説明

ブッシュ・ブラケット一体スタビライザーバー

【課題】 スティックスリップ現象や、隙間への異物の侵入による問題を解消できるブッシュ・ブラケット一体スタビライザーバーを安価に提供する。
【解決手段】 スタビライザーバーと、スタビライザーバーの外周に装着されたゴムブッシュと、ゴムブッシュを介してスタビライザーバーを車体の底部に取付けるためのブラケットとを具備し、スタビライザーバーはアミン系硬化エポキシ塗料またはアミン含有カチオン塗料および塗料上にハロゲンドナー系表面処理剤を含む表面処理層を有し、ゴムブッシュは内表面にハロゲンドナー系表面処理剤を含む表面処理層を有し、スタビライザーバーとゴムブッシュとの間にそれぞれの表面処理層を介して、アミン系または有機ヒドラジド系硬化剤およびビスフェノール系エポキシ樹脂を含む熱硬化性エポキシ接着剤層が形成されているブッシュ・ブラケット一体型スタビライザーバー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等車両用サスペンション装置の一部であるスタビライザーバーと、それを車体に取り付けるためのゴムブッシュおよびブラケットとを一体化したブッシュ・ブラケット一体スタビライザーバーに関する。
【背景技術】
【0002】
スタビライザーバーは主に車体のロール(車体前後方向を軸とした回転運動)を抑制する部材である。ゴムブッシュはこのスタビライザーバーと車体の間に取り付けられ、路面状況などによってスタビライザーバーに入力された振動の車体への伝播を減衰させると共に、スタビライザーバーの挙動に柔軟に追従し、車体を支えるものである。
【0003】
スタビライザーバーに取り付けられたゴムブッシュは、車輪(車体)の上下動に応じてスタビライザーバーの回転方向に力がかかる。同時に、ゴムブッシュは、車体を支えるためおよび振動のために垂直方向の力を受ける。
【0004】
従来のゴムブッシュ付スタビライザーバーは、スタビライザーバーとゴムブッシュ、およびゴムブッシュとブラケットを接着しない非接着タイプが主流であった。そのため、非接着部分に水が浸入したときや気温が−30℃といった非常に低温の場合にスティックスリップを生じて異音を発生させる問題がある。
【0005】
図6に、非接着タイプのゴムブッシュ付スタビライザーバーでスティックスリップが生じたときの、スタビライザーバーの変位(スタビライザーバーがねじれるなどの入力)に対する発生トルク(出力)を示す。図6に示すように、スタビライザーバーの変位とトルクとの間に位相のずれが生じるため、ハンドリング性に影響が生じ、操舵安定性が阻害される。
【0006】
また、スタビライザーバーとゴムブッシュ、およびゴムブッシュとブラケットを接着により一体化していないため、スタビライザーバーに大きな力が加わった際に互いの間に隙間が生じる。こうした隙間に硬質な異物が侵入した場合、スタビライザーバーやブラケットが傷つき、異音が発生することがあった。さらに、砂や石のような硬質な異物が侵入したままだと、磨耗や折損などの異常が発生することがあった。
【0007】
これらの問題点に対し、従来から接着により様々な対策がとられているが、いずれも効果が不十分であるか、高コストであるなどの問題を有している。
【0008】
(1)加硫接着工法(特許文献1、2)
特許文献1は、スタビライザーバーおよびブラケットを金型内に設置し、ゴムブッシュの加硫成型と同時に接着を行う技術を開示している。しかし、金型内に金属製のスタビライザーバーおよびブラケットを設置するため、金型には強度および精度が要求されるうえに、金型の耐久性も低下する。また、通常、スタビライザーバーは長さが1m程度あるため、金型などを含む設備が大型化し、多大なコストがかかるという問題がある。さらに、加硫接着後にスタビライザーバーなどに塗装を施すため、ゴムブッシュとスタビライザーバーとの間などに塗装不良を生じやすく、信頼性の低下を招く。しかも、通常、スタビライザーバーの塗装に用いられる粉体塗装、カチオン塗装は、乾燥(硬化)に高温、長時間の処理を必要とするため、加硫接着されたゴムブッシュの熱劣化を生じる可能性も問題になる。
【0009】
