説明

シャワープレートの製造方法、シャワープレート及びこれを用いた気相成長装置

【課題】 MOCVD装置の大型化にも対応でき、膜厚や組成比が均一の良質なデバイスの製造が可能なシャワープレート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 気相成長装置に用いるシャワープレートの製造方法であって、第一構成部材及び第二構成部材にザグリ孔及び貫通孔を設ける工程と、前記第一構成部材のザグリ孔に前記ガス吐出パイプを差し込む工程と、第二構成部材のザグリ孔に前記第一構成部材に差し込まれた前記ガス吐出パイプの他端が前記第二構成部材から突出するように差し込む工程と、前記第一構成部材のザグリ孔と、前記ガス吐出パイプを溶接する第一溶接工程と、前記第二構成部材のザグリ孔と、前記ガス吐出パイプを溶接する第二溶接工程と、前記第一構成部材と前記第二構成部材を溶接する工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料ガスを過熱した基板上で化学反応させて、当該基板表面に薄膜を形成する気相成膜装置に用いられる、シャワープレート及びそれを備えた気相成長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、発光ダイオード及び半導体レーザ等のデバイスの製造において、トリメチルガリウム(TMG)又はトリメチルアルミニウム(TMA)等の有機金属ガスと、アンモニア(NH)、ホスフィン(PH)又はアルシン(AsH)等の水素化合物ガスを原料ガスとして、成長室に導入して化合物半導体結晶を成長させるMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法が用いられている。
【0003】
MOCVD法は、上記の原料ガスを不活性ガスと共に成長室内に導入して、加熱された所定の被処理基板上で気相反応させることにより、その被処理基板上に化合物半導体結晶を成長させる方法である。MOCVD法を用いた化合物半導体結晶の製造においては、成長する化合物半導体結晶の品質を向上させながら、コストを抑えて、歩留まりと生産能力とをどのように最大限確保するかが常に高く要求されている。つまり、原料ガスからどれだけ多くの結晶を成膜できたかを示す成膜効率が高い方が望ましい。また、良好なデバイスとして活用するには、膜厚及び組成比が均一であることが望まれる。
【0004】
図9に、MOCVD法に用いられる従来の縦型シャワーヘッド型MOCVD装置の一例の模式的な構成を示す。このMOCVD装置600においては、ガス供給源602から反応炉601の内部の成長室611に原料ガス及び不活性ガスを導入するためのガス配管603が接続されており、反応炉601における内部の成長室611の上部には、該成長室611に反応ガス及び不活性ガスを導入するための複数のガス吐出孔を有するシャワープレート610がガス導入部として設置されている。
【0005】
また、反応炉601の成長室611の下部中央には、図示しないアクチュエータによって回転自在の回転軸612が設置され、この回転軸612の先端にはシャワープレート610と対向するようにしてサセプタ608が取り付けられている。上記サセプタ608の下部には、該サセプタ608を加熱するためのヒータ609が取り付けられている。
【0006】
さらに、反応炉601の下部には、該反応炉601における内部の成長室611内のガスを外部に排気するためのガス排気部604が設置されている。このガス排気部604は、パージライン605を介して、排気されたガスを無害化するための排ガス処理装置606に接続されている。
【0007】
そして、化合物半導体結晶を成長させる場合、まず、サセプタ608に基板607を設置し、回転軸612の回転によりサセプタ608を回転させ、ヒータ609の加熱によりサセプタ608を介して基板607を所定の温度に加熱する。その後、シャワープレート610に形成されている複数のガス吐出孔から、反応炉601の内部の成長室611に原料ガス及び不活性ガスを導入する。
【0008】
複数の原料ガスを供給して基板607上で反応させ、薄膜を形成する方法として、従来は、シャワーヘッド中で複数のガスを混合し、シャワープレート610に多数設けられているガス吐出口から基板607に原料ガスを吹き出させる方法が採られていた。
【0009】
