説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】EV走行領域を拡大する。
【解決手段】動力源としてエンジン1及びモータ2を備えるハイブリッド車両100の制御装置であって、エンジン1の廃熱を回生動力として回生する廃熱回生装置6と、モータ2のみを動力源として走行するEV走行時に、廃熱回生装置6によって回生した回生動力をエンジン1の出力軸13に伝達する回生動力伝達機構(11,12,663)と、を備える。これにより、EV走行時に廃熱回生装置6によって回生した回生動力によってエンジン1の出力軸を空回しさせておくことができる。そのため、モータ2によるクランキングを行うことなくエンジン1を自立始動させることが可能となり、EV走行中にエンジン再始動のための余力を残しておく必要がない。したがって、モータ2のみによって走行できる領域を増大させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のハイブリッド車両の制御装置は、モータによって静止状態のエンジンをクランキングし、エンジンを再始動させていた。そのため、EV走行中は、エンジンを円滑に再始動させるための余力を残した制限トルク範囲内でモータを駆動していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−117779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、前述した従来のハイブリッド車両の制御装置は、EV走行中に、モータ出力を最大トルクまで増大させることができなかったため、モータのみによって走行できる領域が少ないという問題点があった。
【0005】
本発明はこのような問題点に着目してなされたものであり、モータのみよって走行できる領域を増大させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、動力源としてエンジン及びモータを備えるハイブリッド車両の制御装置である。そして、このハイブリッド車両の制御装置が、エンジンの廃熱を回生動力として回生する廃熱回生装置と、モータのみを動力源として走行するEV走行時に、廃熱回生装置によって回生した回生動力をエンジンの出力軸に伝達する回生動力伝達機構と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、EV走行時に廃熱回生装置によって回生した回生動力によってエンジンの出力軸を空回しさせておくことができる。そのため、モータによるクランキングを行うことなくエンジンを自立始動させることが可能となり、EV走行中にエンジン再始動のための余力を残しておく必要がない。したがって、モータのみによって走行できる領域を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の一実施形態によるハイブリッド車両の概略構成図である。
【図2】図2は、ランキンサイクルシステムの概略構成図である。
【図3】図3は、目標走行モードを選択するマップである。
【図4】図4は、本実施形態によるハイブリッド車両の制御について説明するフローチャートである。
【図5】図5は、EV走行モード移行処理について説明するフローチャートである。
【図6】図6は、膨張機トルクTranを算出するマップである。
【図7】図7は、フリクショントルクTfriを算出するテーブルである。
【図8】図8は、EV走行モード処理について説明するフローチャートである。
【図9】図9は、EV走行中のモータトルクの上限値を設定するテーブルである。
【図10】図10は、HEV走行モード移行処理について説明するフローチャートである。
【図11】図11は、本実施形態によるハイブリッド車両の制御の動作を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態によるハイブリッド車両100の概略構成図である。
【0011】
ハイブリッド車両100は、動力源としてのエンジン1及びモータジェネレータ2と、電力源としてのバッテリ3と、モータジェネレータ2を制御するインバータ4と、動力源の出力を後輪57に伝達するための複数の部品からなる駆動系5と、エンジン1の廃熱を動力に回生するランキンサイクルシステム6と、エンジン1、モータジェネレータ2、駆動系5及びランキンサイクルシステム6の各部品を制御するためのコントローラ7と、を備える。
【0012】
エンジン1は、ガソリンエンジンである。エンジン1のクランクシャフト13の一端にはクランクプーリ12が設けられる。
【0013】
