説明

ハイブリッド車両の制動制御装置

【課題】ハイブリッド車両においてコースト走行中にエンジンを始動する際に、いわゆるエンジンブレーキとよばれる制動力が効かなくなるという不都合を改善する。
【解決手段】電気走行モードを選択しモータ/ジェネレータ5の回生トルクにより車輪2を制動するコースト走行中にエンジン1をクランキングする際には、第2クラッチ7を一旦解放し車輪2を制動する機械ブレーキ23で前記回生トルクによる制動を補償する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン以外にモータ/ジェネレータからの動力によっても走行することができ、モータ/ジェネレータからの動力のみにより走行する電気走行(EV)モードと、エンジンからの動力のみまたはエンジンおよびモータ/ジェネレータの双方からの動力により走行可能なハイブリッド走行(HEV)モードとを有するハイブリッド車両に関し、特に、運転者がアクセル操作子およびブレーキ操作子を釈放して惰性走行するいわゆるコースト走行中にエンジンの始動要求があったときは、コースト走行を妨げることなくモータ/ジェネレータでエンジンのクランキングを実現する制御を提案することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
上記のようなハイブリッド車両に用いるハイブリッド駆動装置としては従来、様々な型式のものが提案されているが、そのうちの1つとして、特許文献1に記載のごときものが知られている。
このハイブリッド駆動装置は、動力源としてエンジンおよびモータ/ジェネレータを具え、エンジンとモータとを第1クラッチを介して駆動結合し、モータと車輪側とを第2クラッチを介して駆動結合するものである。そしてエンジンが停止状態であってハイブリッド車両がコースト走行中にエンジンを始動するにあたり、第1クラッチのモータ側回転数がエンジン始動可能回転数以下であるときには、第2クラッチを解放して第1クラッチを締結した待機状態とする制御を行うものである。
【0003】
かかるハイブリッド駆動装置を具えたハイブリッド車両によれば、第2クラッチを解放することによりエンジンおよびモータ/ジェネレータを車輪側から切断して慣性走行を継続しながら、第1クラッチを締結してエンジンとモータ/ジェネレータとを接続しエンジンのクランキングを即座に開始することができる状態で待機することができる。
【特許文献1】特開2006−118681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載のハイブリッド駆動装置にあっては、以下に説明するような問題を生ずる。つまりコースト走行中はエンジンブレーキといった制動トルクが車輪に作用するものであるが、エンジン始動のための待機運転としてエンジンおよびモータ/ジェネレータを車輪側から切断してしまうため、運転者がコースト走行中にハイブリッド駆動装置の制動力を期待しても、当該制動力を車輪に効かせることができない。このため例えばハイブリッド車両が長い下り勾配の走行路をコースト走行中に、ハイブリッド車両の速度変化が運転者の予期しないものとなる等の不都合が生じてしまう。
【0005】
本発明は、上述の実情に鑑み、コースト走行中にエンジン始動する場合であっても、ハイブリッド車両の制動力が抜けてしまうという不都合を回避して、エンジンのみを動力源とする従前の車両におけるエンジンブレーキと同様な制動力を得ることができるハイブリッド車両の制動制御装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的のため本発明によるハイブリッド車両の制動制御装置は、請求項1に記載のごとく、
動力源としてエンジンおよびモータ/ジェネレータを具え、エンジンとモータとを第1摩擦要素を介して駆動結合し、モータと車輪側とを第2摩擦要素を介して駆動結合し、
第1摩擦要素を解放しエンジンを停止させ第2摩擦要素を締結しモータ/ジェネレータからの動力のみによる電気走行モードと、少なくとも第2摩擦要素を締結しエンジンおよびモータ/ジェネレータの双方からの動力によるハイブリッド走行モードとを選択可能で、
第1摩擦要素を締結しモータ/ジェネレータでエンジンをクランキングするようにしたハイブリッド車両において、
電気走行モードを選択しモータ/ジェネレータの回生トルクにより車輪を制動するコースト走行中にエンジンをクランキングする際には、第2摩擦要素を一旦解放し、車輪を制動する機械ブレーキで前記回生トルクによる制動を補償するよう構成したことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0007】
かかる本発明の構成によれば、電気走行モードのコースト走行状態でエンジンを始動する際に、機械ブレーキで制動トルクを補償することから、第2摩擦要素を解放しても制動トルクが抜けることがない。したがって、ハイブリッド車両が緩い下り勾配の走行路をコースト走行中であってもハイブリッド車両の速度変化が運転者の予期しないものとなる等の不都合が生じることはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の制動制御装置を適用可能なハイブリッド駆動装置を具えたフロントエンジン・リヤホイールドライブ式ハイブリッド車両のパワートレーンを示し、1はエンジン、2は駆動車輪(後輪)である。
図1に示すハイブリッド車両のパワートレーンにおいては、通常の後輪駆動車と同様にエンジン1の車両前後方向後方に自動変速機3をタンデムに配置し、エンジン1(クランクシャフト1a)からの回転を自動変速機3の入力軸3aへ伝達する軸4に結合してモータ/ジェネレータ5を設ける。
【0009】
モータ/ジェネレータ5は、モータとして作用したり、ジェネレータ(発電機)として作用するもので、エンジン1および自動変速機3間に配置する。
