説明

トランスファ成型装置および半導体装置の製造方法

【課題】樹脂を押圧する圧力をプランジャ毎に検知することが可能であるとともに、プランジャ摺動抵抗値を定期的に検出して、メンテナンス情報を得ることにより、プランジャのクリアランス管理や汚れの進行の管理、交換部品や作業の結果評価等が可能であり、その結果、製品の品質管理とトレーサビリティを向上させることが可能なトランスファ成型装置およびそれを用いた半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るトランスファ成型装置は、キャビティに連通するポットおよびポット内を摺動するプランジャを複数備えるとともに、プランジャを支持するトランスファユニットと、トランスファユニットを上下動させる駆動機構とを備え、ポット内に収納される樹脂をプランジャで押圧して、キャビティ内に樹脂を充填するトランスファ成型装置において、複数のプランジャ毎に、該プランジャに作用する圧力を検知する圧力センサを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスファ成型装置および半導体装置の製造方法に関し、さらに詳細には、ポット内に収納される樹脂をプランジャで押圧して、キャビティ内に樹脂を充填するトランスファ成型装置および該トランスファ成型装置を用いて、キャビティ内に収納された半導体装置を樹脂封止する半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ICチップ等の半導体装置の樹脂封止等に用いるトランスファ成型に関して、最近、製品の微細化や信頼性向上のために、非常に高い接着力を有する樹脂や非常に細かいフィラーが充填されている樹脂が用いられ、高い樹脂流動性および高い成型樹脂圧力が必要とされる等、トランスファ成型装置にも過酷な稼動条件が要求されている。
【0003】
ここで、従来のトランスファ成型装置として、図7に示すトランスファ成型装置101がある。この装置は、複数のプランジャ110と、複数のプランジャ110を支持する押動プレート112と、押動プレート112を駆動する駆動装置130を有するトランスファ成型装置において、押動プレート112に作用する荷重を検出可能に、押動プレート112と駆動装置130との間に、圧力センサ122を備える構成である。
【0004】
【特許文献1】特開平6−166047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように、過酷な稼動条件の下、特にポットとプランジャとの摺動クリアランスには樹脂が流れ込む要因が多く、従来の樹脂とは比較にならないほど多くのかつ大きなトラブルが生じている。すなわち、ポットで起きた障害の影響がキャビティ内の樹脂圧力の低下を招き、それに起因する未充填やボイドの残留や剥離問題、金型汚れ問題の発生頻度が増加するに至った。
【0006】
ところが、例えば、従来のトランスファ成型装置101では、カル毎(プランジャ毎)の樹脂圧力を検出するセンサが無く、成型樹脂圧力の制御は、複数のプランジャを一括駆動するトランスファユニットに1個の圧力センサを設け、この出力に対して、トランスファユニットを駆動している1台のサーボモータの回転速度を上限付きのクローズドループ制御によって、樹脂の注入速度を制御していた。そのため、樹脂成型条件のうちで最も重要な樹脂注入において、各ポットの情報を基にした制御と監視が行われず、また、各ポットおよび各プランジャの間の摺動抵抗値が測定されておらず、監視もされていないという問題があった。したがって、例えば6本のプランジャの内の1本で200%の荷重が発生しても、一個の“全体センサ”では平均化されてしまって1/6しか感知できないため、そのポットに連なるキャビティ群の品質は無視されてしまっており、さらに、ばらつきの範囲と見られて危険性の警告も出されることがないまま、生産が続けられている。この危険性の発生の確率は、最近のグリーン樹脂で非常に大きくなっている。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、従来、各プランジャの合算でしか知ることが出来なかった樹脂を押圧する圧力をプランジャ毎に検知することが可能であるとともに、プランジャ摺動抵抗値を定期的に検出して、メンテナンス情報を得ることにより、プランジャのクリアランス管理や汚れの進行の管理、交換部品や作業の結果評価等、幅広い管理が可能であり、その結果、製品の品質管理とトレーサビリティを向上させることが可能なトランスファ成型装置およびそれを用いた半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0009】
