説明

パワーモジュール用基板、パワーモジュール用基板の製造方法及びパワーモジュール

【課題】比較的面積の大きくても、セラミック基板の反り、割れの発生を抑制することが可能なパワーモジュール用基板、このパワーモジュール用基板の製造方法及び、このパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールを提供する。
【解決手段】セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面上に配設され、銅または銅合金からなる回路層12と、を備え、セラミックス基板11が、Siまたは強化Alのいずれかで構成されており、回路層12の厚さtcが、0.8mm≦tc≦2.0mmの範囲内に設定されるとともに、セラミックス基板11の一方の面の面積の25%以上60%以下を占めるように構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられるパワーモジュール用基板、このパワーモジュール用基板の製造方法及びこのパワーモジュール基板を備えたパワーモジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の中でも電力供給のためのパワーモジュールは発熱量が比較的高いため、これを搭載する基板としては、例えば、AlN(窒化アルミ)からなるセラミックス基板上にAl(アルミニウム)の金属板がAl−Si系のろう材を介して接合されたパワーモジュール用基板が用いられる。
この金属板は回路層として形成され、その金属板の上には、はんだ材を介してパワー素子の半導体チップが搭載される。
【0003】
また、セラミックス基板の下面にも放熱のためにAl等の金属板が接合されて金属層とされ、この金属層を介して冷却器が接合された冷却器付パワーモジュール用基板が提案されている。このような冷却器付パワーモジュール用基板においては、電子部品から発生した熱を効率的に放散することが可能となる。
ここで、セラミックス基板は、回路層と金属層との間の絶縁性を確保するとともに、パワーモジュール用基板全体の剛性を確保する役割を有している。
【0004】
さらに、近年では、パワーモジュールユニットにおいて、電子部品の高集積化、高密度化が進められており、例えば特許文献2、3に記載されているように、ひとつのセラミックス基板に複数の回路層を形成したパワーモジュール用基板が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−148451号公報
【特許文献2】特開平10−65075号公報
【特許文献3】特開2007−194256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、複数の回路層を形成するために、比較的サイズの大きなセラミックス基板を用いた場合には、回路層や金属層の接合時や熱サイクル負荷時において、セラミックス基板に比較的大きな反りが発生し、割れが生じるおそれがあった。つまり、面積の大きなパワーモジュール用基板を構成する際には、その剛性を確保するために大きな面積のセラミックス基板を用いる必要があるが、大きなセラミックス基板を用いると割れや反りが発生してしまうことになるのである。
【0007】
特に、例えば特許文献1の図4に示すように、パワーモジュール用基板を冷却器の天板部に直接接合した冷却器付パワーモジュール用基板では、パワーモジュール用基板の熱膨張係数はセラミックス基板に依存して比較的小さく、冷却器の天板部はアルミニウム等で構成されていて熱膨張係数が比較的大きいため、冷却器付パワーモジュールに熱サイクルが負荷された際に、熱膨張率の差によって熱応力が生じ、セラミックス基板に割れや反りが発生してしまう危険性がさらに高くなる。
【0008】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、比較的面積の大きくても、セラミック基板の反り、割れの発生を抑制することが可能なパワーモジュール用基板、このパワーモジュール用基板の製造方法及び、このパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明のパワーモジュール用基板は、セラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面上に配設され、銅または銅合金からなる回路層と、を備え、前記セラミックス基板が、Siまたは強化Alのいずれかで構成されており、前記回路層の厚さtcが、0.8mm≦tc≦2.0mmの範囲内に設定されるとともに、前記セラミックス基板の一方の面の面積の25%以上60%以下を占めるように構成されていることを特徴としている。
【0010】
この構成のパワーモジュール用基板においては、セラミックス基板の一方の面に、銅または銅合金からなる回路層が形成され、この回路層の厚さtcが、0.8mm≦tc≦2.0mmの範囲内に設定されるとともに、前記セラミックス基板の一方の面の面積の25%以上60%以下を占めるように構成されているので、回路層によってパワーモジュール用基板の反りが抑制されることになる。すなわち、比較的変形抵抗の高い銅によって構成された回路層が、厚肉に、かつ、広い面積で配置されていることから、パワーモジュール用基板自体の剛性が回路層によって確保されることになるのである。
また、セラミックス基板が、Siまたは強化Alのいずれかで構成されていることから、剛性が高く、反り、割れの発生が抑制されることになる。
【0011】
なお、回路層の厚さtcが0.8mm未満であると、剛性が不十分となり、セラミックス基板との熱膨張係数の差によって反りが生じやすくなる。また、回路層の厚さtcが2.0mmを超えると、回路層の剛性が過度に高くなり、熱応力がセラミックス基板に作用してセラミックス基板に割れが生じるおそれがある。よって、回路層の厚さtcは、0.8mm≦tc≦2.0mmの範囲内に設定する必要がある。
【0012】
さらに、前記セラミックス基板の一方の面のうち回路層が占める割合が、前記セラミックス基板の一方の面の面積の25%未満である場合には、セラミックス基板の反りを十分に抑制することができなくなるおそれがある。一方、前記セラミックス基板の一方の面のうち回路層が占める割合が、前記セラミックス基板の一方の面の面積の60%を超える場合には、回路層の変形が必要以上に抑制されてセラミックス基板に熱応力が作用することになり、セラミックス基板が割れてしまうおそれがある。よって、前記セラミックス基板の一方の面のうち回路層が占める割合は、25%以上60%以下とする必要がある。