モータジェネレータ2は、ロータに永久磁石を埋設し、ステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータである。モータジェネレータ2は、電力の供給を受けて回転駆動する電動機としての機能と、ロータが外力により回転しているときにステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機としての機能と、を有する。
【0014】
バッテリ3は、モータジェネレータ2などの各種の電気部品に電力を供給するとともに、モータジェネレータ2で発電された電力を蓄える。
【0015】
インバータ4は、直流と交流の2種類の電気を相互に変換する電流変換機である。インバータ4は、バッテリ3からの直流を任意の周波数の三相交流に変換してモータジェネレータ2に供給する。一方、モータジェネレータ2が発電機として機能するときは、モータジェネレータ2からの三相交流を直流に変換してバッテリ3に供給する。
【0016】
駆動系5は、第1クラッチ51と、自動変速機52と、第2クラッチ53と、プロペラシャフト54と、終減速差動装置55と、ドライブシャフト56と、を備える。
【0017】
第1クラッチ51は、エンジン1とモータジェネレータ2との間に設けられる。第1クラッチ51は、第1ソレノイドバルブ511によって油流量及び油圧を制御して連続的にトルク容量を変化させることのできる湿式多板クラッチである。第1クラッチ51は、トルク容量を変化させることで、締結状態、スリップ状態(半クラッチ状態)及び解放状態の3つの状態に制御される。
【0018】
自動変速機52は、前進7段・後進1段の有段変速機である。自動変速機52は、4組の遊星歯車機構と、遊星歯車機構を構成する複数の回転要素に接続されてそれらの連係状態を変更する複数の摩擦締結要素(3組の多板クラッチ、4組の多板ブレーキ、2組のワンウェイクラッチ)と、を備える。各摩擦締結要素への供給油圧を調整し、各摩擦締結要素の締結・解放状態を変更することで変速段が切り替わる。
【0019】
第2クラッチ53は、第2ソレノイドバルブ531によって油流量及び油圧を制御して連続的にトルク容量を変化させることのできる湿式多板クラッチである。第2クラッチ53は、トルク容量を変化させることで、締結状態、スリップ状態(半クラッチ状態)及び解放状態の3つの状態に制御される。本実施形態では、自動変速機52が備える複数の摩擦締結要素の一部を第2クラッチ53として流用する。
【0020】
プロペラシャフト54は、自動変速機52の出力軸と終減速差動装置55の入力軸とを接続する。
【0021】
終減速差動装置55は、終減速装置と差動装置とを一体化したものであり、プロペラシャフト54の回転を減速させた上で左右のドライブシャフト56に伝達する。また、カーブ走行時など、左右のドライブシャフト56の回転速度に速度差を生じさせる必要があるときには、自動的に速度差を与えて円滑な走行ができるようにする。左右のドライブシャフト56の先端にはそれぞれ後輪57が取り付けられる。
【0022】
ランキンサイクルシステム6は、エンジン1の冷却水からエンジン1の廃熱を冷媒に回収し、回収した廃熱を動力として回生するシステムである。ランキンサイクルシステム6については図2を参照して詳しく説明する。なお、エンジン1の廃熱の回収は、エンジン1の冷却水ではなく排気ガスから回収しても構わない。
【0023】
図2は、ランキンサイクルシステム6の概略構成図である。
【0024】
図2に示すように、ランキンサイクルシステム6は、冷媒通路61と、ポンプ62と、蒸発器63と、圧力センサ64と、開閉弁65と、膨張機66と、凝縮器67と、を備える。
【0025】
冷媒通路61は、冷媒が循環する通路である。冷媒通路61は、ポンプ62と蒸発器63とを接続する第1通路61Aと、蒸発器63と膨張機66とを接続する第2通路61Bと、膨張機66と凝縮器67とを接続する第3通路61Cと、凝縮器67とポンプ62とを接続する第4通路61Dと、を備える。なお、本実施形態では冷媒として約80[℃]から90[℃]程度で蒸発する冷媒を使用しているが、蒸発する温度はこれに限られるものではなく、エンジン1の仕様や目的に応じて適宜最適なものを選択すれば良い。
【0026】
ポンプ62は、電動ポンプ62であり、液体の冷媒を蒸発器63に圧送する。
【0027】
蒸発器63は、エンジン1を冷却した後の高温の冷却水と、ポンプ62によって圧送されてきた液体の冷媒と、の間で熱交換を行わせ、液体の冷媒を加熱して気化させる。
【0028】
圧力センサ64は、膨張機66の上流に位置するように、第2通路61Bに設けられる。圧力センサ64は、第2通路61Bを流れる冷媒の圧力(以下「冷媒圧力」という。)を検出する。
【0029】