本発明に係るトランスファ成型装置は、キャビティに連通するポットおよび該ポット内を摺動するプランジャを複数備えるとともに、前記プランジャを支持するトランスファユニットと、前記トランスファユニットを上下動させる駆動機構とを備え、前記ポット内に収納される樹脂を前記プランジャで押圧して、キャビティ内に樹脂を充填するトランスファ成型装置において、前記複数のプランジャの各プランジャ毎に、該プランジャに作用する圧力を検知する圧力センサを各々備えることを特徴とする。
【0010】
また、前記プランジャの前記ポット内における位置座標を検知する位置検知機構と、前記位置座標および該位置座標における前記圧力センサの出力値を記憶させる記憶部と、所定の位置座標における圧力センサの出力値と、あらかじめ記憶部に記憶されている該位置座標における圧力基準値との比較演算を行う比較演算部と、前記所定の位置座標における圧力センサの出力値が、該位置座標における圧力基準値の上限もしくは下限を超えた場合に警報を発する警報部とを備えることを特徴とする。
【0011】
ここで、前記圧力センサは、前記トランスファユニットに設けられることを特徴とし、前記駆動機構は、モータおよびボールねじを備えて構成されることを特徴とする。なお、前記駆動機構にも現行に用いられている圧力センサを備えることによって、例えば、プランジャ群の右側の加圧力だけが偏って上限ぎりぎりで上昇して、モーメントを生じて傾き、駆動系の摺動抵抗が増加してロックしてしまうのを防ぐダブル防止機能を付与することができる。すなわち、全プランジャの検出値の総計よりも“全体センサ”の出力値は常に大きいが、この差について、無負荷時と負荷時のデータを持つことによって、傾き・モーメントの増加を検知できるため、ガイドのメンテナンス情報に使うことができる。実際に、このガイドの摺動不良不具合は、過去に数例の事例があり、復旧に約2週間を要した。
【0012】
本発明に係る半導体装置の製造方法は、前記トランスファ成型装置を用いて、前記キャビティ内に収納された半導体装置を樹脂封止する半導体装置の製造方法において、前記半導体装置の樹脂封止を所定のショット数実施した後、もしくは前記圧力センサの出力値が予め設定された管理値の限界を超えたとき、封止用の樹脂を前記ポット内に収納せずに、前記プランジャを前記ポット内で摺動させる無負荷摺動工程を実施して、前記圧力センサによりその際の摺動抵抗値を測定し、前記摺動抵抗値が、あらかじめ前記記憶部に記憶されている無負荷摺動工程における抵抗基準値の上限以内に収まるまで所定の回数の無負荷摺動工程を実施する自己修復工程を実行するとともに、実施後の前記摺動抵抗値が抵抗基準値の上限もしくは下限を超えた場合に警報を発することを特徴とする。
【0013】
また、全ての前記ショットにおいて、前記プランジャの作動直前に、前記圧力センサのキャリングを実施することを特徴とする。
【0014】
また、前記複数のプランジャの各プランジャ毎に、該プランジャの所定の位置座標における前記各圧力センサの出力値を、経時的に前記記憶部に記憶させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1によれば、今までは、各プランジャの合算でしか知ることが出来なかった樹脂を押圧する圧力を、各プランジャ毎に検知することが可能となる。その結果、各プランジャ毎に圧力の最大値・最小値を管理して、トランスファユニットの上昇速度をフィードバック制御することが可能となる等、非常に高い数値管理が実現可能である。その他にも、圧力センサの出力を監視することで、駆動機構あるいは樹脂における不具合を検知することが可能となる。さらに、定期的に樹脂無しで無負荷の場合のプランジャの位置座標とその座標での摺動抵抗値のデータを取り、そのデータを用いて実成型時の圧力検出値を補正することで、非常に正確な実成型樹脂圧力を検出することが可能となる。
また、各プランジャの樹脂量差を吸収するスプリングを備える構成のトランスファ成型装置に対しても、各プランジャ毎に圧力センサを各々取り付けることが可能となる。そのため、摩耗したプランジャを新品に交換しても、検出機能を維持することが可能となる。
【0016】
請求項2によれば、カル部における樹脂圧力とトランスファユニットの押し上げ時の位置座標を、時間軸を共通にして相対比較することによって、ポット汚れ、ゲート詰まり、エアベント詰まり等、異常なカル部あるいはプランジャを推定し、品質に対する警報とアクション指示の情報を画面、表示灯、携帯電話等に出力して知らせることが可能となる。また、そのショットの終了後に成型作業を停止して待機させるといった制御も可能となる。一方、異常な圧力上昇が生じた場合、そのショット後に、プランジャの無負荷摺動工程を自動で行うプログラムを実行して、異常が生じた原因を自己診断することが可能となる。さらに、自己診断した後、自己修復プログラムを実行して連続生産を続けることが可能となる。
