説明

フィレットローリング加工装置及びフィレットローリング装置の異常判定方法

【課題】フィレットローリング加工時に発生するフィレットローラに欠けなどの異常を精度よく判定可能なフィレットローリング加工装置及びフィレットローリング装置の異常判定方法を提供する。
【解決手段】フィレットローリング加工装置(100)は、フィレット溝部Fにフィレットローラ(5)を圧接しながら、クランクシャフトSを回転することによりフィレットローリング加工を行う。フィレットローリング加工後、低圧力値でフィレットローラ(5)をフィレット溝部Fに圧接しながら、低回転速度でクランクシャフトSを回転駆動して検出した振動振幅にフィレットローラ(5)における異常の有無を判定する判定手段(15)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランクシャフトのフィレット溝部にフィレットローリング加工を行うためのフィレットローラにおける異常を検出可能なフィレットローリング加工装置及びフィレットローリング装置の異常判定方法の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用エンジンなどの内燃機関に用いられるクランクシャフトでは、クランクピンやクランクジャーナルに設けられたフィレット溝部にフィレットローリング加工を施すことにより、疲労強度の向上が図られている。一般的に、フィレットローリング加工は、クランクピン及びクランクジャーナルに丸みを帯びて形成されたフィレット溝部に、フィレットローラで圧力を印加しながらクランクシャフトを回転駆動する(冷間圧延加工する)ことにより行われる。
【0003】
フィレットローリング加工ではフィレット溝部にフィレットローラを圧接しながらクランクシャフトを回転駆動するため、フィレットローラには、フィレット溝部からの反力によって欠けの発生などの異常が生じる場合がある。このようにフィレットローラに異常が発生すると、フィレット溝部に適切な圧力が印加されないためにフィレットローリング加工が正常に行われなくなったり、フィレットローラに生じた欠けなどの異常に起因してフィレット溝部の表面を傷付けたりするなど種々の不具合の原因となってしまう。このようにフィレットローリング加工時において、フィレットローラに生じる欠けなどの異常を早期、且つ、的確に検出しなければならないという要請がある。
【0004】
例えば特許文献1には、このようなフィレットローラにおける異常検出方法の一例として、フィレット溝部に圧力を印加するための油圧シリンダの油圧を電圧波形として検出し、当該検出された電圧波形の最大振幅が基準振幅を超えるか否かにより、異常の有無を判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−47960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フィレットローリング加工が実行されている最中に取得した電圧波形にはノイズ成分が多く含まれており、フィレットローラの異常に関する情報がこのような余分なノイズ成分に埋もれてしまい、精度良く異常を判定することが困難であるという問題がある。
【0007】
特許文献1では、単に電圧波形の最大振幅値に基づいて異常の判定を行っているため、当該異常がフィレットローラの欠けによるものなのか、又は、それ以外の要因(例えば、外部のメカニカルノイズ(例えばフィレットローリング装置の回転機構を構成するベアリングの故障などに起因するノイズ)など)によるものなのかを区別することができない。そのため、真にフィレットローラに異常が無い場合であっても、フィレットローラに異常があるものと誤って判定されてしまう場合があり、判定の精度が不十分である。
【0008】
