説明

コンバイン

【課題】走行用HSTが可変容積型ポンプ及び可変容積型モータを備え、前記モータが小容積状態及び大容積状態間で切替可能とされたコンバインの傾斜地での走行安全性を向上させる。
【解決手段】制御装置は、傾斜センサからの信号に基づき機体の傾斜角度が所定値を越えていると判断する場合には、走行モード切替操作部材からの人為操作信号、好ましくは、高速モード選択信号のみを無視するように構成される。他態様においては、制御装置は、傾斜センサからの信号に基づき機体の傾斜角度が所定値を越えていると判断する場合には、走行モード切替操作部材からの人為操作信号に拘わらず、前記モータが大容積状態となるように走行モード切替作動機構を強制的に作動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源からクローラ等の走行装置へ至る走行系伝動経路に介挿された走行用HSTが可変容積型の走行用油圧ポンプ及び可変容積型の走行用油圧モータを有しているコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
走行系伝動経路に介挿された走行用HSTが可変容積型の油圧ポンプ及び可変容積型の油圧モータを有しているコンバインは、従前から公知である(例えば、下記特許文献1参照)。
【0003】
詳しくは、前記油圧ポンプのポンプ側容積調整機構は、主変速操作部材への人為操作に基づいて作動されるように構成されており、コンバインの走行速度を無段変速する主変速装置として作用している。
一方、前記油圧モータのモータ側容積調整機構は、走行モード切替操作部材への人為操作に基づいて該油圧モータを選択的に小容積状態(高速モード状態)又は大容積状態(低速モード状態)とさせ得るように構成されており、前記主変速装置による無段変速幅を変更する副変速装置として作用している。
【0004】
即ち、前記特許文献1に記載のコンバインは、前記モータ側容積調整機構によって前記主変速装置における変速領域(変速幅)の変更を行えるように構成されており、前記コンバインを走行させたままで停止させることなく低速モード及び高速モード間で走行モードをスムース切り替えることができる点で有用である。
【0005】
さらに、前記特許文献1に記載のコンバインにおいては、前記油圧モータが小容積状態(高速モード状態)とされている際には、制御装置が刈取部を作動させないように制御しており、これにより、高速モードで刈取作業を行った場合に生じ得る搬送部や脱穀部における詰まりを防止するようになっている。
【0006】
このように、前記従来のコンバインは、前記モータ側容積調整機構の作動状態に基づき前記刈取部の作動制御を行うように構成されているものの、例えば、トラックへの前記コンバインの積み降ろし時や畦越え時等のように走行モードの切替が好ましくない傾斜地走行中であっても操縦者が意に反して前記走行モード切替操作部材を操作した場合には、走行モードが切り替わってしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−195490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来技術に鑑みなされたものであり、走行系伝動経路に介挿された走行用HSTが可変容積型走行用油圧ポンプ及び可変容積型走行用油圧モータを備え、前記走行用油圧モータが小容積状態(高速モード状態)及び大容積状態(低速モード状態)間で切替可能とされたコンバインにおいて、傾斜地での走行安全性を向上させ得るコンバインの提供を、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記従来技術に鑑みなされたものであり、駆動源に作動連結された可変容積型の走行用油圧ポンプ及び前記走行用油圧ポンプに流体接続された可変容積型の走行用油圧モータを有する走行用HSTと、人為操作可能な主変速操作部材と、前記主変速操作部材への人為操作に基づき前記走行用油圧ポンプの走行用油圧ポンプ側容積調整機構を作動させる主変速作動機構と、人為操作可能な走行モード切替操作部材と、前記走行用油圧モータの走行用油圧モータ側容積調整機構を介して該走行用油圧モータを小容積状態又は大容積状態に切り替える走行モード切替作動機構と、前記走行モード切替操作部材からの高速モード選択信号及び低速モード選択信号を含む人為操作信号に基づき前記走行モード切替作動機構の作動制御を行う制御装置とを備えたコンバインであって、前記機体の傾斜角度を検出する傾斜センサを備え、前記制御装置は、前記傾斜センサからの信号に基づき機体の傾斜角度が所定値を越えていると判断する場合には、前記走行モード切替操作部材からの人為操作信号を無視するように構成されたコンバインを提供する。
【0010】
好ましくは、前記制御装置は、前記傾斜センサからの信号に基づき機体の傾斜角度が所定値を越えていると判断する場合には、前記走行モード切替操作部材からの高速モード選択信号のみを無視するように構成され得る。
【0011】
又、本発明は、駆動源に作動連結された可変容積型の走行用油圧ポンプ及び前記走行用油圧ポンプに流体接続された可変容積型の走行用油圧モータを有する走行用HSTと、人為操作可能な主変速操作部材と、前記主変速操作部材への人為操作に基づき前記走行用油圧ポンプの走行用油圧ポンプ側容積調整機構を作動させる主変速作動機構と、人為操作可能な走行モード切替操作部材と、前記走行用油圧モータの走行用油圧モータ側容積調整機構を介して該走行用油圧モータを小容積状態又は大容積状態に切り替える走行モード切替作動機構と、前記走行モード切替操作部材からの高速モード選択信号及び低速モード選択信号を含む人為操作信号に基づき前記走行モード切替作動機構の作動制御を行う制御装置とを備えたコンバインであって、前記機体の傾斜角度を検出する傾斜センサを備え、前記制御装置は、前記傾斜センサからの信号に基づき前記機体の傾斜角度が所定値を越えていると判断する場合には、前記走行モード切替操作部材からの人為操作信号に拘わらず、前記走行用油圧モータが大容積状態となるように前記走行モード切替作動機構を強制的に作動させるコンバインを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様に係るコンバインによれば、機体の傾斜角度が所定値を越えている場合には走行モード切替操作部材への人為操作に基づく走行用油圧モータの容積変更が不能とされて走行モードの切替が行われないように構成されているので、傾斜地走行中に操縦者が意に反して前記走行モード切替操作部材を操作したとしても車速が急激に変化することが防止され、これにより、トラックへのコンバインの積み降ろし時や畦越え時等の傾斜地走行中における走行安全性を向上させることができる。
