説明

セルロースアシレート組成物、セルロースアシレートフィルムとその製造方法、偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルム、および、液晶表示装置

【課題】面状が良好で異物数が極めて少なく、且つ、液晶表示装置に組み込んだときに発生する表示画面での画像ムラや湿度による視認性の変化を抑えることができるセルロースアシレートフィルムを提供する。
【解決手段】一般式(II)のラクトン系化合物を所定の置換度を有するセルロースアシレートに対して0.01〜3質量%含有する組成物を、溶融流延することによってセルロースアシレートフィルムを製造する。
一般式(II)


(R1〜R4は、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数7〜20のアラルキル基または炭素数6〜15のアリール基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱安定性に優れたセルロースアシレートフィルムとその製造方法に関する。また、前記セルロースアシレートフィルムの製造に用いられるセルロースアシレート組成物、前記セルロースアシレートフィルムを用いた偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムおよび液晶表示装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液晶表示装置に使用されるセルロースアシレートフィルムを製造する際に、ジクロロメタンのような塩素系有機溶剤にセルロースアシレートを溶解し、これを基材上に流延、乾燥して製膜する溶液流延法が主に実施されている。塩素系有機溶剤の中でもジクロロメタンは、セルロースアシレートの良溶媒であるとともに、沸点が低く(約40℃)、製膜工程や乾燥工程において乾燥させ易いという利点を有することから好ましく使用されている。一方、近年になり環境保全の観点から塩素系有機溶媒を始めとする有機溶媒の排出を抑えることが、強く求められるようになっている。このため、より厳密なクローズドシステムを採用して製造工程から有機溶媒が漏れ出さないように努めたり、製膜工程から有機溶媒が漏れても外気に出す前にガス吸収塔を通して有機溶媒を吸着させたり、火力により燃焼させたり、電子線ビームにより分解させたりするなどの処理を行って、殆ど有機溶媒を排出することがないように対策が講じられている。しかしながら、これらの対策を行っても完全な非排出には至らないため、さらなる改良が必要とされていた。
【0003】
そこで、有機溶剤を用いない製膜法として、セルロースアシレートを溶融製膜する方法が開発されている(例えば、特許文献1および2参照)。この方法は、セルロースアシレートのエステル基の炭素鎖を長くすることで融点を下げ溶融製膜しやすくしたものである。具体的には、従来から用いられていたセルロースアセテートを、セルロースプロピオネートやセルロースブチレート等に変更することで溶融製膜を可能にしている。このようにして得られたセルロースアシレートフィルムは、基板として用いることによって湿度変化に伴う視野特性が変動しにくい位相差フィルム等を提供しうるという利点がある。さらに、セルロースアシレートを溶融する工程と流延する工程とを含むセルロースアシレートフィルムの製造方法として、水分3.0%以下のセルロースアシレートと、多価アルコールおよび1価のカルボン酸からなるエステル系可塑剤並びに多価カルボン酸および1価のアルコールからなるエステル系可塑剤の少なくとも1種を前記セルロースエステルに対し1〜30質量%と、ヒンダードフェノール酸化防止剤およびヒンダードアミン光化合物の少なくとも1種を前記セルロースエステルに対し0.01〜5質量%とを含む混合物を、150〜300℃の温度で加熱溶融して流延することにより製造する溶融製膜法も開発されている(例えば、特許文献3参照)。この方法により製造されるセルロースアシレートフィルムは液晶表示装置に組み込むことによって、光学特性、寸法安定性等が改良できると記載されている。
【特許文献1】特表平6−501040号公報
【特許文献2】特開2000−352620号公報
【特許文献3】特開2006−123513号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの文献の実施例の記載などにしたがって溶融製膜したセルロースアシレートフィルムは、面状が不良であることが判った。特に特許文献2および3の実施例に従って作製したセルロースアシレートフィルムは、面状の悪化が著しかった。また、このようにして得られたセルロースアシレートフィルムを用いて偏光板を作製し液晶表示装置に組み込むと、面状不良で異物数が多く、ヘイズが高いことによる輝度低下の問題などが発生し、その改良が必要なレベルであることも明らかになった。このような故障は、偏光板を15インチ以上の大型液晶表示板に組み込んだ際に特に顕著であり、大きな課題であった。
【0005】
これらの従来技術の課題を解決すべく、本発明は、溶融製膜したフィルムの面状の悪化を抑えて異物数を低減し、液晶表示装置に組み込んだときに発生する表示画面での画像ムラや経時での視認性の変化を抑制することができるセルロースアシレートフィルムを提供することを目的とする。また、本発明は、前記セルロースアシレートフィルムを製造する際に効果的に用いられるセルロースアシレート組成物を提供することも目的とする。さらに、本発明は、優れた耐久性を示す偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルム、および、液晶表示装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、従来溶融製膜したセルロースアシレートの面状不良は、セルロースアシレートの組成や溶融製膜工程中の滞留(例えば濾過製膜中の滞留)、および、ペレット化から溶融製膜に至るまでの高温操作に起因するものと考え、この改良に取り組んだ。その結果、特定の置換度を有するセルロースアシレートと特定の構造を有するラクトン系化合物とを組み合わせて使用することにより、溶融製膜したセルロースアシレートフィルムの面状を格段に向上させることができることを見出した。また、上記のラクトン系化合物に加えて、分子量が500以上であるフェノール系化合物と、分子量が500以上である亜リン酸エステル系化合物およびチオエーテル系化合物からなる群より選択される少なくとも一種とを併用することにより、セルロースアシレート樹脂の成形加工時における面状をさらに相乗的に向上させうることも見出した。
【0007】
また、意外なことに本発明にしたがってラクトン系化合物を使用することにより、溶融製膜したセルロースアシレートフィルムの異物数を顕著に低減させうることも見出した。
【0008】
本発明は以上の知見に基づいて提供されたものであり、その構成は以下に記載される通りである。
【0009】
(態様1)
下記式(S−1)〜(S−3)を満たすセルロースアシレート、および、下記一般式(II)で表され示されるラクトン系化合物の少なくとも一種を前記セルロースアシレートに対して0.01〜3質量%含有するセルロースアシレート組成物。
式(S−1) 2.5≦X+Y≦3.0
式(S−2) 0≦X≦2.2
式(S−3) 0.8≦Y≦3.0
(式中、Xはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Yはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度の総和を表す。)
【0010】
【化1】

(式中R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数7〜20のアラルキル基または炭素数6〜15のアリール基を示す。)
【0011】
(態様2)
分子量が500以上である亜リン酸エステル系化合物および分子量が500以上であるチオエーテル系化合物からなる群より選択される少なくとも一種と、分子量が500以上であるフェノール系化合物とを、前記セルロースアシレートに対して0.01〜3質量%含有することを特徴とする(態様1)のセルロースアシレート組成物。
【0012】
(態様3)
分子量が500以上である可塑剤または紫外線吸収剤をセルロースアシレートに対して0.1〜20質量%含有することを特徴とする(態様1)または(態様2)のセルロースアシレート組成物。
【0013】
(態様4)
ペレット状であることを特徴とする(態様1〜3)のいずれかのセルロースアシレート組成物。
【0014】
(態様5)
(態様1〜4)のいずれかのセルロースアシレート組成物を溶融して流延製膜する工程を含むことを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【0015】
(態様6)
(態様1〜3)のいずれかのセルロースアシレート組成物を150〜240℃で溶融してペレットを作製し、前記ペレットを溶融して180〜240℃でダイから押し出して流延製膜する工程を含むことを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
(態様7)
前記セルロースアシレート組成物を流延した後に、タッチロールを0.1〜10MPaで押圧することにより製膜する工程を含むことを特徴とする(態様5)または(態様6)のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
(態様8)
前記製膜後、少なくとも1方向に1%〜300%延伸する工程を含むことを特徴とする(態様5〜7)のいずれかのセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【0016】
(態様9)
(態様5〜8)のいずれかの製造方法により製造されたセルロースアシレートフィルム。
【0017】
(態様10)
上記式(S−1)〜(S−3)を満たすセルロースアシレート、および、上記一般式(II)で示されるラクトン系化合物の少なくとも一種を前記セルロースアシレートに対して0.01〜3質量%含有し、かつ、残留溶剤量が0.01質量%以下であることを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
(態様11)
前記セルロースアシレートフィルムが、分子量が500以上である亜リン酸エステル系化合物および分子量が500以上であるチオエーテル系化合物からなる群より選択される少なくとも一種と、分子量が500以上であるフェノール系化合物とを、前記セルロースアシレートに対して0.01〜3質量%含有することを特徴とする(態様10)のセルロースアシレートフィルム。
【0018】
(態様12)
膜厚が20μm〜300μmであることを特徴とする(態様9〜11)のいずれかのセルロースアシレートフィルム。
(態様13)
正面レターデーション(Re)が0〜300nmであり、且つ、厚さ方向のレターデーション(Rth)の絶対値が0〜700nmであることを特徴とする(態様9〜12)のいずれかのセルロースアシレートフィルム。
(態様14)
可視光の透過率が90%以上であり、且つ、ヘイズが0.01〜1.5%であることを特徴とする(態様9〜13)のいずれかのセルロースアシレートフィルム。
【0019】
(態様15)
下記式(A−1)および(A−2)を満たすことを特徴とする(態様9〜14)のいずれかのセルロースアシレートフィルム。
式(A−1) 0≦|Re(700)−Re(400)|≦15nm
式(A−2) 0≦|Rth(700)−Rth(400)|≦35nm
(式中、Re(400)およびRe(700)は、それぞれ前記セルロースアシレートフィルムの波長400nmおよび700nmにおける正面レターデーション(Re)を表し、Rth(400)およびRth(700)は、それぞれ前記セルロースアシレートフィルムの波長400nmおよび700nmにおける厚さ方向のレターデーション(Rth)を表す。)
(態様16)
厚みムラが0〜5μmであることを特徴とする(態様9〜15)のいずれかのセルロースアシレートフィルム。
【0020】
(態様17)
偏光子に、(態様9〜16)のいずれかのセルロースアシレートフィルムを少なくとも1層積層したことを特徴とする偏光板。
(態様18)
(態様9〜16)のいずれかのセルロースアシレートフィルムを用いたことを特徴とする光学補償フィルム。
(態様19)
(態様9〜16)のいずれかのセルロースアシレートフィルムを用いたことを特徴とする反射防止フィルム。
(態様20)
(態様9〜16)のいずれかのセルロースアシレートフィルム、(態様17)の偏光板、(態様18)の光学補償フィルム、および、(態様19)の反射防止フィルムからなる群より選択される少なくとも一つを用いたことを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0021】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、面状が良好で異物数が極めて少なく、且つ、液晶表示装置に組み込んだときに発生する表示画面での画像ムラや湿度による視認性の変化を抑えることができる。また、本発明のセルロースアシレートフィルムにより、経時での耐候性、特に高温環境下における優れた耐久性を有する偏光板、光学補償フィルムおよび反射防止フィルムを提供することができる。さらに、本発明のセルロースアシレートフィルムを組み込んで製造される液晶表示装置は、表示ムラや、湿度あるいは画像の色による光学特性の変化を抑制するこができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下において、本発明のセルロースアシレートフィルムとその製造方法および用途について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0023】
《セルロースアシレート組成物》
本発明のセルロースアシレート組成物は、下記式(S−1)〜(S−3)を満たすセルロースアシレート、および、下記一般式(II)で示されるラクトン系化合物の少なくとも一種を前記セルロースアシレートに対して0.01〜3質量%含有する。
式(S−1) 2.5≦X+Y≦3.0
式(S−2) 0≦X≦2.2
式(S−3) 0.8≦Y≦3.0
(式中、Xはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Yはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度の総和を表す。)
【0024】
【化2】

(式中R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数7〜20のアラルキル基または炭素数6〜15のアリール基を示す。)
【0025】
本発明のセルロースアシレート組成物は、上記のセルロースアシレートと上記の一般式(II)で示されるラクトン系化合物の他に、さらに必要に応じて可塑剤や紫外線吸収剤等を含んでいてもよい。以下において、本発明のセルロースアシレート組成物に含まれる各成分について詳しく説明する。
【0026】
[セルロースアシレート]
まず、本発明に使用するセルロースアシレートについて説明する。本発明におけるセルロースアシレートは、下記の置換度を満たす。
式(S−1) 2.5≦X+Y≦3.0
式(S−2) 0≦X≦2.2
式(S−3) 0.8≦Y≦3.0
【0027】
式中、Xはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Yはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度の総和を表す。
【0028】
本明細書でいう「置換度」とは、セルロースの2位、3位および6位のぞれぞれの水酸基の水素原子が置換されている割合の合計を意味する。2位、3位および6位の全ての水酸基の水素原子がアシル基で置換された場合は置換度が3となる。本発明のセルローエステルの置換基Yで表される炭素数3〜22のアシル基は、脂肪族アシル基でも芳香族アシル基のいずれであってもよい。本発明におけるセルロースアシレートのアシル基が脂肪族アシル基である場合、炭素数は3〜18であることが好ましく、炭素数は3〜12であることがさらに好ましく、炭素数は3〜8であることが特に好ましい。これらの脂肪族アシル基の例としては、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、あるいはアルキニルカルボニル基などを挙げることができる。アシル基が芳香族アシル基である場合、炭素数は6〜22であることが好ましく、炭素数は6〜18であることがさらに好ましく、炭素数は6〜12であることが特に好ましい。これらのアシル基は、それぞれさらに置換基を有していてもよい。
【0029】
好ましい前記アシル基の例としては、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イソブチリル基、ピバロイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフタレンカルボニル基、フタロイル基、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、さらに好ましいものは、プロピオニル基、ブチリル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、ピバロイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などである。
【0030】
特にYにおけるアシル基は、好ましくは炭素数が3〜6の脂肪族アシル基であり、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基およびヘキサノイル基からなる群より選択されるアシル基が好ましい。より好ましいYにおけるアシル基としては、プロピオニル基およびブチリル基からなる群より選択されるアシル基である。本発明におけるセルロースアシレートのエステルを構成するYにおけるアシル基は、単一種であってもよいし、複数種であってもよい。本発明においては、セルロースの2位、3位および6位それぞれの水酸基の置換度分布は特に限定されない。
【0031】
本発明におけるセルロースアシレートは、下記式(S−4)〜(S−6)を満足するセルロースアシレートを用いることが好ましい。
式(S−4) 2.6≦X+Y≦3.0
式(S−5) 0≦X≦2.0
式(S−6) 1.0≦Y≦3.0
【0032】
本発明におけるセルロースアシレートは、下記式(S−7)〜(S−9)を満足するセルロースアシレートを用いることが特に好ましい。
式(S−7) 2.65≦X+Y≦2.97
式(S−8) 0.1≦X≦1.8
式(S−9) 1.1≦Y≦3.0
【0033】
本発明で用いるセルロースアシレートを合成する際のセルロース原料としては、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、綿花リンター由来のものが好ましく用いられる。
【0034】
本発明で用いるセルロースアシレートの合成方法については特開2006−45500号公報の段落番号[0018]〜[0033]、特開2006−45501号公報の段落番号[0014]〜[0030]、特開2006−45502号公報の段落番号[0018]〜[0023]に詳細に記載している。また、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)7頁〜12頁にも詳細に記載されている。これらの合成方法は好ましく用いることができる。また、本発明において好ましく使用されるセルロースアシレートの具体的手順については、後述する合成例1および合成例2を参照することができる。本発明のセルロースアシレート中の異物を最大限に低減するため、原料から除去することが好ましく、原料合成段階でろ過方法を用いて除去することができる。
【0035】
(ろ過)
本発明におけるセルロースアシレート中の未反応物、難溶解性塩、その他の異物などを除去または削減する目的として、アシル化工程から再沈殿工程の間のいずれかにおいて、セルロースアシレートを含む反応溶液をろ過することが好ましい。ろ過に用いるフィルターの保留粒子サイズは、好ましくは0.1μm〜50μmであり、さらに好ましくは、0.5μm〜40μmであり、特に好ましくは、1μm〜30μmである。フィルターの保留粒子サイズが0.1μmより小さいと、ろ過圧の上昇が著しく、実質的に工業的な生産が困難である。また、保留粒子サイズが40μmより大きいと、異物の除去が十分にできない場合がある。また、濾過は2回以上繰り返してもよい。
【0036】
フィルターの材質は溶媒によって悪影響を受けないものであれば特に限定されないが、好ましい例としては、セルロース系フィルター、金属フィルター、金属焼結フィルター、セラミック焼結フィルター、テフロンフィルター(PTFEフィルター)、ポリエーテルサルホンフィルター、ポリプロピレンフィルター、ポリエチレンフィルター、ガラス繊維性フィルターなどを挙げることができ、これらを組み合わせて使用してもよい。中でもステンレス製の金属フィルター、金属焼結フィルターが好ましい。
【0037】
フィルターの材質として、電荷的捕捉機能を有するフィルターもまた、好ましく用いることができる。電荷的捕捉機能を有するフィルターとは、電気的に荷電異物を捕捉除去する機能を有するフィルターであり、通常、濾材に電荷を付与したものが用いられる。このようなフィルターの例としては、特表平4−504379号公報、特開2000−212226号公報などに記載されたものを選択することができる。
【0038】
また、濾過助剤として、セライト、層状粘土鉱物(好ましくは、タルク、マイカ、カオリナイトなど)などをセルロースアシレート溶液に混合し、これを濾過するいわゆるケーク濾過を行う方法も好ましく用いることができる。
ろ過圧や取り扱い性の制御の目的から、ろ過に先立って適切な溶媒で希釈することも好ましい。
【0039】
(重合度)
本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの数平均重合度は好ましくは110〜350であり、より好ましくは120〜300であり、さらに好ましくは130〜250である。数平均重合度は、本発明では後述のゲル浸透クロマトグラフィー (GPC)を用いた方法で測定される。
本発明においては、セルロースアシレートのGPCによる質量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比が1.5〜5.5のものが好ましく用いられ、より好ましくは1.5〜5.0であり、さらに好ましくは1.5〜4.5であり、特に好ましくは1.5〜3.5のセルロースアシレートが好ましく用いられる。得られたセルロースアシレートは、その保存は環境による影響を受けにくくするために、低温暗所で保存する事が望ましい。さらに、保管用としてアルミニウムなどの防止素材で作製された防湿袋や、SUS製ドラムあるいはコンテナに保存することがさらに好ましい。
【0040】
これらのセルロースアシレートは1種類のみを用いてもよく、2種以上混合しても良い。また、セルロースアシレート以外の高分子成分を適宜混合したものでもよい。混合される高分子成分はセルロースアシレートと相溶性に優れるものが好ましく、フィルムにしたときの透過率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、92%以上であることがさらに好ましい。
【0041】
[ラクトン系化合物]
本発明のセルロースアシレート組成物は、下記一般式(II)で示されるラクトン系化合物の少なくとも一種を含む。前記ラクトン系化合物は、前記セルロースアシレートの加熱溶融前または加熱溶融時に添加することが好ましい。本発明におけるラクトン系化合物の添加により、製膜したフィルム面状の改良および異物数の低減効果を得ることができる。
【0042】
【化3】