一方、特許文献2は、ブラケットに対してゴムブッシュの加硫成型時に加硫接着を施した後、塩化ゴム系接着剤を用いて、ブラケットを加硫接着したゴムブッシュを塗装済みスタビライザーバーに接着することにより、設備の大型化などの問題を回避している。しかし、本発明者らが開示された情報に基づいて試作した結果、塩化ゴム系接着剤によりゴムブッシュをスタビライザーバーに接着するために加熱処理が必要であり、ゴムブッシュが熱劣化して強度が40〜50%低下することが確認できている。また、この方法ではスタビライザーバーに対し上下2つのゴムブッシュ付ブラケットを必要とするため、コスト的に有利であるとはいいがたい。
【0010】
(2)後接着工法1(特許文献3)
特許文献3は、(1)の方法によるコスト上昇を抑える方策として、加硫済みのゴムに対し加硫接着を行う方法を開示している。この方法では、加硫済みゴムを用い、(1)に挙げた設備の大型化によるコスト増などのデメリットを解消している。しかし、開示された内容に基づき同一条件(10%圧縮、160℃、60分加熱)で試作を行ったところ、熱劣化によるゴムブッシュの大幅な強度低下が確認され、ゴムブッシュの長期信頼性の点で問題があった。また、特許文献3では、ブッシュとブラケットを接着・固着していないため、この部分で発生する異音や異物の侵入による磨耗、折損の問題を解決できない。
【0011】
(3)後接着工法2(特許文献4〜6)
特許文献4は、熱硬化性接着剤を用いる方法を開示している。この方法は、塗装工程における高温塗装処理(130〜200℃、20分)を利用して接着剤を硬化させている。しかし、この方法でも、加硫済みのゴムブッシュを高温に長時間さらすことによる熱劣化を避けられない。また、この方法もスタビライザーバーとブッシュとを接着しているだけであり、ブッシュとブラケットとを接着していないため、この部分への異物の侵入による異音の発生や磨耗、破損を防げない。さらに、未塗装のスタビライザーバーにゴムブッシュを接着してから塗装を行うため、スタビライザーバーとゴムブッシュとの境界において、未塗装部が残るなどの塗装不良が発生し、塗装不良部からの腐食が進行し、長期間使用の際、スタビライザーバーが折損するなどの問題があった。
【0012】
一方、特許文献5や特許文献6は、電着塗装や粉体塗装を施したスタビライザーバーに熱硬化性接着剤を塗布し、ゴムブッシュを接着する方法を開示している。しかし、これら文献に記載された内容に基づき試作を行った結果、これらの方法では接着剤とスタビライザーバーまたは接着剤とゴムブッシュとの接着力が劣るため、ゴム破断には至らないことがわかっている。また、これらの方法では、ブッシュとブラケットを挟圧して固定しているだけで接着がなされていないため、この部分で発生する異音や異物の侵入による磨耗、折損の問題が残る。
【0013】
(4)後接着工法3(特許文献7)
特許文献7は、塗装済みスタビライザーバーに対し、塩素化処理を行ったゴムブッシュを、熱硬化性接着剤で接着する方法を開示している。この方法は、塩素化処理を行うことでゴムブッシュの接着力を向上させていると考えられる。しかし、開示されている情報を基に試作した結果、塩素化処理によりゴム表面が粗化され、アンカー効果によりいくらかの接着力の向上は確認されたが、接着剤だけでは加硫接着の接着強度には大きく劣り、ゴム破断には至らないことが確認できている。また、この方法でもブッシュとブラケットをクランプにより固定しているだけであるため、この部分で発生する異音や異物の侵入による磨耗、折損の問題には対応できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第3716750号公報
【特許文献2】特開2006−123818号公報
【特許文献3】特開2005−319850号公報
【特許文献4】特開2001−270315号公報
【特許文献5】特開2006−8082号公報
【特許文献6】特開2006−27311号公報
