説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】エンジン1始動後のVTC装置31の進角動作に伴うトルクショックを抑制する。
【解決手段】動力源としてエンジン1とモータ/ジェネレータ5とが第1クラッチ6を介して連結され、モータ/ジェネレータ5と駆動輪2とが第2クラッチ7を介して接続されている。アイドルストップなどの際のエンジン1の始動は、第2クラッチ7をスリップ締結状態としつつ第1クラッチ6を接続することで行われ、最遅角位置にあったVTC装置31は始動後に進角動作する。低油温時など進角動作が第2クラッチ7の完全締結後に行われる場合には、目標VTC角度の変化速度を小さく制限し、ショックを抑制する。第2クラッチ7のスリップ締結中にVTC装置31の進角が可能であれば、最大変化速度で速やかに進角させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、動力源としてエンジンとモータとを具備するとともに、これらの動力源と駆動輪との間にクラッチが設けられたハイブリッド車両において、上記エンジンが具備する可変動弁装置の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
車両駆動系としてエンジンと変速機との間にモータ(一般にはモータ/ジェネレータである)が位置し、かつこのモータとエンジンとを第1クラッチを介して締結・解放可能な形で連結するとともに、モータと駆動輪との間に、発進クラッチとなる第2クラッチを介在させてなるハイブリッド車両が特許文献1,2に開示されている。
【0003】
そして、特許文献1には、第1クラッチを介してモータによりエンジンを始動する際に第2クラッチをスリップ締結状態に制御することが開示されている。さらに、特許文献2には、このようなハイブリッド車両に用いられるエンジンが油圧式の可変動弁装置を備えており、エンジン始動後に油圧が立ち上がって可変動弁装置が作動するまでの遅れの間、モータ側で負担するトルクの割合を増やすようにした技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−214564号公報
【特許文献2】特開2010−208394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ハイブリッド車両のエンジンが可変動弁装置を具備している場合、この可変動弁装置が作動して吸気バルブないし排気バルブの作動特性(例えば開時期や閉時期)が急激に変化すると、エンジンのトルク変化が生じる。このとき、動力源と駆動輪との間のクラッチ(特許文献1,2では第2クラッチ)が締結されている状態であると、エンジンの急激なトルク変化が駆動輪に伝達され、好ましくない。他方、可変動弁装置の動作を常に緩慢なものとすると、エンジンのトルク変化も緩やかとなるが、バルブ作動特性が目標の特性から離れた状態でエンジンが運転される時間が長くなり、やはり好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、互いに連結されるエンジンとモータとを動力源として具備するとともに、この動力源から駆動輪に至る間にクラッチが介在するハイブリッド車両を前提としており、上記エンジンは、可変動弁装置を具備している。そして、本発明では、この可変動弁装置の目標値変化速度を、上記クラッチのトルク伝達状態に応じて異なるものとした。
【0007】
すなわち、上記クラッチが解放され、あるいは十分にスリップしているような状態であれば、可変動弁装置の作動によるトルク変化はクラッチにより遮断ないし吸収されるので、大きな目標値変化速度でもって可変動弁装置を動作させ、最終的な目標値に速やかに収束させる。一方、クラッチが完全に締結しているような状態では、目標値の変化を緩慢とすることで、駆動輪に伝達されるトルク変化を抑制する。
【発明の効果】
【0008】