このモータ/ジェネレータ5およびエンジン1間に、より詳しくは、軸4とエンジンクランクシャフト1aとの間に第1クラッチ6を介挿し、この第1クラッチ6によりエンジン1およびモータ/ジェネレータ5間を切り離し可能に結合する。
ここで第1クラッチ6は、伝達トルク容量を連続的に変更可能なものとし、例えば、比例ソレノイドでクラッチ作動油流量およびクラッチ作動油圧を連続的に制御して伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチなどの摩擦要素で構成する。
【0010】
モータ/ジェネレータ5および自動変速機3間に、より詳しくは、軸4と変速機入力軸3aとの間に第2クラッチ7を介挿し、この第2クラッチ7によりモータ/ジェネレータ5および自動変速機3間を切り離し可能に結合する。
第2クラッチ7も第1クラッチ6と同様、伝達トルク容量を連続的に変更可能なものとし、例えば、比例ソレノイドでクラッチ作動油流量およびクラッチ作動油圧を連続的に制御して伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチなどの摩擦要素で構成する。
【0011】
自動変速機3は、2003年1月、日産自動車(株)発行「スカイライン新型車(CV35型車)解説書」第C−9頁〜第C−22頁に記載されたものと同じものとし、複数の摩擦要素(クラッチやブレーキ等)を選択的に締結したり解放したりすることで、これら摩擦要素の締結・解放組み合わせにより伝動系路(変速段)を決定するものとする。
従って自動変速機3は、入力軸3aからの回転を選択変速段に応じたギヤ比で変速して出力軸3bに出力する。
この出力回転は、ディファレンシャルギヤ装置8により左右後輪2へ分配して伝達され、車両の走行に供される。
但し自動変速機3は、上記したような有段式のものに限られず、現在の変速段から目標変速段へ無段階にさせることができる変速機であってもよいのは言うまでもない。
【0012】
上記した図1のパワートレーンにおいては、停車状態からの発進時などを含む低負荷・低車速時に用いられる電気走行(EV)モードが要求される場合、第1クラッチ6を解放し、第2クラッチ7を締結し、自動変速機3を動力伝達状態にする。
【0013】
この状態でモータ/ジェネレータ5を駆動すると、当該モータ/ジェネレータ5からの出力回転のみが変速機入力軸3aに達することとなり、自動変速機3が当該入力軸3aへの回転を、選択中の変速段に応じ変速して変速機出力軸3bより出力する。
変速機出力軸3bからの回転はその後、ディファレンシャルギヤ装置8を経て後輪2に至り、車両をモータ/ジェネレータ5のみによって電気走行(EV走行)させることができる。
【0014】
高速走行時や大負荷走行時などで用いられるハイブリッド走行(HEV走行)モードが要求される場合、第1クラッチ6および第2クラッチ7をともに締結し、自動変速機3を動力伝達状態にする。
この状態では、エンジン1からの出力回転、または、エンジン1からの出力回転およびモータ/ジェネレータ5からの出力回転の双方が変速機入力軸3aに達することとなり、自動変速機3が当該入力軸3aへの回転を、選択中の変速段に応じ変速して、変速機出力軸3bより出力する。
変速機出力軸3bからの回転はその後、ディファレンシャルギヤ装置8を経て後輪2に至り、車両をエンジン1およびモータ/ジェネレータ5の双方によってハイブリッド走行(HEV走行)させることができる。
【0015】
エンジン1を停止して第1クラッチ6を解放するとともに第2クラッチを締結しモータ/ジェネレータ5からの動力のみにより走行するEV走行モードにおいてエンジン1を始動する場合、第1クラッチ6を締結しモータ/ジェネレータ5をエンジンスタータとして用いてクランキングする。そしてエンジン1始動後はエンジン1およびモータ/ジェネレータ5双方からの動力により走行するHEV走行モードに切り替わる。
【0016】
かかるHEV走行中において、エンジン1を最適燃費で運転させるとエネルギーが余剰となる場合、この余剰エネルギーによりモータ/ジェネレータ5を発電機として作動させることで余剰エネルギーを電力に変換し、この発電電力をモータ/ジェネレータ5のモータ駆動に用いるよう蓄電しておくことでエンジン1の燃費を向上させることができる。
【0017】
なお図1では、モータ/ジェネレータ5および駆動車輪2を切り離し可能に結合する第1クラッチ7を、モータ/ジェネレータ5および自動変速機3間に介在させたが、
図2に示すように、第2クラッチ7を自動変速機3およびディファレンシャルギヤ装置8間に介在させても、同様に機能させることができる。
【0018】
また、図1および図2では第2クラッチ7として専用のものを自動変速機3の前、若しくは、後に追加することとしたが、
この代わりに第2クラッチ7として、図3に示すごとく自動変速機3内に既存する前進変速段選択用の摩擦要素または後退変速段選択用の摩擦要素を流用するようにしてもよい。
この場合、第2クラッチ7が前記したモード選択機能を果たすのに加えて、この機能を果たすよう締結される時に自動変速機を動力伝達状態にすることとなり、専用の第2クラッチが不要でコスト上大いに有利である。
【0019】
図1〜図3に示すいずれの構成においても、車輪2はドラムブレーキやディスクブレーキといった機械ブレーキ23を具える。機械ブレーキ23は油圧で動作される公知のものであり、後述する統合コントローラ20により制御される。通常は運転者によるブレーキ操作に基づいて車輪2を制動するべく制御されるが、コースト走行中にエンジン1を始動する場合には運転者によるブレーキ操作が無くても後述するように機械ブレーキ23を動作させる。
【0020】
図1〜3に示すハイブリッド車両のパワートレーンを成すエンジン1、モータ/ジェネレータ5、第1クラッチ6、および第2クラッチ7は、図4に示すようなシステムにより制御する。
【0021】
