説明

プラズマ処理方法及びプラズマ処理装置

【課題】本発明は、低マイクロ波電力から高マイクロ波電力の広範囲において、安定的なプロセス領域を確保できるプラズマ処理方法及びプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】本発明は、連続放電によるプラズマの生成が困難になる領域にて、プラズマの生成を容易にするとともに前記容易に発生させられたプラズマにより被処理物をプラズマ処理するプラズマ処理方法において、オンとオフを繰り返すパルス放電により前記プラズマを容易に生成し、前記パルス放電を生成する高周波電力のオン期間の電力は、前記連続放電によるプラズマの生成が容易になる電力とし、前記パルス放電のデューティー比は、前記高周波電力の一周期あたりの平均電力が前記連続放電によるプラズマの生成が困難になる領域の電力となるように制御されることを特徴とするプラズマ処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理方法及びプラズマ処理装置に係り、特にプラズマエッチングに関するプラズマ処理方法及びプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在半導体素子の量産の用いられているプラズマエッチング装置の一つにElectron Cyclotron Resonance(以下ECRと称する)型の装置がある。このプラズマエッチング装置でプラズマに磁場を印加してマイクロ波の周波数と電子のサイクロトロン周波数とが共振するように磁場強度を設定することで高密度のプラズマを発生できる特徴がある。
【0003】
近年の半導体素子の微細化に伴い、ゲート酸化膜の厚さは2nm以下となっている。そのため、プラズマエッチング加工の制御性、ゲート酸化膜とシリコン膜との高選択比の実現が必要となっている。
【0004】
これらの高精度なプラズマエッチングを実現する技術の一つとして、パルス放電を用いたプラズマエッチング方法があり、例えば、特許文献1には、プラズマ中のラジカル密度を測定しながら、プラズマをパルス変調してラジカル密度を制御することにより高精度エッチングを達成する方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、プラズマをパルス変調すると同時にウエハに印加する高周波バイアスの位相プラズマのオンオフと同期をとることによりプラズマ中の電子温度を制御して、処理ウエハ上の酸化膜の絶縁破壊を防ぐ方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献3にはプラズマを10−100μsでパルス変調してかつウエハに600KHz以下の高周波バイアスを印加することで酸化膜の絶縁破壊を防ぐと同時に高速異方性エッチングを達成する方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献4にはプラズマを発生するためのマイクロ波をパルス変調してラジカルを制御しかつプラズマの不安定性を抑えてイオン温度を低下させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平09−185999号公報
【特許文献2】特開平09−092645号公報
【特許文献3】特開平08−181125号公報
【特許文献4】特開平06−267900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般的に、ECR型プラズマエッチング装置では、以下に示すような三つの課題がある。
【0010】
一つ目として、垂直性向上など加工に応じてより低密度領域(低マイクロ波電力)が必要とされる場合があるが、プラズマ密度を下げるためにマイクロ波電力を小さくすると、プラズマの生成が困難になる課題がある。
【0011】
二つ目として、マイクロ波の電力を変えて放電試験を行った際、マイクロ波電力に依存してプラズマの発光が目視あるいはフォトダイオードなどの測定において、ちらついて見える不安定領域が存在するという課題がある。この領域では、エッチング速度などの特性も再現性がないので、エッチング条件は不安定領域を避けて設定、すなわち、プロセス開発を行う上でプロセスウインドウを狭く設定していた。
【0012】
