説明

プラスチック光伝送部材の製造方法

【課題】溶融押出法を用いて、所望の横断面の形状を持つ光伝送部材の製造方法を提供する。
【解決手段】押出装置を用いて、コア部形成用材料26、クラッド部形成用材料27、保護層形成用材料28の溶融体を共押出ダイス14へ押し出す。共押出ダイス14へ押し出されたコア部形成用材料26は、コア部形成部43にてロッド状のコア部46に形成される。クラッド部形成部49では、コア部46の外周にクラッド部が形成され、保護層形成部53では、クラッド部の外周に保護層が形成される。共押しダイス14は、コア部46の外周にクラッド部及び保護層が順次形成された光伝送部材前駆体18を押し出す。この光伝送部材前駆体18の横断面を形成する、コア部、クラッド部及び保護層の横断面形状は、拡散部45、クラッド部形成部49及び保護層形成部53の横断面形状に略相似に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック光伝送部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、通信産業の発達に伴い、光伝送部材の需要が高まると共に伝送損失が小さく、低価格であるものが要求されている。光伝送部材には、石英系光伝送部材やプラスチック光伝送部材などがあげられる。特に、プラスチック光伝送部材は、石英系光伝送体と比較して、製造及び加工が容易であること並びに低価格であるなどの利点がある。このプラスチック光伝送部材の代表的なものとして、プラスチック光ファイバ(以下、POFと称する)などがあげられる。
【0003】
POFは、素材が全てプラスチックで構成されているため、伝送損失が石英系光ファイバと比較してやや大きいという短所を有する。しかしながら、良好な可撓性を有し軽量で加工性が良く、石英系光ファイバと比較して口径の大きい光ファイバの製造が容易であるという長所を有する。さらに低コストで製造が可能であるという長所をも有する。従って、伝送損失の大きさが問題とならない程度の短距離用の光ファイバとして種々検討されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
パラレル信号伝送、画像取り込み及び画像出力等の分野では、複数本のPOFを束ね、多心光伝送部材として利用する場合が多い。この多心光伝送部材を製造する方法としては、複数の光伝送部材を並列状態で熱圧着する方法(例えば、特許文献2参照。)や、複数の光伝送部材を並列状態で被覆する方法(例えば、特許文献3参照。)などが知られている。また、多心伝送材料として光伝送路などはフォトレジストやエッチングを利用した方法(例えば、特許文献4参照。)も提案されている。
【0005】
また、多くの用途においてPOFの外周には保護層が形成される。この保護層が、ハンドリング中や劣悪の環境下での使用の際の傷や損傷、マイクロベンディングなどの構造不整、または光学特性の劣化からPOFを守ることができる。このような保護層は、POFの周面のコーティングにより形成される。また、POFを熱可塑性樹脂などのポリマーで被覆する際に、ポリマー中に添加物を含有させることにより、保護層に様々な機能性を付与させることが可能である。なお、保護層が形成されているPOFは、プラスチック光ファイバ心線またはプラスチック光ファイバコード(以下、いずれも光ファイバコードと称する)と称される。
【0006】
このようなPOFの製造方法として溶融押出法が挙げられる(例えば、特許文献5参照。)。この方法は、合成繊維の複合紡糸法を適用でき、また多芯化により生産性を高めることが可能である。さらにクリーンな繊維を連続的に効率良く生産できるという利点を有する。すなわち、コア部とクラッド部とを同時に押出延伸を行うことで連続してPOFを得ることができる。さらには、コア部とクラッド部と最外層(通常は保護層として機能する)とを同時に押し出し延伸を行うことで光ファイバコードを連続して得ることもできる。
【特許文献1】特開昭61−130904号公報
【特許文献2】特開平6−317716号公報
【特許文献3】特開2000−338377号公報
【特許文献4】特開2001−166165号公報
【特許文献5】特許第3471015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、光通信、光計測等の分野では、POF及び光ファイバコードは平面光導波路と接続して使用される。このPOF或いは光ファイバコードと平面光導波路との接続作業は、この平面光導波路光伝送路が形成された基板上で行われる。一般的に、POF及び光ファイバコードの横断面は円形であることが多いため、この接続作業において、POF及び光ファイバコードを所定の位置に正確に配置することが困難である。また、平面光導波路との接続部における高効率の光結合を得るためには、光ファイバのコア部も平面光導波路の横断面と同一の形状であることが望まれる。一般的に、この平面光導波路のコア部の横断面は4角形であることが多い為、POF及び光ファイバコードのコア部の横断面も4角形であることが好ましい。しかしながら、前述した特許文献5に開示される溶融押出法では、4角形の横断面を有するPOF及び光ファイバコードの製造方法について明記されていない。また、溶融押出法による多心光伝送部材を一括成形する方法についても明記されていない。
【0008】
上記問題を鑑みて、本発明は、溶融押出法を用いて、所望の横断面の形状を持つ光伝送材料の製造方法を提供することを目的とする。また、溶融押出法を用いた多心光伝送部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ダイスから樹脂溶融体を押し出す溶融押出方法によって形成され、溶融押出しされたコア部外周に前記コア部より低い屈折率を有するクラッド部を溶融押出で形成するプラスチック光伝送部材の製造方法において、横断面が多角形、閉曲線、または直線及び曲線を組み合わせた図形のいずれかである前記クラッド部を、前記コア部の周囲に形成することを特徴とする。また、前記コア部と前記クラッド部の前記横断面が異なる形状に形成されることが好ましい。
【0010】
また、保護層形成材料の前記溶融体を前記ダイスから押し出し、前記横断面が多角形、閉曲線、または直線及び曲線を組み合わせた図形のいずれかである保護層を、前記クラッド部の周囲に形成することが好ましい。また、前記クラッド部と前記保護層の前記横断面が異なる形状に形成されることが好ましい。
【0011】
前記コア部の前記横断面が円形、或いは矩形に形成されることが好ましい。
【0012】
前記コア部が、その横断面の中心に向かうに従って連続的に、或いは階段状に前記屈折率が高くなる屈折率分布型に形成されることが好ましい。
【0013】
前記コア部が光散乱粒子を有することが好ましい。
【0014】
前記コア部が、(メタ)アクリル酸エステルを主成分として形成され、前記クラッド部がフッ化樹脂を主成分として形成されることが好ましい。
【0015】