【0013】
前記機体の傾斜角度が所定値を越えている場合には前記走行モード切替操作部材からの高速モード選択信号のみを無視するように構成すれば、傾斜地走行中において走行モードが低速モードから高速モードへ移行して車速が増速することを防止しつつ、高速モードから低速モードへの移行は人為操作によって行うことができる。
【0014】
又、本発明の他態様に係るコンバインによれば、機体の傾斜角度が所定値を越えている場合には走行用油圧モータが大容積状態とされて低速モードに固定されるので、傾斜地走行中における意に反した走行モードの切替を確実を防止でき、走行安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態に係るコンバインの正面図である。
【図2】図2は、前記コンバインの側面図である。
【図3】図3は、前記コンバインの平面図である。
【図4】図4は、前記コンバインの伝動模式図である。
【図5】図5は、前記コンバインにおけるトランスミッションの伝動模式図である。
【図6】図6は、前記トランスミッションの油圧回路図である。
【図7】図7は、前記コンバインにおける運転席の斜視図である。
【図8】図8は、前記コンバインにおける主変速操作部材近傍の斜視図である。
【図9】図9は、前記コンバインにおける制御装置に記憶された制御プログラムの一例のフローチャートである。
【図10】図10は、前記制御プログラムの変形例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい一実施の形態に係るコンバインについて、添付図面を参照しつつ説明する。
図1〜図4は、それぞれ、本実施形態に係るコンバイン1の正面図,側面図,平面図及び伝動模式図である。
【0017】
図1〜図4に示すように、前記コンバイン1は、機体2と、前記機体2に支持された駆動源として作用するエンジン9と、前記機体2に連結された左右一対の走行装置(本実施の形態においては、クローラ式走行装置)10と、前記エンジン9からの回転動力を変速して前記一対の走行装置10へ出力するトランスミッション100と、前記機体2の前方において昇降可能に支持された刈取装置30と、前記刈取装置30によって刈り取られた穀稈を前記機体2の左側方において後方へ搬送するフィードチェーン装置20と、前記フィードチェーン装置20によって搬送される穀稈に対して脱穀処理を行うように、前記機体の左部分に配設された脱穀装置40と、前記脱穀装置40の下方に配設された揺動選別装置50と、前記機体2の右前方部分に配設された運転席5と、前記揺動選別装置50によって選別された穀粒を収容するグレンタンク6であって、前記運転席5の後方に配設されたグレンタンク6と、前記フィードチェーン装置20から脱穀済の排藁を受け継ぎ、該排藁を後方へ搬送する排藁搬送装置60とを備えている。
【0018】
まず、前記コンバイン1における伝動経路について説明する。
前記コンバイン1は、図4に示すように、前記エンジン9からの回転動力を前記トランスミッション100を介して前記一対の走行装置10へ伝達する走行系伝動経路と、前記エンジン9からの回転動力を脱穀系プーリ伝動機構200を介して前記フィードチェーン装置20,前記脱穀装置40,前記揺動選別装置50及び前記排藁搬送装置60へ伝達する脱穀系伝動経路と、前記エンジン9からの回転動力を刈取系プーリ伝動機構250を介して前記刈取装置30へ伝達する刈取系伝動経路とを含んでいる。
【0019】
図5及び図6に、それぞれ、前記トランスミッション100の伝動模式図及び油圧回路図を示す。
図5及び図6に示すように、前記トランスミッション100は、前記エンジン9に作動連結された走行用HST120及び旋回用HST130と、前記走行用HST120からの回転動力を多段的に変速する機械式の多段変速装置150と、前記多段変速装置150及び前記旋回用HST130からの回転動力を合成して、左右一対の出力軸11にそれぞれ出力する左右一対の第1及び第2差動機構170a,170bと、前記多段変速装置150からの回転動力を前記第1及び第2差動機構170a,170bに同一回転方向で伝達する走行系伝動機構180と、前記旋回用HST130からの回転動力を前記第1及び第2差動機構170a,170bの一方には正転方向に伝達し且つ他方には逆転方向で伝達する旋回系伝動機構190とを有している。
【0020】
前記走行用HST120は、図5及び図6に示すように、前記エンジン9に作動連結された可変容積型の走行用油圧ポンプ120Pと、前記走行用油圧ポンプ120Pによって流体的に駆動される可変容積型の走行用油圧モータ120Mとを備えている。
【0021】
前記可変容積型の走行用油圧ポンプ120Pは、前記エンジン9に作動連結された走行用ポンプ軸121と、前記走行用ポンプ軸121に相対回転不能に支持された走行用油圧ポンプ本体122と、前記走行用油圧ポンプ本体122の容積量を変更させる走行用油圧ポンプ側容積調整機構123とを備えている。