図4の制御システムは、パワートレーンの動作点(トルクおよび回転数)を統合制御する統合コントローラ20を具え、パワートレーンの動作点を、目標エンジントルクtTeと、目標モータ/ジェネレータトルクtTmと、第1クラッチ6の目標伝達トルク容量tTc1と、第2クラッチ7の目標伝達トルク容量tTc2とで規定する。
【0022】
統合コントローラ20には、上記パワートレーンの動作点を決定するために、
エンジン回転数Neを検出するエンジン回転センサ11からの信号と、
モータ/ジェネレータ回転数Nmを検出するモータ/ジェネレータ回転センサ12からの信号と、
変速機入力回転数Niを検出する入力回転センサ13からの信号と、
変速機出力回転数Noを検出する出力回転センサ14からの信号と、
エンジン1の要求負荷状態を表すアクセルペダル踏み込み量(アクセル開度APO)を検出するアクセル開度センサ15からの信号と、
モータ/ジェネレータ5用の電力を蓄電しておくバッテリ9の蓄電状態SOC(持ち出し可能電力、充電率ともいう)を検出する蓄電状態センサ16からの信号と、を入力する。
【0023】
なお、上記したセンサのうち、エンジン回転センサ11、モータ/ジェネレータ回転センサ12、入力回転センサ13、および出力回転センサ14はそれぞれ、図1〜3に示すように配置することができる。
【0024】
統合コントローラ20は、上記入力情報のうちアクセル開度APO、バッテリ蓄電状態SOC、および変速機出力回転数No(車速VSP)から、運転者が希望している車両の駆動力を実現可能な運転モード(EVモード、HEVモード)を選択すると共に、目標エンジントルクtTe、目標モータ/ジェネレータトルクtTm、目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1、および目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2をそれぞれ演算して駆動力制御を行う。
【0025】
統合コントローラ20が演算した目標エンジントルクtTeはエンジンコントローラ21に供給され、統合コントローラ20が演算した目標モータ/ジェネレータトルクtTmはモータ/ジェネレータコントローラ22に供給される。
エンジンコントローラ21は、エンジントルクTeが目標エンジントルクtTeとなるようエンジン1を制御し、
モータ/ジェネレータコントローラ22はモータ/ジェネレータ5のトルクTm(または回転数Nm)が目標モータ/ジェネレータトルクtTmとなるよう、バッテリ9およびインバータ10を介してモータ/ジェネレータ5を制御する。
統合コントローラ20は、演算した目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1および目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2に対応するソレノイド電流を第1クラッチ6および第2クラッチ7の締結制御ソレノイド(図示せず)に供給し、第1クラッチ6の伝達トルク容量Tc1が目標伝達トルク容量tTc1に一致するよう、また、第2クラッチ7の伝達トルク容量Tc2が目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2に一致するよう、第1クラッチ6および第2クラッチ7を個々に締結力制御する。
【0026】
また統合コントローラ20は、コースト走行中にエンジン1を始動する際に機械ブレーキ23の目標制動トルクtTsを演算し、車輪2の制動制御を行う。
統合コントローラ20は、演算した目標制動トルクtTsに対応するソレノイド電流を機械ブレーキ23の油圧制御ソレノイド(図示せず)に供給し、機械ブレーキ23の制動トルクTsが目標制動トルクにtTs一致するよう、機械ブレーキ23を制動制御する。
【0027】
図5は、統合コントローラ20で演算される制御を示すブロック図である。図5に沿って説明すると、目標駆動トルク演算部100では、図6に例示するマップを参照し、車速VSP(自動変速機3の出力回転数Noに比例)とアクセル開度APOから、目標駆動力を算出する。
【0028】
モード選択部200では、車速VSP(自動変速機3の出力回転数Noに比例)とアクセル開度APOといった運転者による要求負荷に応じた情報から、図7に示す運転モード判断マップを参照して、運転モード(HEV走行またはEV走行)を演算する。
【0029】
図7の運転モード判断マップについて説明すると、実線および破線はともに電気走行モード領域と前記ハイブリッド走行モード領域との境界を示すが、実線はEV走行からHEV走行に切り替わるときの切替線であり、エンジン1を始動する条件となる。この境界(エンジン始動線)よりも車速VSPまたはアクセル開度APOが大きければHEV走行モードを選択する。これに対し、破線はHEV走行からEV走行に切り替わるときの切替線である。
【0030】
目標充放電演算部300では、図8に例示するマップを参照し、バッテリ9の蓄電状態SOCから目標充放電量(目標充放電電力ともいう)を演算する。図8中、蓄電状態SOCが目標蓄電状態tSOCよりも大きくなるにつれて、バッテリ9の放電電力を大きくしてモータ/ジェネレータ5を力行運転する。これに対し、図8中、蓄電状態SOCが目標蓄電状態tSOCよりも小さくなるにつれて、バッテリ9の充電電力を大きくしてモータ/ジェネレータ5を回生運転する。
【0031】
動作点指令部400では、上述したアクセル開度APO、目標駆動力、運転モード、車速VSP、および目標充放電電力を実現する動作点を到達目標として、過渡的な目標エンジントルクtTe、目標モータ/ジェネレータトルクtTm、目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1、目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2、および目標変速段をそれぞれ演算する。
【0032】
