説明

スリップ検出システム

【課題】搬送台車の車輪の定常的なスリップを検出する。
【解決手段】少なくとも3輪の車輪10を備え、該車輪10のうち少なくとも2輪をそれぞれ異なるモータ8で駆動し、各モータ8には、該モータ8を制御する制御装置4が備わっており、各制御装置4からモータ8を制御するための制御情報4を取得し、取得した制御情報4を基に、車輪10の定常的なスリップを検出する情報比較部11,12を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送台車のスリップ検出システムの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体や液晶テレビなどの製造工場(以下、FA(Factory Automation)工場)では、製造装置や搬送装置の自動化が進んでいる。FA工場とは、中央のコンピュータが、製造工程や搬送工程を一元的に管理するものであり、製造装置や搬送装置はこの中央のコンピュータから送信される命令を受信して所定の処理を実施する。このうち搬送装置には、OHV(Over Head vehicle:天井搬送車)や、スタッカクレーンといった搬送台車が備えられている。このような搬送台車は、製造途中または製造が終了した製品や部品を次工程の製造装置へ搬送したり、あるいは棚などに一時保管するために製品を搬送したりする機能を有している。
【0003】
これまで、このような搬送台車は、搬送台車に備えられている4つの車輪のうち、1つの車輪に1つのモータを設置していた。すなわち、搬送台車に備えられている4つの車輪のうち、1つが駆動していた。
しかしながら、近年における搬送重量の増大に伴い、各車輪にモータを備える方式が複数提案されている。このように複数のモータを用いると、モータで発生した推進力を伝えるための床またはレールと車輪との設置面積が増大するため、加速度を上昇させることができる点で有利である。
さらに、このような構成で、各モータをどのように制御するかについても複数提案されている。このような制御の方法では、代表となるサーボ(制御装置)の電流値を他のモータへ出力する搬送台車が提示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、前後一対の走行車輪のそれぞれに駆動モータが複数設けられ、走行速度情報を各車輪のサーボアンプに送信し、1つのモータに対して目標速度と検出された走行速度との偏差に基づいて制御し、残りのモータに対して追従性の低い制御を行う搬送台車が提示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、左右のタイヤをそれぞれ独立に駆動するモータとインバータとを備え、モータの速度が、モータの速度指令になるようにフィードバック制御する電気自動車も提示されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2006−62845号公報(段落0015および段落0016、図3)
【特許文献2】特開2006−76699号公報(請求項1、段落0022および段落0043〜段落0047)
【特許文献1】特開2001−177906号公報(請求項1、段落0013〜段落0015、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
こうした中で、複数の車輪をモータによって同時に駆動する場合、モータの角速度の違いに起因した微小または大きな定常的スリップが発生して、タイヤまたは車輪のゴム等が容易に磨耗するという問題がある。
【0007】
例えば、特許文献1〜特許文献3に記載されている技術において、特にスタッカクレーンは、車高が高く、またスタッカクレーンに備えるマストなどの構造体の剛性が低くて、たわみや、しなりが生じやすいため、走行中における重心位置の変化が著しい。それゆえ、各車輪の荷重バランスが大きく変動し、レールと車輪とのグリップ力が低下してスリップしやすくなる。また、車輪に備えられているタイヤへの付着物があると摩擦係数が低下して、同様にスリップする。この時、代表となるサーボによって制御されている車輪がグリップし、他の3輪のうちのいずれかがスリップしていた場合、スリップしている車輪はグリップしている車輪よりも高速で回転するため、タイヤが容易に磨耗することになる。
タイヤの磨耗は、維持費の増大だけでなく、とくに空気の清浄が要求されるクリーンルームにおいては飛散する塵の発生につながるという点で深刻である。また、スリップは、搬送台車の制御の不安定要因となって事故に拡大する恐れがあるため極力発生しないことが望ましく、これらの点で従来の方式は不十分であった。