開閉弁65は、膨張機66の上流に位置するように、第2通路61Bに設けられる。開閉弁65は、コントローラ7によって制御されて、第2通路61Bを開閉する。開閉弁65を開くことで、蒸発器63で気化された冷媒が膨張機66に流入する。
【0030】
膨張機66は、回転軸661と、回転軸661の一端に設けられたタービン662と、回転軸661の他端に設けられた膨張機プーリ663(図1参照)と、を備える。
【0031】
タービン662は、蒸発器63で気化された冷媒を膨張させることによって熱を回転エネルギに変換する蒸気タービンである。
【0032】
膨張機プーリ663は、ベルト11を介してクランクプーリ12に機械的に連結される。膨張機プーリ663と回転軸661との間には電磁クラッチ664が介装されており、必要に応じて膨張機66をエンジン1から切り離すことができるようになっている。
【0033】
凝縮器67は、凝縮器67に流入してきた気体の冷媒と、外気と、の間で熱交換を行わせ、気体の冷媒を冷却して液化させる。凝縮器67によって液化された冷媒は、ポンプ62によって再び蒸発器63に圧送され、冷媒通路61を循環する。
【0034】
コントローラ7は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。
【0035】
コントローラ7には、アクセルストロークセンサ60、車速センサ61、エンジン回転センサ62、モータジェネレータ回転センサ63及びSOC(State Of Charge)センサ64などのハイブリッド車両100の走行状態を検出するための各種センサの検出信号が入力される。
【0036】
アクセルストロークセンサ60は、目標駆動トルクとしてのアクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセル操作量」という。)を検出する。車速センサ61は、ハイブリッド車両100の車速を検出する。エンジン回転センサ62は、クランクシャフト13の回転速度(以下「エンジン回転速度」という。)を検出する。モータジェネレータ回転センサ63は、モータジェネレータ2の回転速度(以下「モータ回転速度」という。)を検出する。SOCセンサ64は、バッテリ蓄電量を検出する。
【0037】
そしてコントローラ7は、検出したハイブリッド車両100の走行状態に応じてEV(Electric Vehicle)走行モード又はHEV(Hybrid Electric Vehicle)走行モードのいずれか一方を目標走行モードとして選択する。
【0038】
なお、EV走行モードは、第1クラッチ51を解放し、モータジェネレータ2のみを動力源としてハイブリッド車両100を駆動する走行モードである。HEV走行モードは、第1クラッチ51を締結し、エンジン1を動力源として含みながらハイブリッド車両100を駆動する走行モードである。
【0039】
図3は、車速とアクセル操作量とに基づいて、目標走行モードを選択するマップである。このマップは、予備実験等によって予め作成されたものであり、コントローラ7に記憶されている。
【0040】
目標走行モード選択マップには、実線で示したEV走行モードからHEV走行モードへの走行モード切替線(以下「エンジン始動線」という。)と、破線で示したHEVモードからEVモードへの走行モード切替線(以下「エンジン停止線」という。)と、が設定される。
【0041】
現在の走行モードがEV走行モードのときは、車速とアクセル操作量とに基づいて定まる動作点がエンジン始動線の上方にあれば、目標走行モードがHEV走行モードに設定される。一方で、動作点がエンジン始動線の下方にあれば、目標走行モードがEV走行モードに設定される。
【0042】
また、現在の走行モードがHEV走行モードのときは、動作点がエンジン停止線の下方にあれば、目標走行モードがEV走行モードに設定される。一方で、動作点がエンジン停止線の上方にあれば、目標走行モードがHEV走行モードに設定される。
【0043】
ここで従来は、EV走行モードからHEV走行モードに移行するときに、第1クラッチ51を半クラッチ状態にしてモータジェネレータ2の動力によってエンジン1をクランキングし、再始動させていた。このエンジン1を再始動させるときのクランキング開始時には、モータジェネレータ2に、静止状態のクランクシャフト13を回転させるために必要なトルク(以下「起動トルク」という。)が負荷として入力される。
【0044】
