説明

ディスクブレーキ

本発明は、ディスクブレーキ(1)であって、たとえば圧電素子を有する電気機械的なアクチュエータ(19)と、ハイドロリック的な自己倍力装置とが設けられている形式のものに関する。自己倍力を制御するために、本発明は、ハイドロリック的に自己倍力装置の補助ピストン(8)とディスクブレーキ(1)のブレーキピストン(5)との間に弁(14)を設けることを提案している。この弁(14)によって、ブレーキピストン(5)が、ハイドロリック的に補助ピストン(8)から分離可能となる。これによって、ディスクブレーキ(1)の自己倍力が遮断可能となる。変調された弁制御および/または比例弁(14)の使用によって、自己倍力の高さを制御または調整することができる。さらに、ロックを回避するために、本発明は、ロック防止弁(15)を提案している。このロック防止弁(15)によって、補助ピストン(8)またはブレーキピストン(5)が、周辺圧下にあるハイドロアキュムレータ(16)に接続可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景技術
本発明は、ディスクブレーキであって、摩擦ブレーキライニングとブレーキピストンとが設けられており、該ブレーキピストンによって、摩擦ブレーキライニングが、ブレーキディスクに向かって押圧可能であり、摩擦ブレーキライニングが、ブレーキディスクに対して横方向にかつ平行に移動可能であり、周方向で補助ピストンに支持されており、該補助ピストンが、ブレーキディスクに対して平行に移動可能であり、ブレーキピストンに連通するようになっている形式のものに関する。
【0002】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第1480005号明細書に基づき、ディスクブレーキが公知である。この公知のディスクブレーキは、ブレーキピストンと摩擦ブレーキライニングとを備えている。この摩擦ブレーキライニングは、ディスクブレーキを操作するために、ブレーキピストンによってブレーキディスクに向かって押圧可能である。公知のディスクブレーキのブレーキピストンはブレーキディスクに対して横方向に作用する。摩擦ブレーキライニングはブレーキディスクに対して横方向にかつ平行に移動可能である。この場合、平行とは、ブレーキディスクに対して周方向または割線方向への移動を意味している。ブレーキディスクに対して平行な移動に対して、公知のディスクブレーキの摩擦ブレーキライニングは補助ピストンに支持されている。この補助ピストンは、摩擦ブレーキライニングと同様にブレーキディスクに対して平行に移動可能である。補助ピストンはブレーキピストンに連通する。
【0003】
摩擦ブレーキライニングが、ディスクブレーキを操作するために、回転しているブレーキディスクに向かって押圧されると、ブレーキディスクがその回転方向で摩擦力を、ブレーキディスクに向かって押圧される摩擦ブレーキライニングに加える。この摩擦ブレーキライニングは、ブレーキディスクの回転方向に移動させられ、補助ピストンに支持されている。これによって、この補助ピストンが、ブレーキキャリパに設けられたシリンダ孔内に移動させられ、ハイドロリック的な圧力を発生させる。補助ピストンはブレーキピストンに連通しているので、ハイドロリック的な圧力がブレーキピストンに伝達される。このブレーキピストンは摩擦ブレーキライニングをブレーキディスクに向かって押圧する。静的に見ると、補助ピストンとブレーキピストンとに同じ圧力が作用している。補助ピストンのピストン面積とブレーキピストンのピストン面積との比は、ハイドロリック的に負荷されるピストン面積の比の逆数に等しい。補助ピストンと、この補助ピストンに連通しているブレーキピストンとは、ハイドロリック的な自己倍力装置を形成している。この自己倍力装置は、ディスクブレーキの操作時に、回転しているブレーキディスクから、このブレーキディスクに向かって押圧される摩擦ブレーキライニングに加えられる摩擦力を補助力として使用し、これによって、摩擦ブレーキライニングがブレーキディスクに向かって押圧され、これによって、ディスクブレーキの制動力が高められる。
【0004】
発明の開示
本発明の構成によれば、補助ピストンとブレーキピストンとの間に弁が介在されている。
【0005】
本発明の有利な構成によれば、当該ディスクブレーキが、摩擦ブレーキライニングを当該ディスクブレーキの操作のためにブレーキディスクに当て付けることができる装置を有している。
【0006】
本発明の有利な構成によれば、当該ディスクブレーキが、セルフロック式に設計されている。
【0007】
本発明の有利な構成によれば、当該ディスクブレーキが、アクチュエータを有しており、該アクチュエータによって、摩擦ブレーキライニングが、当該ディスクブレーキの操作のためにブレーキディスクに向かって押圧可能である。
【0008】
本発明の有利な構成によれば、当該ディスクブレーキが、ハイドロポンプを有しており、該ハイドロポンプによって、ブレーキピストンが圧力負荷可能である。
【0009】
本発明の有利な構成によれば、ブレーキピストンが、マスタブレーキシリンダに接続されている。
【0010】
本発明の有利な構成によれば、補助ピストンが、戻しばねを有しており、該戻しばねのばね力が、ブレーキピストンを当該ディスクブレーキの操作時に補助ピストンに支持する力のオーダ内にある。
【0011】
本発明の有利な構成によれば、当該ディスクブレーキが、ブレーキピストンに対する圧力センサと、補助ピストンに対する圧力センサとを有している。
【0012】
本発明の有利な構成によれば、補助ピストンまたはブレーキピストンが、弁によってハイドロアキュムレータに連通するようになっている。
【0013】
本発明の有利な構成によれば、当該ディスクブレーキが、逆方向に移動可能な2つの補助ピストンを有しており、摩擦ブレーキライニングが、ブレーキディスクの回転方向に関連して両補助ピストンの一方に支持されている。
【0014】
本発明の有利な構成によれば、補助ピストンが、ブレーキピストンよりも小さなピストン面を有している。
【0015】
本発明の有利な構成によれば、ブレーキピストンが、ハイドロリック的に別個に負荷可能な2つのピストン面を有しており、両ピストン面が、1つまたはそれ以上の弁によって選択的に補助ピストンに接続可能である。
【0016】
本発明の有利な構成によれば、ブレーキピストンが、段付きピストンである。
