説明

ブレーキ制御システム

【課題】マスタシリンダ圧を精確に検知し、バックアップする機能を備えて、的確なブレーキ制御を可能とするブレーキ制御システム。
【解決手段】運転者のブレーキ操作により作動するマスタシリンダと、ブレーキ操作の量に応じて前記マスタシリンダ内の圧力を調整する第1の機構と、前記第1の機構の作動を制御する第1の制御装置と、マスタシリンダ内の前記圧力がホイールシリンダに連通するのを調整する第2の機構と、前記第2の機構の作動及び前記ホイールシリンダに連通される圧力を加圧するポンプ装置の作動を制御する第2の制御装置とを備え、第1及び第2の制御装置は、それぞれの電源回路及びCPUを内蔵し、前記マスタシリンダ内の圧力を計測するものであって前記第1の制御装置に結線される第1の液圧センサと、前記マスタシリンダ内の圧力を計測するものであって前記第2の制御装置に結線される第2の液圧センサと、を装備したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスタシリンダが発生する、制動力を発生するためのブレーキ液圧を電気的に制御する、ブレーキ制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、運転者のブレーキ操作により作動するタンデム型マスタシリンダ、電動倍力装置及びABS装置からなるブレーキ装置において、マスタシリンダのプライマリ及びセカンダリ室からABS装置に延びる主配管のそれぞれに圧力センサを設けて、2個の圧力センサによりマスタシリンダのプライマリ及びセカンダリ室の圧力を検知し、その検知結果に基づいて電動倍力装置の電動モータの回転を操作し、それによりブースタピストンが入力ピストンに対して進退して、液圧が一定となるように制御する技術を開示している。
【0003】
特許文献2は、マスタシリンダと、電動アクチュエータと、ブレーキペダルの操作により進退する軸部材の移動に応じて電動アクチュエータを制御する制御手段とを備えた電動倍力装置において、ブレーキペダルの踏力に対抗する反力を発生するシミュレータを設け、ブレーキペダルの操作時に、ブースタピストンがプッシュロッドよりも大きく移動する制御を行って、プッシュロッドとピストンとの間に間隙を形成し、ブースタピストンを後退させる回生協調時に、この間隙によりピストンからプッシュロッドに伝わる戻し方向の力を解消して、運転者に違和感を与えないようにした技術を開示している。
【0004】
特許文献3は、運転者のブレーキ操作により作動するマスタシリンダと、前記ブレーキ操作とは別に前記マスタシリンダを作動させてホイールシリンダ内の圧力を加圧する倍力機構と、前記倍力機構の作動を制御する第1のコントロールユニットと、前記倍力機構とは別に設けられ、前記ホイールシリンダ内の圧力を加圧可能な液圧源を有する液圧制御部と、前記液圧制御部の作動を制御する第2のコントロールユニットと、を備え、前記第1のコントロールユニットは、前記第1のコントロールユニット又は前記倍力機構の故障状態を検出するとともに、前記第1又は第2のコントロールユニットは、検出された故障状態に応じて、前記倍力機構又は前記液圧制御部の作動を制限するバックアップモードを実行するブレーキ制御装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−296963号公報
【特許文献2】特開2008−30599号公報
【特許文献3】特開2009−40290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、圧力センサは、主配管に設けられており、ブースタ制御手段に結線され、マスタシリンダのプライマリ及びセカンダリ室の圧力を検知する技術が開示されている。しかし、2個の圧力センサの検出精度の向上について触れていない。
【0007】
特許文献2では、コントローラに結線された圧力センサからの検出信号は、マスタシリンダの圧力室の液圧の制御に用いられるが、この圧力センサはブレーキ管に設けられたものであり、しかも1個である。圧力センサの検出精度を向上するための技術について触れていない。
【0008】
特許文献3に開示の技術においても、圧力センサの検出精度を向上するための技術について触れていない。
【0009】
本発明の目的の一つは、圧力センサによる計測を高い精度で行えるようにすることである。
なお、下位に記載された実施の形態では、上記目的だけでなく、製品として要求されるいくつかの課題を解決している。下位の実施の形態で解決される課題及び課題解決のための手段については、後述する実施の形態の説明の中で、具体的に記載する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係るブレーキ制御システムは、電動モータにより制御されるプライマリピストンを備え、ブレーキ操作に基づいて前記プライマリピストンを制御しブレーキ液圧を発生するマスタシリンダを備えている。前記マスタシリンダが発生するブレーキ液圧は、ホイールシリンダのブレーキ動作のために使用される。前記マスタシリンダが発生するブレーキ液圧は複数個の圧力センサで検出される。
【0011】
本発明の特徴の一つは、前記複数個の圧力センサのそれぞれの出力を利用する制御装置が、利用する出力を発生する圧力センサに対して電源電圧を供給し、電源電圧を供給している制御装置が電源電圧を供給した圧力センサからのアナログ信号を受け、このアナログ信号に基づいて圧力検出を行うようにしたことである。
【0012】
本発明の他の特徴は、ブレーキ操作の量に応じて前記マスタシリンダ内の圧力を調整する第1の機構と、前記第1の機構の作動を制御する第1の制御装置と、前記マスタシリンダ内の前記圧力がホイールシリンダに連通するのを調整する第2の機構と、前記第2の機構の作動及び前記ホイールシリンダに連通される圧力を加圧するポンプ装置の作動を制御する第2の制御装置と、を備え、前記第1及び第2の制御装置は、それぞれの電源回路及びCPUを内蔵し、前記マスタシリンダ内の圧力を計測するものであって前記第1の制御装置に結線される第1の液圧センサと、前記マスタシリンダ内の圧力を計測するものであって前記第2の制御装置に結線される第2の液圧センサと、を装備したことである。
【0013】
