説明

グリーンシート用セラミック粉末及び低温焼成多層セラミック基板

【課題】750〜850℃での低温焼成が可能なグリーンシートを与え、銀系導体ペーストと同時焼成した際に、微細且つ良好な配線パターンを有する配線層の形成が可能で反りや欠陥の発生が少なく、耐メッキ性及び高周波帯での誘電特性に優れたセラミック層を与えるグリーンシート用セラミック粉末を提供する。
【解決手段】ガラス粉末と無機フィラーとを含有し、ガラス粉末が35〜40重量%のSiO、9〜17重量%のAl、21〜40重量%のB、10〜20重量%のR’O(R’はCa、Mg及びBaからなる群より選択される元素であって、Caを必ず含む少なくとも1種の元素)、0.2〜2.0重量%のMO(MはZr及びTiからなる群より選択される少なくとも1種の元素)、2〜10重量%のZnO、0.2〜3.0重量%のWOを含み、全体で100重量%となり、Al/CaOが3.0以上であるグリーンシート用セラミック粉末とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリーンシート用セラミック粉末及び低温焼成多層セラミック基板に関する。詳細には、情報通信及び自動車等の分野において、高周波モジュールやICパッケージ等で使用される低温焼成多層セラミック基板のセラミック層を与えるグリーンシート用セラミック粉末、及び低温焼成多層セラミック基板に関する。
【背景技術】
【0002】
高度な情報通信を支える技術として、低温焼成多層セラミック基板が実用化されている。かかる低温焼成多層セラミック基板は、グリーンシート用セラミック粉末から作製されたグリーンシートに導体ペーストを用いて回路パターンを形成した後、複数のグリーンシートを積層一体化して低温焼成した回路配線内蔵の多層基板である。かかる低温焼成多層セラミック基板は、グリーンシート(セラミック材料)と導体ペースト(導体材料)とを同時に焼成するため、同時焼成基板とも称せられる。
【0003】
かかる低温焼成多層セラミック基板を作製するのに用いられるグリーンシート用セラミック粉末としては、一般的に、ガラス粉末と、機械強度の向上等を目的とする無機フィラー(例えば、アルミナ)との混合物が用いられる。特に、約1000℃以下で軟化して緻密化するガラス粉末を選択することによって、金、銀、銀パラジウム及び銅等の低抵抗な導体を用いることが可能となる。この低抵抗な導体を用いることにより、高周波信号の伝送時の導体抵抗に起因する導体ロス分を低減できるため、低温焼成多層セラミック基板の伝送損失を少なくすることができる。また、コスト的に安価な、銀及びパラジウム含有量の少ない銀パラジウム、及び銅を導体として選択することにより、低温焼成多層セラミック基板の製造コストを低減することもできる。
【0004】
近年、情報通信分野では、通信機器の増大化とチャンネル数の増加により、使用する電波の周波数帯が高周波化しており、マイクロ波やミリ波帯が用いられてきている。この使用する電波の周波数は、高くなるほど回路中で電気信号が熱に変わる作用、すなわち伝送損失が大きくなるため、製品の高性能化を目指すユーザーから、高周波帯での伝送損失を少なくすることが求められている。かかる高周波帯における伝送損失に多大な影響を及ぼす因子としては、セラミック層の誘電特性及び配線層の電気伝導度が挙げられる。この中でも、セラミック層の誘電特性は特に重要であり、高い周波数になるほどその寄与率が高くなる。このため、高周波帯での伝送損失を少なくする観点から、誘電特性に優れた(すなわち、比誘電率ε及び誘電正接tanδが低い)セラミック層を与えるグリーンシート用セラミック粉末が求められている。
しかしながら、セラミック層の誘電特性は、低温焼成との両立が一般的に難しいという問題がある。特に、電気伝導度に優れるAgを導体材料として用いる場合には、900℃以下、可能であればより低温での焼成が要求されるため、上記のような誘電特性と低温焼成との両立がより難しくなる。
【0005】
従来のセラミック粉末としては、0〜50重量%のアルミナ等の無機フィラーと、50〜100重量%のガラスとからなり、ガラスが、35〜65重量%のSiO、5〜25重量%のAl、5〜35重量%のB、2〜20重量%のCaO、0〜5重量%のBaO、0〜5重量%のMgO、0〜5重量%のSrO、0.5〜5重量%のZrO、0.5〜5重量%のTiO、及び0〜1重量%のアルカリ元素(リチウム、ナトリウム、カリウム)酸化物からなるセラミック粉末が知られている(例えば、特許文献1参照)。かかるセラミック粉末は、850〜1000℃での緻密化が可能で、比誘電率εが低く、誘電体損も小さいセラミック層を与えることができる。