なお、本発明で対象としている放電のちらつきは、マイクロ波電力に依存してチャンバ内の電界強度分布が変化して、チャンバ形状に関連してたとえば試料台近傍あるいはマイクロ波透過窓近傍で異常放電が発生して、目視にて点滅が観測できる現象である。
【0013】
三つ目として、高マイクロ波電力側(高密度領域)に高選択比領域が存在するが、高マイクロ波電力側では、プラズマ密度の上昇に伴いカットオフ現象が生じて、プラズマ密度のチャンバ内での分布が変化するモードジャンプが発生する。この現象が生じるとプラズマの発光強度やイアス電圧のピーク値(Vpp電圧)が急激に変化しこれに伴いエッチング速度のウエハ面内分布も大きく変わるためにモードジャンプ前後の電力は使用できない課題があった。
【0014】
これら三つの課題は、パルス放電を用いたECR型プラズマエッチング装置でも共通の課題であるが、上述した従来技術では、これら三つの課題が考慮されていない。
【0015】
このため、本発明では、低マイクロ波電力から高マイクロ波電力の広範囲において、安定的なプロセス領域を確保できるプラズマ処理方法及びプラズマ処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、連続放電によるプラズマの生成が困難になる領域にて、プラズマの生成を容易にするとともに前記容易に発生させられたプラズマにより被処理物をプラズマ処理するプラズマ処理方法において、オンとオフを繰り返すパルス放電により前記プラズマを容易に生成し、前記パルス放電を生成する高周波電力のオン期間の電力は、前記連続放電によるプラズマの生成が容易になる電力とし、前記パルス放電のデューティー比は、前記高周波電力の一周期あたりの平均電力が前記連続放電によるプラズマの生成が困難になる領域の電力となるように制御されることを特徴とするプラズマ処理方法である。
【0017】
また、本発明は、内部にプラズマを生成する処理室と、前記プラズマを生成するプラズマ生成手段と、前記処理室内に設けられウエハを載置する試料台とを備え、前記ウエハを前記プラズマによりエッチングするプラズマ処理装置において、前記プラズマ生成手段は、前記プラズマを生成するための電力を供給する電源を具備し、前記電源の前記電力をオンオフ変調するとともにオン時のピーク電力を連続放電にてプラズマを発生させた場合にプラズマの不安定が生じない値に設定し、前記オンオフ変調のデューティー比を変えることにより前記電力の時間平均値を制御することを特徴とするプラズマ処理装置である。
【0018】
また、本発明は、内部を真空にして反応性ガスを導入できるチャンバと前記チャンバの中に放電プラズマを生成するためのプラズマ生成用電源と前記チャンバ内にウエハを設置する試料台とを備えるプラズマ処理装置において、前記プラズマ生成用電源の出力電力をパルス変調して、かつ、オン時のピーク電力を連続放電にてモードジャンプ領域より十分に高い電力値に設定して、パルス変調のデューティー比を変えることにより電力の時間平均値を制御する手段を備えていることを特徴とするプラズマ処理装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、低マイクロ波電力から高マイクロ波電力の広範囲において、安定的なプロセス領域を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のエッチング方法を実施するためのプラズマエッチング装置の一例を示す概略断面図である。
【図2】図1に示す装置のマグネトロン106の出力波形である。
【図3】本発明の選択比向上の効果を示すグラフである。
【図4】本発明の酸素原子の発光強度のマイクロ波の時間平均出力依存性を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例4のウエハ毎にパルス放電のデューティー比を変えるフィードバック制御をするプラズマエッチング装置の概略断面図である。
【図6】加工対象であるウエハ上の微細パタンの断面図である。
【図7】本発明の実施例4のマイクロ波電力(デューティー比)とCDの相関関係のデータを示す図である。
【図8】本発明の実施例5のプラズマエッチング装置を示す概略断面図である。
【図9】本発明のマイクロ波に対するO(酸素)/Br(臭素)の発光強度比を示すグラフである。
【図10】本発明のパルスマイクロ波に対するポリシリコン/シリコン酸化膜の選択比を示すグラフである。