【0017】
本発明の有利な構成によれば、ピストン面が、それぞれ異なる大きさに形成されている。
【0018】
本発明の有利な構成によれば、当該ディスクブレーキが、別のブレーキピストンを有しており、両ブレーキピストンが、1つまたはそれ以上の弁によって選択的に補助ピストンに接続可能である。
【0019】
本発明の有利な構成によれば、ブレーキピストンが、それぞれ異なる大きさのピストン面を有している。
【0020】
請求項1の特徴を備えた本発明によるディスクブレーキは、公知のディスクブレーキ同様、ブレーキディスクに対して平行に移動可能な補助ピストンを備えたハイドロリック的な自己倍力装置を有している。補助ピストンはブレーキピストンに連通している。制動時には、ブレーキディスクに対して平行に移動可能な摩擦ブレーキライニングが補助ピストンに支持されている。この補助ピストンはハイドロリック的な圧力を発生させる。このハイドロリック的な圧力によって、補助ピストンがブレーキピストンを負荷し、これによって、ディスクブレーキの制動力を高める。本発明によるディスクブレーキでは、補助ピストンとブレーキピストンとの間に弁が介在されている。この弁は、有利には比例弁である。弁の閉鎖によって、ブレーキピストンがハイドロリック的に補助ピストンから分離され、これによって、ディスクブレーキが自己倍力を有していない。ブレーキピストンと補助ピストンとの間に介在された弁によって、自己倍力が切換可能となるかもしくは制御可能または調整可能となる。本発明によるディスクブレーキによって、制動操作がアクチュエータなしにまたはマスタブレーキシリンダに対する接続部なしに可能となる。制動操作のために必要となるハイドロリック的な圧力は補助ピストンによって発生させられる。この補助ピストンは、これに連通するブレーキピストンを負荷する。補助ピストンの圧力は摩擦力によって発生させられる。この摩擦力を、回転しているブレーキディスクが、このブレーキディスクに向かって押圧される摩擦ブレーキライニングに加える。この摩擦ブレーキライニングは補助ピストンに支持されていて、これによって、摩擦力を補助ピストンに伝達する。制動力の高さは、ブレーキピストンと補助ピストンとの間に介在された弁によって制御または調整される。制動操作のために必要となる補助力は、回転しているブレーキディスクから、ディスクブレーキの操作時にブレーキディスクに向かって押圧される摩擦ブレーキライニングに加えられる摩擦力である。したがって、本発明によるディスクブレーキは、補助力ブレーキとして形成可能である。アクチュエータ、マスタブレーキシリンダまたは、たとえば制動力を外部エネルギによって発生させるハイドロポンプを備えた圧力発生装置は必ずしも必要ではない。
【0021】
本発明は高い自己倍力を可能にし、前述したように、実施態様では、補助力ブレーキとして形成することができる。この補助力ブレーキはその操作のために、回転しているブレーキディスクから摩擦ブレーキライニングに加えられる摩擦力を補助力として使用し、筋力または外力を必要としない。このことは、ディスクブレーキを操作するための筋力または外力の使用を本発明の実施態様において排除している。自己倍力は、ディスクブレーキがセルフロック範囲で作業するかまたは少なくとも所定の摩擦係数範囲の一部でセルフロック式に作業するように大きく選択することができる。セルフロックとは、ディスクブレーキのロックが構造的にまたは別の形式で排除されているかまたは阻止される場合に、緊締力と制動力とがディスクブレーキのロックにまで増加する恐れがあるほどに自己倍力が大きいことを意味している。摩擦係数は、ブレーキディスクと、このブレーキディスクに向かって押圧される摩擦ブレーキライニングとの間の摩擦力と、摩擦ブレーキライニングをブレーキディスクに向かって押圧する緊締力とから求められる商である。摩擦係数はパラメータ、たとえば湿気、汚物、温度に左右され、運転中に変化させられる。本発明によるディスクブレーキをセルフロック範囲に対して設計する可能性によって、高い自己倍力が可能となる。この自己倍力は小さな操作エネルギを結果的に招くかまたは外部のエネルギなしの操作さえ可能にする。ディスクブレーキはハイドロリック接続部を必要としない。すなわち、ディスクブレーキに対するハイドロリック管路が設けられる必要がない。バックアップとして、本発明によるディスクブレーキは難なくハイドリック的な圧力供給部に接続することができ、これによって、ディスクブレーキをそのアクチュエータの故障時に補助ブレーキとしてハイドロリック的に操作することができる。
【0022】
本発明の更なる利点は、ハイドロリック装置が完全にディスクブレーキのブレーキキャリパに収納されるかまたは取り付けられるようになっていて、ブレーキホースを必要としないことである。これによって、拡散によるブレーキ液の損失と水の侵入とを回避することができる。ディスクブレーキのハイドロリック的なシステムを閉鎖して形成することができる。これによって、ブレーキ液損失が排除されている。ブレーキ液交換が不要となる。
【0023】
自己倍力の高さに、補助ピストンとブレーキピストンとの間に介在された弁によって影響を与える可能性により、自己倍力を可変の摩擦係数に適合させることができ、これによって、必要となる操作エネルギひいてはアクチュエータの負荷が低く保たれる。また、弁の閉鎖によって、ディスクブレーキの緊締力をアクチュエータの作用なしにコンスタントに保持することができ、これによって、アクチュエータを負荷軽減することができる。
【0024】
従属請求項は、請求項1に記載した本発明の対象の有利な構成および改良態様を有している。
【0025】
制動を開始することができるようにするために、有利には、いずれにせよディスクブレーキがアクチュエータまたはこれに類するものを有していない限り、摩擦ブレーキライニングをブレーキディスクに当て付けることができる装置が設けられている。これは、請求項2の対象である。このような装置は、たとえば、ブレーキピストンおよび/または補助ピストンを圧力負荷することができるハイドロポンプ(請求項5)または弁を介してブレーキピストンおよび/または補助ピストンに接続することができるハイドロアキュムレータ(請求項9)を有していてよい。
【0026】