本発明の更に他の特徴は、前記マスタシリンダが発生するブレーキ液圧を検出する複数個の圧力センサの内の一つは前記マスタシリンダの前記プライマリピストンを制御するマスタシリンダ圧制御装置から電源電圧が供給され、前記一つの圧力センサからのアナログ出力は前記マスタシリンダ圧制御装置によって受信され、前記プライマリピストンの制御に使用され、前記マスタシリンダが発生するブレーキ液圧を検出する複数個の圧力センサの内の他の一つは、前記ブレーキ液圧を受けて各車輪のホイールシリンダに制動のための液圧を供給するホイールシリンダ圧制御機構の動作を制御している、ホイールシリンダ圧制御装置から電源電圧が供給され、前記他の一つの圧力センサからのアナログ出力は前記ホイールシリンダ圧制御装置に供給されてホイールシリンダ圧制御機構の制御に使用されることである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、マスタシリンダの出力する液圧を計測する計測精度を向上できる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施態様であるブレーキ制御システムの全体構成の一例を示す。
【図2】実施態様の一例における制御装置の回路構成の一例を示す。
【図3a】実施例1を示す。
【図3b】実施例2を示す。
【図4a】実施例3を示す。
【図4b】実施例4を示す。
【図5a】実施例5を示す。
【図5b】実施例6を示す。
【図6】マスタシリンダ圧制御装置3の動作のフローチャートを示す。
【図7】ホイール圧制御装置5の動作のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に記載の実施の形態では、上述の発明の解決しようとする課題だけでなく、製品として望まれている色々な課題を解決している。実施の形態の中でこれらについても説明するが、その代表的なものについて、次に記載する。
【0017】
ブレーキ関係の機能は車両の安全保持のために極めて重要であり、あらゆる角度から安全性の保持について検討しておくことが望ましい。以下の実施例では、万が一、電動モータによるプライマリピストンの制御に不具合が生じたとしても、ブレーキペダルの操作により入力ピストンが機械的に移動して、マスタシリンダが液圧を発生するように構成されている。しかし、ブレーキペダルの操作によりマスタシリンダが発生する液圧は低いため、この液圧では制動力が不足することも考えられ、ホイール制動圧制御機構で適切な液圧を発生し、制動力を制御することが望ましい。前記ホイール制動圧制御機構を制御するために、ホイール制動圧制御装置はマスタシリンダの液圧を検出し、検出値に基づいて適切な制動力を演算してホイール制動圧制御機構を制御する。上記構成により以下の実施の形態では、車両におけるブレーキ関係の機能の安全性を保持するという効果がある。
【0018】
以下の実施の形態では、摩擦制動力以外の制動力である、車両に搭載された電動モータによる回生制動が利用された場合に、回生制動による制動力を減じた制動力を摩擦制動力として発生することが必要となる。摩擦制動力は、ホイールシリンダにより車輪のディスクロータを押圧することにより発生する。従って前記回生制動力を考慮した目標の摩擦制動力をマスタシリンダ圧制御装置で演算し、マスタシリンダが発生する実際の液圧を検出し、前記実際の液圧が前記目標の摩擦制動力を発生する液圧となるようにマスタシリンダ圧制御機構を制御する。一方、マスタシリンダ圧制御機構に異常が生じた場合には、上述のようにホイール制動圧制御機構を制御して適切な制動力を、ホイール制動圧制御機構の圧力発生機能により発生させる。このような構成を備えることで、ハイブリッド車両における制動力によるエネルギーの消費を低減できることに加え、安全性の確保が可能となるという効果がある。すなわち、以下の実施の形態では、上記の従来技術に比較して、マスタシリンダ圧をより高精度で検知して的確なブレーキ制御を可能とし、かつ、マスタシリンダ圧制御装置を構成する構成要素等に故障が発生した際に、バックアップする機能を備えたブレーキ制御システムの提供が可能となる。
【0019】
また、以下に記載の実施の形態によれば、二つのマスタシリンダ圧センサをマスタシリンダに搭載する構造と成っており、この構造により、ブレーキ制御システムの部品数を低減し、組み立て作業を簡素化することができる。
【0020】
図1は、本発明に係るブレーキ制御システムの全体構成を示す。ここで、矢印付きの破線は信号線であり、矢印の向きは信号の流れを表す。
【0021】
ブレーキ制御システム1は、マスタシリンダ圧制御装置3、マスタシリンダ圧制御機構4、ホイールシリンダ圧制御装置5、ホイールシリンダ圧制御機構6、入力ロッド38、ブレーキ操作量検出装置8、マスタシリンダ9、リザーバタンク10及びホイールシリンダ104a〜104dから構成される。第1の加減圧部は、ブレーキペダル100及び入力ロッド38を含み、第2の加減圧部は、マスタシリンダ圧制御装置3、マスタシリンダ圧制御機構4及びプライマリピストン40を含む。
【0022】
マスタシリンダ圧制御装置3とホイールシリンダ圧制御装置5は、双方向の通信を行って、制御指令及び車両状態量を共有する。ここで車両状態量とは、例えばヨーレート、前後加速度、横加速度、ハンドル舵角、車輪速、車体速、故障情報、作動状態等である。
【0023】
マスタシリンダ圧制御装置3は、ブレーキ制御装置に相当するものであり、車両に搭載された直流電源から供給される電力により動作し、ブレーキ操作量検出装置8の検出値であるブレーキ操作量、ホイールシリンダ圧制御装置5からの制御指令等に基づいて、電動モータ20を制御する。ここで車両に搭載された直流電源とは、車両に搭載されたバッテリを示しており、ハイブリッド自動車若しくは電気自動車の場合は、車両に搭載された上記バッテリに限らず、高電圧の車両電源から12V系又は24V系の低電圧電源へ電圧変換するDC/DCコンバータと低電圧バッテリで対応することも可能である。
【0024】
マスタシリンダ圧制御機構4は、マスタシリンダ圧制御装置3から出力されるモータ駆動電流に従って、プライマリピストン40の移動を制御するものであり、回転トルクを発生する電動モータ20、その回転トルクによる回転運動をピストン軸に沿った直線運動に変換する回転直動変換機構25とからなる。
【0025】