【特許文献7】特開平11−108096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、スティックスリップ現象による異音の発生や、隙間への異物の侵入による異音の発生および磨耗による破損などの問題を解消すると共に、優れた操舵安定性を有するブッシュ・ブラケット一体スタビライザーバーを安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の実施形態によれば、スタビライザーバーと、前記スタビライザーバーの外周に装着されたゴムブッシュと、前記ゴムブッシュの外周に設けられ、前記ゴムブッシュを介して前記スタビライザーバーを車体の底部に取付けるためのブラケットとを具備し、前記スタビライザーバーはアミン系硬化エポキシ塗料またはアミン含有カチオン塗料および前記塗料上にハロゲンドナー系表面処理剤を含む表面処理層を有し、前記ゴムブッシュは内表面にハロゲンドナー系表面処理剤を含む表面処理層を有し、前記スタビライザーバーと前記ゴムブッシュとの間にそれぞれの表面処理層を介して、アミン系または有機ヒドラジド系硬化剤およびエポキシ樹脂を含む接着剤層が形成されていることを特徴とするブッシュ・ブラケット一体型スタビライザーバーが提供される。
【0017】
本発明の他の実施形態においては、さらに、前記ブラケットは内表面にアミン系硬化エポキシ塗料またはアミン含有カチオン塗料および前記塗料上にハロゲンドナー系表面処理剤を含む表面処理層を有し、前記ゴムブッシュは外表面にハロゲンドナー系表面処理剤を含む表面処理層を有し、前記ブラケットと前記ゴムブッシュとの間にそれぞれの表面処理層を介して、アミン系または有機ヒドラジド系硬化剤およびエポキシ樹脂による接着剤層が形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の実施形態によれば、スタビライザーバーとゴムブッシュを強固に接着固定したことにより、スティックスリップ現象による異音の発生や、隙間への異物の侵入による異音の発生および磨耗による破損などの問題を解消すると共に、加硫接着によるゴムブッシュ接着式のスタビライザーバーと同等の優れた操舵安定性を有するブッシュ・ブラケット一体スタビライザーバーを安価に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るブッシュ・ブラケット一体スタビライザーバーの斜視図。
【図2】実施例において作製したテストピースの斜視図および断面図。
【図3】アミン系硬化エポキシ塗料とトリクロロイソシアヌル酸の反応前後のFT−IRチャート。
【図4】アミン含有カチオン塗料とトリクロロイソシアヌル酸の反応前後のFT−IRチャート。
【図5】アミン系硬化剤とトリクロロイソシアヌル酸の反応前後のFT−IRチャート。
【図6】スタビライザーバーの変位とトルクとの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係るブッシュ・ブラケット一体スタビライザーバーについて詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係るブッシュ・ブラケット一体スタビライザーバー1の斜視図を示す。ブッシュ・ブラケット一体スタビライザーバー1は、スタビライザーバー2と、スタビライザーバー2の外周に装着された2つのゴムブッシュ3と、ゴムブッシュ3の外周に設けられ、ゴムブッシュ3を介してスタビライザーバー2を車体の底部に取付けるためのブラケット4とを具備している。
【0022】
スタビライザーバー2は表面にアミン系硬化エポキシ塗料またはアミン含有カチオン塗料(図1には図示せず)および塗料上にハロゲンドナー系表面処理剤を含む表面処理層(図1には図示せず)を有する。ブラケット4も同様に、表面にアミン系硬化エポキシ塗料またはアミン含有カチオン塗料(図1には図示せず)および塗料上にハロゲンドナー系表面処理剤を含む表面処理層(図1には図示せず)を有することが好ましい。ゴムブッシュ3は少なくとも内表面(スタビライザーバー2側)にもハロゲンドナー系表面処理剤を含む表面処理層を有する。ゴムブッシュ3は外表面(ブラケット4側)にもハロゲンドナー系表面処理剤を含む表面処理層を有することが好ましい。
【0023】