専ら、回転しているブレーキディスクから、このブレーキディスクに向かって押圧される摩擦ブレーキライニングに加えられる、補助力としての摩擦力によって操作するために、本発明によるディスクブレーキは、特にセルフロック式に設計されている(請求項3)。ディスクブレーキがブレーキディスクをロックしないような制動力の制御または調整および制動力の制限は、補助ピストンとブレーキピストンとの間に介在された弁によって行われる。
【0027】
請求項4は、本発明によるディスクブレーキを操作するために、アクチュエータを提案している。このアクチュエータによって、摩擦ブレーキライニングがディスクブレーキに向かって押圧可能となる。特に電気機械的なアクチュエータが設けられている。このアクチュエータは、たとえば圧電素子を有している。電磁石または電動モータおよび伝動装置を備えた電気機械的なアクチュエータも可能である。さらに、本発明によるディスクブレーキの機械的な操作、ニューマチック的な操作、ハイドロリック的な操作またはその他の操作も可能である。アクチュエータが設けられている場合には、摩擦ブレーキライニングをブレーキディスクに当て付けることができる別の装置が不要となる。可能な高い自己倍力またはディスクブレーキのセルフロック式でさえある設計によって、出力弱のかつひいては軽量のかつ小型構造のアクチュエータで十分となる。請求項6は、ブレーキピストンがハイドロリック的な車両制動装置のマスタブレーキシリンダに接続されていることを提案している。ブレーキピストンは、本発明のこの構成では、慣用のディスクブレーキと同様にハイドロリック的に車両制動装置に接続されているディスクブレーキのアクチュエータを形成している。別個のアクチュエータは不要となる。補助ピストンを備えたディスクブレーキはハイドロリック的な自己倍力装置を有しているので、車両制動装置のマスタブレーキシリンダに設けられるかまたは別の箇所に設けられる(負圧式)制動力倍力装置は不要となる。請求項3記載のディスクブレーキはストローク増幅式であり、力増幅式ではない。請求項6は、ハイドロアキュムレータと弁とを提案している。この弁によって、補助ピストンまたはブレーキピストンがハイドロアキュムレータに接続可能となる。弁は別個の弁であってよいかまたはハイドロアキュムレータとの接続が、補助ピストンとブレーキピストンとの間に介在された弁で行われてもよい。弁とハイドロアキュムレータとによって、ロック防止のための減圧が可能となる。
【0028】
請求項12は、ブレーキピストンが、ハイドロリック的に別個に負荷可能な2つのピストン面を有していることを提案している。両ピストン面は弁によって選択的に補助ピストンに接続可能である。それぞれ異なるピストン面の別個の負荷可能性のためには、ブレーキピストンを段付きピストンとして形成することができる(請求項13)。本発明のこの構成は、ブレーキピストンの、別個に負荷可能な一方のピストン面、他方のピストン面または両ピストン面が補助ピストンに接続されることによって、それぞれ異なる高い自己倍力を可能にする。基本的には、本発明のこの構成が、ハイドロリック的に別個に負荷可能な2つよりも多くのピストン面に拡張されてもよい。
【0029】
同一の目的のためには、請求項15が役立つ。この請求項15は、2つのブレーキピストンを提案している。両ブレーキピストンは選択的に弁によって補助ピストンに接続可能である。この場合、一方のブレーキピストンは環状ピストンであってよい。この環状ピストンは他方のブレーキピストンを取り囲んでいる。両ブレーキピストンは相並んで配置されていてもよいし、互いに反対の側でブレーキディスクの2つの側に配置されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】半径方向外側からブレーキディスクに向かう方向で見た本発明によるディスクブレーキの第1の実施形態の断面図であり、この場合、切断平面がブレーキディスクの割線平面に位置している。
【図2】半径方向外側からブレーキディスクに向かう方向で見た本発明によるディスクブレーキの第2の実施形態の断面図であり、この場合、切断平面がブレーキディスクの割線平面に位置している。
【図3】半径方向外側からブレーキディスクに向かう方向で見た本発明によるディスクブレーキの第3の実施形態の断面図であり、この場合、切断平面がブレーキディスクの割線平面に位置している。
【図4】半径方向外側からブレーキディスクに向かう方向で見た本発明によるディスクブレーキの第4の実施形態の断面図であり、この場合、切断平面がブレーキディスクの割線平面に位置している。
【図5】半径方向外側からブレーキディスクに向かう方向で見た本発明によるディスクブレーキの第5の実施形態の断面図であり、この場合、切断平面がブレーキディスクの割線平面に位置している。
【0031】
発明の実施形態
本発明を、以下に、図面に示した実施例につき詳しく説明する。5つの図面には、半径方向外側からブレーキディスクに向かう方向で見た本発明によるディスクブレーキの5つの実施形態が断面図で示してある。この場合、切断平面はブレーキディスクの割線平面に位置している。図面は、本発明を理解しかつ詳説するための簡単なかつ概略的なものと解釈することができる。
【0032】
図1に示した本発明によるディスクブレーキ1はブレーキキャリパ2を有している。このブレーキキャリパ2内では、摩擦ブレーキライニング3がブレーキディスク4の一方の側に配置されている。摩擦ブレーキライニング3はブレーキピストン5によってブレーキディスク4に向かって押圧可能である。摩擦ブレーキライニング3はブレーキディスク4に対して横方向にかつ平行にブレーキキャリパ2内で可動である。この場合、平行とは、ブレーキディスク4に対して割線方向を意味している。ブレーキディスク4に対して平行な移動可能性のためには、摩擦ブレーキライニング3が、転動体6としてのころによって転がり支承されている。滑り支承も同じく可能である(図示せず)。以下、摩擦ブレーキライニング3を可動の摩擦ブレーキライニング3とも呼ぶ。ブレーキディスク4の他方の側には、摩擦ブレーキライニング7が不動にブレーキキャリパ2内に配置されている。以下、摩擦ブレーキライニング7を、可動の摩擦ブレーキライニング3と区別するために、固定の摩擦ブレーキライニング7とも呼ぶ。ブレーキキャリパ2はフローティングキャリパとして形成されている。すなわち、ブレーキキャリパ2は、ブレーキディスク4に対して横方向に移動可能に案内されている。
【0033】
