説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】第1電動機、第2電動機、及び自動変速機を備えたハイブリッド車両におけるコーストダウン変速を好適化するハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】コーストダウン変速に際して、第1電動機MG1により反力トルクを発生させることでその変速を進行させるものであることから、変速時間を増加させることなく電力収支を成立させることができる。すなわち、第1電動機MG1、第2電動機MG2、及び自動変速部20を備えたハイブリッド車両におけるコーストダウン変速を好適化するハイブリッド車両の制御装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン等の機関、第1電動機、第2電動機、及び自動変速機を備えたハイブリッド車両の制御装置に関し、特に、コーストダウン変速を好適化するための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
第1回転要素、入力回転部材であってエンジン等の機関に連結された第2回転要素、及び出力回転部材である第3回転要素を備えた差動機構と、前記第1回転要素に連結された第1電動機と、前記第3回転要素から駆動輪までの動力伝達経路に動力伝達可能に接続された第2電動機とを、備えたハイブリッド車両が知られている。斯かるハイブリッド車両において、変速ショックを抑制する技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載された車両用動力伝達装置の制御装置がそれである。この技術によれば、コースト走行中の自動変速部の軸トルクに相関する値が所定値範囲のときにその自動変速部のコーストダウン変速を実行することで、コーストダウン変速時に発生する加減速度の低下が抑制されると共に、変速ショックを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−290582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来の技術では、例えば前記第2電動機の回転速度変化が比較的大きい場合等において、必ずしも十分にコーストダウン変速を好適化することができなかった。すなわち、コーストダウン変速においては、前記第1電動機に対して第2電動機の出力パワーが大きく、バッテリの出力制限側に偏る傾向があり、その出力制限値を超過する場合等においては前記第2電動機の出力を所望の値に制御することができないため、変速時間の増加や電力収支の過不足等が生じるおそれがあった。このため、第1電動機、第2電動機、及び自動変速機を備えたハイブリッド車両におけるコーストダウン変速を好適化する技術の開発が求められていた。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、第1電動機、第2電動機、及び自動変速機を備えたハイブリッド車両におけるコーストダウン変速を好適化するハイブリッド車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる目的を達成するために、本第1発明の要旨とするところは、第1回転要素、入力回転部材であって機関に連結された第2回転要素、及び出力回転部材である第3回転要素を備えた差動機構と、前記第1回転要素に連結された第1電動機と、前記第3回転要素から駆動輪までの動力伝達経路に動力伝達可能に接続された第2電動機と、前記差動機構から駆動輪までの動力伝達経路に設けられた自動変速機とを、備えたハイブリッド車両の制御装置であって、前記自動変速機のコーストダウン変速に際して、前記第1電動機によりトルクを発生させることでその変速を進行させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
このようにすれば、第1電動機、第2電動機、及び自動変速機を備えたハイブリッド車両におけるその自動変速機のコーストダウン変速に際して、前記第1電動機によりトルクを発生させることでその変速を進行させるものであることから、変速時間を増加させることなく電力収支を成立させることができる。すなわち、第1電動機、第2電動機、及び自動変速機を備えたハイブリッド車両におけるコーストダウン変速を好適化するハイブリッド車両の制御装置を提供することができる。
【0008】
ここで、前記第1発明に従属する本第2発明の要旨とするところは、前記自動変速機のコーストダウン変速が要求された場合、その変速のイナーシャ相開始前に、前記機関の回転速度が一時的に変速後の目標機関回転速度よりも高くなるようにその機関の出力を制御するものである。このようにすれば、機関イナーシャを利用して変速を進行させることができると共に、変速後の機関回転速度を狙いどおりに制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明が好適に適用されるハイブリッド車両の動力伝達装置の一部を例示する骨子図である。
【図2】図1に示す自動変速部の変速作動に用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせを説明する作動図表である。
【図3】図1に示す動力伝達装置において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。
【図4】図1に示す動力伝達装置の作動を制御するために備えられた電気系統の要部を例示する図である。
【図5】図4に示す電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図6】従来技術による第3速「3rd」から第1速「1st」へのコーストダウン変速制御における各関係値の変化を示すタイムチャートである。
【図7】本実施例の第3速「3rd」から第1速「1st」へのコーストダウン変速制御における各関係値の変化を示すタイムチャートである。
【図8】図4に示す電子制御装置による本実施例のコーストダウン変速制御の要部を説明するフローチャートである。
【図9】図8に示すコーストダウン変速制御におけるエンジン回転速度上昇量算出制御の要部を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明が好適に適用されるハイブリッド車両の動力伝達装置10の一部を例示する骨子図である。なお、この動力伝達装置10は、その軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
