説明

プリプレグおよびプリント配線板

【課題】携帯電話、パソコン、デジタル家電など種々の電子機器に組み込まれるプリント配線板において、その信頼性および耐久性を高める。
【解決手段】ガラスクロス5と、溶媒可溶性の液晶ポリエステル7と、高誘電の無機充填剤6とからプリプレグ2を構成する。このプリプレグ2を絶縁層として用い、この絶縁層の少なくとも片面に導体層を形成してプリント配線板1を製造する。これにより、ガラスクロス5と液晶ポリエステル7との間に十分な親和性を有するため、両者の界面でボイドが発生する事態を抑制できる。銅箔3と液晶ポリエステル7との間に十分な密着性を有するため、剥離強度を向上させられる。液晶ポリエステル7の流動開始温度が250℃以上であるため、優れたはんだ耐熱性を発現できる。液晶ポリエステル溶液9の形でガラスクロス5に含浸させることにより、液晶ポリエステル7に対する無機充填剤6の均一分散性を高められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話、パソコン、デジタル家電など種々の電子機器に組み込まれるプリント配線板(プリント基板、プリント回路基板)に絶縁層として用いられるプリプレグと、このプリプレグを具備するプリント配線板に関するものである。
【0002】
なお、「プリプレグ」とは、一般的には、ガラスクロス(ガラス布)、不織布、紙などの基材に含浸させる樹脂材料として、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂が用いられるものを意味するが、本発明では、この樹脂材料として液晶ポリエステルが用いられるものをも含めて「プリプレグ」と称する。
【背景技術】
【0003】
この種のプリント配線板においては、とりわけ高周波用途での電気特性を改善するため、絶縁層に低誘電正接および高誘電率(誘電正接が低く、かつ誘電率が高いこと)が要求されている。この要求に応えるべく、従来は、フッ素樹脂および無機充填剤(無機フィラー)をガラスクロスに含浸させたプリプレグを絶縁層として用い、この絶縁層に銅箔などの導体層を形成してプリント配線板を構成していた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−5140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来のプリント配線板では、次の理由により、プリント配線板としての信頼性(品質)や耐久性が低下する恐れがあった。
【0006】
第1に、フッ素樹脂は、無機充填剤のみならずガラスクロスとの親和性が低いため、ガラスクロスとの界面でボイド(空隙)が発生しやすく、また、導体層との密着性が低いため、剥離強度が不足し、さらに、結晶性のポリマーであってガラス転移温度が低いため、耐熱性が必ずしも十分でない。これらの結果、たとえ界面活性剤の使用などの改善策を講じたとしても、ボイドや密着性不良に起因して、はんだ耐熱性が不十分となる場合がある。
【0007】
第2に、フッ素樹脂は、耐溶媒性が高くて汎用の溶媒に溶解しないため、ガラスクロスに含浸させるときに粉末状で液体に分散させる必要がある。したがって、サブミクロンのフッ素樹脂粉末と無機充填剤とを用いた分散液をガラスクロスに含浸させる方法でプリプレグを形成しない限り、プリプレグになったときに、絶縁層中における無機充填剤の均一分散性に劣る。
【0008】
そこで、本発明は、このような事情に鑑み、はんだ耐熱性を改善するとともに、絶縁層中における無機充填剤の均一分散性を高めることにより、プリント配線板の信頼性および耐久性を高めることが可能なプリプレグを提供することを第1の目的とし、また、このプリプレグを用いた信頼性および耐久性の高いプリント配線板を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、本発明者は、ガラスクロスに含浸させる材料として、溶媒可溶性の液晶ポリエステルを採用することに着目した。
【0010】
すなわち、請求項1に記載の発明は、ガラスクロスと、溶媒可溶性の液晶ポリエステルと、高誘電の無機充填剤とから構成されているプリプレグとしたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記ガラスクロスが、Hガラスのガラスクロスであることを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の構成に加え、前記無機充填剤が、誘電率100以上の材料からなることを特徴とする。
【0013】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の構成に加え、前記無機充填剤が、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムまたは酸化チタンであることを特徴とする。
【0014】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の構成に加え、前記液晶ポリエステルは、流動開始温度が250℃以上であることを特徴とする。
