説明

ターボチャージャ用回転支持装置

【課題】 エンジンの起動・停止時における軸受ハウジングの外周面とケーシングの内周面との間での金属接触、ひいては摩耗の発生を防止する。
【解決手段】 一端部にタービンが固定され、他端部にインペラが固定された回転軸と、軸方向に離隔した2個所位置に設けた1対の転がり軸受により前記回転軸を回転自在に支持する軸受ハウジングと、前記軸受ハウジングを収容するケーシングと、を備え、前記軸受ハウジングの外周面と前記ケーシングの内周面との間に形成された隙間空間を潤滑油で満たすことにより油膜が形成されるターボチャージャ用回転支持装置において、前記軸受ハウジングの外周面に、凹部が形成されたことを特徴とするターボチャージャ用回転支持装置により解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はターボチャージャ用回転支持装置に関し、特に軸受けハウジングと該軸受ハウジングを収容するケーシングの磨耗を低減したターボチャージャ用回転支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの出力を排気量を変えずに増大させるため、エンジンに送り込む空気を排気のエネルギにより圧縮するターボチャージャが広く使用されている。このターボチャージャは、排気のエネルギを、排気通路の途中に設けたタービンにより回収し、このタービンをその端部に固定した回転軸により、給気通路の途中に設けたコンプレッサのインペラを回転させる。このインペラは、エンジンの運転に伴って数万〜十数万min-1(rpm)の速度で回転し、給気通路を通じてエンジンに送り込まれる空気を圧縮する。
【0003】
図3は、この様な従来のターボチャージャの一例を示したものである。また、図4は図3の部分拡大図である。このターボチャージャは、排気流路1を流通する排気により、回転軸2の一端(図3の左側)に固定したタービン3を回転させる。回転軸2の回転は、回転軸2の他端(図3の右側)に固定したインペラ4に伝わり、このインペラ4が給気流路5内で回転する。この結果、この給気流路5の上流端開口から吸引された空気が圧縮されて、ガソリン、軽油等の燃料と共にエンジンのシリンダ室内(図示せず)に送り込まれる。
【0004】
この様なターボチャージャの回転軸2は、数万〜十数万min-1もの高速で回転し、しかも、エンジンの運転状況に応じてその回転速度が頻繁に変化する。従って、回転軸2は軸受ハウジング6に対し、小さな回転抵抗で支持する必要がある。このために従来から、軸受ハウジング6の内側に設けられた第一、第二の玉軸受7、8により、回転軸2を回転自在に支持する構成を採用している。
【0005】
更に、上記軸受ハウジング6を納めたケーシング18内に給油通路19を設け、この軸受ハウジング6並びに上記第一、第二の玉軸受7、8を冷却及び潤滑自在としている。即ち、ターボチャージャを装着したエンジンの運転時に、潤滑油は給油通路19の上流端に設けたフィルタ20により異物を除去されて、ケーシング18の内周面と軸受ハウジング6の外周面との間に形成された円環状の隙間空間21に送り込まれる。そして、この隙間空間21を上記潤滑油で満たすことにより、軸受ハウジング6の外周面とケーシング18の内周面との間に全周にわたって油膜(オイルフィルム)を形成し、これらケーシング18及び軸受ハウジング6を冷却すると共に、回転軸2の回転に基づく振動を減衰する、オイルフィルムダンパを構成している。このような構成のターボチャージャ用回転支持装置としては、例えば、特開2001−140888号公報に開示されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2001−140888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記オイルフィルムダンパはエンジン内を循環するエンジンオイルにより行なっているため、エンジンの起動時又は停止時には十分な油膜が形成されない。このため、エンジンの起動又は停止時には軸受ハウジング6の外周面とケーシング18の内周面との間で接触が起こり、軸受ハウジング6の外周面とケーシング18の内周面が摩耗するという問題がある。
