説明

ハイブリッド自動車

【課題】後進登坂路を後進走行するときに車両が停止したときに、電動機を駆動する電動機用インバータの特定のスイッチング素子への電流の集中を抑制すると共に登坂しやすくする。
【解決手段】後進登坂路を後進走行するときに車両が段差のために停止している段差停止状態であるときには、所定時間trefが経過するまでは、モータを駆動するインバータの複数のトランジスタのうち特定のトランジスタへの電流の集中を抑制する際のモータからのトルクの減少率(図中、破線)より大きな所定トルク減少率ΔTを用いてモータのトルク指令Tm2*を設定してモータのトルクを大きく減少させ、所定時間trefが経過したとき以降は、後進走行制御を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のハイブリッド自動車としては、エンジンと、ジェネレータと、モータと、エンジンとジェネレータとモータとにそれぞれキャリアとサンギヤとリングギヤとが接続されモータからの回転を前輪に伝達する遊星歯車組と、インバータを介してモータおよびジェネレータと電力をやりとりするバッテリと、が搭載され、発進時にアクセルペダル踏み込み量に基づく駆動トルクがモータから前輪に出力されるようモータを制御するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この自動車では、モータから駆動トルクが出力されるようモータを制御しているにも拘わらず車両が停止した状態がしばらく継続し、その後、車速が急増したときには、発進時に路面の段差を乗り越えたと判断して、駆動トルクが低下するようモータを制御することにより、段差乗り越えが終了した直後の車速の急上昇を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−45230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のハイブリッド自動車では、路面に段差があるために車両が停止すると、モータの回転が停止するためインバータを構成するスイッチング素子のうち特定のスイッチング素子に電流が集中して流れる場合がある。例えば、後進走行への登坂路を後進走行する際に段差により車両が登坂できなくなると、運転者が更に大きくアクセルペダルを踏み込むことが考えられ、この場合、モータから出力されるトルクが急増して特定のスイッチング素子により大きな電流が集中して流れてしまう。こうしたスイッチング素子への電流の集中を抑制すると共に車両に段差を乗り越えさせて登坂を可能にする手法として、モータから出力されるトルクを一旦減少させて車両を前進させることにより、モータを回転させてインバータの特定のスイッチング素子への電流の集中を解消させた後に、モータから出力されるトルクを増加させて車両を後進走行させて段差を乗り越えさせる手法が考えられるが、車両が段差に達するまでに勢いが足らないと、段差を乗り越えさせることができない場合がある。
【0005】
本発明のハイブリッド自動車は、後進走行に対する登坂路である後進登坂路を後進走行するときに車両が停止したときに、電動機を駆動する電動機用インバータの特定のスイッチング素子への電流の集中を抑制すると共に登坂しやすくすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のハイブリッド自動車は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のハイブリッド自動車は、
内燃機関と、動力を入出力可能な発電機と、駆動輪に接続された車軸に連結された駆動軸と前記内燃機関の出力軸と前記発電機の回転軸との3軸に3つの回転要素が接続された遊星歯車機構と、前記駆動軸に動力を入出力可能な電動機と、複数のスイッチング素子を有し該複数のスイッチング素子を用いて前記発電機を駆動する発電機用インバータと、複数のスイッチング素子を有し該スイッチング素子を用いて前記電動機を駆動する電動機用インバータと、前記発電機用インバータを介して前記発電機と電力のやりとりが可能であると共に前記電動機用インバータを介して前記電動機と電力のやりとりが可能なバッテリと、アクセルペダルの踏み込み量に基づいて走行に要求される要求トルクを設定する要求トルク設定手段と、シフトポジションが後進走行用のポジションであるときには前記内燃機関の運転を停止した状態で前記電動機から前記設定された要求トルクに基づくトルクを出力しながら後進走行するよう前記内燃機関と前記発電機用インバータのスイッチング素子と前記電動機用インバータのスイッチング素子とを制御する後進走行制御を実行する制御手段と、を備えるハイブリッド自動車において、