変速制御部500では、上述した目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2および目標変速段から、自動変速機3の図示しないコントロールバルブに設けられた各ソレノイドバルブの電流指令を演算し、これらソレノイドバルブを駆動制御する。
【0033】
上述した図5のブロック図に示す制御の中で、目標モータ/ジェネレータトルクtTmが正値の場合はモータ/ジェネレータ5がモータとして力行運転し動力を車輪2側に出力する。これに対し、目標モータ/ジェネレータトルクtTmが負値の場合は目標モータ/ジェネレータトルクtTmの絶対値が回生トルクであるからモータ/ジェネレータ5が発電機として回生運転するよう回生トルクを車輪2側またはエンジン1側の少なくとも一方からモータ/ジェネレータ5に入力する。別の言い方をすれば、この回生トルクは車輪2からみて制動トルクである。
【0034】
図9は、上述した統合コントローラ20で演算される制御であって、モード選択部200で運転モードがEV走行モードからHEV走行モードが切り替わった際に、このモード切替要求を実現するためにエンジン1を始動する制御プログラムを示すフローチャートである。
【0035】
まずステップS1ではハイブリッド車両の運転状態を読み込む。運転状態が駆動力増加中であれば、後述するステップS3〜ステップS11に入ることなくステップS2へ進み通常制御によるモード切替を実行する。そしてステップS2のモード切替が終了するステップS12へ進む。ステップS12でモード切替の終了を確認すると本フローチャートを抜ける。なお駆動力増加中とは、具体的には図6に示すように運転者によるアクセル操作子の踏み込み等によりアクセル開度APOが増大して目標駆動力が増大することをいう。目標駆動力が増大するとHEV走行モードを選択するのが有利であるため、モータ/ジェネレータ5の駆動トルクを増大し第1クラッチ6を締結してエンジン1をクランキングする。そしてエンジン1始動によりモード切替が終了する。車輪2を機械ブレーキ23で制動することはない。
【0036】
説明を上記ステップS1に戻すと、運転状態がコースト走行であれば、ステップS3〜ステップS11へ入り、以下に説明するコースト走行におけるエンジン1の始動制御および車輪2の制動制御を実行する。まずステップS3へ進み過渡モード2301を実行する。これから説明する種々の過渡モードはいずれも、EV走行モードからHEV走行モードに運転モードを切り替える際に実行する暫定的なモードである。
【0037】
過渡モード2301では第2クラッチ7(CL2)を一旦解放する。具体的には、第2クラッチ7(CL2)の伝達トルク容量を0に向けて減少させてモータ/ジェネレータ5と車輪2との間で伝達される回生トルクを減少させるとともに、機械ブレーキ23の制動トルクを増大させ、この回生トルクによる車輪2の制動を補償する。このとき第2クラッチ7(CL2)の伝達トルク容量値の減少率と絶対値で等しい増大率で機械ブレーキの制動トルクを増大させる。これにより、伝達トルク容量と制動トルクとの合計トルクを一定値に保持し、車輪2の制動力を過渡モード2301において一定とする。
【0038】
ここで付言すると第2クラッチ7(CL2)の伝達トルクは車輪2からモータ/ジェネレータ5へ入力される回生トルクに等しくこの回生トルクは車輪2を制動するため、過渡モード2301において機械ブレーキ23による制動トルクおよびモータ/ジェネレータ5による回生トルクの合計は一定値になる。
【0039】
過渡モード2301で第2クラッチ7(CL2)の伝達トルク容量が0に達し第2クラッチ7(CL2)の解放が完了すると、ステップS4へ進む。
【0040】
ステップS4では、過渡モード2302を実行する。過渡モード2302では、第2クラッチ7(CL2)の伝達トルク容量を0に保持し機械ブレーキ23の制動トルクを一定値に保持したまま第1クラッチ6(CL1)の伝達トルク容量を0から増大させて第1クラッチ6(CL1)を締結する。
【0041】
過渡モード2302で第1クラッチ6(CL1)締結が完了すると、ステップS5へ進む。
【0042】
ステップS5では、過渡モード2303を実行する。過渡モード2303では、モータ/ジェネレータ5を力行運転に切り換え、モータ/ジェネレータ5の回転数をクランキング可能な回転数まで上昇させてエンジン1をクランキングする。
【0043】
過渡モード2303でエンジン1の回転数が適切なクランキングを行うのに必要な所定値以上であり、かつモータ/ジェネレータ5のトルクがクランキングによるエンジン完爆を確認するための所定値以下になると、ステップS6へ進む。
【0044】
クランキングによるエンジン完爆を確認すると次のステップS6で過渡モード2304を実行する。過渡モード2304はエンジン1始動のシステム要求を読み込む。システム要求がパワートレーン冷却水の水温低下を回避するためエンジン1を始動する、あるいは車速VSPの上昇のためエンジン1を始動するものであればステップS7へ進む。これに対し、システム要求が蓄電状態SOCの低下縮小を回避するという条件のためエンジン1を始動するものであればステップS10へ進む。
【0045】
ステップS7では過渡モード2305を実行する。過渡モード2305はエンジン1による発電要求の有無をチェックする。発電要求があればステップS8へ進む。これに対し、発電要求が無ければステップS9へ進む。
【0046】
ステップS8では過渡モード2306を実行する。過渡モード2306ではエンジントルクをモータ/ジェネレータに入力してエンジン発電を実行する。
そして、過渡モード2306を経てモード切替を終了する場合、続くHEV走行モードでもエンジン1にエンジン発電のためのエンジントルクを指令する。ここでいうエンジン発電のための目標エンジントルクtTeは以下の(1)式より決定する。
tTe=Tm_limit−tTm_coast ・・・(1)