【0007】
このようにして発生した摩耗粉はエンジンオイルに混入してエンジン内を循環し、第一、第二の玉軸受7、8に噛み込まれ、各玉13、13の転動面や外輪軌道9及び内輪軌道11に摩耗や圧痕等の損傷が生じる可能性がある。この様な損傷が生じると、回転軸2が数万〜十数万min-1の高速回転した場合に、第一、第二の玉軸受7、8から振動や騒音が発生する可能性があり、上記ターボチャージャの信頼性及び耐久性が低下するため、好ましくない。
【0008】
従って本発明の目的は、エンジンの起動・停止時における軸受ハウジングの外周面とケーシングの内周面との間での金属接触、ひいては摩耗の発生を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、一端部にタービンが固定され、他端部にインペラが固定された回転軸と、軸方向に離隔した2個所位置に設けた1対の転がり軸受により前記回転軸を回転自在に支持する軸受ハウジングと、前記軸受ハウジングを収容するケーシングと、を備え、前記軸受ハウジングの外周面と前記ケーシングの内周面との間に形成された隙間空間を潤滑油で満たすことにより油膜が形成されるターボチャージャ用回転支持装置において、前記軸受ハウジングの外周面に、凹部が形成されたことを特徴とする。
【0010】
このような構成により、前記軸受ハウジングの外周面に形成された凹部が油溜めとして機能し、エンジンの起動・停止時においても前記軸受ハウジングの外周面に十分な油膜を形成することができる。
【0011】
上記発明の好ましい態様によれば以下の通りである。前記凹部の直径は、0.1〜100μmであることが好ましく、直径0.5〜20μmであることがより好ましい。
【0012】
また、前記凹部の直径は、前記軸受ハウジングの回転方向(Dr)と軸方向(Dv)の比で表したとき下記式(1)で表す関係であることが油溜め機能を発揮する上で好適である。
Dv/Dr≧1 (1)
【0013】
また、前記凹部の深さは、0.1〜20μmであることが好ましい。
【0014】
また、前記凹部に、固体潤滑剤が充填されてなることが好ましい。かかる固体潤滑剤を充填することで、軸受ハウジングの外周面の凹部に充填された固体潤滑剤が回転軸の遠心力等で徐々に脱落し、ケーシングの内周面と軸受ハウジングの外周面との接触に伴う摩耗をさらに低減することができる。
【0015】
前記固体潤滑剤の硬さは、前記ハウジングの外周面の硬さよりも100HV以上低いことが好ましい。これにより、ショットブラスト等において固体潤滑剤をショット粒として使用する場合でも、保持器の変形を防止することができる。
【0016】
前記転がり軸受は、玉軸受であり、かつ、該玉軸受を構成する玉がセラミック製であることが好ましい。これにより、転がり軸受を構成する外輪及び内輪との耐焼付き性や耐熱性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るターボチャージャ回転支持装置は、軸受ハウジング外周面に微小な凹凸が形成されたことにより、軸受ハウジング外周面に潤滑油が保持されるため、エンジンの運転開始直後、軸受ハウジングの外周面とケーシングの内周面にエンジンオイルが行き渡るまでの間、或いはエンジンの急加減速に伴ってエンジンオイルの供給が追いつかない場合でも、部品同士の潤滑を確保できる。その結果、転がり軸受への異物の噛み込みを防止できるため、ターボチャージャの信頼性及び耐久性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明に係るターボチャージャ用回転支持装置について更に詳細に説明する。図1に、本発明のターボチャージャ用回転支持装置に係る実施形態の一例を示す。なお、本発明の特徴は、軸受ハウジング40の外周面41に凹部42を形成することにより、凹部42が油溜めとして機能し、エンジンの起動・停止時においても軸受ハウジング40の外周面41に十分な油膜を形成する点にある。ターボチャージャ用回転支持装置の全体構成については、前述の図3に示した構造を含み、従来から知られている回転支持装置と同様であるため、同等部分に関する説明は省略若しくは簡略にし、以下、本発明の特徴部分を中心に説明する。