【0012】
図1に示す動力伝達装置10は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパ(振動減衰装置)等を介して間接に連結された無段変速部としての差動部16と、その差動部16と図示しない駆動輪との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている動力伝達部としての自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている出力軸22とを直列に備えている。この動力伝達装置10は、例えば車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、上記入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパを介して直接的に連結された走行用の駆動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン24と図示しない駆動輪との間に設けられて、そのエンジン24からの動力を動力伝達経路の一部を構成する図示しない差動歯車装置(終減速機)及び車軸等を順次介して駆動輪へ伝達する。
【0013】
上記差動部16は、第1電動機MG1と、上記入力軸14に入力された上記エンジン24の出力を機械的に分配する機械的機構であってそのエンジン24の出力を上記第1電動機MG1及び伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配装置26と、上記伝達部材18と一体的に回転するように作動的に連結されている第2電動機MG2とを備えている。上記第1電動機MG1及び第2電動機MG2は、好適には、何れも走行用の駆動源(モータ)としての機能及び発電機(ジェネレータ)としての機能を併せ持つ所謂モータジェネレータであるが、上記第1電動機MG1は反力を発生させるための発電機としての機能を少なくとも備え、上記第2電動機MG2は走行用の駆動源としての機能を少なくとも備える。
【0014】
上記動力分配装置26は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置28を主体として構成されている。この第1遊星歯車装置28は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転及び公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を回転要素(要素)として備えている。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1である。
【0015】
前記動力分配装置26においては、上記第1キャリヤCA1が前記入力軸14すなわちエンジン24に、上記第1サンギヤS1が前記第1電動機MG1に、上記第1リングギヤR1が前記伝達部材18にそれぞれ連結されている。このように構成された動力分配装置26は、上記第1遊星歯車装置28の3要素である第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動状態とされることから、前記エンジン24の出力が前記第1電動機MG1と伝達部材18とに分配されると共に、分配されたそのエンジン24の出力の一部で前記第1電動機MG1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり前記第2電動機MG2が回転駆動される。これにより、前記差動部16(動力分配装置26)は電気的な差動装置として機能させられて例えばその差動部16は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、前記エンジン24の所定回転に拘わらず前記伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。
【0016】
すなわち、前記差動部16は、その変速比γ0(入力軸14の回転速度NIN/伝達部材18の回転速度N18)が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する。このように、前記動力分配装置26(差動部16)に動力伝達可能に連結された前記第1電動機MG1、第2電動機MG2、及びエンジン24の運転状態が制御されることにより、前記入力軸14の回転速度と出力軸として機能する前記伝達部材18の回転速度の差動状態が制御される無段変速機構として作動させられる。すなわち、本実施例の動力伝達装置10においては、前記動力分配装置26が第1回転要素RE1としての第1サンギヤS1、入力回転部材であって前記エンジン24に連結された第2回転要素RE2としての第1キャリアCA1、及び出力回転部材であって第3回転要素RE3としての第1リングギヤR1を備えた差動機構に対応する。また、前記エンジン24が第2回転要素RE2に連結された機関に対応する。
【0017】
前記自動変速部20は、前記差動部16から図示しない駆動輪への動力伝達経路の一部を構成する有段式の自動変速機である。この自動変速部20は、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置30、シングルピニオン型の第3遊星歯車装置32、及びシングルピニオン型の第4遊星歯車装置34を備え、有段式の自動変速機として機能する遊星歯車式の多段変速機である。上記第2遊星歯車装置30は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転及び公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。上記第3遊星歯車装置32は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転及び公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。上記第4遊星歯車装置34は、第4サンギヤS4、第4遊星歯車P4、その第4遊星歯車P4を自転及び公転可能に支持する第4キャリヤCA4、第4遊星歯車P4を介して第4サンギヤS4と噛み合う第4リングギヤR4を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ4を有している。第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3、第4サンギヤS4の歯数をZS4、第4リングギヤR4の歯数をZR4とすると、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3、上記ギヤ比ρ4はZS4/ZR4である。