しかし、この方法では、ヒータ609とシャワープレート610との距離(以降ギャップと記す。)が小さく、原料ガスが基板607上に到達した時点で反応させ、薄膜を形成する前に、シャワープレート610表面で一部の化学反応が発生し、生成物が形成されてしまう。これは、ヒータ609からの輻射熱により、シャワープレート610表面が加熱されてしまうためである。これにより、シャワープレート610のガス吐出孔が生成物により詰まりを起こしてしまい、原料ガス及び不活性ガスが均一に基板607の表面に到達できなくなり、均一な薄膜を形成することができなかった。また、ヒータ609からの輻射熱によりシャワープレート610が過熱されてしまい、その影響で均一な温度で原料ガスを基板607の上方まで到達させることができず、均一な薄膜を形成することができなかった。
【0010】
このような問題を解決するため、例えば、特許文献1には、図10に示すような気相成長装置700が開示されている。この気相成長装置700は、シャワープレート701の内部(ガス通路部を除く)に冷却チャンバ702を設け、シャワープレート701の内部におけるガス通路部の上下及び側面から冷却を行い、ヒータからの輻射熱によるシャワープレート701の温度上昇を抑制している。また、側壁703には冷媒ジャケットを配置し、その内部にも冷媒を導入し、合わせてシャワープレート701の温度上昇及び原料ガスの温度上昇を抑制している。このような構成にすることで、サセプタ上に載置された基板704上に原料ガスがシャワープレート701表面で反応することが抑制され、原料ガスがロス無く満遍なく届くようにしている。
【0011】
また、近年では、特許文献2に示すようなMOCVD装置がよく知られている。図11は、該文献に示されたMOCVD装置800の断面図である。このMOCVD装置800は、成長チャンバ801の上部に第1ガス供給コネクタ802、第2ガス供給コネクタ803、キャリアガス供給コネクタ804、及びドーパントガス供給コネクタ805を備えており、成長チャンバ801内に基板806を取り付ける保持台807が回転自在に設けられている。保持台807には、ヒータ808が設けられている。第1ガス供給コネクタ802、第2ガス供給コネクタ803、キャリアガス供給コネクタ804、及びドーパントガス供給コネクタ805は互いに隔離して配置され、これらと、保持台807の間にはガス冷却部809が設けられている。また、成長チャンバ801の側壁には冷却ジャケット810が設けられている。冷却ジャケット810の下端と保持台807の間には、保持台807に供給された原料ガス、及びキャリアガスを排気口811へ導くガス通路812が設けられている。それぞれの原料ガスは分離した状態で成長チャンバ801内へ供給される。このようにすることで、シャワーヘッド813内で気相反応が生ずるのを避けることができる。また、ガス冷却部809、冷却ジャケット810により、シャワープレート813の冷却を行い、シャワープレート813の温度上昇及び原料ガスの温度上昇を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−91989号公報(1996年4月9日公開)
【特許文献2】特表2001―506803号公報(2001年5月22日公表)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記特許文献に示された装置においては、シャワーヘッド面から被処理基板までの数十ミリのギャップに対し、原料ガスを均等な温度分布で被処理基板の上方まで到達させて、反応させることについては有効であるが、実際に膜厚及び組成比が均一である良質なデバイスを得るためには、この要件だけでは十分とはいえない。
【0014】
原料ガスは、ガス吐出口から吐出され、ギャップを通り、被処理基板に到達するが、この時、シャワーヘッドの面は被処理基板と平行でなければならない。シャワーヘッドの歪みや傾きがあった場合、ギャップ間の距離にばらつきが生じ、コンダクタンスの関係から、ガスは隙間の大きい方へ流れ、膜厚分布に非常に大きな影響を及ぼしてしまうためである。また、シャワーヘッド表面(被処理基板と対向する面)では、表面の平坦度も要求される。これは表面が例えば凹凸がついていると、せっかく反応ガス吐出口から均等に吹き出した原料ガスが凹凸になった表面で流れを乱されてしまい、被処理基板上に到達するまでの原料ガスの流れが均等とならず、被処理基板上に均一な膜厚の薄膜を形成することができない。
【0015】
上記のような理由により、シャワーヘッド表面の平行度、平坦度は非常に重要である。特に、水冷流路と原料ガス吐出口を構成する場合、被処理基板に対して略垂直に原料ガスを流すシャワータイプのMOCVD装置においては、原料ガスの吐出口はその配置されるピッチが細かいほどよいとされている。また、被処理基板の搭載枚数が多ければ多いほどシャワープレートの面積は大きくなり、それにともない、孔数も非常に数が多くなってしまう。孔数が多くなると、シャワーヘッド基板とガス吐出パイプとの接合箇所も当然多くなる。