【0008】
このような背景に鑑みて本発明がなされたのであり、本発明は、搬送台車の車輪の定常的なスリップを検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明のスリップ検出システムは、少なくとも3輪の車輪を備え、該車輪のうち少なくとも2輪をそれぞれ異なるモータで駆動し、各モータには、該モータを制御する制御装置が備わっており、入力部を介して入力された情報を基に算出されたモータの回転に関する情報を、それぞれの制御装置へ送る管理装置を有する搬送台車のスリップ検出システムであって、各制御装置からモータを制御するための制御情報を取得し、取得した制御情報を基に、車輪の定常的なスリップを検出する情報比較部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、搬送台車の車輪の定常的なスリップを検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明を実施するための最良の形態(「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施形態では、搬送台車の好適な一例として4つの車輪10を備え、各車輪10がモータ8によって駆動されるスタッカクレーンを例として用いることとする。
【0012】
図1は、本実施形態に係るスリップ検出システムの構成例を示すブロック図である。
スリップ検出システム1は、スタッカクレーンに設置されており、1つのマスタ制御装置2(マスタの制御装置)と、このマスタ制御装置2に接続されているスレーブ制御装置3(3a〜3c:スレーブの制御装置)とを有している。マスタ制御装置2と、スレーブ制御装置3(3a〜3c)とを合わせて制御装置4と記述することとする。スリップ検出システム1は、各制御装置4に備えられているモータ8(8a〜8d)、モータ8(8a〜8d)の角速度を監視し、角速度情報を出力するモータエンコーダ9(9a〜9d)、そしてモータ8(8a〜8d)に備えられている車輪10(10a〜10d)を有している。各車輪10(10a〜10d)には、図示しないタイヤが装着されている。さらに、スリップ検出システム1は、各制御装置4から電流値指令(電流値指令情報)を取得し、取得した各電流値指令を比較することによってタイヤの磨耗を検知する比較演算回路11(情報比較部)を備える。比較演算回路11の詳細については、図6〜図8を参照して後記する。
また、比較演算回路11には、比較演算回路11が算出した比較結果を基に、警報の度合いを選択する判定回路12(情報比較部)が接続されている。判定回路12の詳細については、図7および図8を参照して後記する。
【0013】
ここで、電流値指令とは、モータ8のトルクを制御するための制御情報の1つであり、具体的には、モータ8を駆動するための電流値の目標値である。また、マスタ制御装置2に、スタッカクレーンの現在の目標位置の座標を入力する目標位置入力装置6と、スタッカクレーンの移動速度を検出して、検出した移動速度をマスタ制御装置2へ入力するスタッカクレーン速度センサ7を備える。スタッカクレーン速度センサ7には、例えばリニアエンコーダや、レーザー距離計などが用いられる。目標位置や、現在位置は、例えば、1次元座標値として入力される。
【0014】
マスタ制御装置2は、以下の各要素を有してなる。
積分回路21は、スタッカクレーン速度センサ7から入力されたスタッカクレーンの移動速度を積分することによって、スタッカクレーンの現在位置を1次元の座標値として算出する機能を有する。
位置差算出装置22は、目標位置入力装置6から入力された目標位置の座標値と、積分回路21から入力されたスタッカクレーンの現在位置の座標値との差を算出して、周速度コントローラ23へ入力する機能を有する。
周速度コントローラ23では、入力されたスタッカクレーンの目標位置の座標値と、現在の位置の座標値との差を基に、車輪10(10a〜10d)の周速度の目標値である周速度指令(モータの回転に関する情報)が算出される。具体的には、入力されたスタッカクレーンの目標位置の座標値と、現在の位置の座標値との差を所定の時間で除算することによって、周速度指令が算出される。
算出されたモータ8(8a〜8d)の周速度指令は、マスタ制御装置2の周速度制御装置5(5a)、および各スレーブ制御装置3(3a〜3c)の周速度制御装置5(5b〜5d)へ分配される。