本実施の形態においては、前記走行用油圧ポンプ側容積調整機構123は、走行用油圧ポンプ側可動斜板と、前記走行用油圧ポンプ側可動斜板を傾転させる走行用油圧ポンプ側制御軸とを有している。
【0022】
前記走行用油圧ポンプ側容積調整機構123は、主変速操作部材310への人為操作に基づき前記走行用油圧ポンプ本体122の容積量を変更させるように構成されている。
詳しくは、前記コンバイン1は、人為操作可能な前記主変速操作部材310と、前記主変速操作部材310への人為操作に基づき前記走行用油圧ポンプ側容積調整機構123を作動させる主変速作動機構320とを備えている。
【0023】
図7に前記運転席5の斜視図を示す。
図7に示すように、前記運転席5の一側方にはサイドコラム8が設けられており、前記主変速操作部材310は、前記サイドコラム8に設けられたレバーガイドによってガイドされた状態で車輌幅方向に沿った操作軸回り揺動可能とされている。
【0024】
図8に、前記主変速操作部材310近傍の斜視図を示す。
詳しくは、前記主変速操作部材310は、前記レバーガイドに挿通されたレバーロッド311と、前記レバーロッド311の上端部に設けられた把持部312とを備えている。
なお、本実施の形態においては、前記主変速操作部材310は、前記走行用油圧ポンプ側容積調整機構123の作動状態を変更する主変速操作に加えて、前記コンバイン1に備えられた他の機能を操作し得るように構成されている。
【0025】
具体的には、前記主変速操作部材310には、下記左右一対の機体昇降用油圧装置562a,562bを操作する為の機体傾斜スイッチ313と、下記刈取昇降用油圧装置561を操作する為の刈取装置昇降スイッチ314と、刈取穀稈の穂先位置を前記脱穀装置40における扱胴に対して調整する為の扱き深さスイッチ315と、前記刈取昇降用油圧装置561によって前記刈取装置30を所定の非作業位置まで上昇させる為の刈取装置オートリフトスイッチ316と、前記刈取昇降用油圧装置561によって前記刈取装置30を所定の作業位置に自動設定する為の刈取装置オートセットスイッチ317と、前記走行用油圧モータ120Mを選択的に小容積状態又は大容積状態にする為の走行モード切替操作部材318とが付設されている。
【0026】
本実施の形態においては、前記主変速作動機構320は、前記主変速操作部材310への人為操作に基づいて前記コンバイン1に備えられる制御装置400によって作動制御されるようになっている。
【0027】
即ち、前記コンバイン1は、図6に示すように、さらに、前記主変速操作部材310の操作位置を検出する操作側主変速センサ410と、前記走行用油圧ポンプ側可動斜板の傾転位置を直接又は間接的に検出する作動側主変速センサ415とを備えており、前記制御装置400が、前記操作側主変速センサ410及び前記作動側主変速センサ415からの信号に基づき前記主変速作動機構320の作動制御を行うように構成されている。
【0028】
前記主変速作動機構320は、図6に示すように、走行用油圧ポンプ側ピストン装置321と、前記走行用油圧ポンプ側ピストン装置321への作動油の給排を切り換える走行用油圧ポンプ側電磁弁322とを有している。
【0029】
斯かる構成において、前記制御装置400は、前記操作側主変速センサ410及び前記作動側主変速センサ415からの信号に基づき、前記走行用油圧ポンプ側電磁弁322の位置制御を行い、これにより、前記走行用油圧ポンプ側ピストン装置321が前記制御軸を介して前記走行用油圧ポンプ側可動斜板を前記主変速操作部材310の操作位置に応じた傾転位置に位置させるようになっている。
【0030】
前記走行用油圧ポンプ側ピストン装置320の作動油は、図6に示すように、前記走行用HST120及び前記旋回用HST130のチャージ油源として前記コンバイン1に備えられる第1補助ポンプ501から供給される。
【0031】
なお、前記操作側主変速センサ410として回転角センサが用いられる場合には、前記制御装置400は前記主変速操作部材310の中立位置を初期値として記憶し且つ前記初期値を基準にして前記主変速操作部材310が操作される毎に操作方向及び操作角を累積的に記憶することで、その時点での前記主変速操作部材310の操作位置を認識し得るようになっている。
【0032】
本実施の形態においては、前記主変速作動機構320は、前記電磁弁322によって給排制御される作動油の油圧を利用して前記走行用油圧ポンプ側容積調整機構123を作動させるように構成されているが、これに代えて、電動モータを採用することも可能である。
又、前記ピストン装置321及び前記電磁弁322の組み合わせ又は前記電動モータ等のように前記制御装置400によって電気的に作動制御される構成に代えて、前記主変速操作部材310と前記走行用油圧ポンプ側容積調整機構123とを作動連結する機械リンク機構によって前記主変速作動機構320を形成することも可能である。
【0033】
前記可変容積型の走行用油圧モータ120Mは、前記走行用油圧ポンプ本体122と一対の第1及び第2走行側HSTライン129a,129b(図6参照)を介して流体接続された走行用油圧モータ本体127と、前記走行用油圧モータ本体127を相対回転不能に支持する走行用モータ軸126と、前記走行用油圧モータ本体127の容積量を変更させる走行用油圧モータ側容積調整機構128とを備えている。
本実施の形態においては、前記走行用油圧モータ側容積調整機構128は、走行用油圧モータ側可動斜板と、前記走行モータ側可動斜板を傾転させる走行用油圧モータ側制御軸とを有している。
【0034】
前記走行用油圧モータ側容積調整機構128は、前記走行モード切替操作部材318への人為操作に基づき、前記走行用油圧モータ本体127の容積量をそれぞれ小容積及び大容積とさせ得るように構成されている。
【0035】
