シリコン薄膜の製造方法、シリコン薄膜太陽電池の製造方法、シリコン薄膜、シリコン薄膜太陽電池
【課題】シリコン薄膜の製造方法、シリコン薄膜太陽電池の製造方法、シリコン薄膜を提供する。
【解決手段】シリコン基板32上にシリコン結晶12の原料ガス28に対して前記シリコン結晶12の成長が不活性な不活性層38を選択的に形成することにより前記シリコン基板32の露出面34と前記不活性層38による不活性面36を形成し、前記原料ガス28のうち前記シリコン基板32における表面分解反応が支配的な性質を有する原料ガス28を前記シリコン基板32に供給して前記シリコン結晶12を前記露出面34から成長させ前記シリコン結晶12が前記シリコン基板を覆う態様でシリコン薄膜10を製造する方法であって、前記露出面34の幅を0.001μmから1μmの範囲で形成することにより、前記シリコン薄膜10を前記シリコン基板32から剥離可能な状態で形成することを特徴とする。
【解決手段】シリコン基板32上にシリコン結晶12の原料ガス28に対して前記シリコン結晶12の成長が不活性な不活性層38を選択的に形成することにより前記シリコン基板32の露出面34と前記不活性層38による不活性面36を形成し、前記原料ガス28のうち前記シリコン基板32における表面分解反応が支配的な性質を有する原料ガス28を前記シリコン基板32に供給して前記シリコン結晶12を前記露出面34から成長させ前記シリコン結晶12が前記シリコン基板を覆う態様でシリコン薄膜10を製造する方法であって、前記露出面34の幅を0.001μmから1μmの範囲で形成することにより、前記シリコン薄膜10を前記シリコン基板32から剥離可能な状態で形成することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、薄膜状のシリコンを製造する方法に関し、特に薄膜成長後に基板から剥離して薄膜単体で使用可能なシリコン薄膜、シリコン薄膜太陽電池、及びその製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電を行う場合には半導体であるシリコンが使われることが多い。シリコンは太陽光発電効率が高いことが期待されていることに加えて、シリコン元素は、地球上に豊富に存在して資源の枯渇の心配がないため産業上の発展が期待されているからである。シリコンを用いた太陽電池は、理論的には25%の変換効率が期待され、現在約20パーセントの変換効率が達成されている。
【0003】
このような光効率を得るための太陽光発電用のシリコンウエーハは、CZ法等により形成されたシリコンの単結晶、または鋳型で溶解後凝固させた多結晶のインゴットを、180ミクロン程度の厚さに切断し、切断面を研磨することにより得られる。ここでシリコンのインゴットを切断するためには、ワイヤソーが多く用いられている。そのため、一枚のシリコンウエーハを製造するにはそのための切り代が発生し、その切り代を考慮すると一枚のシリコンウエーハを製造するために約360ミクロンの厚みを必要としていた。
【0004】
ところで、太陽電池に用いるシリコンウエーハは原理上30ミクロン程度の厚みで所望の発電能力を発揮できるが、上述の方法に従うと、切断時のウエーハの機械的強度を確保するため、必要とする厚み以上の厚みを有するシリコンウエーハを形成する必要があり、さらにそれを切断するための切り代も必要とする。このためシリコン原料の大部分が無駄となり、太陽光発電のコスト低減の大きな負担となっていた。
【0005】
このような問題を解決するため、エピタキシャル成長によりシリコン薄膜を形成する技術を用い(特許文献1、特許文献2、特許文献6、特許文献7、特許文献8、非特許文献1、非特許文献2参照)、これによって得られた薄膜状シリコンを太陽電池材料として用いることが提案されている。このとき、シリコン薄膜はシリコン基板上に形成するが、形成後に剥離する作業が必要となる。
【0006】
特許文献3においてはシリコン基板上にシリコン薄膜をエピタキシャル成長させ、成長後に基板に応力を与えることで、シリコン薄膜を基板から剥離させる技術が開示されている。しかし、この技術によればシリコン薄膜にも応力を与えることになるので、応力がシリコン薄膜の特定の場所に集中しやすく、その集中箇所にクラックまたは破断を発生させる虞があり、大面積のシリコン薄膜を形成するには不向きである。
【0007】
そこで特許文献4に示すようなサファイア基板上に窒化ガリウムを選択成長する技術をシリコンに適用し、シリコン基板とシリコン薄膜の接合面積を減らしてシリコン薄膜に掛かる剥離時の応力を抑制し、機械的な剥離を容易にする技術が想定される。
【0008】
特許文献5には、シリコン基板上にシリコン酸化膜を選択的に形成し、シリコン基板の露出した領域にシリコン単結晶を成長させ、シリコン酸化膜上でシリコン単結晶を横方向成長させ、シリコン酸化膜上をシリコン単結晶の薄膜を覆うことによりシリコン基板にシリコン薄膜を形成する技術が開示されている。
【0009】
特許文献6には、シリコン基板上にシリコン酸化膜を選択的に形成し、シリコン基板の露出した領域にシリコン単結晶を成長させ、シリコン酸化膜上でシリコン単結晶を横方向成長させ、シリコン単結晶の薄膜を覆うことによりシリコン基板にシリコン薄膜を形成する技術が開示されている。特許文献6では絶縁膜であるシリコン酸化膜と成長後のシリコン薄膜との分離を目的としている。まず、シリコン基板上に絶縁膜としてシリコン酸化膜を熱酸化で形成し、続いて粒子径1μmのシリカ粉末を混合したフォトレジスト剤をシリコン基板上に塗布した後、通常のフォトリソグラフ技術を用いて、シリコン基板にスリット状の露出部分を設けている。そしてシリコン基板をアセトンで洗浄することによりフォトレジストを粉末の粒子中から除去した後にシリコン酸化膜の上にはシリカ粉末を残し、そのあとに選択成長法によりシリコン基板上にシリコン薄膜を形成している。このシリカ粉末がシリコン基板と成長後のシリコン薄膜との接着力を弱めてシリコン酸化膜との剥離を可能にするとしている。
【0010】
また特許文献7にも同方法によってシリコン単結晶上に薄膜を覆うことによりシリコン基板上にシリコン薄膜を形成する技術が開示されている。特許文献7では、基板上に形成した熱酸化膜が成長後のシリコン薄膜との接着を回避するために、選択成長法によるシリコン薄膜の成長が全面を覆う前にエピタキシャル成長を停止して、熱酸化膜上に非成長穴を意図的に残し、その後にフッ酸をそこに注入してシリコン薄膜の剥離前に熱酸化膜を除去することにより熱酸化膜とシリコン薄膜との接着を回避してシリコン薄膜を剥離する方法を提案している。
【0011】
さらに特許文献8には基板に同方法によって薄膜形成するが、基板と形成薄膜の材質は別材料を選択して基板上に薄膜を形成し、基板と成長薄膜を異なった物質で構成させて両物質の持つ熱膨張係数の差異を利用して、冷却中の温度差で発生する熱応力を利用して剥離をする方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3007971号公報
【特許文献2】国際公開番号WO2005/069356号公報
【特許文献3】特開2002−217438号公報
【特許文献4】特開2004−55799号公報
【特許文献5】米国特許PN4578142号公報
【特許文献6】特開平6−20945号公報
【特許文献7】特開平4−199749号公報
【特許文献8】特表2009−505938号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】応用物理Vol.76No.6、619,2007「シリコン系太陽電池の現状と展望」近藤道雄著、独立行政法人産業技術総合研究所太陽光発電研究センター
【非特許文献2】「MOSデバイスエピタキシャルウエーハ第2章第1節:エピタキシャル成長技術」株式会社リアライズ社
【非特許文献3】NANO LETTERS, 2006. Vol.6,No.4,622-625 Samuel Hoffmann et,al; Measurement of the Bending Strength of Vapor-Liquid-Solid Grown Silicon Nanowires.
【非特許文献4】Namazu,T.et,al;Microelectromech.Syst.2000,.9,450 Evaluation of Size Effect on Mechanical Properties of Single Crystal Silicon by Nanoscale Bending Test Using AFM
【非特許文献5】B.E.Deal and A.S.Grove. J.Appl.Phys. 36(1965) 3770-3776
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、特許文献5においてはシリコン薄膜の材料として、モノシラン(SiH4)、ジクロロシラン(SiH2Cl2)等、気相反応性の高いガスを用いており、このため多結晶化を防止するHClガスを用いている。特許文献5に係るシリコン基板にシリコン薄膜が形成されたシリコンウエーハは、ICや個別半導体に使われるものであるから、シリコン薄膜のみならず酸化膜自体も使われる為、シリコン酸化膜のシリコン基板からの剥離は忌避される。その上で酸化膜の物性としては、電気的絶縁性と熱的伝導性が要求される。
【0015】
そのため特許文献5に用いられるシリコン酸化膜は電気的絶縁性と熱的伝導性の物性が付与された上に、剥離を忌避するために高温度領域を選択して成膜された熱酸化膜である。これはシリコン基板と強固に結合を図ったものであるため、結果的にシリコン薄膜をシリコン基板から剥離することが困難となっている。
【0016】
一方、特許文献6、特許文献7、特許文献8の方法によれば、シリコン薄膜のシリコン基板からの剥離は原理的には可能になると思われる。しかし特許文献6、特許文献7においては剥離に際してシリコン薄膜にサポート用の基板を貼り付け、シリコン薄膜をシリコン基板から一気に剥離させる必要がある。よって剥離の工程が複雑になるだけでなく、剥離の際に大きな外力を必要とするとともに外力を全面に且つ均一に掛ける必要があり、コストがかかるとともに大面積のシリコン薄膜の剥離は困難となる。
【0017】
また特許文献6、特許文献7においては、剥離に必要な大きな外力をなるべく小さくする対策として絶縁層の幅を大きくとり、シリコン基板に直接成長するシリコン結晶のピッチを粗くする方法を採用している(実施例では、両特許文献ともそれぞれ50ミクロン)が、そのために必然的に成長薄膜の厚さのバラつきが大きくなるという問題がある。
【0018】
さらに、特許文献6においては、単結晶成長を目的とするシリコン薄膜にシリカが混入する虞があり、シリコン薄膜製造の歩留が低下するという問題がある。また特許文献7においては成長後のシリコン薄膜にフッ酸を導入するための非成長穴が残る。このため、例えばシリコン薄膜を太陽電池の材料として用いる場合には両面に電極を形成するが、両面の電極の短絡を回避するため非成長穴を埋める工程が必要となりコストがかかるという問題がある。
【0019】
また特許文献8は基板と薄膜との熱膨張係数の違いにより薄膜を基板から剥離させるので、温度変化に伴う熱応力により薄膜にクラックが発生する虞があり、特に大面積になるほど顕著に表れ、大面積の薄膜の剥離は困難である。
【0020】
そこで、本発明は上記問題点に着目し、最近の物性研究(非特許文献3、4)で明らかになったシリコンのナノ特性を用いて、シリコン基板上に成長したシリコン薄膜であって、大面積でありながらシリコン薄膜を破損させることなくシリコン基板から小さな力で剥離可能なシリコン薄膜の製造方法、前記シリコン薄膜を用いたシリコン薄膜太陽電池の製造方法、前記製造方法により製造されたシリコン薄膜及びシリコン薄膜太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するため、本発明に係るシリコン薄膜の製造方法は、第1には、シリコン基板上にシリコン結晶の原料ガスに対して前記シリコン結晶の成長が不活性な不活性層を選択的に形成することにより前記シリコン基板の露出面と前記不活性層による不活性面を形成し、前記原料ガスのうち前記シリコン基板における表面分解反応が支配的な性質を有する原料ガスを前記シリコン基板に供給して前記シリコン結晶を前記露出面から成長させ前記シリコン結晶が前記シリコン基板を覆う態様でシリコン薄膜を製造する方法であって、前記露出面の幅を0.001μmから1μmの範囲で形成することにより、前記シリコン薄膜を前記シリコン基板から剥離可能な状態で形成することを特徴とする。
【0022】
上記方法は、シリコン薄膜の静的順次剥離を可能にするため、シリコンのナノ特性による伸展性を発揮する0.001μmから1μmの幅で成長を促す露出面を施し、前記シリコン薄膜の成長の核となるとともに静的順次剥離を可能にするシリコン結晶を前記露出面に成長するものである。このナノ特性を有するシリコン結晶は一般的なバルクシリコンと機械的な特性が大きく異なり剥離のメカニズムが大きく異なる。すなわち、シリコン薄膜の端部から外力を加えることにより基板上に成長したシリコン薄膜を剥離すると、前記露出面であって最も端部側で成長しているナノ特性を有するナノシリコンは伸び始め、外力を増して行くと、そのナノシリコンはさらに伸び、同時に端部より内側に次段のワイヤも伸び始める、やがて最前線のワイヤが部分剥離に至る、そして次段のワイヤは最前線の位置に変わり、やがて部分剥離に至る。この繰り返しが続き基板全面に静的順次剥離が進む。この方法では剥離に当たって、最前線のナノシリコンと次段かせいぜい次々段のナノシリコンのごく限られたナノシリコンにのみに応力が集中することになる。したがって、端から順番に静的剥離が可能となるために大きな外力を必要とせず、大面積なシリコン薄膜を形成することができる。
【0023】
第2には、前記シリコン薄膜の剥離させる端部に前記不活性層をエッチングするエッチング剤を供給することを特徴とする。上記方法により、不活性面とシリコン薄膜との剥離の促進と及びシリコン薄膜に付着した不活性層の除去を同時に行うことができる。特に熱酸化膜のようにシリコン薄膜との接着強度が強くなる材料を不活性層として形成した場合に顕著な効果を有する。
【0024】
第3には、前記不活性層を、前記シリコン薄膜の破壊強度より低い破壊強度を有する材料により形成することを特徴とする。
不活性層にシリコン薄膜の破壊強度より低い破壊強度を有する材料、例えば自然酸化膜を用いると、自然酸化膜は原子同士の結合力が小さく破断しやすい。このためシリコン薄膜に損傷を与えることなく不活性層を破断させ、または不活性層とシリコン基板の界面または不活性層とシリコン薄膜との界面の破断させることができ、シリコン薄膜をシリコン基板から容易に剥離することが可能となる。
【0025】
第4には、前記不活性層を、酸化膜により形成するとともに、前記酸化膜を酸素リッチの状態で形成することを特徴とする。
上記方法により、露出面に成長したシリコン結晶には周囲から酸素が供給されることになるので、シリコン結晶の周囲は酸化されるとともに酸化された部分はもとのシリコン結晶との結合強度は小さくなる。よって酸化されずに残ったシリコン結晶の伸展性が向上し、剥離時の応力を小さくすることができる。さらに露出面に成長したシリコン結晶が周囲から供給される酸素により完全に酸化した場合、シリコン薄膜は酸化膜上に形成された形となるので容易に剥離することができる。
【0026】
第5には、前記シリコン薄膜の成長後、前記酸化膜及び前記シリコン薄膜に熱処理を行なうことを特徴とする。
上記方法により、露出面に成長したシリコン結晶の酸化を促進させ、シリコン薄膜の剥離を容易に行うことができる。
【0027】
第6には、前記露出面の幅を0.45μm以下に形成するとともに、前記シリコン薄膜の厚さを40μmまでのいずれかの厚さになるまで成長させることを特徴とする。
太陽電池に用いられるシリコン薄膜の厚みは30μm必要とされる。一方、本願発明者は露出面の幅を0.4μm以下とすることにより、シリコン薄膜の成長に合わせて露出面に形成されたシリコン結晶が酸化され、シリコン薄膜とシリコン基板との共有結合が切断されるとの知見を得た。同様にシリコン薄膜の厚みを40μmとした場合には、露出面の幅を0.45μm以下にすればシリコン柱はその中心軸まで酸化されるとの知見を得た。したがって、上述のように設定することにより、シリコン薄膜を外力を用いずに容易にシリコン基板から剥離することが可能となる。
【0028】
第7には、前記不活性層を形成する材料にP型またはN型のドーパントをドープすることを特徴とする。
上記方法により、シリコン薄膜の不活性層に接触する部分にドーパントがドープされ電極層を形成することができる。よって電極層を単独で形成する工程を不要としてコストを抑制することができる。
【0029】
第8には、前記シリコン基板を曲面形状に形成し、前記不活性面及び前記シリコン結晶を前記シリコン基板の曲面形状の表面に形成することを特徴とする。
上記方法により、実装先の形状に対応してシリコン薄膜を形成することができる。
【0030】
第9には、前記原料ガスにP型またはN型のドーパントをドープするとともに、前記シリコン薄膜の形成途中で前記ドーパントをP型またはN型に相互に切り替えることを特徴とする。
上記方法により、シリコン薄膜の厚み方向にPN接合を形成することができる。
【0031】
第10には、前記シリコン薄膜上に前記不活性面と前記シリコン薄膜が露出する前記露出面とを形成し、前記シリコン薄膜上に新たなシリコン薄膜を形成することを特徴とする。
上記方法により、一枚のシリコン基板から多層構造のシリコン薄膜を形成することができ、シリコン薄膜の量産化が可能となる。
【0032】
第11には、前記シリコン基板の周縁領域の少なくとも一辺において前記不活性面の前記露出面に対する面積比を前記シリコン基板の中央領域に比べて大きくしたことを特徴とする。
上記方法により、シリコン基板の周縁領域の少なくとも一辺において前記不活性面を支配的に形成することによりシリコン薄膜の周縁領域に剥がし代を形成することができる。よって剥がし代を基点としてシリコン薄膜をシリコン基板から容易に剥離して、シリコン薄膜の歩留を高めることができる。
【0033】
また、本発明に係るシリコン薄膜太陽電池の製造方法は、前記シリコン薄膜の両面に電極を形成することを特徴とする。上記方法により大面積な薄膜太陽電池をコストを抑制して製造することができる。
【0034】
一方、本発明に係るシリコン薄膜は、第1には、シリコン結晶により形成され、その主面に凸部が複数配列された態様で形成されたシリコン薄膜であって、前記凸部は、その幅が0.001μmから1μmであって、前記凸部の先端には前記シリコン結晶を引き裂く態様で形成された剥離痕、及び/もしくは、前記凸部の先端に形成されたシリコン酸化膜をエッチングにより除去した態様で形成されたエッチング痕を有することを特徴とする。
【0035】
上記構成において、凸部は上述のシリコン基板上に不活性面とともに形成された露出面にシリコン柱を形成することにより形成可能であり、シリコン薄膜は露出面に形成されたシリコン柱を核にしてシリコン結晶を横方向成長させることにより形成可能である。そして露出面に形成されたシリコン柱は、露出面の寸法を上述の寸法で形成することにより、露出面からナノシリコンとして形成されることになる。よってシリコン柱は、シリコン薄膜に応力を与えることにより伸長するとともにシリコン基板から剥離し、凸部の先端には剥離痕が形成されることになる。
【0036】
またシリコン薄膜をシリコン基板から剥離する場合、最前線のシリコン柱と次段かせいぜい次々段のシリコン柱のごく限られたシリコン柱にのみに応力が集中することになる。
【0037】
また上述のようにシリコン柱をシリコン薄膜の成長に合わせて酸化させた場合、酸化済みのシリコン柱はフッ酸等によりエッチングされるため、凸部の先端にはエッチング痕(シリコン薄膜と酸化済みのシリコン柱との界面の凹凸形状)が形成されることになる。
【0038】
したがって、いずれの場合においても、端から順番に静的剥離が可能となるために大きな外力を必要とせず、大面積に形成可能なシリコン薄膜となる。
【0039】
第2には、前記シリコン薄膜の厚みが40μm以下、前記凸部の幅が0.45μm以下であって、前記凸部の先端には前記エッチング痕を有することを特徴とする。
【0040】
太陽電池に用いられるシリコン薄膜の厚みは30μm必要とされる。一方、本願発明者は露出面の幅を0.4μm以下とすることにより、シリコン薄膜の成長に合わせて露出面に形成されたシリコン柱がその中心軸まで酸化され、シリコン薄膜とシリコン基板との共有結合が切断されるとの知見を得た。同様にシリコン薄膜の厚みを40μmとした場合には、露出面の幅を0.45μm以下にすればシリコン柱はその中心軸まで酸化されるとの知見を得た。これらの場合、シリコン柱は、その中心軸まで酸化されるので、上述の凸部の先端にはエッチング痕を有することになる。したがって、上述のように設定することにより、外力を用いずに容易にシリコン基板から剥離することが可能なシリコン薄膜となる。
【0041】
