説明

ハイブリット車のクラッチ制御装置

【課題】ハイブリット車の走行モードを変更する際、クラッチ圧力センサが故障していても、二次故障の発生を低減することができるハイブリット車のクラッチ制御装置を提供する。
【解決手段】ハイブリット車のクラッチ制御装置において、パラレル走行からシリーズ走行、EV走行へ変更する際(S1、S2)、油温と車速に基づいて、クラッチが結合している状態から完全に開放するまでのクラッチ開放時間Taを求め(S3、S4)、油圧制御弁によりクラッチの開放制御を開始してからクラッチ開放時間Ta経過後(S5)、クラッチが完全に開放したと判断して、シリーズ走行、EV走行における制御を許可する(S6)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリット車のクラッチ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンとモータとを有するハイブリッド車には、走行モードとして、EV走行、シリーズ走行、パラレル走行がある。このようなハイブリッド車では、例えば、図8〜図10に示すように、エンジン31側のエンジン軸32とモータ33側のモータ軸34との間を結合/開放するクラッチ35が設けられており、走行モードに応じて、クラッチ35を結合状態/開放状態としている(例えば、特許文献1)。このようなクラッチとしては、湿式(単板/多板)、乾式(単板/多板)のいずれのものを用いてもよく、以降、これらを総称してクラッチと呼ぶ。
【0003】
ここで、図8〜図10を参照して、各々の走行モードとクラッチの関係を説明する。
EV走行のときには、図8に示すように、モータ33を駆動して、車両30のタイヤ36を駆動している。このとき、エンジン31は停止しており、発電機37による発電も停止しており、クラッチ35は開放状態である。
【0004】
シリーズ走行は、図9に示すように、エンジン31を駆動して、発電機37により発電し、バッテリ(図示省略)に充電してある電気だけでなく、発電機37で発電した電気も用いて、モータ33を駆動して、車両30のタイヤ36を駆動している。このときも、クラッチ35は開放状態である。
【0005】
一方、パラレル走行は、図10に示すように、エンジン31を駆動して、車両30のタイヤ36を駆動しているが、クラッチ35を結合状態としており、これにより、エンジン31の駆動力をモータ軸34側(駆動軸側)へ伝達している。なお、パラレル走行は、エンジン31及びモータ33を共に駆動して、車両30のタイヤ36を駆動する場合もある。
【0006】
このように、ハイブリッド車の車両30は、モータ33を駆動力とするEV走行時及びシリーズ走行時には、クラッチ35を開放し、エンジン軸32とモータ軸34とを機械的に動力遮断した状態で走行している。これに対し、エンジン31を駆動力とするパラレル走行時には、クラッチ35を結合し、エンジン軸32とモータ軸34とを機械的に結合した状態で走行している。
【0007】
従って、EV走行及びシリーズ走行からパラレル走行へモード変更するときには、開放していたクラッチ35を結合し、逆に、パラレル走行からEV走行及びシリーズ走行へモード変更するときには、結合していたクラッチ35を開放するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3702897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
パラレル走行からシリーズ走行へモード変更するときには、結合していたクラッチ35を開放することで、駆動力がエンジン31からモータ33へシフトする。このとき、クラッチ35の動作状況はクラッチ圧力センサ(図示省略)で行っているが、クラッチ圧力センサの故障時には、クラッチ35の動作状況を把握することができず、二次故障に繋がる原因となる。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、ハイブリット車の走行モードを変更する際、クラッチ圧力センサが故障していても、二次故障の発生を低減することができるハイブリット車のクラッチ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する第1の発明に係るハイブリット車のクラッチ制御装置は、