そこで従来は、この起動トルクによってモータジェネレータ2の出力軸の回転速度が低下してショックが発生しないように、エンジン再始動時に起動トルク分だけモータトルクを増大させていた。そのため、EV走行モード時に、この起動トルク分だけ余力を残した状態で、モータジェネレータ2を駆動する必要があった。つまり、モータジェネレータ2で発生させることのできる最大トルク(以下「最大モータトルク」という。)からこの起動トルクを減じた制限トルクの範囲内でしか、モータジェネレータ2を駆動することができなかった。
【0045】
そこで本実施形態では、EV走行モード中に、膨張機66によってエンジン1のクランクシャフト13を回転させておくこととした。これにより、エンジン再始動時にモータジェネレータ2によってエンジン1をクランキングする必要がなくなるので、EV走行モード時にモータトルクを最大モータトルクまで増大させることができる。その結果、従来よりも走行中のEV走行の割合を増やすことができ、燃費を向上させることができる。以下、この本実施形態によるハイブリッド車両100の制御について説明する。
【0046】
図4は、本実施形態によるハイブリッド車両100の制御について説明するフローチャートである。コントローラ7は、本ルーチンをハイブリッド車両100の走行中に所定の演算周期(例えば10ms)で実行する。
【0047】
ステップS1において、コントローラ7は、現在の走行モードを判定する。コントローラ7は現在の走行モードがHEV走行モードであればステップS2の処理を行う。一方で、現在の走行モードがEV走行モードであればステップS4の処理を行う。
【0048】
ステップS2において、コントローラ7は、図3の目標走行モード選択マップを参照し、車速とアクセル操作量とに基づいて、目標走行モードがEV走行モードであるかを判定する。コントローラ7は、目標走行モードがEV走行モードでなければ今回の処理を終了する。一方で、目標走行モードがEV走行モードであればステップS3の処理を行う。
【0049】
ステップS3において、コントローラ7は、HEV走行モードからEV走行モードへの移行処理(以下「EVモード移行処理」という。)を実施する。EV走行モード移行処理の詳細については、図5を参照して後述する。
【0050】
ステップS4において、コントローラ7は、図3の目標走行モード選択マップを参照し、車速とアクセル操作量とに基づいて、目標走行モードがHEV走行モードであるかを判定する。コントローラ7は、目標走行モードがHEV走行モードでなければステップS5の処理を行う。一方で、目標走行モードがHEV走行モードであればステップS6の処理を行う。
【0051】
ステップS5において、コントローラ7は、EV走行モード処理を実施する。EV走行モード処理の詳細については、図8を参照して後述する。
【0052】
ステップS6において、コントローラ7は、EV走行モードからHEV走行モードへの移行処理(以下「HEVモード移行処理」という。)を実施する。HEV走行モード移行処理の詳細については、図10を参照して後述する。
【0053】
図5は、EV走行モード移行処理について説明するフローチャートである。
【0054】
ステップS31において、コントローラ7は、後述する図6のマップを参照し、膨張機66の回転速度(以下「膨張機回転速度」という。)Nranと冷媒圧力Prefとに基づいて、膨張機66のトルク(以下「膨張機トルク」という。)Tranを算出する。
【0055】
ステップS32において、コントローラ7は、後述する図7のテーブルを参照し、エンジン水温に基づいて、エンジン1を構成する部品間の摺動摩擦によって生じる負のトルクの絶対値(以下「フリクショントルク」という。)Tfriを算出する。
【0056】
ステップS33において、コントローラ7は、第1クラッチ51を解放し、エンジン1への燃料供給を停止する。
【0057】
ステップS34において、コントローラ7は、膨張機66を駆動してエンジン1を空回りさせるエンジン1の空回し運転を実施するか否かを判定する。具体的には、膨張機トルクTranがフリクショントルクTfriよりも大きいか否かを判定する。コントローラ7は、膨張機トルクTranがフリクショントルクTfriよりも大きければ、ステップS35の処理を行う。一方で、膨張機トルクTranがフリクショントルクTfri以下であれば、ステップS37の処理を行う。
【0058】
ステップS35において、コントローラ7は、開閉弁65を開き、電磁クラッチ664を締結する。これにより、EV走行時に冷媒が冷媒通路61を循環してタービン662が回転し、タービン662の回転に連動して回転軸661及び膨張機プーリ663が回転する。その結果、ベルト11を介してクランクシャフト13が回転させられてエンジン1が空回りする。
【0059】
ステップS36において、コントローラ7は、走行モードをEV走行モードに設定する。
【0060】