【図11】モードジャンプが生じる電力の測定を自動化する装置の処理の流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
最初に、本発明を実施するためのプラズマエッチング装置の一例から図を参照しながら説明する。図1は、プラズマ生成手段にマイクロ波と磁場を利用したマイクロ波ECRプラズマエッチング装置の概略断面図である。
【0022】
マイクロ波ECRプラズマエッチング装置は、内部を真空排気できるチャンバ101と被処理物であるウエハ102を配置する試料台103とチャンバ101の上面に設けられた石英などのマイクロ波透過窓104と、その上方に設けられた導波管105、マグネトロン106と、チャンバ101の周りに設けられたソレノイドコイル107と、試料台103に接続された静電吸着電源108、高周波電源109とから成る。
【0023】
ウエハ102はウエハ搬入口110からチャンバ101内に搬入された後、静電吸着電源108によって試料台103に静電吸着される。次にプロセスガスがチャンバ101に導入される。チャンバ101内は、真空ポンプ(図示省略)により減圧排気され、所定の圧力(例えば、0.1Pa〜50Pa)に調整される。次に、マグネトロン106から周波数2.45GHzのマイクロ波が発振され、導波管105を通してチャンバ101内に伝播される。マイクロ波とソレノイドコイル107によって発生された磁場との作用によって処理ガスが励起され、ウエハ102上部の空間にプラズマ111が形成される。一方、試料台103には、高周波電源109によってバイアスが印加され、プラズマ111中のイオンがウエハ102上に垂直に加速され入射する。また、高周波電源109は、連続的な高周波電力または、時間変調された間欠的な高周波電力を試料台103に印加することができる。
【0024】
プラズマ111からのラジカルとイオンの作用によってウエハ102が異方的にエッチングされる。また、マグネトロン106にはパルスジェネレータ112が取り付けられており、これによりマイクロ波を図2に示すように任意に設定可能な繰り返し周波数でパルス状にパルス変調することができる。
【0025】
また、マイクロ波ECRプラズマエッチング装置がウエハ102をプラズマ処理する時は、制御部113が、上記のマグネトロン106、パルスジェネレータ112、ソレノイドコイル107、高周波電源109、静電吸着電源108をそれぞれ制御している。
【0026】
本発明に係る以下説明する実施例で使用したマイクロ波ECRプラズマエッチング装置は、直径300mmのウエハを処理するマイクロ波ECRプラズマエッチング装置であり、チャンバ101の内径は44.2cm、ウエハ102とマイクロ波透過窓104との距離は24.3cm(プラズマが発生する空間の体積37267cm3)である。
【0027】
次に、一つ目の課題である、プラズマ密度を下げるためにマイクロ波電力を小さくすると、プラズマの生成が困難になるという課題を解決するための本発明を実施例1及び実施例2にて説明する。
【0028】
[実施例1]
図1に示すマイクロ波ECRプラズマエッチング装置を用いて、表1に示す条件にてデューティー比とマイクロ波の時間平均出力によるプラズマの着火性について調べた。尚、表1のVppは、試料台103に印加される高周波電圧のピーク値からピーク値までの電圧差のことである。
【0029】
また、表2にプラズマ生成の調査結果を示す。尚、表2の“○”はプラズマを安定して生成できたことを示し、“×”はプラズマを生成できなかったことを示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
表2から連続放電の場合、マイクロ波の時間平均出力をチャンバ101内壁の体積で除した値が0.011W/cm3(約400W)以上だとプラズマが安定に生成され、未満だとプラズマが生成されなくなる。プラズマが生成されなくなる理由は自由電子がエッチングガスの分子を電離させるのに必要なエネルギーが供給されないからである。しかし、パルスマイクロ波による放電の場合、マイクロ波の時間平均出力をプラズマが生成される体積で除した値が0.011W/cm3より小さくてもプラズマが生成される。
【0033】
この連続放電とパルスマイクロ波放電でのプラズマ生成の違いは、以下の理由によるものである。
【0034】