モータにより駆動され、駆動軸と接続されたモータ軸とエンジンにより駆動されるエンジン軸との間の結合/開放を行うクラッチと、
油圧により前記クラッチの結合/開放を制御する油圧手段と、
前記油圧の油温を検知する油温検知手段と、
車両の車速を検知する車速検知手段と、
前記モータ軸と前記エンジン軸との間を結合して、前記エンジンにより前記車両を駆動するエンジン走行状態と、前記モータ軸と前記エンジン軸との間を開放して、前記モータにより前記車両を駆動するモータ走行状態との切り換えを、前記油圧手段を介し、前記クラッチを制御して行う制御手段とを有し、
前記制御手段は、
前記エンジン走行状態から前記モータ走行状態へ変更する際、前記油温と前記車速に基づいて、前記クラッチが結合している状態から完全に開放するまでの応答時間を求め、
前記クラッチの開放制御を開始してから前記応答時間経過後、前記クラッチを完全に開放したと判断して、前記モータ走行状態における制御を許可することを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決する第2の発明に係るハイブリット車のクラッチ制御装置は、
上記第1の発明に記載のハイブリット車のクラッチ制御装置において、
前記モータ軸のモータ軸回転数を検知するモータ軸回転数検知手段と、前記エンジン軸のエンジン軸回転数を検知するエンジン軸回転数検知手段とを更に有し、
前記制御手段は、
前記クラッチの開放制御を開始してから前記応答時間経過後、前記モータを制御し、走行に必要なモータ軸目標回転数で前記モータ軸を回転させると共に、前記エンジンを制御し、前記モータ軸目標回転数と所定回転数異なるエンジン軸目標回転数で前記エンジン軸を回転させ、
検知した前記モータ軸回転数と検知した前記エンジン軸回転数との差が前記所定回転数以上のとき、前記クラッチが完全に開放したと判断して、前記モータ走行状態における制御を許可することを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決する第3の発明に係るハイブリット車のクラッチ制御装置は、
上記第2の発明に記載のハイブリット車のクラッチ制御装置において、
前記制御手段は、
検知した前記モータ軸回転数と検知した前記エンジン軸回転数との差が前記所定回転数未満のとき、前記クラッチに故障があると判定し、前記モータ走行状態における制御を禁止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明によれば、車速と油温により応答時間を求め、求めた応答時間経過後に、モータ走行状態における制御を許可するので、クラッチ圧力センサが故障した場合でも、二次故障の発生を低減することができる。
【0015】
第2、第3の発明によれば、車速と油温により応答時間を求め、求めた応答時間経過後に、差回転制御を行って、クラッチの故障判定を行い、その判定結果に基づいて、モータ走行状態における制御の許可/不許可を判断するので、クラッチ圧力センサが故障した場合でも、二次故障の発生を低減することができる。又、クラッチの故障判定を行うので、その判定結果に基づいて、クラッチの故障通知も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るハイブリット車のクラッチ制御装置を有する車両の構成図である。
【図2】油圧制御弁の油圧特性を説明するグラフである。
【図3】油圧制御弁の油圧応答性を説明するグラフである。
【図4】本発明に係るハイブリット車のクラッチ制御装置における制御を説明するフローチャートである。
【図5】本発明に係るハイブリット車のクラッチ制御装置において、クラッチ開放時間を演算するときのブロック図である。
【図6】本発明に係るハイブリット車のクラッチ制御装置における他の制御を説明するフローチャートである。
【図7】図6に示したフローチャートにおける差回転制御を説明する図である。
【図8】ハイブリッド車におけるEV走行モードを説明する概略図である。
【図9】ハイブリッド車におけるシリーズ走行モードを説明する概略図である。
【図10】ハイブリッド車におけるパラレル走行モードを説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るハイブリット車のクラッチ制御装置の実施形態について、図1〜図7を参照して説明を行う。
