トリプレート型平面アンテナ
【課題】
トリプレート型平面アンテナでは、給電線路からの放射を抑圧するため、給電線路はスロット開口間の導体の下側で引き回す必要があるが、配列基準方向に対して偏波を回転する必要がある場合、一般には放射素子を回転する方法が用いられているため、給電線路を引き回す隙間が狭くなり、給電線路どうしが近接して線路間結合が大きくなってしまう。
【解決手段】
第1の誘電体上に、放射素子と給電線路を形成したアンテナ回路基板を設置し、第2の誘電体上に、電波放射を目的とするスロット開口を有するスロット板を設置し、第2の誘電体の下方に前記アンテナ回路基板を重ねる際に、スロット開口が放射素子の真上になるように配置するものであって、第3の誘電体上に、放射素子及びスロット開口の配列の基準方向に対して、角度θだけ傾斜した偏波グリッドを形成した偏波グリッド基板を設置し、スロット板の上部に前記第3の誘電体を配置することを特徴とする。
トリプレート型平面アンテナでは、給電線路からの放射を抑圧するため、給電線路はスロット開口間の導体の下側で引き回す必要があるが、配列基準方向に対して偏波を回転する必要がある場合、一般には放射素子を回転する方法が用いられているため、給電線路を引き回す隙間が狭くなり、給電線路どうしが近接して線路間結合が大きくなってしまう。
【解決手段】
第1の誘電体上に、放射素子と給電線路を形成したアンテナ回路基板を設置し、第2の誘電体上に、電波放射を目的とするスロット開口を有するスロット板を設置し、第2の誘電体の下方に前記アンテナ回路基板を重ねる際に、スロット開口が放射素子の真上になるように配置するものであって、第3の誘電体上に、放射素子及びスロット開口の配列の基準方向に対して、角度θだけ傾斜した偏波グリッドを形成した偏波グリッド基板を設置し、スロット板の上部に前記第3の誘電体を配置することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波帯・ミリ波帯の送受信に用いられるトリプレート型平面アンテナの偏波面制御に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、マイクロ波帯・ミリ波帯の衛星通信や、衛星放送受信において、衛星側の偏波は、ある不特定の角度の傾きを持った直線偏波である場合が多いが、その場合、地球局側のアンテナの偏波も、その衛星の偏波に合わせて傾ける必要がある。
【0003】
地球局側アンテナとして平面アンテナを使用する場合、この偏波面制御は、アンテナ全体を衛星方向に直交する面内で回転するのが最も簡単な手段ではあるが、自動車等の移動体に搭載する衛星追尾用平面アンテナでは、アンテナ全体を保護するレドームの高さをできる限り低くする必要があることから、アンテナ全体を回転する方法を使うことはできない。
【0004】
そのため、従来から衛星追尾用平面アンテナの偏波面制御は、図5に示されるように、アンテナの放射素子5それぞれを回転する方法が採られてきた(非特許文献1あるいは非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】”ディジタルSNG平面アンテナの放射特性”,電子情報通信学会技術報告,A.P.93-22
【非特許文献2】”AntennaSystem for Mobile Video Transmission Via Satellite”,Proc.of ISAP’96
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、図4、図5に示すようなトリプレート型平面アンテナの場合、給電線路6からの放射を抑圧するため、給電線路6はスロット開口7間の隙間の下側で引き回す必要があるが、図5のように放射素子5が回転していると、引き回す隙間が狭くなり、給電線路6どうしが近接して、線路間結合が大きくなってしまう。
【0007】
そのため、各放射素子5への励振分布が所望値から大きくずれて、図6に示すような正面以外の方向に大きなビームが出てしまうという、いわゆるグレーティングローブが発生し、指向性の規定レベルをオーバするという問題点があった。
【0008】
また、所望の偏波面が変更になるごとに、給電線路6の設計を変更する必要があり、容易に偏波面制御ができないという問題点もあった。
【0009】
本発明は、上記問題点を鑑みてなされたものであり、指向性のサイドローブレベルの上昇や、利得の低下といったアンテナ性能の低下なしに、配列の基準方向に対する偏波面の角度を容易に所望値に制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、
トリプレート型平面アンテナにおいて、
第1の誘電体上に、放射素子と給電線路を形成したアンテナ回路基板を設置し、