【0018】
前記自動変速部20においては、上記第2サンギヤS2と第3サンギヤS3とが一体的に連結され、第2クラッチC2を介して前記伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介して前記ケース12に選択的に連結されるようになっている。また、上記第2キャリヤCA2が第2ブレーキB2を介して前記ケース12に選択的に連結されるようになっている。また、上記第4リングギヤR4が第3ブレーキB3を介して前記ケース12に選択的に連結されるようになっている。また、上記第2リングギヤR2と第3キャリヤCA3と第4キャリヤCA4とが一体的に連結されて前記出力軸22に連結されている。また、上記第3リングギヤR3と第4サンギヤS4とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して前記伝達部材18に選択的に連結されるようになっている。
【0019】
上記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、及び第3ブレーキB3(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBという)は、従来の車両用自動変速機においてよく用いられている係合要素としての油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキ等により構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
【0020】
図2は、前記自動変速部20の変速作動に用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせを説明する作動図表である。この図2に示すように、前記自動変速部20においては、解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とにより所謂クラッチ・ツウ・クラッチ変速が実行されて各ギヤ段(変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する変速比γ(=伝達部材18の回転速度N18/出力軸22の回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られる。
【0021】
例えば、図2の係合作動表に示されるように、前記第1クラッチC1及び第3ブレーキB3の係合により変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段「1st」が成立させられる。また、前記第1クラッチC1及び第2ブレーキB2の係合により変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段「2nd」が成立させられる。また、前記第1クラッチC1及び第1ブレーキB1の係合により変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段「3rd」が成立させられる。また、前記第1クラッチC1及び第2クラッチC2の係合により変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段「4th」が成立させられる。また、前記第1クラッチC1及び第3ブレーキB3の係合により上記第1速ギヤ段が成立させられた状態において、前記第2電動機MG2の車両後進方向の駆動により変速比が「3.357」程度である第1速後進ギヤ段が成立させられる。また、前記第2クラッチC2及び第3ブレーキB3の係合により変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である第2後進ギヤ段が成立させられる。また、前記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、及び第3ブレーキB3の解放によりニュートラル「N」状態が成立させられる。
【0022】
以上のように構成された本実施例の動力伝達装置10において、無段変速機として機能する前記差動部16と有段変速機として機能する自動変速部20とで全体として無段変速機が構成される。また、前記差動部16の変速比が一定となるように制御することで、その差動部16と前記自動変速部20とで有段変速機と同等の状態を構成することが可能とされる。
【0023】
具体的には、前記差動部16が無段変速機として機能し、且つその差動部16に直列の前記自動変速部20が有段変速機として機能することにより、その自動変速部20の少なくとも1つの変速段に対して前記自動変速部20に入力される回転速度(以下、自動変速部20の入力回転速度)すなわち伝達部材18の回転速度(以下、伝達部材回転速度N18)が無段的に変化させられてその変速段において無段的な変速比幅が得られる。従って、前記動力伝達装置10の総合変速比γT(=入力軸14の回転速度NIN/出力軸22の回転速度NOUT)が無段階に得られ、前記動力伝達装置10において無段変速機が構成される。この動力伝達装置10の総合変速比γTは、前記差動部16の変速比γ0と前記自動変速部20の変速比γとに基づいて形成される前記動力伝達装置10全体としてのトータル変速比γTである。
【0024】
例えば、図2の係合作動表に示される前記自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対し伝達部材回転速度N18が無段的に変化させられることで、各ギヤ段それぞれについて無段的な変速比幅が得られる。従って、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって、前記動力伝達装置10全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られる。また、前記差動部16の変速比が一定となるように制御され、且つ前記クラッチC及びブレーキBが選択的に係合作動させられて第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の何れか或いは後進ギヤ段(後進変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する前記動力伝達装置10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。従って、前記動力伝達装置10において有段変速機と同等の状態が構成される。