【0019】
図1に示すように、軸受ハウジング40の外周面41の全面にわたり、微小な凹部42が形成されている。
【0020】
この表面に設けられた微小な凹部42の直径は0.1〜100μmが好ましく、直径0.5〜20μmであることがより好ましい。直径0.1μm未満では十分な油溜め機能を発揮することができない。また、直径100μmを超えると軸受ハウジングの外周面の真円度が悪くなる結果、振動が発生しやすくなる。
【0021】
凹部42の深さは、真円度と油膜形成能力のバランスの観点から、0.1〜20μmが好ましく、0.2〜5μmであることがより好ましい。
【0022】
また、前記凹部42の直径は、軸受ハウジング40の回転方向(Dr)と軸方向(Dv)の比で表したとき下記式(1)で表す関係を有している。
Dv/Dr≧1 (1)
【0023】
即ち、形成されている凹部42の形状は、軸方向(Dv)に長軸を有する楕円形である。但し、上記の条件を満たしていれば、楕円形に限定されず、例えば、長方形等であってもよい。
【0024】
上記のような微小な凹部42を軸受ハウジング外周面41に形成する方法としては、例えば、ショットピーニングやバレル処理が挙げられる。
【0025】
軸受ハウジング40の材料としては、機械構造用炭素鋼(S45C)、高炭素クロム軸受鋼、浸炭鋼、中炭素合金鋼、機械構造用鋼、高Si高温鉄鋼、ステンレス、M50(AISI規格)、SKH等の耐熱鋼等の鉄鋼材料を用いることができる。また、表面強度を向上させるべく、浸炭処理や窒化処理、または浸炭窒化処理等を施すことが好ましい。
【0026】
軸受ハウジング40の外周面41に形成された凹部42には、固体潤滑剤43が充填されている。ここで、「固体潤滑剤」とは、非油溶性の潤滑剤のことをいい、一般に使用されている固体潤滑剤を用いることができるが、具体的には、例えば、ポリエチレン、フッ素樹脂、ナイロン、ポリアセタール、ポリオレフイン、ポリエステル、金属石鹸、MoS2、WS2、BN、黒鉛、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等を挙げることができる。
【0027】
凹部42に固体潤滑剤43を充填する方法としては、ショットピーニング、ショットブラスト等により、固体潤滑剤43を塑性変形させて、機械的なかみ合いを利用する方法がある。また、前加工としてバレル加工を行い、その後、固体潤滑剤43を塑性変形させて充填することもできる。
【0028】
固体潤滑剤43は、その硬さが軸受ハウジング40の外周面41の硬さよりも100HV以上低いことが好ましい。滑り軸受ならびに転がり軸受等の機械部品においては、異物が混入すると著しく寿命が低下することが知られている。また、ショットブラスト等により固体潤滑剤43を凹部42に充填する場合、固体潤滑剤43の硬さと軸受ハウジング40の外周面41の硬さの差が100HV未満の場合では、固体潤滑剤43をショット粒として使用したときに軸受ハウジング40が変形する恐れがある。
【0029】
以上のような理由から、凹部42から脱落した場合に著しく寿命を低下させない固体潤滑剤は、軸受ハウジング40の外周面41の硬さより100HVより低い硬さを有するものが選択される。上述した観点から、さらに好ましい固体潤滑剤は、軸受ハウジング40の外周面41の硬さより300HV以上低い硬さを有するものである。
【0030】
図4に示す第一、第二の玉軸受7及び8を構成する外輪10、内輪12及び各玉13、13は、耐熱性を有するものが用いられる。このうちの外輪10及び内輪12は、0.7〜1.5重量%のけい素(Si)と、0.5〜2.0重量%のクロム(Cr)と、0.5〜2.0重量%のモリブデン(Mo)とを含む高Si高温鉄鋼や、ステンレス、M50(
