シリコン酸化膜の形成方法、及びプラズマ処理装置
【課題】 熱酸化膜と同等以上の膜質を有するシリコン酸化膜を形成できるプラズマ酸化処理方法を提供する。
【解決手段】 処理容器1内を排気装置24により減圧排気しながら、ガス供給装置18の不活性ガス供給源19aおよびオゾンガス供給源19bから、不活性ガスおよびO2とO3との合計に対するO3の体積比率が50%以上であるオゾンガスを所定の流量でガス導入部15を介して処理容器1内に導入する。マイクロ波発生装置39で発生させた所定周波数例えば2.45GHzのマイクロ波を、平面アンテナ31から透過板28を経て処理容器1に放射し、不活性ガスおよびオゾンガスをプラズマ化する。このマイクロ波励起プラズマによりウエハW表面にシリコン酸化膜を形成する。プラズマ酸化処理の間、載置台2に高周波電源44から所定の周波数およびパワーの高周波電力を供給してもよい。
【解決手段】 処理容器1内を排気装置24により減圧排気しながら、ガス供給装置18の不活性ガス供給源19aおよびオゾンガス供給源19bから、不活性ガスおよびO2とO3との合計に対するO3の体積比率が50%以上であるオゾンガスを所定の流量でガス導入部15を介して処理容器1内に導入する。マイクロ波発生装置39で発生させた所定周波数例えば2.45GHzのマイクロ波を、平面アンテナ31から透過板28を経て処理容器1に放射し、不活性ガスおよびオゾンガスをプラズマ化する。このマイクロ波励起プラズマによりウエハW表面にシリコン酸化膜を形成する。プラズマ酸化処理の間、載置台2に高周波電源44から所定の周波数およびパワーの高周波電力を供給してもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、各種の半導体装置の製造過程に適用可能なシリコン酸化膜の形成方法及びプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種半導体装置の製造過程では、シリコン基板を酸化処理してシリコン酸化膜を形成することが行なわれる。シリコン表面にシリコン酸化膜を形成する方法としては、酸化炉やRTP(Rapid Thermal Process)装置を用いる熱酸化処理と、プラズマ処理装置を用いるプラズマ酸化処理とが知られている。
【0003】
例えば、熱酸化処理の一つである酸化炉によるウェット酸化処理では、800℃超の温度にシリコン基板を加熱し、WVG(Water Vapor Generator)装置で生成した水蒸気を用いて酸化雰囲気に曝すことによりシリコン表面を酸化してシリコン酸化膜を形成する。熱酸化処理は、良質なシリコン酸化膜を形成できる方法である。しかし、熱酸化処理は、800℃超の高温による処理が必要であることから、サーマルバジェットが増大し、熱応力によってシリコン基板に歪みなどを生じさせる問題があった。
【0004】
一方、プラズマ酸化処理は、一般に酸素ガスを用いて酸化処理が行なわれる。例えば、特許文献1では、アルゴンガスと酸素ガスを含み、酸素の流量比率が約1%の処理ガスを用い、133.3Paの処理容器内圧力で形成されたマイクロ波励起プラズマをシリコン表面に作用させてプラズマ酸化処理を行なう方法が提案されている。この特許文献1の方法では、処理温度が400℃前後と比較的低温でプラズマ酸化処理が行われるため、熱酸化処理におけるサーマルバジェットの増大や基板の歪みなどの問題を回避することができる。
【0005】
また、酸素ガスの代替ガスとして、オゾンガスを用いてプラズマ酸化処理を行なう技術も提案されている。例えば、特許文献2では、マイクロ波放電穴中で約1トルまでの圧力でオゾンを分解することにより形成されたオゾン分解生成物流に約300℃以下の温度で珪素含有固体を反応させ、二酸化珪素の薄膜を形成する方法が提案されている。
【0006】
また、非特許文献1では、ECR(電子サイクロトロン共鳴)プラズマを用いたシリコンウエハの酸化処理において、1.3Paの処理圧力で、酸素ガスを用いる場合よりもオゾンガスを用いる場合の方が、酸化レートが高いことが報告されている。また、ECRプラズマを利用する非特許文献1では、極低圧の1Pa以下の処理圧力で形成されたシリコン酸化膜の界面準位密度は、酸素ガスを用いる場合とオゾンガスを用いる場合でほぼ同等であることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2004/008519号
【特許文献2】特表平10−500386号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】松村幸輝、T.IEE Japan,Vol.111−A,No.12,1991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に、プラズマ酸化処理により形成されたシリコン酸化膜は、熱酸化処理により形成されたシリコン酸化膜に比べて、プラズマ(イオン等)によるダメージが入るので膜質の点で劣っていると考えられている。そのことが、熱酸化処理が現在でも広く利用されている理由になっている。しかし、プラズマ酸化処理によって、熱酸化膜と同等の良質な膜質のシリコン酸化膜を形成できれば、高温での熱酸化処理に伴う諸問題も回避できる。したがって、プラズマ酸化処理によって、膜質が改善されたシリコン酸化膜を形成できる方法が求められていた。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、熱酸化膜と同等以上の膜質を有するシリコン酸化膜を形成できるプラズマ酸化処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のシリコン酸化膜の形成方法は、プラズマ処理装置の処理容器内で、被処理体の表面に露出したシリコンに、O2とO3との合計に対するO3の体積比率が50%以上であるオゾンガスを含む処理ガスのプラズマを作用させてシリコン酸化膜を形成する工程を含んでいる。
【0012】
本発明のシリコン酸化膜の形成方法は、前記処理容器内の圧力が1.3Pa以上1333Pa以下の範囲内であってもよい。
【0013】
また、本発明のシリコン酸化膜の形成方法は、前記処理容器内で被処理体を載置する載置台に高周波電力を供給しながら酸化処理を行なうものであってもよい。この場合、前記高周波電力は、被処理体の面積当り0.2W/cm2以上1.3W/cm2以下の範囲内の出力で供給されることが好ましい。
【0014】
また、本発明のシリコン酸化膜の形成方法は、処理温度が、被処理体の温度として20℃以上600℃以下の範囲内であってもよい。
【0015】
また、本発明のシリコン酸化膜の形成方法は、前記プラズマが、前記処理ガスと、複数のスロットを有する平面アンテナにより前記処理容器内に導入されるマイクロ波と、によって形成されるマイクロ波励起プラズマであってもよい。この場合、前記マイクロ波のパワー密度が、被処理体の面積あたり0.255W/cm2以上2.55W/cm2以下の範囲内であることが好ましい。
【0016】
本発明のプラズマ酸化処理装置は、プラズマを用いて被処理体を処理する上部が開口した処理容器と、
前記処理容器の前記開口部を塞ぐ誘電体部材と、
前記誘電体部材の外側に設けられ、前記処理容器内に電磁波を導入するためのアンテナと、
前記処理容器内にオゾンガスを含む処理ガスを供給するガス導入部と、
前記処理容器内を排気手段により減圧排気する排気口と、
前記処理容器内で被処理体を載置する載置台と、
前記アンテナによって前記処理容器内に電磁波を導入することにより、前記処理容器内に前記ガス導入部からO2とO3との合計に対するO3の体積比率が50%以上であるオゾンガスを含む処理ガスを供給し、その処理ガスのプラズマを生成させ、該プラズマを被処理体の表面に露出したシリコンに作用させてシリコン酸化膜を形成するように制御する制御部と、を備えるものである。
【0017】
本発明のプラズマ酸化処理装置は、さらに、一端が前記ガス導入部に接続され、他端がオゾンガス供給源に接続され、内部に不動態化処理が施されて前記オゾンガスを前記処理室内に供給するガス供給配管と、備えていてもよい。この場合、前記ガス導入部は、前記処理容器内の処理空間にガスを噴出するガス穴を含むガス流路を有しており、前記ガス流路の一部分もしくは全体と、前記ガス穴の周囲の処理容器の内壁面とに、不動態化処理が施されていてもよい。
【0018】
また、本発明のプラズマ酸化処理装置において、前記載置台に被処理体の面積あたり0.2W/cm2以上1.3W/cm2以下の高周波電力を供給する高周波電源をさらに備えていてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のシリコン酸化膜の形成方法によれば、O2とO3との合計に対するO3の体積比率が50%以上であるオゾンガスを含む処理ガスのプラズマを作用させてシリコン酸化膜を形成することにより、熱酸化膜と同等以上の良質な膜質を有するシリコン酸化膜を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のシリコン酸化膜の形成方法の実施に適したプラズマ処理装置の一例を示す概略断面図である。
【図2】ガス供給装置の構成例を示す図面である。
【図3】処理容器におけるガス導入部の拡大断面図である。
【図4】平面アンテナの構造を示す図面である。
【図5】制御部の構成を示す説明図である。
【図6】実験1における酸化膜のXPSスペクトルから得られたシリコン酸化膜の結合エネルギーとシリコンの結合エネルギーとの差(縦軸)と、酸素の結合エネルギーとシリコン酸化膜の結合エネルギーとの差(横軸)とをプロットしたグラフである。
【図7】実験2におけるシリコン酸化膜の膜厚の処理圧力依存性を示すグラフである。
【図8A】実験3における全処理ガス流量に対するオゾンガス又は酸素ガスの体積流量比率(横軸)と、シリコン酸化膜の膜厚(縦軸)との関係をプロットしたグラフである。
【図8B】O3/(O2+O3)体積比率とO(1D2)ラジカルフラックスとの関係を説明する図面である。
【図9】実験4における載置台に供給した高周波電力のパワー密度(横軸)とシリコン酸化膜のウエハ面内における均一性(縦軸)との関係をプロットしたグラフである。
【図10】実験4における高周波パワー密度(横軸)と酸化膜厚(縦軸)との関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態にかかるシリコン酸化膜の形成方法に利用可能なプラズマ処理装置100の概略構成を模式的に示す断面図である。
【0022】
プラズマ処理装置100は、複数のスロット状の孔を有する平面アンテナ、特にRLSA(Radial Line Slot Antenna;ラジアルラインスロットアンテナ)にて直接処理容器内にマイクロ波を導入して処理容器内でプラズマを発生させることにより、高密度かつ低電子温度のマイクロ波励起プラズマを発生させ得るRLSAマイクロ波プラズマ処理装置として構成されている。プラズマ処理装置100では、例えば1×1010〜5×1012/cm3のプラズマ密度で、かつ0.7〜2eVの低電子温度を有するプラズマによる処理が可能である。従って、プラズマ処理装置100は、各種半導体装置の製造過程において、シリコン酸化膜(例えばSiO2膜)を形成する目的で好適に利用できる。
【0023】
プラズマ処理装置100は、主要な構成として、気密に構成された処理容器1と、ガス供給装置18に接続されて処理容器1内にガスを導入するガス導入部15と、処理容器1内を減圧排気するための排気装置24に接続された排気口11bと、処理容器1の上部に設けられ、処理容器1内にマイクロ波を導入するマイクロ波導入装置27と、これらプラズマ処理装置100の各構成部を制御する制御部50と、を備えている。なお、ガス供給装置18は、プラズマ処理装置100の一部分としてではなく、外部の機構としてプラズマ処理装置100に接続する構成にしてもよい。
【0024】
処理容器1は、接地された略円筒状の容器により形成されている。処理容器1は、アルミニウム等の材質からなる底壁1aと側壁1bとを有している。なお、処理容器1は角筒形状の容器により形成してもよい。
【0025】
処理容器1の内部は、被処理体であるシリコン基板(ウエハW)を水平に支持するための載置台2が設けられている。載置台2は、熱伝導性の高い材質例えばAlN等のセラミックスにより構成されている。この載置台2は、排気室11の底部中央から上方に延びる円筒状の支持部材3により支持されている。支持部材3は、例えばAlN等のセラミックスにより構成されている。
【0026】
また、載置台2には、その外縁部をカバーし、ウエハWをガイドし、載置台2を覆うためのカバーリング4が設けられている。このカバーリング4は、環状に形成されていてもよく、載置台2の全面をカバーしていることが好ましい。カバーリング4によって、ウエハWへの不純物の混入防止を図ることができる。カバーリング4は、例えば石英、単結晶シリコン、ポリシリコン、アモルファスシリコン、SiN等の材質で構成され、これらの中でも石英がもっとも好ましい。また、カバーリング4を構成する前記材質は、アルカリ金属、金属などの不純物の含有量が少ない高純度のものが好ましい。
【0027】
また、載置台2には、温度調節装置としての抵抗加熱型のヒータ5が埋め込まれている。このヒータ5は、ヒータ電源5aから給電されることにより載置台2を加熱して、その熱で被処理体であるウエハWを均一に加熱する。
【0028】
また、載置台2には、熱電対(TC)6が配備されている。この熱電対6によって温度計測を行うことにより、ウエハWの加熱温度を例えば室温から900℃までの範囲で制御可能となっている。
【0029】
また、載置台2には、ウエハWを支持して昇降させるためのウエハ支持ピン(図示せず)が設けられている。各ウエハ支持ピンは、載置台2の表面に対して突没可能に設けられている。
【0030】