【0018】
(実施例1)
図1は、本発明に係るハイブリット車のクラッチ制御装置を有する車両の構成図である。又、図2は、油圧制御弁の油圧特性を説明するグラフであり、図3は、油圧制御弁の油圧応答性を説明するグラフである。又、図4、図5は、本発明に係るハイブリット車のクラッチ制御装置における制御を説明する図であり、図4は、その制御を説明するフローチャートであり、図5は、クラッチ開放時間を演算するときのブロック図である。
【0019】
本実施例のハイブリッド車のクラッチ制御装置において、車両10は、図1に示すように、エンジン11とモータ15とを動力源とするハイブリッド車である。具体的には、車両駆動を行うと共に発電の動力源となるエンジン11と、エンジン11により駆動されて発電を行う発電機12と、発電機12により発電された電気を充電する高圧バッテリ13と、インバータ14を介して、発電機12、高圧バッテリ13から電気を供給して、発電機12で発電された電気、高圧バッテリ13に充電された電気の少なくとも一方を用いて、車両駆動を行うモータ15とを有している。
【0020】
モータ15は、前輪18の駆動軸を駆動しており、ギアボックス(変速機)17を介して(詳細には、ギアボックス17内のディファレンシャルを介して)、前輪18の駆動軸と接続されている。一方、エンジン11も、ギアボックス17を介して、前輪18と接続されるが、前輪18の駆動軸を駆動する際には、ギアボックス17の内部に設けたクラッチ16を介して(更には、ギアボックス17内のディファレンシャルを介して)、接続されている。このクラッチ16は、ソレノイド等の油圧制御弁(油圧手段;図示省略)により制御されるものであり、具体的には、エンジン11のエンジン軸(後述する図7中のエンジン軸25参照)とモータ15のモータ軸(後述する図7中のモータ軸26参照)との間の結合/開放を行っている。クラッチ16、ギアボックス17の構成は公知のいずれの構成でもよいので、ここでは、その詳細な説明は割愛する。又、クラッチ16は、ギアボックス17から独立した構成でもよく、又、湿式(単板/多板)、乾式(単板/多板)のいずれのものを用いてもよい。
【0021】
なお、本実施例では、一例として、前輪18側にモータ15を設けた構成としているが、後輪19側を駆動するモータを更に設けた構成としてもよい。又、本実施例では、エンジン11を駆動し、発電機12により発電して、高圧バッテリ13へ充電するハイブリッド車を例示しているが、車両外部の家庭用電源や急速充電器から高圧バッテリ13への充電も可能とするプラグインハイブリッド車であってもよい。
【0022】
そして、車両10は、エンジン11を制御するエンジンECU(Electronics Control Unit)21と、発電機12を制御するジェネレータECU22と有し、又、高圧バッテリ13、モータ15、ギアボックス17(クラッチ16)を制御するEV−ECU(車両統合制御コントローラ;制御手段)23を有している。なお、高圧バッテリ13は、高圧バッテリ13の管理を行うBMU(Battery Management Unit)24を介して、EV−ECU23と接続されており、BMU24は、高圧バッテリ13の電圧、電流、温度、SOC(State of Charge;充電率)等を監視し、EV−ECU23へは、電圧、電流、温度、SOC等を通知している。
【0023】
エンジンECU21、ジェネレータECU22及びEV−ECU23同士は、例えば、CAN(Controller Area Network)等を用いて、互いの情報を送受信可能である。本実施例のクラッチ制御装置においては、EV−ECU23が主となって、車両10の車速及び要求される駆動力に応じて、クラッチ16を制御して、バッテリ駆動のEV走行、バッテリ駆動とエンジン発電を併用するシリーズ走行、エンジン直動のパラレル走行を切り換えており、その際、後述するクラッチ制御を行っている。
【0024】
なお、EV−ECU23は、車速センサ(車速検知手段;図示省略)から車両10の車速を検知すると共に、アクセルペダル(図示省略)から検知したアクセル開度等に基づいて、必要とする駆動力を求めている。又、クラッチ16の油温センサ(油温検知手段;図示省略)からクラッチ16のクラッチオイルの油温を検知すると共に、独立して複数設けられた回転数センサ(モータ軸回転数検知手段、エンジン軸回転数検知手段;図示省略)から、エンジン11側のエンジン軸(図7のエンジン軸25参照)の回転数、モータ15側のモータ軸(図7のモータ軸26参照)の回転数を独立して検知している。