(式中R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数7〜20のアラルキル基または炭素数6〜15のアリール基を示す。)
【0043】
一般式(II)中、炭素数1〜20のアルキル基としては、直鎖または分岐状のアルキル基であってよい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、2−エチルブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、エイコシル基などが挙げられる。
【0044】
一般式(II)中、炭素数7〜20のアラルキル基としては、ベンジル基、2,6−ジターシャリーブチル−4−メチルベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基および2−フェニルイソプロピル基などが挙げられる。
【0045】
一般式(II)中、炭素数6〜15のアリール基としては、フェニル基、トリル基およびナフチル基などが挙げられる。
【0046】
一般式(II)において、R1およびR2としては、水素原子と炭素数7〜20のアリール基との組み合わせが好ましい。さらにその中でも、水素原子と炭素数8〜20のアリール基との組み合わせが好ましく、水素原子と炭素数8〜18のアリール基との組み合わせがより好ましく、水素原子と3,4−ジメチルフェニル基との組み合わせが特に好ましい。
【0047】
一般式(II)において、R3およびR4としては、これらの中で炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、炭素数2〜20のアルキル基がより好ましく、炭素数3〜20のアルキル基がさらに好ましく、tert−ブチル基が特に好ましい。
【0048】
本発明におけるラクトン系化合物は、前記セルロースアシレートに対して、0.01〜3質量%含まれる。前記ラクトン系化合物の含有量が、0.01質量%未満であると、面状改良および異物低減の効果が得られず、3質量%を超えると、セルロースアシレートのTgを低下させ、物性が低下するおそれがある。前記ラクトン系化合物の含有量は、セルロースアシレートに対して、好ましくは0.02〜2質量%であり、より好ましくは0.05〜1.0質量%である。前記ラクトン系化合物の使用量が上記範囲内であれば、セルロースアシレートに充分な成形耐熱性を付与し、色相に優れたセルロースアシレートフィルム(シート状物を含む)を得ることができる。
【0049】
下記式(II)で表わされるラクトン系化合物としては、具体的には以下のような化合物(例示化合物(a)−1〜(a)−49)が例示される。
【0050】
【化4】

