説明

シリコーン樹脂の製造方法および硬化性樹脂組成物

【課題】スズ化合物を用いることなく、緩やかな条件で、両末端に反応性官能基を有するシリコーン樹脂を得ることができる、シリコーン樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】両末端にシラノール基を有するシリコーン樹脂(A)と、1分子中に少なくとも2個のアルコキシ基を有するアルコキシシラン(B)とを、1分子中に少なくとも1個のカルボキシ基を有するカルボン酸化合物(C)の存在下で反応させて反応生成物を得る工程と、上記反応生成物から副生成物を除去し、主生成物である両末端に反応性官能基を有するシリコーン樹脂(D)を得る工程と、を備えるシリコーン樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーン樹脂の製造方法および硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、両末端に反応性官能基を有するシリコーン樹脂が知られており、例えば、電子材料分野で用いられている。
【0003】
このようなシリコーン樹脂を製造する方法は、種々検討されており、例えば、特許文献1には、無触媒下で反応を行う製造方法が開示されている。
すなわち、特許文献1の6頁下段〜7頁上段には、「α,ω−ジヒドロキシ−ジメチルポリシロキサン100部と、テトラメトキシシラン10部とを、還流冷却器を取り付けた反応器に投入し、撹拌しながら140℃で8時間加熱した」後に、「副生したメタノールと余剰のテトラメトキシシランとを留去」することによって、末端が「−OSi(OCH33基で置換された」シリコーン樹脂を製造する方法が開示されている(参考例1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−270762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された製造方法の反応条件は、「140℃で8時間」と高温かつ長時間であったため、取扱いに困難性があった。
【0006】
本発明者らは、より緩やかな条件で反応を進行させるという観点から、スズ化合物を触媒として用いたところ、かえって反応の制御が困難になってしまい、目的とする粘度の生成物が得られない等の問題が生じることが分かった。
また、スズ化合物は、除去が困難であり、生成物に残存して貯蔵安定性を劣化させてしまうという懸念もあった。
【0007】
そこで、本発明は、スズ化合物を用いることなく、緩やかな条件で、両末端に反応性官能基を有するシリコーン樹脂を得ることができる、シリコーン樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、触媒としてカルボン酸化合物を用いることにより、緩やかな条件で、両末端に反応性官能基を有するシリコーン樹脂が得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(6)を提供する。
【0009】
(1)下記式(a)で表される両末端にシラノール基を有するシリコーン樹脂(A)と、下記式(b)で表される1分子中に少なくとも2個のアルコキシ基を有するアルコキシシラン(B)とを、下記式(c)で表される1分子中に少なくとも1個のカルボキシ基を有するカルボン酸化合物(C)の存在下で反応させて反応生成物を得る工程と、上記反応生成物から副生成物を除去し、主生成物である下記式(d)で表される両末端に反応性官能基を有するシリコーン樹脂(D)を得る工程と、を備えるシリコーン樹脂の製造方法。
【0010】
【化1】

【0011】
式(a)〜(d)中、R1は一価の炭化水素基を示し、R2はアルキル基を示し、R3は水素または一価の炭化水素基を示し、Xは一価の炭化水素基または反応性官能基を示し、mおよびnは1以上の整数を示し、rは1または2の整数を示し、複数のR1,R2およびXは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0012】
(2)上記反応が、60〜120℃で撹拌されて行われる、上記(1)に記載のシリコーン樹脂の製造方法。
【0013】
(3)上記シリコーン樹脂(A)の25℃における粘度が、20〜1,000,000mPa・sである、上記(1)または(2)に記載のシリコーン樹脂の製造方法。
【0014】
(4)上記アルコキシシラン(B)において、上記式(b)中の少なくとも1個のXが、不飽和結合含有基を示す、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のシリコーン樹脂の製造方法。
【0015】
(5)上記カルボン酸化合物(C)において、上記式(c)中のR3が、一価の脂肪族炭化水素基を示す、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のシリコーン樹脂の製造方法。
【0016】
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のシリコーン樹脂の製造方法によって得られた下記式(d)で表される両末端に反応性官能基を有するシリコーン樹脂(D)と、有機チタン化合物と、を含有する硬化性樹脂組成物。
【0017】
【化2】