【0006】
【特許文献1】特許第3033568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
導体ペーストとして低抵抗で安価な銀系導体ペーストを選択する場合、グリーンシートと銀系導体ペーストとの同時焼成中に、銀がグリーンシートのガラス部分に拡散し易いため、現実的には、銀系導体ペーストに銀の拡散を抑制する工夫をしないと適用し難い。また、グリーンシートとしては、900℃前後の温度で焼成されるものが多く知られているが、銀の拡散を考慮すると、より低い温度、具体的には800℃程度で焼成して緻密化できることが望ましい。
また、近年、集積度の向上やインピーダンスマッチングの観点から、ライン幅が50μm以下の微細な配線パターンを有する配線層への要求が多くなってきている。この微細な配線パターンを形成するための銀系導体ペーストとして、微細な銀粒子を含む銀系導体ペーストが用いられているが、この銀系導体ペーストは、850℃を超える温度で焼成すると、導体の焼損によって配線パターンの断線等の欠陥が生じることがある。そのため、かかる欠陥を防止するためには、グリーンシートと銀系導体ペーストとを850℃以下の温度で同時焼成することが必要とされている。
【0008】
850℃以下の温度で焼成して緻密化し、且つ良好な誘電特性を有するセラミック層を与えるガラスとしては、ホウ素を高濃度で含むガラスが考えられるが、このガラスは、通常のガラスに比べて、耐酸性及び耐アルカリ性が劣る傾向にある。多くの場合、低温焼成多層セラミック基板では、同時焼成を行った後に、ニッケル等のメッキ膜が配線層上に形成される。このメッキ工程において、メッキ処理液は、一般的に強酸性又は強アルカリ性であるため、ガラスが耐酸性及び耐アルカリ性に劣ると、セラミック層が侵食され、配線層のセラミック層に対する密着性の低下や、セラミック層自体の強度低下が生じる。
【0009】
また、良好な誘電特性を有するセラミック層を与えるガラスとしては、低軟化点ガラス中に含有されることが多いアルカリ金属元素(特に、カリウム、ナトリウム)を含有しないガラスが有効である。しかし、ガラスがアルカリ金属元素を含有しない場合には、焼成時に銀系導体ペーストからグリーンシートのガラス部分への銀の拡散の影響を強く受け易い。銀が拡散したガラス部分では、ガラスの軟化点が顕著に低下し、配線パターン上へのガラスの浮き出しが増加したり、焼成中にグリーンシートにおける銀の拡散部分と非拡散部分との間で収縮挙動の差が大きくなることに起因して、配線パターンが変形したり、セラミック層の反りが大きくなったり、ビア周辺にボイドが発生したりする等の多くの欠陥が生じ易くなる。
【0010】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、750℃以上850℃以下での低温焼成が可能なグリーンシートを与えると共に、銀系導体ペーストと同時焼成した際に、微細且つ良好な配線パターンを有する配線層の形成が可能で、反りや欠陥の発生が少なく、耐メッキ性及び高周波帯(マイクロ波やミリ波帯)での誘電特性に優れたセラミック層を与えるグリーンシート用セラミック粉末を提供することを目的とする。
また、本発明は、反りや欠陥の発生が少なく、耐メッキ性及び高周波帯(マイクロ波やミリ波帯)での誘電特性に優れた低温焼成多層セラミック基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記のような課題を解決すべく鋭意研究した結果、SiO、Al、B、R’O及びZnOの含有量を最適化することでガラスの軟化温度を所定の範囲に調整することができ、また、所定量のWOを配合することで銀拡散によるガラスの軟化点の低下に伴う効果を抑制し得ることを見出した。
【0012】
本発明は、ガラス粉末と無機フィラーとを含有するグリーンシート用セラミック粉末であって、前記ガラス粉末が、酸化物基準で表記した場合に、35重量%以上40重量%以下のSiO、9重量%以上17重量%以下のAl、21重量%以上40重量%以下のB、10重量%以上20重量%以下のR’O(ただし、R’は、Ca、Mg及びBaからなる群より選択される元素であって、Caを必ず含む少なくとも1種の元素である)、0.2重量%以上2.0重量%以下のMO(ただし、MはZr及びTiからなる群より選択される少なくとも1種の元素である)、2重量%以上10重量%以下のZnOと、0.2重量%以上3.0重量%以下のWOを含み、全体で100重量%となり、且つCaOに対するAlの重量比(Al/CaO)が3.0以上であることを特徴とするグリーンシート用セラミック粉末である。