第2の誘電体上に、電波放射を目的とするスロット開口を有するスロット板を設置し、
前記第2の誘電体の下方に前記アンテナ回路基板を重ねる際に、前記スロット開口が前記放射素子の真上になるように配置するものであって、
第3の誘電体上に、前記放射素子及び前記スロット開口の配列の基準方向に対して、角度θだけ傾斜した偏波グリッドを形成した偏波グリッド基板を設置し、前記スロット板の上部に前記第3の誘電体を配置することを特徴とするトリプレート型平面アンテナである。
【0011】
また、本発明は、
トリプレート型平面アンテナにおいて、
第4の誘電体上に、無給電素子を形成した無給電基板を設置し、
前記第4の誘電体の下方に前記スロット板を重ねる際に、前記無給電素子が前記放射素子及び前記スロット開口の真上になるように配置するものであって、
前記第3の誘電体上に、前記放射素子及びスロット開口の配列の基準方向に対して、角度θだけ傾斜した偏波グリッドを形成した偏波グリッド基板を設置し、前記無給電基板の上部に配置することを特徴とするトリプレート型平面アンテナである。
【0012】
また、本発明は、前記角度θは、0度より大きく、かつ、45度以下であることを特徴とするトリプレート型平面アンテナである。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明のトリプレート型平面アンテナによれば、アンテナの性能をほとんど低下させること無く、容易に、偏波面制御を行うことができる。特に、交差偏波識別度特性は、偏波面制御しない場合(偏波グリッド9なしで、配列の基準方向と偏波方向が同じ場合)より、向上することができる。即ち、配列の基準方向に対して、任意の偏波面角度をもつトリプレート型平面アンテナを、従来よりも容易に、しかも、より高性能に、実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のトリプレート型平面アンテナの実施例1の斜視分解図
【図2】本発明のトリプレート型平面アンテナの実施例1の上面図
【図3】本発明の無給電素子付きトリプレート型平面アンテナの実施例2の斜視分解図
【図4】従来の偏波面制御しない場合のトリプレート型平面アンテナの上面図
【図5】従来の偏波面制御した場合のトリプレート型平面アンテナの上面図
【図6】従来の課題を説明するための指向性を示す線図
【図7】偏波グリッドの動作を説明するための上面図
【図8】偏波グリッドの平行偏波成分の打ち消しを説明するための断面図
【図9】偏波グリッドあり、なしの正面利得比較図
【図10】偏波グリッドあり、なしの指向性比較図
【図11】偏波グリッドあり、なしの交差偏波識別度比較図
【図12】偏波グリッドあり、なしのVSWR比較図
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0015】
本発明の好適な実施例について、図を参照して説明する。
【0016】
高効率な多素子アレーの実現手段として、一般にトリプレート型平面アンテナが提案されているが、本発明にかかるトリプレート型平面アンテナは、図1、図2、図3に実施例として示す構造になっている。
【0017】
つまり、スロット板4あるいは無給電基板10の面上に、図2に示すように、配列の基準方向に対して所定の角度θ(0<θ≦45度)だけ傾斜した偏波グリッド9を形成した偏波グリッド基板8を、誘電体2cを介して設け、アンテナの偏波面を所望の角度θだけ、回転するようにしたものである。
【0018】
本発明の第1の特徴は、トリプレート型平面アンテナにおいて、給電線路6、及び、放射素子5を、図2のように配列の基準方向と同じ方向に引き回すことができるため、給電線路間の結合によるサイドローブレベルの上昇がほとんどない。
【0019】
また、第2の特徴は、偏波面角度θの制御は、偏波グリッド9を変更するのみでよく、アンテナ回路基板3、スロット板4、及び、無給電基板10は全く変更する必要がないので、非常に容易に偏波面制御できる。さらに、偏波グリッド9を設けた場合でも、アンテナの正面利得は、偏波グリッド9がない場合とほとんど同じになる。
【0020】
これは、図7に示すように、放射素子5から放射された電波は、偏波グリッド9に垂直な偏波と平行な偏波の2つの偏波成分に、分けることができるが、その垂直な偏波成分は、偏波グリッド9に影響されずそのまま偏波グリッド9を通過し放射されるが、偏波グリッド9に平行な偏波成分は、図8に示すように、直接、偏波グリッド9を通過する直接通過波と、一旦、偏波グリッド9で反射した後、再度、スロット板4等で反射して偏波グリッド9を通過する反射波が、丁度、同振幅逆位相となり、打ち消しあうため、放射されないからである。
【0021】
