説明

ネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源を使用して酸化物薄膜を形成する方法

処理チャンバ内の基板に対面するスパッタ・ターゲットの表面上に仕事関数還元剤を導入し、酸素ガスとインサート・ガスとを処理チャンバ内に供給し、酸素ガスと不活性ガスとをイオン化することによって複数の電子を生成し、スパッタ・ターゲットから複数の陰荷電イオンを解離させ、イオン化された酸素ガスで反応した陰荷電イオンから酸化物薄膜を基板上に形成する、酸化物薄膜の形成方法。本発明は、広い範囲での応用に適しているが、特に、高充填密度、高屈折率、低応力性、低表面粗度に関して、望ましい特質を持った酸化物薄膜を形成するのに適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は薄膜に関し、より具体的には、ネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源を使用して酸化物薄膜を形成する方法に関する。本発明は、広い範囲での応用に適しているが、特に、高充填密度、高屈折率、低応力性、低表面粗度に関して、望ましい特質を持った酸化物薄膜を形成するのに適している。
【背景技術】
【0002】
(従来技術の議論)
二酸化ケイ素(SiO)薄膜は、低誘電率、高透明度、高硬度、低屈曲率であるため、光学、電子工学、摩擦学等に広く利用されてきた。酸化チタン(TiO)や酸化タンタル(Ta)のような他の酸化物薄膜もまた、上記の応用に採用されてきた。
【0003】
分子線エピタキシ(MBE)、高周波(RF)マグネトロン・スパッタ法、プラズマ化学気相成長法(PECVD)、反応性パルス・レーザー蒸着法(RPLD)、イオン・ビーム・アシスト蒸着法(IBAD)を利用した高品質の酸化物薄膜を形成する為の幾つかの蒸着方法が試みられた。
【0004】
これらの洗練された蒸着技術の発展にもかかわらず、酸化物薄膜の蒸着には解決されるべき問題が幾つか存在する。例えば、酸化物薄膜のエージング効果は、特にプラズマ表示パネル(PDP)・フィルタまたは高密度波長多重(DWDM)フィルタのような光学電子を応用する場合に重大な問題となる。厚さや屈曲率の過度な変更は、装置の誤作動を引き起こす原因となる。
【0005】
100層よりも多くの多層コーティングを有したDWDMフィルタの場合、エージングは、製品の安定した作用に影響を及ぼす主な問題となる。蒸着後の膜の屈曲率と厚さの変更を最小限に留めるには、蒸着薄膜が高密度である必要がある。高密度の膜を作る最も効率的な方法の1つは、イオン・ビーム関連蒸着技術として知られている。吸着原子の過度な表面移動によって、表面上のターゲット粒子のエネルギー性衝撃が、薄膜の密度を高めることを可能とする。また粒子は表面にさらなるエネルギーを与え、最終的に薄膜の充填密度を高める。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
従って、本発明は、従来技術の制限や欠点による1つ以上の問題を充分に回避するネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム(NSIB)源を利用した、酸化物薄膜の形成方法を示すものである。
【0007】
本発明の他の目的は、充填密度、屈曲率、応力、表面粗度の特性を高める、ネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源を利用した、酸化物薄膜の形成方法を提供することである。
【0008】
さらに、本発明の特徴と利点は、下記の説明に示され、一部はその説明から明らかになるか、本発明を実施することによって学習することが出来る。本発明の目的と他の利点は、特に添付の図面と同様、ここに記載する説明文と請求の範囲に特に指摘された構成によって実現し、達成する。
【0009】
本発明の目的に沿って、これらおよび他の利益を得るために、実施例を用い広範に説明したように、酸化物薄膜の形成方法は、処理チャンバ中の基板に対面するスパッタ・ターゲットの表面に仕事関数還元剤を導入し、酸素ガスと不活性ガスとを処理チャンバ内に供給し、酸素ガスと不活性ガスとをイオン化することによって、複数の電子を生成し、スパッタ・ターゲットより複数の陰荷電イオンを解離させ、イオン化された酸素ガスで反応した陰荷電イオンから酸化物薄膜を基板上に形成する。
【0010】
本発明の他の態様において、マグネトロン・スパッタ・システムを利用した酸化物薄膜を形成する方法は、基板表面を清浄化するために処理チャンバ中の基板を事前にスパッタリングし、基底圧力を維持するために処理チャンバを排気し、基板に対面するスパッタ・ターゲットの表面に仕事関数還元剤を導入し、酸素ガスと不活性ガスとを処理チャンバ内に供給し、処理チャンバの処理圧力を維持し、酸素ガスと不活性ガスとをイオン化することによって、複数の電子を生成し、スパッタ・ターゲットの表面近隣に電子を閉じ込め、スパッタ・ターゲットより複数の陰荷電イオンを解離させ、イオン化された酸素ガスで反応した陰荷電イオンから酸化物薄膜を基板上に形成する。
