説明

セルロースエステルフィルムおよびその製造方法、偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルム、並びに液晶表示装置

【課題】液晶表示装置に組み込んだときに発生する表示画面での画像ムラや経時での視認性の変化を改善しうるセルロースエステルフィルムの環境に優しい製造方法を提供する。
【解決手段】特定の置換度を有するセルロースエステルに対して、分子量が500以上の亜リン酸エステル系安定剤0.01〜3質量%と、エポキシ系安定剤0.001〜1質量%とを含有するセルロースエステル組成物を、180〜240℃で溶融してダイから押し出して膜厚20μm〜300μmのセルロースエステルフィルムを製膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融製膜によるセルロースエステルフィルムの製造方法に関する。また、本発明は光学特性に優れたセルロースエステルフィルムに関する。さらに、本発明は当該セルロースエステルフィルムを用いた偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムおよび液晶表示装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液晶表示装置に使用されるセルロースエステルフィルムを製造する際に、ジクロロメタンのような塩素系有機溶媒にセルロースエステルを溶解し、これを基材上に流延、乾燥して製膜する溶液流延法が主に実施されている。塩素系有機溶媒の中でもジクロロメタンは、セルロースエステルの良溶媒であるとともに沸点が低く(約40℃)、製膜工程や乾燥工程において乾燥させ易いという利点を有することから、好ましく使用されている。一方、近年になり環境保全の観点から塩素系有機溶媒を始めとする有機溶媒の排出を抑えることが、強く求められるようになっている。このため、より厳密なクローズドシステムを採用して製造工程から有機溶媒が漏れ出さないように努めたり、製膜工程から有機溶媒が漏れても外気に出す前にガス吸収塔を通して有機溶媒を吸着させたり、火力により燃焼させたり、電子線ビームにより分解させたりするなどの処理を行って、殆ど有機溶媒を排出することがないように対策が講じられている。しかしながら、これらの対策を行っても完全な非排出には至らないため、さらなる改良が必要とされていた。
【0003】
そこで、有機溶媒を用いない製膜法として、セルロースエステルを溶融製膜する方法が開発されている(例えば、特許文献1および2参照)。この方法は、セルロースエステルのエステル基の炭素鎖を長くすることで融点を下げ溶融製膜しやすくしたものである。具体的には、従来から用いられていたセルロースアセテートを、セルロースプロピオネートやセルロースブチレート等に変更することで溶融製膜を可能にしている。このようにして得られたセルロースエステルフィルムは、液晶表示用基板として用いることによって湿度変化に伴う視野特性が変動しにくい位相差フィルム等を提供しうるという利点がある。さらに、セルロースエステルを溶融する工程と、流延する工程とを含むセルロースエステルフィルムの製造方法として、セルロースエステルを180〜250℃の温度において圧縮比3〜15のスクリューを用いて溶融した後、T−ダイからキャスティングドラム上に押し出すことを特徴とするセルロースエステルフィルムの製膜方法も開発されている(特許文献3)。この方法により製造されるセルロースエステルフィルムは、液晶表示装置に組み込むことによって表示ムラや湿度による視認性の変化を軽減することができると記載されている。さらに溶融セルロースアセテートの巻取りを改良して、特定のナーリングを実施することが開示されており、亜リン酸系安定剤とエポキシ化合物がセルローストリアセテート中に使用されている(特許文献4)。
【特許文献1】特表平6−501040号公報
【特許文献2】特開2000−352620号公報
【特許文献3】特開2005−178194号公報
【特許文献4】特開2005−352929号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、該技術では面状の優れたセルロースエステルフィルムを作製することは困難であった。具体的には、ペレット化工程あるいは溶融製膜工程における着色耐性やフィルム面状や強度が不十分であることが、本発明者により明らかとなった。特に特許文献1〜4の実施例に従って作製したフィルムは、溶融製膜時の着色と面状の悪化が著しく、経時での耐候性悪化を伴うものであり、その改良は急務であった。また、上述の特許文献にしたがって製造したセルロースエステルフィルムを用いて偏光板を作製し液晶表示装置に組み込むと、面状不良、着色やヘイズアップによる輝度低下の問題などが発生し、その改良が必要なレベルであることも明らかになった。このような故障は、偏光板を15インチ以上の大型液晶表示板に組み込んだ際に特に顕著であり、大きな課題であった。これらの問題は、溶融混練機(ペレット化)から溶融物をT−ダイ(スリット)を通してキャスティングドラム上に押出し冷却固化して製膜して巻き取り、さらに加工するという一連の製膜過程において、ペレット化工程および/または溶融製膜時の高温により着色が強くなることに起因することも明らかになった。
【0005】
これらの従来技術の課題に鑑みて、本発明は、液晶表示装置に組み込んだときに発生する表示画面での画像ムラや経時での視認性の変化を改善することができるセルロースエステルフィルムとその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は有機溶媒を使用しない環境に優しい製造方法によってセルロースエステルフィルムを提供することを目的とする。特に、偏光板用保護膜や位相差膜として有用であって、着色などを防ぐことができる強い耐候性を有するセルロースエステルフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、特定の安定剤を組み合わせて添加したセルロースエステル組成物を特定の温度条件で溶融製膜することにより上記課題を解決しうることを見出した。すなわち、課題を解決する手段として、以下の本発明を提供するに至った。
【0007】
(態様1)
下記式(S−1)〜(S−3)を満たすセルロースエステルと、分子量500以上である亜リン酸エステル系安定剤をセルロースエステルに対して0.01〜3質量%と、エポキシ系安定剤をセルロースエステルに対して0.001〜1質量%とを含有するセルロースエステル組成物を、180〜240℃で溶融してダイから押し出し、製膜して膜厚20μm〜300μmのセルロースエステルフィルムを得る溶融製膜工程を含むことを特徴とするセルロースエステルフィルムの製造方法。
式(S−1) 2.5≦A+B≦3.0
式(S−2) 0≦A≦2.2
式(S−3) 0.8≦B≦3.0
(式中、Aはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度を表す。)
【0008】
(態様2)
前記亜リン酸エステル系安定剤と前記エポキシ系安定剤を予め混合して混合物とし、しかる後に該混合物をセルロースエステルに添加することを特徴とする態様1のセルロースエステルフィルムの製造方法。
(態様3)
前記亜リン酸エステル系安定剤と前記エポキシ系安定剤の混合物が、前記亜リン酸エステル系安定剤と前記エポキシ系安定剤とを有機溶媒中に溶解し、しかる後に溶媒を除去して作製された混合物であることを特徴とする態様2のセルロースエステルフィルムの製造方法。
(態様4)
前記エポキシ系安定剤の分子量が500以上であることを特徴とする態様1〜3のいずれかのセルロースエステルフィルムの製造方法。
(態様5)
前記セルロースエステル組成物を180〜240℃で溶融してペレットを作製し、該ペレットを180〜240℃で溶融してダイから押し出すことを特徴とする態様1〜4のいずれかのセルロースエステルフィルムの製造方法。
(態様6)
前記亜リン酸系安定剤および前記エポキシ系安定剤が、それぞれ窒素中で220℃において30分間加熱した場合の質量減少量が20質量%以下である化合物であることを特徴とする態様1〜5のいずれかのセルロースエステルフィルムの製造方法。
(態様7)
前記セルロースエステル組成物が、フェノール系安定剤、チオエーテル系安定剤、スズ系安定剤、アミン系安定剤および金属系安定剤からなる群より選択される1種類以上の安定剤を、セルロースエステルに対して0.01〜3質量%含有していることを特徴とする態様1〜6のいずれかのセルロースエステルフィルムの製造方法。
(態様8)
前記セルロースエステル中のセルロースの水酸基に対して置換している炭素数3〜22のアシル基が、プロピオニル基およびブチリル基から選択されるアシル基であることを特徴とする態様1〜7のいずれかのセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0009】
(態様9)
前記セルロースエステル組成物が、平均一次粒子サイズが0.005μm〜2μmである微粒子をセルロースエステルに対して0.005〜1.0質量%含有することを特徴とする態様1〜8のいずれかのセルロースエステルフィルムの製造方法。
(態様10)
前記セルロースエステル組成物が、分子量500以上の可塑剤をセルロースエステルに対して1〜20質量%含有することを特徴とする態様1〜9のいずれかのセルロースエステルフィルムの製造方法。
(態様11)
タッチロールを用いて溶融製膜することを特徴とする態様1〜10のいずれかのセルロースエステルフィルムの製造方法。
(態様12)
前記ペレット化および/または溶融製膜時の酸素濃度が5容量%以下であることを特徴とする態様1〜11のいずれかのセルロースエステルフィルムの製造方法。
(態様13)
前記溶融製膜されたセルロースエステルフィルムを100〜260℃で加熱することを特徴とする態様1〜12のいずれかのセルロースエステルフィルムの製造方法。
(態様14)
前記溶融製膜されたセルロースエステルフィルムを、少なくとも1方向に−10%〜60%延伸することを特徴とする態様1〜13のいずれかのセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0010】
(態様15)
態様1〜14のいずれかの製造方法により製造されるセルロースエステルフィルム。
【0011】
(態様16)
下記式(S−1)〜(S−3)を満たすセルロースエステルと、分子量500以上である亜リン酸エステル系安定剤をセルロースエステルに対して0.01〜3質量%と、エポキシ系安定剤をセルロースエステルに対して0.01〜1質量%とを含有し、残留溶媒量が0.01質量%以下であり、且つ、膜厚が20μm〜300μmであることを特徴とするセルロースエステルフィルム。 式(S−1) 2.5≦A+B≦3.0
式(S−2) 0≦A≦2.2
式(S−3) 0.8≦B≦3.0
(式中、Aはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度を表す。)
(態様17)
亜リン酸エステル系安定剤とエポキシ系安定剤を予め混合して混合物とし、しかる後に該混合物をセルロースエステルに添加する工程を経て製造された態様16のセルロースエステルフィルム。
(態様18)
前記混合物が、亜リン酸エステル系安定剤とエポキシ系安定剤の混合物を有機溶媒中で溶解し、しかる後に溶媒を除去して作製された混合物であることを特徴とする態様17のセルロースエステルフィルム。
(態様19)
前記エポキシ系安定剤の分子量が500以上であることを特徴とする態様16〜18のいずれかのセルロースエステルフィルム。
【0012】
(態様20)
前記亜リン酸エステル系安定剤と前記エポキシ系安定剤を含有するセルロースエステルを180〜240℃で溶融してペレットを作製し、該ペレットを180〜240℃で溶融してダイから押し出す工程を経て製造されたことを特徴とする態様16〜19のいずれかのセルロースエステルフィルム。
(態様21)
前記亜リン酸系安定剤および前記エポキシ系安定剤が、それぞれ窒素中で220℃において30分間加熱した場合の質量減少量が20質量%以下である化合物であることを特徴とする態様16〜20のいずれかのセルロースエステルフィルム。
(態様22)
前記セルロースエステルフィルムが、フェノール系安定剤、チオエーテル系安定剤、スズ系安定剤、アミン系安定剤および金属系安定剤からなる群より選択される1種類以上の安定剤を、セルロースエステルに対して0.01〜3質量%含有していることを特徴とする態様16〜21のいずれかのセルロースエステルフィルム。
【0013】
(態様23)
正面レターデーション(Re)が0〜150nmであり、且つ、厚さ方向のレターデーション(Rth)の絶対値が0〜500nmであることを特徴とする態様15〜22のいずれかのセルロースエステルフィルム。
(態様24)
ヘイズが0.1〜1.2%であり、可視光の透過率が91%以上であることを特徴とする態様15〜23のいずれかのセルロースエステルフィルム。
【0014】
(態様25)
前記セルロースエステルフィルムの2質量%メチレンクロライド溶液を調製して測定した400nmにおける吸光度に対して、前記セルロースエステルフィルムを240℃にて1時間空気中で加熱した後に2質量%メチレンクロライド溶液を調製して測定した400nmにおける吸光度の増加分が0.05以下であることを特徴とする態様15〜24のいずれかのセルロースエステルフィルム。
(態様26)
波長400nmおよび700nmにおけるそれぞれの正面レターデーション(Re)および厚さ方向のレターデーション(Rth)が下記式(A−1)および(A−2)を満たすことを特徴とする態様15〜25のいずれかのセルロースエステルフィルム。
式(A−1) 0≦|Re(700)−Re(400)|≦15nm
式(A−2) 0≦|Rth(700)−Rth(400)|≦35nm
(式中、Re(400)およびRe(700)は、波長400nmおよび700nmにおける正面レターデーション(Re)を表し、Rth(400)およびRth(700)は、波長400nmおよび700nmにおける厚さ方向のレターデーション(Rth)を表す。)
【0015】
(態様27)
フィルム表面の水の接触角(25℃・相対湿度60%)が45°以下であることを特徴とする態様15〜26のいずれかのセルロースエステルフィルム。
(態様28)
前記セルロースエステルフィルムの動的および静的キシミ値が共に0.2〜1.5であり、前記セルロースエステルフィルムが平均二次粒子サイズが0.01μm〜5μmである微粒子を含有することを特徴とする態様15〜27のいずれかのセルロースエステルフィルム。
(態様29)
偏光膜に、態様15〜28のいずれかのセルロースエステルフィルムを少なくとも1層積層したことを特徴とする偏光膜。
【0016】
(態様30)
態様29のセルロースエステルフィルムを基材に用いたことを特徴とする光学補償フィルム。
(態様31)
態様15〜28のいずれかのセルロースエステルフィルムを基材に用いたことを特徴とする反射防止フィルム。
(態様32)
態様29の偏光板、態様30の光学補償フィルム、および、態様31の反射防止フィルムからなる群より選択される少なくとも一つを用いたことを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、表面欠陥(傷付き)を大幅に軽減し、液晶表示装置に組み込んだときに発生する表示画面での異物故障や経時による視認性の変化を改善したセルロースエステルフィルムをハンドリング性よく製造することができる。また、本発明のセルロースエステルフィルムを用いれば、経時での耐候性、特に高温環境下における優れた耐久性を有する光学用途のフィルムを提供することができる。さらに、本発明のセルロースエステルフィルムを組み込んで液晶表示装置を製造すれば、表示ムラや湿度あるいは画像の色による光学特性の変化を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下において、本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法、および該製造方法において製造されたセルロースエステルフィルムとその応用について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることであるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0019】
《セルロースエステル》
まず、本発明で用いられるセルロースエステルについて説明する。本発明で用いるセルロースエステルは下記式(S−1)〜(S−3)を満足する。
式(S−1) 2.5≦A+B≦3.0
式(S−2) 0≦A≦2.2
式(S−3) 0.8≦B≦3.0
(式中、Aはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度の総和を表す。)
【0020】
本発明では、下記式(S−4)〜(S−6)を満足するセルロースエステルを用いることが好ましい。
式(S−4) 2.6≦Aa+Bb≦3.0
式(S−5) 0≦Aa≦2.2
式(S−6) 0.8≦Bb≦3.0
さらにまた本発明では、下記式(S−7)〜(S−9)を満足するセルロースエステルを用いることが特に好ましい。
式(S−7) 2.65≦Aa+Bb≦2.97
式(S−8) 0.1≦Aa≦2.2
式(S−9) 0.8≦Bb≦3.0
(式中、Aaはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Bbはセルロースの水酸基に対するプロピオニル基またはブチリル基の置換度の総和を表す。)
【0021】
本明細書でいう「置換度」とは、セルロースの2位、3位および6位のぞれぞれの水酸基の水素原子が置換されている割合の合計を意味する。2位、3位および6位の全水酸基の水素原子がアシル基で置換された場合は置換度が3となる。本発明で用いるセルローエステルの置換基Bで表される炭素数3〜22のアシル基は、脂肪族アシル基でも芳香族アシル基のいずれであってもよい。本発明のセルロースエステルのアシル基が脂肪族アシル基である場合、炭素数は3〜18であることが好ましく、炭素数は3〜12であることがさらに好ましく、炭素数は3〜8であることが特に好ましい。これらの脂肪族アシル基の例としては、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、あるいはアルキニルカルボニル基などを挙げることができる。アシル基が芳香族アシル基である場合、炭素数は6〜22であることが好ましく、炭素数は6〜18であることがさらに好ましく、炭素数は6〜12であることが特に好ましい。これらのアシル基は、それぞれさらに置換基を有していてもよい。
【0022】
好ましいアシル基の例としては、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イソブチリル基、ピバロイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフタレンカルボニル基、フタロイル基、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、さらに好ましいものは、プロピオニル基、ブチリル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、ピバロイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などである。
【0023】
特にBおよびBbで表わされるアシル基は、好ましくは炭素原子数が3〜6の脂肪族アシル基であり、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基およびヘキサノイル基からなる群より選択されるアシル基が好ましい。より好ましいBおよびBbとしては、プロピオニル基およびブチリル基からなる群より選択されるアシル基である。本発明で用いるセルロースエステルのエステルを構成するBで表わされるアシル基は、単一種であってもよいし、複数種であってもよい。本発明においては、セルロースの2位、3位および6位それぞれの水酸基の置換度分布は特に限定されない。
【0024】
(セルロースエステルの製造方法)
次に、本発明で用いるセルロースエステルの製造方法について説明する。本発明のセルロースエステルの原料綿や合成方法については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)7〜12頁の記載も適用できる。なお、以下に記載される添加量は特に断りがない限りセルロースエステルに対する質量%である。使用するセルロース原料は、特に限定されないが、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、綿花リンター由来のものが好ましく用いられる。セルロース原料は、アシル化に先立って、活性化剤と接触させる処理(活性化)をしておくことが好ましい。活性化剤として好ましくは、酢酸、プロピオン酸、または酪酸であり、特に好ましくは酢酸である。
【0025】
セルロースのアシル化は、セルロースとカルボン酸の酸無水物とを、ブレンステッド酸またはルイス酸(「理化学辞典」第五版(2000年)参照)を触媒として反応させることにより行うことが好ましい。
【0026】
6位の水酸基に対する置換度の大きいセルロースエステルの合成については、特開平11−5851号、特開2002−212338号や特開2002−338601号などの各公報の記載を参考にすることができる。セルロースエステルは、全置換度(セルロースの2位、3位、6位の水酸基に対する置換度の合計)がほぼ3に近いものであるが、所望の置換度のものを得る目的で、少量の触媒(一般には、残存する硫酸などのアシル化触媒)と水との存在下で、20〜90℃に数分〜数日間保つことによりエステル結合を部分的に加水分解し、セルロースエステルのアシル置換度を所望の程度まで減少させることができる。この後、残存触媒を前記の中和剤を用いて、部分加水分解を停止させることができる。
【0027】
セルロースエステルの製造に際しては、ろ過は、アシル化の完了から再沈殿までの間のいかなる工程において行ってもよい。ろ過に先立って適切な溶媒で希釈することも好ましい。セルロースエステル溶液を、水もしくはカルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸など)水溶液と混合し再沈殿させる。再沈殿は連続式、バッチ式のいずれであってもよい。再沈殿後、洗浄処理することが好ましい。洗浄には水または温水を用い、pH、イオン濃度、電気伝導度、元素分析等で洗浄終了を確認できる。洗浄後のセルロースエステルは、安定化のために、弱アルカリ(Na、K、Ca、Mg等の炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、酸化物)を添加するのが好ましい。
【0028】
セルロースエステルの乾燥は、加熱、送風、減圧、攪拌などの手段を単独または組み合わせて用いて効率的に行なうことが好ましい。セルロースエステルの形状は特に限定されないが、粒子状または粉末状で、粉砕や篩がけを行ってもよい。セルロースエステルが粒子状であるとき、使用する粒子の90質量%以上は、0.1mm〜5mmの粒子サイズを有することが好ましい。また、使用する粒子の50質量%以上が0.2mm〜4mmの粒子サイズを有することが好ましく、使用する粒子の50質量%以上が0.2mm〜3mmの粒子サイズを有することが好ましい。セルロースエステル粒子は、なるべく球形に近い形状を有することが好ましい。
【0029】
(分子量)
本発明で好ましく用いられるセルロースエステルの質量平均分子量(Mwと略称する)は5万〜30万であり、より好ましくは6万〜30万であり、さらに好ましくは8万〜25万である。本発明で用いられるセルロースエステルの分子量分布は、質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で評価することができる。本発明では、Mw/Mnが好ましくは1.5〜5.5であり、より好ましくは1.5〜5.0であり、さらに好ましくは1.5〜4.0であり、特に好ましくは2〜3.5であるセルロースエステルが用いられる。質量平均分子量は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)に記載されるように、ゲル浸透クロマトグラフィー (GPC)による分子量分布測定などの方法により測定でき、さらに特開平9−95538号公報に詳細に記載されている。これらのセルロースエステルは1種類のみを用いてもよく、2種以上混合してもよい。