可動の摩擦ブレーキライニング3の側では、2つの補助ピストン8がブレーキキャリパ2内に配置されている。両補助ピストン8は、可動の摩擦ブレーキライニング3と同じ方向に、すなわち、ブレーキディスク4に対して平行にかつ割線方向に移動可能である。それぞれ1つの補助ピストン8は、ブレーキディスク4の周方向で見て、摩擦ブレーキライニング3のそれぞれ1つの端部に配置されている。可動の摩擦ブレーキライニング3は、ライニング支持プレート9と、それぞれ1つのプランジャ10とを介して補助ピストン8に支持されている。半径方向内向きに延びるつばが、補助ピストン8に対するストッパ11を形成している。このストッパ11は、摩擦ブレーキライニング3の方向への補助ピストン8の運動を制限する。それぞれ1つの戻しばね12が補助ピストン8をストッパ11に向かって押圧する。戻しばね12のばね力は無視できる程度に小さく、補助ピストン8を戻すためにしか働かない。
【0034】
補助ピストン8もしくは補助ピストン8のシリンダ孔は、ブレーキキャリパ2に設けられた孔または管路13によって互いに連通している。さらに、以下で自己倍力弁28とも呼ぶ弁が、補助ピストン8をハイドロリック的にブレーキピストン5に接続する。自己倍力弁28は3ポート3位置比例電磁弁である。この3ポート3位置比例電磁弁はその無通電の基本位置で両補助ピストン8をブレーキピストン5に接続している。自己倍力弁28の閉鎖によって、ブレーキピストン5がハイドロリック的に補助ピストン8から分離可能となる。別の切換位置では、自己倍力弁28がブレーキピストン5と補助ピストン8とを無圧のハイドロアキュムレータ30に接続している。
【0035】
自己倍力弁28には、ハイドロポンプ29がハイドロリック的に並列に接続されている。このハイドロポンプ29によって、ブレーキ液がハイドロアキュムレータ30から補助ピストン8に圧送可能となる。
【0036】
以下でロック防止弁15と呼ぶ弁が、補助ピストン8をハイドロアキュムレータ16(圧力アキュムレータ)に接続する。ロック防止弁15は2ポート2位置電磁弁である。ディスクブレーキ1の前記ハイドロリック装置は気密に閉鎖されている。ディスクブレーキ1は、外部に対するハイドロリック接続部を有していない。図面においてブレーキキャリパ2の側方にシンボリックに示した弁28,15は、本発明の実際の構成では、ブレーキキャリパ2内に挿入されている。ハイドロアキュムレータ16はブレーキキャリパ2内に組み込まれているかまたはブレーキキャリパ2に取り付けられている。これによって、ブレーキ液を外部に拡散させるかまたは水を内部に拡散させる恐れのある外部のブレーキ管路、特にホース管路が不要となる。
【0037】
補助ピストン8には、圧力センサ17が接続されており、ブレーキピストン5には、別の圧力センサ18が接続されている。
【0038】
ディスクブレーキ1の操作は次の形式で行われる。回転しているブレーキディスク4がその回転方向で摩擦力を、ブレーキディスク4に向かって押圧されるかまたはブレーキディスク4に接触する可動の摩擦ブレーキライニング3に加える。摩擦力は摩擦ブレーキライニング3をブレーキディスク4の回転方向に移動させる。両プランジャ10の一方を介して、摩擦ブレーキライニング3が、両補助ピストン8の一方をそのシリンダ孔内で移動させる。この補助ピストン8がブレーキ液にハイドロリック的な圧力を発生させる。このハイドロリック的な圧力は、開放した自己倍力弁28を通ってブレーキピストン5に伝達される。他方の補助ピストン8はそのハイドロリック的な圧力によってストッパ11に向かって押圧される。このストッパ11は運動させられない。ブレーキピストン5が摩擦ブレーキライニング3に緊締力を加える。この緊締力は可動の摩擦ブレーキライニング3をブレーキディスク4に向かって押圧する。図1に示したディスクブレーキ1はセルフロック式に設計されている。すなわち、補助ピストン8の直径がブレーキピストン5の直径に対して、補助ピストン8によって生ぜしめられる緊締力が増加するように選択されている。緊締力ひいては制動力は自己倍力弁28によって調整される。制動力を増加させるためには、自己倍力弁28が開放され、これによって、ブレーキピストン5がハイドロリック的に補助ピストン8に接続されている。制動力をコンスタントに保持するためには、自己倍力弁28が閉鎖され、これによって、ブレーキピストン5のブレーキ液体積が閉じ込められる。制動力を減少させるためには、ブレーキピストン5が自己倍力弁28によって、無圧のハイドロアキュムレータ30にハイドロリック的に接続され、これによって、制動力が減少する。図1に示したディスクブレーキ1は、いわゆる「補助力ブレーキ」である。この補助力ブレーキはその操作のために筋力または外力を必要とせず、専ら、回転しているブレーキディスク4から、このブレーキディスク4に向かって押圧される摩擦ブレーキライニング3に加えられる摩擦力を、ディスクブレーキ1を操作するための補助力として使用する。
【0039】
可動の摩擦ブレーキライニング3をブレーキディスク4の一方の面に向かって押圧することによって、フローティングキャリパとして形成されたブレーキキャリパ2がブレーキディスク4に対して横方向に移動させられ、固定の摩擦ブレーキライニング7をブレーキディスク4の他方の面に向かって押圧する。これによって、このブレーキディスク4が両摩擦ブレーキライニング3,7によって制動される。
【0040】
可動の摩擦ブレーキライニング3は、その都度、ブレーキディスク4の回転方向で見て、摩擦ブレーキライニング3の背後に配置されている補助ピストン8しか移動させない。他方の補助ピストン8はディスクブレーキ1の自己倍力をブレーキディスク4の逆回転方向において生ぜしめる。他方の補助ピストン8は、自己倍力がブレーキディスク4の一方の回転方向に対してしか所望されていない場合には省略されてよい。
【0041】