【0051】
【化5】

【0052】
【化6】

【0053】
【化7】

【0054】
【化8】

【0055】
【化9】

【0056】
これらのラクトン系化合物として、市販品も利用でき、例えば、HP-136(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を用いることもできる。また、これらラクトン系化合物は単独であるいは数種類混合して使用することができる。
【0057】
[その他の成分]
(本発明における分子量500以上の化合物)
本発明では、セルロースアシレートとラクトン系化合物の少なくとも一種とに、分子量500以上のフェノール系化合物、亜リン酸エステル系化合物およびチオエーテル系化合物からなる群より選択される少なくとも一種(これらを「本発明における分子量500以上の化合物」と称することがある。)をセルロースアシレート組成物に添加することが好ましく、分子量が500以上である亜リン酸エステル系化合物および分子量が500以上であるチオエーテル系化合物より選択される少なくとも一種と、分子量が500以上であるフェノール系化合物とを用いることがさらに好ましい。これにより、セルロースアシレート樹脂の成形加工時における面状改良および異物低減の相乗効果が得られる。これらの化合物は、高温でも揮発しないことが必要であることから、分子量は500以上であり、好ましくは500〜3000であり、さらに好ましくは530〜3000であり、特に好ましくは600〜2000である。また、高温で揮発しにくいことが好ましいため、空気中で220℃において30分間加熱した場合の質量減少量が20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることが特に好ましい。
【0058】
本発明における分子量500以上の化合物の使用量は、前記セルロースアシレートに対して0.01〜3質量%であることが好ましく、0.02〜2.5質量%がさらに好ましく、より好ましくは0.03〜1.0質量%であり、特に好ましくは0.04〜0.7質量%であり、最も好ましくは0.05〜0.6質量%である。ラクトン系化合物の含有量と、本発明における分子量500以上の化合物の含有総量との比率は特に限定されないが、好ましくは1/30〜1/1(質量部)であり、より好ましくは1/20〜1/1(質量部)であり、さらに好ましくは1/15〜1/2(質量部)であり、特に好ましくは1/10〜1/2(質量部)である。また、フェノール系化合物の含有量と、亜リン酸エステル系化合物またはチオエーテル系化合物との含有量の比率は特に限定されないが、好ましくは1/10〜10/1(質量部)であり、より好ましくは1/5〜5/1(質量部)であり、さらに好ましくは1/3〜3/1(質量部)であり、特に好ましくは1/3〜2/1(質量部)である。ラクトン系、フェノール系、亜リン酸エステル系、チオエーテル系、必要に応じてアミン系、それぞれの化合物の添加量は上記の範囲内であれば問題なく、特にそれぞれの量比に制限はない。本発明においては、ラクトン系化合物を使用すれば、亜リン酸エステル系やフェノール系を添加しても着色や加熱におけるセルロースアシレート分子量変化がほとんど起こらない。ただし、フェノール系が多すぎると、その色が樹脂組成物中で目立つようになり、また、亜リン酸エステル系が多すぎると、セルロースアシレートがゲル化したり、分解したりして好ましくない。
【0059】
本発明においては、セルロースアシレート組成物中に、本発明における分子量500以上の化合物の少なくとも一種を前記セルロースアシレートの加熱溶融前または加熱溶融時に添加することが好ましい。これらは、セルロースアシレート組成物の酸化防止、分解して発生した酸の捕捉、光または熱によるラジカル種基因の分解反応を抑制または禁止する等、解明できていない分解反応を含めて、着色や分子量低下に代表される変質や材料の分解による揮発成分の生成を抑制するために有用である。
【0060】
(フェノール系化合物)
分子量500以上のフェノール系化合物としては、公知の任意のフェノール系化合物を使用することができる。好ましいフェノール系化合物としては、ヒンダードフェノール系化合物が挙げられる。特に、ヒドロキシフェニル基に隣接する部位に置換基を有することが好ましく、その場合の置換基としては炭素数1〜22の置換または無置換のアルキル基が好ましく、例えばメチル基、エチル基、プロピオニル基、イソプロピオニル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、2−エチルへキシル基、ノニル基、イソノニル基、ドデシル基、tert−ドデシル基、トリデシル基、tert−トリデシル基などを挙げることができる。これらの中でも、メチル基、エチル基、プロピオニル基、イソプロピオニル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、2−エチルへキシル基がより好まし。さらに好ましくは、プロピオニル基、イソプロピオニル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基である。
フェノール系化合物の具体例として例えば下記の化合物を挙げることができるが、本発明で用いることができるフェノール系化合物はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0061】
(PH−1)
n−オクタデシル−3−(3',5'−ジ−tert−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル) プロピオネート(分子量531)
(PH−2)
テトラキス−〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン(分子量1178)
(PH−3)
トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート(分子量784)
(PH−4)
トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート〕(分子量588)
(PH−5)
3,9−ビス−{2−〔3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン(分子量741)
(PH−6)
1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(分子量775)
(PH−7)
1,1,3−トリス(5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)ブタン(分子量545)
(PH−8)
1,6−ヘキサンジオール−ビス{3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}(分子量639)
(PH−9)
2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン(分子量589)
(PH−10)
1,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート〕(分子量643)
(PH−11)
N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)(分子量637)
(PH−12)
ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)カルシウム(分子量695)
【0062】
これらの素材は、市販品として容易に入手可能であり、下記のメーカーから販売されている。例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社から、Irganox 1076、Irganox 1010、Irganox 3113、Irganox 245、Irganox 1135、Irganox 1330、Irganox 259、Irganox 565、Irganox 1035、Irganox 1098、Irganox 1425WL、として入手することができる。また、旭電化工業(株)から、アデカスタブ AO−50、アデカスタブ AO−60、アデカスタブ AO−20、アデカスタブ AO−70、アデカスタブ AO−80として入手できる。さらに、住友化学(株)から、スミライザーBP−76、スミライザーBP−101、スミライザーGA−80、として入手できる。また、シプロ化成(株)からシーノックス326M、シーノックス336B、としても入手することが可能である。
【0063】
(亜リン酸エステル系化合物)
次に、本発明においてセルロースアシレートに添加することができる分子量500以上の亜リン酸エステル系化合物について説明する。
本発明において用いることができる分子量500以上である亜リン酸エステル系化合物として、従来から公知の任意の亜リン酸エステル系化合物を用いることができる。本発明において用いることができる亜リン酸エステル系化合物として、特開2004−182979号公報の[0023]〜[0039]に記載の化合物などを挙げることができる。亜リン酸エステル系化合物の具体例としては、特開昭51−70316号公報、特開平10−306175号公報、特開昭57−78431号公報、特開昭54−157159号公報、特開昭55−13765号公報に記載の化合物も挙げることができる。さらに、その他の化合物としては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)17頁〜22頁に詳細に記載されている素材も挙げることができる。
【0064】
亜リン酸エステル系化合物は、フェノール系エステルを有することで、高温での安定性を保つことができるため、少なくとも一置換基は芳香族性エステル基であることが好ましい。また、亜リン酸エステル系化合物は、トリエステルであることが好ましく、リン酸、モノエステルやジエステルの不純物の混入がないことが望ましい。これらの不純物が存在する場合は、その含有量が10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下であり、特には2質量%以下である。
亜リン酸エステル系化合物の好ましい具体例として下記の化合物を挙げることができるが、本発明で用いることができる亜リン酸エステル系化合物はこれらに限定されるものではない。
【0065】
(PF-1)
トリスノニルフェニルフォスファイト(分子量689)
(PF-2)
トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイト(分子量647)
(PF-3)
ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト(分子量733)
(PF-4)
ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールフォスファイト(分子量605)
(PF-5)
ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール ジフォスファイト(分子量633)
(PF-6)
2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルフォスファイト(分子量529)
(PF-7)
テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4−ビフェニレン−ジ−フォスファイト(分子量517)
【0066】
これらは、旭電化工業(株)からアデカスタブ1178、同2112、同PEP−8、同PEP−24G、PEP−36G、同HP−10として、またクラリアント社からSandostab P−EPQとして市販されており、入手可能である。さらに、フェノールと亜リン酸エステルとを同一分子内に有する化合物も好ましく用いられる。前記フェノールと亜リン酸エステルとを同一分子内に有する化合物の具体例としては下記にものを挙げることができる。これらの化合物については、さらに特開平10−273494号公報に詳細に記載されており、その化合物例を示すが本発明で用いることができる安定化剤はこれらに限定されるものではない。代表的な市販品として、住友化学(株)から、スミライザーGPを挙げることができる。
【0067】
(FFP−1)
2,10−ジメチル−4,8−ジ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量632)
(FFP−2)
2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(分子量702)
【0068】
(FFP−3)
2,4,8,10−テトラ−tert−ペンチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−12−メチル−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量787)
(FFP−4)
2,10−ジメチル−4,8−ジ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量646)
(FFP−5)
2,4,8,10−テトラ−tert−ペンチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−12−メチル−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量801)
(FFP−6)
2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(分子量716)
(FFP−7)
2,10−ジメチル−4,8−ジ−tert−ブチル−6−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンゾイルオキシ)−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量618)
(FFP−8)
2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンゾイルオキシ)−12−メチル−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量717)
(FFP−9)
2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−[3−(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(分子量660)
(FFP−10)
2,10−ジメチル−4,8−ジ−tert−ブチル−6−[3−(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)プロポキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量590)
(FFP−11)
2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量717)
(FFP−12)
2,10−ジエチル−4,8−ジ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量661)
(FFP−13)
2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−[2,2−ジメチル−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(分子量688)
(FFP−14)
6−〔3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチル)プロポキシ〕−2,4,8,10−テトラ−tert−ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(分子量660)
【0069】
(チオエーテル系化合物)
次に、本発明においてセルロースアシレートに添加することができる分子量500以上のチオエーテル系化合物について説明する。
チオエーテル系化合物としては、公知の分子量500以上チオエーテル系化合物を任意に用いることができる。
チオエーテル系化合物の好ましい具体例として下記の化合物が挙げられるが、本発明で用いることができる好ましいはこれらに限定されるものではない。
【0070】
(TE−1)
ジラウリル−3,3−チオジプロピオネート(分子量515)
(TE−2)
ジミリスチル−3,3−チオジプロピオネート(分子量571)
(TE−3)
ジステアリル−3,3−チオジプロピオネート(分子量683)
(TE−4)
ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)(分子量1162)
【0071】
これらは、住友化学(株)からスミライザーTPL、同TPM、同TPS、同TDPとして市販されている。旭電化工業(株)から、アデカスタブAO-412Sとしても入手可能である。
【0072】
(その他の化合物)
本発明においては、分子量500以上のフェノール系化合物、分子量500以上の亜リン酸エステル系化合物、分子量500以上のチオエーテル系化合物以外の、セルロースアシレートの溶融製膜に有用な化合物を併用しても構わない。そのような化合物として、例えばスズ系化合物が挙げられ、公知の任意のスズ系化合物を用いることができる。好ましいスズ系化合物の具体例としては、オクチル錫マレエートポリマー、モノステアリル錫トリス(イソオクチルチオグリコレート)、ジブチル錫ジラウレートが挙げられる。
【0073】
また、アミン系化合物も利用することができ、その場合は公知の任意のアミン系化合物を用いることができる。好ましいアミン系化合物の具体例としては、2,2'−メチレンビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−[(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]〕、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート、フェニル−β−ナフチルアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N,N'−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−シクロヘキシル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペラジン、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジン)セバケイト、ビス[(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロネート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタン−テトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタン−テトラカルボキシレート等が挙げられる。これらは、旭電化からアデカスタブLA−57、同LA−52、同LA−67、同LA−62、同LA−77として、またチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社からTINUVIN 765、同144として市販されている。
【0074】
(酸捕捉剤)
セルロースアシレートは高温下では酸によっても分解が促進されるため、本発明のセルロースアシレートフィルムにおいては酸捕捉剤を含有することが好ましい。
【0075】
本発明において有用な酸捕捉剤としては、酸と反応して酸を不活性化する化合物であれば制限なく用いることができるが、中でも米国特許第4,137,201号明細書に記載されているエポキシ基を有する化合物が好ましい。このような酸捕捉剤としてのエポキシ化合物は当該技術分野において既知であり、種々のポリグリコールのジグリシジルエーテル、特にポリグリコール1モル当たりに約8〜40モルのエチレンオキシドなどの縮合によって誘導されるポリグリコール、グリセロールのジグリシジルエーテルなど、金属エポキシ化合物(例えば、塩化ビニルポリマー組成物において、および塩化ビニルポリマー組成物と共に、従来から利用されているもの)、エポキシ化エーテル縮合生成物、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(即ち、4,4’−ジヒドロキシジフェニルジメチルメタン)、エポキシ化不飽和脂肪酸エステル(特に、2〜22この炭素原子の脂肪酸の4〜2個程度の炭素原子のアルキルのエステル(例えば、ブチルエポキシステアレート)など)、および種々のエポキシ化長鎖脂肪酸トリグリセリドなど(例えば、エポキシ化大豆油など)の組成物によって代表され例示され得るエポキシ化植物油および他の不飽和天然油(これらはときとしてエポキシ化天然グリセリドまたは不飽和脂肪酸と称され、これらの脂肪酸は一般に12〜22個の炭素原子を含有している)が含まれる。また、市販のエポキシ基含有エポキシド樹脂化合物として、EPON 815Cも好ましく用いることができる。さらに上記以外に用いることが可能な酸捕捉剤としては、オキセタン化合物やオキサゾリン化合物、或いはアルカリ土類金属の有機酸塩やアセチルアセトナート錯体、特開平5−194788号公報の段落68〜105に記載されているものが含まれる。
【0076】
本発明において、セルロースアシレート組成物には、その他に必要に応じてさらに種々の添加剤を添加してもよい。添加剤の添加は、溶融物の調製前から調製後のいずれの段階で行ってもよい。本発明では、本発明における分子量500以上の化合物以外の添加剤として、可塑剤、紫外線吸収剤(UV剤)、微粒子、光学調整剤、剥離剤、界面活性剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、油剤などを用いることができる。
【0077】
(可塑剤)
本発明では、セルロースアシレートに可塑剤を添加することが好ましい。可塑剤としては既知のいかなるものを用いてもよいが、リン酸エステル化合物、単糖または2〜10個の単糖単位を含む炭水化物の誘導体(以下、「炭水化物系可塑剤」と称する。)、カルボン酸エステル化合物、アルキルフタリルアルキルグリコレート化合物、多価アルコールの脂肪酸エステル化合物などを用いることが好ましい。
【0078】
本発明で用いられる可塑剤は、高温で揮発性が十分に低いことが好ましく、分子量は500〜4,000であることが好ましく、より好ましくは530〜3,500であり、特に好ましくは550〜3,000である。分子量が500以上であると熱揮散性が大きく、また分子量を4000以下とすることにより、より効果的な可塑効果が得られる。
また、揮発性の指標として加熱時の質量減少量を用いることができ、例えば、窒素雰囲気下、240℃で1時間保持したときの質量減少量が15質量%以下であることが好ましい。より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、最も好ましくは3質量%以下である。これにより、本発明のセルロースアシレートフィルムの溶融製膜工程中の過酷な条件(局部の樹脂滞留およびセン断熱による高温)においても、可塑剤の熱揮散を大幅に低減することができる。
【0079】
本発明において、可塑剤は単独で配合してもよいし、2種以上併用してもよい。可塑剤の添加量は、セルロースアシレート樹脂に対して0.5〜25質量%であることが好ましい。添加量が0.5質量%以上であればより熱揮散性を抑えやすく、また添加量が25質量%以下であればセルロースアシレートの熱変形温度を維持しやすい。好ましい添加量は1〜20質量%であり、より好ましくは1〜15質量%であり、さらに好ましくは1〜10質量%である。
【0080】
−リン酸エステル化合物−
本発明で用いることができるリン酸エステル系の可塑剤としては、特開2002−363423号公報の[0027]〜[0034]、特開2002−265800号公報の[0027]〜[0034]、特開2003−155292号公報の[0014]〜[0040]等に記載の揮発性し難いリン酸エステル化合物を好ましい例として挙げることができる。
【0081】
リン酸エステル化合物(リン酸エステル系可塑剤)の具体例を以下に挙げるが、本発明で用いることができるリン酸エステル系可塑剤はこれらに限定されるものではない。これらの化合物は、旭電化工業(株)から、アデカスタブFP−500、アデカスタブFP−600、アデカスタブFP−700、アデカスタブFP−2100、アデカスタブPFR等として市販され、入手することができる。また、味の素化学(株)から、レオフォースBAPPとして入手することができる。
【0082】
−炭水化合物系可塑剤−
本発明で用いることができる炭水化合物系可塑剤は、単糖あるいは2〜10個の単糖単位を含む炭水化物の誘導体であるが、これらの単糖または多糖は、分子中の置換可能な基(例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基など)が置換されていることを特徴とする。置換基の例としては、エーテル基、エステル基、アミド基、イミド基などを挙げることができる。
【0083】
炭水化物系可塑剤の好ましい例としては、以下のものを挙げることができる。ただし、本発明で用いることができる炭水化物系可塑剤は、これらに限定されるものではない。
マルトースオクタアセテート、セロビオースオクタアセテート、スクロースオクタアセテート、キシローステトラプロピオネート、グルコースペンタプロピオネート、フルクトースペンタプロピオネート、マンノースペンタプロピオネート、ガラクトースペンタプロピオネート、マルトースオクタプロピオネート、セロビオースオクタプロピオネート、スクロースオクタプロピオネート、キシローステトラベンゾエート、グルコースペンタベンゾエート、フルクトースペンタベンゾエート、マンノースペンタベンゾエート、ガラクトースペンタベンゾエート、マルトースオクタベンゾエート、セロビオースオクタベンゾエート、スクロースオクタベンゾエート、キシリトールペンタベンゾエート、ソルビトールヘキサベンゾエートなどが特に好ましい。
【0084】
−その他の可塑剤−
その他の可塑剤としてはアルキルフタリルアルキルグリコレート類、カルボン酸エステル類、多価アルコールの脂肪酸エステル類などが挙げられる。240℃で1時間加熱した後、質量減少が15%以内であるものが好ましい。これらの可塑剤としては、特開2000−265800号公報の[0010]〜[0021]に記載の化合物を用いるのが好ましい。また、具体的に用いることができる多価アルコール系可塑剤としては、セルロース脂肪酸エステルとの相溶性がよく、また熱可塑化効果が顕著に現れるグリセリンエステル、ジグリセリンエステルなどグリセリン系のエステル化合物やポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールの水酸基にアシル基が結合した化合物などを挙げることができる。これらの可塑剤としては、特開2006−45500号公報の[0039]〜[0044]に記載の化合物を用いるのが好ましい。
【0085】
これらの可塑剤をセルロースアシレートに添加するタイミングは、溶融製膜される時点で添加されていれば特に限定されない。例えば、セルロースアシレートの合成時点で添加してもよいし、溶融前に予めセルロースアシレート中に混合してもよく、溶融製膜時にセルロースアシレートと混合しつつ製膜することも好ましい。セルロースアシレートの合成時に添加する場合は、セルロースアシレートの沈殿生成前後に添加してもよく、あるいはセルロースアシレートが溶液状態で分散されている時に添加してもよい。これにより、セルロースアシレートと添加剤を均一に混合することができる。
【0086】
本発明において可塑剤をセルロースアシレート組成物に添加すれば、セルロースアシレートの結晶融解温度(Tm)と溶融粘度とを下げることができる。従って、溶融加工温度も下げることができ、高温溶融工程におけるセルロースアシレートフィルムの着色を防止する効果が得られる。溶融粘度を大幅に低減させることにより、溶融製膜工程中の樹脂の流動がスムースとなり、発生したダイラインをレベリング化することできる。また、濾過滞留時間を短縮することで熱劣化による着色を改善できる。
【0087】
(紫外線吸収剤)
セルロースアシレートには、紫外線防止剤を添加してもよい。紫外線防止剤については、特開昭60−235852号公報、特開平3−199201号公報、同5−1907073号公報、同5−194789号公報、同5−271471号公報、同6−107854号公報、同6−118233号公報、同6−148430号公報、同7−11056号公報、同7−11055号公報、同7−11056号公報、同8−29619号公報、同8−239509号公報、特開2000−204173号公報等に記載がある。その添加量は、調製する溶融物(メルト)の0.01〜2質量%であることが好ましく、0.01〜1.5質量%であることがさらに好ましい。
【0088】
これらの紫外線吸収剤として、以下の市販品も利用できる。ベンゾトリアゾール系としてはTINUBIN P(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 234(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 320(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 326(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 327(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 328(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、スミソーブ340(住友化学社製)、アデカスタイプLA−31(旭電化工業社製)などがある。また、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、シーソーブ100(シプロ化成社製)、シーソーブ101(シプロ化成社製)、シーソーブ101S(シプロ化成社製)、シーソーブ102(シプロ化成社製)、シーソーブ103(シプロ化成社製)、アデカスタイプLA−51(旭電化工業社製)、ケミソープ111(ケミプロ化成社製)、UVINUL D−49(BASF社製)などを挙げられる。また、オキザリックアシッドアニリド系紫外線吸収剤としては、TINUBIN 312(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)やTINUBIN 315(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)がある。さらにサリチル酸系紫外線吸収剤としては、シーソーブ201(シプロ化成社製)やシーソーブ202(シプロ化成社製)が上市されており、シアノアクリレート系紫外線吸収剤としてはシーソーブ501(シプロ化成社製)、UVINUL N−539(BASF社製)がある。
【0089】
(微粒子)
本発明では、セルロースアシレート組成物に微粒子を添加することもできる。前記微粒子としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられ、いずれでもよい。本発明におけるセルロースアシレートに含まれる好ましい微粒子の平均一次粒子サイズは5nm〜3μmであり、好ましくは5nm〜2.5μmであり、特に好ましくは20nm〜2.0μmである。微粒子の添加量は、セルロースアシレートに対して、好ましくは0.005〜1.0質量%であり、より好ましくは0.01〜0.8質量%であり、さらに好ましくは0.02〜0.4質量%である。
【0090】
前記無機化合物としては、SiO2、ZnO、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2、In23、MgO、BaO、MoO2、V25、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウム等が挙げられる。SiO2、ZnO、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2、In23、MgO、BaO、MoO2、およびV25の少なくとも1種が好ましく、さらに好ましくはSiO2、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2である。
【0091】
前記SiO2の微粒子としては、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上、日本アエロジル(株)製)等の市販品が使用できる。また、前記ZrO2の微粒子としては、例えば、アエロジルR976およびR811(以上、日本アエロジル(株)製)等の市販品が使用できる。またシーホスターKE−E10、同E30、同E40、同E50、同E70、同E150、同W10、同W30、同W50、同P10、同P30、同P50、同P100、同P150、同P250(日本触媒(株)製品)なども使用される。また、シリカマイクロビーズP−400、700(触媒化成工業(株)製品)も利用できる。SO−G1、SO−G2、SO−G3、SO−G4、SO−G5、SO−G6、SO−E1、SO−E2、SO−E3、SO−E4、SO−E5、SO−E6、SO−C1、SO−C2、SO−C3、SO−C4、SO−C5、SO−C6、((株)アドマテックス 製)として利用する事もできる。さらに、モリテックス(株)製シリカ粒子(水分散物を粉体化)8050、同8070、同8100、同8150も利用できる。
【0092】
次に、本発明で使用されうる有機化合物の微粒子としては、例えばシリコーン樹脂、フッ素樹脂およびアクリル樹脂等のポリマーが好ましく、シリコーン樹脂が特に好ましい。前記シリコーン樹脂としては、三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えばトスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120および同240(以上、東芝シリコーン(株)製)等の商品名を有する市販品を使用できる。
【0093】
さらに、無機化合物からなる微粒子は、セルロースアシレートフィルム中で安定に存在させるために表面処理されているものを用いることが好ましい。無機微粒子は、表面処理を施してから用いることも好ましい。表面処理法としては、カップリング剤を使用する化学的表面処理と、プラズマ放電処理やコロナ放電処理のような物理的表面処理とがあるが、本発明においてはカップリング剤を使用することが好ましい。前記カップリング剤としては、オルガノアルコキシ金属化合物(例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等)が好ましく用いられる。微粒子として無機微粒子を用いた場合(特にSiO2を用いた場合)ではシランカップリング剤による処理が特に有効である。前記シランカップリング剤としては下記一般式(11)で表されるオルガノシラン化合物が使用可能である。前記カップリング剤の使用量は特に限定されないが、好ましくは無機微粒子に対して、0.005〜5質量%使用することが推奨され、さらには0.01〜3質量%が好ましい。
【0094】
(離型剤)
本発明におけるセルロースアシレート組成物には、離型剤を添加することができる。離型剤としては、フッ素原子を有する化合物が好ましい。フッ素原子を有する化合物は、離型剤としての作用を発現でき、低分子量化合物であっても重合体であってもよい。重合体としては、特開2001−269564号公報に記載の重合体を挙げることができる。フッ素原子を有する重合体として好ましいものは、フッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体を必須成分として含有してなる単量体を重合せしめた重合体である。前記重合体に係わるフッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体としては、分子中にエチレン性不飽和基とフッ素化アルキル基とを有する化合物であれば特に制限はない。またフッ素原子を有する界面活性剤も利用でき、特に非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0095】
(光学調整剤)
本発明におけるセルロースアシレート組成物には、光学調整剤を添加することができる。光学調整剤としてはレターデーション調整剤を挙げることができ、例えば、特開2001−166144号公報、特開2003−344655号公報、特開2003−248117号公報、特開2003−66230号公報に記載のものを使用することができる。光学調整剤を添加することによって、面内のレターデーション(Re)、厚み方向のレターデーション(Rth)を制御することができる。光学調整剤の好ましい添加量は0〜10質量%であり、より好ましくは0〜8質量%、さらに好ましくは0〜6質量%である。
【0096】
(添加方法)
本発明で用いることができる各種添加剤をセルロースアシレート組成物に添加混合するタイミングは、各添加剤が溶融製膜される時点で添加されていれば特に限定されない。例えば、セルロースアシレートの合成時点で添加してもよいし、溶融前に予めセルロースアシレート中に混合させてもよく、溶融製膜時にセルロースアシレートと混合しつつ製膜することも好ましい。セルロースアシレートの合成時に添加する場合は、セルロースアシレートの沈殿生成前後に添加してもよく、セルロースアシレートが溶液状態で分散されている時に添加してもよい。これにより、セルロースアシレートと添加剤を均一に混合することができる。
【0097】
なお、本発明では、予めセルロースアシレートに各種添加剤が所望量よりも高濃度で含まれているマスターペレット(セルロースアシレート主ペレット)を作製してもよい。その場合は、別に添加剤が低濃度のセルロースアシレートペレット(セルロースアシレート副ペレット)を作製しておくことが好ましい。その場合、マスターペレット中の添加剤量は特に規定されないが、好ましくはセルロースアシレートフィルム中の添加剤の最終濃度の1.1〜20倍であり、より好ましくは2〜15倍であり、さらに好ましくは2〜10倍である。
【0098】
本発明で用いることができる各種添加剤をセルロースアシレート組成物に添加混合する方法は特に制限されないが、例えば下記の方法を採用することができる。
セルロースアシレートを粉体として作製した後に、液状添加剤または固体状添加剤を混合する場合は、均一に混合することが重要である。添加剤が粉体の場合は、セルロースアシレート粉末に均一に混合するために、混合機器を利用することが有効である。また、添加剤が液状の場合は、攪拌付きのミキサーやニーダなど混合装置を利用することが有効であり、またはペレット作製工程中、二軸混練機のフィードに定量送液ポンプにより直接添加することもできる。
【0099】
混合機器でセルロースアシレート組成物を混合する際には、添加剤やセルロースアシレートが安定であるように、湿度、温度や酸素濃度をコントロールすることが望ましい。この際、湿度や温度は低い方が好ましい。また、酸素濃度は低いことが好ましく、気体中の酸素濃度は10容量%以下であることが好ましく、より好ましくは5容量%以下であり、さらに好ましくは2容量%以下であり、特に好ましくは1容量%以下である。酸素濃度を低下させる方法は特に限定されないが、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムなど)や真空機器による脱気操作で達成できる。このようにして混合された添加剤含有セルロースアシレート組成物は、低酸素濃度を保持したまま溶融ペレット化あるいは溶融製膜されることが推奨される。なお、ペレット化工程で低い酸素濃度雰囲気下で溶融して作製された場合は、溶融製膜時の酸素濃度コントロールは不要な場合があり、工程への負荷が軽減される。
【0100】
《セルロースアシレートフィルムの製造方法》
以下に、本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法について、詳細に記述する。なお、本発明のセルロースアシレートフィルムは、これらの方法により製造されたものに限定されるものではない。
【0101】
(1)ペレット化
本発明では、セルロースアシレートや化合物およびラクトン系化合物やその他の添加物を含むセルロースアシレート組成物を、溶融製膜に先立ち混合してペレット化しておくのが好ましい。ペレット化前にセルロースアシレートおよび添加物は事前に乾燥しておくことが好ましい。その場合の乾燥後の含水率としては、セルロースアシレート組成物が0.5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.3質量%以下であり、特に好ましくは0.1質量%以下である。
【0102】
ベント式押出機を用いることで、これを代用することもできる。ペレット化は、上記セルロースアシレート組成物を2軸或いは1軸混練押出機を用い180℃〜240℃で溶融後、ヌードル状に押出したものを水中で固化し裁断することで作製することができる。水中に直接押出ながらカットするアンダーウオーターカット法でペレット化を行ってよい。好ましいペレットの大きさは断面積が1mm2〜300mm2、長さが1mm〜30mmであり、より好ましくは断面積が2mm2〜100mm2、長さが1.5mm〜10mmである。押出機の回転数は10rpm〜1000rpmが好ましく、より好ましくは30rpm〜500rpm以下である。ペレット化における押出滞留時間は通常10秒間〜30分間、好ましくは10秒間〜3分間である。なおペレット化の際には、酸素を除去あるいは低減しておくことが好ましく、その場合は不活性ガス(例えば、窒素、ヘリウム、アルゴンなど)や減圧状態にしておくことで達成できる、好ましい酸素濃度としては10容量%以下であり、より好ましくは5容量%以下であり、さらに好ましくは2容量%以下であり、特には0.5容量%以下である。
【0103】
なお、セルロースアシレート組成物への各化合物の添加方法については前述したように特に限定されないが、一般にはペレット化時に混入させることが好ましく推奨される。ただし、ペレット化時の溶融温度を低温状態にして、予めセルロースアシレートのみを溶融ペレット化したセルロースアシレートのマスターペレットに対して、化合物やその他の添加剤を高濃度に添加し溶融してペレット化した化合物添加マスターペレットを、溶融製膜時に所望の化合物添加量になるように、溶融押出し機に投入することも好ましい。
【0104】
(2)溶融製膜
次に溶融製膜について記述する。
【0105】
(乾燥)
溶融製膜に先立ちペレット中の水分を乾燥して含水率を0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下にすることが好ましい。ペレット状の樹脂乾燥は通常用いられる何れの乾燥方法も用いることができる。例えば除湿エアーを循環する乾燥機、熱風乾燥機、真空乾燥機、超音波乾燥機、高周波乾燥機、赤外線乾燥機等が上げられる。このための乾燥温度は40〜180℃が好ましく、さらに好ましくは60〜160℃、特に好ましくは80〜140℃である。乾燥風量は多いほど乾燥効率は上がるが、水分除去効率と経済性とを考慮すると1時間あたりに樹脂100kgを乾燥させるのに必要な風量としては好ましくは10〜200m3/時間で有り、特に好ましくは50〜125m3/時間である。乾燥風の露点は好ましくは0〜−60℃で有り、乾燥効率と経済性を考慮するとより好ましくは−20〜−40℃である。
【0106】
(溶融押出し)
乾燥したセルロースアシレートを押出機の供給口からシリンダー内に供給する。
押出機のスクリュー圧縮比は1.5〜4.5が好ましく、より好ましくは2.5〜4.0である。L(スクリュー長)/D(スクリュー径)は20〜70が好ましく、より好ましくは24〜50である。押出温度は180〜240℃が好ましく、より好ましくは190〜240℃であり、特に好ましくは200〜235℃である。押出し機のバレルは3〜20に分割したヒーターで加熱し溶融することが好ましい。
スクリューは、フルフライト、マドック、ダルメージ等何れのタイプを用いることが可能であるが、均一な可塑化と、滞留部分の発生防止およびせん断発熱による熱劣化を考慮し、適宜組み合わせて適正なスクリュー設計を行うことが必要である。樹脂の酸化防止のために、押出機内を不活性(窒素等)気流中、あるいはベント付き押出し機を用い真空排気しながら実施するのがより好ましい。
【0107】
(ろ過)
セルロースアシレート中の異物ろ過のためや異物によるギアポンプ損傷を避けるために、押し出し機出口にブレーカープレート式の濾過を行うことが好ましい。用いるフィルターのサイズは20〜600メッシュが好ましく、さらに好ましくは40〜400メッシュ、特に好ましくは50〜300メッシュである。
高精度濾過のために、ギアポンプ通過後にリーフ型ディスクフィルター型濾過装置を設けることが好ましい。濾過は、単段で行っても、多段で行っても良い。濾材の濾過精度は3〜15μmが好ましく、より好ましくは3〜10μmであり、特に好ましくは3〜5μmである。濾材はステンレス鋼,スチールを用いることが好ましく、中でもステンレス鋼が望ましい。濾材は線材を編んだもの、金属焼結濾材が使用でき、特に後者が好ましい
【0108】
(ギアポンプ)
厚み精度向上(吐出量の変動減少)のために、押出機とダイスの間にギアポンプを設置するのが好ましい。これにより、ダイ部分の樹脂圧変動巾を±1%以内にできる。
ギアポンプによる定量供給性能を向上させるために、スクリューの回転数を変化させて、ギアポンプ前の圧力を一定に制御する方法も好ましい。3枚以上のギアを用いた高精度ギアポンプも有効である。ギアポンプ内の滞留部分が樹脂劣化の原因となるため、滞留の少ない構造が好ましい。また、軸受け部分に滞留して熱劣化した樹脂を軸のクリアランスから放出することにより、熱劣化ポリマーの混入を防止することも有効である。
押出機とギアポンプ、ギアポンプとダイ等とをつなぐアダプタの温度変動を小さくすることが押出圧力安定のために好ましい。このためにアルミ鋳込みヒーターを用いることがより好ましい。
【0109】
(ダイ)
ダイス内の溶融樹脂の滞留が少ない設計であれば、一般的に用いられるTダイ、フィッシュテールダイ、ハンガーコートダイの何れのタイプでも構わない。又、Tダイの直前に樹脂温度の均一性アップのためのスタティックミキサーを入れることも問題ない。Tダイ出口部分のクリアランスは一般的にフィルム厚みの1.0〜20.0倍が良く、さらに好ましくは3.0〜15倍である。特に好ましくは5.0〜10倍である。
ダイのクリアランスは40〜50mm間隔で調整可能であることが好ましく、より好ましくは25mm間隔以下である。また、下流のフィルム厚みを計測してダイの厚み調整にフィードバックさせる方法も厚み変動の低減に有効である。機能層を外層に設けるため、多層製膜装置を用いて2種以上の構造を有するフィルムの製造も可能である。樹脂が供給口から押出機に入ってからダイスから出るまでの樹脂の好ましい滞留時間は2〜60分間であり、より好ましくは2.5〜30分間、さらに好ましくは2.5〜20分間である。
【0110】
(キャスト)
ダイからシート上に押し出された溶融樹脂をキャスティングドラム上で冷却固化し、フィルムを得る。この時、静電印加法、エアナイフ法、エアーチャンバー法、バキュームノズル法、タッチロール法等の方法を用い密着を上げることが好ましい。またエッジピニング(フィルムの両端部のみを密着させる方法)も好ましい。
キャスティングドラムは1〜8本、より好ましくは2〜5本用い、徐冷する方法が好ましい。ロール直径は50〜5000mmが好ましく、さらに好ましくは150〜1000mmである。複数本あるロールの間隔は、面間で0.3〜300mmが好ましく、さらに好ましくは3〜30mmである。キャスティングドラムは60℃〜160℃が好ましく、さらに好ましくは80℃〜140℃である。
この後、キャスティングドラムから剥ぎ取り、ニップロールを経た後巻き取る。このようにして得た未延伸フィルムの厚みは30μm〜400μmが好ましく、より好ましくは50μm〜200μmである。
【0111】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、ペレットをダイから押し出した後、タッチロールによって製膜するいわゆるタッチロール法を用いることが好ましく、ペレットをダイから押し出した後、タッチロールによって0.1〜10MPaの押圧で製膜することがさらに好ましい。また、いわゆるタッチロール法を用いる場合、タッチロール表面は、ゴム、テフロン等の樹脂でもよく、金属ロールでも良い。さらに、金属ロールの厚みを薄くすることでタッチしたときの圧力によりロール表面が若干くぼみ、圧着面積が広くなりフレキシブルロールと呼ばれる様なロールを用いることも可能である。この厚みは0.1mm〜7mmが好ましく、より好ましくは0.2mm〜5.5mm、さらに好ましくは0.2mm〜4mmである。タッチロール温度は60℃〜160℃が好ましく、より好ましくは80℃〜140℃である。タッチロールの押圧は上述の通り0.1〜10MPaが好ましく、より好ましくは0.2〜8MPa、さらに好ましくは0.3〜5MPaである。ここで云う「押圧」とは、タッチロールをキャスティングロールに押付ける力(F:単位N)を、タッチロールとキャスティングロールとの接触面積(A:単位m2)で割った値(F/A:単位Pa)を指す。タッチロールを用いた製膜法は、例えば特開平11−314263号公報、特開2002−36332号公報、特開平11−235747号公報、国際公開WO97/28950号公報、特開2004−216717号公報、特開2003−145609号公報に記載のものを利用できる。
【0112】
(巻き取り)
巻き取り前にフィルムの両端をトリミングすることが好ましい。トリミングされた部分はフィルム用原料として再利用してもよい。トリミングカッターはロータリーカッター、シャー刃、ナイフ等何れを用いても構わない。材質についても、炭素鋼、ステンレス鋼、セラミックを用いることができる。
好ましい巻き取り張力は1kg/m幅〜50kg/幅、より好ましくは3kg/m幅〜20kg/幅である。巻き取り張力は、一定の巻き取り張力で巻き取っても良いが、巻取り径に応じてテーパーをつけ巻取ることがより好ましい。
またニップロール間のドロー比率を調整し、ライン途中でフィルムに規定以上の張力がかからない様にすることが必要である。
巻き取り前に、少なくとも片面にラミフィルムを付けても良い。
【0113】
(回収)