このような分子量の調整は、低分子量成分を除去することでも達成できる。低分子成分の除去は、セルロースエステルを、適当な有機溶媒で洗浄することにより実施できる。また、本発明におけるセルロースエステルは、セルロースエステル以外の高分子成分を適宜混合したものでもよい。混合される高分子成分はセルロースエステルと相溶性に優れるものが好ましく、フィルムにしたときの透過率が80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは92%以上であることが好ましい。得られたセルロースエステルは、その保存は環境による影響を受けにくくするために、低温暗所で保存する事が望ましい。さらに、保管用としてアルミニウムなどの防止素材で作製された防湿袋や、SUS製ドラムあるいはコンテナに保存することがさらに好ましい。
【0030】
その他、6位の水酸基に対する置換度の大きいセルロースエステルの合成については、特開平11−5851号、特開2002−212338号、特開2002−338601号各公報などに記載がある。6位の置換度は、0.8〜1の範囲であることが好ましく、さらには0.85〜0.99であり、特には0.87〜0.98である。また、6位に置換されたアシル基について、Aで表されるアセチル基とBで表される炭素数3以上のアシル基の比率は特に限定されないが、A/Bとしては0/1〜100/1であり、より好ましくは0.1/1〜10/1であり、特に好ましくは0.2/〜1/1である。なお、セルロースエステルの他の合成法としては、塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、ピリジン、トリエチルアミン、tert−ブトキシカリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなど)の存在下に、カルボン酸無水物やカルボン酸ハライドと反応させる方法や、アシル化剤として混合酸無水物(カルボン酸・トリフルオロ酢酸混合無水物、カルボン酸・メタンスルホン酸混合無水物など)を用いる方法も用いることができ、特に後者の方法は、炭素数の多いアシル基や、カルボン酸無水物−酢酸−硫酸触媒による液相アシル化法が困難なアシル基を導入する際には有効である。
【0031】
《セルロースエステルの添加剤》
本発明では、セルロースエステルに、分子量500以上である亜リン酸エステル系安定剤とエポキシ系安定剤を添加したセルロースエステル組成物を用いて溶融製膜する。本発明では、セルロースエステルにこれら以外の添加剤を添加してもよい。以下において、セルロースエステルに添加することができる添加剤について具体的に説明する。
【0032】
(亜リン酸エステル系安定剤)
本発明では、分子量500以上の亜リン酸エステル系安定剤をセルロースエステルに対して0.01〜3質量%添加する。
本発明において用いることができる分子量500以上の亜リン酸エステル系安定剤として、従来から公知の任意の亜リン酸エステル系安定剤を用いることができる。本発明において用いることができる亜リン酸エステル系安定剤として、特開2004−182979号公報の[0023]〜[0039]に記載の化合物などを挙げることが、さらに特開昭51−70316号公報、特開平10−306175号公報、特開昭57−78431号公報、特開昭54−157159号公報、特開昭55−13765号公報に記載の化合物も挙げることができる。本発明で用いる亜リン酸エステル系安定剤は、高温での安定性を保つために高分子量であることが必要であり、分子量は500以上であることが必要とされ、より好ましくは分子量550以上であり、特に好ましくは分子量600以上である。さらに、少なくとも一置換基は芳香族性エステル基であることが好ましい。また、亜リン酸エステル系安定剤は、トリエステルであることが好ましく、リン酸、モノエステルやジエステルの不純物の混入がないことが望ましい。これらの不純物が存在する場合は、その含有量が5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3質量%以下であり、特に好ましくは2質量%以下である。亜リン酸エステル系安定剤の好ましい具体例として下記の化合物を挙げることができるが、本発明で用いることができる亜リン酸エステル系安定剤はこれらに限定されるものではない。
【0033】
(PF−1)
トリスノニルフェニルフォスファイト(分子量689、無色液体)
(PF−2)
トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイト(分子量647、白色粉末、融点183℃)
(PF−3)
ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト(分子量733、融点52℃)
(PF−4)
ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールフォスファイト(分子量605白色粉末、融点183℃)
(PF−5)
ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール ジフォスファイト(分子量633、白色粉末、融点235℃)
(PF−6)
2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルフォスファイト(分子量529、白色粉末、融点148℃)
(PF−7)
テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4−ビフェニレン−ジ−フォスファイト(分子量517、白色粉末、融点75℃)
【0034】
これらは、旭電化工業株式会社からアデカタブ1178、同2112、同PEP−8、同PEP−24G、PEP−36G、同HP−10として、またクラリアント社からSandostab P−EPQとして市販されており、入手可能である。さらに、フェノールと亜リン酸エステルを同一分子内に有する安定剤も好ましく用いられ、具体的な化合物として下記のものを挙げることができるが、本発明で用いることができる安定化剤はこれらに限定されるものではない。これらの化合物については、さらに特開平10−273494号公報に詳細に記載されている。代表的な市販品としては、住友化学株式会社のスミライザーGPを挙げることができる。
【0035】
(FFP−1)
2,10−ジメチル−4,8−ジ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量632)
(FFP−2)
2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(分子量702)
(FFP−3)
2,4,8,10−テトラ−tert−ペンチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−12−メチル−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量787)
(FFP−4)
2,10−ジメチル−4,8−ジ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量646)
(FFP−5)
2,4,8,10−テトラ−tert−ペンチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−12−メチル−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量801)
(FFP−6)
2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(分子量716)
(FFP−7)
2,10−ジメチル−4,8−ジ−tert−ブチル−6−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンゾイルオキシ)−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量618)
(FFP−8)
2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンゾイルオキシ)−12−メチル−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量717)
(FFP−9)
2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−[3−(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(分子量660)
(FFP−10)
2,10−ジメチル−4,8−ジ−tert−ブチル−6−[3−(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)プロポキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量590)
(FFP−11)
2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量717)
(FFP−12)
2,10−ジエチル−4,8−ジ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量661)
(FFP−13)
2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−[2,2−ジメチル−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(分子量688)
(FFP−14)
6−〔3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチル)プロポキシ〕−2,4,8,10−テトラ−tert−ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(分子量660)
【0036】
(エポキシ系安定剤)
本発明では、エポキシ系安定剤をセルロースエステルに対して0.001〜1質量%添加する。
本発明で用いることができるエポキシ系安定剤として、まず、天然の動植物油を原料にしてエポキシ化した化合物を挙げることができる。中でも動植物油混合物をエステル交換後エポキシ化して得られるエポキシ化動植物油組成物が有用である。本発明に用いられる動植物油としては、例えば、大豆油、綿実油、パーム油、アマニ油、菜種油、オリーブ油、コーン油、椰子油、サフラワー油などの植物油;牛脂、豚脂、魚油などの動物油が挙げられる。本発明で用いられるエポキシ化動植物油組成物は、オキシラン酸素含有量が3.0質量%以上、特に5.0質量%以上であることが、自身の安定性にも優れるために好ましい。また、本発明で用いられるエポキシ化動植物油組成物は、酸価が1未満のものが好ましい。酸価が1を越えるものを用いた場合には、これ自身の熱安定性が低下するおそれがあり、さらにセルロースエステルに配合した場合にも性能に悪影響を与えるおそれがある。以下に好ましいエポキシ化動植物油組成物であるエポキシ系安定剤の例を挙げるが、本発明で用いることができるエポキシ系安定剤はこれらに限定されるものではない。
【0037】
(ET−1) エポキシ化オレイン酸ブチル
(ET−2) エポキシ化オレイン酸オクチル
(ET−3) エポキシ化リノール酸ブチル
(ET−4) エポキシ化リノール酸オクチル
(ET−5) エポキシ化リシノール酸ブチル
(ET−6) エポキシ化脂肪酸オクチル
(ET−7) エポキシ化大豆油脂肪酸オクチル
(ET−8) エポキシ化大豆油
(ET−9) エポキシ化アマニ油
【0038】
本発明で用いられるエポキシ系安定剤としては、脂肪族、芳香族、脂環族、芳香族脂肪族またはヘテロ環式構造を有し、側鎖としてエポキシ基を有する化合物も有用である。エポキシ基は好ましくは、グリシジル基としてエーテルまたはエステル結合により分子の残基に結合するか、あるいはヘテロ環式アミン、アミドまたはイミドのN−グリシジル誘導体である。これらのタイプのエポキシ化合物は広く公知であり、市販品として容易に入手可能である。これらの素材は特開平11−189706号の〔0096〕〜〔0112〕に詳細に記載されている。
【0039】
本発明において、好ましく用いられるエポキシ化合物の例を以下に記載する。
I) 分子内にカルボキシル基を少なくとも2個含む化合物とエピクロロヒドリンおよび/またはグリセロールジクロロヒドリンおよび/またはβ−メチルエピクロロヒドリンを反応させることにより得ることができるポリグリシジルエステルおよびポリ(β−メチルグリシジル)エステルが好ましい。この化合物は、分子内にカルボキシル基を少なくとも2個含む脂肪族ポリカルボン酸である。これらのポリカルボン酸の例として、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸または二量体化もしくは三量体化されたリノレン酸が挙げられる。また、例えばテトラヒドロフタル酸、4−メチルテトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸または4−メチルヘキサヒドロフタル酸のような脂環族ポリカルボン酸を使用することも可能である。さらに芳香族ポリカルボン酸を使用することも可能であり、代表的にはフタル酸、イソフタル酸、トリメリト酸およびピロメリト酸であり、例えばトリメリト酸およびポリオール、例えばグリセロールまたは2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンのカルボキシ末端を有する付加物である。
【0040】
II) 遊離アルコール性水酸基および/またはフェノール性水酸基を少なくとも2個含む化合物と適当な置換型エピクロロヒドリンを反応させることにより得ることが可能なポリグリシジルエーテルおよびポリ(β−メチルグリシジル)エーテルも好ましい。このタイプのエーテルは例えば非環式アルコール、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコールおよびより高級なポリ(オキシエチレン)グリコール、プロパン−1,2−ジオールまたはポリ(オキシプロピレン)グリコール、プロパン−1,3−ジオール、ブタン−1,4−ジオール、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、ペンタン−1,5−ジオール、ヘキサン−1,6−ジオール、ヘキサン−2,4,6−トリオール、グリセロール、1,1,1−トリメチロールプロパン、ビストリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトールならびにポリエピクロロヒドリンから誘導される。
【0041】
これらは、脂環族アルコール、例えば1,3−もしくは1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンまたは1,1−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサ−3−エンから二者択一的に誘導することも可能であり、あるいはN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アニリンも使用できる。また、p,p'−ビス(2−ヒドロキシエチルアミノ)ジフェニルメタンのような芳香核を含むエポキシ化合物を、単核のフェノール、例えばレゾルシノールまたはヒドロキノンから誘導することも可能であり、あるいはそれらは多核のフェノール、例えばビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンまたは4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホンをベースとするか、あるいは酸性条件下で得ることが可能なフェノールとホルムアルデヒドの縮合物、例えばフェノールノボラックをベースとすることも好ましい。
【0042】
III) エピクロロヒドリンとアミノ水素原子を少なくとも2個有するアミンの反応生成物であるポリ(N−グリシジル)化合物も好ましい。これらのアミンの具体例として、アニリン、トルイジン、n−ブチルアミン、ビス(4−アミノフェニル)メタン、m−キシリレンジアミンまたはビス(4−メチルアミノフェニル)メタン、N,N,O−トリグリシジル−m−アミノフェノールまたはN,N,O−トリグリシジル−p−アミノフェノールを挙げることができる。ポリ(N−グリシジル)化合物は、シクロアルキレンウレア、例えばエチレンウレアまたは1,3−プロピレンウレアのN,N'−ジグリシジル誘導体ならびにヒダントイン、例えば5,5−ジメチルヒダントインのN,N'−ジグリシジル誘導体も含むものである。
【0043】
IV) ポリ(S−グリシジル)化合物も好ましく用いられる。例えばエタン−1,2−ジオールまたはビス(4−メルカプトメチルフェニル)エーテルのようなジチオールから誘導されるジ−S−グリシジル誘導体が挙げられる。
【0044】
以下に、前述の好ましいエポキシ系安定剤の例を以下に示す。
a)液体ビスフェノールAジグリシジルエーテルとしては、例えば登録商標アラルダイト(Araldit)GY240、登録商標アラルダイトGY250、登録商標アラルダイトGY260、登録商標アラルダイトGY266、登録商標アラルダイトGY2600、登録商標アラルダイトMY790が挙げられる。
また、b)固体ビスフェノールAジグリシジルエーテルとしては、例えば、登録商標アラルダイト(Araldit)GT6071、登録商標アラルダイトGT7071、登録商標アラルダイトGT7072、登録商標アラルダイトGT6063、登録商標アラルダイトGT7203、登録商標アラルダイトGT6064、登録商標アラルダイトGT7304、登録商標アラルダイトGT7004、登録商標アラルダイトGT6084、登録商標アラルダイトGT1999、登録商標アラルダイトGT7077、登録商標アラルダイトGT6097、登録商標アラルダイトGT7097、登録商標アラルダイトGT7008、登録商標アラルダイトGT6099、登録商標アラルダイトGT6608、登録商標アラルダイトGT6609、登録商標アラルダイトGT6610を挙げることができる。
さらにc)液体ビスフェノールFジグリシジルエーテルとしては、例えば、登録商標アラルダイト(Araldit)GY281、登録商標アラルダイトGY282、登録商標アラルダイトPY302、登録商標アラルダイトPY306がある。
また、d)テトラフェニルエタンの固体ポリグリシジルエーテルとしては、例えば登録商標CGエポキシ樹脂(CG Epoxy Resin)0163を挙げることができる。
【0045】
e)フェノール−ホルムアルデヒドのノボラックの固体および液体ポリグリシジルエーテルとしては、例えばEPN1138、EPN1139、GY1180、GY307を挙げることができる。
f)o−クレゾール−ホルムアルデヒドのノボラックの固体および液体ポリグリシジルエーテルとしては、例えばECN1235、ECN1273、ECN1280、ECN1299を挙げることができる。
また、g)アルコールの液体グリシジルエーテルとしては、例えば登録商標シェル(Shell)グリシジルエーテル162、登録商標アラルダイト(Araldit)DY0390、登録商標アラルダイトDY0391を挙げることができる。
さらにまた、h)カルボン酸の液体グリシジルエーテルとしては、例えば登録商標シェル(Shell)カルデュラ(Cardura)Eテレフタル酸エステル、トリメリト酸エステル、登録商標アラルダイト(Araldit)PY284を挙げることができる。
また、i)固体ヘテロ環式エポキシ樹脂(トリグリシジルイソシアヌレート)としては、例えば登録商標アラルダイト(Araldit)PT810を挙げることができる。
j)液体脂環族エポキシ樹脂としては、例えば登録商標アラルダイト(Araldit)CY179を挙げることができる。
さらに、k)p−アミノフェノールの液体N,N,O−トリグリシジルエーテルとしては、例えば登録商標アラルダイト(Araldit)MY0510を挙げることができる。
l)テトラグリシジル−4,4'−メチレンベンズアミンまたはN,N,N',N'−テトラグリシジルジアミノフェニルメタンとしては、例えば登録商標アラルダイト(Araldit)MY720、登録商標アラルダイトMY721を挙げることができる。
さらにまた下記のエポキシ系安定剤も好ましい。
【0046】
【化1】

【0047】
【化2】

【0048】
以上の中でもより好ましくは、(ET−4)エポキシ化リノール酸オクチル、(ET−6)エポキシ化リシノール酸オクチル、(ET−7)エポキシ化大豆油脂肪酸オクチル、(ET−8)エポキシ化大豆油、(ET−9)エポキシ化アマニ油であり、特に好ましくは(ET−8)エポキシ化大豆油、(ET−9)エポキシ化アマニ油である。これらのエポキシ系素材は、アデカスタブ O−130P、アデカスタブ O−180A(旭電化工業株式会社)から、市販品として入手できる。
【0049】
本発明では、エポキシ系安定剤は、セルロースエステルに対して0.001〜1質量%含有させる。さらに好ましくはセルロースエステルに対して0.002〜0.8質量%含有させ、特に好ましくはセルロースエステルに対して0.005〜0.5質量%含有させる。亜リン酸エステルとエポキシ系安定剤の質量比は、1:2〜1:0.001であり、より好ましくは1:1〜1:0.005であり、特に好ましくは1:0.5〜1:0.005である。
【0050】
本発明において、セルロースエステルに対する亜リン酸エステル系安定剤およびエポキシ系安定剤の添加方法は特に限定されない。好ましくは、亜リン酸エステル系安定剤とエポキシ系安定剤を予め混合して混合物とし、しかる後にセルロースエステルに添加することである。さらに好ましくは、亜リン酸エステル系安定剤とエポキシ系安定剤の混合物を有機溶媒中に溶解して、しかる後に溶媒を除去して得られた混合物をセルロースエステルに添加することである。このように亜リン酸エステル系安定剤とエポキシ系安定剤を添加して、セルロースエステル中に共存させることが、溶融時のセルロースエステルの安定性を向上させる点で有効である。
【0051】
本発明で用いるセルロースエステル組成物は、上記の分子量500以上の亜リン酸系安定剤と、エポキシ系安定剤を含有することを特徴とするが、それ以外の安定剤をセルロースエステルフィルムの特性を高めるために添加することも好ましい。例えば以下のような安定剤を添加することができる。
【0052】
(フェノール系安定剤)
本発明においてはフェノール系安定剤を添加することが有用である。特に分子量が500以上であるフェノール系安定剤が好ましく、公知の任意のフェノール系安定剤を使用することができる。好ましいフェノール系安定剤としては、ヒンダードフェノール系安定剤が挙げられる。特に、ヒドロキシフェニル基に隣接する部位に置換基を有するものが好ましく、その場合の置換基としては炭素数1〜22の置換または無置換のアルキル基が好ましく、例えばメチル基、エチル基、プロピオニル基、イソプロピオニル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、2−エチルへキシル基、ノニル基、イソノニル基、ドデシル基、tert−ドデシル基、トリデシル基、tert−トリデシル基などを挙げることができる。これらの中でも、メチル基、エチル基、プロピオニル基、イソプロピオニル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、2−エチルへキシル基がより好ましい。さらに好ましくは、プロピオニル基、イソプロピオニル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基である。フェノール系安定剤の具体例として例えば下記の化合物を挙げることができるが、本発明で用いることができるフェノール系安定剤はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0053】
(PH−1)
n−オクタデシル−3−(3',5'−ジ−tert−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル) プロピオネート(分子量531、白色粉末、融点69.2℃以上)
(PH−2)
テトラキス−〔メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン(分子量1178、白色粉末、融点115〜125℃)
(PH−3)
トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート(分子量784、白色粉末、融点221℃)
(PH−4)
トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート〕(分子量588、白色粉末、融点77℃)
【0054】
(PH−5)
3,9−ビス−{2−〔3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン(分子量741、白色粉末、融点125℃)
(PH−6)