【0015】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の構成に加え、前記液晶ポリエステルは、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位を有し、全構造単位の合計に対して、式(1)で示される構造単位が30.0〜45.0モル%、式(2)で示される構造単位が27.5〜35.0モル%、式(3)で示される構造単位が27.5〜35.0モル%の液晶ポリエステルであることを特徴とする。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−X−Ar3 −Y−
(式中、Ar1 は、フェニレンまたはナフチレンを表し、Ar2 は、フェニレン、ナフチレンまたは下記式(4)で表される基を表し、Ar3 はフェニレンまたは下記式(4)で表される基を表し、XおよびYは、それぞれ独立に、OまたはNHを表す。なお、Ar1 、Ar2 およびAr3 の芳香環に結合している水素原子は、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar11−Z−Ar12
(式中、Ar11、Ar12は、それぞれ独立に、フェニレンまたはナフチレンを表し、Zは、O、COまたはSO2 を表す。)
【0016】
また、請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の構成に加え、前記式(3)で示される構造単位のXおよびYの少なくとも一方がNHであることを特徴とする。
【0017】
また、請求項8に記載の発明は、請求項1乃至7のいずれかに記載の構成に加え、前記液晶ポリエステルは、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位および2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する構造単位の合計が30.0〜45.0モル%、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる化合物に由来する構造単位の合計が27.5〜35.0モル%、4−アミノフェノールに由来する構造単位が27.5〜35.0モル%の液晶ポリエステルであることを特徴とする。
【0018】
また、請求項9に記載の発明は、請求項1乃至8のいずれかに記載のプリプレグが絶縁層として用いられ、この絶縁層の少なくとも片面に導体層が形成されているプリント配線板としたことを特徴とする。
【0019】
さらに、請求項10に記載の発明は、複数の絶縁層が積層されたプリント配線板であって、前記絶縁層のうち少なくとも1層が、請求項1乃至8のいずれかに記載のプリプレグであるプリント配線板としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ガラスクロスと液晶ポリエステルとの間に十分な親和性を有するため、両者の界面でボイドが発生する事態を抑制できるとともに、導体層と液晶ポリエステルとの間に十分な密着性を有するため、剥離強度を向上させることができ、さらに、流動開始温度が250℃以上の液晶ポリエステルを用いることにより、優れたはんだ耐熱性を発現することができる。しかも、液晶ポリエステル溶液の形でガラスクロスに含浸させることにより、絶縁層中の液晶ポリエステルに対する無機充填剤の均一分散性を高めることができる。これらの結果、プリント配線板の信頼性および耐久性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態1に係るプリント配線板の製造過程を示す工程図であって、(a)は基材準備工程を示す図、(b)は溶液含浸工程を示す図、(c)は熱処理工程を示す図、(d)は導体圧着工程を示す図、(e)はパターニング工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
【0023】
図1には、本発明の実施の形態1を示す。この実施の形態1では、1層の絶縁層の片面に導体層が積層された単層型のプリント配線板1について、その構成および製造方法を順次説明する。なお、図1においては、わかりやすさを重視して図示しているため、各構成要素の寸法(厚さなど)の比率は必ずしも正確ではない。
【0024】
まず、プリント配線板1の構成について説明する。
【0025】
このプリント配線板1は、図1(e)に示すように、絶縁層として所定の厚さ(例えば、20〜250μm、好ましくは、50〜200μm)のシート状のプリプレグ2を有しており、プリプレグ2の表面(図1(e)上面)には、導体層として所定の厚さ(例えば、1〜70μm、好ましくは、9〜18μm)の銅箔3が貼り付けられて回路パターンを形成している。さらに、プリプレグ2は、所定の厚さ(例えば、10〜200μm)を有するHガラス(誘電率11.6)のガラスクロス5を備えており、ガラスクロス5には、高誘電の無機充填剤(無機フィラー)6を均等に含む液晶ポリエステル7が付着している。