前記横断面の面積が1×104μm2以上であることが好ましい。
【0016】
複数の前記コア部がクラッド内部もしくは、複数のコア及びクラッド部が保護層内部に形成されることが好ましい。また、複数の前記コア部がクラッド内部に海島構造で形成されることが好ましい。
【0017】
前記クラッド部または前記保護層の少なくとも一方に遮光性材料が用いられることが好ましい。
【0018】
複数の前記コア部の前記横断面が、それぞれ異なる形状から形成されることが好ましい。また、複数の前記コア部が、異なる材料から形成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のプラスチック光伝送部材の製造方法によれば、溶融押出法により、横断面が多角形、閉曲線、または直線及び曲線を組み合わせた図形のいずれかである前記クラッド部を、前記コア部の周囲に形成するため、所望の横断面形状を有するプラスチック光伝送部材を製造することができる。
【0020】
また、保護層形成用材料の前記溶融体を前記ダイスから押し出し、前記横断面が多角形、閉曲線、または直線及び曲線を組み合わせた図形のいずれかである保護層を、前記クラッド部の周囲に形成するため、所望の横断面形状を有する保護層付き光伝送部材を製造することができる。
【0021】
前記コア部と前記クラッド部の前記横断面が異なる形状に形成され、前記コア部の前記横断面が円形、或いは矩形に形成されるため、平面光導波路との接続作業性を向上させつつ、接続先の平面光導波路に応じた横断面形状を有する光伝送部材を製造することができる。保護層付き光伝送部材についても、同様であり、これら光伝送部材及び保護層付き光伝送部材の利用形態に応じて、コア部、クラッド部及び保護層のそれぞれの横断面形状を所望の形状に製造することができる。
【0022】
前記コア部が、その横断面の中心に向かうに従って連続的に前記屈折率が高くなる屈折率分布型に形成されるため、GI(グレーデッドインデックス)型の光伝送部材を製造することができる。また、前記コア部が、その横断面の中心に向かうに従って階段状に前記屈折率が高くなる屈折率分布型に形成されるため、MSI(マルチステップインデッックス)型や、SI(ステップインデックス)型の光伝送部材を製造することができる。
【0023】
前記コア部が光散乱粒子を有するため、光インターコネクション技術用途や、拡散シートおよび反射板などの導光部材用途などとして用いることができる。
【0024】
前記コア部が、(メタ)アクリル酸エステルを主成分として形成され、前記クラッド部がフッ化樹脂を主成分として形成されるため、伝送損失の低いプラスチック光伝送部材を製造することができる。また、前記横断面の面積が1×104μm2以上に形成されるため、プラスチック光伝送部材についての作業性が向上する。
【0025】
複数の前記コア部が形成されるため、多心プラスチック光伝送部材として利用することができる。
【0026】
複数の前記コア部がクラッド内部に形成されるため、もしくは、複数のコア及びクラッド部が保護層内部に形成され、複数の前記コア部がクラッド内部に海島構造で形成されるため、コア間距離を近付けることが可能である。
【0027】
前記クラッド部形成用材料または前記保護層の少なくとも一方に遮光性材料が用いられるため、外部から光伝送路に与える影響を抑制すると共に、各コア部のクロストークを防ぐことも可能である。
【0028】
複数の前記コア部の前記横断面が、それぞれ異なる形状から形成されるため、あらゆる平面光導波路の接続部における高効率の光結合を得ることができる。また、複数の前記コア部の前記横断面が異なる材料から形成されるため、伝送特性及び物理特性の異なる多心光伝送材料を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
次に、本発明の第1の実施形態について説明する。図1に本発明の保護層付きプラスチック光伝送部材(以下、光伝送部材と称する)の製造方法に用いられる溶融押出装置10及びその他の装置の概略図を示す。溶融押出装置10は、コア部形成用材料押出装置11とクラッド部形成用材料押出装置12と保護層形成用材料押出装置13と共押出ダイス14とを備えている。各押出装置11〜13及び共押出ダイス14は、管15〜17で接続されている。各押出装置11〜13に格納される各材料は、管15〜17を通り共押出ダイス14に送られる。共押出ダイス14により各材料は光伝送部材前駆体18となり第1ローラ19により引き出される。引き出される光伝送部材前駆体18は、水槽20内に搬送される。水槽20内には−5℃〜30℃の冷却水が入れられており、光伝送部材前駆体18は冷却される。なお、本発明において、この冷却工程は省略することもできる。
【0030】
光伝送部材前駆体18は、さらに第2ローラ21で引き取られながら加熱炉22内を搬送される。また、第1ローラ19の引取速度よりも第2ローラ21の引取速度を速くすることで、光伝送部材前駆体18をさらに延伸させて光伝送部材23とすることができる。このように溶融押出されている光伝送部材前駆体18を再延伸することで、より高強度の光伝送部材23を得ることができる。最後に光伝送部材23は、巻取機24によりロール状に巻き取られ、光伝送部材25として貯蔵される。
【0031】
コア部形成用材料押出装置11、クラッド部形成用材料押出装置12及び保護層形成用材料押出装置13には、それぞれコア部形成用材料26、コア部形成用材料26よりも低い屈折率のクラッド部形成用材料27、及び保護層形成用材料28とが溶融体となって格納される。コア部形成用材料26及びクラッド部形成用材料27の溶融体は、共押出ダイス14内でコア部とクラッド部を有するプラスチック光伝送部材の前駆体となる。保護層形成用材料28は、共押出ダイス14内で、この光伝送路の前駆体の外周を被覆するように形成され、光伝送部材前駆体18となって共押出ダイス14から押し出される。
【0032】
コア部形成用材料26には、後述の非晶質ポリマー好ましくは(メタ)アクリル酸エステルを主成分としたポリマーが使用される。コア部の横断面の中心に向かうに従って連続的に前記屈折率が高くなるグレーデッドインデックス型(GI型)とする場合には、重合性モノマー(例えば、MMA)とドーパント(例えば、DPS)と更に重合開始剤などの添加剤を混合して共押出ダイス14に送り込むことで、MMAが重合しながらPMMAとなりその中心部が最も屈折率が高くなり半径方向に向けて連続的に屈折率が低下する形態の光伝送部材が得られる。クラッド部形成用材料27には、コア部の屈折率より低い屈折率を有し、コア部との密着性が良いPVDFを用いる。PVDFは、タフネスに優れ、耐湿熱性にも優れている。また、保護層形成用材料28にも、製造時に熱的ダメージ(例えば、変形,変性,熱分解など)を与えないPVDFなどを用いる。これらの材料の詳細については、後述する。
【0033】