詳しくは、前記コンバイン1は、図6に示すように、人為操作可能な前記走行モード切替操作部材318と、前記走行用油圧モータ側容積調整機構128を作動させる走行モード切替作動機構330とを備えており、前記制御装置400が前記走行モード切替操作部材318への人為操作に基づいて前記走行モード切替作動機構330の作動制御を行うことで前記走行用油圧モータ120Mを選択的に小容積状態及び大容積状態とさせ得るように構成されている。
【0036】
前述の通り、本実施の形態においては、前記走行モード切替操作部材318は、前記主変速操作部材310の前記把持部312に付設されている(図8参照)。
前記走行モード切替操作部材318は、人為操作に応じて前記制御装置400へ高速モード選択信号(小容積選択信号)又は低速モード選択信号(大容積選択信号)を出力するように構成されている。
【0037】
前記走行モード切替作動機構330は、図6に示すように、走行用油圧モータ側ピストン装置331と、前記第1補助ポンプ501から前記走行用油圧モータ側ピストン装置331への作動油の給排を切り換える走行用油圧モータ側電磁弁332とを有している。
【0038】
前記制御装置400は、前記走行モード切替操作部材318からの走行モード選択信号に応じて前記電磁弁332の位置制御を行い、これにより、前記走行用油圧モータ側ピストン装置331が前記走行用油圧モータ側容積調整機構128を介して前記走行用油圧モータ120Mを小容積状態又は大容積状態とさせるようになっている。
【0039】
即ち、前記電磁弁332によって給排制御される作動油によって前記走行用油圧モータ側ピストン装置331のピストンロッドが軸線方向一方側へ押動されると、前記走行用油圧モータ側制御軸を介して走行用油圧モータ側可動斜板が揺動軸線回り中立側の小容積位置に位置し、これにより、前記走行用油圧モータ120Mが高速回転出力を行う小容積状態となる。
一方、前記電磁弁332によって給排制御される作動油によって前記ピストンロッドが軸線方向他方側へ押動されると、前記走行用油圧モータ側制御軸を介して走行用油圧モータ側可動斜板が揺動軸線回り中立側とは反対側の大容積位置に位置し、これにより、前記走行用油圧モータ120Mが低速回転出力を行う大容積状態となる。
【0040】
なお、本実施の形態においては、前記走行モード切替操作部材318は、押圧操作される毎に、高速モード選択信号及び低速モード選択信号を順次出力するように構成されている。即ち、前記コンバイン1の前記エンジン9を始動させた初期状態においては、前記制御装置400は、前記走行用油圧モータ120Mが大容積状態となるように前記走行モード切替作動機構330を作動させる。そして、この初期状態から前記走行モード切替操作部材318が操作されると、該走行モード切替操作部材318から前記制御装置400へ高速モード選択信号が送信され、これにより、前記制御装置400は、前記走行用油圧モータ120Mが小容積状態となるように前記走行モード切替作動機構330を作動させる。さらに、この状態から前記走行モード切替操作部材318が操作されると、該走行モード切替操作部材318から前記制御装置400へ低速モード選択信号が送信され、これにより、前記制御装置400は、前記走行用油圧モータ120Mが大容積状態となるように前記走行モード切替作動機構330を作動させる。
当然ながら、斯かる構成に代えて、前記走行モード切替操作部材318をトグルスイッチやシーソースイッチとすることも可能である。
【0041】
又、本実施の形態においては、前記走行モード切替作動機構330は、油圧の作用を利用して前記走行用油圧モータ側容積調整機構128を作動させるように構成されているが、これに代えて、電動モータを採用することも可能である。
【0042】
前記旋回用HST130は、図5及び図6に示すように、前記エンジン9に作動連結された旋回用油圧ポンプ130Pと、前記旋回用油圧ポンプ130Pによって流体的に駆動される旋回用油圧モータ130Mとを備えている。
【0043】
前記旋回用油圧ポンプ130P及び前記旋回用油圧モータ130Mは少なくとも一方が可変容積型とされている。
本実施の形態においては、図5及び図6に示すように、前記旋回用油圧ポンプ130Pが可変容積型とされ、且つ、前記旋回用油圧モータ130Mは固定容積型とされている。
【0044】
可変容積型の前記旋回用油圧ポンプ130Pは、前記エンジン9に作動連結された旋回用ポンプ軸131と、前記旋回用ポンプ軸131に相対回転不能に支持された旋回用油圧ポンプ本体132と、前記旋回用油圧ポンプ本体132の容積量を変更させる旋回用油圧ポンプ側容積調整機構133とを備えている。
本実施の形態においては、前記旋回用油圧ポンプ側容積調整機構133は、旋回用油圧ポンプ側可動斜板と、前記旋回用油圧ポンプ側可動斜板を傾転させる旋回用油圧ポンプ側制御軸とを有している。
【0045】
固定容積型の前記旋回用油圧モータ130Mは、前記旋回用油圧ポンプ本体132と一対の旋回側第1及び第2HSTライン139a,139bを介して流体接続された旋回用油圧モータ本体137と、前記旋回用油圧モータ本体137を相対回転不能に支持する旋回用モータ軸136と、前記旋回用油圧モータ本体137の容積量を固定する固定斜板(図示せず)とを有している。
【0046】
前記旋回用油圧ポンプ側容積調整機構133は、ステアリングハンドル等の旋回操作部材350への人為操作に基づき前記旋回用油圧ポンプ130Pの容積量を変更させるように構成されている。
【0047】
詳しくは、前記コンバイン1は、図6及び図7に示すように、人為操作可能な前記旋回操作部材350と、前記旋回操作部材350への人為操作に基づき前記旋回用油圧ポンプ側容積調整機構133を作動させる旋回作動機構360とを備えている。
【0048】
本実施の形態においては、前記旋回作動機構360は、前記旋回操作部材350への人為操作に基づいて前記制御装置400によって作動制御されるようになっている。
【0049】