周速度制御装置5は、入力された周速度指令と、モータエンコーダ9から入力された角速度情報とを基に、モータ8に入力する電流値を算出し、該電流値の電流をモータ8へ入力する機能を有する。周速度制御装置5は、電流値指令も出力しており、出力された電流値指令は、比較演算回路11へ入力される。周速度制御装置5の詳細については、図2を参照して後記する。
【0015】
スレーブ制御装置3(3a〜3c)は、マスタ制御装置2から入力された周速度指令と、モータエンコーダ9(9b〜9d)から入力された角速度情報とを基に、モータ8(8b〜8d)に入力する電流値を算出し、該電流値の電流をモータ8(8b〜8d)へ入力する周速度制御装置5(5b〜5d)を有する。
【0016】
次に、図1を参照しつつ、図2に沿って周速度制御装置5について説明する。
図2は、周速度制御装置の構成例を示すブロック図である。
周速度制御装置5は、以下の各要素を有してなる。
周速度差算出装置51は、周速度コントローラ23から入力された周速度指令と、現在の車輪10の周速度の情報である周速度情報との差である周速度差情報を算出し、この周速度差情報を電流値指令コントローラ52へ入力する。
【0017】
電流値指令コントローラ52は、入力された周速度差情報からモータ8へ送る電流値の目標値である電流値指令を算出して、電流値差算出装置53へ入力する。また、電流値指令コントローラ52から出力した電流値指令は、比較演算回路11へも入力されている。
電流値差算出装置53では、入力された電流値指令と、後記する電流センサ55から送られた現在におけるモータ8へ入力されている電流値との差である電流値差情報を算出し、電流値コントローラ54へ入力する。
電流値コントローラ54では、現在の電流値に、電流値差情報の電流値を加算または減算することによって、入力された電流値指令の電流値の電流を発生させ、モータ8へ送る。なお、当該電流値は、制御情報の1つである。
【0018】
電流値コントローラ54と、モータ8との間には、モータ8へ入力されている電流の値を監視している電流センサ55が備えられている。電流センサ55は、モータ8へ入力されている電流の値である電流値情報を取得すると、この電流値情報を電流値差算出装置53へフィードバックする。
電流を送られたモータ8は、車輪10を駆動することによってスタッカクレーンを移動させる。
前記したようにモータ8には、モータ8の角速度を監視しているモータエンコーダ9が備えられている。モータエンコーダ9は、モータ8の現在の角速度の情報である角速度情報(回転速度情報)を取得すると、アンプ56へ送る。なお、角速度情報は、制御情報の1つである。
アンプ56は、入力された角速度情報の角速度に、予め設定されている車輪10の半径rを乗算することによって車輪10の周速度を算出し、算出した車輪10の周速度の情報である周速度情報を周速度差算出装置51へフィードバックすることによって速度制御ループを形成している。
【0019】
しかしながら、車輪10の直径または半径が制御回路にあらかじめ設定した値と乖離(例えば、アンプ56の設定値(r)と実際の車輪10の半径(r’)が1%以上乖離)がある場合、走行中に定常的なスリップが生じる可能性がある。
【0020】
次に、図2を参照しつつ、図3〜図5に沿って、磨耗によるスリップが生じているときの周速度、スタッカクレーンの走行速度および電流値指令の状態を説明する。
図3は、車輪に磨耗が生じ、スリップが生じているときの車輪の周速度と、スタッカクレーンの走行速度の関係を示したグラフである。
図3において、実線は、磨耗を生じている車輪10の周速度であり、破線は、スタッカクレーンの走行速度である。そして、図3において、横軸は、時刻を表し、縦軸は、車輪10の周速度またはスタッカクレーンの走行速度を表している。図3では、実線と破線とが重なり合うことが理想の形である。
【0021】
なお、図3において、磨耗を生じている車輪10の半径r’は、磨耗を生じていない車輪10の半径rより5%小さい場合のシミュレーション結果である。図3に示されるように、スタッカクレーンの走行速度と車輪10の周速度に乖離が生じており、スリップが発生していることがわかる。この定常的なスリップによって車輪10の磨耗がさらに進行する場合がある。
従来の周速度指令を分配する方式は、rとr’とに乖離が生じないか、または僅少となるように、周速度の設定を更新することが肝要であり、この更新により車輪10の磨耗を低減させている。
これに対し、本実施形態では図1に示した各制御装置4の電流値指令を相互に比較することによって、rとr’の乖離の評価指標とし、これをもって乖離の有無の判定に用いている。
【0022】