【0026】
ここで、液晶ポリエステル7は、流動開始温度が250℃以上であり、かつ、後述するプリント配線板1の製造方法における溶液調製工程で液晶ポリエステル溶液9を調製できる程度の溶媒可溶性を有する。この溶媒可溶性とは、温度50℃において、1質量%以上の濃度で溶媒に溶解することを意味する。この場合の溶媒とは、汎用の溶媒を意味し、ハロゲン原子を含まない非プロトン性溶媒が好ましい。このような非プロトン性溶媒の具体例としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;γ―ブチロラクトン等のラクトン系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;トリエチルアミン、ピリジン等のアミン系溶媒;アセトニトリル、サクシノニトリル等のニトリル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の硫黄系溶媒、ヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸等のリン系溶媒などを挙げることができる。
【0027】
こうした非プロトン性溶媒の中でも、液晶ポリエステル7の溶媒可溶性を一層良好にして、後述するプリント配線板1の製造方法における溶液調製工程において、液晶ポリエステル7を調製しやすくする点では、双極子モーメントが3以上5以下の非プロトン性極性溶媒が一層好ましい。このような非プロトン性極性溶媒の具体例としては、例えば、アミド系溶媒、ラクトン系溶媒が好ましく、N,N'−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N'−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などを挙げることができる。さらに、この溶媒が、1気圧における沸点が220℃以下の揮発性の高い溶媒であると、後述するプリント配線板1の製造方法における熱処理工程において、液晶ポリエステル溶液9の加熱処理によって溶媒を除去しやすいという利点もある。この点からは、DMF、DMAc、NMPまたはこれらから選ばれる2種以上からなる混合溶媒が特に好ましい。
【0028】
このような溶媒可溶性を有する液晶ポリエステル7としては、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位を有し、全構造単位の合計に対して、式(1)で示される構造単位(以下、「式(1)構造単位」という。)が30.0〜45.0モル%、式(2)で示される構造単位(以下、「式(2)構造単位」という。)が27.5〜35.0モル%、式(3)で示される構造単位(以下、「式(3)構造単位」という。)が27.5〜35.0モル%であるものが好ましい。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−X−Ar3 −Y−
(式中、Ar1 は、フェニレンまたはナフチレンを表し、Ar2 は、フェニレン、ナフチレンまたは下記式(4)で表される基を表し、Ar3 はフェニレンまたは下記式(4)で表される基を表し、XおよびYは、それぞれ独立に、OまたはNHを表す。なお、Ar1 、Ar2 およびAr3 の芳香環に結合している水素原子は、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar11−Z−Ar12
(式中、Ar11、Ar12は、それぞれ独立に、フェニレンまたはナフチレンを表し、Zは、O、COまたはSO2 を表す。)
【0029】
なお、Ar1 、Ar2 、Ar3 、Ar11およびAr12において、フェニレンはすべての異性体(o−フェニレン、m−フェニレン、p−フェニレン)を含むが、入手容易性の観点からは、p−フェニレンが最も好適である。Ar1 、Ar2 、Ar3 、Ar11およびAr12において、ナフチレンはすべての異性体を含む。
【0030】
ここで、式(1)構造単位は、芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の構造単位であり、この芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸、1−ヒドロキシ−4−ナフトエ酸などを挙げることができる。この式(1)構造単位は、全構造単位の合計に対して、30.0〜45.0モル%の範囲で含むと好ましい。このようなモル分率で式(1)構造単位を含む液晶ポリエステル7は、液晶性を十分維持しながらも、溶媒に対する溶解性が優れる傾向にある。さらに、式(1)構造単位を誘導する芳香族ヒドロキシカルボン酸の入手容易性も合わせて考慮すると、この芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、p−ヒドロキシ安息香酸および/または2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸が好適である。