ロック防止弁15はディスクブレーキ1の操作の間に閉鎖されたままであり、これによって、ハイドロアキュムレータ16がハイドロリック的にディスクブレーキ1から分離されたままとなる。ディスクブレーキ1を操作するかもしくは制動を開始するためのブレーキディスク4への摩擦ブレーキライニング3の当付けは、ハイドロポンプ29によって行われるかまたはロック防止弁15の開放によるハイドロアキュムレータ16(圧力アキュムレータ)へのブレーキピストン5の接続によって行われる。制動の開始後、すでに記載したように、制動力が自己倍力弁28によって調整される。ハイドロポンプ29が停止され、ロック防止弁15が閉鎖され得る。無圧のハイドロアキュムレータ30を備えたハイドロポンプ29と、ハイドロアキュムレータ16(圧力アキュムレータ)を備えたロック防止弁15とは、それぞれ摩擦ブレーキライニング3をブレーキディスク4に当て付けかつひいては制動を開始するための固有の装置29,30;15,16を形成している。冗長性が要望されていない限り、摩擦ブレーキライニング3をブレーキディスク4に当て付けるための装置として、ハイドロアキュムレータ30を備えたハイドロポンプ29またはハイドロアキュムレータ16を備えたロック防止弁15で十分である。
【0042】
ハイドロアキュムレータ16(圧力アキュムレータ)を圧力で負荷するためには、制動の間、ロック防止弁15が開放される。
【0043】
ハイドロポンプ29によって、制動の間、ブレーキ液を無圧のハイドロアキュムレータ30から補助ピストン8に圧送することができる。これによって、補助ピストン8と、ライニング支持プレート9とが摩擦ブレーキライニング3と共にその出発位置の方向に戻される。この場合、自己倍力弁28は閉鎖されている。すなわち、ブレーキピストン5がハイドロリック的に補助ピストン8から分離されている。
【0044】
自己倍力弁28は、たとえば2つの二方弁を備えた弁アッセンブリによって置き換えられていてよい(図示せず)。特に図1では、自己倍力弁28が、制動力制御弁、制動力調整弁または制動力制限弁と解釈されてもよい。
【0045】
圧力センサ17,18によって、ブレーキディスク4と可動の摩擦ブレーキライニング3との間の摩擦係数μの検出が可能となる。測定のためには、ディスクブレーキ1が操作されていて、ロック防止弁15が閉鎖されている場合に、自己倍力弁28が(短時間)閉鎖され、補助ピストン8のハイドロリック的な圧力とブレーキピストン5のハイドロリック的な圧力とが圧力センサ17,18によって測定される。ブレーキピストン5と補助ピストン8とのピストン面積の比と乗算される圧力比が摩擦係数μを生ぜしめる。自己倍力弁28による制動圧調整のためには、ブレーキピストン5の、センサ18によって測定される制動圧を、調整したい量として測定することができる。制動力調整のためには、付加的に摩擦係数μが前述した形式で検出される。
【0046】
図2の以下の説明では、主として、図1に対する違いを示し、補足的に図1に対する記載を参照する。図1に合致する構成部材に対して、図2には、同じ符号を使用する。
【0047】
図1と異なり、図2に示したディスクブレーキ1はその操作のために電気機械的なアクチュエータ19を有している。このアクチュエータ19によって、可動の摩擦ブレーキライニング3がブレーキディスク4に向かって押圧可能となる。本発明の図示の実施形態では、アクチュエータ19としてピエゾアクチュエータが設けられている。しかし、別の電気機械的なアクチュエータ、たとえば電磁石または電動モータおよび伝動装置を有するアクチュエータまたは電気機械的でないアクチュエータ、たとえば機械的なアクチュエータ、ニューマチック的なアクチュエータまたはハイドロリック的なアクチュエータもディスクブレーキ1の操作のために使用可能となる(図示せず)。アクチュエータの電流接続部20、弁14,15に対する電気的な制御線路および圧力センサ17,18に対する測定線路のほかに、ディスクブレーキ1は接続部を必要としない。特にたとえばマスタブレーキシリンダまたはハイドロリック的な外部エネルギ供給部へのハイドロリック的な接続部は設けられていない。しかし、ディスクブレーキ1をそのアクチュエータ19の故障時に補助ブレーキとしてハイドロリック的に操作可能にしたい場合には、ブレーキピストン5のハイドロック接続部が可能となる(図示せず)。
【0048】
3ポート3位置比例電磁弁の代わりに、図2に示したディスクブレーキ1は、自己倍力弁として2ポート2位置比例電磁弁を有している。この2ポート2位置比例電磁弁はブレーキピストン5と補助ピストン8との間に介在されている。また、2ポート2位置比例電磁弁によって、ブレーキピストン5が補助ピストン8にハイドロリック的に接続可能となるかまたは補助ピストン8から分離可能となる。ハイドロアキュムレータ16を備えたロック防止弁15が設けられている。しかし、ハイドロアキュムレータ16は、図1と異なり、図2では、金属ベローズアキュムレータ、すなわち、無圧のアキュムレータである。この金属ベローズアキュムレータ内には、ほぼ周辺圧が形成されている。図2では、無圧のアキュムレータ30を備えたハイドロポンプ29が欠落している。
【0049】
図2に示したディスクブレーキ1はハイドロリック的な自己倍力装置を有している。この自己倍力装置は、補助ピストン8と、ブレーキピストン5と、自己倍力弁14とを有していて、ディスクブレーキ1の制動力を増加させる。自己倍力のためには、回転しているブレーキディスク4から、このブレーキディスク4に向かって押圧される可動の摩擦ブレーキライニング3に加えられる摩擦力が、制動力を増加させるための補助力として使用される。自己倍力の高さは、ブレーキピストン5のピストン面積に対する補助ピストン8のピストン面積の比に関連している。
【0050】
自己倍力弁14の閉鎖によって、ブレーキピストン5をハイドロリック的に補助ピストン8から分離することができ、自己倍力を制限するかもしくは遮断することができ、比例弁として形成された自己倍力弁14の部分的な閉鎖または変調された弁制御によって、自己倍力の高さに影響を与えることができるかまたは自己倍力の高さを制御または調整することができる。これによって、ブレーキピストン5のピストン直径に対する補助ピストン8のピストン直径の比の相応の選択により、セルフロック運転に対するディスクブレーキ1の設計が可能となる。セルフロックとは、ディスクブレーキ1の制動力が適切に制限されない場合に、この制動力がブレーキディスク4のロックにまで増加する恐れがあるほどに自己倍力が高いことを意味している。制動力の制限は、すでに述べたように、自己倍力弁14の閉鎖によって行われる。ディスクブレーキ1の設計は、ほぼ中程度の摩擦係数μ以降、セルフロックに対する限界が上回られるように行われてもよい。自己倍力の高さの制限または制御と、これにより可能な、セルフロック範囲に対するディスクブレーキ1の設計とによって、出力弱のアクチュエータ19の使用が可能となる。
【0051】