本発明は、上述した問題点に鑑みなされたものであり、フィレットローリング加工時に発生するフィレットローラの欠けなどの異常を的確に検出可能なフィレットローリング加工装置及び該フィレットローリング加工装置の異常検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のフィレットローリング加工装置は上記課題を解決するために、クランクシャフトに設けられたフィレット溝部にフィレットローラを圧接しながら、前記クランクシャフトを回転駆動することによりフィレットローリング加工を行うフィレットローリング加工装置であって、前記フィレットローラの振動振幅を検出する検出手段と、前記フィレットローラがフィレット溝部に印加する圧力値及び前記クランクシャフトの回転速度を可変に制御する制御手段と、前記検出手段によって検出された振動振幅に基づいて前記フィレットローラにおける異常の有無を判定する判定手段とを備え、前記判定手段は、前記制御手段によって第1の圧力値で前記フィレットローラを前記フィレット溝部に圧接しながら、第1の回転速度で前記クランクシャフトを回転駆動することによりフィレットローリング加工を施した後に、前記第1の圧力値より小さい第2の圧力値で前記フィレットローラを前記フィレット溝部に圧接しながら、前記第1の回転速度より小さい第2の回転速度で前記クランクシャフトを回転駆動した際に、前記検出手段によって検出された振動振幅に基づいて前記フィレットローラにおける異常の有無を判定することを特徴とする。
【0010】
本発明のフィレットローリング加工装置によれば、フィレットローリング加工が終了した後に、フィレット溝に印加する圧力値及びクランクシャフトの回転速度をフィレットローリング加工時に比べて低下させた状態で検出された振動振幅に基づいて異常を判定する。このような状態で検出された振動振幅には、振動ノイズなどの余分なノイズ成分が少ないため、フィレットローラにおける異常の有無を、精度を良く判定することができる。
【0011】
好ましくは、前記判定手段は、前記検出手段によって検出された振動振幅が第1の閾値を超えたか否かにより前記フィレットローラの異常の有無を判定するとよい。上述したように、本発明で検出される振動振幅には振動ノイズなどの余分なノイズ成分が少ないため、当該振動振幅が予め実験等によって把握されたフィレットローラに異常がある場合の閾値を超えたか否かによって、フィレットローラにおける異常の有無を精度を良く判定することができる。
【0012】
更に好ましくは、前記検出手段によって検出された信号が前記第1の閾値より大きい場合に、該検出された信号を所定期間ホールドするホールド回路を備え、前記判定手段は、前記所定期間より長い期間として設定された第2の閾値より前記ホールドされた信号が長く継続した場合に、前記フィレットローラに異常があると判定するとよい。フィレットローラ以外の要因(例えば、外部のメカニカルノイズ(例えばフィレットローリング装置の回転機構を構成するベアリングの故障などに起因するノイズ)など)に起因する異常は、クランクシャフトの回転周期毎に生じるパルス状の波形として現れる傾向にある。本態様では、このようなフィレットローラの欠け以外による異常を区別して検出することができるため、フィレットローラに生じた欠けなどの異常を高精度に判定することができる。
【0013】
更に好ましくは、前記所定期間は、前記クランクシャフトの回転周期に比べて小さく設定されているとよい。フィレットローラは一般的にフィレット溝部の径に比べて小さい径を有しているため、フィレット溝部が一周する間にフィレットローラは複数回回転する。そのため、フィレットローラに異常がある場合、当該異常はクランクシャフトの回転周期中に複数回パルス状の波形として現れる。そのため、所定期間は、クランクシャフトの回転周期に比べて小さく設定することにより、フィレットローラの異常は長時間ホールドされるのに対し、それ以外の要因は短い時間しかホールドされない。このように、フィレットローラの欠けをそれ以外の異常と区別して検出することができるため、判定精度をより効果的に向上させることができる。
【0014】
好ましくは、前記判定手段は、前記制御手段によって前記フィレット溝部に印加される圧力値及び前記クランクシャフトの回転速度が可変に制御されたタイミングから所定期間前後に前記検出手段によって検出された振動振幅を除いて、前記フィレットローラの異常の有無を判定するとよい。フィレット溝部に印加される圧力値やクランクシャフトの回転速度が変更された前後では外乱ノイズが増大する傾向にあるため、振動振幅に余分なノイズ成分が多く含まれる傾向にある。この態様では、このように外乱ノイズが多い変更タイミング前後の振動振幅を除いて判定を行うことにより、判定精度をより効果的に向上させることができる。
【0015】