なおTm_limitはモータ/ジェネレータ5の回生可能トルク(上限値)であり、tTm_coastはコースト走行のための目標回生トルクである。過渡モード2306を経るモード切替にあっては、SOC条件によるものではないことから、モータ/ジェネレータ5においてモード切替終了後にコースト走行のための目標トルクtTm_coastを優先して確保する。このため過渡モード2306はHEV走行モードの開始前にエンジン発電を実行するものである。
なお、このエンジン発電に係るエンジンの運転は、上述したようにSOC条件によるものではないことから、上記のコースト走行目標トルクtTm_coastを最低限確保すればよい。すなわち、もしコースト走行目標トルクtTm_coast 以上にモータ/ジェネレータ5が発電可能なら、余裕分tTeもエンジン駆動により発電すると理解されたい。この余裕分tTeの発電の結果、バッテリ9への充電量が増えるというメリットを享受でき、バッテリ9を充電する発電電力としてコーストトルクに係る回生発電にエンジン発電が加わる。
【0047】
具体的には過渡モード2306は目標モータ/ジェネレータ回転数と実際のモータ/ジェネレータ回転数とが所定時間に亘り略等しいことである。所定時間が経過してステップS11に進む準備が整うと、ステップS11に進む。ここでいう、目標モータ/ジェネレータ回転数と実際のモータ/ジェネレータ回転数とが所定時間に亘り略等しいことの意義は、第2クラッチ7(CL2)をショックなく締結するよう準備することである。つまり、第2クラッチ7(CL2)の差回転が大きいときに第2クラッチ7(CL2)を締結するとショックが発生することから、実際のモータ/ジェネレータ回転数が目標モータ/ジェネレータ回転数に追従していることが第2クラッチ7(CL2)を締結する条件である。
【0048】
ステップS9では過渡モード2316を実行する。過渡モード2316ではモータ/ジェネレータ5での発電にエンジントルクを用いる要求がないので、エンジン1を単独で自立運転させるべくエンジン完爆後に第1クラッチ6を解放する。過渡モード2316は目標モータ/ジェネレータ回転数と実際のモータ/ジェネレータ回転数とが所定時間に亘り略等しいこと、かつこの所定時間をかけて第1クラッチ6(CL1)の伝達トルク容量を0にする、すなわち解放することである。所定時間が経過して第1クラッチ6(CL1)の解放が完了するとステップS11に進む。なお、目標モータ/ジェネレータ回転数と実際のモータ/ジェネレータ回転数とが所定時間に亘り略等しいことの意義は、第2クラッチ7(CL2)をショックなく締結するよう準備することである。
【0049】
説明を前述したステップS10に戻すと、ステップS10では過渡モード2315を実行する。過渡モード2315ではSOC条件によるエンジン始動の要求に応えるため、エンジントルクをモータ/ジェネレータに入力してエンジン発電を率先して実行する。つまり、蓄電状態SOCが小さいので発電を優先する。過渡モード2315(ステップS10)で目標モータ/ジェネレータ回転数と実際のモータ/ジェネレータ回転数とが所定時間に亘り略等しく、ステップS11に進む準備が整うと、ステップS11に進む。なお、目標モータ/ジェネレータ回転数と実際のモータ/ジェネレータ回転数とが所定時間に亘り略等しいことの意義は、第2クラッチ7(CL2)をショックなく締結するよう準備することである。
【0050】
ステップS11では過渡モード2307を実行する。過渡モード2307では第2クラッチ7(CL2)を再締結する。具体的には第2クラッチ7(CL2)の伝達トルク容量を0から増大させながら機械ブレーキ23の制動トルクを減少させ、伝達トルク容量と制動トルクとの合計トルクを一定値に保持する。このとき第2クラッチ7(CL2)の伝達トルク容量値の増大率と絶対値で等しい減少率で機械ブレーキの制動トルクを減少させる。これにより、車輪2の制動力を過渡モード2307において一定とする。
【0051】
過渡モード2307で第2クラッチ7(CL2)の再締結が完了すると、次のステップS12へ進む。ステップS12でモード切替の終了を確認すると本フローチャートを抜ける。
【0052】
本実施例になる制動制御につき、図10〜図12のタイムチャートに沿って説明する。
【0053】
図10は、上記過渡モード2306を経てモード切替を行う場合のタイムチャートである。瞬時t1まで、アクセル開度APOを0とし、エンジン1を停止させモータ/ジェネレータ5(MG)を回転させるEV走行モードで、モータ/ジェネレータトルクを負トルク(回生トルク)にしてコースト走行中に瞬時t1でモード切替指令が発せられると、瞬時t1から続く瞬時t2まで過渡モード2301を実行し、第2クラッチ7(CL2)の伝達トルク容量を0に向けて減少させてモータ/ジェネレータ5と車輪2との間で伝達される回生トルクを減少させるとともに、機械ブレーキ23の制動トルクを0から増大させ、この回生トルクによる車輪2の制動を補償する。このとき第2クラッチ7(CL2)の伝達トルク容量値の減少率と絶対値で等しい増大率で機械ブレーキの制動トルクを増大させる。これにより車輪2の駆動力は、瞬時t1から続く瞬時t2までと瞬時t1直前とで変動せず、一定の負値であり、車輪2を制動する。
【0054】
第2クラッチ7(CL2)の伝達トルク容量値は統合コントローラ20からの解放指令に対し所定の減少率で減少するものである。これは機械ブレーキ23が油圧等、機械的に動作することから応答時定数に基づき指令値と実際の伝達トルク容量値に応答遅れがあるためである。例えば指令値が第2クラッチ7にステップ的に入力されても、第2クラッチ7の伝達トルク容量はランプ勾配で減少する。
【0055】
そこで本実施例では第2クラッチ7(CL2)の一旦解放に係る解放指令に基づき瞬時t1から瞬時t2まで伝達トルク容量値を減少させるに際し、当該減少率と絶対値で等しい増大率で機械ブレーキ23の制動トルクを増大させる。これにより、モータ/ジェネレータ5(MG)の回生トルクによる車輪2の制動を補償し得て、モード切替の初期において、車輪2の制動力を安定させることができる。
【0056】