【0031】
また、式(2)構造単位は、芳香族ジカルボン酸由来の構造単位であり、この芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエ−テル−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルケトン−4,4'−ジカルボン酸などを挙げることができる。この式(2)構造単位は、全構造単位の合計に対して、27.5〜35.0モル%の範囲で含むと好ましい。このようなモル分率で式(2)構造単位を含む液晶ポリエステル7は、液晶性を十分維持しながらも、溶媒に対する溶解性が優れる傾向にある。さらに、式(2)構造単位を誘導する芳香族ジカルボン酸の入手容易性も合わせて考慮すると、この芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる芳香族ジカルボン酸であると好ましい。
【0032】
さらに、式(3)構造単位は、芳香族ジオール、フェノール性ヒドロキシル基(フェノール性水酸基)を有する芳香族アミンまたは芳香族ジアミンに由来する構造単位である。この芳香族ジオールとしては、例えば、ハイドロキノン、4,4'−ジヒドロキシビフェニル、レゾルシン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)スルホンなどを挙げることができる。また、このフェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アミンとしては、4−アミノフェノール(p−アミノフェノール)、3−アミノフェノールなどを挙げることができ、この芳香族ジアミンとしては、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミンなどを挙げることができる。
【0033】
なお、液晶エステルの液晶性を一層高めるためには、式(2)構造単位と式(3)構造単位とのモル比は、[式(2)構造単位]/[式(3)構造単位]で表して、0.9/1.0〜1.0/0.9の範囲が好適である。
【0034】
ここで、式(3)構造単位としては、フェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アミンおよび/または芳香族ジアミンに由来する構造単位を含むものが好ましい。すなわち、式(3)で表される構造単位として、XおよびYの少なくとも一方がNHである構造単位を含むと好ましく、実質的に全ての式(3)構造単位が、以下の式(3’)で表される構造単位(以下、「式(3’)構造単位」という)であることが一層好ましい。
(3’)−X−Ar3 −NH−
(式中、Ar3 およびXは、式(3)と同義である。)
【0035】
式(3’)構造単位は、全構造単位の合計に対して、27.5〜35.0モル%の範囲で含むと、溶媒可溶性が一層良好になる点で好ましい。このように、式(3’)構造単位を式(3)構造単位として有する液晶ポリエステル7は、溶媒に対する溶解性が優れており、液晶ポリエステル溶液を用いたプリプレグ2の製造が一層容易になる。
【0036】
一方、無機充填剤6は、誘電率が10以上の材料からなるものであれば、絶縁層の誘電率を高めることができるが、誘電率が100以上の材料からなるものであれば、絶縁層の誘電率を大幅に高めることができる点で好ましい。具体的には、入手容易性の観点から、チタン酸ストロンチウム(誘電率330)、チタン酸バリウム(誘電率2400)、酸化チタン(誘電率120)が好ましい。
【0037】
ここで、液晶ポリエステル7と無機充填剤6との配合比率は、体積比で30:70〜70:30の範囲内であることが好ましい。また、これら液晶ポリエステル7および無機充填剤6の合計とガラスクロス5との配合比率は、質量比で40:60〜60:40の範囲内であることが好ましい。
【0038】
次に、このプリント配線板1の製造方法について説明する。
【0039】
まず、溶液調製工程で、液晶ポリエステル7からなる溶質を溶媒に溶解させて液晶ポリエステル溶液(液状組成物)を調製する。
【0040】
この溶媒としては、上述したとおり、ハロゲン原子を含まない非プロトン性溶媒を用いるのが好ましく、双極子モーメントが3以上5以下の非プロトン性極性溶媒を用いるのが一層好ましい。ハロゲン原子を含まない非プロトン性溶媒を用いる場合、この非プロトン性溶媒100質量部に対して、液晶ポリエステル7を1〜50質量部、好ましくは2〜40質量部溶解させるのが好ましい。液晶ポリエステル7の含有量がこのような範囲であると、後述する熱処理工程において、液晶ポリエステル溶液に含有される溶媒を蒸発させる際に、プリプレグ2に厚みムラが生じる等の不都合が起こり難い傾向がある点で好ましい。
【0041】