【0017】
請求項3によれば、各プランジャにおいて、樹脂をポット内に収納しない無負荷状態でプランジャをポット内で摺動させる場合の位置座標とその座標での摺動抵抗値のデータとを取り、そのデータにより、樹脂を用いる実際の成型時の圧力センサの検出値を補正することで、非常に正確な実成型樹脂圧力の検出が可能となる。これにより、ポット内の汚れなどの経時変化に対応して樹脂成型データ出力値を自動補正することができる。一方、ポット内の汚れ等で、管理限界以上の圧力を検出した場合、自己修復プログラムを実行して自動生産を続行することが可能であり、また、オペレータにメンテナンス指令を出力することも可能である。
【0018】
請求項4によれば、樹脂の予熱作業等で時間が経過した場合であっても、各プランジャに対応する圧力センサの出力を、いかなる場合でもプランジャを上昇させる直前にキャリングして、温度ドリフトや初期値のばらつきの影響をキャンセルして、高精度の圧力計測が可能となる。
【0019】
請求項5によれば、各プランジャの位置データと充填圧力データを蓄積して、カル部内の樹脂圧力の統計管理を行うことができる。それにより、不具合発生の予測ができ、事前に警報、メンテナンス指令を出すことが可能となる。また、定期的に樹脂無しの無負荷摺動工程を実施して、摺動抵抗値グラフを作り、ポット毎の動作確認と樹脂圧力検出値の補正データを取り込んで、成型作業に入るプログラムを組み込むことで保守管理が容易となる。逆に、不具合が生じたときの条件を読み出して、それまでの生産で蓄積された成型データを基準にして比較を行うことにより、製品の品質も含めた不良品発生防止のための対策が容易となる。また、樹脂を変更した場合の成型条件の差異を知ることができ、製品に対応した最適な成型条件を再現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳しく説明する。図1は、本発明の実施の形態に係るトランスファ成型装置1の一例を示す概略図である。図2は、本発明の実施の形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための概略図である。図3は、図1のトランスファ成型装置1におけるトランスファユニット全体の圧力値および各プランジャの圧力値(平均値)を表す圧力センサの荷重曲線(概念図)である。図4は、図1の各プランジャの圧力における標準的出力および問題発生時の出力を表す圧力センサの荷重曲線(概念図)である。図5は、本発明の実施の形態に係る半導体装置の製造方法における自己修復プログラムを実行する際のプランジャの圧力値の推移を表す圧力センサの荷重曲線(概念図)である。図6は、本発明の実施の形態に係るトランスファ成型装置1のオートクリーナ機構50の一例を示す概略図である。
【0021】
図1に示すように、本発明に係るトランスファ成型装置1は、トッププラテン5およびプレス4に支持される上金型2および下金型3を備える。これら金型には複数のポット6を配し、これに対応する複数のプランジャ7を具備している。各プランジャ7はトランスファユニット16により支持されてポット6内を摺動可能に挿入される。また、トランスファユニット16を上下動させる駆動機構21を備える。さらに、各ポット6の上方位置には、カル部11が設けられ、各カル部11からキャビティ13に連通する連通路12が設けられる。
【0022】
上記構成を備えるトランスファ成型装置1の作用として、ポット6内のプランジャ7上に樹脂9が収納され、駆動機構21によりトランスファユニット16を上昇させると、プランジャ7がポット6内を摺動しながら上昇し、樹脂9がカル部11内で圧縮される。圧縮された樹脂11は連通路12を通り、キャビティ13内に充填されて、キャビティ13内に収納された半導体装置40を樹脂封止する。
【0023】
ここで、本発明に係るトランスファ成型装置1に特徴的な構成として、トランスファユニット16は、マルチ基板34およびマルチ基板34上に固定されるスプリングマルチボディ33とから構成され、スプリングマルチボディ33内には、プランジャ7が交換可能に取り付けられるプランジャホルダ31と、プランジャホルダ31の下部に配設されるスプリング32と、スプリング受35と、圧力センサ17とが設けられる。すなわち、複数のプランジャ7に対して、複数のスプリングマルチボディ33を備える構成であり、したがって、各プランジャ7に作用する圧力を検知可能な複数の圧力センサ17が設けられる。一例として、圧力センサ17は、水晶式力センサである。