スタビライザーバー2とゴムブッシュ3との間にそれぞれの表面処理層を介して、アミン系または有機ヒドラジド系硬化剤およびエポキシ樹脂を含む接着剤層(図1には図示せず)が形成されている。ブラケット4とゴムブッシュ3との間にもそれぞれの表面処理層を介して、アミン系または有機ヒドラジド系硬化剤およびエポキシ樹脂を含む接着剤層(図1には図示せず)が形成されていることが好ましい。
【0024】
本発明において、スタビライザーバーやブラケットの塗装には、自動車用塗装に一般的に用いられるアミン系硬化エポキシ塗料またはアミン含有カチオン電着塗料が用いられる。
【0025】
アミン系硬化エポキシ塗料としては、特開平7−224234号公報に記載されているように、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。硬化剤としては、固体アミン、または有機酸ヒドラジドが挙げられる。固体アミンとしては、例えば1,12−ドデカンアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,4−トリレンジアミンが挙げられ、有機酸ヒドラジドとしては、例えばコハク酸ヒドラジド、アジピン酸ヒドラジド、セバシン酸ヒドラジド、イソフタル酸ヒドラジドが挙げられる。
【0026】
アミン含有カチオン電着塗料としては、特開2002−121491号公報に記載されているように、例えばポリエポキシ樹脂とカチオン化剤との反応生成物、ポリカルボン酸とポリアミンとの重縮合物を酸でプロトン化したもの、ポリイソシアネート化合物およびポリオールとモノまたはポリアミンとの重付加物を酸でプロトン化したものが挙げられる。カチオン化剤としては、例えば第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、ポリアミンのアミン化合物が挙げられる。
【0027】
本発明において、表面処理層を形成するために使用される表面処理剤としては、トリクロロイソシアヌル酸などのハロゲン化イソシアヌル酸、ジブロモメチルヒダントイン、N−クロロパラトルエンスルホン酸アミドなどのハロゲンドナーを溶媒に溶解したものが挙げられる。特に、トリクロロイソシアヌル酸は入手性、取扱い性がよく、接着性の改善効果が大きいため好適である。トリクロロイソシアヌル酸の溶剤としては、酢酸エチル、メチルエチルケトン、酢酸メチルなどを用いることができる。例えば後述する実施例では表面処理剤として5%トリクロロイソシアヌル酸酢酸エチル溶液を用いているが、これに限定されない。
【0028】
本発明において、接着剤層を形成する接着剤には、例えば2液混合型の接着剤としてビスフェノールF系エポキシ樹脂およびこれを硬化させる各種硬化剤が用いられる。硬化剤としてはアミン系硬化剤または有機ヒドラジド系硬化剤を用いた場合においてのみ、表面処理層と強固な接着力を得ることができる。エポキシ樹脂とそれぞれの硬化剤の混合比は、エポキシ樹脂中のエポキシ基の反応点の数量と硬化剤の反応点の数量が等しければ最適であるが、これに限定されない。
【0029】
また本発明において、ゴム表面の粗化処理を行う場合、JIS R6010における粒度P150を有する研磨紙を用いた。粗化処理には粒度P80〜P1200の範囲を用いることができ、特にP120〜P360が好適である。物理的にゴム表面を粗化できるものであればよく、粗化処理を行う手段としては特に研磨紙によるものに限定されるものではない。
【0030】
以下の実施例においては、図2に示すテストピースを作製して評価した。図2(a)はテストピースの斜視図、図2(b)はテストピースの断面図である。
【0031】
スタビライザーバーの代用として第1の鋼材10を用意し、その表面をアミン系硬化エポキシ塗料11で塗装した。ブラケットの代用として第2の鋼材20を用意し、その表面をアミン含有カチオン電着塗料21で塗装した。ゴムブッシュの代用として直径20mm、厚み5mmのディスク状の加硫済みの天然ゴム30を用意した。第1の鋼材10上のアミン系硬化エポキシ塗料11の表面、第2の鋼材20上のアミン含有カチオン電着塗料21の表面、および天然ゴム30の上下両表面を、各々5%トリクロロイソシアヌル酸の酢酸エチル溶液で処理して、表面処理層12、22、31を形成した。第1の鋼材10と天然ゴム30との間をそれぞれの表面処理層12、31を介してエポキシ接着剤で接着して接着剤層40を形成した。同様に、第2の鋼材20と天然ゴム30との間をそれぞれの表面処理層22、31を介してエポキシ接着剤で接着して接着剤層40を形成した。
