説明

ネガ型平版印刷版原版

【課題】露光部における指紋部の画像抜けや、空気中の水分、塩(Nacl)などによる画像故障が改善された平版印刷版原版を提供する。
【解決手段】支持体上に、(A)光又は熱により分解して酸を発生する化合物、(B)酸により架橋する架橋剤、(C)バインダーポリマー、(D)赤外線吸収剤、及び(E)(a)側鎖にフッ素原子の数が9以上のフルオロアルキル基等含有置換基を有する(メタ)アクリレート(1)と、(b)下記一般式(2)で示される側鎖に、カルボキシル基含有の炭素数3〜30の脂肪族環状構造を有する(メタ)アクリレート(2)と、を共重合成分として有する高分子化合物、を含有する画像記録層を有するネガ型平版印刷版原版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネガ型平版印刷版原版に関し、より詳細には、コンピュータ等のデジタル信号から赤外線レーザを用い直接製版できる、いわゆるダイレクト製版可能なネガ型平版印刷版原版に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンピュータのデジタルデータから直接製版するシステムは種々検討されており、中でもレーザを用い露光する技術が、近年におけるレーザの発展に伴い注目されている。特に、波長760nmから1200nmの赤外線を放射する固体レーザ及び半導体レーザとしては、高出力かつ小型のものが容易に入手できるようになっている。コンピュータ等のデジタルデータから直接製版する際の記録光源として、これらの赤外線レーザは非常に有用である。しかし、実用上有用な多くの感光性記録材料は、感光波長が760nm以下の可視光域であるため、これらの赤外線レーザでは画像記録できない。このため、赤外線レーザで記録可能な材料が望まれている。
【0003】
このような赤外線レーザにて記録可能な平版印刷版原版として、赤外線レーザの露光により発熱する赤外線吸収剤と、熱により分解して酸を発生する酸発生剤と、酸により架橋する架橋剤とを含有する、いわゆる酸架橋型のネガ型画像記録層を有する平版印刷版原版が知られている。このような平版印刷版原版の画像形成機構は、赤外線レーザ照射領域において赤外線吸収剤が発熱し、熱により酸が発生して架橋剤の架橋反応を生起、進行させ、露光領域を硬化させて画像部を形成するものである。酸架橋型のネガ型画像記録層を有する平版印刷版原版は、酸素による重合阻害の懸念がないため、画像記録層表面に保護層を設ける必要がないことから層構成が簡易であり、また現像性に優れるという利点をも有する。
【0004】
このような平版印刷版原版を製版するに際しては、画像部の硬化を促進させ、耐刷性を確保するために、現像前にプレヒート処理を行うことが一般的である。プレヒート処理により、画像部の架橋密度が向上し、耐刷性に優れた画像が形成される。
【0005】
酸架橋型のネガ型画像形成機構を有する材料としては、架橋剤としてレゾール樹脂を用い、ノボラック樹脂と酸発生剤と赤外線色素を含有する画像記録材料が知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、保存時の経時安定性を目的として、特定構造のポリマー、2つ以上のヒドロキシメチル基又はアルコキシメチル基を有し、ベンゼン核を3〜5個有し、分子量1200以下の架橋剤、等の成分を用いた酸架橋型のネガ型画像記録材料が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,372,907号明細書
【特許文献2】米国特許第6,403,283号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、酸架橋系のネガ型画像記録層を有する平版印刷版原版においては、画像記録層表面に、例えば、手指が接触したり、水道水などの水分が付着することにより、画像故障が発生するという問題がある。本発明者の検討によれば、その原因の一つは、手指との接触などにより、酸架橋反応の阻害要因となる塩分などの原因物質が画像記録層表面に付着し、この原因物質が画像記録層内部に浸透することに起因して、光照射又は加熱により生起されるべき酸架橋反応の進行が抑制されるためであると推測される。
【0008】
本発明は、上記の状況を考慮してなされたものであり、以下の目的を達成することを課題する。
即ち、本発明の目的は、画像記録層表面から内部に酸架橋反応の阻害要因となる原因物質が浸透することに起因する画像故障の発生が抑制されたネガ型平版印刷版原版を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を有する高分子化合物を画像記録層に含有させることで、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
<1>支持体上に、(A)光又は熱により分解して酸を発生する化合物、(B)酸により架橋する架橋剤、(C)バインダーポリマー、(D)赤外線吸収剤、及び(E)(a)下記一般式(1)で示されるモノマーと、(b)下記一般式(2)で示されるモノマーと、を共重合成分として有する高分子化合物(以下、適宜「特定高分子化合物」と称する。)、を含有する画像記録層を有するネガ型平版印刷版原版。
【0011】
【化1】

【0012】
一般式(1)中、Rfはフッ素原子の数が9以上のフルオロアルキル基又はパーフルオロアルキル基を含む置換基を表し、xは1又は2を表し、R1は水素原子又はメチル基を表す。
【0013】
【化2】

【0014】
一般式(2)中、R21は水素原子またはメチル基を表し、R22は炭素数3〜30の脂肪族環状構造を有する2価の炭化水素基を表す。Aは酸素原子、または−NR23−表し、R23は水素原子または炭素数1〜10の一価の炭化水素基を表す。nは1〜5の整数を表す。
【0015】
本発明における画像記録層の如く、光又は熱により酸を発生する化合物(以下、適宜「酸発生剤」と称する。)、酸により架橋する架橋剤(発生した酸により架橋する化合物)、バインダーポリマー、及び赤外線吸収剤を含有する酸架橋型のネガ型画像記録層では、光照射又は加熱により、酸発生剤が分解することで発生した酸が、架橋剤に作用し、架橋剤同士或いは架橋剤とバインダーポリマーとの間で強固な架橋構造が形成されて硬化し、平版印刷版の画像部が形成される。
【0016】
本発明の作用は明確ではないが、以下のように推定している。
前述のごとく、このような酸架橋型のネガ型画像記録層の表面に、手指などが接触したり、水道水などの水分が付着すると、これに伴い塩分(NaCl等)が画像記録層の表面に付着し、さらに画像記録層の内部に浸透し、これが画像故障の原因の一つとなっていると推測される。より詳細には、画像記録層の表面から内部に浸透した塩分(NaCl)は、酸発生剤から発生した酸(例えば、スルホン酸、HPFなど)を、塩交換により塩酸に変化させてしまうものと考えられ、このようして生じた塩酸が揮発により画像記録層から失われることで、酸架橋反応に寄与する酸の量が減少してしまう。酸の量が減少した領域では、酸架橋反応が充分に進行しないことから、画像故障が生じてしまうものと推測される。
【0017】
本発明において、画像記録層が含有する特定高分子化合物は、画像記録層の表面に偏在化しており、かつ、(a)一般式(1)で示されるモノマー、及び(b)一般式(2)で示されるモノマーに由来する部分構造は、塩分などの画像故障の原因物質が画像記録層の表面から内部へ浸透することを防止する機能を発揮する。このため、未硬化の画像記録層表面に、手指などが接触して塩分などの画像故障の原因物質が付着した場合でも、当該原因物質が画像記録層内部に浸透することが効果的に防止されることから、画像形成時の酸架橋反応が充分に進行するものと考えられる。
【0018】
また、特定高分子化合物は、一般式(2)におけるカルボン酸基を有するモノマーに由来する部分構造の機能に起因して、親水性に優れているとものと推測される。このため、画像記録後の現像時において、未硬化部(非画像部)が過剰のアルカリ現像液中に浸漬されると、特定高分子化合物自体が有する現像液に対する優れた溶解/分散性が発現されて、非画像部は親水性のバインダーポリマーや低分子量の架橋剤とともに速やかに現像除去されるため、非画像部の現像性は低下することがない。
さらに、本発明における画像記録層が形成する硬化部(画像部)は、耐現像性に優れたものである。これは、特定高分子化合物にける(a)一般式(1)で示されるモノマーに由来する部分構造の機能に起因して、画像記録後の現像時において、硬化部(画像部)への現像液の浸透が抑制されるためと推測される。
従って、本発明の平版印刷版原版は、現像ラチチュードに優れ、画像形成性にも優れるという副次的効果をも有するものと考えられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、画像記録層表面から内部に酸架橋反応の阻害要因となる原因物質が浸透することに起因する画像故障の発生が抑制されたネガ型平版印刷版原版を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のネガ型平版印刷版原版について詳細に説明する。
本発明のネガ型平版印刷版原版は、支持体上に、(A)光又は熱により分解して酸を発生する化合物、(B)酸により架橋する架橋剤、(C)バインダーポリマー、(D)赤外線吸収剤、及び(E)(a)下記一般式(1)で示されるモノマーと、(b)下記一般式(2)で示されるモノマーと、を共重合成分として有する高分子化合物(特定高分子化合物)、を含有する画像記録層を有することを特徴とする。
【0021】
【化3】