【0016】
現在、気相成長装置に用いられるシャワーヘッドの製作方法として、孔数が多いものを接合する場合には特にロウ付けという手法が一般的である。これは、ロウ剤をシャワーヘッド基板の孔とガス吐出パイプの接合箇所全てに設置し、高温の炉に入れ、ロウ剤を融解させ、冷却の際に固めるという方法である。この方法を用いると、構造部材に入熱が均等に一気に加熱されること、また、変形などが少ないことから広く行われている。
【0017】
但し、ロウ付けの問題点として、シャワーヘッド本体が大きくなればなるほど挿入する高温の炉のサイズに制限がある為、有る程度以上の大きさは加工することができないという問題がある。また、ロウ付けに関しては、大面積になるほど、炉内部の温度管理が困難であること、さらには、ロウ剤は融解された後、毛細管現象で接合されるため、接合部材の接合面の表面状態の管理が難しい欠点がある。これに伴い微小なリークが発生してしまう可能性があり、一度リークしてしまうと、その部材は再接合や修正を行うことができないため、再度新しいシャワーヘッドが必要となり、非常にコスト高となってしまう。また、シャワーヘッドを構成する部材とは異種材料のロウ材を用いた接合となるため、強度的には溶接よりも劣ってしまうことは避けられない。
【0018】
一方、上記と同じシャワーヘッドを溶接で製作した場合、溶接構造においては、リークした箇所は修正できる利点がある。また高温で融解させ、材料同士を溶かし込んで接合となるため、強度的には非常に優れたものとなる。
【0019】
しかし、孔数が多いものを接合する場合には、それぞれ一箇所ずつ溶接し材料を高温で融解しながら実施する。この為、溶接箇所は3000℃以上の局所的な高温にさらされてしまい、孔数が多くなればなるほど、材料の反り、うねり、歪が非常に大きくなってしまう。これを補正するために、プレス加工を実施し、補正する方法があるが、溶接部分に非常に大きな力をかけ塑性変形させ補正するため、シャワーヘッドにおける個々の溶接部や、シャワーヘッドを構成する材料に割れが発生してしまう可能性が非常に高い。
【0020】
また溶接においては、その特性上、溶接部分を高温で融解させる為、融解した部分においては、非常に大きな凹みが生じてしまう。通常はこの部分に構造材料と同じ材料でできた溶接棒を差し込み、その部分を肉盛するような形で補正をおこなう。しかしながら、それには非常に大電流を長時間材料にあたえることになり、材料の反り、うねり、歪等がますます大きくなってしまうという懸念がある。また、その部分においては、かなりの盛り上がりになってしまい、たとえ歪等がなく溶接できたとしても、後に肉盛部分を除去し、表面を平坦にするために、シャワーヘッド表面を旋盤で削るなどの2次加工が必要となってしまう。このように、溶接構造においては、上記のような課題があり、大面積且つ孔数の多い接合は非常に困難であるという問題があった。
【0021】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、装置の大型化にも対応でき、膜厚や組成比が均一の良質なデバイスの製造が可能な、MOCVD装置用シャワーヘッド及びこれを用いたMOCVD装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明に係るシャワープレートの製造方法は、気相成長装置に用いるシャワープレートの製造方法であって、第一構成部材及び第二構成部材にザグリ孔及び貫通孔を設ける工程と、前記第一構成部材のザグリ孔に前記ガス吐出パイプを差し込む工程と、第二構成部材のザグリ孔に前記第一構成部材に差し込まれた前記ガス吐出パイプの他端が前記第二構成部材から突出するように差し込む工程と、前記第一構成部材のザグリ孔と、前記ガス吐出パイプを溶接する第一溶接工程と、前記第二構成部材のザグリ孔と、前記ガス吐出パイプを溶接する第二溶接工程と、前記第一構成部材と前記第二構成部材を溶接する工程を含むことを特徴とする。また、前記シャワープレートは冷却用空洞部を有することを特徴としてもよい。
【0023】
また、前記第一構成部材、前記第二構成部材、及びガス吐出パイプは、同一の材料よりなることを特徴としてもよい。また、前記第一溶接工程及び/または第二溶接工程において、溶接された部分が前記第一構成部材、前記第二構成部材の表面に突出しないように溶接されることを特徴としてもよい。
【0024】