製膜した未延伸フィルムや延伸フィルムを製品サイズに合わせるためのトリミング工程や、製膜条件調整時には屑フィルムが発生する。発生量は投入原料の5〜30%程度に達するため、屑フィルムを粉砕し、新原料と混合あるいは単独で再利用することは、コスト面および環境面から極めて重要である。粉砕、乾燥処理したフィルムは気送配管により原料タンクに供給され、バージン原料と混合し、ホッパーへ供給しても良い。また、粉砕フィルムとバージン原料を別々に計量し、押出機機に供給しても良い。粉砕フィルム原料とバージン原料の混合割合は重量比で1:99〜70:30が好ましく、更に好ましくは5:95〜50:50である。これにより、粉砕フィルムとバージン原料の嵩密度が異なっても押出機への供給安定性が良好で好ましい。但しリペレット化した場合は、フィルム物性に問題がなければ、上記範囲である必要はなく、任意の配合比率で混合することが可能である。
【0114】
本発明において好ましく採用することができる溶融製膜を実施するための装置概略図を図1に示す。図1は、本発明におけるセルロースアシレートペレットを用いて溶融製膜を実施するための装置の例を示した概略図である。図1中、101は混練押出機、102はギアポンプ、103は濾過部、104はダイ、105はタッチロール、106はキャスティング冷却ドラム、107はセルロースアシレート、108は縦延伸工程部、109は横延伸工程部、110は巻取工程部を示す。延伸については後述する。未延伸フィルムを製膜する場合は、キャスティング冷却ドラム106を通過した後、縦延伸工程部108および横延伸工程部109を通過させず巻取ることができる。
【0115】
《未延伸セルロースアシレートフィルムの特性》
(光学特性)
次に、本発明のセルロースアシレートフィルムの好ましい光学特性について説明する。
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。詳細な測定方法は後述する。
【0116】
本発明のセルロースアシレートフィルムの正面レターデーション(Re)は0〜300nmであり、且つ、厚さ方向のレターデーション(Rth)の絶対値が0〜700nmであることが好ましい。さらには、Reが0〜250nmであり、Rthの絶対値が0〜400nmであることがより好ましく、特にはReが0〜200nmであり、Rthの絶対値が0〜350nmであることが好ましい。特に、本発明のセルロースアシレートフィルムは偏光板保護膜としての利用が有効であり、その場合は、Reが0〜20nmであり、Rthが0〜60nmであることが好ましく、Reが0〜10nm、Rthが0〜40nmであることがより好ましく、Reが0〜5nm、Rthが0〜20nmであることが特に好ましい。
【0117】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、湿度変化に伴う光学特性変動の問題を改良することができるものであり、25℃における相対湿度10%の光学特性と80%の光学特性との差が小さいことを一つの特徴としている。湿度変化による光学特性変動は、ReとRthとの湿度変化による変化量の絶対値で評価することができる。すなわち、Reの湿度変化(nm)は、Re(相対湿度80%)とRe(相対湿度10%)との差の絶対値であり、Rthの湿度変化(nm)は、Rth(相対湿度80%)とRth(相対湿度10%)との差の絶対値で表わされる。本発明のセルロースアシレートフィルムは、Reの湿度変化が10nm以下であることが好ましく、さらには5nm以下を実現することができ、さらに1nm以下も実現することができる。また、Rth湿度変化は、25nm以下であることが好ましく、さらには20nm以下を実現することができ、さらに15nm以下も実現することができる。従来のセルローストリアセテートフィルムに比較すると、本発明のセルロースアシレートフィルムは湿度変化量が2/3〜1/2に抑えられている。
【0118】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、波長に対する光学特性の挙動をコントロールすることも可能である。すなわち、波長400nmおよび700nmにおけるそれぞれのRe(400)、Re(700)の差の絶対値が0〜15nmであることが好ましく、Rth(400)、Rth(700)の差の絶対値が0〜35nmであることが好ましい。このことを式で表わすと、本発明のセルロースアシレートフィルムは、下記式(A−1)および(A−2)を満たすことが好ましい。
式(A−1) 0≦|Re(700)−Re(400)|≦15nm
式(A−2) 0≦|Rth(700)−Rth(400)|≦35nm
(式中、Re(400)およびRe(700)は、波長400nmおよび700nmにおける正面レターデーション(Re)を表し、Rth(400)およびRth(700)は、波長400nmおよび700nmにおける厚さ方向のレターデーション(Rth)を表す。)
【0119】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、ReムラとRthムラとを抑えることができる。ここでいうReムラ、Rthムラは、セルロースアシレートフィルムの長さ方向10m、250m、450mのそれぞれの領域において、幅方向に端部から20cmごとに7個所ずつサンプリングして、合計21サンプルを用意し、これらのサンプルを25℃、相対湿度60%に3時間調湿して、同一環境下でRe、Rthを測定し、得られた数値の最大値と最小値の差を計算することにより得られる。本発明のセルロースアシレートフィルムは、ReムラとRthムラがそれぞれ3.0nm未満であることが好ましく、1.0nm未満であることがより好ましく、0.8nm以下であることがより好ましく、0.6nm以下であることがさらに好ましい。なお、上記の21カ所のサンプルを採取することができない場合は、これに準じた方法によりReムラとRthムラを計算する。
【0120】
また、本発明のセルロースアシレートフィルムでは、25℃・相対湿度60%環境下で波長590nmにおける面内方向の固有複屈折が0〜0.001であることが好ましく、厚さ方向の固有複屈折の絶対値が0〜0.003であることが好ましい。より好ましくは、面内方向の固有複屈折が0〜0.0008であり、厚さ方向の固有複屈折の絶対値が0〜0.0025である。さらに好ましくは、面内方向の固有複屈折が0〜0.0006であり、厚さ方向の固有複屈折の絶対値が0〜0.001である。
【0121】
(軸ズレ)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、光学遅相軸が流延方向あるいは幅方向に対して平行あるいは直角であることが好ましい。特に延伸処理を施した場合には、流延方向に延伸した場合は0°に近いほど好ましい。具体的には、0±3°がより好ましく、さらに好ましくは0±1.5°であり、特に好ましくは0±0.5°である。幅方向に延伸した場合は、90±3°あるいは−90±3°が好ましく、より好ましくは90±1.5°あるいは−90±1.5°、さらに好ましくは90±0.5°あるいは−90±0.5°である。
【0122】
(弾性率、破断進度、熱寸法変化、透水率、平衡含水率)
本発明のセルロースアシレートフィルムの弾性率は、1.5kN/mm2〜3.5kN/mm2であることが好ましく、より好ましくは1.8kN/mm2〜2.6kN/mm2である。破断伸度は3%〜300%が好ましい。Tgは95℃〜145℃が好ましい。80℃1日での熱寸法変化は縦、横両方向とも0%〜±1%が好ましく、さらに好ましくは0%〜±0.3%である。40℃/相対湿度90%での透水率は300g/m2・日〜1000g/m2・日が好ましく、さらに好ましくは500g/m2・日〜800g/m2・日である。25℃/相対湿度80%での平衡含水率は1質量%〜4質量%が好ましく、さらに好ましくは1.5質量%〜2.5質量%である。
【0123】
(残留溶剤量)
本発明のセルロースアシレートフィルムには、残留溶剤が含まれていないか、含まれていても極めて少ない。残留溶剤量は0.01質量%以下であることが好ましく、ゼロであることが最も好ましい。特に、溶融製膜による本発明の製造方法では、製膜時に溶剤を使用しないため、製造されるセルロースアシレートフィルムにも溶剤が含まれない点で極めて好ましい。
【0124】
(膜厚とムラ)
本発明のセルロースアシレートフィルムの膜厚は、20〜300μmであることが好ましく、より好ましくは30μm〜200μm、さらに好ましくは30μm〜150μm、特に好ましくは40〜120μmである。従って、延伸することを前提としたときの未延伸フィルムの膜厚は、延伸倍率により予め厚めの原反押し出し膜厚としておくことが好ましい。本発明のセルロースアシレートフィルムの厚みムラは、厚さ方向、幅方向いずれも0〜5μmが好ましく、より好ましくは0〜3μm、さらに好ましくは0〜2μmである。また製膜方向(長手方向)と、フィルムのReの遅相軸とのなす角度θは0°、+90°もしくは−90°に近いほど好ましい。
【0125】
(キシミ値)
本発明では、セルロースアシレートフィルムに微粒子あるいは滑り剤を添加することでキシミ値を軽減し搬送性を改良することができる。本発明において、セルロースアシレートフィルムの動的および静的キシミ値は共に、0.2〜1.5であることが好ましく、より好ましくは0.2〜1.3であり、さらに好ましくは0.256〜1.0である。微粒子の存在状態が粗大である場合は、そのキシミ値が小さくなる場合と大きくなる場合があり、共に搬送性は好ましくないばかりか、傷つきの発生を伴い推奨されない。キシミ値の測定方法については、後述する。
【0126】
(算術平均粗さ)
微粒子を含有するセルロースアシレートフィルムは、その表面の粗さが適度な範囲内にある。表面粗さの程度は、一般に用いられている算術平均粗さ(Ra)で表される。本発明のセルロースアシレートフィルムの算術平均粗さ(Ra)は、1nm〜500nmであることが好ましく、より好ましくは1nm〜250nmであり、特に好ましくは1nm〜200nmである。算術平均粗さ(Ra)の測定は、一般に使用されている接触式あるいは非接触式表面粗さ測定機で求めることができる。
【0127】
(透過率)
本発明のセルロースアシレートフィルムの透過率は、好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは91%以上であり、特に好ましくは92%以上である。透過率は、フィルム試料を20mm×70mmに切り出して、25℃・相対湿度60%で透明度測定器(AKA光電管比色計、KOTAKI製作所社製)で可視光(615nm)の透過率を測定することにより得られる。
【0128】
(ヘイズ)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、ヘイズが0〜1.5%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0〜1.2%であり、さらに好ましくは0〜0.8%であり、特に好ましくは0.01〜0.5%である。ヘイズは、フィルム試料を40mm×80mmに切り出して、25℃・相対湿度60%においてヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)を用いてJIS K−6714に従って測定する。
【0129】
《延伸と延伸セルロースアシレートフィルムとの物性》
(延伸)
本発明においては、フィルム特性をコントロールするために、延伸工程を行ってフィルムを延伸することも好ましい。例えば、未延伸フィルムを延伸し、Re,Rthを制御することができる。この時、延伸温度は(Tg〜Tg+50℃)が好ましく、さらに好ましくは(Tg+5℃)〜(Tg+20℃)である。好ましい延伸倍率は少なくとも一方に1%〜300%、より好ましくは3%〜200%である。一方の延伸倍率を他方より大きくして延伸するほうがより好ましく、小さい方の延伸倍率は1%〜30%が好ましく、より好ましくは3%〜20%であり、大きいほうの延伸倍率は30%〜300%が好ましく、より好ましくは40%〜150%である。これらの延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。ここでいう延伸倍率は、以下の式を用いて求めたものである。
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/(延伸前の長さ)
このような延伸はニップロール、テンター等を用いて実施することができる。また、特開2000−37772号公報、特開2001−113591号公報、特開2002−103445号公報に記載の同時2軸延伸法を用いてもよい。
【0130】
延伸後のセルロースアシレートフィルムのRe、Rthは下式を満足することが好ましい。
Rth≧Re
200≧Re≧0
500≧Rth≧30
また、延伸後のセルロースアシレートフィルムのRe、Rthは下式を満足することがより好ましい。
Rth≧Re×1.2
100≧Re≧20
350≧Rth≧80
【0131】
また、製膜方向(長手方向)と遅相軸とのなす角度θは、縦延伸の場合は、0±3°が好ましく、より好ましくは0±1°である。横延伸の場合は、90±3°あるいは−90±3°が好ましく、より好ましくは90±1°あるいは−90±1°である。延伸後のセルロースアシレートフィルムの厚みは15μm〜200μmが好ましく、より好ましくは40μm〜140μmである。厚みむらは長手方向、幅方向いずれも0%〜3%が好ましく、さらに好ましくは0%〜1%である。
【0132】
(物性)
延伸セルロースアシレートフィルムの物性は以下の範囲が好ましい。
引張り弾性率は1.5kN/mm2以上3.0kN/mm2未満が好ましく、より好ましくは1.8kN/mm2〜2.6kN/mm2である。
破断伸度は3%〜100%が好ましく、より好ましくは8%〜50%である。
Tgは95℃〜145℃が好ましく、より好ましくは105℃〜135℃である。
80℃に1日静置した後の熱寸法変化は縦、横両方向とも0%〜±1%が好ましく、さらに好ましくは0%〜±0.3%である。
40℃、相対湿度90%での透水率は300g/m2・日〜1000g/m2・日が好ましく、さらに好ましくは500g/m2・日〜800g/m2・日である。
25℃、相対湿度80%での平衡含水率は1質量%〜4質量%が好ましく、さらに好ましくは1.5質量%〜2.5質量%である。
ヘイズは0%〜3%が好ましく、より好ましくは0%〜1%以下である。全光透過率は90%〜100%が好ましい。
【0133】
(面状)
本発明のセルロースアシレートフィルムにおいて、その長手方向に形成されるダイラインの深さは500nm以下、幅は0.2mm以上、より好ましくは、深さ100nm以下、幅0.3mm以上、さらに好ましくは、深さ50nm以下、幅0.5mm以上である。ダイラインの高さ、深さは、三次元構造解析顕微鏡(Zygo社製 NewView 6000型)を用いてフィルムの凹凸を測定した。
また、上記ダイラインの本数は、幅方向に対して、5本/10cm以下、より好ましくは、3本/10cm以下、さらに好ましくは1本/10cm以下である。ダイラインの数は、該フィルム(製膜全幅×長手方向30cm)を白色スクリーンの前に10mmの間隔を空け平行に設置し、このフィルムの中央部から32.5度の方向に1m離して設置したスライド投影機(例えばキャビン工業(株)製Color CabinIII)から投光し、スクリーンに投影された製膜方向(MD)に平行なスジ(光の明暗)の内、3mm幅以下のものの本数を全幅に亘って数え、幅10cmあたりの本数を求めた。
また、本発明のセルロースアシレートフィルムに含まれる、最大径50μm以上の異物は、0個/3m長×全幅であり、最大径20〜50μm以下の異物は30個/3m長×全幅以下である。さらに、該フィルムをクロスニコル状態に配置された2枚の偏光板の間に配置し、一方の偏光板側から光を当てて他方の偏光板の側から観測するに当って、最大径20〜50μm異物のうち輝点となる数は、15個/3m長×全幅以下であり、より好ましくは10個/3m長×全幅以下、さらに好ましくは5個/cm2以下である。なお、異物の数、大きさの測定は、製膜フィルムを、3m長×全幅でサンプリングし、光学顕微鏡を用いてその数と大きさを測定することができる。
ダイライン、フィルム中に含まれる異物の数が上記範囲であると、高輝度のバックライトユニットを有する液晶表示ユニットに組み込む場合にも光漏れなどがなく良好な表示状態とすることができる。
【0134】
《セルロースアシレートフィルムの機能化》
次に、本発明のセルロースアシレートフィルムにさらに機能を付与する場合の好ましい態様を記述する。
【0135】
(表面処理)
セルロースアシレートフィルムは、場合により表面処理を行うことによって、セルロースアシレートフィルムと各機能層(例えば、下塗層およびバック層)との接着の向上を達成することができる。例えばグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸またはアルカリ処理を用いることができる。ここでいう「グロー放電処理」とは、プラズマ励起性気体存在下でフィルム表面にプラズマ処理を施す処理である。
前記グロー放電処理とは、10-3〜20Torr(0.13〜2700Pa)の低圧ガス下でおこる低温プラズマ処理を含む。また、大気圧下でのプラズマ処理も好ましいグロー放電処理である。前記プラズマ励起性気体とは、上記のような条件においてプラズマ励起される気体をいい、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンの様なフロン類およびそれらの混合物などが挙げられる。これらについては、詳細が発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)30頁〜32頁に詳細に記載されている。
【0136】
次に、本発明のセルロースアシレートフィルムの表面処理として好ましく用いられるアルカリ鹸化処理を具体的に説明する。アルカリ鹸化処理は、鹸化液に浸漬してもよく(浸漬法)、鹸化液を塗布してもよい(塗布方法)。浸漬法の場合は、NaOHやKOH等の水酸化イオンの濃度が0.3mol/L〜4.0mol/Lの水溶液を20℃〜90℃に加温した槽を0.1分〜10分通過させたあと、中和、水洗、乾燥することで達成できる。
【0137】
塗布方法の場合、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、バーコーティング法およびE型塗布法を用いることができる。アルカリ鹸化処理塗布液の溶媒は、鹸化液の透明支持体に対して塗布するために濡れ性がよく、また鹸化液溶媒によって透明支持体表面に凹凸を形成させずに、面状を良好なまま保つ溶媒を選択することが好ましい。具体的には、アルコール系溶媒が好ましく、イソプロピルアルコールが特に好ましい。また、界面活性剤の水溶液を溶媒として使用することもできる。アルカリ鹸化塗布液のアルカリは、上記溶媒に溶解するアルカリが好ましく、KOH、NaOHがさらに好ましい。鹸化塗布液のpHは10以上が好ましく、12以上がさらに好ましい。アルカリ鹸化時の反応条件は、室温で1秒間〜5分間が好ましく、5秒間〜5分間がさらに好ましく、20秒間〜3分間が特に好ましい。アルカリ鹸化反応後、鹸化液塗布面を水洗あるいは酸で洗浄したあと水洗することが好ましい。また、塗布式鹸化処理と後述の配向膜解塗設を、連続して行うことができ、工程数を減少できる。これらの鹸化方法は、具体的には、例えば、特開2002−82226号公報、国際公開第02/46809号パンフレットに記載されている。
【0138】
これらの方法で得られた固体の表面エネルギーは、「ぬれの基礎と応用」(リアライズ社、1989.12.10発行)に記載のように接触角法、湿潤熱法、および吸着法により求めることができ、接触角法を用いることが好ましい。本発明のセルロースアシレートフィルム表面の水に対する接触角(25℃/相対湿度60%)は、45°以下であることが好ましく、10〜45°であることがさらに好ましく、10〜40°が特に好ましく、10〜30°が最も好ましい。
【0139】
本発明のセルロースアシレートフィルムに機能性層を接着させる方法として、表面活性化処理をしたのち、直接セルロースアシレートフィルム上に機能層を塗布して接着力を得る方法と、一旦何らかの表面処理をした後、あるいは表面処理なしで、下塗層(接着層)を設けこの上に機能層を塗布する方法とがある。前記下塗層の構成としても種々の工夫が行われており、例えば、1層の下塗り層を一層で構成する単層法や、第1層として支持体(セルロースアシレートフィルム)によく接着する層(下塗第1層)を設け、その上に第2層として機能層とよく接着する下塗り第2層を塗布する所謂重層法がある。この層は上記表面処理をした後、塗設してもよく、表面処理なしで塗設してもよい。下塗層についての詳細は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁に記載されている。
【0140】
これらの表面処理、下塗り工程は、製膜工程の最後に組み込むこともでき、単独で実施することもでき、後述の機能層付与工程の中で実施することもできる。
【0141】
《本発明のセルロースアシレートフィルムの利用》
本発明のセルロースアシレートフィルムには、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁〜45頁に詳細に記載されている機能性層を組み合わせ、各種光学フィルムを形成することが好ましい。中でも好ましいのが、偏光膜の付与(偏光板)、光学補償層の付与(光学補償シート)、反射防止層の付与(反射防止フィルム)である。
【0142】
(1)偏光板の作製
本発明の偏光板は、偏光子に、本発明のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1層積層して構成される。
【0143】
(偏光子)
本発明における偏光子は、ポリビニルアルコール(PVA)と二色性分子とから構成することが好ましい。また、特開平11−248937号公報に記載されているようにPVAやポリ塩化ビニルを脱水、脱塩素することによりポリエン構造を生成し、これを配向させたポリビニレン系偏光子も使用することができる。また、Optiva Inc.に代表される塗布型偏光子も利用できる。
【0144】
前記PVAは、ポリ酢酸ビニルをケン化したポリマー素材であるが、例えば不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸、オレフィン類、ビニルエーテル類のような酢酸ビニルと共重合可能な成分を含有しても構わない。また、アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、オキシアルキレン基等を含有する変性PVAも用いることができる。
【0145】
前記PVAのケン化度は特に限定されないが、溶解性等の観点から80〜100mol%が好ましく、90〜100mol%が特に好ましい。またPVAの重合度は特に限定されないが、1000〜10000が好ましく、1500〜5000が特に好ましい。 PVAのシンジオタクティシティーは特許2978219号公報に記載されているように耐久性を改良するため55%以上が好ましいが、特許第3317494号公報に記載されている45〜52.5%も好ましく用いることができる。
【0146】
前記PVAをフィルム化した後、二色性分子を導入して染色、延伸することによって偏光子を得ることができる。詳細な偏光子作製方法は特開2005−138375号公報の段落番号[0075]〜[0082]、特開2006−2026号公報の段落番号[0138]〜[0141]、特開2006−45500号公報の段落番号[0099]〜[0108]に記載するものが好ましく用いることができる。
【0147】
(偏光板)
本発明の偏光板においては、偏光子とセルロースアシレートフィルム(保護フィルム)との接着処理は、特に限定されるものではないが、例えば、ビニルアルコール系ポリマーからなる接着剤、あるいは、ホウ酸やホウ砂、グルタルアルデヒドやメラミン、シュウ酸などのビニルアルコール系ポリマーの水溶性架橋剤から少なくともなる接着剤などを介して行うことができる。特に、ポリビニルアルコール系フィルムとの接着性が最も良好である点で、ポリビニルアルコール系接着剤を用いることが好ましい。かかる接着層は、水溶液の塗布乾燥層などとして形成しうるが、その水溶液の調製に際しては必要に応じて、他の添加剤や、酸等の触媒も配合することができる。詳細な偏光板の作製方法および偏光板特性は特開2005−128520号公報の段落番号[0008]〜[0020]、特開2005−266222号公報の段落番号[0007]〜[0013]、特開2005−138375号公報の段落番号[0083]〜[0113]、特開2006−2026の段落番号[0142]〜[0145]、特開2006−45500の段落番号[0109]〜[0111]に記載するものが好ましく用いることができる。
【0148】
一般に液晶表示装置は、二枚の偏光板の間に液晶セルが設けられ、また、一般に液晶セルは、2枚の基板の間に液晶注入される。従って、通常の液晶表示装置では、4枚の偏光板保護フィルムを有する。本発明のセルロースアシレートフィルムは、4枚の偏光板保護フィルムのいずれに用いてもよい。偏光板の保護フィルムは第1保護フィルム、偏光子、第2保護フィルムから積層してなる偏光板において、二枚偏光板を直交する際に第2保護フィルムが内側(液晶セル側)に配置する。液晶表示装置の視野角依存性、経時変化、黒表示時の光漏れおよび色味変化をより改善するために、本発明のセルロースアシレートフィルムは、液晶表示装置における偏光子と液晶層(液晶セル)との間に配置される第2保護フィルムとして、特に有利に用いることができる。
【0149】
また、液晶セルの上面(視認側)に配置する上偏光板の第1保護フィルムが本発明の溶融製膜されたセルロースアシレートフィルム、または溶液流延製膜したトリアセチルセルロースフィルムから選ばれ、表面にハードコート層、防眩層、反射防止層の少なくとも一層を設け、偏光板の第1保護フィルムとして視認側配置することが好ましく用いられる。液晶セルの下面(奥側)に配置する下偏光板の第1保護フィルムが本発明の溶融製膜されたセルロースアシレートフィルム、または溶液流延製膜したトリアセチルセルロースフィルムから選ばれ、偏光板の第1保護フィルムとしてバックライトユニット側に配置することが好ましく用いられる。
【0150】
(2)光学補償フィルムの作製
本発明の光学補償フィルムは、例えば本発明のセルロースアシレートフィルムを基材に用い、前記基材上に光学異方性層を有する。
前記光学異方性層は、液晶表示装置の黒表示における液晶セル中の液晶化合物を補償するためのものであり、セルロースアシレートフィルムの上に配向膜を形成し、さらに光学異方性層を付与することで形成される。
【0151】
(配向膜)
前記表面処理したセルロースアシレートフィルム上に配向膜を設ける。この膜は、液晶性分子の配向方向を規定する機能を有する。しかし、液晶性化合物を配向後にその配向状態を固定してしまえば、配向膜はその役割を果たしているために、本発明の構成要素としては必ずしも必須のものではない。即ち、配向状態が固定された配向膜上の光学異方性層のみを偏光子上に転写して本発明の偏光板を作製することも可能である。詳細な配向膜の作製方法および材料は特開2006−2026号公報の段落番号[0148]〜[0159]、特開2006−45500号公報の段落番号[0114]〜[0127]、特開2006−45501号公報の段落番号[0080]〜[0085]に記載されるものを好ましく用いることができる。このようにして得た配向膜の膜厚は、0.1〜10μmの範囲にあることが好ましい。
【0152】
次に、配向膜の上に光学異方性層の液晶性分子を配向させる。その後、必要に応じて、配向膜ポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを反応させるか、あるいは、架橋剤を用いて配向膜ポリマーを架橋させる。
【0153】
光学異方性層に用いる液晶性分子には、棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子が含まれる。棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子は、高分子液晶でも低分子液晶でもよく、さらに、低分子液晶が架橋され液晶性を示さなくなったものも含まれる。
【0154】
(棒状液晶性分子)
棒状液晶性分子としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。
【0155】
なお、棒状液晶性分子には、金属錯体も含まれる。また、棒状液晶性分子を繰り返し単位中に含む液晶ポリマーも、棒状液晶性分子として用いることができる。言い換えると、棒状液晶性分子は、(液晶)ポリマーと結合していてもよい。
【0156】
棒状液晶性分子については、季刊化学総説第22巻液晶の化学(1994)日本化学会編の第4章、第7章および第11章、および液晶デバイスハンドブック日本学術振興会第142委員会編の第3章に記載がある。
【0157】
棒状液晶性分子の複屈折率は、0.001〜0.7の範囲にあることが好ましい。
棒状液晶性分子は、その配向状態を固定するために、重合性基を有することが好ましい。重合性基は、ラジカル重合性不飽基あるいはカチオン重合性基が好ましく、具体的には、例えば特開2002−62427号公報明細書中の段落番号[0064]〜[0086]記載の重合性基、重合性液晶化合物が挙げられる。
【0158】
(円盤状液晶性分子)
円盤状(ディスコティック)液晶性分子には、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.71巻、111頁(1981年)に記載されているベンゼン誘導体、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.122巻、141頁(1985年)、Physics lett,A,78巻、82頁(1990)に記載されているトルキセン誘導体、B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年)に記載されたシクロヘキサン誘導体およびJ.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Commun.,1794頁(1985年)、J.Zhangらの研究報告、J.Am.Chem.Soc.116巻、2655頁(1994年)に記載されているアザクラウン系やフェニルアセチレン系マクロサイクルが含まれる。
【0159】
円盤状液晶性分子としては、分子中心の母核に対して、直鎖のアルキル基、アルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基が母核の側鎖として放射線状に置換した構造である液晶性を示す化合物も含まれる。分子または分子の集合体が、回転対称性を有し、一定の配向を付与できる化合物であることが好ましい。円盤状液晶性分子から形成する光学異方性層は、最終的に光学異方性層に含まれる化合物が円盤状液晶性分子である必要はなく、例えば、低分子の円盤状液晶性分子が熱や光で反応する基を有しており、結果的に熱、光で反応により重合または架橋し、高分子量化し液晶性を失った化合物も含まれる。円盤状液晶性分子の好ましい例は、特開平8−50206号公報に記載されている。また、円盤状液晶性分子の重合については、特開平8−27284号公報に記載がある。
【0160】
円盤状液晶性分子を重合により固定するためには、円盤状液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。円盤状コアと重合性基とは、連結基を介して結合する化合物が好ましく、これにより重合反応においても配向状態を保つことができる。例えば、特開2000−155216号公報明細書中の段落番号[0151]〜[0168]記載の化合物等が挙げられる。
【0161】
ハイブリッド配向では、円盤状液晶性分子の長軸(円盤面)と偏光板の面との角度が、光学異方性層の深さ方向でかつ偏光板の面からの距離の増加と共に増加または減少している。円盤状液晶性分子の長軸と偏光板の面との角度は、距離の増加と共に減少することが好ましい。さらに、円盤状液晶性分子の長軸と偏光板の面との角度の変化としては、連続的増加、連続的減少、間欠的増加、間欠的減少、連続的増加と連続的減少を含む変化、あるいは、増加および減少を含む間欠的変化が可能である。間欠的変化は、厚さ方向の途中で傾斜角が変化しない領域を含んでいる。円盤状液晶性分子の長軸と偏光板の面との角度は、角度が変化しない領域を含んでいても、全体として増加または減少していればよい。さらに、円盤状液晶性分子の長軸と偏光板の面との角度は連続的に変化することが好ましい。
【0162】
偏光板側の円盤状液晶性分子の長軸の平均方向は、一般に円盤状液晶性分子あるいは配向膜の材料を選択することにより、またはラビング処理方法の選択することにより、調整することができる。また、表面側(空気側)の円盤状液晶性分子の長軸(円盤面)方向は、一般に円盤状液晶性分子あるいは円盤状液晶性分子と共に使用する添加剤の種類を選択することにより調整することができる。円盤状液晶性分子と共に使用する添加剤の例としては、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマーおよびポリマーなどを挙げることができる。長軸の配向方向の変化の程度も、前記と同様に、液晶性分子と添加剤との選択により調整できる。
【0163】
(光学異方性層の他の組成物)
前記の液晶性分子と共に、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマー等を併用して、塗工膜の均一性、膜の強度、液晶分子の配向性等を向上することができる。液晶性分子と相溶性を有し、液晶性分子の傾斜角の変化を与えられるか、あるいは配向を阻害しないことが好ましい。
【0164】
前記界面活性剤としては、従来公知の化合物が挙げられるが、特にフッ素系化合物が好ましい。具体的には、例えば特開2001−330725号公報明細書中の段落番号[0028]〜[0056]記載の化合物が挙げられる。
【0165】
前記重合性モノマーとしては、ラジカル重合性若しくはカチオン重合性の化合物が挙げられる。好ましくは、多官能性ラジカル重合性モノマーであり、前記の重合性基含有の液晶化合物と共重合性のものが好ましい。例えば、特開2002−296423号公報明細書中の段落番号[0018]〜[0020]記載のものが挙げられる。前記化合物の添加量は、円盤状液晶性分子に対して一般に1〜50質量%の範囲にあり、5〜30質量%の範囲にあることが好ましい。
【0166】
円盤状液晶性分子とともに使用するポリマーは、円盤状液晶性分子に傾斜角の変化を与えられることが好ましい。
【0167】
前記ポリマーの例としては、セルロースエステルを挙げることができる。セルロースエステルの好ましい例としては、特開2000−155216号公報明細書中の段落番号[0178]記載のものが挙げられる。液晶性分子の配向を阻害しないように、前記ポリマーの添加量は、液晶性分子に対して0.1〜10質量%の範囲にあることが好ましく、0.1〜8質量%の範囲にあることがより好ましい。
円盤状液晶性分子のディスコティックネマティック液晶相−固相転移温度は、70〜300℃が好ましく、70〜170℃がさらに好ましい。
【0168】
(光学異方性層の形成)
光学異方性層は、液晶性分子および必要に応じて後述の重合性開始剤や任意の成分を含む塗布液を、配向膜の上に塗布することで形成することができる。
【0169】
塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、アミド(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例えば、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例えば、ピリジン)、炭化水素(例えば、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラクロロエタン)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライドおよびケトンが好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0170】
塗布液の塗布は、公知の方法(例えば、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法)により実施できる。
光学異方性層の厚さは、0.1〜20μmであることが好ましく、0.5〜15μmであることがさらに好ましく、1〜10μmであることが最も好ましい。
【0171】
(液晶性分子の配向状態の固定)
配向させた液晶性分子を、配向状態を維持して固定することができる。固定化は、重合反応により実施することが好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤とを用いる光重合反応とが含まれる。光重合反応が好ましい。
【0172】
前記光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許4239850号明細書記載)およびオキサジアゾール化合物(米国特許4212970号明細書記載)が含まれる。
【0173】
光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01〜20質量%の範囲にあることが好ましく、0.5〜5質量%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0174】
液晶性分子の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。照射エネルギーは、20mJ/cm2 〜50J/cm2の範囲にあることが好ましく、20〜5000mJ/cm2 の範囲にあることがより好ましく、100〜800mJ/cm2 の範囲にあることがさらに好ましい。また、光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。保護子を光学異方性層の上に設けてもよい。
【0175】
この光学補償フィルムと偏光板とを組み合わせることも好ましい。具体的には、前記のような光学異方性層用塗布液を偏光板の表面に塗布することにより光学異方性層を形成する。その結果、偏光板と光学異方性層との間にポリマーフィルムを使用することなく、偏光板の寸度変化にともなう応力(歪み×断面積×弾性率)が小さい薄い偏光板が作製される。本発明に従う偏光板を大型の液晶表示装置に取り付けると、光漏れなどの問題を生じることなく、表示品位の高い画像を表示することができる。
【0176】
偏光板と光学補償層との傾斜角度は、LCDを構成する液晶セルの両側に貼り合わされる2枚の偏光板の透過軸と液晶セルとの縦または横方向のなす角度にあわせるように延伸することが好ましい。通常の傾斜角度は45°である。しかし、最近は、透過型、反射型および半透過型LCDにおいて必ずしも45°でない装置が開発されており、延伸方向はLCDの設計にあわせて任意に調整できることが好ましい。
【0177】
(3)反射防止フィルム
本発明のセルロースアシレートフィルムは、ハードコート層、防眩層、反射防止層へ好ましく適用することができる。本発明の反射防止フィルムでは、例えば本発明のセルロースアシレートフィルムを基材に用いる。LCD、PDP、CRT、EL等のフラットパネルディスプレイの視認性を向上する目的で、本発明のセルロースアシレートフィルムの片面または両面にハードコート層、防眩層、反射防止層の何れかあるいは全てを付与することができる。このようなハードコート層、防眩層、反射防止層としての望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745号、2001年3月15日発行、発明協会)54頁〜57頁、特開2005−178194号公報の段落番号[0137]〜[0167]、特開2005−325258号公報の段落番号[0136]〜[0154]、特開2006−45500号公報の段落番号[0153]〜[0175]、特開2006−45501号公報の段落番号[0095]〜[0103]に詳細に記載されている。これらの作製方法は好ましく用いることができる。
【0178】
《液晶表示装置》
本発明のセルロースアシレートフィルム、並びに、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いた本発明の偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムは、様々な表示モードの液晶表示装置に用いることができる。以下にこれらのフィルムが用いられる各液晶モードについて説明する。これらのモードのうち、本発明のセルロースアシレートフィルム、偏光板および光学補償フィルムは特にTN、STN、VA、IPSモードの液晶表示装置に好ましく用いられる。これらの液晶表示装置は、透過型、反射型および半透過型のいずれでもよい。
【0179】
(TNモード液晶表示装置)
カラーTFT液晶表示装置として最も多く利用されており、多数の文献に記載がある。TNモードの黒表示における液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝た配向状態にある。本発明のセルロースアシレートフィルムは、TNモードの液晶セルを有するTN型液晶表示装置の位相差板の支持体として用いてもよい。TNモードの液晶セルとTN型液晶表示装置とについては、古くからよく知られている。TN型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、特開平3−9325号、特開平6−148429号、特開平8−50206号および特開平9−26572号の各公報の他、モリ(Mori)他の論文(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.143や、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.1068)に記載がある。
【0180】
(STN型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、STNモードの液晶セルを有するSTN型液晶表示 装置の位相差板の支持体として用いてもよい。一般的にSTN型液晶表示装置では、液晶セル中の棒状液晶性分子が90〜360°の範囲にねじられており、棒状液晶性分子の屈折率異方性(Δn)とセルギャップ(d)との積(Δnd)が300〜1500nmの範囲にある。STN型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、特開2000−105316号公報に記載がある。
【0181】
(OCBモード液晶表示装置)
棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルである。ベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置は、米国特許4583825号、同5410422号の各明細書に開示されている。棒状液晶性分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。そのため、この液晶モードは、OCB(Optically Compensatory Bend) 液晶モードとも呼ばれる。
OCBモードの液晶セルもTNモード同様、黒表示においては、液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝た配向状態にある。
【0182】
(VAモード液晶表示装置)
電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向しているのが特徴であり、VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(日本液晶討論会の予稿集58〜59(1998)記載)および(4)SURVAIVALモードの液晶セル(LCDインターナショナル98で発表)が含まれる。
本発明のセルロースアシレートフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の光学補償板や光学補償板の支持体として用いてもよい。または偏光板の保護フィルムとして特に有利に用いられる。VA型液晶表示装置は、例えば特開平10−123576号公報に記載されているような配向分割された方式であっても構わない。
【0183】
(IPSモード液晶表示装置)
電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に面内に水平に配向しているのが特徴であり、これが電圧印加の有無で液晶の配向方向を変えることでスイッチングするのが特徴である。具体的には特開2004−365941号公報、特開2004−12731号公報、特開2004−215620号公報、特開2002−221726号公報、特開2002−55341号公報、特開2003−195333号公報に記載のものなどを使用できる。
本発明のセルロースアシレートフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の光学補償板や光学補償板の支持体として用いてもよい。または偏光板の保護フィルムとして特に有利に用いられる。これらのモードは黒表示時に液晶材料が略平行に配向する態様であり、電圧無印加状態で液晶分子を基板面に対して平行配向させて、黒表示する。これらの態様において本発明のセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板は視野角拡大、コントラストの良化に寄与する。
【0184】
(反射型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、TN型、STN型、HAN型、GH(Guest−Host)型の反射型液晶表示装置の位相差板としても有利に用いられる。これらの表示モードは古くからよく知られている。TN型反射型液晶表示装置については、特開平10−123478号、国際公開第98/48320号パンフレット、特許第3022477号公報に記載がある。反射型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、国際公開第00/65384号パンフレットに記載がある。
【0185】
(その他の液晶表示装置)
本発明の透明ポリマーフィルムは、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell)モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。ASMモードの液晶セルは、セルの厚さが位置調整可能な樹脂スペーサーにより維持されているとの特徴がある。その他の性質は、TNモードの液晶セルと同様である。ASMモードの液晶セルとASM型液晶表示装置とについては、クメ(Kume)他の論文(Kume et al., SID 98 Digest 1089 (1998))に記載がある。
【0186】
《測定方法および評価方法》
以下において、セルロースアシレートとセルロースアシレートフィルムの測定方法と評価方法ついて記載する。本出願に記載される測定値は、以下に記載される方法により測定されたものである。
【0187】
(セルロースアシレートの置換度)
アシル基の置換度は、ASTM D−817−91に準じた方法、セルロースアシレートを完全に加水分解し、遊離したカルボン酸またはその塩をガスクロマトグラフィーあるいは高速液体クロマトグラフィーで定量する方法、1H−NMRあるいは13C−NMRによる方法などを単独または組み合わせることにより決定した。
【0188】
(セルロースアシレートの分子量)
セルロースアシレート樹脂をTHFに溶解し0.5質量%のサンプル溶液を調製した。これを、GPCを用いて下記の条件下で測定し、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)を求めた。なお、検量線はポリスチレン(TSK標準ポリスレン:分子量1050、5970、18100、37900、190000、706000)を用いて作成した。Mw、Mnを上記方法で決定した置換度から求めた1セグメントあたりの分子量で割った値をそれぞれDPwおよびDPnとした。
カラム:TSK GEL Super HZ4000、TSK GEL Super HZ2000、
TSK GEL Super HZM−M、TSK Guard Column Super HZ−L、
カラム温度:40℃
溶離液:THF
流量:1ml/分
検出器:RI
【0189】
(残留硫酸量)
セルロースアシレートの硫酸根の含有量は、ASTM D−817−96、酸化分解・電量滴定法などにより測定し、その量は、硫黄原子の含有量で定義した。
【0190】
(残留金属量)
セルロースアシレートを灰化後、ICP−MS分析法で定量した。
【0191】
(Tgの測定)
DSCの測定パンに試料を20mg入れた。これを窒素気流中で、10℃/分で30℃〜250℃まで昇温した後、30℃まで−10℃/分で冷却した。この後、再度30℃〜250℃まで昇温してベースラインが低温側から偏奇し始める温度をTgとした。
【0192】
(ReとRthの測定)
本明細書において、Re、Rthは各々、波長590nmにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。ReはKOBRA 21ADHまたはWR(王子計測機器(株)製)において、特に断りがない限り波長590nmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。
測定されるフィルムが一軸または二軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRthは算出される。
Rthは前記Reを、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から−50°から+50°まで10°ステップで各々その傾斜した方向から波長590nmの光を入射させて全部で11点測定し、その測定されたレタデーション値と平均屈折率および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
また、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
なお、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレタデーション値を測定し、その値と平均屈折率および入力された膜厚値を基に、以下の式(b)および式(c)よりRthを算出することもできる。
【0193】
【数1】