本発明のフィレットローリング装置の異常判定方法は上記課題を解決するために、クランクシャフトに設けられたフィレット溝部にフィレットローラを圧接しながら、前記クランクシャフトを回転駆動することによりフィレットローリング加工を行うフィレットローリング装置の異常判定方法であって、前記フィレットローラの振動振幅を検出する検出工程と、前記フィレットローラがフィレット溝部に印加する圧力値及び前記クランクシャフトの回転速度を可変に制御する制御工程と、前記検出された振動振幅に基づいて前記フィレットローラにおける異常の有無を判定する判定工程とを備え、前記判定工程は、第1の圧力値で前記フィレットローラを前記フィレット溝部に圧接しながら、第1の回転速度で前記クランクシャフトを回転駆動することによりフィレットローリング加工を施した後に、前記第1の圧力値より小さい第2の圧力値で前記フィレットローラを前記フィレット溝部に圧接しながら、前記第1の回転速度より小さい第2の回転速度で前記クランクシャフトを回転駆動した際に、前記検出された振動振幅に基づいて前記フィレットローラにおける異常の有無を判定することを特徴とする。
【0016】
本発明に係るフィレットローリング加工装置の異常判定方法によれば、上述のフィレットローリング加工装置(上記各種態様を含む)を好適に実現可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、フィレットローリング加工が終了した後に、フィレット溝に印加する圧力値及びクランクシャフトの回転速度をフィレットローリング加工時に比べて低下させた状態で検出された振動振幅に基づいて異常を判定する。このような状態で検出された振動振幅には、振動ノイズなどの余分なノイズ成分が少ないため、フィレットローラにおける異常の有無を、精度を良く判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るフィレットローリング加工装置によってフィレットローリング加工が施されるクランクシャフトの概略構成を示す側面図である。
【図2】本発明に係るフィレットローリング加工装置の全体構成を概略的に示す側面図である。
【図3】フィレット溝部に当接するフィレットローラの様子を拡大して示す断面図である。
【図4】本発明に係るフィレットローリング加工装置の一連の動作におけるクランクシャフトの回転速度とフィレット溝部に印加される圧力値の推移を示すグラフ図である。
【図5】フィレット溝部に印加する圧力値及びクランクシャフトの回転速度を低下させた状態で振動センサから取得した電圧波形である。
【図6】フィレット溝部に印加させる圧力値及びクランクシャフトの回転速度を低下させずに振動センサによって取得した電圧波形である。
【図7】判定手段の具体的な構成を示すブロック図である。
【図8】シーケンサにおける解析内容を示すフローチャート図である。
【図9】シーケンサの解析過程における電圧波形を模式的に示すグラフ図である。
【図10】クランクピンに設けられたフィレット溝部への圧力分布を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0020】
図1は本発明に係るフィレットローリング加工装置100によってフィレットローリング加工が施されるクランクシャフトSの概略構成を示す側面図である。クランクシャフトSは、例えば直列4気筒エンジン用のクランクシャフトであり、周知のように5箇所のクランクジャーナルJのほか、同位相の二つのクランクピンP1、当該クランクピンP1に対して位相が180度ずれて設けられた二つのクランクピンP2を備えてなる。クランクピンP1及びP2のそれぞれの逆位相側には、カウンタウェイトCWが設けられており、クランクジャーナルJ、クランクピンP1及びP2の両端にはフィレット溝部Fが形成されている。
【0021】
図2は、本発明に係るフィレットローリング加工装置100の全体構成を概略的に示す側面図である。フィレットローリング加工装置100は、一対のアームである上側アーム1a及び下側アーム1bからなるクランプアーム1を備える。上側アーム1aは下側アーム1bに対して支持軸2を中心に回動可能に取り付けられており、下側アーム1bはベース3に固定された支持ブラケット4の上端に固定されている。
【0022】