図2に本発明に用いられる共押出ダイス14の要部拡大図を示す。共押出ダイス14は、コア部ダイ30、クラッド部ダイ31、保護層ダイ32、及びこれらを断熱する断熱板33、34とから構成されている。また、それぞれのダイ30〜32の温度調節を行うために温調機35〜37が設けられている。コア部ダイ30にはコア部形成用材料26を供給する管15が、クラッド部ダイ31にはクラッド部形成用材料27を供給する管16が、保護層ダイ32には保護層形成用材料28を供給する管17が接続している。
【0034】
コア部形成用材料26は、管15からコア部ダイ30のコア部形成部43に送られ、ロッド状のコア前駆体44を形成する。コア前駆体44は、コア部ダイ30の拡散部45を通る。コア前駆体44が拡散部45を通過している間に、コア部形成用材料26に含まれるドーパントが所望の状態に拡散され、GI型屈折率分布を有するコア部46が得られる。また、コア部46の横断面形状は、このコア部形成部43及び拡散部45の横断面形状に応じた形状に形成されている。こうして、コア部形成部43及び拡散部45の断面形状を適正に選択することにより、所望の横断面形状を有するコア部46を得ることができる。
【0035】
クラッド部形成用材料27は、管16から液流路47を通りポケット48に供給される。ポケット48内でクラッド部形成用材料27の圧力分布が緩和される。ポケット48から押し出されたクラッド部形成用材料27は、クラッド部形成部49において、コア部46の外周面を被覆する。このようにして、コア部46の外周面に略均一の厚みのクラッド部を有する光伝送路前駆体50が形成される。また、光伝送路前駆体50の横断面形状は、このクラッド部形成部49の横断面形状に応じた形状に形成されている。こうして、クラッド部形成部49の断面形状を適正に選択することにより、所望の横断面形状を有する光伝送路前駆体50を得ることができる。
【0036】
保護層形成用材料28は、管17から液流路51を通りポケット52に供給される。ポケット52内で保護層形成用材料28の圧力分布が緩和される。ポケット52から押し出された保護層形成用材料28は、保護層形成部53において、光伝送路前駆体50の外周面を被覆する。また、光伝送路前駆体50の横断面形状は、保護層形成部53の断面形状に応じた形状に形成されている。このようにして、光伝送路前駆体50の外周面に略均一の厚みの保護層を有する光伝送部材前駆体18が形成される。この光伝送部材前駆体18は、コア部46、コア部46を被覆するクラッド部、及びこのクラッド部を被覆する保護層から構成され、これらの横断面形状は、コア部形成部43、クラッド部形成部49、保護層形成部53の断面形状を反映した形状となっている。この光伝送部材前駆体18を所定の処理を施すことにより、光伝送部材前駆体18と略相似形の横断面形状を有する光伝送部材23を得る。
【0037】
このようなコア部、クラッド部、保護層の横断面を形成するためには、温調機35〜37を用いて、コア部形成用材料26、クラッド部形成用材料27及び保護層形成用材料28に応じた適正な温度で押し出すことが好ましい。
【0038】
図3に、前述した溶融押出装置10を用いて作成可能な光伝送部材23a〜23dの横断面の例を記載する。光伝送部材23aは、横断面が円形に形成されたコア部60aの外周に、クラッド部61a及び保護層62aが順次形成されており、これらクラッド部61a及び保護層62aの横断面は、円形に形成されている。これらコア部60a、クラッド部61a及び保護層62aの横断面の外周は、それぞれ略相似の関係になっている(図3(A))。図3(B)〜(D)に示す光伝送部材23b〜23dは、コア部60b、クラッド部61bの横断面の外周は、それぞれ正方形、円形に形成される。光伝送部材23bの保護層62aの横断面の外周形状は、クラッド部61bと略相似の円形に形成され、光伝送部材23cの保護層62cの横断面の外周形状は、コア部60bと略相似の正方形、光伝送部材23dの保護層62dの横断面の外周形状は、6角形に形成される。
【0039】
上記実施形態では、コア部46の横断面形状について、コア部形成部43や拡散部45の横断面形状によって決定されると記載したが、こまた、光伝送路前駆体50の横断面形状について、コア部形成部43や拡散部45の横断面形状によって決定されると記載したが、また、コア部、クラッド部及び保護層それぞれの横断面形状を、円形、4角形、または6角形に形成すると記載したが、これに限らず、他の多角形や楕円形など、多角形、閉曲線、または直線及び曲線を組み合わせた図形のいずれかの形状に形成することも可能である。
【0040】
上記実施例では、コア部の横断面の中心に向かうに従って連続的に前記屈折率が高くなるGI型の光伝送路について記載したが、これに限らず、ドーパントの種類や、屈折率の異なる2種以上のモノマーの共重合の組成比や、温調機35の温度を適正に選択することにより、前記コア部の横断面の中心に向かうに従って階段状に前記屈折率が高くなるステップインデックス(SI)型または、マルチステップインデックス(MSI)型の光伝送路を製造することも可能である。
【0041】
なお、光散乱粒子を含有するコア部形成用材料26を用いることにより、光インターコネクション技術用途や、拡散シートおよび反射板などの導光部材用途などとして用いることができる。
【0042】
次に、本発明の第2の実施形態について、前述した実施形態と異なる部分を中心に説明し、同様の部分の詳細説明は省略する。図4に本発明の製造方法に用いられる溶融押出装置70及びその他の装置の概略図を示す。溶融押出装置70は、コア部形成用材料押出装置11、クラッド部形成用材料押出装置12、共押出ダイス71とを備えている。各押出装置11、12と共押出ダイス71とは、管15、16で接続されている。各押出装置11、12に格納されるコア部形成用材料26及びクラッド部形成用材料27の溶融体が、管15、16を経由して、共押出ダイス71に押し出される。共押出ダイス71により、ロッド状コア部とコア部の外周に均一の厚さで被覆するクラッド部とからなる光伝送部材前駆体72が形成される。この光伝送部材前駆体72は、第1ローラ19により共押出ダイス71から引き出される。引き出された光伝送部材前駆体72は、水槽20内に搬送される。光伝送部材前駆体72は、さらに第2ローラ21で引き取られながら加熱炉22内を搬送される。このようにして、光伝送部材前駆体72をさらに延伸させて、光伝送部材73と得ることができる。最後に光伝送部材73は、巻取機24によりロール状に巻き取られ、光伝送部材ロール74として貯蔵される。
【0043】
コア部形成用材料押出装置11及びクラッド部形成用材料押出装置12には、それぞれコア部形成用材料26、及び、コア部形成用材料26よりも低い屈折率のクラッド部形成用材料27とが溶融体となって格納される。コア部形成用材料26及びクラッド部形成用材料27の溶融体は、共押出ダイス14内でコア部とクラッド部を有する光伝送路の前駆体となる。この光伝送路の前駆体が、光伝送部材前駆体72となって共押出ダイス71から押し出される。
【0044】