ステップS37において、コントローラ7は、開閉弁65を閉じ、電磁クラッチ664を解放する。これにより、EV走行の間、第2通路61Bの圧力を保持しておくことができる。そのため、エンジン再始動後のHEV走行時に開閉弁65を開けば、この保持した圧力でタービン662を回転させることができるので、ランキンサイクルシステム6によってハイブリッド車両100の動力をより効率的にアシストすることができる。
【0061】
図6は、膨張機回転速度Nranと冷媒圧力Prefとに基づいて、膨張機トルクTranを算出するマップである。このマップは、予備実験等によって予め作成されたものであり、コントローラ7に記憶されている。
【0062】
図6に示すように、膨張機トルクTranは、膨張機回転速度Nranが小さく、冷媒圧力Prefが高いときほど大きくなる。
【0063】
図7は、エンジン水温に基づいて、フリクショントルクTfriを算出するテーブルである。このテーブルは、予備実験等によって予め作成されたものであり、コントローラ7に記憶されている。
【0064】
図7に示すように、エンジン水温が低いときほどフリクショントルクは大きくなる。これは、エンジン水温が低いときほど、エンジン1を構成する部品間に供給される潤滑油の粘度が大きくなるためである。
【0065】
図8は、EV走行モード処理について説明するフローチャートである。
【0066】
ステップS51において、コントローラ7は、エンジン回転速度Neを読み込む。
【0067】
ステップS52において、コントローラ7は、後述する図9のテーブルを参照し、EV走行中のエンジン回転速度Neに基づいて、EV走行中のモータトルクの上限値を設定する。EV走行中のエンジン回転速度Neは、膨張機回転速度Nranと、膨張機プーリ663のプーリ径及びクランクプーリ12のプーリ径から定まるプーリ比と、に基づいて算出される。
【0068】
ステップS53において、コントローラ7は、設定されたモータトルクの上限値を超えない範囲でモータジェネレータ2を駆動し、EV走行を実施する。
【0069】
図9は、EV走行中のエンジン回転速度Neに基づいて、EV走行中のモータトルクの上限値を設定するテーブルである。このテーブルは、予備実験等によって予め作成されたものであり、コントローラ7に記憶されている。
【0070】
図9に示すように、EV走行中のエンジン回転速度Neが自立始動可能速度以上であれば、モータトルクの上限値は、最大モータトルクに設定される。自立始動可能速度は、混合気の吸入及び圧縮を行うことができ、その吸入、圧縮された混合気を点火することで、エンジン1の自立運転を開始させることができる回転速度である。本実施形態では200[rpm]に設定しているが、これに限られるものではなく、エンジン1仕様に応じて適宜設定すれば良い。
【0071】
そして、EV走行中のエンジン回転速度Neが自立始動可能速度よりも低くなるにつれて、モータトルクの上限値が小さくなるように設定される。これは、EV走行中のエンジン回転速度Neが自立始動可能速度より低ければ、エンジン再始動時に、モータジェネレータ2によってエンジン回転速度Neを自立始動可能速度まで上昇させる必要があるためである。つまり、エンジン再始動時に第1クラッチ51を半クラッチ状態にして、最大トルクとモータトルクの上限値との差分(以下「エンジン始動分トルク」という。)をモータジェネレータ2によってエンジン1に入力する必要があるためである。
【0072】
図10は、HEV走行モード移行処理について説明するフローチャートである。
【0073】
ステップS61において、コントローラ7は、エンジン回転速度Ne及びモータ回転速度Nmを読み込む。
【0074】
ステップS62において、コントローラ7は、後述するエンジン再始動中フラグが0に設定されているかを判定する。コントローラ7は、エンジン再始動中フラグが0に設定されていればステップS63の処理を行う。一方で、エンジン再始動中フラグが1に設定されていればステップS65の処理を行う。なお、エンジン再始動中フラグはハイブリッド車両100の始動時には0に設定される。
【0075】
ステップS63において、コントローラ7は、エンジン回転速度Neが自立始動可能速度以上かを判定する。コントローラ7は、エンジン回転速度Neが自立始動可能速度以上であればステップS64の処理を行う。一方で、エンジン回転速度Neが自立始動可能速度未満であればステップS70の処理を行う。
【0076】
ステップS64において、コントローラ7は、モータジェネレータ2によるクランキングを実施せず、空回し運転中のエンジン1に対して燃料噴射及び点火を行い、エンジン1を自立始動させる。
【0077】