処理容器1の内周には、石英からなる円筒状のライナー7が設けられている。また、載置台2の外周側には、処理容器1内を均一排気するため、多数の排気孔8aを有する石英製のバッフルプレート8が環状に設けられている。このバッフルプレート8は、複数の支柱9により支持されている。
【0031】
処理容器1の底壁1aの略中央部には、円形の開口部10が形成されている。底壁1aにはこの開口部10と連通し、下方に向けて突出する排気室11が設けられている。この排気室11には、排気口11bが設けられ、該排気口11bに排気管12が接続されており、この排気管12を介して排気手段としての排気装置24に接続されている。
【0032】
処理容器1の上部には、環状のプレート13が接合されている。プレート13の内周は、内側(処理容器内空間)へ向けて突出し、環状の支持部13aを形成している。このプレート13と処理容器1との間は、シール部材14を介して気密にシールされている。
【0033】
ガス導入部15は、処理容器1の側壁1bに環状に設けられている。このガス導入部15は、処理ガスを供給するガス供給装置18に接続されている。なお、ガス導入部15はノズル状またはシャワー状に設けてもよい。ガス導入部15の構造については、後述する。
【0034】
また、処理容器1の側壁1bには、プラズマ処理装置100と、これに隣接する搬送室(図示せず)との間で、ウエハWの搬入出を行うための搬入出口16と、この搬入出口16を開閉するゲートバルブ17とが設けられている。
【0035】
ガス供給装置18は、例えば不活性ガス供給源19aおよびオゾンガス供給源19bを有している。なお、ガス供給装置18は、上記以外の図示しないガス供給源として、例えば処理容器1内雰囲気を置換する際に用いるパージガス供給源等を有していてもよい。
【0036】
不活性ガスは、安定したプラズマを生成するためのプラズマ励起用ガスとして使われる。不活性ガスとしては、例えば希ガスなどを用いることができる。希ガスとしては、例えばArガス、Krガス、Xeガス、Heガスなどを用いることができる。これらの中でも、経済性に優れ、プラズマを安定に生成できるので均一なプラズマ酸化処理が可能であるArガスを用いることが特に好ましい。
【0037】
オゾンガスは、解離してプラズマを構成する酸素ラジカルや酸素イオンとなり、シリコンに作用してシリコンを酸化する酸素源のガスである。オゾンガスとしては、ガス中に含まれるO2とO3との合計に対するO3の体積比率が50%以上、好ましくは、60%以上80%以下の範囲内である高濃度のオゾンガスを用いることができる。このように、高濃度のオゾンガスを用いることによって、シリコン酸化膜の膜質を向上させることができる。
【0038】
図2は、ガス供給装置18における配管構成を拡大して示す図面であり、図3は、処理容器1におけるガス導入部の構成を拡大して示す図面である。不活性ガスは、不活性ガス供給源19aから、ガス供給配管であるガスライン20a、ガスライン20abを介してガス導入部15に至り、ガス導入部15から処理容器1内に導入される。また、オゾンガスは、オゾンガス供給源19bから、ガス供給配管であるガスライン20b、ガスライン20abを介してガス導入部15に至り、ガス導入部15から処理容器1内に導入される。ガスライン20a及びガスライン20bは、途中で合流して一つのガスライン20abを構成している。各ガス供給源に接続する各々のガスライン20a,20bには、それぞれマスフローコントローラ21a,21bおよびその前後の開閉バルブ22a,22bが設けられている。このようなガス供給装置18の構成により、供給されるガスの切替えや流量等の制御が出来るようになっている。
【0039】
オゾンガス供給源19bは、例えば高濃度のオゾンガスを貯留するオゾンガスボンベであってもよいし、あるいは、高濃度のオゾンガスを発生させるオゾナイザーであってもよい。オゾンガス供給源19bからガス導入部15までを接続するガスライン20b,20abの内表面は、高濃度のオゾンガスを通流させる際に、オゾンの自己分解(失活)と異常反応を防ぐための不動態化処理が施されている。不動態化処理は、例えばステンレス等の材質のガスライン20b,20abの内壁面を、高濃度のオゾンガスで曝し、ステンレスの組成であるFe元素、Cr元素が酸化され金属酸化物の不動態皮膜200を内表面に形成する。具体的には、不動態化処理は、例えばO2とO3との合計に対するO3の体積比率が15〜50体積%のオゾンガスを、例えば60℃〜150℃の温度範囲で、金属表面に作用させることによって行うことが好ましい。この場合、オゾンガス中に2体積%以下の水分を含有させておくことによって、不動態皮膜200の形成を速めることができる。
【0040】
また、本実施の形態のプラズマ処理装置100では、高濃度のオゾンガスを処理容器1内に導入するために、処理容器1に形成されたガス導入部15にも、不動態化処理が施されている。処理容器1のガス導入部15は、ガスライン20abに接続するガス流路を有しており、これらガス流路の一部分又は全体に、ガスライン20b及び20abと同様の不動態化処理がなされ、不動態皮膜200が形成されている。より具体的には、ガス導入部15は、処理容器1の内部に形成されたガス導入路15aと、このガス導入路15aに連通し、処理容器1の壁内にほぼ水平方向に環状に設けられた共通分配路15bと、及びこの共通分配路15bから処理容器1の内部の処理空間までを連通させる複数のガス穴15cとを有している。各ガス穴15cは、処理容器1内の処理空間に臨む開口部であり、該処理空間へ向けてガスを噴出する。本実施の形態では、ガス導入路15a、共通分配路15bの内面に不動態皮膜200が形成されている。なお、必要に応じて、ガス穴15cの内面にも同様に不動態化処理を施すことができる。
【0041】
また、本実施の形態のプラズマ処理装置100では、高濃度のオゾンガスを使用するため、処理容器1に臨むガス穴15cの周囲の壁面にも不動態化処理が施されている。すなわち、図3に示すように、ガス穴15cが設けられた処理容器1の側壁1bの内壁面及び、プレート13の支持部13aの壁面にも、不動態皮膜200が形成されている。
【0042】
以上のように、ガスライン20b,20ab、ガス導入路15a、共通分配路15bの内壁面、さらに、処理容器1のガス穴15cの周囲の壁面にも、不動態化処理を施して不動態皮膜200を設けたことにより、従来のプラズマ処理装置では使用出来なかった高濃度のオゾンガスを使用すること、及び高濃度な状態を維持しながら安定的に処理容器1内に供給することが可能となり、高濃度オゾンガスを用いたプラズマ処理が可能になる。
【0043】
排気装置24は、例えばターボ分子ポンプなどの高速真空ポンプ等の真空ポンプを備えている。前記のように、排気装置24は、排気管12を介して処理容器1の排気室11に接続されている。処理容器1内のガスは、排気室11の空間11a内へ均一に流れ、さらに空間11aから排気装置24を作動させることにより、排気管12を介して外部へ排気される。これにより、処理容器1内を所定の真空度、例えば0.133Paまで高速に減圧することが可能となっている。
【0044】
次に、マイクロ波導入装置27の構成について説明する。マイクロ波導入装置27は、主要な構成として、透過板28、アンテナとしての平面アンテナ31、遅波材33、カバー部材34、導波管37、マッチング回路38およびマイクロ波発生装置39を備えている。
【0045】
マイクロ波を透過させる透過板28は、プレート13において内周側に突出した支持部13a上に配備されている。透過板28は、誘電体、例えば石英やA1203、AlN等のセラミックス等の部材で構成されている。この透過板28と支持部13aとの間は、Oリング等のシール部材29を介して気密にシールされている。したがって、処理容器1内は気密に保持される。
【0046】
アンテナとしての平面アンテナ31は、透過板28の上方(処理容器1の外側)において、載置台2と対向するように設けられている。平面アンテナ31は、円板状をなしている。なお、平面アンテナ31の形状は、円板状に限らず、例えば四角板状でもよい。この平面アンテナ31は、プレート13の上端に係止されている。
【0047】
平面アンテナ31は、例えば表面が金または銀メッキされた銅板、アルミニウム板、ニッケル板およびそれらの合金などの導電性部材で構成されている。平面アンテナ31は、マイクロ波を放射する多数のスロット状のマイクロ波放射孔32を有している。マイクロ波放射孔32は、所定のパターンで平面アンテナ31を貫通して形成されている。
【0048】
図4は、図1のプラズマ処理装置100の平面アンテナを示す平面図である。個々のマイクロ波放射孔32は、例えば図4に示すように、細長い長方形状(スロット状)をなしている。そして、典型的には隣接するマイクロ波放射孔32が「T」字状に配置されている。また、このように所定の形状(例えばT字状)に組み合わせて配置されたマイクロ波放射孔32は、さらに全体として同心円状に配置されている。
【0049】
マイクロ波放射孔32の長さや配列間隔は、マイクロ波の波長(λg)に応じて決定される。例えば、マイクロ波放射孔32の間隔は、λg/4、λg/2またはλgとなるように配置される。なお、図4においては、同心円状に形成された隣接するマイクロ波放射孔32どうしの間隔を△rで示している。なお、マイクロ波放射孔32の形状は、円形状、円弧状等の他の形状であってもよい。さらに、マイクロ波放射孔32の配置形態は特に限定されず、同心円状のほか、例えば、螺旋状、放射状等に配置することもできる。
【0050】
平面アンテナ31の上面には、真空よりも大きい誘電率を有する遅波材33が設けられている。この遅波材33は、真空中ではマイクロ波の波長が長くなることから、マイクロ波の波長を短くしてプラズマを調整する機能を有している。遅波材の材質としては、例えば石英、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリイミド樹脂などを用いることができる。
【0051】
なお、平面アンテナ31と透過板28との間、また、遅波材33と平面アンテナ31との間は、それぞれ接触させても離間させてもよいが、接触させることが好ましい。
【0052】
処理容器1の上部には、これら平面アンテナ31および遅波材33を覆うように、カバー部材34が設けられている。カバー部材34は、例えばアルミニウムやステンレス鋼等の金属材料によって形成されている。カバー部材34と平面アンテナ31によって、偏平導波路が形成され、マイクロ波を処理容器1内に均一に供給できるようになっている。プレート13の上端とカバー部材34とは、シール部材35によりシールされている。また、カバー部材34の内部には、冷却水流路34aが形成されている。この冷却水流路34aに冷却水を通流させることにより、カバー部材34、遅波材33、平面アンテナ31および透過板28を冷却できるようになっている。なお、カバー部材34は接地されている。
【0053】
カバー部材34の上壁(天井部)の中央には、開口部36が形成されており、この開口部36には導波管37が接続されている。導波管37の他端側には、マッチング回路38を介してマイクロ波を発生するマイクロ波発生装置39が接続されている。
【0054】
導波管37は、上記カバー部材34の開口部36から上方へ延出する断面円形状の同軸導波管37aと、この同軸導波管37aの上端部にモード変換器40を介して接続された水平方向に延びる矩形導波管37bとを有している。モード変換器40は、矩形導波管37b内をTEモードで伝播するマイクロ波をTEMモードに変換する機能を有している。
【0055】
同軸導波管37aの中心には内導体41が延在している。この内導体41は、その下端部において平面アンテナ31の中心に接続固定されている。このような構造により、マイクロ波は、同軸導波管37aの内導体41を介して平面アンテナ31により形成される偏平導波路へ放射状に効率よく均一に伝播される。
【0056】
以上のような構成のマイクロ波導入装置27により、マイクロ波発生装置39で発生したマイクロ波が導波管37を介して平面アンテナ31へ伝搬され、さらにマイクロ波放射孔32(スロット)から透過板28を介して処理容器1内に導入されるようになっている。なお、マイクロ波の周波数としては、例えば2.45GHzが好ましく用いられ、他に8.35GHz、1.98GHz等を用いることもできる。
【0057】
また、載置台2の表面側には電極42が埋設されている。この電極42にマッチングボックス(M.B.)43を介してバイアス印加用の高周波電源44が接続されており、電極42に高周波バイアス電力を供給することにより、ウエハW(被処理体)にバイアスを印加できる構成となっている。電極42の材質としては、例えばモリブデン、タングステンなどの導電性材料を用いることができる。電極42は、例えば網目状、格子状、渦巻き状等の形状に形成されている。
【0058】
プラズマ処理装置100の各構成部は、制御部50に接続されて制御される構成となっている。制御部50は、典型的にはコンピュータであり、例えば図5に示したように、CPUを備えたプロセスコントローラ51と、このプロセスコントローラ51に接続されたユーザーインターフェース52および記憶部53を備えている。プロセスコントローラ51は、プラズマ処理装置100において、例えば温度、圧力、ガス流量、マイクロ波出力、バイアス印加用の高周波出力などのプロセス条件に関係する各構成部(例えば、ヒータ電源5a、ガス供給装置18、排気装置24、マイクロ波発生装置39、高周波電源44など)を統括して制御する制御手段である。
【0059】
ユーザーインターフェース52は、工程管理者がプラズマ処理装置100を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボードや、プラズマ処理装置100の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等を有している。また、記憶部53には、プラズマ処理装置100で実行される各種処理をプロセスコントローラ51の制御にて実現するための制御プログラム(ソフトウエア)や処理条件データ等が記録されたレシピなどが保存されている。
