説明

プログラム、測位回路及び電子機器

【課題】マルチパス環境における測位誤差を考慮に入れた、より高精度な測位を実現する
こと。
【解決手段】捕捉したGPS信号に基づいて4つの補正衛星の組合せである衛星組合せが
抽出され、各衛星組合せそれぞれについて、当該衛星組合せを用いた場合の現在位置が計
測される。そして、抽出された衛星組合せのうち、前回最適組合せと判定された衛星組合
せが選定組合せとして選定され、当該選定組合せについての計測結果がマップマッチング
処理部に出力される。そして、抽出された衛星組合せそれぞれの計測結果と、マップマッ
チング処理部から入力されたマップマッチング結果である位置情報とに基づいて、マップ
マッチング結果に最近接する計測結果となった衛星組合せを今回の最適組合せとして判定
する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プログラム、測位回路及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星を利用した測位システムとしては、GPSシステムが有名であり、カーナビゲ
ーションシステム等に利用されている。しかし、GPSシステムによる測位では、多くの
誤差要因が潜在しており、測位誤差の発生を回避することは困難であるため、この測位誤
差を補償するための様々な技術が考案されている。
【0003】
その一例として、カーナビゲーションシステムにおいて、GPS受信機による測位(他
律測位)の誤差を、車の移動距離等に基づく自律測位で補正する技術が特許文献1に開示
されている。
【0004】
また、特許文献2には、前回の決定位置と今回の予測測位位置との変位が所定範囲を超
える場合には、前回の決定位置に所定の予測変位を加えた位置を今回の決定位置とする技
術が開示されている。
【特許文献1】特開平5−18768号公報
【特許文献2】特開平8−313278号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1や特許文献2に開示されている技術は、例えばGPS受信機がビル
の谷間に位置し、GPS衛星からのGPS信号が直接GPS受信機に到達せずにビルに反
射してから到達するような、いわゆるマルチパス環境を考慮した測位に関するものではな
かった。
【0006】
即ち、特許文献1や特許文献2の技術は、測位した結果の位置を信頼してそのまま用い
るか否かの技術であって、GPS受信機が行った測位結果の利用法に関する技術であるた
め、マルチパス環境における誤差を考慮したGPS受信機の測位に関する技術ではなかっ
た。
【0007】
具体的に図面を参照して説明する。地平線方向に視界を遮る物の無い視界の開けた場所
にGPS受信機が位置する場合に比べて、例えば図12に示すような、都心等のビルに囲
まれた場所に位置する場合には、GPS衛星を直接観測できる範囲(以下「直接観測可能
範囲」と称す。)が狭い。図12においては、ビル等の遮蔽物が無ければGPS衛星S1
〜S5全てを直接観測できるが、ビル等の遮蔽物によってGPS衛星S2〜S4しか直接
観測できない状況である。
【0008】
しかしながら、GPS受信機では、このような状況を把握できない。即ち、GPS受信
機では、受信した複数のGPS信号のうち、どのGPS信号がビル等に反射せずに直接受
信できたGPS信号なのかを区別できない。更に、GPS受信機の移動に伴い直接観測可
能範囲が可変し、前回の測位時に直接観測できた衛星数と、今回の測位時に直接観測でき
た衛星数とに大きな差が生じる場合も起こり得る。
【0009】
このような事情のもと、マルチパス環境における測位誤差を改善するための従来の技術
は、GPS受信機が行う測位自体の改善ではなく、特許文献1や特許文献2に開示されて
いるような、GPS受信機が行った測位結果をどのように利用・加工して測位誤差の影響
を低減させるのかが主であった。
【0010】
本発明は上述した課題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、マルチ
パス環境における測位誤差を考慮に入れた、より高精度な測位を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の課題を解決するための第1の発明は、プログラム実行可能なプロセッサに、受信
した複数の衛星信号に基づく現在位置の計測を繰り返し実行させるためのプログラムであ