【0032】
また、比較例として図2(b)に示すいずれかの構成要素を含まないテストピースを作製して評価した。
【0033】
それぞれの実施例および比較例の構成を後述する表1,2に示す。
【0034】
各テストピースについて、ディスク状の天然ゴムの平面に対して垂直方向にテストピースが破壊するまで引っ張り試験を行い、その破壊の際の強度および破壊部位を調べた。
【0035】
テストピースでの評価結果が良好な材料の組み合わせについては、ブッシュ形状の天然ゴムをスタビライザーバーおよびブラケットに接着したサンプルを作製し、スタビライザーバーのねじり方向にサンプルが破壊するまでねじ切り試験を行い、その際の強度および破壊部位も調べた。
【0036】
またテストピースでの評価結果が良好な材料の組み合わせについては、耐水性を評価するため、ブッシュ形状にて80℃温水中に120時間浸漬し、その後大気中に取り出した後、前記同様サンプルが破壊するまでねじ切り試験を行った。その際の強度および破壊部位についても調べている。
【0037】
次に、実施例および比較例を具体的に説明する。
【0038】
(実施例1)
第1の鋼材を用意し、その表面をアミン系硬化エポキシ塗料で塗装した。第2の鋼材を用意し、その表面をアミン含有カチオン電着塗料で塗装した。また、ショア硬度Hs60のディスク状天然ゴムを用意した。これらの部材の表面を、5%トリクロロイソシアヌル酸の酢酸エチル溶液で表面処理して表面処理層を形成した。次に、これらをビスフェノールF型エポキシ樹脂であるエピクロンEXA835(DIC社製の商品名)100部および硬化剤としてフジキュアーFXR1000(冨士化成工業社製の商品名)20部を含む熱硬化性エポキシ接着剤により接着して接着剤層を形成した。こうして図2に示すテストピースを作製した。
【0039】
テストピースの引っ張り試験を行った結果、ゴムが破断した。その強度は68MPaであった。ブッシュ・ブラケット一体スタビライザーバーを試作してねじ切り試験を行った結果、ゴム内部で破断した。その強度は152N・mであった。
【0040】
また温水浸漬後のねじ切り試験を行った結果、ほとんどの接着領域においてゴム破断し、一部接着剤の破断が生じた。この接着剤の破断は劣化によるものであった。なおそのときの接着強度は129N・mであった。
【0041】
(実施例2)
ディスク状の天然ゴムとしてショア硬度Hs85のものを用いた。その他の条件は、実施例1と同一にしてテストピースを作製した。
【0042】
テストピースの引っ張り試験を行った結果、ゴム破断し、強度は84MPaであった。ブッシュ・ブラケット一体スタビライザーバーを試作してねじ切り試験を行った結果、ゴム破断し、強度は172N・mであった。
【0043】
また温水浸漬後のねじ切り試験を行った結果、一部ゴム内部での破断が生じ、それ以外の部分では、実施例1より広範囲にわたり接着剤の破断が認められた。この接着剤の破断は劣化によるものであり、そのときの接着強度は136N・mであった。
【0044】
(実施例3)
ディスク状の天然ゴムとしてショア硬度Hs55のものを用いた。その他の条件は、実施例1と同一にしてテストピースを作製した。
【0045】
テストピースの引っ張り試験を行った結果、ゴム破断し、強度は54MPaであった。ブッシュ・ブラケット一体スタビライザーバーを試作してねじ切り試験を行った結果、ゴム破断し、強度は146N・mであった。
【0046】
また温水浸漬後のねじ切り試験を行った結果、ほとんどの接着領域においてゴムが破断し、ごく一部領域では接着剤の破断を生じた。これは接着剤の劣化によるものであり、そのときの接着強度は119N・mであった。
【0047】
(実施例4)
エポキシ接着剤の硬化剤を有機ヒドラジド系であるアミキュアーPN23(味の素社製)に代えた以外は実施例1と同一の条件でテストピースを作製した。混合比は、エポキシ樹脂100部、硬化剤30部とした。
【0048】
テストピースの引っ張り試験を行った結果、ゴム破断し、強度は62MPaであった。ブッシュ・ブラケット一体スタビライザーバーを試作してねじ切り試験を行った結果、ゴム破断し、強度は155N・mであった。