ホイールシリンダ圧制御装置5は、車両電源から供給される電力により動作し、各車輪がロックすることを防止するアンチロック制御機能や車両走行における車両の挙動が乱れないように各車輪のホイールシリンダ圧を制御する機能等を有しており、車両状態量に基づいて各輪で発生させるべき目標ブレーキ力を算出し、その結果に基づいて液圧をホイールシリンダ圧制御機構6に供給し、前記ホイールシリンダ圧制御機構6を制御する。ホイールシリンダ圧制御機構6は、ホイールシリンダ圧制御装置5からの出力に従って、マスタシリンダ9で加圧された作動液を各ホイールシリンダ104a〜104dへ供給する制御を行うと共に、供給する作動液の液圧を制御する。
【0026】
入力ロッド38は、ブレーキペダル100に連結され、その他端がプライマリ液室42に挿入されている入力ピストン39に機械的に繋がっている。このような構成を採ることにより、運転者のブレーキ操作によっても入力ピストン39によりマスタシリンダが発生する液圧を上昇させることができる。万が一、電動モータ20が故障により停止した場合にも、ブレーキペダルの操作により制動力を発生することができる。また、マスタシリンダ圧に応じた力が入力ロッド38を介してブレーキペダル100に作用し、ブレーキペダルの反力として運転者に伝達される。この反力により運転者はブレーキ操作量に基づく反力を感じることができ、ブレーキ操作に関して好ましいフィーリングを得ることができる。
【0027】
ブレーキ操作量検出装置8は、運転者のペダル操作量から要求ブレーキ力を検出するためのセンサであり、このセンサを少なくとも1個以上備えた構成となっている。また、ここで使用するセンサとしては、ブレーキペダル100の移動角度若しくは入力ロッド38の移動量を検出する変位センサが用いられるが、ブレーキペダル100の踏力を検出する踏力センサを使用してもよい。また、ブレーキ操作量検出装置8のセンサ構成として、変位センサ、踏力センサ等、異なる種類のセンサを組み合わせた構成であってもよい。
【0028】
マスタシリンダ9は、プライマリピストン40及び入力ピストン39によって加圧されるプライマリ液室42と、セカンダリピストン41によって加圧されるセカンダリ液室43の二つの加圧室を有するタンデム型である。プライマリピストン40の推進によって各液室42と43で加圧された作動液は、マスタ配管102a,102bを経由してホイールシリンダ圧制御機構6に供給される。リザーバタンク10は、図示しない隔壁によって仕切られた少なくとも二つの液室を有し、これらの各液室は、マスタシリンダ9の各液室42,43と連通可能に接続されている。
【0029】
ホイールシリンダ104a〜104dは、図示を省略するシリンダ、ピストン、パッド等から構成され、ホイールシリンダ圧制御機構6から供給される作動液によってピストンが推進され、ピストンに連結されたパッドがディスクロータ101a〜101dに押圧される。各ディスクロータは、各車輪と一体であるので、ディスクロータに作用するブレーキトルクは、車輪と路面との間に作用するブレーキ力となる。なお、図示されたFL輪は左前輪、FR輪は右前輪、RL輪は左後輪、RR輪は右後輪を意味する。
【0030】
図1には示されていないが、図2に示す補助電源12が設けられており、この補助電源12は電力を蓄電すると共に、車両電源が失陥した際には、マスタシリンダ圧制御装置3へ電力を供給する回路構成となっており、信頼性を向上している。また、小型のバッテリや別系統の車両電源を用いてもよいが、いずれにしても補助電源12は、本来マスタシリンダ圧制御装置3に電力を供給する主電源と比べて、供給できる電力量が少ない。このため短期間のバックアップ制御となる。
【0031】
次に、マスタシリンダ圧制御機構4の構成と動作について説明する。電動モータ20は、マスタシリンダ圧制御装置3で制御されるモータ駆動用の交流電流によって動作し、所望の回転トルクを発生する。電動モータ20としては、DCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ等を使用するのが適当であるが、制御性、静粛性、耐久性の点において、DCブラシレスモータが好ましい。この実施の形態では3相の磁石モータを使用しており、ロータは磁極として動作する永久磁石を有しており、固定子で発生する回転磁界に基づいて永久磁石に回転トルクが発生する。電動モータ20にはロータの磁極位置を検知するレゾルバと呼ばれる位置センサ(図示省略)が備わっており、この位置センサからの信号がマスタシリンダ圧制御装置3に入力され、この信号に基づいて電動モータ20の回転量、すなわちプライマリピストン40の移動量及び現在位置を検知することができる。従って、マスタシリンダ圧制御装置3は、ロータの磁極位置を検知する位置センサの信号に基づいて電動モータ20の回転角を算出し、この算出した回転角により、回転直動変換機構25の推進量、すなわちプライマリピストン40の変位量を算出することができる。
【0032】
電動モータ20の回転トルクが十分に大きく、トルクの増幅が必要でない場合には、減速装置を備えずに電動モータ20と回転直動変換機構25とを直結することが可能である。これにより、減速装置の介在に起因して発生する信頼性、静粛性、搭載性等に係る諸問題を回避することができる。
【0033】
回転直動変換機構25は、電動モータ20の回転トルクを軸方向に沿った推力に変換してプライマリピストン40を押圧する。変換の機構としては、ラックピニオン、ボールネジ等を用いることが適当であるが、図1に示された例では、ボールネジによる方式を採用している。電動モータ20の回転子22はボールネジナット26の外側に嵌合しているので、回転子22の回転によりボールネジナット26が回転する。ボールネジナット26の回転に基づき、ボールネジ軸27がピストン軸に沿って直進運動をなし、その推力によって可動部材16を介してプライマリピストン40が移動する。ボールネジ軸27から推力を与えられる可動部材16の反対側には、片端が固定部に接続された戻しバネ15の他端が係合されており、ボールネジ軸27の推力と逆方向の力が可動部材16を介してボールネジ軸27に作用するように構成されている。また、戻しバネ17が設けられている。これらの戻しバネ15及び戻しバネ17により、ブレーキの作動中、すなわちプライマリピストン40が押圧されてマスタシリンダ圧が加圧されている状態において、電動モータ20が故障で停止しボールネジ軸の戻し制御が不能となった場合にも、戻しバネ15や17の反力によってボールネジ軸27が初期位置に戻されてマスタシリンダ圧が概ね零付近まで低下するので、ブレーキ力の引きずりに起因して車両挙動が不安定になることを回避することができる。