ステップS65において、コントローラ7は、エンジン回転速度Neがモータ回転速度Nmまで上昇し、エンジン回転速度Neとモータ回転速度Nmとが等しくなったかを判定する。コントローラ7は、エンジン回転速度Neがまだモータ回転速度Nmまで上昇しておらず、エンジン回転速度Neとモータ回転速度Nmとが等しくなければステップS66の処理を行う。一方で、エンジン回転速度Neとモータ回転速度Nmとが等しくなっていればステップS67の処理を行う。
【0078】
ステップS66において、コントローラ7は、エンジン再始動中フラグを1に設定する。エンジン再始動中フラグは、空回し運転中のエンジン1に対して燃料噴射及び点火を行い、エンジン1を自立始動させるときに、エンジン回転速度Neとモータ回転速度Nmとが等しくなるまで1に設定されるフラグである。
【0079】
ステップS67において、コントローラ7は、エンジン再始動中フラグを0に設定する。
【0080】
ステップS68において、コントローラ7は、第1クラッチ51を締結する。このように、エンジン回転速度Neとモータ回転速度Nmとが等しくなったときに第1クラッチ51を締結することで、第1クラッチ締結時のショックを抑制する。
【0081】
ステップS69において、コントローラ7は、走行モードをHEV走行モードに設定する。コントローラ7は、走行モードをHEV走行モードに設定した後、開閉弁65を開き、電磁クラッチ664を締結することによって、タービン662の回転に連動してクランクシャフト13を回転させ、ランキンサイクルシステム6によってハイブリッド車両100の動力をアシストする。
【0082】
ステップS70において、コントローラ7は、モータトルクを最大モータトルクまで上昇させるとともに、第1クラッチ51を半クラッチ状態にしてモータジェネレータ2によってエンジン1をクランキングし、再始動させる。
【0083】
図11は、本実施形態によるハイブリッド車両100の制御の動作を示すタイムチャートである。なお、発明の理解を容易にするため、本実施形態による動作を細実線で示し、従来例による動作を破線で示し、共通の動作を太実線で示した。
【0084】
時刻t1でアクセルペダルが戻されると、アクセル操作量の低下に応じて目標駆動トルクがモータトルクのみで走行可能なトルクまで低下する。
【0085】
時刻t1から時刻t2までは、駆動トルクが目標駆動トルクとなるように、エンジン1トルク及びモータトルクを低下させる。
【0086】
時刻t2で、モータトルクが目標駆動トルクになると、第1クラッチ51を解放するとともに、燃料噴射を停止してエンジン1の自立運転を停止し、モータトルクのみで走行するEV走行を開始する。そして、膨張機トルクTranとフリクショントルクTfriとを比較して、エンジン1の空回し運転を実施するかどうかを判定する。
【0087】
ここでは、膨張機トルクTranがフリクショントルクTfriよりも大きいので、エンジン1の空回し運転を実施するために、開閉弁65を開き、電磁クラッチ664を締結する。これにより、冷媒が冷媒通路61を循環してタービン662が回転し、タービン662の回転に連動して回転軸661及び回転軸661の他端に設けられた膨張機プーリ663が回転する。その結果、ベルトを介してクランクシャフト13が回転させられてエンジン1の空回し運転が実施される。
【0088】
時刻t3でアクセルペダルが踏み込まれると、アクセル操作量の増加に応じて目標駆動トルクが最大モータトルクまで増加する。
【0089】
ここで従来は、モータジェネレータ2によってエンジン1をクランキングし、再始動させていたので、制限トルクの範囲内でしかモータジェネレータ2を駆動することができなかった。そのため、目標駆動トルクが制限トルクよりも大きい最大モータトルクになった時刻t3の時点で、HEV走行に移行するためにエンジン1を再始動させる必要があった。
【0090】
これに対して、本実施形態では、EV走行中にエンジン1の空回し運転を実施することで、モータジェネレータ2によるクランキングを実施せずに、空回し運転中のエンジン1に対して燃料噴射及び点火を行い、エンジン1を自立始動させることができる。そのため、モータジェネレータ2を最大モータトルクで駆動することができ、時刻t3以降もEV走行を実施することができる。
【0091】
時刻t4でアクセルペダルがさらに踏み込まれ、アクセル操作量がさらに増加して目標駆動トルクが最大モータトルクよりも大きくなると、HEV走行への移行処理が行われる。ここでは、空回し運転中のエンジン回転速度Neが自立始動可能速度以上なので、空回し運転中のエンジン1に対して燃料噴射及び点火を行い、エンジン1を自立始動させる。
【0092】
そして、時刻t5でエンジン回転速度Neとモータ回転速度Nmとが等しくなると第1クラッチ51が締結される。
【0093】