【0060】
そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース52からの指示等にて任意のレシピを記憶部53から呼び出してプロセスコントローラ51に実行させることで、プロセスコントローラ51により制御されてプラズマ処理装置100の処理容器1内で所望の処理が行われる。また、前記制御プログラムや処理条件データ等のレシピは、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体、例えばCD−ROM、ハードディスク、フレキシブルディスク、フラッシュメモリ、DVD、ブルーレイディスクなどに格納された状態のものを利用できる。さらに、前記レシピを他の装置から例えば専用回線を介して伝送させて利用することも可能である。
【0061】
このように構成されたプラズマ処理装置100では、600℃以下例えば室温(20℃程度)以上600℃以下の低温で、ウエハW上に形成された下地膜等へのダメージフリーなプラズマ処理を行うことができる。また、プラズマ処理装置100は、プラズマの均一性に優れていることから、大口径のウエハW(被処理体)に対してもプロセスの均一性を実現できる。
【0062】
次に、RLSA方式のプラズマ処理装置100を用いたプラズマ酸化処理について説明する。まず、ゲートバルブ17を開にして搬入出口16からウエハWを処理容器1内に搬入し、載置台2上に載置する。
【0063】
次に、処理容器1内を排気装置24の真空ポンプにより減圧排気しながら、ガス供給装置18の不活性ガス供給源19a、およびオゾンガス供給源19bから、不動態処理されたガス供給配管(ガスライン20b,20ab)を介して不活性ガスおよび高濃度のオゾンガスを所定の流量でそれぞれガス導入部15より処理容器1内に導入する。このようにして、処理容器1内を所定の圧力に調節する。
【0064】
次に、マイクロ波発生装置39で発生させた所定周波数例えば2.45GHzのマイクロ波を、マッチング回路38を介して導波管37に導く。導波管37に導かれたマイクロ波は、矩形導波管37bおよび同軸導波管37aを順次通過し、内導体41を介して平面アンテナ31に供給される。つまり、マイクロ波は、矩形導波管37b内ではTEモードで伝搬し、このTEモードのマイクロ波はモード変換器40でTEMモードに変換されて、同軸導波管37a内を平面アンテナ31に向けて伝搬されていく。そして、マイクロ波は、平面アンテナ31に貫通形成されたスロット状のマイクロ波放射孔32から誘電体としての透過板28を介して処理容器1内におけるウエハWの上方空間に放射される。この際のマイクロ波出力は、例えば200mm径以上のウエハWを処理する場合には、パワー密度として0.255〜2.55W/cm2の範囲内から選択することができる。
【0065】
平面アンテナ31から透過板28を経て処理容器1に放射されたマイクロ波により、処理容器1内で電磁界が形成され、不活性ガスおよびオゾンガスがそれぞれプラズマ化する。このマイクロ波励起プラズマは、マイクロ波が平面アンテナ31の多数のマイクロ波放射孔32から放射されることにより、略1×1010〜5×1012/cm3の高密度で、かつウエハW近傍では、略1.2eV以下の低電子温度プラズマとなる。このようにして形成されるプラズマは、ウエハWへのイオン等によるプラズマダメージが少ない。その結果、プラズマ中の活性種例えばラジカルやイオンの作用によりウエハW表面に形成されたシリコン(単結晶シリコン、多結晶シリコンまたはアモルファスシリコン)に対してプラズマ酸化処理が行われ、良質なシリコン酸化膜が形成される。
【0066】
また、プラズマ酸化処理を行なっている間、必要に応じて載置台2に高周波電源44から所定の周波数およびパワーの高周波電力を供給することができる。この高周波電源44から供給される高周波電力によって、ウエハWに高周波バイアス電圧(高周波バイアス)が印加され、その結果、プラズマの低い電子温度を維持しつつ、プラズマ酸化処理の異方性が促進される。すなわち、高周波バイアスがウエハWに印加されることにより、ウエハWの近傍に電磁界が形成され、これがプラズマ中のイオンをウエハWへ引き込むように作用するため、酸化レートを増大させるように作用する。
【0067】
<プラズマ酸化処理条件>
ここで、プラズマ処理装置100において行なわれるプラズマ酸化処理の好ましい条件について説明を行う。処理ガスとしては、オゾンガスとともに、不活性ガスとしてArガスを使用することが好ましい。オゾンガスとしては、オゾンガス中に含まれるO2とO3との合計に対するO3の体積比率が50%以上である高濃度のオゾンガスを用いる。高濃度オゾンを含むガスのプラズマでは、O(1D2)ラジカルの生成量が増加するので、高い酸化レートで、かつ良質な膜質のシリコン酸化膜が得られる。これに対して、オゾンガス中のO2とO3との合計に対するO3の体積比率が50%未満では、従来のO2ガスのプラズマのO(1D2)ラジカルの生成量と差がなく、処理レートが変わらないので、高い酸化レートで、かつ良質な膜質のシリコン酸化膜を得ることは困難である。
【0068】
また、全処理ガス中に含まれるオゾンガス(O2とO3の合計)の流量比率(体積比率)は、十分な酸化レートを得る観点から、0.001%以上5%以下の範囲内とすることが可能であり、0.01%以上2%以下の範囲内が好ましく、0.1%以上1%以下の範囲内がより好ましい。上記範囲内の流量比率でも、高濃度オゾンを含むプラズマでは、O(1D2)ラジカルの増加により、高速で且つ良質な膜質のシリコン酸化膜が得られる。
【0069】
また、処理圧力は、例えば1.3Pa以上1333Pa以下の範囲内とすることができる。この圧力範囲の中でも、良好な膜質を維持しつつ高い酸化レートを得る観点から、1.3Pa以上133Pa以下の範囲内に設定することが好ましく、1.3Pa以上66.6Pa以下の範囲内がより好ましく、1.3Pa以上26.6Pa以下の範囲内が望ましい。
【0070】
また、上記処理ガス中のオゾンガスの流量比率と処理圧力の好ましい組み合わせは次のとおりである。良好な膜質のシリコン酸化膜を高い酸化レートで形成するためには、処理ガス中のオゾンガスの流量比率(体積比率)を0.01%以上2%以下の範囲内とし、かつ処理圧力を1.3Pa以上26.6Pa以下の範囲内とすることが好ましい。
【0071】
本実施の形態では、プラズマ酸化処理を行なっている間、高周波電源44から所定の周波数およびパワーの高周波電力を載置台2に供給し、ウエハWに高周波バイアスを印加することが好ましい。高周波電源44から供給される高周波電力の周波数は、例えば100kHz以上60MHz以下の範囲内が好ましく、400kHz以上13.5MHz以下の範囲内がより好ましい。高周波電力は、ウエハWの面積当たりのパワー密度として例えば0.2W/cm2以上で印加することが好ましく、0.2W/cm2以上1.3W/cm2以下の範囲内で印加することがより好ましい。また、高周波のパワーは200W以上2000W以下の範囲内が好ましく、300W以上1200W以下の範囲内がより好ましい。載置台2に印加された高周波電力は、プラズマの低い電子温度を維持しつつ、プラズマ中のイオン種をウエハWへ引き込む作用を有している。従って、高周波電力を印加することにより、イオンアシスト作用が強まり、シリコンの酸化レートを向上させることができる。また、本実施の形態では、ウエハWへ高周波バイアスを印加しても、低電子温度のプラズマであるため、シリコン酸化膜へのプラズマ中のイオン等によるダメージがなく、高酸化レートにより短時間で良質なシリコン酸化膜を形成することが出来る。
【0072】
また、プラズマ酸化処理におけるマイクロ波のパワー密度は、プラズマダメージを抑制する観点から、0.255W/cm2以上2.55W/cm2以下の範囲内とすることが好ましい。なお、本発明においてマイクロ波のパワー密度は、ウエハWの面積1cm2あたりのマイクロ波パワーを意味する。例えば300mm径以上のウエハWを処理する場合には、マイクロ波パワーを500W以上5000W未満の範囲内とすることが好ましく、1000W以上4000W以下とすることがより好ましい。
【0073】
また、処理温度は、ウエハWの加熱温度として、例えば20℃(室温)以上600℃以下の範囲内とすることが好ましく、200℃以上500℃以下の範囲内に設定することがより好ましく、400℃以上500℃以下の範囲内に設定することが望ましい。低温かつ高酸化レートにより短時間で良質なシリコン酸化膜を形成することが出来る。
【0074】
プラズマの生成過程で、オゾンガスの解離は、以下の式(i)〜(iii)のようにして起こると考えられる。
O3+e→O2+O(1D2) …(i)
O2+e→2O(3P2)+e→O(1D2)+O(3P2)+e …(ii)
O2+e→O2++2e …(iii)
[上記式(i)〜(iii)中、eは電子である]
【0075】
式(i)〜(iii)の中で、(ii)及び(iii)は、O2の解離である。したがって、処理ガスとしてO2ガスのみを用いる場合には、上記(ii)及び(iii)の解離反応しか生じない。一方、処理ガスとしてオゾンガス(O3とO2を含む)を用いる場合には、上記式(i)〜(iii)の解離反応が生じることになる。そのため、オゾンガスの解離には、O(1D2)ラジカルが生成する機会が酸素ガスの解離よりも多くなることが理解される。また、プラズマ生成過程で発生する電子(e)の多くが式(i)の解離反応によって消費されるため、式(ii)、(iii)の酸素ガスの解離が相対的に減少する。従って、オゾンガスを用いるプラズマでは、酸素ガスを用いる場合に比べて、O(1D2)ラジカルが豊富なプラズマを生成できる。つまり、酸素ガスを利用するプラズマに比較して、オゾンガスを利用するプラズマでは、イオンとラジカルのバランスが変化し、ラジカル主体のプラズマを生成することが可能になるものと考えられる。その結果、形成されるシリコン酸化膜の膜質が良質なものとなる。
【0076】
本実施の形態では、O3を高濃度に含むオゾンガスを用いることによって、O(1D2)ラジカルが豊富なプラズマを生成できる。その結果、O(1D2)ラジカル主体の酸化反応が進み、600℃以下の比較的低い処理圧力でも熱酸化膜と同等の良質なシリコン酸化膜を形成できる。特に、マイクロ波のパワー密度を0.255W/cm2以上2.55W/cm2以下の範囲内とすることによって、プラズマダメージを抑制することができるのでシリコン酸化膜の膜質をさらに向上させることができる。また、O3を高濃度に含むオゾンガスを用いることにより、全処理ガス中に含まれるオゾンガス(O2とO3の合計)の流量比率(体積比率)が0.001%以上5%以下の範囲内の比較的低い流量比率でも、O(1D2)ラジカルの増加により、高速で且つ良質な膜質のシリコン酸化膜が得られる。また、RLSA方式のプラズマ処理装置100における酸化の機構は、イオンアシストのラジカル酸化であり、O2+イオンがO(1D2)ラジカルによる酸化を促進して酸化レートの向上に寄与していると考えられるが、O2+イオンが多くなる133Pa以下(好ましくは66.6Pa以下、より好ましくは26.6Pa以下)の処理圧力では、O3を高濃度に含むオゾンガスのプラズマ中にO(1D2)ラジカルとO2+イオンがバランス良く生成するため、O2+イオンのアシストによるO(1D2)ラジカル主体の酸化が効率良く進み、酸化レートが向上するものと考えられる。また、プラズマ酸化処理を行なっている間、高周波電源44からウエハWの面積当たりのパワー密度として例えば0.2W/cm2以上の高周波電力を載置台2に供給し、ウエハWに高周波バイアスを印加することにより、上記イオンアシスト作用を強め、シリコンの酸化レートをさらに向上させることができる。
【0077】
以上の条件は、制御部50の記憶部53にレシピとして保存されている。そして、プロセスコントローラ51がそのレシピを読み出してプラズマ処理装置100の各構成部例えばガス供給装置18、排気装置24、マイクロ波発生装置39、ヒータ電源5a、高周波電源44などへ制御信号を送出することにより、所望の条件でのプラズマ酸化処理が実現する。
【0078】
本発明のプラズマ酸化処理方法により形成されたシリコン酸化膜は、熱酸化膜と同等の優れた膜質を有するので、例えばトランジスタのゲート絶縁膜等の用途に好ましく利用できる。
【0079】
次に、本発明の効果を確認した試験結果について説明する。
[実験1]
下記の条件で酸化処理を行ない、シリコン基板(ウエハW)の表面にシリコン酸化膜を形成した。条件1は、本発明方法によるO3プラズマ酸化、条件2は比較例としてのO2プラズマ酸化、条件3は比較例としての熱酸化である。なお、使用したオゾン濃度[O3/(O2+O3)の百分率]は約80体積%である。
【0080】
<条件1;O3プラズマ酸化>
Ar流量:163.3mL/min(sccm)
O3流量:1.7mL/min(sccm)
処理圧力:133Pa
マイクロ波パワー:4000W(パワー密度2.05W/cm2)
処理温度(ウエハWの温度として):400℃
処理時間(形成膜厚):3分(3.4nm)、6分(4.6nm)、10分(6.0nm)
【0081】
<条件2;O2プラズマ酸化>
Ar流量:163.3mL/min(sccm)
O2流量:1.7mL/min(sccm)
処理圧力:133Pa
マイクロ波パワー:4000W(パワー密度2.05W/cm2)
処理温度(ウエハWの温度として):400℃
処理時間(形成膜厚):3分(4.6nm)、6分(5.6nm)、10分(6.8nm)
【0082】
<条件3;熱酸化>
O2流量:450mL/min(sccm)
H2流量:450mL/min(sccm)
処理圧力:700Pa
処理温度(ウエハWの温度として):950℃
処理時間(形成膜厚):26分(5.2nm)
