力される。位相検出器210は、シリアルデータと同期クロックの位相を比較し、比較結果として、同期クロックの位相を進めるべきか遅らせるべきかを示すアップ信号またはダウン信号UP1/DOWN1を出力する。具体的には、同期クロックの位相がシリアルデータの位相より遅れているときに同期クロックの位相を進めるべく、アップ信号UP1を出力する一方、同期クロックの位相がシリアルデータの位相より進んでいるときに同期クロックの位相を遅らせるべく、ダウン信号DOWN1を出力する。位相検出器210はさらに入力シリアルデータを同期クロックで同期をとった同期化データを、シリアルパラレル変換回路(図示せず)に出力する機能を備えることもできる。
【0059】
制御信号取得部220は、位相検出器210からの比較結果として出力されたアップダウン信号UP1/DOWN1に基づいて、シリアルデータの位相変動に追従するための位相補正制御信号と、シリアルデータ信号の周波数変動に追従するための周波数補正制御信号とを取得する。図示のように、制御信号取得部220は、第1の積分器230と、第2の積分器240と、パターン発生器250を有する。第1の積分器230は、位相追従ループを構成し、位相補正制御信号を取得する位相補正制御信号取得部として機能する。第1の積分器230、第2の積分器240、パターン発生器250は、周波数追従ループを構成し、周波数補正制御信号を取得する周波数補正制御信号取得部として機能する。
【0060】
第1の積分器230は、アップ/ダウン信号UP1/DOWN1を積分して位相補正制御信号UP2/DOWN2を得る。アップ/ダウン信号UP1/DOWN1は、頻繁に値が変化する信号であるので、そのまま位相補正制御信号として位相補間器270の制御に使用すると、同期クロックの位相が頻繁に変化してしまう。そのため、第1の積分器230は、アップ/ダウン信号UP1/DOWN1を平滑化するローパスフィルタとして機能し、位相補間器270から出力される同期クロックの位相が頻繁に変動することを防いでいる。第1の積分器230は、アップダウンカウンタで構成されている。
【0061】
第1の積分器230は、位相補正制御信号UP2/DOWN2を第2の積分器240と、混合器260に出力する。
【0062】
第2の積分器240は、位相補正制御信号UP2/DOWN2をさらに積分することによって平滑化し、アップ/ダウン信号UP3/DOWN3を得る。第2の積分器240も、アップダウンカウンタで構成されている。
【0063】
パターン発生器250は、第2の積分器240から出力されたアップ/ダウン信号UP3/DOWN3から、シリアルデータの周波数とクロックの周波数との差を検出して、周波数の差の大きさに比例する頻度で、アップ信号またはダウン信号UP4/DOWN4を出力する。このアップ/ダウン信号UP4/DOWN4は、周波数補正制御信号である。
【0064】
図9は、パターン発生器250の構成を示す。パターン発生器250は、カウンタ252と、アップダウンカウンタ254と、デコーダ256を有する。本実施の形態では、パターン発生器250のパターン長が32である。カウンタ252は、パターン長に対応して、「0」〜「31」をカウントし、カウント幅が32である。アップダウンカウンタ254も、パターン長に対応して、「−31」〜「+31」をカウントし、カウント幅が32である。カウンタ252とアップダウンカウンタ254を構成するためには、5個のFFと6個のFFがそれぞれ用いられる。
【0065】
混合器260は、第1の積分器230からの位相補正制御信号UP2/DOWN2と、パターン発生器250からの周波数補正制御信号UP4/DOWN4を混合して混合信号UP5/DOWN5を得、位相補間器270を制御する信号として位相補間器270に出力する。
【0066】
位相補間器270は、混合器260からの混合信号UP5/DOWN5に従って、同期クロックの位相を進めたり遅らせたりする。
【0067】
次いで、クロックアンドデータリカバリ回路200の動作をより具体的に説明する。
【0068】
位相検出器210は、クロック信号の位相を進めるべく、アップ信号を出力する際に、UP1=1を出力する。一方、クロック信号の位相を遅らせるべく、ダウン信号を出力する際に、DOWN1=1を出力する。
【0069】
第1の積分器230は、アップダウンカウンタであり、位相検出器210からUP1=1を受信した場合にはカウントアップし、DOWN1=1を受信した場合にはカウントダウンする。
【0070】