【0025】
例えば、前記差動部16の変速比γ0が「1」に固定されるように制御されると、図2の係合作動表に示されるようにその自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対応する前記動力伝達装置10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。また、前記自動変速部20の第4速ギヤ段において前記差動部16の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように制御されると、その第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.7」程度であるトータル変速比γTが得られる。
【0026】
図3は、前記差動部16及び自動変速部20から構成される前記動力伝達装置10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置28、30、32、34のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、横線X1が回転速度零を示し、横線X2が回転速度「1.0」すなわち前記入力軸14に連結された前記エンジン24の回転速度NEを示し、横線XGが前記伝達部材18の回転速度を示している。
【0027】
また、前記差動部16を構成する前記動力分配装置26の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第1回転要素RE1に対応する第1サンギヤS1、第2回転要素RE2に対応する第1キャリヤCA1、第3回転要素RE3に対応する第1リングギヤR1の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は前記第1遊星歯車装置28のギヤ比ρ1に応じて定められている。更に、前記自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、Y4が第4回転要素RE4に対応し且つ相互に連結された第2サンギヤS2及び第3サンギヤS3を、Y5が第5回転要素RE5に対応する第2キャリヤCA2を、Y6が第6回転要素RE6に対応する第4リングギヤR4を、Y7が第7回転要素RE7に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3キャリヤCA3、及び第4キャリヤCA4を、Y8が第8回転要素RE8に対応し且つ相互に連結された第3リングギヤR3及び第4サンギヤS4をそれぞれ表し、それらの間隔は第2、第3、第4遊星歯車装置30、32、34のギヤ比ρ2、ρ3、ρ4に応じてそれぞれ定められている。また、共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、前記差動部16では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ1に対応する間隔に設定される。また、前記自動変速部20では各第2、第3、第4遊星歯車装置30、32、34毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
【0028】
図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の動力伝達装置10は、前記動力分配装置26(差動部16)において、前記第1遊星歯車装置28の第1回転要素RE1(第1キャリヤCA1)が前記第1電動機MG1に連結され、第2回転要素RE2が前記入力軸14すなわちエンジン24に連結され、第3回転要素(第1リングギヤR1)RE3が前記伝達部材18及び第2電動機MG2に連結されており、前記入力軸14の回転を前記伝達部材18を介して前記自動変速部20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により第1サンギヤS1の回転速度と第1リングギヤR1の回転速度との関係が示される。
【0029】
例えば、前記差動部16においては、第1回転要素RE1乃至第3回転要素RE3が相互に相対回転可能とされる差動状態とされ、直線L0と縦線Y3との交点で示される第1リングギヤR1の回転速度が車速Vに拘束されて略一定である場合には、エンジン回転速度NEを制御することによって直線L0と縦線Y2との交点で示される第1キャリヤCA1の回転速度が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y1との交点で示される第1サンギヤS1の回転速度すなわち第1電動機MG1の回転速度が上昇或いは下降させられる。
【0030】
また、前記差動部16の変速比γ0が「1」に固定されるように前記第1電動機MG1の回転速度を制御することによって第1サンギヤS1の回転がエンジン回転速度NEと同じ回転とされると、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で第1リングギヤR1の回転速度すなわち前記伝達部材18が回転させられる。或いは、前記差動部16の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように前記第1電動機MG1の回転速度を制御することによって第1サンギヤS1の回転が零とされると、エンジン回転速度NEよりも増速された回転で伝達部材回転速度N18が回転させられる。
【0031】
また、前記自動変速部20において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して前記伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介して前記ケース12に選択的に連結される。また、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介して前記ケース12に選択的に連結される。また、第6回転要素RE6は第3ブレーキB3を介して前記ケース12に選択的に連結される。また、第7回転要素RE7は前記出力軸22に連結される。また、第8回転要素RE8は第1クラッチC1を介して前記伝達部材18に選択的に連結される。
【0032】