【0018】
式(d)中、R2はアルキル基を示し、Xは一価の炭化水素基または反応性官能基を示し、mおよびnは1以上の整数を示し、rは1または2の整数を示し、複数のR2およびXは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、スズ化合物を用いることなく、緩やかな条件で、両末端に反応性官能基を有するシリコーン樹脂を得ることができる、シリコーン樹脂の製造方法を提供することできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例3の反応生成物を示すNMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<製造方法>
本発明のシリコーン樹脂の製造方法(以下、単に、「本発明の製造方法」ともいう)は、式(a)で表される両末端にシラノール基を有するシリコーン樹脂(A)と、式(b)で表される1分子中に少なくとも2個のアルコキシ基を有するアルコキシシラン(B)とを、式(c)で表される1分子中に少なくとも1個のカルボキシ基を有するカルボン酸化合物(C)の存在下で反応させて反応生成物を得る工程と、上記反応生成物から副生成物を除去し、主生成物である式(d)で表される両末端に反応性官能基を有するシリコーン樹脂(D)を得る工程と、を備えるシリコーン樹脂の製造方法である。
以下では、まず、本発明の製造方法に用いられる各成分について説明する。
【0022】
<シリコーン樹脂(A)>
本発明の製造方法に用いられるシリコーン樹脂(A)は、式(a)で表される両末端にシラノール基を有するシリコーン樹脂である。なお、シラノール基とは、ケイ素原子(Si)にヒドロキシ基(−OH)が直接結合したものをいう。
【0023】
【化3】

【0024】
式(a)中、R1は一価の炭化水素基を示し、mは1以上の整数を示す。複数のR1は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0025】
1が示す一価の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種オクチル基、各種デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの炭素数1〜18のアルキル基;ビニル基、プロペニル基、アリル基、ヘキセニル基、オクテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基などの炭素数2〜18のアルケニル基;フェニル基、トリル基、ナフチル基などの炭素数6〜18のアリール基;ベンジル基、フェネチル基などの炭素数7〜18のアラルキル基;等が挙げられる。
これらのうち、機械特性、低粘度性、耐候性、および、入手のしやすさの観点から、炭素数1〜18のアルキル基であるのが好ましく、炭素数1〜10のアルキル基であるのがより好ましく、炭素数1〜6のアルキル基であるのがさらに好ましく、メチル基、エチル基であるのが特に好ましい。
【0026】
mが示す整数としては、1以上であれば特に限定されず、シリコーン樹脂(A)の重量平均分子量に対応する数値にすることができる。
【0027】
シリコーン樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)としては、機械特性、得られるシリコーン樹脂(D)の粘度操作のしやすさ、および、反応操作の容易さの観点から、500〜1,000,000であるのが好ましく、6,000〜100,000であるのがより好ましい。
なお、本発明において、重量平均分子量とは、クロロホルムを溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の重量平均分子量であるものとする。
【0028】
シリコーン樹脂(A)の25℃における粘度としては、機械特性、得られるシリコーン樹脂(D)の粘度操作のしやすさ、および、反応操作の容易さの観点から、20〜1,000,000mPa・sであるのが好ましく、500〜100,000mPa・sであるのがより好ましい。
なお、本発明において、粘度とは、JIS K7117−1の4.1(ブルックフィールド形回転粘度計)に準拠し、25℃において測定されたものとする。
【0029】
シリコーン樹脂(A)としては、市販品を使用することできる。
例えば、式(a)中のR1がメチル基を示す両末端シラノールポリジメチルシロキサンの具体例としては、DMS−S27(Gelest社製、Mw:18,000、粘度:800mPa・s)、DMS−S32(Gelest社製、Mw:36,000、粘度:2,000mPa・s)、DMS−S35(Gelest社製、Mw:49,000、粘度:5,000mPa・s)等が挙げられる。
【0030】
<アルコキシシラン(B)>
本発明の製造方法に用いられるアルコキシシラン(B)は、式(b)で表される1分子中に少なくとも2個のアルコキシ基を有するアルコキシシランである。なお、アルコキシ基とは、酸素原子(O)にアルキル基が直接結合したものをいい、式(b)中においては、−OR2がアルコキシ基を示す。
【0031】
【化4】