マイクロ波がオンの期間の数μsecの間に、自由電子はマイクロ波から獲得したエネルギーで他の原子、分子を電離、または解離させ、プラズマ111を生成させる。そしてマイクロ波がオフの期間になると、自由電子は数μsecの間に殆どが原子、分子に捕縛され、プラズマ111はその大部分が陰イオンと陽イオンになる。陰イオンと陽イオンは電子に比べ質量が大きいので衝突して中和し、プラズマ111が消失するまでに数10msの時間がかかってしまう。従って、マイクロ波のオフの時間が10msより短ければ、プラズマ111が消失する前にマイクロ波のオンの期間が始まり、プラズマ111が維持される。
【0035】
従って、表2に示された結果を言い換えると、パルスマイクロ波のオンの期間の出力を連続放電でプラズマを安定に生成させるのに最低限必要な出力以上(すなわち0.011W/cm3以上)にすると、パルスマイクロ波の時間平均出力が0.011W/cm3以下でも安定して放電を生成させることができると言える。さらに、パルスマイクロ波のオフの期間を10ms以下にすれば、パルスマイクロ波の時間平均出力が0.011W/cm3以下の領域でも上述のプラズマ処理方法よりさらに安定して放電を生成させることができると言える。
【0036】
さらに、アルゴンガス(Ar:イオン化エネルギー1520.6kJ/mol)、窒素ガス(N2:イオン化エネルギー1402kJ/mol)などの不活性なガスを添加したり、上記の不活性なガス以外のイオン化し易いガスを添加することにより安定して放電を生成し易い。その他のガスの種類や、各ガスの流量、処理圧力、RFバイアス値などは、本実施例の効果に特別な制限を与えない。
【0037】
次に、表面全体がポリシリコン膜のウエハと表面全体がシリコン酸化膜のウエハを表1の条件でエッチング処理し、それぞれの削れ量の比から選択比を求めた。その結果を図3に示す。なお、図3の「%」は、パルス放電した場合のデューティー比を意味する。
【0038】
図3より、デューティー比を50%以下にしてマイクロ波時間平均出力を400W(0.011W/cm3)以下にすると、連続放電より選択比が増大することがわかる。この理由は、マイクロ波の時間平均出力が小さいとチャンバ101内の自由電子の個数が減り、この減った分の電子は原子や分子を励起するため、ラジカル種の密度があがり、選択比が向上したものと考えられる。
【0039】
また、表1条件の酸素ガスを1ml/min以上10ml/min以下に制御することでさらに選択比が増大する。
【0040】
また、本実施例は、マイクロ波ECRプラズマエッチング装置に適用した例であったが、容量結合方式あるいは誘導結合方式プラズマエッチング装置にも同様に適用できる。以上、上述した通り、本発明のプラズマ処理方法は、パルス放電のオンの期間の高周波電力を連続放電のプラズマが安定に生成できる高周波電力とするとともに、パルス放電のオフの期間を10ms以下にしたパルス放電により、被処理物を処理する方法である。このような本発明のプラズマ処理方法により、プラズマを安定に生成させることが困難であるプラズマ生成用電力が小さい領域でも安定にプラズマを生成させることができる。
【0041】
さらに、本発明のプラズマ処理方法において、パルス放電のデューティー比を50%以下にすると、連続放電時より、シリコン酸化膜に対するポリシリコン膜のエッチングレートの選択比を向上させることができる。
【0042】
[実施例2]
次に、実施例1において説明した本発明の他の実施例について説明する。
【0043】
表3に示す条件にてパルス放電のプラズマ処理を行うと、連続放電より、炭素系堆積物の除去や、レジストの除去の性能が向上する。
【0044】
【表3】

【0045】
表3に示す条件にアルゴンガスを5ml/min添加してアルゴンの発光強度に対する酸素の発光強度の比を測定した結果を図4に示す。
【0046】
図4よりマイクロ波の時間平均出力をプラズマが発生する体積で除した値である0.011W/cm3を下回るところから酸素原子の発光強度が強くなっていることがわかる。
【0047】
つまり、表3に示す条件にて本発明のパルス放電を行うと、酸素ラジカル密度が高くなり、炭素系堆積物の除去やレジスト除去の効果が向上したものである。
【0048】