高い周波数の位相変動を追従できるように、カウント幅の小さい第1の積分器230を用いる必要がある。例として、第1の積分器230は、「−4」〜「+4」をカウントし、カウント幅が5である。なお、このような第1の積分器230を構成するために、4個のF/Fが必要である。
【0071】
第1の積分器230は、カウント値が「4」でUP1=1のときUP2=1を出力し、次のクロックでカウント値を「0」にする。また、カウント値が「−4」でDOWN1=1のときDOWN2=1を出力し、次のクロックでカウント値を「0」にする。
【0072】
このように、第1の積分器230により得られたアップダウン信号UP2/DOWN2は、クロックの位相をシリアルデータの位相に近づけるために働く位相補正制御信号である。
【0073】
第2の積分器240も、アップダウンカウンタであり、第1の積分器230からUP=1を受信した場合にはカウントアップし、DOWN=1を受信した場合にはカウントダウンする。例として、第2の積分器240は、「−3」〜「+3」をカウントし、カウント幅が4である。なお、このような積分器240を構成するために、3個のFFが必要である。
【0074】
第2の積分器240は、カウント値が「3」でUP2=1のときUP3=1を出力し、次のクロックでカウント値を「0」にする。また、カウント値が「−3」でDOWN2=1のときDOWN3=1を出力し、次のクロックでカウント値を「0」にする。
【0075】
パターン発生器250のカウンタ252は、クロックに同期して、「0」〜「31」を繰り返しカウントし、カウント値をデコーダ256に出力する。
【0076】
アップダウンカウンタ254は、入力されたアップ/ダウン信号UP3/DOWN3に応じて、「−31」〜「+31」の範囲で、UP3=1のときはカウントアップし、DOWN3=1のときはカウントダウンする。
【0077】
なお、UP3=1またはDOWN3=1が連続した回数が多いほど、シリアルデータと入力クロックの周波数の差が大きいことを示す。デコーダ256は、カウンタ252とアップダウンカウンタ254のカウント値に基づいて、パターン長に対応する32クロックにシリアルデータと入力クロックの周波数の差の大きさに比例する頻度で、アップ信号UP4=1またはDOWN4=1を出力する。この処理は、例えばカウンタ252のカウント値と、アップ/ダウン信号UP3/DOWN3の組合せに対応した出力値(周波数補正制御信号UP4/DOWN4)からなる真理値表に基づいて行われる。なお、本実施の形態において、この真理値表の大きさが「32×63」となる。
【0078】
このように、パターン発生器250により得られたアップ/ダウン信号UP4/DOWN4は、クロックの周波数をシリアルデータの周波数に近づけるために働く周波数補正制御信号である。
【0079】
混合器260は、パターン発生器250と第1の積分器230の出力を混合して、位相補間器270を制御する混合信号UP5/DOWN5を得る。
【0080】
位相補間器270は、混合信号UP5/DOWN5に従って入力クロックの位相を変更する。これによって、同期クロックの位相および周波数は、シリアルデータの位相および周波数に追従し、同期クロックは、シリアルデータから抽出されたクロックとすることができる。
【0081】
このように、本実施の形態のクロックアンドデータリカバリ回路200において、周波数追従ループと位相追従ループで第1の積分器230を共有すると共に、パターン発生器250と第1の積分器230の間に第2の積分器240を設けている。なお、第1の積分器230のカウント幅が5であり、パターン発生器250のパターン長と第2の積分器240のカウント幅はそれぞれ32と4である。そのため、パターン発生器250のパターン長(32)と第2の積分器240のカウント幅(4)の積すなわちジッタ耐性の安定度係数が64以上であるので、安定したジッタ耐性を得ることができる。
【0082】
本実施の形態のクロックアンドデータリカバリ回路200の回路規模の大きさについて考える。クロックアンドデータリカバリ回路200において、パターン発生器250のカウンタ252とアップダウンカウンタ254、第2の積分器240、第1の積分器230はそれぞれ5個、6個、3個、4個のFFを備えるため、制御信号取得部220全体は、18個のFFを備えることになる。また、前述したように、パターン発生器250のデコーダ256の真理値表の大きさが、「32×63」である。
【0083】