【0034】
図1の構成において、車体の車室とエンジンルームとを分ける隔壁60にマスタシリンダ圧制御装置3及びマスタシリンダ圧制御機構4が固定し保持されている。ケーシング11内に電動モータ20の固定子21が固定され、更に軸受けを介して回転子22が固定される。ケーシング11の隔壁60側の開口には固定蓋13が設けられており、固定蓋13を固定ネジ45により隔壁60に固定することでケーシング11が隔壁60に固定保持される。電動モータ20の回転子22の内側には、ボールネジナット26とボールネジ軸27とを有する回転直動変換機構25が固定されており、更にその内側にはボールネジ軸27に基づいて移動するプライマリピストン40が設けられ、更にその内部には入力ピストン39が設けられている。電動モータ20の固定子21に対してボールネジナット26が変位して配置されているので、プライマリピストン40の移動量に比べて軸方向の長さが短くなる効果が有る。またボールネジナット26の軸長がボールネジ軸27の軸長に対して短くなっており、このことも小型化の効果を奏する要因となっている。また半径の小さいボールネジ軸27が移動することで移動に必要な空間が小さくなっている。
【0035】
ボールネジ軸27は隔壁60を越えて車室側に入り込む構造となっており、車室内のマスタシリンダ圧制御機構4の軸方向の長さを短くできる効果が有る。ケーシング11にマスタシリンダ9が固定される構造となっており、更にケーシング11にはマスタシリンダ圧制御装置3が固定されている。このようにケーシング11にマスタシリンダ9やマスタシリンダ圧制御装置3が保持される構造となっているので、全体構造がシンプルになる。このことは小型化及び生産性の向上に繋がる効果がある。マスタシリンダ9とマスタシリンダ圧制御装置3との間にはリザーバタンク10の一部が設けられ、空間が有効に利用される構造となっている。更にボールネジ軸27の中央より車室側に可動部材16が配置され、マスタシリンダ9の反対側でプライマリピストン40を押す構造となっているため、プライマリピストン40を移動可能に保持するための軸方向の間隔を広く取ることができ、マスタシリンダ9のプライマリ液室42に加わる推力が大きいにもかかわらず、プライマリピストン40の移動に伴うブレを小さく押さえることができる効果がある。
【0036】
次に、入力ロッド38の推力の増幅について説明する。実施例1では、運転者のブレーキ操作による入力ロッド38の変位量に応じてプライマリピストン40を変位させることにより、入力ロッド38の推力にプライマリピストン40の推力が加算されるため、入力ロッド38の推力が増幅される形でプライマリ液室42が加圧される。その増幅比(以下「倍力比」という。)は、入力ロッド38に固定された入力ピストン39とプライマリピストン40の変位量の比、入力ロッド38とプライマリピストン40の断面積の比等により、任意の値となるように設計することができる。
【0037】
特に、入力ロッド38の変位量と同量だけプライマリピストン40を変位させる場合、入力ピストン39の断面積をAIRとし、プライマリピストン40の断面積をAPPとすると、倍力比は、(AIR+APP)/AIRとして一意に定まる。すなわち、必要な倍力比に基づいて、AIRとAPPを設定し、その変位量が入力ロッド38の変位量すなわち入力ピストン39の変位量に等しくなるようにプライマリピストン40を制御することで、常に一定の倍力比を得ることができる。なお、プライマリピストン40の変位量は、図示しない位置センサの信号に基づいてマスタシリンダ圧制御装置3によって算出される。上述の例ではプライマリピストン40と入力ピストン39の変位量を同じくしたが、入力ピストン39よりプライマリピストン40の変位量を大きくすると倍力比は更に大きくなり、一方逆の状態に制御すると倍力比は小さくなる。このような倍力比の可変制御について次に説明する。
【0038】
倍力可変制御処理は、入力ロッド38の変位量に比例ゲイン(K1)を乗じた量だけプライマリピストン40を変位させるようにする制御処理である。なお、K1は、制御性の点からは1であることが好ましいが、緊急ブレーキ等により運転者のブレーキ操作量を超える大きなブレーキ力が必要な場合には、一時的に1を超える値に変更することができる。これにより、同量のブレーキ操作量でも、マスタシリンダ圧を通常時(K1=1の場合)に比べて引き上げられるため、より大きなブレーキ力を発生させることができる。ここで、緊急ブレーキの判定は、例えば、ブレーキ操作量検出装置8の信号の時間変化率が所定値を上回るか否かで判定することができる。上述のとおり、倍力可変制御処理によれば、運転者のブレーキ要求に従う入力ロッド38の変位量に応じてマスタシリンダ9の出力液圧を増減圧させることが可能である。マスタシリンダ9の発生液圧を、ホイールシリンダ圧制御機構6を介して車輪のホイールシリンダ104a〜104dに供給すれば、運転者の要求とおりの摩擦ブレーキ力を発生させることができる。
【0039】
また、K1を1未満の値に変更することで、ハイブリッド車における回生協調ブレーキ制御に適用することも可能である。ブレーキペダル100の操作時に回生ブレーキが作動すると、回生ブレーキで得られる制動分だけブレーキ液圧を減じる回生協調ブレーキ制御が行われる。すなわち、マスタシリンダ圧制御装置3は、電動モータ20内のレゾルバからの信号に基づいて、減圧に必要とする分だけボールネジ軸27を後退させるようにブレーキ制御システム1の電動モータ20を制御し、これに応じてマスタシリンダ9のプライマリピストン40が所定のストロークだけ後退する。
【0040】