本実施形態では、図3のような車輪10の周速度と、スタッカクレーンの走行速度に定常的な乖離が生じている状態を「定常的なスリップ」と定義する。しかしながら、このようなスリップが、一見生じていないようにみえる状態でも、実際には微小なスリップが生じており、車輪10を少しずつ磨耗させている。このような微小なスリップを、「定常的なスリップ」として定義し、本実施形態に係るスリップ検出システムを適用してもよい。
【0023】
図4は、r=r’(車輪半径設定値と実際の車輪半径が一致している)の場合と、r>r’(車輪半径設定値より実際の車輪半径が小さい)の場合との、電流値指令のグラフである。
図4では、r=r’の車輪10に対する電流値指令を実線で示し、r>r’の車輪10に対する電流値指令を破線で示す。そして、図4において横軸は時刻、縦軸は電流値指令を示す。
磨耗によるスリップが生じることによって、r>r’となった車輪10は、空回りに近い状態となるため、このような車輪10へ入力する電流値指令は、小さな値となる。
従って、図4に示すように、走行中においてr=r’の車輪10に入力する電流値指令と、r>r’の車輪10に入力する電流値指令との間に定常的な乖離が生じていることがわかる。
このように、本実施形態に係る比較演算回路11は、各制御装置4の電流値指令を比較し、所定の閾値より大きな乖離が生じているか否かを判定することによって、車輪10の磨耗によるスリップが生じていると判定することができる。
【0024】
これに対し、スタッカクレーンに積載されている荷物の移動などによって、一時的に車輪10にかかる荷重が減少し、車輪10がグリップ力を失ったために生じる一時的なスリップがある。
図5は、一時的に車輪がグリップ力を失ったために生じたスリップを示す図である。
図5において、グリップ力が大きい車輪10における電流値指令を実線で示し、一時的にグリップ力が小さくなった車輪10における電流値指令を破線で示している。また、図5において横軸は、時刻を示し、縦軸は、電流値指令を示している。
グリップ力が小さくなった瞬間は、小さなトルクですむため、入力される電流値指令は小さな値となる。
図5に示すように、一時的に車輪10がグリップ力を失ったために生じた際の、電流値指令の乖離は、一時的なものである。このようなスリップは、磨耗による定常的なスリップではないため、スリップとして検出しないことが望ましい。しかしながら、前記したように、比較演算回路11が各制御装置4から得られる電流値指令の差分を算出し、この差分の値が所定の値を超えたときに、スリップを検出するようにすると、図5のような一時的なスリップも、磨耗によるスリップと誤検出してしまう可能性がある。
【0025】
このような誤検出を防止するため、本実施形態では、比較演算回路11に以下のような処理を行わせることとした。以下に、図2を参照しつつ、図6に沿って比較演算回路11における処理を説明する。
図6は、本実施形態に係る比較演算回路における処理を説明するための図であり、(a)は、定常的なスリップが生じている場合、(b)は、一時的なスリップが生じている場合を示す図である。
比較演算回路11は、1回の走行サイクル、すなわち、スタッカクレーンの停止、加速、定速、減速、停止において、各制御装置4から入力された電流値指令の差を、1回の走行サイクルの間累積した合計値を算出し、この合計値を演算結果として、磨耗によるスリップの検出に用いることとした。演算結果Sは、次のような式で算出される。
【0026】
【数1】

【0027】
ただし、式(1)においてistは走行開始時刻でのインデックス(サンプリング番号)、iendは走行終了時刻でのインデックス(サンプリング番号)、T(i),T(i)は比較する車輪10の電流値指令である。Lは走行距離であり、これで規格化すれば、Sの値は、走行距離に依存しなくなる。
ここで、式(1)におけるSの意味するところは、図6(a)または図6(b)における斜線部分(S1およびS2)の面積である。
図6(a)および図6(b)を比較すると明らかなように、図6(a)すなわち車輪10の磨耗による定常的なスリップでは式(1)により算出される値(図6(a)のS1)は大きな値となる。これに対し、図6(b)すなわち一時的なスリップによる式(1)の結果(図6(b)のS2)は、小さな値となる。
これにより、所定の閾値を設け、式(1)により算出されたSの値が、この閾値より大きければ、比較演算回路11は磨耗による定常的なスリップが生じていると判定し、この閾値より小さい場合、比較演算回路11は、一時的なスリップが生じていると判定する。
【0028】