【0049】
また温水浸漬後のねじ切り試験を行った結果、実施例と1同様にほとんどの接着領域においてゴム破断を生じ、一部で接着剤の劣化が認められ、接着剤の破断が生じた。なおそのときの接着強度は127N・mであった。
【0050】
(実施例5)
エポキシ樹脂および硬化剤を、市販のエポキシ系接着剤であるFosur320/322(LORD社製)に代えた以外は実施例1と同一の条件でテストピースを作製した。硬化剤はアミン系のものである。混合比は、エポキシ樹脂100部、硬化剤100部である。
【0051】
テストピースの引っ張り試験を行った結果、ゴム破断し、強度は69MPaであった。ブッシュ・ブラケット一体スタビライザーバーを試作してねじ切り試験を行った結果、ゴム破断し、強度は153N・mであった。
【0052】
また温水浸漬後のねじ切り試験を行った結果、実施例と1同様にほとんどの接着領域においてゴム破断し、一部接着剤の劣化による破断が生じた。なおそのときの接着強度は125N・mであった。
【0053】
(実施例6)
天然ゴムを表面処理する前に、接着部をJIS R6010における粒度P150を有する研磨紙を用いて、表面を粗化した後、表面処理を行った。その他の条件は実施例1と同一にしてテストピースを作製した。
【0054】
テストピースの引っ張り試験を行った結果、ゴム破断し、強度は69MPaであった。ブッシュ・ブラケット一体スタビライザーバーを試作してねじ切り試験を行った結果、ゴム破断し、強度は154N・mであった。
【0055】
また温水浸漬後のねじ切り試験を行った結果、接着強度の低下は確認されず、完全にゴム内部で破断が生じた。なおそのときの接着強度は152N・mであった。
【0056】
(比較例1)
第1の鋼材および第2の鋼材の塗装(アミン系硬化エポキシ塗料およびアミン含有カチオン電着塗料)を行わず、鋼材表面に表面処理を施し、その他の条件は実施例1と同一にしてテストピースを作製した。
【0057】
テストピースは接着力をほとんど発現することなく、鋼材表面から接着剤が剥離した。
【0058】
(比較例2)
第1の鋼材の表面をアミン系硬化エポキシ塗料で塗装したが表面処理を施さなかった。第2の鋼材の表面をアミン含有カチオン電着塗料で塗装したが表面処理を施さなかった。その他の条件は実施例1と同一にしてテストピースを作製した。
【0059】
テストピースは接着力をほとんど発現することなく、鋼材表面、詳細には鋼材表面と接着剤との界面にて剥離した。
【0060】
(比較例3)
ディスク状天然ゴムに表面処理を施さなかった。その他の条件は実施例1と同一にしてテストピースを作製した。
【0061】
テストピースは接着力をほとんど発現することなく、ゴム表面、詳細にはゴム表面と接着剤との界面にて剥離した。
【0062】
(比較例4)
エポキシ接着剤の硬化剤を酸無水物系硬化剤であるエピクロンB570(日立化成社製)に代え、硬化促進剤としてジメチルベンジルアミンを用いた以外は実施例1と同一の条件でテストピースを作製した。混合比は、エポキシ樹脂100部、硬化剤80部、硬化促進剤0.8部とした。
【0063】
テストピースの引っ張り試験を行った結果、ゴム破断し、その強度は24MPaであった。破断面には鋼材表面とゴム表面が不連続にまだらに観察され、鋼材と接着剤層との界面およびゴムと接着剤層との界面の両方で断続的な剥離が生じた。
【0064】
(比較例5)
エポキシ接着剤の硬化剤をポリメルカプタン系硬化剤であるEH317(アデカ社製)に代えた以外は実施例1と同一の条件でテストピースを作製した。混合比はエポキシ樹脂100部、硬化剤60部とした。
【0065】
テストピースの引っ張り試験を行った結果、鋼材と接着剤層との界面およびゴムと接着剤の界面のいずれでも剥離を生じ、その強度は17MPaであった。
【0066】
(比較例6)
未塗装の鋼材に対し、未加硫の天然ゴムを用いて、加硫接着を行って、テストピースを作製した。6
テストピースの引っ張り試験を行った結果、ゴム破断し、強度は65MPaであった。ブッシュ・ブラケット一体スタビライザーバーを試作してねじ切り試験を行った結果、ゴム内部で破断し、強度は149N・mであった。