また、本発明は、上記グリーンシート用セラミック粉末を含むグリーンシートを750℃以上850℃以下で焼成して得られるセラミック層と、銀系導体ペーストを750℃以上850℃以下で焼成して得られる配線層とを具備することを特徴とする低温焼成多層セラミック基板である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、750℃以上850℃以下での低温焼成が可能なグリーンシートを与えると共に、銀系導体ペーストと同時焼成した際に、微細且つ良好な配線パターンを有する配線層の形成が可能で、反りや欠陥の発生が少なく、耐メッキ性及び高周波帯(マイクロ波やミリ波帯)での誘電特性に優れたセラミック層を与えるグリーンシート用セラミック粉末を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
実施の形態1.
本実施の形態のグリーンシート用セラミック粉末は、所定の成分を含むガラス粉末と、無機フィラーとを含む。
本実施の形態におけるガラス粉末は、SiOと、Alと、Bと、R’O(ただし、R’は、Ca、Mg及びBaからなる群より選択される元素であって、Caを必ず含む少なくとも1種の元素である)と、MO(ただし、Mは、Zr及びTiからなる群から選択される少なくとも1種の元素である)と、ZnOと、WOとを含む。このうち、SiO、Al及びBは、ガラスの基本構成をなす成分である。以下、ガラス粉末の各成分について詳細に説明する。
【0015】
SiOは、それ自身がガラス化するガラス物質である。SiOを多量に含むガラスでは軟化点が高くなるため、SiOの含有量は35重量%以上40重量%以下である。SiOの含有量が35重量%未満であると、安定なガラスとすることができず、ガラスの強度低下が生ずる。一方、SiOの含有量が40重量%を超えると、ガラスの軟化点が高くなり、850℃以下での焼成が困難になる。
【0016】
もまた、それ自身がガラス化するガラス物質である。Bは、SiOを含むガラスに配合することでガラスの軟化点を低下させることができる。また、Bは、ホウ素−酸素の結合をガラス骨格中で形成する。この結合は、ケイ素−酸素の結合に比べて共有結合性が強く、電気二重極子モーメントが小さいため、電磁波に対し不活性となり、伝送損失を少なくすることができる。
しかし、ガラスにおいてBの量が多くなると、ホウ酸に類似する酸素配位が生じるため、ガラスが化学的に不安定化し、特にガラスの耐酸性、耐アルカリ性及び耐水性が低下する。そのため、Bの含有量は、21重量%以上40重量%以下とする必要がある。Bの含有量が21重量%未満であると、所望の誘電特性が得られない。一方、Bの含有量が40重量%を超えると、ガラスの耐水性、耐酸性及び耐アルカリ性が低下するため、高周波部品の製造において通常行われる金メッキ付け等の製造プロセスを中性付近の環境下で行う必要が生じる。
【0017】
Alは、それ自身ではガラス化しないが、ガラスに種々の性質を与えるガラス修飾物質であり、ガラスの化学的な安定性を向上させる成分である。
Alの含有量は、9重量%以上17重量%以下である。Alの含有量が9重量%未満であると、ガラスの化学的な安定性が十分に向上せず、高周波部品で通常行う金メッキ付け等の製造プロセスを中性付近の環境下で行う必要が生じる。一方、Alの含有量が17重量%を超えると、原料の溶融物からガラスが安定して得られない。
【0018】
アルカリ土類金属酸化物もまた、それ自身ではガラス化しないが、ガラスに種々の性質を与えるガラス修飾物質である。アルカリ土類金属酸化物は、R’O(ただし、R’は、Ca、Mg及びBaからなる群より選択される元素であって、Caを必ず含む少なくとも1種の元素である)として表さる。すなわち、CaOは必須成分であり、MgO及びBaOは任意成分である。
R’Oの含有量は、10重量%以上20重量%以下であり、好ましくは16重量%以上18重量%以下である。この範囲の含有量であれば、ガラスの耐水性を向上させたり、ガラスの高温粘度を適正に制御することができる。R’Oの含有量が10重量%未満であると、ガラスの粘度が高くなる。一方、R’Oの含有量が20重量%を超えると、原料の溶融物からガラスが安定して得られないか、又は所望の誘電特性が得られない。
