説明

ディーゼルエンジンと窒素酸化物トラップを有する推進装置の制御方法

本発明は、ディーゼルエンジン(1)と、給気回路(11、13、14)と、エンジンから発生する排気ガスの排気回路(16、3、4)と、エンジン(1)の中へ入る空気流量(D)を制御するための調整手段(22、23)を有する給気回路とを含んでなり、排気回路は排気ガスの中に含まれる窒素酸化物を貯留するための窒素酸化物トラップ(3)を有する推進装置に関する。窒素酸化物トラップ(3)を再生するために、排気ガスに還元剤を供給する再生モードの間に、エンジンの動作点に応じて空気流量(D)の設定値を決定し、設定値に近い空気流量(D)を得るように調整手段(22、23)を制御し、主噴射燃料量(Qp)の噴射と2次噴射燃料量(Qs)の噴射とを実行し、膨張行程中における2次噴射燃料量(Qs)の噴射は、排気ガスを還元性状態に維持するように調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンと窒素酸化物トラップを有し、特に粒子フィルタを更に有する場合の、推進装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在では、汚染防止規則を考慮して、車両の推進装置に汚染防止ラインが設けられている。このようなラインにおいて、窒素酸化物トラップは、内燃エンジンの排気ガスの中の窒素酸化物を捕捉することを目的とする。ディーゼルエンジンに関しては、汚染防止ラインは粒子フィルタによって補完することができる。さらに、これらの2つの機能を含む装置を提供することも検討されている。
【0003】
ディーゼルエンジンと組み合わされた窒素酸化物トラップの機能を維持するために、排気ガスが還元性になるように、エンジンを周期的に作動させることが知られている。これは窒素酸化物トラップ内に蓄積された窒素酸化物を除去するためである。この操作は、例えば特許文献EP 560 991に記載されている。
【0004】
通常の動作中においては、ディーゼルエンジンにおける燃焼は、過剰空気で実行される。このため、窒素酸化物が形成され、窒素酸化物トラップに捕捉され、貯留される。しかしながら、窒素酸化物の貯留容量には限度があるので、窒素酸化物トラップに貯留された窒素酸化物を定期的に除去する必要があり、これは、還元性のガスを発生する操作によって実行される。この操作は、リッチ混合気操作とも呼ばれる。このフェーズにおける排気ガスは、窒素酸化物トラップ内に蓄積された窒素酸化物と反応してこれらを除去するようになる、不完全燃焼の炭化水素、一酸化炭素、または水素を含有している。
【0005】
この機能を得るために、特許文献EP 560 991は、燃焼がリッチ混合気で実行されるように、例えば、燃焼室内への吸入空気量を減少させることを可能にするバルブを吸気導管に設けることと、追加燃料量を噴射することを提案している。
【0006】
しかしながら、リッチ混合気での動作への移行の際の遷移期間中にエンジンから発生されるトルクが変化することによって、運転者がトルクを再調整する必要がないように、エンジンから発生されるトルクは概ね一定に維持されることが望ましい。
【特許文献1】EP 560 991
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、窒素酸化物トラップの再生フェーズへの遷移期間中においても、エンジンが同一のトルクを発生するようにする、窒素酸化物トラップが設けられたディーゼルエンジンの推進装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的のために、本発明は、ディーゼルエンジンと、給気回路と、上記エンジンから発生する排気ガスの排気回路と、上記エンジンの中へ入る空気流量を制御するための調整手段を有する給気回路とを含んでなり、上記排気回路は上記排気ガスの中に含まれる窒素酸化物を貯留するための窒素酸化物トラップを有し、排気ガスに還元剤を供給することによって、上記窒素酸化物トラップを再生するための再生モードにおいて、制御方法に従って操作する推進装置を対象とする。
【0009】
本発明によれば、上記再生モードの間に、上記エンジンの動作点に応じて空気流量の設定値を決定し、上記設定値に近い空気流量を得るように上記調整手段を制御し、主噴射燃料量の噴射と2次噴射燃料量の噴射とを実行し、上記2次噴射燃料量の噴射は、排気ガスを還元性状態に維持するように調整される。