前記自動変速部20では、前記差動部16において出力回転部材である前記伝達部材18(第3回転要素RE3)の回転が第1クラッチC1が係合されることで第8回転要素RE8に入力されると、図3に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることで、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線XGとの交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、前記出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速(1st)における前記出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速(2nd)における前記出力軸22の回転速度が示される。また、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速(3rd)における前記出力軸22の回転速度が示される。また、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速(4th)における前記出力軸22の回転速度が示される。
【0033】
図4は、本実施例の動力伝達装置10の作動を制御するために備えられた電気系統の要部を例示する図である。この図4に示すように、前記動力伝達装置10は、ハイブリッド駆動制御用電子制御装置36、エンジン制御用電子制御装置38、及び電動機制御用電子制御装置40を備えている。これらの電子制御装置36、38、40は、何れもCPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェース等から成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより前記エンジン24、第1電動機MG1、及び第2電動機MG2に関するハイブリッド駆動制御や、前記自動変速部20の変速制御等の各種制御を実行する。ここで、本実施例においては、上記電子制御装置38が主に前記エンジン24の駆動(出力トルク)制御を、上記電子制御装置40が主に前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の駆動(出力トルク)制御を、上記電子制御装置36が上記電子制御装置38、40を介しての前記動力伝達装置10全体の駆動制御及び前記自動変速部20の変速制御等を行う態様について説明するが、これら電子制御装置36、38、40は、必ずしも個別の制御装置として備えられたものでなくともよく、一体の制御装置として備えられたものであってもよい。また、上記電子制御装置36、38、40それぞれが更に個別の制御装置に分けて備えられたものであってもよい。
【0034】
図4に示すように、上記電子制御装置36には、前記動力伝達装置10の各部に設けられた各種センサやスイッチ等から各種信号が供給されるようになっている。すなわち、車速センサから車速Vを表す信号、アクセル開度センサから運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量であるアクセル開度ACCを表す信号、MG1回転速度センサから前記第1電動機MG1の回転速度NMG1を表す信号、MG2回転速度センサから前記第2電動機MG2の回転速度NMG2を表す信号、出力軸回転速度センサから前記出力軸22の回転速度NOUTに対応する信号、ATF油温センサから前記自動変速部20等に供給される作動油の温度であるATF油温TATFに対応する信号、バッテリSOCセンサから図示しないバッテリの蓄電量に応じた入出力制限値すなわち入力制限値Win及び出力制限値Woutを表す信号等がそれぞれ供給されるようになっている。
【0035】
また、前記電子制御装置36からは、前記電子制御装置38、40へそれぞれ前記エンジン24の駆動制御、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の駆動制御、及び前記自動変速部20の変速制御を行うための指令信号が出力されるようになっている。すなわち、前記電子制御装置38に対して、エンジントルク指令として、例えばエンジン出力制御装置42(図5を参照)を介して前記エンジン24の出力を制御するための信号である、そのエンジン24の吸気管に備えられた電子スロットル弁の開度θTHを操作するスロットルアクチュエータへの駆動信号、燃料噴射装置による吸気管等への燃料供給量を制御する燃料供給量信号、或いは点火装置によるエンジン24の点火時期を指令する点火信号等が出力される。また、前記自動変速部20に供給される油圧を制御するための図示しない油圧制御回路に備えられた電磁制御弁に対して、それら電磁制御弁の出力圧を制御するための油圧指令信号が出力される。また、前記電子制御装置40に対して、MG1トルク指令及びMG2トルク指令として、第1インバータ44及び第2インバータ46を介して図示しないバッテリから前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2に対して供給される電気エネルギ等を制御するための指令信号が出力される。
【0036】
図5は、前記電子制御装置36、38、40等に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。好適には、この図5に示す有段変速制御手段50、コーストダウン変速判定手段52、及びハイブリッド駆動制御手段54は、何れも前記電子制御装置36に機能的に備えられるものであるが、これらの制御機能は、前記電子制御装置36、38、40の何れに備えられたものであってもよく、更にはそれら前記電子制御装置36、38、40とは別の制御装置に備えられたものであってもよい。また、ハイブリッド駆動制御手段54に含まれるエンジン駆動制御手段56が前記電子制御装置38に、第1電動機駆動制御手段58及び第2電動機駆動制御手段60が前記電子制御装置40に機能的に備えられるというように、それらの制御機能が前記電子制御装置36、38、40に分散的に備えられると共に各電子制御装置36、38、40相互間で情報の送受信を行うことで処理を実行するものであっても構わない。
【0037】
図5に示す有段変速制御手段50は、前記自動変速部20による変速を制御する。すなわち、予め定められた関係(変速マップ)から車両の走行状態例えば車速V及びアクセル操作量ACC等に応じて前記自動変速部20において成立させられるべき変速段を判定し、判定された変速段が成立させられるように図示しない油圧制御回路を介して前記自動変速部20におけるクラッチC及びブレーキBの係合乃至解放を制御する。