【0011】
前述の一般的な説明と以下の詳細な説明は、両方とも典型的な説明であり、本発明における請求範囲の追加説明であると理解されるべきである。
【0012】
添付図面は、本発明の理解を深めるものであり、本発明に組み込まれて、本発明の一部を構成し、そして本発明の実施例を説明するものであり、説明文と対で本発明の原理を説明する役割を果たす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(図示された実施例の詳細な説明)
ここで、図示した本発明の実施例について詳細に言及し、添付図面を用いて例を説明する。可能な限り同じ符合は、全図面を通して同じまたは類似部品に使用する。
【0014】
本発明において、ネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム(NSIB)源が利用され、二酸化ケイ素(SiO)、酸化チタン(TiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ニオブ(Nb)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化タンタル(Ta)のような酸化物薄膜を形成する。NSIB源は、セシウム処理されたターゲットの表面上の陰イオンを利用する。セシウム処理済表面上の陰イオンの生成は、米国特許第5,466,941号に開示され、この文献全体はここに引用される。充填密度、表面形状、ウエット・エッチ率、透過率のような、NSIB源で形成された酸化物薄膜の詳細な特徴は、本発明で議論される。
【0015】
図1は、本発明に基づく様々な酸化物薄膜を形成するために用いる処理チャンバの概略図である。
【0016】
図1に示されるように、処理チャンバ10は、クライオ・ポンプ11と、熱電対真空計12と、イオン・ゲージ13と、サンプル移動システム14と、基板15と、基板保持材16と、ネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源17と、アルゴンと酸素用のマス・フロー・コントローラ(MFC)18と、仕切弁19と、スパッタ・ターゲット20と、セシウム・インジェクタ21とより構成可能である。
【0017】
より詳細には、クライオ・ポンプ11(CTI低温学)は、処理チャンバ10に取り付けられているので、チャンバ基底圧力が約10−7〜10−6トルで維持される。チャンバ基底圧力は、熱電対真空計12とイオン・ゲージ13とを利用して監視される。通常のアルゴン・プラズマの作用圧力は、10−4と10−2トルの範囲である。酸素供給は、マス・フロー・コントローラ(MFC)18を利用して独立して制御される。
【0018】
ターゲット表面より陰イオンを生成するために、8インチ・マグネトロン・スパッタ型陰イオン・ビーム源が、処理チャンバ10の底部に配置される。例えば、基板15上に二酸化ケイ素薄膜を形成するために、直径8インチ、厚さ0.25インチ、99.999%のPタイプ・ドープ・シリコン・ターゲットが、ターゲットとして利用可能である。
【0019】
線運動装置を持つ基板保持材16は、ターゲットと物質との距離を調整可能である。シリコン・ウェハまたはガラス基板は、異なった用途によっては基板15として利用可能である。蒸着時、例えば8インチ手動式の仕切弁19は、処理圧力を制御するために、クライオ・ポンプ11と処理チャンバ10との間に位置する。スパッタ・ターゲット20の仕事関数を減らすためには、セシウム(Cs)、ルビジウム(Rb)、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、リチウム(Li)等の仕事関数還元剤をセシウム・インジェクタ21からスパッタ・ターゲット20の表面に注入する。
【0020】
その後、酸素ガスとアルゴンのような不活性ガスとが、処理チャンバ10に導かれる。酸素ガスと不活性ガスをイオン化するにあたって、ストレートDCと、パルスDCと、RF電源といった電圧が、スパッタ・ターゲット20に供給可能である。例えば、印加される電圧が、約100〜1000Vの範囲に出来る。
【0021】
スパッタ・ターゲット20上の仕事関数還元剤のおかげで、複数の陰荷電イオンが、スパッタ・ターゲット20から解離され、基板15方向に移動する。陰荷電イオンは、イオン化された酸素ガスと反応するので、基板15上に酸化物薄膜を形成する。ターゲットの材料によって、例えば二酸化ケイ素(SiO)、酸化チタン(TiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ニオブ(Nb)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化タンタル(Ta)等の様々な酸化物薄膜が、上述の方法(即ちNSIB源)を利用して得られる。