【0022】
一般式(1)中、Rfはフッ素原子の数が9以上のフルオロアルキル基又はパーフルオロアルキル基を含む置換基を表し、xは1又は2を表し、R1は水素原子又はメチル基を表す。
【0023】
【化4】

【0024】
一般式(2)中、R21は水素原子またはメチル基を表し、R22は炭素数3〜30の脂肪族環状構造を有する2価の炭化水素基を表す。Aは酸素原子、または−NR23−表し、R23は水素原子または炭素数1〜10の一価の炭化水素基を表す。nは1〜5の整数を表す。
【0025】
[画像記録層]
本発明における画像記録層は、(A)光又は熱により分解して酸を発生する化合物、(B)酸により架橋する架橋剤、(C)バインダーポリマー、(D)赤外線吸収剤、及び(E)(a)下記一般式(1)で示されるモノマーと、(b)下記一般式(2)で示されるモノマーと、を共重合成分として有する高分子化合物、を含有する層である。
【0026】
以下、画像記録層が含有する必須成分及び所望により含有されるその他の成分について、詳細に説明する。
【0027】
〔(a)一般式(1)で示されるモノマーと、(b)一般式(2)で示されるモノマーと、を共重合成分として有する高分子化合物〕
(a)一般式(1)で示されるフッ素含有モノマー、及び、(b)一般式(2)で示されるカルボン酸の近傍に脂肪族環状構造を有するモノマーについて詳細に説明する。
本発明において共重合成分(a)として使用されるフッ素含有モノマーは、下記一般式(1)で表される。
【0028】
【化5】

【0029】
一般式(1)中、Rfはフッ素原子の数が9以上のフルオロアルキル基又はパーフルオロアルキル基を含む置換基を表し、xは1又は2を表し、R1は水素原子又はメチル基を表す。
【0030】
一般式(1)で示されるモノマーとしては、具体的には、以下に示すフルオロアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
CH2=CRCO2(CH2mn2n+1
(mは1または2を、nは4〜12の整数を示す。また、Rは水素原子又はメチル基を示す。)
CH2=CRCO2(CH2m(CF2n'
(mは1または2、n’は5〜12の整数を示す。またRは水素原子又はメチル基を示す)
【0031】
ここで、Rfで表されるフルオロアルキル基又はパーフルオロアルキル基が有するフッ素原子の数が9以上であることによって、膜厚方向にフッ素原子の濃度分布を持った画像記録層が形成され、この濃度分布としては、画像記録層表面近傍のフッ素濃度が高く、画像記録層の深部方向のフッ素濃度が低くなるという現象が生じる。なかでも、特に、一般式(1)で示されるモノマーに由来する1ユニットあたりのフッ素原子の数が9〜30のものが好ましく、より好ましくは13〜25である。この範囲において、特定高分子化合物を画像記録層表面に配向させる効果が良好に発現すると共に、画像部の優れた耐現像性が得られる。また、得られた画像部の着肉性にも優れたものとなる。
【0032】
また、特定高分子化合物に含まれるフッ素原子含有量は、特定高分子化合物の画像記録層表面での配向性向上及び耐現像性向上効果とのバランスといった観点からは、5mmol/g〜30mmol/gのものが好ましく、8mmol/g〜25mmol/gの範囲のものがより好ましい。従って、特定高分子化合物は、このフッ素原子含有量となるように、一般式(1)で示されるモノマーを共重合成分とすることが好ましい。
【0033】
本発明において共重合成分(b)として使用されるカルボキシル基含有モノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、または下記一般式(2)で表されるものが好ましく用いられ、下記一般式(2)で表されるモノマーが特に好ましい。
【0034】
【化6】

【0035】
一般式(2)中、R21は水素原子またはメチル基を表し、R22は炭素数3〜30の脂肪族環状構造を有する2価の炭化水素基を表す。Aは酸素原子、または−NR23−表し、R23は水素原子または炭素数1〜10の一価の炭化水素基を表す。nは1〜5の整数を表す。
一般式(2)におけるR21は水素原子又はメチル基を表し、特にメチル基が好ましい。
一般式(2)におけるR22で表される連結基は、炭素数3〜30の脂肪族環状構造を有する2価の炭化水素基を表すが、炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子からなる群より選択される2以上の原子から構成され、その原子数が3〜300であり、好ましくは3〜100である。ここで示す原子数は、当該連結基が置換基を有する場合には、その置換基を含めた原子数を指す。
この中でも、一般式(2)におけるR22で表される連結基は、炭素原子数3から30までの脂肪族環状構造を有する(n+1)価の炭化水素基であることが好ましい。より具体的には、任意の置換基によって一個以上置換されていてもよいシクロプロパン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロデカン、ジシクロヘキシル、ターシクロヘキシル、ノルボルナン、デカヒドロナフタレン、パーヒドロフルオレン、トリシクロ[5.2.1.02.6]デカン、アダマンタン、クアドリシクラン、コングレッサン、キュバン、スピロ[4.4]オクタン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロデセン、シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエン、シクロオクタジエン、シクロヘプタトリエン、シクロデカトリエン、シクロオクタテトラエン、ノルボルニレン、オクタヒドロナフタレン、ビシクロ[2.2.1]ヘプタジエン、ビシクロ[4.3.0]ノナジエン、ジシクロペンタジエン、ヘキサヒドロアントラセン、スピロ[4.5]デカジエン等の脂肪族環状構造を有する化合物を構成する任意の炭素原子上の水素原子を(n+1)個除き、(n+1)価の炭化水素基としたものを挙げることができる。
【0036】
(b)一般式(2)で示されるモノマー中、R22で表される脂肪族環状構造により、親水性のカルボキシル基が立体的に保護されることにより、(E)特定高分子化合物からなる皮膜の表面親水性が低下する。脂肪族環状構造は、芳香族環状行動に比較して立体的な構造をとるため、カルボキシル基と環構造との距離がより近づき効果的な遮蔽機能を発現するものと考えられる。また現像液に浸漬することで未露光部では、(b)一般式(2)で示されるモノマー中のカルボン酸基による優れた溶解/分散性が発現される。
【0037】
22で表される脂肪族環状構造を有する2価の炭化水素基に導入可能な置換基としては、水素を除く1価の非金属原子団を挙げることができ、ハロゲン原子(−F、−Br、−Cl、−I)、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アミノ基、N−アルキルアミノ基、N,N−ジアルキルアミノ基、N−アリールアミノ基、N,N−ジアリールアミノ基、N−アルキル−N−アリールアミノ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、N−アルキルカルバモイルオキシ基、N−アリールカルバモイルオキシ基、N,N−ジアルキルカルバモイルオキシ基、N,N−ジアリールカルバモイルオキシ基、N−アルキル−N−アリールカルバモイルオキシ基、アルキルスルホキシ基、アリールスルホキシ基、アシルチオ基、アシルアミノ基、N−アルキルアシルアミノ基、N−アリールアシルアミノ基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。
ハロゲン原子や、炭化水素基(アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基)、アルコキシ基、アリーロキシ基などの疎水性置換基は、耐刷を向上する傾向にあるのでより好ましい。これら置換基は可能であるならば、置換基同士、又は置換している炭化水素基と結合して環を形成してもよく、置換基は更に置換されていてもよい。
【0038】
一般式(2)におけるAがNR23−である場合のR23は、水素原子又は炭素数1〜10の一価の炭化水素基を表す。このR23で表される炭素数1〜10までの一価の炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられる。
アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1−アダマンチル基、2−ノルボルニル基等の炭素数1〜10までの直鎖状、分枝状、又は環状のアルキル基が挙げられる。
【0039】
アリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、インデニル基等の炭素数1〜10までのアリール基、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群から選ばれるヘテロ原子を1個含有する炭素数1〜10までのヘテロアリール基、例えば、フリル基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基、キノリル基等が挙げられる。
【0040】
アルケニル基の具体例としては、ビニル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、1−メチル−1−プロペニル基、1−シクロペンテニル基、1−シクロヘキセニル基等の炭素数1〜10までの直鎖状、分枝状、又は環状のアルケニル基が挙げられる。
【0041】
アルキニル基の具体例としては、エチニル基、1−プロピニル基、1−ブチニル基、1−オクチニル基等の炭素数1〜10までのアルキニル基が挙げられる。R23が有してもよい置換基としては、R22が導入し得る置換基として挙げたものと同様である。但し、R23の炭素数は、置換基の炭素数を含めて1〜10である。
【0042】
一般式(2)におけるAは、合成が容易であることから、酸素原子又は−NH−であることが好ましい。
また一般式(2)におけるnは1〜5の整数を表すが、耐刷性の点で好ましくは1である。
【0043】
以下に、一般式(2)で表されるモノマーに由来する繰り返し単位の好ましい具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
【化7】