1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(分子量775、白色粉末、融点244〜249℃)
(PH−7)
1,1,3−トリス(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)ブタン(分子量545、白色粉末、融点69.2℃)
【0055】
(PH−8)
1,6−ヘキサンジオール−ビス{3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}(分子量639、無色液体、融点10℃以下)
(PH−9)
2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン(分子量589)
(PH−10)
1,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート〕(分子量643、白色粉末、融点91〜96℃)
【0056】
(PH−11)
N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)(分子量6、白色粉末、融点156〜161℃)
(PH−12)
N:ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)カルシウム(分子量695、白色粉末、融点90〜65℃)
【0057】
これらのフェノール系安定剤は、市販品として容易に入手可能であり、例えば下記のメーカーから販売されているものを例示することができる。チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社から、Irganox 1076、Irganox 1010、Irganox 3113、Irganox 245、Irganox 1135、Irganox 1330、Irganox 259、Irganox 565、Irganox 1035、Irganox 1098、Irganox 1425WLとして入手することができる。また、旭電化工業株式会社から、アデカスタブ AO−50、アデカスタブ AO−60、アデカスタブ AO−20、アデカスタブ AO−70、アデカスタブ AO−80として入手することができる。さらに、住友化学株式会社から、スミライザーBP−76、スミライザーBP−101、スミライザーGA−80として入手することができる。また、シプロ化成株式会社からシーノックス326M、シーノックス336Bとしても入手することができる。
【0058】
(チオエーテル系安定剤)
本発明においてはチオエーテル系安定剤を添加することも好ましい。本発明においてセルロースエステルに添加することができるチオエーテル系安定剤も、分子量が500以上であるものが好ましく、公知の任意のチオエーテル系安定剤を用いることができる。チオエーテル系安定剤の好ましい具体例として下記の化合物が挙げられるが、本発明で用いることができるチオエーテル系安定剤はこれらに限定されるものではない。
【0059】
(TE−1)
ジラウリル−3,3−チオジプロピオネート(分子量515)
(TE−2)
ジミリスチル−3,3−チオジプロピオネート(分子量571)
(TE−3)
ジステアリル−3,3−チオジプロピオネート(分子量683)
(TE−4)
ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)(分子量1162)
【0060】
これらは、住友化学株式会社からスミライザーTPL、同TPM、同TPS、同TDPとして市販されている。旭電化工業株式会社から、アデカスタブAO−412Sとしても入手可能である。
【0061】
(その他の安定剤)
本発明においては、上記以外の安定剤を使用することもできる。上記以外の安定剤として、例えばスズ系安定剤が挙げられ、公知の任意のスズ系安定剤を用いることができる。好ましいスズ系安定剤の具体例としては、オクチル錫マレエートポリマー、モノステアリル錫トリス(イソオクチルチオグリコレート)、ジブチル錫ジラウレートが挙げられる。
【0062】
また、上記アミン系安定剤も利用され、その場合は公知の任意のアミン系安定剤を用いることができる。好ましいアミン系安定剤の具体例としては、2,2'−メチレンビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−[(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]〕、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート、フェニル−β−ナフチルアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N,N'−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−シクロヘキシル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペラジン、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジン)セバケイト、ビス[(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチル マロネート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタン−テトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタン−テトラカルボキシレート等が挙げられる。これらは、旭電化からアデカスタブLA−57、同LA−52、同LA−67、同LA−62、同LA−77として、またチバ・スペシャリティーケミカルズ社からTINUVIN 765、同144として市販されている。 これらを添加する時期は、後述するように溶融物(メルト)作製工程の何れの段階であってもよく、また、溶融物作製工程(メルト調製工程)の最後に添加剤を添加する工程を加えてもよい。
【0063】
(安定剤の使用)
本発明で用いる安定剤は、高温でも揮発しないことが必要であり、分子量は500以上であることが好ましく、より好ましくは500〜3000であり、さらに好ましくは530〜3000であり、特に好ましくは600〜2000である素材を推奨できる。また、高温で揮発しにくいことが好ましいため、空気中で220℃において30分間加熱した場合の質量減少量が20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることが特に好ましい。これらの安定剤の使用量は、セルロースエステルに対して0.02〜3質量%が好ましく、0.03〜2.5質量%がより好ましく、さらに好ましくは0.04〜1.0質量%であり、特に好ましくは0.05〜0.6質量%である。フェノール系安定剤と亜リン酸エステル系安定剤またはチオエーテル系安定剤を併用する場合は。その含有量の比率は特に限定されないが、好ましくは1/10〜10/1(質量比)であり、より好ましくは1/5〜5/1(質量比)であり、さらに好ましくは1/3〜3/1(質量比)であり、特に好ましくは1/3〜2/1(質量比)である。
【0064】
本発明において、亜リン酸系安定剤およびエポキシ系安定剤以外の安定剤をセルロースエステルに添加する方法は、溶融製膜される時点に至るまでに添加する方法であれば特に限定されない。例えば、セルロースエステルの合成時点で添加してもよいし、溶融前に予めセルロースエステル中に混合させてもよく、溶融製膜時にセルロースエステルと混合しつつ製膜することも好ましい。セルロースエステルの合成時に添加する場合は、セルロースエステルの沈殿生成前後に添加してもよく、あるいはセルロースエステルが溶液状態で分散されている時に添加してもよい。これにより、セルロースエステルと添加剤を均一に混合することができる。
なお、本発明においては、予めセルロースエステルに所望量よりも高濃度の安定剤を含有させた安定剤含有マスターペレットを作製してもよい。その場合は、別途安定剤を含まないセルロースエステルのマスターペレット(セルロースエステルマスターペレット)を作製しておくことが必要である。その場合、本発明の分子量500以上である亜リン酸エステル系安定剤、および安定剤含有マスターペレット中の安定剤濃度は特に規定されないが、好ましくはセルロースエステルフィルム中の安定剤最終濃度の2〜50倍が好ましく、より好ましくは2〜30倍であり、さらに好ましくは3〜25倍であり、特に好ましくは4〜20倍である。セルロースエステルマスターペレットと安定剤マスターペレットの混合には、下記に挙げる方法を利用することができる。なお、安定剤マスターペレットを作製する段階で、上記の安定剤以外の添加剤(可塑剤、微粒子、その他の添加剤など)を一緒に添加してもよく、その場合も上記の安定剤以外の添加剤濃度は、好ましくはセルロースエステルフィルム中の安定剤以外の添加剤最終濃度に対して2〜50倍が好ましく、より好ましくは2〜30倍であり、さらに好ましくは3〜25倍であり、特に好ましくは4〜20倍である。
【0065】
また、セルロースエステルを粉体として作製した後に添加剤を混合する場合は、粉体同士の混合となるため均一に混合することが重要である。すなわち安定剤が粉末の場合は、セルロースエステル粉末に均一に混合するために、混合機器を利用することが有効である。それらとしては、例えば容器回転型、容器固定型あるいはその複合型などであり、具体的には回転水平型(水平円筒、傾斜円筒、V型、二十円錘、正方形体、S字型、連続V型など)、回転軸水平(例えば、リボン、スクリュー、ロッド、ピン、複軸パドルなど)、回転垂直(リボン、スクリュー、円錘型スクリュー、高速流動、回転円板、マラーなど)、振動型(振動ミル、フルイなど)、回転型に内設羽根型(水平円筒、V型、二重円錘など)を利用できる。
【0066】
混合時には、添加剤やセルロースエステルが安定であるように、湿度、温度や酸素濃度をコントロールすることが望ましい。好ましくは低湿度である方が、また温度は低い方が好ましい。すなわち、好ましい湿度は相対湿度70%以下であり、より好ましくは相対湿度50%以下であり、さらに好ましくは相対湿度35%以下であり、特には相対湿度20%以下である。また、温度は好ましくは−20〜100℃であり、より好ましくは0〜80℃であり、さらに好ましくは5〜60℃であり、特に好ましくは10〜50℃である。
【0067】
また、酸素濃度は低いことが好ましく、気体中の酸素濃度は10容量%以下であることが好ましく、より好ましくは酸素濃度5容量%以下であり、さらに好ましくは酸素濃度2容量%以下であり、特に好ましくは酸素濃度1容量%以下である。酸素濃度を低下させる方法は特に限定されないが、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムなど)や真空機器による脱気操作で達成できる。このようにして混合された添加剤を含有するセルロースエステル組成物は、低酸素濃度を保持したまま溶融ペレット化あるいは溶融製膜されることが推奨される。なお、ペレット化工程で低い酸素濃度雰囲気下で溶融して作製された場合は、溶融製膜時の酸素濃度コントロールは不要な場合があり、工程への負荷が軽減される。
【0068】
(安定剤以外の添加剤)
本発明において、セルロースエステルには、その他に必要に応じてさらに種々の添加剤を添加してもよい。添加は、溶融物の調製前から調製後のいずれの段階で行ってもよい。本発明では、安定剤以外の添加剤として、可塑剤、紫外線吸収剤(UV剤)、微粒子、光学調整剤、剥離剤、界面活性剤、カルシウム、マグネシウムなど2族金属の塩などの熱安定剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、油剤などを用いることができる。
【0069】
(可塑剤)
まず、可塑剤について記載する。セルロースエステルに可塑剤を添加すれば、セルロースエステルの結晶融解温度(Tm)を下げることができる。本発明に用いる可塑剤の分子量は特に限定されないが、好ましくは高分子量のものであり、例えば分子量500以上が好ましく、より好ましくは550以上であり、さらに好ましくは600以上である。可塑剤の種類としては、リン酸エステル類、アルキルフタリルアルキルグリコレート類、カルボン酸エステル類、多価アルコールの脂肪酸エステル類などが挙げられる。それらの可塑剤の形状としては固体でもよいし、油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。溶融製膜を行なう場合は、不揮発性を有するものを特に好ましく使用することができる。
【0070】
上記リン酸エステルの具体例としては、例えばトリキシリルオスフェート、トリスオルト−ビフェニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート、1,4−フェニレンーテトラフェニル燐酸エステル等を挙げることができる。これらは、例えばアデカスタブ F−500、同FP−600、FP−700(旭電化工業株式会社)として市販されている。また特表平6−501040号公報の態様3〜7に記載のリン酸エステル系可塑剤を用いることも好ましい。上記アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えば、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられる。
【0071】
またカルボン酸エステルとしては、例えばジドデシルフタレート等のフタル酸エステル類、およびクエン酸アセチルトリオクチル等のクエン酸エステル類、ビス(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソデシルアジペート、ビス(ブチルジグリコールアジペート)等のアジピン酸エステル類、テトラオクチルピロメリテート、トリオクチルトリメリテートなどの芳香族多価カルボン酸エステル類、ジオクチルアジペート、ジブチルセバケート、ジオクチルセバケート、ジオクチルアゼレートなどの脂肪族多価カルボン酸エステル類、ジグリセリンテトラアセテート、ジグリセライドなどの多価アルコールの脂肪酸エステル類などを挙げることができる。
【0072】
また、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどのグリコールと二塩基酸とからなる脂肪族ポリエステル類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのオキシカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル類、ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトン、ポリバレロラクトンなどのラクトンからなる脂肪族ポリエステル類、ポリビニルピロリドンなどのビニルポリマー類などの高分子量系可塑剤も挙げられる。可塑剤には、これらを単独もしくは低分量可塑剤と併用して使用することができる。
【0073】
上記多価アルコール系可塑剤は、セルロース脂肪酸エステルとの相溶性がよく、また熱可塑化効果が顕著に現れるグリセリンエステル、ジグリセリンエステルなどグリセリン系のエステル化合物やポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールの水酸基にアシル基が結合した化合物などを好ましく例示することができる。 これらの可塑剤は、単独で使用してもよいし、併用してもよい。可塑剤の添加量は、セルロースエステルに対して1〜20質量%が好ましく、より好ましくは1〜15質量%、最も好ましくは2〜10質量%である。
【0074】
(紫外線吸収剤)
セルロースエステルには、紫外線防止剤を添加してもよい。紫外線防止剤については、特開昭60−235852号、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号、同6−118233号、同6−148430号、同7−11056号、同7−11055号、同7−11056号、同8−29619号、同8−239509号、特開2000−204173号の各公報に記載がある。その添加量は、調製する溶融物(メルト)の0.01〜2質量%であることが好ましく、0.01〜1.5質量%であることがさらに好ましい。
【0075】
すなわち本発明では、セルロースエステルに1種または2種以上の紫外線吸収剤を含有させることが好ましい。紫外線吸収剤は、液晶の劣化防止の観点から、波長380nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。特に好ましい紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物である。中でも、ベンゾトリアゾール系化合物は、セルロースエステルに対する着色が少ないことから好ましい。
【0076】
好ましい紫外線吸収剤としては、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N'−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどが挙げられる。特に前記紫外線吸収剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が最も好ましい。
【0077】
これらの紫外線吸収剤として、以下の市販品も利用できる。ベンゾトリアゾール系としてはTINUBIN P(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 234(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 320(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 326(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 327(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 328(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、スミソーブ340(住友化学社製)、アデカスタイプLA−31(旭電化工業社製)などがある。また、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、シーソーブ100(シプロ化成社製)、シーソーブ101(シプロ化成社製)、シーソーブ101S(シプロ化成社製)、シーソーブ102(シプロ化成社製)、シーソーブ103(シプロ化成社製)、アデカスタイプLA−51(旭電化工業社製)、ケミソープ111(ケミプロ化成社製)、UVINUL D−49(BASF社製)などを挙げられる。また、オキザリックアシッドアニリド系紫外線吸収剤としては、TINUBIN 312(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)やTINUBIN 315(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)がある。さらにサリチル酸系紫外線吸収剤としては、シーソーブ201(シプロ化成社製)やシーソーブ202(シプロ化成社製)が上市されており、シアノアクリレート系紫外線吸収剤としてはシーソーブ501(シプロ化成社製)、UVINUL N−539(BASF社製)がある。これらの中でも、特にアデカスタイプLA−31が好ましい。
【0078】
(微粒子)
本発明では、セルロースエステルに微粒子を混合してもよい。微粒子としては、無機化合物の微粒子や有機化合物の微粒子が挙げられ、いずれでもよい。本発明におけるセルロースエステルに含まれる微粒子の平均一次粒子サイズは、ヘイズを低く抑えるという観点から5nm〜3μmであることが好ましく、5nm〜2.5μmであることがより好ましく、10nm〜2.0μmであることがさらに好ましい。ここで、微粒子の平均一次粒子サイズは、セルロースエステルフィルムを透過型電子顕微鏡(倍率50万〜100万倍)で観察し、粒子100個の一次粒子サイズの平均値を求めることにより決定する。微粒子の添加量は、セルロースエステルに対して0.005〜1.0質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.8質量%であり、さらに好ましくは0.02〜0.4質量%である。
【0079】
また、本発明の製造方法により最終的に得られたセルロースエステルフィルム中での微粒子の平均二次粒子サイズは0.01〜5μmであることが好ましく、0.02〜3μmであることがより好ましく、0.02〜1μmであることが特に好ましい。ここで、前記微粒子の平均二次粒子サイズは、セルロースエステルフィルムを透過型電子顕微鏡(倍率10万〜100万倍)で観察し、粒子100個の二次粒子サイズの平均値を求めることにより決定する。前記無機化合物としては、SiO2、ZnO、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2、In23、MgO、BaO、MoO2、V25、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウム等が挙げられる。好ましくは、SiO2、ZnO、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2、In23、MgO、BaO、MoO2およびV25の少なくとも1種であり、さらに好ましくはSiO2、TiO2、SnO2、Al23およびZrO2の少なくとも1種である。
【0080】
前記SiO2の微粒子としては、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上、日本アエロジル(株)製)等の市販品を使用することができる。また、前記ZrO2の微粒子としては、例えば、アエロジルR976およびR811(以上、日本アエロジル(株)製)等の市販品を使用することができる。またシーホスターKE−E10、同E30、同E40、同E50、同E70、同E150、同W10、同W30、同W50、同P10、同P30、同P50、同P100、同P150、同P250(日本触媒)なども使用することができる。さらに、シリカマイクロビーズP−400、700(触媒化成工業株式会社製品)も使用することができる。また、SO−G1、SO−G2、SO−G3、SO−G4、SO−G5、SO−G6、SO−E1、SO−E2、SO−E3、SO−E4、SO−E5、SO−E6、SO−C1、SO−C2、SO−C3、SO−C4、SO−C5、SO−C6、(株式会社アドマテックス製)も使用することができる。さらに、シリカ粒子8050、同8070、同8100、同8150(株式会社モリテックス 製、水分散物を粉体化)も使用することができる。
【0081】
次に、本発明で使用しうる有機化合物の微粒子としては、例えばシリコーン樹脂、フッ素樹脂およびアクリル樹脂等のポリマーが好ましく、シリコーン樹脂が特に好ましい。前記シリコーン樹脂としては、三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えばトスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120および同240(以上、東芝シリコーン(株)製)等の商品名を有する市販品を使用できる。さらに、無機化合物からなる微粒子は、セルロースエステルフィルム中で安定に存在させるために表面処理されているものを用いることが好ましい。表面処理法としては、カップリング剤を使用する化学的表面処理法と、プラズマ放電処理やコロナ放電処理のような物理的表面処理法とがあるが、本発明においてはカップリング剤を使用することが好ましい。カップリング剤としては、オルガノアルコキシ金属化合物(例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等)が好ましく用いられる。
【0082】
なお、本発明では、予めセルロースエステルに所望量よりも高濃度の安定剤を有する微粒子含有マスターペレットを作製しておいてもよい。これにより、微粒子の分散性のよいセルロースエステルペレットが作製可能となり、優れた面状と表面の滑り性(キシミ防止)を備えたセルロースエステルフィルムをハンドリング性よく製造することが可能になる。この時、別途微粒子を含まないセルロースエステルのマスターペレット(セルロースエステルマスターペレット)を作製しておくことが必要である。その場合、微粒子含有マスターペレットには、同時に上記の安定剤を含有させておくことが好ましい。また、微粒子含有マスターペレット中の微粒子の添加量は特に制限されないが、好ましくはセルロースエステルフィルム中の微粒子最終濃度の2〜50倍が好ましく、より好ましくは2〜30倍であり、さらに好ましくは3〜25倍であり、特に好ましくは4〜20倍である。セルロースエステルマスターペレットと微粒子含有マスターペレットの混合には、前記した混合機を利用することができる。なお、微粒子含有マスターペレットを作製する段階で、微粒子以外の添加剤(安定剤、可塑剤、その他の添加剤など)を一緒に添加してもよく、その場合も微粒子以外の添加剤の濃度は、好ましくはセルロースエステルフィルム中の所望添加剤最終濃度の2〜50倍が好ましく、より好ましくは2〜30倍であり、さらに好ましくは3〜25倍であり、特に好ましくは4〜20倍である。