瞬時t2で第2クラッチ7(CL2)を解放すると、瞬時t2から続く瞬時t3まで過渡モード2302を実行し、第2クラッチ7(CL2)の伝達トルク容量を0に保持し機械ブレーキ23の制動トルクを瞬時t2における値に保持したまま第1クラッチ6(CL1)の伝達トルク容量を締結する。これにより車輪2の駆動力は、瞬時t2から続く瞬時t3までと瞬時t2直前とで変動せず、一定の負値であり、車輪2の制動を継続する。
【0057】
瞬時t3で第1クラッチ6(CL1)を締結すると、瞬時t3から続く瞬時t4まで過渡モード2303を実行し、モータ/ジェネレータ5(MG)の回転数をクランキング可能な回転数まで上昇させてエンジン1をクランキングする。第2クラッチ7(CL2)を解放しているため、車輪2の駆動力は、瞬時t3から続く瞬時t4までと瞬時t3直前とで変動せず、一定の負値であり、車輪2の制動を継続する。
【0058】
エンジン1が始動し瞬時t4で初爆トルクが表れると過渡モード2304を実行し、エンジン1始動のシステム要求を読み込む。続く瞬時t5で過渡モード2305を実行し、エンジン1による発電要求があることを判断する。
【0059】
エンジン発電要求があるため、瞬時t5から続く瞬時t6まで過渡モード2306を実行し、エンジン発電でモータ/ジェネレータ5(MG)に回生トルクを入力する。なお瞬時t5から瞬時t6までの回生トルクはモータ/ジェネレータ5(MG)の回生可能トルクを超えないことは勿論である。
【0060】
瞬時t6から続く瞬時t7まで過渡モード2307を実行し、第2クラッチ7(CL2)を再締結して機械ブレーキ23の制動トルクを減少させる。このとき第2クラッチ7(CL2)の伝達トルク容量値の増大率と絶対値で等しい減少率で機械ブレーキの制動トルクを減少させる。これにより、車輪2の制動力を過渡モード2307において一定とする。
また第2クラッチ7(CL2)の伝達トルク容量増大に伴いモータ/ジェネレータ5(MG)の回生トルクも増大させて、コースト走行のための車輪2の制動を実現するための目標回生トルクtTm_coastを確保する。この際モータ/ジェネレータ5の回生可能トルクTm_limitに一致させ、前述した(1)式により、目標エンジントルクtTeを大きくしてエンジン発電に資することができる。
【0061】
第2クラッチ7(CL2)の伝達トルク容量値は統合コントローラ20からの締結指令に対し所定の増大率で増大するものである。これは機械ブレーキ23が油圧等、機械的に動作することから応答時定数に基づき指令値と実際の伝達トルク容量値に応答遅れがあるためである。
【0062】
そこで本実施例では第2クラッチ7(CL2)の一旦解放に係る再締結指令に基づき瞬時t6から瞬時t7まで伝達トルク容量値を増大させるに際し、当該増大率と絶対値で等しい減少率で機械ブレーキ23の制動トルクを減少させる。これにより、モータ/ジェネレータ5(MG)の回生トルクによる車輪2の制動を補償し得て、モード切替の終期において、車輪2の制動力を安定させることができる。
【0063】
瞬時t7以後はHEVモードを実行し、第1クラッチ6(CL1)を締結してエンジン1でエンジン発電を行い、第2クラッチ7(CL2)を締結してモータ/ジェネレータ5で車輪2を制動する。別な言い方をすれば、エンジン1および車輪2の双方からモータ/ジェネレータ5に回生トルクを入力する。
【0064】
以上に説明した図10の実施例につき要約すると、瞬時t2から瞬時t6まで第2クラッチ7(CL2)を一旦解放する。そうすると、回生トルクによる車輪2の制動力が0になる。そこで機械ブレーキ23の制動トルクにより、回生トルクによる車輪2の制動力を補償する。この結果、コースト走行中であってもいわゆるエンジンブレーキのように運転者の期待通りの制動トルクを得ることができる。
【0065】
また、瞬時t1から瞬時t2まで第2クラッチ7(CL2)の伝達トルク容量を0に向かって減少させる過渡モード2301で、前記伝達トルク容量値の減少率と絶対値で等しい増大率で機械ブレーキ23の制動トルクを増大させて、前記回生トルクによる制動を補償する。この結果、モード切替の初期において、車輪2の制動力を安定させることができる。
【0066】
また、瞬時t6から瞬時t7まで第2クラッチ7(CL2)の伝達トルク容量を0から増大させる過渡モード2307で、前記伝達トルク容量値の増大率と絶対値で等しい減少率で機械ブレーキ23の制動トルクを減少させて、前記回生トルクによる制動を補償する。この結果、モード切替の終期において、車輪2の制動力を安定させることができる。
【0067】
図11は、前述した過渡モード2316を経てモード切替を行う場合のタイムチャートである。このタイムチャートにつき説明する。なお、上記図10と共通する部分については説明を省略する。
【0068】
瞬時t3から続く瞬時t4まで過渡モード2303を実行しエンジン1をクランキングする。続く瞬時t5の前の瞬時以降でエンジン1がアイドル回転数で安定すると、瞬時t5から続く瞬時t6まで過渡モード2316を実行する。過渡モード2316では、第1クラッチ6(CL1)を再び解放し、クランクシャフト1aを切り離してエンジン1を単独で自立運転させる。
【0069】
瞬時t6から続く瞬時t7まで過渡モード2307を実行する。このときモータジェネレータ5(MG)の回生トルクを0からコースト走行に必要なトルクまで増大させる。この回生トルクは第2クラッチ7(CL2)の伝達トルク容量値と等しい。第2クラッチ7(CL2)の伝達トルク容量値の増大率と絶対値で等しい減少率で機械ブレーキの制動トルクを減少させ、伝達トルク容量と制動トルクとの合計トルクを一定値に保持する。
【0070】
瞬時t7以後のHEV走行モードでは、第1クラッチ6(CL1)を解放してエンジン1を自立運転し、第2クラッチ7(CL2)を締結してモータ/ジェネレータ5で車輪2を制動する。つまり回生トルクが車輪2の制動力となる。瞬時t7以後のモータ/ジェネレータトルクは瞬時t1以前と同じくTm_coastである。