【0024】
上記構成の作用として、プランジャ7毎に設けられるスプリング32により、プランジャ毎に異なる摺動抵抗での速度差と変動を吸収して、速度制御の負担を軽減するとともに、充填の最終位置のプランジャ停止位置の差異を吸収する。また、プランジャ毎に、樹脂を押圧する際にプランジャに作用する圧力が検出可能となる。
【0025】
また、図1に示すように、トランスファ成型装置1は、プランジャ7が摺動する際に、ポット6内における位置座標を検知する位置検知機構25と、前記位置座標および該位置座標における圧力センサ17の出力値を記憶させる記憶部26と、所定の位置座標における圧力センサ17の出力値と、あらかじめ記憶部26に記憶されている該位置座標における圧力基準値との比較演算を行う比較演算部27と、前記所定の位置座標における圧力センサ17の出力値が、該位置座標における圧力基準値の上限もしくは下限を超えた場合に警報を発する警報部28とを備える。
【0026】
なお、位置検知機構25は、後述するようにサーボモータを用いた構成により実現されるが、他の例として、リニアスケール等を採用してもよい。また、記憶部26、比較演算部27、警報部28は、例えば、コンピュータシステムとして構成される。
【0027】
上記構成の作用として、プランジャ7が摺動する際に、ポット6内における位置座標と、その座標における圧力センサ17の出力値が記憶されるとともに、圧力基準値との比較演算が行われて、必要な警報等を発することが可能となる。
【0028】
一方、図1に示すように、駆動機構21は、モータ23およびボールねじ22を備えて構成される。ここで、プランジャの位置座標、速度軸、時間軸の検知を必要とするため、サーボモータとボールねじの組合せが好適である。それによって、前述の位置検知機構25と駆動機構21とを兼用することができる。なお、駆動機構21を、油圧方式により構成することも可能であるが、その場合は、位置検知機構25を別個に設ける必要がある。
【0029】
上記構成の作用として、モータ23が正逆回転することにより、トランスファユニット16が上下動して、プランジャ7がポット6内を摺動するための駆動力を発生する。
【0030】
なお、本実施例ではプランジャ7を上昇させて樹脂9を圧縮する構成を例にとり説明したが、上下を逆転させた構造で、プランジャ7を下降させて樹脂9を圧縮する構成としてもよい。
【0031】
以上の構成を備えるトランスファ成型装置1の奏する効果について説明する。
特に、プランジャ7毎に圧力センサ17を備える構成により、今までは、各プランジャの合算でしか知ることが出来なかった樹脂を押圧する圧力(図3の曲線A)を、プランジャ7毎に検知することが可能となる。その結果、プランジャ7毎に圧力の最大値・最小値を管理すると共に、平均値(図3の曲線B)を求めて、トランスファユニット16の上昇速度をフィードバック制御することが可能となる。すなわち、プランジャ毎の圧力センサ17により圧力を検知して、その合計値(トランスファユニット全体の出力値)に基づいて制御行う。それにより、例えば、タブレット状の樹脂9の押し潰し力を検知できるので、適切な余熱時間と潰し速度等を得るといった制御も可能である。その他にも、複数のスプリングマルチボディ33を備える構造に対応したトランスファユニット上昇速度制御が容易に行える。また、樹脂9の種類や特性の違いに対応させて圧力センサ17の出力に対する上限値を変えて、トランスファユニット上昇速度を制御することもできる。このように非常に高い数値管理が実現可能である。
加えて、スプリングマルチボディ33に封入されているスプリング32の、過度の圧縮およびその後の飛び出しが圧力変動グラフを得ることで監視でき、それにより、トランスファユニット16が傾く等して、トランスファユニット16への駆動力が高くなっても、カル部11内の樹脂圧力が高くならない場合(図4(b)の曲線D)や、圧縮工程の途中でゲートが詰まる等によって、トランスファユニット16への駆動力が高くなると共に、カル部11内の樹脂圧力も高くなる場合(図4(c)の曲線E)を検出することができる等、多様な問題を検知することが可能となる。
さらに、スプリング32により各プランジャ7の速度変動を吸収する機構を備える本装置の場合、実際の成型樹脂圧力とプランジャ7の摺動抵抗を合算した力を検出することになるので、定期的に樹脂9無しで無負荷の場合のプランジャ7の位置座標とその座標での摺動抵抗値のデータを取り、そのデータを用いて実成型時の圧力検出値を補正することで、非常に正確な実成型樹脂圧力を検出することが可能となる。