上側アーム1aの先端下面にはフィレットローラ5が回転可能に設けられており、下側アーム1bの先端上面にはフィレットローラ5に対向するように、2つのレストローラ6が回転可能に設けられている。フィレットローリング加工装置100は、加工対象であるクランクシャフトSのクランクジャーナルJ及びクランクピンP1、P2をレストローラ6によって下側から支持しつつ、フィレット溝部Fに対し上側からフィレットローラ5を圧接させることによってクランクシャフトSを固定可能なように構成している。尚、図2ではクランクシャフトSのうちクランクピンP1を固定している様子を図示しているが、クランクジャーナルJ及びクランクピンP2に対してフィレットローリング加工を行う場合についてもその固定の様子は、以下に特記しない限り同様である。
【0023】
図3はフィレット溝部Fに当接するフィレットローラ5の様子を拡大して示す断面図である。このように、フィレットローリング加工装置100は、フィレットローラ5をフィレット溝部Fに対して圧接することにより、フィレット溝部Fに圧力を印加する。このとき図1に示すように、クランクシャフトSは、その両側から駆動シャフト30及び31によって固定されており、図2に示すコントローラ11からの指令に基づいて図不示のロータリアクチュエータにより所定の回転速度で回転駆動される。このように、フィレット溝部Fにフィレットローラ5から圧力を印加しつつ、クランクシャフトSを回転駆動することにより、フィレットローリング加工を含む一連の動作がなされる。
【0024】
再び図2に戻って、上側アーム1a及び下側アーム1bの後端間には、油圧駆動式シリンダ8(以下、単に「シリンダ8」と称する)が設けられている。シリンダ8の本体8aの下端はピン9を介して下側アーム1bに回動可能に取り付けられており、ロッド8bの上端はピン10を介して上側アーム1aに回動可能に取り付けられている。
【0025】
コントローラ11は、ロータリアクチュエータを回転駆動させることによってクランクシャフトSの回転速度Rを制御すると共に、シリンダ8の油圧値を制御することによりフィレット溝部Fに印加される圧力値Pfを制御するコントロールユニットである。即ち、コントローラ11は本発明の「制御手段」の一例である。フィレット溝部Fに印加される圧力値Pfは、油圧配管12に設けられた油圧センサ13からの信号に基づいて制御される。例えば、コントローラ11は油圧センサ13の検出値が所定値になるように、上側アーム1a及び下側アーム1bの後端間にかかるトルクをフィードバック制御することにより、フィレット溝部Fに印加される圧力値Pfを制御する。
【0026】
上側アーム1aのうちフィレットローラ5付近には、振動センサ14が設けられている。振動センサ14は、例えば加速度センサやポテンショメータなどの変位センサであり、上側アーム1aの振動を電圧波形として取得し、判定手段15に入力する。判定手段15は、当該取得した電圧波形に基づいてフィレットローラ5の異常の有無を判定するが、その具体的な判定プロセスについては後に詳述する。
【0027】
尚、図2では図示を省略しているが、クランクアーム1はそれぞれフィレット溝部Fが設けられたクランクピンP1、P2及びクランクジャーナルJの各々に対応するように、クランクシャフトSに対して複数設けられている。以下、主にクランクピンP1に設けられたフィレット溝部Fにフィレットローリング加工を行う場合について説明を行うが、クランクピンP2及びクランクジャーナルJに設けられたフィレット溝部Fにフィレットローリング加工を行う場合についても特段の記載が無い限り同様として説明する。
【0028】
図4は、本発明に係るフィレットローリング加工装置100の一連の動作におけるクランクシャフトSの回転速度Rとフィレット溝部Fに印加される圧力値Pfの推移を示すグラフ図である。図4(a)はクランクシャフトSの回転速度Rの推移を示しており、図4(b)はクランクシャフトSのうちクランクジャーナルJに設けられたフィレット溝部Fに印加される圧力値Pfjの推移を示しており、図4(c)はクランクシャフトSのうちクランクピンP1、P2に設けられたフィレット溝部Fに印加される圧力値Pfpの推移を表している。尚、図4の各グラフにおける横軸はクランクシャフトSの回転数である。
【0029】