って、受信した衛星信号から、現在位置の計測に使用可能な衛星信号の組合せを抽出する
抽出ステップと、前記抽出した衛星信号の組合せそれぞれについて、当該組合せを用いた
場合の現在位置を計測する計測ステップと、前記抽出した衛星信号の組合せのうち、前回
最適組合せと判定した組合せを選定組合せとして選定する選定ステップと、前記選定した
選定組合せについての前記計測ステップでの計測結果を、前記プロセッサとの間でデータ
授受が可能なマップマッチング処理部に出力する出力ステップと、前記抽出した衛星信号
の組合せそれぞれの前記計測ステップでの計測結果と、前記出力に対する前記マップマッ
チング処理部からの処理結果である位置情報とに基づいて、前記抽出した衛星信号の組合
せの中から今回の最適組合せを判定する判定ステップと、を含む一連の処理を前記プロセ
ッサに繰り返し実行させるためのプログラムである。
【0012】
また、第11の発明として、受信した複数の衛星信号に基づく現在位置の計測を繰り返
し実行する測位回路であって、受信した衛星信号から、現在位置の計測に使用可能な衛星
信号の組合せを抽出する抽出手段と、前記抽出された衛星信号の組合せそれぞれについて
、当該組合せを用いた場合の現在位置を計測する計測手段と、前記抽出された衛星信号の
組合せのうち、前回最適組合せと判定した組合せを選定組合せとして選定する選定手段と
、前記選定された選定組合せについての前記計測手段による計測結果を、データ授受が可
能なマップマッチング処理部に出力する出力手段と、前記抽出された衛星信号の組合せそ
れぞれの前記計測ステップでの計測結果と、前記出力に対する前記マップマッチング処理
部からの処理結果である位置情報とに基づいて、前記抽出された衛星信号の組合せの中か
ら今回の最適組合せを判定する判定手段と、を備えた測位回路を構成しても良い。
【0013】
この第1の発明等によれば、現在位置の計測に使用可能な衛星信号の組合せが抽出され
、抽出された衛星信号の組合せそれぞれについて、当該組合せを用いた場合の現在位置が
計測される。そして、抽出された衛星信号の組合せのうち、前回最適組合せと判定された
組合せが選定組合せとして選定され、当該選定組合せについての計測結果が、データ授受
が可能なマップマッチング処理部に出力される。そして、抽出された衛星信号の組合せそ
れぞれの計測結果と、マップマッチング処理部から入力された位置情報とに基づいて、抽
出された衛星信号の組合せの中から今回の最適組合せが判定される。
【0014】
この一連の処理が所定の計測間隔(例えば1秒毎)で繰り返し行われる。例えば、マッ
プマッチング結果の位置に最も位置が近い計測結果に対する衛星信号の組合せを最適組合
せと判定することにすれば、この最適組合せは測位誤差が少ない、即ち、抽出された組合
せの中で、マルチパス環境における測位誤差の影響が最も少ない組合せと推察される。帰
納的に考えると、例えば1秒という計測間隔の間に、受信環境、即ちマルチパス環境が急
激に変化し、直接衛星信号を受信可能な衛星の数が大きく異なることは稀と考えられる。
そこで、前回最適組合せと判定した衛星信号の組合せを今回も抽出できているのであれば
、その組合せによる計測が最適であると考えられる。従って、マルチパス環境を考慮に入
れた高精度な測位を実現することができる。
【0015】
また、第2の発明として、プログラム実行可能なプロセッサに、受信した複数の衛星信
号に基づく現在位置の計測を繰り返し実行させるためのプログラムであって、受信した衛
星信号から、現在位置の計測に使用可能な衛星信号の組合せを抽出する抽出ステップと、
前記抽出した衛星信号の組合せそれぞれについて、当該組合せを用いた場合の現在位置を
計測する計測ステップと、前記抽出した衛星信号の組合せのうち、前回最適組合せと判定
した組合せを選定組合せとして選定する選定ステップと、前記選定した選定組合せについ
ての前記計測ステップでの計測結果に基づいて所定のマップマッチング処理を行い、現在
位置を補正するマップマッチング処理ステップと、前記抽出した衛星信号の組合せそれぞ
れの前記計測ステップでの計測結果と前記マップマッチング処理により補正された現在位
置とに基づいて、前記抽出した衛星信号の組合せの中から今回の最適組合せを判定する判
定ステップと、を含む一連の処理を前記プロセッサに繰り返し実行させるためのプログラ
ムを構成しても良い。
【0016】