このように、本実施形態の場合は、従来と比較して、目標駆動トルクが最大トルクとなっている時刻t3から時刻t4においてEV走行を実施できるので、燃費を向上させることができる。
【0094】
以上説明した本実施形態によれば、ランキンサイクルシステム6によってエンジン1の廃熱を動力として回生し、その回生した動力でEV走行時にエンジン1の空回し運転を実施することにした。
【0095】
これにより、EV走行からHEV走行に移行するときのエンジン再始動時において、空回し運転中のエンジン回転速度Neが自立始動可能速度以上であれば、空回し運転中のエンジン1に対して燃料噴射及び点火を行うことで、エンジン1を自立始動させることができる。つまり、モータジェネレータ2によるクランキングを実施せずに、エンジン1を自立始動させることができる。
【0096】
そのため、EV走行時に、起動トルク分の余力を残した状態でモータジェネレータ2を駆動する必要がなくなる。つまり、空回し運転中のエンジン回転速度Neが自立始動可能速度以上であれば、モータトルクの上限値を最大モータトルクに設定することができ、EV走行時に最大モータトルクまでモータジェネレータ2の出力を増大させることができる。したがって、走行中におけるEV走行の割合を増やすことができるので、燃費を向上させることができる。
【0097】
一方で、空回し運転中のエンジン回転速度Neが自立始動可能速度未満であれば、エンジン回転速度Neが低くなるほどモータトルクの上限値が小さくなるように設定する。
【0098】
そして、EV走行からHEV走行に移行するときのエンジン再始動時において、空回し中のエンジン回転速度Neが自立始動可能速度未満であれば、エンジン再始動時のエンジン回転速度Neに応じたエンジン始動分トルクをモータジェネレータ2によってエンジン1に入力し、モータジェネレータ2によるクランキングの補助を行ってエンジン1を再始動する。
【0099】
このとき、既に自立始動可能速度未満で回転しているクランクシャフト13を自立始動可能速度まで上昇させるために必要なエンジン始動分トルクは、クランクシャフト13を静止させた状態から回転させるために必要な起動トルクよりも小さい。
【0100】
そのため、空回し運転中のエンジン回転速度Neが自立始動可能速度未満のときに設定されるモータトルクの上限値(最大モータトルク−エンジン始動分トルク)も、従来の制限トルク(最大モータトルク−起動トルク)よりも大きくすることができる。したがって、走行中におけるEV走行の割合を増やすことができるので、より一層燃費を向上させることができる。
【0101】
また本実施形態によれば、フリクショントルクTfriが膨張機トルクTranより大きいときは、ランキンサイクルシステム6の開閉弁65を閉じるとともに、電磁クラッチ664を解放してエンジン1の空回し運転を実施しないことした。
【0102】
これは、フリクショントルクTfriが膨張機トルクTranより大きければ、エンジン1の空回し運転を実施してもエンジン回転速度Neを自立始動可能速度以上に維持することが難しい。そのため、このような場合は、むしろランキンサイクルシステム6の開閉弁65を閉じて第2冷媒通路61の圧力を保持しておくことで回生動力を溜めておき、エンジン1再始動後のHEV走行時にこの回生動力で駆動力をアシストした方が効率的なためである。
【0103】
このようにすることで、HEV走行時にこの回生動力分だけエンジントルクを抑えることができるので、燃費を向上させることができる。
【0104】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0105】
例えば、第1クラッチ51を遊星歯車機構に置き換えても良い。
【0106】
また、ハイブリッド車両100の第2クラッチ53は、モータジェネレータ2と自動変速機42との間に別途に設けても良いし、自動変速機52の後方に別途に設けても良い。またこれらに限らず、第2クラッチ53は、モータジェネレータ2から駆動輪57までの間に設けてあれば良い。
【符号の説明】
【0107】
1 エンジン
2 モータジェネレータ(モータ)
6 ランキンサイクルシステム(廃熱回生装置)
11 ベルト(回生動力伝達機構)
12 クランクプーリ(回生動力伝達機構)
51 第1クラッチ(伝達量調節器)
63 熱交換器(蒸発器)
65 開閉弁(流量調整弁)
66 膨張機
100 ハイブリッド車両
663 膨張機プーリ(回生動力伝達機構)
664 電磁クラッチ(クラッチ)
S31 回生動力推定手段
S32 摩擦力推定手段
S35 クラッチ制御手段
S37 流量調整弁制御手段、クラッチ制御禁止手段
S52 モータ出力設定手段