路面の勾配を検出する勾配センサと、
車速を検出する車速センサと、
路面が後進走行への登坂路である後進登坂路であるときに前記シフトポジションが後進走行用のポジションで前記後進走行制御を実行しているときには、前記検出された路面勾配と予め定められた車両重量とを用いて車両が後進方向へ登坂するのに必要な力である登坂必要駆動力を算出すると共に前記電動機から前記設定された要求トルクに基づくトルクが出力されることにより車両を後進方向へ走行させるための駆動力である後進駆動力を算出するトルク算出手段と、
前記算出された後進駆動力が前記算出された登坂必要駆動力より大きく且つ前記検出された車速が値0であるときには、路面に段差があるために車両が停止している段差停止状態であると判定する段差停止状態判定手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記後進走行制御を実行している最中に前記段差停止状態であると判定されたときには、予め定められた所定時間が経過するまでは前記内燃機関の運転が停止されると共に前記電動機用インバータのスイッチング素子への電流の集中を抑制するために前記電動機から出力されるトルクを減少させる際の前記電動機のトルクの減少率より大きな減少率として予め定められた所定減少率で減少するトルクが前記電動機から出力されるよう前記内燃機関と前記発電機用インバータのスイッチング素子と前記電動機用インバータのスイッチング素子とを制御し、前記所定時間が経過したとき以降は前記後進走行制御を実行する手段である
ことを要旨とする。
【0008】
この本発明のハイブリッド自動車では、路面が後進走行への登坂路である後進登坂路であるときにシフトポジションが後進走行用のポジションで後進走行制御を実行しているときには、検出された路面勾配と予め定められた車両重量とを用いて車両が後進方向へ登坂するのに必要な力である登坂必要駆動力を算出すると共に電動機から設定された要求トルクに基づくトルクが出力されることにより車両を後進方向へ走行させるための駆動力である後進駆動力を算出し、算出された後進駆動力が算出された登坂必要駆動力より大きく且つ検出された車速が値0であるときには、路面に段差があるために車両が停止している段差停止状態であると判定する。そして、後進走行制御を実行している最中に段差停止状態であると判定されたときには、予め定められた所定時間が経過するまでは内燃機関の運転が停止されると共に電動機用インバータのスイッチング素子への電流の集中を抑制するために電動機から出力されるトルクを減少させる際の電動機のトルクの減少率より大きな減少率として予め定められた所定減少率で減少するトルクが電動機から出力されるよう内燃機関と発電機用インバータのスイッチング素子と電動機用インバータのスイッチング素子とを制御する。これにより、電動機用インバータの複数のスイッチング素子のうち特定のスイッチング素子に電流が集中するのを抑制することができると共に、電動機用インバータのスイッチング素子への電流の集中を抑制するために電動機から出力されるトルクを減少させる際より大きく車両を前方へ移動させることができる。さらに、所定時間が経過したとき以降は後進走行制御を実行する。電動機用インバータのスイッチング素子への電流の集中を抑制するために電動機から出力されるトルクを減少させる際より大きく車両を前方へ移動させた後に後進走行制御を実行するから、段差に達するまでにより長い距離車両を後進走行させて勢いをつけやすくすることができる。これにより、段差を乗り越えやすくして登坂しやくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】モータ41,42やバッテリ48を中心とした電気駆動系の構成の概略を示す構成図である。
【図3】ハイブリッド用電子制御ユニット50により実行される段差停止判定処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図4】斜面平行分力Ffと登坂必要駆動力F1との関係を説明するための説明図である。