図5に本発明に用いられる共押出ダイス71の要部拡大図を示す。共押出ダイス71は、コア部ダイ30及びクラッド部ダイ31及びこれらを断熱する断熱板33とから構成されている。また、それぞれのダイ30、31の温度調節を行うために温調機35、36が設けられている。コア部ダイ30にはコア部形成用材料26を供給するための管15が、クラッド部ダイ31にはクラッド部形成用材料27を供給するための管16が、それぞれ接続している。
【0045】
コア部形成用材料26は、管15からコア部ダイ30のコア部形成部43に送られ、ロッド状のコア前駆体44を形成する。コア前駆体44は、コア部ダイ30の拡散部45を通る。拡散部45を通過している間に、コア部形成用材料26に含まれるドーパントが所望の状態に拡散され、GI型屈折率分布を有するコア部46が得られる。また、コア部46の横断面形状は、このコア部形成部43及び拡散部45の横断面形状に応じた形状に形成されている。こうして、コア部形成部43及び拡散部45の断面形状を適正に選択することにより、所望の横断面形状を有するコア部46を得ることができる。
【0046】
クラッド部形成用材料27は、管16から液流路47を通りポケット48に供給される。ポケット48から押し出されたクラッド部形成用材料27は、クラッド部形成部49において、コア部46の外周面を被覆する。このようにして、コア部46の外周面に略均一の厚みのクラッド部を有する光伝送部材前駆体72が、共押出ダイス71から押し出される。
【0047】
前述した溶融押出装置70を用いて作製可能な光伝送部材73a〜dの横断面を図6に示す。光伝送部材73aは、コア部75aの外周にクラッド部76aが厚さ方向に均一に形成され、それぞれ横断面の外周形状は円形に形成されている(図6(A))。光伝送部材73bは、コア部75bの外周にクラッド部76bが厚さ方向に均一に形成され、それぞれ横断面の外周形状は正方形に形成され、これらは互いに略相似の関係になっている(図6(B))。光伝送部材73cは、横断面が円形のコア部75aと、その周囲に形成するクラッド部76cとから構成される(図6(C))。このクラッド部76cの横断面の外周形状は、正方形に形成されている。光伝送部材73dは、横断面が正方形のコア部75bと、その周囲に形成するクラッド部76dとから構成される(図6(D))。このクラッド部76dの横断面の外周形状は、円形に形成されている。
【0048】
なお、溶融押出装置70にて作成した光伝送部材前駆体72に、加熱延伸処理を施し、断面形状が光伝送部材前駆体72と略相似形の光伝送部材を形成することも可能である。
【0049】
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。前述した第1及び第2の実施形態と同様の部分は説明を省略する。図7に本発明の保護層付き多心光伝送部材の製造方法に用いられる溶融押出装置80の概略図を示す。溶融押出装置80は、複数の押出装置及び共押出ダイス81から構成される。この溶融押出装置80が有する押出装置は、5対の第1〜2押出装置82a及び82b、並びに第3押出装置82cから構成される。第1〜第3押出装置82a〜82cには、それぞれコア部形成用材料、コア部形成用材料よりも低い屈折率のクラッド部形成用材料、及び遮光部材を含有する保護層形成用材料とが溶融体となって格納される。
【0050】
各押出装置82a〜82cと共押出ダイス81とは、管で接続されており、各押出装置82a〜82cから押し出された各材料は、管を経由して共押出ダイス81に送られる。共押出ダイス81は、これらの各押出装置82a〜82cからの各材料を用いて、多心光伝送部材前駆体84を形成する。共押出ダイス81から押し出された多心光伝送部材前駆体84は、ローラにより引き出される。ローラによって引き出された多心光伝送部材前駆体84は、所定の冷却処理、加熱炉22による加熱処理、及び延伸処理を経て、多心光伝送部材85となる。最後に多心光伝送部材85は、巻取機24によりロール状に巻き取られ、多心光伝送部材ロール87として貯蔵される。
【0051】
この多心光伝送部材85は、5心の光伝送路及び、この光伝送路の周囲に形成される保護層から構成される。この光伝送路はコア部及びコア部の周囲に形成されるクラッド部から構成されている。
【0052】
前述した溶融押出装置80を用いて作成可能な多心光伝送部材85の横断面を図8に示す。多心光伝送部材85は、コア部85aとクラッド部85bからなる5心の光伝送路、及び、この5心の光伝送路の外周を囲むように形成される保護層85cから構成される。コア部85a及びクラッド部85bの横断面は円形に形成され、保護層85cの横断面は、長方形に形成されている。また、この光伝送路は、保護層85cの横断面上にて、互いに一定の間隔をおいて配置される。これらのコア部85a、クラッド部85b及び保護層85cの横断面形状及び、多心光伝送部材85内における光伝送路の配置位置は、共押出ダイス81によって決定される。所望の横断面形状のコア部85a、クラッド部85b及び保護層85cを形成可能な共押出ダイス81を選択することにより、所望の横断面形状を有する多心光伝送部材85を形成することができる。
【0053】
このような多心光伝送部材85は、独立した5対の光伝送路を有するため、パラレル信号伝送などに用いることができる。また、光伝送路を囲むように形成される保護層85cには、遮光部材が含有されるため、光伝送路間のクロストークを防止することが可能になる。
【0054】
図7で示した共押出ダイス81において、コア部形成用材料を格納する第1押出装置82a、及び、コア部形成用材料より低い屈折率を有し、格納する第3押出装置82cを用いて、図9に示すような多心光伝送部材90を形成することも可能である。横断面形状が長方形である多心光伝送部材90は、横断面形状が円形のコア部90aを5本有している。また、これらコア部90aは、多心光伝送部材90の横断面において等間隔に配置されている。この多心光伝送部材90は、独立した光伝送路であるコア部90aを5本有するため、パラレル信号伝送などに用いることができる。また、コア部90aを囲むように形成されるクラッド部90bには、遮光部材が含有されるため、コア部90a間のクロストークを防止することが可能になる。
【0055】
上記実施形態では、多心光伝送部材85及び多心光伝送部材90が5つの光伝送路を有すると記載したが、これに限らず、光伝送路の数に応じて第1、更には第2押出装置を追加し、これに応じた共押出ダイスを用いることにより、より多くの光伝送路を有する多心光伝送部材を形成可能にする。
【0056】
上記実施形態において、同一の多心光伝送部材において、光伝送路が異なる材料により形成されてもよい。また、それぞれの光伝送路の横断面が異なる多心光伝送部材を形成することもできる。
【0057】
(コア部形成用材料)