さらに、本発明に係るシリコン薄膜太陽電池は、前記シリコン薄膜の両面に電極を形成してなることを特徴とする。これにより、コストを抑制するとともに大面積な薄膜太陽電池となる。
【発明の効果】
【0042】
本発明に係るシリコン薄膜の製造方法、薄膜太陽電池の製造方法、およびシリコン薄膜によれば、ナノシリコンの伸展性を利用することにより、シリコン薄膜の一端から剥離が始まり、漸進的に剥離が全面に及ぶような静的順次剥離が可能となり、究極的には剥離に外力を必要としない剥離も可能となる。
【0043】
また本発明によれば上述のシリコン薄膜をシリコン基板から剥離して前記シリコン薄膜を形成することになるのでシリコン材料のロスを回避し、さらにシリコン薄膜の剥離後のシリコン基板は再利用可能であるので、コストを抑制したシリコン薄膜、およびシリコン薄膜に電極を形成した薄膜太陽電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】第1実施形態に係るシリコン薄膜をエピタキシャル成長により製造するための配置図である。
【図2】第1実施形態に係るシリコン薄膜を製造するためのシリコン基板の模式図である。
【図3】第1実施形態に係るシリコン結晶の成長段階(初期段階)の模式図である。
【図4】第1実施形態に係るシリコン結晶の成長段階(横方向成長段階初期)の模式図である。
【図5】第1実施形態に係るシリコン結晶の成長段階(横方向成長段階後期)の模式図である。
【図6】第1実施形態に係るシリコン結晶の成長段階(最終段階)の模式図である。
【図7】第1実施形態に係るシリコン薄膜をシリコン基板から剥離する様子の模式図である。
【図8】剥離後のシリコン薄膜の模式図を示す。
【図9】第3実施形態に係るシリコン薄膜の製造方法の初期工程の模式図である。
【図10】第3実施形態に係るシリコン薄膜の製造方法の選択成長工程の模式図である。
【図11】第3実施形態に係るシリコン薄膜の製造方法の薄膜形成工程の模式図である。
【図12】剥離後の第3実施形態のシリコン薄膜の模式図である。
【図13】第8実施形態に係るシリコン薄膜の製造方法の模式図である。
【図14】不活性層の幅を複数設定し、横方向成長が完了するまで成長させた場合のシリコン柱に形成される酸化膜の厚みを示す表である。
【図15】成長速度、及び形成するシリコン薄膜の厚みを複数設定し、横方向成長後にシリコン薄膜が所定の厚みまで成長させる場合のシリコン柱に形成された酸化膜の厚みを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0046】
本実施形態に係るシリコン薄膜をエピタキシャル成長により製造するための配置図を図1に示す。図1に示すように、真空チャンバであるエピタキシャル成長炉18の中に設置された設置台24の上にシリコン基板32を設置し、このシリコン基板32をエピタキシャル成長炉18の外側に設けたヒーター26により所望の温度に加熱する。エピタキシャル成長炉18の原料ガス入口20から原料ガス28を導入し、これをシリコン基板32の表面上で化学反応させ、シリコン結晶12をエピタキシャル成長させ、もってシリコン基板32上にシリコン結晶12によるシリコン薄膜10を成膜させる。そして余剰の原料ガス28はエピタキシャル成長炉18の原料ガス出口22から排出される。
【0047】
このような配置のもと、第1実施形態に係るシリコン薄膜10の製造方法は、シリコン基板32上にシリコン結晶12の原料ガス28に対して前記シリコン結晶12の成長が不活性な不活性層38を選択的に形成することにより前記シリコン基板32の露出面34と前記不活性層38による不活性面36を形成し、前記原料ガス28のうち前記シリコン基板32における表面分解反応が支配的な性質を有する原料ガス28を前記シリコン基板32に供給して前記シリコン結晶12を前記露出面34から成長させ前記シリコン結晶12が前記シリコン基板32を覆う態様でシリコン薄膜10を製造する方法であって、前記露出面34の幅を0.001μmから1μmの範囲で形成することにより、前記シリコン薄膜10を前記シリコン基板32から剥離可能な状態で形成するものである。本実施形態では、露出面34を上述の寸法に従って形成するので、露出面34上であって不活性層38により囲まれた領域にシリコン柱12a(ナノシリコン、図3参照)が形成される。
【0048】
本実施形態で用いられるナノシリコンの特性について説明する。シリコンの破壊強度(Breaking Strength in Compression)は4900〜5600Kgrs/cm2とされている。この値は圧縮の場合の数値であり、その上にナノシリコンの破壊強度が明らかにされる前のバルクシリコンの値である(文献不明)。
【0049】
最近の詳細な研究によると、ナノシリコンでは、シリコンの外形寸法をナノスケールに細くすると劇的に機械的性質が変化して驚異的に大きな曲げや伸びの特性が表れることが報告されている。非特許文献3によるとナノシリコンの曲げテストで、ベンデングに耐える力は12ギガパスカルであると報告している。同時に非特許文献3にはヤング率はバルクシリコンとナノシリコンで変化はない(186ギガパスカル)事を報告しているので、フックの法則に従い、ナノシリコンはバルクシリコン(上記バルクシリコン破壊強度に比して)より21〜24倍の大きな伸展性を示した後に破壊することになる。しかし、このことは破壊強度も同率で大きくなることを意味し、これによりシリコン基板からシリコン薄膜を剥離することが困難になるとも思われる。しかし、特許文献6、7のように補強板により薄膜を補強した上で全てのシリコン柱に応力を与えてシリコン薄膜を一度に剥離するのではなく、後述のようにシリコン柱12aの一本一本に順次応力を与えて伸長させたのち剥離し、次のシリコン柱12aを剥離する如く順次部分剥離が実現できるため、少ない力でシリコン薄膜10をシリコン基板32から剥離することができる。このようにナノシリコンの大きな伸展性が無ければ順次部分剥離は不可能である。
【0050】
非特許文献4は、シリコンの曲げ強度(Bending Strength)について研究し、200nmから800nmに及ぶ試料を用いて、シリコンの寸法が、ミリメーターからマイクロメーター、マイクロメーターからナノメーターに細くなるに従って物性が大きく変化することを数値で明らかにした。本実施形態で採用しているナノ特性を有するシリコン柱12aの幅(一辺の長さ)の範囲はこの文献に示されたナノ特性を有する範囲に限定して採用されたものである。
【0051】
すなわち、非特許文献4はシリコン結晶が破壊の起点(結晶の内部、表面、エッジ)を究明するために、Daviesによるthe risk of rupture theoryを引用して実験結果を整理して実効長さ1μm以下でナノ特性を確認している(非特許文献4、455ページ図10及び456ページ左欄下から18行目)。
【0052】
非特許文献4は、さらに2次元、3次元からも、シリコン結晶の破壊の起点について言及して、ナノ特性への変化を確認している。本実施形態では露出面34の幅、すなわちシリコン結晶の幅を0.001μmから1μmとしているが、2次元(露出面34及びシリコン柱12aの幅と奥行き、または一辺の長さ)、3次元(シリコン柱12aの幅と奥行きと長さ)の寸法を適宜選択することにより、静的順次剥離を可能にすることが、非特許文献4によるデータを基にして、確認できるのである。
【0053】
よって、本実施形態においては、露出面34の幅(または一辺)を1μm以下とすることで、露出面34を底面とし不活性層38の側面として囲まれた領域において、その領域を埋めるように形成され、露出面34と同一寸法の断面を有し、ナノシリコンとしての特性を有するシリコン柱12aを成長させている。
【0054】
ここで、30cmの矩形ウエーハ(シリコン基板)にWaを1μm、Wbを10μmと想定した本実施形態のシリコン薄膜を形成し、矩形ウエーハの周辺から剥離する場合を考える。すると、30cmの長さに、線状にシリコン基板と接合する一辺が1μmのシリコン柱(前線上の)が約3万個連なることになる。
【0055】
ここで、本願発明者は上述の破壊強度と上述の伸展性を考慮した場合、幅1μmのシリコン柱12aには一本当たり1.2gの力が剥離に必要になるとの知見を得ている。よって、一辺が30cmの薄膜をゆっくり剥離するのに必要な力は上述のシリコンの破壊強度の値を用いると約36kgとなり、この値は静的剥離に必要な値になる。実際は、後述の第2実施形態の場合のように、不活性層38からの剥離力などを考えると、この2倍程度の張力をシリコン薄膜10にかけることになるので、Waがこれ以上の値を有する場合、静的順序剥離は実用上難しくなる。ただし後述の第3実施形態において、シリコン柱12aが完全に酸化された場合、この考慮は不要である。
【0056】
よって、シリコンが1μm以下において示すナノ特性(非特許文献4)の利用と、本実施形態および後述の実施形態すべてを包含して、上記のよう大面積薄膜を剥離する際に必要な外力からWaの上限は1μmが適切であると考えられる。一方、Waが小さいほど剥離には有利ではあるが、Waが0.001μmのときはシリコン原子が数個露出する長さとなり、これ以下の露出面では正常なエピタキシャル成長を果たせなくなることが想定される。
【0057】
一方、シリコン基板32の全面に作られる露出面34と不活性面36のピッチWa、Wbはなるべく細かい方がシリコン結晶12を、不活性面36上を横方向に成長させる時間を短縮させるのに有効である。他方で、成膜したシリコン薄膜10の剥離を簡単にするには、露出面34と不活性面36との面積比率が影響する。露出面34に対して不活性面36の面積比を多くするとシリコン薄膜10の剥離を容易にすることが出来るが、不活性面36上でのシリコン結晶12の横方向の成長に多く時間がかかり経済的に不利である。
【0058】
露出面34(ピッチWa)に成長したシリコン柱12a(シリコン結晶12)は、不活性面36(ピッチWb)上において横方向成長して不活性面36において繋がることよりシリコン薄膜10が形成される。その際、露出面34上の膜厚より不活性面36上の膜厚は薄くなる。さらに不活性面36上で最終的に繋がった部分の膜厚はさらに薄くなることが想定される。本実施形態においてはシリコン薄膜10の膜厚を30μmとすることを想定しているが、例えばWaを1μm、Wbを10μmとすると、Waの部分が30μmの厚さに成長したとき、後述のように不活性層38(Wb)上の部分の膜厚の最低値は計算上25μm(バラつき17%)となる。この厚みのバラつき(17%)は大きく実用上限界と考える。
【0059】
この厚みのバラつきを決定しているのは不活性面36(ピッチWb)の値である。すなわち不活性面36(ピッチWb)上に横方向に成長し最終的に繋がるまでの時間が長いほどバラつきが大きくなることから、上述のようにWbを10μmとするのは実用上限界と判断できる。特許文献6および7ではWbを50ミクロンとしている。この場合30ミクロンの薄膜を作成するとした場合はWbの部分の最低値は計算上5μm(厚さバラつき83%)となり、バラつきが大きすぎて実用上不向きである。
【0060】
一方、厚みのバラツキを小さくする対策としてはWbを小さくすれば解決される。そこで、厚みのバラつきを軽減するために上記Wbを10μmから1μmに変更すると、Waが1μmであるから比率Wb/Waは1となり、このとき厚みのバラつきは1.7%に改善される。しかしながら、不活性面36(ピッチWb)の値が小さくなった分、露出面34(ピッチWa)の比率が大きくなるためシリコン薄膜10の剥離の面からは不利になる。
【0061】
したがって両者のバランスを考えて実用上Wa、Wbは選択される。一つの解決策としては、Waを0.1μmに変更すれば、Wb/Waは10となり、厚みのバラつきを1.7%に維持して、剥離の条件を改善することができる。さらにもう一つの解決策として、Wbを1μmにしたまま、Waを0.01μmにすると、Wb/Waは100となり、厚みのバラつきを1.7%に維持しながら剥離の条件を大きく改善することができる。
【0062】
以上のことから露出面34(ピッチWa)と、不活性面36(Wb)の寸法(幅、または一辺の長さ)について、Waはシリコン柱のナノ特性を発揮する範囲内で且つ実用的な見地から0.001μmから1μmの範囲が好適であり、これに対応してWbはWaより大きく、かつ10μm以下とすることが好適であると結論付けられる。
【0063】
図2に第1実施形態に係るシリコン薄膜を製造するためのシリコン基板を示す。シリコン基板32は、シリコン多結晶や、シリコン単結晶でシリコン薄膜10を成長させる表面を(100)面としたものなどが用いられる。このように、シリコン薄膜10を成長させる基板を同一材料とすることにより、シリコン薄膜10に対する格子歪みの発生を抑制して高品質なシリコン薄膜10を形成することができる。
【0064】
本実施形態(以下の実施形態でも同様)においては、エピタキシャル成長後のシリコン薄膜10をシリコン基板32から剥離することを目的としているが、この目的を可能にするためには、エピタキシャル成長に供するシリコン基板32の表面にあらかじめ原料ガス28に対して活性なシリコン基板32の露出面34と、酸化膜からなる不活性層38で覆った不活性面36の両面を交互に形成しておき、これをエピタキシャル成長に供することが必要である。
【0065】
そこで、シリコン基板32の表面には、原料ガス28による結晶成長に対して不活性となる不活性層38と、その表面に不活性面36(マスク面)を形成する酸化膜(SiO2)がパターニングにより形成されている。また本実施形態では、不活性層38は熱酸化膜を用いる。
【0066】
熱酸化膜としては、高温下(例えば1000℃)でシリコン基板32の表面にウエット酸素(95℃ H2O)を流して成長した酸化膜を用いることも可能である。熱酸化膜のパターニングはシリコン基板32の表面にレジスト膜(不図示)を形成後露光して、熱酸化膜が露出した部分をフッ酸等を用いたエッチングにより除去し、その後レジスト膜(不図示)を除去することにより形成される。
【0067】
このように熱酸化膜が形成されたシリコン基板32上にシリコン薄膜10を成長させるため、シリコン基板32には原料ガス28が供給される。原料ガス28は、水素等のキャリアガスにシリコン結晶12の原料であるシリコン化合物を所定の割合で含有させたものであり、所定の温度または流量でエピタキシャル成長炉18に供給される。そして、エピタキシャル成長に使われる原料ガス28としては、モノシラン(SiH4)、ジクロロシラン(SiH2Cl2)、トリクロロシラン(SiHCl3)、四塩化ケイ素(SiCl4)等が挙げられる。なお、これらのガスの使用に際しては適度に水素で希釈して使用される。
【0068】
気相エピタキシャル成長機構には、原料ガス28の輸送現象と化学反応(気相分解反応、表面分解反応)が伴う。特にエピタキシャル成長がなされる高い温度においては、律速反応として気相分解反応と表面分解反応を考慮する必要があるが、本実施形態においては、気相分解反応の割合が表面分解反応の割合より極めて小さく、表面分解反応が支配的となるガスを選択する必要がある。よって、上記原料ガス28のうち、モノシラン(SiH4)は気相分解の割合が大きいため好適ではなく、トリクロロシラン(SiHCl3)などの塩素系ガスが好適となる。これによりシリコン結晶12が酸化膜で形成された不活性面36で直接堆積することを抑制することができ、露出面34から成長してきたシリコン結晶12(シリコン柱12a)の横方向成長により不活性面36を覆うことができる。
【0069】
ここで、本実施形態では不活性層38として高温で形成される熱酸化膜を用いているが、熱酸化膜は機械的に強固な物質になるとともにシリコン薄膜10と強く接合することがある。よって、本実施形態のように熱酸化膜からシリコン薄膜10を剥離する場合にはやや不利になるとも思われる。しかしながら第1実施形態においては、後述のようにフッ酸等のエッチング液によりこの熱酸化膜をエッチングするので、熱酸化膜はシリコン薄膜10の剥離の障害とはならない。
【0070】
図3に第1実施形態に係るシリコン結晶の成長段階(初期段階)を、図4に第1実施形態に係るシリコン結晶の成長段階(横方向成長段階初期)を、図5に第1実施形態に係るシリコン結晶の成長段階(横方向成長段階後期)を、図6に第1実施形態に係るシリコン結晶の成長段階(最終段階)を、図7に第1実施形態に係るシリコン薄膜をシリコン基板から剥離する様子をそれぞれ示す。
【0071】
まず、図1、図2に示すように、シリコン薄膜10を成長するためのシリコン基板32をエピタキシャル成長炉18の中の設置台24に設置する。このとき、シリコン基板32の露出面34と熱酸化膜で形成された不活性面36によるパターニングを予め形成しておく。そしてシリコン基板32にシリコン薄膜10をエピタキシャル成長するための温度に昇温し、原料ガス28を所定の流量及び温度によりシリコン基板32に供給する。なお、原料ガス28には塩化水素(HCl)ガスを混合させ選択成長を促進させるのが一般的である。
【0072】
次に、図3に示すようにエピタキシャル成長の初期の比較的低温(例えば600℃から1000℃の温度)では、シリコン基板32の露出面34で原料ガス28の表面反応が起こり、シリコン柱12a(シリコン結晶12)の成長が始まる。しかし前記のように選択された原料ガスで28は、熱酸化膜で形成された不活性面36上の領域では表面反応が抑制され、分解が始まらない。そして露出面34から成長したシリコン柱12aはナノシリコンとしてエピタキシャル成長する。
【0073】
そして図4に示すように、エピタキシャル成長が進行し、やがて露出面34で成長したシリコン結晶12(シリコン柱12a)が不活性面36を形成する不活性層38の厚さにまで成長すると、その後はシリコン結晶12が不活性面36上にも横方向に成長し始める。すなわちナノシリコンの先端を核としてシリコン結晶12が横方向に成長し始める。
【0074】
このとき、横方向に成長した部分からもシリコン薄膜10の厚み方向に成長することになる。そして、シリコン薄膜10の厚み方向の成長速度と横方向の成長速度はほぼ同じなので、不活性面36上においては図4に示すようにシリコン薄膜10の厚み方向に対して約45度傾斜した成長面46を形成しつつ横方向成長と厚み方向の成長が進行する。
【0075】
図5に示すように、成長がさらに進むとシリコン結晶12が不活性面36上をも覆い、シリコン結晶12が不活性面36上で連なるので、シリコン基板32の全面がシリコン薄膜10で覆われることになる。その後は、図6に示すように、速度を速めるため原料ガス28への塩化水素ガスの混入を停止し、且つシリコン基板32の温度を上げて必要なエピタキシャル厚さに達するまで成長を続行し、終了する。
【0076】
このように形成されたシリコン薄膜10は、露出面34上のシリコン柱12aを核として成長した結晶であるから、露出面34上のシリコン結晶12も不活性面36上のシリコン結晶12も共にシリコン基板32の結晶構造を引き継いだ単結晶の連続的な膜状の結晶膜として形成されたことになる。一方、露出面34上(ピッチWa)ではシリコン基板32とシリコン結晶12との原子的共有結合がなされているが、不活性面36上(ピッチWb)では不活性層38を形成している熱酸化膜とシリコン薄膜10との原子的共有結合が果たせないため、この部分の機械的強度は共有結合と比較して小さくなっている。
【0077】
なお、図5〜7に示すように、上記工程においては不活性層38上に上述の横方向成長段階で出現する約45度に傾斜した成長面46により形成され断面が二等辺三角形となる谷部48が形成されるが、この谷部48の出現する部分が、シリコン薄膜10が最も薄く形成される位置となる。ここで、不活性層38の幅を10μmとすると、谷部48の深さは5μm程度となる。よってシリコン薄膜10を30μm成長させた場合は、谷部48の最も深い部分でシリコン薄膜10の厚みが25μmとなる。よって、シリコン薄膜10の厚さのバラつきは(30μm−25μm)/30μm=17%となる。
【0078】
図7に示すように、露出面34で成長したシリコン柱12aは前述のナノシリコンとして成長している。シリコン薄膜10の端部から外力を加えることによりシリコン基板32上に成長したシリコン薄膜10を剥離すると、前記露出面34であって最も端部側で成長しているナノ特性を有するシリコン柱12a(S1)は伸び始め、外力を増して行くと、そのシリコン柱12a(S1)はさらに伸び、同時に端部より内側に次段のシリコン柱12a(S2)も伸び始める、やがて最前線のシリコン柱12a(S1)が部分剥離に至る、そして次段のシリコン柱12a(S2)は最前線の位置に変わり、やがて部分剥離に至る。この繰り返しが続きシリコン基板32全面に静的順次剥離が進む。この剥離の方法において、最前線のシリコン柱12aと次段かせいぜい次々段のシリコン柱12aのごく限られたシリコン柱12aにのみに応力が集中することになる。したがって、端から順番に静的剥離が可能となるために大きな外力を必要とせず、大面積なシリコン薄膜10を形成することができる。
【0079】