[式中、Re(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレタ−デーション値をあらわす。また、nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnxおよびnyに直交する方向の屈折率を表す。]
式(c): Rth=((nx+ny)/2−nz)×d
【0194】
測定されるフィルムが一軸や二軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRthは算出される。
Rthは前記Reを、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長590nmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
これら平均屈折率と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHまたはWRはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)がさらに算出される。
【0195】
(湿度に伴うReおよびRth変動)
セルロースアシレートフィルムを、25℃・相対湿度10%で上記と同様に測定しRe(相対湿度10%)、Rth(相対湿度10%)を求めた。さらにこれらの試料を25℃・相対湿度80%で同様に測定し、Re(相対湿度80%)、Rth(相対湿度80%)を求めた。各試料について、下記式に従い湿度Re変動、湿度Rth変動を求めた。
・湿度Re変動(%/相対湿度%)=[100×{Re(相対湿度80%)とRe(相対湿度10%)の差の絶対値}/Re(相対湿度60%)]/70
・湿度Rth変動(%/相対湿度%)=[100×{Rth(相対湿度80%)とRth(相対湿度10%)の差の絶対値}/Rth(相対湿度60%)]/70
【0196】
(Reムラ,Rthムラ)
セルロースアシレートフィルムの長さ方向10m、250m、450mのそれぞれの領域において、幅方向に端部から20cmごとに7個所ずつサンプリングして、合計21サンプルを用意した。これらのサンプルを25℃、相対湿度60%に3時間調湿し、同一環境下でRe、Rthを測定し、得られた数値の最大値と最小値の差を、それぞれReムラ,Rthムラとして評価した。数値が小さいほど、光学特性のバラツキが小さくて優れていることを示す。
【0197】
(軸ズレ)
セルロースアシレートフィルムを70mm×100mmに切り出して、自動複屈折計(KOBRA−21ADH、王子計測機器(株)製)を用いて軸ズレ角度を測定した。セルロースアシレートフィルムの幅方向に全幅にわたって等間隔で20点測定し、絶対値の平均値を求めた。また、遅相軸角度(軸ズレ)のレンジとは、幅方向全域にわたって等間隔に20点測定し、軸ズレの絶対値の大きいほうから4点の平均と小さいほうから4点の平均の差をとったものである。
【0198】
(ダイスジ)
セルロースアシレートフィルムの流延方向(長さ方向)にスジ状に発生するダイスジの評価を、反射光源のもとで目視で観察することにより行った。評価基準は、以下のとおりとした。
A: ダイスジは見られなかった。
B: ダイスジが微かに見られた。
C: はっきりと認められるダイスジがあった。
D: ダイスジが全面に著しく発生した。
【0199】
(面状)
セルロースアシレートフィルムを全幅×流れ方向30cmに切り出して、異物およびダイラインの数は、該フィルムを白色スクリーンの前に10mmの間隔を空け平行に設置し、このフィルムの中央部から32.5度の方向に1m離して設置したスライド投影機(例えばキャビン工業(株)製Color CabinIII)から投光し、スクリーンに投影された製膜方向(MD)に平行なスジ(光の明暗)の内、3mm幅以下のものの本数を全幅に亘って数え、幅10cmあたりの本数を求めた。評価基準は、以下のとおりとした。
A: ダイズジが0本/10cm以下であった。
B: ダイズジが2本/10cm以下であった。
C: ダイズジが5本/10cm以下であった。
D: ダイズジ5本/10cmよりも多かった。
【0200】
(異物)
セルロースアシレートフィルムを全幅×流れ方向3m長でサンプリングし、反射光源のもとで膜中異物を目視にて検出した後、光学顕微鏡を用いてその数と大きさを測定することができる。評価基準は、以下のとおりとした。
A: 最大径20〜50μm異物のうち輝点となる数が、5個/3m長×全幅以下であった。
B: 最大径20〜50μm異物のうち輝点となる数が、15個/3m長×全幅以下であった。
C: 最大径20〜50μm異物のうち輝点となる数が、30個/3m長×全幅以下であった。
D: 最大径20〜50μm異物のうち輝点となる数が、30個/3m長×全幅を超えていた。
【0201】
(輝点異物の測定)
直交状態(クロスニコル)に二枚の偏光板を配置して透過光を遮断し、二枚の偏光板の間にセルロースアシレートフィルムを置いた。この際、偏光板はガラス製保護板のものを使用した。セルロースアシレートフィルムを挟んだ偏光板に片側から光を照射し、反対側から光学顕微鏡(50倍)で1cm2当たりの直径に応じた輝点数をカウントした。
【0202】
(残留溶剤量)
セルロースアシレートフィルムを7mm×35mmに切り出して、ガスクロマトグラフィー(GC−18A、島津製作所(株)製)を用いてベース残留溶剤量を測定した。
【0203】
(傷つき)
セルロースアシレートフィルムを目視で観察し、以下の評価基準に従って傷つきを評価した。
A: 傷つきは全く認められなかった。
B: 傷つきがわずかに認められた。
C: 傷つきがかなり認められた。
D: 傷つきが著しく認められた。
【0204】
(ヘイズ)
セルロースアシレートフィルムを40mm×80mmに切り出して、25℃・相対湿度60%でヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機社製)を用いてJIS K−6714に従って測定した。
【0205】
(透過率)
セルロースアシレートフィルムを20mm×70mmに切り出して、25℃・相対湿度60%で透明度測定器(AKA光電管比色計、KOTAKI製作所)を用いて可視光(615nm)の透過率を測定した。
【0206】
(着色増加分)
セルロースアシレートフィルムを25℃、相対湿度60%で4時間調湿した。その後、直径5cmに裁断して直径5cmのアルミニウムトレイにすばやく入れ、空気雰囲気中のイナートオーブンにおいて240℃で1時間加熱した。冷却後のサンプル0.2gをメチレンクロライドで全容が10mlとなるように溶解して2質量%の溶液を作製し、その400nmにおける吸光度を測定した。加熱前のサンプルについても2質量%のメチレンクロライド溶液を作製して400nmにおける吸光度を測定し、加熱前後の吸光度の増加分を着色増加分として評価した。数値が小さいほど、熱安定性が良好なフィルムであることを示す。
【0207】
(アルカリ加水分解性)
セルロースアシレートフィルムを100mm×100mmに切り出して、自動アルカリ鹸化処理装置(新東科学(株)製)にて、2mol/L水酸化ナトリウム水溶液にて60℃で3分間鹸化した。これを4分間水洗した後、0.01mol/L希硝酸にて30℃で4分間中和し、4分間水洗した。その後、100℃で3分間乾燥し、さらに自然乾燥を1時間行って、下記の目視基準と鹸化処理前後のヘイズ値からアルカリ加水分解性を評価した(25℃・相対湿度60%)。
A: 白化は全く認められなかった。
B: 白化がわずかに認められた。
C: 白化がかなり認められた。
D: 白化が著しく認められた。
【0208】
(カール値)
セルロースアシレートフィルムを35mm×3mmに切り出して、カール調湿槽(HEIDON(No.YG53−168)、新東科学(株)製)にて相対湿度25%、55%、85%で24時間調湿し、曲率半径をカール板で測定した。またウェットでのカールは、水温25℃の水中に30分静置した後に、そのカール値を測定した。
【0209】
(キシミ値)
セルロースアシレートフィルムを100mm×200mmおよび75mm×100mmに切り出して、25℃・相対湿度60%の条件下で2時間調湿し、テンシロン引張試験機(RTA−100,オリエンテック(株)製)にて、大きいフィルム試料を台の上に固定し、200gのおもりをつけた小さいフィルム試料を載せた。次いで、おもりを水平方向に引っ張り、動きだした時の力、動いているときの力を測定し、静摩擦係数、動摩擦係数をそれぞれ算出して、靜的キシミ値および動的キシミ値とした。
F=μ×W (F:キシミ値、μ:摩擦係数、W:おもりの重さ(kgf))
【0210】
(含水率)
セルロースアシレートフィルムを7mm×35mmに切り出して、水分測定器と試料乾燥装置(CA−03、VA−05、共に三菱化学(株))とを用いてカールフィッシャー法で測定した。水分量(g)を試料質量(g)で除して算出した。
【0211】
(熱収縮率)
セルロースアシレートフィルムを30mm×120mmに切り出して、90℃・相対湿度5%で24時間、120時間経時させ、自動ピンゲージ(新東科学(株)製)にて、両端に6mmφの穴を100mm間隔に開けて、間隔の原寸(L1)を最小目盛り1/1000mmまで測定した。さらに90℃・相対湿度5%にて24時間、120時間熱処理してパンチ間隔の寸法(L2)を測定した。熱収縮率を{(L1−L2)/L1}×100により求めた。
【0212】
(透湿係数)
セルロースアシレートフィルム(70mmφ)を25℃・相対湿度90%および40℃・相対湿度90%でそれぞれ24時間調湿し、透湿試験装置(KK−709007、東洋精機(株)製)を用いて、JIS Z−0208に従って、単位面積あたりの水分量(g/m2)を算出した。そして、透湿度を、調湿後質量−調湿前質量を計算することにより求めた。さらに強制的評価として、60℃・相対湿度95%にて24時間調室後に測定し、透湿係数とした。
【0213】
(弾性率)
東洋ボールドウィン製の万能引っ張り試験機STM T50BPを用いて、23℃、相対湿度70%雰囲気中、引っ張り速度10%/分で0.5%伸びにおける応力を測定し、弾性率を求めた。
【0214】
(抗張力、伸長率)
試料15mm×250mmを、23℃、相対湿度65%、2時間調湿し、テンシロン引張試験機(RTA−100、オリエンテック(株))にてISO1184−1983に従って、初期試料長100mm、引張速度200±5mm/分で弾性率を引張初期の応力と伸びより算出し、抗張力、伸張力、破断伸度を評価した。
【実施例】
【0215】
以下に実施例と比較例とを挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0216】
[合成例1]
(セルロースアセテートプロピオネートの合成)
攪拌装置および冷却装置を付けた反応容器に、セルロース(リンター)80質量部、酢酸33質量部を取り、60℃で4時間処理してセルロースを活性化した。無水酢酸33質量部、プロピオン酸518質量部、プロピオン酸無水物536質量部、硫酸4質量部を混合し、−20℃に冷却してから反応容器に添加した。
【0217】
反応の最高温度が35℃になるようにエステル化を実施し、反応液の粘度が840cPとなった時点を反応の終点とした。終点での反応混合物の温度は15℃になるように調節した。水133質量部、酢酸133質量部の混合物を−5℃に冷却した反応停止剤を、反応混合物の温度が23℃を超えないように添加した。
【0218】
反応混合物の温度を60℃とし、2時間攪拌して部分加水分解を行った。反応混合物を酢酸水溶液と混合することにより得られた高分子化合物の再沈殿を実施し、70〜80℃の温水での洗浄を繰り返した。脱液の後、0.0012質量%の水酸化カルシウム水溶液に浸漬し、30分攪拌を行った後に再度脱液を行った。70℃で乾燥を行い、セルロースアセテートプロピオネートを得た。
【0219】
得られたセルロースアセテートプロピオネートは、アセチル置換度0.42、プロピオニル置換度2.40、全アシル置換度2.82、数平均分子量50200(数平均重合度DPn=159)、重量平均分子量125900(重量平均重合度DPw=398)、残存硫酸量55ppm、マグネシウム含有量10ppm、カルシウム含有量55ppm、ナトリウム含有量1ppm、カリウム含有量は検出限界以下、鉄含有量3ppmであった。含水率が0.1質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度140mPa・s、平均粒子サイズ1.2mmで標準偏差0.3mm、嵩比重0.21、真比重1.22である粉体であった。本試料のジクロロメタン溶液からキャストしたフィルムを偏光顕微鏡で観察した結果、不溶解物は認められなかった。
【0220】
[合成例2] セルロースアセテートプロピオネートの合成
セルロース (広葉樹パルプ)10質量部に酢酸0.1質量部、プロピオン酸2.7質量部を噴霧した後、1時間室温で保存した。別途、無水酢酸1.2質量部、プロピオン酸無水物61質量部、硫酸0.7質量部の混合物を調整し、−10℃に冷却後に、前記前処理を行ったセルロースと反応容器内で混合した。
30分経過後、外設温度を30℃まで上昇させ、4時間反応させた。反応容器に25%含水酢酸46質量部を添加し、内温を60℃に上昇させて、2時間攪拌した。酢酸マグネシウム4水和物と酢酸と水とを等重量ずつ混合した溶液を6.2質量部添加し、30分間攪拌した(中和工程)。反応液を金属焼結フィルター(保留粒子径40μm、10μmの2段で実施)にて加圧ろ過して異物を除去した。75%含水酢酸に濾過後の反応液を混合してセルロースアセテートプロピオネートを沈殿させた後、70℃の温水にて、洗浄液のpHが6〜7になるまで洗浄を行った。更に、0.001%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌する処理を行った後に濾過した。得られたセルロースアセテートプロピオネートは、70℃で乾燥させた。1H−NMRの測定から得られたセルロースアセテートプロピオネートはアセチル化度0.15、プロピオニル化度2.62、全アシル置換度2.77、数平均分子量54500(数平均重合度DPn=173)、質量平均分子量132000(質量平均重合度DPw=419)、残存硫酸量45ppm、マグネシウム含有量8ppm、カルシウム含有量46ppm、ナトリウム含有量1ppm、カリウム含有量1ppm、鉄含有量2ppmであった。本試料のジクロロメタン溶液からキャストしたフィルムを偏光顕微鏡で観察した結果、偏光子を直行させた場合も平行にした場合も、異物はほとんど認められなかった。本原料を用いて製膜したフィルムは表3に記載した。
【0221】
[合成例3]
(セルロースアセテートブチレートの合成)
攪拌装置および冷却装置を付けた反応容器に、セルロース(木材パルプ)200質量部、酢酸100質量部を取り、60℃で4時間処理することによりセルロースを活性化した。酢酸161質量部、無水酢酸449質量部、酪酸742質量部、酪酸無水物1349質量部、硫酸14質量部を混合し、−20℃に冷却してから反応容器に添加した。
【0222】
反応の最高温度が30℃になるようにエステル化を実施し、反応液の粘度が1050cP(1050mPa・s)となった時点を反応の終点とした。終点での反応混合物の温度は10℃になるように調節した。水297質量部、酢酸558質量部の混合物を−5℃に冷却した反応停止剤を、反応混合物の温度が23℃を超えないように添加した。
【0223】
反応混合物の温度を60℃とし、2時間30分攪拌して部分加水分解を行った。反応混合物を酢酸水溶液と混合することにより得られた高分子化合物の再沈殿を実施し、70〜80℃の温水での洗浄を繰り返した。脱液の後、0.0025質量%の水酸化カルシウム水溶液に浸漬し、30分攪拌を行った後に再度脱液を行った。70℃で乾燥を行い、セルロースアセテートブチレートを得た。
【0224】
得られたセルロースアセテートブチレートは、アセチル置換度1.51、ブチリル置換度1.19、全アシル置換度2.70、数平均分子量55,600(数平均重合度DPn=181)、重量平均分子量139,000(重量平均重合度DPw=451)、残存硫酸量50ppm、マグネシウム含有量8ppm、カルシウム含有量65ppm、ナトリウム含有量2ppm、カリウム含有量は2ppm、鉄含有量3ppmであった。本試料のジクロロメタン溶液からキャストしたフィルムを偏光顕微鏡で観察した結果、不溶解物は認められなかった。本原料を用いて製膜したフィルムは表3に記載した。
【0225】
[合成例4]
(他のセルロースアシレートの合成)
他のセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートについても、目的とする置換度ならびに重合度により、前記合成例1〜3の方法から、アシル化剤の組成、アシル化の反応温度および時間、部分加水分解の温度および時間を変化させることにより、同様に合成した。本原料を用いて製膜したフィルムは表3に記載した。
【0226】
[合成例5]
(セルロース混合エステルの合成)
セルロースにアシル化剤(酢酸、無水酢酸、プロピオン酸、プロピオン酸無水物、酪酸、酪酸無水物から、目的とするアシル置換度に応じて単独または複数を組み合わせて選択した)、ならびに触媒としての硫酸を混合し、反応温度を40℃以下に保ちながらアシル化を実施した。原料となるセルロースが消失してアシル化が完了した後、さらに40℃以下で加熱を続けて、所望の重合度に調整した。酢酸水溶液を添加して残存する酸無水物を加水分解した後、60℃以下で加熱を行うことで部分加水分解を行い、所望の全置換度に調整した。残存する硫酸を過剰量の酢酸マグネシウムにより中和した。酢酸水溶液から再沈殿を行い、さらに、水での洗浄を繰り返すことにより、表3に記載のアシル基の種類と置換度を有するセルロースアシレートを作製した。
【0227】
[実施例1]
(1)セルロースアシレートペレットの調製
セルロースアシレートとして、セルロースアシレートA(合成例1)を用いた。また6位の水酸基に対するアセチル基の置換度は0.15、6位の水酸基に対するプロピオニル基の置換度は0.79であり全アセチル中の33.3%であった。セルロースアシレートAを、メチレンクロライド/メタノール=90/10(質量比)を用いてガラス板上に溶液製膜して、80μmの厚さのフィルムを得てその基本特性を調べた。結果、セルロースアシレートAのみからなるフィルムのイエローインデックスは0.82であり、ヘイズは0.1、透過率は93.8%であり、Tg(ガラス転移温度;DSCにより測定)は137℃であった。
【0228】
このセルロースアシレートAを105℃で5時間乾燥し、含水率を0.07質量%にした。次いで、乾燥したセルロースアシレートAに、紫外線吸収剤(商品名:アデカスタブLA−31、旭電化工業(株)製)をセルロースアシレートに対して1.0質量%添加した。また、平均一次粒子サイズが1.2μmのシリカ粒子(0.9〜1.5μmの粒子の質量存在比率が95%以上であって、1.5μm以上の粒子の質量存在比率が1.0%以下である)を、セルロースアシレートに対して0.05質量%添加した。さらに化合物を下記表1に従って添加した。各化合物の添加量はセルロースアシレート100質量部に対し、使用する化合物の質量部である。
【0229】
【表1】