【図5】車両が段差停止状態にあると判定されたときのモータ42のトルク指令Tm2*の時間変化の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、ガソリンや軽油などを燃料とするエンジン32と、エンジン32の冷却水の温度を検出する温度センサ33からの冷却水温度Twなどの種々の検出値や制御値を入力してエンジン32を駆動制御するエンジン用電子制御ユニット36と、エンジン32のクランクシャフト34にキャリアが接続されると共に駆動輪26a,26bにデファレンシャルギヤ24を介して連結された駆動軸22にリングギヤが接続されたプラネタリギヤ38と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子がプラネタリギヤ38のサンギヤに接続されたモータ41と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子が駆動軸22に接続されたモータ42と、モータ41,42を駆動するためのインバータ43,44と、インバータ43,44をスイッチング制御することによってモータ41,42を駆動制御するモータ用電子制御ユニット46と、インバータ43,44を介してモータ41,42と電力をやりとりするバッテリ48と、バッテリ48の温度を検出する温度センサ49からのバッテリ温度やシフトレバーのポジションを検出するシフトポジションセンサ52からのシフトポジションSP,アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ54からのアクセル開度,ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ56からのブレーキポジション,車速センサ58からの車速V,路面の勾配を検出する勾配センサ60からの路面勾配θなどを入力すると共にエンジン用電子制御ユニット36やモータ用電子制御ユニット46と通信して車両全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット50とを備える。なお、シフトレバーのシフトポジションSPとしては、通常の前進走行用のドライブポジション(Dポジション)や後進走行用のリバースポジション(Rポジション)、駐車時に用いる駐車ポジション(Pポジション)、中立のニュートラルポジション(Nポジション)などがある。
【0012】
図2は、モータ41,42やバッテリ48を中心とした電気駆動系の構成の概略を示す構成図である。インバータ43,44は、いずれも6個のトランジスタT1〜T6,T7〜T12とトランジスタT1〜T6,T7〜T12に逆並列接続された6個のダイオードD1〜D6,D7〜D12とにより構成されている。各6個のトランジスタT1〜T6,T7〜T12は、バッテリ48の正極が接続された正極母線とバッテリ48の負極が接続された負極母線とに対してソース側とシンク側とになるよう2個ずつペアで配置され、その接続点にモータ41,42の三相コイル(U相,V相,W相)の各々が接続されている。したがって、対をなすトランジスタT1〜T6,T7〜T12のオン時間の割合を調節することにより三相コイルが巻回されたステータに回転磁界を形成でき、モータ41,42を回転駆動することができる。インバータ43,44とバッテリ48とを接続する電力ライン62は、各インバータ43,44が共用する正極母線および負極母線から構成されており、モータ41,42のいずれかで発電される電力を他のモータで消費することができるようになっている。したがって、バッテリ48は、モータ41,42のいずれかから生じた電力や不足する電力により充放電されることになる。なお、モータ41,42により電力収支のバランスをとるものとすれば、バッテリ48は充放電されない。モータ用電子制御ユニット46には、モータ41,42を駆動制御するために必要な信号、例えばモータ41,42のロータの回転位置を検出する回転位置検出センサ41a,42aからのモータ41,42の回転位置θm1,θm2や、モータ41,42の三相コイルのU相,V相に流れる相電流を検出する電流センサ41U,41V,42U,42Vからの相電流Iu1,Iv1,Iu2,Iv2などが入力されており、モータ用電子制御ユニット46からは、インバータ43,44のトランジスタT1〜T6,T7〜T12へのスイッチング制御信号が出力されている。モータ用電子制御ユニット46は、ハイブリッド用電子制御ユニット50と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット50からの制御信号によってモータ41,42を駆動制御すると共に必要に応じてモータ41,42の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット50に出力する。
【0013】