【0083】
条件1〜3の酸化処理で形成されたシリコン酸化膜をXPS(X線光電子分光)分析により測定した。図6は、XPSスペクトルから得られたシリコン酸化膜(Si2p4+)とシリコン基板(Si2p0)の結合エネルギーの差(Si2p4+−Si2p0)を縦軸にとり、酸素の結合エネルギー(O1s)とシリコン酸化膜(Si2p4+)の結合エネルギーの差(O1s−Si2p4+)を横軸にとり、各シリコン酸化膜についてプロットしたグラフである。図6から、横軸の値(O1s−Si2p4+)については、各シリコン酸化膜で大きな差異はないことがわかる。これは、XPSスペクトルで観測されるSi−O結合に変化がないことを示している。一方、縦軸の値(Si2p4+−Si2p0)について、条件1のO3プラズマ酸化は、条件3の熱酸化と同様な値を示したのに対し、条件2のO2プラズマ酸化は、条件1、条件3に比べて高い値を示した。図6の縦軸の値が大きいほど、XPS測定時にシリコン酸化膜中でX線照射による電荷捕獲現象が生じたことを示しており、X線照射による劣化の度合いが大きいことを意味している。従って、条件1のO3プラズマ酸化は、条件2のO2プラズマ酸化に比べて膜質が改善されており、熱酸化膜とほぼ同等の膜質であることを示している。このように、処理ガスとしてO3/(O2+O3)体積比率50%以上の高濃度のオゾンガスを利用することにより、処理温度が400℃という低温での処理にも関わらず、950℃の熱酸化処理と同等の膜質を有するシリコン酸化膜を形成できることが確認できた。
【0084】
[実験2]
下記の条件で酸化処理を行ない、シリコン基板(ウエハW)の表面にシリコン酸化膜を形成した。条件3は、本発明方法によるO3プラズマ酸化、条件4は比較例としてのO2プラズマ酸化である。なお、使用したオゾン濃度[O3/(O2+O3)の百分率]は約60〜80重量%である。
【0085】
<条件3;O3プラズマ酸化>
Ar流量:163.3mL/min(sccm)
O3流量:1.7mL/min(sccm)
処理圧力:1.3Pa、6.7Pa、26.6Pa、66.6Pa
マイクロ波パワー:4000W(パワー密度2.05W/cm2)
処理温度(ウエハWの温度として):400℃
処理時間:3分
【0086】
<条件4;O2プラズマ酸化>
Ar流量:163.3mL/min(sccm)
O2流量:1.7mL/min(sccm)
処理圧力:1.3Pa、6.7Pa、26.6Pa、66.6Pa
マイクロ波パワー:4000W(パワー密度2.05W/cm2)
処理温度(ウエハWの温度として):400℃
処理時間:3分
【0087】
図7に、上記の条件で形成したシリコン酸化膜の膜厚の処理圧力依存性を示した。図7の縦軸はシリコン酸化膜の膜厚(屈折率1.462における光学膜厚;以下同様である)であり、横軸は処理圧力である。この結果から、26.6Pa付近の処理圧力では、条件3のO3プラズマ酸化と条件4のO2プラズマ酸化との比較で、酸化膜厚がほぼ同程度であるが、それよりも低い処理圧力では、条件3のO3プラズマ酸化の酸化膜厚の方が条件4のO2プラズマ酸化の酸化膜厚よりも大きくなっており、酸化レートが高い。この結果は、シリコン酸化膜の形成に寄与するO(1D2)ラジカルとO2+イオンとのバランスにより説明できる。上記式(i)〜(iii)の解離反応で説明したように、O3プラズマ酸化では、O2プラズマ酸化に比べてO(1D2)ラジカルが圧倒的に多く、O2+イオンは少ないと考えられる。RLSA方式のプラズマ処理装置100における酸化の機構は、イオンアシストのラジカル酸化であり、O2+イオンがO(1D2)ラジカルによる酸化を促進して酸化レートの向上に寄与していると考えられる。O2+イオンの生成には、O(1D2)ラジカルの生成よりも高いエネルギーが必要であるため、電子温度が低くなる高圧側ではO2+イオンが生成しにくい一方で、電子温度が高い低圧側ではO2+イオンが生成しやすくなる(なお、低圧、高圧の表現は約133Pa付近より下を低圧、それより上を高圧とし、相対的な意味で用いる)。
【0088】
条件3のO3プラズマ酸化の場合、O(1D2)ラジカルが豊富なラジカル主体の酸化であるが、酸化を促進するO2+イオンが少ない高圧側では、酸化レートが低下する。しかし、O2+イオンが多くなる低圧側では、O(1D2)ラジカルとO2+イオンがバランス良く存在するため、O2+イオンのアシストによるO(1D2)ラジカル主体の酸化が効率良く進み、酸化レートが向上するものと考えられる。これに対し、条件4のO2プラズマ酸化では、上記式(i)〜(iii)の解離機構によれば、O2+イオンに比べてO(1D2)ラジカルが不足する結果、酸化レートがO(1D2)ラジカルにより律速されてしまうことが、低圧側での酸化レートがあまり向上しない原因であると考えられる。本発明のプラズマ酸化処理方法において、処理圧力は特に限定されないが、O(1D2)ラジカルが多量に生成するO3プラズマ酸化では、酸化レートの向上という観点から、133Paより低い処理圧力が有効であり、1.3Pa以上66.6Pa以下の範囲内がより好ましく、1.3Pa以上26.6Pa以下の範囲内が望ましいことが確認された。
【0089】
[実験3]
下記の条件で酸化処理を行ない、シリコン基板(ウエハW)の表面にシリコン酸化膜を形成した。条件5は、本発明方法によるO3プラズマ酸化、条件6は比較例としてのO2プラズマ酸化である。なお、使用したオゾン濃度[O3/(O2+O3)の百分率]は約60〜80体積%である。
【0090】
<条件5;O3プラズマ酸化>
体積流量比率[O3流量/(O3流量+Ar流量)の百分率]:0.001%、0.01%、0.1%
処理圧力:133Pa
マイクロ波パワー:4000W(パワー密度2.05W/cm2)
処理温度(ウエハWの温度として):400℃
処理時間:3分
【0091】
<条件6;O2プラズマ酸化>
体積流量比率[O2流量/(O2流量+Ar流量)の百分率]:0.001%、0.01%、0.1%
処理圧力:133Pa
マイクロ波パワー:4000W(パワー密度2.05W/cm2)
処理温度(ウエハWの温度として):400℃
処理時間:3分
【0092】
図8Aは、全処理ガス流量に対するオゾンガス又は酸素ガスの体積流量比率(横軸)と、シリコン酸化膜の膜厚(縦軸)との関係をプロットしたものである。条件5のO3プラズマ酸化では、0.1%程度の低い体積流量比率でも、条件6のO2プラズマ酸化より酸化膜厚が大きくなっており、低濃度でも高い酸化レートが得られている。上記式(i)〜(iii)の解離反応で説明したように、O3プラズマ酸化では、O2プラズマ酸化に比べてO(1D2)ラジカルが多いラジカル主体の酸化である。ここで、図8Bは、O3/(O2+O3)体積比率とO(1D2)ラジカルフラックスとの関係をあらわしている。この図8Bから、O3/(O2+O3)体積比率が50%以上になると、O(1D2)ラジカルフラックスが十分に増加していることが読み取れる。このため、O3をO3/(O2+O3)体積比率が50%以上の高濃度に含むオゾンガスを用いることによって、図8Aに示すように、処理ガス中のオゾンガスの体積流量比率が0.1%以下でも、O2プラズマ酸化を超える十分な酸化レートが得られるものと考えられる。
【0093】
[実験4]
次に、プラズマ処理装置100を用い、載置台2に高周波電力を供給した場合としない場合との相違を調べた。下記の条件で酸化処理を行ない、シリコン基板(ウエハW)の表面にシリコン酸化膜を形成した。条件7は、本発明方法によるO3プラズマ酸化、条件8は比較例としてのO2プラズマ酸化である。なお、使用したオゾン濃度[O3/(O2+O3)の百分率]は約60〜80体積%である。
【0094】
<条件7;O3プラズマ酸化>
Ar流量:163.3mL/min(sccm)
O3流量:1.7mL/min(sccm)
処理圧力:133Pa
高周波バイアスの周波数:13.56MHz
高周波パワー:0W(印加せず)、150W、300W、600W、900W
高周波パワー密度:0W/cm2、0.21W/cm2、0.42W/cm2、0.85W/cm2、1.27W/cm2
マイクロ波パワー:4000W(パワー密度2.05W/cm2)
処理温度(ウエハWの温度として):400℃
処理時間:3分
【0095】
<条件8;O2プラズマ酸化>
Ar流量:163.3mL/min(sccm)
O2流量:1.7mL/min(sccm)
処理圧力:133Pa
高周波バイアスの周波数:13.56MHz
高周波パワー:0W(印加せず)、150W、300W、600W、900W
高周波パワー密度:0W/cm2、0.21W/cm2、0.42W/cm2、0.85W/cm2、1.27W/cm2
マイクロ波パワー:4000W(パワー密度2.05W/cm2)
処理温度(ウエハWの温度として):400℃
処理時間:3分
【0096】
図9は、載置台2に供給した高周波電力のパワー密度(横軸)とシリコン酸化膜のウエハ面内における均一性(縦軸)との関係を示しており、図10は、高周波パワー密度(横軸)と酸化膜厚(縦軸)との関係を示している。なお、図9におけるウエハ面内均一性は、(ウエハ面内の最大膜厚−同最小膜厚)/(ウエハ面内の平均膜厚×2)の百分率(×100%)により算出した。図9に示すように、条件7のO3プラズマ酸化では、高周波バイアスのパワー密度が増加するに伴いウエハ面内での均一性が改善されており、条件8のO2プラズマ酸化とは逆の傾向を示した。また、図10に示すように、条件7のO3プラズマ酸化の酸化膜厚は、高周波バイアスのパワー密度が増加するに伴い大きくなっており、高周波パワー密度が0.85W/cm2で条件8のO2プラズマ酸化と略同等の酸化レートが得られるまで向上している。以上の結果から、載置台2に供給した高周波電力を供給することによって、イオンやラジカルが引き込まれるので、O3プラズマ酸化における酸化レートを高めることができるとともに、ウエハWの面内での酸化膜厚の均一性も向上させ得ることが確認できた。また、少なくとも、高周波パワー密度が0.2〜1.3W/cm2の範囲では、パワー密度を大きくしていくほど、ウエハWの面内での均一性が改善され、かつ酸化レートも向上する傾向にあることが確認できた。
【0097】
以上、本発明の実施の形態を挙げて説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく、種々の変形が可能である。例えば上記実施の形態では、本発明のシリコン酸化膜の形成方法を行う装置として最適なRLSA方式のプラズマ処理装置を例に挙げて説明した。しかし、プラズマを生成する方式としては、誘導結合型方式(ICP)、マグネトロン方式、ECR方式、表面波方式等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0098】
1…処理容器、2…載置台、3…支持部材、5…ヒ一夕、12…排気管、15…ガス導入部、16…搬入出口、17…ゲートバルブ、18…ガス供給装置、19a…不活性ガス供給源、19b…オゾンガス供給源、24…排気装置、28…透過板、29…シール部材、31…平面アンテナ、32…マイクロ波放射孔、37…導波管、37a…同軸導波管、37b…矩形導波管、39…マイクロ波発生装置、50…制御部、51…プロセスコントローラ、52…ユーザーインターフェース、53…記憶部、100…プラズマ処理装置、W…半導体ウエハ(基板)
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、各種の半導体装置の製造過程に適用可能なシリコン酸化膜の形成方法及びプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種半導体装置の製造過程では、シリコン基板を酸化処理してシリコン酸化膜を形成することが行なわれる。シリコン表面にシリコン酸化膜を形成する方法としては、酸化炉やRTP(Rapid Thermal Process)装置を用いる熱酸化処理と、プラズマ処理装置を用いるプラズマ酸化処理とが知られている。
【0003】
例えば、熱酸化処理の一つである酸化炉によるウェット酸化処理では、800℃超の温度にシリコン基板を加熱し、WVG(Water Vapor Generator)装置で生成した水蒸気を用いて酸化雰囲気に曝すことによりシリコン表面を酸化してシリコン酸化膜を形成する。熱酸化処理は、良質なシリコン酸化膜を形成できる方法である。しかし、熱酸化処理は、800℃超の高温による処理が必要であることから、サーマルバジェットが増大し、熱応力によってシリコン基板に歪みなどを生じさせる問題があった。
【0004】
一方、プラズマ酸化処理は、一般に酸素ガスを用いて酸化処理が行なわれる。例えば、特許文献1では、アルゴンガスと酸素ガスを含み、酸素の流量比率が約1%の処理ガスを用い、133.3Paの処理容器内圧力で形成されたマイクロ波励起プラズマをシリコン表面に作用させてプラズマ酸化処理を行なう方法が提案されている。この特許文献1の方法では、処理温度が400℃前後と比較的低温でプラズマ酸化処理が行われるため、熱酸化処理におけるサーマルバジェットの増大や基板の歪みなどの問題を回避することができる。
【0005】
また、酸素ガスの代替ガスとして、オゾンガスを用いてプラズマ酸化処理を行なう技術も提案されている。例えば、特許文献2では、マイクロ波放電穴中で約1トルまでの圧力でオゾンを分解することにより形成されたオゾン分解生成物流に約300℃以下の温度で珪素含有固体を反応させ、二酸化珪素の薄膜を形成する方法が提案されている。
【0006】
また、非特許文献1では、ECR(電子サイクロトロン共鳴)プラズマを用いたシリコンウエハの酸化処理において、1.3Paの処理圧力で、酸素ガスを用いる場合よりもオゾンガスを用いる場合の方が、酸化レートが高いことが報告されている。また、ECRプラズマを利用する非特許文献1では、極低圧の1Pa以下の処理圧力で形成されたシリコン酸化膜の界面準位密度は、酸素ガスを用いる場合とオゾンガスを用いる場合でほぼ同等であることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2004/008519号
