説明

プラント制御装置及び厚板圧延システム

【課題】対象プラントの生産性を低下させることなく、モータの過熱保護による操業停止を確実に防止できるプラント制御装置を提供する。
【解決手段】モータ2を駆動するドライブ装置3と、モータ2の速度基準を生成し、その生成した速度基準をドライブ装置3に送信するコントローラ4とを有するプラント制御装置1において、RMS値計算手段6及び加減速レート調整手段9を備える。RMS値計算手段6は、モータ2のトルク電流の実効値を計算する。加減速レート調整手段9は、RMS値計算手段6によって計算された実効値が所定の規定値を超えている場合に、上記速度基準の加減速レートを調整し、モータ2の過熱保護による操業停止を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄鋼プラント等の産業分野で用いられるプラント制御装置、及び厚板を圧延する厚板圧延システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータは、過熱状態になると絶縁が劣化し、その寿命が短くなる。このため、鉄鋼プラント等では、モータの温度を監視しており、モータが過熱状態になった場合は、所定の停止指令を出力してモータを停止させている。しかし、モータを停止させた場合はプラント自体の操業も停止してしまうため、大きな損失となってしまう。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、このような理由によって操業停止に至る頻度を低減させるための技術が開示されている。具体的に、特許文献1に記載のものでは、インバータのトルク電流を検出してモータの負荷率を求め、その負荷率が所定の規定値より大きい場合に、負荷率が上記規定値以内となるように速度の調整を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−286716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のものでは、モータの負荷率が所定の規定値よりも大きい場合には、モータの速度を低減させて、モータの過熱保護による操業停止を防止している。このため、速度低下による遅延が生じ、対象プラントの生産性が損なわれるといった問題があった。例えば、このモータが鉄鋼プラント等の材料搬送用の搬送テーブルを駆動するために用いられている場合、材料の搬送速度の低下によってプラントの生産性が著しく低下してしまう。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、対象プラントの生産性を低下させることなく、モータの過熱保護による操業停止を確実に防止できるプラント制御装置と厚板圧延システムとを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係るプラント制御装置は、モータを駆動するドライブ装置と、モータの速度基準を生成し、その生成した速度基準をドライブ装置に送信するコントローラと、を備えたプラント制御装置であって、モータのトルク電流の実効値を計算する実効値計算手段と、実効値計算手段によって計算された実効値が所定の規定値を超えているか否かを判定する比較手段と、実効値計算手段によって計算された実効値が規定値を超えていると比較手段によって判定された場合に、速度基準の加減速レートを調整し、モータの過熱保護による操業停止を防止する加減速レート調整手段と、を備えたものである。
【0008】
この発明に係る厚板圧延システムは、厚板工場に備えられた、材料を圧延するための圧延機と、材料を搬送する搬送テーブルと、搬送テーブルのローラを駆動するためのモータと、モータを駆動するドライブ装置、及び、モータの速度基準を生成し、その生成した速度基準をドライブ装置に送信するコントローラを有するプラント制御装置と、を備え、プラント制御装置は、モータのトルク電流の実効値を計算する実効値計算手段と、実効値計算手段によって計算された実効値が所定の規定値を超えているか否かを判定する比較手段と、実効値計算手段によって計算された実効値が規定値を超えていると比較手段によって判定された場合に、速度基準の加減速レートを調整し、モータの過熱保護による操業停止を防止する加減速レート調整手段と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係るプラント制御装置によれば、対象プラントの生産性を低下させることなく、モータの過熱保護による操業停止を確実に防止できるようになる。
また、上記効果を厚板圧延システムにおいて実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1におけるプラント制御装置を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1におけるプラント制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】この発明の実施の形態1におけるプラント制御装置の機能を説明するための図である。