また、前記第一溶接工程及び/または第二溶接工程の工程時には、前記第一構成部材と前記第二構成部材を固定した状態で溶接を行うことを特徴としてもよい。
【0025】
本発明に係るシャワープレートは上記のいずれかの製造方法を用いて製造されることを特徴とする。
【0026】
また、本発明に係る気相成長装置は、上記のシャワープレートを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、装置の大型化にも対応でき、膜圧や組成比が均一の良質なデバイスの製造が可能な、気相成長装置用シャワーヘッド及びこれを用いた気相成長装置を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明を用いたMOCVD装置の構成図である。
【図2】本発明を用いたMOCVD装置のシャワープレートの断面図である。
【図3】シャワープレートの製造方法を示す図である。
【図4】シャワープレートの第二構成部材の孔部分の断面図である。
【図5】シャワープレートの第二構成部材の孔部分の断面図である。
【図6】シャワープレートに固定部材を取り付けた図である。
【図7】比較例のMOCVD装置のシャワープレートを示す断面図である。
【図8】比較例のシャワープレートの状態を示す図である。
【図9】従来のMOCVD装置の構成を示す図である。
【図10】従来のMOCVD装置の構成を示す図である。
【図11】従来のMOCVD装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施の形態について、図を参照しながら以下に説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0030】
図1に、本発明を適用したシャワーヘッドを用いたMOCVD装置100の構成の一例を示す。MOCVD装置100は、中空部である成長室101を有する反応炉102と、底面にシャワープレート113を持つガス供給手段としてのシャワーヘッド103と、回転軸104と、回転軸104を取り囲むようにして設置されたヒータカバー105と、回転軸104の一端に備え付けられた支持台106と、支持台106上に設置されたヒータ107と、ヒータ107上に設置されたサセプタ108とを含んでいる。
【0031】
以下、装置の全体構成について説明するが、本発明に係るシャワープレート113以外は従来の構成と同様である。シャワーヘッド103のガス吐出面はサセプタ108と向かい合うようにして設置されている。また、回転軸104はアクチュエータ(図示せず)などによって回転自在とされており、回転軸104の回転によりサセプタ108の上面が、対向するシャワーヘッド103のガス吐出面と平行な状態を保ちながら回転する。
【0032】
また、このMOCVD装置は、例えば、III族元素を含むIII族系ガスの供給源となる第1ガス分配空間109aと、V族元素を含むV族系ガスの供給源となる第2ガス分配空間110aとを備える。
【0033】
さらに、MOCVD装置100は、III族系ガスをシャワーヘッド103のガス導入口に導入するための第1ガス配管109bと、第1ガス分配空間109aから供給されるIII族系ガスのガス導入口への導入量を調節することができるIII族系ガス導入量調節部としてのマスフローコントローラ(図示せず)と、V族系ガスをシャワーヘッド103のガス導入口に導入するための第2ガス配管110bと、第2ガス分配空間110aから供給されるV族系ガスのガス導入口への導入量を調節することができるV族系ガス導入量調節部としてのマスフローコントローラ(図示せず)とを有する。マスフローコントローラは制御部(図示せず)で制御される。さらに第1ガス分配空間109aは第1ガス流路109cと接続され、第2ガス分配空間110aは第2ガス流路110cと接続されている。
【0034】
なお、本発明において、III族元素としては、例えば、Ga(ガリウム)、Al(アルミニウム)またはIn(インジウム)などがあり、III族元素を含むIII族系ガスとしては、たとえば、トリメチルガリウム(TMG)またはトリメチルアルミニウム(TMA)などの有機金属ガスの1種類以上を用いることができる。
【0035】
また、V族元素としては、例えば、N(窒素)、P(リン)またはAs(ヒ素)などがあり、V族元素を含むV族系ガスとしては、たとえば、アンモニア(NH)、ホスフィン(PH)またはアルシン(AsH)などの水素化合物ガスの1種類以上を用いることができる。
【0036】