本実施形態では、電流値指令の差を累積し、この値を基にスリップを検出したが、これに限らず、平均化処理、あるいは相関処理によって演算してもよい。このような処理とすることで荷重変動によって輪重が軽くなる場合に、電流値指令の大きさが一時的に小さくなる現象に対する誤検知を低減し、精度よく検出できるようになる。
【0029】
図7は、比較演算回路および判定回路の構成例を示す図であり、(a)は、比較演算回路および判定回路の構成例であり、(b)は、判定回路に格納されている演算結果−メッセージ対応リストである。
図7(a)に示すように、比較演算回路11には、マスタ制御装置2および各スレーブ装置から電流値指令が入力される。これらの電流値指令を、例えばマスタ制御装置2から入力された電流値指令を基準として、各電流値指令に対し式(1)の演算を行って演算結果Sの値を算出する。すなわち、マスタ制御装置2から入力された電流値指令を式(1)におけるT(i)とし、各スレーブ制御装置3a〜3cから入力された電流値指令を式(1)におけるT(i)とする。この結果、演算結果は、3つ算出される。算出された3つの演算結果(演算結果1〜3)は、判定回路12に入力され、それぞれコンパレータ1201(1201a〜1201c)によって予め設定されている閾値と比較される。ここで、図7(a)におけるVは、閾値である。各コンパレータ1201(1201a〜1201c)は、入力された演算結果と、閾値とを比較した結果、演算結果が閾値より大きければ「1」の値を出力し、演算結果が閾値以下であれば「0」を出力する。
【0030】
判定回路12には、例えば図7(b)に示すような演算結果−メッセージ対応リストが格納されている。
図7(b)において車輪10aは、マスタ制御装置2によって制御されており、車輪10bは、スレーブ制御装置3aによって制御されており、車輪10bは、スレーブ制御装置3bによって制御されており、車輪10cは、スレーブ制御装置3cによって制御されている。
また、C1〜C3は、図7(a)におけるコンパレータ1201a〜1201cから出力される値で、「0」または「1」の値である。
図7(b)ではC1〜C3の値が「1」であった場合のメッセージに関して記載してある。
【0031】
すなわち、C1の値が「1」であった場合は、車輪10aおよび車輪10bに関するメッセージがONとなり、判定回路12は、図示しない表示部にメッセージを表示させる。ここで、メッセージは、車輪10の磨耗によるスリップが発生しているなどといった警告などである。C1の値が「1」であった場合は、車輪10cおよび車輪10dに関するメッセージはOFFとなり、車輪10cおよび車輪10dに関するメッセージは、表示されない。
同様に、C2の値が「1」であった場合は、車輪10aおよび車輪10cに関するメッセージがONとなり、車輪10bおよび車輪10dに関するメッセージはOFFとなる。
また、C3の値が「1」であった場合は、車輪10aおよび車輪10dに関するメッセージがONとなり、車輪10bおよび車輪10cに関するメッセージはOFFとなる。
図示しない表示部は、例えば判定回路12に接続されたPC(Personal Computer)のディスプレイなどである。
【0032】
図7に示す例では閾値を1つとしたが、これに限らず複数の閾値を設定してもよい。
図8は、複数の閾値を設定したときの比較演算回路と、判定回路との構成例を示す図であり、(a)は、比較演算回路および判定回路の構成例であり、(b)は、判定回路に格納されている演算結果−メッセージ対応リストである。
ただし、図8(a)および図8(b)では、煩雑になることを避けるため、マスタ制御装置2と、スレーブ制御装置3aとから入力された電流値指令を用いた例のみを示す。
実際には、スレーブ制御装置3bおよびスレーブ制御装置3cからも電流値指令が入力され、同様の処理が行われている。
図8(a)に示すように、比較演算回路11によって、マスタ制御装置2およびスレーブ制御装置3aから入力された電流値指令を基に、式(1)によって算出された演算結果は、判定回路12で2つのコンパレータ1201(1201d,1201e)を用いて2つの閾値V1およびV2と比較される。コンパレータ1201dによって、閾値V1と比較された結果は、C4として出力され、コンパレータ1201eによって、閾値V2と比較された結果は、C5として出力される。
C4およびC5の値は、図7(a)におけるC1〜C3と同様である。V1とV2の関係は、例えばV1>V2などとしておく。
【0033】
判定回路12は、予め設定されている演算結果−メッセージ対応リストによって、メッセージを選択し、図示しない表示部に選択したメッセージを表示させる。
