説明

タイヤ内圧低下判定装置

【課題】車両のタイヤ内圧低下を判定するに際し、タイヤ速度情報を得るための特殊な配線が不要であり、カーナビゲーションシステムに各機能を集約させたタイヤ内圧低下判定装置を提供する。
【解決手段】走行車両に搭載されたGPS受信機によるGPS情報から車両速度を算出する手段、車両のタイヤ回転センサによるタイヤ回転速度を算出する手段、該車両速度とタイヤ回転速度とを逐次比較することで、車両走行中のタイヤの見かけの動荷重半径を算出する手段、該動荷重半径値とあらかじめ正常内圧時の動荷重半径として記憶された初期値とを比較し、動荷重半径の変化の大きさから、タイヤの内圧低下を判定する手段を含むタイヤ内圧低下判定装置であって、前記GPS受信機として、いわゆるカーナビゲーションシステムに搭載されたGPS受信機を用いることを特徴とするタイヤ内圧低下判定装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーナビゲーションシステムに搭載されたGPS受信機を用いたタイヤ内圧低下判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
GPS情報から算出した車輌速度や距離とタイヤの回転数から、タイヤの内圧低下を検出する方法は、特許文献1〜3などに開示されている。
【0003】
しかしながら、GPS情報から算出した車輌の速度とタイヤ回転速度からタイヤの内圧低下を検出するためには、内圧の低下のみによるタイヤ回転速度変化を検出する必要がある。つまり車輌の走行状態による回転速度変化を排除する必要がある。
【0004】
特許文献1には、タイヤの回転情報から算出した車輌の走行軌跡と、GPSなどによる車輌位置情報から得た車輌の走行軌跡とを比較してタイヤ空気圧の低下を検出する方法が開示されているが、車輌の走行状態による回転速度変化を排除することについて示されていない。
【0005】
特許文献2や特許文献3では、タイヤ相互の回転状態の比較から走行状態を特定するものであるが、タイヤの内圧低下が発生したとき、すでに4輪相互の回転速度の関係はバランスがくずれており、正確な走行状態の特定ができない。
【0006】
また、GPS情報から算出した移動距離とタイヤ回転数からタイヤの動荷重半径を算出することによりタイヤの空気圧の低下を検知する方法も知られているが、車輌の走行状態による回転数変化の排除が不充分であるため精度が不充分である。
【0007】
ところで、比較的精度よくドライバーへの警報が可能なGPS情報を用いたタイヤ内圧低下検出の方法として、車両の絶対速度とタイヤの回転角速度との関係から走行中の車両の動荷重半径を正確に算出し、その変化の大きさから内圧低下を判定する方法が提案されている。このように、タイヤの動荷重半径に着目してタイヤの内圧低下を検出する方法は、実際に空気圧を圧力センサで測定し、その情報を無線等で送信する、いわゆる直圧式内圧警報装置よりコスト面で有利であることが期待されている。
【0008】
しかしながら、その実施の形態として、GPS受信機の情報を特別に利用すること、タイヤの回転速度情報が必要なこと、さらにその警報をどこに出力し、ドライバーに知らせるかが実施の上での課題となっていた。
【0009】
【特許文献1】特開2003−94920号公報
【特許文献2】特開2005−186739号公報
【特許文献3】特開2003−146037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
車両のタイヤ内圧低下を判定するに際し、タイヤ速度情報を得るための特殊な配線が不要であり、カーナビゲーションシステムに各機能を集約させたタイヤ内圧低下判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、走行車両に搭載されたGPS受信機によるGPS情報から車両速度を算出する手段、車両のタイヤ回転センサによるタイヤ回転速度を算出する手段、該車両速度とタイヤ回転速度とを逐次比較することで、車両走行中のタイヤの見かけの動荷重半径を算出する手段、該動荷重半径値とあらかじめ正常内圧時の動荷重半径として記憶された初期値とを比較し、動荷重半径の変化の大きさから、タイヤの内圧低下を判定する手段を含むタイヤ内圧低下判定装置であって、前記GPS受信機として、車両の現在地を表示もしくは付近の地理的状況等を運転者等に知らせること、または目的地への誘導を目的とする、いわゆるカーナビゲーションシステムに搭載されたGPS受信機を用いることを特徴とするタイヤ内圧低下判定装置に関する。