そのため、スロット板4と偏波グリッド9の間隔は、約1/4λg(λg=λ/√εr、λ:自由空間波長、εr:誘電体2cの比誘電率)に設定し、偏波グリッド9の間隔Sgと太さWgも偏波グリッド9に水平な偏波成分が、通過するものと反射するもので丁度同じくらいの大きさになるように、適切に設定する必要がある。
【0022】
さらに具体的な実施例として、本発明にかかる、図3のような無給電素子付きトリプレート型平面アンテナの構成で、500素子のアレーアンテナを試作したので説明する。
【0023】
本アンテナでは、偏波面を垂直偏波から10.8度傾けるために、偏波グリッド9を用いた。まず初めに、偏波グリッド9無しの状態で、アンテナ回路基板3、無給電基板10、スロット板4等の設計をし、それに、スロット板4から、約1/4λg(=約6mm)の高さに、誘電体2cを介して、偏波グリッド基板8を設けた。
【0024】
ここで、偏波グリッド9の傾き角θは、10.8度とし、図7に示したグリッド寸法Sg、Wgは、実験的に調整して、最適値を求めた。
【0025】
上記のようなアンテナを用いて、偏波グリッド基板8を取り付けた場合と取り付けない場合の正面利得(図9)、指向性(図10)、交差偏波識別度(図11)、VSWR(図12)を比較した。
【0026】
正面利得は、偏波グリッド9あり、なしにかかわらず、ほぼ同じである。偏波グリッド9が、交差偏波を抑圧するためだけに働いているとすれば、偏波グリッド9をつけると、cos(10.8度)=0.155dB程度、利得が低下するはずであるが、両者がほぼ一致していることから、偏波グリッド9により、偏波面が回転していることがわかる。
【0027】
また、指向性、VSWRは、ほとんど変化がなく、偏波グリッド9をおいても、アンテナ回路基板3、無給電基板10、スロット板4の変更は、全く必要ないこともわかる。図6のような、グレーティングローブもほとんど出ていない。
【0028】
さらに、交差偏波識別度に関しては、偏波グリッドを取り付けたことにより、大幅に向上している。図5の従来例のように、素子を回転して偏波を回転するより、大幅に簡単であるにもかかわらず、非常に良好な特性が得られた。
【0029】
本発明によれば、前記のように、アンテナの性能をほとんど低下させることなく、容易に偏波面の制御を行うことが可能になり、また、交差偏波識別度特性においては、偏波面制御をしない場合よりも向上するのである。
【0030】
本発明は、図1、図2に示すように、地導体1の面上に、誘電体2aを介して、放射素子5と給電線路6を形成したアンテナ回路基板3を設置し、さらにその面上に誘電体2bを介して、電波放射のためのスロット開口7を有するスロット板4を、各スロット開口7が放射素子5の真上に来るように設置したトリプレート型平面アンテナにおいて、配列基準方向に対して所定の角度θ(0<θ≦45度)だけ傾斜した偏波グリッド9を形成した偏波グリッド基板8を、誘電体2cを介してスロット板4の面上全体に渡り設けることを特徴としている。
【0031】
また本発明は、図3に示すように、スロット板4の上部に誘電体2dを介して、無給電素子11を形成した無給電基板10を、無給電素子11が放射素子5及びスロット開口7の真上に来るように設置した、無給電素子付きトリプレート型平面アンテナにおいて、配列に対して所定の角度θ(0<θ≦45度)だけ傾斜した偏波グリッド9を形成した偏波グリッド基板8を、誘電体2cを介して無給電基板10の面上全体に渡り設けることを特徴としている。
【0032】
本実施例では偏波グリッド9の傾きの一例として10.8度としたが、実用に際して様々な傾きを要するものであり、この角度に限定するものではない。
【符号の説明】
【0033】
1…地導体、
2a,2b,2c,2d…誘電体、
3…アンテナ回路基板、
4…スロット板、
5…放射素子、
6…給電線路、
7…スロット開口、
8…偏波グリッド基板、
9…偏波グリッド、
10…無給電基板、
11…無給電素子。
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波帯・ミリ波帯の送受信に用いられるトリプレート型平面アンテナの偏波面制御に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、マイクロ波帯・ミリ波帯の衛星通信や、衛星放送受信において、衛星側の偏波は、ある不特定の角度の傾きを持った直線偏波である場合が多いが、その場合、地球局側のアンテナの偏波も、その衛星の偏波に合わせて傾ける必要がある。
【0003】
地球局側アンテナとして平面アンテナを使用する場合、この偏波面制御は、アンテナ全体を衛星方向に直交する面内で回転するのが最も簡単な手段ではあるが、自動車等の移動体に搭載する衛星追尾用平面アンテナでは、アンテナ全体を保護するレドームの高さをできる限り低くする必要があることから、アンテナ全体を回転する方法を使うことはできない。