この発明に係るハイブリッド車両の制御装置によれば、エンジンの発生トルクに影響する可変動弁装置の目標値変化速度がクラッチのトルク伝達状態を考慮して設定されるので、駆動輪側へ伝達されるトルク変化の抑制と、可変動弁装置を速やかに最終的な目標値まで作動させるという要求と、を両立させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明が適用されるハイブリッド車両のパワートレーンの一実施例を示す構成説明図。
【図2】この発明が適用されるハイブリッド車両のパワートレーンの変形例を示す構成説明図。
【図3】この発明が適用されるハイブリッド車両のパワートレーンのさらに変形例を示す構成説明図。
【図4】このパワートレーンの制御システム全体のブロック図。
【図5】目標VTC角度の変化速度を決定する処理の流れを示すフローチャート。
【図6】VTC装置に関する制御を示すブロック図。
【図7】油温とVTC装置の遅れ時間ならびに第2クラッチの完全締結タイミングとの関係を示した特性図。
【図8】アクセル開度に対する変化速度の特性を示した特性図。
【図9】実施例によるエンジン始動時の各部の動作を示すタイムチャート。
【図10】変化速度の制限を行わなかった場合の加速度変化を示すタイムチャート。
【図11】変化速度の制限を行った場合の加速度変化を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施例を、図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
初めに、本発明が適用されるハイブリッド車両の基本的な構成を説明する。図1は、本発明の一実施例としてフロントエンジン・リヤホイールドライブ(FR)式の構成としたハイブリッド車両のパワートレーンを示し、1がエンジン、2が駆動輪(後輪)である。なお、本発明はこのFR形式に限定されるものではなく、FF形式あるいはRR形式等の他の形式としても適用することができる。
【0012】
図1に示すハイブリッド車両のパワートレーンにおいては、通常の後輪駆動車と同様にエンジン1の車両前後方向後方に自動変速機3がタンデムに配置されており、エンジン1(クランクシャフト1a)からの回転を自動変速機3の入力軸3aへ伝達するシャフト4に、モータ/ジェネレータ5が一体に設けられている。
【0013】
モータ/ジェネレータ5は、ロータに永久磁石を用いた同期型モータからなり、モータとして作用(いわゆる「力行」)するとともに、ジェネレータ(発電機)としても作用(いわゆる「回生」)するものであり、上記のようにエンジン1と自動変速機3との間に位置している。そして、このモータ/ジェネレータ5とエンジン1との間に、より詳しくは、シャフト4とエンジンクランクシャフト1aとの間に第1クラッチ6が介挿されており、この第1クラッチ6がエンジン1とモータ/ジェネレータ5との間を切り離し可能に結合している。
【0014】
ここで上記第1クラッチ6は、伝達トルク容量を連続的に変更可能な構成であり、例えば、比例ソレノイドバルブ等でクラッチ作動油圧を連続的に制御することで伝達トルク容量を変更可能な常閉型の乾式単板クラッチあるいは湿式多板クラッチからなる。
【0015】
また、モータ/ジェネレータ5と駆動輪2との間、より詳しくは、シャフト4と変速機入力軸3aとの間には、第2クラッチ7が介挿されており、この第2クラッチ7がモータ/ジェネレータ5と自動変速機3との間を切り離し可能に結合している。
【0016】
上記第2クラッチ7も上記第1クラッチ6と同様に、伝達トルク容量を連続的に変更可能な構成であり、例えば比例ソレノイドバルブでクラッチ作動油圧を連続的に制御することで伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチあるいは乾式単板クラッチからなる。
【0017】
自動変速機3は、複数の摩擦要素(クラッチやブレーキ等)を選択的に締結したり解放することで、これら摩擦要素の締結・解放の組み合わせにより、前進7速後進1速等の変速段を実現するものである。つまり、自動変速機3は、入力軸3aから入力された回転を選択変速段に応じたギヤ比で変速して出力軸3bに出力する。この出力回転は、ディファレンシャルギヤ装置8を介して左右の駆動輪(後輪)2へ分配して伝達される。なお、自動変速機3としては、上記したような有段式のものに限られず、無段変速機であってもよい。