実施例のハイブリッド自動車20は、基本的には、ハイブリッド用電子制御ユニット50とエンジン用電子制御ユニット36とモータ用電子制御ユニット46とによって実行される以下に説明する通常の駆動制御によって走行する。ハイブリッド用電子制御ユニット50では、まず、アクセルペダルポジションセンサ54からのアクセル開度と車速センサ58からの車速Vとに応じて走行のために駆動軸22に要求される要求トルクTr*を設定し、要求トルクに駆動軸22の回転数(例えば、モータ42の回転数や車速Vに換算係数を乗じて得られる回転数)を乗じて走行に要求される走行用パワーを計算すると共に計算した走行用パワーからバッテリ48の充電容量の割合(SOC)に応じて得られるバッテリ48を充放電するための補正パワー(バッテリ48から放電するときが正の値)を減じてエンジン32から出力すべきパワーとしてのエンジン指令パワーを設定する。そして、エンジン指令パワーを効率よくエンジン32から出力することができるエンジン32の回転数とトルクとの関係としての動作ライン(例えば燃費最適動作ライン)を用いてエンジン32の目標回転数と目標トルクとを設定し、バッテリ48を充放電することができる最大電力としての入出力制限Win,Woutの範囲内で、エンジン32の回転数が目標回転数となるようにするための回転数フィードバック制御によりモータ41から出力すべきトルクとしてのトルク指令Tm1*を設定すると共に、要求トルクからモータ41をトルク指令で駆動したときにプラネタリギヤ38を介して駆動軸22に作用するトルクを減じて得られるトルクをモータ42のトルク指令Tm2*として設定する。そして、設定したエンジン32の目標回転数と目標トルクとをエンジン用電子制御ユニット36に送信すると共に設定したトルク指令Tm1*,Tm2*とをモータ用電子制御ユニット46に送信する。エンジン32の目標回転数と目標トルクとを受信したエンジン用電子制御ユニット36は、エンジン32の目標回転数と目標トルクとによってエンジン32が運転されるようエンジン32の吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御などを実行する。そして、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータ用電子制御ユニット46は、モータ41,42が設定したトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ43,44のスイッチング素子T1〜T12をスイッチング制御する。実施例のハイブリッド自動車20は、こうした制御により、バッテリ48の入出力制限Win,Woutの範囲内でバッテリを充放電しながらアクセル開度に応じた要求トルクTr*を駆動軸22に出力して走行する。なお、バッテリ48の入出力制限Win,Woutは、温度センサ49により検出されたバッテリ温度や、バッテリ48の充電容量の割合(SOC)に基づいて設定されるものとした。
【0014】
また、実施例のハイブリッド自動車20は、シフトポジションセンサ52からのシフトポジションSPがリバースポジションであるときには、ハイブリッド用電子制御ユニット50とエンジン用電子制御ユニット36とモータ用電子制御ユニット46とによって実行される以下に説明する後進走行制御によって走行する。まず、ハイブリッド用電子制御ユニット50では、エンジン32の燃料噴射を停止するよう燃料噴射制御や点火制御を停止するための燃料噴射停止指令をエンジン用電子制御ユニット36に送信し、トルク指令Tm1*を値0に設定してモータ用電子制御ユニット46に送信する。続いて、通常の駆動制御と同様の処理で、要求トルクTr*を設定し、入出力制限Win,Woutの範囲内で設定した要求トルクTr*をモータ42のトルク指令Tm2*として設定してモータ用電子制御ユニット46に送信する。燃料噴射停止指令を受信したエンジン用電子制御ユニット36は、エンジン32が運転されているときにはエンジン32の燃料噴射を停止するよう燃料噴射制御や点火制御を停止する処理を実行する。また、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータ用電子制御ユニット46は、モータ41,42が設定したトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ43,44のスイッチング素子T1〜T12をスイッチング制御する。実施例のハイブリッド自動車20は、こうした制御により、シフトポジションSPがリバースポジションであるときには、エンジン32の運転を停止した状態でモータ42から要求トルクTr*に基づくトルクを駆動軸22に出力して後進走行することができる。
【0015】