冷却用空洞部としての水冷供給部111には、水冷装置に接続された水冷系配管を経由して冷媒が供給される。また、このMOCVD装置は、成長室101内部のガスを外部に排気するためのガス排気部112と、ガス排気部112に接続されたパージライン(図示せず)と、パージラインに接続された排ガス処理装置(図示せず)とを有している。これにより、成長室101の内部に導入されたガスはガス排気部112によって成長室101の外部に排気され、排気されたガスはパージラインを通って排ガス処理装置に導入され、排ガス処理装置において無害化される。
【0037】
図2は、本発明に係るシャワープレート113の断面図である。第一構成部材1031、第二構成部材1032によって水冷供給部111が構成され、ガス吐出パイプ1033が、第一構成部材1031、第二構成部材1032に亘り差し込まれている。この製造方法を以下に説明する。今回用いた各々の部品の材質は、ステンレス(SUS316)製であり、サイズ、および孔数は、第一構成部材1031、第二構成部材1032については、外径Φ800mm、板厚み10mm、貫通孔数5000個、ガス吐出パイプ1033については、外径Φ7mm、内径Φ5mmの円柱状のパイプであり、個数は孔数と同数の5000個である。今回のサイズは、例えば2インチ基板サイズに換算すると、54枚が搭載できる範囲である。なお、それぞれのサイズにおいては、基板サイズや基板搭載枚数に応じて変更可能とし、上記の寸法に限定されることがないのは言うまでもない。
【0038】
図3に、シャワープレート113の製造方法を示す。まず、図3(a)に示すように、第一構成部材1031にガス吐出パイプ1033を設置するためのザグリ孔1031aを開ける。孔の開け方としては、貫通孔とザグリ部分を同時に加工できる専用の刃物を用いて加工することができるが、ドリルを用いて第一構成部材1031の水平面に対して垂直に貫通孔を開け、貫通穴を中心にフライス加工にてザグリ部分を開ける方法が一般的である。なお、先にザグリ部分を開け、その中心に貫通穴を開ける方法でも構わない。
【0039】
図4(a)は、第一構成部材1031の孔部分の断面図である。ザグリ孔1031aは、第一構成部材1031の下面(原料ガスが吐出する面)側の直径Rが、他面(上面)の直径R´およびガス吐出パイプ1033の外径rより小さく、また直径R´が、ガス吐出パイプ1033の外径rより大きくなるよう、すなわち、以下に示す数式(1)の関係を満たすように開ける。
【0040】
R<r<R´・・・(1)
直径Rと直径R´の差によってできたザグリ段差1031bにガス吐出パイプ1033の下面が載置されるよう、ガス吐出パイプ1033を差し込む。このようにすることで、ガス吐出パイプ1033が第一構成部材1031下面から出ないため、ガス吐出パイプ1033の下面近傍とザグリ段差1031bとの溶接部が第一構成部材1031の下面に出ることがほとんど無く、第一構成部材1031の下面を旋盤等で二次加工する際の削りシロを大きくとることができる。なお、ザグリ孔1031aの深さについては、ガス吐出パイプ1033や基板の加工条件により、適宜設定すればよい。
【0041】
図3(b)は、第一構成部材1031に必要数のザグリ孔1031aが開けられ、ザグリ孔1031aにガス吐出パイプ1033が差し込まれた状態を示す。ここで、各ザグリ段差1031bの近傍とガス吐出パイプ1033の下面近傍の溶接を行う。溶接においては、リークが無いように、全てのザグリ段差1031bの近傍とガス吐出パイプ1033の下面近傍について、それらの全周溶接を実施している。ザグリ孔1031aを開けることで、ザグリ段差1031bができ、第一構成部材1031のザグリ段差1031b近傍部分も融解することにより、溶接部補完材として機能するため、溶接棒の代わりとなり、凸凹を表面に出すことなく、溶接を実施することが可能となった。更にザグリ孔1031a部分にガス吐出パイプ1033を挿入することで、ザグリ段差1031bにパイプ底面が確実に収まることができ、高さ方向の寸法を揃えることが可能となり、より容易に安定した溶接を行うことが可能となった。なお、この段階での溶接は、第一構成部材1031とガス吐出パイプ1033を仮に固定するいわゆる仮止めの状態となっており、後述する本溶接により第一構成部材1031とガス吐出パイプ1033がピンホール等のない状態で、完全にリーク防止される。
【0042】
次に第二構成部材1032において、第一構成部材1031と同様の方法で、ガス吐出パイプ1033を通すザグリ孔1032aをガス吐出パイプ1033と同数開ける。このとき、ガス吐出パイプ1033出口部分にガス吐出パイプ1033の外周を囲むように略円形のザグリ部分を設けた。
【0043】