【0012】
内圧低下を判定するためのプログラムが、前記カーナビゲーションシステムに内蔵されたCPUに格納されていることが好ましい。
【0013】
タイヤ回転速度情報を、車両制御等に用いるための車両用LANを利用して取得することが好ましい。
【0014】
前記カーナビゲーションシステムの画面または音声を利用してタイヤ内圧低下の警報を運転者または同乗者に知らせることが好ましい。
【0015】
また本発明は、走行車両に搭載されたGPS受信機によるGPS情報から車両速度を算出する工程、車両のタイヤ回転センサによるタイヤ回転速度を算出する工程、該車両速度とタイヤ回転速度とを逐次比較することで、車両走行中のタイヤの見かけの動荷重半径を算出する工程、該動荷重半径値とあらかじめ正常内圧時の動荷重半径として記憶された初期値とを比較し、動荷重半径の変化の大きさから、タイヤの内圧低下を判定する工程を含むタイヤ内圧低下判定方法であって、前記GPS受信機として、車両の現在地を表示もしくは付近の地理的状況等を運転者等に知らせることまたは目的地への誘導を目的とする、いわゆるカーナビゲーションシステムに搭載されたGPS受信機を用いることを特徴とするタイヤ内圧低下判定方法にも関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、GPS受信機として、いわゆるカーナビゲーションシステムに搭載されたGPS受信機を用いることにより、タイヤ速度情報を得るための特殊な配線が不要であり、該カーナビゲーションシステムにタイヤ内圧低下判定のための各機能を集約させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、走行車両に搭載されたGPS受信機によるGPS情報から車両速度を算出する手段、車両のタイヤ回転センサによるタイヤ回転速度を算出する手段、該車両速度とタイヤ回転速度とを逐次比較することで、車両走行中のタイヤの見かけの動荷重半径を算出する手段、該動荷重半径値とあらかじめ正常内圧時の動荷重半径として記憶された初期値とを比較し、動荷重半径の変化の大きさから、タイヤの内圧低下を判定する手段を含むタイヤ内圧低下判定装置であって、前記GPS受信機として、車両の現在地を表示もしくは付近の地理的状況等を運転者等に知らせること、または目的地への誘導を目的とする、いわゆるカーナビゲーションシステムに搭載されたGPS受信機を用いることを特徴とするタイヤ内圧低下判定装置に関する。
【0018】
カーナビゲーションの普及によりGPS装置が多くの車両に取り付けられるようになった。このことでGPS装置による測位技術も向上し、現在では速度を算出することに特化した装置(英国Race Logic社製、GPS式速度計VBOX)も販売されている。このGPS情報を用いた速度計による算出速度(以下、GPS速度という)を用いて、タイヤの空気圧低下を検知することができる。
【0019】
タイヤにスリップがないと仮定すると、車両の速度としてGPS速度を用い、そのときのタイヤの回転速度(単位時間当たりの回転数)と比較することで、タイヤの動荷重半径(R)を算出することができる。
V(m/s)=2πR(m)・Freq(Hz)/N(個)
Nはタイヤ回転速度検出装置の車軸1回転あたりの歯数である。Freg(Hz)は、その回転速度検出装置の歯が1秒あたりにカウントされた数値である。
【0020】
ここでVをGPS速度計出力Vgps(km/h)に書き換えると
Vgps(km/h)=2πR(m)・Freq(Hz)・3.6/N(個)
ゆえに、R(m)=(N/2π・3.6)・Vgps(km/h)/freq(Hz)・・・(1)
N=48の場合
動荷重半径R(m)=2.122066・Vgps(km/h)/Freq(Hz)・・・(1)’
【0021】
ここで、直進走行でスリップ率の影響が排除できる場合、走行中のタイヤの動荷重半径を測定(算出)することができる。また、内圧が低下するとタイヤの動荷重半径は減少するため、正確に走行中のタイヤ動荷重半径を測定することができれば、タイヤの内圧低下を検知できる。
【0022】
GPS速度計の出力頻度と出力精度については、前述のVBOXの場合20Hz出力で0.01km/hの精度が公表されている。この精度によると、速度10km/h以上であれば0.1%以上の精度が得られることになるので、タイヤの内圧を25%低下させた場合の一般的なタイヤの動荷重半径変化が10分の数%であることから、検知精度は充分である。