実施例のハイブリッド自動車20では、勾配センサ60からの路面勾配θが路面が後進走行への登坂路であることを示していて、シフトポジションSpがリバースポジションであり後進走行制御を実行しているときには、ハイブリッド用電子制御ユニット50により実行される以下に説明する段差停止判定処理を実行し、段差停止判定処理により車両が段差のため停止している段差停止状態であると判定されたときには、ハイブリッド用電子制御ユニット50とエンジン用電子制御ユニット36とモータ用電子制御ユニット46とによって実行される以下に説明する段差停止時駆動制御によって走行する。以下、段差停止判定処理、段差停止時駆動制御の順に説明する。なお、段差停止時駆動制御では、車両を後進方向に走行させる方向のトルクをモータ42から出力する際には、モータ42のトルク指令Tm2*は正の値であるものとした。
【0016】
図3は、ハイブリッド用電子制御ユニット50により実行される段差停止判定処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット50は、車両重量Mを入力する(ステップS100)と共に勾配センサ60からの路面勾配θを入力する処理を実行する(ステップS110)。ここで、車両重量Mは、燃料や潤滑油、冷却水など走行に必要な液体を充填した状態で測定した車両の重量として予めハイブリッド用電子制御ユニット50に記憶されているものを用いるものとした。
【0017】
次に、入力された車両重量Mと路面勾配θとを用いて次式(1)により路面勾配θの路面上の車両に作用する重力の斜面に平行な分力である斜面平行分力Ffを算出し(ステップS120)、斜面平行分力Ffと釣り合う力より若干大きな車両の後進方向への力を後進方向へ発進して登坂するために必要な登坂必要駆動力F1として算出し(ステップS130)、モータ42のトルク指令Tm2*と駆動輪26a,26bの半径とに基づいてモータ42をトルク指令Tm2*で駆動したときにハイブリッド自動車20を後進方向へ走行させるための駆動力である後進駆動力F2を算出する(ステップS140)。斜面平行分力Ffと登坂必要駆動力F1との関係を図4に示す。
【0018】
Ff=M・sinθ (1)
【0019】
続いて、算出した登坂必要駆動力F1と算出した後進駆動力F2とを比較する(ステップS150)。後進駆動力F2が登坂必要駆動力未満であるときには、モータ42から車両を後進方向へ発進させることが可能な程度のトルクが出力されていないと判断して、ステップS110〜S140の処理を実行し、後進駆動力F2が登坂必要駆動力以上であるときには、モータ42から車両を後進方向へ発進させることが可能な程度のトルクが出力されていると判断して、続いて、車速センサ58からの車速Vを入力して(ステップS160)、車速Vを調べる(ステップS170)。車速Vが値0であるときには、モータ42から車両を後進方向へ発進させることが可能な程度のトルクが出力されているにも拘わらず車両が停止していることから、路面に段差があるため車両が停止している段差停止状態であると判定し(ステップS180)、車速Vが値0でないときには、段差停止状態でないと判定して(ステップS190)、本ルーチンを終了する。こうした処理により、段差停止状態であるか否かを適正に判定することができる。
【0020】
続いて、段差停止時駆動制御について説明する。車両が段差停止状態にあると判定されたときには、車両が段差停止状態にあると判定されてから所定時間tref(例えば、500msecなど)が経過するまでは、車両が段差停止状態にあると判定されたときに設定されていたトルク指令Tm2*(以下、「判定時トルク指令Tm2set」という)から時間tの経過と共に徐々にモータ42のトルク指令Tm2*が所定トルク減少率ΔTで減少するよう次式(2)を用いてトルク指令Tm2*を設定して、設定したトルク指令Tm2*をモータ用電子制御ユニット46に送信して、モータ42が設定したトルク指令Tm2*で駆動されるようインバータ44のトランジスタT7〜T12をスイッチング制御し、車両が段差停止状態にあると判定されてから所定時間trefを経過したとき以降は、上述した後進走行駆動制御を実行する。この際に、トルク指令Tm2*を増加させることになるが、トルク指令Tm2*を増加させる際の増加率を通常より大きくするものとしてもよい。ここで、所定トルク減少率ΔTは、車両が段差停止状態にあってインバータ44のトランジスタT7〜T12のうち特定のトランジスタへの電流の集中を抑制するためにモータ42から出力されるトルクを減少させる際のトルク指令Tm2*の減少率より大きな減少率として予め実験や解析などにより求めたものを用いるものとした。これにより、トルク指令Tm2*を、より大きな減少率で減少する値に設定することができる。
【0021】
Tm2*=Tm2set-ΔT・t (2)
【0022】