例えば、C4およびC5の値が「0」であった場合、判定回路12は、メッセージAを図示しない表示部に表示させる。同様に、C4が「0」で、C5が「1」であった場合、判定回路12は、メッセージBを図示しない表示部に表示させる。また、C4が「1」で、C5が「0」であった場合、判定回路12は、メッセージCを図示しない表示部に表示させ、C4およびC5の値が「1」であった場合は、判定回路12は、メッセージDを図示しない表示部に表示させる。
ここで、メッセージAは、最も危険度の低いメッセージ(例えば、異常なしなど)であり、メッセージDは、最も危険度の高い(例えば、すぐにタイヤの交換を要求するなど)とする。また、メッセージBおよびメッセージCは、メッセージAおよびメッセージDの中間の危険度の警告とする。
このようにすることで、より細かい段階のメッセージを表示することができる。
【0034】
なお、メッセージは、前記したような警告の他に、例えば磨耗量の情報、車輪交換の有無、その必要時期、交換車輪の在庫確保を促す内容、あるいは車輪半径の設定値の確認を促す内容などとしてもよい。
【0035】
本実施形態では、比較演算回路11へ入力する値は、電流値指令であるとしたがこれに限らず以下のような情報を比較演算回路11に入力してもよい。
図9および図10は、本実施形態に係る周速度制御装置の他の例を示すブロック図である。
図9に示す周速度制御装置5Aでは、モータエンコーダ9から出力される角速度情報が、比較演算回路11へ入力されている。
【0036】
図10に示す周速度制御装置5Bでは、電流値コントローラ54から出力される電流値が、比較演算回路11へ入力されている。
なお、図9および図10におけるスリップ検出システム1(図1参照)における比較演算回路11および判定回路12の動作は、電流値指令が角速度情報または電流値となったこと以外は、図7および図8を参照して前記説明した処理とほぼ同様のため説明を省略する。
【0037】
なお、本実施形態では、スタッカクレーンを搬送台車の例としているが、これに限らず、OHVなどの直線軌道を走行する搬送台車であれば同様の効果が得られる。
【0038】
また、本実施形態では、比較演算回路11へ入力する情報は、電流値指令や、角速度情報や、電流値情報としたが、これに限らず、各制御装置4(図1参照)間で比較可能な値であればよく、例えば周速度差算出装置51(図1参照)が出力する周速度差情報や、電流値差算出装置53(図1参照)が出力する電流値差情報を周速度制御装置5(図1参照)が、比較演算回路11へ入力し、比較演算回路11がこれらの情報を、前記したような方法で比較することによって磨耗によるスリップを検出してもよい。
さらに、本実施形態では、演算結果が閾値以下であった場合に、判定回路12が図示しない表示部にメッセージを表示させる代わりに、電流値指令や、角速度や、電流値などを判定回路12が、図示しない表示部に表示させてもよい。
【0039】
(効果)
図1を参照しつつ、本実施形態の効果を説明する。
本実施形態によれば、比較演算回路11が、各制御装置4から取得した電流値指令や、角速度情報や、電流値などを比較することにより、スリップの検出を行うことが可能である。
さらに、比較演算回路11が、各制御装置4から取得した電流値指令や、角速度指令や、電流値などの差を算出し、この差を1回の走行サイクルの間累積した値を用いて、スリップの検出を行うことで、搬送台車に積載されている荷物の移動などによって、一時的に車輪10にかかる荷重が減少し、車輪10がグリップ力を失ったために生じる一時的なスリップを、磨耗によるスリップであると誤検出することを防止することが可能である。
また、判定回路12が、所定の閾値と、比較演算回路11から出力された値を比較し、この比較の結果によって、表示部へ表示するメッセージの内容を変えることで、ユーザは、現在の搬送台車の車輪10の磨耗の度合いを容易に認識することが可能となり、さらなるタイヤの交換や、磨耗を防止するための処置を迅速に行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本実施形態に係るスリップ検出システムの構成例を示すブロック図である。
【図2】周速度制御装置の構成例を示すブロック図である。
【図3】車輪に磨耗が生じ、スリップが生じているときの車輪の周速度と、スタッカクレーンの走行速度の関係を示したグラフである。
【図4】r=r’(車輪半径設定値と実際の車輪半径が一致している)の場合と、r>r’(車輪半径設定値より実際の車輪半径が小さい)の場合との、電流値指令のグラフである。