図5は、第二構成部材1032の孔部分の拡大断面図である。ザグリ孔1032aにおいて、第二構成部材1032の下面の孔の直径R´は、第一構成部材1031のザグリ孔1031aにおける直径R´と略等しく、ガス吐出パイプ1033の外径rより大きくなるよう、また、ザグリ部分の外径R´´よりも小さくなるように、すなわち、以下に示す数式(2)の関係を満たすように開ける。第一構成部材1031及び第二構成部材1032における直径R´の大きさについては、穴あけ加工時の誤差はここでは考慮しないこととする。ザグリ部分の外径R´´、及び深さは、差し込まれるガス吐出パイプ1033の厚み等の条件により適宜設定すればよい。
【0044】
r<R´<R´´・・・(2)
次に、図3(c)に示すように、第一構成部材1031の上方から蓋をするように、ガス吐出パイプ1033を第二構成部材1032のザグリ孔1032aに差込み、第一構成部材1031と第二構成部材1032をねじ止めし、第一構成部材1031、第二構成部材1032によって水冷供給部111を構成する。この水冷供給部111に冷却水を通すことにより、シャワープレート近傍での原料ガスの反応を抑えることができる。
【0045】
今回は、ガス吐出パイプ1033は、第二構成部材1032上面から、1.5mm長く突き出す形状とした。長く突き出た部分とザグリ部分近傍との間を溶接することにより、長く突き出た部分が溶けて、ザグリ部分へと流れ込み、長く突き出た部分が溶接部補完材として働き、結果として肉盛を生じることなく平面を形成することができる。図3(c)において、黒い丸で示された部分を全て溶接する。なお、溶接の手順としては、通常、第一構成部材1031下面の孔周辺の溶接と、第二構成部材1032の上面からの孔周辺の本溶接を交互に、さらに、望ましくは互いに離れた部分から順に行うことにより、第一構成部材1031、第二構成部材1032の歪みを極力抑えることができるが、溶接の多数箇所の溶接場所の順番、溶接のスピード、溶接電圧に関しては、ここでは特に限定していない。これは溶接をおこなう材料あるいは、状況により最適な条件に変化を伴うためであり、使用材料、材質により適宜変化させることはいうまでも無い。また今回の溶接構造においては、第一構成部材1031、第二構成部材1032はそれぞれ異なる形状としているが両面とも同じ構造を用いて製作しても問題ないことはいうまでも無い。
【0046】
さらに、反りに関して、第一構成部材1031、及び第二構成部材1032とガス吐出パイプ1033を溶接時に融解させるため、熱が発生することは避けられない。この影響による反りをなくす為、例えば図6に示すような、固定部材114を用いて、溶接開始前の第一、第二構成部材とガス吐出パイプ1033を組み立てた状態で、外周部分を挟み込む構成をとり、その後溶接を実施した。固定部材114は、例えばドーナツ形状であって、第一構成部材1031、第二構成部材1032の反りに負けない強度をもち、少なくとも第一構成部材1031、第二構成部材1032を合わせた以上の厚みを持つものが望ましい。この固定部材114を用いることにより、シャワープレート113は、まったく反ることがなくなり、安定した溶接が可能となった。
【0047】
全てのガス吐出パイプ1033周辺の溶接が完了し、溶接部分が固定された後、上記固定部材114を離脱し、第一構成部材1031、第二構成部材1032の接合部分の周囲に溶接を行う。
【0048】
最後に、図3(d)に示すように、第一構成部材1031から第二構成部材1032にかけて、あるいは、第二構成部材1032から第一構成部材1031にかけて、ドリル等を用いて溶接によりガス吐出パイプ1033周囲、及び内部に付着した余分な材料を削り落とし、さらに、構成部材の表面を旋盤あるいは平面研削盤等を用いて平坦化した。
【0049】
第二構成部材1032の上面は、ガス吐出パイプ1033の突き出た部分を削り、更に面が平坦になるまで削る。ただし、溶接部分を削り取らない程度まででとどめておく。第一構成部材1031の下面は、付着した溶接材料を除去する程度に削り、こちらも溶接部分を削り取らない程度にとどめ、第一構成部材1031、第二構成部材1032をあわせた厚みが所望の厚みになるまで削る。ザグリ孔を設けることにより、溶接による肉盛が押さえられ、シャワープレート113のガス吐出面の平坦化が容易になった。
【0050】