なお、プランジャ7は交換式であるため、交換作業の結果を評価することもできる。
【0032】
また、特に圧力センサ17をプランジャ7と駆動機構21との間のトランスファユニット16に設ける構成により、各プランジャ7の速度変動を吸収するスプリング32を備える構成のトランスファ成型装置に対しても、プランジャ7毎に圧力センサ17を取り付けることが可能となる。
一方、摩耗したプランジャを新品に交換しても、検出機能は変わらないという効果も奏する。なお、ポット数が同じならば、ポット位置にプランジャ位置を合わせることで共用が可能である。
【0033】
また、特に位置検知機構、記憶部、比較演算部、警報部を設ける構成により、全カル部11(もしくは全プランジャ7)における樹脂圧力のグラフとトランスファユニット16(もしくはプランジャ7)の押し上げ時の位置座標を時間軸を共通にして相対比較することによって、ポット汚れ、ゲート詰まり、エアベント詰まり等、異常なカル部11あるいはプランジャ7を推定し、品質に対する警報とアクション指示の情報を画面、表示灯、携帯電話等に出力して知らせることが可能となる。なお、前記グラフから、タブレット割れ、未充填、ワイヤ流れ等を推定し、結果と原因とパッケージ番号、対策を出力して知らせるとともに、そのショットの終了後に成型作業を停止して待機させるといった制御も可能となる。
一方、異常な圧力上昇が生じた場合、そのショット後に、プランジャ7の無負荷摺動工程を自動で行うプログラムを実行して、異常が生じた原因が、ポット汚れ、ゲート詰まり、エアベント詰まり等の何れにあるのかを自己診断することが可能となる。また、異常時における圧力センサ17の出力値が予め設定された管理値の限界(最大値)以上の場合は、成型作業を停止して、プランジャ7の位置座標によって、プレス4を即座に開くか、もしくは樹脂硬化後に開くかを判断することができる。
【0034】
このように、トランスファ成型装置1によれば、各ポット6、各プランジャ7の個別管理と各カル部11毎の成型管理が可能で、トレーサビリティが高い装置となる。
【0035】
次に、本発明に係る半導体装置の製造方法について説明する。 当該方法は、上記のトランスファ成型装置1を用いて、キャビティ13内に収納された半導体装置40を樹脂封止する半導体装置の製造方法であって、図1に示すように、ポット6内のプランジャ7上に樹脂9を収納し、次いで、図2に示すように、駆動機構21により、トランスファユニット16を上昇させ、それに伴い、プランジャ7がポット6内で摺動しながら上昇して、樹脂9をカル部11内で圧縮する。圧縮された樹脂11は連通路12を通り、キャビティ13内に充填されて、キャビティ13内に載置される半導体装置40を樹脂封止する。ここまでの工程は、通常の半導体装置の製造方法と同様である。
【0036】
ここで、本発明に特徴的な工程として、前記半導体装置の樹脂封止を開始する時と、所定のショット数実施した後、封止用の樹脂9をポット6内に収納せずに、プランジャ7をポット6内で摺動させる無負荷摺動工程を実施して、圧力センサ17によりその際の摺動抵抗値を測定し、その摺動抵抗値が、あらかじめ記憶部26に記憶されている無負荷摺動工程における抵抗基準値の上限もしくは下限を超えた場合に警報を発する工程を備える。また、自己診断した後、自己修復工程を実行して連続生産を続けることが可能である。一例として、自己修復工程は以下の自己修復プログラムにより実行する。
【0037】
図5に、自己修復プログラムを実行する際のプランジャの圧力値の推移を表す圧力センサの荷重曲線(概念図)の例を示す。無負荷摺動工程を実施したときに、図5(a)に示すように、圧力センサ出力の標準曲線(曲線F)に対して、抵抗基準値の上限(図中の管理限界値)を超える出力(曲線G)が検知された場合には、さらに、無負荷摺動工程を所定回数実施して、摺動部分の簡易クリーニングを行う。その際、圧力センサ出力が図5(b)に示すように、依然として抵抗基準値の上限(図中の管理限界値)を超えている場合には(曲線H)、引き続き、無負荷摺動工程を数回実施して、摺動部分の簡易クリーニングを繰り返し行う。その結果、圧力センサ出力が図5(c)に示すように、抵抗基準値の上限(図中の管理限界値)以内に収まった場合には(曲線I)、自己修復が完了することとなり、通常の生産工程の続行が可能となる。
【0038】
なお、前記自己修復プログラムの実行時に、もしくは定期的に、カル部11、連通路12、キャビティ13等に残存する樹脂汚れ(通称「バリ」と呼ばれる樹脂片)51の清掃を行うオートクリーナ機構50をトランスファ成型装置1に設けてもよい(図6参照)。オートクリーナ機構50は、吸引装置(不図示)に接続されて、エア吸引(図6中の矢印方向)を行うことによって、樹脂汚れ51を吸引・除去するものである。