【0045】
一般式(2)で表されるモノマーに由来する繰り返し単位は、ポリマー中に1種類のみ含まれてもよいし、2種類以上含まれていてもよい。本発明のポリマーにおける一般式(2)で表されるモノマー由来の繰り返し単位の総含有量は、その構造や、画像記録層の設計等によって適宜決められるが、好ましくは(E)特定高分子化合物成分の総モル量に対し、0.1から99モル%、より好ましくは1から80モル%、さらに好ましくは5から60モル%の範囲で含有される。
ポリマー当たりの酸価は、0.01〜3.0mmol/gが好ましく、0.1〜2.5mmol/gがより好ましく、更に好ましくは0.2〜2.0mmol/gがである。
【0046】
本発明の(E)特定高分子化合物においては、前記(a)、(b)2種のモノマーに由来する構造単位の他、本発明の効果を損なわない範囲において、塗布性向上など種々の目的で、他のモノマーを共重合させてもよい。
ここで併用可能な他のモノマーとしては、例えば、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、ビニルエステル類、スチレン類、アクリロニトリル、無水マレイン酸、マレイン酸イミド等の公知のモノマーが挙げられる。
【0047】
前記アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、ビニルエステル類、スチレン類としては、例えば、特開2006−1067233号公報の段落番号〔0026〕〜〔0030〕に記載のものが挙げられる。
これらのモノマーの中でも、炭素数20以下のアクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、ビニルエステル類、スチレン類、アクリロニトリルが好ましい。
【0048】
また、本発明の平版印刷版原版における画像記録層には、前記(E)特定高分子化合物は1種のみ含まれてもよく、2種以上の混合物であってもよい。また、本発明の効果を損なわない限りにおいては、本発明の特定高分子化合物に、本発明の範囲外のフッ素含有高分子化合物を1種以上併用して、混合物として用いてもよい。
併用されるフッ素含有高分子化合物は、本発明に係る(E)特定高分子化合物の総重量に対し0.01〜300重量%、好ましくは0.1〜250重量%、更に好ましくは1〜200重量%の範囲で用いられる。併用できるフッ素含有高分子化合物としては、市販のものを制限なく使用でき、具体的には、本業界においてよく使用されるフッ素系界面活性剤や、特開2002−311577、特開2002−72474、特開2004−101893の各公報に記載のフッ素系ポリマーが好ましく用いられる。
【0049】
本発明における(E)特定高分子化合物の重量平均分子量は、画像記録層における表面偏在性、現像性の観点から適宜決定される。好ましい分子量としては、被膜特性、現像性向上効果と、ハンドリング性、溶剤溶解性、塗布の際の均一性とのバランスといった観点からは、1,000〜1,000,000、より好ましくは2,000〜500,000、更に好ましくは3,000〜300,000の範囲である。
また、本発明に係る(E)特定高分子化合物は、線状であっても、枝分かれしていても、ブロック構造を有していてもかまわない。
【0050】
本発明の(E)特定高分子化合物における上記一般式(1)で表されるモノマーに由来する繰り返し単位の含有量は、総繰り返し単位を100とした場合、そのうちの5〜95であり、好ましくは10〜90であり、より好ましくは15〜80である。
また本発明の(E)特定高分子化合物における上記一般式(2)で表されるモノマーに由来する繰り返し単位の含有量は、総繰り返し単位を100とした場合、そのうちの5〜95であり、好ましくは10〜90であり、より好ましくは15〜80である。
【0051】
以下に、本発明において好適な(E)特定高分子化合物〔(P−1)〜(P−21)〕の構造を、その重量平均分子量(Mw)とともに例示するが本発明はこれらに制限されるものではない。
【0052】
【化8】

【0053】
【化9】

【0054】
【化10】

【0055】
【化11】

【0056】
【化12】

【0057】
画像記録層中における本発明に係る(E)特定高分子化合物の含有量は、適宜決めることができるが、画像記録層中の不揮発性成分の総重量に対し、通常0.0001〜20質量%で含まれることが好ましく、より好ましくは0.001〜15質量%、更に好ましくは0.01〜10質量%の範囲である。
【0058】
<(A)光又は熱により分解して酸を発生する化合物>
本発明において光又は熱により分解して酸を発生する化合物(以下、適宜、酸発生剤と称する)とは、200〜500nmの波長の光照射又は100℃以上の加熱により酸を発生する化合物を指す。本発明において好適に用いられる酸発生剤としては、光カチオン重合の光開始剤、光ラジカル重合の光開始剤、色素類の光消色剤、光変色剤、あるいはマイクロレジスト等に使用されている公知の酸発生剤等、公知の、熱分解して酸を発生する化合物、及びそれらの混合物を適宜に選択して使用することができる。
このような光酸発生剤としては、例えば、特開2003−260881号公報段落番号0056〜0062に記載の化合物などが挙げられる。
【0059】
酸発生剤としては、ハロゲン化物やスルホン酸などを対イオンとするオニウム塩が好ましく、該オニウム塩としては、例えば、ヨードニウム塩、ジアゾニウム塩、スルホニウム塩が挙げられる。本発明において好適に用いられるオニウム塩の例としては、下記一般式(II)で表されるヨードニウム塩、一般式(III)で表されるスルホニウム塩、及び一般式(IV)で表されるジアゾニウム塩が挙げられる。このようなオニウム塩の中でも、酸発生剤としては、ジアゾニウム塩が特に好ましい。
【0060】
【化13】