AISI規格)、SKH(ハイス)等の耐熱鋼等の鉄鋼材料、或いは、窒化けい素等のセラミック材料により製造される。
【0031】
前記鉄鋼材料を使用する場合には、表面強度を向上させるべく、浸炭処理や窒化処理、または浸炭窒化処理等を施すことが好ましい。特に、窒化処理を施す場合には、上記鉄鋼材料素地の硬さ劣化を抑制する観点から、塩浴室化処理又はガス窒化処理によって480℃以下で処理することが好ましい。
【0032】
また、上記窒化処理により形成する窒化層を、d相(Fe2N)、e相(Fe2N〜Fe3N)、Y'相(Fe4N)、CrN、及びCr2Nのうちの少なくとも何れかの窒化物をマルテンサイト地に多量に析出させたものとすれば、この窒化層を著しく高い硬さ並びに靭性を有するものにできる。
【0033】
前記セラミック材料を使用する場合は、HIP法、ガス圧焼結法等の加圧焼結により得ることができる。ここで、平均値で幅3μm以下、長さ4μm以上の柱状に成長した柱状結晶が窒化けい素粒全体の70%以上、好ましくは90%以上含まれたものが好ましく使用できるが、比強度の条件を満たす材料であれば常圧焼結のものでも良い。
【0034】
また、焼結体の重量を基準(100重量%)とした場合、助剤成分として、20重量%を上限として、Al2、O3、MgO、CeO等の金属酸化物、及びY23、Yb23、La23等の希土類酸化物の中から選択したものを前記セラミック材料に添加することもできる。
【0035】
また、この様な窒化けい素以外でも、熱伝導率の高い窒化けい素焼粘体を用いると、放熱性に優れるため好ましい。
【0036】
更に、図4に示す各玉13及び13は、外輪10及び内輪12との耐焼付き性や耐熱性を考慮して、外輪10及び内輪12の製造で用いる先述の鉄鋼材料やセラミック材料を用いることができる。勿論、鉄鋼材料を用いる場合には、上述した様な表面処理を施しても良い。セラミック材料が耐焼付き性および耐熱性に優れるため好適である。
【0037】
また、上記第一、第二の玉軸受7、8に組み込む保持器14は、ポリイミドを主成分とした耐熱性合成樹脂材料を使用することができる。耐熱性を考慮すれば、アルミニウム(Al)合金及びマグネシウム(Mg)合金、チタン(Ti)合金等の軽量合金や、銅(Cu)合金、鉄(Fe)合金等の金属を使用してもよい。但し、金属合金製の保持器14の場合は、耐熱性並びに強度に優れるが、合成樹脂製の保持器14に比較して摺動性に劣る。このため、表面に酸化処理や窒化処理を施すか、鉛(Pb)、銀(Ag)等の軟質金属やDLC(ダイヤモンド状炭素)等の潤滑性被膜を形成することが好ましい。
【実施例1】
【0038】
機械構造用炭素鋼(S45C)製の軸受ハウジングを使用し、ショットピーニングにより該軸受ハウジングの外周面に凹部を形成した。凹部は、回転方向(Dr)の直径を5μm、軸方向(Dv)の直径を6μmとし(Dv/Dr=1.2)、深さを2.5μmとした。
【0039】
次いで、固体潤滑剤として二硫化モリブデンを使用し、ショットピーニングにより、上記のようにして形成された凹部に充填した。なお、二硫化モリブデンは、軸受ハウジングの外周面の硬さより280HV低い硬さのものを使用した。
【実施例2】
【0040】
機械構造用炭素鋼(S45C)製の軸受ハウジングを使用し、凹部の形状は、回転方向(Dr)の直径を10μm、軸方向(Dv)の直径を13μmとし(Dv/Dr=1.3)、深さを4μmとした以外は実施例1と同様の要領で処理することにより、二硫化モリブデンが外周面の凹部に充填された軸受ハウジングを製造した。なお、二硫化モリブデンは、軸受ハウジングの外周面の硬さより300HV低い硬さのものを使用した。
【実施例3】
【0041】
機械構造用炭素鋼(S45C)製の軸受ハウジングを使用し、凹部の形状は、回転方向(Dr)の直径を5μm、軸方向(Dv)の直径を6μmとし(Dv/Dr=1.2)、深さを0.1μmとした以外は実施例1と同様の要領で処理することにより、二硫化モリブデンが外周面の凹部に充填された軸受ハウジングを製造した。なお、二硫化モリブデンは、軸受ハウジングの外周面の硬さより200HV低い硬さのものを使用した。