【図5】一時的に車輪がグリップ力を失ったために生じたスリップを示す図である。
【図6】本実施形態に係る比較演算回路における処理を説明するための図であり、(a)は、定常的なスリップが生じている場合、(b)は、一時的なスリップが生じている場合を示す図である。
【図7】比較演算回路および判定回路の構成例を示す図であり、(a)は、比較演算回路および判定回路の構成例であり、(b)は、判定回路に格納されている演算結果−メッセージ対応リストである。
【図8】複数の閾値を設定したときの比較演算回路と、判定回路との構成例を示す図であり、(a)は、比較演算回路および判定回路の構成例であり、(b)は、判定回路に格納されている演算結果−メッセージ対応リストである。
【図9】本実施形態に係る周速度制御装置の他の例を示すブロック図である。
【図10】本実施形態に係る周速度制御装置の他の例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0041】
1 スリップ検出システム
2 マスタ制御装置
3,3a〜3c スレーブ制御装置
4 制御装置
5,5A,5A 周速度制御装置
6 目標位置入力装置
7 スタッカクレーン速度センサ
8 モータ
9 モータエンコーダ
10,10a〜10d 車輪
11 比較演算回路(情報比較部)
12 判定回路(情報比較部)
21 積分回路
22 位置差算出装置
23 周速度コントローラ
51 周速度差算出装置
52 電流値指令コントローラ
53 電流値差算出装置
54 電流値コントローラ
55 電流センサ
56 アンプ
1201,1201a〜1201e コンパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3輪の車輪を備え、該車輪のうち少なくとも2輪をそれぞれ異なるモータで駆動し、
前記各モータには、該モータを制御する制御装置が備わっており、
入力部を介して入力された情報を基に算出された前記モータの回転に関する情報を、それぞれの前記制御装置へ送る管理装置を有する搬送台車のスリップ検出システムであって、
前記各制御装置から前記モータを制御するための制御情報を取得し、前記取得した制御情報を基に、前記車輪の定常的なスリップを検出する情報比較部を有することを特徴とするスリップ検出システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記管理装置を備えたマスタの制御装置と、前記管理装置を備えないスレーブの制御装置とからなることを特徴とする請求項1に記載のスリップ検出システム。
【請求項3】
前記情報比較部は、
各制御装置から取得した前記制御情報間の差を時間毎に累積した値が、予め定められた閾値より大きいか否かによって、前記車輪の定常的なスリップを検出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスリップ検出システム。
【請求項4】
前記情報比較部は、
少なくとも1つの閾値を格納し、前記制御情報間の差を時間毎に累積した値と、前記閾値とを比較し、この比較の結果ごとに異なったメッセージを表示部に表示させることを特徴とする請求項3に記載のスリップ検出システム。
【請求項5】
前記制御情報は、前記モータのトルクの情報である電流値指令情報であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスリップ検出システム。
【請求項6】
前記制御情報は、前記車輪の回転速度に関する情報である回転速度情報であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスリップ検出システム。
【請求項7】
前記制御情報は、前記モータへ送られる電流の電流値であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスリップ検出システム。
【請求項8】
前記搬送台車とは、スタッカクレーンであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスリップ検出システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−162716(P2008−162716A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351186(P2006−351186)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】