次に、二つ目の課題である、マイクロ波の電力を変えて放電試験を行った際、マイクロ波電力に依存してプラズマの発光が目視あるいはフォトダイオードなどの測定において、ちらついて見える不安定領域が存在するという課題を解決するための本発明を実施例3ないし実施例5にて説明する。
【0049】
[実施例3]
本実施例のプラズマエッチング処理は、図1に示すマイクロ波ECRプラズマエッチング装置を用いた。次に、ポリシリコン膜302をエッチングする条件の例を表4に示す。本条件によりポリシリコン膜302を下地の酸化膜303に対して高選択比でエッチングできる。
【0050】
【表4】

【0051】
表4に示す条件でプラズマを発生させるためのマイクロ波を変えて、プラズマ111からの発光をフォトダイオードにて検出してそのちらつきを測定した結果を表5に示す。マイクロ波の電力は連続放電させた場合とマイクロ波のオンの期間の電力を1500Wにして繰り返し周波数1KHzでオンオフ変調し、デューティー比を変えることで電力制御した場合を比較している。表5で“○”は放電ちらつき無し、“X”は放電ちらつきありを示す。放電がちらつく状態ではエッチングを行うことができない。
【0052】
【表5】

【0053】
連続放電では、900Wから1100Wでちらつきが生じるが、マイクロ波のオンオフ制御により、放電のちらつきを解消することができる。原因は瞬時の電力で発生するプラズマ111は安定領域になるよう設定されており、さらに、ハロゲンガスのように負イオンになりやすいガスのプラズマ111でパルス放電をすると、オフ時に電子は数十μsで消滅しその後数msの間負イオンと正イオンが放電維持に関与するため、チャンバ壁とプラズマ111の界面に生成されるプラズマ111のシースの状態が連続放電とは異なり、ちらつきが解消されると推定される。
【0054】
プラズマ111が消失するまでの時間は、数10msなので、オフ時間を10ms以下にすればプラズマ111が消失する前にオンが始まり、プラズマが維持される。
【0055】
プラズマ111のちらつく電力領域は、条件に依存する。従って、別条件のエッチングでは、まず連続放電にてマイクロ波電力を変えて、表5と同様に、放電がちらつく領域を確認して、マイクロ波のオンの期間の電力をちらつきが生じる電力よりも十分大きく設定して、かつ、オフ時間が10ms以下になる周波数でマイクロ波をオンオフのパルス変調すれば、ちらつきを解消できる。
【0056】
なお、表5に示すマイクロ波の電力はチャンバ101の大きさが変わると、その体積に応じて変わり、1500Wは単位体積当たりのマイクロ波電力に換算すると約0.04W/cm3に相当する。
【0057】
なお、放電に不安定領域が存在することは、マイクロ波プラズマエッチング装置に限らず、誘導結合型あるいは容量結合型のプラズマエッチング装置でも同様の課題があり、これらの装置でも本発明にて放電不安定を回避できる。
【0058】
[実施例4]
次に、プラズマ111のオンオフ変調により可能になるエッチング加工寸法(以後、「
CD」と呼ぶ。)の制御方法に関する実施例を述べる。図5は、プラズマ111の発光強度あるいは発光強度の変化から求まるエッチング処理終了時間などを測定して、このモニタ値をもとに処理中のウエハ102あるいは次に処理するウエハ102のエッチング条件を変える仕組みが、図1に示すマイクロ波ECRプラズマエッチング装置に付加されたプラズマエッチング装置の概略図を示す。
【0059】
図5に示す受光部202、CD演算部203、レシピ演算部205、第一のデータベース206、第二のデータベース204、エッチング制御用PC207は、通信手段を介して通信可能に連結されている。図6は、加工対象であるウエハ102上の微細パタンの断面図で、シリコン基板304と下地の酸化膜303上にあるポリシリコン膜302を微細パタン状に加工された窒化シリコンなどのマスク301と同じパタン状にエッチングする様子を表している。
【0060】
ドライエッチングでは、通常、図6に示すような加工を1ロット(25枚)連続処理する。加工された線幅(以後「CD」と呼ぶ。)は連続処理中、ある許容値内に収まる必要
がある。しかし、エッチングの反応生成物などがチャンバ101内に付着するなどして時間とともにプラズマ状態が変化してCDの変動が許容値内に収まらない場合がある。
【0061】
この実施例では、プラズマ111をオンオフ変調して、そのデューティー比をウエハ毎に変えることでCDの変動を許容値内に抑える。通常、CDはウエハ102に印加するバイアス電力やプラズマ密度すなわちマイクロ波電力に依存して変化するので、マイクロ波電力を変化させることでCDを変えることができる。