【0004】
そのため、従来から衛星追尾用平面アンテナの偏波面制御は、図5に示されるように、アンテナの放射素子5それぞれを回転する方法が採られてきた(非特許文献1あるいは非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】”ディジタルSNG平面アンテナの放射特性”,電子情報通信学会技術報告,A.P.93-22
【非特許文献2】”AntennaSystem for Mobile Video Transmission Via Satellite”,Proc.of ISAP’96
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、図4、図5に示すようなトリプレート型平面アンテナの場合、給電線路6からの放射を抑圧するため、給電線路6はスロット開口7間の隙間の下側で引き回す必要があるが、図5のように放射素子5が回転していると、引き回す隙間が狭くなり、給電線路6どうしが近接して、線路間結合が大きくなってしまう。
【0007】
そのため、各放射素子5への励振分布が所望値から大きくずれて、図6に示すような正面以外の方向に大きなビームが出てしまうという、いわゆるグレーティングローブが発生し、指向性の規定レベルをオーバするという問題点があった。
【0008】
また、所望の偏波面が変更になるごとに、給電線路6の設計を変更する必要があり、容易に偏波面制御ができないという問題点もあった。
【0009】
本発明は、上記問題点を鑑みてなされたものであり、指向性のサイドローブレベルの上昇や、利得の低下といったアンテナ性能の低下なしに、配列の基準方向に対する偏波面の角度を容易に所望値に制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、
トリプレート型平面アンテナにおいて、
第1の誘電体上に、放射素子と給電線路を形成したアンテナ回路基板を設置し、
第2の誘電体上に、電波放射を目的とするスロット開口を有するスロット板を設置し、
前記第2の誘電体の下方に前記アンテナ回路基板を重ねる際に、前記スロット開口が前記放射素子の真上になるように配置するものであって、
第3の誘電体上に、前記放射素子及び前記スロット開口の配列の基準方向に対して、角度θだけ傾斜した偏波グリッドを形成した偏波グリッド基板を設置し、前記スロット板の上部に前記第3の誘電体を配置することを特徴とするトリプレート型平面アンテナである。
【0011】
また、本発明は、
トリプレート型平面アンテナにおいて、
第4の誘電体上に、無給電素子を形成した無給電基板を設置し、
前記第4の誘電体の下方に前記スロット板を重ねる際に、前記無給電素子が前記放射素子及び前記スロット開口の真上になるように配置するものであって、
前記第3の誘電体上に、前記放射素子及びスロット開口の配列の基準方向に対して、角度θだけ傾斜した偏波グリッドを形成した偏波グリッド基板を設置し、前記無給電基板の上部に配置することを特徴とするトリプレート型平面アンテナである。
【0012】
また、本発明は、前記角度θは、0度より大きく、かつ、45度以下であることを特徴とするトリプレート型平面アンテナである。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明のトリプレート型平面アンテナによれば、アンテナの性能をほとんど低下させること無く、容易に、偏波面制御を行うことができる。特に、交差偏波識別度特性は、偏波面制御しない場合(偏波グリッド9なしで、配列の基準方向と偏波方向が同じ場合)より、向上することができる。即ち、配列の基準方向に対して、任意の偏波面角度をもつトリプレート型平面アンテナを、従来よりも容易に、しかも、より高性能に、実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のトリプレート型平面アンテナの実施例1の斜視分解図
【図2】本発明のトリプレート型平面アンテナの実施例1の上面図
【図3】本発明の無給電素子付きトリプレート型平面アンテナの実施例2の斜視分解図
【図4】従来の偏波面制御しない場合のトリプレート型平面アンテナの上面図
【図5】従来の偏波面制御した場合のトリプレート型平面アンテナの上面図
【図6】従来の課題を説明するための指向性を示す線図
【図7】偏波グリッドの動作を説明するための上面図
【図8】偏波グリッドの平行偏波成分の打ち消しを説明するための断面図
【図9】偏波グリッドあり、なしの正面利得比較図
【図10】偏波グリッドあり、なしの指向性比較図
【図11】偏波グリッドあり、なしの交差偏波識別度比較図
【図12】偏波グリッドあり、なしのVSWR比較図