【0025】
最初に、図2、図3を参照して、油圧制御弁の油圧特性、油圧応答性を説明する。
【0026】
クラッチ16の結合/開放を制御する油圧制御弁(ソレノイド)は、図2のグラフに示すように、EV−ECU23からの制御電流に略比例して単調増加する油圧特性を有しており、EV−ECU23は、その油圧特性に従って、制御電流を制御して、油圧制御弁を制御している。
【0027】
一方、油圧制御弁には、機械的な遅れ時間が生じるため、クラッチ16へ供給される油圧の変化にも遅れ時間が生じ、クラッチ16の応答性にも遅れ時間が生じる。例えば、クラッチ16を開放する場合、図3のグラフに示すように、EV−ECU23からの制御電流を、クラッチ結合制御電流からクラッチ開放制御電流に変更しても、クラッチ16へ供給される油圧の変化に遅れ時間が生じるため、結合していたクラッチ16が完全に開放されるまで、クラッチ開放時間Taで示す応答時間が必要である。従って、一定の応答時間を設定すれば、クラッチ圧力センサが故障した場合でも、二次故障の発生を低減できそうである。ところが、このクラッチ開放時間Taは、後述する図5で説明するように、車速、クラッチ油温に依存するため、一定の応答時間を設定しただけでは、二次故障の発生を防ぎきれない。
【0028】
そこで、本実施例においては、図4に示すフローチャート、図5に示すブロック図に基づいて、以下のクラッチ制御を行っている。以下、EV−ECU23における制御手順について、図4のフローチャートに沿って説明を行う。
【0029】
(ステップS1)
EV−ECU23において、クラッチ開放フラグがONであるかどうか確認する。クラッチ開放フラグがONであれば、クラッチ16が開放状態であり、EV走行又はシリーズ走行中であるので、一連の制御手順を終了し、クラッチ開放フラグがONでなければ、クラッチ16が結合状態であり、パラレル走行中であるので、ステップS2へ進む。
【0030】
(ステップS2)
パラレル走行が終了かどうか確認する。例えば、車両10の車速が、パラレル走行からEV走行、シリーズ走行へモード変更する速度となれば、パラレル走行が終了となる。パラレル走行が終了する場合には、ステップS3へ進み、パラレル走行が終了しない場合には、一連の制御手順を終了する。
【0031】
(ステップS3)
EV−ECU23から油圧制御弁にクラッチ開放制御電流を流し、ステップS4へ進む。
【0032】
(ステップS4)
クラッチ開放時間Ta(応答時間)を推定時間マップにより演算する。
【0033】
ここで、クラッチ開放時間Taの演算について、図5を参照して説明する。クラッチ開放時間Taについては、図5に示すように、第1演算部B1において、車速に対する推定時間のマップから、車速d1に対する第1推定時間T1を求め、第2演算部B2において、油温に対する推定時間のマップから、クラッチ16の油温d2に対する第2推定時間T2を求め、第3演算部B3において、第1推定時間T1、第2推定時間T2のうち、いずれか大きい方をクラッチ開放時間Taとしている。
【0034】
なお、車速に対する推定時間は、第1演算部B1のマップに示すように、ある車速までは車速の増加に反比例して減少していき、ある車速以降は一定となる傾向である。一方、油温に対する推定時間は、第2演算部B2のマップに示すように、ある油温までは油温の増加に略反比例して減少していき、ある油温以降は油温の増加に略比例して増加していく傾向である。
【0035】
このように、クラッチ開放時間Taは、車両10の車速とクラッチ16の油温により求められ、クラッチ開放時間Taの演算後、ステップS5へ進む。
【0036】
(ステップS5)
クラッチ開放制御電流を流し始めてからの経過時間Tが、演算したクラッチ開放時間Taを過ぎるまで待ち、経過時間Tがクラッチ開放時間Taを過ぎた後、ステップS6へ進む。
【0037】
(ステップS6)
EV−ECU23において、クラッチ開放フラグをONとする。その結果、後続する制御、即ち、EV走行、シリーズ走行における制御が許可されて、実施されることになる。