次に、自動ブレーキ制御の処理について説明する。自動ブレーキ制御に関する処理は、マスタシリンダ9の作動圧すなわち出力液圧を自動ブレーキの要求液圧(以下「自動ブレーキ要求液圧」という。)に調節するようにプライマリピストン40を前進又は後退させる処理である。この場合のプライマリピストン40の制御方法としては、テーブルに記憶された事前に取得したプライマリピストンの変位量とマスタシリンダ圧との関係に基づいて、自動ブレーキ要求液圧を実現するプライマリピストンの変位量を抽出して目標値とする方法、マスタシリンダ圧センサ57で検出されたマスタシリンダ圧をフィードバックする方法等があるが、いずれの方法を採っても構わない。なお、自動ブレーキ要求液圧は、外部ユニットから受信することが可能であり、例えば車両追従制御、車線逸脱回避制御、障害物回避制御等でのブレーキ制御に適用することも可能である。
【0041】
次に、ホイールシリンダ圧制御機構6の構成と動作について説明する。ホイールシリンダ圧制御機構6は、マスタシリンダ9で加圧された作動液を各ホイールシリンダ104a〜104dへ供給するための制御を行うゲートOUT弁50a,50b、マスタシリンダで加圧された作動液をポンプ54a,54bへ供給するための制御を行うゲートIN弁51a,51b、マスタシリンダ又はポンプから各ホイールシリンダ104a〜104dへ作動液を供給するのを制御するIN弁52a〜52d、ホイールシリンダ104a〜104dを減圧制御するOUT弁53a〜53d、マスタシリンダ9で生成された作動圧を昇圧するポンプ54a,54b、ポンプを駆動するモータ55とからなる。なお、ホイールシリンダ圧制御機構6としては、アンチロックブレーキ制御の機能及び車両挙動安定化制御の機能を備えている。
【0042】
ホイールシリンダ圧制御機構6は、プライマリ液室42から作動液の供給を受け、FL輪とRR輪のブレーキ力を制御する第1のブレーキ系統と、セカンダリ液室43から作動液の供給を受け、FR輪とRL輪のブレーキ力を制御する第2のブレーキ系統の二つの系統から構成されている。このような構成を採ることにより、一方のブレーキ系統が失陥した場合にも、正常な他方のブレーキ系統によって対角2輪分のブレーキ力を確保できるので、車両の挙動が安定に保たれる効果を備えている。
【0043】
ゲートOUT弁50a,50bは、マスタシリンダ9とIN弁52a〜52dとの間に備えられ、マスタシリンダ9で加圧された作動液をホイールシリンダ104a〜104dに供給する際に開弁される。ゲートIN弁51a,51bは、マスタシリンダ9とポンプ54a,54bとの間に備えられ、マスタシリンダで加圧された作動液をポンプで昇圧してホイールシリンダに供給する際に開弁される。IN弁52a〜52dは、ホイールシリンダ104a〜104dの上流に備えられ、マスタシリンダ又はポンプで加圧された作動液をホイールシリンダに供給する際に開弁される。OUT弁53a〜53dは、ホイールシリンダの下流に備えられ、ホイールシリンダ圧を減圧する際に開弁される。なお、ゲートOUT弁、ゲートIN弁、IN弁、OUT弁は、いずれもソレノイド(図示省略)への通電によって弁の開閉が行われる電磁式であり、ホイールシリンダ圧制御装置5が行う電流制御によって各弁の開閉量を独立に調節できるものである。
【0044】
図1に示された実施態様の一例では、ゲートOUT弁50a,50bとIN弁52a〜52dは常開弁、ゲートIN弁51a,51bとOUT弁53a〜53dは常閉弁である。このような構成を採ることにより、弁への電力供給が故障で停止した場合にも、ゲートIN弁51a,51bとOUT弁53a〜53dが閉じ、ゲートOUT弁50a,50bとIN弁52a〜52dが開いて、マスタシリンダ9で加圧された作動液が全てのホイールシリンダ104a〜104dに到達するので、運転者の要求どうりのブレーキ力を発生させることができる。
【0045】
ポンプ54a,54bは、例えば車両挙動安定化制御、自動ブレーキ等を行うために、マスタシリンダ9の作動圧を超える圧力が必要な場合に、マスタシリンダ圧を昇圧してホイールシリンダ104a〜104dに供給する。ポンプとしては、プランジャポンプ、トロコイドポンプ、ギヤポンプ等の使用が適当である。
【0046】
モータ55は、ホイールシリンダ圧制御装置5の制御指令に基づいて供給される電力により動作して、モータに連結されたポンプ54a,54bを駆動する。モータとしては、DCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ等の使用が適当である。
第2のマスタシリンダ圧センサ56は、マスタ配管102aの液圧を検出する圧力センサである。
【0047】
以上、ホイールシリンダ圧制御機構6の構成と動作について説明したが、マスタシリンダ圧制御装置3の故障の際には、ホイールシリンダ圧制御装置5は、マスタシリンダ9の出力液圧をマスタシリンダ圧センサ56で検知することにより、運転者のブレーキ操作量を検出し、この検出値に応じたホイールシリンダ圧を発生させるようにポンプ54a,54b等を制御する。
【0048】
図2は、図1に示された実施態様の一例における制御装置の回路構成の一例を示す。図2において太線枠201で囲われた部分はマスタシリンダ圧制御装置3を示し、同じく点線枠202で囲われた部分はマスタシリンダ圧制御機構4の電気部品及び電気回路を示し、同じく太線枠203は、ホイールシリンダ圧制御装置5の回路構成の一部を示す。また、点線枠208は、ブレーキ操作量検出装置8のセンサを示し、図2に示した例では、2個の変位センサ8a,8bを示しているが、この変位センサの数は2個に限定されるものではなく、1個でもよいし、2を超える個数であってもよい。また、ブレーキペダル100の踏力を検出する踏力センサを複数個組み合わせた構成や、変位センサと踏力センサを組み合わせた構成であってもよい。
【0049】
まず、太線枠201で囲まれた電気回路では、車両電源から電力供給線及び電源リレー214を介して直流電力が5V電源回路1(215)と5V電源回路2(216)に入力され、これらの5V電源回路1と2とにより作られた定電圧電力がECU(Electronic Control Unit)に供給される。ECU電源リレー214は、起動信号とCAN通信I/F218aでCAN(Controller Area Network)受信により生成する起動信号のいずれか一つによりオンする構成となっており、起動信号は、ドアスイッチ信号、ブレーキスイッチ、IGNスイッチ信号等を使用することができ、複数使用する場合は、マスタシリンダ圧制御装置3に全て取り込み、複数信号のいずれか一つのスイッチがオンした時に、起動信号がECU電源リレー214をオンする側に作動する回路構成とする。また、車両電源が失陥した時には、補助電源12から補助電源リレー236を介して供給される電力が5V電源回路1(215)と5V電源回路2(216)に入力されるようになっている。上述のとおり、5V電源回路1(215)によって得られる安定した電源VCC1は、中央制御回路であるCPU211に供給され、5V電源回路2(216)によって得られる安定した電源VCC2は、監視用制御回路219に供給される。