コア部の原料の重合性モノマーとしては、光透過性が高い非晶質の熱可塑性原料を選択するのが好ましい。これらの原料としては例えば、以下のような(メタ)アクリル酸エステル類(フッ素不含(メタ)アクリル酸エステル(a),含フッ素(メタ)アクリル酸エステル(b)),スチレン系化合物(c),ビニルエステル類(d),主鎖環状含フッ素ポリマー形成モノマー類(e)等を例示することができ、コア部はこれらのホモポリマー、あるいはこれらモノマーの2種以上からなる共重合体、およびホモポリマー及び/または共重合体の混合物から形成することができる。これらのうち、(メタ)アクリル酸エステル類を重合性モノマーとして含む組成を好ましく用いることができる。
【0058】
以上に挙げた重合性モノマーとして具体的に、(a)フッ素不含メタクリル酸エステルおよびフッ素不含アクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−tert−ブチル、メタクリル酸ベンジル(BzMA)、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ジフェニルメチル、トリシクロ[5・2・1・02,6]デカニルメタクリレート、アダマンチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ノルボルニルメタクリレート等が挙げられ、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−tert−ブチル、アクリル酸フェニル等が挙げられる。また、(b)含フッ素アクリル酸エステルおよび含フッ素メタクリル酸エステルとしては、2,2,2 −トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3 −テトラフルオロプロピルメタクリレート、2,2,3,3,3 −ペンタフルオロプロピルメタクリレート、1 −トリフルオロメチル−2,2,2 −トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5 −オクタフルオロペンチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4 −ヘキサフルオロブチルメタクリレート等が挙げられる。さらに、(c)スチレン系化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等が挙げられ、(d)ビニルエステル類としては、ビニルアセテート、ビニルベンゾエート、ビニルフェニルアセテート、ビニルクロロアセテート等、(e)主鎖環状含フッ素モノマー類としては、モノマーとして環状構造を有するまたもしくは環化重合することによって非晶質の主鎖に環状構造を有する含フッ素重合体を形成するポリマーを形成するものであり、ポリパーフルオロブタニルビニルエーテルや特開平8−334634号公報などに例示される主鎖に脂肪環もしくは複素環を有するようなポリマーを形成するモノマー、および特願2004−186199号に例示されるものなどが挙げられる。勿論、これらに限定されるものではない。モノマーの単独あるいは共重合体からなるコア部のポリマーの屈折率は、クラッド部のそれに比べて同等かあるいはそれ以上になるように構成モノマーの種類,組成比を選択する。特に好ましいポリマーとしては、透明樹脂であるポリメタクリル酸メチル(PMMA)が挙げられる。
【0059】
さらに、作製する光学部材の一種であるプラスチック光伝送部材を近赤外線用途に用いる場合は、コア部のポリマーを構成するC−H結合に起因した吸収損失が起こるために、特許第3332922号公報などに記載されているような重水素化ポリメチルメタクリレート(PMMA−d8)、ポリトリフルオロエチルメタクリレート(P3FMA)、ポリヘキサフルオロイソプロピル2−フルオロアクリレート(HFIP 2−FA)などを始めとする、C−H結合の水素原子(H)を重水素原子(D)やフッ素(F)などで置換した重合体を用いることで、この伝送損失を生じる波長域を長波長化することができ、伝送信号光の損失を軽減することができる。なお、原料モノマーは重合後の透明性を損なわないためにも、不純物や散乱源となる異物は重合前に十分に低減することが望ましく、そのため、モノマーから重合体を得る方法としては溶媒を用いない塊状重合で得る方法が好ましい。
【0060】
(クラッド部形成用材料)
クラッド部の素材には、コア部を伝送する光がそれらの界面で全反射するために、コア部の屈折率より低い屈折率を有し、コア部との密着性が良いものを用いることが好ましい。ただし、素材の選択によってコア部とクラッド部の界面の不整が起こりやすい、もしくは製造上好ましくない場合などにおいては、コア部とクラッド部の間にさらに層を設けても良い。例えば、コア部との界面(即ち、中空管の内壁面)に、コア部のマトリックスと同一組成のポリマーからなるクラッド層(インナークラッド層)を形成して複層とすることにより、コア部とクラッド部との界面状態を矯正することができる。勿論、インナークラッド層を形成せずに、クラッド部そのものを、コア部のマトリックスと同一組成のポリマーから形成することもできる。
【0061】
クラッド部の素材としては、タフネスに優れ、耐湿熱性にも優れているものが好ましく用いられる。例えば、フッ素含有モノマーの単独重合体または共重合体からなるのが好ましい。フッ素含有モノマーとしてはフッ化ビニリデン(PVDF)が好ましく、フッ化ビニリデンを10質量%以上含有する1種以上の重合性モノマーを重合させて得られるフッ素樹脂が好ましく用いることができる。
【0062】
また、溶融押出法により重合体を成形し、クラッド部を作製する場合は、重合体の溶融粘度が適当であることが必要である。この溶融粘度については、相関する物性として分子量が用いられ特に重量平均分子量との相関がある。本発明においては、重量平均分子量が1万〜100万の範囲であることが適当であり、より好ましくは5万〜50万の範囲である。
【0063】
さらに、水分によっても吸収損失が起こるため、できるだけコア部へ水分が浸入することを防ぐことが好ましい。そのためには、吸水率が低いポリマーをクラッド部の素材(材料)として用いる。すなわち飽和吸水率(以下、吸水率と称する)が1.8%未満のポリマーを用いてクラッド部を作製するのが好ましい。より好ましくは1.5%未満のポリマー、さらに好ましくは1.0%未満のポリマーを用いてクラッド部を作製することが好ましい。また、インナークラッド層を作製する場合にも同様の吸水率のポリマーを用いることが好ましい。吸水率(%)は、ASTM D 570試験法に従い、23℃の水中に試験片を1週間浸漬し、そのときの吸水率を測定することにより算出することができる。
【0064】
(重合開始剤)