【0230】
(2)ろ過・ペレット化
これら添加物を添加した混合物をヘンシェルミキサー((株)三井三池製作所製)で撹拌・混合し、均一なセルロースアシレート組成物を得た。このセルロースアシレート組成物を用いて、押し出し機(工程はすべて、窒素気流で満たされている)によりペレットを作製した。すなわち、2軸混練押し出し機のホッパーにセルロースアシレート組成物を投入し、さらに180〜220℃でスクリュー回転数300rpm、滞留時間40秒で混練して融解し、ろ過部を通してペレットを作製した。ろ過は、ダイ直前に設置された口径10μmの焼結金属フィルターを用いて加圧ろ過することにより行った。
【0231】
さらに、ろ過済みのメルトを押し出し部の直径が2.5mmであるノズルから押し出して、3秒以内に70℃〜90℃の温水浴中に直径3mmのストランド状に200kg/時間でダイから押し出し、30秒浸漬した後(ストランド固化)、10℃〜30℃の水中を30秒間通過させて温度を下げ、直径3mm、長さ2〜6mm(大部分は3mm)に裁断してペレットを得た。得られたセルロースアシレートペレットを、窒素雰囲気下で、105℃で3時間乾燥し、しかる後に窒素雰囲気下でアルミニウムを有するラミネートフィルムからなる防湿袋に袋詰めして、さらに窒素雰囲気下の倉庫で湿度や酸素を遮断して保管した。得られたペレットは、透明かつ均質な組成であった。
【0232】
(3)溶融製膜
つぎに上記で作製したセルロースアシレートペレットを、含水率を0.01質量%以下にまで乾燥した後、95℃になるように調整したホッパーに投入し、上流側溶融温度195℃、中間溶融温度210℃、表1に示す下流側溶融温度、T−ダイ温度235℃に調整した溶融押出し機で溶融した。なお、これに用いたスクリューの直径は60mm、L/D=32、圧縮比8であった。溶融押出機から押出された樹脂はギアポンプで一定量計量され送り出されるが、この時ギアポンプ前の樹脂圧力が10MPaの一定圧力で制御できるように、押出機の回転数を変更させた。ギアポンプから送り出されたメルト樹脂は濾過精度5μmmのリーフディスクフィルターにて濾過し、スタティックミキサーを経由してスリット間隔0.8mm、230℃のハンガーコートダイから、ガラス転移温度のTg−5℃、Tg、Tg−10℃の設定した3連のキャストロール上に押し出し、最上流側の第1キャストロールにTg−7℃のタッチロールを接触させ、前記表1に示すタッチロールの押圧でキャスティング固化し、未延伸フィルムを製膜した。(このTgはDSCを用いて上記方法で測定した)。なお、タッチロールは特開平11−235747号公報の実施例1に記載のもの(二重抑えロールと記載のあるもの)を用い、Tg−7℃に調温した(但し薄肉金属外筒厚みは3mmとした)。
固化したメルトをキャスティングドラムから剥ぎ取り、巻き取り直前に両端(全幅の各5%)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ50μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた後、30m/分で幅1.5m、長さ3000mの未延伸フィルム(試料1−1〜1−28)を得た。各フィルムの膜厚は、下記表2に記載されるとおりである。また、残留溶剤量はゼロであった。さらにトリミングした端部は破砕した後、バージン原料と混合して(バージン:破砕=60:40(質量比))製膜原料として使用した。
【0233】
(4)評価
各セルロースアシレートフィルムのRe、Rth、Reムラ、Rthムラ、ダイスジ、面状、異物数を測定・評価した結果を下記表2にまとめて記載した。
【0234】
【表2】