【0022】
蒸着の前に、各基板が300eVのアルゴン・イオンで約3分間事前にスパッタされることが可能である。NSIB源に供給するDCパルス電源は、電源として利用可能である。基板は、電源の約40kHzで準備可能である。上述の実験状態が二酸化ケイ素の形成に利用出来るが、これらの状態はまた他の酸化物薄膜にも適用可能である。
【0023】
蒸着酸化物薄膜は、コンピュータ・インターフェイス分光計を利用することによって、屈曲率(n)、吸光係数(k)、厚さ(t)等の様々な特質に関して計測される。酸化物薄膜のn値とk値とは、632.8nmの波長で測定される。酸化物薄膜の透過率は、UV分光計を利用して測定される。本発明で示す透過率データは、酸化物薄膜無しの基板に対する相対透過率である。
【0024】
n値と、k値と、t値は、1ヶ月間24時間毎に測定される。実験におけるエラーを最小限なものにするため、各サンプルの6つの異なった部分が測定され、n値、k値、t値に関する平均が求められる。測定エラーを回避するために、各測定部分の裏側がマーキングされ、測定が繰り返される。透過率は、ガラス基板サンプル上で測定される。
【0025】
原子間力顕微鏡(AFM)が利用されて表面形状データを取得する。2μm×2μmの領域がタッピング・モードで走査される。表面粗度は、平均粗度Rで決定される。
【0026】
図2は、本発明のネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源を利用して形成されたSiO薄膜の透過率プロットを示すグラフを表している。
【0027】
図2に示されるように、ここでの測定は、ネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源を利用して形成されたSiO薄膜が、可視波長領域において約92%より上の透過率を持つことを示す。特に低出力で形成された薄膜は高透過率を示す。透過率は1ヶ月後には1.0%を下回ってしか変化しない。従って、酸化物薄膜における透過率のエージング効果は顕著なものでは無い。
【0028】
図3A〜3Cは、様々な出力状態でのガラス基板上のSiO薄膜のAFM画像である。各AFM画像は、与えられた出力に依存して、酸化物薄膜の表面形状が異なる状態を示す。高出力状況では、高エネルギー・イオン衝撃が、吸着原子に高表面移動を起こすので表面が平滑化する。
【0029】
SiO薄膜のウエット・エッチ率は、薄膜の密度を調べるために利用される。高密度の膜ほど高充填密度であるため、低エッチ率の傾向を示す。図6に示されるように、ウエット・エッチ率は、セシウムの流量率による。高温では、セシウム・インジェクタ21は、高セシウム流量率を作り出し、SiO薄膜のウエット・エッチ率を低下させる利点を提供する。従って、本発明におけるセシウムの供給を利用することによって、高密度な酸化物薄膜が蒸着する。
【0030】
図4Aは、従来のマグネトロン・スパッタ法を利用してガラス基板上に形成された、SiO薄膜の原子間力顕微鏡(AFM)の画像であり、図4Bは、本発明によるネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源を利用してガラス基板上に形成された、SiO薄膜の原子間力顕微鏡(AFM)の画像である。図4Aと4Bに示されるように、図4BのAFM画像は、図4AのAFM画像よりも平滑であることを示している。これは、本発明におけるNSIB源がもたらす高エネルギー・イオン衝突と吸着原子の高表面移動のためである。
【0031】
図5A〜5Cは、夫々約50,150,250℃の異なったセシウム・インジェクタ温度で、ネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源を利用して、シリコン(Si)基板上に形成された、SiO薄膜の走査型電子顕微鏡(SEM)の画像である。250℃の最高温度状態では、膜表面は平滑なだけで無く、高充填度であるのは、高温度状態が、セシウム注入によるスパッタ・ターゲット20からの陰イオン生成に関して、より効果的なためである。
【0032】
図6は、異なったセシウム(Cs)の源温度のネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源を利用して形成された、SiO薄膜のエッチ率の変化を表すグラフを示す。SiO薄膜のウエット・エッチ率は、薄膜密度を検査するのに用いられる。図6に示されるように、低セシウム温度でのSiO薄膜のエッチ量は、規定期間中約350〜400Åの範囲である。セシウム・インジェクタ温度が約200℃より高くなると、薄膜のエッチ率が低くなり、薄膜が高密度であることを示唆している。