【0050】
フェイルセーフリレー回路213は、車両電源ラインから三相モータ駆動回路222に供給する電力を遮断できるようになっており、CPU211と監視用制御回路219によって、車両電源ラインから三相モータ駆動回路222への電力の供給と遮断を制御することができる。また、車両電源が失陥した時には、補助電源12から補助電源リレー235を介して三相モータ駆動回路222に電力が供給される。外部から供給されるこれらの電力は、フィルタ回路212を介することによってノイズが除去されて三相モータ駆動回路222に供給される。
【0051】
次に、車両電源が失陥した時に、補助電源12からの電力供給に切替える方法について説明する。ここでいう車両電源の失陥とは、車両バッテリの故障、車両発電機の故障、そしてハイブリッド自動車や電気自動車の場合は、モータジェネレータの故障、高電圧バッテリの故障、DC/DCコンバータの故障、低電圧バッテリの故障等により、車両電源が車両に搭載されている電気機器と電子制御装置へ、電力を供給できなくなることを意味している。
【0052】
まず、車両電源失陥の検出は、車両電源からの電力供給ラインの電圧をモニタし、モニタ電圧が所定値以下になった場合に、これを検出する。車両電源の失陥を検出した時に、オフしている補助電源リレー235及び補助電源リレー236をオンすることで、補助電源から電力を供給する。また、車両電源の失陥を検出してこれらの補助電源リレー235,236をオンする時に、ECU電源リレー214とフェイルセーフリレー回路213をオフすることが好ましい。その理由は、車両電源の失陥が、もし車両電源系のGNDへの短絡故障であった場合、短絡箇所上流の車両ヒューズが溶断するまで、補助電源の電力を消費してしまうからである。また、ECU電源リレー214とフェイルセーフリレー回路213の上流か下流のいずれかに、アノードを車両電源側にしてダイオードを入れる回路構成としてもよい。
【0053】
CPU211には、CAN通信I/F回路218a,218bを介して、マスタシリンダ圧制御装置3の外部からの車両情報と自動ブレーキ要求液圧等の制御信号が入力されると共に、マスタシリンダ圧制御機構4側に配置された回転角検出センサ205、モータ温度センサ206、変位センサ8a,8b、マスタシリンダ圧センサ57からの出力が、それぞれ回転角検出センサI/F回路225、モータ温度センサI/F回路226、変位センサI/F回路227,228、マスタシリンダ圧センサI/F回路229を介して入力される。
【0054】
CPU211には、外部装置からの制御信号と現時点における各センサの検出値等が入力され、これらに基づいて三相モータ駆動回路222に適切な信号を出力して、マスタシリンダ圧制御機構4を制御する。三相モータ駆動回路222は、マスタシリンダ圧制御機構4内の電動モータ20に接続され、CPU211により制御されて、直流電力を交流電力に変換し、電動モータ20を駆動する。三相モータ駆動回路222の三相出力の各相には、相電流モニタ回路223と相電圧モニタ回路224が具備されており、これらのモニタ回路223,224によって、それぞれ相電流と相電圧が監視され、これらの情報に基づいてCPU211は、マスタシリンダ圧制御機構4内の電動モータ20を適切に動作させるように三相モータ駆動回路222を制御する。そして、相電圧モニタ回路224によるモニタ値が正常範囲外となった場合や制御指令どおりに制御できていない場合等には、故障と判断される。
【0055】
マスタシリンダ圧制御装置3の回路201内には、例えば故障情報等が格納されたEEPROMからなる記憶回路230が備えられ、CPU211との間で信号の送受がなされる。CPU211は、検出した故障情報と、マスタシリンダ圧制御機構4の制御で用いる学習値、例えば制御ゲイン、各種センサのオフセット値等を記憶回路230に記憶させる。また、マスタシリンダ圧制御装置3の回路201内には、監視用制御回路219が備えられ、CPU211との間で信号の送受がなされる。監視用制御回路219は、CPU211の故障、5V電源回路1(215)の出力電圧VCC1等を監視する。そして、CPU211、電圧VCC1等の異常を検出した場合は、速やかにフェイルセーフリレー回路213を動作させて三相モータ駆動回路222への電源供給を遮断する。監視用制御回路219と、5V電源回路1(216)の出力電圧VCC2の監視は、CPU211により行う。
【0056】
実施例1では、補助電源リレー235,236をマスタシリンダ圧制御装置3内に実装し、マスタシリンダ圧制御装置3内で車両電源からの電力供給と補助電源からの電力供給とを切替える構成としているが、車両側の電源制御装置で、車両電源からの電力供給と補助電源からの電力供給とを切替える構成として、マスタシリンダ圧制御装置3への電力供給ラインは、車両電源からのラインのみとするようにしてもよい。
【0057】
[実施例1]
図3aは、本発明の実施例1に係る装置を示す。図3aを用いて、マスタシリンダ圧センサ1(57)とマスタシリンダ圧センサ2(56)の電気的な結線と液圧の算出方法について、以下、説明する。なお、参照する図面中では、マスタシリンダを「M/C」と、マスタシリンダ圧センサを「M/Cセンサ」と表記する。
【0058】
実施例1では、図3aに示されたように、マスタシリンダ圧センサ1(57)とマスタシリンダ圧センサ2(56)の両方がマスタシリンダ9に搭載され、マスタシリンダ圧センサ1(57)は、マスタシリンダ圧制御装置3に結線されている。
【0059】
マスタシリンダ圧センサI/F(Interface)回路229は、センサ電源、電源モニタ及び信号モニタの各回路から構成されている。
【0060】