【0038】
コーストダウン変速判定手段52は、前記動力伝達装置10においてコーストダウン変速(パワーオフダウン変速)が行われるか否かを判定する。例えば、上記有段変速制御手段50によりダウンシフトすなわち前記自動変速部20の高速側変速段(低変速比側変速段)から低速側変速段(高変速比側変速段)への変速が判定された場合であり、且つアクセル開度センサにより検出されるアクセル開度ACCが零(アクセルオフ)である場合に、前記動力伝達装置10においてコーストダウン変速が行われることを判定する。
【0039】
ハイブリッド駆動制御手段54は、前記動力伝達装置10によるハイブリッド駆動制御を行う。具体的には、前記エンジン出力制御装置42を介して前記エンジン24の駆動を制御すると共に、前記第1インバータ44及び第2インバータ46を介して前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の駆動(力行)乃至発電(回生)を制御する。斯かる制御を行うために、エンジン駆動制御手段56、第1電動機駆動制御手段58、及び第2電動機駆動制御手段60を含んでいる。
【0040】
前記エンジン駆動制御手段56は、基本的には、前記エンジン出力制御装置42を介して前記エンジン24の駆動を制御する。具体的には、前記エンジン24の出力が前記電子制御装置36により算出される目標エンジン出力(目標回転速度乃至目標出力トルク)となるように、前記エンジン24の吸気管に備えられた電子スロットル弁の開度θTHを操作するスロットルアクチュエータへの駆動信号、燃料噴射装置による吸気管等への燃料供給量を制御する燃料供給量信号、及び点火装置による前記エンジン24の点火時期を指令する点火信号等を、前記電子制御装置38を介して前記エンジン出力制御装置42へ供給する。
【0041】
前記第1電動機駆動制御手段58は、基本的には、前記第1インバータ44を介して前記第1電動機MG1の作動を制御する。具体的には、前記第1電動機MG1の出力が前記電子制御装置36により算出される目標第1電動機出力(目標回転速度乃至目標出力トルク)となるように、図示しないバッテリと前記第1電動機MG1との間の電気エネルギの入出力を制御するための信号を、前記電子制御装置40を介して前記第1インバータ44へ供給する。
【0042】
前記第2電動機駆動制御手段60は、基本的には、前記第2インバータ46を介して前記第2電動機MG2の作動を制御する。具体的には、前記第2電動機MG2の出力が前記電子制御装置36により算出される目標第2電動機出力(目標回転速度乃至目標出力トルク)となるように、図示しないバッテリと前記第2電動機MG2との間の電気エネルギの入出力を制御するための信号を、前記電子制御装置40を介して前記第2インバータ46へ供給する。
【0043】
ここで、本実施例のハイブリッド駆動制御手段54は、前記自動変速部20のコーストダウン変速に際して、前記第1電動機MG1の反力トルクによりその変速を進行させる(回転同期させる)制御を実行する。また、斯かる制御に関連して、前記自動変速部20のコーストダウン変速が要求された場合、その変速のイナーシャ相開始前に、前記エンジン24の回転速度NEが一時的に変速後の目標エンジン回転速度よりも高くなるようにそのエンジン24の出力を制御する。
【0044】
すなわち、前記ハイブリッド駆動制御手段54は、好適には、前記コーストダウン変速判定手段52により前記動力伝達装置10におけるコーストダウン変速が判定された場合に、前記自動変速部20において実質的な変速が開始される前に予め前記エンジン24の回転速度NEを変速後の目標エンジン回転速度よりも高くなるように上昇させておき、回転速度が上昇させられたそのエンジン24のイナーシャと前記第1電動機MG1の反力トルクとを利用して上記変速を進行させる制御を行う。換言すれば、前記動力分配装置26の差動機能を用い、余剰分のパワーをエンジン回転速度に逃がして変速を成立させる制御において、電力収支を成立させるために前記第1電動機MG1の反力トルクを用いて変速を進行させると共に、エンジン回転速度が低下することを抑制するためにそのエンジン回転速度を予め変速後の目標エンジン回転速度よりも高くなるように上昇させておく制御を行う。
【0045】
ここで、前述のように、前記動力伝達装置10において、前記出力軸22の回転速度が固定である場合、前記エンジン24の回転速度及び第1電動機MG1の回転速度は相対的に変化するため、前記自動変速部20において実質的な変速が開始される前に前記エンジン回転速度を上昇させる制御は、前記第1電動機駆動制御手段58により前記第1電動機MG1の駆動を制御することにより行われるものであってもよいし、前記エンジン駆動制御手段56により前記エンジン24自身の駆動を制御することにより行われるものであってもよい。前記エンジン回転速度を上昇させる制御を前記第1電動機MG1の駆動制御により行うか、前記エンジン24自身の駆動制御により行うかの判定(選択)は、好適には、予め定められた関係から、判定時点における前記第1電動機MG1の回転速度及びバッテリの蓄電状態(SOC)等により行われる。例えば、前記第1電動機MG1が負回転を行っており且つバッテリの蓄電量が上限値に近い場合、或いは前記第1電動機MG1が正回転を行っており且つバッテリの蓄電量が下限値に近い場合には前記エンジン24の駆動制御によりエンジン回転速度を上昇させる制御を行う一方、それ以外の場合には前記第1電動機MG1の駆動制御によりエンジン回転速度を上昇させる制御を行う。
【0046】
また、前記ハイブリッド駆動制御手段54は、好適には、前記自動変速部20のコーストダウン変速のイナーシャ相開始前における前記エンジン回転速度の上昇制御に関して、変速終期の差動状態から前記動力伝達装置10の出力パワーを予測し、予測された出力パワーに応じて前記エンジン24の回転速度上昇量を変更する制御を行う。ここで、変速終期とは、例えば対象となるコーストダウン変速制御において実行されるイナーシャ補償制御の終了時である。更に好適には、前記自動変速部20のコーストダウン変速のイナーシャ相開始前における前記エンジン回転速度の上昇制御に関して、予測された出力パワーと、バッテリSOCセンサにより検出されるバッテリの蓄電量に応じた電力入出力制限量とを比較し、予測された出力パワーの電力入出力制限量に対する超過量に基づいて前記エンジン24の回転速度上昇量を変更(算出)する。
【0047】