図12に示すクロックアンドデータリカバリ回路と比較する。特許文献1の「0063」に記載されたように、このクロックアンドデータリカバリ回路では、パターン発生器104のアップダウンカウンタ142のパターン長が128である。そのため、カウンタ141は「0」〜「127」をカウントし、7個のFFが必要であり、アップダウンカウンタ142は「−127」〜「+127」をカウントし、8個のFFが必要である。積分器102は、「−4」〜「+4」をカウントし、4個のFFを備える。すなわち、図12に示すクロックアンドデータリカバリ回路では、周波数追従ループと位相追従ループとで、計19個のFFが用いられている。また、パターン発生器104のパターン長に対応して、デコーダ143が用いる真理値表の大きさが「128×255」である。
【0084】
クロックアンドデータリカバリ回路200では、パターン発生器250のパターン長と第2の積分器240のカウント幅の積が128であり、図12に示すクロックアンドデータリカバリ回路では、パターン発生器104のパターン長が128である。また、2つの回路において、位相追従ループと周波数追従ループが共有する積分器(図8に示す第1の積分器230と図12に示す積分器102)のカウント幅が同様な5である。そのため、この2つの回路は、位相追従ループの性能および周波数追従ループの性能がほぼ同じである。
【0085】
すなわち、本発明の実施の形態にかかるクロックアンドデータリカバリ回路200は、図12に示すクロックアンドデータリカバリ回路より少ない数のFFを用いて、図12に示すクロックアンドデータリカバリ回路とほぼ同様な性能を実現できる。
【0086】
また、クロックアンドデータリカバリ回路200では、パターン発生器250におけるデコーダ256の真理値表の大きさが「32×63」であり、図12に示すクロックアンドデータリカバリ回路では、パターン発生器104におけるデコーダ143の真理値表の大きさが「128×255」であるため、デコーダ256より、デコーダ143の演算量ひいては回路規模は大きい。
【0087】
以上の説明から分かるように、図8に示すクロックアンドデータリカバリ回路200によれば、ジッタ耐性を安定させることができると共に、回路規模を小さくすることができる。
【0088】
原理の説明時に述べたように、本願発明に基づいて追加された積分器(図8における第2の積分器240)内に必要なFFの数が2である時、第2の積分器240は、「−1」〜「+1」をカウントし、カウント幅が2となる。この場合、図8に示すクロックアンドデータリカバリ回路200における周波数追従ループと位相追従ループとで必要なFFの数と、図12に示す回路における周波数追従ループと位相追従ループとで必要なFFの数が同じである。しかし、クロックアンドデータリカバリ回路200におけるデコーダ256の真理値表の大きさが小さいので、デコーダ256のサイズも小さい。すなわち、この場合においても図12に示すクロックアンドデータリカバリ回路より回路規模を小さくすることができる。
【0089】
以上、実施の形態をもとに本発明を説明した。実施の形態は例示であり、本発明の主旨から逸脱しない限り、上述した各実施の形態に対して、さまざまな変更、増減、組合せを行ってもよい。これらの変更、増減、組合せが行われた変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0090】
例えば、クロックアンドデータリカバリ回路200において、第2の積分器240のカウント幅が4であり、3個のFFを有し、パターン発生器250のパターン長が32である。例えば、第2の積分器240のカウント幅とパターン発生器250のパターン長をそれぞれ8と16にしてもよい。この場合、第2の積分器240、パターン発生器250におけるカウンタ252とアップダウンカウンタ254のFFの数がそれぞれ4、4、5になるため、制御信号取得部220におけるFFの総数は17個である。さらに、パターン発生器250のデコーダ256が用いる真理値表の大きさは「16×31」となる。また、第2の積分器240のカウント幅とパターン発生器250のパターン長の積が64以上の128である。そのため、回路規模を小さくすると共に、周波数追従ループのジッタ耐性の落ち込みを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の原理を説明するためのシミュレーション結果の例である。
【図2】本発明の原理を説明するための周波数追従ループの模式例を示す図である。
【図3】図2に示す周波数追従ループを有する回路のジッタ耐性の安定性に影響を与える要素を示すシミュレーション結果である(その1)
【図4】図2に示す周波数追従ループを有する回路のジッタ耐性の安定性に影響を与える要素を示すシミュレーション結果である(その2)