【0013】
ここで、前記セラミックス基板の一方の面に、1又は2以上の前記回路層が形成されており、ひとつの前記回路層の面積が、16cm以下とされていることが好ましい。
この場合、回路層の変形が必要以上に抑制されてセラミックス基板に熱応力が作用することを防止でき、セラミックス基板の割れの発生を抑制することができる。
【0014】
前記セラミックス基板が、冷却器の天板部とされることが好ましい。
この場合、セラミックス基板が冷却器の天板部としても役割を有することから、セラミックス基板の一方の面に配設された回路層上に配設される電子部品から発生する熱を冷却器によって効率的に冷却することができ、電子部品が高集積、高密度に配設されるパワーモジュールユニットに適用することができる。
【0015】
また、本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、前述のパワーモジュール用基板を製造するパワーモジュール用基板の製造方法であって、Siまたは強化Alのいずれかで構成されたセラミックス基板の一方の面に、ろう材を介して厚さ0.8mm以上2.0mm以下の銅板を積層し、積層体を形成する積層工程と、前記積層体を加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融層を形成する溶融工程と、冷却によって前記溶融層を凝固させる凝固工程と、を有することを特徴としている。
【0016】
この構成のパワーモジュール用基板の製造方法によれば、銅又は銅合金からなる銅板とセラミックス基板とを接合することができ、前述のパワーモジュール用基板を製造することが可能となる。
【0017】
本発明のパワーモジュールは、前述のパワーモジュール用基板と、前記回路層上に搭載される電子部品と、を備えることを特徴としている。
この構成のパワーモジュールによれば、高集積、高密度のパワーモジュールユニットを構成することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、比較的面積の大きくても、セラミック基板の反り、割れの発生を抑制することが可能なパワーモジュール用基板、このパワーモジュール用基板の製造方法及び、このパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板及びパワーモジュールの上面図である。
【図2】図1におけるX−X断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図4】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。図1、図2に本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板及びパワーモジュールを示す。
このパワーモジュール1は、回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12の表面にはんだ層2を介して接合された半導体チップ3と、を備えている。ここで、はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層12とはんだ層2との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0021】
パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(図2において上面)に複数配設された回路層12と、を備えている。本実施形態においては、ひとつのセラミックス基板11の上に、3つの回路層12が配設されている。
回路層12とセラミックス基板11は、例えばAg−Cu−Ti系のろう材によって接合されている。
【0022】
このセラミックス基板11は、本実施形態では、比較的強度の高いSiで構成されており、その厚さtsが、0.25mm≦ts≦0.8mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、ts=0.32mmに設定されている。
また、セラミックス基板11の面積(一方の面の面積)は、4000mm以上5000mm以下とされている。本実施形態では、セラミックス基板11は、140mm×60〜160mmの矩形平板状をなしており、より具体的には、140mm×60mmとされ、一方の面の面積が84cmとされている。
【0023】
回路層12は、図3に示すように、セラミックス基板11の一方の面に、銅又は銅合金からなる銅板22が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層12は、無酸素銅の圧延板からなる銅板22がセラミックス基板11に接合されることにより形成されている。
回路層12の厚さtcは、0.8mm≦tc≦2.0mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、tc=1.6mmに設定されている。
【0024】
ひとつの回路層12の面積(セラミックス基板11との接合面の面積)は、16cm以下に設定されており、本実施形態では9cmとされている。
そして、セラミックス基板11の一方の面のうち回路層12が占める割合が、セラミックス基板の一方の面の面積の25%以上60%以下となるように構成されている。すなわち、一つの回路層12の面積が9cmとされ、この回路層12が3つ配設されていることから、回路層12がセラミックス基板11の一方の面に占める面積が27cmとなる。ここで、本実施形態では、セラミックス基板11の一方の面の面積が84cmとされていることから、セラミックス基板11の一方の面のうち回路層12が占める割合が、セラミックス基板の一方の面の面積の32%とされているのである。
【0025】
以下に、前述したパワーモジュール用基板10の製造方法について説明する。
図3に示すように、セラミックス基板11の一方の面の上に、71wt%Ag−27.5wt%Cu−1.5wt%Tiのろう材ペースト24を塗布し、このろう材ペースト24の上に、無酸素銅の圧延板からなる銅板22が積層され、積層体20が形成される(積層工程)。
【0026】