【0018】
上記のパワートレーンにおいては、モータ/ジェネレータ5の動力のみを動力源として走行する電気自動車走行モード(EVモード)と、エンジン1をモータ/ジェネレータ5とともに動力源に含みながら走行するハイブリッド走行モード(HEVモード)と、が可能である。例えば停車状態からの発進時などを含む低負荷・低車速時には、EVモードが要求されるが、このEVモードでは、エンジン1からの動力が不要であるからこれを停止させておくとともに第1クラッチ6を解放し、かつ第2クラッチ7を締結させておくととともに自動変速機3を動力伝達状態にする。この状態でモータ/ジェネレータ5のみによって車両の走行がなされる。
【0019】
また例えば高速走行時や大負荷走行時などではHEVモードが要求されるが、このHEVモードでは、第1クラッチ6および第2クラッチ7をともに締結し、自動変速機3を動力伝達状態にする。この状態では、エンジン1からの出力回転およびモータ/ジェネレータ5からの出力回転の双方が変速機入力軸3aに入力されることとなり、双方によるハイブリッド走行がなされる。
【0020】
上記モータ/ジェネレータ5は、車両減速時に制動エネルギを回生して回収できるほか、HEVモードでは、エンジン1の余剰のエネルギを電力として回収することができる。
【0021】
なお、上記EVモードからHEVモードへ遷移するときには、第1クラッチ6を締結し、モータ/ジェネレータ5のトルクを用いてエンジン始動が行われる。また、このとき第1クラッチ6の伝達トルク容量を可変制御してスリップ締結させることにより、円滑なモードの遷移が可能である。
【0022】
また、上記第2クラッチ7は、いわゆる発進クラッチとして機能し、車両発進時に伝達トルク容量を可変制御してスリップ締結させることにより、トルクコンバータを具備しないパワートレーンにあってもトルク変動を吸収し円滑な発進を可能としている。
【0023】
なお、図1では、モータ/ジェネレータ5から駆動輪2の間に位置する第2クラッチ7が、モータ/ジェネレータ5と自動変速機3との間に介在しているが、図2に示す実施例のように、第2クラッチ7を自動変速機3とディファレンシャルギヤ装置8との間に介在させてもよい。
【0024】
また、図1および図2の実施例では、第2クラッチ7として専用のものを自動変速機3の前方もしくは後方に具備しているが、これに代えて、第2クラッチ7として、図3に示すように、自動変速機3内にある既存の前進変速段選択用の摩擦要素または後退変速段選択用の摩擦要素などを流用するようにしてもよい。なお、この場合、第2クラッチ7は必ずしも1つの摩擦要素とは限らず、変速段に応じた適宜な摩擦要素が第2クラッチ7となり得る。
【0025】
上記エンジン1は、例えば4ストロークサイクルのガソリンエンジンあるいはディーゼルエンジンからなり、その吸気バルブ側には、可変動弁装置、例えば、回転型油圧アクチュエータによってカムシャフト(図示せず)の位相をクランクシャフト1aの位相に対し相対回転させることでバルブ開時期および閉時期の双方を同時に遅進させるようにした油圧駆動式の可変バルブタイミング装置(以下、VTC装置と記す)31が設けられている。このVTC装置31は、油圧源としてエンジン1の潤滑油を用い、エンジン1の負荷と回転数とをパラメータとして設定された目標VTC角度(VTC角度とはVTC装置31によるカムシャフトとクランクシャフト1aとの位相差をクランク角度でもって表したものをいう)に沿うように、図示せぬ油圧制御弁を介した油圧の導入およびドレーンの切換により上記油圧アクチュエータを回転方向に駆動する構成となっている。
【0026】
なお、吸気バルブと排気バルブの双方あるいは排気バルブ側のみに可変動弁装置を備えたエンジン1にあっても本発明は同様に適用でき、また可変動弁装置としては、バルブリフト量やバルブ作動角等を変化させる形式のものであってもよく、さらには油圧駆動式に限らず種々の形式の可変動弁装置が適用可能である。
【0027】
図4は、図1〜3のように構成されるハイブリッド車両のパワートレーンにおける制御システムを示している。
【0028】