ところで、第1実施形態では不活性層38に熱酸化膜を用いており、熱酸化膜とシリコン薄膜10との接合が強固になる場合は剥離することが困難となる。よって第1実施形態においては剥離の際にシリコン薄膜10の剥離させる端部にフッ酸等のエッチング液をスプレー等(不図示)で供給する。するとエッチングが進行した部分からシリコン薄膜10の剥離が可能となるとともに、熱酸化膜の溶解により最前線のシリコン柱12aが伸長・部分剥離するため、次段の不活性層38のエッチング及び次段のシリコン柱12aの伸長・部分剥離が可能となる。よってエッチング液をシリコン薄膜10が剥離する部分に供給し続けることにより、このような部分剥離を順次静的に繰り返し、シリコン薄膜10全面をシリコン基板32から剥離することができる。
【0080】
本実施形態は、露出面34に成長したシリコン結晶(シリコン柱)のナノ特性、すなわち破壊前に外力に比例して伸びる物性を利用したものである。そのために酸化膜にフッ酸による溶解が可能となっている。この場合不活性層38の剥離には大きな外力を必要とせず、外力は剥離最前線近傍のシリコン柱12aだけにのみ集中する。よって本実施形態は、特許文献6、7にある、反り抑制された補強板を使ってウエーハ上に作られた極めて多数の不活性膜およびシリコン柱の両者に外力を瞬時に且つ同時に掛ける剥離法とは異なる。なお、不活性層38に酸化膜を施した例で説明したがシリコン窒化膜を不活性層38として成長させた場合はそれを溶解するための最適な液を使えばよい。なおシリコン薄膜10の表面のキズを防止するため反りやすい(柔らかい)保護シート(不図示)を、剥離前のシリコン薄膜10の表面に貼り付けてもよく、以下の実施形態でも同様とする。
【0081】
図8に剥離後のシリコン薄膜の模式図を示す。図8に示すように、剥離後のシリコン薄膜10は、シリコン結晶12により形成され、その主面に凸部12bが複数配列された態様で形成されたシリコン薄膜10であって、前記凸部は、その幅が0.001μmから1μmであって、前記凸部12bの先端12cには前記シリコン結晶12を引き裂く態様で形成された剥離痕を有するものとなっている。
【0082】
ここで、凸部12bは上述のシリコン基板32上に不活性面36とともに形成された露出面34にシリコン柱12aを形成することにより形成可能であり、シリコン薄膜10は露出面34に形成されたシリコン柱12aを核にしてシリコン結晶12を横方向成長させることにより形成可能である。そして露出面34に形成されたシリコン柱12aは、露出面34の寸法を上述の寸法で形成することにより、露出面からナノシリコンとして形成されることになる。よってシリコン柱12aはナノシリコンとして形成されるので、シリコン薄膜10に応力を与えることにより伸長するとともにシリコン基板32から剥離し、凸部12bの先端12cには剥離痕が形成されることになる。またシリコン薄膜10をシリコン基板32から剥離する場合、最前線のシリコン柱12aと次段かせいぜい次々段のシリコン柱12aのごく限られたシリコン柱12aにのみに応力が集中することになる。したがって、端から順番に静的剥離が可能となるために大きな外力を必要とせず、大面積に形成可能なシリコン薄膜10となる。
【0083】
第2実施形態に係るシリコン薄膜の製造方法は、基本的方法は第1実施形態と類似するが、不活性層38を、シリコン薄膜の破壊強度より低い破壊強度を有する材料により形成する点において相違する。不活性層38にシリコン薄膜10の破壊強度より低い破壊強度を有する材料、例えば自然酸化膜を用いると、自然酸化膜は原子同士の結合力が小さく破断しやすい。このためシリコン薄膜10に損傷を与えることなく不活性層38を破断させ、または不活性層38とシリコン基板32の界面または不活性層38とシリコン薄膜10との界面を破断させることができ、シリコン薄膜10をシリコン基板32から容易に剥離することが可能となる。本実施形態においては自然酸化膜のほか、低温堆積酸化膜、低温窒化膜を用いることもできる。
【0084】
自然酸化膜は、常温下でシリコン基板32の表面を一定時間空気(酸素)に晒すことにより、表面に一様に形成される膜であり酸化膜としては化学量論的には不完全な酸素リッチな酸化膜である、その厚みは25Å程度である。また自然酸化膜は、後述の熱酸化膜より原子間及び界面での結合力が小さいため、容易に破断させることができる。このため後述のように自然酸化膜による不活性面に接合するシリコン薄膜10をシリコン基板32から容易に剥離させることができる。この自然酸化膜のパターニングは、自然酸化膜が形成されたシリコン基板32の表面にパターニングに対応したレジスト膜(不図示)を形成し、自然酸化膜が露出した領域をフッ酸等によるエッチングにより除去し、その後レジスト膜(不図示)を除去することにより形成される。
【0085】
また、低温堆積酸化物を不活性面として形成する場合は、例えばモノシラン(SiH4)に酸素(O2)を混合したガスを用いて酸化膜をシリコン基板の表面に堆積(反応式:SiH4+O2→SiO2+2H2)させる方法を用いることができる。例えば酸素濃度が13%のモノシランガスの混合ガスを350℃に昇温してシリコン基板32に供給すると、堆積酸化膜を約0.1μm/分の成長速度で形成することができる。
【0086】
低温堆積酸化膜(または窒化膜)とはシリコン基板32を直接酸化(窒化)させるのではなく、ガスや液体によりシリコン酸化物(窒化物)を該基板表面に成長もしくは塗布する酸化膜(窒化膜)である。
【0087】
たとえば低温堆積酸化膜を液体塗布する方法で説明すると、アンモニア液にシリコン粉末を投入してシリコンを溶解しSi(OH)4を作りそれを基板表面に滴下するとシリコンはアルカリ液には良く濡れる性質があるのでそれをスピンナーにより全面に均一に被覆する。その後にアンモニア液を乾燥させる(Si(OH)4→SiO2+H2O)。乾燥後にできた低温堆積酸化膜は熱酸化膜と比較すると極めて脆弱であり化学量論的にも不完全な酸化膜である。そのため本実施形態には好都合である。
【0088】
上述のように、シリコンは常温下で一定時間空気に晒すと、その表面に自然酸化膜が形成されるため、自然酸化膜を不活性面36として形成してパターニングされたシリコン基板32にシリコン結晶12(シリコン薄膜10)をエピタキシャル成長するとき、エピタキシャル成長の初期には短時間水素ガスによる露出面34の酸化膜の除去を行い、その後に続いてシリコン結晶12(シリコン柱12a)の成長を行う場合がある。そのときに、不活性層38としての自然酸化膜も同時に還元されて幾分その膜厚が薄くなる。このような場合において、工業的に安定的に自然酸化膜を不活性膜として利用するためには、不活性層38である自然酸化膜の上に上述の低温堆積酸化膜を積み上げて、水素還元時の目減りを予め補って(場合によっては増膜して)エピタキシャル成長を行うことができる。剥離時のシリコン柱12aの伸びを大きくする(伸び率は同じ)には、低温堆積酸化膜の厚さを厚くすると効果的である。
【0089】
第2実施形態のシリコン薄膜の製造工程は、上述のように不活性層38の製造工程において第1実施形態と異なるが、シリコン薄膜10を成長させるまでの工程は第1実施形態と同様である(図2乃至図5参照)。また図6のようにシリコン薄膜10をシリコン基板32から剥離する工程も第1実施形態と類似する。しかし、本実施形態のように、不活性層38にシリコン薄膜10の破壊強度より低い破壊強度を有する材料、例えば自然酸化膜を用いると、自然酸化膜は原子同士の結合力が小さく破断しやすい。このためシリコン薄膜10に損傷を与えることなく不活性層38を破断させ、または不活性層38とシリコン基板32の界面または不活性層38とシリコン薄膜10との界面を破断させることができ、シリコン薄膜10をシリコン基板32から容易に剥離することが可能となる。
【0090】
したがって、第2実施形態は、第1実施形態のようにフッ酸等のエッチング液により不活性層38のエッチングを行なわなくても剥離が可能な乾式剥離が可能となる。本実施形態でもナノシリコンのナノ特性を利用するため、シリコン薄膜10の端部から始まる静的順次部分剥離が適用されるが、第1実施形態より不活性層38の抵抗があるので剥離に必要な力はその分大きくなるが、乾式剥離のため剥離の工程を容易に行うことができる。もちろん本実施形態においてもエッチング液を用いることは好適であり、不活性面36とシリコン薄膜10との剥離の促進、及びシリコン薄膜10に付着した不活性層38の除去を同時に行うことができる。
【0091】
なお、特許文献6、7のように成長後の薄膜を剥離するに当たって、反りを抑制する補強板が接着された状態で瞬時剥離を行う場合、薄膜には直接的には外力が加わらないので薄膜の破損は発生しない。しかしながら、第2実施形態では補強板は使わないから成長後のシリコン薄膜10を剥離するときには薄膜に外力を加わることになる。よって剥離時のシリコン薄膜10の破損を回避するためには、不活性層38はシリコン薄膜10より破壊強度が小さいことが要件となる。
【0092】
また、第1実施形態、第2実施形態においては、剥離に際して、シリコン薄膜10はシリコン柱12aからの抗力も考慮する必要があるが、提案しているシリコン柱12aの幅(一辺の長さ)は1μm以下であり、一方薄膜が選択成長で横方向に成長してシリコン基板32全面を覆うまで成長するときのシリコン薄膜10のシリコン柱12aの真上に形成される部分の厚みは10μm以上となる。よって剥離時のシリコン柱12aからの抗力に対してシリコン薄膜10は十分な強度を有し、剥離時にシリコン薄膜10の破損は発生しない。
【0093】
第3実施形態のシリコン薄膜の製造方法は、基本的には第2実施形態と類似するが、不活性層38を構成する酸化膜の化学組成が化学量論的に酸素リッチとする点が相違する。そして酸素リッチとなった酸化膜から成長中のシリコン柱12aへ酸素を供給し、シリコン柱12aの周囲を酸化させてシリコン柱12aを細くすることにより、あるいはシリコン柱12aの内部まで全て酸化させてシリコン薄膜10とシリコン基板32とのシリコン柱12aを介した共有結合の連結を遮断することにより、シリコン薄膜10のシリコン基板32からの剥離を容易にすることを狙いとしている。
【0094】
第3実施形態で用いられる酸化膜は、例えば第2実施形態で述べた自然酸化膜や低温堆積酸化膜を用いることができるが、化学量論的に酸素リッチな酸化膜は上記反応で酸素分圧を上げるなどの方法により形成することができる。
【0095】
図9に第3実施形態に係るシリコン薄膜の製造方法の初期工程、図10に第3実施形態に係るシリコン薄膜の製造方法の選択成長工程、図11に第3実施形態に係るシリコン薄膜の製造方法の薄膜形成工程を示す。
【0096】
図9に示すように、不活性層38には自然酸化膜または低温堆積酸化膜で構成するが、化学組成が化学量論的に酸素リッチな酸化膜で不活性層38を形成してシリコン基板32の露出面34と不活性層38による不活性面36を形成する。そして原料ガス28を供給することにより露出面34にシリコン柱12aが成長するとともに、シリコン柱12aは不活性層38に接触した状態となっているため、シリコン柱12aの外周から不活性層38中の酸素が供給されシリコン柱12aの外周から酸化が進行することになる。
【0097】
よって、図10に示すように横方向に成長が伸びて来るにしたがって露出面34に成長したシリコン柱12aの側面は酸素リッチな不活性層38から酸化を受け始め、シリコン柱12aの外周は酸化膜12dに変質しシリコン柱12aは細くなる。このとき不活性層38から供給された酸素はシリコン柱12a中に拡散することになるが、拡散フロント、すなわち酸素が既に拡散し酸化物に変化した領域と未だ酸素が拡散していない領域の境界は放物線(放物面)を形成する。
【0098】
やがて、選択成長中および続いて熱処理を施す間に、酸素リッチな不活性層38で囲まれたシリコン柱12aはさらに横から酸化されてシリコン柱12aが酸化されて形成された酸化膜12dは露出面34を覆うように成長し(図10)、シリコン柱12aの直径は酸化によりさらに細くなりやがてシリコン柱12aは全部酸化されて露出面34上に酸化膜12dが形成される(図11)。なお、図10、図11に示すように、第3実施形態においても、不活性層38上に上述の横方向成長段階で出現する約45度に傾斜した成長面46により形成され断面が二等辺三角形となる谷部48が形成される。
【0099】
この状態になれば、シリコン基板32とシリコン薄膜10に挟まれた部分は全面酸化膜12dが形成される(連なる)ことになる。このとき、不活性層38とシリコン柱12aが酸化して形成された酸化膜12dはシリコン基板32全面に連なることになる。この場合、シリコン柱12aは全部酸化されているので、剥離は自然酸化膜、または/および、低温堆積酸化膜を機械的に剥がす必要がなくなり、図6のようにフッ酸のスプレーを使えば剥離に外力は不要となりシリコン薄膜10はシリコン基板32から分離される。
【0100】
上述の工程は、化学量論的に酸素リッチな絶縁酸化膜がシリコン柱12aを酸化するに十分酸素を提供すればこれは可能となる。一つの方法としては前述のように、モノシランガスに酸素ガスを混合し低温堆積酸化膜をシリコン基板32の表面に堆積させる方法で混合ガスに酸素ガスを余分に追加する方法で可能である。またアンモニア液にシリコンを溶解して作成したSi(OH)4を基板表面にスピン乾燥した酸化膜も用いることができる。
【0101】
シリコン表面自体の酸化には、ウエット酸化法、ドライ酸化法が一般的に使われている。ドライ酸化法による酸化膜の成長速度はウエット酸化法よりも遅いが、完全な酸化膜が得られるのでIC産業ではこの方法が多く使われる。本実施形態のシリコン柱12aの酸化はドライ酸化でかつ固体間接触酸化である。したがって酸化速度はウエット法より遅い事を見込む必要がある。
【0102】
非特許文献5により、シリコンにドライ酸化で且つ厚い酸化膜成長を施した場合のシリコン柱12aに形成される酸化膜の厚みをケース別に算出した。
【0103】
図14に、不活性層の幅を複数設定し、横方向成長が完了するまで成長させた場合(図5参照)のシリコン柱に形成される酸化膜の厚みを示す。図14においては、シリコン基板32の露出面34上にシリコン柱12aをエピタキシャル成長させ、不活性層38(酸素リッチな酸化膜)上にシリコン結晶12を横方向成長させて不活性層38上をシリコン結晶12で覆うまでの時間と、そのときにシリコン柱の側面に形成される酸化膜の厚みについてケース別に計算している。
【0104】
図14に示すようにケース1は不活性層38の幅(一辺の長さ)を10μmとし、ケース2は不活性層38の幅(一辺の長さ)を1μmとした。そしてケース1、ケース2ともにエピタキシャル成長温度及び成長速度を、それぞれ1000℃、0.3μm/minとすると、シリコン柱12aの側面に形成される酸化膜の成長速度は2.5μm/minとなる。
【0105】
図14に示すように、ケース1の場合、不活性層38の幅(一辺の長さ)は10μmであるので、その対角線長は、14.14μmとなり、よって横方向成長の最短必要距離は7.2μmとなる。したがって、シリコン結晶12が横方向成長により不活性層38を覆うのに必要な時間は(7.2μm/(0.3μm/min))で24分となる。一方、この24分間においてシリコン結晶12形成される酸化膜の厚みは(24min×2.5μm/min)で60nmとなる。
【0106】
次にケース2の場合、不活性層38の幅(一辺の長さ)は1μmであるので、その対角線長は、1.4μmとなり、よって横方向成長の最短必要距離は0.7μmとなる。したがって、シリコン結晶12が横方向成長により不活性層38を覆うのに必要な時間は(0.7μm/(0.3μm/min))で2.4分となる。一方、この2.4分間においてシリコン結晶12形成される酸化膜の厚みは(2.4min×2.5μm/min)で6nmとなる。
【0107】
図15は、成長速度、及び形成するシリコン薄膜の厚みを複数設定し、横方向成長後にシリコン薄膜が所定の厚みまで成長させる場合(図6、図11参照)のシリコン柱に形成された酸化膜の厚みを示す。ケース3は、成長温度を1200℃、成長速度を1.5μm/minとし、シリコン薄膜の厚みが30μmとなるまで成長したものである。よって成長時間は(30μm/(1.5μm/min))で20分となる。ケース4は、成長温度を1200℃、成長速度を3μm/minとし、シリコン薄膜10の厚みが30μmとなるまで成長したものである。よって成長時間は(30μm/(3μm/min))で10分となる。ケース5は、成長温度を1200℃、成長速度を1.5μm/minとし、シリコン薄膜10の厚みが20μmとなるまで成長したものである。よって成長時間は(20μm/(1.5μm/min))で13.3分となる。ケース6は、成長温度を1200℃、成長速度を1.5μm/minとし、シリコン薄膜10の厚みが40μmとなるまで成長したものである。よって成長時間は(30μm/(3μm/min))で26.7分となる。
【0108】
次にシリコン柱12aの側面に形成される酸化膜の厚みは、ケース3乃至ケース6の成長時間に対応してそれぞれ計算する。各ケースは同一温度(1200℃)であり、このとき放物線速度定数は0.062μm2/h(O2、760Torr)である。よって、ケース3の場合、酸化膜の厚みは(0.062×20/60)1/2を計算して0.1437μm≒144nmとなる(図15中の数式参照)。同様にケース4の酸化膜の厚みは(0.062×10/60)1/2を計算して0.1017μm≒102nmとなリ、ケース5の酸化膜の厚みは(0.062×13.3/60)1/2を計算して0.117μm=117nmとなる。さらにケース6の酸化膜の厚みは(0.062×26.7/60)1/2を計算して0.166μm=166nmとなる。
【0109】
よって、例えばケース1とケース3との組み合わせ、即ち、不活性層38の幅を10μmとし、成長温度を1000℃とした状態で、シリコン基板32上の露出面34にシリコン柱12a及びシリコン結晶12を成長し、シリコン結晶12を不活性層38を覆うまで横方向に成長させ(選択成長工程)、その後シリコン薄膜10の厚みが30μmまで成長(薄膜成長工程)させた場合、シリコン柱12aに形成される酸化膜の厚みは(60nm+144nm)で204nmとなる。よってこの場合、エピタキシャル成長中にシリコン柱12aを完全に酸化させ、シリコン薄膜10の剥離に外力を用いずフッ酸による酸化膜の溶解でシリコン薄膜10を得るには、シリコン柱12aの幅(一辺の長さ)、すなわち露出面34の幅(一辺の長さ)を400nm(計算結果は408nm=204nm×2)以下に設定すればよいことがわかる。
【0110】
また、例えばケース2とケース4との組み合わせ、即ち不活性層38の幅(一辺の長さ)を1μmとし、薄膜成長段階で成長速度を3μm/minとした場合、シリコン柱12aに形成される酸化膜の厚みは(6nm+102nm)で108nmとなる。よってこの場合、エピタキシャル成長中にシリコン柱12aを完全に酸化させ、シリコン薄膜10の剥離に外力を用いずフッ酸による酸化膜の溶解でシリコン薄膜10を得るには、シリコン柱12aの幅(一辺の長さ)、すなわち露出面34の幅(一辺の長さ)を216nm(=108nm×2)以下に設定すればよいことがわかる。同様にケース2とケース3の組み合わせの場合は、シリコン柱12aの幅(一辺の長さ)、すなわち露出面34の幅を300nm(=(6nm+144nm)×2)以下に設定すればよいことがわかる。
【0111】
ここでシリコン薄膜を太陽電池として用いる場合はケース4、ケース5のように30μm程度の厚さが必要とされるが、本実施形態においてはこれに限定されず、さらに広い応用を考えて、ケース5のように、それ以下の厚みの薄膜を必要とする場合がある。そこで上述同様にケース1とケース5の組み合わせた場合、シリコン柱12aの幅(一辺の長さ)、すなわち露出面34の幅を354nm(=(6nm+144nm)×2)以下に設定すればよいことがわかる。なおケース5のようにシリコン薄膜10の膜厚を薄く設定すると、それに比例してシリコン柱12aの酸化時間も短くなるので、シリコン柱12aの幅(一辺の長さ)、すなわち露出面34の幅(一辺の長さ)をその分小さな値に設定する必要がある。
【0112】
さらにシリコン薄膜10の厚みが上述の30μmを超え、ケース6のように40μmの厚みに成長させる場合における酸化膜の厚み(露出面34の幅)を考慮する必要がある。例えばケース1とケース6との組み合わせを考えると、シリコン柱12aの幅(一辺の長さ)、すなわち露出面34の幅を450(計算結果は452nm=(60nm+166nm)×2)以下に設定すればよいことがわかる。
【0113】
なお、シリコン柱12aの酸化現象を非特許文献5のいわゆる「Deal−Groveモデル」を用いて算出した。また成長速度の算出には、選択成長時には直線速度定数を薄膜成長時には放物線速度定数を採用し横方向成長が始まるまでのシリコン柱12aの成長中のシリコン柱12aの側面の酸化膜成長は計算から除外した。
【0114】
このモデルはシリコン表面に酸素原子(ドライ酸素)が十分供給された場合の算出方法である。本実施形態においては、シリコン柱12aの側面の固体同士の接触で酸素リッチな不活性層38から酸素原子が十分供給される場合に成り立つことになるので、上記算出されたシリコン柱12aの酸化速度は最大値と判断される。よって、シリコン柱12aの酸化が不十分となる場合は、エピタキシャル成長後の追加の熱処理の時間を適宜延長する、もしくはシリコン柱12aの幅を予め細く設定することにより、シリコン柱12aの酸化を達成させればよい。