【0033】
図7Aと7Bは、夫々が、従来のスパッタリング方法によって形成されたSiO薄膜の屈曲率と、本発明によるネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源によって形成されたSiO薄膜の屈曲率とに、異なった傾向があることを表す長時間経過した後のグラフを示す。図7Aと7Bに示されるように、従来のスパッタリング方法によって形成された酸化物薄膜は、長時間経過した後、屈曲率の大きな変化に見舞われる。一方、本発明における方法で形成された酸化物薄膜は、相当な時間経過後でも一定の屈曲率を示す。
【0034】
図8は、従来技術の方法で形成されたSiO薄膜の屈曲率と、本発明による方法で形成されたSiO薄膜の屈曲率との比較を図示したものである。屈曲率の変化は、632.8nmの波長に関して測定される。
【0035】
一般的に、SiOのような酸化物薄膜は、蒸着完了後にエージング効果の影響を受ける。蒸着完了後の薄膜の屈曲率および厚さの変化を最小化するためには、高密度のフィルムであることが望ましい。上述のように、高密度の薄膜は、本発明の陰イオン源を利用することによって形成される。
【0036】
酸素分圧は、SiO蒸着工程において1つの重要な要因である。図9は、異なった酸素分圧状態下でのSiO薄膜のエージング効果を表すグラフを示す。
【0037】
図9は、様々な酸素分圧に関して、異なった出力状態でのネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源によって形成された、SiO薄膜のエージング効果を表すグラフを示す。
【0038】
図9に示されたように、酸素分圧は、アルゴン・ガスの供給に対する酸素ガスの割合で表されている。酸素分圧が上昇すると(即ち10%〜15%および20%)、SiO薄膜の屈曲率は低下する。イオン・ビーム蒸着工程は、高酸化状態と高充填密度とを導くことが知られている。SiO膜の吸光係数は、光学被膜に用いられるのに充分小さい(即ちk<3×10−3)。また、酸素分圧が上昇すると、蒸着率の減少が観測される。
【0039】
出力の依存性もまた、高出力レジーム、中出力レジーム、低出力レジームの3つの異なる出力レジームで調査される。NSIB源において、基板での粒子の運動エネルギーは、カソード電圧の作用である。処理圧力が蒸着工程全体を通して同様に10−4〜10−2トルに留まるので、高出力状態であるほど高イオン・ビーム・エネルギー状態であると考えられる。圧力が無衝突移動を提供するのに充分な程低い場合、最も起こりうる陰イオン到達エネルギーは、カソード電圧と定義可能である。
【0040】
図10Aは、屈曲率(n)に関するSiO薄膜のエージング効果を表すグラフを示す。図10Bは、厚さ変化に関するSiO薄膜のエージング効果を表すグラフを示す。
【0041】
図10Aと10Bに示されるように、屈曲率の変化は、異なった出力レジームでプロットされる。屈曲率の変化は、低蒸着率のため、低出力レジームにおいて3つの状態中最も小さい。
【0042】
屈曲率は、高表面移動によって、ある波長で温度と共に上昇する傾向にあることが報告されている。粒子のエネルギー性衝撃で、同様の結果が得られる。異なった出力設定とは関係なく、屈曲率の変化は、蒸着5日後よりも最初の5日の方が顕著に現れる。厚さの変化も同様の傾向にある。
【0043】
図10Aと10Bにおいて、両方のプロットは、期間全体を通しての最大ポイントと最小ポイントとの間の変動を表している。変動の振幅は時間で減少する。屈曲率の全体の変化において、低出力状態が、他の状態より安定している。厚さ変化の場合、高パワー状態が、他の状態より安定している。データに示されたように、エージング効果は、酸化物薄膜の蒸着率に関連している。
【0044】
図11Aと11Bは、夫々が本発明のNSIB源によって形成されたSiO薄膜の反射率データの1ヶ月間の計算値と測定値の比較を表したグラフを示し、図11Aが1日目で、11Bが30日目を示すグラフである。グラフに示されるように、1日目と30日目との間の変化はあまりない。また測定データは殆ど計算データと同じである。
【0045】
図12は、供給されたカソード電圧の作用としてSiO薄膜の蒸着率を表すグラフを示す。約1Kwでの蒸着率は、ほぼ7Å/秒である。
【0046】
上記データの傾向を以下のように説明可能である。酸化物薄膜の密度に直接関連する多孔率は、反射率プロットのパターンを通じて予想が可能である。反射率データからの薄膜の多孔率は、異なった波長レジームで検査可能である。
【0047】
上記の図面に示されるように、計算値と測定値との間の一致性が高い程、高密度なSiO薄膜であることを示す。一方、2つの値の一致性が低い程、より多孔な膜であることを示す。図11Aと11Bは、1ヶ月経過後のSiO2薄膜の多孔率データを示す。そのデータは、本測定で利用された薄膜が、1ヶ月後に高密度状態を保っていることを示す。