【0083】
(光学調整剤)
本発明では、セルロースエステルに、光学異方性をコントロールするための光学調整剤(レターデーションコントロール剤、特にレターデーション上昇剤)を添加してもよい。本発明では、セルロースエステルフィルムのレターデーションを調整するため、少なくとも一個の芳香族環を有する芳香族化合物をレターデーションコントロール剤として使用することが好ましい。芳香族化合物は、セルロースエステルに対して、通常0.01〜20質量%の範囲で使用する。芳香族化合物は、セルロースエステルに対して、0.05〜15質量%の範囲で使用することが好ましく、0.1〜10質量%の範囲で使用することがさらに好ましい。このとき、2種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。また、ここでいう芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環も含まれる。芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、最多の二重結合を有する。ヘテロ環に含まれるヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。芳香族性ヘテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が含まれる。
【0084】
(離型剤)
本発明におけるセルロースエステルには、フッ素原子を有する化合物を添加することが好ましい。前記フッ素原子を有する化合物は、離型剤としての作用を発現でき、低分子量化合物であっても重合体であってもよい。重合体としては、特開2001−269564号公報に記載の重合体を挙げることができる。前記フッ素原子を有する重合体として好ましいものは、フッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体を必須成分として含有してなる単量体を重合せしめた重合体である。前記重合体に係わるフッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体としては、分子中にエチレン性不飽和基とフッ素化アルキル基とを有する化合物であれば特に制限はない。またフッ素原子を有する界面活性剤も利用でき、特に非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0085】
(PF’−1) 2−ヘプタデシルフルオロオクチル−エチルアクリレート/ブチルアクリレート=30/70(モル比、分子量3000)
(PF’−2) 2−ヘプタデシルフルオロオクチル−エチルアクリレート/2−エチルヘキシルアクリレート=25/75(モル比、分子量5000)
(PF’−3) 2−トリデカフルオロヘキシル−エチルアクリレート/ブチルアクリレート=20/80(モル比、分子量8000)
(PF’−4) 2−トリデカフルオロヘキシル−エチルアクリレート/ブチルメクリレート=15/85(モル比、分子量5000)
(PF’−8) 2−ヘプタデシルフルオロオクチル−エチルアクリレート/ポリ(平均重合度5)オキシエチレンメタクリレート/ブチルアクリレート=30/20/50(モル比、分子量9000)
(PF’−9) 2−トリデカフルオロヘキシル−エチルアクリレート/ポリ(平均重合度5)オキシエチレンメタクリレート/2−エチルヘキシルアクリレート/メチルアクリレート/トリエチレングリコールジメタクリレート=30/20/30/15/5(モル比、分子量3000)
(PF’−10) 2−トリデカフルオロヘキシル−エチルアクリレート/ポリ(平均重合度5)オキシエチレンアクリレート/2−ブチルアクリレート/メチルメタクリレート/テトラエチレングリコールジメタクリレート=30/25/25/15/5(モル比、分子量3500)
(PF’−11) 2−トリデカフルオロヘキシル−エチルアクリレート/ポリ(平均重合度5)オキシエチレンメタクリレート/2−ヘキシルアクリレート/メチルメタクリレート/テトラエチレングリコールジメタクリレート=30/25/25/10(モル比、分子量6000)
(PF’−12) 2−トリデカフルオロヘキシル−エチルアクリレート/ポリ(平均重合度5)オキシエチレンメタクリレート/2−ヘキシルアクリレート/メチルメタクリレート=30/25/25/20(モル比、分子量6000)
(PF’−13) 2−ヘプタデシルフルオロオクチル−エチルアクリレート/ポリ(平均重合度5)オキシエチレンメタクリレート/2−ヘキシルアクリレート/メチルメタクリレート=25/25/30/20(モル比、分子量8000)
(PF’−14) 2−ヘプタデシルフルオロオクチル−エチルアクリレート/ポリ(平均重合度5)オキシエチレンメタクリレート/2−ヘキシルアクリレート/スチレン=30/25/35/10(モル比、分子量9000)
【0086】
《セルロースエステルフィルムの製造方法》
以下に、安定剤を含有するセルロースエステルフィルムの製造方法について、詳細に記述する。なお、本発明のセルロースエステルフィルムは、これらの方法により製造されたものに限定されるものではない。
【0087】
(1)ペレット化
本発明では、セルロースエステルと安定剤やその他の添加物を含むセルロースエステル組成物を、溶融製膜に先立ち混合してペレット化しておくのが好ましい。ペレット化前にセルロースエステル組成物は事前に乾燥しておくことが好ましい。その場合の乾燥後の含水率は、0.5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.3質量%以下であり、特に好ましくは0.2質量%以下である。
【0088】
ベント式押出機を用いることで、これを代用することもできる。ペレット化は、上記セルロースエステル組成物を2軸或いは1軸混練押出機を用い180℃〜240℃で溶融後、ヌードル状に押出したものを水中で固化し裁断することで作成することができる。水中に直接押出ながらカットするアンダーウオーターカット法でペレット化を行ってもよい。好ましいペレットの大きさは断面積が1mm2〜300mm2、長さが1mm〜30mmであり、より好ましくは断面積が2mm2〜100mm2、長さが1.5mm〜10mmである。押出機の回転数は10rpm〜1000rpmが好ましく、より好ましくは30rpm〜500rpm以下である。ペレット化における押出滞留時間は通常10秒〜30分、好ましくは10秒〜3分である。なおペレット化の際には、酸素を除去あるいは低減しておくことが好ましく、その場合は不活性ガス(例えば、窒素、ヘリウム、アルゴンなど)や減圧状態にしておくことで達成できる、好ましい酸素濃度としては10容量%以下であり、より好ましくは5容量%以下であり、さらに好ましくは2容量%以下であり、特には0.5質量%以下である。 なお、本発明の亜リン酸エステル系安定剤とエポキシ系安定剤の添加方法については前述したように特に限定されないが、一般にはペレット化時に混入させることが好ましく推奨される。ただし、ペレット化時の溶融温度を低温状態にして、予めセルロースエステルのみを溶融ペレット化したセルロースエステルのマスターペレットに対して、亜リン酸エステル系安定剤とエポキシ系安定剤やその他の添加剤を高濃度に添加し溶融してペレット化した安定剤添加マスターペレットを、溶融製膜時に所望の安定剤添加量になるように、溶融押出し機に投入することも好ましい。
【0089】
(2)溶融製膜
本発明のセルロースエステルフィルムは溶融製膜法により製膜する。
(乾燥)
溶融製膜に先立ち、セルロースエステルおよび亜リン酸エステル系安定剤とエポキシ系安定剤やその他の添加剤、さらに予め作製されたマスターペレット(セルロースエステルマスターペレット、亜リン酸エステル系安定剤とエポキシ系安定剤を含有するマスターペレット、添加剤含有マスターペレットなど)中の水分を乾燥して含水率を0.5質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下に、特に好ましくは0.1質量%以下にすることが好ましい。このための乾燥温度は40〜180℃であることが好ましく、さらに乾燥温度は60〜150℃であることが好ましく、特に好ましい乾燥温度は80〜130℃である。また、乾燥風量は好ましくは20〜400m3/時間であり、特に好ましくは100〜250m3/時間である。乾燥風の露点は好ましくは0〜−60℃であり、より好ましくは−20〜−40℃である。この時、乾燥風は水分を除去したものであることが好ましい。そのような乾燥風は、水分除去装置を通過させたり、窒素ガスを吹き付けたりすることによって調製できる。さらに乾燥時に、酸素を除去あるいは低減しておくことが好ましい。具体的には、不活性ガス(例えば、窒素、ヘリウム、アルゴンなど)を用いたり、減圧状態にしたりしておくことで酸素を除去あるいは低減することができる。好ましい酸素濃度は10容量%以下であり、より好ましくは5容量%以下であり、さらに好ましくは2容量%以下であり、特に好ましくは0.5質量%以下である。
【0090】
(溶融押出し)
セルロースエステル組成物は押出機の供給口を介してシリンダー内に供給される。図1は、本発明で用いることができる典型的な押出機22の概略図を示したものである。シリンダー32内は供給口40側から順に、供給口から供給したセルロースエステル組成物を定量輸送する供給部(領域A)とセルロースエステル組成物を溶融混練・圧縮する圧縮部(領域B)と溶融混練・圧縮されたセルロースエステル組成物を計量する計量部(領域C)とで構成される。該セルロースエステル組成物は上述の方法により水分量を低減させるために、乾燥することが好ましいが、残存する酸素による溶融セルロースエステルの酸化を防止するために、押出機内を不活性(窒素等)気流中、あるいはベント付き押出し機を用いて真空排気しながら実施するのがより好ましい。押出機のスクリュー圧縮比は2.5〜4.5に設定され、L/Dは20〜70に設定されていることが好ましい。
【0091】
ここでスクリュー圧縮比とは供給部Aと計量部Cとの容積比、即ち(供給部Aの単位長さあたりの容積)÷(計量部Cの単位長さあたりの容積)で表され、供給部Aのスクリュー軸の外径d1、計量部Cのスクリュー軸の外径d2、供給部Aの溝部径a1、および計量部Cの溝部径a2とを使用して算出される。また、L/Dとはシリンダー内径に対するシリンダー長さの比である。製造後のセルロースエステルフィルムに黄色味が出にくく且つフィルム強度が強くさらに延伸破断しにくくするためには、スクリュー圧縮比は2.5〜4.5の範囲が好ましく、より好ましくは2.8〜4.2、特に好ましいのは3.0〜4.0の範囲である。
【0092】
製造後のセルロースエステルフィルムに黄色味が出にくく且つフィルム強度が強くさらに延伸破断しにくくするためには、L/Dは20〜70の範囲が好ましく、より好ましくは22〜65の範囲、特に好ましくは24〜50の範囲であり、押出温度は好ましくは180℃〜240℃であり、より好ましくは190℃〜230℃、さらに好ましくは195℃〜230℃の範囲である。この時の温度は、押し出し機の最下流部の温度を示すものである。押出機内での温度が240℃を超える場合には、押出機とダイとの間に冷却機を設けるようにすることが好ましい。
【0093】
押し出し機の種類として、一般的には設備コストの比較的安い単軸押し出し機が用いられることが多く、フルフライト、マドック、ダルメージ等のスクリュータイプがあるが、熱安定性の比較的悪いセルロースエステルには、フルフライトタイプが好ましい。また、スクリューセグメントを変更することにより、途中でベント口を設けて不要な揮発成分を脱揮させながら押出ができる二軸押出機を用いることが可能である。二軸押し出し機には大きく分類して同方向と異方向のタイプがありどちらも用いることが可能であるが、滞留部分が発生し難くセルフクリーニング性能の高い同方向回転のタイプが好ましい。二軸押出機は混練性が高く、セルロースエステル組成物の供給性能が高いため、低温での押出が可能となるため、セルロースエステル組成物の製膜に適している。ベント口を適正に配置することにより、未乾燥状態でのセルロールアシレートペレットやパウダーをそのまま使用することも可能である。また、製膜途中で出たフィルムのミミ等も乾燥させることなしにそのまま再利用することもできる。
【0094】
なお、スクリューの直径は目標とする単位時間あたりの押出量によって異なるが、好ましくは10mm〜300mm、より好ましくは20mm〜250mm、さらに好ましくは30mm〜150mmである。また、厚み精度を向上させるためには、吐出量の変動を減少させることが重要であり、押出機出機とダイスの間にギアポンプを設けて、ギアポンプから一定量のセルロースエステル組成物を供給することは効果がある。ギアポンプとは、ドライブギアとドリブンギアとからなる一対のギアが互いに噛み合った状態で収容され、ドライブギアを駆動して両ギアを噛み合い回転させることにより、ハウジングに形成された吸引口から溶融状態のセルロースエステル組成物をキャビティ内に吸引し、同じくハウジングに形成された吐出口からそのセルロースエステル組成物を一定量吐出するものである。押出機先端部分の圧力に若干の変動があっても、ギアポンプを用いることにより変動を吸収し、製膜装置下流の圧力の変動は非常に小さなものとなり、厚み変動が改善される。ギアポンプを用いることにより、ダイ部分の圧力の変動巾を±1%以内にすることが可能である。
【0095】
ギアポンプによる定量供給性能を向上させるために、スクリューの回転数を変化させて、ギアポンプ前の圧力を一定に制御する方法も用いることができる。また、ギアポンプのギアの変動を解消した3枚以上のギアを用いた高精度ギアポンプも有効である。ギアポンプを用いるその他のメリットとしては、スクリュー先端部の圧力を下げて製膜できることから、エネルギー消費の軽減・セルロースエステル組成物の温度上昇の防止・輸送効率の向上・押出機内での滞留時間の短縮・押出機のL/Dの短縮が期待できる。また、異物除去のために、フィルターを用いる場合には、ギアポンプが無いと、ろ過圧の上昇と共に、スクリューから供給されるセルロースエステル組成物量が変動したりすることがあるが、ギアポンプを組み合わせて用いることにより解消が可能である。一方、ギアポンプのデメリットとしては、設備の選定方法によっては、設備の長さが長くなり、セルロースエステル組成物の滞留時間が長くなることと、ギアポンプ部のせん断応力によって分子鎖の切断を引き起こすことがあり、注意が必要である。
【0096】
セルロースエステル組成物が供給口から押出機に入ってからダイスから出るまでの好ましい滞留時間は2分〜60分であり、より好ましくは3分〜40分であり、さらに好ましくは4分〜30分である。ギアポンプの軸受循環用ポリマーの流れが悪くなることにより、駆動部と軸受部におけるポリマーによるシールが悪くなり、計量および送液押し出し圧力の変動が大きくなったりする問題が発生するため、セルロースエステル組成物の溶融粘度に合わせたギアポンプの設計(特にクリアランス)が必要である。また、場合によっては、ギアポンプの滞留部分がセルロースエステル組成物の劣化の原因となるため、滞留のできるだけ少ない構造が好ましい。押出機とギアポンプあるいはギアポンプとダイ等をつなぐポリマー管やアダプタについても、できるだけ滞留の少ない設計が必要であり、且つ溶融粘度の温度依存性の高いセルロースエステル組成物の押出圧力安定化のためには、温度の変動をできるだけ小さくすることが好ましい。一般的には、ポリマー管の加熱には設備コストの安価なバンドヒーターが用いられることが多いが、温度変動のより少ないアルミ鋳込みヒーターを用いることがより好ましい。さらに押出し機内でG'、G”、tanδ、ηに最大値、最小値を持たせるために、押出し機のバレルを3〜20に分割したヒーターで加熱し溶融することが好ましい。
【0097】
上記の如く構成された押出機によってセルロースエステル組成物が溶融され、その溶融セルロースエステル組成物が吐出口からダイに連続的に送られる。ダイはダイス内の溶融セルロースエステル組成物の滞留が少ない設計であれば、一般的に用いられるTダイ、フィッシュテールダイ、ハンガーコートダイのいずれのタイプでも構わない。また、ダイの直前に温度の均一性を向上させるためのスタティックミキサーを入れることも問題ない。ダイ出口部分のクリアランスは一般的にフィルム厚みの1.0〜5.0倍がよく、好ましくは1.2〜3倍、さらに好ましくは1.3〜2倍である。リップクリアランスがフィルム厚みよりも小さ過ぎる場合には製膜により面状の良好なシートを得ることが困難になる傾向がある。また、リップクリアランスがフィルム厚みよりも大き過ぎる場合にはシートの厚み精度が低下する傾向がある。
【0098】
ダイはフィルムの厚み精度を決定する非常に重要な設備であり、通常厚み調整は40〜50mm間隔で調整可能であるが、好ましくは35mm間隔以下、さらに好ましくは25mm間隔以下でフィルム厚み調整が可能なタイプが好ましい。また、セルロールエステルは、溶融粘度の温度依存性、せん断速度依存性が高いことから、ダイの温度ムラや巾方向の流速ムラのできるだけ少ない設計が重要である。また、下流のフィルム厚みを計測して、厚み偏差を計算し、その結果をダイの厚み調整にフィードバックさせる自動厚み調整ダイも長期連続生産の厚み変動の低減に有効である。フィルムの製造は単層製膜装置が一般的に用いられるが、場合によっては機能層を外層に設けために多層製膜装置を用いて2種以上の構造を有するフィルムの製造も可能である。一般的には機能層を表層に薄く積層することが好ましいが、特に層比を限定するものではない。
【0099】
セルロースエステル組成物中の異物ろ過のためや、異物によるギアポンプ損傷を避けるために、押し出し機出口にフィルター濾材を設けるいわゆるブレーカープレート式のろ過を行なうことが好ましい。また精度高く異物ろ過をするために、ギアポンプ通過後にいわゆるリーフ型ディスクフィルターを組み込んだ濾過装置を設けることが好ましい。特に、金属メッシュフィルター等で、ろ過を行なうことが好ましい。メッシュの目の大きさは2〜30μmが好ましく、より好ましくは2〜20μm、さらに好ましくは2〜10μmである。この際、加圧を行いろ過に要する時間を、できるだけ短縮することが好ましい。ろ過圧は、0.5MPa〜15MPaが好ましく、2Pa〜15MPaがさらに好ましく、10Pa〜15MPaがもっとも好ましい。ろ過圧は、高いほうが濾過時間を短くすることができるので好ましいが、フィルターの破損が起こらない範囲の高圧を用いることが好ましい。ろ過の時の温度は180℃〜230℃が好ましく、180℃〜220℃がさらに好ましく、190〜220℃が特に好ましい。ろ過時の温度が該上限値以下であれば、熱劣化が進行するなどの問題が生じにくいので好ましく、該下限値以上であれば、ろ過に時間がかかりすぎて熱劣化が進行するなどの不都合が生じにくいので好ましい。ろ過に要する時間はできるだけ短くして、フィルムの黄変を防止するのがよい。フィルター1cm2当たり1分間のろ過量は、0.05〜100cm3が好ましく、0.1〜100cm3がさらに好ましく、0.5〜100cm3がもっとも好ましい。
【0100】
(3)タッチロール製膜
本発明では溶融後ダイから押出した後、キャスティングドラム上でタッチロールを用いて製膜することがより好ましい。この方法はダイから出たメルトをキャスティングドラムとタッチロールで挟み込んで冷却固化するものである。これを用いることで、上述のフィルムに形成された微細凹凸を平滑にすることができLCDでのボケを軽減できる。タッチロール表面は、ゴム、テフロン(登録商標)等の樹脂でもよく、金属ロールでもよい。さらに、金属ロールの厚みを薄くすることでタッチしたときの圧力によりロール表面が若干くぼみ、圧着面積が広くなりフレキシブルロールと呼ばれる様なロールを用いることも可能である。このようなタッチロールは、ダイから出たメルトをロール間で挟む時に生じる残留歪を低減するために、弾性を有するものが好ましい。ロールに弾性を付与するためには、ロールの外筒厚みを通常のロールよりも薄くすることが必要であり、外筒の肉厚Zは、0.05mm〜7.0mmが好ましく、より好ましくは0.2mm〜5.0mmである。さらに好ましくは0.3mm〜2.0mmである。例えば、外筒厚みを薄くすることにより、弾性を付与したタイプや、金属シャフトの上に弾性体層を設け、その上に外筒を被せ、弾性体層と外筒の間に液状媒体層を満たすことにより極薄の外筒によりタッチロール製膜を可能にしたものが挙げられる。キャスティングロール、タッチロールは、表面が鏡面であることが好ましく、算術平均高さRaが100nm以下、好ましくは50nm以下、さらに好ましくは25nm以下である。具体的には例えば特開平11−314263号、特開2002−36332号、特開平11−235747号、特開2004−216717号、特開2003−145609号各公報および国際公開第97/28950号パンフレット記載のものを利用できる。
【0101】
このようにタッチロールは薄い外筒の内側を流体が満たされているため、キャスティングロールとに接触させるとその押圧で凹状に弾性変形する。従って、タッチロールとキャスティングロールは冷却ロールと面接触するため押圧が分散され、低い面圧を達成できる。このためこの間に挟まれたフィルムに残留歪を残すことなく、表面の微細凹凸を矯正できる。好ましいタッチロールの線圧は3kg/cm〜100kg/cm、より好ましくは5kg/cm〜80kg/cm、さらに好ましくは7kg/cm〜60kg/cmである。ここで云う線圧とはタッチロールに加える力をダイの吐出口の幅で割った値である。線圧は上記範囲未満ではタッチロールの押し付けが弱く微細凹凸を低減する効果は充分に得られない。一方上記範囲を超えるとタッチロールが歪み、キャスティングロール全域にわたって均一にタッチすることができず、全幅にわたって微細凹凸を軽減できない。タッチロールは60℃〜160℃、より好ましくは70℃〜150℃、さらに好ましくは80℃〜140℃に設定するのが好ましい。このような温度制御はこれらのロール内部に温調した液体、気体を通すことで達成できる。
【0102】
(4)延伸
本発明においては、フィルム特性をコントロールするために、延伸工程を行ってフィルムを延伸することも好ましい。例えば、未延伸フィルムを延伸し、Re,Rthを制御することができる。この時、延伸温度はTg〜(Tg+50℃)が好ましく、さらに好ましくは(Tg+5℃)〜(Tg+20℃)である。好ましい延伸倍率は少なくとも一方に1%〜300%、より好ましくは3%〜200%である。一方の延伸倍率を他方より大きくして延伸するほうがより好ましく、小さい方の延伸倍率は1%〜30%が好ましく、より好ましくは3%〜20%であり、大きいほうの延伸倍率は30%〜300%が好ましく、より好ましくは40%〜150%である。これらの延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。ここでいう延伸倍率は、以下の式を用いて求めたものである。
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/(延伸前の長さ)
このような延伸はニップロール、テンター等を用いて実施することが好ましい。また、特開2000−37772号公報、特開2001−113591号公報、特開2002−103445号公報に記載の同時2軸延伸法を用いてもよい。
【0103】
また製膜方向(長手方向)と遅相軸とのなす角度θは、縦延伸の場合0±3°が好ましく、より好ましくは0±1°である。横延伸の場合は、90±3°あるいは−90±3°が好ましく、より好ましくは90±1°あるいは−90±1°である。延伸後のセルロースエステルフィルムの厚みは20μm〜200μmが好ましく、より好ましくは30μm〜140μmである。厚みムラは長手方向、幅方向いずれも0%〜3%が好ましく、さらに好ましくは0%〜1%である。ここでいう厚さムラは、セルロースエステルフィルムの長さ方向50m毎のそれぞれの領域において、幅方向に端部から7個所ずつサンプリングして、これらのサンプルを25℃、相対湿度60%に3時間調湿して、同一環境下で厚さを測定し、得られた数値の最大値と最小値の差を計算することにより得られる。
【0104】
《セルロースエステルフィルムの特性》
(光学特性)
次に、本発明のセルロースエステルフィルムの好ましい光学特性について説明する。