【図4】従来のプラント制御装置の機能を説明するための図である。
【図5】図1に示すプラント制御装置を厚板圧延設備に適用した時の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明をより詳細に説明するため、添付の図面に従ってこれを説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0012】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1におけるプラント制御装置を示す構成図である。
図1に示すプラント制御装置1は、鉄鋼プラント等の産業分野で用いられるものである。プラント制御装置1は、プラントにおいて使用されるモータ2、例えば、搬送テーブルを駆動するためのモータや、圧延ロールを駆動するためのモータを制御する。
【0013】
プラント制御装置1には、ドライブ装置3とコントローラ4とが備えられている。
ドライブ装置3は、モータ2を駆動する機能を有している。例えば、ドライブ装置3は、モータ2の速度が速度基準に一致(追従)するように、モータ2を制御する。コントローラ4は、ドライブ装置3がモータ2の制御を行うために必要な情報をドライブ装置3に対して与える。例えば、コントローラ4は、モータ2の速度基準を生成し、その生成した速度基準をドライブ装置3に対して送信する。
【0014】
また、本願特有の機能を備えるため、ドライブ装置3には、トルク電流検出手段5及びRMS値計算手段6が、コントローラ4には、比較手段7、速度基準生成手段8及び加減速レート調整手段9が備えられている。
【0015】
以下に、図2乃至図4も参照し、本プラント制御装置1に特有の機能及び動作について、具体的に説明する。なお、図2はこの発明の実施の形態1におけるプラント制御装置の動作を示すフローチャート、図3はこの発明の実施の形態1におけるプラント制御装置の機能を説明するための図、図4は従来のプラント制御装置の機能を説明するための図である。
【0016】
トルク電流検出手段5は、モータ2のトルク電流を検出するためのものである。ドライブ装置3では、トルク電流検出手段5によってモータ2のトルク電流を常時検出している(S101)。RMS値計算手段6は、モータ2のトルク電流のRMS値(実効値)を計算する機能を有しており、トルク電流検出手段5によってトルク電流が検出されると、その検出値に基づいてRMS値を演算する(S102)。そして、RMS値計算手段6は、算出したRMS値をコントローラ4に対して出力する。
【0017】
コントローラ4では、ドライブ装置3(RMS値計算手段6)からRMS値を受信すると、比較手段7によって、RMS値計算手段6によって計算されたRMS値と所定の規定値との比較を行う(S103)。なお、上記規定値は、コントローラ4内の記憶領域に予め記憶されている。RMS値計算手段6によって計算されたRMS値が上記規定値以内であると比較手段7によって判定された場合(S103のYes)、モータ2の過熱保護による操業停止は起きないものと判断され、速度基準生成手段8によって、通常時の加減速レート及び速度レートを用いた速度基準が生成される(S104)。
【0018】
一方、RMS値計算手段6によって計算されたRMS値が上記規定値を超えると比較手段7によって判定されると(S103のNo)、モータ2の過熱保護による操業停止が起こり得ると判断され、操業停止を防止するための処理が行われる。具体的には、加減速レート調整手段9により、RMS値が、上記規定値に収まるように加減速レートが調整される(S105)。この時、加減速レート調整手段9は、モータ2が一定速度で運転する時の速度基準を変更することなく、モータ2が加速及び減速する時の速度基準のみを変更して、上記レート調整を行う。
【0019】
そして、S105において加減速レートの調整が行われると、速度基準生成手段8は、調整された加減速レートに基づいて一連の速度基準を生成し、ドライブ装置3に送信する(S104)。
【0020】
なお、上記機能を有するRMS値計算手段6は、コントローラ4に備えられていても構わない。かかる場合、トルク電流検出手段5によって検出されたトルク電流の情報が、ドライブ装置3からコントローラ4に送信される。
また、上記7及び9に示す各手段は、ドライブ装置3側に備えられていても構わない。かかる場合、加減速レート調整手段9によって調整された加減速レートの情報が、ドライブ装置3からコントローラ4に送信される。
【0021】
図3は本プラント制御装置1によって加減速レートの調整が行われる前後のトルク電流Iとモータ速度Nとの波形例を、図4は従来の、即ち、一定速度で運転する時の速度基準の調整のみを行った場合のトルク電流Iとモータ速度Nとの波形例を示している。