【0115】
また、本実施形態のように横方向成長したシリコン結晶12は不活性層38に接触しているので、不活性層38はシリコン柱12aのみならず、シリコン薄膜10の不活性層38に接する表面を酸化させることになるが、剥離時のフッ酸によるエッチングにより除去することができる。
【0116】
もし、シリコン柱12aの幅、即ちWaを0.01μmにすれば、化学量論的に酸素リッチな不活性層38(酸化膜)は、シリコン柱12aを追加の熱処理を施さなくても、エピタキシャル成長中の間だけでシリコン柱12aは酸化される。よってフッ酸液への浸漬や、フッ酸液のスプレー掛け等の採用で、剥離するための大きな外力を必要とせずに、シリコン薄膜をシリコン基板から剥離することによりシリコン薄膜を得ることができ、上述のように厚みバラつきの小さい(1.7%)、外力に頼らない高品質なシリコン薄膜の製造(マルチシードエピタキシャル成長による)を行なうことができる。なお、もっと幅の広いシリコン柱を提案する特許文献6、7では上述のナノシリコンが形成されないため成長後のシリコン薄膜の基板から剥離することは困難であり、またシリコン柱を酸化させるには追加の熱処理を多く必要とするため実用上困難となる。
【0117】
なおシリコン柱12aの酸化の進行速度(1時間当たり0.1μm程度)は、シリコン柱12aの成長速度(1時間当たり30μm程度)より十分遅いと考えられる。よってシリコン柱12aが不活性面36の高さまで成長する前にシリコン柱12aが内部まで全て酸化されることはなく、横方向成長を行なうためのシリコン柱12aの最先端部においては、その側面においてわずかに進行するのみであるので、シリコン結晶12の横方向成長が阻害される事態が生じることはないと考えられる。
【0118】
もちろん、第3実施形態においては、シリコン薄膜10の形成後にシリコン柱12aを完全に消失させなくてもよい。本実施形態においては、成長時に露出面34全体からシリコン基板32の結晶構造を十分に引きついだシリコン柱12aを形成し、このシリコン柱12aを核として高品質なシリコン薄膜10を形成することができるとともに、シリコン薄膜10の形成時にシリコン柱12aを酸化させて細くしてもナノシリコンとしての特性を有する点に相違はないため、シリコン柱12aの伸展性を阻害することなくシリコン柱12aの破壊強度を低下させ、シリコン薄膜10の剥離を小さな外力で容易に行うことができる。
【0119】
図12に剥離後の第3実施形態のシリコン薄膜を示す。第3実施形態において形成されるシリコン薄膜10は、シリコン結晶12により形成され、その主面に凸部12bが複数配列された態様で形成されたシリコン薄膜であって、前記凸部12bは、その幅が0.001μmから1μmであって、前記凸部12bの先端12cには、前記シリコン結晶12を引き裂く態様で形成された剥離痕、及び前記凸部12bの先端12cに形成されたシリコン酸化膜をエッチングにより除去した態様で形成されたエッチング痕を有するものとなっている。また前記シリコン薄膜の厚みが30μm、前記凸部の幅が0.4μm以下(上述の計算結果によれば0.408μm以下)とした場合には、前記凸部12bの先端に12cは前記エッチング痕を有するものとなっている。
【0120】
シリコン柱12aをシリコン薄膜10の成長に合わせて酸化させた場合、酸化済みのシリコン柱12aはフッ酸等によりエッチングされるため、凸部12bの先端12cにはエッチング痕(シリコン薄膜10とシリコン柱12aが酸化した柱との界面の凹凸形状)が形成されることになる。なおシリコン柱12aの酸化が完全に行なわれない場合は、酸化はシリコン柱の外側から進行するため、先端12cの周縁にエッチング痕が形成され、その内側に剥離痕が形成されることになる。
【0121】
第4実施形態として、シリコン薄膜を形成するシリコン薄膜の製造工程において基板の表面が曲面形状をなしたシリコン基板(不図示)上に薄膜を成長させることもできる。自動車の屋根等、機能表面を利用して太陽電池を設置するにはその表面形状に従った形状の太陽電池が必要になる。シート状に形成されたアモルファスSiや微結晶Si太陽電池は曲面形状を形成できるが、一般的にはシート状で2次曲面にとどまる。またこの太陽電池はアモルファス、または多結晶からなり単結晶は成長しない。この実施形態では基板表面にあらかじめ3次曲面を形成して薄膜を成長することにより、3次元の単結晶薄膜の製作が可能となる。基板作成には工夫とコストを要するが、基板は繰り返し使用が可能であるので工業的大量生産が可能である。
【0122】
第5実施形態として、不活性層38を形成する材料にP型またはN型のドーパントをドープすることができる。シリコン薄膜10を形成するシリコン薄膜10の製造工程において、シリコン薄膜10の不活性面と接する面がP型またはN型に成長するように、シリコン基板32上に形成する不活性層38にP型またはN型のドーパントをあらかじめ混入した不活性層38を形成した上でシリコン薄膜を形成する。不活性層38を低温堆積酸化膜により形成する場合、不活性層38にP型またはN型の不純物を混ぜるにはモノシランガスにそれぞれ適量のホスフィンまたはボランガスを混入して不活性層38を作成することができる。
【0123】
この方法により、シリコン薄膜10の不活性面36と接する面はシリコン薄膜10の成長と同時に、固体拡散により、P型またはN型の表面が形成され、それをPN接合もしくは表面抵抗を低くした電極層として利用することができる。よって電極層を単独で形成する工程を不要としてコストを抑制することができる。
【0124】
第6実施形態として、シリコン薄膜の製造工程において、原料ガス28には、P型またはN型のドーパントをドープするとともに、シリコン薄膜10の製造途中でP型またはN型のドーパントを交互に切り替えてドープすることにより、シリコン薄膜10の厚み方向にPN接合を形成することが出来る。P型のドーパントとしてはホウ素(B)等、N型のドーパントとしてリン(P)等がある。製造工程としては、最初にP型またはN型のいずれかのドーパントを含有させた原料ガス28を、露出面34及び不活性面36のパターニングが施されたシリコン基板32に供給し、シリコン結晶12の不活性面36上での横方向成長が終了して不活性面36上で所定の厚みに達する時間に、ドーパントを切り替えて一定の厚みになるまで原料ガス28を供給すればよい。
【0125】
第7実施形態として、シリコン基板32の周縁領域の少なくとも一辺(全周でもよい)において不活性面36の露出面34に対する面積比を前記シリコン基板32の中央領域に比べて大きくすることも好適である。すなわち上述の一辺において不活性面36の面積(Wbに比例)と露出面34の面積(Waに比例)の比Wb/Waをより大きく設定することも好適である。これにより、シリコン薄膜10の前記一辺に対向する位置において、シリコン基板32と結合する面積の割合が小さくなるため、前記位置にあるシリコン基板32の一辺は剥がしやすくなり、その一辺を剥がし代とすることができ、剥がし代を基点としてシリコン薄膜10全体をシリコン基板32から容易に剥離して、シリコン薄膜10の歩留を高めることができる。
【0126】
図13に第8実施形態に係るシリコン薄膜の製造方法の模式図を示す。第8実施形態として、成長後のシリコン薄膜10上に上述の不活性面42と前記シリコン薄膜10が露出する露出面40とを新たに形成し、前記シリコン薄膜10上に新たなシリコン薄膜44を形成することもできる。このときシリコン薄膜10上に形成される露出面40は、シリコン基板32上に形成された露出面34と平面視して重なる位置に形成することが望ましい。シリコン薄膜10において、露出面34上に形成される領域が最も厚く形成されるとともに、最も厚み方向のバラつきが小さくなると考えられるため、シリコン薄膜10上に形成される新たなシリコン薄膜44の厚み方向のバラつきを小さくすることができると考えられる。また、新たなシリコン薄膜44上にもさらなる不活性面、露出面を形成してシリコン薄膜を多段に形成することができる。剥離する際は最上段のシリコン薄膜から一枚ずつ剥離すればよい。このような方法により、一枚のシリコン基板32から多層構造のシリコン薄膜を形成することができ、シリコン薄膜の量産化が可能となる。なお、2段目以降の不活性面を形成しやすくするため、不活性面の幅を小さくして、横方向成長により形成される谷部48(図8参照)の深さを小さくすることが好ましい。
【0127】
なお、第4実施形態乃至第8実施形態は、第1実施形態乃至第3実施形態にそれぞれ重複して適用することができる。また、第2実施形態のようにフッ酸のスプレーによるエッチングが必須でない場合は、使用に供した各種酸化膜はシリコン薄膜10及びシリコン基板32に付着した状態となる。しかし、シリコン薄膜10に付着した酸化膜はエッチングにより容易に除去可能である。一方、シリコン基板32に付着したままの酸化膜(不活性層38)はシリコン基板32の表面のシリコン薄膜10を剥離した部分に形成された凹凸(剥離前に凸部12bの先端12cと接合していた部分)を研磨するときに共に除去される。従っていずれの実施形態においてもシリコン基板32は再度利用することができる。これは不活性層38としてシリコン窒化膜を形成した場合でも同様である。また、第1実施形態乃至第8実施形態により形成されたシリコン薄膜10の両面に電極を形成することによりシリコン薄膜太陽電池が形成できることは言うまでもない。
【0128】
[実施例]
次に本発明のより具体的な実施例について説明する。
[実施結果]
トリクロロシランガス(0.3mol%)を使って5インチシリコン基板にシリコン薄膜をエピタキシャル成長させた。シリコン基板は半導体ICで使われる鏡面仕上げのウエーハである。ただしきちんとした包装をしてあったが約3か月程度(洗浄日から)経過したものだった。
【0129】
シリコン基板上についた自然酸化膜を還元除去するために水素雰囲気中で摂氏1200度で1分間処理したのち摂氏1150度で20分間エピタキシャル成長させた。出来上がったシリコンエピタキシャルは、洗浄液で洗浄したところ、3分の2は通常のエピタキシャルウエーハであったが3分の1の面積は鏡面ウエーハから剥れて、カール状になっていた。不活性層領域は偶然できた物であったが、トリクロロシランガスの不均一分解反応の発生に適したシリコンの表面が現れ20ミクロンのシリコン単結晶フィルムが出来上がった。3分の2の領域は不活性層の形成が不十分で通常のエピタキシャルウエーハ(フィルム状剥離は起こらない)に成長した。出来た薄膜状シリコンはカール状になり何も特別に力を加えなくても簡単に剥離した。
【0130】
[実施結果の評価]
シリコン表面は洗浄後短時間で全体に薄い自然酸化膜で覆われる。エピタキシャル成長前処理として通常水素が表面の薄い自然酸化膜または有機物を分解してそののちに続けてトリクロロシランガスによるシリコン成長がなされる。今回の剥離現象はその前段階の処理は完全になされなく、したがって自然酸化膜が部分的にかつ細かく交互に残っていたために、その上に横方向成長時間に酸化膜は細かなシリコン柱の側面を酸化させ剥離現象が発生したのである。酸化膜は自然酸化膜からの固体間接触によりシリコン柱は酸化され、結果としてシリコン薄膜の下は全面シリコン酸化膜となったと推定される。これを工業的に効果的に行うには前述の様にシリコンのエピタキシャル成長に対する活性面となる露出面と不活性面の作成を工夫する必要があり今回本特許提案となったのである。
【0131】
活性層(露出面)と不活性層(非露出面)の作成の方法についてはこれからもっと研究の余地があり両者を交互に形成する方法を研究しそれをエピタキシャル装置に入れてトリクロロシランや四塩化ケイ素等のような表面化学反応が強いガスを利用することにより、確実に工業的にシリコンフィルムの作成が可能である。成長の初期すなわちシリコン表面の活性層には成長が始まり不活性層領域には成長が抑えられている比較的成長温度の低い段階では成長速度は低いが、産業上これを克服するには、シリコン上の活性層、不活性層の形成が前述のごとく原子的に細かい形成方法が開発されれば解決され、さらに大面積の薄膜が可能となる。
【0132】
成長ガスに関しては、表面化学反応を積極的に利用する立場から、シランガス(例えばトリクロロシランガス)に、前述のように塩化水素(HCl)ガスを一定の割合で混合させ表面化学反応を促進させることが一般的であるが、今回は塩化水素ガスの添加を行なっていなかった。今後シリコン薄膜の剥離に最適な選択エピタキシャル成長の条件を得るには更なる研究が必要である。
【0133】
いずれにしても、成長ガスの気相分解反応を抑え、表面化学反応を積極的に利用するところが本発明の要である。選択成長現象は公知とはいえ、しかしながら現在の技術過程では該ガスの熱化学的な反応技術は未発達である(例えば前記非特許文献2)。本発明で薄膜結晶シリコンを良質で且つ効率的に作るには、この反応の基礎的な研究の推進も待たれるところである。
【0134】
薄膜成長に供されたシリコン基板は、原理上何回でも繰り返し使用が可能である。また現在のシリコンのワイヤソーによる切断時の切削粉の発生もなく産業上の廃棄物の削減に大いに効果がある。
【0135】
なお、本実施形態では、不活性面36(不活性層38)として熱酸化膜、自然酸化膜、および堆積酸化膜を適用したが、原料ガス28による結晶成長に対して不活性な材料であればよい、例えば窒化膜等を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明では、シリコン太陽電池等に供される薄膜状のシリコン等の半導体を大面積かつ効率よく作成するに好適な製造方法として利用できる。また本発明はシリコン以外の化合物を用いた薄膜状化合物太陽電池の製造方法としても利用できる。さらに不活性層(不活性面)に開口部を細かく開けるなどWa、Wbの寸法を工夫することにより、また、自然酸化膜や堆積酸化膜の化学量論的に酸素リッチな酸化膜を適用するなどの工夫で厚みバラつきの少ないかつ剥離力が不要な薄膜の製作が可能となる。したがって、本発明は太陽電池に限定されることはなく、平坦度の高い半導体薄膜材料、半導体材料の製造方法として利用できる。
【符号の説明】
【0137】
10………シリコン薄膜、12………シリコン結晶、12a………シリコン柱、12b………凸部、12c………先端、12d………酸化膜、18………エピタキシャル成長炉、20………原料ガス入口、22………原料ガス出口、24………設置台、26………ヒーター、28………原料ガス、32………シリコン基板、34………露出面、36………不活性面、38………不活性層、40………露出面、42………不活性面、44………シリコン薄膜、46………成長面、48………谷部。
【技術分野】
【0001】
この発明は、薄膜状のシリコンを製造する方法に関し、特に薄膜成長後に基板から剥離して薄膜単体で使用可能なシリコン薄膜、シリコン薄膜太陽電池、及びその製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電を行う場合には半導体であるシリコンが使われることが多い。シリコンは太陽光発電効率が高いことが期待されていることに加えて、シリコン元素は、地球上に豊富に存在して資源の枯渇の心配がないため産業上の発展が期待されているからである。シリコンを用いた太陽電池は、理論的には25%の変換効率が期待され、現在約20パーセントの変換効率が達成されている。
【0003】
このような光効率を得るための太陽光発電用のシリコンウエーハは、CZ法等により形成されたシリコンの単結晶、または鋳型で溶解後凝固させた多結晶のインゴットを、180ミクロン程度の厚さに切断し、切断面を研磨することにより得られる。ここでシリコンのインゴットを切断するためには、ワイヤソーが多く用いられている。そのため、一枚のシリコンウエーハを製造するにはそのための切り代が発生し、その切り代を考慮すると一枚のシリコンウエーハを製造するために約360ミクロンの厚みを必要としていた。
【0004】
ところで、太陽電池に用いるシリコンウエーハは原理上30ミクロン程度の厚みで所望の発電能力を発揮できるが、上述の方法に従うと、切断時のウエーハの機械的強度を確保するため、必要とする厚み以上の厚みを有するシリコンウエーハを形成する必要があり、さらにそれを切断するための切り代も必要とする。このためシリコン原料の大部分が無駄となり、太陽光発電のコスト低減の大きな負担となっていた。
【0005】
このような問題を解決するため、エピタキシャル成長によりシリコン薄膜を形成する技術を用い(特許文献1、特許文献2、特許文献6、特許文献7、特許文献8、非特許文献1、非特許文献2参照)、これによって得られた薄膜状シリコンを太陽電池材料として用いることが提案されている。このとき、シリコン薄膜はシリコン基板上に形成するが、形成後に剥離する作業が必要となる。
【0006】
特許文献3においてはシリコン基板上にシリコン薄膜をエピタキシャル成長させ、成長後に基板に応力を与えることで、シリコン薄膜を基板から剥離させる技術が開示されている。しかし、この技術によればシリコン薄膜にも応力を与えることになるので、応力がシリコン薄膜の特定の場所に集中しやすく、その集中箇所にクラックまたは破断を発生させる虞があり、大面積のシリコン薄膜を形成するには不向きである。
【0007】
そこで特許文献4に示すようなサファイア基板上に窒化ガリウムを選択成長する技術をシリコンに適用し、シリコン基板とシリコン薄膜の接合面積を減らしてシリコン薄膜に掛かる剥離時の応力を抑制し、機械的な剥離を容易にする技術が想定される。
【0008】
特許文献5には、シリコン基板上にシリコン酸化膜を選択的に形成し、シリコン基板の露出した領域にシリコン単結晶を成長させ、シリコン酸化膜上でシリコン単結晶を横方向成長させ、シリコン酸化膜上をシリコン単結晶の薄膜を覆うことによりシリコン基板にシリコン薄膜を形成する技術が開示されている。
【0009】
特許文献6には、シリコン基板上にシリコン酸化膜を選択的に形成し、シリコン基板の露出した領域にシリコン単結晶を成長させ、シリコン酸化膜上でシリコン単結晶を横方向成長させ、シリコン単結晶の薄膜を覆うことによりシリコン基板にシリコン薄膜を形成する技術が開示されている。特許文献6では絶縁膜であるシリコン酸化膜と成長後のシリコン薄膜との分離を目的としている。まず、シリコン基板上に絶縁膜としてシリコン酸化膜を熱酸化で形成し、続いて粒子径1μmのシリカ粉末を混合したフォトレジスト剤をシリコン基板上に塗布した後、通常のフォトリソグラフ技術を用いて、シリコン基板にスリット状の露出部分を設けている。そしてシリコン基板をアセトンで洗浄することによりフォトレジストを粉末の粒子中から除去した後にシリコン酸化膜の上にはシリカ粉末を残し、そのあとに選択成長法によりシリコン基板上にシリコン薄膜を形成している。このシリカ粉末がシリコン基板と成長後のシリコン薄膜との接着力を弱めてシリコン酸化膜との剥離を可能にするとしている。
【0010】
また特許文献7にも同方法によってシリコン単結晶上に薄膜を覆うことによりシリコン基板上にシリコン薄膜を形成する技術が開示されている。特許文献7では、基板上に形成した熱酸化膜が成長後のシリコン薄膜との接着を回避するために、選択成長法によるシリコン薄膜の成長が全面を覆う前にエピタキシャル成長を停止して、熱酸化膜上に非成長穴を意図的に残し、その後にフッ酸をそこに注入してシリコン薄膜の剥離前に熱酸化膜を除去することにより熱酸化膜とシリコン薄膜との接着を回避してシリコン薄膜を剥離する方法を提案している。
【0011】
さらに特許文献8には基板に同方法によって薄膜形成するが、基板と形成薄膜の材質は別材料を選択して基板上に薄膜を形成し、基板と成長薄膜を異なった物質で構成させて両物質の持つ熱膨張係数の差異を利用して、冷却中の温度差で発生する熱応力を利用して剥離をする方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3007971号公報
【特許文献2】国際公開番号WO2005/069356号公報
【特許文献3】特開2002−217438号公報
【特許文献4】特開2004−55799号公報
【特許文献5】米国特許PN4578142号公報
【特許文献6】特開平6−20945号公報
【特許文献7】特開平4−199749号公報
【特許文献8】特表2009−505938号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】応用物理Vol.76No.6、619,2007「シリコン系太陽電池の現状と展望」近藤道雄著、独立行政法人産業技術総合研究所太陽光発電研究センター
【非特許文献2】「MOSデバイスエピタキシャルウエーハ第2章第1節:エピタキシャル成長技術」株式会社リアライズ社
【非特許文献3】NANO LETTERS, 2006. Vol.6,No.4,622-625 Samuel Hoffmann et,al; Measurement of the Bending Strength of Vapor-Liquid-Solid Grown Silicon Nanowires.