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。詳細な測定方法は後述する。
【0105】
本発明のセルロースエステルフィルムの正面レターデーション(Re)は0〜300nmであり、且つ、厚さ方向のレターデーション(Rth)の絶対値が0〜700nmであることが好ましい。さらには、(Re)が0〜250nmであり、(Rth)の絶対値が0〜400nmであることがより好ましく、特には(Re)が0〜200nmであり、(Rth)の絶対値が0〜350nmであることが好ましい。特に、本発明のセルロースエステルフィルムは偏光板保護膜としての利用が有効であり、その場合は、Reが0〜20nmであり、Rthが0〜80nmであることが好ましく、Reが0〜10nm、Rthが0〜60nmであることがより好ましい。
【0106】
本発明のセルロースエステルフィルムは、湿度変化に伴う光学特性変動の問題を改良することができるものであり、25℃における相対湿度10%の光学特性と80%の光学特性との差が小さいことを一つの特徴としている。湿度変化による光学特性変動は、ReとRthの湿度変化による変化量の絶対値で評価することができる。すなわち、Reの湿度変化(nm)は、Re(相対湿度80%)とRe(相対湿度10%)との差の絶対値であり、Rthの湿度変化(nm)は、Rth(相対湿度80%)とRth(相対湿度10%)との差の絶対値で表わされる。本発明のセルロースエステルフィルムは、Reの湿度変化が10nm以下であることが好ましく、さらには5nm以下を実現することができ、さらに1nm以下も実現することができる。また、Rth湿度変化は、25nm以下であることが好ましく、さらには20nm以下を実現することができ、さらに15nm以下も実現することができる。従来のセルローストリアセテートフィルムに比較すると、本発明のセルロースエステルフィルムは湿度変化量が2/3〜1/2に抑えられている。
【0107】
本発明のセルロースエステルフィルムは、波長に対する光学特性の挙動をコントロールすることも可能である。すなわち、波長400nmおよび700nmにおけるそれぞれのRe(400)、Re(700)の差の絶対値が0〜15nmであることが好ましく、Rth(400)、Rth(700)の差の絶対値が0〜35nmであることが好ましい。このことを式で表わすと、本発明のセルロースエステルフィルムは、下記式(A−1)および(A−2)を満たすことが好ましい。
式(A−1) 0≦|Re(700)−Re(400)|≦15nm
式(A−2) 0≦|Rth(700)−Rth(400)|≦35nm
(式中、Re(400)およびRe(700)は、波長400nmおよび700nmにおける正面レターデーション(Re)を表し、Rth(400)およびRth(700)は、波長400nmおよび700nmにおける厚さ方向のレターデーション(Rth)を表す。)
【0108】
本発明のセルロースエステルフィルムは、ReムラとRthムラが抑えられている。ここでいうReムラ、Rthムラは、セルロースエステルフィルムの長さ方向50m毎のそれぞれの領域において、幅方向に端部から7個所づつサンプリングして各サンプルを用意し、これらのサンプルを25℃、相対湿度60%に3時間調湿して、同一環境下でRe、Rthを測定し、得られた数値の最大値と最小値の差を計算することにより得られる。本発明のセルロースエステルフィルムは、ReムラとRthムラがそれぞれ3.0nm未満であることが好ましく、1.0nm未満であることがより好ましく、0.8nm以下であることがより好ましく、0.6nm以下であることがさらに好ましい。なお、上記のサンプルを採取することができない場合は、これに準じた方法によりReムラとRthムラを計算する。
【0109】
また、本発明のセルロースエステルフィルムでは、25℃・相対湿度60%環境下で波長590nmにおける面内方向の固有複屈折が0〜0.001であることが好ましく、厚さ方向の固有複屈折の絶対値が0〜0.003であることが好ましい。より好ましくは、面内方向の固有複屈折が0〜0.0008であり、厚さ方向の固有複屈折の絶対値が0〜0.0025である。さらに好ましくは、面内方向の固有複屈折が0〜0.0006であり、厚さ方向の固有複屈折の絶対値が0〜0.001である。
【0110】
(軸ズレ)
本発明のセルロースエステルフィルムは、光学遅相軸が流延方向あるいは幅方向に対して平行あるいは直角であることが好ましい。特に延伸処理を施した場合には、流延方向に延伸した場合は0°に近いほど好ましい。具体的には、0±3°がより好ましく、さらに好ましくは0±1.5°であり、特に好ましくは0±0.5°である。幅方向に延伸した場合は、90±3°あるいは−90±3°が好ましく、より好ましくは90±1.5°あるいは−90±1.5°、さらに好ましくは90±0.5°あるいは−90±0.5°である。
【0111】
(弾性率、破断進度、熱寸法変化、透水率、平衡含水率)
本発明のセルロースエステルフィルムの弾性率は、1.5kN/mm2〜3.5kN/mm2であることが好ましく、より好ましくは1.8kN/mm2〜2.6kN/mm2である。破断伸度は3%〜300%が好ましい。Tgは95℃〜145℃が好ましい。80℃1日での熱寸法変化は縦、横両方向とも0%〜±1%が好ましく、さらに好ましくは0%〜±0.3%である。40℃/相対湿度90%での透水率は300g/m2・日〜1000g/m2・日が好ましく、さらに好ましくは500g/m2・日〜800g/m2・日である。25℃/相対湿度80%での平衡含水率は1質量%〜4質量%が好ましく、さらに好ましくは1.5質量%〜2.5質量%である。
【0112】
(残留溶媒量)
本発明のセルロースエステルフィルムには、残留溶媒が含まれていないか、含まれていても極めて少ない。残留溶媒量は0.01質量%以下であることが好ましく、ゼロであることが最も好ましい。特に、溶融製膜による本発明の製造方法では、製膜時に溶媒を使用しないため、製造されるセルロースエステルフィルムにも溶媒が含まれない点で極めて好ましい。
【0113】
(膜厚とムラ)
本発明のセルロースエステルフィルムの膜厚は、20〜300μmであることを特徴とし、より好ましくは30μm〜200μm、さらに好ましくは30μm〜150μm、特に好ましくは40〜120μmである。したがって、延伸することを前提としたときの未延伸フィルムの膜厚は、延伸倍率により予め厚めの原反押し出し膜厚としておくことが好ましい。本発明のセルロースエステルフィルムの厚みムラは、厚さ方向、幅方向いずれも0〜5μmが好ましく、より好ましくは0〜3μm、さらに好ましくは0〜2μmである。また製膜方向(長手方向)と、フィルムのReの遅相軸とのなす角度θは0°、+90°もしくは−90°に近いほど好ましい。
【0114】
(キシミ値)
本発明では、セルロースエステルフィルムに微粒子あるいは滑り剤を添加することでキシミ値を軽減し搬送性を改良することができる。本発明において、セルロースエステルフィルムの動的および静的キシミ値は共に、0.2〜1.5であることが好ましく、より好ましくは0.2〜1.3であり、さらに好ましくは0.256〜1.0である。微粒子の存在状態が粗大である場合は、そのキシミ値が小さくなる場合と大きくなる場合があり、共に搬送性は好ましくないばかりか、傷付きの発生を伴い推奨されない。キシミ値の測定方法については、後述する。
【0115】
(算術平均粗さ)
微粒子を含有するセルロースエステルフィルムは、その表面の粗さが適度な範囲内にある。表面粗さの程度は、一般に用いられている算術平均粗さ(Ra)で表される。本発明のセルロースエステルフィルムの算術平均粗さ(Ra)は、1nm〜500nmであることが好ましく、より好ましくは1nm〜250nmであり、特に好ましくは1nm〜200nmである。算術平均粗さ(Ra)の測定は、一般に使用されている接触式あるいは非接触式表面粗さ測定機で求めることができる。
【0116】
(透過率)
本発明のセルロースエステルフィルムの透過率は、好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは91%以上であり、特に好ましくは92%以上である。透過率は、フィルム試料を20mm×70mmに切り出して、25℃・相対湿度60%で透明度測定器(AKA光電管比色計、KOTAKI製作所社製)で可視光(615nm)の透過率を測定することにより得られる。
【0117】
(ヘイズ)
本発明のセルロースエステルフィルムは、ヘイズが0〜1.5%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0〜1.2%であり、さらに好ましくは0〜0.8%であり、特に好ましくは0.01〜0.5%である。ヘイズは、フィルム試料を40mm×80mmに切り出して、25℃・相対湿度60%においてヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)を用いてJIS K−6714に従って測定する。
【0118】
前述した延伸セルロースエステルフィルムの主な好ましい特性を以下に記述する。引張り弾性率は1.5kN/mm2以上3.0kN/mm2未満が好ましく、より好ましくは1.8kN/mm2〜2.6kN/mm2である。破断伸度は3%〜100%が好ましく、より好ましくは8%〜50%である。Tgは95℃〜145℃が好ましく、より好ましくは100℃〜140℃であり、特に好ましくは105℃〜135℃である。80℃1日での熱寸法変化は縦、横両方向とも0%〜±1%が好ましく、さらに好ましくは0%〜±0.3%である。40℃相対湿度90%での透水率は300g/m2・日〜1000g/m2・日が好ましく、さらに好ましくは500g/m2・日〜800g/m2・日である。25℃相対湿度80%での平衡含水率は1質量%〜4質量%が好ましく、さらに好ましくは1.5質量%〜2.5質量%である。ヘイズは0%〜3%が好ましく、より好ましくは0%〜1%以下である。全光透過率は90%〜100%が好ましい。
【0119】
(厚み)
本発明のセルロースエステルフィルムの膜厚は20〜300μmであることを特徴とし、より好ましくは20μm〜200μm、さらに好ましくはは30μm〜150μmが好ましく、特には40〜120μmが好ましい。したがって、延伸する場合は未延伸フィルムの膜厚は、延伸倍率により予め厚めの原反押し出し膜厚として所望のセルロースエステルフィルムが作製されるものである。また製膜方向(長手方向)と、フィルムのReの遅相軸とのなす角度θが0°、+90°もしくは−90°に近いほど好ましい。本発明のセルロースエステルフィルムの厚みムラは、厚み方向、幅方向いずれも0〜5μmが好ましく、より好ましくは0〜3μm、さらに好ましくは0〜2μmである。
【0120】
《セルロースエステルフィルムの機能化》
−表面処理−
次に本発明のセルロースエステルフィルムについて、さらに機能を付与する場合の好ましい態様を記述する。まずセルロースエステルフィルムの表面処理方法について記述する。セルロースエステルフィルムは、場合により表面処理を行なうことによって、セルロースエステルフィルムと各機能層(例えば、下塗層およびバック層)との接着性の向上を達成することができる。前記表面処理としては、例えば、グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸またはアルカリ処理を用いることができる。前記グロー放電処理とは、10-3〜20Torr(約0.13〜2666Pa)の低圧ガス下でおこる、いわゆる低温プラズマのことも示すが、大気圧下でのグロー放電処理でもよい。
【0121】
まず、低圧下でのグロー放電処理は、米国特許第3,462,335号明細書、同3,761,299号明細書、同4,072,769号明細書および英国特許第891,469号明細書に記載されている。また不活性ガス、酸化窒素類、有機化合物ガス等の特定のガス等を導入することも行われる。ポリマーの表面をグロー放電処理する際には大気圧でもよいし減圧下で実施されてもよい。また、グロー放電処理の雰囲気に酸素、窒素、ヘリウムあるいはアルゴンのような種々のガスや水を導入しながら実施してもよい。グロー放電処理時の真空度は0.005〜20Torr(0.67〜2666Pa)が好ましく、より好ましくは0.02〜2Torr(2.67〜267Pa)である。また、グロー放電処理時の電圧は500〜5000Vの間が好ましく、より好ましくは500〜3000Vである。使用する放電周波数は、直流から数千MHz、より好ましくは50Hz〜20MHz、さらに好ましくは1KHz〜1MHzである。また、放電処理強度は、0.01KV・A・分/m2〜5KV・A・分/m2が好ましく、より好ましくは0.15KV・A・分/m2〜1KV・A・分/m2である。
【0122】
本発明のセルロースエステルフィルムの表面処理としては、紫外線照射法も好ましく用いられる。紫外線照射法に使用される水銀灯は石英管からなる高圧水銀灯で、紫外線の波長が180nm〜380nmの間であるものが好ましい。紫外線照射の方法について、セルロースエステルフィルムの表面温度が150℃前後にまで上昇することが支持体性能上問題なければ、光源は主波長が365nmの高圧水銀灯ランプを使用することができる。また、低温処理が必要とされる場合には主波長が254nmの低圧水銀灯が好ましい。またオゾンレスタイプの高圧水銀ランプ、および低圧水銀ランプを使用する事も可能である。処理光量に関しては処理光量が多いほどセルロースエステルフィルムと被接着層との接着力は向上するが、光量の増加に伴い支持体が着色し、また支持体が脆くなるという問題が発生する。従って、365nmを主波長とする高圧水銀ランプで、照射光量20〜10000(mJ/cm2)が好ましく、より好ましくは50〜2000(mJ/cm2)である。254nmを主波長とする低圧水銀ランプの場合には、照射光量100〜10000(mJ/cm2)が好ましく、より好ましくは300〜1500(mJ/cm2)である。
【0123】
さらに本発明のセルロースエステルフィルムの表面処理としてはコロナ放電処理も好ましい。前記コロナ放電処理を行なうコロナ放電処理装置は、Pillar社製ソリッドステートコロナ処理機、LEPEL型表面処理機、VETAPHON型処理機等を用いることができる。コロナ放電処理は、空気中、常圧で行なうことができる。処理時の放電周波数は、5〜40kHz、より好ましくは10〜30kHzであり、波形は交流正弦波が好ましい。電極と誘電体ロールとのギャップクリアランスは0.1mm〜10mmが好ましく、より好ましくは1.0mm〜2.0mmである。放電は、放電帯域に設けられた誘電サポートローラーの上方で処理し、処理量は、0.3〜0.4KV・A・分/m2、より好ましくは0.34〜0.38KV・A・分/m2である。
【0124】
次に前記表面処理の一種である火炎処理について説明する。前記火炎処理に用いられるガスは、天然ガス、液化プロパンガス、都市ガスのいずれでもかまわないが、空気との混合比が重要である。天然ガス/空気の好ましい混合比は容積比で1/6〜1/10、好ましくは1/7〜1/9である。また、液化プロパンガス/空気の場合は1/14〜1/22、好ましくは1/16〜1/19、都市ガス/空気の場合は1/2〜1/8、好ましくは1/3〜1/7である。また、火炎処理量は1〜50Kcal/m2、より好ましくは3〜20Kcal/m2の範囲で行なうとよい。
【0125】
次に、本発明のセルロースエステルフィルムの表面処理として好ましく用いられるアルカリケン化処理を具体的に説明する。セルロースエステルフィルム表面をアルカリ溶液に浸漬した後、酸性溶液で中和し、水洗して乾燥するサイクルで行われることが好ましい。前記アルカリ溶液としては、水酸化カリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液が挙げられ、水酸化イオンの濃度は0.1mol/L〜4.0mol/Lであることが好ましく、0.5mol/L〜3.5mol/Lであることがさらに好ましい。前記アルカリ溶液の液温は、室温〜90℃の範囲が好ましく、40℃〜70℃がさらに好ましい。前記アルカリケン化処理はアルカリ溶液に浸漬した後、一般には水洗され、しかる後に酸性水溶液を通過させた後に、水洗して表面処理したセルロースエステルフィルムを得る。
【0126】
この際、酸性水溶液としては塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、蟻酸、クロロ酢酸、シュウ酸などの水溶液であり、その濃度は0.01mol/L〜3.0mol/Lであることが好ましく、0.05mol/L〜2.0mol/Lであることがさらに好ましい。アルカリケン化時間は、20〜600秒で実施されるがことが好ましくは、さらには30〜300秒が好ましく、特には40〜210秒であることが好ましい。また酸性溶液による中和は、20〜600秒で実施されることが好ましく、より好ましくは30〜250秒、特には40〜180秒であるであることが好ましい。さらに中和後の水洗については、20〜400秒で実施されることが好ましく、より好ましくは30〜300秒、特には40〜210秒であるであることが好ましい。これらの方法で得られた固体の表面エネルギーは、「ぬれの基礎と応用」(リアライズ社 1989.12.10発行)に記載のように接触角法、湿潤熱法、および吸着法により求めることができ、接触角法を用いることが好ましい。本発明のセルロースエステルフィルム表面の水に対する接触角(25℃/相対湿度60%)は、45°以下であることが好ましく、10〜45°であることがさらに好ましく、10〜40°が特に好ましく、10〜30°が最も好ましい。
【0127】
(接着層)
本発明のセルロースエステルフィルムは、機能性層を接着させるために、表面活性化処理をしたのち、直接セルロースエステルフィルム上に機能層を塗布して接着力を得る方法と、一旦何かしらの表面処理をした後、あるいは表面処理なしで、下塗層(接着層)を設け、この上に機能層を塗布する方法とがある。
前記下塗層の構成としても種々の工夫が行われており、例えば、1層の下塗り層を一層で構成する単層法や、第1層として支持体(セルロースエステルフィルム)によく接着する層(以下、「下塗第1層」と称する場合がある。)を設け、その上に第2層として機能層とよく接着する下塗り第2層を塗布する所謂重層法があり、特に限定されるものではない。
【0128】
また本発明のセルロースエステルフィルムには好ましい態様としては、偏光子と接着するための親水性バインダーからなる親水性バインダー層が設けられることである。前記親水性バインダーとしては、例えば、−COOM基含有の酢酸ビニル−マレイン酸共重合体化合物、または親水性セルロース誘導体(例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース等)、ポリビニルアルコール誘導体(例えば酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアセタール、ポリビニルホルマール、ポリビニルベンザール等)天然高分子化合物(例えばゼラチン、カゼインアラビアゴム等)、親水基含有ポリエステル誘導体(例えばスルホン基含有ポリエステル共重合体)が挙げられる。
【0129】
(導電性層)
本発明のセルロースエステルフィルムが利用される偏光板用保護膜の構成においては、フィルムの少なくとも一層に帯電防止層を設けたり、偏光子と接着するための親水性バインダー層が設けられることが好ましい。まず、前記導電性層について以下に説明する。前記導電性層に含まれる導電性素材としては、導電性金属酸化物や導電性ポリマーが好ましい。なお、蒸着やスパッタリングによる透明導電性膜でもよい。前記導電性金属酸化物の例としては、ZnO、TiO2、SnO2、Al23、In23、SiO2、MgO、BaO、MoO2、V25等、あるいはこれらの複合酸化物が好ましく、特にZnO、SnO2あるいはV25が好ましい。前記複合酸化物の異種原子例としては、Al、In、Ta、Sb、Nb、ハロゲン、Agの添加が効果的であり、添加量は0.01mol%〜25mol%の範囲が好ましい。
【0130】
また、これらの導電性を有する金属酸化物粉体の体積抵抗率は107Ω・cmであることが好ましく、特に105Ω・cm以下であることが好ましい。また、前記金属酸化物粉体の1次粒子サイズは100Å〜0.2μmであることが好ましく、前記導電性層は、これら凝集体の高次構造の長径が300Å〜6μmである特定の構造を有する粉体を体積分率で0.01%〜20%含んでいることが好ましい。この導電性微粒子(金属酸化物粉体)の使用量は0.01〜5.0g/m2が好ましく、特に0.005〜1g/m2が好ましい。これらの導電性層の電気抵抗は1012Ω(25℃・相対湿度10%)以下が好ましく、より好ましくは1010Ω以下、特に好ましくは109Ω以下である。さらに導電性材料として、有機電子伝導性材料も好ましく、例えば、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリアセチレン誘導体などを挙げることができる。
【0131】
(界面活性剤)
本発明のセルロースエステルフィルムの利用においては機能層の形成等に界面活性剤が好ましく用いられる。本発明における機能層の形成に使用される界面活性剤はその使用目的によって、分散剤、塗布剤、濡れ剤、帯電防止剤などに分類されるが、以下に述べる界面活性剤を適宜使用することで、それらの目的は達成できる。本発明で使用される界面活性剤は、ノニオン性、イオン性(アニオン、カチオン、ベタイン)いずれも使用できる。さらにフッ素系低分子界面活性剤も、有機溶媒中での塗布剤としたり、帯電防止剤としたりして好ましく用いられる。使用される層としてはセルロースエステルフィルム中でもよいし、その他の機能層のいずれでもよい。光学用途で利用される場合は、機能層の例としては下塗り層、中間層、配向制御層、屈折率制御層、保護層、防汚層、粘着層、バック下塗り層、バック層などである。その使用量は目的を達成するために必要な量であれば特に限定されないが、一般には添加する層の全質量に対して、0.0001〜5質量%が好ましく、さらには0.0005〜2質量%が好ましい。その場合の界面活性剤の塗設量は、1m2当り0.02〜1000mgが好ましく、0.05〜200mgが好ましい。
【0132】
(滑り層)
また、セルロースエステルフィルムはフィルム上に付与されるいずれかの層に滑り剤を含有させてもよく、特に最外層に含有させることが好ましい。用いられる滑り剤としては、例えば、特公昭53−292号公報に開示されているようなポリオルガノシロキサン;米国特許第4,275,146号明細書に開示されているような高級脂肪酸アミド;特公昭58−33541号公報、英国特許第927、446号明細書あるいは特開昭55−126238号および同58−90633号各公報に開示されているような高級脂肪酸エステル(炭素数10〜24の脂肪酸と炭素数10〜24のアルコールとのエステル);米国特許第3,933,516号明細書に開示されているような高級脂肪酸金属塩;特開昭58−50534号公報に開示されているような、直鎖高級脂肪酸と直鎖高級アルコールとのエステル;国際公開第90/108115.8号パンフレットに開示されているような分岐アルキル基を含む高級脂肪酸−高級アルコールエステル等が知られている。
【0133】
(機能層のマット剤)
本発明のセルロースエステルフィルムの機能層において、フィルムの易滑性や高湿度下での耐接着性の改良のためにマット剤を使用することが好ましい。その場合、表面の突起物の平均高さは0.005〜10μmが好ましく、より好ましくは0.01〜5μmである。また、その突起物は表面に多数ある程よいが、必要以上に多いとへイズが悪化する場合がある。好ましい突起物は突起物の平均高さを有する範囲であれば、例えば球形、不定形のいずれであってもよい。前記マット剤で突起物を形成する場合はその含有量が0.5〜600mg/m2であり、より好ましいのは1〜400mg/m2である。この際、使用されるマット剤としてはその組成において特に限定されず、無機物でも有機物でもよく2種類以上の混合物でもよい。
【0134】
(他の機能層)
本発明のセルロースエステルフィルムには、透明ハードコート層を設けることができる。前記透明ハードコート層としては活性線硬化性樹脂層あるいは熱硬化樹脂層が好ましく用いられる。前記活性線硬化性樹脂層とは紫外線や電子線のような活性線照射により架橋反応などを経て硬化する樹脂(活性線硬化性樹脂)を主たる成分とする層をいう。前記活性線硬化性樹脂としては紫外線硬化性樹脂や電子線硬化性樹脂などが代表的なものとして挙げられるが、紫外線や電子線以外の活性線照射によって硬化する樹脂でもよい。前記紫外線硬化性樹脂としては、例えば、紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂、または紫外線硬化型エポキシ樹脂等を挙げることができる。なお、特開2003−039014号公報には、塗布されたフィルムを巻き回しや幅方向に把持して乾燥し、活性線硬化物質を含む塗布液を硬化処理等することにより、高い平面性を有する発明が記載されており、この発明は本発明にも適応できる。