また、第12の発明として、受信した複数の衛星信号に基づく現在位置の計測を繰り返
し実行する測位回路であって、受信した衛星信号から、現在位置の計測に使用可能な衛星
信号の組合せを抽出する抽出手段と、前記抽出された衛星信号の組合せそれぞれについて
、当該組合せを用いた場合の現在位置を計測する計測手段と、前記抽出された衛星信号の
組合せのうち、前回最適組合せと判定した組合せを選定組合せとして選定する選定手段と
、前記選定された選定組合せについての前記計測手段による計測結果に基づいて所定のマ
ップマッチング処理を行い、現在位置を補正するマップマッチング処理手段と、前記抽出
された衛星信号の組合せそれぞれの前記計測手段による計測結果と前記マップマッチング
処理により補正された現在位置とに基づいて、前記抽出した衛星信号の組合せの中から今
回の最適組合せを判定する判定手段と、を備えた測位回路を構成しても良い。
【0017】
この第2の発明等によれば、現在位置の計測に使用可能な衛星信号の組合せが抽出され
、抽出された衛星信号の組合せそれぞれについて、当該組合せを用いた場合の現在位置が
計測される。そして、抽出された衛星信号の組合せのうち、前回最適組合せと判定した組
合せが選定組合せとして選定され、当該選定組合せについての計測結果に基づいて所定の
マップマッチング処理が行われ、現在位置が補正される。そして、抽出された衛星信号の
組合せそれぞれの計測結果と補正された現在位置とに基づいて、抽出された衛星信号の組
合せの中から今回の最適組合せが判定される。
【0018】
この場合も、第1の発明等と同様に、一連の処理を繰り返し実行することで、マルチパ
ス環境を考慮に入れた高精度な測位を実現することができる。また、マップマッチング処
理部を個別に設ける必要がなく、1つのプロセッサによる処理で高精度な測位を実現でき
る。
【0019】
また、第3の発明として、第1又は第2の発明のプログラムであって、前記選定ステッ
プで選定した選定組合せが所定のリセット条件を満たすか否かを判定する判定ステップと
、前記判定ステップで満たすと判定された場合に、選定組合せを、前記抽出ステップで抽
出した組合せの中から択一的に選定した組合せに変更する変更ステップと、を前記一連の
処理に含めて更に前記プロセッサに実行させるためのプログラムを構成しても良い。
【0020】
この第3の発明によれば、選定組合せが所定のリセット条件を満たすと判定された場合
に、選定組合せが、抽出された組合せの中から択一的に選定された組合せに変更される。
従って、一連の処理を繰り返し実行していく間の誤差の累積を効果的に防止するといった
効果が得られる。
【0021】
また、第4の発明として、第3の発明のプログラムであって、前記判定ステップは、1
)前記選定ステップで選定した選定組合せの各衛星信号を発したそれぞれの衛星の天空配
置、2)当該各衛星信号の信号強度、3)当該各衛星信号のSN比の内の少なくとも1つ
に基づいて、当該選定組合せが所定のリセット条件を満たすか否かを判定するステップで
あるプログラムを構成しても良い。
【0022】
この第4の発明によれば、選定された選定組合せの各衛星信号を発したそれぞれの衛星
の天空配置、当該各衛星信号の信号強度、当該各衛星信号のSN比の内の少なくとも1つ
に基づいて、当該選定組合せが所定のリセット条件を満たすか否かが判定される。従って
、例えば衛星の天空配置が良好でない場合や、各衛星信号の信号強度が小さい場合、各衛
星信号のSN比が大きい場合等に、選定組合せが変更されることになる。
【0023】
また、第5の発明として、第3又は第4の発明のプログラムであって、前記判定ステッ
プは、少なくとも、前回の選定組合せの前回の計測結果と、今回の選定組合せの今回の計
測結果との変化に基づいて、今回の選定組合せが所定のリセット条件を満たすか否かを判
定するステップであるプログラムを構成しても良い。
【0024】
この第5の発明によれば、少なくとも、前回の選定組合せの前回の計測結果と、今回の
選定組合せの今回の計測結果との変化に基づいて、今回の選定組合せが所定のリセット条
件を満たすか否かが判定される。
【0025】
また、第6の発明として、第3又は第4の発明のプログラムであって、前記計測ステッ
プは、現在位置及び進行方向を計測するステップであり、前記判定ステップは、少なくと
も、前回の選定組合せの前回の計測結果に含まれる進行方向と、今回の選定組合せの今回