車両が段差停止状態にあると判定されたときのモータ42のトルク指令Tm2*の時間変化の一例を図5に示す。図中、破線は、所定トルク減少率ΔTより小さい減少率(例えば、段差の乗り越えを考慮せずにインバータ44のトランジスタT7〜T12のうち特定のトランジスタへの電流の集中を抑制するために実験や解析などで定められた減少率)を用いてモータ42のトルク指令Tm2*を設定する比較例のトルク指令Tm2*の時間変化を示している。実施例では、所定時間trefが経過するまでは、所定トルク減少率ΔTを用いてモータ42のトルク指令Tm2*を設定してモータ42のトルクを大きく減少させることにより、車両を大きく前方へ移動させることができ、インバータ44のトランジスタT7〜T12のうち特定のトランジスタに電流が集中している状態を解消することができる。所定時間trefが経過したとき以降は、後進走行制御を実行することにより、車両を大きく前方へ移動させた後に車両を後進走行させることができるから、車両が段差に達するまでにより長い距離後進走行させて車両に勢いをつけさせることができ、段差を乗り越えやすくして、登坂しやすくすることができる。こうした制御により、インバータ44のトランジスタT7〜T12のうち特定のトランジスタに電流が集中するのを抑制できると共に段差を乗り越えやすくして登坂しやくすることができる。
【0023】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20では、段差停止状態であると判定されたときには、所定時間trefが経過するまでは、エンジン32の運転が停止されると共に判定時トルク指令Tm2setから時間tの経過と共に徐々に所定トルク減少率ΔTで減少するようトルク指令Tm2*を設定して、設定したトルク指令Tm2*でモータ42が駆動されるようインバータ44のトランジスタT7〜T12を制御し、所定時間trefを経過したとき以降は、後進走行駆動制御を実行する。これにより、インバータ44のトランジスタT7〜T12のうち特定のトランジスタに電流が集中するのを抑制することができると共に、段差を乗り越えやすくして登坂しやくすることができる。
【0024】
実施例では、本発明のハイブリッド自動車において、エンジン32が「内燃機関」に相当し、モータ41が「発電機」に相当し、プラネタリギヤ38が「遊星歯車機構」に相当し、モータ42が「電動機」に相当し、インバータ43が「発電機用インバータ」に相当し、インバータ44が「電動機用インバータ」に相当し、バッテリ48が「バッテリ」に相当し、アクセル開度Accに基づいて要求トルクTr*を設定する処理を実行するハイブリッド用電子制御ユニット50が「要求トルク設定手段」に相当し、勾配センサ60が「勾配センサ」に相当し、車速センサ58が「車速センサ」に相当し、シフトポジションSPがリバースポジションであるときには、登坂必要駆動力F1と後進駆動力F2とを算出する図3の段差停止判定処理ルーチンのステップS130,S140の処理を実行するハイブリッド用電子制御ユニット50が「トルク算出手段」に相当し、後進駆動力F2が登坂必要駆動力F1より大きく且つ車速Vが値0であるときには、段差停止状態であると判定する図3の段差停止判定処理ルーチンのステップS150〜S170,S190の処理を実行するハイブリッド用電子制御ユニット50が「段差停止状態判定手段」に相当し、シフトポジションSPがリバースポジションであるときには燃料噴射停止指令をエンジン用電子制御ユニット36に送信し、トルク指令Tm1*を値0に設定してモータ用電子制御ユニット46に送信すると共に入出力制限Win,Woutの範囲内で設定した要求トルクTr*をモータ42のトルク指令Tm2*として設定してモータ用電子制御ユニット46に送信する処理や、段差停止状態にあると判定されたときには、所定時間trefが経過するまでは、モータ42のトルク指令Tm2*が判定時トルク指令Tm2setから時間tの経過と共に徐々に所定トルク減少率ΔTで減少するようトルク指令Tm2*を設定して、設定したトルク指令Tm2*をモータ用電子制御ユニット46に送信する処理、所定時間trefを経過したとき以降は燃料噴射停止指令をエンジン用電子制御ユニット36に送信し、トルク指令Tm1*を値0に設定してモータ用電子制御ユニット46に送信すると共に入出力制限Win,Woutの範囲内で設定した要求トルクTr*をモータ42のトルク指令Tm2*として設定してモータ用電子制御ユニット46に送信する処理を実行するハイブリッド用電子制御ユニット50と、燃料噴射停止指令を受信してエンジン32の燃料噴射を停止するよう燃料噴射制御や点火制御を停止する処理を実行するエンジン用電子制御ユニット36と、モータ41,42が設定したトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ43,44のスイッチング素子T1〜T12をスイッチング制御するモータ用電子制御ユニット46とが「制御手段」に相当する。