まず図4(a)(b)を参照して、クランクジャーナルJに設けられたフィレット溝部Fに対するフィレットローリング加工について説明する。フィレットローリング加工装置100にクランクシャフトSがセットされると、コントローラ11は、フィレット溝部Fに印加される圧力値をPfj1に設定して、クランプアーム1でクランクシャフトSをクランプする。このとき、クランクシャフトSの回転速度は、図4(a)に示すようにゼロである(即ち、停止状態にある)。
【0030】
クランクシャフトSのクランプが完了すると、コントローラ11はフィレット溝部Fに印加される圧力値を第1の圧力値Pfj1から第2の圧力値Pfj2に向かって増加させると共に、クランクシャフトSの回転速度を第1の回転速度R1から第2の回転速度R2に変更し、フィレットローリング加工を開始する。
【0031】
本実施例では特に、フィレット溝部Fに印加する圧力値を第1の圧力値Pfj1から第2の圧力値Pfj2に向かって連続的に増加させている。これにより、この場合、フィレット溝部Fとフィレットローラ5との間に生じる摩擦力が急激に変化してショックとなることによって、フィレットローラ5に欠けなどの不具合が生じてしまうことを防止することができる。尚、図4に示す例では、クランクシャフトSの回転速度Rとフィレット溝部への印加圧力のうち後者のみを連続的に変化させる場合を例示したが、前者のみ或いは、両者とも連続的に変化させてもよい。
【0032】
フィレットローリング加工が完了すると、コントローラ11はフィレット溝部Fに印加させる圧力値及びクランクシャフトSの回転速度Rを低下させ、判定手段15によりフィレットローラ5に欠けなどの異常が存在するか否かの判定を実行する。
【0033】
このとき、コントローラ11はシリンダ8の油圧値を制御することにより、フィレット溝部Fに印加する圧力値を第2の圧力値Pfj2から第1の圧力値Pfj1に向かって減少させると共に、クランクシャフトSの回転速度を第2の回転速度R2から第1の回転速度R1に変更する。このようにフィレット溝部Fへの印加圧力値及びクランクシャフトSの回転速度を低下させることによって、振動センサ14から取得する電圧波形に含まれるノイズ成分を抑制することができる。つまり、フィレット溝部Fへの印加圧力値及びクランクシャフトSの回転速度が大きいままだと、フィレットローラ5の異常による電圧変動がノイズ成分に埋もれてしまい、判定精度が低下してしまう。本実施例では、このようなノイズが振動センサ14から取得した電圧波形に極力含まれないように、フィレット溝部Fへの印加圧力値及びクランクシャフトSの回転速度を低下させ、判定精度を向上できる。
【0034】
このような電圧波形におけるノイズ成分の減少は、本願発明者の実験結果によっても示されている。図5はフィレット溝部Fに印加する圧力値及びクランクシャフトSの回転速度Rを低下させた状態で振動センサ14から取得した電圧波形であり、図6はフィレット溝部Fに印加させる圧力値及びクランクシャフトSの回転速度Rを低下させずに振動センサ14によって取得した電圧波形である。図5に示すように、フィレット溝部Fに印加させる圧力値及びクランクシャフトSの回転速度Rを低下させることによって、電圧波形に含まれるノイズ成分が少なく、フィレットローラ5に小さな異常がある場合であっても明確に判別することができる。一方、図6ではフィレットローラ5に同じ小さな異常がある場合であっても、当該異常に起因する電圧波形はノイズ成分に埋もれてしまい、大きな異常がある場合であっても異常がない場合との波形の差は微小であり、判別が困難である。
【0035】
図7は判定手段15の具体的な構成を示すブロック図である。振動センサ14から出力された電圧波形は、増幅器16によって増幅された後、A/D変換器17によってデジタル変換される。このようにデジタル変換された電圧波形は、シーケンサ18において解析されることでフィレットローラ5における異常の有無が判定される。
【0036】
図8は、シーケンサ18における解析内容を示すフローチャート図であり、図9は当該解析内容における電圧波形を模式的に示すグラフ図である。尚、図9においては、A/D変換器17から入力される電圧波形は実際にはデジタル信号であるが、ここでは説明を容易にするためにアナログ的に示してある。
【0037】