【0235】
ラクトン系化合物、フェノール系化合物、亜リン酸エステル系化合物、チオエーテル系化合物をいずれも含まない試料1−1は、Reムラ、Rthムラ、ダイスジおよび透過率が著しく悪いものであった。
また、ラクトン系化合物を添加せず、分子量500以上のフェノール系化合物か、分子量500以上の亜リン酸エステル系化合物およびチオエーテル系化合物からなる群より選択される化合物のいずれか一方のみを含有する比較試料1−2〜試料1−7は、Reムラ、Rthムラ、ダイスジ、面状、異物数および透過率が不十分であった。
【0236】
これに対して本発明の試料1−8〜1−27は、Reムラ、Rthムラ、ダイスジ、面状、異物数および透過率の全てが満足しうるレベルであり、本発明により優れたセルロースアシレートフィルムを得ることができた。さらに本発明の試料1−8〜1−27は、透過率が91.9%以上であり、ヘイズが全て0.3%以下であり優れたものであった。また、Reの湿度依存性{25℃におけるRe(相対湿度80%)とRe(相対湿度10%)との差}はすべて5nm以下であり、Rthの湿度依存性{25℃におけるRth(相対湿度80%)とRth(相対湿度10%)との差}はすべて20nm以下であり優れたものであった。波長分散特性は|Re(700)−Re(400)|が8nm以内であり、|Rth(700)−Rth(400)|が30nm以内であった。フィルムの縦横平均熱収縮(80℃/相対湿度90%/48時間)は−0.06%であり、熱収縮が生じ難いフィルムであった。本発明の試料1−8〜試料1−27は、着色増加分も0.02%以下であり、試料1−1〜1−7が0.15〜0.5であるのに対して非常に優れていることを確認した。さらに、本発明の試料1−8〜1−27は溶融製膜前後セルロースアシレートの分子量を測定したところ、分子量の変化は認められなかった。
【0237】
特許文献2(特開2000−352620号公報)の実施例に挙げられている溶融温度である245℃で溶融製膜した比較試料1−28は、ダイスジが著しく悪く、面状および異物数の悪化を伴い実用に適さないフィルムであった。また、特許文献3(特開2006−123513号公報)の実施例に挙げられている熱化合物 IRGNANOX1010(同PH−2(AO60))を用いた比較試料1−2および1−3は、本発明の試料と比べ、ダイスジ、面状および異物数が著しく悪く、透過率および着色の大幅な悪化を伴い実用に適さないフィルムであった。なお、本発明の代表的な試料1−13で使用しているフェノール系化合物PH−2および亜リン酸エステル系化合物PF−5は、窒素中で220℃において30分間加熱した場合の質量減少は共に20質量%以下であった。これに対し試料1−24および試料1−25で使用した分子量500未満のフェノール系化合物(AF−1)および亜リン酸エステル系化合物(PA−1)は、窒素中で220℃において30分間加熱した場合の質量減少は20質量%超30質量%以下となる素材であった。
【0238】
ここで本発明のフィルム試料の代表として試料1−13は、傾斜幅は19.4nm、限界波長は389.2nm、吸収端は376.1nm、380nmの吸収は1.1%であり、軸ズレ(分子配向軸)は0.12°、弾性率は長手方向が2.95GPa、幅方向が2.94GPa、抗張力は長手方向が119MPa、幅方向が108MPa、伸長率は長手方向が62%,幅方向が67%であり、アルカリ加水分解性はAであり、カール値は相対湿度25%で−0.3,ウェットでは1.0であった。また、含水率は1.7質量%であり、熱収縮率は長手方向が−0.05%であり幅方向が−0.07%であった。キシミ値も0.57であり、算術平均粗さは150nmであり、傷つきもAランクであり、ハンドリング性も問題なかった。また、塗布後の接着も見られず、透湿係数(550g/m2・日)も良好であった。その他の本発明の試料も試料1−13とほぼ同等の特性値を示すものであった。
【0239】
[実施例2]
実施例1の本発明の試料1−13におけるセルロースアシレート合成例1をセルロースアシレート(下記表3に示す)に変更した以外は、実施例1の試料1−13と全く同様にして、本発明の試料2−1〜2−12を作製した。未延伸の本発明試料フィルムを、下記表3に示す縦および横の延伸倍率で、Tg+15℃にて300%/分間で下記倍率に延伸した。
【0240】
【表3】