CaO、MgO及びBaOそれぞれの効果を一義的に示すことは難しいが、CaOの含有量を1重量%以上5重量%以下、MgOの含有量を1重量%以上8重量%以下、BaOの含有量を8重量%以上13重量%以下とする場合に、より一層良好な特性が得られる。
また、CaOの含有量が上記範囲を満たす場合であっても、Alの含有量との関係で、CaOに対するAlの重量比(Al/CaO)が3.0以上でなければ、耐水性が低下する。
【0019】
MO(但し、Mは、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種の元素である)もまた、それ自身ではガラス化しないが、種々の性質を与えるガラス修飾物質である。具体的には、ZrOはガラスの耐水性を向上させることができ、また、TiOは所望の粘度や流動性をガラスに付与することができる。
MOの含有量は、0.2重量%以上2.0重量%以下である。MOの含有量が0.2重量%未満であると、所望の耐水性、粘度及び流動性をガラスに付与することができない。一方、MOの含有量が2.0重量%を超えると、所望の誘電特性が得られない。
【0020】
ZnOもまた、それ自身ではガラス化しないが、種々の性質を与えるガラス修飾物質であり、良好な粘度や流動性をガラスに付与する成分である。同様の効果を奏する成分としてアルカリ金属元素を配合することも考えられるが、アルカリ金属元素は誘電特性を低下させるため、誘電特性を低下させないZnOを配合する必要がある。
ZnOの含有量は、2重量%以上10重量%以下である。ZnOの含有量が2重量%未満であると、ZnOを配合することによる効果が十分に得られない。一方、ZnOの含有量が10重量%を超えると、所望の誘電特性が得られない。
【0021】
本実施の形態におけるガラス粉末はアルカリ金属元素を含んでいないので、焼成中に導体ペーストから拡散する銀に対して影響を受け易い。多くの場合、銀の拡散によってグリーンシートにおけるガラスの軟化点が低下し、ガラスの流動性が高まるが、特にアルカリ金属元素を含まないガラスでは、この傾向が顕著であり、銀の拡散部と非拡散部との間でグリーンシートの収縮挙動に差が生ずる。すなわち、銀拡散し易い導体近傍のグリーンシートでは、銀拡散が到達しにくいグリーンシート内部に比べて、より低温で緻密化が進行する。WOは、このような挙動を緩和するのに有効な成分であり、導体周囲、特にビア周囲に発生し易い気孔等の欠陥発生を抑制することもできる。
WOの含有量は、0.2重量%以上3.0重量%以下である。WOの含有量が0.2重量%未満であると、WOを配合することによる効果が十分に得られない。一方、WOの含有量が3.0重量%を超えると、誘電特性が低下する。
【0022】
本実施の形態におけるガラス粉末は、より一層良好な粘度や流動性をガラスに付与すると共に、銀拡散に伴うガラスの着色を抑制するために、CuOを構成成分として配合することができる。
CuOの含有量は、好ましくは0重量%超過2重量%以下である。CuOの含有量が2重量%を超えると、所望の誘電特性が得られない。
【0023】
本実施の形態におけるガラス粉末は、必要に応じてLiOを構成成分として配合することもできる。
リチウムは、アルカリ金属の中でも最も軽い元素であって結合距離も短いため、電気二重極子モーメントの固有振動数が高く、またモーメントの値も小さい。そのため、アルカリ金属の中でもリチウムであれば伝送損失の増加を抑制することができる。特にアルカリ金属酸化物であるLiOは銀拡散を抑制することもできる。なお、ナトリウムやカリウムのようなアルカリ金属は、ガラスの性状を安定化するが、誘電特性を低下させるため、ガラス粉末の構成成分としては適さない。
【0024】
なお、本実施の形態におけるガラスは、最終的なガラス組成が上記範囲となればよいのであり、例えば、上記範囲外のガラス組成を有するガラスを複数組み合わせて、上記範囲のガラス組成となるように調製してもよい。
本実施の形態におけるガラス粉末は、従来公知の方法に従い、上記成分を混合して溶融した後、粉砕することにより調製することができる。なお、溶融温度は、ガラス組成にあわせて適宜設定すればよい。
【0025】