【0061】
一般式(II)〜(IV)中、Xは、ハロゲン化物イオン、ClO、PF、SbF、BF、又はR−SOを表し、ここで、Rは置換基を有していてもよい炭素数20以下の炭化水素基を表す。Ar11及びAr12は、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数20以下のアリール基を表す。R11、R12、及びR13は、置換基を有していてもよい炭素数18以下の炭化水素基を表す。
【0062】
一般式(II)〜(IV)において、Xとしては、R−SO3が特に好ましい。R7 としては置換基を有していてもよい炭素数20以下の炭化水素基を示し、Rで表される炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、アリル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ドデシル基等のアルキル基;ビニル基、1−メチルビニル基、2−フェニルビニル基等のアルケニル基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ドデシルフェニル基、フェニルフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等のアリール基が挙げられる。
【0063】
7で表される炭化水素基は、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリルオキシ基、ニトロ基、シアノ基、カルボニル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アニリノ基、アセトアミド基等の置換基を有していてもよい。置換基を有する炭化水素基の具体例としては、トリフルオロメチル基、2−メトキシエチル基、10−カンファーニル基、フルオロフェニル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基、ヨードフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、フェノキシフェニル基、ニトロフェニル基、シアノフェニル基、カルボキシフェニル基、メトキシナフチル基、ジメトキシアントラセニル基、ジエトキシアントラセニル基、アントラキノニル基、等が挙げられる。
【0064】
Ar11及びAr12は、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数20以下のアリール基を表し、具体的には、フェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ドデシルフェニル基、フェニルフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フルオロフェニル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基、ヨードフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、フェノキシフェニル基、ニトロフェニル基、シアノフェニル基、カルボキシフェニル基、アニリノフェニル基、アニリノカルボニルフェニル基、モルホリノフェニル基、フェニルアゾフェニル基、メトキシナフチル基、ヒドロキシナフチル基、ニトロナフチル基、アントラキノニル基等が挙げられる。
【0065】
11、R12、及びR13は、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数18以下の炭化水素基を表し、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、アリル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、t−ブチルフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、等の炭化水素基、2−メトキシエチル基、フルオロフェニル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基、ヨードフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、フェニルチオフェニル基、ヒドロキシナフチル基、メトキシナフチル基、ベンゾイルメチル基、ナフトイルメチル基、等置換基を有する炭化水素基が挙げられる。また、R11とR12とが互いに結合し環を形成していてもよい。
【0066】
酸発生剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
酸発生剤は、画像記録層の全固形分に対して、好ましくは0.01〜50質量%、より好ましくは0.1〜25質量%、さらに好ましくは0.5〜20質量%の割合で画像記録層中に含有される。添加量が上記範囲において、良好な画像形成性が得られ、非画像部の汚れの発生も抑制しうる。
【0067】
<(B)酸により架橋する架橋剤>
本発明に用いることのできる(B)酸により架橋する架橋剤(以下、適宜、「酸架橋剤」又は単に「架橋剤」と称する)ついて説明する。架橋剤は、単独で使用してもよく、また2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明に好ましく用いられる架橋剤としては、以下に示す(i)〜(iv)の架橋剤が挙げられる。
(i)アルコキシメチル基又はヒドロキシメチル基で置換された芳香族化合物
(ii)N−ヒドロキシメチル基、N−アルコキシメチル基又はN−アシルオキシメチル基を有する化合物
(iii)エポキシ化合物
(iv)一般式(5)で表されるフェノール誘導体として後述する化合物
【0068】
これらについて詳細に説明する。
<(i)アルコキシメチル基又はヒドロキシメチル基で置換された芳香族化合物>
(i)アルコキシメチル基又はヒドロキシメチル基で置換された芳香族化合物としては、例えば、ヒドロキシメチル基、アセトキシメチル基、又はアルコキシメチル基でポリ置換されている芳香族化合物及び複素環化合物が挙げられる。
【0069】
ヒドロキシメチル基又はアルコキシメチル基でポリ置換された芳香族化合物及び複素環化合物のなかでは、ヒドロキシ基に隣接する位置にヒドロキシメチル基又はアルコキシメチル基を有する化合物を好ましい例として挙げることができる。アルコキシメチル基の場合はアルコキシメチル基が炭素数18以下の化合物であることが好ましい。特に好ましい例として下記一般式(1)〜(4)で表される化合物を挙げることができる。
【0070】
【化14】

【0071】
【化15】

【0072】
一般式(1)〜(4)中、L〜Lは、それぞれ独立に、メトキシメチル、エトキシメチル等のように炭素数18以下のアルコキシ基で置換されたヒドロキシメチル基又はアルコキシメチル基を示す。
【0073】
上記一般式(1)〜(4)で表される化合物は、架橋効率が高く、耐刷性を向上させることができる点で好ましい。これらの架橋剤は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0074】
<(ii)N−ヒドロキシメチル基、N−アルコキシメチル基又はN−アシルオキシメチル基を有する化合物>
(ii)N−ヒドロキシメチル基、N−アルコキシメチル基又はN−アシルオキシメチル基を有する化合物としては、欧州特許(以下、EP−Aと記載する)第0,133,216号明細書、西独国特許第3,634,671号明細書、同第3,711,264号明細書に開示された単量体及びオリゴマー、メラミン−ホルムアルデヒド縮合物並びに尿素−ホルムアルデヒド縮合物、EP−A第0,212,482号明細書に開示されたアルコキシ置換化合物等が挙げられる。さらに好ましい例としては、例えば、少なくとも2個の遊離N−ヒドロキシメチル基、N−アルコキシメチル基又はN−アシルオキシメチル基を有するメラミン−ホルムアルデヒド誘導体が挙げられ、中でもN−アルコキシメチル誘導体が特に好ましい。
【0075】
<(iii)エポキシ化合物>
(iii)エポキシ化合物としては、一つ以上のエポキシ基を含む、モノマー、ダイマー、オリゴマー、ポリマー状のエポキシ化合物を挙げることができる。例えば、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応生成物、低分子量フェノール−ホルムアルデヒド樹脂とエピクロルヒドリンとの反応生成物等が挙げられる。その他、米国特許第4,026,705号明細書、英国特許第1,539,192号明細書に記載され、使用されているエポキシ樹脂を挙げることができる。
【0076】
架橋剤として、上記(i)〜(iii)に示す架橋剤を用いる場合、画像記録層中における含有量としては、画像記録層全固形分に対し、好ましくは5〜80質量%、より好ましくは10〜75質量%、更に好ましくは20〜70質量%の範囲である。架橋剤の添加量が上記範囲において、画像記録層の耐久性と保存時の安定性が良好となり好ましい。
【0077】
<(iv)一般式(5)で表されるフェノール誘導体>
本発明における架橋剤としては、下記一般式(5)で表されるフェノール誘導体も好ましい。
【0078】
【化16】

【0079】
一般式(5)中、Arは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環を示す。原料の入手性から、芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環又はアントラセン環が好ましい。また、好ましい置換基としては、ハロゲン原子、炭素数12個以下の炭化水素基、炭素数12個以下のアルコキシ基、炭素数12個以下のアルキルチオ基、シアノ基、ニトロ基、又はトリフルオロメチル基等が挙げられる。感度が高いという理由で、Arとしては、置換基を有していないベンゼン環若しくはナフタレン環、又は、ハロゲン原子、炭素数6個以下の炭化水素基、炭素数6個以下のアルコキシ基、炭素数6個以下のアルキルチオ基若しくはニトロ基等を置換基として有するベンゼン環又はナフタレン環が特に好ましい。
【0080】
一般式(5)中、R及びRは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子又は炭素数12個以下の炭化水素基を示す。合成が容易であるという理由から、R及びRは、水素原子又はメチル基であることが好ましい。
【0081】
一般式(5)中、Rは、水素原子又は炭素数12個以下の炭化水素基を示す。感度が高いという理由で、Rは、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、シクロヘキシル基、又はベンジル基等の炭素数7個以下の炭化水素基であることが好ましい。
【0082】
一般式(5)中、mは、2〜4の整数を示し、2であることが好ましい。
一般式(5)中、nは、1〜3の整数を示し、1であることが好ましい。
【0083】
上記一般式(5)で表されるフェノール誘導体は、特開平11−254850号公報に記載の方法に準じて合成することができる。
【0084】
本発明において、架橋剤として、一般式(5)で表されるフェノール誘導体を用いる場合、画像記録層中における含有量としては、画像記録層全固形分中、5〜70質量%、好ましくは10〜50質量%の添加量で用いることができる。
【0085】
<(C)バインダーポリマー>
本発明の画像記録層は、膜性向上の観点から、(C)バインダーポリマーを含有する。
バインダーポリマーとしてはアルカリ可溶性樹脂であることが好ましく、該アルカリ可溶性樹脂としては、ノボラック樹脂や側鎖にヒドロキシアリール基を有するポリマーなどが挙げられる。
【0086】
本発明においてアルカリ可溶性樹脂として使用しうるノボラック樹脂は、フェノール類とアルデヒド類を酸性条件下で縮合させた樹脂である。
好ましいノボラック樹脂としては、例えばフェノールとホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂、m−クレゾールとホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂、p−クレゾールとホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂、o−クレゾールとホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂、オクチルフェノールとホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂、m−/p−混合クレゾールとホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂、フェノール/クレゾール(m−,p−,o−又はm−/p−,m−/o−,o−/p−混合のいずれでもよい)の混合物とホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂などが挙げられる。
これらのノボラック樹脂は、重量平均分子量が800〜200,000で、数平均分子量が400〜60,000のものが好ましい。
【0087】
また、アルカリ可溶性樹脂としては、側鎖にヒドロキシアリール基を有するポリマーも好ましく挙げることができる。このポリマーにおいて、ヒドロキシアリール基とは、−OH基が1個以上結合したアリール基を示す。アリール基としては例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、又はフェナントレニル基等を挙げることができるが、入手の容易さ及び物性の観点から、フェニル基又はナフチル基が好ましい。従って、ヒドロキシアリール基としては、ヒドロキシフェニル基、ジヒドロキシフェニル基、トリヒドロキシフェニル基、テトラヒドロキシフェニル基、ヒドロキシナフチル基、又はジヒドロキシナフチル基等が好ましい。これらのヒドロキシアリール基は、さらに、ハロゲン原子、炭素数20個以下の炭化水素基、炭素数20個以下のアルコキシ基及び炭素数20個以下のアリールオキシ基等の置換基を有していてもよい。また、ヒドロキシアリール基が、ポリマーの側鎖としてペンダント状にポリマー主鎖へ結合している場合には、主鎖とヒドロキシアリール基との間に連結基を有していてもよい。
【0088】
側鎖にヒドロキシアリール基を有するポリマー(以下、適宜「ヒドロキシアリール基含有ポリマー」と略称する。)の例としては、下記一般式(G−1)〜(G−4)で表される構成単位のいずれかのみからなるポリマー、又はこれらの構成単位から選択される2以上含むポリマーが挙げられる。
【0089】
【化17】