この制御システムは、パワートレーンの動作点を統合制御する統合コントローラ20を備えている。このパワートレーンの動作点は、目標エンジントルクtTeと、目標モータ/ジェネレータトルクtTm(あるいは目標モータ/ジェネレータ回転数tNm)と、第1クラッチ6の目標伝達トルク容量tTc1と、第2クラッチ7の目標伝達トルク容量tTc2と、で規定される。
【0029】
また、この制御システムは、少なくとも、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転センサ11と、モータ/ジェネレータ回転数Nmを検出するモータ/ジェネレータ回転センサ12と、変速機入力回転数Niを検出する入力回転センサ13と、変速機出力回転数Noを検出する出力回転センサ14と、エンジン1の要求負荷状態を表すアクセルペダル踏み込み量(アクセル開度APO)を検出するアクセル開度センサ15と、モータ/ジェネレータ5用の電力を蓄電しておくバッテリ9の蓄電状態SOCを検出する蓄電状態センサ16と、を具備しており、上記動作点の決定のために、これらの検出信号が上記統合コントローラ20に入力されている。
【0030】
なお、エンジン回転センサ11、モータ/ジェネレータ回転センサ12、入力回転センサ13、出力回転センサ14は、例えば図1〜図3に示すように配置される。
【0031】
上記統合コントローラ20は、上記の入力情報の中のアクセル開度APOと、バッテリ蓄電状態SOCと、変速機出力回転数No(車速VSP)と、から、運転者が要求している車両の駆動力を実現可能な走行モード(EVモードあるいはHEVモード)を選択するとともに、目標エンジントルクtTe、目標モータ/ジェネレータトルクtTm(あるいは目標モータ/ジェネレータ回転数tNm)、目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1、および目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2、をそれぞれ演算する。
【0032】
上記目標エンジントルクtTeはエンジンコントローラ21に供給され、エンジンコントローラ21は、実際のエンジントルクTeが目標エンジントルクtTeとなるようにエンジン1を制御する。例えば、上記エンジン1はガソリンエンジンからなり、そのスロットルバルブを介してエンジントルクTeが制御される。
【0033】
一方、上記目標モータ/ジェネレータトルクtTm(あるいは目標モータ/ジェネレータ回転数tNm)はモータ/ジェネレータコントローラ22に供給され、このモータ/ジェネレータコントローラ22は、モータ/ジェネレータ5のトルクTm(または回転数Nm)が目標モータ/ジェネレータトルクtTm(または目標モータ/ジェネレータ回転数tNm)となるように、インバータ10を介してモータ/ジェネレータ5を制御する。
【0034】
また、上記統合コントローラ20は、目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1および目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2にそれぞれ対応したソレノイド電流を第1クラッチ6および第2クラッチ7の締結制御ソレノイドバルブ(図示せず)に供給し、第1クラッチ6の伝達トルク容量Tc1が目標伝達トルク容量tTc1に一致するように、また、第2クラッチ7の伝達トルク容量Tc2が目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2に一致するように、第1クラッチ6および第2クラッチ7の締結状態を個々に制御する。
【0035】
次に、本発明の要部であるVTC装置31の制御について説明する。
【0036】