【0039】
また、半導体装置40の樹脂封止を開始する直前に、正確にはプランジャ7の上昇の直前に、圧力センサ17のキャリングを実施する工程を備える。
【0040】
さらに、複数のプランジャ7毎に、該プランジャ7の所定の位置座標における圧力センサ17の出力値を、経時的に記憶部26に記憶させる工程を備える。
【0041】
以上の構成を備える半導体装置の製造方法の奏する効果について説明する。
特に、無負荷摺動工程を備える構成により、各プランジャ7において、樹脂9をポット6内に収納しない無負荷状態でプランジャ7をポット6内で摺動させる場合の位置座標とその座標での摺動抵抗値のデータとを取り、そのデータにより、樹脂9を用いる実際の成型時の圧力センサ17の検出値を補正することで、非常に正確な実成型樹脂圧力の検出が可能となる。これにより、ポット6内の汚れなどの経時変化に対応して樹脂成型データ出力値を自動補正することができる。
一方、ポット6内の汚れ等で、管理限界以上の圧力を検出した場合、メンテナンス指令を出力することも可能である。一例として、プランジャ7の摺動抵抗と、成型樹脂圧力を、トランスファユニット16のセンターラインに対するモーメントで計算して監視し、アンバランス量がトランスファ成型装置1のガイド剛性の管理限界を超えた場合に、メンテナンス命令を出力して、機械の損傷を防止することも可能である。
【0042】
また、特に樹脂注入の直前に圧力センサ17のキャリングを行う工程を備える構成により、樹脂9の予熱作業等で時間が経過した場合であっても、各プランジャ7に対応する圧力センサ17の出力を、プランジャ7を上昇させる直前にキャリングして、温度ドリフトや初期値のばらつきの影響をキャンセルして、高精度の圧力計測を可能とするものである。
【0043】
また、特に、経時的に記憶部26にプランジャ7の位置座標とその座標における圧力センサ17の出力値を記憶する工程を備える構成により、各プランジャ7の位置データと充填圧力データを蓄積して、カル部11内の樹脂圧力の統計管理を行うことができる。それにより、不具合発生の予測ができ、事前に警報、メンテナンス指令を出すことが可能となる。例えば、トランスファユニット16およびスプリングマルチボディ33の機械的動作異常と、樹脂成型圧力とのデータを分離できるので、トラブルの事前管理ができる。このように、生産開始時、所定ショット数毎、ポット6やプランジャ7の交換後等に、樹脂9無しの無負荷摺動工程を実施して、摺動抵抗値グラフを作り、ポット6毎の動作確認と樹脂圧力検出値の補正データを取り込んで、成型作業に入るプログラムを組み込むことで保守管理が容易となる。
逆に、不具合が生じたときの条件を読み出して、それまでの生産で蓄積された成型データを基準にして比較を行うことにより、製品の品質も含めた不良品発生防止のための対策が容易となる。
【0044】
一方、別の観点からは、各カル部11につながるキャビティ13の充填バランスが、カル部11の樹脂圧力グラフから検出できるので、樹脂注入を駆動するトランスファユニット16の上昇速度コントロールができ、Nキャビティで起きるN倍流速を劇的に低減できるとともに、カル部11内の樹脂圧力から、そのワイヤ流れのエネルギを検出できるので、ワイヤ流れのマージンを数値で管理できる。
また、樹脂9を変更した場合の成型条件の差異を知ることができ、成型技術の向上に非常に有効である。逆に、成型条件を様々に変化させて成型した場合のデータを、製品に対応させて比較できるので、最適な成型条件を得ることができ、数値的に再現もできる。さらには、全カル部11の樹脂圧力データとグラフを得ることによって、トランスファ成型装置1の構造変更を行った場合であっても、最適な成型条件を再現することができる。
【0045】
以上の説明のように、本発明によれば、トランスファ成型を行うに際し、トランスファユニットを駆動するサーボシステムの速度制御をクローズド制御に近づけて成型精度を高めると共に、最適な成型条件を数値で管理できるようになる。その結果、パッケージ成型条件のトレーサビリティが格段に向上した精度が高い成型システムができる。また、統計的に最適な管理状態をキープする基準ができるので、樹脂の状態および製造方法の実施状態を明確に、数値的に把握することが可能となる。
【0046】
なお、本発明はトランスファ成型に関するものであるが、当該技術的思想を他の成型装置等に適用することももちろん可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態に係るトランスファ成型装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための概略図である。