【0090】
一般式(G−1)〜(G−4)中、R11は水素原子又はメチル基を示す。R12及びR13は、同じでも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数10個以下の炭化水素基、炭素数10個以下のアルコキシ基又は、炭素数10個以下のアリールオキシ基を示す。また、R12とR13が結合して、縮環したベンゼン環やシクロヘキサン環を形成していてもよい。R14は、単結合又は、炭素数20個以下の2価の炭化水素基を示す。R15は、単結合又は、炭素数20個以下の2価の炭化水素基を示す。R16は、単結合又は、炭素数10個以下の2価の炭化水素基を示す。Xは、単結合、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合又はアミド結合を示す。pは1〜4の整数を示す。q及びrはそれぞれ独立に0〜3の整数を示す。
【0091】
一般式(G−1)〜(G−4)で表される構成単位のうち、本発明において好適に用いられる具体的な構成単位の例は、特開2001−142230号公報の段落番号0130〜0146に記載の構成単位が挙げられる。また、これらのポリマーは、従来公知の方法により合成することができ、特開2001−142230号公報の段落番号0147〜0151に記載の合成方法が用いられる。
【0092】
ヒドロキシアリール基含有ポリマーは、一般式(G−1)〜(G−4)で表される構成単位から選択される構成単位のみから成るポリマーであってもよく、他の構成単位を更に含むものであってもよい。ヒドロキシアリール基含有ポリマーに、好適に用いられる他の構成単位としては、例えば、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、ビニルエステル類、スチレン類、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、無水マレイン酸、マレイン酸イミド等の公知のモノマーより導入される構成単位が挙げられる。これらのモノマーのうち、好適に用いられる具体的なモノマーの例としては、特開2001−142230号公報の段落番号0152〜0160に記載の化合物が挙げられる。さらに、これらのモノマーのうち特に好適に使用されるのは、炭素数20以下のアクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、ビニルエステル類、スチレン類及び、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリルである。
【0093】
ヒドロキシアリール基含有ポリマー中に含まれる一般式(G−1)〜(G−4)で表される構成単位の割合は、5〜100質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜100質量%である。
【0094】
本発明で使用されるポリマーの分子量は好ましくは重量平均分子量で4000以上であり、より好ましくは1万〜30万の範囲である。数平均分子量で好ましくは1000以上であり、より好ましくは2000〜25万の範囲である。多分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は1以上が好ましく、より好ましくは1.1〜10の範囲である。
【0095】
本発明で使用されるバインダーポリマーは1種類のみで使用してもよいし、あるいは2種類以上を組み合わせて使用してもよい。バインダーポリマーの含有量は、画像記録層の耐久性の観点から、画像記録層の全固形分中、5〜95質量%が好ましく、より好ましくは10〜95質量%、さらに好ましくは20〜90質量%である。
【0096】
<(D)赤外線吸収剤>
本発明に係る画像記録層は、赤外線吸収剤を含有する。
本発明における赤外線吸収剤は、波長760nmから1200nmの赤外線を有効に吸収する染料又は顔料である。本発明に用いることができる赤外線吸収剤は、特に制限はなく公知の赤外線吸収剤を用いることができるが、赤外線吸収剤として好ましくは、波長760nmから1200nmに吸収極大を有する染料又は顔料である。
【0097】
染料としては、市販の染料及び文献(例えば「染料便覧」有機合成化学協会編集、昭和45年刊)に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体などの染料が挙げられる。
【0098】
また、赤外線吸収剤の好ましい他の例としては、以下に例示するような特開2002−278057号公報記載の特定インドレニンシアニン色素が挙げられる。
【0099】
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、ニッケルチオレート錯体、インドレニンシアニン色素が挙げられる。更に、シアニン色素やインドレニンシアニン色素が好ましい。特に下記一般式(a)で示されるシアニン色素は、本発明における記録層中で使用した場合に、高い重合活性を与え、且つ、安定性、経済性に優れるため最も好ましい。
【0100】
【化18】

【0101】
一般式(a)中、X1は、水素原子、ハロゲン原子、−NPh2、X2−L1又は以下に示す基を表す。ここで、X2は酸素原子、窒素原子又は硫黄原子を表し、L1は、炭素原子数1〜12の炭化水素基、ヘテロ原子を有する芳香族環、又は、ヘテロ原子を含む炭素原子数1〜12の炭化水素基を表す。なお、ここでヘテロ原子とは、N、S、O、ハロゲン原子、Seを示す。Xa-は後述するZa-と同様に定義され、Raは、水素原子、アルキル基、アリール基、置換又は無置換のアミノ基、およびハロゲン原子より選択される置換基を表す。なお、Phはフェニル基を表す。
【0102】
【化19】