【0062】
次に、具体的な方法を述べる。図6に示すポリシリコン膜302のエッチングの終点は、プラズマ111中の反応生成物の発光、例えば、シリコンの426nmの光を光ファイバー201と受光部202で検出される。エッチングの終了時間とCDには相関があり、エッチング終了時間とCDの関係が第二のデータベース204に格納されている。CD演算部203はエッチング終了時間からこのウエハ102のCDの推定値を算出する。算出されたCDとCD目標値の差分を計算して、この差分の値はレシピ演算部205に送られる。
【0063】
レシピ演算部205は、図7に示すマイクロ波電力(デューティー比)とCDの相関関係のデータが格納された第一のデータベース206を有しており、CDの目標値からの差分をゼロにするのに必要なマイクロ波電力の変量を算出する。例えば、図7のように目標CDが30nmでn枚目のCDが30+a(nm)であったとすると、n+1枚目は目標CDにするために、すなわちa(nm)細くするために、平均マイクロ波の電力をすなわちデューティー比をd(%)だけ増加させる。
【0064】
第一のデータベース206から算出されたデューティー比は、エッチング制御用PC207に送られて、次のウエハ102を処理する際に、この値に設定してエッチングを行う。この際、プラズマ111を連続放電していると、CD差分がゼロになるように修正されたマイクロ波電力値が、表5に示すプラズマ111の不安定領域に入ってしまうことがあり、エッチングに支障をきたす。実施例3で述べたように、プラズマ111をオンオフ変調して、そのデューティー比を変えることによりマイクロ波電力を制御するとプラズマ111の不安定の課題を解消できる。
【0065】
[実施例5]
次に、放電不安定を防止するために、本発明と併用するとより安定のマージンが広がる方法を図8により説明する。まず、プラズマ111の電位を安定させるために、直流電流が流れるアース面401をプラズマ111と接する部分に設けることが望ましい。
【0066】
通常、チャンバ101の内壁は、アルマイトやイットリウム酸化物などの安定化処理がされているが、これらの材料は絶縁物なので、直流電流が流れない。プラズマ111と接する部分を一部これらの絶縁膜を剥がす、あるいは導体を挿入するなどして、さらに導体部分をアース電位にすることでプラズマ111の電位が安定するので放電がより安定する。直流的アース面401の面積は10cm2以上が望ましい。
【0067】
つぎに、プロセスガスの圧力は0.1〜10Paの間に設定することが望ましい。圧力が低すぎると、電子の平均自由行程が長くなり、電離を生じる前に壁で消失する機会が増えてプラズマ111の不安定の原因となる。また、圧力が高すぎると、着火性が悪くなり不安定を生じやすい。
【0068】
さらに、チャンバ101および試料台103の形状は、局所的に電界が強くなる部分を極力減らすことが望ましい。すなわち、鋭利な凹凸を設けず、角部分402は半径5mm以上の曲線にするとよい。
【0069】
次に、三つ目の課題である、高マイクロ波電力側(高密度領域)に高選択比領域が存在するが、高マイクロ波電力側では、プラズマ密度の上昇に伴いカットオフ現象が生じて、プラズマ密度のチャンバ内での分布が変化するモードジャンプが発生するという課題を解決するための本発明を実施例6及び実施例7にて説明する。
【0070】
尚、実施例6及び実施例7におけるプラズマエッチング処理は、図1に示すマイクロ波ECRプラズマエッチング装置を用いて行った。
【0071】
[実施例6]
図3に示すようにポリシリコンとシリコン酸化膜選択比は平均マイクロ波電力が大きい(800W以上)の領域でも増加する。この理由を説明するために図9にマイクロ波電力と、O(酸素)とBr(臭素)の発光強度比の関係を示す。図9からわかるように高マイクロ波側ではO(酸素)の発光強度、すなわちOラジカルの密度が上がる。このためシリコン酸化膜の削れが抑制され選択比が向上すると考えられる。
【0072】
しかしながら、マイクロ波電力値を更に上げると、図9に示すように、CW(連続放電)では、マイクロ波電力値900W以上で、発光強度の急激な変化、すなわち、前記のモードジャンプ現象(CW時)500が発生する。このため、連続放電では高マイクロ波領域を使用できない。