【0135】
本発明のセルロースエステルフィルムには、反射防止層を設けて反射防止フィルムを形成することもできる。反射防止層の構成としては、単層、多層等各種知られているが、多層のものとしては高屈折率層、低屈折率層を交互に積層した構造のものが一般的である。構成の例としては、透明基材側から高屈折率層/低屈折率層の2層の順から構成されたものや、屈折率の異なる3層を、中屈折率層(透明基材あるいはハードコート層よりも屈折率が高く、高屈折率層よりも屈折率の低い層)/高屈折率層/低屈折率層の順に積層されているもの等があり、さらに多くの反射防止層を積層するものも提案されている。中でも、耐久性、光学特性、コストや生産性などから、ハードコート層を有する基材上に、高屈折率層/中屈折率層/低屈折率層の順に塗布することが好ましい構成である。
【0136】
本発明のセルロースエステルフィルムは防眩層を設けることもできる。前記防眩層は表面に凹凸を有する構造をもたせることにより、防眩層表面または防眩層内部において光を散乱させることにより防眩機能発現させる為、微粒子物質を層中に含有した構成をとっている。これらの層として好ましい構成は以下に示される態様である。前記防眩層は膜厚0.5〜5.0μmであって、平均粒子サイズ0.25〜10μmの1種以上の微粒子を含む層であることが好ましい。また、前記防眩層は、平均粒子サイズが当該膜厚の1.1〜2倍の二酸化ケイ素粒子と平均粒子サイズが0.005μm〜0.1μmの二酸化ケイ素微粒子とを、例えば、ジアセチルセルロースのようなバインダー中に含有する層であって、これによって防眩機能を発揮することができる。この「粒子」としては、無機粒子および有機粒子が挙げられる。
【0137】
本発明のセルロースエステルフィルムには、カール防止加工を施すこともできる。カール防止加工とは、これを施した面を内側にして丸まろうとする機能を付与するものであり、前記カール防止加工を施すことによって、透明樹脂フィルムの片面に何らかの表面加工をして、両面に異なる程度・種類の表面加工を施した際に、その面を内側にしてカールしようとするのを防止する働きをするものである。前記カール防止層は基材の防眩層または反射防止層を有する側と反対側に設ける態様、あるいは、例えば透明樹脂フィルムの片面に易接着層を塗設する場合もある。また、逆面にカール防止加工を塗設するような態様も挙げられる。
【0138】
《本発明のセルロースエステルフィルムの利用》
本発明のセルロースエステルフィルムには、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁〜45頁に詳細に記載されている機能性層を組み合わせて、各光学フィルムを構成することが好ましい。中でも好ましいのが、偏光膜の付与(偏光板)、光学補償層の付与(光学補償シート)、反射防止層の付与(反射防止フィルム)である。
【0139】
(1)偏光膜の付与(偏光板の作製)
現在、市販の偏光膜は、延伸したポリマーを、浴槽中のヨウ素もしくは二色性色素の溶液に浸漬し、バインダー中にヨウ素、もしくは二色性色素を浸透させることで作製されるのが一般的である。偏光膜におけるヨウ素および二色性色素は、バインダー中で配向することで偏光性能を発現する。二色性色素は、親水性置換基(例えば、スルホ、アミノ、ヒドロキシル)を有することが好ましい。例えば、発明協会公開技法(公技番号2001−1745号、2001年3月15日発行、発明協会)58頁に記載の化合物が挙げられる。
【0140】
偏光膜のバインダーは、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができ、これらの組み合わせを複数使用することができる。バインダーには、例えば特開平8−338913号公報の段落番号[0022]に記載の水溶性ポリマー(例えば、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。変性ポリビニルアルコールについては、特開平8−338913号、同9−152509号および同9−316127号の各公報に記載がある。バインダー厚みは、1μm〜50μmであることが好ましく、より好ましくは2μm〜50μmであり、さらには5μm〜30μmである。また、偏光膜のバインダーは架橋していてもよい。架橋性のホウ素化合物(例えば、ホウ酸、硼砂)も、架橋剤として用いることができる。バインダーの架橋剤の添加量は、バインダーに対して、0.1〜20質量%が好ましい。
【0141】
偏光膜は、偏光膜を延伸するか(延伸法)、もしくはラビングした(ラビング法)後に、ヨウ素、二色性染料で染色することが好ましい。 前記延伸法の場合、延伸倍率は2.5〜30.0倍が好ましく、3.0〜10.0倍がさらに好ましい。延伸は平行延伸法、特開2002−86554号公報に記載の斜め方向に傾斜め方向に張り出したテンターを用い延伸する方法を用いることができる。前記ケン化後のセルロースエステルフィルムと、延伸して調製した偏光膜を貼り合わせ偏光板を作製する。偏光膜を張り合わせる方向は、セルロースエステルフィルムの流延軸方向と偏光板の延伸軸方向が45°になるように行なうのが好ましい。偏光膜とセルロースエステルフィルムとを貼り合わせる際に用いられる接着剤は特に限定されないが、例えば、PVA系樹脂(アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、オキシアルキレン基等の変性PVAを含む)やホウ素化合物水溶液等が挙げられ、中でもPVA系樹脂が好ましい。接着剤層厚みは乾燥後に0.01μm〜10μmが好ましく、0.05μm〜5μmが特に好ましい。
【0142】
(2)光学補償層の付与(光学補償シートの作製)
光学異方性層は、液晶表示装置の黒表示における液晶セル中の液晶化合物を補償するためのものであり、セルロースエステルフィルムの上に配向膜を形成し、さらに光学異方性層を付与することで形成される。前記表面処理したセルロースエステルフィルム上に配向膜を設ける。この膜は、液晶性分子の配向方向を規定する機能を有する。しかし、液晶性化合物を配向後にその配向状態を固定してしまえば、配向膜はその役割を果たしているために、本発明の構成要素としては必ずしも必須のものではない。即ち、配向状態が固定された配向膜上の光学異方性層のみを偏光子上に転写して本発明の偏光板を作製することも可能である。配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、あるいはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例えば、ω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。
【0143】
配向膜の塗布方法は、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、ロッドコーティング法またはロールコーティング法が好ましく、特にロッドコーティング法が好ましい。また、乾燥後の膜厚は0.1μm〜10μmが好ましい。加熱乾燥は、20℃〜110℃で行なうことができる。充分な架橋を形成するためには60℃〜100℃が好ましく、特に80℃〜100℃が好ましい。乾燥時間は1分間〜36時間で行なうことができるが、好ましくは1分間〜30分である。pHも、使用する架橋剤に最適な値に設定することが好ましく、グルタルアルデヒドを使用した場合は、pH4.5〜5.5で、特に5が好ましい。このようにして得た配向膜の膜厚は、0.1〜10μmの範囲にあることが好ましい。
【0144】
次に、配向膜の上に光学異方性層の液晶性分子を配向させる。その後、必要に応じて、配向膜ポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを反応させるか、あるいは、架橋剤を用いて配向膜ポリマーを架橋させる。光学異方性層に用いる液晶性分子には、棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子が含まれる。棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子は、高分子液晶でも低分子液晶でもよく、さらに、低分子液晶が架橋され液晶性を示さなくなったものも含まれる。
【0145】
−棒状液晶性分子−
前記棒状液晶性分子は、(液晶)ポリマーと結合していてもよい。前記棒状液晶性分子については、季刊化学総説第22巻液晶の化学(1994)日本化学会編の第4章、第7章および第11章、および液晶デバイスハンドブック日本学術振興会第142委員会編の第3章に記載がある。前記棒状液晶性分子の複屈折率は、0.001〜0.7の範囲にあることが好ましい。前記棒状液晶性分子は、その配向状態を固定するために、重合性基を有することが好ましい。前記重合性基は、ラジカル重合性不飽基或はカチオン重合性基が好ましく、具体的には、例えば特開2002−62427号公報の段落番号[0064]〜[0086]に記載の重合性基、重合性液晶化合物が挙げられる。
【0146】
−円盤状液晶性分子−
前記円盤状液晶性分子としては、分子中心の母核に対して、直鎖のアルキル基、アルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基が母核の側鎖として放射線状に置換した構造である液晶性を示す化合物も含まれる。分子または分子の集合体が、回転対称性を有し、一定の配向を付与できる化合物であることが好ましい。円盤状液晶性分子から形成する光学異方性層は、最終的に光学異方性層に含まれる化合物が円盤状液晶性分子である必要はなく、例えば、低分子の円盤状液晶性分子が熱や光で反応する基を有しており、結果的に熱、光で反応により重合または架橋し、高分子量化し液晶性を失った化合物も含まれる。前記円盤状液晶性分子の好ましい例は、特開平8−50206号公報に記載されている。また、円盤状液晶性分子の重合については、特開平8−27284号公報に記載がある。円盤状液晶性分子を重合により固定するためには、円盤状液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。円盤状コアと重合性基は、連結基を介して結合する化合物が好ましく、これにより重合反応においても配向状態を保つことができる。例えば、特開2000−155216号公報の段落番号[0151]〜[0168]に記載の化合物等が挙げられる。
【0147】
−光学異方性層の他の組成物−
前記光学異方性層は、前記の液晶性分子と共に、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマー等を併用して、塗工膜の均一性、膜の強度、液晶分子の配向性等を向上することができる。液晶性分子と相溶性を有し、液晶性分子の傾斜角の変化を与えられるか、あるいは配向を阻害しないことが好ましい。
【0148】
−光学異方性層の形成−
前記光学異方性層は、液晶性分子および必要に応じて後述の重合性開始剤や任意の成分を含む塗布液を、配向膜の上に塗布することで形成できる。光学異方性層の厚さは、0.1μm〜20μmであることが好ましく、0.5μm〜15μmであることがさらに好ましく、1μm〜10μmであることが最も好ましい。配向させた液晶性分子を、配向状態を維持して固定することができる。固定化は、重合反応により実施することが好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれる。光重合反応が好ましい。
【0149】
この光学補償フィルムと上述の偏光膜とを組み合わせることも好ましい。具体的には、前記のような光学異方性層用塗布液を偏光膜の表面に塗布することにより光学異方性層を形成する。その結果、偏光膜と光学異方性層との間にポリマーフィルムを使用することなく、偏光膜の寸度変化にともなう応力(歪み×断面積×弾性率)が小さい薄い偏光板が作製される。本発明に従う偏光板を大型の液晶表示装置に取り付けると、光漏れなどの問題を生じることなく、表示品位の高い画像を表示することができる。偏光膜と光学補償層の傾斜角度は、LCDを構成する液晶セルの両側に貼り合わされる2枚の偏光板の透過軸と液晶セルの縦または横方向のなす角度にあわせるように延伸することが好ましい。通常の傾斜角度は45°である。しかし、最近は、透過型、反射型および半透過型LCDにおいて必ずしも45°でない装置が開発されており、延伸方向はLCDの設計にあわせて任意に調整できることが好ましい。
【0150】
(液晶表示装置への利用)
−一般的な液晶表示装置の構成−
本発明のセルロースエステルフィルムは、様々な用途で用いることができる。本発明のセルロースエステルフィルムは、液晶表示装置の光学補償シートとして用いると有効である。なお、フィルムそのものを光学補償シートとして用いる場合は、偏光素子(後述)の透過軸と、セルロースエステルフィルムからなる光学補償シートの遅相軸とを実質的に平行または垂直になるように配置することが好ましい。このような偏光素子と光学補償シートとの配置については、特開平10−48420号公報に記載がある。液晶表示装置は、二枚の電極基板の間に液晶を担持してなる液晶セル、その両側に配置された二枚の偏光素子、および該液晶セルと該偏光素子との間に少なくとも一枚の光学補償シートを配置した構成を有している。液晶セルの液晶層は、通常は、二枚の基板の間にスペーサーを挟み込んで形成した空間に液晶を封入して形成する。透明電極層は、導電性物質を含む透明な膜として基板上に形成する。液晶セルには、さらにガスバリアー層、ハードコート層あるいは(透明電極層の接着に用いる)アンダーコート層を設けてもよい。これらの層は、通常、基板上に設けられる。液晶セルの基板は、一般に80μm〜500μmの厚さを有する。
【0151】
光学補償シートは、液晶画面の着色を取り除くための複屈折率フィルムである。本発明のセルロースエステルフィルムそのものを、光学補償シートとして用いることができる。さらに反射防止層、防眩性層、λ/4層や2軸延伸セルロースエステルフィルムとして機能を付与してもよい。また、液晶表示装置の視野角を改良するため、本発明のセルロースエステルフィルムと、それとは(正/負の関係が)逆の複屈折を示すフィルムを重ねて光学補償シートとして用いてもよい。光学補償シートの厚さの範囲は、前述した本発明のセルロースエステルフィルムの好ましい厚さと同じである。偏光素子の偏光膜には、ヨウ素系偏光膜、二色性染料を用いる染料系偏光膜やポリエン系偏光膜がある。いずれの偏光膜も、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造する。偏光板の保護膜は、25μm〜350μmの厚さを有することが好ましく、40μm〜200μmの厚さを有することがさらに好ましい。液晶表示装置には、表面処理膜を設けてもよい。表面処理膜の機能には、ハードコート、防曇処理、防眩処理および反射防止処理が含まれる。前述したように、支持体の上に液晶(特にディスコティック液晶性分子)を含む光学的異方性層を設けた光学補償シートも提案されている(特開平3−9325号、同6−148429号、同8−50206号、同9−26572号の各公報記載)。本発明のセルロースエステルフィルムは、そのような光学補償シートの支持体としても用いることができる。
【0152】
−ディスコティック液晶性分子を含む光学的異方性層−
光学的異方性層は、傾斜配向したディスコティック液晶性分子を含む層であることが好ましい。ディスコティック液晶性分子の円盤面と支持体面とのなす角は、光学的異方性層の深さ方向において変化している(ハイブリッド配向している)ことが好ましい。ディスコティック液晶性分子の光軸は、円盤面の法線方向に存在する。ディスコティック液晶性分子は、円盤面の法線方向の屈折率よりも円盤面方向の屈折率が大きな複屈折性を有する。ディスコティック液晶性分子は、支持体表面に対して実質的に水平に配向させてもよい。
【0153】
(VA型液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有効に用いられる。VA型液晶表示装置に用いる光学補償シートには、レターデーションの絶対値が最小となる方向が光学補償シートの面内にも法線方向にも存在しないことが好ましい。VA型液晶表示装置に用いる光学補償シートの光学的性質は、光学的異方性層の光学的性質、支持体の光学的性質および光学的異方性層と支持体との配置により決定される。VA型液晶表示装置に光学補償シートを二枚使用する場合は、光学補償シートの面内レターデーションを、−5nm〜5nmの範囲内にすることが好ましい。従って、二枚の光学補償シートの各面内レターデーション絶対値は、0〜5とすることが好ましい。
【0154】
VA型液晶表示装置に光学補償シートを一枚使用する場合は、光学補償シートの面内レターデーションを、−10nm〜10nmの範囲内にすることが好ましい。このような光学特性範囲になるように、本発明のセルロースエステルフィルムは各種VAセルに対応した光学特性を付与すればよい。その範囲は、セルギャップに対応して一枚型セルロースエステルフィルムでは、Reが40〜120nmであり、好ましくはReが50〜100nmであり、特には50〜90nmである。また、Rthが160〜300nmであり、好ましくはRthが170〜260nmであり、特には180〜240nmである。また、VA型液晶表示装置に光学補償シートをニ枚使用する場合は、本発明のセルロースエステルフィルムは各種VAセルに対応した光学特性を付与すればよい。その範囲は、セルギャップに対応して二枚型セルロースエステルフィルムでは、Reが20〜80nmであり、好ましくはReが30〜70nmであり、特には30〜60nmである。また、Rthが80〜200nmであり、好ましくはRthが90〜180nmであり、特には95〜165nmである。
【0155】
(OCB型液晶表示装置およびHAN型液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、OCBモードの液晶セルを有するOCB型液晶表示装置あるいはHANモードの液晶セルを有するHAN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。OCB型液晶表示装置あるいはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償シートには、レターデーションの絶対値が最小となる方向が光学補償シートの面内にも法線方向にも存在しないことが好ましい。OCB型液晶表示装置あるいはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償シートの光学的性質も、光学的異方性層の光学的性質、支持体の光学的性質および光学的異方性層と支持体との配置により決定される。本発明のセルロースエステルフィルムは各種OCBモードの液晶セルに対応した光学特性を付与すればよい。その範囲は、Reが20nm〜100nmであり、好ましくはReが30nm〜80nmであり、特には30nm〜60nmである。また、Rthが150nm〜300nmであり、好ましくはRthが160nm〜260nmであり、特には170nm〜250nmである。
【0156】
(その他の液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、ASM(Axially Symmetric Alligned Microcell )モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。ASMモードの液晶セルは、セルの厚さが位置調整可能な樹脂スペーサーにより維持されているとの特徴がある。その他の性質は、TNモードの液晶セルと同様である。ASMモードの液晶セルとASM型液晶表示装置については、クメ(Kume)外の論文(Kume et al., SID 98 Digest 1089 (1998))に記載がある。本発明のセルロースエステルフィルムを、TNモードの液晶セルを有するTN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として用いてもよい。TNモードの液晶セルとTN型液晶表示装置については、古くからよく知られている。TN型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、特開平3−9325号、同6−148429号、同8−50206号、同9−26572号の各公報に記載がある。これらの各種液晶表示装置に対する光学補償シート用として、本発明のセルロースエステルフィルムには光学特性を所望の範囲で付与することができる。
【0157】
《測定方法および評価方法》
以下において、安定剤、セルロースエステル、およびセルロースエステルフィルムの測定方法と評価方法ついて記載する。本出願に記載される測定値は、以下に記載される方法により測定されたものである。
【0158】
(安定剤の分解率)
亜リン酸エステル系安定剤とエポキシ系安定剤を表1に記載される各比率で表1に記載される混合方法により混合した。得られた混合物を約10mg採取して、空気気流中(200ml/分)で100℃から240℃まで10℃/分で昇温した後、さらに240℃で30分間保持した。TG/GTA(Seiko Instruments社製、TG/GTA220)にて、加熱後に得られる亜リン酸エステル系安定剤とエポキシ系安定剤混合物の質量を求め、加熱前の質量に対する質量減少率を計算して、亜リン酸系エステル/エポキシ系安定剤の分解率(%)とした。
【0159】
(Mw低下率)
セルロースエステル、亜リン酸エステル系安定剤およびエポキシ系安定剤を表1に記載される比率で表1に記載される混合方法により混合した。得られた混合物を105℃で3時間乾燥した後、0.5gを採取して240℃で1時間、電気オーブン中(空気雰囲気)で加熱した。得られた加熱済みのセルロースエステル組成物のMwをゲル浸透クロマトグラフィー (GPC)による分子量分布測定により得て、加熱前のセルロースエステル組成物のMwに対する低下率(%)を計算した。
【0160】
(セルロースエステルの置換度)
セルロースの水酸基に対するアシル基の置換度は、Carbohydr.Res.273(1995)83−91(手塚他)に記載の方法で13C−NMRにより求めた。
【0161】
(セルロースエステルの重合度)
完全に乾燥し含水率を0.02質量%以下にしたセルロースエステル約0.2gを精秤して、メチレンクロリド:エタノール=9:1(質量比)の混合溶媒100mlに溶解した。これをオストワルド粘度計にて25℃で落下秒数を測定し、重合度を以下の式により求めた。
ηrel =T/T0
[η]=ln(ηrel)/C
DP=[η]/Km
[式中、Tは測定試料の落下秒数、T0は溶媒単独の落下秒数、lnは自然対数、Cは濃度(g/L)、Kmは6×10-4である。]
【0162】
(硫酸根含有量)
セルロースエステル組成物の硫酸根の含有量を、ASTM D−817−96、酸化分解・電量滴定法などにより測定し、その量を硫黄原子の含有量で表した。
【0163】
(金属含有量)
セルロースエステル組成物を灰化後、ICP−MS分析法で定量した。
【0164】
(平均屈折率)
フィルムを25℃、相対湿度60%にて24時間調湿した。その後、プリズムカップラー(Metricon製、MODEL2010 Prism Coupler)により、25℃・相対湿度60%において、532nmの固体レーザーを用いて、フィルム平面方向の偏光で測定した屈折率nTEと、フィルム面法線方向の偏光で測定した屈折率nTMを測定し、下記式(a)にしたがって平均屈折率(n)を求めた。
式(a): n=(nTE×2+nTM)/3
平均屈折率が既知である場合は ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)や各種光学フィルムのカタログの値を使用してもよい。主な光学フィルムの平均屈折率を例示すると、セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。
【0165】
平均屈折率とフィルムの膜厚をKOBRA 21ADHまたはWR(いずれも王子計測機器(株)製)に入力することで、nx、ny、nzを算出した[nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnxおよびnyに直交する方向の屈折率を表す]。この算出したnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)をさらに算出できる。
【0166】
(レターデーション)
本明細書におけるRe(λ)とRth(λ)は、それぞれ波長λにおける面内のリターデーションおよび厚さ方向のリターデーションを表す。
Re(λ)はKOBRA 21ADHまたはWR(いずれも王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定した。Rth(λ)は、以下の<1>または<2>の手順で算出した。