【0010】
このようにして、主として主噴射燃料量の噴射を決定することによって、所望のトルクが得られ、一方、排気ガスのリッチネスは、2次噴射の際の噴射燃料量によって調整される。主噴射燃料量の噴射は、上死点の近くで実行され、一方、2次噴射燃料量の噴射は、ピストンが上死点を充分に通過したとき、例えば膨張行程の際にクランクシャフトが上死点後、約60°回転したときに実行される。
【0011】
例えば粒子フィルタを有する汚染防止ラインの場合には、汚染防止ラインの中で変化する排気圧力が認められる。この結果、空気流量と燃料量が所定の値であっても、発生されるトルクは、この排気圧力に応じて変化する。実際、この排気圧力は、特に燃焼ガスの排出に対する抵抗、従って排気行程の際のピストンに対抗する抵抗を増大させる。
【0012】
所定の動作点においては、空気流量の設定値は一定のままである。しかしながら、排気圧力が増加したときには、空気流量が一定であっても、トルクを維持するために燃料量を増加させる必要がある。従って、排気ガスのリッチネスを同じレベルに維持するために、2次噴射の噴射燃料量は減少される。この場合、発生される煙の量が増加することが認められる。煙の量の増加は、排気行程の終わりにおける温度の低下と、その結果の煙の酸化後(post−oxydation)の反応の減少に起因する。
【0013】
このため、本発明の他の1つの目標は、変化する排気圧力が存在するときにも、発生される煙のレベルを増加させることなく、エンジンが一定のトルクを発生するように、推進装置を改良することにある。このため、上記推進装置が、上記排気回路の中で変化する排気圧力を発生させる付属品を有する場合には、上記空気流量の設定値は、上記排気圧力に応じて増加されることが望ましい。
【0014】
このようにして、空気の吸い込み力に起因するトルクの損失が減少され、このことは主噴射燃料量の減少を可能にする。また、排気ガスのリッチネスを維持するために2次噴射燃料量は増加され、このことは膨張行程の終わりにおけるガスの温度を上昇させる。このようにして、煙の後燃焼(post−combustion)が改良される。
【0015】
上記排気ラインが粒子フィルタを有する場合には、上記空気流量の設定値は、上記動作点と上記粒子フィルタの充満状態の関数である係数によって修正される。
【0016】
特有の方法によれば、上記粒子フィルタの充満状態は、通過する排気ガスの流量と入口と出口の間の差圧によって算定される。
【0017】
他の方法によれば、上記粒子フィルタの充満状態は、上記粒子フィルタの上流の排気ガスの流れに関する圧力の測定値によって算定される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
添付図面を参照する以下の説明を読むことによって、本発明はよりよく理解され、本発明のその他の特徴及び利点が明らかとなるであろう。これらの図において:
−図1は、本発明による推進装置の略図であり;
−図2は、本発明の第1の実施の形態における、燃料と空気の流量の変化を、排気圧力の関数として示すグラフであり;
−図3は、本発明の第1の実施の形態における、発生される煙の量の変化を、排気圧力の関数として示すグラフであり;
−図4は、本発明の第2の実施の形態についての、図2に類似のグラフであり;
−図5は、本発明の第2の実施の形態についての、図3に類似のグラフである。
【0019】
図1に示すような、本発明による推進装置は、ターボコンプレッサ2によって過給されるディーゼル型のエンジン1を有する。エンジン1の排気は、窒素酸化物トラップ3によって処理され、次いで粒子フィルタ4によって処理される。エンジンは、空気取り入れ口11と、ターボコンプレッサ2のコンプレッサ12と、加圧導管13と、エンジン1の複数の燃焼室に通じる給気管14からなる給気回路から空気を供給される。図には、1つの燃焼室のみが示されている。エンジン1は、制御手段24によって定められるシーケンスに従って燃焼室15の中へ燃料を注入するための噴射器を各燃焼室15毎に有する。
【0020】
燃焼によって発生される排気ガスは、燃焼室15から、排気管16を通って排出され、ターボコンプレッサのタービン17、次いで窒素酸化物トラップ3と粒子フィルタ4を通り抜ける。このように、排気回路は、排気管16、ターボコンプレッサのタービン17、窒素酸化物トラップ3、粒子フィルタ(排気圧力を発生させる付属品)4からなる。排気ガス再循環回路は、排気管に設けられた分岐管18と、導管21を通って加圧導管への排気ガスの通過を制御するバルブ19からなる。