【図3】図1のトランスファ成型装置におけるトランスファユニット全体の圧力値および各プランジャの圧力値(平均値)を表す圧力センサの荷重曲線(概念図)である。
【図4】図1の各プランジャの圧力における標準的出力および問題発生時の出力を表す圧力センサの荷重曲線(概念図)である。
【図5】本発明の実施の形態に係る半導体装置の製造方法における自己修復プログラムを実行する際のプランジャの圧力値の推移を表す圧力センサの荷重曲線(概念図)である。
【図6】本発明の実施の形態に係るトランスファ成型装置のオートクリーナ機構の一例を示す概略図である。
【図7】従来の実施の形態に係るトランスファ成型装置の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0048】
1 トランスファ成型装置
2 上金型
3 下金型
4 プレス
5 トッププラテン
6 ポット
7 プランジャ
9 樹脂
11 カル部
12 連通路
13 キャビティ
16 トランスファユニット
17 圧力センサ
21 駆動機構
22 ボールねじ
23 モータ
25 位置検知機構
26 記憶部
27 比較演算部
28 警報部
31 プランジャホルダ
32 スプリング
33 スプリングマルチボディ
34 マルチ基板
35 スプリング受
40 半導体装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティに連通するポットおよび該ポット内を摺動するプランジャを複数備えるとともに、
前記プランジャを支持するトランスファユニットと、
前記トランスファユニットを上下動させる駆動機構とを備え、
前記ポット内に収納される樹脂を前記プランジャで押圧して、キャビティ内に樹脂を充填するトランスファ成型装置において、
前記複数のプランジャの各プランジャ毎に、該プランジャに作用する圧力を検知する圧力センサを各々備え、
前記圧力センサは、前記トランスファユニットに設けられること
を特徴とするトランスファ成型装置。
【請求項2】
前記プランジャの前記ポット内における位置座標を検知する位置検知機構と、
前記位置座標および該位置座標における前記圧力センサの出力値を記憶させる記憶部と、
所定の位置座標における圧力センサの出力値と、あらかじめ記憶部に記憶されている該位置座標における圧力基準値との比較演算を行う比較演算部と、
前記所定の位置座標における圧力センサの出力値が、該位置座標における圧力基準値の上限もしくは下限を超えた場合に警報を発する警報部とを備えること
を特徴とする請求項1記載のトランスファ成型装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のトランスファ成型装置を用いて、前記キャビティ内に収納された半導体装置を樹脂封止する半導体装置の製造方法において、
前記半導体装置の樹脂封止を所定のショット数実施した後、もしくは前記圧力センサの出力値が予め設定された管理値の限界を超えたとき、
封止用の樹脂を前記ポット内に収納せずに、前記プランジャを前記ポット内で摺動させる無負荷摺動工程を実施して、前記圧力センサによりその際の摺動抵抗値を測定し、
前記摺動抵抗値が、あらかじめ前記記憶部に記憶されている無負荷摺動工程における抵抗基準値の上限以内に収まるまで所定の回数の無負荷摺動工程を実施する自己修復工程を実行するとともに、実施後の前記摺動抵抗値が抵抗基準値の上限もしくは下限を超えた場合に警報を発すること
を特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項4】
全ての前記ショットにおいて、前記プランジャの作動直前に、前記圧力センサのキャリングを実施すること
を特徴とする請求項3記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記複数のプランジャの各プランジャ毎に、該プランジャの所定の位置座標における前記各圧力センサの出力値を、経時的に前記記憶部に記憶させること
を特徴とする請求項3または請求項4記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−311577(P2008−311577A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−160279(P2007−160279)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(000144821)アピックヤマダ株式会社 (194)
【Fターム(参考)】