前記コア部及び/又はクラッド部が、重合性モノマーから重合されたポリマーから作製される場合、原料樹脂を得るための重合の際に重合開始剤が用いられる。重合開始剤としては、用いるモノマーや重合方法に応じて適宜選択することができ、例えば、過酸化ベンゾイル(BPO)、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート(PBO)、ジ−tert−ブチルパーオキシド(PBD)、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(PBI)、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バラレート(PHV)などのパーオキサイド系化合物が挙げられる。また、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2’−アゾビス(2−メチルブタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2,3−ジメチルブタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルヘキサン)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2,3,3−トリメチルブタン)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−メチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−メチルヘキサン)、3,3’−アゾビス(3,4−ジメチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−エチルペンタン)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジエチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジ−tert−ブチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)などのアゾ系化合物が挙げられる。なお、重合開始剤は勿論これらに限定されるものではなく、更には2種類以上を併用してもよい。
【0065】
(連鎖移動剤)
コア部形成用重合性組成物及びクラッド部形成用重合性組成物は、連鎖移動剤を含有していることが好ましい。前記連鎖移動剤は、主に重合体の分子量を調整するために用いられる。前記クラッド部およびコア部形成用重合性組成物がそれぞれ連鎖移動剤を含有していると、重合性モノマーからポリマーを形成する際に、重合速度および重合度を前記連鎖移動剤によってより制御することができ、重合体の分子量を所望の分子量に調整することができる。例えば、得られたプリフォームを延伸により線引して光伝送部材とする際に、分子量を調整することによって延伸時における機械的特性を所望の範囲とすることができ、生産性の向上にも寄与する。
【0066】
前記連鎖移動剤については、併用する重合性モノマーの種類に応じて、適宜、種類および添加量を選択できる。各モノマーに対する連鎖移動剤の連鎖移動定数は、例えば、ポリマーハンドブック第3版(J.BRANDRUPおよびE.H.IMMERGUT編、JOHN WILEY&SON発行)を参照することができる。また、前記連鎖移動定数は大津隆行、木下雅悦共著「高分子合成の実験法」化学同人、昭和47年刊を参考にして、実験によっても求めることができる。
【0067】
連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタン類(例えば、n−ブチルメルカプタン、n−ペンチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタンなど)、チオフェノール類(例えば、チオフェノール、m−ブロモチオフェノール、p−ブロモチオフェノール、m−トルエンチオール、p−トルエンチオールなど)などを用いることが好ましい。特に、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタンのアルキルメルカプタンを用いるのが好ましい。また、C−H結合の水素原子が重水素原子(D)やフッ素原子(F)で置換された連鎖移動剤を用いることもできる。なお、連鎖移動剤は勿論これらに限定されるものではなく、これら連鎖移動剤は2種類以上を併用してもよい。
【0068】
(屈折率調整剤)
コア部形成用材料或いはクラッド部形成用材料に屈折率調整剤を含有させても良い。屈折率調整剤の濃度に分布を持たせることによって、濃度の分布に基づいて屈折率分布型のコアを容易に作製することができる。屈折率調整剤を用いなくとも、コア部の形成に2種以上の重合性モノマーを用い、コア部内に共重合比の分布を持たせることによって、屈折率分布構造を導入することもできるが、共重合の組成比制御などと比較して、製造の簡便さなどを鑑みると屈折率調整剤を用いることが好ましい。
【0069】
屈折率調整剤はドーパントとも称し、併用する前記重合性モノマーの屈折率と異なる化合物である。その屈折率差は0.005以上であるのが好ましい。ドーパントは、これを含有する重合体が無添加の重合体と比較して、屈折率が高くなる性質を有する。これらは、特許第3332922号公報や特開平5−173026号公報に記載されているような、モノマーの合成によって生成される重合体との比較において溶解性パラメータとの差が7(cal/cm31/2以内であると共に、屈折率の差が0.001以上であり、これを含有する重合体が無添加の重合体と比較して屈折率が変化する性質を有し、重合体と安定して共存可能で、且つ前述の原料である重合性モノマーの重合条件(加熱および加圧等の重合条件)下において安定であるものをいずれも用いることができる。
【0070】
上記性質を有し、重合体と安定して共存可能で、且つ前述の原料である重合性モノマーの重合条件(加熱および加圧等の重合条件)下において安定であるものを、ドーパントとして用いることができる。本実施形態では、コア部形成用重合性組成物にドーパントを含有させ、コア部を形成する工程において層内の含有量と熱拡散によって濃度分布を制御し、ドーパントの濃度に傾斜を持たせ、コア部にドーパントの濃度分布に基づく屈折率分布構造を形成する方法を例示する。このように、屈折率の分布を有するコア部を「屈折率分布型コア部」と称する。屈折率分布型コア部を形成することにより、得られる光学部材は広い伝送帯域を有する屈折率分布型プラスチック光伝送部材となる。
【0071】
前記ドーパントとしては、特許第3332922号や特開平11−142657号公報に記載されている様な、例えば、安息香酸ベンジル(BEN)、硫化ジフェニル(DPS)、リン酸トリフェニル(TPP)、フタル酸ベンジル−n−ブチル(BBP)、フタル酸ジフェニル(DPP)、ジフェニル(DP)、ジフェニルメタン(DPM)、リン酸トリクレジル(TCP)、ジフェニルスルホキシド(DPSO)、硫化ジフェニル誘導体、ジチアン誘導体などが挙げられる。中でも、BEN、DPS、TPP、DPSOおよび硫化ジフェニル誘導体、ジチアン誘導体が好ましい。なお、これらの化合物中に存在する水素原子を重水素原子に置換した化合物も広い波長域での透明性を向上させる目的で用いることができる。