即ち、前記コンバイン1は、図6に示すように、さらに、前記旋回操作部材350の操作位置を検出する操作側旋回センサ420と、前記旋回用油圧ポンプ側可動斜板の傾転位置を直接又は間接的に検出する作動側旋回センサ425とを備えており、前記制御装置400が、前記操作側旋回センサ420及び前記作動側旋回センサ425からの信号に基づき前記旋回作動機構360の作動制御を行うように構成されている。
【0050】
前記旋回作動機構360は、図6に示すように、旋回用油圧ポンプ側ピストン装置361と、前記第1補助ポンプ501から前記旋回用油圧ポンプ側ピストン装置361への作動油の給排を切り換える旋回用油圧ポンプ側電磁弁362とを有している。
【0051】
斯かる構成において、前記制御装置400は、前記操作側旋回センサ420及び前記作動側旋回センサ425からの信号に基づき、前記旋回用油圧ポンプ側電磁弁362の位置制御を行い、これにより、前記旋回用油圧ポンプ側ピストン装置361が前記制御軸を介して前記旋回用油圧ポンプ側可動斜板を前記旋回操作部材350の操作位置に応じた傾転位置に位置させるようになっている。
【0052】
なお、前記操作側旋回センサ420として回転角センサが用いられる場合には、前記制御装置400は前記旋回操作部材350の直進位置を初期値として記憶し且つ前記初期値を基準にして前記旋回操作部材350が操作される毎に操作方向及び操作角を累積的に記憶することで、その時点での前記旋回操作部材350の操作位置を認識し得るようになっている。
【0053】
本実施の形態においては、前記旋回作動機構360は、前記電磁弁362によって給排制御される作動油の油圧を利用して前記旋回用油圧ポンプ側容積調整機構133を作動させるように構成されているが、これに代えて、電動モータを採用することも可能である。
又、前記ピストン装置361及び前記電磁弁362の組み合わせ又は前記電動モータ等のように前記制御装置400によって電気的に作動制御される構成に代えて、前記旋回操作部材350と前記旋回用油圧ポンプ側容積調整機構133とを作動連結する機械リンク機構によって前記旋回作動機構360を形成することも可能である。
【0054】
前記多段変速装置150は、少なくとも低速変速段及び標準変速段を有しており、前記走行用HST120からの回転動力を多段変速して前記一対の第1及び第2差動機構170a,170bに向けて出力するように構成されている。
【0055】
詳しくは、前記多段変速装置150は、図5に示すように、前記走行用モータ軸126に作動連結された駆動軸151と、前記走行系伝動機構180を介して前記第1及び第2差動機構170a,170bに作動連結された従動軸152と、前記駆動軸151及び前記従動軸152に支持された低速ギヤ列153a及び標準ギヤ列153bと、前記低速ギヤ列153a及び前記標準ギヤ列153bの何れか一のギヤ列を伝動状態とさせる切替シフタ154とを有している。
【0056】
本実施の形態においては、図5に示すように、前記多段変速装置150は、前記低速ギヤ列153a及び前記標準ギヤ列153bに加えて高速ギヤ列153cを有しており、3段の変速を行えるように構成されている。
従って、前記切替シフタ154は、前記低速ギヤ列153aを伝動状態とさせる低速位置,前記標準ギヤ列153bを伝動状態とさせる標準位置及び両ギヤ列153a,153bを共に動力遮断状態とさせる中立位置を選択的にとり得る低速/標準用切替シフタ154aと、前記高速ギヤ列153cを選択的に伝動状態又は動力遮断状態とさせる高速用切替シフタ154bとを含んでいる。
【0057】
前記多段変速装置150は、副変速操作部材370への人為操作に基づき変速動作を行うように構成されている。
即ち、前記コンバイン1は、人為操作可能な前記副変速操作部材370(図7及び図8参照)と、前記副変速操作部材370への人為操作に基づき前記多段変速装置150の伝動状態を切り替える副変速作動機構(図示せず)とを備えている。
【0058】
前記副変速作動機構は、前記副変速操作部材370への人為操作に基づき、前記切替シフタ154を作動させて前記低速ギヤ列153a,前記標準ギヤ列153b及び前記高速ギヤ列153cの何れか一のギヤ列を伝動状態とさせ得る限り、種々の形態をとり得る。
即ち、前記副変速作動機構として、機械式リンク機構を採用することも可能であるし、前記制御装置400によって電気的に制御可能な油圧ピストン及び電磁弁の組み合わせ若しくは電動モータを採用することも可能である。
【0059】
前記第1及び第2差動機構170a,170bの各々は、図5に示すように、サンギヤ171と、前記サンギヤ171の回りを公転し得るように該サンギヤ171に噛合された遊星ギヤ172を相対回転自在に支持し且つ前記遊星ギヤ172と共に前記サンギヤ171の回りを公転するキャリア173と、前記遊星ギヤ172と噛合するインターナルギヤ174とを含む第1〜第3要素を備えている。
【0060】
前記走行系伝動機構180は、図5に示すように、前記多段変速装置150からの回転動力を同一方向で前記第1及び第2差動機構170a,170bの第1要素に伝達している。
前記旋回系伝動機構190は、図5に示すように、前記旋回用HST130からの回転動力を前記第1及び第2差動機構170a,170bの第2要素に互いに対して反対方向で伝達している。
そして、前記第1及び第2差動機構170a,170bは、それぞれ、前記第1及び第2要素の回転動力を合成して、該合成回転動力を前記第3要素から対応する前記出力軸11に出力している。
本実施の形態においては、前記サンギヤ171,前記インターナルギヤ174及び前記キャリア173が、それぞれ、前記第1要素,前記第2要素及び前記第3要素として作用している。
【0061】
なお、本実施の形態においては、図5に示すように、前記トランスミッション1は、さらに、前記多段変速装置150の前記従動軸152に作動的に制動力を付加し得る走行側ブレーキ装置140と、前記旋回用モータ軸136に作動的に制動力を付加し得る旋回側ブレーキ装置145と、前記旋回用モータ軸136から前記第1及び第2差動機構170a,170bへの動力伝達を系脱する旋回側クラッチ装置146とを備えている。