このようにして形成された積層体20を、乾燥させた後に800〜870℃(本実施形態では830℃)に加熱して、セラミックス基板11と銅板22との界面に溶融層を形成する(溶融工程)。次に、積層体20を冷却することによって溶融アルミニウム層を凝固させる(凝固工程)。
これにより、セラミックス基板11と銅板22とを接合し、本実施形態であるパワーモジュール用基板10が製造される。
【0027】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板10及びパワーモジュール1においては、セラミックス基板11の一方の面に、無酸素銅からなる回路層12が形成され、この回路層12の厚さtcが、0.8mm≦tc≦2.0mmの範囲内(本実施形態ではtc=1.6mm)に設定されるとともに、セラミックス基板11の一方の面の面積の25%以上60%以下(本実施形態では32%)を占めるように構成されているので、比較的変形抵抗の高い銅によって構成された回路層11によってパワーモジュール用基板10の反りが抑制される。
【0028】
また、セラミックス基板11が、比較的強度の高いSiで構成されているので、セラミックス基板11自体の剛性が高く、反り、割れの発生が抑制される。
さらに、セラミックス基板11の一方の面に、3つの回路層12が形成されており、ひとつの回路層12の面積が、16cm以下とされているので、回路層12の変形が必要以上に抑制されてセラミックス基板11に熱応力が作用することを防止でき、セラミックス基板11の割れの発生を抑制することができる。
【0029】
次に、本発明の第2の実施形態について図4を参照して説明する。
この第2の実施形態であるパワーモジュール用基板110においては、図4に示すように、セラミックス基板111の他方の面側に、冷却器用部材である放熱フィン162が設けられており、セラミックス基板111が冷却器160の天板部161として利用されているのである。
また、セラミックス基板111は、強化Alで構成されており、その厚さtsが、0.2mm≦ts≦0.8mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、ts=0.32mmに設定されている。
なお、強化Alとは、通常のAlにZrを添加し、緻密構造としたものである。
【0030】
このパワーモジュール用基板110は、第1の実施形態と同様にして、セラミックス基板111の一方の面に、ろう材ペーストを介して、複数の銅板を積層して、加熱することによって、回路層112を形成する。そして、セラミックス基板111の他方の面に複数の放熱フィン162を接合することによって製造される。
【0031】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板110においては、セラミックス基板111の他方の面に、放熱フィン162が配設され、セラミックス基板111が冷却器160の天板部161として利用されているので、セラミックス基板111の一方の面に配設された回路層112を効率的に冷却することが可能となる。よって、回路層112上に配設される電子部品から発生する熱を冷却器160によって効率的に冷却することができ、電子部品が高集積、高密度に配設されるパワーモジュールユニットに適用することができる。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、回路層を無酸素銅からなるものとして説明したが、これに限定されることはなく、銅または銅合金で構成されていればよい。
【0033】
また、セラミックス基板の一方の面に配設するろう材ペーストをAg−Cu−Ti系のものとして説明したが、これに限定されることはなく、その他のろう材であってもよい。
また、セラミックス基板の一方の面に、3つの回路層を配設したものとして説明したが、これに限定されることはなく、セラミックス基板の大きさ等を考慮して適宜設計変更してもよい。
【0034】
また、第2の実施形態において、冷却器として天板部にフィンを立設したものとして説明したが、これに限定されることはなく、冷却媒体の流路を有するものであってもよく、冷却器の構造に特に限定はない。
【符号の説明】
【0035】
1 パワーモジュール
2 半導体チップ(電子部品)
10、110 パワーモジュール用基板
11、111 セラミックス基板
12、112 回路層
24 ろう材ペースト
160 冷却器
161 天板部
162 放熱フィン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面上に配設され、銅または銅合金からなる回路層と、を備え、
前記セラミックス基板が、Siまたは強化Alのいずれかで構成されており、
前記回路層の厚さtcが、0.8mm≦tc≦2.0mmの範囲内に設定されるとともに、前記セラミックス基板の一方の面の面積の25%以上60%以下を占めるように構成されていることを特徴とするパワーモジュール用基板。
【請求項2】
前記セラミックス基板の一方の面に、1又は2以上の前記回路層が形成されており、
ひとつの前記回路層の面積が、16cm以下とされていることを特徴とする請求項1に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項3】
前記セラミックス基板が、冷却器の天板部とされることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板を製造するパワーモジュール用基板の製造方法であって、
Siまたは強化Alのいずれかで構成されたセラミックス基板の一方の面にろう材を介して、厚さ0.8mm以上2.0mm以下の銅板を積層し、積層体を形成する積層工程と、
前記積層体を加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融層を形成する溶融工程と、
冷却によって前記溶融層を凝固させる凝固工程と、
を有することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板と、前記回路層上に搭載される電子部品と、を備えたことを特徴とするパワーモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−238965(P2010−238965A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86070(P2009−86070)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】