【0103】
1及びR2はそれぞれ独立に、炭素原子数1〜12の炭化水素基を表す。画像記録層塗布液の保存安定性から、R1及びR2は、炭素原子数2個以上の炭化水素基であることが好ましく、さらに、R1とR2とは互いに結合し、5員環又は6員環を形成していることが特に好ましい。
【0104】
Ar1及びAr2はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。好ましい芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。また、好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下の炭化水素基、ハロゲン原子、又は炭素原子数12個以下のアルコキシ基が挙げられる。
1及びY2は、それぞれ独立に、硫黄原子又は炭素原子数12個以下のジアルキルメチレン基を表す。
【0105】
3及びR4はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下の炭化水素基を表す。好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、カルボキシル基、スルホ基が挙げられる。
5、R6、R7及びR8は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数12個以下の炭化水素基を示す。原料の入手性から、好ましくは水素原子である。
【0106】
また、Za-は、対アニオンを表す。ただし、一般式(a)で表されるシアニン色素が、その構造内にアニオン性の置換基を有し、電荷の中和が必要ない場合にはZa-は必要ない。好ましいZa-は、画像記録層塗布液の保存安定性から、ハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン又はスルホン酸イオンであり、より好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン又はアリールスルホン酸イオンである。
なお、対イオンとして、ハロゲン化物イオンを含有してないものが特に好ましい。
【0107】
これらの赤外線吸収剤の画像記録層中の含有量は、画像記録層全固形分に対し、好ましくは0.01〜50質量%、より好ましくは0.1〜10質量%である。
なお赤外線吸収として染料を適用する場合であれば、特に好ましくは0.5〜10質量%、また、顔料を適用する場合であれば、特に好ましくは1.0〜10質量%の割合で画像記録層中に添加することができる。
顔料もしくは染料の添加量が上記範囲において、高感度で画像形成しうると共に、非画像部における汚れの発生が効果的に抑制される。
【0108】
<その他の成分>
本発明では、上記(A)〜(E)の必須の成分に加え、必要に応じて種々の化合物を任意成分として画像記録層に添加してもよい。
そのような任意成分としては、例えば、可視光域に大きな吸収を持つ染料を画像の着色剤として使用することができる。
【0109】
具体的には、特開昭62−293247号公報、特開2001−142230号公報の段落番号0294に記載されている染料を挙げることができる。これらの染料は、画像形成後、画像部と非画像部の区別がつきやすいので、添加する方が好ましい。尚、添加量は、画像記録層全固形分に対し、0.01〜10質量%の割合である。
【0110】
また、本発明における画像記録層中には、現像条件に対する処理の安定性を広げるため、特開昭62−251740号公報や特開平3−208514号公報に記載されているような非イオン界面活性剤、特開昭59−121044号公報、特開平4−13149号公報に記載されているような両性界面活性剤を添加することができる。非イオン界面活性剤の具体例としては、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタントリオレート、ステアリン酸モノグリセリド、又はポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等が挙げられる。両性界面活性剤の具体例としては、アルキルジ(アミノエチル)グリシン、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、2−アルキル−N−カルボキシエチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、又はN−テトラデシル−N,N−ベタイン型(例えば、商品名アモーゲンK、第一工業(株)製)等が挙げられる。
上記非イオン界面活性剤および両性界面活性剤の画像記録層全固形分中に占める割合は、0.05〜15質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜5質量%である。
【0111】
更に本発明における画像記録層中には必要に応じ、塗膜の柔軟性等を付与するために可塑剤が加えられる。例えば、ポリエチレングリコール、クエン酸トリブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、オレイン酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸またはメタクリル酸のオリゴマーおよびポリマー等が用いられる。これら以外にも、エポキシ化合物、ビニルエーテル類等を添加してもよい。
【0112】
本発明の平版印刷版原版における画像記録層は、通常上記各成分を溶媒に溶かして、支持体上に塗布することにより形成することができる。
ここで使用する溶媒としては、特開2005−234443号公報の段落番号0134に記載のものが挙げられるが、これに限定されるものではない。これらの溶媒は単独あるいは混合して使用される。溶媒中の上記成分(添加剤を含む全固形分)の濃度は、好ましくは1〜50質量%である。
【0113】
塗布、乾燥後に得られる画像記録層の塗布量(固形分)としては、塗布量が少なくなるにつれて、見かけの感度は大きくなるが、画像記録層の皮膜特性は低下するため、感度と耐刷のバランスといった観点から、一般的には、0.5〜5.0g/m2 の範囲であることが好ましい。
塗布する方法としては、種々の方法を用いることができるが、例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、又はロール塗布等を挙げることができる。
【0114】
また、本発明における画像記録層中には、塗布性を良化するための界面活性剤、例えば特開昭62−170950号公報に記載されているようなフッ素系界面活性剤を添加することができる。好ましい添加量は、全画像記録層固形分中0.01〜1質量%、さらに好ましくは0.05〜0.5質量%である。
【0115】
[下塗り層]
本発明の平版印刷版原版は、上記した(A)〜(E)成分を含有する画像記録層を支持体上に形成する前に、必要に応じて、下塗り層を設けることができる。
下塗り層としては、ホスホン酸、リン酸、又はスルホン酸などの酸基を有する化合物を有する下塗り層が好ましく用いられる。これらの化合物は、画像記録層との密着性を向上させる為に、さらに重合性基を含有することが好ましい。さらにエチレンオキシド基などの親水性付与基を有する化合物も好適な化合物として挙げることができる。これらの化合物は低分子でも高分子ポリマーであってもよい。
【0116】
また特開平10−282679号公報に記載されている付加重合可能なエチレン性二重結合反応基を有しているシランカップリング剤、特開平2−304441号公報記載のエチレン性二重結合反応基を有しているリン化合物なども好適に挙げられる。また、下塗り層の具体例としては、特開2001−142230号公報の段落番号0311〜0318、特開2008−139813号公報の段落番号0272などに記載されているものを挙げることができる。
【0117】
下塗り層の塗布量(固形分)は、0.1〜100mg/m2であるのが好ましく、1〜30mg/m2であるのがより好ましい。
【0118】
[支持体]
本発明の平版印刷版原版に用いられる支持体は、特に限定されず、寸度的に安定な板状な親水性支持体であればよい。特に、アルミニウム板が好ましい。アルミニウム板を使用するに先立ち、粗面化処理、陽極酸化処理等の表面処理を施すのが好ましい。アルミニウム板表面の粗面化処理は、種々の方法により行われるが、例えば、機械的粗面化処理、電気化学的粗面化処理(電気化学的に表面を溶解させる粗面化処理)、化学的粗面化処理(化学的に表面を選択溶解させる粗面化処理)が挙げられる。これらの処理については、特開2008−213177号公報の段落番号〔0019〕〜〔0050〕、特開2008−139813号公報の段落番号〔0262〕〜〔0267〕に記載された方法を好ましく用いることができる。
【0119】
本発明に用いられるアルミニウム支持体の厚みは、およそ0.1mm〜0.6mm程度である。この厚みは印刷機の大きさ、印刷版の大きさおよびユーザーの希望により適宜変更することができる。
支持体は、中心線平均粗さが0.10〜1.2μmであるのが好ましい。この範囲内で、画像記録層との良好な密着性、良好な耐刷性と良好な汚れ難さが得られる。
また、支持体の色濃度としては、反射濃度値として0.15〜0.65であるのが好ましい。この範囲内で、画像露光時のハレーション防止による良好な画像形成性と現像後の良好な検版性が得られる。
支持体の厚さは0.1〜0.6mmであるのが好ましく、0.15〜0.4mmであるのがより好ましく、0.2〜0.3mmであるのが更に好ましい。
【0120】
本発明の平版印刷版原版においては、非画像部領域の親水性を向上させ印刷汚れを防止するために、支持体表面の親水化処理を行うことも好適である。
支持体表面の親水化処理としては、支持体をケイ酸ナトリウム等の水溶液に浸漬処理または電解処理するアルカリ金属シリケート処理、フッ化ジルコン酸カリウムで処理する方法、ポリビニルホスホン酸で処理する方法等が挙げられるが、ポリビニルホスホン酸水溶液に浸漬処理する方法が好ましく用いられる。また、特開2008−139813号公報の段落番号0268〜0271に記載の方法を好ましく用いることができる。
【0121】
<平版印刷版原版の製版>
以上のようにして得られた本発明の平版印刷版原版を、波長760nmから1200nmの赤外線を放射する固体レーザ及び半導体レーザにより画像露光することで、露光部を硬化させ、現像により非画像部を除去することで画像形成する。
本発明の平版印刷版原版を製版するに際しては、画像部の硬化性を向上させ、画像部と非画像部との現像性の差異を拡大する目的で、レーザ照射による露光工程と現像工程の間にプレヒート処理(加熱処理)を行う。
プレヒート処理における加熱条件は、80℃〜160℃の範囲内で10秒〜5分間行うことが好ましく、低温加熱としては、80℃〜135℃の範囲内で10秒〜5分間行うことがより好ましい。
【0122】
このとき、画像形成しうる最低温度と、残膜が発生する最低温度との差異を加熱ラチチュードと称し、この差異が15℃以上であることが、画像形成性、現像処理の安定性、保存性の観点から好ましいが、10℃以上であれば実用上問題のないレベルといえる。
【0123】
さらに本発明の平版印刷版原版の画像記録層は、加熱ラチチュードが良好であるために、低温加熱した場合でも、十分な画像部の強度向上効果が得られ、且つ、画像部と支持体との密着性が良好であるために、耐現像性、耐刷性に優れた画像が形成される。また、低温加熱を行うことで、非画像部の所望されない酸発生剤の分解も抑制され、非画像部に残膜が発生する懸念もない。
このため、プレヒート処理における温度条件の自由度が高いことを特徴とするものである。
このようなプレヒート処理により、レーザ照射時、記録に必要なレーザエネルギーを減少させることができる。
【0124】
プレヒート処理を行った後、本発明の平版印刷版原版はアルカリ性水溶液にて現像される。
本発明において現像工程に用いうる現像液および補充液としては従来公知のアルカリ性水溶液が使用できる。