【0022】
図3に示すように、加減速レート調整手段9によって、加減速レートRが、通常時の加減速レートRから負荷制限時(図2のS103においてNoと判定された場合の)加減速レートRに調整されると、例えば、調整後の加速時間は、調整前の加速時間と比較して、(N/R−N/R)だけ長くなる。なお、Nはモータ2が一定速度で運転する時のモータ速度である。
【0023】
RMS値計算手段6が算出するRMS値Irmsは、Irms=√(∫Idt/t)で表すことができる。このため、時間t=0〜N/Rにおける通常時のRMS値Irms1は、次式により算出される。
rms1=√{(I×N/R)/(N/R)} …(1)
式(1)より、次式が得られる。
rms1=√(I×R/R) …(2)
【0024】
トルクT及び加速時間tは、t=GD×N/375Tの関係にある。加減速レートR=N/tであることから、トルクTは次式を満足する
T=GD×N/375t=GD×R/375 …(3)
【0025】
式(3)より、トルクTと加減速レートRとは、比例関係にあることが分かる。
また、トルクTとトルク電流Iとが比例関係であることから、トルク電流Iと加減速レートRも比例関係にあり、次式が成立する。
/R=I/I …(4)
【0026】
式(4)を式(2)に代入すると、通常時のRMS値Irms1は以下のようになる。
rms1=√(I) …(5)
同様に、負荷制限時のRMS値Irms2を求めると、次式が得られる。
rms2=I …(6)
【0027】
式(5)及び式(6)より、負荷制限時は、通常時と比較してRMS値が{√(I)−I}だけ減少し、負荷率Lが低下することが分かる。なお、負荷率Lは、定格トルク電流をI100%とすると、L=Irms/I100%で表される。
【0028】
上記構成を有するプラント制御装置1であれば、図4に示す従来のものとは異なり、モータ2の運転速度を変えず(即ち、対象プラントの生産性を損なうことなく)、モータ2の過熱保護による操業停止を確実に防止することができるようになる。
【0029】
次に、本プラント制御装置1の適用例について説明する。
図5は図1に示すプラント制御装置を厚板圧延設備に適用した時の構成を模式的に示す図である。図5において、10は材料11を圧延するための圧延機、12は材料11を搬送する搬送テーブルである。
【0030】
厚板工場では、例えば、材料11を加熱炉(図示せず)によって1100℃程度に加熱した後、材料11を搬送テーブル12で搬送しながら圧延機10によって圧延する。材料11を、例えば、船舶用或いは橋梁用の製品に仕上げる場合、圧延前の寸法としては、幅2m、長さ4m、厚み30cm程度のものが用いられる。厚板工場では、この材料11を、搬送テーブル12で搬送しながら圧延機10によって圧延し、最終的に、長さ20m程度の製品に仕上げる。
【0031】
搬送テーブル12には、多数のローラ12aが備えられており、各ローラ12aがモータ2によって駆動されている。図5には、複数のローラ12aをギア等を介して1台のモータ2で駆動する場合を一例として示している。
【0032】
プラント制御装置1は、例えば、圧延ラインの所定のエリア毎に対応して設けられている。上記各エリアには、同期させる必要がある複数のローラ12aが設けられている。各プラント制御装置1は、対応のエリアに存在するローラ12aを駆動するためのモータ2の動作を制御する。例えば、各プラント制御装置1には、各モータ2に対応するドライブ装置3と、生成した速度基準をこれらのドライブ装置3に送信するコントローラ4とが備えられている。各プラント制御装置1では、対応のエリアに材料11が到着する前に、制御対象となるモータ2の駆動を開始して、ローラ12aを加速させる。そして、材料11が対応のエリアに到着するまでにローラ12aの速度を所定の一定速度に保持し、材料11が通過(材料11を搬送)した後に、モータ2(ローラ12a)を減速及び停止させる。
【0033】
上記機能を有する各プラント制御装置1では、トルク電流検出手段5が、対応のドライブ装置3が制御するモータ2のトルク電流を検出する。そして、RMS値計算手段6は、トルク電流検出手段5が検出したトルク電流に基づいて、対応のドライブ装置3のRMS値を演算する。
【0034】
厚板工場では、冷間圧延工場等とは異なり、材料11として短いものが使用される。また、厚板工場では、材料11を往復移動(図5のA方向及びB方向に交互に移動)させることにより、同じ圧延機10によって複数回の圧延を行うことが頻繁に行われる。このため、厚板工場では、モータ2の加速、一定速、減速、停止を、運転方向を反転させながら頻繁に繰り返し実施する必要がある。
【0035】
このような圧延制御が行われる場合、次に材料11が同じ位置を通過するまでにはある程度の時間が確保されている。即ち、モータ2の過熱保護による操業停止を防止するために、本プラント制御装置1のように加速開始時点を早め、且つ、加速時間を長くしても、プラントの生産性が低下することはない。また、本プラント制御装置1であれば、モータ2の運転速度が遅くなることはないため、加熱炉で加熱された材料11の温度が低下する前に、必要な圧延処理を迅速に行うことができる。