【0241】
本発明の試料2−1〜2−12は、ダイスジ、面状、異物数も良好であり、光学特性(Reムラ、Rthムラ)の全てで優れたものであった。以上から本発明においてはセルロースアシレートの重合度および置換基の実用許容幅が広いことが確認された。
【0242】
[実施例3]
(1)セルロースアシレートフィルムの鹸化
前記表1〜表3の未延伸セルロースアシレートフィルム、延伸セルロースアシレートフィルムに対して下記の手順で浸漬鹸化を行った。下記の手順で塗布鹸化を行った場合も同様の結果が得られた。
【0243】
(1−1)浸漬鹸化
鹸化液として60℃に調温した2.0mol/LのNaOH水溶液を用いて、その中にセルロースアシレートフィルムを2分間浸漬した。その後、0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、水洗浴を通した。
【0244】
(1−2)塗布鹸化
イソプロパノール20質量部に水80質量部を加え、これにKOHを2.0mol/Lとなるように溶解し、60℃に調温したものを鹸化液として用いた。この鹸化液を60℃のセルロースアシレートフィルム上に10g/m2で塗布し、1分間鹸化した。この後、50℃の温水を10L/m2・分で1分間スプレーして洗浄した。
【0245】
(2)偏光子の作製
特開2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸し厚み20μmの偏光子を調製した。
【0246】
(3)貼り合わせ
このようにして得た偏光子と、前記鹸化処理した未延伸および延伸セルロースアシレートフィルムならびに鹸化処理した未延伸トリアセテートフィルム(富士写真フイルム(株)製、フジタック)とを、PVA((株)クラレ製、PVA−117H)3質量%水溶液を接着剤として、偏光子の延伸方向とセルロースアシレートとの製膜流れ方向(長手方法)に下記に示す組み合わせで張り合わせ、下記構成の偏光板を得た。
偏光板A:未延伸セルロースアシレートフィルム/偏光子/フジタック(TD80UL)
偏光板B:未延伸セルロースアシレートフィルム/偏光子/未延伸セルロースアシレートフィルム
偏光板C:未延伸セルロースアシレートフィルム/偏光子/延伸セルロースアシレートフィルム
偏光板D:延伸セルロースアシレートフィルム/偏光子/フジタック(TD80UL)
【0247】
(4)評価
得られた偏光板を、特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置に、25℃・相対湿度60%下で取り付けた後、これを25℃・相対湿度10%の中に持ち込み、目視で色調変化の大小を10段階評価(大きいものほど変化が大きい)で評価し、表示ムラの発生している領域を目視で評価し、表示ムラが発生している割合(%)を求めた。その結果、本発明試料1−8〜試料1−27、および試料2−1〜試料2−12のセルロースアシレートフィルムは色調変化が1〜4のレベルであり、表示ムラは5%以下であり、非常に優れたものであった。一方、本発明外の比較試料1−1〜1−7および1−28では、色調変化が7〜10であり、表示ムラは30%以上であり、視認性が劣ることが分かった。また、特開2002−86554号公報の実施例1に従い、テンターを用い延伸軸が吸収軸に対して45°の角度となるように延伸した偏光板についても同様に本発明のセルロースアシレートフィルムを用い作製したが、前記同様良好な結果が得られた。
【0248】
[実施例5]
特開2002−265636号公報記載の実施例14におけるセルローストリアセテートフィルム試料1401の代わりに、実施例1において作製した本発明のセルロースアシレートフィルム試料1−13を用いた。そして、特開2002−265636号公報記載の実施例14と全く同様にして、光学異方性層、偏光板試料を作製してTN型液晶セルを作製した。得られた液晶セルは、優れた視野角特性を有するものであった。
【0249】
[実施例6]
(VAパネルへの実装)
本発明の実施例4で作製した偏光板を、視認側偏光板は26”ワイドのサイズで偏光子の吸収軸が長辺となるように、バックライト側偏光板は偏光子の吸収軸が短辺となるように長方形に打抜いた。VAモードの液晶TV(ソニー(株)製、KDL−L26RX2)の、表裏の偏光板を剥し、表と裏側とに本発明のセルロースアシレートフィルムを使用して作製した偏光板を貼り付け、液晶表示装置を作製した。偏光板貼り付け後、50℃、5kg/cm2で20分間保持し、接着させた。この際、視認側の偏光板の吸収軸をパネル水平方向に、バックライト側の偏光板の吸収軸をパネル鉛直方向となり、粘着材面が液晶セル側となるように配置した。プロテクトフィルムを剥した後、測定機(ELDIM社製、EZ−Contrast 160D)を用いて、黒表示および白表示の輝度測定から視野角(コントラスト比が10以上の範囲)を算出した。いずれの偏光板を使用した場合も、全方位で極角80°以上の良好な視野角特性が得られた。さらに、耐久試験による光漏れ、表示ムラおよび偏光板剥がれテストを実施し、本発明の試料1−8〜試料1−27、および試料2−1〜試料2−12のセルロースアシレートフィルムを用いたものは問題ないことを確認した。耐久性テスト条件は以下の通りである。
1)60℃・相対湿度90%の環境に200時間保持し、25℃・相対湿度60%環境に取り出し24時間後に液晶表示装置を黒表示させ、光漏れ強度および偏光板の液晶パネルからの剥がれの有無を評価した。
2)80℃、相対湿度10%以下の環境に200時間保持し、25℃・相対湿度60%環境に取り出し1時間後に液晶表示装置を黒表示させ、光漏れ強度および偏光板の液晶パネルからの剥がれの有無を評価した。
【0250】
[実施例7]
本発明の試料を所望の光学特性を示す光学異方性フィルムに作製し、以下の異なる液晶モードの市販モニターあるいはテレビの位相差膜を剥ぎ取り、本発明の光学補償フィルムを貼り付けてその視野角特性を調べたところ、優れた広い視野角特性および色味を得て、本発明のセルロースアシレートが有用であることを確認した。
【0251】
(TNモード)
視認側偏光板、バックライト側偏光板共に、17”のサイズで打抜き後の偏光板の長辺に対して吸収軸が45°長辺となるように、長方形に打抜いた。TNモードの液晶モニター(サムソン社製、SyncMaster 172X)の表裏の偏光板および位相差板を剥し、表と裏側とに、本発明のセルロースアシレートからなる偏光板を組合せで貼り付け、液晶表示装置を作製した。偏光板貼り付け後、50℃、5kg/cm2で20分間保持し、接着させた。この際、偏光板の光学異方性層がセル基板に対面し、液晶セルのラビング方向とそれに対面する光学異方性層のラビング方向とが反平行となるように配置した。
【0252】
(IPSパネル)
本発明の偏光板を、視認側偏光板は32”ワイドのサイズで偏光子の吸収軸が長辺となるように、バックライト側偏光板は偏光子の吸収軸が短辺となるように長方形に打抜いた。IPSモードの液晶TV(日立製作所(株)製、W32−L5000)の表裏の偏光板および位相差板を剥し、表と裏側とに本発明のセルロースアシレートから作製された偏光板を組合せて貼り付け、液晶表示装置を作製した。偏光板貼り付け後、50℃、5kg/cm2で20分間保持し、接着させた。この際、視認側の偏光板の吸収軸をパネル水平方向に、バックライト側の偏光板の吸収軸をパネル鉛直方向となり、粘着層表面が液晶セル側となるように配置した。
【0253】
[実施例8]
実施例1の本発明のセルロースアシレートフィルム試料1−13における(1)セルロースアシレートペレットの調製において、可塑剤としてFP700(旭電化株)をセルロースアシレートに対して5質量%添加する以外は、セルロースアシレートフィルム試料1−13と全く同様にして、本発明のセルロースアシレートフィルム試料3−1を作製した。
得られたセルロースアシレートフィルムは製膜時の発煙も見られず、ダイスジ、面状、異物数、光学特性(Reムラ、Rthムラ)の全ての点で優れたものであった。特に、セルロースアシレートフィルム試料3−1は含水率が1.7%であり、未添加が2.2%であるのに対して優れていることが確認された。従って、可塑剤がセルロースアシレートフィルムの物理特性を改良するのに有効であることが確認された。
【0254】
[実施例9]
(低反射フィルムの作製)
本発明のセルロースアシレートフィルムを用いて、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)の実施例47に従って低反射フィルムを作製したところ、良好な光学性能を有するものであった。
【0255】
[実施例10]
光学補償フィルムの作製
本発明のセルロースアシレートフィルムに、特開平11−316378号公報の実施例1に従い、液晶層を塗布したところ、良好な光学補償フィルムが得られた。
【0256】
[実施例11]
実施例1において作製した本発明のセルロースアシレートフィルム試料1−13を、特開2002−265636号公報記載の実施例13におけるセルローストリアセテートフィルム試料1301の代わりに用いた。そして、特開2002−265636号公報記載の実施例13と全く同様にして、光学異方性層、偏光板試料を作製してベンド配向液晶セルを作製した。得られた液晶セルは、優れた視野角特性を有するものであった。
【産業上の利用可能性】
【0257】
本発明によれば、面状が良好で異物数が極めて少なく、且つ、液晶表示装置に組み込んだときに発生する表示画面での画像ムラや湿度による視認性の変化を抑えることができるセルロースアシレートを提供することができる。また、本発明のセルロースアシレートフィルムにより、経時での耐候性、特に高温環境下における優れた耐久性を有する光学用途のフィルムを提供することができる。本発明のセルロースアシレートフィルムを組み込んで製造される液晶表示装置は、表示ムラや、湿度あるいは画像の色による光学特性の変化を抑制することができる。以上より、本発明のセルロースアシレートフィルムは産業上の利用可能性が非常に高い。
【図面の簡単な説明】
【0258】
【図1】本発明におけるセルロースアシレートペレットを用いて溶融製膜を実施するための装置の例を示した概略図である。
【符号の説明】
【0259】
101 混練押出機
102 ギアポンプ
103 濾過部
104 ダイ
105 タッチロール
106 キャスティング冷却ドラム
107 セルロースアシレート
108 縦延伸工程部
109 横延伸工程部
110 巻取工程部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(S−1)〜(S−3)を満たすセルロースアシレート、および、下記一般式(II)で表され示されるラクトン系化合物の少なくとも一種を前記セルロースアシレートに対して0.01〜3質量%含有するセルロースアシレート組成物。
式(S−1) 2.5≦X+Y≦3.0
式(S−2) 0≦X≦2.2
式(S−3) 0.8≦Y≦3.0
(式中、Xはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Yはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度の総和を表す。)
【化1】

(式中R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数7〜20のアラルキル基または炭素数6〜15のアリール基を示す。)
【請求項2】
分子量が500以上である亜リン酸エステル系化合物および分子量が500以上であるチオエーテル系化合物からなる群より選択される少なくとも一種と、分子量が500以上であるフェノール系化合物とを、前記セルロースアシレートに対して0.01〜3質量%含有することを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレート組成物。
【請求項3】
ペレット状であることを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースアシレート組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルロースアシレート組成物を溶融して流延製膜する工程を含むことを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載のセルロースアシレート組成物を150〜240℃で溶融してペレットを作製し、前記ペレットを溶融して180〜240℃でダイから押し出して流延製膜する工程を含むことを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記セルロースアシレート組成物を流延した後に、タッチロールを0.1〜10MPaで押圧することにより製膜する工程を含むことを特徴とする請求項4または5に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記製膜後、少なくとも1方向に1%〜300%延伸する工程を含むことを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたセルロースアシレートフィルム。
【請求項9】
下記式(S−1)〜(S−3)を満たすセルロースアシレート、および、下記一般式(II)で示されるラクトン系化合物の少なくとも一種を前記セルロースアシレートに対して0.01〜3質量%含有し、かつ、残留溶剤量が0.01質量%以下であることを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
式(S−1) 2.5≦X+Y≦3.0
式(S−2) 0≦X≦2.2
式(S−3) 0.8≦Y≦3.0
(式中、Xはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Yはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度の総和を表す。)
【化2】

(式中R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数7〜20のアラルキル基または炭素数6〜15のアリール基を示す。)
【請求項10】
前記セルロースアシレートフィルムが、分子量が500以上である亜リン酸エステル系化合物および分子量が500以上であるチオエーテル系化合物からなる群より選択される少なくとも一種と、分子量が500以上であるフェノール系化合物とを、前記セルロースアシレートに対して0.01〜3質量%含有することを特徴とする請求項9に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項11】
膜厚が20μm〜300μmであることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項12】
正面レターデーション(Re)が0〜300nmであり、且つ、厚さ方向のレターデーション(Rth)の絶対値が0〜700nmであることを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項13】
偏光子に、請求項8〜12のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1層積層したことを特徴とする偏光板。
【請求項14】
請求項8〜12のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムを用いたことを特徴とする光学補償フィルム。
【請求項15】
請求項8〜12のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムを用いたことを特徴とする反射防止フィルム。
【請求項16】
請求項8〜12のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム、請求項13に記載の偏光板、請求項14に記載の光学補償フィルム、および、請求項15に記載の反射防止フィルムからなる群より選択される少なくとも一つを用いたことを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−13628(P2008−13628A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−184698(P2006−184698)
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】