上記実施例の油圧駆動式VTC装置31は、エンジン1の停止の際に最遅角位置に位置決めされ、この最遅角位置のままエンジン1の再始動が行われるものであって、エンジン1の始動後(より詳しくは所定回転数まで立ち上がったとき)に、そのときの目標のVTC角度まで駆動される。一方、上記のハイブリッド車両にあっては、上述したように統合コントローラ20によって車速VSPおよびアクセル開度APOに基づいてEVモードとHEVモードとが選択的に切り換えられ、エンジン1の停止・再始動が自動になされる。そのほか、電力要求やバッテリ9の蓄電状態SOCなどに基づくシステム上の種々のエンジン始動要求によっても、エンジン1の運転が開始され、実質的にHEVモードとなる。これらの際のエンジン1の始動は、基本的に、第2クラッチ7をスリップ締結状態としつつ、第1クラッチ6を締結してモータ/ジェネレータ5のトルクによってエンジン1をクランキングすることにより行う。そして、このエンジン1の再始動の完了後に第2クラッチ7は完全締結に移行する。
【0037】
このような始動のシーケンスの中で、エンジン1の爆発・燃焼開始後に、それまで最遅角位置にあったVTC装置31が目標VTC角度まで急激に進角すると、エンジン1のトルクが変化し、仮に第2クラッチ7が完全締結であると、駆動輪2にそのトルク変化が伝達されてしまう。他方、第2クラッチ7がスリップ締結状態にあれば、エンジン1のトルク変化は吸収され、従って、トルク変化による制限を受けることなくVTC装置31の進角を速やかに行うことが可能である。従って、本発明は、このような動力源から駆動輪2へのトルク伝達を行う第2クラッチ7のトルク伝達状態を考慮して、VTC装置31の目標VTC角度の変化速度を可変的に設定する。なお、以下の説明では、VTC装置31の最遅角位置を基準位置(VTC角度=0)として説明する。
【0038】
図5は、VTC装置31の目標VTC角度の変化速度(単位時間当たりの変化量)を決定するためのフローチャートを示しており、ステップ1では、そのときのエンジン1の冷却水温がアイドルストップを許可する水温に達しているか否かを判定する。そして、アイドルストップ許可水温未満であれば、ステップ2ヘ進み、変化速度を最大とする。換言すれば、変化速度に制限を加えずに、機構上実現される最大の速度でVTC装置31を駆動する。上記のアイドルストップ許可水温の判定は、交差点等での車両停止時のエンジン1の停止いわゆるアイドルストップを実行する条件であるか否かの代表的なものであり、冷却水温が過度に低い場合には統合コントローラ20によりアイドルストップが禁止されるのであるが、このようにアイドルストップを行わない条件では、そもそも基本的に、再始動時のトルク変動が問題とならないので、変化速度の制限を行わない。なお、このほか、バッテリ9の蓄電状態SOCが少ないとき、補機負荷が大のとき、空調要求が大のとき、モータ/ジェネレータ5の冷却要求が大のとき、冷却水温が逆に過度に高いとき、自己診断機能による異常判定時、各種センサ等のフェール時、等に同様にアイドルストップが禁止されるので、これらのアイドルストップ禁止条件の判定を上記ステップ1の水温判定に代えて、あるいはステップ1の水温判定に加えて、行うようにしてもよい。
【0039】
ステップ1でアイドルストップが許可されている条件であれば、ステップ3へ進み、エンジン1の潤滑油温ないし油圧に基づき、VTC装置31が第2クラッチ7の完全締結前に駆動可能であるか否かの判定を行う。つまり、エンジン1の回転が立ち上がった後、VTC装置31を作動させるためには、オイルストレーナから図示せぬ油圧制御弁を介してVTC装置31の油圧アクチュエータに至る油圧系統が潤滑油で満たされている必要があり、例えば油温が低く潤滑油の粘性が高い条件では、VTC装置31が作動可能となるまでに時間がかかる。従って、ステップ3では、例えば図7に示すような特性のテーブルを用いて、そのときの油温からVTC装置31が駆動可能となるまでの遅れ時間Δtを求め、この遅れ時間Δtが、第2クラッチ7の完全締結タイミング(図7に線Time1として示す)よりも前となるか後となるかの判定を行う。なお、油温に代えて油圧によって同様の判定を行うようにしてもよい。また、第2クラッチ7の完全締結タイミングTime1は、制御の簡略化のために一定値とみなしてもよく、あるいは学習値など何らかのパラメータに応じて可変的に設定される値であってもよい。さらに、図7から明らかなように、図7に例示するような遅れ時間Δtの特性と完全締結タイミングTime1とが定まると、両者が合致する油温Temp1が一義的に定まる。従って、本実施例では、制御の簡略化のために、ステップ3では、上記の油温Temp1を閾値とし、実際の油温がこの閾値Temp1以上であるか否かを直接に判定するようにしている。