【特許文献2】特表平10−500386号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】松村幸輝、T.IEE Japan,Vol.111−A,No.12,1991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に、プラズマ酸化処理により形成されたシリコン酸化膜は、熱酸化処理により形成されたシリコン酸化膜に比べて、プラズマ(イオン等)によるダメージが入るので膜質の点で劣っていると考えられている。そのことが、熱酸化処理が現在でも広く利用されている理由になっている。しかし、プラズマ酸化処理によって、熱酸化膜と同等の良質な膜質のシリコン酸化膜を形成できれば、高温での熱酸化処理に伴う諸問題も回避できる。したがって、プラズマ酸化処理によって、膜質が改善されたシリコン酸化膜を形成できる方法が求められていた。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、熱酸化膜と同等以上の膜質を有するシリコン酸化膜を形成できるプラズマ酸化処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のシリコン酸化膜の形成方法は、プラズマ処理装置の処理容器内で、被処理体の表面に露出したシリコンに、O2とO3との合計に対するO3の体積比率が50%以上であるオゾンガスを含む処理ガスのプラズマを作用させてシリコン酸化膜を形成する工程を含んでいる。
【0012】
本発明のシリコン酸化膜の形成方法は、前記処理容器内の圧力が1.3Pa以上1333Pa以下の範囲内であってもよい。
【0013】
また、本発明のシリコン酸化膜の形成方法は、前記処理容器内で被処理体を載置する載置台に高周波電力を供給しながら酸化処理を行なうものであってもよい。この場合、前記高周波電力は、被処理体の面積当り0.2W/cm2以上1.3W/cm2以下の範囲内の出力で供給されることが好ましい。
【0014】
また、本発明のシリコン酸化膜の形成方法は、処理温度が、被処理体の温度として20℃以上600℃以下の範囲内であってもよい。
【0015】
また、本発明のシリコン酸化膜の形成方法は、前記プラズマが、前記処理ガスと、複数のスロットを有する平面アンテナにより前記処理容器内に導入されるマイクロ波と、によって形成されるマイクロ波励起プラズマであってもよい。この場合、前記マイクロ波のパワー密度が、被処理体の面積あたり0.255W/cm2以上2.55W/cm2以下の範囲内であることが好ましい。
【0016】
本発明のプラズマ酸化処理装置は、プラズマを用いて被処理体を処理する上部が開口した処理容器と、
前記処理容器の前記開口部を塞ぐ誘電体部材と、
前記誘電体部材の外側に設けられ、前記処理容器内に電磁波を導入するためのアンテナと、
前記処理容器内にオゾンガスを含む処理ガスを供給するガス導入部と、
前記処理容器内を排気手段により減圧排気する排気口と、
前記処理容器内で被処理体を載置する載置台と、
前記アンテナによって前記処理容器内に電磁波を導入することにより、前記処理容器内に前記ガス導入部からO2とO3との合計に対するO3の体積比率が50%以上であるオゾンガスを含む処理ガスを供給し、その処理ガスのプラズマを生成させ、該プラズマを被処理体の表面に露出したシリコンに作用させてシリコン酸化膜を形成するように制御する制御部と、を備えるものである。
【0017】
本発明のプラズマ酸化処理装置は、さらに、一端が前記ガス導入部に接続され、他端がオゾンガス供給源に接続され、内部に不動態化処理が施されて前記オゾンガスを前記処理室内に供給するガス供給配管と、備えていてもよい。この場合、前記ガス導入部は、前記処理容器内の処理空間にガスを噴出するガス穴を含むガス流路を有しており、前記ガス流路の一部分もしくは全体と、前記ガス穴の周囲の処理容器の内壁面とに、不動態化処理が施されていてもよい。
【0018】
また、本発明のプラズマ酸化処理装置において、前記載置台に被処理体の面積あたり0.2W/cm2以上1.3W/cm2以下の高周波電力を供給する高周波電源をさらに備えていてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のシリコン酸化膜の形成方法によれば、O2とO3との合計に対するO3の体積比率が50%以上であるオゾンガスを含む処理ガスのプラズマを作用させてシリコン酸化膜を形成することにより、熱酸化膜と同等以上の良質な膜質を有するシリコン酸化膜を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のシリコン酸化膜の形成方法の実施に適したプラズマ処理装置の一例を示す概略断面図である。
【図2】ガス供給装置の構成例を示す図面である。
【図3】処理容器におけるガス導入部の拡大断面図である。
【図4】平面アンテナの構造を示す図面である。
【図5】制御部の構成を示す説明図である。
【図6】実験1における酸化膜のXPSスペクトルから得られたシリコン酸化膜の結合エネルギーとシリコンの結合エネルギーとの差(縦軸)と、酸素の結合エネルギーとシリコン酸化膜の結合エネルギーとの差(横軸)とをプロットしたグラフである。
【図7】実験2におけるシリコン酸化膜の膜厚の処理圧力依存性を示すグラフである。
【図8A】実験3における全処理ガス流量に対するオゾンガス又は酸素ガスの体積流量比率(横軸)と、シリコン酸化膜の膜厚(縦軸)との関係をプロットしたグラフである。
【図8B】O3/(O2+O3)体積比率とO(1D2)ラジカルフラックスとの関係を説明する図面である。
【図9】実験4における載置台に供給した高周波電力のパワー密度(横軸)とシリコン酸化膜のウエハ面内における均一性(縦軸)との関係をプロットしたグラフである。
【図10】実験4における高周波パワー密度(横軸)と酸化膜厚(縦軸)との関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態にかかるシリコン酸化膜の形成方法に利用可能なプラズマ処理装置100の概略構成を模式的に示す断面図である。
【0022】
プラズマ処理装置100は、複数のスロット状の孔を有する平面アンテナ、特にRLSA(Radial Line Slot Antenna;ラジアルラインスロットアンテナ)にて直接処理容器内にマイクロ波を導入して処理容器内でプラズマを発生させることにより、高密度かつ低電子温度のマイクロ波励起プラズマを発生させ得るRLSAマイクロ波プラズマ処理装置として構成されている。プラズマ処理装置100では、例えば1×1010〜5×1012/cm3のプラズマ密度で、かつ0.7〜2eVの低電子温度を有するプラズマによる処理が可能である。従って、プラズマ処理装置100は、各種半導体装置の製造過程において、シリコン酸化膜(例えばSiO2膜)を形成する目的で好適に利用できる。
【0023】
プラズマ処理装置100は、主要な構成として、気密に構成された処理容器1と、ガス供給装置18に接続されて処理容器1内にガスを導入するガス導入部15と、処理容器1内を減圧排気するための排気装置24に接続された排気口11bと、処理容器1の上部に設けられ、処理容器1内にマイクロ波を導入するマイクロ波導入装置27と、これらプラズマ処理装置100の各構成部を制御する制御部50と、を備えている。なお、ガス供給装置18は、プラズマ処理装置100の一部分としてではなく、外部の機構としてプラズマ処理装置100に接続する構成にしてもよい。
【0024】
処理容器1は、接地された略円筒状の容器により形成されている。処理容器1は、アルミニウム等の材質からなる底壁1aと側壁1bとを有している。なお、処理容器1は角筒形状の容器により形成してもよい。
【0025】
処理容器1の内部は、被処理体であるシリコン基板(ウエハW)を水平に支持するための載置台2が設けられている。載置台2は、熱伝導性の高い材質例えばAlN等のセラミックスにより構成されている。この載置台2は、排気室11の底部中央から上方に延びる円筒状の支持部材3により支持されている。支持部材3は、例えばAlN等のセラミックスにより構成されている。
【0026】
また、載置台2には、その外縁部をカバーし、ウエハWをガイドし、載置台2を覆うためのカバーリング4が設けられている。このカバーリング4は、環状に形成されていてもよく、載置台2の全面をカバーしていることが好ましい。カバーリング4によって、ウエハWへの不純物の混入防止を図ることができる。カバーリング4は、例えば石英、単結晶シリコン、ポリシリコン、アモルファスシリコン、SiN等の材質で構成され、これらの中でも石英がもっとも好ましい。また、カバーリング4を構成する前記材質は、アルカリ金属、金属などの不純物の含有量が少ない高純度のものが好ましい。
【0027】
また、載置台2には、温度調節装置としての抵抗加熱型のヒータ5が埋め込まれている。このヒータ5は、ヒータ電源5aから給電されることにより載置台2を加熱して、その熱で被処理体であるウエハWを均一に加熱する。
【0028】
また、載置台2には、熱電対(TC)6が配備されている。この熱電対6によって温度計測を行うことにより、ウエハWの加熱温度を例えば室温から900℃までの範囲で制御可能となっている。
【0029】
また、載置台2には、ウエハWを支持して昇降させるためのウエハ支持ピン(図示せず)が設けられている。各ウエハ支持ピンは、載置台2の表面に対して突没可能に設けられている。
【0030】
処理容器1の内周には、石英からなる円筒状のライナー7が設けられている。また、載置台2の外周側には、処理容器1内を均一排気するため、多数の排気孔8aを有する石英製のバッフルプレート8が環状に設けられている。このバッフルプレート8は、複数の支柱9により支持されている。
【0031】
処理容器1の底壁1aの略中央部には、円形の開口部10が形成されている。底壁1aにはこの開口部10と連通し、下方に向けて突出する排気室11が設けられている。この排気室11には、排気口11bが設けられ、該排気口11bに排気管12が接続されており、この排気管12を介して排気手段としての排気装置24に接続されている。
【0032】
処理容器1の上部には、環状のプレート13が接合されている。プレート13の内周は、内側(処理容器内空間)へ向けて突出し、環状の支持部13aを形成している。このプレート13と処理容器1との間は、シール部材14を介して気密にシールされている。
【0033】
ガス導入部15は、処理容器1の側壁1bに環状に設けられている。このガス導入部15は、処理ガスを供給するガス供給装置18に接続されている。なお、ガス導入部15はノズル状またはシャワー状に設けてもよい。ガス導入部15の構造については、後述する。
【0034】
また、処理容器1の側壁1bには、プラズマ処理装置100と、これに隣接する搬送室(図示せず)との間で、ウエハWの搬入出を行うための搬入出口16と、この搬入出口16を開閉するゲートバルブ17とが設けられている。
【0035】
ガス供給装置18は、例えば不活性ガス供給源19aおよびオゾンガス供給源19bを有している。なお、ガス供給装置18は、上記以外の図示しないガス供給源として、例えば処理容器1内雰囲気を置換する際に用いるパージガス供給源等を有していてもよい。
【0036】
不活性ガスは、安定したプラズマを生成するためのプラズマ励起用ガスとして使われる。不活性ガスとしては、例えば希ガスなどを用いることができる。希ガスとしては、例えばArガス、Krガス、Xeガス、Heガスなどを用いることができる。これらの中でも、経済性に優れ、プラズマを安定に生成できるので均一なプラズマ酸化処理が可能であるArガスを用いることが特に好ましい。
【0037】
オゾンガスは、解離してプラズマを構成する酸素ラジカルや酸素イオンとなり、シリコンに作用してシリコンを酸化する酸素源のガスである。オゾンガスとしては、ガス中に含まれるO2とO3との合計に対するO3の体積比率が50%以上、好ましくは、60%以上80%以下の範囲内である高濃度のオゾンガスを用いることができる。このように、高濃度のオゾンガスを用いることによって、シリコン酸化膜の膜質を向上させることができる。
【0038】
図2は、ガス供給装置18における配管構成を拡大して示す図面であり、図3は、処理容器1におけるガス導入部の構成を拡大して示す図面である。不活性ガスは、不活性ガス供給源19aから、ガス供給配管であるガスライン20a、ガスライン20abを介してガス導入部15に至り、ガス導入部15から処理容器1内に導入される。また、オゾンガスは、オゾンガス供給源19bから、ガス供給配管であるガスライン20b、ガスライン20abを介してガス導入部15に至り、ガス導入部15から処理容器1内に導入される。ガスライン20a及びガスライン20bは、途中で合流して一つのガスライン20abを構成している。各ガス供給源に接続する各々のガスライン20a,20bには、それぞれマスフローコントローラ21a,21bおよびその前後の開閉バルブ22a,22bが設けられている。このようなガス供給装置18の構成により、供給されるガスの切替えや流量等の制御が出来るようになっている。
【0039】
オゾンガス供給源19bは、例えば高濃度のオゾンガスを貯留するオゾンガスボンベであってもよいし、あるいは、高濃度のオゾンガスを発生させるオゾナイザーであってもよい。オゾンガス供給源19bからガス導入部15までを接続するガスライン20b,20abの内表面は、高濃度のオゾンガスを通流させる際に、オゾンの自己分解(失活)と異常反応を防ぐための不動態化処理が施されている。不動態化処理は、例えばステンレス等の材質のガスライン20b,20abの内壁面を、高濃度のオゾンガスで曝し、ステンレスの組成であるFe元素、Cr元素が酸化され金属酸化物の不動態皮膜200を内表面に形成する。具体的には、不動態化処理は、例えばO2とO3との合計に対するO3の体積比率が15〜50体積%のオゾンガスを、例えば60℃〜150℃の温度範囲で、金属表面に作用させることによって行うことが好ましい。この場合、オゾンガス中に2体積%以下の水分を含有させておくことによって、不動態皮膜200の形成を速めることができる。