【0032】
式(b)中、R2はアルキル基を示し、Xは一価の炭化水素基または反応性官能基を示し、rは1または2の整数を示す。複数のR2および複数ある場合における複数のXは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0033】
2が示すアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種オクチル基、各種デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
これらのうち、反応性、機械特性、得られるシリコーン樹脂(D)の粘度操作のしやすさ、および、反応操作の容易さの観点から、という理由から、炭素数1〜10のアルキル基であるのが好ましく、炭素数1〜6のアルキル基であるのがより好ましく、メチル基、エチル基であるのがさらに好ましい。
【0034】
Xが示す一価の炭化水素基としては、R1が示す一価の炭化水素基として記載したものが挙げられる。
Xが示す反応性官能基とは、この反応性官能基どうしで反応し得る基のことをいい、例えば、縮合重合可能な加水分解性基、付加重合可能な不飽和結合含有基等が挙げられる。
加水分解性基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基が挙げられる。
不飽和結合含有基としては、例えば、ビニル基、プロペニル基、アリル基などのアルケニル基;(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアルキル基などの(メタ)アクリロイル基含有基;等が挙げられる。
【0035】
Xが示す基としては、一価の炭化水素基または反応性官能基であれば、特に限定されないが、少なくとも1個のXが不飽和結合含有基を示すのが好ましい。これにより、本発明の製造方法によって得られるシリコーン樹脂(D)においては、両末端に有する反応性官能基として、「OR2」に由来する加水分解性基と、「X」に由来する不飽和結合含有基とを備える。
【0036】
また、本発明に用いられるアルコキシシラン(B)は、「X」が反応性官能基としてアルコキシ基を示すことにより「OR2」と同義となる態様も含むものとする。このとき、「Si」に1個の「X」と3個の「OR2」とが結合しているパターン(r=1)と、「Si」に2個の「X」と2個の「OR2」とが結合しているパターン(r=2)とが考えられるが、いずれのパターンも区別されることなく、本態様に含まれるものとする。
本態様をとるアルコキシシラン(B)の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシランが挙げられる。
【0037】
アルコキシシラン(B)の重量平均分子量(Mw)としては、反応性、機械特性、得られるシリコーン樹脂(D)の安定性および粘度操作のしやすさ、ならびに、反応操作の容易さの観点から、100〜2,000であるのが好ましく、140〜1,000であるのがより好ましい。
【0038】
アルコキシシラン(B)としては、市販品を使用することができる。
例えば、式(b)中のrが1または2を示し、Xがメトキシ基を示し、R2がメチル基を示すテトラメトキシシランの具体例としては、KBM−04(信越化学工業社製、Mw:152)が挙げられる。
また、式(b)中のrが1を示し、Xがビニル基を示し、R2がメチル基を示すトリメトキシビニルシランの具体例としては、KBM−1003(信越化学工業社製、Mw:148.2)が挙げられる。
また、式(b)中のrが1を示し、Xが3−メタクリロキシプロピル基を示し、R2がメチル基を示す3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの具体例としては、KBM−503(信越化学工業社製、Mw:248.4)が挙げられる。
【0039】
<カルボン酸化合物(C)>
本発明の製造方法に用いられるカルボン酸化合物(C)は、式(c)で表される1分子中に少なくとも1個のカルボキシ基を有するカルボン酸化合物である。
本発明においては、触媒としてカルボン酸化合物(C)を用いることにより、無触媒の場合よりも、低温かつ短時間で、目的とするシリコーン樹脂(D)を得ることができる。
これは、詳細なメカニズムは不明であるが、カルボン酸化合物(C)がアルコキシシラン(B)に作用してシラノールが生成され、シラノールが生成されたアルコキシシラン(B)がシリコーン樹脂(A)と反応するからであると考えられる。
【0040】
【化5】

【0041】
式(c)中、R3は水素または一価の炭化水素基を示す。R3が示す一価の炭化水素基としては、R1が示す一価の炭化水素基として記載したものが挙げられ、なかでも、反応後における除去の容易さ、シリコーン樹脂との相溶性、および、入手のしやすさという観点から、一価の脂肪族炭化水素基であるのが好ましく、アルキル基であるのがより好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基であるのがさらに好ましい。
【0042】
<シリコーン樹脂(D)>
本発明の製造方法によって製造されるシリコーン樹脂(D)は、式(d)で表される両末端に反応性官能基を有するシリコーン樹脂である。シリコーン樹脂(D)においては、式(d)中のXおよび/またはOR2が反応性官能基となる。
【0043】
【化6】