【非特許文献4】Namazu,T.et,al;Microelectromech.Syst.2000,.9,450 Evaluation of Size Effect on Mechanical Properties of Single Crystal Silicon by Nanoscale Bending Test Using AFM
【非特許文献5】B.E.Deal and A.S.Grove. J.Appl.Phys. 36(1965) 3770-3776
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、特許文献5においてはシリコン薄膜の材料として、モノシラン(SiH4)、ジクロロシラン(SiH2Cl2)等、気相反応性の高いガスを用いており、このため多結晶化を防止するHClガスを用いている。特許文献5に係るシリコン基板にシリコン薄膜が形成されたシリコンウエーハは、ICや個別半導体に使われるものであるから、シリコン薄膜のみならず酸化膜自体も使われる為、シリコン酸化膜のシリコン基板からの剥離は忌避される。その上で酸化膜の物性としては、電気的絶縁性と熱的伝導性が要求される。
【0015】
そのため特許文献5に用いられるシリコン酸化膜は電気的絶縁性と熱的伝導性の物性が付与された上に、剥離を忌避するために高温度領域を選択して成膜された熱酸化膜である。これはシリコン基板と強固に結合を図ったものであるため、結果的にシリコン薄膜をシリコン基板から剥離することが困難となっている。
【0016】
一方、特許文献6、特許文献7、特許文献8の方法によれば、シリコン薄膜のシリコン基板からの剥離は原理的には可能になると思われる。しかし特許文献6、特許文献7においては剥離に際してシリコン薄膜にサポート用の基板を貼り付け、シリコン薄膜をシリコン基板から一気に剥離させる必要がある。よって剥離の工程が複雑になるだけでなく、剥離の際に大きな外力を必要とするとともに外力を全面に且つ均一に掛ける必要があり、コストがかかるとともに大面積のシリコン薄膜の剥離は困難となる。
【0017】
また特許文献6、特許文献7においては、剥離に必要な大きな外力をなるべく小さくする対策として絶縁層の幅を大きくとり、シリコン基板に直接成長するシリコン結晶のピッチを粗くする方法を採用している(実施例では、両特許文献ともそれぞれ50ミクロン)が、そのために必然的に成長薄膜の厚さのバラつきが大きくなるという問題がある。
【0018】
さらに、特許文献6においては、単結晶成長を目的とするシリコン薄膜にシリカが混入する虞があり、シリコン薄膜製造の歩留が低下するという問題がある。また特許文献7においては成長後のシリコン薄膜にフッ酸を導入するための非成長穴が残る。このため、例えばシリコン薄膜を太陽電池の材料として用いる場合には両面に電極を形成するが、両面の電極の短絡を回避するため非成長穴を埋める工程が必要となりコストがかかるという問題がある。
【0019】
また特許文献8は基板と薄膜との熱膨張係数の違いにより薄膜を基板から剥離させるので、温度変化に伴う熱応力により薄膜にクラックが発生する虞があり、特に大面積になるほど顕著に表れ、大面積の薄膜の剥離は困難である。
【0020】
そこで、本発明は上記問題点に着目し、最近の物性研究(非特許文献3、4)で明らかになったシリコンのナノ特性を用いて、シリコン基板上に成長したシリコン薄膜であって、大面積でありながらシリコン薄膜を破損させることなくシリコン基板から小さな力で剥離可能なシリコン薄膜の製造方法、前記シリコン薄膜を用いたシリコン薄膜太陽電池の製造方法、前記製造方法により製造されたシリコン薄膜及びシリコン薄膜太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するため、本発明に係るシリコン薄膜の製造方法は、第1には、シリコン基板上にシリコン結晶の原料ガスに対して前記シリコン結晶の成長が不活性な不活性層を選択的に形成することにより前記シリコン基板の露出面と前記不活性層による不活性面を形成し、前記原料ガスのうち前記シリコン基板における表面分解反応が支配的な性質を有する原料ガスを前記シリコン基板に供給して前記シリコン結晶を前記露出面から成長させ前記シリコン結晶が前記シリコン基板を覆う態様でシリコン薄膜を製造する方法であって、前記露出面の幅を0.001μmから1μmの範囲で形成することにより、前記シリコン薄膜を前記シリコン基板から剥離可能な状態で形成することを特徴とする。
【0022】
上記方法は、シリコン薄膜の静的順次剥離を可能にするため、シリコンのナノ特性による伸展性を発揮する0.001μmから1μmの幅で成長を促す露出面を施し、前記シリコン薄膜の成長の核となるとともに静的順次剥離を可能にするシリコン結晶を前記露出面に成長するものである。このナノ特性を有するシリコン結晶は一般的なバルクシリコンと機械的な特性が大きく異なり剥離のメカニズムが大きく異なる。すなわち、シリコン薄膜の端部から外力を加えることにより基板上に成長したシリコン薄膜を剥離すると、前記露出面であって最も端部側で成長しているナノ特性を有するナノシリコンは伸び始め、外力を増して行くと、そのナノシリコンはさらに伸び、同時に端部より内側に次段のワイヤも伸び始める、やがて最前線のワイヤが部分剥離に至る、そして次段のワイヤは最前線の位置に変わり、やがて部分剥離に至る。この繰り返しが続き基板全面に静的順次剥離が進む。この方法では剥離に当たって、最前線のナノシリコンと次段かせいぜい次々段のナノシリコンのごく限られたナノシリコンにのみに応力が集中することになる。したがって、端から順番に静的剥離が可能となるために大きな外力を必要とせず、大面積なシリコン薄膜を形成することができる。
【0023】
第2には、前記シリコン薄膜の剥離させる端部に前記不活性層をエッチングするエッチング剤を供給することを特徴とする。上記方法により、不活性面とシリコン薄膜との剥離の促進と及びシリコン薄膜に付着した不活性層の除去を同時に行うことができる。特に熱酸化膜のようにシリコン薄膜との接着強度が強くなる材料を不活性層として形成した場合に顕著な効果を有する。
【0024】
第3には、前記不活性層を、前記シリコン薄膜の破壊強度より低い破壊強度を有する材料により形成することを特徴とする。
不活性層にシリコン薄膜の破壊強度より低い破壊強度を有する材料、例えば自然酸化膜を用いると、自然酸化膜は原子同士の結合力が小さく破断しやすい。このためシリコン薄膜に損傷を与えることなく不活性層を破断させ、または不活性層とシリコン基板の界面または不活性層とシリコン薄膜との界面の破断させることができ、シリコン薄膜をシリコン基板から容易に剥離することが可能となる。
【0025】
第4には、前記不活性層を、酸化膜により形成するとともに、前記酸化膜を酸素リッチの状態で形成することを特徴とする。
上記方法により、露出面に成長したシリコン結晶には周囲から酸素が供給されることになるので、シリコン結晶の周囲は酸化されるとともに酸化された部分はもとのシリコン結晶との結合強度は小さくなる。よって酸化されずに残ったシリコン結晶の伸展性が向上し、剥離時の応力を小さくすることができる。さらに露出面に成長したシリコン結晶が周囲から供給される酸素により完全に酸化した場合、シリコン薄膜は酸化膜上に形成された形となるので容易に剥離することができる。
【0026】
第5には、前記シリコン薄膜の成長後、前記酸化膜及び前記シリコン薄膜に熱処理を行なうことを特徴とする。
上記方法により、露出面に成長したシリコン結晶の酸化を促進させ、シリコン薄膜の剥離を容易に行うことができる。
【0027】
第6には、前記露出面の幅を0.45μm以下に形成するとともに、前記シリコン薄膜の厚さを40μmまでのいずれかの厚さになるまで成長させることを特徴とする。
太陽電池に用いられるシリコン薄膜の厚みは30μm必要とされる。一方、本願発明者は露出面の幅を0.4μm以下とすることにより、シリコン薄膜の成長に合わせて露出面に形成されたシリコン結晶が酸化され、シリコン薄膜とシリコン基板との共有結合が切断されるとの知見を得た。同様にシリコン薄膜の厚みを40μmとした場合には、露出面の幅を0.45μm以下にすればシリコン柱はその中心軸まで酸化されるとの知見を得た。したがって、上述のように設定することにより、シリコン薄膜を外力を用いずに容易にシリコン基板から剥離することが可能となる。
【0028】
第7には、前記不活性層を形成する材料にP型またはN型のドーパントをドープすることを特徴とする。
上記方法により、シリコン薄膜の不活性層に接触する部分にドーパントがドープされ電極層を形成することができる。よって電極層を単独で形成する工程を不要としてコストを抑制することができる。
【0029】
第8には、前記シリコン基板を曲面形状に形成し、前記不活性面及び前記シリコン結晶を前記シリコン基板の曲面形状の表面に形成することを特徴とする。
上記方法により、実装先の形状に対応してシリコン薄膜を形成することができる。
【0030】
第9には、前記原料ガスにP型またはN型のドーパントをドープするとともに、前記シリコン薄膜の形成途中で前記ドーパントをP型またはN型に相互に切り替えることを特徴とする。
上記方法により、シリコン薄膜の厚み方向にPN接合を形成することができる。
【0031】
第10には、前記シリコン薄膜上に前記不活性面と前記シリコン薄膜が露出する前記露出面とを形成し、前記シリコン薄膜上に新たなシリコン薄膜を形成することを特徴とする。
上記方法により、一枚のシリコン基板から多層構造のシリコン薄膜を形成することができ、シリコン薄膜の量産化が可能となる。
【0032】
第11には、前記シリコン基板の周縁領域の少なくとも一辺において前記不活性面の前記露出面に対する面積比を前記シリコン基板の中央領域に比べて大きくしたことを特徴とする。
上記方法により、シリコン基板の周縁領域の少なくとも一辺において前記不活性面を支配的に形成することによりシリコン薄膜の周縁領域に剥がし代を形成することができる。よって剥がし代を基点としてシリコン薄膜をシリコン基板から容易に剥離して、シリコン薄膜の歩留を高めることができる。
【0033】
また、本発明に係るシリコン薄膜太陽電池の製造方法は、前記シリコン薄膜の両面に電極を形成することを特徴とする。上記方法により大面積な薄膜太陽電池をコストを抑制して製造することができる。
【0034】
一方、本発明に係るシリコン薄膜は、第1には、シリコン結晶により形成され、その主面に凸部が複数配列された態様で形成されたシリコン薄膜であって、前記凸部は、その幅が0.001μmから1μmであって、前記凸部の先端には前記シリコン結晶を引き裂く態様で形成された剥離痕、及び/もしくは、前記凸部の先端に形成されたシリコン酸化膜をエッチングにより除去した態様で形成されたエッチング痕を有することを特徴とする。
【0035】
上記構成において、凸部は上述のシリコン基板上に不活性面とともに形成された露出面にシリコン柱を形成することにより形成可能であり、シリコン薄膜は露出面に形成されたシリコン柱を核にしてシリコン結晶を横方向成長させることにより形成可能である。そして露出面に形成されたシリコン柱は、露出面の寸法を上述の寸法で形成することにより、露出面からナノシリコンとして形成されることになる。よってシリコン柱は、シリコン薄膜に応力を与えることにより伸長するとともにシリコン基板から剥離し、凸部の先端には剥離痕が形成されることになる。
【0036】
またシリコン薄膜をシリコン基板から剥離する場合、最前線のシリコン柱と次段かせいぜい次々段のシリコン柱のごく限られたシリコン柱にのみに応力が集中することになる。
【0037】
また上述のようにシリコン柱をシリコン薄膜の成長に合わせて酸化させた場合、酸化済みのシリコン柱はフッ酸等によりエッチングされるため、凸部の先端にはエッチング痕(シリコン薄膜と酸化済みのシリコン柱との界面の凹凸形状)が形成されることになる。
【0038】
したがって、いずれの場合においても、端から順番に静的剥離が可能となるために大きな外力を必要とせず、大面積に形成可能なシリコン薄膜となる。
【0039】
第2には、前記シリコン薄膜の厚みが40μm以下、前記凸部の幅が0.45μm以下であって、前記凸部の先端には前記エッチング痕を有することを特徴とする。
【0040】
太陽電池に用いられるシリコン薄膜の厚みは30μm必要とされる。一方、本願発明者は露出面の幅を0.4μm以下とすることにより、シリコン薄膜の成長に合わせて露出面に形成されたシリコン柱がその中心軸まで酸化され、シリコン薄膜とシリコン基板との共有結合が切断されるとの知見を得た。同様にシリコン薄膜の厚みを40μmとした場合には、露出面の幅を0.45μm以下にすればシリコン柱はその中心軸まで酸化されるとの知見を得た。これらの場合、シリコン柱は、その中心軸まで酸化されるので、上述の凸部の先端にはエッチング痕を有することになる。したがって、上述のように設定することにより、外力を用いずに容易にシリコン基板から剥離することが可能なシリコン薄膜となる。
【0041】
さらに、本発明に係るシリコン薄膜太陽電池は、前記シリコン薄膜の両面に電極を形成してなることを特徴とする。これにより、コストを抑制するとともに大面積な薄膜太陽電池となる。
【発明の効果】
【0042】
本発明に係るシリコン薄膜の製造方法、薄膜太陽電池の製造方法、およびシリコン薄膜によれば、ナノシリコンの伸展性を利用することにより、シリコン薄膜の一端から剥離が始まり、漸進的に剥離が全面に及ぶような静的順次剥離が可能となり、究極的には剥離に外力を必要としない剥離も可能となる。
【0043】
また本発明によれば上述のシリコン薄膜をシリコン基板から剥離して前記シリコン薄膜を形成することになるのでシリコン材料のロスを回避し、さらにシリコン薄膜の剥離後のシリコン基板は再利用可能であるので、コストを抑制したシリコン薄膜、およびシリコン薄膜に電極を形成した薄膜太陽電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】第1実施形態に係るシリコン薄膜をエピタキシャル成長により製造するための配置図である。
【図2】第1実施形態に係るシリコン薄膜を製造するためのシリコン基板の模式図である。
【図3】第1実施形態に係るシリコン結晶の成長段階(初期段階)の模式図である。
【図4】第1実施形態に係るシリコン結晶の成長段階(横方向成長段階初期)の模式図である。
【図5】第1実施形態に係るシリコン結晶の成長段階(横方向成長段階後期)の模式図である。
【図6】第1実施形態に係るシリコン結晶の成長段階(最終段階)の模式図である。
【図7】第1実施形態に係るシリコン薄膜をシリコン基板から剥離する様子の模式図である。
【図8】剥離後のシリコン薄膜の模式図を示す。
【図9】第3実施形態に係るシリコン薄膜の製造方法の初期工程の模式図である。
【図10】第3実施形態に係るシリコン薄膜の製造方法の選択成長工程の模式図である。
【図11】第3実施形態に係るシリコン薄膜の製造方法の薄膜形成工程の模式図である。
【図12】剥離後の第3実施形態のシリコン薄膜の模式図である。
【図13】第8実施形態に係るシリコン薄膜の製造方法の模式図である。
【図14】不活性層の幅を複数設定し、横方向成長が完了するまで成長させた場合のシリコン柱に形成される酸化膜の厚みを示す表である。
【図15】成長速度、及び形成するシリコン薄膜の厚みを複数設定し、横方向成長後にシリコン薄膜が所定の厚みまで成長させる場合のシリコン柱に形成された酸化膜の厚みを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0046】
本実施形態に係るシリコン薄膜をエピタキシャル成長により製造するための配置図を図1に示す。図1に示すように、真空チャンバであるエピタキシャル成長炉18の中に設置された設置台24の上にシリコン基板32を設置し、このシリコン基板32をエピタキシャル成長炉18の外側に設けたヒーター26により所望の温度に加熱する。エピタキシャル成長炉18の原料ガス入口20から原料ガス28を導入し、これをシリコン基板32の表面上で化学反応させ、シリコン結晶12をエピタキシャル成長させ、もってシリコン基板32上にシリコン結晶12によるシリコン薄膜10を成膜させる。そして余剰の原料ガス28はエピタキシャル成長炉18の原料ガス出口22から排出される。
【0047】
このような配置のもと、第1実施形態に係るシリコン薄膜10の製造方法は、シリコン基板32上にシリコン結晶12の原料ガス28に対して前記シリコン結晶12の成長が不活性な不活性層38を選択的に形成することにより前記シリコン基板32の露出面34と前記不活性層38による不活性面36を形成し、前記原料ガス28のうち前記シリコン基板32における表面分解反応が支配的な性質を有する原料ガス28を前記シリコン基板32に供給して前記シリコン結晶12を前記露出面34から成長させ前記シリコン結晶12が前記シリコン基板32を覆う態様でシリコン薄膜10を製造する方法であって、前記露出面34の幅を0.001μmから1μmの範囲で形成することにより、前記シリコン薄膜10を前記シリコン基板32から剥離可能な状態で形成するものである。本実施形態では、露出面34を上述の寸法に従って形成するので、露出面34上であって不活性層38により囲まれた領域にシリコン柱12a(ナノシリコン、図3参照)が形成される。
【0048】
本実施形態で用いられるナノシリコンの特性について説明する。シリコンの破壊強度(Breaking Strength in Compression)は4900〜5600Kgrs/cm2とされている。この値は圧縮の場合の数値であり、その上にナノシリコンの破壊強度が明らかにされる前のバルクシリコンの値である(文献不明)。
【0049】
最近の詳細な研究によると、ナノシリコンでは、シリコンの外形寸法をナノスケールに細くすると劇的に機械的性質が変化して驚異的に大きな曲げや伸びの特性が表れることが報告されている。非特許文献3によるとナノシリコンの曲げテストで、ベンデングに耐える力は12ギガパスカルであると報告している。同時に非特許文献3にはヤング率はバルクシリコンとナノシリコンで変化はない(186ギガパスカル)事を報告しているので、フックの法則に従い、ナノシリコンはバルクシリコン(上記バルクシリコン破壊強度に比して)より21〜24倍の大きな伸展性を示した後に破壊することになる。しかし、このことは破壊強度も同率で大きくなることを意味し、これによりシリコン基板からシリコン薄膜を剥離することが困難になるとも思われる。しかし、特許文献6、7のように補強板により薄膜を補強した上で全てのシリコン柱に応力を与えてシリコン薄膜を一度に剥離するのではなく、後述のようにシリコン柱12aの一本一本に順次応力を与えて伸長させたのち剥離し、次のシリコン柱12aを剥離する如く順次部分剥離が実現できるため、少ない力でシリコン薄膜10をシリコン基板32から剥離することができる。このようにナノシリコンの大きな伸展性が無ければ順次部分剥離は不可能である。
【0050】
非特許文献4は、シリコンの曲げ強度(Bending Strength)について研究し、200nmから800nmに及ぶ試料を用いて、シリコンの寸法が、ミリメーターからマイクロメーター、マイクロメーターからナノメーターに細くなるに従って物性が大きく変化することを数値で明らかにした。本実施形態で採用しているナノ特性を有するシリコン柱12aの幅(一辺の長さ)の範囲はこの文献に示されたナノ特性を有する範囲に限定して採用されたものである。
【0051】
すなわち、非特許文献4はシリコン結晶が破壊の起点(結晶の内部、表面、エッジ)を究明するために、Daviesによるthe risk of rupture theoryを引用して実験結果を整理して実効長さ1μm以下でナノ特性を確認している(非特許文献4、455ページ図10及び456ページ左欄下から18行目)。
【0052】
非特許文献4は、さらに2次元、3次元からも、シリコン結晶の破壊の起点について言及して、ナノ特性への変化を確認している。本実施形態では露出面34の幅、すなわちシリコン結晶の幅を0.001μmから1μmとしているが、2次元(露出面34及びシリコン柱12aの幅と奥行き、または一辺の長さ)、3次元(シリコン柱12aの幅と奥行きと長さ)の寸法を適宜選択することにより、静的順次剥離を可能にすることが、非特許文献4によるデータを基にして、確認できるのである。