【0040】
また、本実施の形態のプラズマ処理装置100では、高濃度のオゾンガスを処理容器1内に導入するために、処理容器1に形成されたガス導入部15にも、不動態化処理が施されている。処理容器1のガス導入部15は、ガスライン20abに接続するガス流路を有しており、これらガス流路の一部分又は全体に、ガスライン20b及び20abと同様の不動態化処理がなされ、不動態皮膜200が形成されている。より具体的には、ガス導入部15は、処理容器1の内部に形成されたガス導入路15aと、このガス導入路15aに連通し、処理容器1の壁内にほぼ水平方向に環状に設けられた共通分配路15bと、及びこの共通分配路15bから処理容器1の内部の処理空間までを連通させる複数のガス穴15cとを有している。各ガス穴15cは、処理容器1内の処理空間に臨む開口部であり、該処理空間へ向けてガスを噴出する。本実施の形態では、ガス導入路15a、共通分配路15bの内面に不動態皮膜200が形成されている。なお、必要に応じて、ガス穴15cの内面にも同様に不動態化処理を施すことができる。
【0041】
また、本実施の形態のプラズマ処理装置100では、高濃度のオゾンガスを使用するため、処理容器1に臨むガス穴15cの周囲の壁面にも不動態化処理が施されている。すなわち、図3に示すように、ガス穴15cが設けられた処理容器1の側壁1bの内壁面及び、プレート13の支持部13aの壁面にも、不動態皮膜200が形成されている。
【0042】
以上のように、ガスライン20b,20ab、ガス導入路15a、共通分配路15bの内壁面、さらに、処理容器1のガス穴15cの周囲の壁面にも、不動態化処理を施して不動態皮膜200を設けたことにより、従来のプラズマ処理装置では使用出来なかった高濃度のオゾンガスを使用すること、及び高濃度な状態を維持しながら安定的に処理容器1内に供給することが可能となり、高濃度オゾンガスを用いたプラズマ処理が可能になる。
【0043】
排気装置24は、例えばターボ分子ポンプなどの高速真空ポンプ等の真空ポンプを備えている。前記のように、排気装置24は、排気管12を介して処理容器1の排気室11に接続されている。処理容器1内のガスは、排気室11の空間11a内へ均一に流れ、さらに空間11aから排気装置24を作動させることにより、排気管12を介して外部へ排気される。これにより、処理容器1内を所定の真空度、例えば0.133Paまで高速に減圧することが可能となっている。
【0044】
次に、マイクロ波導入装置27の構成について説明する。マイクロ波導入装置27は、主要な構成として、透過板28、アンテナとしての平面アンテナ31、遅波材33、カバー部材34、導波管37、マッチング回路38およびマイクロ波発生装置39を備えている。
【0045】
マイクロ波を透過させる透過板28は、プレート13において内周側に突出した支持部13a上に配備されている。透過板28は、誘電体、例えば石英やA1203、AlN等のセラミックス等の部材で構成されている。この透過板28と支持部13aとの間は、Oリング等のシール部材29を介して気密にシールされている。したがって、処理容器1内は気密に保持される。
【0046】
アンテナとしての平面アンテナ31は、透過板28の上方(処理容器1の外側)において、載置台2と対向するように設けられている。平面アンテナ31は、円板状をなしている。なお、平面アンテナ31の形状は、円板状に限らず、例えば四角板状でもよい。この平面アンテナ31は、プレート13の上端に係止されている。
【0047】
平面アンテナ31は、例えば表面が金または銀メッキされた銅板、アルミニウム板、ニッケル板およびそれらの合金などの導電性部材で構成されている。平面アンテナ31は、マイクロ波を放射する多数のスロット状のマイクロ波放射孔32を有している。マイクロ波放射孔32は、所定のパターンで平面アンテナ31を貫通して形成されている。
【0048】
図4は、図1のプラズマ処理装置100の平面アンテナを示す平面図である。個々のマイクロ波放射孔32は、例えば図4に示すように、細長い長方形状(スロット状)をなしている。そして、典型的には隣接するマイクロ波放射孔32が「T」字状に配置されている。また、このように所定の形状(例えばT字状)に組み合わせて配置されたマイクロ波放射孔32は、さらに全体として同心円状に配置されている。
【0049】
マイクロ波放射孔32の長さや配列間隔は、マイクロ波の波長(λg)に応じて決定される。例えば、マイクロ波放射孔32の間隔は、λg/4、λg/2またはλgとなるように配置される。なお、図4においては、同心円状に形成された隣接するマイクロ波放射孔32どうしの間隔を△rで示している。なお、マイクロ波放射孔32の形状は、円形状、円弧状等の他の形状であってもよい。さらに、マイクロ波放射孔32の配置形態は特に限定されず、同心円状のほか、例えば、螺旋状、放射状等に配置することもできる。
【0050】
平面アンテナ31の上面には、真空よりも大きい誘電率を有する遅波材33が設けられている。この遅波材33は、真空中ではマイクロ波の波長が長くなることから、マイクロ波の波長を短くしてプラズマを調整する機能を有している。遅波材の材質としては、例えば石英、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリイミド樹脂などを用いることができる。
【0051】
なお、平面アンテナ31と透過板28との間、また、遅波材33と平面アンテナ31との間は、それぞれ接触させても離間させてもよいが、接触させることが好ましい。
【0052】
処理容器1の上部には、これら平面アンテナ31および遅波材33を覆うように、カバー部材34が設けられている。カバー部材34は、例えばアルミニウムやステンレス鋼等の金属材料によって形成されている。カバー部材34と平面アンテナ31によって、偏平導波路が形成され、マイクロ波を処理容器1内に均一に供給できるようになっている。プレート13の上端とカバー部材34とは、シール部材35によりシールされている。また、カバー部材34の内部には、冷却水流路34aが形成されている。この冷却水流路34aに冷却水を通流させることにより、カバー部材34、遅波材33、平面アンテナ31および透過板28を冷却できるようになっている。なお、カバー部材34は接地されている。
【0053】
カバー部材34の上壁(天井部)の中央には、開口部36が形成されており、この開口部36には導波管37が接続されている。導波管37の他端側には、マッチング回路38を介してマイクロ波を発生するマイクロ波発生装置39が接続されている。
【0054】
導波管37は、上記カバー部材34の開口部36から上方へ延出する断面円形状の同軸導波管37aと、この同軸導波管37aの上端部にモード変換器40を介して接続された水平方向に延びる矩形導波管37bとを有している。モード変換器40は、矩形導波管37b内をTEモードで伝播するマイクロ波をTEMモードに変換する機能を有している。
【0055】
同軸導波管37aの中心には内導体41が延在している。この内導体41は、その下端部において平面アンテナ31の中心に接続固定されている。このような構造により、マイクロ波は、同軸導波管37aの内導体41を介して平面アンテナ31により形成される偏平導波路へ放射状に効率よく均一に伝播される。
【0056】
以上のような構成のマイクロ波導入装置27により、マイクロ波発生装置39で発生したマイクロ波が導波管37を介して平面アンテナ31へ伝搬され、さらにマイクロ波放射孔32(スロット)から透過板28を介して処理容器1内に導入されるようになっている。なお、マイクロ波の周波数としては、例えば2.45GHzが好ましく用いられ、他に8.35GHz、1.98GHz等を用いることもできる。
【0057】
また、載置台2の表面側には電極42が埋設されている。この電極42にマッチングボックス(M.B.)43を介してバイアス印加用の高周波電源44が接続されており、電極42に高周波バイアス電力を供給することにより、ウエハW(被処理体)にバイアスを印加できる構成となっている。電極42の材質としては、例えばモリブデン、タングステンなどの導電性材料を用いることができる。電極42は、例えば網目状、格子状、渦巻き状等の形状に形成されている。
【0058】
プラズマ処理装置100の各構成部は、制御部50に接続されて制御される構成となっている。制御部50は、典型的にはコンピュータであり、例えば図5に示したように、CPUを備えたプロセスコントローラ51と、このプロセスコントローラ51に接続されたユーザーインターフェース52および記憶部53を備えている。プロセスコントローラ51は、プラズマ処理装置100において、例えば温度、圧力、ガス流量、マイクロ波出力、バイアス印加用の高周波出力などのプロセス条件に関係する各構成部(例えば、ヒータ電源5a、ガス供給装置18、排気装置24、マイクロ波発生装置39、高周波電源44など)を統括して制御する制御手段である。
【0059】
ユーザーインターフェース52は、工程管理者がプラズマ処理装置100を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボードや、プラズマ処理装置100の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等を有している。また、記憶部53には、プラズマ処理装置100で実行される各種処理をプロセスコントローラ51の制御にて実現するための制御プログラム(ソフトウエア)や処理条件データ等が記録されたレシピなどが保存されている。
【0060】
そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース52からの指示等にて任意のレシピを記憶部53から呼び出してプロセスコントローラ51に実行させることで、プロセスコントローラ51により制御されてプラズマ処理装置100の処理容器1内で所望の処理が行われる。また、前記制御プログラムや処理条件データ等のレシピは、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体、例えばCD−ROM、ハードディスク、フレキシブルディスク、フラッシュメモリ、DVD、ブルーレイディスクなどに格納された状態のものを利用できる。さらに、前記レシピを他の装置から例えば専用回線を介して伝送させて利用することも可能である。
【0061】
このように構成されたプラズマ処理装置100では、600℃以下例えば室温(20℃程度)以上600℃以下の低温で、ウエハW上に形成された下地膜等へのダメージフリーなプラズマ処理を行うことができる。また、プラズマ処理装置100は、プラズマの均一性に優れていることから、大口径のウエハW(被処理体)に対してもプロセスの均一性を実現できる。
【0062】
次に、RLSA方式のプラズマ処理装置100を用いたプラズマ酸化処理について説明する。まず、ゲートバルブ17を開にして搬入出口16からウエハWを処理容器1内に搬入し、載置台2上に載置する。
【0063】
次に、処理容器1内を排気装置24の真空ポンプにより減圧排気しながら、ガス供給装置18の不活性ガス供給源19a、およびオゾンガス供給源19bから、不動態処理されたガス供給配管(ガスライン20b,20ab)を介して不活性ガスおよび高濃度のオゾンガスを所定の流量でそれぞれガス導入部15より処理容器1内に導入する。このようにして、処理容器1内を所定の圧力に調節する。
【0064】
次に、マイクロ波発生装置39で発生させた所定周波数例えば2.45GHzのマイクロ波を、マッチング回路38を介して導波管37に導く。導波管37に導かれたマイクロ波は、矩形導波管37bおよび同軸導波管37aを順次通過し、内導体41を介して平面アンテナ31に供給される。つまり、マイクロ波は、矩形導波管37b内ではTEモードで伝搬し、このTEモードのマイクロ波はモード変換器40でTEMモードに変換されて、同軸導波管37a内を平面アンテナ31に向けて伝搬されていく。そして、マイクロ波は、平面アンテナ31に貫通形成されたスロット状のマイクロ波放射孔32から誘電体としての透過板28を介して処理容器1内におけるウエハWの上方空間に放射される。この際のマイクロ波出力は、例えば200mm径以上のウエハWを処理する場合には、パワー密度として0.255〜2.55W/cm2の範囲内から選択することができる。
【0065】
平面アンテナ31から透過板28を経て処理容器1に放射されたマイクロ波により、処理容器1内で電磁界が形成され、不活性ガスおよびオゾンガスがそれぞれプラズマ化する。このマイクロ波励起プラズマは、マイクロ波が平面アンテナ31の多数のマイクロ波放射孔32から放射されることにより、略1×1010〜5×1012/cm3の高密度で、かつウエハW近傍では、略1.2eV以下の低電子温度プラズマとなる。このようにして形成されるプラズマは、ウエハWへのイオン等によるプラズマダメージが少ない。その結果、プラズマ中の活性種例えばラジカルやイオンの作用によりウエハW表面に形成されたシリコン(単結晶シリコン、多結晶シリコンまたはアモルファスシリコン)に対してプラズマ酸化処理が行われ、良質なシリコン酸化膜が形成される。
【0066】
また、プラズマ酸化処理を行なっている間、必要に応じて載置台2に高周波電源44から所定の周波数およびパワーの高周波電力を供給することができる。この高周波電源44から供給される高周波電力によって、ウエハWに高周波バイアス電圧(高周波バイアス)が印加され、その結果、プラズマの低い電子温度を維持しつつ、プラズマ酸化処理の異方性が促進される。すなわち、高周波バイアスがウエハWに印加されることにより、ウエハWの近傍に電磁界が形成され、これがプラズマ中のイオンをウエハWへ引き込むように作用するため、酸化レートを増大させるように作用する。