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0015】
本発明の好適な実施例について、図を参照して説明する。
【0016】
高効率な多素子アレーの実現手段として、一般にトリプレート型平面アンテナが提案されているが、本発明にかかるトリプレート型平面アンテナは、図1、図2、図3に実施例として示す構造になっている。
【0017】
つまり、スロット板4あるいは無給電基板10の面上に、図2に示すように、配列の基準方向に対して所定の角度θ(0<θ≦45度)だけ傾斜した偏波グリッド9を形成した偏波グリッド基板8を、誘電体2cを介して設け、アンテナの偏波面を所望の角度θだけ、回転するようにしたものである。
【0018】
本発明の第1の特徴は、トリプレート型平面アンテナにおいて、給電線路6、及び、放射素子5を、図2のように配列の基準方向と同じ方向に引き回すことができるため、給電線路間の結合によるサイドローブレベルの上昇がほとんどない。
【0019】
また、第2の特徴は、偏波面角度θの制御は、偏波グリッド9を変更するのみでよく、アンテナ回路基板3、スロット板4、及び、無給電基板10は全く変更する必要がないので、非常に容易に偏波面制御できる。さらに、偏波グリッド9を設けた場合でも、アンテナの正面利得は、偏波グリッド9がない場合とほとんど同じになる。
【0020】
これは、図7に示すように、放射素子5から放射された電波は、偏波グリッド9に垂直な偏波と平行な偏波の2つの偏波成分に、分けることができるが、その垂直な偏波成分は、偏波グリッド9に影響されずそのまま偏波グリッド9を通過し放射されるが、偏波グリッド9に平行な偏波成分は、図8に示すように、直接、偏波グリッド9を通過する直接通過波と、一旦、偏波グリッド9で反射した後、再度、スロット板4等で反射して偏波グリッド9を通過する反射波が、丁度、同振幅逆位相となり、打ち消しあうため、放射されないからである。
【0021】
そのため、スロット板4と偏波グリッド9の間隔は、約1/4λg(λg=λ/√εr、λ:自由空間波長、εr:誘電体2cの比誘電率)に設定し、偏波グリッド9の間隔Sgと太さWgも偏波グリッド9に水平な偏波成分が、通過するものと反射するもので丁度同じくらいの大きさになるように、適切に設定する必要がある。
【0022】
さらに具体的な実施例として、本発明にかかる、図3のような無給電素子付きトリプレート型平面アンテナの構成で、500素子のアレーアンテナを試作したので説明する。
【0023】
本アンテナでは、偏波面を垂直偏波から10.8度傾けるために、偏波グリッド9を用いた。まず初めに、偏波グリッド9無しの状態で、アンテナ回路基板3、無給電基板10、スロット板4等の設計をし、それに、スロット板4から、約1/4λg(=約6mm)の高さに、誘電体2cを介して、偏波グリッド基板8を設けた。
【0024】
ここで、偏波グリッド9の傾き角θは、10.8度とし、図7に示したグリッド寸法Sg、Wgは、実験的に調整して、最適値を求めた。
【0025】
上記のようなアンテナを用いて、偏波グリッド基板8を取り付けた場合と取り付けない場合の正面利得(図9)、指向性(図10)、交差偏波識別度(図11)、VSWR(図12)を比較した。
【0026】
正面利得は、偏波グリッド9あり、なしにかかわらず、ほぼ同じである。偏波グリッド9が、交差偏波を抑圧するためだけに働いているとすれば、偏波グリッド9をつけると、cos(10.8度)=0.155dB程度、利得が低下するはずであるが、両者がほぼ一致していることから、偏波グリッド9により、偏波面が回転していることがわかる。
【0027】
また、指向性、VSWRは、ほとんど変化がなく、偏波グリッド9をおいても、アンテナ回路基板3、無給電基板10、スロット板4の変更は、全く必要ないこともわかる。図6のような、グレーティングローブもほとんど出ていない。
【0028】
さらに、交差偏波識別度に関しては、偏波グリッドを取り付けたことにより、大幅に向上している。図5の従来例のように、素子を回転して偏波を回転するより、大幅に簡単であるにもかかわらず、非常に良好な特性が得られた。
【0029】
本発明によれば、前記のように、アンテナの性能をほとんど低下させることなく、容易に偏波面の制御を行うことが可能になり、また、交差偏波識別度特性においては、偏波面制御をしない場合よりも向上するのである。
【0030】
本発明は、図1、図2に示すように、地導体1の面上に、誘電体2aを介して、放射素子5と給電線路6を形成したアンテナ回路基板3を設置し、さらにその面上に誘電体2bを介して、電波放射のためのスロット開口7を有するスロット板4を、各スロット開口7が放射素子5の真上に来るように設置したトリプレート型平面アンテナにおいて、配列基準方向に対して所定の角度θ(0<θ≦45度)だけ傾斜した偏波グリッド9を形成した偏波グリッド基板8を、誘電体2cを介してスロット板4の面上全体に渡り設けることを特徴としている。