【0053】
よって、本実施形態においては、露出面34の幅(または一辺)を1μm以下とすることで、露出面34を底面とし不活性層38の側面として囲まれた領域において、その領域を埋めるように形成され、露出面34と同一寸法の断面を有し、ナノシリコンとしての特性を有するシリコン柱12aを成長させている。
【0054】
ここで、30cmの矩形ウエーハ(シリコン基板)にWaを1μm、Wbを10μmと想定した本実施形態のシリコン薄膜を形成し、矩形ウエーハの周辺から剥離する場合を考える。すると、30cmの長さに、線状にシリコン基板と接合する一辺が1μmのシリコン柱(前線上の)が約3万個連なることになる。
【0055】
ここで、本願発明者は上述の破壊強度と上述の伸展性を考慮した場合、幅1μmのシリコン柱12aには一本当たり1.2gの力が剥離に必要になるとの知見を得ている。よって、一辺が30cmの薄膜をゆっくり剥離するのに必要な力は上述のシリコンの破壊強度の値を用いると約36kgとなり、この値は静的剥離に必要な値になる。実際は、後述の第2実施形態の場合のように、不活性層38からの剥離力などを考えると、この2倍程度の張力をシリコン薄膜10にかけることになるので、Waがこれ以上の値を有する場合、静的順序剥離は実用上難しくなる。ただし後述の第3実施形態において、シリコン柱12aが完全に酸化された場合、この考慮は不要である。
【0056】
よって、シリコンが1μm以下において示すナノ特性(非特許文献4)の利用と、本実施形態および後述の実施形態すべてを包含して、上記のよう大面積薄膜を剥離する際に必要な外力からWaの上限は1μmが適切であると考えられる。一方、Waが小さいほど剥離には有利ではあるが、Waが0.001μmのときはシリコン原子が数個露出する長さとなり、これ以下の露出面では正常なエピタキシャル成長を果たせなくなることが想定される。
【0057】
一方、シリコン基板32の全面に作られる露出面34と不活性面36のピッチWa、Wbはなるべく細かい方がシリコン結晶12を、不活性面36上を横方向に成長させる時間を短縮させるのに有効である。他方で、成膜したシリコン薄膜10の剥離を簡単にするには、露出面34と不活性面36との面積比率が影響する。露出面34に対して不活性面36の面積比を多くするとシリコン薄膜10の剥離を容易にすることが出来るが、不活性面36上でのシリコン結晶12の横方向の成長に多く時間がかかり経済的に不利である。
【0058】
露出面34(ピッチWa)に成長したシリコン柱12a(シリコン結晶12)は、不活性面36(ピッチWb)上において横方向成長して不活性面36において繋がることよりシリコン薄膜10が形成される。その際、露出面34上の膜厚より不活性面36上の膜厚は薄くなる。さらに不活性面36上で最終的に繋がった部分の膜厚はさらに薄くなることが想定される。本実施形態においてはシリコン薄膜10の膜厚を30μmとすることを想定しているが、例えばWaを1μm、Wbを10μmとすると、Waの部分が30μmの厚さに成長したとき、後述のように不活性層38(Wb)上の部分の膜厚の最低値は計算上25μm(バラつき17%)となる。この厚みのバラつき(17%)は大きく実用上限界と考える。
【0059】
この厚みのバラつきを決定しているのは不活性面36(ピッチWb)の値である。すなわち不活性面36(ピッチWb)上に横方向に成長し最終的に繋がるまでの時間が長いほどバラつきが大きくなることから、上述のようにWbを10μmとするのは実用上限界と判断できる。特許文献6および7ではWbを50ミクロンとしている。この場合30ミクロンの薄膜を作成するとした場合はWbの部分の最低値は計算上5μm(厚さバラつき83%)となり、バラつきが大きすぎて実用上不向きである。
【0060】
一方、厚みのバラツキを小さくする対策としてはWbを小さくすれば解決される。そこで、厚みのバラつきを軽減するために上記Wbを10μmから1μmに変更すると、Waが1μmであるから比率Wb/Waは1となり、このとき厚みのバラつきは1.7%に改善される。しかしながら、不活性面36(ピッチWb)の値が小さくなった分、露出面34(ピッチWa)の比率が大きくなるためシリコン薄膜10の剥離の面からは不利になる。
【0061】
したがって両者のバランスを考えて実用上Wa、Wbは選択される。一つの解決策としては、Waを0.1μmに変更すれば、Wb/Waは10となり、厚みのバラつきを1.7%に維持して、剥離の条件を改善することができる。さらにもう一つの解決策として、Wbを1μmにしたまま、Waを0.01μmにすると、Wb/Waは100となり、厚みのバラつきを1.7%に維持しながら剥離の条件を大きく改善することができる。
【0062】
以上のことから露出面34(ピッチWa)と、不活性面36(Wb)の寸法(幅、または一辺の長さ)について、Waはシリコン柱のナノ特性を発揮する範囲内で且つ実用的な見地から0.001μmから1μmの範囲が好適であり、これに対応してWbはWaより大きく、かつ10μm以下とすることが好適であると結論付けられる。
【0063】
図2に第1実施形態に係るシリコン薄膜を製造するためのシリコン基板を示す。シリコン基板32は、シリコン多結晶や、シリコン単結晶でシリコン薄膜10を成長させる表面を(100)面としたものなどが用いられる。このように、シリコン薄膜10を成長させる基板を同一材料とすることにより、シリコン薄膜10に対する格子歪みの発生を抑制して高品質なシリコン薄膜10を形成することができる。
【0064】
本実施形態(以下の実施形態でも同様)においては、エピタキシャル成長後のシリコン薄膜10をシリコン基板32から剥離することを目的としているが、この目的を可能にするためには、エピタキシャル成長に供するシリコン基板32の表面にあらかじめ原料ガス28に対して活性なシリコン基板32の露出面34と、酸化膜からなる不活性層38で覆った不活性面36の両面を交互に形成しておき、これをエピタキシャル成長に供することが必要である。
【0065】
そこで、シリコン基板32の表面には、原料ガス28による結晶成長に対して不活性となる不活性層38と、その表面に不活性面36(マスク面)を形成する酸化膜(SiO2)がパターニングにより形成されている。また本実施形態では、不活性層38は熱酸化膜を用いる。
【0066】
熱酸化膜としては、高温下(例えば1000℃)でシリコン基板32の表面にウエット酸素(95℃ H2O)を流して成長した酸化膜を用いることも可能である。熱酸化膜のパターニングはシリコン基板32の表面にレジスト膜(不図示)を形成後露光して、熱酸化膜が露出した部分をフッ酸等を用いたエッチングにより除去し、その後レジスト膜(不図示)を除去することにより形成される。
【0067】
このように熱酸化膜が形成されたシリコン基板32上にシリコン薄膜10を成長させるため、シリコン基板32には原料ガス28が供給される。原料ガス28は、水素等のキャリアガスにシリコン結晶12の原料であるシリコン化合物を所定の割合で含有させたものであり、所定の温度または流量でエピタキシャル成長炉18に供給される。そして、エピタキシャル成長に使われる原料ガス28としては、モノシラン(SiH4)、ジクロロシラン(SiH2Cl2)、トリクロロシラン(SiHCl3)、四塩化ケイ素(SiCl4)等が挙げられる。なお、これらのガスの使用に際しては適度に水素で希釈して使用される。
【0068】
気相エピタキシャル成長機構には、原料ガス28の輸送現象と化学反応(気相分解反応、表面分解反応)が伴う。特にエピタキシャル成長がなされる高い温度においては、律速反応として気相分解反応と表面分解反応を考慮する必要があるが、本実施形態においては、気相分解反応の割合が表面分解反応の割合より極めて小さく、表面分解反応が支配的となるガスを選択する必要がある。よって、上記原料ガス28のうち、モノシラン(SiH4)は気相分解の割合が大きいため好適ではなく、トリクロロシラン(SiHCl3)などの塩素系ガスが好適となる。これによりシリコン結晶12が酸化膜で形成された不活性面36で直接堆積することを抑制することができ、露出面34から成長してきたシリコン結晶12(シリコン柱12a)の横方向成長により不活性面36を覆うことができる。
【0069】
ここで、本実施形態では不活性層38として高温で形成される熱酸化膜を用いているが、熱酸化膜は機械的に強固な物質になるとともにシリコン薄膜10と強く接合することがある。よって、本実施形態のように熱酸化膜からシリコン薄膜10を剥離する場合にはやや不利になるとも思われる。しかしながら第1実施形態においては、後述のようにフッ酸等のエッチング液によりこの熱酸化膜をエッチングするので、熱酸化膜はシリコン薄膜10の剥離の障害とはならない。
【0070】
図3に第1実施形態に係るシリコン結晶の成長段階(初期段階)を、図4に第1実施形態に係るシリコン結晶の成長段階(横方向成長段階初期)を、図5に第1実施形態に係るシリコン結晶の成長段階(横方向成長段階後期)を、図6に第1実施形態に係るシリコン結晶の成長段階(最終段階)を、図7に第1実施形態に係るシリコン薄膜をシリコン基板から剥離する様子をそれぞれ示す。
【0071】
まず、図1、図2に示すように、シリコン薄膜10を成長するためのシリコン基板32をエピタキシャル成長炉18の中の設置台24に設置する。このとき、シリコン基板32の露出面34と熱酸化膜で形成された不活性面36によるパターニングを予め形成しておく。そしてシリコン基板32にシリコン薄膜10をエピタキシャル成長するための温度に昇温し、原料ガス28を所定の流量及び温度によりシリコン基板32に供給する。なお、原料ガス28には塩化水素(HCl)ガスを混合させ選択成長を促進させるのが一般的である。
【0072】
次に、図3に示すようにエピタキシャル成長の初期の比較的低温(例えば600℃から1000℃の温度)では、シリコン基板32の露出面34で原料ガス28の表面反応が起こり、シリコン柱12a(シリコン結晶12)の成長が始まる。しかし前記のように選択された原料ガスで28は、熱酸化膜で形成された不活性面36上の領域では表面反応が抑制され、分解が始まらない。そして露出面34から成長したシリコン柱12aはナノシリコンとしてエピタキシャル成長する。
【0073】
そして図4に示すように、エピタキシャル成長が進行し、やがて露出面34で成長したシリコン結晶12(シリコン柱12a)が不活性面36を形成する不活性層38の厚さにまで成長すると、その後はシリコン結晶12が不活性面36上にも横方向に成長し始める。すなわちナノシリコンの先端を核としてシリコン結晶12が横方向に成長し始める。
【0074】
このとき、横方向に成長した部分からもシリコン薄膜10の厚み方向に成長することになる。そして、シリコン薄膜10の厚み方向の成長速度と横方向の成長速度はほぼ同じなので、不活性面36上においては図4に示すようにシリコン薄膜10の厚み方向に対して約45度傾斜した成長面46を形成しつつ横方向成長と厚み方向の成長が進行する。
【0075】
図5に示すように、成長がさらに進むとシリコン結晶12が不活性面36上をも覆い、シリコン結晶12が不活性面36上で連なるので、シリコン基板32の全面がシリコン薄膜10で覆われることになる。その後は、図6に示すように、速度を速めるため原料ガス28への塩化水素ガスの混入を停止し、且つシリコン基板32の温度を上げて必要なエピタキシャル厚さに達するまで成長を続行し、終了する。
【0076】
このように形成されたシリコン薄膜10は、露出面34上のシリコン柱12aを核として成長した結晶であるから、露出面34上のシリコン結晶12も不活性面36上のシリコン結晶12も共にシリコン基板32の結晶構造を引き継いだ単結晶の連続的な膜状の結晶膜として形成されたことになる。一方、露出面34上(ピッチWa)ではシリコン基板32とシリコン結晶12との原子的共有結合がなされているが、不活性面36上(ピッチWb)では不活性層38を形成している熱酸化膜とシリコン薄膜10との原子的共有結合が果たせないため、この部分の機械的強度は共有結合と比較して小さくなっている。
【0077】
なお、図5〜7に示すように、上記工程においては不活性層38上に上述の横方向成長段階で出現する約45度に傾斜した成長面46により形成され断面が二等辺三角形となる谷部48が形成されるが、この谷部48の出現する部分が、シリコン薄膜10が最も薄く形成される位置となる。ここで、不活性層38の幅を10μmとすると、谷部48の深さは5μm程度となる。よってシリコン薄膜10を30μm成長させた場合は、谷部48の最も深い部分でシリコン薄膜10の厚みが25μmとなる。よって、シリコン薄膜10の厚さのバラつきは(30μm−25μm)/30μm=17%となる。
【0078】
図7に示すように、露出面34で成長したシリコン柱12aは前述のナノシリコンとして成長している。シリコン薄膜10の端部から外力を加えることによりシリコン基板32上に成長したシリコン薄膜10を剥離すると、前記露出面34であって最も端部側で成長しているナノ特性を有するシリコン柱12a(S1)は伸び始め、外力を増して行くと、そのシリコン柱12a(S1)はさらに伸び、同時に端部より内側に次段のシリコン柱12a(S2)も伸び始める、やがて最前線のシリコン柱12a(S1)が部分剥離に至る、そして次段のシリコン柱12a(S2)は最前線の位置に変わり、やがて部分剥離に至る。この繰り返しが続きシリコン基板32全面に静的順次剥離が進む。この剥離の方法において、最前線のシリコン柱12aと次段かせいぜい次々段のシリコン柱12aのごく限られたシリコン柱12aにのみに応力が集中することになる。したがって、端から順番に静的剥離が可能となるために大きな外力を必要とせず、大面積なシリコン薄膜10を形成することができる。
【0079】
ところで、第1実施形態では不活性層38に熱酸化膜を用いており、熱酸化膜とシリコン薄膜10との接合が強固になる場合は剥離することが困難となる。よって第1実施形態においては剥離の際にシリコン薄膜10の剥離させる端部にフッ酸等のエッチング液をスプレー等(不図示)で供給する。するとエッチングが進行した部分からシリコン薄膜10の剥離が可能となるとともに、熱酸化膜の溶解により最前線のシリコン柱12aが伸長・部分剥離するため、次段の不活性層38のエッチング及び次段のシリコン柱12aの伸長・部分剥離が可能となる。よってエッチング液をシリコン薄膜10が剥離する部分に供給し続けることにより、このような部分剥離を順次静的に繰り返し、シリコン薄膜10全面をシリコン基板32から剥離することができる。
【0080】
本実施形態は、露出面34に成長したシリコン結晶(シリコン柱)のナノ特性、すなわち破壊前に外力に比例して伸びる物性を利用したものである。そのために酸化膜にフッ酸による溶解が可能となっている。この場合不活性層38の剥離には大きな外力を必要とせず、外力は剥離最前線近傍のシリコン柱12aだけにのみ集中する。よって本実施形態は、特許文献6、7にある、反り抑制された補強板を使ってウエーハ上に作られた極めて多数の不活性膜およびシリコン柱の両者に外力を瞬時に且つ同時に掛ける剥離法とは異なる。なお、不活性層38に酸化膜を施した例で説明したがシリコン窒化膜を不活性層38として成長させた場合はそれを溶解するための最適な液を使えばよい。なおシリコン薄膜10の表面のキズを防止するため反りやすい(柔らかい)保護シート(不図示)を、剥離前のシリコン薄膜10の表面に貼り付けてもよく、以下の実施形態でも同様とする。
【0081】
図8に剥離後のシリコン薄膜の模式図を示す。図8に示すように、剥離後のシリコン薄膜10は、シリコン結晶12により形成され、その主面に凸部12bが複数配列された態様で形成されたシリコン薄膜10であって、前記凸部は、その幅が0.001μmから1μmであって、前記凸部12bの先端12cには前記シリコン結晶12を引き裂く態様で形成された剥離痕を有するものとなっている。
【0082】
ここで、凸部12bは上述のシリコン基板32上に不活性面36とともに形成された露出面34にシリコン柱12aを形成することにより形成可能であり、シリコン薄膜10は露出面34に形成されたシリコン柱12aを核にしてシリコン結晶12を横方向成長させることにより形成可能である。そして露出面34に形成されたシリコン柱12aは、露出面34の寸法を上述の寸法で形成することにより、露出面からナノシリコンとして形成されることになる。よってシリコン柱12aはナノシリコンとして形成されるので、シリコン薄膜10に応力を与えることにより伸長するとともにシリコン基板32から剥離し、凸部12bの先端12cには剥離痕が形成されることになる。またシリコン薄膜10をシリコン基板32から剥離する場合、最前線のシリコン柱12aと次段かせいぜい次々段のシリコン柱12aのごく限られたシリコン柱12aにのみに応力が集中することになる。したがって、端から順番に静的剥離が可能となるために大きな外力を必要とせず、大面積に形成可能なシリコン薄膜10となる。
【0083】
第2実施形態に係るシリコン薄膜の製造方法は、基本的方法は第1実施形態と類似するが、不活性層38を、シリコン薄膜の破壊強度より低い破壊強度を有する材料により形成する点において相違する。不活性層38にシリコン薄膜10の破壊強度より低い破壊強度を有する材料、例えば自然酸化膜を用いると、自然酸化膜は原子同士の結合力が小さく破断しやすい。このためシリコン薄膜10に損傷を与えることなく不活性層38を破断させ、または不活性層38とシリコン基板32の界面または不活性層38とシリコン薄膜10との界面を破断させることができ、シリコン薄膜10をシリコン基板32から容易に剥離することが可能となる。本実施形態においては自然酸化膜のほか、低温堆積酸化膜、低温窒化膜を用いることもできる。
【0084】
自然酸化膜は、常温下でシリコン基板32の表面を一定時間空気(酸素)に晒すことにより、表面に一様に形成される膜であり酸化膜としては化学量論的には不完全な酸素リッチな酸化膜である、その厚みは25Å程度である。また自然酸化膜は、後述の熱酸化膜より原子間及び界面での結合力が小さいため、容易に破断させることができる。このため後述のように自然酸化膜による不活性面に接合するシリコン薄膜10をシリコン基板32から容易に剥離させることができる。この自然酸化膜のパターニングは、自然酸化膜が形成されたシリコン基板32の表面にパターニングに対応したレジスト膜(不図示)を形成し、自然酸化膜が露出した領域をフッ酸等によるエッチングにより除去し、その後レジスト膜(不図示)を除去することにより形成される。
【0085】
また、低温堆積酸化物を不活性面として形成する場合は、例えばモノシラン(SiH4)に酸素(O2)を混合したガスを用いて酸化膜をシリコン基板の表面に堆積(反応式:SiH4+O2→SiO2+2H2)させる方法を用いることができる。例えば酸素濃度が13%のモノシランガスの混合ガスを350℃に昇温してシリコン基板32に供給すると、堆積酸化膜を約0.1μm/分の成長速度で形成することができる。
【0086】
低温堆積酸化膜(または窒化膜)とはシリコン基板32を直接酸化(窒化)させるのではなく、ガスや液体によりシリコン酸化物(窒化物)を該基板表面に成長もしくは塗布する酸化膜(窒化膜)である。
【0087】
たとえば低温堆積酸化膜を液体塗布する方法で説明すると、アンモニア液にシリコン粉末を投入してシリコンを溶解しSi(OH)4を作りそれを基板表面に滴下するとシリコンはアルカリ液には良く濡れる性質があるのでそれをスピンナーにより全面に均一に被覆する。その後にアンモニア液を乾燥させる(Si(OH)4→SiO2+H2O)。乾燥後にできた低温堆積酸化膜は熱酸化膜と比較すると極めて脆弱であり化学量論的にも不完全な酸化膜である。そのため本実施形態には好都合である。
【0088】
上述のように、シリコンは常温下で一定時間空気に晒すと、その表面に自然酸化膜が形成されるため、自然酸化膜を不活性面36として形成してパターニングされたシリコン基板32にシリコン結晶12(シリコン薄膜10)をエピタキシャル成長するとき、エピタキシャル成長の初期には短時間水素ガスによる露出面34の酸化膜の除去を行い、その後に続いてシリコン結晶12(シリコン柱12a)の成長を行う場合がある。そのときに、不活性層38としての自然酸化膜も同時に還元されて幾分その膜厚が薄くなる。このような場合において、工業的に安定的に自然酸化膜を不活性膜として利用するためには、不活性層38である自然酸化膜の上に上述の低温堆積酸化膜を積み上げて、水素還元時の目減りを予め補って(場合によっては増膜して)エピタキシャル成長を行うことができる。剥離時のシリコン柱12aの伸びを大きくする(伸び率は同じ)には、低温堆積酸化膜の厚さを厚くすると効果的である。