【0025】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0026】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、ハイブリッド自動車の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0028】
20 ハイブリッド自動車、22 駆動軸、24 デファレンシャルギヤ、26a,26b 駆動輪、32 エンジン、33 温度センサ、34 クランクシャフト、36 エンジン用電子制御ユニット、38 プラネタリギヤ、41,42 モータ、41a,42a 回転位置検出センサ、41U,41V,42U,42V 電流センサ、43,44 インバータ、46 モータ用電子制御ユニット、48 バッテリ、49 温度センサ、50 ハイブリッド用電子制御ユニット、52 シフトポジションセンサ、54 アクセルペダルポジションセンサ、56 ブレーキペダルポジションセンサ、58 車速センサ、60 勾配センサ、62 電力ライン、T1〜T12 トランジスタ、D1〜D12 ダイオード。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、動力を入出力可能な発電機と、駆動輪に接続された車軸に連結された駆動軸と前記内燃機関の出力軸と前記発電機の回転軸との3軸に3つの回転要素が接続された遊星歯車機構と、前記駆動軸に動力を入出力可能な電動機と、複数のスイッチング素子を有し該複数のスイッチング素子を用いて前記発電機を駆動する発電機用インバータと、複数のスイッチング素子を有し該スイッチング素子を用いて前記電動機を駆動する電動機用インバータと、前記発電機用インバータを介して前記発電機と電力のやりとりが可能であると共に前記電動機用インバータを介して前記電動機と電力のやりとりが可能なバッテリと、アクセルペダルの踏み込み量に基づいて走行に要求される要求トルクを設定する要求トルク設定手段と、シフトポジションが後進走行用のポジションであるときには前記内燃機関の運転を停止した状態で前記電動機から前記設定された要求トルクに基づくトルクを出力しながら後進走行するよう前記内燃機関と前記発電機用インバータのスイッチング素子と前記電動機用インバータのスイッチング素子とを制御する後進走行制御を実行する制御手段と、を備えるハイブリッド自動車において、
路面の勾配を検出する勾配センサと、
車速を検出する車速センサと、
路面が後進走行への登坂路である後進登坂路であるときに前記シフトポジションが後進走行用のポジションで前記後進走行制御を実行しているときには、前記検出された路面勾配と予め定められた車両重量とを用いて車両が後進方向へ登坂するのに必要な力である登坂必要駆動力を算出すると共に前記電動機から前記設定された要求トルクに基づくトルクが出力されることにより車両を後進方向へ走行させるための駆動力である後進駆動力を算出するトルク算出手段と、
前記算出された後進駆動力が前記算出された登坂必要駆動力より大きく且つ前記検出された車速が値0であるときには、路面に段差があるために車両が停止している段差停止状態であると判定する段差停止状態判定手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記後進走行制御を実行している最中に前記段差停止状態であると判定されたときには、予め定められた所定時間が経過するまでは前記内燃機関の運転が停止されると共に前記電動機用インバータのスイッチング素子への電流の集中を抑制するために前記電動機から出力されるトルクを減少させる際の前記電動機のトルクの減少率より大きな減少率として予め定められた所定減少率で減少するトルクが前記電動機から出力されるよう前記内燃機関と前記発電機用インバータのスイッチング素子と前記電動機用インバータのスイッチング素子とを制御し、前記所定時間が経過したとき以降は前記後進走行制御を実行する手段である
ハイブリッド自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−101574(P2012−101574A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249088(P2010−249088)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】