【0167】
<1> 測定されるフィルムが1軸または2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合
Rth(λ)は、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、フィルム法線方向から−50°から+50°まで10°ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で11点のレターデーション値を測定し、その測定されたレタデーション値と平均屈折率および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出した。
上記において、λに関する記載が特になく、Re、Rthとのみ記載されている場合は、波長590nmの光を用いて測定した値のことを表す。また、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADHまたはWRが算出した。
なお、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレタデーション値を測定し、その値と平均屈折率および入力された膜厚値を基に、以下の式(b)および式(c)よりRthを算出することもできる。
【0168】
【数1】

[式中、Re(θ)はフィルム法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレタ−デーション値を表す。また、nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnxおよびnyに直交する方向の屈折率を表す。]
式(c): Rth=((nx+ny)/2−nz)×d
【0169】
<2> 測定されるフィルムが1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないものである場合[いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合]
Rth(λ)は、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点のレターデーション値を測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出した。
【0170】
(湿度変化に伴うReおよびRth変動)
セルロースエステルフィルムのRe(相対湿度10%)とRth(相対湿度10%)を、25℃・相対湿度10%の条件下において上記と同様の方法で測定した。さらにフィルムのRe(相対湿度80%)とRth(相対湿度80%)を、25℃・相対湿度80%の条件下において上記と同様の方法で測定した。下記式に従い、湿度Re変動、湿度Rth変動を求めた。
・湿度Re変動(%/相対湿度%)=[100×{Re(相対湿度80%)とRe(相対湿度10%)の差の絶対値}/Re(相対湿度60%)]/70
・湿度Rth変動(%/相対湿度%)=[100×{Rth(相対湿度80%)とRth(相対湿度10%)の差の絶対値}/Rth(相対湿度60%)]/70
【0171】
(Reムラ、Rthムラ)
セルロースエステルフィルムの長さ方向50mごとに3つの領域を選択し、各領域において、幅方向に端部から20cmごとに7個所ずつサンプリングして、合計21サンプルを用意した。これらのサンプルを25℃、相対湿度60%に3時間調湿し、同一環境下でRe、Rthを測定し、得られた数値の最大値と最小値の差を、それぞれReムラ,Rthムラとして評価した。数値が小さいほど、光学特性のバラツキが小さくて優れていることを示す。
【0172】
(軸ズレ)
セルロースエステルフィルムを70mm×100mmに切り出して、自動複屈折計(KOBRA−21ADH、王子計測機器(株)製)を用いて軸ズレ角度を測定した。セルロースエステルフィルムの幅方向に全幅にわたって等間隔で20点測定し、絶対値の平均値を求めた。また、遅相軸角度(軸ズレ)のレンジとは、幅方向全域にわたって等間隔に20点測定し、軸ズレの絶対値の大きいほうから4点の平均と小さいほうから4点の平均の差をとったものである。
【0173】
(ヘイズ)
セルロースエステルフィルムを40mm×80mmに切り出して、25℃・相対湿度60%でヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機社製)を用いてJIS K−6714に従って測定した。
【0174】
(ダイスジ)
セルロースエステルフィルムの流延方向(長さ方向)にスジ状に発生するダイスジの評価を、反射光源のもとで目視観察した。評価基準は、以下のとおりとした。
A: ダイスジは見られなかった。
B: ダイスジが微かに見られた。
C: ダイスジがはっきりと認められた。
D: ダイスジが全面に著しく発生した。
【0175】
(段ムラ)
セルロースエステルフィルムの流延方向に対して直角な方向(幅方向)にスジ状に発生する段状ムラを、反射光源のもとで目視観察した。評価基準は、以下のとおりとした。
A: 段ムラは全く認められなかった。
B: 段ムラがわずかに認められた。
C: 段ムラがかなり認められた。
D: 段ムラが著しく認められた。
【0176】
(異物)
セルロースエステルフィルムの全幅×1mの範囲に反射光をあて、膜中異物を目視にて検出した後、偏光顕微鏡で異物(フィッシュアイ、リントなど)を確認して評価した。
A: 異物は見られなかった。
B: 異物が微かに見られた。
C: 異物がはっきりと認められた。
D: 異物が全面に著しく発生した。
【0177】
(透過率)
セルロースエステルフィルムを20mm×70mmに切り出して、25℃・相対湿度60%で透明度測定器(AKA光電管比色計、KOTAKI製作所)を用いて可視光(615nm)の透過率を測定した。
【0178】
(着色増加分)
セルロースエステルフィルムを25℃、相対湿度60%で4時間調湿した。その後、直径5cmに裁断して直径5cmのアルミニウムトレイにすばやく入れ、マッフル炉にて空気中にて240℃で1時間加熱した。冷却後のサンプル0.2gをメチレンクロライドで全容が10mlとなるように溶解して2質量%の溶液を作製し、その400nmにおける吸光度を測定した。加熱前のサンプルについても2質量%のメチレンクロライド溶液を作製して400nmにおける吸光度を測定し、加熱前後の吸光度の増加分を着色増加分として評価した。数値が小さいほど、熱安定性が良好なフィルムであることを示す。
【0179】
(アルカリ加水分解性)
セルロースエステルフィルムを100mm×100mmに切り出して、自動アルカリ鹸化処理装置(新東科学(株)製)にて、2mol/L水酸化ナトリウム水溶液にて60℃で3分間鹸化し、4分間水洗した後、0.01mol/L希硝酸にて30℃で4分間中和し、4分間水洗した。その後、100℃で3分間乾燥し、さらに自然乾燥を1時間行なって、下記の目視基準と鹸化処理前後のヘイズ値からアルカリ加水分解性を評価した(25℃・相対湿度60%)。
A: 白化は全く認められなかった。
B: 白化がわずかに認められた。
C: 白化がかなり認められた。
D: 白化が著しく認められた。
【0180】
(カール値)
セルロースエステルフィルムを35mm×3mmに切り出して、カール調湿槽(HEIDON(No.YG53−168)、新東科学(株)製)にて相対湿度25%、55%、85%で24時間調湿し、曲率半径をカール板で測定した。またウェットでのカールは、水温25℃の水中に30分静置した後に、そのカール値を測定した。
【0181】
(キシミ値)
セルロースエステルフィルムを100mm×200mmおよび75mm×100mmに切り出して、25℃・相対湿度60%の条件下で2時間調湿し、テンシロン引張試験機(RTA−100,オリエンテック(株)製)にて、大きいフィルム試料を台の上に固定し、200gのおもりをつけた小さいフィルム試料を載せた。次いで、おもりを水平方向に引っ張り、動きだした時の力、動いているときの力を測定し、静摩擦係数、動摩擦係数をそれぞれ算出して、靜的キシミ値および動的キシミ値とした。
F=μ×W (F:キシミ値、μ:摩擦係数、W:おもりの重さ(kgf))
【0182】
(含水率)
セルロースエステルフィルムを7mm×35mmに切り出して、水分測定器と試料乾燥装置(CA−03、VA−05、共に三菱化学(株))を用いてカールフィッシャー法で測定した。水分量(g)を試料質量(g)で除して算出した。
【0183】
(残留溶媒量)
セルロースエステルフィルムを7mm×35mmに切り出して、ガスクロマトグラフィー(GC−18A、島津製作所(株)製)を用いてベース残留溶媒量を測定した。
【0184】
(熱収縮率)
セルロースエステルフィルムを30mm×120mmに切り出して、90℃・相対湿度5%で24時間、120時間経時させ、自動ピンゲージ(新東科学(株)製)にて、両端に6mmφの穴を100mm間隔に開けて、間隔の原寸(L1)を最小目盛り1/1000mmまで測定した。さらに90℃・相対湿度5%にて24時間、120時間熱処理してパンチ間隔の寸法(L2)を測定した。熱収縮率を{(L1−L2)/L1}×100により求めた。
【0185】
(透湿係数)
セルロースエステルフィルム(70mmφ)を25℃・相対湿度90%および40℃・相対湿度90%でそれぞれ24時間調湿し、透湿試験装置(KK−709007、東洋精機(株)製)にて、JIS Z−0208に従って、単位面積あたりの水分量(g/m2)を算出した。そして、透湿度を調湿後質量−調湿前質量により求めた。さらに強制的評価として、60℃・相対湿度95%にて24時間調室後に測定し、透湿係数とした。
【0186】
(弾性率)
東洋ボールドウィン製の万能引っ張り試験機STM T50BPを用いて、23℃、相対湿度70%雰囲気中、引っ張り速度10%/分で0.5%伸びにおける応力を測定し、弾性率を求めた。
【0187】
(輝点異物の測定)
直交状態(クロスニコル)に二枚の偏光板を配置して透過光を遮断し、二枚の偏光板の間にセルロースエステルフィルムを置いた。偏光板はガラス製保護板のものを使用した。片側から光を照射し、反対側から光学顕微鏡(50倍)で1cm2当たりの直径に応じた輝点数をカウントした。
【0188】
(Tgの測定)
DSCの測定パンに試料を20mg入れた。これを窒素気流中で、10℃/分で30℃〜250℃まで昇温した後、30℃まで−10℃/分で冷却した。この後、再度30℃〜250℃まで昇温してベースラインが低温側から偏奇し始める温度をTgとした。
【0189】
(抗張力、伸長率、破断伸度)
試料15mm×250mmを、23℃、相対湿度65%、2時間調湿し、テンシロン引張試験機(RTA−100、オリエンテック(株))にてISO1184−1983に従って、初期試料長100mm、引張速度200±5mm/分で弾性率を引張初期の応力と伸びより算出し、抗張力、伸張力、破断伸度を評価した。
【0190】
[合成例1] セルロースアセテートプロピオネートの合成
広葉樹パルプ由来のセルロース150質量部、酢酸75質量部を、冷却装置ならびに還流装置を付けた反応容器に取り、60℃にて加熱しながら4時間攪拌した。反応容器を2℃に冷却した。別途、アシル化剤としてプロピオン酸無水物1545質量部、硫酸10.5質量部の混合物を作製し、−20℃に冷却した後に、上記の前処理を行ったセルロースを収容する反応容器に一度に加えた。30分経過後、外設温度を徐々に上昇させ、アシル化剤の添加から2時間経過後に内温が25℃になるように調節し、内温を25℃に保ってさらに3時間攪拌した。反応容器を5℃の氷水浴にて冷却し、5℃に冷却した25質量%含水酢酸120gを1時間かけて添加した。内温を40℃に上昇させ、2.5時間攪拌した。次いで反応容器に、硫酸の2倍モルに相当する酢酸マグネシウム4水和物を2倍量の50質量%含水酢酸に溶解した溶液を添加し、30分間攪拌した。25質量%含水酢酸、33質量%含水酢酸、50質量%含水酢酸、水をこの順に加え、セルロースアセテートプロピオネートを沈殿させた。得られたセルロースアセテートプロピオネートの沈殿は温水にて洗浄を行った。20℃の0.005質量%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌した後に脱液を行い、70℃で真空乾燥させた。1H−NMRおよび、GPC測定によれば、得られたセルロースアセテートプロピオネートは、アセチル化度0.30、プロピオニル化度2.63、質量平均分子量は22.7万であった。
【0191】
[合成例2] セルロースアセテートブチレートの合成
セルロース(広葉樹パルプ)100質量部、酢酸135質量部を、冷却装置ならびに還流装置を付けた反応容器に取り、60℃にて加熱しながら4時間攪拌した。反応容器を2℃に冷却した。別途、アシル化剤として酪酸無水物1080質量部、硫酸10.0質量部の混合物を作製し、−20℃に冷却した後に、前処理を行ったセルロースを収容する反応容器に一度に加えた。30分経過後、外設温度を20℃まで上昇させ、5時間反応させた。反応容器を5℃の氷水浴にて冷却し、約5℃に冷却した12.5質量%含水酢酸2400gを1時間かけて添加した。内温を40℃に上昇させ、2時間攪拌した。次いで反応容器に、硫酸の2倍モルに相当する酢酸マグネシウム4水和物を2倍量の50質量%含水酢酸に溶解した溶液を添加し、30分間攪拌した。25質量%含水酢酸、33質量%含水酢酸、50質量%含水酢酸、水をこの順に加え、セルロースアセテートブチレートを沈殿させた。得られたセルロースアセテートブチレートの沈殿は温水にて洗浄を行った。洗浄後、0.005質量%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌した後に脱液を行い、70℃で減圧乾燥させた。得られたセルロースアセテートブチレートはアセチル化度0.84、ブチリル化度2.12、質量平均分子量は16.4万であった。
【0192】
[合成例3] 他のセルロースエステルの合成
他のセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートについても、目的とする置換度ならびに重合度により、合成例1、2の方法から、アシル化剤の組成、アシル化の反応温度および時間、部分加水分解の温度および時間を変化させることにより、同様に合成した。
【0193】
[合成例4] セルロースエステルの合成
セルロースにアシル化剤(酢酸、無水酢酸、プロピオン酸、プロピオン酸無水物、酪酸、酪酸無水物から、目的とするアシル置換度に応じて単独または複数を組み合わせて選択した)、ならびに触媒としての硫酸を混合し、反応温度を40℃以下に保ちながらアシル化を実施した。原料となるセルロースが消失してアシル化が完了した後、さらに40℃以下で加熱を続けて、所望の重合度に調整した。酢酸水溶液を添加して残存する酸無水物を加水分解した後、60℃以下で加熱を行なうことで部分加水分解を行い、所望の全置換度に調整した。残存する硫酸を過剰量の酢酸マグネシウムにより中和した。酢酸水溶液から再沈殿を行い、さらに、水での洗浄を繰り返すことにより、表2に記載のアシル基を有する種類、置換度の異なるセルロースエステルを合成した。
【実施例】
【0194】
以下に実施例と比較例とを挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。以下に具体的な実施例を記載するが、本発明においてはこれらに限定されるものではない。
【0195】
(実施例1)
(1)セルロースエステルペレットの調製
セルロースエステルとして、セルロースエステルA(アセチル置換度0.45、プロピオニル置換度2.40、トータル置換度2.85、質量平均分子量18.1万、含水率0.1質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度140mPa・s、平均粒子サイズ1.2mmで標準偏差0.3mm、嵩比重0.21、真比重1.22である粉体)を用いた。なおセルロースエステルAは、綿花リンターから採取したセルロースを原料として合成したものである。さらに、セルロースエステルAは、残存酢酸量が0.02質量%、残留プロピオン酸量が0.01質量%、Ca含有量が51ppm、Mg含有量が15ppm、Fe含有量が0.45ppm、K含有量が2ppm、Na含有量が8ppmであり、さらに硫酸基としてのイオウ量を0.16ppm含むものであった。
【0196】
また6位の水酸基に対するアセチル基の置換度は0.15、6位の水酸基に対するプロピオニル基の置換度は0.79であり全アセチル中の33.3%であった。また、質量平均分子量/数平均分子量比は2.8であった。セルロースエステルAを、メチレンクロライド/メタノール=90/10(質量比)を用いてガラス板上に溶液製膜して、80μmの厚さのフィルムを得てその基本特性を調べた。すなわち、セルロースエステルAのみからなるフィルムのイエローインデックスは0.82であり、ヘイズは0.1、透過率は93.8%であり、Tgは137℃であった。
【0197】
このセルロースエステルAを105℃で5時間乾燥し、含水率を0.07質量%にした。この乾燥したセルロースエステルAに、下記の構造を有する紫外線吸収剤(旭電化工業製 アデカスタブLA−31)をセルロースエステルAに対して1.2質量%添加した。また、平均一次粒径が1.2μmのシリカ粒子(0.9〜1.5μmの粒子の質量存在比率が95%以上であって、1.5μm以上の粒子の質量存在比率が1.0%以下である)を、セルロースエステルAに対して0.05質量%添加した。さらに亜リン酸エステル系安定剤とエポキシ系安定剤を表1に従って添加した。表1に記載されるエポキシ系安定剤である(ET−6)は(株)ADEKA製アデカサイザーD−32(商品名)のエポキシ化脂肪酸オクチルであり、(ET−8)は(株)ADEKA製アデカサイザーO−130P(商品名)のエポキシ化大豆油であり、(ET−9)は(株)ADEKA製アデカサイザーO−180A(商品名)のエポキシ化アマニ油である。亜リン酸エステル系安定剤とエポキシ系安定剤の添加は、以下のいずれかの方法にしたがってセルロースエステルに添加した。
【0198】
混合方法−A:亜リン酸エステル系安定剤とエポキシ系安定剤を所定量秤量し、別々にセルロースエステル粉体中に添加した。
混合方法−B:亜リン酸エステル系安定剤とエポキシ系安定剤の所定量を秤量し、粉末同士の場合は均一に混合したあとにセルロースエステルに添加した。オイル状の場合は、十分に攪拌して均一な油状体として用いた。
混合方法−C:亜リン酸エステル系安定剤とエポキシ系安定剤の所定量を秤量し、メチレンクロライド溶液を作製して均一な溶液とし、しかる後にメチレンクロライドを50℃のウォーターバスで温めながら減圧下(100 Pa)に除去した。得られた亜リン酸エステル系安定剤とエポキシ系安定剤の混合物が、固体状態の場合はメノウ鉢を用いて十分に粉砕し、微粒子(平均粒径1mm以下)としセルロースエステルに添加した。
【0199】
【化3】

【0200】
(2)ろ過・ペレット化
これらの添加物を添加した混合物をヘンシェルミキサー((株)三井三池製作所製)で、回転数1000/分で20〜35℃にて10分間撹拌・混合し、均一なセルロースエステル組成物を得た。このセルロースエステル組成物を用いて、下記の押し出し機(工程はすべて、窒素気流で満たされている)によりペレットを作製した。すなわち、2軸混練押し出し機のホッパーにセルロースエステル組成物を投入し、さらに180〜220℃でスクリュー回転数300rpm、滞留時間40秒で混練して融解し、ろ過部を通してペレットを作製した。ろ過は、ダイ直前に設置された口径5μmの焼結金属フィルターを用いて、加圧ろ過することで実施した(なお、セルロースエステルAのみからなるセルロースエステルフィルムから得られたペレットは、クリーンルーム中でメチレンクロライド/メタノール=90/10(質量比)を用いてガラス板上に溶液製膜して、80μmの厚さのフィルムを作製した。300cm2面積の該フィルム中の輝点異物を観察し、10μm以上の輝点異物が存在しないことを確認した)。
【0201】
さらに、該ろ過済みのメルトを押し出し部の直径が2.5mmであるノズルから押し出して、3秒以内に40℃〜80℃の温水浴中に直径3mmのストランド状に200kg/時間でダイから押し出し、30秒浸漬した後(ストランド固化)、10℃〜30℃の水中を30秒間通過させて温度を下げ、直径3mm、長さ2〜6mm(大部分は3mm)に裁断してペレットを得た。得られたセルロースエステルペレットを、窒素雰囲気下、105℃で3時間乾燥し、しかる後に窒素雰囲気下でアルミニウムを有するラミネートフィルムからなる防湿袋に袋詰めして、さらに窒素雰囲気下の倉庫で湿度や酸素を遮断して保管した。得られたペレットは、透明かつ均質な組成であった。
【0202】
(3)溶融製膜
つぎに上記で作製したセルロースエステルペレットを、107℃になるように調整したホッパーに投入し、上流側溶融温度195℃、中間溶融温度215℃、下流側溶融温度(表1に記載)、圧縮比14、T−ダイ温度225℃、T−ダイおよびキャスティングドラム間距離8cm、固化速度30℃/秒、キャスティングドラム温度として第一ロール(上流)100℃、第二ロール(上流)99℃、第三ロール(上流)98℃、冷却速度−15℃/秒で処理した。そして10分間かけてメルトを溶融押出した。この際、静電印加法(10kVのワイヤーをメルトのキャスティングドラムへの着地点から10cmのところに設置)を用いた。固化したメルトを剥ぎ取り、ニップロールを介して、巻き取り張力6kg/cm2で巻き取った。なお、巻き取り直前に両端(全幅の各3%)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ50μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた後、幅1.5mのフィルムを30m/分で500m巻き取った。以上の溶融製膜は酸素濃度5容量%以下の条件で行った。各フィルムの膜厚は、表1に記載されるとおりである。また、残留溶媒量は0.01質量%以下であった。
【0203】
(4)評価
得られたセルロースエステルフィルムのセルロースエステルの質量平均分子量(Mw)低下率を測定して表1に記載した。また、各セルロースエステルフィルムのダイスジ、段ムラ、異物、Re、Rth、Reムラ、Rthムラ、透過率、着色増加分を測定・評価した結果も、表1に記載した。安定剤を含有しないコントロール試料1−1は、Mw変化率が54.2%であり著しく大きく、ダイスジ、段ムラ、異物が著しく悪いものであり、かつReムラ、Rthムラ、透過率および着色増加分も悪いフィルムであった。
一方、下流溶融温度が本発明の範囲よりも高温である比較試料1−13は、特許文献2(特開2000−352620号公報)の実施例に挙げられている溶融温度である245℃で溶融製膜したものであるが、Mw低下率が大きく、ダイスジ、段ムラ、異物が著しく悪く、Reムラ、Rthムラ、透過率および着色増加分も悪くて、セルロースエステルフィルムとしての商品価値のないものであった。また、下流溶融温度が本発明の範囲よりも低温である比較試料1−14も、ダイスジ、段ムラ、異物、Reムラ、Rthムラ、透過率および着色増加分の特性の全てを満たすことができなかった。
さらに、亜リン酸エステル系安定剤とエポキシ系安定剤のどちらか一方しか含有させなかった比較試料1−1、1−2もMwの低下を伴うものであり、ダイスジ、段ムラ、異物、Reムラ、Rthムラ、透過率および着色増加分の特性の全てを満たすことができなかった。
【0204】
これに対して、本発明の試料1−4〜1−12は、Mw低下率が小さく、ダイスジ、段ムラ、異物の評価結果が良好であり、かつReムラ、Rthムラ、透過率および着色増加分も優れた特性を示すものであった。
さらに本発明の試料1−4〜1−12は、ヘイズが全て0.2%以下であり優れたものであった。また、Reの湿度依存性{25℃におけるRe(相対湿度80%)とRe(相対湿度10%)との差}はすべて5nm以下であり、Rthの湿度依存性{25℃におけるRth(相対湿度80%)とRth(相対湿度10%)との差}はすべて20nm以下であり優れたものであった。また、波長分散特性は|Re(700)−Re(400)|が8nm以内であり、|Rth(700)−Rth(400)|は20nm以内であった。
【0205】
なお、本発明の代表的な試料1−4〜1−12で使用している亜リン酸系安定剤および紫外線吸収剤LA−31は、窒素中で220℃において30分間加熱した場合の質量減少率が全て10質量%以下であった。以上から、亜リン酸エステル系安定剤とエポキシ系安定剤を含有させて、本発明にしたがって作製された該セルロースエステルフィルムは、優れた光学用フィルムであることが確認された。なお、本発明の代表的な試料1−5は、残存酢酸量が0.01質量%未満であり、Ca含有量が0.05質量%未満、Mg含有量が0.01質量%未満であった。また、フィルムの縦横平均熱収縮(80℃/相対湿度90%/48時間)は−0.05%であり、熱収縮が生じ難いフィルムであった。