【0048】
蒸着率は、他の説明に利用可能である。本発明に採用された陰イオン源は、ターゲット表面上のCs層による表面イオン化をベースにしている。従って、産業レベルの高蒸着率状態において、Cs蒸気流量率が重要な役割を果たす。
【0049】
図13Aと13Bは、本発明によるネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源によって形成された、酸化チタン(TiO)薄膜の透過率、屈曲率、吸光係数を表すグラフを示す。
【0050】
高屈曲率を持つ酸化チタン薄膜は、殆どの応用に望ましい。通常、屈曲率は、高表面移動によって、ある波長で温度と共に上昇する。本発明におけるネガティブ・スパッタ・イオン・ビームで達成する粒子のエネルギー性衝撃は、結果として同様の表面移動をもたらす可能性がある。図13Aと13Bに示されるように、酸化チタン薄膜は、高屈曲率(即ちn>2.6)であり、低吸収係数(即ちk<0.0005)で、他の方法では絶対に得られない。
【0051】
上述のように、NSIB源を利用して蒸着された酸化物薄膜は、低表面粗度、低ウエット・エッチ率、長時間後の最小屈曲率変化等の望ましい特質を有している。酸化物薄膜の特質は、イオン・ビーム・エネルギーと酸素分圧に依存する。しかし、酸化物薄膜の屈曲率と厚さの変化は、比較的一定である。1ヶ月間を通しての屈曲率の変化は、屈曲率の値とは関係なく、殆どの場合2%よりも小さい。従来の工程において、蒸着5日後の変化は5%よりも大きい。エージング効果は、高蒸着率薄膜においてより激しいものである。
【0052】
本発明において、酸化物薄膜の特質はまた、異なった蒸着状態で調査される。総合結果は、望ましい酸化物薄膜が、高蒸着率状態でもCs流量率を制御することによって蒸着されることを示している。また、酸化物薄膜の特質は、陰イオンエネルギーの変化で変わる。これは、太陽電池等の幾つかの応用においての利点となり、そこでは粗面が平滑面よりも望ましい。
【0053】
本発明のネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源を利用した酸化物薄膜の形成方法には、発明の精神と範囲を逸脱すること無く、様々な修正や変更が可能であることが当業者にとって自明である。従って、これらの修正や変更が、添付の請求の範囲とその同等の範囲内である場合、本発明はこれらを含むように意図している。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、本発明による様々な酸化物薄膜を形成するのに用いる処理チャンバの概略図である。
【図2】図2は、本発明によるネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源を利用して形成した、二酸化ケイ素(SiO)薄膜の透過率のプロットを示すグラフを示している。
【図3A】図3Aは、本発明によるネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源を利用してガラス基板上に形成した、SiO薄膜の低出力での原子間力顕微鏡(AFM)の画像である。
【図3B】図3Bは、本発明によるネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源を利用してガラス基板上に形成した、SiO薄膜の中出力での原子間力顕微鏡(AFM)の画像である。
【図3C】図3Cは、本発明によるネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源を利用してガラス基板上に形成した、SiO薄膜の高出力での原子間力顕微鏡(AFM)の画像である。
【図4A】図4Aは、従来のマグネトロン・スパッタ方法を利用してガラス基板上に形成した、SiO薄膜の原子間力顕微鏡(AFM)の画像である。
【図4B】図4Bは、本発明によるネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源を利用してガラス基板上に形成した、SiO薄膜の原子間力顕微鏡(AFM)の画像である。
【図5A】図5Aは、本発明によるネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源を利用してシリコン(Si)基板上に形成した、SiO薄膜の走査型電子顕微鏡(SEM)の画像である。
【図5B】図5Bは、本発明によるネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源を利用してシリコン(Si)基板上に形成した、SiO薄膜の走査型電子顕微鏡(SEM)の画像である。
【図5C】図5Cは、本発明によるネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源を利用してシリコン(Si)基板上に形成した、SiO薄膜の走査型電子顕微鏡(SEM)の画像である。