S63 エンジン始動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源としてエンジン及びモータを備えるハイブリッド車両の制御装置であって、
前記エンジンの廃熱を回生動力として回生する廃熱回生装置と、
前記モータのみを動力源として走行するEV走行時に、前記廃熱回生装置によって回生した回生動力を前記エンジンの出力軸に伝達する回生動力伝達機構と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
回生動力の動力伝達経路に設けられるクラッチと、
前記EV走行時に、前記クラッチを接続するクラッチ制御手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記廃熱回生装置によって回生した回生動力を推定する回生動力推定手段と、
前記エンジンの摺動部で発生する摩擦力を推定する摩擦力推定手段と、
前記摩擦力が前記回生動力よりも大きいときは、前記クラッチ制御を禁止して、前記EV走行時に前記クラッチを解放したままとするクラッチ制御禁止手段と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記廃熱回収装置は、
前記エンジンの廃熱と冷媒との間で熱交換を行う熱交換器と
前記熱交換器で熱交換した冷媒によって駆動されて、回生動力を発生する膨張機と、
前記膨張機に流入する冷媒の流量を調整する流量調整弁と、
を含み、
前記膨張機に流入する冷媒の圧力と、前記膨張機の回転速度と、に基づいて前記膨張機の回生動力を推定する回生動力推定手段と、
エンジン水温に応じて、前記エンジンの摺動部で発生する摩擦力を推定する摩擦力推定手段と、
前記摩擦力が前記膨張機の回生動力よりも大きいときは、前記EV走行時に前記流量調整弁を閉じる流量調整弁制御手段と、
前記摩擦力が前記膨張機の回生動力よりも大きいときは、前記クラッチ制御を禁止して、前記EV走行時に前記クラッチを解放したままとするクラッチ制御禁止手段と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記EV走行時の前記エンジンの出力軸の回転速度に基づいて、前記モータの出力上限値を設定するモータ出力設定手段を備える、
ことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1つに記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
前記モータ出力設定手段は、
前記EV走行時の前記エンジンの出力軸の回転速度が、前記エンジンを自立始動させることが可能な所定の回転速度以上のときは、前記モータの出力上限値を前記モータの最大出力値に設定する、
ことを特徴とする請求項5に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項7】
前記モータ出力設定手段は、
前記EV走行時の前記エンジンの出力軸の回転速度が、前記エンジンを自立始動させることが可能な所定の回転速度未満のときは、前記エンジンの出力軸の回転速度が低くなるほど前記モータの出力上限値が小さくなるように設定する、
ことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項8】
前記エンジンと前記モータとの間の動力伝達経路に設けられ、動力の伝達量を調節する伝達量調節器と、
前記EV走行から、前記エンジンを動力源として含みながら走行するHEV走行へと移行するときに、前記伝達量調節器による動力の伝達量をゼロに制御した状態で前記エンジンを再始動させるエンジン始動手段と、
を備えることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1つに記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項9】
前記エンジン始動手段は、
前記EV走行時の前記エンジンの出力軸の回転速度が、前記エンジンを自立始動させることが可能な所定の回転速度以上のときに、前記伝達量調節器による動力の伝達量をゼロに制御した状態で前記エンジンを再始動させる、
ことを特徴とする請求項8に記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−153192(P2012−153192A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12163(P2011−12163)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】