ブレーキディスク4のロックを確実に阻止するためには、ロック防止弁15が設けられている。このロック防止弁15は、ディスクブレーキ1を操作するために閉鎖される。ロック防止弁15の開放によって、補助ピストン8がハイドロリック的にハイドロアキュムレータ16に接続される。同時に自己倍力弁14も開放されると、ブレーキピストン5もハイドロリック的にハイドロアキュムレータ16に接続される。これによって、補助ピストン8とブレーキピストン5とに作用するハイドロリック的な圧力をハイドロアキュムレータ16内の圧力、すなわち、ほぼ周辺圧にまで減少させることができる。アクチュエータ19もスイッチオフされると、ディスクブレーキ1は操作されておらず、解除されている。ブレーキディスク4が再び回転し始めるやいなや、ロック防止弁15が閉鎖され得る。
【0052】
自己倍力弁14の閉鎖によって、ブレーキ液がブレーキピストン5のシリンダ孔内に閉じ込められる。こうして、アクチュエータ19を通電する必要なしに、操作されるディスクブレーキ1の緊締力をコンスタントに保持することができる。
【0053】
図3の以下の説明では、主として、図2に対する違いを示し、補足的に図2に対する記載を参照する。図2に合致する構成部材に対して、図3には、同じ符号を使用する。
【0054】
図3に示した本発明によるディスクブレーキ1は、図2に合致して、フローティングキャリパとして形成されたブレーキキャリパ2を有している。このブレーキキャリパ2内では、可動の摩擦ブレーキライニング3がブレーキディスク4の一方の側に配置されており、固定の摩擦ブレーキライニング7がブレーキディスク4の他方の側に配置されている。さらに、ブレーキピストン5が設けられている。このブレーキピストン5によって、可動の摩擦ブレーキライニング3がブレーキディスク4の一方の面に向かって押圧可能となる。両補助ピストン8が設けられている。この両補助ピストン8は自己倍力弁14によってブレーキピストン5に連通し、自己倍力弁14の閉鎖によってハイドロリック的にブレーキピストン5から分離可能となる。自己倍力弁14は、有利には、図2に示したように、比例弁として形成されている。ロック防止弁15とハイドロアキュムレータ16とは設けられていないものの、にもかかわらず、図3に示したディスクブレーキ1では可能である。圧力センサ17,18は設けられていてよいものの、設けられている必要はなく、図3には示していない。
【0055】
図3に示したディスクブレーキ1は、その他の点で図示していない自体公知のハイドロリック的な車両制動装置のマスタブレーキシリンダ27に接続されている。特にディスクブレーキ1はホイールブレーキとしてハイドロリック的な車両制動装置に接続されている。この車両制動装置は、アンチロックブレーキシステム、トラクションコントロールシステムおよび/またはビークルダイナミックコントロールシステムもしくはエレクトロニックスタビリティコントロールシステムを有している(ABS、ASR、FDRもしくはESP)。マスタブレーキシリンダ27の操作によって、ディスクブレーキ1のブレーキピストン5がハイドロリック的に圧力で負荷され、可動の摩擦ブレーキライニング3をブレーキディスク4に向かって押圧する。すなわち、ディスクブレーキ1がマスタブレーキシリンダ27の操作によって操作される。ブレーキピストン5はディスクブレーキ1のハイドロリック的なアクチュエータを形成しており、これによって、別個のアクチュエータを省略することができる(必要なし)。そのため、図2に示した電気機械的なアクチュエータ19は図3に示していない。
【0056】
図3に示したディスクブレーキ1では、ブレーキピストン5がマスタブレーキシリンダ27に連通しているので、ブレーキピストン5が、マスタブレーキシリンダ27内に発生させられたハイドロリック的な圧力によって負荷される。ブレーキピストン5が可動の摩擦ブレーキライニング3をブレーキディスク4に向かって押圧する緊締力は、マスタブレーキシリンダ27を操作する操作力に比例している。したがって、図3に示したディスクブレーキ1はストローク増幅式であり、図2に示したディスクブレーキ1のように力増幅式ではない。図3に示したディスクブレーキ1が操作されると、回転しているブレーキディスク4が、このブレーキディスク4に向かって押圧される可動の摩擦ブレーキライニング3を回転方向に移動させる。この可動の摩擦ブレーキライニング3は両プランジャ10の一方を介して、ブレーキディスク4の回転方向に配置された補助ピストン8を移動させる。この補助ピストン8はブレーキ液を、開放した自己倍力弁14を通してブレーキピストン5のシリンダ孔内に押し退ける。補助ピストン8によって押し退けられたブレーキ液はブレーキピストン5をブレーキディスク4に向かって移動させ、ディスクブレーキ1を操作するためにマスタブレーキシリンダ27によって供給したいブレーキ液体積を減少させる。したがって、マスタブレーキシリンダ27の操作ストロークが短縮される。より小さなピストン直径を備えたマスタブレーキシリンダの選択と、ブレーキピストン5のより大きな直径とによって、図3に示したディスクブレーキ1のハイドロリック的なストローク増幅のため、マスタブレーキシリンダ27からブレーキピストン5へのより大きなハイドロリック的な力伝達を選択することができる。したがって、制動力倍力装置なしのマスタブレーキシリンダ27の使用が可能となる。図3に示したディスクブレーキ1の、補助ピストン8とブレーキピストン5とを有するハイドロリック的な自己倍力装置は、図示のようにストローク増幅式である。ディスクブレーキ1の操作時に、回転しているブレーキディスク4から、このブレーキディスク4に向かって押圧される可動の摩擦ブレーキライニング3に加えられる摩擦力は、自己倍力に対する補助力として使用される。
【0057】
ディスクブレーキ1は、慣用のように、ハイドロリック的にマスタブレーキシリンダ27に接続されているので、ディスクブレーキ1の操作時の車両運転者のペダル力感覚は、この車両運転者が慣れているペダル力感覚と同じである。自己倍力弁14によって、操作力/ストローク特性線が摩擦係数μの変動時に所望の特性線経過に適合可能となる。
【0058】