まず、図9(a)に示すように、シーケンサ18に入力される電圧波形には、フィレットローラ5の異常に起因するパルスPulse1と、その他の要因に起因するパルスPulse2とが表れているものとする。ここで、パルスPulse2の要因としては、外部のメカニカルノイズ(例えばフィレットローリング装置の回転機構を構成するベアリングの故障などに起因するノイズ)などの異常が含まれる。フィレット溝部Fに比べて径の小さいフィレットローラ5における異常に起因するパルスPulse1は短い周期T1で表れている。一方、外部のメカニカルノイズに起因するパルスPulse2は、フィレット溝部Fがフィレットローラ5に比べて径が大きいため、長い周期T2を有している。
【0038】
まずシーケンサ18は、図9(a)に示す電圧波形を取得し(ステップS101)、当該電圧波形の振幅が予め設定された第1の閾値V1より大きくなったか否かを判定する(ステップS102)。電圧波形の振幅が第1の閾値V1より大きい場合(ステップS102:YES)、シーケンサ17は所定期間Tcの間、その振幅値をホールドする(ステップS103)。尚、第1の閾値V1は、実験的、理論的又はシミュレーション的に、フィレットローラ5に異常がある場合に想定されるパルスの振幅として、より好ましくは、想定されるパルスより小さい振幅として規定された値である。
【0039】
図9(a)に示す例では、パルスPulse1とパルスPulse2は共に振幅が第1の閾値V1より大きいので、それぞれ所定期間Tcの間ホールドされる。ここで、パルスPulse1とパルスPulse2の各々のホールド期間をわかりやすく示すために、図9(b)は電圧波形のうちパルスPulse1のホールド期間、図9(c)は電圧波形のうちパルスPulse2のホールド期間をそれぞれ個別に示してある。
【0040】
パルスPulse1は、フィレットローラ5の異常に起因して発生するパルスであり、フィレットローラ5の回転周期T1と同周期(即ち、短い周期)で表れている。また、パルスPulse2は、フィレットローラ5の異常以外の要因、例えば、外部のメカニカルノイズ(例えばフィレットローリング装置の回転機構を構成するベアリングの故障などに起因するノイズ)などにより発生するパルスであり、クランクシャフトSの回転周期T2と同周期(即ち、長い周期)で表れている。
【0041】
所定期間Tcは周期T2に比べて小さく設定されている。そのため、図9(c)に示すように、ホールドされたパルスPulse2は、次のパルスPulse2が発生する前に一旦ローレベルになる。一方、図9(b)に示すように、ホールドされたパルスPulse1は、所定期間Tcが経過する前に次のパルスPulse1が発生するため、連続的にホールドされることとなる。このように、シーケンサ18においては、フィレットローラ5の異常に起因するパルスPulse1は長時間ホールドされるのに対し、それ以外の要因に起因するパルスPulse2は短時間しかホールドされない。
【0042】
このような性質に鑑み、シーケンサ18はパルスがホールドされる時間を計測し、当該ホールド時間が第2の閾値Tdより長いか否かを判定する(ステップS104)。ホールド時間が第2の閾値Tdより長い場合(ステップS104:YES)、シーケンサ18はフィレットローラ5に異常があると判定し(ステップS105)、図不示のインジケータを点灯させたり、警報音を発することにより、ユーザに異常の存在を報知する(ステップS106)。一方、ホールド時間が第2の閾値Td以下である場合(ステップS104:NO)、シーケンサ18はフィレットローラ5に異常はないと判定する(ステップS107)。このように、本実施例では、このようなフィレットローラ5の欠け以外の要因に起因するパルスと、真にフィレットローラ5の異常によるパルスを区別することができるため、フィレットローラ5の異常をより高精度に判定することができる。
【0043】
ここで、第2の閾値Tdは、該所定期間Tcより長い期間として設定された閾値である。第2の閾値Tdの長さは、フィレットローラ5の異常をより確実に判定するという観点からは極力長く設定することが好ましいが、その反面、判定に要する時間が長くなり、クランクシャフトSの生産性が低下してしまう。そのため、フィレットローラ5の異常の判定精度と生産性のバランスとを考慮して適宜設定するとよい。