の計測結果に含まれる進行方向との変化に基づいて、今回の選定組合せが所定のリセット
条件を満たすか否かを判定するステップであるプログラムを構成しても良い。
【0026】
この第6の発明によれば、現在位置及び進行方向が計測され、少なくとも、前回の選定
組合せの前回の計測結果に含まれる進行方向と、今回の選定組合せの今回の計測結果に含
まれる進行方向との変化に基づいて、今回の選定組合せが所定のリセット条件を満たすか
否かが判定される。従って、例えば進行方向が急激に変化したような場合に、選定組合せ
が変更されることになる。
【0027】
また、第7の発明として、第3〜第6の何れか一の発明のプログラムであって、前記変
更ステップは、前記抽出ステップで抽出した組合せそれぞれの、a)当該組合せの各衛星
信号を発したそれぞれの衛星の天空配置、b)当該組合せの各衛星信号の信号強度、c)
当該組合せの各衛星信号のSN比の内の少なくとも1つに基づいて、今回の選定組合せを
、当該抽出した組合せの中から択一的に選定した組合せに変更するステップであるプログ
ラムを構成しても良い。
【0028】
この第7の発明によれば、抽出された組合せそれぞれの、当該組合せの各衛星信号を発
したそれぞれの衛星の天空配置、当該組合せの各衛星信号の信号強度、当該組合せの各衛
星信号のSN比の内の少なくとも1つに基づいて、今回の選定組合せが、当該抽出された
組合せの中から択一的に選定された組合せに変更される。従って、例えば衛星の天空配置
が良好である組合せや、各衛星信号の信号強度が大きい組合せ、各衛星信号のSN比が良
好な組合せ等が、選定組合せとして選定されることになる。
【0029】
また、第8の発明として、第3〜第7の何れか一の発明のプログラムであって、前記変
更ステップは、少なくとも、前回の選定組合せの前回の計測結果と、前記抽出ステップで
抽出した組合せそれぞれについての今回の計測結果とに基づいて、今回の選定組合せを、
当該抽出した組合せの中から択一的に選定した組合せに変更するステップであるプログラ
ムを構成しても良い。
【0030】
この第8の発明によれば、少なくとも、前回の選定組合せの前回の計測結果と、抽出さ
れた組合せそれぞれについての今回の計測結果それぞれとに基づいて、今回の選定組合せ
が、当該抽出された組合せの中から択一的に選定された組合せに変更される。
【0031】
また、第9の発明として、第1〜第8の何れか一の発明のプログラムであって、前記選
定ステップは、前回最適組合せと判定した組合せが今回前記抽出ステップで抽出した組合
せの中に含まれていない場合に、当該抽出した組合せそれぞれの、a)当該組合せの各衛
星信号を発したそれぞれの衛星の天空配置、b)当該組合せの各衛星信号の信号強度、c
)当該組合せの各衛星信号のSN比の内の少なくとも1つに基づいて、当該抽出した組合
せの中から今回の選定組合せとする組合せを選定するステップであるプログラムを構成し
ても良い。
【0032】
この第9の発明によれば、前回最適組合せと判定された組合せが今回抽出された組合せ
の中に含まれていない場合に、当該抽出した組合せそれぞれの、当該組合せの各衛星信号
を発したそれぞれの衛星の天空配置、当該組合せの各衛星信号の信号強度、当該組合せの
各衛星信号のSN比の内の少なくとも1つに基づいて、当該抽出された組合せの中から今
回の選定組合せとする組合せが選定される。従って、抽出された組合せの中に前回最適組
合せが含まれていない場合であっても、例えば衛星の天空配置が良好な組合せや、各衛星
信号の信号強度が大きい組合せ、各衛星信号のSN比が良好な組合せ等が選定組合せとし
て選定されることで、測位精度の低下が効果的に防止される。
【0033】
また、第10の発明として、第1〜第9の何れか一の発明のプログラムであって、前記
選定ステップは、少なくとも、前回最適組合せと判定した組合せが今回前記抽出ステップ
で抽出した組合せの中に含まれていない場合に、前回最適組合せと判定した組合せの各衛
星信号を発した衛星と同じ衛星が発した衛星信号を最も多く含む衛星信号の組合せを、今
回の選定組合せとして選定するステップであるプログラムを構成しても良い。
【0034】
この第10の発明によれば、少なくとも、前回最適組合せと判定された組合せが今回抽
出された組合せの中に含まれていない場合に、前回最適組合せと判定された組合せの各衛
星信号を発した衛星と同じ衛星が発した衛星信号を最も多く含む衛星信号の組合せが、今