補助ピストン8のピストン戻しばね12の力は、図3に示したディスクブレーキ1では無視することができず、ピストン戻しばね12のばね力は、ディスクブレーキ1の操作時に、回転しているブレーキディスク4から、このブレーキディスク4に向かって押圧される摩擦ブレーキライニング3に加えられる摩擦力と同じ大きさであるディスクブレーキ1の制動力のオーダ内に位置している。完全に変位させられた戻しばね12のばね力は、たとえば極めて大きいかまたは、いずれにせよ、最大の制動力のオーダ内に位置しているかまたは少なくともディスクブレーキ1の平均的な制動力のオーダ内に位置している。戻しばね12は、この設計によって、ディスクブレーキ1のセルフロック、すなわち、ブレーキディスク4のロックを阻止する。戻しばね12のばね力は、可動の摩擦ブレーキライニング3を補助ピストン8に支持する力に抗して作用する。したがって、補助ピストン8は、回転しているブレーキディスク4が、このブレーキディスク4に向かって押圧される可動の摩擦ブレーキライニング3に加える摩擦力と、ハイドロリック液への戻しばね12のばね力との間の差力によって有効となる。戻しばね12のばね力はその変位量の増加につれて増加させられるので、戻しばね12は、補助ピストン8によって発生させられたハイドロリック圧を減少させる。したがって、図3に示したディスクブレーキ1の自己倍力は、補助ピストン8の移動量の増加につれて減少させられる。これによって、セルフロックが阻止される。
【0059】
図4および図5の以下の説明では、主として、図2に対する違いを示し、補足的に図2に対する記載を参照する。図2に合致する構成部材に対して、図4および図5には、同じ符号を使用する。
【0060】
図4に示した本発明によるディスクブレーキ1のブレーキピストン5は段付きピストンである。この段付きピストンは、ブレーキキャリパ2に設けられたシリンダ孔内のほかに、管状のカラー21内に進入している。このカラー21は、ブレーキキャリパ2に設けられたシリンダ孔内に同心的に形成されている。これによって、ブレーキピストン5が、ハイドロリック的に互いに別個に負荷可能な2つのピストン面22,23、つまり、円形面22と、この円形面22を同心的に取り囲む、軸方向にずらされた円環面23とを有している。両ピストン面22,23は、それぞれ異なる大きさである。本発明の図示の実施形態では、円環面23が円形面22よりも大きいものの、このことは、逆に選択されてもよい。
【0061】
自己倍力弁14およびロック防止弁15の代わりに、図4に示したディスクブレーキ1は、4ポート3位置電磁弁24を有している。この4ポート3位置電磁弁24によって、選択的に、円形面22、円環面23または円形面22および円環面23が補助ピストン8に接続可能となる。図示していないものの、弁24の別の位置が可能となる。この位置では、段付きピストンとして形成されたブレーキピストン5の一方または両方のピストン面22,23がハイドロリック的に遮断されている、すなわち、コンスタントな体積を備えたブレーキ液体積が閉じ込められている。これによって、ブレーキピストン5を位置固定することができ、ブレーキディスク4に対する摩擦ブレーキライニング3の緊締力を、アクチュエータ19が通電されていない場合に維持することができる。ブレーキピストン5の、補助ピストン8に接続されていないピストン面22,23は、弁24によってハイドロアキュムレータ16に接続される。両ピストン面22,23が補助ピストン8に接続されている場合には、弁24がハイドロアキュムレータ16をディスクブレーキ1のハイドロリック的なシステムから分離している。
【0062】
その他の点では、図4に示したディスクブレーキ1は、図2に示したディスクブレーキ1と同様に形成されていて、原理的に同じ形式で機能する。図2に示したディスクブレーキ1と同じく、図4に示したディスクブレーキ1も、接続管路13によって互いに連通している補助ピストン8を有している。この補助ピストン8は弁24によってブレーキピストン5のピストン面22,23に接続可能であり、ブレーキピストン5と一緒にディスクブレーキ1のハイドロリック的な自己倍力装置を形成している。図4に示したディスクブレーキ1の特質は、弁24によって、選択的に、ピストン面22,23の一方または両方がハイドロリック的に補助ピストン8に接続可能となることである。これによって、ディスクブレーキ1の自己倍力の高さを段階的に調整することができる。補助ピストン8が、段付きピストンとして形成されたブレーキピストン5の円形面22に接続されている場合には、ディスクブレーキ1は小規模の自己倍力を有している。補助ピストン8が、ブレーキピストン5の、円形面22よりも大きい円環面23に接続されている場合には、ディスクブレーキ1は中規模の自己倍力を有している。両ピストン面22,23が補助ピストン8に接続されている場合には、ディスクブレーキ1は大規模の自己倍力を有している。これによって、図4に示したディスクブレーキ1の自己倍力を段階的に高摩擦係数μ、中摩擦係数μおよび低摩擦係数μに摩擦ブレーキライニング3とブレーキディスク4との間で適合させることができ、ディスクブレーキ1を常に、セルフロックなしの範囲からセルフロックありの範囲への移行点における境界の近くで運転することができる。これにより、アクチュエータ19によって加えたい緊締力と操作エネルギとが小さくなる。図4に示したディスクブレーキ1でも、図示していないとしても、ブレーキピストン5の両ピストン面22,23をハイドロアキュムレータ16に接続し、これによって、自己倍力を遮断しかつブレーキディスク4のロックを阻止することが可能となる。両ピストン面22,23とハイドロアキュムレータ16との接続は、図2に示したように、別個のロック防止弁によって実現することができるかまたは弁24の別の切換位置によって実現することができる。
【0063】
図5に示したディスクブレーキ1は、図4に示したディスクブレーキ1に自体相当しているものの、図5では、自己倍力の段階的に調整可能な高さが、段付きピストンによって達成されておらず、2つのブレーキピストン5,25によって達成されている。一方のブレーキピストン25は環状ピストンである。この環状ピストンは他方のブレーキピストン5を取り囲んでいる。ブレーキキャリパ2の管状のカラー21は、両ブレーキピストン5,25を互いに分離している。同心的に配置された2つのブレーキピストン5,25の代わりに、たとえば相並んでブレーキキャリパ2内に配置された2つのブレーキピストン5,25が設けられていてもよい(図示せず)。両ブレーキピストン5,25の一方を、摩擦ブレーキライニング3とブレーキディスク4とに面した側の前面でカバーする圧力分配プレート26が、ブレーキピストン5,25によって加えられる緊締力を可動の摩擦ブレーキライニング3に伝達する。