【図6】図6は、異なったセシウム(Cs)の源温度でネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源を利用して形成した、SiO薄膜のエッチ率の変化を表すグラフを示す。
【図7A】図7Aは、従来の方法によって形成された、長時間経過後のSiO薄膜の屈曲率の急激な変化を表すグラフを示す。
【図7B】図7Bは、本発明によるネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源によって形成された、長時間経過後のSiO薄膜の屈曲率の一貫性を表すグラフ示す。
【図8】図8は、本発明によるネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源によって形成されたSiO薄膜と、従来のスパッタによって形成されたSiO薄膜の、長時間経過後の屈曲率の比較を表すグラフを示す。
【図9】図9は、様々な酸素分圧に関し、異なった出力状態下で、ネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源によって形成された、SiO薄膜のエージング効果を表すグラフを示す。
【図10A】図10Aは、屈曲率(n)に関し、異なった出力状態下で、ネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源によって形成された、SiO薄膜のエージング効果を表すグラフを示す。
【図10B】図10Bは、様々な厚さに関し、異なった出力状態下で、ネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源によって形成された、SiO薄膜のエージング効果を表すグラフを示す。
【図11A】図11Aは、夫々が、ネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源によって形成された、SiO薄膜の反射率データの1ヶ月間の計算値と測定値との比較を示し、図11Aが1日目で、11Bが30日目を示すグラフである。
【図11B】図11Bは、夫々が、ネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源によって形成された、SiO薄膜の反射率データの1ヶ月間の計算値と測定値との比較を示し、図11Aが1日目で、11Bが30日目を示すグラフである。
【図12】図12は、印加されるカソード電圧の作用として、ネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源によって形成された、SiO薄膜の蒸着率を表すグラフを示す。
【図13A】図13Aは、本発明によるネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源によって形成された酸化チタン(TiO)薄膜の透過率、屈曲率、吸光係数を表すグラフを示す。
【図13B】図13Bは、本発明によるネガティブ・スパッタ・イオン・ビーム源によって形成された酸化チタン(TiO)薄膜の透過率、屈曲率、吸光係数を表すグラフを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物薄膜の形成方法であって、
仕事関数還元剤を処理チャンバ中の基板に対面するスパッタ・ターゲットの表面に導入する工程、
酸素ガスおよび不活性ガスを該処理チャンバに供給する工程、
該酸素ガスおよび該不活性ガスをイオン化することによって複数の電子を生成する工程、
該スパッタ・ターゲットから複数の陰荷電イオンを解離させる工程、ならびに
イオン化酸素ガスと反応した陰荷電イオンから、該基板上に該酸化物薄膜を形成する工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記酸化物薄膜が、二酸化ケイ素(SiO)、酸化チタン(TiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ニオブ(Nb)、酸化ハフニウム(HfO)、および酸化タンタル(Ta)のうちの1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸化チタンは、約2.60より高い屈曲率を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸化チタンは、約0.0005未満の低い吸収係数を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記仕事関数還元剤は、セシウム、ルビジウム、カリウム、ナトリウム、およびリチウムのうちの1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