【0089】
第2実施形態のシリコン薄膜の製造工程は、上述のように不活性層38の製造工程において第1実施形態と異なるが、シリコン薄膜10を成長させるまでの工程は第1実施形態と同様である(図2乃至図5参照)。また図6のようにシリコン薄膜10をシリコン基板32から剥離する工程も第1実施形態と類似する。しかし、本実施形態のように、不活性層38にシリコン薄膜10の破壊強度より低い破壊強度を有する材料、例えば自然酸化膜を用いると、自然酸化膜は原子同士の結合力が小さく破断しやすい。このためシリコン薄膜10に損傷を与えることなく不活性層38を破断させ、または不活性層38とシリコン基板32の界面または不活性層38とシリコン薄膜10との界面を破断させることができ、シリコン薄膜10をシリコン基板32から容易に剥離することが可能となる。
【0090】
したがって、第2実施形態は、第1実施形態のようにフッ酸等のエッチング液により不活性層38のエッチングを行なわなくても剥離が可能な乾式剥離が可能となる。本実施形態でもナノシリコンのナノ特性を利用するため、シリコン薄膜10の端部から始まる静的順次部分剥離が適用されるが、第1実施形態より不活性層38の抵抗があるので剥離に必要な力はその分大きくなるが、乾式剥離のため剥離の工程を容易に行うことができる。もちろん本実施形態においてもエッチング液を用いることは好適であり、不活性面36とシリコン薄膜10との剥離の促進、及びシリコン薄膜10に付着した不活性層38の除去を同時に行うことができる。
【0091】
なお、特許文献6、7のように成長後の薄膜を剥離するに当たって、反りを抑制する補強板が接着された状態で瞬時剥離を行う場合、薄膜には直接的には外力が加わらないので薄膜の破損は発生しない。しかしながら、第2実施形態では補強板は使わないから成長後のシリコン薄膜10を剥離するときには薄膜に外力を加わることになる。よって剥離時のシリコン薄膜10の破損を回避するためには、不活性層38はシリコン薄膜10より破壊強度が小さいことが要件となる。
【0092】
また、第1実施形態、第2実施形態においては、剥離に際して、シリコン薄膜10はシリコン柱12aからの抗力も考慮する必要があるが、提案しているシリコン柱12aの幅(一辺の長さ)は1μm以下であり、一方薄膜が選択成長で横方向に成長してシリコン基板32全面を覆うまで成長するときのシリコン薄膜10のシリコン柱12aの真上に形成される部分の厚みは10μm以上となる。よって剥離時のシリコン柱12aからの抗力に対してシリコン薄膜10は十分な強度を有し、剥離時にシリコン薄膜10の破損は発生しない。
【0093】
第3実施形態のシリコン薄膜の製造方法は、基本的には第2実施形態と類似するが、不活性層38を構成する酸化膜の化学組成が化学量論的に酸素リッチとする点が相違する。そして酸素リッチとなった酸化膜から成長中のシリコン柱12aへ酸素を供給し、シリコン柱12aの周囲を酸化させてシリコン柱12aを細くすることにより、あるいはシリコン柱12aの内部まで全て酸化させてシリコン薄膜10とシリコン基板32とのシリコン柱12aを介した共有結合の連結を遮断することにより、シリコン薄膜10のシリコン基板32からの剥離を容易にすることを狙いとしている。
【0094】
第3実施形態で用いられる酸化膜は、例えば第2実施形態で述べた自然酸化膜や低温堆積酸化膜を用いることができるが、化学量論的に酸素リッチな酸化膜は上記反応で酸素分圧を上げるなどの方法により形成することができる。
【0095】
図9に第3実施形態に係るシリコン薄膜の製造方法の初期工程、図10に第3実施形態に係るシリコン薄膜の製造方法の選択成長工程、図11に第3実施形態に係るシリコン薄膜の製造方法の薄膜形成工程を示す。
【0096】
図9に示すように、不活性層38には自然酸化膜または低温堆積酸化膜で構成するが、化学組成が化学量論的に酸素リッチな酸化膜で不活性層38を形成してシリコン基板32の露出面34と不活性層38による不活性面36を形成する。そして原料ガス28を供給することにより露出面34にシリコン柱12aが成長するとともに、シリコン柱12aは不活性層38に接触した状態となっているため、シリコン柱12aの外周から不活性層38中の酸素が供給されシリコン柱12aの外周から酸化が進行することになる。
【0097】
よって、図10に示すように横方向に成長が伸びて来るにしたがって露出面34に成長したシリコン柱12aの側面は酸素リッチな不活性層38から酸化を受け始め、シリコン柱12aの外周は酸化膜12dに変質しシリコン柱12aは細くなる。このとき不活性層38から供給された酸素はシリコン柱12a中に拡散することになるが、拡散フロント、すなわち酸素が既に拡散し酸化物に変化した領域と未だ酸素が拡散していない領域の境界は放物線(放物面)を形成する。
【0098】
やがて、選択成長中および続いて熱処理を施す間に、酸素リッチな不活性層38で囲まれたシリコン柱12aはさらに横から酸化されてシリコン柱12aが酸化されて形成された酸化膜12dは露出面34を覆うように成長し(図10)、シリコン柱12aの直径は酸化によりさらに細くなりやがてシリコン柱12aは全部酸化されて露出面34上に酸化膜12dが形成される(図11)。なお、図10、図11に示すように、第3実施形態においても、不活性層38上に上述の横方向成長段階で出現する約45度に傾斜した成長面46により形成され断面が二等辺三角形となる谷部48が形成される。
【0099】
この状態になれば、シリコン基板32とシリコン薄膜10に挟まれた部分は全面酸化膜12dが形成される(連なる)ことになる。このとき、不活性層38とシリコン柱12aが酸化して形成された酸化膜12dはシリコン基板32全面に連なることになる。この場合、シリコン柱12aは全部酸化されているので、剥離は自然酸化膜、または/および、低温堆積酸化膜を機械的に剥がす必要がなくなり、図6のようにフッ酸のスプレーを使えば剥離に外力は不要となりシリコン薄膜10はシリコン基板32から分離される。
【0100】
上述の工程は、化学量論的に酸素リッチな絶縁酸化膜がシリコン柱12aを酸化するに十分酸素を提供すればこれは可能となる。一つの方法としては前述のように、モノシランガスに酸素ガスを混合し低温堆積酸化膜をシリコン基板32の表面に堆積させる方法で混合ガスに酸素ガスを余分に追加する方法で可能である。またアンモニア液にシリコンを溶解して作成したSi(OH)4を基板表面にスピン乾燥した酸化膜も用いることができる。
【0101】
シリコン表面自体の酸化には、ウエット酸化法、ドライ酸化法が一般的に使われている。ドライ酸化法による酸化膜の成長速度はウエット酸化法よりも遅いが、完全な酸化膜が得られるのでIC産業ではこの方法が多く使われる。本実施形態のシリコン柱12aの酸化はドライ酸化でかつ固体間接触酸化である。したがって酸化速度はウエット法より遅い事を見込む必要がある。
【0102】
非特許文献5により、シリコンにドライ酸化で且つ厚い酸化膜成長を施した場合のシリコン柱12aに形成される酸化膜の厚みをケース別に算出した。
【0103】
図14に、不活性層の幅を複数設定し、横方向成長が完了するまで成長させた場合(図5参照)のシリコン柱に形成される酸化膜の厚みを示す。図14においては、シリコン基板32の露出面34上にシリコン柱12aをエピタキシャル成長させ、不活性層38(酸素リッチな酸化膜)上にシリコン結晶12を横方向成長させて不活性層38上をシリコン結晶12で覆うまでの時間と、そのときにシリコン柱の側面に形成される酸化膜の厚みについてケース別に計算している。
【0104】
図14に示すようにケース1は不活性層38の幅(一辺の長さ)を10μmとし、ケース2は不活性層38の幅(一辺の長さ)を1μmとした。そしてケース1、ケース2ともにエピタキシャル成長温度及び成長速度を、それぞれ1000℃、0.3μm/minとすると、シリコン柱12aの側面に形成される酸化膜の成長速度は2.5μm/minとなる。
【0105】
図14に示すように、ケース1の場合、不活性層38の幅(一辺の長さ)は10μmであるので、その対角線長は、14.14μmとなり、よって横方向成長の最短必要距離は7.2μmとなる。したがって、シリコン結晶12が横方向成長により不活性層38を覆うのに必要な時間は(7.2μm/(0.3μm/min))で24分となる。一方、この24分間においてシリコン結晶12形成される酸化膜の厚みは(24min×2.5μm/min)で60nmとなる。
【0106】
次にケース2の場合、不活性層38の幅(一辺の長さ)は1μmであるので、その対角線長は、1.4μmとなり、よって横方向成長の最短必要距離は0.7μmとなる。したがって、シリコン結晶12が横方向成長により不活性層38を覆うのに必要な時間は(0.7μm/(0.3μm/min))で2.4分となる。一方、この2.4分間においてシリコン結晶12形成される酸化膜の厚みは(2.4min×2.5μm/min)で6nmとなる。
【0107】
図15は、成長速度、及び形成するシリコン薄膜の厚みを複数設定し、横方向成長後にシリコン薄膜が所定の厚みまで成長させる場合(図6、図11参照)のシリコン柱に形成された酸化膜の厚みを示す。ケース3は、成長温度を1200℃、成長速度を1.5μm/minとし、シリコン薄膜の厚みが30μmとなるまで成長したものである。よって成長時間は(30μm/(1.5μm/min))で20分となる。ケース4は、成長温度を1200℃、成長速度を3μm/minとし、シリコン薄膜10の厚みが30μmとなるまで成長したものである。よって成長時間は(30μm/(3μm/min))で10分となる。ケース5は、成長温度を1200℃、成長速度を1.5μm/minとし、シリコン薄膜10の厚みが20μmとなるまで成長したものである。よって成長時間は(20μm/(1.5μm/min))で13.3分となる。ケース6は、成長温度を1200℃、成長速度を1.5μm/minとし、シリコン薄膜10の厚みが40μmとなるまで成長したものである。よって成長時間は(30μm/(3μm/min))で26.7分となる。
【0108】
次にシリコン柱12aの側面に形成される酸化膜の厚みは、ケース3乃至ケース6の成長時間に対応してそれぞれ計算する。各ケースは同一温度(1200℃)であり、このとき放物線速度定数は0.062μm2/h(O2、760Torr)である。よって、ケース3の場合、酸化膜の厚みは(0.062×20/60)1/2を計算して0.1437μm≒144nmとなる(図15中の数式参照)。同様にケース4の酸化膜の厚みは(0.062×10/60)1/2を計算して0.1017μm≒102nmとなリ、ケース5の酸化膜の厚みは(0.062×13.3/60)1/2を計算して0.117μm=117nmとなる。さらにケース6の酸化膜の厚みは(0.062×26.7/60)1/2を計算して0.166μm=166nmとなる。
【0109】
よって、例えばケース1とケース3との組み合わせ、即ち、不活性層38の幅を10μmとし、成長温度を1000℃とした状態で、シリコン基板32上の露出面34にシリコン柱12a及びシリコン結晶12を成長し、シリコン結晶12を不活性層38を覆うまで横方向に成長させ(選択成長工程)、その後シリコン薄膜10の厚みが30μmまで成長(薄膜成長工程)させた場合、シリコン柱12aに形成される酸化膜の厚みは(60nm+144nm)で204nmとなる。よってこの場合、エピタキシャル成長中にシリコン柱12aを完全に酸化させ、シリコン薄膜10の剥離に外力を用いずフッ酸による酸化膜の溶解でシリコン薄膜10を得るには、シリコン柱12aの幅(一辺の長さ)、すなわち露出面34の幅(一辺の長さ)を400nm(計算結果は408nm=204nm×2)以下に設定すればよいことがわかる。
【0110】
また、例えばケース2とケース4との組み合わせ、即ち不活性層38の幅(一辺の長さ)を1μmとし、薄膜成長段階で成長速度を3μm/minとした場合、シリコン柱12aに形成される酸化膜の厚みは(6nm+102nm)で108nmとなる。よってこの場合、エピタキシャル成長中にシリコン柱12aを完全に酸化させ、シリコン薄膜10の剥離に外力を用いずフッ酸による酸化膜の溶解でシリコン薄膜10を得るには、シリコン柱12aの幅(一辺の長さ)、すなわち露出面34の幅(一辺の長さ)を216nm(=108nm×2)以下に設定すればよいことがわかる。同様にケース2とケース3の組み合わせの場合は、シリコン柱12aの幅(一辺の長さ)、すなわち露出面34の幅を300nm(=(6nm+144nm)×2)以下に設定すればよいことがわかる。
【0111】
ここでシリコン薄膜を太陽電池として用いる場合はケース4、ケース5のように30μm程度の厚さが必要とされるが、本実施形態においてはこれに限定されず、さらに広い応用を考えて、ケース5のように、それ以下の厚みの薄膜を必要とする場合がある。そこで上述同様にケース1とケース5の組み合わせた場合、シリコン柱12aの幅(一辺の長さ)、すなわち露出面34の幅を354nm(=(6nm+144nm)×2)以下に設定すればよいことがわかる。なおケース5のようにシリコン薄膜10の膜厚を薄く設定すると、それに比例してシリコン柱12aの酸化時間も短くなるので、シリコン柱12aの幅(一辺の長さ)、すなわち露出面34の幅(一辺の長さ)をその分小さな値に設定する必要がある。
【0112】
さらにシリコン薄膜10の厚みが上述の30μmを超え、ケース6のように40μmの厚みに成長させる場合における酸化膜の厚み(露出面34の幅)を考慮する必要がある。例えばケース1とケース6との組み合わせを考えると、シリコン柱12aの幅(一辺の長さ)、すなわち露出面34の幅を450(計算結果は452nm=(60nm+166nm)×2)以下に設定すればよいことがわかる。
【0113】
なお、シリコン柱12aの酸化現象を非特許文献5のいわゆる「Deal−Groveモデル」を用いて算出した。また成長速度の算出には、選択成長時には直線速度定数を薄膜成長時には放物線速度定数を採用し横方向成長が始まるまでのシリコン柱12aの成長中のシリコン柱12aの側面の酸化膜成長は計算から除外した。
【0114】
このモデルはシリコン表面に酸素原子(ドライ酸素)が十分供給された場合の算出方法である。本実施形態においては、シリコン柱12aの側面の固体同士の接触で酸素リッチな不活性層38から酸素原子が十分供給される場合に成り立つことになるので、上記算出されたシリコン柱12aの酸化速度は最大値と判断される。よって、シリコン柱12aの酸化が不十分となる場合は、エピタキシャル成長後の追加の熱処理の時間を適宜延長する、もしくはシリコン柱12aの幅を予め細く設定することにより、シリコン柱12aの酸化を達成させればよい。
【0115】
また、本実施形態のように横方向成長したシリコン結晶12は不活性層38に接触しているので、不活性層38はシリコン柱12aのみならず、シリコン薄膜10の不活性層38に接する表面を酸化させることになるが、剥離時のフッ酸によるエッチングにより除去することができる。
【0116】
もし、シリコン柱12aの幅、即ちWaを0.01μmにすれば、化学量論的に酸素リッチな不活性層38(酸化膜)は、シリコン柱12aを追加の熱処理を施さなくても、エピタキシャル成長中の間だけでシリコン柱12aは酸化される。よってフッ酸液への浸漬や、フッ酸液のスプレー掛け等の採用で、剥離するための大きな外力を必要とせずに、シリコン薄膜をシリコン基板から剥離することによりシリコン薄膜を得ることができ、上述のように厚みバラつきの小さい(1.7%)、外力に頼らない高品質なシリコン薄膜の製造(マルチシードエピタキシャル成長による)を行なうことができる。なお、もっと幅の広いシリコン柱を提案する特許文献6、7では上述のナノシリコンが形成されないため成長後のシリコン薄膜の基板から剥離することは困難であり、またシリコン柱を酸化させるには追加の熱処理を多く必要とするため実用上困難となる。
【0117】
なおシリコン柱12aの酸化の進行速度(1時間当たり0.1μm程度)は、シリコン柱12aの成長速度(1時間当たり30μm程度)より十分遅いと考えられる。よってシリコン柱12aが不活性面36の高さまで成長する前にシリコン柱12aが内部まで全て酸化されることはなく、横方向成長を行なうためのシリコン柱12aの最先端部においては、その側面においてわずかに進行するのみであるので、シリコン結晶12の横方向成長が阻害される事態が生じることはないと考えられる。
【0118】
もちろん、第3実施形態においては、シリコン薄膜10の形成後にシリコン柱12aを完全に消失させなくてもよい。本実施形態においては、成長時に露出面34全体からシリコン基板32の結晶構造を十分に引きついだシリコン柱12aを形成し、このシリコン柱12aを核として高品質なシリコン薄膜10を形成することができるとともに、シリコン薄膜10の形成時にシリコン柱12aを酸化させて細くしてもナノシリコンとしての特性を有する点に相違はないため、シリコン柱12aの伸展性を阻害することなくシリコン柱12aの破壊強度を低下させ、シリコン薄膜10の剥離を小さな外力で容易に行うことができる。
【0119】
図12に剥離後の第3実施形態のシリコン薄膜を示す。第3実施形態において形成されるシリコン薄膜10は、シリコン結晶12により形成され、その主面に凸部12bが複数配列された態様で形成されたシリコン薄膜であって、前記凸部12bは、その幅が0.001μmから1μmであって、前記凸部12bの先端12cには、前記シリコン結晶12を引き裂く態様で形成された剥離痕、及び前記凸部12bの先端12cに形成されたシリコン酸化膜をエッチングにより除去した態様で形成されたエッチング痕を有するものとなっている。また前記シリコン薄膜の厚みが30μm、前記凸部の幅が0.4μm以下(上述の計算結果によれば0.408μm以下)とした場合には、前記凸部12bの先端に12cは前記エッチング痕を有するものとなっている。
【0120】
シリコン柱12aをシリコン薄膜10の成長に合わせて酸化させた場合、酸化済みのシリコン柱12aはフッ酸等によりエッチングされるため、凸部12bの先端12cにはエッチング痕(シリコン薄膜10とシリコン柱12aが酸化した柱との界面の凹凸形状)が形成されることになる。なおシリコン柱12aの酸化が完全に行なわれない場合は、酸化はシリコン柱の外側から進行するため、先端12cの周縁にエッチング痕が形成され、その内側に剥離痕が形成されることになる。
【0121】
第4実施形態として、シリコン薄膜を形成するシリコン薄膜の製造工程において基板の表面が曲面形状をなしたシリコン基板(不図示)上に薄膜を成長させることもできる。自動車の屋根等、機能表面を利用して太陽電池を設置するにはその表面形状に従った形状の太陽電池が必要になる。シート状に形成されたアモルファスSiや微結晶Si太陽電池は曲面形状を形成できるが、一般的にはシート状で2次曲面にとどまる。またこの太陽電池はアモルファス、または多結晶からなり単結晶は成長しない。この実施形態では基板表面にあらかじめ3次曲面を形成して薄膜を成長することにより、3次元の単結晶薄膜の製作が可能となる。基板作成には工夫とコストを要するが、基板は繰り返し使用が可能であるので工業的大量生産が可能である。
【0122】
第5実施形態として、不活性層38を形成する材料にP型またはN型のドーパントをドープすることができる。シリコン薄膜10を形成するシリコン薄膜10の製造工程において、シリコン薄膜10の不活性面と接する面がP型またはN型に成長するように、シリコン基板32上に形成する不活性層38にP型またはN型のドーパントをあらかじめ混入した不活性層38を形成した上でシリコン薄膜を形成する。不活性層38を低温堆積酸化膜により形成する場合、不活性層38にP型またはN型の不純物を混ぜるにはモノシランガスにそれぞれ適量のホスフィンまたはボランガスを混入して不活性層38を作成することができる。
【0123】