【0044】
図4に示すように、フィレットローラ5の異常判定は基本的に、フィレット溝部Fに印加する圧力値が第1の圧力値Pfj1、クランクシャフトSの回転速度が第1の回転速度R1に設定された期間Tmにおいて行われる。より好ましくは、コントローラ11によってフィレット溝部Fに印加される圧力値及びクランクシャフトSの回転速度が可変に制御されたタイミングから所定期間Tn前後の電圧波形を除いて、フィレットローラ5の異常の有無を判定するとよい。即ち、図4の例では、フィレット溝部Fに印加する圧力値を第2の圧力値Pfj2から第1の圧力値Pfj1に向かって減少させると共に、クランクシャフトSの回転速度を第2の回転速度R2から第1の回転速度R1に変更したタイミングからの所定期間Tnに取得した電圧波形を除いて、フィレットローラ5の異常の有無を判定するとよい。フィレット溝部Fに印加される圧力値やクランクシャフトSの回転速度が変更された前後では外乱ノイズが増大する傾向にあるため、振動振幅に余分な情報が多く含まれる傾向にある。本実施例では、このように外乱ノイズが多い変更タイミング前後の電圧波形を除いて判定を行うことにより、判定精度をより効果的に向上させることができる。
【0045】
続いて図4(a)(c)を参照して、クランクピンP1、P2に設けられたフィレット溝部Fに対するフィレットローリング加工について説明する。この場合も、基本的には、クランクジャーナルJに設けられたフィレット溝部Fと同様であるが、フィレットローリング加工時にフィレット溝部Fに印加される圧力値の制御パターンが異なる。具体的には、図4(c)に示すように、クランクピンP1、P2に設けられたフィレット溝部Fへの印加圧力値Pfpが、周期的に低圧側のPfp21と高圧側のPfp22とを繰り返すように制御される。
【0046】
一般的に、クランクシャフトSの疲労強度を向上させるためには、フィレットローリング加工時にフィレット溝部Fに印加する圧力値が大きい程よいとされているが、一方でフィレットローラ5の寿命は、フィレット溝部Fに加えられる圧力が大きくなるに従い、極端に短くなってしまうことが知られている。クランクシャフトSが実際にエンジンに組み込まれた状態では、クランクシャフトSのうちクランクピンP1、P2のボトム側に大きな荷重が加わる一方で、ボトム側とは反対側のトップ側ではボトム側程大きな荷重が加わらない。そのため、図10に示すように、コントローラ11は、クランクピンP1、P2のトップ側34を低圧側のPfp21で加工すると共に、ボトム側35を高圧側のPfp22で加工するように、フィレット溝部Fに印加される圧力値を切り替え制御することにより、フィレットローラ5の長寿命化とクランクシャフトSの疲労強度の確保とを両立することができる。尚、本実施例では、図10に示すように、クランクピンP1、P2の外周のうち130度分をトップ側34、その他の外周をボトム側35としている。
【0047】
以上説明したように、本実施例のフィレットローリング加工装置によれば、フィレットローリング加工が終了した後に、フィレット溝Fに印加する圧力値及びクランクシャフトSの回転速度をフィレットローリング加工時に比べて低下させた状態で検出された振動振幅に基づいて異常を判定する。このような状態で検出された振動振幅には、振動ノイズなどの余分なノイズ成分が少ないため、フィレットローラ5における異常の有無を、精度を良く判定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、クランクシャフトのフィレット溝部にフィレットローラを圧接しながらクランクシャフトを回転駆動してフィレットローリング加工において、フィレットローラの欠けなどの異常を検出可能なフィレットローリング加工装置及びフィレットローリング装置の異常判定方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 アーム
1a 上側アーム
1b 下側アーム
2 支持軸
3 ベース
4 支持ブラケット
5 フィレットローラ
6 レストローラ
8 シリンダ
11 コントローラ
13 油圧センサ
14 振動センサ
15 判定手段
16 増幅器
17 A/D変換器
18 シーケンサ
100 フィレットローリング加工装置
S クランクシャフト