本実施の形態における無機フィラーは、特に限定されることはなく、強度や熱伝導性等の必要な特性に応じて適宜選択すればよい。例えば、無機フィラーとしては、酸化アルミニウム、酸化シリコン、窒化珪素、窒化ホウ素等が挙げられ、これらは市販されているものを用いることができる。また、無機フィラーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、強度、コスト、及び使い安さの観点から、酸化アルミニウムを用いることが好ましい。
【0026】
本実施の形態におけるガラス粉末及び無機フィラーの平均粒径はいずれも、特に限定されることはないが、1μm超過3μm未満であることが好ましく、1.5μm以上2.5μm以下であることがより好ましい。この範囲の平均粒径であれば、焼成後のセラミックの収縮量が小さくなって焼成品の反りを少なくし得ると共に、焼成後のセラミックに適切な緻密度を与えて良好な電気特性をもたらし得る。
【0027】
本実施の形態のグリーンシート用セラミック粉末におけるガラス粉末と無機フィラーとの重量割合は、好ましくは4:6以上6:4以下であり、より好ましくは1:1である。無機フィラーの重量割合が多すぎると、焼成後のセラミックの緻密度が低くなって(98%未満)開気孔が残り、強度や、湿度によって電気特性が低下(特に、伝送損失が増加)することがある。一方、ガラス粉末の重量割合が多すぎると、焼成後のセラミックの収縮量が大きくなって焼成品の反りが実用に供し得ないほど大きくなることがある。
【0028】
本実施の形態のグリーンシート用セラミック粉末は、従来公知の方法に従い、上記粉末を上記割合にて混合することによって得ることができる。混合方法としては、特に限定されることはなく、ボールミル等を用いて混合すればよい。なお、ボールは、不純物の混入を防止する観点から、純度の高い硬質のアルミナボール又はジルコニアボールを用いることが好ましい。
このようにして調製されたグリーンシート用セラミック粉末は、低温焼成多層セラミック基板を製造するために用いることができる。
【0029】
実施の形態2.
本実施の形態の低温焼成多層セラミック基板は、上記グリーンシート用セラミック粉末を含むグリーンシートを750℃以上850℃以下で焼成して得られるセラミック層と、銀系導体ペーストを750℃以上850℃以下で焼成して得られる配線層とを具備する。
この低温焼成多層セラミック基板は、上記グリーンシート用セラミック粉末を含むスラリーをシート状に成形して乾燥させることによりグリーンシートを得る工程と、銀系導体ペーストを用いて前記グリーンシート上に配線パターンを印刷する工程と、前記配線パターンが印刷されたグリーンシートを積層し、プレスして一体化させた後、750℃以上850℃以下で焼成する工程とを含む製造方法により製造可能である。
【0030】
ここで、グリーンシート用セラミック粉末を含むスラリーは、有機バインダー、可塑剤、分散剤及び溶剤をグリーンシート用セラミック粉末に添加することにより調製することができる。
有機バインダーとしては、ガラス粉末及び無機フィラーと混合してシート化した際に十分な機械的強度が得られると共に、後述の加熱脱脂処理時に分解脱離させ得る樹脂であれば、特に限定されることはなく、当該技術分野において公知のものを用いることができる。例えば、有機バインダーとして、ポリビニルブチラールやアクリル系樹脂等を使用することができる。
可塑剤としては、特に限定されることはなく、当該技術分野において公知のものを用いることができる。例えば、可塑剤として、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジn−ブチル及びポリエチレングリコール等を使用することができる。
【0031】
分散剤としては、特に限定されることはなく、当該技術分野において公知のものを用いることができる。例えば、分散剤として、トリオレイン等を使用することができる。
溶剤としては、有機バインダー、可塑剤及び分散剤を溶解し得るものであれば、特に限定されることはなく、当該技術分野において公知のものを用いることができる。例えば、溶剤として、トルエン、エタノール及びブタノール等のアルコールや、蒸留水等を使用することができる。
有機バインダー、可塑剤、分散剤及び溶剤の量は、スラリー状になれば特に制限されることはなく、グリーンシート用セラミック粉末の種類等にあわせて適宜調整すればよい。
【0032】
グリーンシート用セラミック粉末を含むスラリーをシート状に成形する方法としては、特に限定されることはなく、作製するグリーンシートの厚みに応じて、ドクターブレード法、押出法、ロールコーター法、印刷法等を使用すればよい。