以上説明した手順により、シャワープレート113が作成される。このシャワープレートを用いたMOCVD装置によれば、装置の大型化やガス吐出孔のピッチが細かくなることによる孔数の増加に対しても、シャワーヘッド103自体の反りや歪み、あるいはシャワーヘッド表面の凹凸の発生を抑制することができるので、膜厚や組成比が均一の良質なデバイスの製造が可能となる。また、第一、第二構成部材によって形成された水冷供給部111により、原料ガスを冷却し、余分な生成物の付着を防止することも可能となる。
【0051】
<比較例>
本発明の効果を実証するために以下のような比較実験を行った。
【0052】
図7は、従来の方法で作成されたシャワープレート513の断面図である。第一構成部材5031、第二構成部材5032によって水冷供給部511が構成され、ガス吐出パイプ5033が、第一構成部材5031、第二構成部材5032に差し込まれている。このシャワープレート513の製造方法を以下に説明する。
【0053】
上記実施形態で用いたものと同じ基板、ガス吐出パイプを用意し、貫通孔も5000個とした。第一構成部材5031には、ガス吐出パイプ5033を差込む貫通孔が開いており、その部分にガス吐出パイプ5033を差込む。必要数の差込が終わると、第一構成部材5031の貫通孔内周部分とガス吐出パイプ5033の外周部分の仮溶接を行い、下側の水冷供給部511を構成する。この時溶接においては、リークが無いように、上記実施の形態と同様に、全箇所全周溶接を行う。次にガス吐出パイプ5033に第二構成部材5032をガス吐出パイプ5033に差込み、蓋をする形をとる。この時、第二構成部材5032においては第一構成部材5031と同様に、ガス吐出パイプ5033の外径より少し大きめの貫通孔が開いており、その部分に第一構成部材5031に溶接されているガス吐出パイプ5033に差し込んでいく。差込が完了すると、第一構成部材5031内周部分とガス吐出パイプ5033外周部分、第二構成部材5032内周部分とガス吐出パイプ5033外周部分に対し、全周溶接を実施する。図7における黒い丸は溶接箇所を示しており、第一構成部材5031とガス吐出パイプ5033間の5000箇所、第二構成部材5032とガス吐出パイプ5033間の5000箇所、合わせて10000箇所の溶接としている。また、この時、第一、第二構成部材とガス吐出パイプ5033を溶接した際に材料自体が融解して発生する凹み部分については、各々の材料を溶接した後に、凹み部分に各材料と同じSUS316よりなる溶接棒を差し込み、再度溶解させ、凹み部分の解消を行った。最後に第一構成部材5031と第二構成部材5032の外周全体を溶接し、水冷供給部511を構成した。
【0054】
図8は、上記の方法にて作成されたシャワープレート513の状態を示したものである。反り、歪みに関しては、中心部分と外周部分の高さの差tは、およそ12mm程度となり、肉眼で見てもかなりの反り状態となった。反りの方向に関しては、シャワープレート713の中心部部分が凹み、椀状に反ってしまう状態となり、中心部分がもっとも反りが大きい状態となった。
【0055】
また、溶接棒を入れる前の状態での融解による凹み部分はおよそ2mmとなった。許容される反りについては、反応ガスの流速及びシュミレーション結果(図示せず)から、0.1mm以下であることが望ましいことから、今回の結果から判断すると、まったく使用に耐えないものであることが分かる。また、凹み部分に溶接棒を挿した状態で溶接した部分については、必要な平面に対して、2mm以上凸に盛り上がり(肉盛)になってしまい、こちらについても、そりの補正を確認した後に肉盛部分を加工により除去しなければならない状態となった。
【0056】
次に、上記に記載の12mm程度の反りを補正するために、反りと反対方向から300トン以上の力をかけて塑性変形させ、反りの補正を行った。12mmの反りを補正するにあたっては、反対方向に材料の塑性領域を超える、26mm以上のプレスを複数個所行うことにより、12mmの反りを解消することに成功した。しかしながら、ヘリウムによる減圧透過検査により、リークチェックを実施すると、3000箇所程度からリークが見つかった。また、表面を観察すると、溶接部分に亀裂が発生している箇所があり、また第一、第二構成部材の溶接部以外の箇所についても亀裂が発生している箇所が発見された。これは、反りを補正するために、300トン以上の力で26mm以上塑性変形をさせたことにより、発生したものと考えられる。また、上述の肉盛部分についても、2次加工し除去を実施したが、凸部分が2mm以上あるため、除去加工が非常に困難なものであり、一部分では除去しきれない部分も発生していた。
【0057】