【0071】
これまでに説明してきた図11のタイムチャートで、瞬時t7以後に機械ブレーキの制動トルクを与えることにつき説明する。図11のタイムチャートでは過渡モード2316を経ている。過渡モード2316につき補足すると、蓄電状態SOCが十分大きく、モータ/ジェネレータ(MG)回生可能トルクTm_limitが小さい(0側にある)。それゆえエンジン発電の要求がない。
したがって、モータ/ジェネレータ5の回生可能トルクTm_limitのみでは、コースト走行に必要な制動トルクである目標回生トルクtTm_coastをまかないきれない。
このため瞬時t7以後も、機械ブレーキによる制動トルクを発生させて、目標回生トルクtTm_coastを確保するのである。
【0072】
図12は、前述した過渡モード2315を経てモード切替を行う場合のタイムチャートである。このタイムチャートにつき説明する。なお、上記図10および図11と共通する部分については説明を省略する。
【0073】
瞬時t5から続く瞬時t6まで過渡モード2315を実行する。過渡モード2315では、第1クラッチ6(CL1)を介してエンジン1からモータ/ジェネレータ5(MG)に回生トルクを入力し、SOC条件によるエンジン始動の要求に応えるべくエンジン発電を行う。SOC条件に沿った発電電力となるようエンジン発電を実行するとは、エンジン発電による発電電力をなるべく大きくするというものではなく、図8に示す目標充電電力でバッテリ9を充電するということをいう。したがって、以下の(2)式が成立する。
tTe+tTm_coast=tTm≦Tm_limit ・・・(2)
なおtTm は目標充電電力に対応するモータ/ジェネレータトルクであり、Tm_limitはモータ/ジェネレータ5の回生可能トルクであり、tTm_coastはコースト走行のための目標回生トルクであり、tTeは目標エンジントルクである。
【0074】
したがって、図8に示すバッテリ蓄電状態SOCに応じた充電電力でバッテリ9を充電するようモータ/ジェネレータトルクtTmを制御する。ここで目標充電電力が少なく回生トルクtTmが小さければ、目標エンジントルクtTeが0になる場合もあり得る。
【0075】
瞬時t6から続く瞬時t7まで過渡モード2307を実行し、第2クラッチ7(CL2)を再締結して機械ブレーキ23の制動トルクを減少させる。第2クラッチ7(CL2)の伝達トルク容量増大に伴いモータ/ジェネレータ5(MG)の回生トルクも増大させて、コースト走行のための車輪2の制動を実現するための目標回生トルクtTm_coastを確保する。
【0076】
瞬時t7以後はHEVモードを実行し、第1クラッチ6(CL1)を締結してエンジン1でエンジン発電を行い、第2クラッチ7(CL2)を締結してモータ/ジェネレータ5で車輪2を制動する。この際モータ/ジェネレータ5の回生トルクは回生可能トルクTm_limitよりも少なくてもよい(0側になってもよい)。
【0077】
ところで本実施例のハイブリッド車両によればEV走行モードを選択しモータ/ジェネレータ65の回生トルクにより車輪を制動するコースト走行中にエンジン1をクランキングする際には、図9のステップS3〜ステップS11に入り、第2クラッチ7(CL2)を図10に示すように瞬時t2〜瞬時t6まで一旦解放し車輪を制動する機械ブレーキで回生トルクによる制動を補償するよう構成したことから、
コースト走行中にエンジン始動する場合であっても、ハイブリッド車両の制動力が抜けてしまうという不都合を回避して、エンジンのみを動力源とする従前の車両におけるエンジンブレーキと同様な制動力を得ることができる。したがって、長い下り勾配の走行路をコースト走行中であっても一定速度で走行することができる。
【0078】
また本実施例の第2クラッチ7(CL2)は、解放指令に対し応答時定数によって決められた減少率で伝達トルク容量値が減少するものであって、図10に示すように瞬時t1に発せられる解放指令に基づき瞬時t1〜瞬時t2で第2クラッチ7(CL2)の伝達トルク容量値を減少させるに際し、伝達トルク容量値の減少率と絶対値で等しい増大率で機械ブレーキの制動トルクを増大させて、回生トルクによる制動を補償することから、
モード切替の初期で車輪2の制動力を一定にすることが可能となり、コースト走行において制動力が変動することを回避することができる。
【0079】
また本実施例の第2クラッチ7(CL2)は、締結指令に対し応答時定数によって決められた増大率で伝達トルク容量値が変化するものであって、図10に示すように瞬時t6に発せられる再締結指令に基づき瞬時t6〜瞬時t7で第2クラッチ7(CL2)の伝達トルク容量値を増大させるに際し、伝達トルク容量値の増大率と絶対値で等しい減少率で機械ブレーキの制動トルクを減少させて、回生トルクによる制動を補償することから、
モード切替の終期で車輪2の制動力を一定にすることが可能となり、コースト走行において制動力が変動することを回避することができる。
【0080】
また本実施例の図9のステップS7で水温または車速条件によりエンジン1を始動し、エンジン発電要求がある場合はステップS8に入り過渡モード2306を実行し、クランキングによるエンジン完爆後(図10の瞬時t5以後)でエンジントルク1をモータ/ジェネレータ5に入力することから、
エンジン1の暖機運転およびバッテリ9への充電を可能にする。
【0081】
これに対しエンジン発電要求がない場合はステップS9に入り過渡モード2316を実行し、クランキングによるエンジン完爆後(図11の瞬時t5以後)に第1クラッチ6(CL1)を解放してエンジン1を自立運転させることから、
バッテリ9を充電することなくエンジン1の暖機運転を可能にする。
【0082】
また本実施例では、図9のステップS6でバッテリ9のSOC条件によりエンジン1を始動する場合は、図8に示すバッテリ蓄電状態SOCに応じた充電電力でバッテリ9を充電するようモータ/ジェネレータトルクを制御することから、