【実施例4】
【0042】
機械構造用炭素鋼(S45C)製の軸受ハウジングを使用し、凹部の形状は、回転方向(Dr)の直径を10μm、軸方向(Dv)の直径を11μmとし(Dv/Dr=1.1)、深さを20μmとした以外は実施例1と同様の要領で処理することにより、二硫化モリブデンが外周面の凹部に充填された軸受ハウジングを製造した。なお、二硫化モリブデンは、軸受ハウジングの外周面の硬さより700HV低い硬さのものを使用した。
【実施例5】
【0043】
機械構造用炭素鋼(S45C)製の軸受ハウジングを使用し、凹部の形状は、回転方向(Dr)の直径を5μm、軸方向(Dv)の直径を9μmとし(Dv/Dr=1.8)、深さを3μmとした以外は実施例1と同様の要領で処理することにより、二硫化モリブデンが外周面の凹部に充填された軸受ハウジングを製造した。なお、二硫化モリブデンは、軸受ハウジングの外周面の硬さより700HV低い硬さのものを使用した。
【実施例6】
【0044】
機械構造用炭素鋼(S45C)製の軸受ハウジングを使用し、凹部の形状は、回転方向(Dr)の直径を10μm、軸方向(Dv)の直径を16μmとし(Dv/Dr=1.6)、深さを2μmとした以外は実施例1と同様の要領で処理することにより、二硫化モリブデンが外周面の凹部に充填された軸受ハウジングを製造した。なお、二硫化モリブデンは、軸受ハウジングの外周面の硬さより500HV低い硬さのものを使用した。
[比較例1]
【0045】
機械構造用炭素鋼(S45C)製の軸受ハウジングを使用し、凹部を形成せずに、軸受ハウジングの外周面に二硫化モリブデン処理を施した。なお、二硫化モリブデンは、軸受ハウジングの外周面の硬さより280HV低い硬さのものを使用した。
[比較例2]
【0046】
機械構造用炭素鋼(S45C)製の軸受ハウジングを使用し、二硫化モリブデンとして、軸受ハウジングの外周面の硬さより300HV低い硬さのものを使用した以外は比較例1と同様の要領で軸受ハウジングを処理した。
[比較例3]
【0047】
機械構造用炭素鋼(S45C)製の軸受ハウジングを使用し、二硫化モリブデンとして、軸受ハウジングの外周面の硬さより80HV低い硬さのものを使用した以外は比較例1と同様の要領で軸受ハウジングを処理した。
[比較例4]
【0048】
機械構造用炭素鋼(S45C)製の軸受ハウジングを使用し、凹部の形状は、回転方向(Dr)の直径を10μm、軸方向(Dv)の直径を8μmとし(Dv/Dr=0.8)、深さを0.8μmとした以外は実施例1と同様の要領で処理することにより、二硫化モリブデンが外周面の凹部に充填された軸受ハウジングを製造した。なお、二硫化モリブデンは、軸受ハウジングの外周面の硬さより700HV低い硬さのものを使用した。
[比較例5]
【0049】
機械構造用炭素鋼(S45C)製の軸受ハウジングを使用し、凹部の形状は、回転方向(Dr)の直径を5μm、軸方向(Dv)の直径を6μmとし(Dv/Dr=1.2)、深さを4μmとした以外は実施例1と同様の要領で処理することにより、二硫化モリブデンが外周面の凹部に充填された軸受ハウジングを製造した。なお、二硫化モリブデンは、軸受ハウジングの外周面の硬さより80HV低い硬さのものを使用した。
[耐摩耗試験]
【0050】
図2に示すようなサバン式摩耗試験機30を用い、以下の方法によって耐摩耗試験を行った。ピン31表面に、実施例1〜6と同様の条件で凹部(図示せず)を形成し、さらに、その凹部に二硫化モリブデンを充填した。そして、相手材すなわちリング状試験片32は同様にSUJ2を用い、ラップ加工を施すことによって、粗さが0.02μmRa以下となるようにした。
【0051】
そしてエンジンの起動・停止時の潤滑状態を再現するために鉱物油系の市販エンジンオイルEO(商品名ゼプロSL、出光興産社製)を10μl/minの割合でリング状試験片32に滴下し、2.2GPaの面圧Nをかけつつ、1.2m/sの滑り速度で2000m分回転し、ピン31の摩耗量(mg)を測定した。なお、試験は各5回行い、ピン31の磨耗量の平均値を求めた。そして、微小な凹凸の直径を100μmとしたものを摩耗面積を1として、比摩耗面積を算出することにより比較評価を行った。