また、液晶ポリエステル溶液には、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルエーテルおよびその変性物、ポリエーテルイミド等の熱可塑性樹脂;グリシジルメタクリレートとポリエチレンの共重合体に代表されるエラストマー;フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂等、液晶ポリエステル7以外の樹脂を1種または2種以上を添加してもよい。但し、このような他の樹脂を用いる場合においても、これら他の樹脂も、液晶ポリエステル溶液に使用した溶媒に可溶であることが好ましい。
【0042】
さらに、この液晶ポリエステル溶液には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、寸法安定性、熱電導性の改善等を目的として、硬化エポキシ樹脂、架橋ベンゾグアナミン樹脂、架橋アクリルポリマー等の有機フィラー;シランカップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤が、1種または2種以上添加されていてもよいが、このような添加剤は、得られるプリプレグ2の厚みムラがほとんど生じないように、その種類および使用量を適宜選択する必要がある。
【0043】
また、この液晶ポリエステル溶液は、必要に応じて、フィルター等を用いたろ過処理により、この液晶ポリエステル溶液中に含まれる微細な異物を除去しても構わない。
【0044】
さらに、この液晶ポリエステル溶液は、必要に応じて、脱泡処理を行ってもよい。
【0045】
このようにして液晶ポリエステル溶液が調製されたところで、基材準備工程に移行し、図1(a)に示すように、ガラスクロス5を準備する。このガラスクロス5としては、絶縁層の誘電率を高める観点から、Hガラス(誘電率11.6)のガラスクロス5が好ましい。
【0046】
次に、溶液含浸工程に移行し、液晶ポリエステル7を溶媒に溶解した液晶ポリエステル溶液9を調製した後、先ほど準備したガラスクロス5をこの液晶ポリエステル溶液9に浸漬してから引き上げる。すると、図1(b)に示すように、ガラスクロス5に液晶ポリエステル溶液9が含浸された状態となる。
【0047】
その後、熱処理工程に移行し、図1(c)に示すように、液晶ポリエステル溶液9に高誘電の無機充填剤6を添加し、この液晶ポリエステル溶液9をガラスクロス5とともに加熱処理する。すると、この加熱処理により、液晶ポリエステル溶液9中の溶媒が蒸発するため、高誘電の無機充填剤6を均等に含む液晶ポリエステル7が硬化してガラスクロス5に付着する形でプリプレグ2が形成される。
【0048】
次いで、導体圧着工程に移行し、図1(d)に示すように、プリプレグ2の表面(図1(d)上面)に銅箔3を貼り付け、高温真空の環境下でプレスすることにより、プリプレグ2上に銅箔3を熱圧着する。
【0049】
最後に、パターニング工程に移行し、図1(e)に示すように、銅箔3から不要部分を除去することにより、プリプレグ2上に所定の回路パターンを形成する。
【0050】
ここで、プリント配線板1の製造過程が終了し、プリプレグ2の片面に回路パターンが形成されたプリント配線板1が完成する。
【0051】
このようにして製造されたプリント配線板1においては、低誘電正接かつ高誘電率を実現することができる。すなわち、このプリント配線板1では、誘電正接が低い液晶ポリエステル7が絶縁層に用いられているため、プリント配線板1全体の誘電正接を小さくすることができると同時に、高誘電の無機充填剤6が液晶ポリエステル7に含まれていることに加えて、誘電率の高いHガラスのガラスクロス5が用いられていることから、プリント配線板1全体の誘電率を大きくすることができる。
【0052】
しかも、このプリント配線板1は、ガラスクロス5と液晶ポリエステル7との間に十分な親和性を有するため、両者(ガラスクロス5および液晶ポリエステル7)の界面でボイドが発生する事態を抑制することができる。また、銅箔3と液晶ポリエステル7との間に十分な密着性を有するため、剥離強度を向上させることができる。さらに、プリプレグ2は、上述したとおり、液晶ポリエステル7の流動開始温度が250℃以上であるため、優れたはんだ耐熱性を発現することができる。
【0053】
また、プリプレグ2を形成する際に、溶媒可溶性を有する液晶ポリエステル7を用いて液晶ポリエステル溶液9を調製し、液晶ポリエステル溶液9の形でガラスクロス5に含浸させるようにしたので、プリプレグ2中の液晶ポリエステル7に対する無機充填剤6の均一分散性を高めることができる。
【0054】
これらの結果、プリント配線板1の信頼性および耐久性を高めることが可能となる。
[発明のその他の実施の形態]
【0055】
なお、上述した実施の形態1では、絶縁層(プリプレグ2)の片面に導体層(銅箔3)が積層されたプリント配線板1について説明したが、絶縁層の両面に導体層が積層されたプリント配線板(図示せず)に本発明を同様に適用することもできる。つまり、絶縁層の少なくとも片面に導体層が積層されたプリント配線板であれば、本発明を広く適用することが可能である。
【0056】
また、上述した実施の形態1では、1層の絶縁層(プリプレグ2)を有する単層型のプリント配線板1について説明したが、2層以上の絶縁層を有する多層型のプリント配線板(図示せず)に本発明を同様に適用することもできる。