【0031】
また本発明は、図3に示すように、スロット板4の上部に誘電体2dを介して、無給電素子11を形成した無給電基板10を、無給電素子11が放射素子5及びスロット開口7の真上に来るように設置した、無給電素子付きトリプレート型平面アンテナにおいて、配列に対して所定の角度θ(0<θ≦45度)だけ傾斜した偏波グリッド9を形成した偏波グリッド基板8を、誘電体2cを介して無給電基板10の面上全体に渡り設けることを特徴としている。
【0032】
本実施例では偏波グリッド9の傾きの一例として10.8度としたが、実用に際して様々な傾きを要するものであり、この角度に限定するものではない。
【符号の説明】
【0033】
1…地導体、
2a,2b,2c,2d…誘電体、
3…アンテナ回路基板、
4…スロット板、
5…放射素子、
6…給電線路、
7…スロット開口、
8…偏波グリッド基板、
9…偏波グリッド、
10…無給電基板、
11…無給電素子。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリプレート型平面アンテナにおいて、
第1の誘電体上に、放射素子と給電線路を形成したアンテナ回路基板を設置し、
第2の誘電体上に、電波放射を目的とするスロット開口を有するスロット板を設置し、
前記第2の誘電体の下方に前記アンテナ回路基板を重ねる際に、前記スロット開口が前記放射素子の真上になるように配置するものであって、
第3の誘電体上に、前記放射素子及び前記スロット開口の配列の基準方向に対して、角度θだけ傾斜した偏波グリッドを形成した偏波グリッド基板を設置し、前記スロット板の上部に前記第3の誘電体を配置することを特徴とするトリプレート型平面アンテナ。
【請求項2】
請求項1に示すトリプレート型平面アンテナにおいて、
第4の誘電体上に、無給電素子を形成した無給電基板を設置し、
前記第4の誘電体の下方に前記スロット板を重ねる際に、前記無給電素子が前記放射素子及び前記スロット開口の真上になるように配置するものであって、
前記第3の誘電体上に、前記放射素子及びスロット開口の配列の基準方向に対して、角度θだけ傾斜した偏波グリッドを形成した偏波グリッド基板を設置し、前記無給電基板の上部に前記第3の誘電体を配置することを特徴とするトリプレート型平面アンテナ。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれか一項に示す角度θは、0度より大きく、かつ、45度以下であることを特徴とするトリプレート型平面アンテナ。
【請求項1】
トリプレート型平面アンテナにおいて、
第1の誘電体上に、放射素子と給電線路を形成したアンテナ回路基板を設置し、
第2の誘電体上に、電波放射を目的とするスロット開口を有するスロット板を設置し、
前記第2の誘電体の下方に前記アンテナ回路基板を重ねる際に、前記スロット開口が前記放射素子の真上になるように配置するものであって、
第3の誘電体上に、前記放射素子及び前記スロット開口の配列の基準方向に対して、角度θだけ傾斜した偏波グリッドを形成した偏波グリッド基板を設置し、前記スロット板の上部に前記第3の誘電体を配置することを特徴とするトリプレート型平面アンテナ。
【請求項2】
請求項1に示すトリプレート型平面アンテナにおいて、
第4の誘電体上に、無給電素子を形成した無給電基板を設置し、
前記第4の誘電体の下方に前記スロット板を重ねる際に、前記無給電素子が前記放射素子及び前記スロット開口の真上になるように配置するものであって、
前記第3の誘電体上に、前記放射素子及びスロット開口の配列の基準方向に対して、角度θだけ傾斜した偏波グリッドを形成した偏波グリッド基板を設置し、前記無給電基板の上部に前記第3の誘電体を配置することを特徴とするトリプレート型平面アンテナ。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれか一項に示す角度θは、0度より大きく、かつ、45度以下であることを特徴とするトリプレート型平面アンテナ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−142514(P2011−142514A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2233(P2010−2233)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】
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