回の選定組合せとして選定される。従って、抽出された組合せの中に前回最適組合せが含
まれていない場合であっても、前回最適組合せに近似する衛星信号の組合せが選定組合せ
として選定されるため、測位精度の低下が効果的に防止される。
【0035】
また、第13の発明として、第11又は第12の発明の測位回路を具備した電子機器を
構成しても良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、図面を参照して、本発明をナビゲーション装置1に適用した場合の実施形態につ
いて説明する。
【0037】
1.原理
先ず、原理について説明する。
【0038】
ナビゲーション装置1はGPS受信機を備えており、GPS受信機は、GPS衛星から
送信される衛星信号であるGPS信号を受信し、受信したGPS信号に含まれる航法メッ
セージに基づいて、当該GPS衛星の位置を計算する。尚、GPS衛星は、6つの周回軌
道面それぞれに4機ずつ配置され、原則、地球上のどこからでも常時4機以上の衛星が幾
何学的配置のもとで観測できるように運用されている。以下では、受信(捕捉)したGP
S信号を送信したGPS衛星を他のGPS衛星と区別するために、「捕捉衛星」と称す。
【0039】
また、GPS受信機は、自機に備えられている時計(水晶時計)により特定されるGP
S信号の受信時刻と、当該受信したGPS信号に含まれるGPS衛星の送信時刻とに基づ
いて、捕捉衛星から自機までの電波伝搬時間を計算する。
【0040】
そして、GPS受信機は、計算した電波伝搬時間に光速度を乗算することで、捕捉衛星
から自機までの距離を計算する。但し、GPS受信機に備えられている時計(水晶時計)
は、GPS衛星に備えられている時計(原子時計)に比べて精度が劣るため、電波伝搬時
間には時計誤差が含まれている。従って、ここで計算される距離は、誤差を含む擬似的な
距離(擬似距離)である。
【0041】
GPS受信機は、自機の位置を示す3次元の座標値と、時計誤差との4つのパラメータ
の値を、4つの捕捉衛星の位置や各捕捉衛星から自機までの距離等の情報に基づいて求め
る。測位位置の緯度や測位時刻等にもよるが、通常観測可能な衛星数は4以上存在する。
本実施形態では、観測可能な衛星のうち、4つの捕捉衛星でなる捕捉衛星の組合せ(以下
、「衛星組合せ」と称す。)を抽出し、その中から測位結果が最も妥当であると考えられ
る衛星組合せ(以下、「最適組合せ」と称す。)を判定する一連の処理を繰り返し行うこ
とで、マルチパス環境における測位精度の向上を実現する。
【0042】
最適組合せは、各衛星組合せそれぞれで計測した位置(以下、「測位位置」と称す。)
と、ナビゲーション装置1が行うマップマッチング処理の結果として求められるGPS受
信機の位置(以下、「マップマッチング結果位置」と称す。)とに基づいて判定する。
【0043】
ここで、マップマッチング処理とは、GPS受信機により求められた測位位置を、地図
上の妥当な位置に補正する処理のことをいう。例えば、GPS受信機により求められた測
位位置が、地図上では海に対応する位置であったとする。この場合は、測位位置を、例え
ば当該測位位置に最も近い海岸道路上に補正する処理を行う。尚、マップマッチングに係
る処理は公知であるため、詳細な説明は省略する。
【0044】
図1は、最適組合せを判定する処理の流れを説明するための図である。
以下、衛星組合せを抽出し、抽出した衛星組合せの中から最適組合せを判定するまでの
一連の処理を「ターン」と称し、当該ターンにおいて最適組合せと判定された衛星組合せ
を「今回最適組合せ」、直前のターンにおいて最適組合せと判定された衛星組合せを「前
回最適組合せ」と称す。但し、ここでは説明を簡単にするため、各ターンにおいて抽出さ
れた衛星組合せは、「A」〜「D」の固定的な4つとして説明する。
【0045】
また、GPS受信機は、現在位置に加えて、GPS受信機の現在の移動方向(進行方向
)及び速度も同時に計測する。図1中、計測された移動方向及び速度を「移動ベクトル」
として矢印で表す。但し、矢印の向きが移動方向、矢印の長さが速度をそれぞれ示してい
る。GPS受信機の移動方向及び速度は、捕捉衛星とGPS受信機間の相対的な位置変化
により生じる周波数の変化(ドップラーシフト)等に基づいて計測することが可能である

【0046】
第1ターンでは、抽出した衛星組合せ「A」〜「D」それぞれに基づいて測位位置を計