【0044】
式(d)中、R1,R2,Xおよびrは、上述したR1,R2,Xおよびrと同義である。複数のR1,R2およびXは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。また、nは、1以上の整数を示し、シリコーン樹脂(D)の重量平均分子量に対応する数値にすることができる。
【0045】
シリコーン樹脂(D)の重量平均分子量(Mw)としては、反応性、機械特性、および、粘度操作のしやすさの観点から、500〜1,000,000であるのが好ましく、1,000〜500,000であるのがより好ましい。
また、シリコーン樹脂(D)の25℃における粘度としては、反応性、機械特性、および、粘度操作のしやすさの観点から、20〜1,000,000mPa・sであるのが好ましく、500〜100,000mPa・sであるのがより好ましい。
【0046】
<反応工程>
本発明の製造方法は、シリコーン樹脂(A)とアルコキシシラン(B)とをカルボン酸化合物(C)の存在下で反応させて反応生成物を得る工程(以下、「反応工程」ともいう)を備える。
【0047】
各成分の含有量比は特に限定されないが、反応操作の容易さ、および、反応再現性の観点から、シリコーン樹脂(A)100質量部に対して、アルコキシシラン(B)5〜100質量部、カルボン酸化合物(C)0.001〜10質量部であるのが好ましく、シリコーン樹脂(A)100質量部に対して、アルコキシシラン(B)5〜50質量部、カルボン酸化合物(C)5〜20質量部であるのがより好ましい。
【0048】
シリコーン樹脂(A)とアルコキシシラン(B)との反応は、撹拌により行われるのが好ましい。また、撹拌に際しては、より緩やかな反応条件という観点から、60〜120℃の温度範囲で加熱するのが好ましく、70〜110℃の温度範囲で加熱するのがより好ましい。
さらに、同様の観点から、撹拌時間(反応時間)は、3〜12時間であるのが好ましく、5〜12時間であるのがより好ましい。
【0049】
反応工程において、撹拌および加熱を行う方法は、特に限定されず、従来公知の方法によって行うことができる。
このような反応工程によって、カルボン酸化合物(C)が触媒として機能し、シリコーン樹脂(A)とアルコキシシラン(B)との反応が進行する。すなわち、シリコーン樹脂(A)が有する「−OH」と、アルコキシシラン(B)が有する「−OR2」とが反応し、副生成物として「R2OH」を与えて、上述したシリコーン樹脂(D)が主生成物として生成する。
【0050】
この反応工程を、より具体的に説明すると、例えば、下記式(c′)で表されるカルボン酸化合物(C)が触媒として用いられ、下記式(a′)で表されるシリコーン樹脂(A)が有する「−OH」と、下記式(b′)で表されるアルコキシシラン(B)が有する「−OMe」とが反応し、副生成物として「MeOH」を与えて、下記式(d′)で表されるシリコーン樹脂(D)が主生成物として生成する。なお、下記式中「Me」はメチル基を示す。
【0051】
【化7】