【0067】
また温水浸漬後のねじ切り試験を行った結果、ゴム内部で破断が生じ、また接着力の低下も認められなかった。なおそのときの接着強度は146N・mであった。
【0068】
なお、接着工程後、ブラケットおよびゴムブッシュと一体になったスタビライザーバーに対しエポキシ粉体塗装を行った。その結果、ゴムブッシュとスタビライザーバーとの間およびブラケットとゴムブッシュとの間にわずかながら隙間を生じ、塗装されていない部分が残っており、明らかに耐久性不良の原因となる可能性が大であった。
【0069】
下記表1は上記実施例1〜6の条件、結果の一覧を示し、下記表2は比較例1〜7の条件、結果の一覧を示す。
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
なお、テストピースでの破断強度60MPa前後およびねじ切り試験強度150N・m前後での破壊は、いずれもゴム自体の破壊であり、接着強度がゴムの強度を上回っていることを示す。これらの結果から、高い接着強度を発現するためにはアミン系硬化エポキシ塗料やアミン含有カチオン電着塗料を塗装した鋼材に対し表面処理を行い、表面処理を施した天然ゴムブッシュをアミン系硬化剤または有機ヒドラジド系硬化剤およびエポキシ樹脂を含む接着剤で接着した場合に十分に高い強度を発揮することが明らかである。
【0072】
以下、上記の組み合わせで十分な接着力が得られる理由について説明する。
【0073】
表面処理剤としてのハロゲンドナー例えばハロゲン化イソシアヌル酸は、天然ゴムのように主鎖に二重結合を有する材料に対し、溶媒と共にしみこみ、主鎖の二重結合の周りへ近づく。天然ゴムの表面付近の水分の影響により、ハロゲン化イソシアヌル酸は加水分解されてハロゲンを放出する。ハロゲンは近くにある加硫ゴム主鎖の二重結合を攻撃し、付加反応が進む。その付加反応の過程で、下記に示すように遊離したイソシアヌル酸が環構造を保ったまま塩素と共に加硫ゴムの主鎖に付加する。
【化1】

【0074】
加硫ゴム表面へのイソシアヌル酸および塩素の付加や、塗料、接着剤へのイソシアヌル酸の反応が起こった場合、その前後で赤外吸収スペクトルに差が現れることが知られている(特表2006−519894号公報、特開2009−131631号公報)。
【0075】
また、表面処理剤としてのハロゲンドナー例えばハロゲン化イソシアヌル酸は、アミン系硬化エポキシ塗料およびアミン含有カチオン電着塗料の表面付近の水分の影響により加水分解されハロゲンを放出する。このハロゲン、特に塩素は、塗料中に含まれるR−NHの水素と化合し、またその他の部分が結合することにより下記に示すような反応を生じていると考えられる。
【化2】

【0076】
上記のような反応の結果は、FT−IR測定により確認できる。図3はアミン系硬化エポキシ塗料とトリクロロイソシアヌル酸の反応前後のFT−IRチャートである。図4はアミン含有カチオン塗料とトリクロロイソシアヌル酸の反応前後のFT−IRチャートである。これらのチャートから、反応後には1050cm−1付近にピークが生じることがわかる。
【0077】
ハロゲンドナー系表面処理剤と反応するためには、アミン系硬化エポキシ塗料やアミン含有カチオン電着塗料のようにR−NH構造を有していることが好ましい。このことは比較例6の結果からも明らかである。
【0078】
ハロゲンドナー系表面処理剤は、接着剤の主剤であるビスフェノールF系エポキシ樹脂やビスフェノールA系エポキシ樹脂といったR−NH構造を有していない材料と反応を生じることはない。しかし、接着剤の硬化剤にアミン系硬化剤や有機ヒドラジド系硬化剤を用いた場合、硬化剤がR−NH構造を有するため、硬化剤とトリクロロイソシアヌル酸との間で下記のような反応を生じることが考えられる。
【化3】

【0079】
上記のような反応の結果は、やはりFT−IR測定により確認できる。図5はアミン系硬化剤とトリクロロイソシアヌル酸の反応前後のFT−IRチャートである。このチャートでも、反応後には1050cm−1付近にピークが生じることがわかる。
【0080】
これに対し、酸無水物系硬化剤やポリメルカプタン系硬化剤はR−NH構造を持たないため、トリクロロイソシアヌル酸と反応しない。