【0040】
ここで、上記の遅れ時間Δtは主に温度に依存する潤滑油の粘性に影響されるものであり、油温に代えて冷却水温による判定も可能ではあるが、始動後の油温の上昇と水温の上昇とには乖離があり、従って、油温を直接に監視した方が冷却水温を用いる場合よりもより高精度となる。
【0041】
ステップ3の判定で、油温が閾値Temp1以上であった場合には、VTC装置31の駆動可能までの遅れ時間Δtが短く、第2クラッチ7が完全締結する前(換言すればスリップ締結中)にVTC装置31の駆動を開始し得ることを意味するので、ステップ2へ進み、変化速度を最大とする。つまり、変化速度に制限を加えずに、機構上実現される最大の速度でVTC装置31を駆動する。
【0042】
油温が閾値Temp1未満であれば、さらにステップ4で、アクセル開度APOが全開加速とみなしうる所定開度APO1以上であるか否かを判定する。ここで所定開度APO1以上であれば、運転者の意図は車両の加速にあるので、VTC装置31のVTC角度を早期に適正なものとしてトルク向上を図るために、やはりステップ2へ進み、変化速度を最大とする。従って、この場合は、VTC装置31の駆動が第2クラッチ7の完全締結後となるが、VTC装置31の駆動が許可された時点で速やかに目標VTC角度へ向かう。
【0043】
一方、ステップ4でアクセル開度APOが所定開度APO1未満であれば、ステップ5へ進み、目標VTC角度の変化速度をアクセル開度APOに応じて設定する。具体的には、図8に示すような特性に沿って変化速度が設定される。第2クラッチ7の完全締結後にVTC装置31を素早く駆動した際に車両に発生するトルク段差感ないしトルクショックは、アクセル開度APOによって変化し、例えばアクセル開度APOが大きいとVTC装置31の進角に伴うショックが大となるので、図8の例では、基本的にアクセル開度APOが大きいほど変化速度が小さく設定される。なお、アクセル開度APOの全開付近では、上述したように、加速性を優先させるために、最大の変化速度となる。このようにアクセル開度APOを考慮して変化速度を設定することで、エンジン始動後のVTC装置31の進角を可及的速やかに行いつつショックの発生を抑制することができる。
【0044】
図6は、上述した図5の制御の内容を機能ブロック図として示したものであって、VTC基準位置固定判定部51と、VTC目標角度ステートナンバ算出部52と、基本目標VTC角度設定部53と、変化速度設定部54と、目標VTC角度設定部55と、を備えている。VTC基準位置固定判定部51は、上述したステップ3に概ね相当し、エンジン1の潤滑油温やVTC駆動許可信号等からVTC装置31を基準位置(最遅角位置)に固定しておくかどうか、換言すればVTC装置31の駆動を開始するかどうかの判定を行い、後述するVTC駆動可否判定信号を目標VTC角度設定部55へ出力する。VTC目標角度ステートナンバ算出部52は、目標VTC角度の設定について複数のモードが予め用意されている中でどのモードを用いるか(例えば、複数のマップの中でどのマップを用いるか)を決定するブロックであり、レギュラ判定(ガソリンがレギュラかハイオクか)、極低温判定、アイドル判定、水温、エンスト判定、などのいくつかの入力信号に基づいて最適なモードを決定し、各々のモードに付されているステートナンバの形で出力する。このステートナンバで特定されるモード(例えばマップ)に基づいて、基本目標VTC角度設定部53は、そのときの運転状態、例えばエンジン1の負荷と回転数とに対応した基本目標VTC角度を設定し、変化速度設定部54は、上述したように油温およびアクセル開度APOに対応した変化速度を設定する。そして、最終的に、目標VTC角度設定部55において、設定された変化速度でもって変化するように目標VTC角度が逐次設定され、これが図示せぬVTC装置31の駆動制御系に目標値として出力される。なお、VTC装置31は、その実VTC角度が例えばカム角センサによって検出され、目標VTC角度に収束するようにフィードバック制御されるが、この目標VTC角度を目標値とした制御自体は本発明の要部ではなく、例えばオープンループ制御とすることも可能である。