記スパッタ・ターゲットにストレートDC、パルスDC、RF電源のうちの1つの電圧が印加される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記スパッタ・ターゲットに印加される電圧が、約100〜1000ボルトの範囲である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記基板が、前記スパッタ・ターゲットに対して接地されるかバイアスされるかのいずれかである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記基板が、約25〜100℃の範囲の温度に維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記処理チャンバは、約10−4〜10−2トルの範囲の処理圧力を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記複数の陰荷電イオンの解離前に、前記スパッタ・ターゲットの表面の近隣に電子を閉じ込める工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
マグネトロン・スパッタ・システムを使用した、酸化物薄膜の形成方法であって、
処理チャンバ中の基板を事前スパッタリングして、該基板の表面を清浄化する工程、
該処理チャンバを排気して基底圧力を維持する工程、
仕事関数還元剤を該基板に対面するスパッタ・ターゲットの表面に導入する工程、
酸素ガスおよび不活性ガスを該処理チャンバに供給する工程、
該処理チャンバの処理圧力を維持する工程、
該酸素ガスおよび不活性ガスをイオン化することによって複数の電子を生成する工程、
該スパッタ・ターゲットの表面近隣に電子を閉じ込める工程、
該スパッタ・ターゲットから該複数の陰荷電イオンを解離させる工程、
該イオン化酸素ガスと反応した陰荷電イオンから該基板上に該酸化物薄膜を形成する工程、
を包含する、方法。
【請求項13】
酸化物薄膜が、二酸化ケイ素(SiO)、酸化チタン(TiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ニオブ(Nb)、酸化ハフニウム(HfO)、および酸化タンタル(Ta)のうちの1つを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記酸化チタンは、約2.60より高い屈曲率を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記酸化チタンは、約0.0005未満の低い吸収係数を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記仕事関数還元剤は、セシウム、ルビジウム、カリウム、ナトリウム、およびリチウムのうちの1つを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記スパッタ・ターゲットにストレートDC、パルスDC、およびRF電源のうちの1つの電圧が印加される、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記スパッタ・ターゲットに印加される電圧が、約100〜1000ボルトの範囲である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記基板が、前記スパッタ・ターゲットに対して接地されるかバイアスされるかのいずれかである、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記基板が、約25〜100℃の温度範囲に維持される、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
前記処理圧力が、約10−4〜10−2トルの範囲である、請求項12に記載の方法。
【請求項22】
前記基底圧力は、約10−7〜10−6トルの範囲である、請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【公表番号】特表2006−507411(P2006−507411A)
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−555480(P2004−555480)
【出願日】平成15年11月18日(2003.11.18)
【国際出願番号】PCT/US2003/036791
【国際公開番号】WO2004/049397
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【出願人】(501439301)プラスミオン・コーポレイション (1)
【氏名又は名称原語表記】PLASMION CORPORATION
【Fターム(参考)】