【0021】
導管21の出口と吸気管14の入口の間の吸気回路に、バルブ22が挿入される。バルブ22は、空気通過断面を、完全な開口と部分的な狭窄断面との間で変化させることを可能にする。アクチュエータ23が、バルブ22の開口度を決めるために、バルブ22に作用する。アクチュエータ23は、制御手段24から出る開口位置の設定値を受ける。バルブ22とアクチュエータ23が空気流量の調整手段を構成する。
【0022】
複数のセンサが、推進装置に関する情報を供給する。これらのセンサの中で、流量計26は、吸入空気流量Dの情報と、空気温度Tairの情報を供給する。リッチネスプローブ28は、排気ガスのリッチネスλに関する情報を与える。差圧センサ30は、粒子フィルタ4の入口と出口の間の差圧DPを測定する。制御手段24は、これらの全ての情報を受ける。
【0023】
制御手段24は、推進装置から受け取った上述のような情報に加えて、エンジンの温度Tmot、エンジン回転数N、アクセルペダルの位置のようなエンジンに対するトルクの要求αを表す値及び大気圧Patmに応じて、バルブ22の開口位置の設定値と、燃料噴射のシーケンスを決める。
【0024】
通常のエンジンの動作の際には、バルブ22は完全に開かれており、このことは燃焼室内に空気が最大限に満たされることを保証する。各サイクルに噴射される燃料量は、燃料の質量と空気に質量との比が、化学量論的な比よりも小、すなわち過剰空気となる量である。この状態は、リッチネスが1よりも小さいということによっても表現される。この燃焼から生じる排気ガスは、燃焼によって消費されなかった酸素を含み、排気ガスのリッチネスも1より小さいという。
【0025】
このような動作条件においては、燃焼ガスの中で窒素酸化物が形成されることが確認されており、これらの酸化物は次いで窒素酸化物トラップ3によって吸収される。これらの窒素酸化物は、リッチネスが1以上である再生モードの動作の際に還元される。
【0026】
粒子フィルタ4を有する推進装置と、粒子フィルタ4を有しない推進装置について考察する。本発明の第1の実施の形態に従って再生モードを制御するために、エンジンの動作点に応じて、吸入空気の設定値を決定し、流量計26によって測定された吸入空気流量Dが、決定された設定値と一致するように、バルブ22を操作する。同時に、例えばアクセルペダルの位置によって表されるトルクの要求αに一致するトルクを得るように、主噴射の際に噴射するべき燃料量も決定する。
【0027】
1よりも大きい排気ガスのリッチネスを得るために、主噴射を2次噴射によって補完する。2次噴射の際の燃料量は、リッチネスの設定値と、リッチネスプローブ28によるリッチネスλの測定値とを比較する調整によって決定される。
【0028】
空気流量の設定値は、例えば、エンジン回転数N、トルクの要求α、エンジンの温度Tmot、吸入空気の温度Tair及び大気圧Patmを考慮に入れたマッピングを介して決定される。
【0029】
粒子フィルタ4を有する推進装置の場合には、排気圧力CPEが、粒子フィルタ4の充満状態に応じて変化する。図2のグラフは、同一の動作点についての、排気圧力CPEの変化に伴う噴射燃料量Qの変化を示す。曲線40は主噴射の際の噴射燃料量Qpを表わし、曲線41は2次噴射の際の噴射燃料量Qsを表わし、曲線42は吸入空気流量Dを表わす。
【0030】
動作点が同じであるので、吸入空気流量は、排気圧力CPEの変化に応じて変化しない。これと反対に、排気圧力CPEが変化したときにエンジンから発生されるトルクを一定に維持するために、主噴射の噴射燃料量Qpは、例えば運転者のアクセルペダルに対する操作によって調整される。リッチネスの調整は、結果として2次噴射の噴射燃料量Qsの減少をもたらす。図3の曲線44は、排気圧力CPEの増加に伴う、発生される煙の量の増加を示す。
【0031】
第1の実施の形態よりも好ましい第2の実施の形態においては、空気流量の設定値は、粒子フィルタの充満状態を考慮に入れて計算される。例えば、第1の実施の形態による設定値の計算に、粒子フィルタの入口と出口の間の差圧DPと、従来の排気ガスの流量の推定値に応じて、修正が加えられる。
【0032】