【0067】
<プラズマ酸化処理条件>
ここで、プラズマ処理装置100において行なわれるプラズマ酸化処理の好ましい条件について説明を行う。処理ガスとしては、オゾンガスとともに、不活性ガスとしてArガスを使用することが好ましい。オゾンガスとしては、オゾンガス中に含まれるO2とO3との合計に対するO3の体積比率が50%以上である高濃度のオゾンガスを用いる。高濃度オゾンを含むガスのプラズマでは、O(1D2)ラジカルの生成量が増加するので、高い酸化レートで、かつ良質な膜質のシリコン酸化膜が得られる。これに対して、オゾンガス中のO2とO3との合計に対するO3の体積比率が50%未満では、従来のO2ガスのプラズマのO(1D2)ラジカルの生成量と差がなく、処理レートが変わらないので、高い酸化レートで、かつ良質な膜質のシリコン酸化膜を得ることは困難である。
【0068】
また、全処理ガス中に含まれるオゾンガス(O2とO3の合計)の流量比率(体積比率)は、十分な酸化レートを得る観点から、0.001%以上5%以下の範囲内とすることが可能であり、0.01%以上2%以下の範囲内が好ましく、0.1%以上1%以下の範囲内がより好ましい。上記範囲内の流量比率でも、高濃度オゾンを含むプラズマでは、O(1D2)ラジカルの増加により、高速で且つ良質な膜質のシリコン酸化膜が得られる。
【0069】
また、処理圧力は、例えば1.3Pa以上1333Pa以下の範囲内とすることができる。この圧力範囲の中でも、良好な膜質を維持しつつ高い酸化レートを得る観点から、1.3Pa以上133Pa以下の範囲内に設定することが好ましく、1.3Pa以上66.6Pa以下の範囲内がより好ましく、1.3Pa以上26.6Pa以下の範囲内が望ましい。
【0070】
また、上記処理ガス中のオゾンガスの流量比率と処理圧力の好ましい組み合わせは次のとおりである。良好な膜質のシリコン酸化膜を高い酸化レートで形成するためには、処理ガス中のオゾンガスの流量比率(体積比率)を0.01%以上2%以下の範囲内とし、かつ処理圧力を1.3Pa以上26.6Pa以下の範囲内とすることが好ましい。
【0071】
本実施の形態では、プラズマ酸化処理を行なっている間、高周波電源44から所定の周波数およびパワーの高周波電力を載置台2に供給し、ウエハWに高周波バイアスを印加することが好ましい。高周波電源44から供給される高周波電力の周波数は、例えば100kHz以上60MHz以下の範囲内が好ましく、400kHz以上13.5MHz以下の範囲内がより好ましい。高周波電力は、ウエハWの面積当たりのパワー密度として例えば0.2W/cm2以上で印加することが好ましく、0.2W/cm2以上1.3W/cm2以下の範囲内で印加することがより好ましい。また、高周波のパワーは200W以上2000W以下の範囲内が好ましく、300W以上1200W以下の範囲内がより好ましい。載置台2に印加された高周波電力は、プラズマの低い電子温度を維持しつつ、プラズマ中のイオン種をウエハWへ引き込む作用を有している。従って、高周波電力を印加することにより、イオンアシスト作用が強まり、シリコンの酸化レートを向上させることができる。また、本実施の形態では、ウエハWへ高周波バイアスを印加しても、低電子温度のプラズマであるため、シリコン酸化膜へのプラズマ中のイオン等によるダメージがなく、高酸化レートにより短時間で良質なシリコン酸化膜を形成することが出来る。
【0072】
また、プラズマ酸化処理におけるマイクロ波のパワー密度は、プラズマダメージを抑制する観点から、0.255W/cm2以上2.55W/cm2以下の範囲内とすることが好ましい。なお、本発明においてマイクロ波のパワー密度は、ウエハWの面積1cm2あたりのマイクロ波パワーを意味する。例えば300mm径以上のウエハWを処理する場合には、マイクロ波パワーを500W以上5000W未満の範囲内とすることが好ましく、1000W以上4000W以下とすることがより好ましい。
【0073】
また、処理温度は、ウエハWの加熱温度として、例えば20℃(室温)以上600℃以下の範囲内とすることが好ましく、200℃以上500℃以下の範囲内に設定することがより好ましく、400℃以上500℃以下の範囲内に設定することが望ましい。低温かつ高酸化レートにより短時間で良質なシリコン酸化膜を形成することが出来る。
【0074】
プラズマの生成過程で、オゾンガスの解離は、以下の式(i)〜(iii)のようにして起こると考えられる。
O3+e→O2+O(1D2) …(i)
O2+e→2O(3P2)+e→O(1D2)+O(3P2)+e …(ii)
O2+e→O2++2e …(iii)
[上記式(i)〜(iii)中、eは電子である]
【0075】
式(i)〜(iii)の中で、(ii)及び(iii)は、O2の解離である。したがって、処理ガスとしてO2ガスのみを用いる場合には、上記(ii)及び(iii)の解離反応しか生じない。一方、処理ガスとしてオゾンガス(O3とO2を含む)を用いる場合には、上記式(i)〜(iii)の解離反応が生じることになる。そのため、オゾンガスの解離には、O(1D2)ラジカルが生成する機会が酸素ガスの解離よりも多くなることが理解される。また、プラズマ生成過程で発生する電子(e)の多くが式(i)の解離反応によって消費されるため、式(ii)、(iii)の酸素ガスの解離が相対的に減少する。従って、オゾンガスを用いるプラズマでは、酸素ガスを用いる場合に比べて、O(1D2)ラジカルが豊富なプラズマを生成できる。つまり、酸素ガスを利用するプラズマに比較して、オゾンガスを利用するプラズマでは、イオンとラジカルのバランスが変化し、ラジカル主体のプラズマを生成することが可能になるものと考えられる。その結果、形成されるシリコン酸化膜の膜質が良質なものとなる。
【0076】
本実施の形態では、O3を高濃度に含むオゾンガスを用いることによって、O(1D2)ラジカルが豊富なプラズマを生成できる。その結果、O(1D2)ラジカル主体の酸化反応が進み、600℃以下の比較的低い処理圧力でも熱酸化膜と同等の良質なシリコン酸化膜を形成できる。特に、マイクロ波のパワー密度を0.255W/cm2以上2.55W/cm2以下の範囲内とすることによって、プラズマダメージを抑制することができるのでシリコン酸化膜の膜質をさらに向上させることができる。また、O3を高濃度に含むオゾンガスを用いることにより、全処理ガス中に含まれるオゾンガス(O2とO3の合計)の流量比率(体積比率)が0.001%以上5%以下の範囲内の比較的低い流量比率でも、O(1D2)ラジカルの増加により、高速で且つ良質な膜質のシリコン酸化膜が得られる。また、RLSA方式のプラズマ処理装置100における酸化の機構は、イオンアシストのラジカル酸化であり、O2+イオンがO(1D2)ラジカルによる酸化を促進して酸化レートの向上に寄与していると考えられるが、O2+イオンが多くなる133Pa以下(好ましくは66.6Pa以下、より好ましくは26.6Pa以下)の処理圧力では、O3を高濃度に含むオゾンガスのプラズマ中にO(1D2)ラジカルとO2+イオンがバランス良く生成するため、O2+イオンのアシストによるO(1D2)ラジカル主体の酸化が効率良く進み、酸化レートが向上するものと考えられる。また、プラズマ酸化処理を行なっている間、高周波電源44からウエハWの面積当たりのパワー密度として例えば0.2W/cm2以上の高周波電力を載置台2に供給し、ウエハWに高周波バイアスを印加することにより、上記イオンアシスト作用を強め、シリコンの酸化レートをさらに向上させることができる。
【0077】
以上の条件は、制御部50の記憶部53にレシピとして保存されている。そして、プロセスコントローラ51がそのレシピを読み出してプラズマ処理装置100の各構成部例えばガス供給装置18、排気装置24、マイクロ波発生装置39、ヒータ電源5a、高周波電源44などへ制御信号を送出することにより、所望の条件でのプラズマ酸化処理が実現する。
【0078】
本発明のプラズマ酸化処理方法により形成されたシリコン酸化膜は、熱酸化膜と同等の優れた膜質を有するので、例えばトランジスタのゲート絶縁膜等の用途に好ましく利用できる。
【0079】
次に、本発明の効果を確認した試験結果について説明する。
[実験1]
下記の条件で酸化処理を行ない、シリコン基板(ウエハW)の表面にシリコン酸化膜を形成した。条件1は、本発明方法によるO3プラズマ酸化、条件2は比較例としてのO2プラズマ酸化、条件3は比較例としての熱酸化である。なお、使用したオゾン濃度[O3/(O2+O3)の百分率]は約80体積%である。
【0080】
<条件1;O3プラズマ酸化>
Ar流量:163.3mL/min(sccm)
O3流量:1.7mL/min(sccm)
処理圧力:133Pa
マイクロ波パワー:4000W(パワー密度2.05W/cm2)
処理温度(ウエハWの温度として):400℃
処理時間(形成膜厚):3分(3.4nm)、6分(4.6nm)、10分(6.0nm)
【0081】
<条件2;O2プラズマ酸化>
Ar流量:163.3mL/min(sccm)
O2流量:1.7mL/min(sccm)
処理圧力:133Pa
マイクロ波パワー:4000W(パワー密度2.05W/cm2)
処理温度(ウエハWの温度として):400℃
処理時間(形成膜厚):3分(4.6nm)、6分(5.6nm)、10分(6.8nm)
【0082】
<条件3;熱酸化>
O2流量:450mL/min(sccm)
H2流量:450mL/min(sccm)
処理圧力:700Pa
処理温度(ウエハWの温度として):950℃
処理時間(形成膜厚):26分(5.2nm)
【0083】
条件1〜3の酸化処理で形成されたシリコン酸化膜をXPS(X線光電子分光)分析により測定した。図6は、XPSスペクトルから得られたシリコン酸化膜(Si2p4+)とシリコン基板(Si2p0)の結合エネルギーの差(Si2p4+−Si2p0)を縦軸にとり、酸素の結合エネルギー(O1s)とシリコン酸化膜(Si2p4+)の結合エネルギーの差(O1s−Si2p4+)を横軸にとり、各シリコン酸化膜についてプロットしたグラフである。図6から、横軸の値(O1s−Si2p4+)については、各シリコン酸化膜で大きな差異はないことがわかる。これは、XPSスペクトルで観測されるSi−O結合に変化がないことを示している。一方、縦軸の値(Si2p4+−Si2p0)について、条件1のO3プラズマ酸化は、条件3の熱酸化と同様な値を示したのに対し、条件2のO2プラズマ酸化は、条件1、条件3に比べて高い値を示した。図6の縦軸の値が大きいほど、XPS測定時にシリコン酸化膜中でX線照射による電荷捕獲現象が生じたことを示しており、X線照射による劣化の度合いが大きいことを意味している。従って、条件1のO3プラズマ酸化は、条件2のO2プラズマ酸化に比べて膜質が改善されており、熱酸化膜とほぼ同等の膜質であることを示している。このように、処理ガスとしてO3/(O2+O3)体積比率50%以上の高濃度のオゾンガスを利用することにより、処理温度が400℃という低温での処理にも関わらず、950℃の熱酸化処理と同等の膜質を有するシリコン酸化膜を形成できることが確認できた。
【0084】
[実験2]
下記の条件で酸化処理を行ない、シリコン基板(ウエハW)の表面にシリコン酸化膜を形成した。条件3は、本発明方法によるO3プラズマ酸化、条件4は比較例としてのO2プラズマ酸化である。なお、使用したオゾン濃度[O3/(O2+O3)の百分率]は約60〜80重量%である。
【0085】
<条件3;O3プラズマ酸化>
Ar流量:163.3mL/min(sccm)
O3流量:1.7mL/min(sccm)
処理圧力:1.3Pa、6.7Pa、26.6Pa、66.6Pa
マイクロ波パワー:4000W(パワー密度2.05W/cm2)
処理温度(ウエハWの温度として):400℃
処理時間:3分
【0086】
<条件4;O2プラズマ酸化>
Ar流量:163.3mL/min(sccm)
O2流量:1.7mL/min(sccm)
処理圧力:1.3Pa、6.7Pa、26.6Pa、66.6Pa
マイクロ波パワー:4000W(パワー密度2.05W/cm2)
処理温度(ウエハWの温度として):400℃
処理時間:3分
【0087】
図7に、上記の条件で形成したシリコン酸化膜の膜厚の処理圧力依存性を示した。図7の縦軸はシリコン酸化膜の膜厚(屈折率1.462における光学膜厚;以下同様である)であり、横軸は処理圧力である。この結果から、26.6Pa付近の処理圧力では、条件3のO3プラズマ酸化と条件4のO2プラズマ酸化との比較で、酸化膜厚がほぼ同程度であるが、それよりも低い処理圧力では、条件3のO3プラズマ酸化の酸化膜厚の方が条件4のO2プラズマ酸化の酸化膜厚よりも大きくなっており、酸化レートが高い。この結果は、シリコン酸化膜の形成に寄与するO(1D2)ラジカルとO2+イオンとのバランスにより説明できる。上記式(i)〜(iii)の解離反応で説明したように、O3プラズマ酸化では、O2プラズマ酸化に比べてO(1D2)ラジカルが圧倒的に多く、O2+イオンは少ないと考えられる。RLSA方式のプラズマ処理装置100における酸化の機構は、イオンアシストのラジカル酸化であり、O2+イオンがO(1D2)ラジカルによる酸化を促進して酸化レートの向上に寄与していると考えられる。O2+イオンの生成には、O(1D2)ラジカルの生成よりも高いエネルギーが必要であるため、電子温度が低くなる高圧側ではO2+イオンが生成しにくい一方で、電子温度が高い低圧側ではO2+イオンが生成しやすくなる(なお、低圧、高圧の表現は約133Pa付近より下を低圧、それより上を高圧とし、相対的な意味で用いる)。
【0088】