そのようなアルカリ性水溶液としては、ケイ酸アルカリ又は非還元糖と、塩基とからなる現像液が挙げられ、特にpH12.5〜14.0のものが好ましい。該ケイ酸アルカリとしては、水に溶解したときにアルカリ性を示すものであり、例えばケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウムなどのアルカリ金属ケイ酸塩、ケイ酸アンモニウムなどが挙げられる。ケイ酸アルカリは、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0125】
アルカリ性水溶液は、ケイ酸塩の成分である酸化ケイ素SiOとアルカリ酸化物MO(Mはアルカリ金属又はアンモニウム基を表す。)との混合比率、及び濃度の調整により、現像性を容易に調節することができる。
前記アルカリ性水溶液の中でも、前記酸化ケイ素SiOとアルカリ酸化物MOとの混合比率(SiO/MO:モル比)が0.5〜3.0のものが好ましく、この範囲にあると、平版印刷版の支持体として汎用のアルミニウム板をエッチングすることが少なく、現像性が良好である。SiO/MO(モル比)はさらに好ましくは1.0〜2.0である。
【0126】
また、現像液中のケイ酸アルカリの濃度としては、良好な現像性及び処理能力並びに廃液処理の利便性から、アルカリ水溶液の質量に対して1〜10質量%が好ましく、3〜8質量%がより好ましく、4〜7質量%が最も好ましい。
【0127】
非還元糖と塩基とからなる現像液において、非還元糖とは遊離性のアルデヒド基やケトン基を持たないために還元性を有しない糖類を意味し、還元基同士の結合したトレハロース型少糖類、糖類の還元基と非糖類が結合した配糖体、糖類に水素添加して還元した糖アルコールに分類される。本発明ではこれらのいずれも好適に用いることができる。トレハロース型少糖類としては、例えばサッカロースやトレハロースが挙げられ、前記配糖体としては、例えばアルキル配糖体、フェノール配糖体、カラシ油配糖体などが挙げられる。
糖アルコールとしては、例えばD,L−アラビット、リビット、キシリット、D,L−ソルビット、D,L−マンニット、D,L−イジット、D,L−タリット、ズルシット、アロズルシット、メソイノシットなどが挙げられる。さらには、二糖類の水素添加で得られるマルチトール、オリゴ糖の水素添加で得られる還元体(還元水あめ)なども好適に挙げることができる。
【0128】
上記のうち、非還元糖としては、糖アルコール、サッカロースが好ましく、中でも特に、D−ソルビット、メソイノシット、サッカロース、還元水あめが適度なpH領域に緩衝作用がある点でより好ましい。
これらの非還元糖は単独でも、2種以上を組み合わせてもよく、現像液中に占める割合としては、0.1〜30質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましい。
【0129】
前記ケイ酸アルカリ又は非還元糖には、塩基としてアルカリ剤を従来公知の物の中から適宜選択して組み合わせることができる。該アルカリ剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸三アンモニウム、リン酸二ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸二アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウムなどの無機アルカリ剤、クエン酸カリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0130】
さらにモノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、n−ブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、エチレンイミン、エチレンジアミン、ピリジンなどの有機アルカリ剤も好適に挙げることができる。これらのアルカリ剤は単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。アルカリ剤としては、中でも水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。その理由は、非還元糖に対する添加量を調整することにより、広いpH領域においてpH調整が可能となるためである。また、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどもそれ自身に緩衝作用があるので好ましい。
【0131】
本発明で用いうる現像液は、特開2005−91473号公報、特開2005−234443号公報の段落番号0030〜0039に記載のカルボキシアルキルチオ無水コハク酸、カルボキシアルキルチオコハク酸及びそれらの塩類からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する。本発明に用いうる現像液には、このような化合物を1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0132】
アルカリ性現像液は、上記のとおり、ケイ酸アルカリ又は非還元糖と、塩基と、を含む現像液を用いるが、そのカチオン成分として従来よりLi、Na、K、NHが用いられ、中でもイオン半径の小さいカチオンを多く含有する系では、画像記録層への浸透性が高く現像性に優れる一方、画像部まで溶解して画像欠陥を生ずる。従って、アルカリ濃度を上げるには、ある程度の限度があり、画像部に欠陥を生ずることなく、且つ非画像部に画像記録層(残膜)が残存しないように完全に処理するためには、微妙な液性条件の設定が要求された。
しかし、前記カチオン成分として、そのイオン半径の大きいカチオンを用いることにより、画像記録層中への現像液の浸透性を抑制することができ、アルカリ濃度、即ち、現像性を低下させることなく、画像部の溶解抑止効果をも向上させることができる。
前記カチオン成分としては、上記アルカリ金属カチオン及びアンモニウムイオンのほか、他のカチオンも用いることができる。
【0133】
更に自動現像機を用いて現像する場合には、現像液よりもアルカリ強度の高い水溶液(補充液)を現像液に加えることによって、長時間現像タンク中の現像液を交換することなく、多量の平版印刷版原版を処理できることが知られている。本発明においてもこの補充方式が好ましく適用される。
現像液および補充液には現像性の促進や抑制、現像カスの分散および印刷版画像部の親インキ性を高める目的で必要に応じて種々の界面活性剤や有機溶剤を添加することができる。好ましい界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系および両性界面活性剤があげられる。
更に現像液および補充液には必要に応じて、ハイドロキノン、レゾルシン、亜硫酸、亜硫酸水素酸などの無機酸のナトリウム塩、カリウム塩等の還元剤、更に有機カルボン酸、消泡剤、硬水軟化剤を加えることもできる。
上記現像液および補充液を用いて現像処理された印刷版は水洗水、界面活性剤等を含有するリンス液、アラビアガムや澱粉誘導体を含む不感脂化液で後処理される。本発明の平版印刷版原版により得られた印刷版の後処理としては、これらの処理を種々組み合わせて用いることができる。
【0134】
以上のようにして得られた平版印刷版は所望により不感脂化ガムを塗布したのち、印刷工程に供することができるが、より一層の高耐刷力を有する平版印刷版としたい場合にはバーニング処理が施される。
平版印刷版をバーニングする場合には、バーニング前に特公昭61−2518号、同55−28062号、特開昭62−31859号、同61−159655号の各公報に記載されているような整面液で処理することが好ましい。
その方法としては、該整面液を浸み込ませたスポンジや脱脂綿にて、平版印刷版上に塗布するか、整面液を満たしたバット中に印刷版を浸漬して塗布する方法や、自動コーターによる塗布などが適用される。また、塗布した後でスキージ、あるいは、スキージローラーで、その塗布量を均一にすることは、より好ましい結果を与える。
整面液の塗布量は一般に0.03〜0.8g/m2 (乾燥質量)が適当である。
【0135】
整面液が塗布された平版印刷版は必要であれば乾燥された後、バーニングプロセッサー(たとえば富士写真フイルム(株)より販売されているバーニングプロセッサー:BP−1300)などで高温に加熱される。この場合の加熱温度及び時間は、画像を形成している成分の種類にもよるが、100〜300℃の範囲で1〜20分の範囲が好ましい。
バーニング処理された平版印刷版は、必要に応じて適宜、水洗、ガム引きなどの公知の処理を施こすことができるが、水溶性高分子化合物等を含有する整面液が使用された場合にはガム引きなどのいわゆる不感脂化処理を省略することができる。
この様な処理によって得られた平版印刷版はオフセット印刷機等にかけられ、多数枚の印刷に用いられる。
【実施例】
【0136】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0137】
(実施例1〜4および比較例1)
[支持体の作成]
厚さ0.03mmのアルミニウム板をナイロンブラシと400メッシュのパミストンの水懸濁液を用いその表面を砂目立てした後、水洗した。
砂目立てしたアルミニウム支持体を、10%水酸化ナトリウムに60℃で40秒間浸せきしてエッチングした後、流水で水洗後、20%硝酸で中和洗浄、水洗した。これをVA =12.7Vの条件下で正弦波の交番波形電流を用いて1%硝酸水溶液中で160クーロン/dm2 の陽極電気量で電解粗面化処理を行った。その表面粗さを測定したところ、0.6μm(Ra表示)であった。
引き続いて、電解粗面化処理後のアルミニウム支持体を、30%の硝酸水溶液中に浸せきし55℃で1分間デスマットした後、20%硝酸水溶液中で、電流密度2A/dmにおいて厚さが2.7g/mになるように陽極酸化した。
次いで、陽極酸化処理後のアルミニウム支持体を、温度30℃の3号ケイ酸ソーダの1質量%水溶液の処理層中へ、10秒間、浸漬することでアルカリ金属ケイ酸塩処理(シリケート処理)を行った。その後、井水を用いたスプレーによる水洗を行った。シリケート処理後のアルミニウム支持体におけるシリケート付着量は、3.5mg/m2であった。
以上のようにして、支持体である基板(I)を作製した。
【0138】
[下塗り層の形成]
このように処理された基板(I)の表面に下記組成の下塗り層塗布液を塗布し80℃、30秒間乾燥し、実施例及び比較例に用いる基板(II)を作製した。乾燥後の下塗り層の塗布量は20mg/m2 であった。
【0139】
−下塗り層塗布液組成−
・2−アミノエチルホスホン酸 0.04g
・4−ビニルフェニルメチル(トリエチル)アンモニウムクロリドと
4−ビニル安息香酸の共重合体
(モル比20:80、重量平均分子量5万) 0.06g
・イオン交換水 40g
・メタノール 60g
【0140】
[画像記録層の形成]
下記表1に示した本願の特定高分子化合物を使用し、下記画像記録層塗布液[P]を調製し、この溶液を、上記下塗り層を形成したアルミニウム支持体である基板(II)に塗布し、100℃で1分間乾燥して実施例1〜4及び比較例1のネガ型平版印刷版原版を得た。乾燥後の画像記録層の塗布量は1.5g/m2 であった。
【0141】
−画像記録層塗布液[P]−
・特定高分子化合物(表1記載の化合物) 0.03g
・3−メトキシ−4−ジアゾジフェニルアミンのPF塩〔酸発生剤〕
0.3g
・架橋剤[HM−1](分子量:605:下記構造) 0.6g
・架橋剤[フェノールレゾール樹脂(重量平均分子量:3000)] 0.4g
・バインダーポリマー[BP−1] 0.8g
・バインダーポリマー[クレゾールノボラック樹脂](Mw:2000)
0.2g
・赤外線吸収剤[IK−1](下記構造) 0.2g
・ビクトリアピュアブルーの対イオンをナフタレンスルホン酸にした染料 0.03g
・フッ素系界面活性剤 0.01g
(メガファックF−176、DIC(株)製)
・メチルエチルケトン 12g
・メタノール 10g
・1−メトキシ−2−プロパノール 8g
【0142】
画像記録層塗布液[P]に用いた化合物の詳細は、以下の通りである。
・バインダーポリマー[BP−1]:丸善石油化学(株)製のポリ(p−ヒドロキシスチレン)、マルカリンカーMS−4P(商品名)
・架橋剤[HM−1]および赤外線吸収剤[IK−1]は、下記構造の化合物である。
【0143】
【化20】