【0052】
評価基準は以下の通りである。
A:平均磨耗量が0.05mg未満
B:平均磨耗量が0.05〜0.1mg未満
C:平均磨耗量が0.1mg以上
【0053】
評価結果を表1に示す。表中、「Dv/Dr」は、「凹部の回転方向(Dr)の直径/軸方向(Dv)の直径」を意味し、「(ハウジングHV)−(固体潤滑剤HV)」は、「軸受ハウジングの外周面の硬さ−固体潤滑剤の硬さ」を意味する。
【0054】
表1に示されるように、ピン31表面にDv/Dr≧1の条件を満たす凹部を設け、さらにその凹部に軸受ハウジングの外周面の硬さよりも100HVより低い硬さの固体潤滑剤を充填することにより、耐摩耗性の著しい向上が認められた。
【0055】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明のターボチャージャ用回転支持装置に係る実施形態の一例を示す図である。
【図2】耐摩耗試験を説明するための図である。
【図3】従来のターボチャージャの一例を示す図である。
【図4】図3のターボチャージャの部分拡大図である。
【符号の説明】
【0057】
1:排気通路、2:回転軸、3:タービン、4:インペラ、5:給気通路、6:軸受ハウジング、7:第一の玉軸受、8:第二の玉軸受、10:外輪、11:内輪軌道、12:内輪、13:玉、14:保持器、18:ケーシング、19:給油通路、20:フィルタ、21:隙間空間、30:サバン式磨耗試験機、31:ピン、32:リング状試験片
40:軸受ハウジング、41:軸受ハウジングの外周面、42:凹部、43:固体潤滑剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部にタービンが固定され、他端部にインペラが固定された回転軸と、軸方向に離隔した2個所位置に設けた1対の転がり軸受により前記回転軸を回転自在に支持する軸受ハウジングと、前記軸受ハウジングを収容するケーシングと、を備え、前記軸受ハウジングの外周面と前記ケーシングの内周面との間に形成された隙間空間を潤滑油で満たすことにより油膜が形成されるターボチャージャ用回転支持装置において、
前記軸受ハウジングの外周面に、凹部が形成されたことを特徴とするターボチャージャ用回転支持装置。
【請求項2】
前記凹部の直径が、0.1〜100μmであることを特徴とする請求項1記載のターボチャージャ用回転支持装置。
【請求項3】
前記凹部の直径が、前記軸受ハウジングの回転方向(Dr)と軸方向(Dv)の比で表したとき下記式(1)で表す関係であることを特徴とする請求項1又は2記載のターボチャージャ用回転支持装置。
Dv/Dr≧1 (1)
【請求項4】
前記凹部の深さが、0.1〜20μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のターボチャージャ用回転支持装置。
【請求項5】
前記凹部に、固体潤滑剤が充填されてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のターボチャージャ用回転支持装置。
【請求項6】
前記固体潤滑剤の硬さは、前記軸受ハウジングの外周面の硬さよりも100HV以上低いことを特徴とする請求項5記載のターボチャージャ用回転支持装置。
【請求項7】
前記転がり軸受が玉軸受であり、かつ、該玉軸受を構成する玉がセラミック製であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載のターボチャージャ用回転支持装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−90402(P2006−90402A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−275591(P2004−275591)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】