【0073】
そこで、本発明では、マイクロ波をパルス化し、オン時のピーク電力をモードジャンプが発生する電力値より十分高く設定して、デューティー比を制御する。デューティー65%以下では、発光強度比(図9)は急激な変化がなく、すなわちモードジャンプを回避していることがわかる。
【0074】
この理由を次のように推定する。CW(連続放電)では、マイクロ波電力値とともに電子密度が上昇し、プラズマ111の振動と電磁波の周波数が共鳴する密度に達する電力値からモードが変化する。一方、パルス化したマイクロ波では、オフ時に自由電子は数μsecの間に殆どが原子、分子に捕縛され、プラズマ111は、その大部分が陰イオンと陽イオンになる。このため、オンオフを繰り返すパルスマイクロ波では、電子密度の上昇が起こらない。
【0075】
図10に、表1の条件を用いて、高マイクロ波電力側を評価した選択比結果を示す。CW(連続放電)ではマイクロ波電力値900W以上でモードジャンプの影響から選択比が低下する(不安定になる)のに対し、マイクロ波をパルス化することで、高マイクロ波電力側が使用となり、高選択比を得ることができる。
【0076】
一般に、パルス放電では、電力オフ後50μsで電子密度は1桁以上減衰することが知られている。従って、放電をパルス化して、そのオフ時間が50μs以上になるようにパルスの繰り返し周波数とデューティー比を設定すれば、十分にモードジャンプを回避できる。
【0077】
以上、本発明では、マイクロ波をパルス変調することで、高マイクロ波電力側で発生するモードジャンプを回避でき、エッチングに有効なプロセス領域を拡大できる。
【0078】
[実施例7]
次に、このモードジャンプ領域を自動的に回避する方法および装置に付いて述べる。モードジャンプは図9に示すように、およそマイクロ波電力900W以上の高電力領域で生じるが、ガスの圧力やガスの種類によりプラズマ111の密度は異なるので、モードジャンプが生じる電力もこれらの条件に依存して異なる。
【0079】
これを回避する方法はまず、あらかじめ使用する条件でモードジャンプが生じる電力値を測定しておき、装置はエッチング条件とその条件でモードジャンプが生じる電力を記憶しておき、その条件を使用するときは、自動的にマイクロ波電力をパルス変調する機能を備えるようにする。この機能がある装置では、誤ってモードジャンプ領域を使用する誤操作を防ぐことができる。
【0080】
さらに、あらかじめモードジャンプが生じる電力の測定を自動化する装置について述べる。図11にモードジャンプが生じる電力の測定を自動化する装置の処理の流れ図を示す。通常、エッチングはロット(25枚)単位で処理をするが、ロットを処理する前にダミーウエハ処理501をこれから処理する条件と同じ条件で行う。
【0081】
その後、ロット処理502、酸素のプラズマ111などによるチャンバ101のクリーニング503と続く。ダミーウエハ処理501は、マイクロ波電力を設定した値、例えば800Wから1200Wまで自動でスキャンしてこの期間のプラズマ111の発光強度をホトダイオード等で測定するステップであるマイクロ波電力自動スキャン測定504を含む。
【0082】
次に、エッチング装置制御用パソコン507は、このデータから発光強度が急激に変わる領域を抽出、記憶するモードジャンプ電力識別505を行って、さらにレシピを入力した際にマイクロ波電力がモードジャンプする領域に相当した場合に自動的にパルス変調をする、自動レシピ生成506を行う機能を備える。この機能により、作業者はモードジャンプ領域に煩わされることなく、エッチングを行うことができる。
【0083】
また、マイクロ波電力をスキャンした際に測定する物理量は発光強度に限らず、バイアス電圧のピーク値(Vpp)などモードジャンプに対応して急激に変化する量ならば同じ機能を果たせる。また、本発明で述べたマイクロ波電力の絶対値は主にチャンバ101の大きさすなわち処理対象のウエハ102の直径に応じて大きく変わる。目安としてはチャンバ101の体積で規格化した値を用いるとチャンバ101の体積に依存しない量に変換することができる。例えば、以上の実施例では900Wは0.024W/cm3に相当する。
【符号の説明】
【0084】
101 チャンバ
102 ウエハ
103 試料台
104 マイクロ波透過窓
105 導波管
106 マグネトロン