J クランクジャーナル
P1 クランクピン
P2 クランクピン
F フィレット溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトに設けられたフィレット溝部にフィレットローラを圧接しながら、前記クランクシャフトを回転駆動することによりフィレットローリング加工を行うフィレットローリング加工装置であって、
前記フィレットローラの振動振幅を検出する検出手段と、
前記フィレットローラがフィレット溝部に印加する圧力値及び前記クランクシャフトの回転速度を可変に制御する制御手段と、
前記検出手段によって検出された振動振幅に基づいて前記フィレットローラにおける異常の有無を判定する判定手段と
を備え、
前記判定手段は、前記制御手段によって第1の圧力値で前記フィレットローラを前記フィレット溝部に圧接しながら、第1の回転速度で前記クランクシャフトを回転駆動することによりフィレットローリング加工を施した後に、前記第1の圧力値より小さい第2の圧力値で前記フィレットローラを前記フィレット溝部に圧接しながら、前記第1の回転速度より小さい第2の回転速度で前記クランクシャフトを回転駆動した際に、前記検出手段によって検出された振動振幅に基づいて前記フィレットローラにおける異常の有無を判定することを特徴とするフィレットローリング加工装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記検出手段によって検出された振動振幅が第1の閾値を超えたか否かにより前記フィレットローラの異常の有無を判定することを特徴とする請求項1に記載のフィレットローリング加工装置。
【請求項3】
前記検出手段によって検出された信号が前記第1の閾値より大きい場合に、該検出された信号を所定期間ホールドするホールド回路を備え、
前記判定手段は、前記所定期間より長い期間として設定された第2の閾値より前記ホールドされた信号が長く継続した場合に、前記フィレットローラに異常があると判定することを特徴とする請求項2に記載のフィレットローリング加工装置。
【請求項4】
前記所定期間は、前記クランクシャフトの回転周期に比べて小さく設定されていることを特徴とする請求項3に記載のフィレットローリング加工装置。
【請求項5】
前記判定手段は、前記制御手段によって前記フィレット溝部に印加される圧力値及び前記クランクシャフトの回転速度が可変に制御されたタイミングから所定期間前後に前記検出手段によって検出された振動振幅を除いて、前記フィレットローラの異常の有無を判定することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のフィレットローリング加工装置。
【請求項6】
クランクシャフトに設けられたフィレット溝部にフィレットローラを圧接しながら、前記クランクシャフトを回転駆動することによりフィレットローリング加工を行うフィレットローリング装置の異常判定方法であって、
前記フィレットローラの振動振幅を検出する検出工程と、
前記フィレットローラがフィレット溝部に印加する圧力値及び前記クランクシャフトの回転速度を可変に制御する制御工程と、
前記検出された振動振幅に基づいて前記フィレットローラにおける異常の有無を判定する判定工程と
を備え、
前記判定工程は、第1の圧力値で前記フィレットローラを前記フィレット溝部に圧接しながら、第1の回転速度で前記クランクシャフトを回転駆動することによりフィレットローリング加工を施した後に、前記第1の圧力値より小さい第2の圧力値で前記フィレットローラを前記フィレット溝部に圧接しながら、前記第1の回転速度より小さい第2の回転速度で前記クランクシャフトを回転駆動した際に、前記検出された振動振幅に基づいて前記フィレットローラにおける異常の有無を判定することを特徴とするフィレットローリング装置の異常判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−106309(P2012−106309A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256759(P2010−256759)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】