前記ハイブリッド駆動制御手段54は、具体的には、例えば以下のようにして前記エンジン24の回転速度上昇量を決定する。すなわち、先ず、予め設計的に決められた変速終期におけるイナーシャ補償制御の終了タイミングを取得する。好適には、前記第2電動機MG2の回転速度が第1電動機MG1の回転速度を上回る時点を上記イナーシャ補償制御の終了タイミングとして取得する。次に、現時点における前記第2電動機MG2の回転速度と変速後のその第2電動機MG2の目標回転速度、及び上記イナーシャ補償制御の終了タイミングから、変速終期における前記第2電動機MG2の回転速度を算出する。次に、算出された変速終期における前記第2電動機MG2の回転速度から、対応する前記第1電動機MG1の回転速度及び出力トルクを算出する。次に、予め定められた関係(マップ)から、算出された変速終期における前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の回転速度等に基づいて変速終期における出力パワーKを算出する。イナーシャ補償制御終了時は前記第1電動機MG1、第2電動機MG2のトルク、及びその第2電動機MG2の回転速度が何れも比較的大きく、バッテリ電力出力制限量Woutが最大値近辺をとりやすい。このときの前記第2電動機MG2の回転速度と第1電動機MG1の回転速度から、各回転速度での補償トルクをマップから算出することができるため、トルクと回転速度から予め出力されるパワーを予測することができる。次に、上記変速終期における出力パワーKの電力入出力制限量に対する超過量(差分)K′を算出する。次に、現時点におけるエンジン回転速度w(=NE)及びエンジンイナーシャIに基づいてエンジン回転速度の上昇量を算出する。ここで、車両重量をM、車速をV、エンジン回転速度をw、エンジンイナーシャをIとすると、上記変速終期における出力パワーKの電力入出力制限量に対する超過量K′は、次の(1)式で表すことができる。このパワーの超過量K′を変速前にエンジンイナーシャに与えておくように超過分のパワーから必要なエンジン回転速度を算出し、現在の回転速度に上乗せするように前記エンジン24の回転速度上昇量を算出する。
【0048】
K′=M×V2/2=I×w2/2 ・・・(1)
【0049】
また、前記ハイブリッド駆動制御手段54は、好適には、前記エンジン回転速度の上昇制御に係るエンジン回転速度上昇量の算出に関して、前述のようにして予想される変速終期における出力パワーKが大きいほどエンジン回転速度上昇量が大きくなるようにその回転速度上昇量を変更(算出)する。また、好適には、前記エンジン回転速度の上昇制御に係るエンジン回転速度上昇量の算出に関して、前述のようにして予想される変速終期における出力パワーKの電力入出力制限量に対する超過量K′が大きいほどエンジン回転速度上昇量が大きくなるようにその回転速度上昇量を変更(算出)する。更に好適には、前記エンジン回転速度の上昇制御に係るエンジン回転速度上昇量の算出に関して、前記ATF油温センサにより検出されるATF油温TATFに基づいて上記エンジン回転速度上昇量を変更(補正)する。例えば、前記ATF油温センサにより検出されるATF油温TATFが高いほどエンジン回転速度上昇量が小さくなるように(ATF油温TATFが低いほどエンジン回転速度上昇量が大きくなるように)その回転速度上昇量を変更(算出)する。
【0050】
図6は、従来技術(エンジン自立運転時)による第3速「3rd」から第1速「1st」へのコーストダウン変速制御における各関係値の変化を示すタイムチャートであり、実線は自動変速部20への入力トルクを低減させるトルクダウン制御を実行した場合の波形、破線は斯かるトルクダウン制御を行わない(対策無し)場合の波形をそれぞれ示している。図6に破線で示すように、コーストダウン変速に際してトルクダウン制御を行わない場合、変速の進行に伴い前記第2電動機MG2の回転速度が徐々に上昇する。このとき、前記第2電動機MG2のトルクは、前記第1電動機MG1のイナーシャキャンセルトルクと前記自動変速部20の入力トルクを保持するように決定される。ここで、前記第2電動機MG2のパワーの決定に関しては、トルクの減少量よりも回転速度の増加量の寄与が大きく、その第2電動機MG2の回転速度の増加に伴って大きくなる。従って、変速終期における前記第1電動機MG1のトルクを低減するポイント(例えば、第2電動機MG2の回転速度が第1電動機MG1の回転速度を上回る時点)付近で第2電動機MG2のパワーが最大値をとるが、電力入出力制限量Win、Woutが制限されると、このポイントにおける前記第2電動機MG2のパワーを所望の値に制御することができず、変速時におけるドライバビリティの悪化につながるおそれがある。一方、斯かる問題を解決するため、実線に示すように前記自動変速部20の入力トルクを低減させるトルクダウン制御を行い、出力パワーを低減させる方法が考えられるが、この場合、変速における係合要素の同期完了が遅れて変速時間が延びることから、結局ドライバビリティを悪化させたり、変速中に運転者によるアクセル踏込等の操作が行われる可能性が大きくなるという新たな問題を生じさせる。
【0051】
図7は、本実施例(エンジン回転速度低下による直達トルクアップ制御)の第3速「3rd」から第1速「1st」へのコーストダウン変速制御における各関係値の変化を示すタイムチャートであり、実線は本実施例の制御を実行した場合の波形、破線は斯かる本実施例の制御を行わない(対策無し)場合の波形をそれぞれ示している。この図7に実線で示す本実施例の制御に対応する波形は、変速のイナーシャ相開始前に、前記第1電動機MG1の駆動を制御することにより前記エンジン24の回転速度を一時的に増加させた場合における各関係値の変化を示している。この図7に示すように、本実施例の制御においては、前記動力伝達装置10においてコーストダウン変速が行われることが判定された場合において、その変速が実行される前に予めエンジン回転速度を所定の上昇量だけ上昇させる制御を行う。そして、変速中には前記第1電動機MG1により負トルク(反力トルク)を発生させることにより、そのトルクが前記エンジン24を始点に前記第2電動機MG2へ伝達され、従来の制御においてはその第2電動機MG2で出力させていたトルクをまかなうことができる。結果として、変速終期(イナーシャ相終了時)における前記第2電動機MG2のパワー増大を抑制することができ、変速時間を延ばすことなく電力収支悪化を抑制することができる。
【0052】
図8は、前記電子制御装置36による前記動力伝達装置10(自動変速部20)のコーストダウン変速制御の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
【0053】