【0023】
しかしながら、タイヤの動荷重半径を正確に測定(算出)するためには、測定の目的であるタイヤ内圧の変化以外の原因で生じるタイヤ回転速度の変化の影響を避ける必要がある。すなわち、タイヤ内圧以外の原因に影響されたタイヤ回転速度の測定データは、動荷重半径の算出に利用しないように、無効データとして排除する必要がある。
【0024】
スリップ率が大きく変化するのは、車両が加速あるいは減速したときに顕著であるが、そのほか坂道走行時には、一定速走行時でも重力加速度の影響により駆動輪のスリップ率は変化する。また転舵時には走行軌跡の内輪側と外輪側で回転速度が異なるため動荷重半径測定結果が影響を受ける。
【0025】
この対策として、GPS測位情報を利用することができる。直進走行か否かの判定には、GPSの測位情報から、その進行方向を得ることができ、その単位時間当たりの変化量から直進かどうかを判定することができる。また、平坦路を走行しているかどうかは、同じくGPSの測位情報から高度を得ることができ、その単位時間当たりの変化量から平坦かどうかを判定することができる。さらに加速減速については、算出されたGPS速度情報を時間微分することで、一定速度走行を加速度の大きさで判別することが可能である。
【0026】
このようにして、精度の高いGPS情報を利用することにより車両の走行条件を判定し、一定の基準を設けてタイヤ回転速度のデータが動荷重半径の算出に適する走行条件の範囲を限定することができる。
【0027】
本発明においては、前記GPS受信機として、車両の現在地を表示もしくは付近の地理的状況等を運転者等に知らせることまたは目的地への誘導を目的とする、いわゆるカーナビゲーションシステムに搭載されたGPS受信機を用いることを特徴とする。ここで、車輪速度情報として、CAN(Controller Area Network)情報を利用することが好ましい。すなわち、CAN情報を用いることで車輪速情報を得るための特殊な配線が不要となり、カーナビゲーションシステムへのタイヤ内圧低下判定のための各機能の集約が容易となる。車輪速度情報は、例えば車両制御等に用いるための車両用LANを利用して取得することができる。
【0028】
CANとは、ISOで国際的に標準化されたシリアル通信プロトコルであり、車両制動を目的に開発された通信仕様である。シリアルであるため配線が容易であり、そこに流れる情報はIDで受理される。したがって、車両速情報をCANから得ようとすると、CAN上のIDを指定することで取得が可能である。
【0029】
動荷重半径の測定の際には、GPS速度情報とタイヤ回転角速度情報の各データの取得時刻を同期することが重要である。GPS速度情報とCAN情報とを用いる場合、それぞれのクロックが異なるため、時刻の不一致が発生しやすい。そのような時刻が不一致であるデータを、ある程度の個数を集めて平均化することで時刻誤差を吸収し、減圧判定に必要な精度が得られれば、CANを利用した動荷重半径測定方式のタイヤ内圧低下判定装置が実現可能となる。
【0030】
なお、内圧低下を判定するためのプログラムが、前記カーナビゲーションシステムに内蔵されたCPUに格納されていることが好ましい。また、カーナビゲーションシステムの画面や音声を利用して、タイヤ内圧低下の警報を表示することが可能であり、いわばタイヤ内圧警報装置つきカーナビゲーションシステムの実現が可能となる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0032】
(1)タイヤ動荷重半径の測定実験
車両の絶対速度を得るためにGPS速度計(Race Logic社製)を取り付けた。車両の速度は50msec毎のシリアルデータとしての直接PCに出力した。
【0033】
まず、従来の方法としてABS制御に用いる回転速度情報をABS装置からの配線により4輪の回転パルス信号を取り出し、GPS速度情報の取得時刻と同期して、50msec毎にそのタイヤ回転角速度を計算し、PCに出力した。ABSによる動荷重半径の算出は、50msec毎に出力されるGPS速度とそれと同期して得られるABSによる車輪速情報から、50msec毎に動荷重半径を算出することによって得られたデータを、1秒毎に平均化することでデータベース化した。
【0034】