【0062】
前記脱穀系プーリ伝動機構200には、図4に示すように、脱穀クラッチ210が介挿されている。
前記脱穀クラッチ210は、前記運転席5の近傍に配設された作業クラッチレバー380(図7及び図8参照)への人為操作に基づいて作動制御されるように構成されている。
【0063】
本実施の形態においては、前記脱穀クラッチ210は、前記作業クラッチレバー380への人為操作に基づき前記制御装置400によって作動制御されている。
詳しくは、前記コンバイン1は、図6に示すように、前記制御装置400によって作動制御される脱穀クラッチ作動機構510を有している。
【0064】
前記脱穀クラッチ作動機構510は、図6に示すように、脱穀クラッチ用ピストン装置511と、前記第1補助ポンプ501から前記脱穀クラッチ用ピストン装置511への作動油の給排を切り換える脱穀クラッチ用電磁弁512とを有している。
【0065】
斯かる構成において、前記制御装置400は、前記作業クラッチレバー380の操作位置に応じて前記脱穀クラッチ用電磁弁512の位置制御を行い、これにより、前記脱穀クラッチ用ピストン装置511が前記脱穀クラッチ210による動力伝達を選択的に係合又は遮断させるようになっている。
【0066】
前記刈取系プーリ伝動機構250は、図4に示すように、車速と同調した回転速度を有する回転動力を前記刈取装置30へ伝達する車速同調側刈取系プーリ伝動機構260と、前記エンジン9からの定速回転動力を前記刈取装置30へ伝達する定速側刈取系プーリ伝動機構270とを含んでいる。
【0067】
前記車速同調側刈取系プーリ伝動機構260は、図5に示すように、前記走行用HST120の前記走行用モータ軸126から作動的に回転動力を取り出して、前記刈取装置30へ伝達するように構成されている。
【0068】
前記車速同調側刈取系プーリ伝動機構260には、図4に示すように、車速同調側刈取クラッチ265が介挿されている。
前記車速同調側刈取クラッチ265は、前記作業クラッチレバー380への人為操作に基づいて作動制御される。
即ち、前記作業クラッチレバー380は、前記脱穀クラッチ210及び前記車速同調側刈取クラッチ265の双方の操作部材として作用している。
【0069】
本実施の形態においては、前記車速同調側刈取クラッチ265は、前記作業クラッチレバー380への人為操作に基づき前記制御装置400によって作動制御されている。
詳しくは、前記コンバイン1は、図6に示すように、前記制御装置400によって作動制御される車速同調側刈取クラッチ作動機構520を有している。
【0070】
前記車速同調側刈取クラッチ作動機構520は、図6に示すように、車速同調側刈取クラッチ用ピストン装置521と、前記第1補助ポンプ501から前記車速同調側刈取クラッチ用ピストン装置521への作動油の給排を切り換える車速同調側刈取クラッチ用電磁弁522とを有している。
【0071】
斯かる構成において、前記制御装置400は、前記作業クラッチレバー380の操作位置に応じて前記車速同調側刈取クラッチ用電磁弁522の位置制御を行い、これにより、前記車速同調側刈取クラッチ用ピストン装置521が前記車速同調側刈取クラッチ365による動力伝達を選択的に係合又は遮断させるようになっている。
【0072】
前記定速側刈取系プーリ伝動機構270は、図4に示すように、前記脱穀系プーリ伝動機構200から定速回転動力を取り出して、前記刈取装置300へ伝達するように構成されている。
詳しくは、前記定速側刈取系プーリ伝動機構270は、前記脱穀クラッチ210より伝動方向下流側において前記脱穀系プーリ伝動機構200から定速回転動力を取り出している。
【0073】
前記定速側刈取系プーリ伝動機構270には、図4に示すように、定速側刈取クラッチ275が介挿されている。
前記定速側刈取クラッチ275は、前記運転席5の近傍に配設されたクラッチペダル等の定速側刈取クラッチ操作部材(図示せず)への人為操作に基づいて作動制御される。
【0074】
本実施の形態においては、前記定速側刈取クラッチ275は、前記定速側刈取クラッチ操作部材への人為操作に基づき前記制御装置400によって作動制御されている。
詳しくは、前記コンバイン1は、図6に示すように、前記制御装置400によって作動制御される定速側刈取クラッチ作動機構530を有している。
【0075】
前記定速側刈取クラッチ作動機構530は、図6に示すように、定速側刈取クラッチ用ピストン装置531と、前記第1補助ポンプ501から前記定速側刈取クラッチ用ピストン装置531への作動油の給排を切り換える定速側刈取クラッチ用電磁弁532とを有している。
【0076】
斯かる構成において、前記制御装置400は、前記定速側刈取クラッチ操作部材の操作位置に応じて前記定速側刈取クラッチ用電磁弁532の位置制御を行い、これにより、前記定速側刈取クラッチ用ピストン装置531が前記定速側刈取クラッチ275による動力伝達を選択的に係合又は遮断させるようになっている。
【0077】
なお、前記コンバイン1は、図6に示すように、前記刈取装置30を昇降させる前記刈取昇降用油圧装置561と、前記機体2の左側及び右側をそれぞれ独立して昇降させる左右一対の前記機体昇降用油圧装置562a,562bと、前記グレンタンク6に付設されたオーガを作動させる為のオーガ作動用油圧装置563と、これらの油圧装置に対する作動油の油圧源として作用する第2補助ポンプ502とを備えている。
【0078】
前述の通り、前記制御装置400は、前記走行モード切替操作部材318からの人為操作信号に基づき前記走行モード切替作動機構330の作動制御を行って、前記走行用油圧モータ120Mを選択的に小容積状態又は大容積状態とさせるように構成されているが、本実施の形態に係る前記コンバイン1においては、これに加えて、前記機体2が所定角度を超えて傾斜している場合には前記走行モード切替操作部材318からの人為操作信号を無視するように構成されている。