【0045】
図9は、本発明によるエンジン1の始動時の各部の動作の一例を示すタイムチャートである。ここでは、エンジン1の始動時における油温が上述した閾値Temp1未満であり、従って、遅れ時間Δtが比較的大きな場合の例を示している。また、全体として車両が緩加速の状況に相当し、「TM入力回転数」と記した変速機入力回転数Niが緩やかに増加し、モータ/ジェネレータ5のみで走行していたEVモードからエンジン1の始動を経てHEVモードへと遷移していく状況を表している。
【0046】
モータ/ジェネレータ5のみで走行している状態で、時刻t1において、エンジン1の始動要求があると、車両側のショックを抑制するために、それまで完全締結状態にあった第2クラッチ7がスリップ締結状態へ移行する。このとき、モータ/ジェネレータ5の回転数Nm(図9では「モータ回転数」と記す)は、第2クラッチ7の伝達トルク低下分を補償するように増速される。従って、最下段に示す区間Aは、クランキング準備期間に相当する。そして次の区間Bは、クランキング期間に相当し、この区間Bでは、それまで解放状態にあった第1クラッチ6を徐々に締結していく。これによって、エンジン1が回転し始め、エンジン回転数Neがモータ/ジェネレータ5の回転数Nmに徐々に近付いていく。このクランキング期間Bの途中で、エンジン1の回転数Neがある回転数に達する等の条件に従い、時刻t2で、VTC駆動許可判定フラグがON(許可)となる。このVTC駆動許可判定フラグは、前述した潤滑油粘性による遅れ等を考慮することなく出力されるものであり、この段階では、目標VTC角度は0つまり最遅角位置のままである。そして、例えばエンジン1の回転数Neが第2のある回転数に達した時点(時刻t3)から遅れ時間Δtが経過した段階(時刻t6)で、VTC装置31の実際の駆動が可能であることを示すVTC駆動可否判定フラグがON(許可)となる。なお、このVTC駆動可否判定フラグは、タイマにより遅れ時間Δtの経過を判定する方法に限られず、例えば実際の油圧の立ち上がりなどに基づいてフラグを設定するようにしてもよい。
【0047】
一方、上述したエンジン1の回転数Neの上昇に伴い、やがてエンジン1の回転数Neがモータ/ジェネレータ5の回転数Nmと一致する(換言すれば第1クラッチ6が完全締結状態となる)ので、エンジン1の始動完了と判断し、最下段に示すクランキング期間Bから後処理のための区間Cへ移行する。ここでは、スリップ締結状態にある第2クラッチ7を徐々に締結していき、最終的に時刻t5において完全締結状態となる。第2クラッチ7の締結動作は、この区間Cの時間がほぼ一定の目標時間となるように制御される。
【0048】
上述したように、図9の例では、始動時における油温が低く、遅れ時間Δtが比較的大きいため、第2クラッチ7が完全締結状態となった時刻t5よりも遅れた時刻t6においてVTC装置31の駆動が可能となる。従って、基本目標VTC角度としては、時刻t6時点のエンジン運転条件に対応した値に0(基準位置つまり最遅角位置)からステップ的に変化するが、前述したようにアクセル開度APOに応じた変化速度に制限されるため、目標VTC角度は、設定された変化速度でもって、図示するように比較的緩慢に変化していく。そして、実VTC角度は、この目標VTC角度に対し制御の遅れを伴って変化するが、この例では、目標VTC角度の変化が緩やかであるため、殆ど遅れなく目標VTC角度に追従している。
【0049】
なお、図示していないが、油温が上述した閾値Temp1以上である場合には、目標VTC角度が基本目標VTC角度の変化に対応して急激に(例えばステップ的に)変化する。しかし、この場合には、第2クラッチ7がスリップ締結状態にある間にVTC角度の進角(少なくとも進角の開始)が行われることとなるので、運転者が感じるトルク段差感ないしショックは実質的に生じない。
【0050】