センサ電源回路は、レシオメトリックなセンサに基準電圧を印加する回路であり、出力電流に対する出力電圧の変動を小さくするため、車両電源で駆動されるオペアンプを用いて5V電源回路1(215)によって得られる安定した電源VCC1を基準電圧としたボルテージフォロア回路で、マスタシリンダ圧センサ1(57)へ供給するための電源を生成する。また、センサ電源ラインのGNDショート保護、バッテリ電圧VBショート保護、センサ電源ラインの静電気サージ保護の役割も果たしている。
【0061】
電源モニタ回路は、センサ電源回路で生成された電源電圧を中央制御回路であるCPU211のA/Dコンバータへ入力する前段の処理を行う回路であり、ノイズフィルタ及び過電圧保護の役割を果たしている。
【0062】
マスタシリンダ圧センサ1(57)は、センサ電源回路で生成された電源電圧から液圧に応じた信号電圧を出力する。
【0063】
信号モニタ回路は、マスタシリンダ圧センサ1(57)から出力された信号電圧を、中央制御回路のCPU211のA/Dコンバータへ入力する前段の処理を行う回路であり、ノイズフィルタ及び過電圧保護の役割を果たしている。
【0064】
中央制御回路のCPU211は、A/Dコンバータで入力された電源電圧と信号電圧から液圧を算出する。例えば、マスタシリンダ圧センサ1(57)の出力特性が、液圧0MPaで電源電圧の10%(0.1Vpwr)を出力し、液圧17MPaで電源電圧の90% (0.9Vpwr)を出力する場合、液圧Pは、次式で算出される。
P=( Vsig/Vpwr − 0.1 ) × 17 / ( 0.9 − 0.1 )
ここで、Vpwr:電源電圧、Vsig:信号電圧、とする。
【0065】
マスタシリンダ圧制御装置3とマスタシリンダ圧センサ1(57)の電気的な結線と液圧の算出方法については、上記のとおりであるが、ホイールシリンダ圧制御装置5とマスタシリンダ圧センサ2(56)の電気的な結線と液圧の算出方法についても、上記のマスタシリンダ圧制御装置3と同様である。
【0066】
以上説明したマスタシリンダ圧センサ1(57)とマスタシリンダ圧センサ2(56)は、それぞれの5V電源回路1(215,251)、CPU211,252、I/F回路229,253を備えているので、互いの干渉がなく、マスタシリンダ圧の精確な検知と、その出力値を比較することにより故障を検知することを可能とする。
【0067】
マスタシリンダ圧センサ1(57)は、通常のサービスブレーキの作動には用いられないが、自動ブレーキ、回生協調ブレーキの作動の際には、その出力がM/C圧センサ229(図2参照)を介して、CPU211に入力されて制御に用いられるが、故障により、5V電源回路1(215)、CPU211等の構成要素が機能せず、マスタシリンダ圧センサ1(57)が正常に作動しなくなった場合には、マスタシリンダ圧センサ2(56)がバックアップするというフェイルセーフ機能がある。
【0068】
[実施例2]
図3bは、本発明の実施例2に係る装置を示す。実施例2では、マスタシリンダ圧センサ1(57)はマスタシリンダ9に搭載されているが、マスタシリンダ圧センサ2(56)はホイールシリンダ圧制御機構6の内部に搭載されている点で、実施例1と異なる。マスタシリンダ圧センサ1(57)の電気的な結線と液圧の算出方法は、図3aの実施例1と同様である。
【0069】
次に、マスタシリンダ圧センサ1(57)とマスタシリンダ圧センサ2(56)の搭載位置についての実施例をいくつか示す。
【0070】
[実施例3]
図4aは、マスタシリンダ9にマスタシリンダ圧センサ1(57)とマスタシリンダ圧センサ2(56)を搭載した実施例3に係る装置の正面図を示す(実施例3は、実施例1の装置の外観の一例である。)。実施例3では、マスタシリンダ圧センサ1(57)とマスタシリンダ圧センサ2(56)は、液の出入り口ができるだけ上になるようにして、マスタシリンダ9の下側に搭載される。このように搭載することにより、エア抜き時にセンサ内のエアが抜け易くなる。
【0071】
また、マスタシリンダの液室42とホイールシリンダ圧制御機構6を結ぶマスタ配管102a(以上、図1参照)の中間にマスタシリンダ圧センサ1(57)とマスタシリンダ圧センサ2(56)を設置する場合には、配管部品を二つの部品に分け、センサ取付け用の部品を設置する必要があるが、実施例3では、マスタシリンダ圧センサ1(57)とマスタシリンダ圧センサ2(56)をマスタシリンダ9に直接設置することで、マスタ配管の中間に設ける場合に比較して、部品コストを低減し、車両への組付け作業性を向上し、車両側レイアウトをコンパクトにまとめる効果がある。
【0072】
[実施例4]
図4bは、マスタシリンダ9にマスタシリンダ圧センサ1(57)とマスタシリンダ圧センサ2(56)を搭載した実施例4に係る装置の正面図を示す(実施例4は、実施例1の装置の外観の別の一例である。)。実施例4では、マスタシリンダ圧センサ1(57)とマスタシリンダ圧センサ2(56)を設置する位置が、図4bに示されているように、図4aの実施例3と比較して異なるが、その他については同様である。
【0073】
[実施例5]
図5aは、マスタシリンダ圧センサ1(57)とマスタシリンダ圧センサ2(56)を、マスタシリンダ9の液室の下部であってブレーキ操作側に寄せて設けた一例である実施例5に係る装置の側面図を示す。実施例5では、マスタシリンダ圧センサ1(57)とマスタシリンダ圧センサ2(56)の両方を、マスタシリンダ9のプライマリ液室42の下流に設置することにより、これらを、セカンダリ液室43の下側にコンパクトにまとめることができる。また、マスタシリンダ圧センサ1(57)とマスタシリンダ圧センサ2(56)を、マスタシリンダとホイールシリンダ圧制御機構を結ぶ管路に設ける場合と比較して、部品点数を減少させ、組み立て作業を簡素化するので、コスト的にも有利である。
【0074】
[実施例6]
図5bは、実施例5に係る装置の側面図を示す。実施例5は、マスタシリンダ圧センサ1(57)とマスタシリンダ圧センサ2(56)を、マスタシリンダ9の液室の下部であってブレーキ操作側に寄せるだけでなく、プライマリ液室42の下流にマスタシリンダ圧センサ1(57)への流路を設け、かつ、セカンダリ液室43の下流にマスタシリンダ圧センサ2(56)への流路を設けた例である。実施例5では、図5bに示すように、セカンダリ液室43からの流路44がシリンダの下側壁内を貫通してマスタシリンダ圧センサ2(56)に達するように設けられているので、プライマリ及びセカンダリの両系統の液圧をモニタする両マスタシリンダ圧センサを、プライマリ液室42の下側にコンパクトにまとめることができる。