【0072】
屈折率調整剤の濃度および分布を調整することによって、光学部材である光伝送路の屈折率を所望の値に変化させることができる。その添加量は、用途および組み合わされる部材に応じて適宜選ばれる。屈折率調整剤は、複数種類添加してもよい。屈折率分布の付与方法としては、前述のとおり熱拡散や、多層の共押し出しによって得ることが出来る。
【0073】
(その他の添加剤)
その他、コア部、クラッド部もしくはそれらの一部には、光伝送性能を低下させない範囲で、それらを作製する重合性組成物にその他の添加剤を添加することができる。例えば、コア部もしくはその一部に耐候性や耐久性などを向上させる目的で、安定剤を添加することができる。また、光伝送性能の向上を目的として、光信号増幅用の誘導放出機能化合物を添加することもできる。前記誘導放出機能化合物を添加することにより、減衰した信号光を励起光により増幅することができ、伝送距離が向上するので、例えば、光伝送リンクの一部に光増幅器として使用することができる。これらの添加剤も、前記原料モノマーに添加した後、重合することによって、コア部、クラッド部もしくはそれらの一部に含有させることができる。
【0074】
(保護層形成用材料)
光伝送部材の周囲に保護層を有する光伝送部材は、有さない光伝送部材に比べて、機械的強度が上昇してハンドリングが容易となる。光伝送部材に用いられる保護層形成用材料には、被覆する光伝送部材に熱的ダメージ(例えば、変形,変性,熱分解など)を与えないものを選択する。そこで、光伝送部材を形成するポリマーのガラス転移温度Tg(℃)以下で、かつ(Tg−50)℃以上で硬化可能なポリマーを用いることが好ましい。また、生産コストの低減のために、成形時間(材料が硬化する時間)が1秒以上10分以下、好ましくは1秒以上5分以下であるものを用いることがより好ましい。なお、光伝送部材が複数のポリマーから形成される場合には、それら各ポリマーのガラス転移温度のなかで、最も低い温度のガラス転移温度をTg(℃)とみなす。なお、PVDFなどようにガラス転移温度Tg(℃)が常温以下(例えば、PVDFでは約−40℃)の場合や、ガラス転移温度を有さないポリマーの場合には、他の相転移温度、例えば融点を基準温度とする。
【0075】
保護層形成用材料としては、ポリエチレン(PE),ポリプロピレン(PP)などに代表される一般的なオレフィン系ポリマーや塩化ビニル,ナイロンなどの汎用性の高いポリマーのほかに、具体的に以下の材料を挙げることができる。これらは高い弾性を有しているため、曲げなどの機械的特性付与の観点でも効果がある。まず、ポリマーの一形態であるゴムを挙げることもできる。具体的には、イソプレン系ゴム(例えば、天然ゴム,イソプレンゴムなど),ブタジエン系ゴム(例えば、スチレン−ブタジエン共重合ゴム,ブタジエンゴムなど),ジエン系特殊ゴム(例えば、ニトリルゴム,クロロプレンゴムなど),オレフィン系ゴム(例えば、エチレン−プロピレンゴム,アクリルゴム,ブチルゴム,ハロゲン化ブチルゴムなど),エーテル系ゴム,ポリスルフィド系ゴム,ウレタン系ゴムなどが挙げられる。
【0076】
また、室温で流動性を示して加熱することにより、その流動性が消失して硬化する液状ゴムを保護層形成用材料として用いることができる。具体的には、ポリジエン系(例えば、基本構造がポリイソプレン,ポリブタジエン,ブタジエン−アクリロニトリル共重合体,ポリクロロプレンなど),ポリオレフィン系(例えば、基本構造がポリオレフィン,ポリイソブチレンなど),ポリエーテル系(例えば、基本構造がポリ(オキシプロピレン)など),ポリスルフィド系(例えば、基本構造がポリ(オキシアルキレンジスフィド)など),ポリシロキサン系(例えば、基本構造がポリ(ジメチルシロキサン)など)などを挙げることができる。
【0077】
保護層の材料としてはさらには、熱可塑性エラストマー(TPE)なども用いることもできる。熱可塑性エラストマーは、室温ではゴム弾性を示し、高温で可塑化されて成形が容易である物質群である。具体的には、スチレン系TPE,オレフィン系TPE,塩化ビニル系TPE,ウレタン系TPE,エステル系TPE,アミド系TPEなどが挙げられる。なお、前記列記したポリマーは、光伝送部材のポリマー、特にコア部のポリマーのガラス転移温度Tg(℃)以下で成形可能なものであれば、特に上記材料に限定されず、各材料間もしくは上記以外の共重合体や混合ポリマーを用いることもできる。
【0078】
(機能性添加剤)
コア部、クラッド部、及び保護層それぞれの形成用材料に、機能性添加剤を添加する場合がある。この添加剤としては、帯電防止のための導電性物質、難燃性物質、着色用の染料や顔料などが挙げられる。添加剤の具体例を以下にあげるが、これに限定されるものではない。導電性物質としては錫や亜鉛合金粉や銀等の貴金属微粒子、難燃性物質としては水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物などが挙げられ、外乱光の遮光や、迷光防止及び識別のために加える着色の顔料としては、カーボンブラック,酸化チタン,酸化ジルコニウムなどが好ましく用いられる。カーボンブラックは、低コストであり、光伝送部材用被覆材として用いる場合に、着色以外に制電性も有しているので静電気を帯びにくくなる、近赤外域に吸収を持つので外乱光の遮閉性に富むうえ、曲げなどで光伝送路の外部へ放出された光が再度戻ってくる事を抑制することを抑制するなど有利な点が多く、特に好ましい。
【0079】
本発明において用いられる添加剤としての無機微粒子は粒度の細かなものが好ましい。特にコア部と接する最内層や最外層は粗い粒子が混入していると、コア部を傷つけたり、作業性が悪化したりするので好ましくない。微粒子添加剤の分散作業性を高めるため、樹脂中に添加剤を高い濃度で充填したマスターバッチを用いてマスターバッチと被覆材用のベース樹脂を混錬すると良い。
【実施例1】
【0080】
図7の溶融押出装置80を用いて、多心光伝送部材85を作成した。コア部形成用材料26にPMMA、クラッド部形成用材料27にPVDF、及び保護層形成用材料28にカーボンブラックが添加されたPVDFを用いた。押出装置には、5台の第1、第2押出装置82a、82b、並びに1台の第3押出装置83c及び共押出ダイス81を用いた。共押出ダイス81は、横断面形状が円形のコア部、コア部の周囲に均一の厚さ被覆するクラッド部を5対形成可能であり、更に、これら5対のコア部、クラッド部を囲むように、横断面形状が長方形の保護層を形成可能である。第1〜第3押出装置82a〜82cに格納されたコア部形成用材料26、クラッド部形成用材料27及び保護層形成用材料28の溶融体を、共押出ダイス81に押し出した。共押出ダイス81から押し出された多心光伝送部材前駆体84に、冷却処理、加熱炉22の加熱処理及び延伸処理を施し、多心光伝送部材85(図8)を得た。この多心光伝送部材85の横断面形状は、縦200μm横1000μmの長方形であった。コア部85a及びクラッド部85bからなる5本の光伝送路は、多心光伝送部材85横断面上において等間隔に配置され、コア部の横断面形状は、それぞれ円形に形成され、その直径は100μmであった。また、クラッド部85bの横断面形状は、コア部85aと略相似形の円形であった。なお、波長850nmの光源における、多心光伝送部材85の伝送損失は0.02dB/cmであった。