【0057】
さらに、上述した実施の形態1では、導体層として銅箔3を備えたプリント配線板1について説明したが、導体層としては、銅箔3以外の金属箔(例えば、金箔、アルミニウム箔、ステンレス箔など)やカーボングラファイトシートその他を代用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、通信用、電源用、車載用など各種の用途に用いられるプリント配線板(多層型であると単層型であるとを問わない。)に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1……プリント配線板
2……プリプレグ
3……銅箔
5……ガラスクロス
6……無機充填剤
7……液晶ポリエステル
9……液晶ポリエステル溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスクロスと、溶媒可溶性の液晶ポリエステルと、高誘電の無機充填剤とから構成されていることを特徴とするプリプレグ。
【請求項2】
前記ガラスクロスが、Hガラスのガラスクロスであることを特徴とする請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
前記無機充填剤が、誘電率100以上の材料からなることを特徴とする請求項1または2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
前記無機充填剤が、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムまたは酸化チタンであることを特徴とする請求項3に記載のプリプレグ。
【請求項5】
前記液晶ポリエステルは、流動開始温度が250℃以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項6】
前記液晶ポリエステルは、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位を有し、全構造単位の合計に対して、式(1)で示される構造単位が30.0〜45.0モル%、式(2)で示される構造単位が27.5〜35.0モル%、式(3)で示される構造単位が27.5〜35.0モル%の液晶ポリエステルであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のプリプレグ。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−X−Ar3 −Y−
(式中、Ar1 は、フェニレンまたはナフチレンを表し、Ar2 は、フェニレン、ナフチレンまたは下記式(4)で表される基を表し、Ar3 はフェニレンまたは下記式(4)で表される基を表し、XおよびYは、それぞれ独立に、OまたはNHを表す。なお、Ar1 、Ar2 およびAr3 の芳香環に結合している水素原子は、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar11−Z−Ar12
(式中、Ar11、Ar12は、それぞれ独立に、フェニレンまたはナフチレンを表し、Zは、O、COまたはSO2 を表す。)
【請求項7】
前記式(3)で示される構造単位のXおよびYの少なくとも一方がNHであることを特徴とする請求項6に記載のプリプレグ。
【請求項8】
前記液晶ポリエステルは、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位および2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する構造単位の合計が30.0〜45.0モル%、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる化合物に由来する構造単位の合計が27.5〜35.0モル%、4−アミノフェノールに由来する構造単位が27.5〜35.0モル%の液晶ポリエステルであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載のプリプレグが絶縁層として用いられ、この絶縁層の少なくとも片面に導体層が形成されていることを特徴とするプリント配線板。
【請求項10】
複数の絶縁層が積層されたプリント配線板であって、
前記絶縁層のうち少なくとも1層が、請求項1乃至8のいずれかに記載のプリプレグであることを特徴とするプリント配線板。

【図1】
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【公開番号】特開2010−254875(P2010−254875A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108728(P2009−108728)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】