【図5】図2に示す周波数追従ループを有する回路のジッタ耐性の安定性に影響を与える要素を示すシミュレーション結果である(その3)
【図6】図2に示す周波数追従ループにおけるパターン発生器のカウンタを示す図である。
【図7】図2に示す周波数追従ループにおけるパターン発生器のアップダウンカウンタを示す図である。
【図8】本発明の実施の形態にかかるクロックアンドデータリカバリ回路を示す図である。
【図9】図8に示すクロックアンドデータリカバリ回路におけるパターン発生器を示す図である。
【図10】従来技術の問題点を説明するための図である。
【図11】従来のクロックアンドデータリカバリ回路を示す図である(その1)。
【図12】従来のクロックアンドデータリカバリ回路示す図である(その2)。
【図13】図11と図12に示すクロックアンドデータリカバリ回路におけるパターン発生器を示す図である。
【符号の説明】
【0092】
101 位相検出器
102 積分器
103 積分器
104 パターン発生器
105 混合器
106 位相補間器
108 追加積分器
141 カウンタ
142 アップダウンカウンタ
143 デコーダ
200 クロックアンドデータリカバリ回路
210 位相検出器
220 制御信号取得部
230 第1の積分器
230A 第2の積分器
240 第2の積分器
240A 第3の積分器
250 パターン発生器
252 カウンタ
254 アップダウンカウンタ
256 デコーダ
260 混合器
270 位相補間器
300 クロックアンドデータリカバリ回路
320 制御信号取得部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期クロック信号を生成するクロック生成部と、
該クロック生成部により得られた前記同期クロック信号と入力シリアルデータの位相を比較し比較結果に応じた位相誤差信号を得る位相検出器と、
前記位相誤差信号に基づいて前記入力シリアルデータの位相変動を追従するための位相補正制御信号を取得する位相追従ループと、
前記位相誤差信号に基づいて前記入力シリアルデータの周波数変動に追従するための周波数補正制御信号を取得する周波数追従ループとを備え、
前記クロック生成部は、前記周波数補正制御信号と前記位相補正制御信号とに基づいて前記同期クロック信号の位相を補正し、
前記位相追従ループは、所定のカウント幅を有するアップダウンカウンタであって、前記位相誤差信号を平滑して前記位相補正制御信号を得る第1の積分器を備え、
前記周波数追従ループは、
前記第1の積分器の積分値を計数し、計数結果に基づいて前記周波数補正制御信号を生成するパターン発生器とを有し、
該パターン発生器のパターン長は、前記第1の積分器のカウント幅が大きいほど大きくなる大きさの閾値以上であることを特徴とするクロックアンドデータリカバリ回路。
【請求項2】
前記位相誤差信号は、前記同期クロック信号の位相を進めるべきことを示すアップ信号と、前記同期クロック信号の位相を遅らせるべきことを示すダウン信号とを有することを特徴とする請求項1に記載のクロックアンドデータリカバリ回路。
【請求項3】
前記位相誤差信号は、前記同期クロック信号の位相が進んでいることを示すアップ信号と、前記同期クロック信号の位相が遅れていることを示すダウン信号とを有することを特徴とする請求項1に記載のクロックアンドデータリカバリ回路。
【請求項4】
前記周波数追従ループは、
所定のカウント幅を有するアップダウンカウンタであって、前記第1の積分器の積分値を平滑化する第2の積分器をさらに備え、
前記パターン発生器は、該第2の積分器の積分値を計数し、計数結果に基づいて前記周波数補正制御信号を生成するものであり、
該パターン発生器のパターン長と前記第2の積分器の積は、前記閾値以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のクロックアンドデータリカバリ回路。
【請求項5】
前記第2の積分器のカウント幅は3以上であることを特徴とする請求項4に記載のクロックアンドデータリカバリ回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−263509(P2008−263509A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−105959(P2007−105959)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(302062931)NECエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】