銀系導体ペーストとしては、導電性の観点から、Ag−PdやAg−Pt等のような、Agを主成分とするAg系ペーストが好ましく、最も導電性に優れるAgペーストであることがより好ましい。
また、グリーンシート上に配線パターンを印刷する工程の前に、グリーンシートにビアホールを形成することも可能である。
【0033】
導体ペーストが印刷されたグリーンシートを積層し、プレスして一体化させた後、750℃以上850℃以下で焼成する工程において、プレス方法としては、積層体が焼成中に剥離しないように形状を保てる方法であれば特に限定されることはなく、例えば、温水中で静水圧プレスを行ったり、熱間一軸プレスを行えばよい。
【0034】
750℃以上850℃以下での焼成の前には、脱脂を目的とする加熱脱脂処理を行うことが好ましい。かかる脱脂を目的とする加熱脱脂処理では、加熱脱脂処理温度が300℃以上600℃以下であることが好ましい。この範囲の温度であれば、十分な脱脂を行い、緻密化を目的とする焼成(750℃以上850℃以下での焼成)を行う際に膨れや剥がれ等の発生を防止することができる。また、加熱脱脂処理時間は、グリーンシート等の大きさにあわせて適宜設定すればよく、特に限定されることはないが、一般に、2〜10時間程度であれば十分な脱脂効果を得ることができる。
【0035】
緻密化を目的とする750℃以上850℃以下での焼成は、強度が実用上十分なレベルに達するまで行えばよいため、条件は特に限定されることはないが、一般に、焼成時間は10分〜1時間程度である。
なお、脱脂を目的とする加熱脱脂処理から緻密化を目的とする焼成(750℃以上850℃以下での焼成)に移る際の昇温速度は、特に限定されることはなく、グリーンシート等の大きさにあわせて適宜設定すればよい。
このようにして製造される低温焼成多層セラミック基板は、反りや欠陥の発生が少なく、耐メッキ性及び高周波帯(マイクロ波やミリ波帯)での誘電特性に優れている。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
[実施例1〜15及び比較例1〜14]
表1のガラス組成に従い、各ガラス成分を混合し、1200〜1500℃で1時間程度かけて溶融させた後、急冷して得られたガラスカレットを、スタンプミル又はボールミルを用いて粉砕することにより、平均粒径2μmのガラス粉末を調製した。
【0037】
【表1】

【0038】
次に、前記ガラス粉末50gと、平均粒径2μmのアルミナ粉末(純度99%以上)50gとをボールミルを用いて16時間混合し、グリーンシート用セラミック粉末を調製した。このグリーンシート用セラミック粉末に、ポリビニルブチラール、フタル酸ジn−ブチル、トリオレイン、エタノール及びブタノールを適量さらに添加してスラリーを調製した。
次に、かかるスラリーを用いて、ドクターブレード法によって約100μmの厚みを有するグリーンシートを作製した。
【0039】
前記グリーンシートを30枚重ねて、90℃の温水中にて、300kg/cmで15分間の静水圧プレスを行って一体化した後、表2に示す焼成温度(緻密化温度)で20分〜1時間、焼成することによって低温焼成多層セラミック基板の試料を作製した。この試料を、冷却剤として水を用いて切削加工を行い、直径約1.3mm、長さ約40mmに加工した。この加工した試料を、共振周波数が約10GHzのTM010共振器を用いる摂動法によって、マイクロ波帯での誘電特性(比誘電率及び誘電正接)を評価した。
この評価において、低温焼成多層セラミック基板用として一般に用いられているアルカリ金属元素を含むガラスを用いて作製した低温焼成多層セラミック基板の10GHzでの誘電正接が0.006〜0.007程度であることを考慮すると、約50%低損失化される0.004以下であれば、誘電特性が実用的に向上したといえる。
【0040】
また、前記グリーンシートを10枚重ねて、上記と同様にして作製した低温焼成多層セラミック基板の試料を、長さ30mm×幅15mmに加工した。この加工した試料を、500ccの蒸留水中で2時間煮沸した後、1分間の超音波洗浄、150℃で2時間の乾燥を行い、この処理前後の重量を測定し、重量変化の大小によって耐水性を評価した。
この評価において、重量変化が0.02%程度であれば一般的な耐水性のレベルであり、0.01%以下であれば、耐水性が高いといえる。
【0041】