【0038】
このように、本実施例では、車両10の車速とクラッチ16の油温によりクラッチ開放時間Taを求め、求めたクラッチ開放時間Taの経過後に、つまり、結合していたクラッチ16が完全に開放される時間の経過後に、後続する制御を許可するので、クラッチ圧力センサが故障した場合でも、二次故障の発生を低減することができる。
【0039】
(実施例2)
図6、図7は、本発明に係るハイブリット車のクラッチ制御装置における他の制御を説明する図であり、図6は、その制御を説明するフローチャートであり、図7は、差回転制御を説明する図である。
【0040】
本実施例においては、図6に示すフローチャート、図7に示す図に基づいて、以下のクラッチ制御を行っている。但し、本実施例のハイブリット車のクラッチ制御装置は、実施例1の図1に示したハイブリット車のクラッチ制御装置と同等の構成でよい。又、図6のフローチャートは、ステップS5とステップS6の間に挿入したステップSP1〜SP3の制御手順を除き、実施例1の図4のフローチャートと同等である。従って、ここでは、重複する説明を省略又は簡略して説明を行う。
【0041】
以下、EV−ECU23における制御手順について、図6のフローチャートに沿って説明を行う。
【0042】
(ステップS1)
EV−ECU23において、クラッチ開放フラグがONであるかどうか確認する。クラッチ開放フラグがONであれば、一連の制御手順を終了し、クラッチ開放フラグがONでなければ、ステップS2へ進む。
【0043】
(ステップS2)
パラレル走行が終了かどうか確認する。パラレル走行が終了する場合には、ステップS3へ進み、パラレル走行が終了でない場合には、一連の制御手順を終了する。
【0044】
(ステップS3)
EV−ECU23から油圧制御弁にクラッチ開放制御電流を流し、ステップS4へ進む。
【0045】
(ステップS4)
クラッチ開放時間Taを推定時間マップにより演算し、演算後、ステップS5へ進む。
【0046】
(ステップS5)
経過時間Tがクラッチ開放時間Taを過ぎてから、ステップSP1へ進む。クラッチ開放時間Taは、次のステップSP1での差回転制御の開始タイミングを図る意味もある。
【0047】
(ステップSP1)
経過時間Tがクラッチ開放時間Taを過ぎた後、モータ軸とエンジン軸とが機械的に動力遮断されたかどうかを確認するため、差回転制御を行う。図7を参照して、差回転制御を説明すると、差回転制御では、モータ15を制御して、走行に必要なモータ軸目標回転数Nmt[rpm]でモータ軸26を回転させると共に、エンジン11を制御して、モータ軸目標回転数Nmtとは所定回転数(例えば、100rpm)異なるエンジン軸目標回転数Net[rpm]でエンジン軸25を回転させる。このエンジン軸目標回転数Netは、モータ軸目標回転数Nmtと異なるように、モータ軸目標回転数Nmtから差回転数Na[rpm]を減算した回転数としている。差回転制御で設定するエンジン軸目標回転数Netとしては、クラッチ16が故障している場合を考慮し、車両10の急加速を防止するために、減速側に設定することが望ましい。そのため、[(エンジン軸目標回転数Net)=(モータ軸目標回転数Nmt)−(差回転数Na)]としている。
【0048】
(ステップSP2)
そして、上述した差回転制御中に、エンジン軸25及びモータ軸26の回転数を回転数センサで独立して検知すると共に、検知したエンジン軸回転数Ne、モータ軸回転数Nmが下記式1を見たすかどうか確認する。この式1を満たす場合には、ステップS6へ進み、この式1を満たさない場合には、ステップSP3へ進む。
【0049】
|(モータ軸回転数Nm)−(エンジン軸回転数Ne)|≧(差回転数Na) … 式1
【0050】
(ステップS6)
クラッチ16に故障等が無く、クラッチ16が完全に開放されていたら、モータ軸回転数Nm=モータ軸目標回転数Nmtであり、エンジン軸回転数Ne=エンジン軸目標回転数Netであり、上記式1を満たすことになる。従って、式1を満たす場合には、クラッチ16が開放状態であることを確認することになり、EV−ECU23において、クラッチ開放フラグをONとする。その結果、後続する制御、即ち、EV走行、シリーズ走行における制御が許可されて、実施されることになる。
【0051】
(ステップSP3)