【0064】
両ブレーキピストン5,25は、それぞれ異なる大きさのピストン面を有している。このピストン面は、図4に示したディスクブレーキ1の、段付きピストンとして形成されたブレーキピストン5のピストン面22,23同様、選択的に個々にまたは両方で4ポート3位置電磁弁24によってハイドロリック的に補助ピストン8に接続可能となる。小さい方のピストン面を備えたブレーキピストン5と補助ピストン8との接続によって、図5に示したディスクブレーキ1が、小規模の自己倍力を有していて、大きい方のピストン面を備えたブレーキピストン25と補助ピストン8との接続によって、中規模の自己倍力を有していて、両ブレーキピストン5,25と補助ピストン8との接続によって、大規模の自己倍力を有している。
【符号の説明】
【0065】
1 ディスクブレーキ
2 ブレーキキャリパ
3 摩擦ブレーキライニング
4 ブレーキディスク
5 ブレーキピストン
6 転動体
7 摩擦ブレーキライニング
8 補助ピストン
9 ライニング支持プレート
10 プランジャ
11 ストッパ
12 戻しばね
13 管路
14 自己倍力弁
15 ロック防止弁
16 ハイドロアキュムレータ
17 圧力センサ
18 圧力センサ
19 アクチュエータ
20 電流接続部
21 カラー
22 ピストン面
23 ピストン面
24 4ポート3位置電磁弁
25 ブレーキピストン
26 圧力分配プレート
27 マスタブレーキシリンダ
28 自己倍力弁
29 ハイドロポンプ
30 ハイドロアキュムレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクブレーキであって、摩擦ブレーキライニング(3)とブレーキピストン(5)とが設けられており、該ブレーキピストン(5)によって、摩擦ブレーキライニング(3)が、ブレーキディスク(4)に向かって押圧可能であり、摩擦ブレーキライニング(3)が、ブレーキディスク(4)に対して横方向にかつ平行に移動可能であり、周方向で補助ピストン(8)に支持されており、該補助ピストン(8)が、ブレーキディスク(4)に対して平行に移動可能であり、ブレーキピストン(5)に連通するようになっている形式のものにおいて、補助ピストン(8)とブレーキピストン(5)との間に弁(14;24;28)が介在されていることを特徴とする、ディスクブレーキ。
【請求項2】
当該ディスクブレーキ(1)が、摩擦ブレーキライニング(3)を当該ディスクブレーキ(1)の操作のためにブレーキディスク(4)に当て付けることができる装置(15,16;29,30)を有している、請求項1記載のディスクブレーキ。
【請求項3】
当該ディスクブレーキ(1)が、セルフロック式に設計されている、請求項1記載のディスクブレーキ。
【請求項4】
当該ディスクブレーキ(1)が、アクチュエータ(19)を有しており、該アクチュエータ(19)によって、摩擦ブレーキライニング(3)が、当該ディスクブレーキ(1)の操作のためにブレーキディスク(4)に向かって押圧可能である、請求項1記載のディスクブレーキ。
【請求項5】
当該ディスクブレーキ(1)が、ハイドロポンプ(29)を有しており、該ハイドロポンプ(29)によって、ブレーキピストン(5)が圧力負荷可能である、請求項2記載のディスクブレーキ。
【請求項6】
ブレーキピストン(5)が、マスタブレーキシリンダ(27)に接続されている、請求項1記載のディスクブレーキ。
【請求項7】
補助ピストン(8)が、戻しばね(12)を有しており、該戻しばね(12)のばね力が、ブレーキピストン(5)を当該ディスクブレーキ(1)の操作時に補助ピストン(8)に支持する力のオーダ内にある、請求項6記載のディスクブレーキ。
【請求項8】
当該ディスクブレーキ(1)が、ブレーキピストン(5)に対する圧力センサ(18)と、補助ピストン(8)に対する圧力センサ(17)とを有している、請求項1記載のディスクブレーキ。
【請求項9】
補助ピストン(8)またはブレーキピストン(5)が、弁(15)によってハイドロアキュムレータ(16)に連通するようになっている、請求項1記載のディスクブレーキ。
【請求項10】
当該ディスクブレーキ(1)が、逆方向に移動可能な2つの補助ピストン(8)を有しており、摩擦ブレーキライニング(3)が、ブレーキディスク(4)の回転方向に関連して両補助ピストン(8)の一方に支持されている、請求項1記載のディスクブレーキ。
【請求項11】
補助ピストン(8)が、ブレーキピストン(5)よりも小さなピストン面を有している、請求項1記載のディスクブレーキ。
【請求項12】
ブレーキピストン(5)が、ハイドロリック的に別個に負荷可能な2つのピストン面(22,23)を有しており、両ピストン面(22,23)が、1つまたはそれ以上の弁(24)によって選択的に補助ピストン(8)に接続可能である、請求項1記載のディスクブレーキ。
【請求項13】
ブレーキピストン(5)が、段付きピストンである、請求項12記載のディスクブレーキ。
【請求項14】
ピストン面(22,23)が、それぞれ異なる大きさに形成されている、請求項12記載のディスクブレーキ。
【請求項15】
当該ディスクブレーキ(1)が、別のブレーキピストン(25)を有しており、両ブレーキピストン(5,25)が、1つまたはそれ以上の弁(24)によって選択的に補助ピストン(8)に接続可能である、請求項1記載のディスクブレーキ。
【請求項16】
ブレーキピストン(5,25)が、それぞれ異なる大きさのピストン面を有している、請求項15記載のディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−512496(P2010−512496A)
【公表日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540701(P2009−540701)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際出願番号】PCT/EP2007/062971
【国際公開番号】WO2008/071550
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】