このため、本プラント制御装置1は、厚板工場で搬送テーブル12を駆動制御するための装置として好適である。
【符号の説明】
【0036】
1 プラント制御装置
2 モータ
3 ドライブ装置
4 コントローラ
5 トルク電流検出手段
6 RMS値計算手段
7 比較手段
8 速度基準生成手段
9 加減速レート調整手段
10 圧延機
11 材料
12 搬送テーブル
12a ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動するドライブ装置と、
前記モータの速度基準を生成し、その生成した速度基準を前記ドライブ装置に送信するコントローラと、
を備えたプラント制御装置であって、
前記モータのトルク電流の実効値を計算する実効値計算手段と、
前記実効値計算手段によって計算された実効値が所定の規定値を超えているか否かを判定する比較手段と、
前記実効値計算手段によって計算された実効値が前記規定値を超えていると前記比較手段によって判定された場合に、前記速度基準の加減速レートを調整し、前記モータの過熱保護による操業停止を防止する加減速レート調整手段と、
を備えたことを特徴とするプラント制御装置。
【請求項2】
前記加減速レート調整手段は、前記モータが一定速度で運転する時の速度基準を変更することなく、加速及び減速する時の速度基準のみを変更して、前記モータの過熱保護による操業停止を防止することを特徴とする請求項1に記載のプラント制御装置。
【請求項3】
前記実効値計算手段、前記比較手段及び前記加減速レート調整手段は、前記ドライブ装置に備えられたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプラント制御装置。
【請求項4】
前記実効値計算手段、前記比較手段及び前記加減速レート調整手段は、前記コントローラに備えられたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプラント制御装置。
【請求項5】
厚板工場に備えられた、材料を圧延するための圧延機と、
前記材料を搬送する搬送テーブルと、
前記搬送テーブルのローラを駆動するためのモータと、
前記モータを駆動するドライブ装置、及び、前記モータの速度基準を生成し、その生成した速度基準を前記ドライブ装置に送信するコントローラを有するプラント制御装置と、
を備え、
前記プラント制御装置は、
前記モータのトルク電流の実効値を計算する実効値計算手段と、
前記実効値計算手段によって計算された実効値が所定の規定値を超えているか否かを判定する比較手段と、
前記実効値計算手段によって計算された実効値が前記規定値を超えていると前記比較手段によって判定された場合に、前記速度基準の加減速レートを調整し、前記モータの過熱保護による操業停止を防止する加減速レート調整手段と、
を備えたことを特徴とする厚板圧延システム。
【請求項6】
前記加減速レート調整手段は、前記モータが一定速度で運転する時の速度基準を変更することなく、加速及び減速する時の速度基準のみを変更して、前記モータの過熱保護による操業停止を防止することを特徴とする請求項5に記載の厚板圧延システム。
【請求項7】
前記実効値計算手段、前記比較手段及び前記加減速レート調整手段は、前記ドライブ装置に備えられたことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の厚板圧延システム。
【請求項8】
前記実効値計算手段、前記比較手段及び前記加減速レート調整手段は、前記コントローラに備えられたことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の厚板圧延システム。
【請求項9】
前記プラント制御装置は、圧延ラインの所定のエリア毎に対応して設けられ、
各プラント制御装置のドライブ装置は、対応のエリアに存在するローラを駆動するためのモータを制御し、
各プラント制御装置のコントローラは、対応のエリアに存在する単数又は複数のドライブ装置の速度基準を生成し、
各プラント制御装置に備えられた実効値計算手段は、対応のドライブ装置が制御するモータのトルク電流の実効値を演算する
ことを特徴とする請求項5乃至請求項8の何れかに記載の厚板圧延システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−182901(P2012−182901A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44020(P2011−44020)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】