【0144】
【化21】

【0145】
<平版印刷版原版の評価>
−画像故障の評価−
得られた実施例1〜4および比較例1のネガ型平版印刷版原版を素手で扱い、意図的に手指を画像記録層面に接触させたのち、赤外線露光機(Trendsetter3244MT,Creo社製)により、照射エネルギー140mJ/cm2、解像度2400dpiで画像様に露光した。次いで、露光後の平版印刷版原版に対し、温風加熱装置(Wisconsin Oven社製)を用いて、140℃の温度で60秒間加熱処理(プレヒート処理)した。プレヒート処理後、富士フイルム(株)製 ノンシリケート現像液DT−2(1:8の水希釈液)にて現像して、各平版印刷版を得た。このとき、画像記録層における手指接触部分が、得られた平版印刷版の画像部において画像故障(画像抜けの故障)となったかどうかを目視で判定し、結果を下記表1に記載した。
【0146】
−加熱ラチチュードの評価−
得られた実施例1〜4および比較例1のネガ型平版印刷版原版を、赤外線露光機(Trendsetter3244MT,Creo社製)により、照射エネルギー140mJ/cm2、解像度2400dpiで画像様に露光した。次いで、露光後の平版印刷版原版に対し、温風加熱装置(Wisconsin Oven社製)を用いて、所定の温度で60秒間加熱処理(プレヒート処理)した。
プレヒート処理における加熱温度を変更しながら複数回行い、プレヒート処理後、富士フイルム(株)製 ノンシリケート現像液DT−2(1:8の水希釈液)にて現像して、各平版印刷版を得た。このとき、露光部が画像形成するプレヒート処理の最低温度と非画像部に残膜が発生する最低温度とを測定し、その温度差を表1に記載した。画像形成及び残膜の有無は、目視により確認した。この温度差が大きいほど、加熱ラチチュードが広く、良好であると評価する。得られた結果を下記表1に併記する。
【0147】
−感度の評価−
得られた実施例1〜4および比較例1のネガ型平版印刷版原版を、赤外線露光機(Trendsetter3244MT,Creo社製)により、解像度2400dpiで、照射エネルギーを変えながら画像様に露光した。次いで、露光後の平版印刷版原版に対し、温風加熱装置(Wisconsin Oven社製)を用いて、140℃の温度で60秒間加熱処理(プレヒート処理)した。プレヒート処理後、富士フイルム(株)製 ノンシリケート現像液DT−2(1:8の水希釈液)にて現像して、各平版印刷版を得た。このとき、露光部が画像形成する照射エネルギーを測定し、その値を下記表1に記載した。画像形成有無は、目視により確認した。この照射エネルギー量が少ないほど、感度が高く、良好であると評価する。得られた結果を下記表1に併記する。
【0148】
【表1】

【0149】
表1に示されるように、画像記録層に、特定高分子化合物を含有する各実施例のネガ型平版印刷版原版は、いずれも手指接触領域やその他の領域に画像抜け故障がなく、さらにこれを含有しない比較例1に比べ、加熱ラチチュードが大きく、高感度で記録可能であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、(A)光又は熱により分解して酸を発生する化合物、(B)酸により架橋する架橋剤、(C)バインダーポリマー、(D)赤外線吸収剤、及び(E)(a)下記一般式(1)で示されるモノマーと、(b)下記一般式(2)で示されるモノマーと、を共重合成分として有する高分子化合物、を含有する画像記録層を有するネガ型平版印刷版原版。
【化1】


[一般式(1)中、Rfはフッ素原子の数が9以上のフルオロアルキル基又はパーフルオロアルキル基を含む置換基を表し、xは1又は2を表し、R1は水素原子又はメチル基を表す。]
【化2】


[一般式(2)中、R21は水素原子またはメチル基を表し、R22は炭素数3〜30の脂肪族環状構造を有する2価の炭化水素基を表す。Aは酸素原子、または−NR23−表し、R23は水素原子または炭素数1〜10の一価の炭化水素基を表す。nは1〜5の整数を表す。]

【公開番号】特開2010−237276(P2010−237276A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82536(P2009−82536)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】