【0052】
反応工程においては、1H−NMRによって反応追跡を行い、シリコーン樹脂(A)が有するシラノール基に由来するピークの消滅、または、反応に用いた成分以外の成分に由来するピークの出現を確認することにより、主生成物であるシリコーン樹脂(D)と副生成物とを含む反応生成物が得られたものとして、反応終了とすることができる。
【0053】
<除去工程>
さらに、本発明の製造方法は、上記反応生成物から副生成物を除去し、主生成物であるシリコーン樹脂(D)を得る工程(以下、「除去工程」ともいう)を備える。
【0054】
副生成物の除去方法は、特に限定されず、例えば、反応生成物を加熱しながら、減圧条件下で撹拌することにより行う方法が挙げられる。
このとき、加熱温度、圧力、撹拌時間等の条件は、特に限定されず、生成する副生成物に応じて、適宜設定することができるが、副生成物とともに、未反応のアルコキシシラン(B)および触媒であるカルボン酸化合物(C)も同時に除去できる条件であるのが好ましい。
例えば、副生成物として「MeOH」(メタノール)が生成する場合には、加熱温度は120〜160℃であるのが好ましく、圧力は0.1〜30mmHgであるのが好ましく、撹拌時間は2〜5時間であるのが好ましい。
【0055】
除去工程においては、反応生成物の粘度を測定し、粘度が当初より上昇して不変となったところで、副生成物、未反応のアルコキシシラン(B)およびカルボン酸化合物(C)が除去されたものとして、終了とすることができる。
【0056】
<硬化性樹脂組成物>
次に、本発明の硬化性樹脂組成物(以下、「本発明の組成物」ともいう)について説明する。本発明の組成物は、本発明の製造方法によって得られた上述したシリコーン樹脂(D)と、有機チタン化合物と、を含有する硬化性樹脂組成物である。本発明の組成物は、表面硬化性に優れる。
【0057】
本発明の組成物に含有される有機チタン化合物としては、特に限定されないが、例えば、チタンアルコキシド、チタンキレート等が好適に用いられる。
チタンアルコキシドとしては、特に限定されず、例えば、テトラエトキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトラ−i−プロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラ−i−ブトキシチタン、テトラ−sec−ブトキシチタン、テトラ−t−ブトキシチタン、テトラ−2−エチルヘキシルチタン等が挙げられ、なかでも、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラ−2−エチルヘキシルチタンが好ましい。
チタンキレートとしては、特に限定されず、例えば、トリエトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−n−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−i−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−n−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−sec−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−t−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、ジエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−n−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−sec−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−t−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、モノエトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−n−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−i−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−n−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−sec−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−t−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、テトラキス(アセチルアセトナート)チタン、トリエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−n−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−i−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−n−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−sec−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−t−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、ジエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−n−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−i−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−sec−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−t−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、モノエトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−n−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−i−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−n−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−sec−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−t−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、テトラキス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ(アセチルアセトナート)トリス(エチルアセトアセテート)チタン、ビス(アセチルアセトナート)ビス(エチルアセトアセテート)チタン、トリス(アセチルアセトナート)モノ(エチルアセトアセテート)チタン等が挙げられ、なかでも、ジ−i−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、テトラキス(アセチルアセトナート)チタンが好ましい。
これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
有機チタン化合物の含有量は、特に限定されないが、適切な硬化性という観点から、シリコーン樹脂(D)100質量部に対して1〜10質量部であるのが好ましく、シリコーン樹脂(D)100質量部に対して1〜5質量部であるのがより好ましい。
【0059】
本発明の組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、その他の添加剤を含有することができる。
このような本発明の組成物は、例えば、電子材料分野において接着剤として使用することができる。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
<実施例1〜7、比較例1〜3>
2Lの3口フラスコに、ジムロート冷却管とメカニカルスターラーとを備え付け、下記第1表に示す成分(単位は質量部)を封入した。次に、このフラスコをオイルバスに漬けて同表に示す温度([℃])に加熱しながら、メカニカルスターラーを回転させて、フラスコに封入された成分を撹拌し、同表に示す時間([h])反応させた。
このとき、後述するシリコーン樹脂A1〜A3が有するシラノール基に由来するピークの消滅、または、フラスコに封入された成分以外の成分に由来するピークの出現を、1H−NMRによって確認することにより、主生成物(シリコーン樹脂(D))含む反応生成物が得られたものとして、反応終了とした。
【0062】
反応終了の例を、図1に基いて説明する。図1は、実施例3の反応生成物を示すNMRチャートである。
実施例3は、後述するように、両末端シラノールポリジメチルシロキサンであるシリコーン樹脂A2と、テトラメトキシシランであるアルコキシシランB1とを反応させている。
ここで、図1のNMRチャートを見ると、シラノール基に起因するピーク(2.0〜2.2ppm)が消滅し、トリメトキシシリル基に起因するピーク(3.5ppm付近)が出現していることが確認できる。このことから、シリコーン樹脂A2のシラノール基がアルコキシシランB1のメトキシ基と反応し、トリメトキシシリル基を両末端に有する主生成物(シリコーン樹脂(D))含む反応生成物を得られたことが分かる。
【0063】
なお、ピークの消滅または出現が確認されなかった場合には、反応が進行せず反応生成物が得られなかったものとして、下記第1表には「反応せず」と記載した。
【0064】
次に、反応生成物が得られたものについては、真空ポンプを用いて、反応生成物を、140℃、10mmHgの条件下で3時間撹拌し、副生成物を除去するとともに、未反応のアルコキシシランB1〜B3およびカルボン酸化合物C1(いずれも後述する)も除去した。
【0065】
<粘度>
このとき、JIS K7117−1に準拠して、ブルックフィールド形回転粘度計を用いて反応生成物の粘度を測定し、不変となったところで、除去が終了したものとした。測定した粘度については、下記第1表に示す。なお、反応が進行せず反応生成物が得られなかったものについては、粘度測定を行わず「−」と記載した。
測定された粘度が100〜500,000mPa・sの範囲内であれば、実用的に使用できるものとして評価できる。
【0066】
<貯蔵安定性>
反応生成物から副生成物等を除去したものについては、得られた主生成物について貯蔵安定性を評価した。具体的には、得られた主生成物を、ガラス瓶に密閉し、室温(25℃)で30日間放置した後の外観を確認した。ゲル分や固形分の発生が確認された場合には貯蔵安定性に劣るものとして「×」と評価し、当初の状態である流動性液体状態が維持されていた場合には貯蔵安定性に優れるものとして「○」と評価した。結果を下記第1表に示す。なお、反応が進行せず反応生成物が得られなかったものについては、貯蔵安定性の評価を行わず「−」と記載した。
【0067】
【表1】