この方法により、シリコン薄膜10の不活性面36と接する面はシリコン薄膜10の成長と同時に、固体拡散により、P型またはN型の表面が形成され、それをPN接合もしくは表面抵抗を低くした電極層として利用することができる。よって電極層を単独で形成する工程を不要としてコストを抑制することができる。
【0124】
第6実施形態として、シリコン薄膜の製造工程において、原料ガス28には、P型またはN型のドーパントをドープするとともに、シリコン薄膜10の製造途中でP型またはN型のドーパントを交互に切り替えてドープすることにより、シリコン薄膜10の厚み方向にPN接合を形成することが出来る。P型のドーパントとしてはホウ素(B)等、N型のドーパントとしてリン(P)等がある。製造工程としては、最初にP型またはN型のいずれかのドーパントを含有させた原料ガス28を、露出面34及び不活性面36のパターニングが施されたシリコン基板32に供給し、シリコン結晶12の不活性面36上での横方向成長が終了して不活性面36上で所定の厚みに達する時間に、ドーパントを切り替えて一定の厚みになるまで原料ガス28を供給すればよい。
【0125】
第7実施形態として、シリコン基板32の周縁領域の少なくとも一辺(全周でもよい)において不活性面36の露出面34に対する面積比を前記シリコン基板32の中央領域に比べて大きくすることも好適である。すなわち上述の一辺において不活性面36の面積(Wbに比例)と露出面34の面積(Waに比例)の比Wb/Waをより大きく設定することも好適である。これにより、シリコン薄膜10の前記一辺に対向する位置において、シリコン基板32と結合する面積の割合が小さくなるため、前記位置にあるシリコン基板32の一辺は剥がしやすくなり、その一辺を剥がし代とすることができ、剥がし代を基点としてシリコン薄膜10全体をシリコン基板32から容易に剥離して、シリコン薄膜10の歩留を高めることができる。
【0126】
図13に第8実施形態に係るシリコン薄膜の製造方法の模式図を示す。第8実施形態として、成長後のシリコン薄膜10上に上述の不活性面42と前記シリコン薄膜10が露出する露出面40とを新たに形成し、前記シリコン薄膜10上に新たなシリコン薄膜44を形成することもできる。このときシリコン薄膜10上に形成される露出面40は、シリコン基板32上に形成された露出面34と平面視して重なる位置に形成することが望ましい。シリコン薄膜10において、露出面34上に形成される領域が最も厚く形成されるとともに、最も厚み方向のバラつきが小さくなると考えられるため、シリコン薄膜10上に形成される新たなシリコン薄膜44の厚み方向のバラつきを小さくすることができると考えられる。また、新たなシリコン薄膜44上にもさらなる不活性面、露出面を形成してシリコン薄膜を多段に形成することができる。剥離する際は最上段のシリコン薄膜から一枚ずつ剥離すればよい。このような方法により、一枚のシリコン基板32から多層構造のシリコン薄膜を形成することができ、シリコン薄膜の量産化が可能となる。なお、2段目以降の不活性面を形成しやすくするため、不活性面の幅を小さくして、横方向成長により形成される谷部48(図8参照)の深さを小さくすることが好ましい。
【0127】
なお、第4実施形態乃至第8実施形態は、第1実施形態乃至第3実施形態にそれぞれ重複して適用することができる。また、第2実施形態のようにフッ酸のスプレーによるエッチングが必須でない場合は、使用に供した各種酸化膜はシリコン薄膜10及びシリコン基板32に付着した状態となる。しかし、シリコン薄膜10に付着した酸化膜はエッチングにより容易に除去可能である。一方、シリコン基板32に付着したままの酸化膜(不活性層38)はシリコン基板32の表面のシリコン薄膜10を剥離した部分に形成された凹凸(剥離前に凸部12bの先端12cと接合していた部分)を研磨するときに共に除去される。従っていずれの実施形態においてもシリコン基板32は再度利用することができる。これは不活性層38としてシリコン窒化膜を形成した場合でも同様である。また、第1実施形態乃至第8実施形態により形成されたシリコン薄膜10の両面に電極を形成することによりシリコン薄膜太陽電池が形成できることは言うまでもない。
【0128】
[実施例]
次に本発明のより具体的な実施例について説明する。
[実施結果]
トリクロロシランガス(0.3mol%)を使って5インチシリコン基板にシリコン薄膜をエピタキシャル成長させた。シリコン基板は半導体ICで使われる鏡面仕上げのウエーハである。ただしきちんとした包装をしてあったが約3か月程度(洗浄日から)経過したものだった。
【0129】
シリコン基板上についた自然酸化膜を還元除去するために水素雰囲気中で摂氏1200度で1分間処理したのち摂氏1150度で20分間エピタキシャル成長させた。出来上がったシリコンエピタキシャルは、洗浄液で洗浄したところ、3分の2は通常のエピタキシャルウエーハであったが3分の1の面積は鏡面ウエーハから剥れて、カール状になっていた。不活性層領域は偶然できた物であったが、トリクロロシランガスの不均一分解反応の発生に適したシリコンの表面が現れ20ミクロンのシリコン単結晶フィルムが出来上がった。3分の2の領域は不活性層の形成が不十分で通常のエピタキシャルウエーハ(フィルム状剥離は起こらない)に成長した。出来た薄膜状シリコンはカール状になり何も特別に力を加えなくても簡単に剥離した。
【0130】
[実施結果の評価]
シリコン表面は洗浄後短時間で全体に薄い自然酸化膜で覆われる。エピタキシャル成長前処理として通常水素が表面の薄い自然酸化膜または有機物を分解してそののちに続けてトリクロロシランガスによるシリコン成長がなされる。今回の剥離現象はその前段階の処理は完全になされなく、したがって自然酸化膜が部分的にかつ細かく交互に残っていたために、その上に横方向成長時間に酸化膜は細かなシリコン柱の側面を酸化させ剥離現象が発生したのである。酸化膜は自然酸化膜からの固体間接触によりシリコン柱は酸化され、結果としてシリコン薄膜の下は全面シリコン酸化膜となったと推定される。これを工業的に効果的に行うには前述の様にシリコンのエピタキシャル成長に対する活性面となる露出面と不活性面の作成を工夫する必要があり今回本特許提案となったのである。
【0131】
活性層(露出面)と不活性層(非露出面)の作成の方法についてはこれからもっと研究の余地があり両者を交互に形成する方法を研究しそれをエピタキシャル装置に入れてトリクロロシランや四塩化ケイ素等のような表面化学反応が強いガスを利用することにより、確実に工業的にシリコンフィルムの作成が可能である。成長の初期すなわちシリコン表面の活性層には成長が始まり不活性層領域には成長が抑えられている比較的成長温度の低い段階では成長速度は低いが、産業上これを克服するには、シリコン上の活性層、不活性層の形成が前述のごとく原子的に細かい形成方法が開発されれば解決され、さらに大面積の薄膜が可能となる。
【0132】
成長ガスに関しては、表面化学反応を積極的に利用する立場から、シランガス(例えばトリクロロシランガス)に、前述のように塩化水素(HCl)ガスを一定の割合で混合させ表面化学反応を促進させることが一般的であるが、今回は塩化水素ガスの添加を行なっていなかった。今後シリコン薄膜の剥離に最適な選択エピタキシャル成長の条件を得るには更なる研究が必要である。
【0133】
いずれにしても、成長ガスの気相分解反応を抑え、表面化学反応を積極的に利用するところが本発明の要である。選択成長現象は公知とはいえ、しかしながら現在の技術過程では該ガスの熱化学的な反応技術は未発達である(例えば前記非特許文献2)。本発明で薄膜結晶シリコンを良質で且つ効率的に作るには、この反応の基礎的な研究の推進も待たれるところである。
【0134】
薄膜成長に供されたシリコン基板は、原理上何回でも繰り返し使用が可能である。また現在のシリコンのワイヤソーによる切断時の切削粉の発生もなく産業上の廃棄物の削減に大いに効果がある。
【0135】
なお、本実施形態では、不活性面36(不活性層38)として熱酸化膜、自然酸化膜、および堆積酸化膜を適用したが、原料ガス28による結晶成長に対して不活性な材料であればよい、例えば窒化膜等を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明では、シリコン太陽電池等に供される薄膜状のシリコン等の半導体を大面積かつ効率よく作成するに好適な製造方法として利用できる。また本発明はシリコン以外の化合物を用いた薄膜状化合物太陽電池の製造方法としても利用できる。さらに不活性層(不活性面)に開口部を細かく開けるなどWa、Wbの寸法を工夫することにより、また、自然酸化膜や堆積酸化膜の化学量論的に酸素リッチな酸化膜を適用するなどの工夫で厚みバラつきの少ないかつ剥離力が不要な薄膜の製作が可能となる。したがって、本発明は太陽電池に限定されることはなく、平坦度の高い半導体薄膜材料、半導体材料の製造方法として利用できる。
【符号の説明】
【0137】
10………シリコン薄膜、12………シリコン結晶、12a………シリコン柱、12b………凸部、12c………先端、12d………酸化膜、18………エピタキシャル成長炉、20………原料ガス入口、22………原料ガス出口、24………設置台、26………ヒーター、28………原料ガス、32………シリコン基板、34………露出面、36………不活性面、38………不活性層、40………露出面、42………不活性面、44………シリコン薄膜、46………成長面、48………谷部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板上にシリコン結晶の原料ガスに対して前記シリコン結晶の成長が不活性な不活性層を選択的に形成することにより前記シリコン基板の露出面と前記不活性層による不活性面を形成し、前記原料ガスのうち前記シリコン基板における表面分解反応が支配的な性質を有する原料ガスを前記シリコン基板に供給して前記シリコン結晶を前記露出面から成長させ前記シリコン結晶が前記シリコン基板を覆う態様でシリコン薄膜を製造する方法であって、
前記露出面の幅を0.001μmから1μmの範囲で形成することにより、前記シリコン薄膜を前記シリコン基板から剥離可能な状態で形成することを特徴とするシリコン薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記シリコン薄膜の剥離させる端部に前記不活性層をエッチングするエッチング剤を供給することを特徴とする請求項1に記載のシリコン薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記不活性層を、前記シリコン薄膜の破壊強度より低い破壊強度を有する材料により形成することを特徴とする請求項1または2に記載のシリコン薄膜に製造方法。
【請求項4】
前記不活性層を、酸化膜により形成するとともに、前記酸化膜を酸素リッチの状態で形成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシリコン薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記シリコン薄膜の成長後、前記酸化膜及び前記シリコン薄膜に熱処理を行なうことを特徴とする請求項4に記載のシリコン薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記露出面の幅を0.45μm以下に形成するとともに、前記シリコン薄膜の厚さを40μmまでのいずれかの厚さになるまで成長させることを特徴とする請求項4に記載のシリコン薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記不活性層を形成する材料にP型またはN型のドーパントをドープすることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載にシリコン薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記シリコン基板を曲面形状に形成し、前記不活性層及び前記シリコン結晶を前記シリコン基板の曲面形状の表面に形成することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のシリコン薄膜の製造方法。
【請求項9】
前記原料ガスにP型またはN型のドーパントをドープするとともに、前記シリコン薄膜の形成途中で前記ドーパントをP型またはN型に相互に切り替えることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のシリコン薄膜の製造方法。
【請求項10】
前記シリコン薄膜上に前記不活性面と前記シリコン薄膜が露出する前記露出面とを形成し、前記シリコン薄膜上に新たなシリコン薄膜を形成することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のシリコン薄膜の製造方法。
【請求項11】
前記シリコン基板の周縁領域の少なくとも一辺において前記不活性面の前記露出面に対する面積比を前記シリコン基板の中央領域に比べて大きくしたことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のシリコン薄膜の製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項により形成されたシリコン薄膜の両面に電極を形成することを特徴とするシリコン薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項13】
シリコン結晶により形成され、その主面に凸部が複数配列された態様で形成されたシリコン薄膜であって、
前記凸部は、その幅が0.001μmから1μmであって、前記凸部の先端には前記シリコン結晶を引き裂く態様で形成された剥離痕、及び/もしくは、前記凸部の先端に形成されたシリコン酸化膜をエッチングにより除去した態様で形成されたエッチング痕を有することを特徴とするシリコン薄膜。
【請求項14】
前記シリコン薄膜の厚みが40μm以下、前記凸部の幅が0.45μm以下であって、 前記凸部の先端には前記エッチング痕を有することを特徴とする請求項13に記載のシリコン薄膜。
【請求項15】
請求項13または14に記載のシリコン薄膜の両面に電極を形成してなることを特徴とするシリコン薄膜太陽電池。
【請求項1】
シリコン基板上にシリコン結晶の原料ガスに対して前記シリコン結晶の成長が不活性な不活性層を選択的に形成することにより前記シリコン基板の露出面と前記不活性層による不活性面を形成し、前記原料ガスのうち前記シリコン基板における表面分解反応が支配的な性質を有する原料ガスを前記シリコン基板に供給して前記シリコン結晶を前記露出面から成長させ前記シリコン結晶が前記シリコン基板を覆う態様でシリコン薄膜を製造する方法であって、
前記露出面の幅を0.001μmから1μmの範囲で形成することにより、前記シリコン薄膜を前記シリコン基板から剥離可能な状態で形成することを特徴とするシリコン薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記シリコン薄膜の剥離させる端部に前記不活性層をエッチングするエッチング剤を供給することを特徴とする請求項1に記載のシリコン薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記不活性層を、前記シリコン薄膜の破壊強度より低い破壊強度を有する材料により形成することを特徴とする請求項1または2に記載のシリコン薄膜に製造方法。
【請求項4】
前記不活性層を、酸化膜により形成するとともに、前記酸化膜を酸素リッチの状態で形成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシリコン薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記シリコン薄膜の成長後、前記酸化膜及び前記シリコン薄膜に熱処理を行なうことを特徴とする請求項4に記載のシリコン薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記露出面の幅を0.45μm以下に形成するとともに、前記シリコン薄膜の厚さを40μmまでのいずれかの厚さになるまで成長させることを特徴とする請求項4に記載のシリコン薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記不活性層を形成する材料にP型またはN型のドーパントをドープすることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載にシリコン薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記シリコン基板を曲面形状に形成し、前記不活性層及び前記シリコン結晶を前記シリコン基板の曲面形状の表面に形成することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のシリコン薄膜の製造方法。
【請求項9】
前記原料ガスにP型またはN型のドーパントをドープするとともに、前記シリコン薄膜の形成途中で前記ドーパントをP型またはN型に相互に切り替えることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のシリコン薄膜の製造方法。
【請求項10】
前記シリコン薄膜上に前記不活性面と前記シリコン薄膜が露出する前記露出面とを形成し、前記シリコン薄膜上に新たなシリコン薄膜を形成することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のシリコン薄膜の製造方法。
【請求項11】
前記シリコン基板の周縁領域の少なくとも一辺において前記不活性面の前記露出面に対する面積比を前記シリコン基板の中央領域に比べて大きくしたことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のシリコン薄膜の製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項により形成されたシリコン薄膜の両面に電極を形成することを特徴とするシリコン薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項13】
シリコン結晶により形成され、その主面に凸部が複数配列された態様で形成されたシリコン薄膜であって、
前記凸部は、その幅が0.001μmから1μmであって、前記凸部の先端には前記シリコン結晶を引き裂く態様で形成された剥離痕、及び/もしくは、前記凸部の先端に形成されたシリコン酸化膜をエッチングにより除去した態様で形成されたエッチング痕を有することを特徴とするシリコン薄膜。
【請求項14】
前記シリコン薄膜の厚みが40μm以下、前記凸部の幅が0.45μm以下であって、 前記凸部の先端には前記エッチング痕を有することを特徴とする請求項13に記載のシリコン薄膜。
【請求項15】
請求項13または14に記載のシリコン薄膜の両面に電極を形成してなることを特徴とするシリコン薄膜太陽電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
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【図10】
【図11】
【図12】
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【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−54364(P2012−54364A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195077(P2010−195077)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(509029254)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(509029254)
【Fターム(参考)】
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