【0079】
詳しくは、前記コンバイン1は、図6に示すように、前記機体2の傾斜角度を検出する傾斜センサ430を備えている。
前記制御装置400は、演算処理を実行するCPU及び後述する制御プログラム401が格納された記憶手段を有しており、前記走行モード切替操作部材318及び前記傾斜センサ430からの信号を入力して前記制御プログラム401に基づき前記走行モード切替作動機構330へ制御信号を出力するように構成されている。
【0080】
図9に、前記制御装置400に記憶された前記制御プログラム401のフローチャートを示す。
前記制御プログラム401は、前記エンジン9の駆動開始に伴ってスタートする。
前記制御装置400は、初期状態においては前記走行用油圧モータ120Mが大容積状態となるように(即ち、前記コンバイン1が低速モードとなるように)、前記走行モード切替作動機構330に低速モード制御信号を出力する(ステップ10)。
【0081】
前記制御装置400は、ステップ11において、前記走行モード切替操作部材318から低速モードを選択する人為操作信号が入力されているか否かを判断する。
【0082】
ステップ11においてYESの場合(即ち、前記走行モード切替操作部材318から低速モード選択信号が入力されている場合)には、前記制御装置400は、ステップ12において、前記傾斜センサ430からの信号に基づき前記機体2の傾斜角が所定角以内か否かを判断する。
【0083】
ステップ12においてYESの場合(即ち、前記機体2が所定傾斜角以内の場合)には、前記制御装置400は、ステップ13において、前記走行モード切替作動機構330に低速モード制御信号を出力し、これにより、前記走行用油圧モータ120Mが小容積状態となり、前記コンバイン1が低速モードとなる。
その後、ステップ14において、前記エンジン9が停止されたか否かを判断し、NOの場合には前記ステップ11へ戻り、YESの場合には前記制御プログラム401が終了する。
【0084】
ステップ12においてNOの場合(即ち、前記機体2が所定傾斜角を越えて傾斜している場合)には、前記制御装置400は、ステップ13をバイパスして、ステップ14へ移行する。
【0085】
ステップ11においてNOの場合には、前記制御装置400は、ステップ21において、前記走行モード切替操作部材318から高速モードを選択する人為操作信号が入力されているか否かを判断する。
【0086】
ステップ21においてNOの場合には、前記制御装置400はステップ14へ移行する。
ステップ21においてYESの場合(即ち、前記走行モード切替操作部材318から高速モード選択信号が入力されている場合)には、前記制御装置400は、ステップ22において、前記傾斜センサ430からの信号に基づき前記機体2の傾斜角が所定角以内か否かを判断する。
【0087】
ステップ22においてYESの場合(即ち、前記機体2が所定傾斜角以内の場合)には、前記制御装置400は、ステップ23において、前記走行モード切替作動機構330に高速モード制御信号を出力し、これにより、前記走行用油圧モータ120Mが小容積状態となり、前記コンバイン1が高速モードとなる。
【0088】
ステップ22においてNOの場合(即ち、前記機体2が所定傾斜角を越えて傾斜している場合)には、前記制御装置400は、ステップ23をバイパスしてステップ14へ移行する。
【0089】
このように、本実施の形態に係る前記コンバイン1においては、前記機体2の傾斜角度が所定値を越えていると判断する場合には、前記制御装置400が前記走行モード切替操作部材318からの人為操作信号を無視するように構成されている。
従って、トラックへの前記コンバイン1の積み降ろし時や畦越え時等のように走行モードの切替が好ましくない傾斜地走行中において仮に操縦者が意に反して前記走行モード切替操作部材318を操作した場合であっても、前記コンバイン1の走行速度が不意に変化することを防止でき、これにより、傾斜地での走行安全性を向上させることができる。
【0090】
なお、本実施の形態においては、前記機体2が所定傾斜角を越えている場合には、前記制御装置400は、前記走行モード切替操作部材318からの全ての人為操作信号を無視するように構成されているが、これに代えて、高速モード選択信号のみを無視するように構成することも可能である。
即ち、図9に示すフローチャートにおいてステップ12を省略することも可能である。
【0091】
斯かる構成においては、前記機体2が所定傾斜角を越えている場合においては、低速モードから高速モードへ移行すること(即ち、車速が増速すること)を防止しつつ、人為操作による高速モードから低速モードへの移行(即ち、車速の減速)を許容することができる。
【0092】
図10に、前記制御プログラムの変形例402のフローチャートを示す。
前記制御プログラム402は、前記エンジン9の駆動開始に伴ってスタートする。
前記制御装置400は、初期状態においては前記走行用油圧モータ120Mが大容積状態となるように(即ち、前記コンバイン1が低速モードとなるように)、前記走行モード切替作動機構330に低速モード制御信号を出力する(ステップ30)。
【0093】
前記制御装置400は、ステップ31において、前記傾斜センサ430からの信号に基づき前記機体2の傾斜角が所定角以内か否かを判断する。
【0094】
まず、ステップ31においてYESの場合(即ち、前記機体2が所定傾斜角以内の場合)について説明する。
【0095】
前記機体2が所定傾斜角以内の場合には、前記制御装置400は、ステップ32において、前記走行モード切替操作部材318から低速モードを選択する人為操作信号が入力されているか否かを判断する。
【0096】