【0068】
第1表中の各成分は、以下のものを使用した。
・シリコーン樹脂A1:両末端シラノールポリジメチルシロキサン(DMS−S27、Gelest社製、Mw:18,000、粘度:800mPa・s)
・シリコーン樹脂A2:両末端シラノールポリジメチルシロキサン(DMS−S32、Gelest社製、Mw:36,000、粘度:2,000mPa・s)
・シリコーン樹脂A3:両末端シラノールポリジメチルシロキサン(DMS−S35、Gelest社製、Mw:49,000、粘度:5,000mPa・s)
・アルコキシシランB1:テトラメトキシシラン(KBM−04、信越化学工業社製、Mw:152)
・アルコキシシランB2:トリメトキシビニルシラン(KBM−1003、信越化学工業社製、Mw:148.2)
・アルコキシシランB3:3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−503、信越化学工業社製、Mw:248.4)
・カルボン酸化合物C1:酢酸(鹿1級、関東化学社製)
・スズ化合物:ジブチルスズジアセテート(U−200、日東化成社製)
【0069】
第1表に示す結果から、カルボン酸化合物C1を触媒として用いなかった比較例1,2は、高温(140℃)かつ長時間(12時間)の撹拌によっても、反応が進行せず、目的とする主生成物(シリコーン樹脂(D))が得られないことが分かった。
また、カルボン酸化合物C1の代わりにスズ化合物を触媒として用いた比較例3は、反応は進行したものの、得られた主生成物の粘度が極めて高く、また、貯蔵安定性も劣るため、実用的に使用できないことが分かった。
【0070】
これに対して、触媒としてカルボン酸化合物C1を用いた実施例1〜7は、比較的1,2よりも、低温かつ短時間の撹拌によっても、反応が進行し、目的とする主生成物(シリコーン樹脂(D))が得られることが分かった。このとき、得られた主生成物の粘度は実用的に使用できるものであり、貯蔵安定性にも優れることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(a)で表される両末端にシラノール基を有するシリコーン樹脂(A)と、下記式(b)で表される1分子中に少なくとも2個のアルコキシ基を有するアルコキシシラン(B)とを、下記式(c)で表される1分子中に少なくとも1個のカルボキシ基を有するカルボン酸化合物(C)の存在下で反応させて反応生成物を得る工程と、
前記反応生成物から副生成物を除去し、主生成物である下記式(d)で表される両末端に反応性官能基を有するシリコーン樹脂(D)を得る工程と、
を備えるシリコーン樹脂の製造方法。
【化1】


(式(a)〜(d)中、R1は一価の炭化水素基を示し、R2はアルキル基を示し、R3は水素または一価の炭化水素基を示し、Xは一価の炭化水素基または反応性官能基を示し、mおよびnは1以上の整数を示し、rは1または2の整数を示し、複数のR1およびR2ならびに複数ある場合における複数のXは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記反応が、60〜120℃で撹拌されて行われる、請求項1に記載のシリコーン樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記シリコーン樹脂(A)の25℃における粘度が、20〜1,000,000mPa・sである、請求項1または2に記載のシリコーン樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記アルコキシシラン(B)において、前記式(b)中の少なくとも1個のXが、不飽和結合含有基を示す、請求項1〜3のいずれかに記載のシリコーン樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記カルボン酸化合物(C)において、前記式(c)中のR3が、一価の脂肪族炭化水素基を示す、請求項1〜4のいずれかに記載のシリコーン樹脂の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のシリコーン樹脂の製造方法によって得られた下記式(d)で表される両末端に反応性官能基を有するシリコーン樹脂(D)と、
有機チタン化合物と、を含有する硬化性樹脂組成物。
【化2】


(式(d)中、R1は一価の炭化水素基を示し、R2はアルキル基を示し、Xは一価の炭化水素基または反応性官能基を示し、mおよびnは1以上の整数を示し、rは1または2の整数を示し、複数のR1,R2およびXは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)

【図1】
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【公開番号】特開2012−102175(P2012−102175A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249566(P2010−249566)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】