一方、故障(例えば、固着)等によりクラッチ16が結合したままの状態であれば、モータ軸回転数Nmはモータ軸目標回転数Nmtと一致せず、エンジン軸回転数Neもエンジン軸目標回転数Netと一致せず、互いに同期するような回転数となり、上記式1を満たせない。従って、式1を満たさない場合には、クラッチが結合(又は半クラッチ)であると故障判定することができ、EV−ECU23において、クラッチ開放フラグをONとすることはない。その結果、後続する制御、即ち、EV走行、シリーズ走行における制御を禁止して、二次故障の発生を低減することができる。
【0052】
このように、本実施例では、車両10の車速とクラッチ16の油温によりクラッチ開放時間Taを求め、求めたクラッチ開放時間Taの経過後に、差回転制御を行って、クラッチ16の故障判定を行い、その判定結果に基づいて、後続する制御の許可/不許可を判断するので、クラッチ圧力センサが故障した場合でも、二次故障の発生を低減することができる。又、クラッチ16の故障判定を行うので、その判定結果に基づいて、クラッチ16の故障通知も可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、ハイブリッド車に好適なものである。
【符号の説明】
【0054】
10 車両
11 エンジン
12 発電機
13 高圧バッテリ
15 モータ
16 クラッチ
23 EV−ECU
24 BMU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータにより駆動され、駆動軸と接続されたモータ軸とエンジンにより駆動されるエンジン軸との間の結合/開放を行うクラッチと、
油圧により前記クラッチの結合/開放を制御する油圧手段と、
前記油圧の油温を検知する油温検知手段と、
車両の車速を検知する車速検知手段と、
前記モータ軸と前記エンジン軸との間を結合して、前記エンジンにより前記車両を駆動するエンジン走行状態と、前記モータ軸と前記エンジン軸との間を開放して、前記モータにより前記車両を駆動するモータ走行状態との切り換えを、前記油圧手段を介し、前記クラッチを制御して行う制御手段とを有し、
前記制御手段は、
前記エンジン走行状態から前記モータ走行状態へ変更する際、前記油温と前記車速に基づいて、前記クラッチが結合している状態から完全に開放するまでの応答時間を求め、
前記クラッチの開放制御を開始してから前記応答時間経過後、前記クラッチを完全に開放したと判断して、前記モータ走行状態における制御を許可することを特徴とするハイブリット車のクラッチ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリット車のクラッチ制御装置において、
前記モータ軸のモータ軸回転数を検知するモータ軸回転数検知手段と、前記エンジン軸のエンジン軸回転数を検知するエンジン軸回転数検知手段とを更に有し、
前記制御手段は、
前記クラッチの開放制御を開始してから前記応答時間経過後、前記モータを制御し、走行に必要なモータ軸目標回転数で前記モータ軸を回転させると共に、前記エンジンを制御し、前記モータ軸目標回転数と所定回転数異なるエンジン軸目標回転数で前記エンジン軸を回転させ、
検知した前記モータ軸回転数と検知した前記エンジン軸回転数との差が前記所定回転数以上のとき、前記クラッチが完全に開放したと判断して、前記モータ走行状態における制御を許可することを特徴とするハイブリット車のクラッチ制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のハイブリット車のクラッチ制御装置において、
前記制御手段は、
検知した前記モータ軸回転数と検知した前記エンジン軸回転数との差が前記所定回転数未満のとき、前記クラッチに故障があると判定し、前記モータ走行状態における制御を禁止することを特徴とするハイブリット車のクラッチ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−81811(P2012−81811A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228057(P2010−228057)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】