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S1において、前記動力伝達装置10においてコーストダウン変速が行われるか否かが判断される。このS1の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S1の判断が肯定される場合には、S2において、エンジン走行中であるか否か、すなわち前記エンジン24を走行用の駆動源とする走行モードであるか否かが判断される。このS2の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S2の判断が肯定される場合には、S3において、予め定められた関係から現時点での出力軸回転速度すなわち前記出力軸22の回転速度NOUTに基づいて変速終期における前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2それぞれのトルク及び目標回転速度が算出される。次に、S4において、S3にて算出された変速終期における前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2それぞれのトルク及び目標回転速度に基づいて変速終期での電力出力量が予測され、電力制限値すなわちバッテリの入出力制限値Win、Woutと比較される。次に、S5において、変速終期において電力超過が発生するか否かが判断される。このS5の判断が否定される場合には、S7以下の処理が実行されるが、S5の判断が肯定される場合には、SSにおいて、図9に示すエンジン回転速度上昇量算出制御が実行される。次に、S6において、SSにて算出されたエンジン回転速度上昇量に基づいて前記エンジン24の回転速度を一時的に上昇させるエンジン回転速度上昇制御が実行される。次に、S7において、前記第1電動機MG1の反力トルクにより前記コーストダウン変速制御(同期制御)を進行させるようにその第1電動機MG1の駆動が制御された後、本ルーチンが終了させられる。
【0054】
図9は、図8に示すコーストダウン変速制御におけるエンジン回転速度上昇量算出制御の要部を説明するフローチャートである。この図9に示す制御においては、先ず、SS1において、予め設計的に決められた変速終期におけるイナーシャ補償制御の終了タイミングすなわちイナーシャ補償トルクを低減し始める変速進行度が取得される。次に、SS2において、現時点における前記第2電動機MG2の回転速度と変速後のその第2電動機MG2の目標回転速度、及びSS1にて取得されたイナーシャ補償制御の終了タイミングから、変速終期における前記第2電動機MG2の回転速度が算出される。次に、SS3において、算出された変速終期における前記第2電動機MG2の回転速度から、対応する前記第1電動機MG1の回転速度及び出力トルクが算出される。次に、SS4において、予め定められた関係(マップ)から、算出された変速終期における前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の回転速度等に基づいて変速終期における出力パワーKが算出され、その出力パワーKの電力入出力制限量に対する超過量(差分)K′が算出される。次に、SS5において、現時点におけるエンジン回転速度NE及びエンジンイナーシャに基づいてエンジン回転速度の上昇量が算出された後、図8に示すメインルーチンへ復帰させられる。
【0055】
以上、図8及び図9に示す制御において、S1が前記有段変速制御手段50及びコーストダウン変速判定手段52の動作に、S2、S6、及びS7が前記ハイブリッド駆動制御手段54の動作に、SS及びS6が前記エンジン駆動制御手段56の動作に、S7が前記第1電動機駆動制御手段58の動作に、それぞれ対応する。
【0056】
このように、本実施例によれば、第1電動機MG1、第2電動機MG2、及び自動変速部20を備えたハイブリッド車両の動力伝達装置10におけるその自動変速部20のコーストダウン変速に際して、前記第1電動機MG1により反力トルクを発生させることでその変速を進行させるものであることから、変速時間を増加させることなく電力収支を成立させることができる。すなわち、第1電動機MG1、第2電動機MG2、及び自動変速部20を備えたハイブリッド車両におけるコーストダウン変速を好適化するハイブリッド車両の制御装置を提供することができる。
【0057】
また、前記自動変速部20のコーストダウン変速が要求された場合、その変速のイナーシャ相開始前に、前記エンジン24の回転速度が一時的に変速後の目標エンジン回転速度よりも高くなるようにそのエンジンの出力を制御するものであるため、エンジンイナーシャを利用して変速を進行させることができると共に、変速後のエンジン回転速度を狙いどおりに制御できる。
【0058】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0059】
20:自動変速部(自動変速機)、24:エンジン、26:動力分配装置(差動機構)、CA1:第1キャリア(第2回転要素)、MG1:第1電動機、MG2:第2電動機、R1:第1リングギヤ(第3回転要素)、S1:第1サンギヤ(第1回転要素)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転要素、入力回転部材であって機関に連結された第2回転要素、及び出力回転部材である第3回転要素を備えた差動機構と、前記第1回転要素に連結された第1電動機と、前記第3回転要素から駆動輪までの動力伝達経路に動力伝達可能に接続された第2電動機と、前記差動機構から駆動輪までの動力伝達経路に設けられた自動変速機とを、備えたハイブリッド車両の制御装置であって、
前記自動変速機のコーストダウン変速に際して、前記第1電動機によりトルクを発生させることで該変速を進行させるものであることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記自動変速機のコーストダウン変速が要求された場合、該変速のイナーシャ相開始前に、前記機関の回転速度が一時的に変速後の目標機関回転速度よりも高くなるように該機関の出力を制御するものである請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−240557(P2012−240557A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112735(P2011−112735)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】