上記の結果を分析すると、反りの原因は第一、第二構成部材とガス吐出パイプ5033の溶接時の熱というよりは、溶接後の凹みを解消するために溶接棒を再度融解し、より多くの熱を入れたことによる原因が大きいことが判明した。さらに、溶接部及び各々の構成部材の割れについては、塑性変形を行い、反りを補正したことによる割れということも判明した。また溶接箇所においては、融解範囲(熱が影響を与える部分)が想定以上に大きく、シャワーヘッド表面が凸凹になってしまう結果となった。
【0058】
これらの結果より、シャワーヘッドの水冷部分の第一、第二構成部材とガス吐出パイプの溶接において、第一、第二構成部材にザグリ孔を設けることにより、シャワープレートの反りや歪みを抑えることができ、また肉盛による表面の凹凸を少なくすることができる。また、第一、第二構成部材によって構成された水冷供給部により、シャワーヘッド内部で原料ガスが高温になり反応するのを抑制することができる。よって、このシャワープレートをMOCVD装置に用いることで、装置の大型化にも対応でき、膜厚や組成比が均一の良質なデバイスの製造が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、シャワーヘッド上部の空間にガスを導入し、シャワープレートに設けられた複数のガス吐出孔より被処理基板表面に反応ガスを供給するシャワーヘッドを用いた縦型のMOCVD装置に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0060】
100 MOCVD装置
101 成長室
102 載積台
103 シャワーヘッド
104 回転軸
105 ヒータカバー
106 支持台
109a 第1ガス分配空間
109b 第1ガス配管
109c 第1ガス流路
110a 第2ガス分配空間
110b 第2ガス配管
110c 第2ガス流路
111、511 水冷供給部
112 ガス排気部
113、513 シャワープレート
114 固定部材
1031、5031 第一構成部材
1032、5032 第二構成部材
1033、5033 ガス吐出パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相成長装置に用いるシャワープレートの製造方法であって、
第一構成部材及び第二構成部材にザグリ孔及び貫通孔を設ける工程と、
前記第一構成部材のザグリ孔に前記ガス吐出パイプを差し込む工程と、
前記第二構成部材のザグリ孔に前記第一構成部材に差し込まれた前記ガス吐出パイプの他端が前記第二構成部材から突出するように差し込む工程と、
前記第一構成部材のザグリ孔と、前記ガス吐出パイプを溶接する第一溶接工程と、
前記第二構成部材のザグリ孔と、前記ガス吐出パイプを溶接する第二溶接工程と、
前記第一構成部材と前記第二構成部材を溶接する工程を含むことを特徴とするシャワープレートの製造方法。
【請求項2】
前記シャワープレートは冷却用空洞部を有することを特徴とする請求項1記載のシャワープレートの製造方法。
【請求項3】
前記第一構成部材、前記第二構成部材、及びガス吐出パイプは、同一の材料よりなることを特徴とする請求項1または2記載のシャワープレートの製造方法。
【請求項4】
前記第一溶接工程及び/または第二溶接工程において、溶接された部分が前記第一構成部材、前記第二構成部材の表面に突出しないように溶接されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のシャワープレートの製造方法。
【請求項5】
前記第一溶接工程及び/または第二溶接工程の工程時には、前記第一構成部材と前記第二構成部材を固定した状態で溶接を行うことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のシャワープレートの製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の製造方法を用いて製造されたシャワープレート。
【請求項7】
請求項6に記載のシャワープレートを用いた気相成長装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−256730(P2012−256730A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129131(P2011−129131)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【特許番号】特許第5095843号(P5095843)
【特許公報発行日】平成24年12月12日(2012.12.12)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】