次に本発明の手法として、CANデータを車両より取り込むため、キャナライザ((株)高崎共同計算センター製:商品名シンプルCAN2)を用いて20msec毎の4輪の車輪速データとしてPCに出力した。CANによる動荷重半径の算出は、50msec毎に出力されるGPS速度を1秒毎に平均し、20msec毎に出力されるCANの車輪速情報を1秒毎に平均し、それら1秒毎の平均値のデータを用いて動荷重半径を計算しデータベース化した。
【0035】
情報の取り込みは、GPSによる位置の変化の情報から、直線平坦路をほぼ一定速度で走行していると判断する場合のみとした。
【0036】
<テスト条件>
車両:FF車
タイヤ:185/70R14 SP10
路面:神戸市内の一般道および高速道路
走行条件:基準内圧(210kPa)で1名乗車
【0037】
GPS速度情報とABS信号による動荷重半径の結果と、GPS速度情報とCANの速度データによる動荷重半径速度結果を比較した。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
各速度域での動荷重半径の平均値は、ABS速度情報による平均値とCAN速度情報による平均値とを比較すると、0.3mm以内でよく一致しており、CAN情報を用いても、平均化を工夫することで、動荷重半径の計測が精度良く達成できることが確認できた。
【0040】
(2)CAN情報による減圧判定実験
<走行条件>
RL輪25%減圧(158kPa)で1名乗車(他3輪は基準内圧(210kPa))
【0041】
上記走行条件により走行を行なった場合のCAN情報による動荷重半径判定値は、40±5km/h速度域での120個(2分相当)集まった時点での平均値は300.03mmとなった。RL輪の正常内圧時の動荷重半径は表1より、301.05mmであり、差は1.02mmであった。しきい値として0.6mmを設けると、明らかに警報を発することができる。このように、CAN情報によるタイヤ回転速度を利用しても、内圧の低下を検知できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車両に搭載されたGPS受信機によるGPS情報から車両速度を算出する手段、車両のタイヤ回転センサによるタイヤ回転速度を算出する手段、該車両速度とタイヤ回転速度とを逐次比較することで、車両走行中のタイヤの見かけの動荷重半径を算出する手段、該動荷重半径値とあらかじめ正常内圧時の動荷重半径として記憶された初期値とを比較し、動荷重半径の変化の大きさから、タイヤの内圧低下を判定する手段を含むタイヤ内圧低下判定装置であって、
前記GPS受信機として、車両の現在地を表示もしくは付近の地理的状況等を運転者等に知らせること、または目的地への誘導を目的とする、いわゆるカーナビゲーションシステムに搭載されたGPS受信機を用いることを特徴とするタイヤ内圧低下判定装置。
【請求項2】
内圧低下を判定するためのプログラムが、前記カーナビゲーションシステムに内蔵されたCPUに格納されていることを特徴とする請求項1記載のタイヤ内圧低下判定装置。
【請求項3】
タイヤ回転速度情報を、車両制御等に用いるための車両用LANを利用して取得することを特徴とする請求項1または2記載のタイヤ内圧低下判定装置。
【請求項4】
前記カーナビゲーションシステムの画面または音声を利用してタイヤ内圧低下の警報を運転者または同乗者に知らせることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ内圧低下判定装置。
【請求項5】
走行車両に搭載されたGPS受信機によるGPS情報から車両速度を算出する工程、車両のタイヤ回転センサによるタイヤ回転速度を算出する工程、該車両速度とタイヤ回転速度とを逐次比較することで、車両走行中のタイヤの見かけの動荷重半径を算出する工程、該動荷重半径値とあらかじめ正常内圧時の動荷重半径として記憶された初期値とを比較し、動荷重半径の変化の大きさから、タイヤの内圧低下を判定する工程を含むタイヤ内圧低下判定方法であって、
前記GPS受信機として、車両の現在地を表示もしくは付近の地理的状況等を運転者等に知らせることまたは目的地への誘導を目的とする、いわゆるカーナビゲーションシステムに搭載されたGPS受信機を用いることを特徴とするタイヤ内圧低下判定方法。

【公開番号】特開2008−18818(P2008−18818A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−191737(P2006−191737)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】