一方、前記グリーンシートに、ビアを有する簡易回路をAg導体ペーストを用いて印刷した。このグリーンシートを10枚重ね、上記と同様にして低温焼成多層セラミック基板の試料を作製した。この試料は、複数層にわたって、厚さ方向に連結したビアを内部に有する。得られた試料のビア部分を切断し、SiC研磨紙による粗研磨、ダイアモンドペーストによる鏡面研磨を行った後、ビアとその周辺の基材部分の断面組織観察を走査型電子顕微鏡により行い、ビア周辺部のボイド欠陥の有無を観察した。
この評価において、ビア周辺部のボイド欠陥は、気密性に問題が生じたり、ビア変形等による電気的断線の発生、基板の機械強度の低下等につながるため、低温焼成多層セラミック基板の信頼性の点でボイド欠陥が無いことが好ましいといえる。
上記のようにして評価した誘電特性、耐水性及びボイド欠陥についての結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表2に示されているように、実施例1〜15の試料はいずれも、750℃以上850℃以下で緻密化が達成されると共に、耐水性及び誘電特性に優れ、ビア周辺部におけるボイド欠陥の発生も無く、低温焼成多層セラミック基板として実用的に優れるものであった。
一方、比較例の試料では、緻密化を達成するための焼成温度が高すぎたり、耐水性又は誘電特性が十分でなかったり、ボイド欠陥が生じた。
以上の結果からわかるように、本発明のグリーンシート用セラミック粉末は、750℃以上850℃以下での低温焼成が可能なグリーンシートを与えると共に、銀系導体ペーストと同時焼成した際に、微細且つ良好な配線パターンを有する配線層の形成が可能で、反りや欠陥の発生が少なく、耐メッキ性及び高周波帯(マイクロ波やミリ波帯)での誘電特性に優れたセラミック層を与えることができる。また、本発明の低温焼成多層セラミック基板は、反りや欠陥の発生が少なく、耐メッキ性及び高周波帯(マイクロ波やミリ波帯)での誘電特性に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス粉末と無機フィラーとを含有するグリーンシート用セラミック粉末であって、
前記ガラス粉末が、酸化物基準で表記した場合に、35重量%以上40重量%以下のSiO、9重量%以上17重量%以下のAl、21重量%以上40重量%以下のB、10重量%以上20重量%以下のR’O(ただし、R’は、Ca、Mg及びBaからなる群より選択される元素であって、Caを必ず含む少なくとも1種の元素である)、0.2重量%以上2.0重量%以下のMO(ただし、MはZr及びTiからなる群より選択される少なくとも1種の元素である)、2重量%以上10重量%以下のZnOと、0.2重量%以上3.0重量%以下のWOを含み、全体で100重量%となり、且つCaOに対するAlの重量比(Al/CaO)が3.0以上であることを特徴とするグリーンシート用セラミック粉末。
【請求項2】
前記ガラス粉末が、0重量%超過2.0重量%以下のCuO、及び0重量%超過1重量%以下のLiOからなる群より選択される少なくとも1種をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のグリーンシート用セラミック粉末。
【請求項3】
前記ガラス粉末と前記無機フィラーとの重量割合が、4:6以上6:4以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のグリーンシート用セラミック粉末。
【請求項4】
前記無機フィラーが、酸化アルミニウム、酸化シリコン、窒化珪素及び窒化ホウ素からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のグリーンシート用セラミック粉末。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のグリーンシート用セラミック粉末を含むグリーンシートを750℃以上850℃以下で焼成して得られるセラミック層と、銀系導体ペーストを750℃以上850℃以下で焼成して得られる配線層とを具備することを特徴とする低温焼成多層セラミック基板。

【公開番号】特開2009−215089(P2009−215089A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57743(P2008−57743)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】