【0206】
ここで本発明のフィルム試料の代表として試料1−5は、傾斜幅は19.5nm、限界波長は388.4nm、吸収端は375.2nm、380nmの吸収は3.2%であり、軸ズレ(分子配向軸)は0.1°、弾性率は長手方向が2.94GPa、幅方向が2.92GPa、抗張力は長手方向が119MPa、幅方向が116MPa、伸長率は長手方向が62%,幅方向が66%であり、アルカリ加水分解性はAであり、カール値は相対湿度25%で−0.2,ウェットでは0.8であった。また、含水率は1.7質量%であり、熱収縮率は長手方向が−0.03%であり幅方向が−0.05%であった。異物はリントが5個/m未満であった。また、輝点は、0.02mm以下が10個/3m未満、0.02〜0.05mmが4個/3m未満、0.05mm以上はなく、キシミ値も0.52であり、算術平均粗さは120nmであり、傷付きもAランクであり、ハンドリング性も問題なかった。また、塗布後の接着も見られず、透湿係数(550g/m2・日)も良好であった。その他の本発明の試料も試料1−5とほぼ同等の特性値を示すものであった。
【0207】
【表1】

【0208】
[実施例2]
実施例1の本発明の試料1−5におけるセルロースエステルAをセルロースエステルB(アセチル置換度0.8、プロピオニル置換度1.95、トータル置換度2.75、質量平均重合度15.4万、含水率0.15質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度54mPa・s、平均粒子サイズ1.5mmで標準偏差0.5mmである粉体)に変更した以外は、実施例1の試料1−5と全く同様にして本発明の試料2−1を作製した。
【0209】
さらに、セルロースエステルAをセルロースエステルC(アセチル置換度1.80、プロピオニル置換度1.05、トータル置換度2.85、質量平均重合度20.3万、含水率0.1質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度91mPa・s、平均粒子サイズ1.2mmであって標準偏差0.4mmである粉体)に変更した以外は、実施例1の試料1−5と全く同様にして本発明の試料2−2を作製した。これらの試料について実施例1と同じ評価を行った結果を表1に示す。
【0210】
本発明の試料2−1は、分子量は少し小さめであるが、Re、Rthも小さく、ダイスジ、段ムラ、異物は良好であり、かつReムラ、Rthムラ、透過率および着色増加分も優れた特性を示すものであった。また、本発明の試料2−2は、プロピオニル基が少ないセルロースエステルであるが、ダイスジ、段ムラ、異物は良好であり、かつReムラ、Rthムラ、透過率および着色増加分も優れた特性を示すものであった。以上から本発明においてはセルロースエステルの重合度と置換基の実用許容幅が広いことが確認された。
【0211】
[実施例3]
実施例1の本発明の試料1−5を、下記の条件でアルカリ鹸化処理した。65℃に加温した3mol/LのNaOH水溶液中にフィルムを2分間浸漬した後、25℃の水で30秒間洗浄し、しかる後に0.05mol/Lの硫酸水溶液(25℃)で1分間処理し、再度25℃の水で水洗した。得られたアルカリ鹸化済みフィルムの接触角(対純水)を測定したところ、31°であり濡れ性は良好であった。なお、アルカリ鹸化処理前の接触角は65°であり、本発明の試料はアルカリ鹸化処理の優れた表面処理適性を有することが判った。これらのフィルム上にPVA/グルタルアルデヒド(5質量%/0.2質量%)水溶液を10ml/m2塗布し、さらに市販の偏光膜(HLC2−5618、サンリッツ社製)を貼り付けて、70℃/1時間処理し、さらに30℃で6日放置した。
【0212】
得られたセルロースエステルフィルム付の膜をセルロースエステルフィルム側にカッターナイフで45°の角度で深さ200μmの碁盤目状の切り傷を11本ずつ直角に付与した。この傷跡部にニチバン製セロテープNo.405(セロテープ:登録商標)および日東テープ(PETテープ)を全面に強く付着し30分放置して、その端部を直角の方向に勢いよく剥離した。その結果、未鹸化処理セルロースエステルフィルムはすべて剥離したが、鹸化処理したセルロースエステルフィルムを付与した偏光膜では、セルロースエステルフィルムの剥離はいずれのテープに対しても全く見られなかった。以上から、本発明のセルロースエステルフィルムは優れた偏光膜に対する粘着性を有することが確認された。
【0213】
[実施例4]
次に、セルロースエステルフィルムを偏光板等に応用した実施例を記載する。
(4−1)偏光板の作製
(1)セルロースエステルフィルムの鹸化
N,N',N"−トリ−m−トルイル−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリアミンをセルローストリアセテート(アセチル置換度2.87、質量平均分子量26.8万、Ca含有量0.01%対セルローストリアセテート、Mg含有量0.001%対セルローストリアセテート、鉄分5ppm以下対セルローストリアセテート)に対して4質量%添加して溶液流延し、残留溶媒の存在する乾燥中に幅方向に1.32倍延伸してセルローストリアセテートフィルム(Reは60nm、Rthは200nm、膜厚80μm)を作製した。このセルローストリアセテートフィルムと実施例1のセルロースエステルフィルム試料1−5に対して、以下の方法で鹸化を実施した。すなわち、KOHを1.5mol/Lとなるように溶解した後に、60℃に調温したものを鹸化液として用いた。そして、60℃のセルロースエステルフィルム上に10g/m2塗布し、1分間鹸化した。この後、50℃の温水をスプレーにより、10リットル/m2・分で1分間吹きかけ洗浄した。その後、110℃の乾燥風を風速15m/秒で送り、5分間で乾燥した。これらの鹸化は、ロール状のフィルムを速度45m/分で実施した。得られた本発明のセルロースエステルフィルムの鹸化フィルムを試料4−1、セルローストリアセテートフィルムの鹸化フィルムを試料4−2とした。
【0214】
(2)偏光膜の作製
特開2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸することによって、厚み20μmの偏光膜を調製した。
【0215】
(3)貼り合わせ
(2)で得られた偏光膜を、(1)で鹸化処理したセルロースエステルフィルム試料4−1、および延伸・鹸化したセルローストリアセテートフィルム試料4−2で挟んだ後、PVA((株)クラレ製、PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、偏光軸とセルロースエステルフィルム試料4−1およびセルローストリアセテートフィルム試料4−2の長手方向とが90°となるように張り合わせた偏光板を作成した(偏光板試料4−3)。このうち、本発明のセルロースエステルフィルム試料4−1と、延伸・鹸化したセルローストリアセテートフィルム試料4−2を、特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置に、25℃・相対湿度60%下で取り付けた後、これを25℃・相対湿度10%の中に持ち込み、目視で色調変化の大小を10段階評価(大きいものほど変化が大きい)で評価し、表示ムラの発生している領域を目視で観察し、表示ムラが発生している割合(%)を求めた。その結果、本発明のセルロースエステルフィルムの表示ムラは5%以下であり、非常に優れたものであった。また、特開平2002−86554号公報の実施例1に従い、テンターを用い延伸軸が吸収軸に対して45°の角度となるように延伸した偏光板についても同様に本発明のセルロースエステルフィルムを用い作製したが、前記同様良好な結果が得られた。
【0216】
(4−2)光学補償フィルムの作製
特開平11−316378号公報の実施例1の液晶層を塗布したセルロースアセテートフィルムの代わりに、本発明の鹸化済みのセルロースエステルフィルム試料4−1を使用し、これを、特開2002−62431号公報の実施例9に記載のベンド配向液晶セルに25℃・相対湿度60%下で取り付けた後、これを25℃・相対湿度10%の中に持ち込み、コントラストの変化を目視評価し、色変化の大小を10段階評価(大きいものほど変化が大きい)して2のマークを得た。本発明を実施したことにより良好な性能が得られた。
(4−3)低反射フィルムの作製
本発明のセルロースエステルフィルムを発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)の実施例47に従い本発明のセルロースエステルフィルム試料1−5を用いて低反射フィルムを作製したところ、良好な光学性能が得られた。
【0217】
[実施例5]
実施例1において作製した本発明のセルロースエステルフィルム試料1−5を、特開2002−265636号公報記載の実施例13におけるセルローストリアセテートフィルム試料1301の代わりに用いた。そして、特開2002−265636号公報記載の実施例13と全く同様にして、光学異方性層、偏光板試料を作製してベンド配向液晶セルを作製した。得られた液晶セルは、優れた視野角特性を有するものであった。
【0218】
[実施例6]
特開2002−265636号公報記載の実施例14におけるセルローストリアセテートフィルム試料1401の代わりに、実施例1において作製した本発明のセルロースエステルフィルム試料1−7を用いた。そして、特開2002−265636号公報記載の実施例14と全く同様にして、光学異方性層、偏光板試料を作製してTN型液晶セルを作製した。得られた液晶セルは、優れた視野角特性を有するものであった。
【0219】
[実施例7]
(1)VAパネルへの実装
本発明の実施例4で作製した偏光板を、視認側偏光板は26”ワイドのサイズで偏光子の吸収軸が長辺となるように、バックライト側偏光板は偏光子の吸収軸が短辺となるように長方形に打抜いた。VAモードの液晶TV(ソニー(株)製、KDL−L26RX2)の、表裏の偏光板および位相差板を剥がし、表と裏側とに本発明のセルロースエステルフィルムを使用して作製した偏光板(偏光板試料4−3)を組み合わせて貼り付け、液晶表示装置を作製した。偏光板貼り付け後、50℃、5kg/cm2で20分間保持し、接着させた。この際、視認側の偏光板の吸収軸をパネル水平方向に、バックライト側の偏光板の吸収軸がパネル鉛直方向となり、粘着材面が液晶セル側となるように配置した。プロテクトフィルムを剥がした後、測定機(ELDIM社製、EZ−Contrast 160D)を用いて、黒表示および白表示の輝度測定から視野角(コントラスト比が10以上の範囲)を算出した。いずれの偏光板を使用した場合も、全方位で極角80°以上の良好な視野角特性が得られた。さらに、耐久試験による光漏れおよび偏光板剥がれテストを実施し問題ないことを確認した。耐久性テスト条件は以下の通りである。
【0220】
1)60℃・相対湿度90%の環境に200時間保持し、25℃・相対湿度60%環境に取り出し24時間後に液晶表示装置を黒表示させ、光漏れ強度および偏光板の液晶パネルからの剥がれの有無を評価した。
2)80℃、相対湿度10%以下の環境に200時間保持し、25℃・相対湿度60%環境に取り出し、1時間後に液晶表示装置を黒表示させ、光漏れ強度および偏光板の液晶パネルからの剥がれの有無を評価した。
【0221】
[実施例8]
本発明の試料を所望の光学特性を示す光学異方性フィルムに作製し、以下の異なる液晶モードの市販モニターあるいはテレビの位相差膜を剥ぎ取り、上記(4−2)で製造した本発明の光学補償フィルムを貼り付けてその視野角特性を調べたところ、優れた広い視野角特性と色味を得て、本発明のセルロースエステルフィルムが有用であることを確認した。
【0222】
(TNモード)
視認側偏光板、バックライト側偏光板共に、17"のサイズで打抜き後の偏光板の長辺に対して吸収軸が45°長辺となるように、長方形に打抜いた。TNモードの液晶モニター(サムソン社製、SyncMaster 172X)の表裏の偏光板および位相差板を剥がし、表と裏側に、本発明のセルロースエステルフィルムを有する偏光板を組み合わせで貼り付け、液晶表示装置を作製した。偏光板貼り付け後、50℃、5kg/cm2で20分間保持し、接着させた。この際、偏光板の光学異方性層がセル基板に対面し、液晶セルのラビング方向とそれに対面する光学異方性層のラビング方向とが反平行となるように配置した。
【0223】
(IPSパネル)
本発明の偏光板を、視認側偏光板は32"ワイドのサイズで偏光子の吸収軸が長辺となるように、バックライト側偏光板は偏光子の吸収軸が短辺となるように長方形に打抜いた。IPSモードの液晶TV(日立製作所(株)製、W32−L5000)の表裏の偏光板および位相差板を剥がし、表と裏側に本発明のセルロースエステルフィルムを有する偏光板を組み合わせて貼り付け、液晶表示装置を作製した。偏光板貼り付け後、50℃、5kg/cm2で20分間保持し、接着させた。この際、視認側の偏光板の吸収軸をパネル水平方向に、バックライト側の偏光板の吸収軸をパネル鉛直方向となり、粘着層表面が液晶セル側となるように配置した。
【0224】
[実施例9]
実施例1の本発明のセルロースエステルフィルム試料1−5における(1)セルロースエステルペレットの調製において、フェノール系安定剤(アデカスタブAO−60、旭電化工業製)をセルロースエステルに対して0.3質量%点かする以外は、試料1−5と全く同様にして本発明のセルロースエステルフィルム試料9−1を作製した。着色増加分が少し上昇(0.01)であり、全ての特性が許容範囲内であり、製膜して得られたセルロースエステルフィルムのMw変化率は4%でありMw/Mnも3.1であった。したがって、本発明では、安定剤としてフェノール系安定剤(分子量500以上)を併用することも、好ましいことが確認された。
【0225】
[実施例10]
実施例1の本発明のセルロースエステルフィルム試料1−8における(1)セルロースエステルペレットの調製において、可塑剤としてアデカスタブFP−700(分子量500以上、旭電化工業製品)をセルロースエステルに対して5質量%添加する以外は、セルロースエステルフィルム試料1−8と全く同様にして、本発明のセルロースエステルフィルム試料10−1を作製した。得られたセルロースエステルフィルムは製膜時の発煙も見られず、全ての点で優れたものであり、Mw変化率は5%でありMw/Mnも3.2で本発明の範囲であった。特に、セルロースエステルフィルム試料10−1は含水率が1.5%であり、未添加が2.1%であるのに対して優れていることが確認された。従って、可塑剤がセルロースエステルフィルムの物理特性を改良するのに有効であることが確認された。
【0226】
[実施例11]
(11−1)セルロースエステルフィルムの作製
実施例1のセルロースエステルフィルム試料1−8において、セルロースエステルAを表2に記載されるセルロースエステルに変更する以外は、セルロースエステルフィルム試料1−8と全く同様にして本発明のセルロースエステルフィルム試料11−1〜11−12を作製した。得られた本発明のセルロースエステルフィルム試料11−1〜11−12は、ダイスジ、段ムラ、異物は良好であり、かつReムラ、Rthムラ、透過率および着色増加分も優れた特性を示すものであった。
【0227】
【表2】

【0228】
(11−2)偏光板の作製
(11−2−1)セルロースエステルフィルムの鹸化
得られた各セルロースエステルフィルムを次の浸漬鹸化法で鹸化した。即ち、2.5mol/LのNaOH水溶液を鹸化液として用いた。これを60℃に調温して、セルロースエステルフィルムを2分間浸漬した。この後、0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬し、水洗した。
(11−2−2)偏光膜の作製
特開2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸し、厚み20μmの偏光膜を作製した。
【0229】
(11−3)貼り合わせ
このようにして得た偏光膜と、上記鹸化処理したセルロースエステルフィルムならびに鹸化処理したトリアセテートフィルム(富士写真フイルム(株)製フジタック)を、PVA((株)クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、偏光膜の延伸方向とセルロースエステルの製膜方向(長手方法)に下記組み合わせで張り合わせた。
偏光板A:セルロースエステルフィルム/偏光膜/フジタック(富士タックTD80UF)
偏光板B:セルロースエステルフィルム/偏光膜/セルロースエステルフィルム
【0230】
(11−4)実装評価
VA型液晶セルを使用した26インチおよび40インチの液晶表示装置(シャープ(株)製)に液晶層を挟んで設置されている2対の偏光板のうち、観察者側の片面の偏光板を剥がし、粘着剤を用い、代わりに上記偏光板AまたはBを貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸とバックライト側の偏光板の透過軸が直交するように配置して、液晶表示装置を作成した。得られた液晶表示装置が、黒表示状態で発生する光漏れと色ムラ、面内の均一性を観察した。本発明のセルロースエステルフィルムを用いた液晶表示装置は、色調変化が無く、非常に優れたものであった。
【0231】
(11−5)低反射フィルムの作成
本発明のセルロースエステルフィルムを用いて、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)の実施例47に従って低反射フィルムを作成したところ、良好な光学性能を有するものであった。
【0232】
(11−6)光学補償フィルムの作成
本発明のセルロースエステルフィルムに、特開平11−316378号公報の実施例1に従い、液晶層を塗布したところ、良好な光学補償フィルムが得られた。
【0233】
(実施例12)
実施例1の本発明試料1−5に対し、特開平11−235747号公報の実施例1に記載のタッチロール(二重抑えロールと記載のあるもの)を用い(但し薄肉金属外筒厚みは3mmとした)、タッチロール製膜を実施した。タッチロール製膜により微細凹凸、LCDでのぼけ幅が改良された。また国際公開第97/28950号パンフレットの第1の実施例と同様のタッチロール(シート成形用ロールと記載のあるもの)を用い(但し金属製外筒に用いた冷却水は温度18℃から120℃のオイルに変更)、タッチロールを実施したところ、同様に優れた面状の本発明の試料を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0234】
本発明によれば、ダイスジ、段ムラ、異物、着色、Reムラ、Rthムラが大幅に抑えられており、透過率が優れたセルロースエステルフィルムを提供することができる。さらに、本発明のセルロースエステルフィルムを液晶表示装置に組み込めば、従来から問題になっていた表示ムラや湿度による視認性の変化を大幅に抑えることができる。また、本発明は増大する光学用途としてのセルロースエステルフィルムの需要に対して、有機溶媒を使用しない製造方法を提供することにより、環境に優しいセルロースエステルフィルムを提供するものである。以上より、本発明のセルロースエステルフィルムは産業上の利用可能性が非常に高い。
【図面の簡単な説明】
【0235】
【図1】押出機の構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0236】
22 押出機
32 シリンダー
40 供給口
A 供給部
B 圧縮部
C 計量部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(S−1)〜(S−3)を満たすセルロースエステルと、分子量500以上である亜リン酸エステル系安定剤をセルロースエステルに対して0.01〜3質量%と、エポキシ系安定剤をセルロースエステルに対して0.001〜1質量%とを含有するセルロースエステル組成物を、180〜240℃で溶融してダイから押し出し、製膜して膜厚20μm〜300μmのセルロースエステルフィルムを得る溶融製膜工程を含むことを特徴とするセルロースエステルフィルムの製造方法。
式(S−1) 2.5≦A+B≦3.0
式(S−2) 0≦A≦2.2
式(S−3) 0.8≦B≦3.0
(式中、Aはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度を表す。)
【請求項2】
前記亜リン酸エステル系安定剤と前記エポキシ系安定剤を予め混合して混合物とし、しかる後に該混合物をセルロースエステルに添加することを特徴とする請求項1に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記亜リン酸エステル系安定剤と前記エポキシ系安定剤の混合物が、前記亜リン酸エステル系安定剤と前記エポキシ系安定剤とを有機溶媒中に溶解し、しかる後に溶媒を除去して作製された混合物であることを特徴とする請求項2に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記エポキシ系安定剤の分子量が500以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記セルロースエステル組成物を180〜240℃で溶融してペレットを作製し、該ペレットを180〜240℃で溶融してダイから押し出すことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記亜リン酸系安定剤および前記エポキシ系安定剤が、それぞれ窒素中で220℃において30分間加熱した場合の質量減少量が20質量%以下である化合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記セルロースエステル組成物が、フェノール系安定剤、チオエーテル系安定剤、スズ系安定剤、アミン系安定剤および金属系安定剤からなる群より選択される1種類以上の安定剤を、セルロースエステルに対して0.01〜3質量%含有していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記セルロースエステル中のセルロースの水酸基に対して置換している炭素数3〜22のアシル基が、プロピオニル基およびブチリル基から選択されるアシル基であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記セルロースエステル組成物が、平均一次粒子サイズが0.005μm〜2μmである微粒子をセルロースエステルに対して0.005〜1.0質量%含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記セルロースエステル組成物が、分子量500以上の可塑剤をセルロースエステルに対して1〜20質量%含有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項11】
タッチロールを用いて溶融製膜することを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の製造方法により製造されるセルロースエステルフィルム。
【請求項13】
下記式(S−1)〜(S−3)を満たすセルロースエステルと、分子量500以上である亜リン酸エステル系安定剤をセルロースエステルに対して0.01〜3質量%と、エポキシ系安定剤をセルロースエステルに対して0.01〜1質量%とを含有し、残留溶媒量が0.01質量%以下であり、且つ、膜厚が20μm〜300μmであることを特徴とするセルロースエステルフィルム。
式(S−1) 2.5≦A+B≦3.0
式(S−2) 0≦A≦2.2
式(S−3) 0.8≦B≦3.0
(式中、Aはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度を表す。)
【請求項14】
偏光膜に、請求項12または13に記載のセルロースエステルフィルムを少なくとも1層積層したことを特徴とする偏光板。
【請求項15】
請求項12または13に記載のセルロースエステルフィルムを基材に用いたことを特徴とする光学補償フィルム。
【請求項16】
請求項12または13に記載のセルロースエステルフィルムを基材に用いたことを特徴とする反射防止フィルム。
【請求項17】
請求項14に記載の偏光板、請求項15に記載の光学補償フィルム、および、請求項16に記載の反射防止フィルムからなる群より選択される少なくとも一つを用いたことを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−284570(P2007−284570A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−113664(P2006−113664)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】