ステップ32においてYESの場合(即ち、前記走行モード切替操作部材318から低速モード選択信号が入力されている場合)には、前記制御装置400は、ステップ33において、前記走行モード切替作動機構330に低速モード制御信号を出力し、これにより、前記走行用油圧モータ120Mが大容積状態となり、前記コンバイン1が低速モードとなる。
その後、ステップ34において、前記エンジン9が停止されたか否かを判断し、NOの場合には前記ステップ31へ戻り、YESの場合には前記制御プログラム402が終了する。
【0097】
ステップ32においてNOの場合には、前記制御装置400は、ステップ41において、前記走行モード切替操作部材318から高速モードを選択する人為操作信号が入力されているか否かを判断する。
【0098】
ステップ41においてYESの場合(即ち、前記走行モード切替操作部材318から高速モード選択信号が入力されている場合)には、前記制御装置400は、ステップ42において、前記走行モード切替作動機構330に高速モード制御信号を出力し、これにより、前記走行用油圧モータ120Mが小容積状態となり、前記コンバイン1が高速モードとなる。
その後、ステップ34において、前記エンジン9が停止されたか否かを判断し、NOの場合には前記ステップ31へ戻り、YESの場合には前記制御プログラム402が終了する。
ステップ41においてNOの場合には、前記制御装置400はステップ34へ移行する。
【0099】
次に、ステップ31においてNOの場合(即ち、前記機体2が所定傾斜角を越えている場合)について説明する。
前記機体2が所定傾斜角を越えている場合には、前記制御装置400は、ステップ32をバイパスしてステップ33へ移行する。
【0100】
即ち、変形例に係る前記制御プログラム402を備えたコンバインにおいては、前記機体2の傾斜角度が所定値を越えている場合には、前記制御装置400は、前記走行モード切替操作部材318からの人為操作信号に拘わらず、前記走行用油圧モータ120Mが大容積状態となるように前記走行モード切替作動機構330を強制的に作動させるように構成されている。
【0101】
斯かる構成によれば、前記コンバインの傾斜角が所定値を越えている場合には、前記走行用油圧モータ120Mが大容積状態に固定されることになり、従って、傾斜地走行中に走行モードが切り替わることを確実に防止できる。
【符号の説明】
【0102】
1 コンバイン
9 エンジン(駆動源)
120 走行用HST
120P 走行用油圧ポンプ
123 走行用油圧ポンプ側容積調整機構
120M 走行用油圧モータ
128 走行用油圧モータ側容積調整機構
310 主変速操作部材
318 走行モード切替操作部材
320 主変速作動機構
330 走行モード切替作動機構
400 制御装置
430 傾斜センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源に作動連結された可変容積型の走行用油圧ポンプ及び前記走行用油圧ポンプに流体接続された可変容積型の走行用油圧モータを有する走行用HSTと、人為操作可能な主変速操作部材と、前記主変速操作部材への人為操作に基づき前記走行用油圧ポンプの走行用油圧ポンプ側容積調整機構を作動させる主変速作動機構と、人為操作可能な走行モード切替操作部材と、前記走行用油圧モータの走行用油圧モータ側容積調整機構を介して該走行用油圧モータを小容積状態又は大容積状態に切り替える走行モード切替作動機構と、前記走行モード切替操作部材からの高速モード選択信号及び低速モード選択信号を含む人為操作信号に基づき前記走行モード切替作動機構の作動制御を行う制御装置とを備えたコンバインであって、
前記機体の傾斜角度を検出する傾斜センサを備え、
前記制御装置は、前記傾斜センサからの信号に基づき機体の傾斜角度が所定値を越えていると判断する場合には、前記走行モード切替操作部材からの人為操作信号を無視するように構成されていることを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記制御装置は、前記傾斜センサからの信号に基づき機体の傾斜角度が所定値を越えていると判断する場合には、前記走行モード切替操作部材からの高速モード選択信号のみを無視するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のコンバイン。
【請求項3】
駆動源に作動連結された可変容積型の走行用油圧ポンプ及び前記走行用油圧ポンプに流体接続された可変容積型の走行用油圧モータを有する走行用HSTと、人為操作可能な主変速操作部材と、前記主変速操作部材への人為操作に基づき前記走行用油圧ポンプの走行用油圧ポンプ側容積調整機構を作動させる主変速作動機構と、人為操作可能な走行モード切替操作部材と、前記走行用油圧モータの走行用油圧モータ側容積調整機構を介して該走行用油圧モータを小容積状態又は大容積状態に切り替える走行モード切替作動機構と、前記走行モード切替操作部材からの高速モード選択信号及び低速モード選択信号を含む人為操作信号に基づき前記走行モード切替作動機構の作動制御を行う制御装置とを備えたコンバインであって、
前記機体の傾斜角度を検出する傾斜センサを備え、
前記制御装置は、前記傾斜センサからの信号に基づき前記機体の傾斜角度が所定値を越えていると判断する場合には、前記走行モード切替操作部材からの人為操作信号に拘わらず、前記走行用油圧モータが大容積状態となるように前記走行モード切替作動機構を強制的に作動させることを特徴とするコンバイン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−178630(P2010−178630A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22396(P2009−22396)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】