条件3のO3プラズマ酸化の場合、O(1D2)ラジカルが豊富なラジカル主体の酸化であるが、酸化を促進するO2+イオンが少ない高圧側では、酸化レートが低下する。しかし、O2+イオンが多くなる低圧側では、O(1D2)ラジカルとO2+イオンがバランス良く存在するため、O2+イオンのアシストによるO(1D2)ラジカル主体の酸化が効率良く進み、酸化レートが向上するものと考えられる。これに対し、条件4のO2プラズマ酸化では、上記式(i)〜(iii)の解離機構によれば、O2+イオンに比べてO(1D2)ラジカルが不足する結果、酸化レートがO(1D2)ラジカルにより律速されてしまうことが、低圧側での酸化レートがあまり向上しない原因であると考えられる。本発明のプラズマ酸化処理方法において、処理圧力は特に限定されないが、O(1D2)ラジカルが多量に生成するO3プラズマ酸化では、酸化レートの向上という観点から、133Paより低い処理圧力が有効であり、1.3Pa以上66.6Pa以下の範囲内がより好ましく、1.3Pa以上26.6Pa以下の範囲内が望ましいことが確認された。
【0089】
[実験3]
下記の条件で酸化処理を行ない、シリコン基板(ウエハW)の表面にシリコン酸化膜を形成した。条件5は、本発明方法によるO3プラズマ酸化、条件6は比較例としてのO2プラズマ酸化である。なお、使用したオゾン濃度[O3/(O2+O3)の百分率]は約60〜80体積%である。
【0090】
<条件5;O3プラズマ酸化>
体積流量比率[O3流量/(O3流量+Ar流量)の百分率]:0.001%、0.01%、0.1%
処理圧力:133Pa
マイクロ波パワー:4000W(パワー密度2.05W/cm2)
処理温度(ウエハWの温度として):400℃
処理時間:3分
【0091】
<条件6;O2プラズマ酸化>
体積流量比率[O2流量/(O2流量+Ar流量)の百分率]:0.001%、0.01%、0.1%
処理圧力:133Pa
マイクロ波パワー:4000W(パワー密度2.05W/cm2)
処理温度(ウエハWの温度として):400℃
処理時間:3分
【0092】
図8Aは、全処理ガス流量に対するオゾンガス又は酸素ガスの体積流量比率(横軸)と、シリコン酸化膜の膜厚(縦軸)との関係をプロットしたものである。条件5のO3プラズマ酸化では、0.1%程度の低い体積流量比率でも、条件6のO2プラズマ酸化より酸化膜厚が大きくなっており、低濃度でも高い酸化レートが得られている。上記式(i)〜(iii)の解離反応で説明したように、O3プラズマ酸化では、O2プラズマ酸化に比べてO(1D2)ラジカルが多いラジカル主体の酸化である。ここで、図8Bは、O3/(O2+O3)体積比率とO(1D2)ラジカルフラックスとの関係をあらわしている。この図8Bから、O3/(O2+O3)体積比率が50%以上になると、O(1D2)ラジカルフラックスが十分に増加していることが読み取れる。このため、O3をO3/(O2+O3)体積比率が50%以上の高濃度に含むオゾンガスを用いることによって、図8Aに示すように、処理ガス中のオゾンガスの体積流量比率が0.1%以下でも、O2プラズマ酸化を超える十分な酸化レートが得られるものと考えられる。
【0093】
[実験4]
次に、プラズマ処理装置100を用い、載置台2に高周波電力を供給した場合としない場合との相違を調べた。下記の条件で酸化処理を行ない、シリコン基板(ウエハW)の表面にシリコン酸化膜を形成した。条件7は、本発明方法によるO3プラズマ酸化、条件8は比較例としてのO2プラズマ酸化である。なお、使用したオゾン濃度[O3/(O2+O3)の百分率]は約60〜80体積%である。
【0094】
<条件7;O3プラズマ酸化>
Ar流量:163.3mL/min(sccm)
O3流量:1.7mL/min(sccm)
処理圧力:133Pa
高周波バイアスの周波数:13.56MHz
高周波パワー:0W(印加せず)、150W、300W、600W、900W
高周波パワー密度:0W/cm2、0.21W/cm2、0.42W/cm2、0.85W/cm2、1.27W/cm2
マイクロ波パワー:4000W(パワー密度2.05W/cm2)
処理温度(ウエハWの温度として):400℃
処理時間:3分
【0095】
<条件8;O2プラズマ酸化>
Ar流量:163.3mL/min(sccm)
O2流量:1.7mL/min(sccm)
処理圧力:133Pa
高周波バイアスの周波数:13.56MHz
高周波パワー:0W(印加せず)、150W、300W、600W、900W
高周波パワー密度:0W/cm2、0.21W/cm2、0.42W/cm2、0.85W/cm2、1.27W/cm2
マイクロ波パワー:4000W(パワー密度2.05W/cm2)
処理温度(ウエハWの温度として):400℃
処理時間:3分
【0096】
図9は、載置台2に供給した高周波電力のパワー密度(横軸)とシリコン酸化膜のウエハ面内における均一性(縦軸)との関係を示しており、図10は、高周波パワー密度(横軸)と酸化膜厚(縦軸)との関係を示している。なお、図9におけるウエハ面内均一性は、(ウエハ面内の最大膜厚−同最小膜厚)/(ウエハ面内の平均膜厚×2)の百分率(×100%)により算出した。図9に示すように、条件7のO3プラズマ酸化では、高周波バイアスのパワー密度が増加するに伴いウエハ面内での均一性が改善されており、条件8のO2プラズマ酸化とは逆の傾向を示した。また、図10に示すように、条件7のO3プラズマ酸化の酸化膜厚は、高周波バイアスのパワー密度が増加するに伴い大きくなっており、高周波パワー密度が0.85W/cm2で条件8のO2プラズマ酸化と略同等の酸化レートが得られるまで向上している。以上の結果から、載置台2に供給した高周波電力を供給することによって、イオンやラジカルが引き込まれるので、O3プラズマ酸化における酸化レートを高めることができるとともに、ウエハWの面内での酸化膜厚の均一性も向上させ得ることが確認できた。また、少なくとも、高周波パワー密度が0.2〜1.3W/cm2の範囲では、パワー密度を大きくしていくほど、ウエハWの面内での均一性が改善され、かつ酸化レートも向上する傾向にあることが確認できた。
【0097】
以上、本発明の実施の形態を挙げて説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく、種々の変形が可能である。例えば上記実施の形態では、本発明のシリコン酸化膜の形成方法を行う装置として最適なRLSA方式のプラズマ処理装置を例に挙げて説明した。しかし、プラズマを生成する方式としては、誘導結合型方式(ICP)、マグネトロン方式、ECR方式、表面波方式等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0098】
1…処理容器、2…載置台、3…支持部材、5…ヒ一夕、12…排気管、15…ガス導入部、16…搬入出口、17…ゲートバルブ、18…ガス供給装置、19a…不活性ガス供給源、19b…オゾンガス供給源、24…排気装置、28…透過板、29…シール部材、31…平面アンテナ、32…マイクロ波放射孔、37…導波管、37a…同軸導波管、37b…矩形導波管、39…マイクロ波発生装置、50…制御部、51…プロセスコントローラ、52…ユーザーインターフェース、53…記憶部、100…プラズマ処理装置、W…半導体ウエハ(基板)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ処理装置の処理容器内で、被処理体の表面に露出したシリコンに、O2とO3との合計に対するO3の体積比率が50%以上であるオゾンガスを含む処理ガスのプラズマを作用させてシリコン酸化膜を形成する工程を含む、シリコン酸化膜の形成方法。
【請求項2】
前記処理容器内の圧力が1.3Pa以上1333Pa以下の範囲内である請求項1に記載のシリコン酸化膜の形成方法。
【請求項3】
前記処理容器内で被処理体を載置する載置台に被処理体の面積当り0.2W/cm2以上1.3W/cm2以下の範囲内の出力で高周波電力を供給しながら酸化処理を行なう請求項1又は2に記載のシリコン酸化膜の形成方法。
【請求項4】
処理温度が、被処理体の温度として20℃以上600℃以下の範囲内であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のシリコン酸化膜の形成方法。
【請求項5】
前記プラズマが、前記処理ガスと、複数のスロットを有する平面アンテナにより前記処理容器内に導入されるマイクロ波と、によって形成されるマイクロ波励起プラズマであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のシリコン酸化膜の形成方法。
【請求項6】
前記マイクロ波のパワー密度が、被処理体の面積あたり0.255W/cm2以上2.55W/cm2以下の範囲内であることを特徴とする請求項5に記載のシリコン酸化膜の形成方法。
【請求項7】
プラズマを用いて被処理体を処理する上部が開口した処理容器と、
前記処理容器の前記開口部を塞ぐ誘電体部材と、
前記誘電体部材の外側に設けられ、前記処理容器内に電磁波を導入するためのアンテナと、
前記処理容器内にオゾンガスを含む処理ガスを供給するガス導入部と、
前記処理容器内を排気手段により減圧排気する排気口と、
前記処理容器内で被処理体を載置する載置台と、
前記アンテナによって前記処理容器内に電磁波を導入することにより、前記処理容器内に前記ガス導入部からO2とO3との合計に対するO3の体積比率が50%以上であるオゾンガスを含む処理ガスを供給し、その処理ガスのプラズマを生成させ、該プラズマを被処理体の表面に露出したシリコンに作用させてシリコン酸化膜を形成するように制御する制御部と、を備えたプラズマ酸化処理装置。
【請求項8】
さらに、一端が前記ガス導入部に接続され、他端がオゾンガス供給源に接続され、内部に不動態化処理が施されて前記オゾンガスを前記処理室内に供給するガス供給配管と、を備えている請求項7に記載のプラズマ酸化処理装置。
【請求項9】
前記ガス導入部は、前記処理容器内の処理空間にガスを噴出するガス穴を含むガス流路を有しており、前記ガス流路の一部分もしくは全体と、前記ガス穴の周囲の処理容器の内壁面とに、不動態化処理が施されている請求項8に記載のプラズマ酸化処理装置。
【請求項10】
前記載置台に被処理体の面積あたり0.2W/cm2以上1.3W/cm2以下の高周波電力を供給する高周波電源をさらに備えている請求項7から9のいずれか1項に記載のプラズマ酸化処理装置。
【請求項1】
プラズマ処理装置の処理容器内で、被処理体の表面に露出したシリコンに、O2とO3との合計に対するO3の体積比率が50%以上であるオゾンガスを含む処理ガスのプラズマを作用させてシリコン酸化膜を形成する工程を含む、シリコン酸化膜の形成方法。
【請求項2】
前記処理容器内の圧力が1.3Pa以上1333Pa以下の範囲内である請求項1に記載のシリコン酸化膜の形成方法。
【請求項3】
前記処理容器内で被処理体を載置する載置台に被処理体の面積当り0.2W/cm2以上1.3W/cm2以下の範囲内の出力で高周波電力を供給しながら酸化処理を行なう請求項1又は2に記載のシリコン酸化膜の形成方法。
【請求項4】
処理温度が、被処理体の温度として20℃以上600℃以下の範囲内であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のシリコン酸化膜の形成方法。
【請求項5】
前記プラズマが、前記処理ガスと、複数のスロットを有する平面アンテナにより前記処理容器内に導入されるマイクロ波と、によって形成されるマイクロ波励起プラズマであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のシリコン酸化膜の形成方法。
【請求項6】
前記マイクロ波のパワー密度が、被処理体の面積あたり0.255W/cm2以上2.55W/cm2以下の範囲内であることを特徴とする請求項5に記載のシリコン酸化膜の形成方法。
【請求項7】
プラズマを用いて被処理体を処理する上部が開口した処理容器と、
前記処理容器の前記開口部を塞ぐ誘電体部材と、
前記誘電体部材の外側に設けられ、前記処理容器内に電磁波を導入するためのアンテナと、
前記処理容器内にオゾンガスを含む処理ガスを供給するガス導入部と、
前記処理容器内を排気手段により減圧排気する排気口と、
前記処理容器内で被処理体を載置する載置台と、
前記アンテナによって前記処理容器内に電磁波を導入することにより、前記処理容器内に前記ガス導入部からO2とO3との合計に対するO3の体積比率が50%以上であるオゾンガスを含む処理ガスを供給し、その処理ガスのプラズマを生成させ、該プラズマを被処理体の表面に露出したシリコンに作用させてシリコン酸化膜を形成するように制御する制御部と、を備えたプラズマ酸化処理装置。
【請求項8】
さらに、一端が前記ガス導入部に接続され、他端がオゾンガス供給源に接続され、内部に不動態化処理が施されて前記オゾンガスを前記処理室内に供給するガス供給配管と、を備えている請求項7に記載のプラズマ酸化処理装置。
【請求項9】
前記ガス導入部は、前記処理容器内の処理空間にガスを噴出するガス穴を含むガス流路を有しており、前記ガス流路の一部分もしくは全体と、前記ガス穴の周囲の処理容器の内壁面とに、不動態化処理が施されている請求項8に記載のプラズマ酸化処理装置。
【請求項10】
前記載置台に被処理体の面積あたり0.2W/cm2以上1.3W/cm2以下の高周波電力を供給する高周波電源をさらに備えている請求項7から9のいずれか1項に記載のプラズマ酸化処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−199003(P2011−199003A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64080(P2010−64080)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】
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