【実施例2】
【0081】
図7の溶融押出装置80を用いて、多心光伝送部材90を作成した。コア部形成用材料26にPMMA、押出装置には、5台の第1押出装置81a、及びに1台の第3押出装置83cを用いた。共押出ダイス81には、コア部の横断面形状を円形に、クラッド部の横断面形状を長方形に形成可能な共押出ダイス81を用いた。第1及び第3押出装置82a、82cに格納されたコア部形成用材料26及びクラッド部形成用材料の溶融体を、共押出ダイス81に押し出した。共押出ダイス81から押し出された多心光伝送部材前駆体に、冷却処理、加熱処理及び延伸処理を施し、クラッド部90b及び5本のコア部90aからなる多心光伝送部材90(図9)を得た。クラッド部90bの横断面形状は、縦200μm横1000μmの長方形であった。また、コア部90aは、クラッド部90b内部に等間隔で配置され、それぞれの横断面形状は直径100μmの円形であった。なお、波長850nmの光源における、多心光伝送部材90の伝送損失は0.03dB/cmであった。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の溶融押出方法に用いられる光伝送部材製造装置の概略図である。
【図2】図1の共押出ダイスの拡大図である。
【図3】光伝送部材製造装置によって、製造された光伝送部材の横断面図である。
【図4】本発明の溶融押出方法に用いられる光伝送部材製造装置の概略図である。
【図5】図4の共押出ダイスの拡大図である。
【図6】光伝送部材製造装置によって、製造された光伝送部材の横断面図である。
【図7】本発明の溶融押出方法に用いられる多心光伝送部材製造装置の概略図である。
【図8】多心光伝送部材製造装置によって、製造された多心光伝送部材の横断面図である。
【図9】多心光伝送部材製造装置によって、製造された多心光伝送部材の横断面図である。
【符号の説明】
【0083】
10、70、80 溶融押出装置
11 コア部形成用材料押出装置
12 クラッド部形成用材料押出装置
13 保護層形成用材料押出装置
14、71、81 共押出ダイス
18 光伝送部材前駆体
23 光伝送部材
26 コア部形成用材料
27 クラッド部形成用材料
28 保護層部形成用材料
30 コア部ダイ
31 クラッド部ダイ
32 保護層ダイ
35〜37 温調機
43 コア部形成部
49 クラッド部形成部
53 保護層形成部
72 光伝送部材前駆体
73、73a〜73d 光伝送部材
82a〜82c 第1〜第3押出装置
84 多心光伝送部材前駆体
85 多心光伝送部材
90 多心光伝送部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイスから樹脂溶融体を押し出す溶融押出方法によって形成され、溶融押出しされたコア部外周に前記コア部より低い屈折率を有するクラッド部を溶融押出で形成するプラスチック光伝送部材の製造方法において、
横断面が多角形、閉曲線、または直線及び曲線を組み合わせた図形のいずれかである前記クラッド部を、前記コア部の周囲に形成することを特徴とするプラスチック光伝送部材の製造方法。
【請求項2】
前記コア部と前記クラッド部の前記横断面が異なる形状に形成されることを特徴とする請求項1記載のプラスチック光伝送部材の製造方法。
【請求項3】
保護層形成用材料の前記溶融体を前記ダイスから押し出し、
前記横断面が多角形、閉曲線、または直線及び曲線を組み合わせた図形のいずれかである保護層を、前記クラッド部の周囲に形成することを特徴とする請求項1または2記載のプラスチック光伝送部材の製造方法。
【請求項4】
前記クラッド部と前記保護層の前記横断面が異なる形状に形成されることを特徴とする請求項3記載のプラスチック光伝送部材の製造方法。
【請求項5】
前記コア部の前記横断面が円形に形成されることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載のプラスチック光伝送部材の製造方法。
【請求項6】
前記コア部の前記横断面が矩形に形成されることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載のプラスチック光伝送部材の製造方法。
【請求項7】
前記コア部が、その横断面の中心に向かうに従って連続的に前記屈折率が高くなる屈折率分布型に形成されることを特徴とする請求項1ないし6いずれか1項記載のプラスチック光伝送部材の製造方法。
【請求項8】
前記コア部が、その横断面の中心に向かうに従って階段状に前記屈折率が高くなる屈折率分布型に形成されることを特徴とする請求項1ないし6いずれか1項記載のプラスチック光伝送部材の製造方法。
【請求項9】
前記コア部が光散乱粒子を有することを特徴とする請求項1ないし8いずれか1項記載のプラスチック光伝送部材の製造方法。
【請求項10】
前記コア部が、(メタ)アクリル酸エステルを主成分として形成され、前記クラッド部がフッ化樹脂を主成分として形成されることを特徴とする請求項1ないし9いずれか1項記載のプラスチック光伝送部材の製造方法。
【請求項11】
前記横断面の面積が1×104μm2以上であることを特徴とする請求項1ないし10いずれか1項記載のプラスチック光伝送部材の製造方法。
【請求項12】
複数の前記コア部がクラッド内部もしくは、複数のコア及びクラッド部が保護層内部に形成されることを特徴とする請求項1ないし11いずれか1項記載のプラスチック光伝送部材の製造方法。
【請求項13】
複数の前記コア部がクラッド内部に海島構造で形成されることを特徴とする請求項12記載のプラスチック光伝送部材の製造方法。
【請求項14】
前記クラッド部または前記保護層の少なくとも一方に遮光性材料が用いられることを特徴とする請求項1ないし13項記載のプラスチック光伝送部材の製造方法。
【請求項15】
複数の前記コア部の前記横断面が、それぞれ異なる形状から形成されることを特徴とする請求項12ないし14いずれか1項記載のプラスチック光伝送部材の製造方法。
【請求項16】
複数の前記コア部が、異なる材料から形成されることを特徴とする請求項12ないし15いずれか1項記載のプラスチック光伝送部材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−94148(P2007−94148A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−285092(P2005−285092)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】