【0081】
これらをまとめると、鋼材側では塗料とトリクロロイソシアヌル酸が反応し、さらに接着剤中の硬化剤とトリクロロイソシアヌル酸が反応する。また、ゴムブッシュ側では天然ゴムとトリクロロイソシアヌル酸が反応し、同様に接着剤中の硬化剤とトリクロロイソシアヌル酸が反応する。このように接着される対象同士が化学反応するため、加硫接着に匹敵する強固な接着を行うことが可能である。
【0082】
また、天然ゴムブッシュは、加硫成型後にその表面を粗化してもよい。粗化により生じた表面の微細な凹凸に対して接着剤がアンカー効果を発揮するためさらに接着力を向上できる。そのため耐水性試験により、多少接着剤が劣化を生じても完全にゴム破断させるだけの十分な接着強度を発揮できる。
【0083】
以上述べたように、本発明の実施形態によれば、自動車用の塗装として一般的なアミン系硬化エポキシ塗料およびアミン含有カチオン電着塗料および加硫済み天然ゴムブッシュを用い、安価に入手可能なトリクロロイソシアヌル酸などハロゲンドナーにより表面処理を施すことで、安価で接着性がよく、かつ低温・短時間の硬化処理で接着可能なエポキシ接着剤を用いてブッシュ・ブラケット一体スタビライザーバーを安価に製造することが可能になる。本発明では、各部材が相互に化学反応して強固に接着することから、加硫接着と同等の接着力を発現できるうえ、加硫接着よりも安価に製造することが可能である。
【符号の説明】
【0084】
1…ブッシュ・ブラケット一体スタビライザーバー、2…スタビライザーバー、3…ゴムブッシュ、4…ブラケット、10…第1の鋼材、11…アミン系硬化エポキシ塗料、12…表面処理層、20…第2の鋼材、21…アミン含有カチオン電着塗料、22…表面処理層、30…天然ゴム、31…表面処理層、40…接着剤層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタビライザーバーと、前記スタビライザーバーの外周に装着されたゴムブッシュと、前記ゴムブッシュの外周に設けられ、前記ゴムブッシュを介して前記スタビライザーバーを車体の底部に取付けるためのブラケットとを具備し、
前記スタビライザーバーはアミン系硬化エポキシ塗料またはアミン含有カチオン塗料および前記塗料上にハロゲンドナー系表面処理剤を含む表面処理層を有し、前記ゴムブッシュは内表面にハロゲンドナー系表面処理剤を含む表面処理層を有し、前記スタビライザーバーと前記ゴムブッシュとの間にそれぞれの表面処理層を介して、アミン系または有機ヒドラジド系硬化剤およびエポキシ樹脂を含む接着剤層が形成されていることを特徴とするブッシュ・ブラケット一体型スタビライザーバー。
【請求項2】
前記ブラケットは内表面にアミン系硬化エポキシ塗料またはアミン含有カチオン塗料および前記塗料上にハロゲンドナー系表面処理剤を含む表面処理層を有し、前記ゴムブッシュは外表面にハロゲンドナー系表面処理剤を含む表面処理層を有し、前記ブラケットと前記ゴムブッシュとの間にそれぞれの表面処理層を介して、アミン系または有機ヒドラジド系硬化剤およびエポキシ樹脂を含む接着剤層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のブッシュ・ブラケット一体型スタビライザーバー。
【請求項3】
前記ハロゲンドナー系表面処理剤はトリクロロイソシアヌル酸を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のブッシュ・ブラケット一体スタビライザーバー。
【請求項4】
前記接着剤層が形成されている前記ゴムブッシュの表面が粗面化されていることを特徴とする請求項1または2に記載のブッシュ・ブラケット一体スタビライザーバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−121414(P2012−121414A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272759(P2010−272759)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】