バッテリ9の充放電量を目標どおりとすることが可能になり、コースト走行中のエンジン始動においてハイブリッド車両のエネルギーマネジメントを好適に実現することができる。
【0083】
なお、上述したのはあくまでも本発明の一実施例であり、本発明はその主旨に逸脱しない範囲において種々変更が加えられうるものである。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の制御装置を適用可能なハイブリッド車両のパワートレーンを示す概略平面図である。
【図2】本発明の制御装置を適用可能な他のハイブリッド車両のパワートレーンを示す概略平面図である。
【図3】本発明の制御装置を適用可能な更に他のハイブリッド車両のパワートレーンを示す概略平面図である。
【図4】図1〜3に示したパワートレーンの制御システムを示すブロック線図である。
【図5】統合コントローラで演算される制御を示すブロック図である。
【図6】目標駆動力を算出するためのマップである。
【図7】運転モードを判定するためのマップである。
【図8】目標充放電量を算出するためのマップである。
【図9】図4の制御システムにおける統合コントローラが実行するエンジンを始動する制御プログラムのフローチャートである。
【図10】過渡モード2306を経るモード切替のタイムチャートである。
【図11】過渡モード2316を経るモード切替のタイムチャートである。
【図12】過渡モード2315を経るモード切替のタイムチャートである。
【符号の説明】
【0085】
1 エンジン
2 駆動車輪(後輪)
3 自動変速機
4 伝動軸
5 モータ/ジェネレータ(MG)
6 第1クラッチ(CL1)
7 第2クラッチ(CL2)
8 ディファレンシャルギヤ装置
9 バッテリ
10 インバータ
11 エンジン回転センサ
12 モータ/ジェネレータ回転センサ
13 変速機入力回転センサ
14 変速機出力回転センサ
15 アクセル開度センサ
16 バッテリ蓄電状態センサ
20 統合コントローラ
21 エンジンコントローラ
22 モータ/ジェネレータコントローラ
23 機械ブレーキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源としてエンジンおよびモータ/ジェネレータを具え、エンジンとモータとを第1摩擦要素を介して駆動結合し、モータと車輪側とを第2摩擦要素を介して駆動結合し、
第1摩擦要素を解放しエンジンを停止させ第2摩擦要素を締結しモータ/ジェネレータからの動力のみによる電気走行モードと、少なくとも第2摩擦要素を締結しエンジンおよびモータ/ジェネレータの双方からの動力によるハイブリッド走行モードとを選択可能で、
第1摩擦要素を締結しモータ/ジェネレータでエンジンをクランキングするようにしたハイブリッド車両において、
電気走行モードを選択しモータ/ジェネレータの回生トルクにより車輪を制動するコースト走行中にエンジンをクランキングする際には、第2摩擦要素を一旦解放し、車輪を制動する機械ブレーキで前記回生トルクによる制動を補償するよう構成したことを特徴とするハイブリッド車両の制動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両の制動制御装置において、
第2摩擦要素は、解放指令に対し決められた減少率で伝達トルク容量値が減少するものであって、
前記一旦解放に係る解放指令に基づき第2摩擦要素の伝達トルク容量値を減少させるに際し、
機械ブレーキの制動トルクを制御する機械ブレーキ制御手段が、前記伝達トルク容量値の減少率と絶対値で等しい増大率で機械ブレーキの制動トルクを増大させて、前記回生トルクによる制動を補償することを特徴とするハイブリッド車両の制動制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のハイブリッド車両の制動制御装置において、
第2摩擦要素は、締結指令に対し決められた増大率で伝達トルク容量値が変化するものであって、
前記一旦解放後の再締結指令に基づき第2摩擦要素の伝達トルク容量値を増大させるに際し、
機械ブレーキの制動トルクを制御する機械ブレーキ制御手段が、前記伝達トルク容量値の増大率と絶対値で等しい減少率で機械ブレーキの制動トルクを減少させて、前記回生トルクによる制動を補償することを特徴とするハイブリッド車両の制動制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のハイブリッド車両の制動制御装置において、
エンジントルクをモータ/ジェネレータに入力して発電するようエンジン発電要求がある場合は、前記クランキングによるエンジン完爆後にエンジントルクをモータ/ジェネレータに入力することを特徴とするハイブリッド車両の制動制御装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のハイブリッド車両の制動制御装置において、
エンジントルクをモータ/ジェネレータに入力して発電するようエンジン発電要求がない場合は、前記クランキングによるエンジン完爆後に第1摩擦要素を解放してエンジンを自立運転させることを特徴とするハイブリッド車両の制動制御装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のハイブリッド車両の制動制御装置において、
車載バッテリの蓄電状態に応じて該バッテリを充電するようモータ/ジェネレータトルクを制御することを特徴とするハイブリッド車両の制動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−221868(P2008−221868A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58581(P2007−58581)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】