107 ソレノイドコイル
108 静電吸着電源
109 高周波電源
110 ウエハ搬入口
111 プラズマ
112 パルスジェネレータ
113 制御部
201 光ファイバー
202 受光部
203 CD演算部
204 第二のデータベース
205 レシピ演算部
206 第一のデータベース
207 エッチング制御用PC
301 マスク
302 ポリシリコン膜
303 酸化膜
304 シリコン基板
401 アース面
402 角部分
500 モードジャンプ現象(CW時)
501 ダミーウエハ処理
502 ロット処理
503 クリーニング
504 マイクロ波電力自動スキャン測定
505 モードジャンプ電力識別
506 自動レシピ生成

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続放電によるプラズマの生成が困難になる領域にて、プラズマの生成を容易にするとともに前記容易に発生させられたプラズマにより被処理物をプラズマ処理するプラズマ処理方法において、
オンとオフを繰り返すパルス放電により前記プラズマを容易に生成し、
前記パルス放電を生成する高周波電力のオン期間の電力は、前記連続放電によるプラズマの生成が容易になる電力とし、
前記パルス放電のデューティー比は、前記高周波電力の一周期あたりの平均電力が前記連続放電によるプラズマの生成が困難になる領域の電力となるように制御されることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項2】
請求項1記載のプラズマ処理方法において、
前記パルス放電のオフ期間を10ms以下にすることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項3】
請求項2記載のプラズマ処理方法において、
前記高周波電力の一周期あたりの平均電力を前記被処理物上のプラズマが生成される空間の堆積で除した値が0.011W/cm3以下であることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項4】
請求項1記載のプラズマ処理方法において、
前記被処理物は、ポリシリコン膜とシリコン酸化膜を有し、
臭化水素ガスと酸素ガスを用いて生成したプラズマにより、前記被処理物をエッチングすることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項5】
請求項4記載のドライエッチング方法において、
前記酸素ガスの流量を1ml/min〜10ml/minにすることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項6】
内部にプラズマを生成する処理室と、前記プラズマを生成するプラズマ生成手段と、前記処理室内に設けられウエハを載置する試料台とを備え、前記ウエハを前記プラズマによりエッチングするプラズマ処理装置において、前記プラズマ生成手段は、前記プラズマを生成するための電力を供給する電源を具備し、前記電源の前記電力をオンオフ変調するとともにオン時のピーク電力を連続放電にてプラズマを発生させた場合にプラズマの不安定が生じない値に設定し、前記オンオフ変調のデューティー比を変えることにより前記電力の時間平均値を制御することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項7】
内部を真空にして反応性ガスを導入できるチャンバと前記チャンバの中に放電プラズマを生成するためのプラズマ生成用電源と前記チャンバ内にウエハを設置する試料台とを備えるプラズマ処理装置において、
前記プラズマ生成用電源の出力電力をパルス変調して、かつ、オン時のピーク電力を連続放電にてモードジャンプ領域より十分に高い電力値に設定して、パルス変調のデューティー比を変えることにより電力の時間平均値を制御する手段を備えていることを特徴とするプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−89933(P2013−89933A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232446(P2011−232446)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】