このように上記実施例では、エンジン1の潤滑油温等に基づいて、VTC装置31における始動後の実際の進角が第2クラッチ7の完全締結までに間に合うか否かを判定し、第2クラッチ7のスリップ締結中に実際の進角が行えるのであれば、最大限の変化速度でもってVTC装置31を進角させるので、エンジン1のトルクの立ち上がりが早くなる。他方、第2クラッチ7の完全締結に間に合わない場合は、目標VTC角度の変化速度を相対的に小さく制限するので、車両に伝達されるトルク変化が抑制され、運転者が感じるトルク段差感ないしショックを回避できる。特に、アクセル開度APOに応じた形で変化速度を設定することで、必要最小限に変化速度の制限がなされ、ショックの回避と素早いトルクの立ち上がりとを両立できる。
【0051】
図10および図11は、上記実施例による作用効果を確認するために、エンジン1の始動の際の実際の車両の加速度を求めた実験データを示している。図10は、目標VTC角度の変化速度の制限を行わずに最大限の変化速度とした場合の特性、図11は、目標VTC角度の変化速度を相対的に小さな値に制限した場合の特性、であり、線Gが加速度を、線tVTCが目標VTC角度をそれぞれ示す。これらはいずれも油温が低い場合であり、目標VTC角度tVTCが変化し始める段階では第2クラッチ7が完全締結状態となっている。そのため、図10では、図示するように、目標VTC角度tVTCの変化開始直後に比較的急激な加速度Gの変化が見られる。これに対し、変化速度を緩慢とした図11では、加速度Gがほぼ一定に維持されている。
【0052】
なお、上記実施例では、VTC装置31の進角開始が第2クラッチ7の完全締結前であるか否かによって変化速度が異なることとなるが、VTC装置31の進角完了が第2クラッチ7の完全締結前であるか否かによって変化速度を異ならせるようにすることもできる。
【符号の説明】
【0053】
1…エンジン
3…自動変速機
5…モータ/ジェネレータ
6…第1クラッチ
7…第2クラッチ
9…バッテリ
10…インバータ
20…統合コントローラ
21…エンジン
31…VTC装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに連結されるエンジンとモータとを動力源として具備するとともに、この動力源から駆動輪に至る間にクラッチが介在するハイブリッド車両において、
上記エンジンの可変動弁装置の目標値変化速度を、上記クラッチのトルク伝達状態に応じて異ならせることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
上記クラッチのトルク伝達率が低い状態で上記可変動弁装置が作動するときには上記目標値変化速度を大とし、上記トルク伝達率が相対的に高い状態で上記可変動弁装置が作動するときには上記目標値変化速度を相対的に小とすることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
上記可変動弁装置は、バルブの開時期および閉時期を遅進させる油圧駆動式の可変バルブタイミング装置であることを特徴とする請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
上記エンジンと上記モータとが第2のクラッチを介して切り離し可能に連結されているとともに、上記モータと上記駆動輪との間に上記クラッチが位置し、上記モータによる上記エンジンの始動時に上記クラッチがスリップ締結状態に制御されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
上記可変動弁装置は油圧駆動式の可変動弁装置であり、エンジン油温に基づいて上記可変動弁装置の作動時期が上記クラッチの完全締結後となるか否かを判定することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
上記目標値変化速度をさらにアクセル開度に応じて設定することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−86668(P2012−86668A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235049(P2010−235049)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】