図4のグラフは、同一の動作点についての、排気圧力CPEの変化に伴う噴射燃料量Qの変化を示す。曲線50は主噴射の際の噴射燃料量Qpを表わし、曲線51は2次噴射の際の噴射燃料量Qsを表わし、曲線52は吸入空気流量Dを表わす。吸入空気流量は排気圧力CPEの増加に伴って増加するが、トルクを一定に維持するための主噴射の噴射燃料量Qpは一定値にとどまることが認められる。排気ガスのリッチネスを一定に維持するためには、図4の曲線51が示すように、2次噴射の噴射燃料量は増加する必要がある。図5の曲線54は、排気圧力CPEの増加に伴って発生される煙の量の減少を示す。
【0033】
本発明は、例として記載された実施の形態に限定されるものではない。窒素酸化物トラップと、粒子フィルタは、単一の装置にまとめることができる。排気圧力CPEは、タービン17の前または粒子フィルタの前で直接測定し、空気流量の設定値の計算の中で考慮に入れることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明による推進装置の略図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態における、燃料と空気の流量の変化を、排気圧力の関数として示すグラフである。
【図3】本発明の第1の実施の形態における、発生される煙の量の変化を、排気圧力の関数として示すグラフである。
【図4】本発明の第2の実施の形態における、燃料と空気の流量の変化を、排気圧力の関数として示すグラフである。
【図5】本発明の第2の実施の形態における、発生される煙の量の変化を、排気圧力の関数として示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジン(1)と、給気回路(11、13、14)と、上記エンジンから発生する排気ガスの排気回路(16、3、4)と、上記エンジン(1)の中へ入る空気流量(D)を制御するための調整手段(22、23)を有する給気回路とを含んでなり、上記排気回路は上記排気ガスの中に含まれる窒素酸化物を貯留するための窒素酸化物トラップ(3)を有する、推進装置の制御方法において、排気ガスに還元剤を供給することによって上記窒素酸化物トラップ(3)を再生する再生モードの間に、上記エンジンの動作点に応じて空気流量(D)の設定値を決定し、上記設定値に近い空気流量(D)を得るように上記調整手段(22、23)を制御し、主噴射燃料量(Qp)の噴射と2次噴射燃料量(Qs)の噴射とを実行し、上記2次噴射燃料量(Qs)の噴射は、膨張行程に実行され、排気ガスを還元性状態に維持するように調整されることを特徴とする、推進装置の制御方法。
【請求項2】
上記推進装置が、上記排気回路の中で変化する排気圧力(CPE)を発生させる付属品(4)を有する場合には、上記空気流量の設定値は、上記排気圧力(CPE)に応じて増加されることを特徴とする、請求項1に記載の推進装置の制御方法。
【請求項3】
上記変化する排気圧力(CPE)を発生させる付属品は、粒子フィルタ(4)であり、上記空気流量の設定値は、上記動作点と上記粒子フィルタ(4)の充満状態の関数である係数によって修正されることを特徴とする、請求項2に記載の推進装置の制御方法。
【請求項4】
上記粒子フィルタ(4)の充満状態は、通過する排気ガスの流量と、入口と出口の間の差圧(DP)によって算定されることを特徴とする、請求項3に記載の推進装置の制御方法。
【請求項5】
上記粒子フィルタ(4)の充満状態は、上記粒子フィルタ(4)の上流の排気ガスの流れに関する圧力の測定値によって算定されることを特徴とする、請求項3に記載の推進装置の制御方法。
【請求項6】
請求項1に記載の推進装置の制御方法を適用する推進装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−514886(P2007−514886A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516288(P2006−516288)
【出願日】平成16年6月11日(2004.6.11)
【国際出願番号】PCT/FR2004/001464
【国際公開番号】WO2005/003539
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(503041797)ルノー・エス・アー・エス (286)
【Fターム(参考)】