【0075】
図6はマスタシリンダ圧制御装置3の動作の一例を示す。ステップS302で、ブレーキ操作量検出装置8に基づきブレーキペダル100の操作量を測定する。ステップS304で、ブレーキペダル100の操作量に基づき、車両全体の目標の制動力を算出する。ステップS306で、回生制動状態かどうかを確認する。ハイブリッド車が搭載する回転電機に基づき回生制動を働かせる状態では、図示しない上位の制御装置から回生制動状態かどうかの判断し、指令がマスタシリンダ圧制御装置3に送られてくる。回生制動の動作モードで無い場合には、ステップS308で、目標制動力全体を摩擦制動力でまかなう。
【0076】
回生制動を働かせるモードの場合には、先ず回生制動力が決められ、ステップS310で、算出された目標の制動力から回生制動力を減じた値を目標の摩擦制動力とする。ステップS308あるいはステップS310で定められた目標の摩擦制動力に基づいてマスタシリンダ9の出力液圧が演算される。一方マスタシリンダ圧センサ57で実際のマスタシリンダ9の出力液圧が計測され、目標の液圧と計測された実際の液圧との差及び目標の液圧に伴う保持推力に基づいて、電動モータ20の駆動電流が演算され、マスタシリンダ圧制御装置3から電動モータ20に供給される。
【0077】
図7はホイールシリンダ圧制御装置5の動作を示しており、ステップS322で、マスタシリンダ9を動作させるマスタシリンダ圧制御装置3及びマスタシリンダ圧制御機構4が正常に動作している場合には、ステップS324で、マスタシリンダ9から送られてきた作動油をホイールシリンダ104a〜104dへ供給する。異常が発生した場合には、ステップS322からステップS326へ遷移し、マスタシリンダ圧センサ56によりマスタシリンダ9の出力液圧を計測する。マスタシリンダ圧センサ56の出力液圧はブレーキペダル100の操作量を表すので、計測されたマスタシリンダ9の出力液圧に基づいて、ステップS328で、目標の制動力を算出すると共に前記目標の制動力を得るためのホイールシリンダ104a〜104dへ供給すべき液圧を算出する。ステップS330で、供給すべき液圧を得るためにモータ55を制御し、ポンプ54aと54bを駆動する。ステップS332で、電磁弁52a〜52dを動作させてポンプ54aと54bで発生した液圧をホイールシリンダ104a〜104dへ供給する。このようにして、万が一、異常が発生しても制動力が正常に動作するように、前記システムは作られている。
【0078】
またマスタシリンダ圧センサ56とマスタシリンダ圧センサ57はそれぞれの制御装置からの電源電圧により動作するように構成されているので、より正確に計測することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 ブレーキ制御システム、
3 マスタシリンダ圧制御装置、
4 マスタシリンダ圧制御機構、
5 ホイールシリンダ圧制御装置、
6 ホイールシリンダ圧制御機構、
8 ブレーキ操作量検出装置、
9 マスタシリンダ、
10 リザーバタンク、
12 ケーシング
15 戻しバネ、
16 可動部材、
17 戻しバネ、
20 電動モータ、
21 固定子
22 回転子
25 回転直動変換機構、
26 ボールネジナット、
27 ボールネジ軸、
30 伝達部材、
38 入力ロッド、
40 プライマリピストン、
41 セカンダリピストン、
42 プライマリ液室、
43 セカンダリ液室、
50a〜50b ゲートOUT弁、
51a〜51b ゲートIN弁、
52a〜52d IN弁、
53a〜53d OUT弁、
54a,54b ポンプ、
55 モータ、
56,57 マスタシリンダ圧センサ、
100 ブレーキペダル、
101a〜101d ディスクロータ、
102a,102b マスタ配管、
104a〜104d ホイールシリンダ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作により作動するマスタシリンダと、
前記ブレーキ操作の量に応じて前記マスタシリンダ内の圧力を調整する第1の機構と、
前記第1の機構の作動を制御する第1の制御装置と、
前記マスタシリンダ内の前記圧力がホイールシリンダに連通するのを調整する第2の機構と、
前記第2の機構の作動及び前記ホイールシリンダに連通される圧力を加圧するポンプ装置の作動を制御する第2の制御装置と、
を備え、
前記第1及び第2の制御装置は、それぞれの電源回路及びCPUを内蔵し、
前記マスタシリンダ内の圧力を計測するものであって前記第1の制御装置に結線される第1の液圧センサと、
前記マスタシリンダ内の圧力を計測するものであって前記第2の制御装置に結線される第2の液圧センサと、
を装備したことを特徴とするブレーキ制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載されたシステムにおいて、
前記第1の液圧センサ及び前記第2の液圧センサは、前記マスタシリンダに装備されることを特徴とするブレーキ制御システム。
【請求項3】
請求項2に記載されたシステムにおいて、
前記第1の液圧センサ及び前記第2の液圧センサは、前記マスタシリンダのプライマリ液室の液圧を計測することを特徴とするブレーキ制御システム。
【請求項4】
請求項2に記載されたシステムにおいて、
前記第1の液圧センサ及び前記第2の液圧センサは、前記マスタシリンダの液圧室の下側であってブレーキ操作側に寄せて設けられることを特徴とするブレーキ制御システム。
【請求項5】
請求項1に記載されたシステムにおいて、
前記第1の液圧センサは前記第1の制御装置から電源電圧が供給され、
前記第2の液圧センサは前記第2の制御装置から電源電圧が供給されることを特徴とするブレーキ制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−31693(P2011−31693A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178317(P2009−178317)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】