測する。次いで、衛星組合せ「A」〜「D」の中から、所定の選定方法に従って衛星組合
せを1つ選定し、選定した衛星組合せを「選定組合せ」とする。第1ターンにおける選定
組合せの選定方法としては、例えば4つの捕捉衛星の信号強度の和が最大の衛星組合せを
選択することや、捕捉衛星の天空配置に基づく測位精度の尺度であるDOP(Dilution o
f Precision)の値(DOPには、HDOP、VDOP、PDOP、GDOPがあるが、
以下包括的に「DOP」と称す。)が最小の衛星組合せを選択することにすれば良い。図
1では、選定組合せとして、衛星組合せ「C」が選定されたものとする。
【0047】
次いで、選定組合せである衛星組合せ「C」の測位結果に基づいて、マップマッチング
処理を行う。そして、求められたマップマッチング結果位置と、衛星組合せ「A」〜「D
」による測位位置それぞれとの距離を算出し、算出した距離が最小の測位位置に対応する
衛星組合せを今回最適組合せと判定する。図1では、マップマッチング結果位置との距離
が最も小さいのは、衛星組合せ「C」による測位位置であったため、衛星組合せ「C」が
今回最適組合せとなる。第1ターンはこれで終了となる。
【0048】
第2ターンでは、抽出した衛星組合せ「A」〜「D」それぞれに基づいて測位位置を計
測する。次いで、前回最適組合せ(即ち、第1ターンの今回最適組合せ)である衛星組合
せ「C」を選定組合せとして選定し、衛星組合せ「C」の測位結果に基づいて、マップマ
ッチング処理を行う。
【0049】
そして、求められたマップマッチング結果位置と、衛星組合せ「A」〜「D」による測
位位置それぞれとの距離を算出し、算出した距離が最小の測位位置に対応する衛星組合せ
を今回最適組合せと判定する。図1では、マップマッチング結果位置との距離が最も小さ
いのは、衛星組合せ「B」による測位位置であったため、衛星組合せ「B」が今回最適組
合せとなる。第2ターンはこれで終了となる。
【0050】
第3ターンでは、抽出した衛星組合せ「A」〜「D」それぞれに基づいて測位位置を計
測する。次いで、前回最適組合せ(即ち、第2ターンの今回最適組合せ)である衛星組合
せ「B」を選定組合せとして選定し、衛星組合せ「B」の測位結果に基づいて、マップマ
ッチング処理を行う。
【0051】
そして、求められたマップマッチング結果位置と、衛星組合せ「A」〜「D」による測
位位置それぞれとの距離を算出し、算出した距離が最小の測位位置に対応する衛星組合せ
を「今回最適組合せ」と判定する。図1では、マップマッチング結果位置との距離が最も
小さいのは、衛星組合せ「A」による測位位置であったため、衛星組合せ「A」が今回最
適組合せとなる。第3ターンはこれで終了となる。以下、同様にしてターンを繰り返して
いく。
【0052】
但し、本実施形態では、誤差の累積防止等の観点から、各ターンにおいて、選定された
選定組合せが所定のリセット条件を満たす場合は、予め定められた選定方法に従って選定
組合せを変更する処理(以下、「リセット」と称す。)を行う。
【0053】
リセット条件としては、例えば前回リセットを行ってから所定時間が経過したことや、
GPS受信機の移動方向が大きく変化したこと、選定組合せのDOP値が大きいこと、等
が挙げられる。また、選定方法としては、例えば4つの捕捉衛星の信号強度の和が最大の
衛星組合せを選定することや、DOP値が最小の衛星組合せを選定すること、等が挙げら
れる。この具体例については、「2.構成」で説明する。
【0054】
2.構成
次に、構成について説明する。
【0055】
図2は、本実施形態におけるナビゲーション装置1の機能構成を示すブロック図である
。ナビゲーション装置1は、アンテナ10と、SAW20と、LNA30と、RF回路部
40と、ベースバンド処理回路部50と、マップマッチング処理部60と、操作部70と
、表示部80とを備えて構成される。
【0056】
ナビゲーション装置1のうち、SAW20、LNA30、RF回路部40及びベースバ
ンド処理回路部50でなるGPS受信部2が、GPS受信機に相当するものである。また
、RF回路部40とベースバンド処理回路部50とは、それぞれ別のLSI(Large Scal
e Integration)として製造することも、1チップとして製造することも可能である。更
に、SAW20、LNA30を含んだGPS受信部2全体を1チップ化して製造しても良
い。
【0057】
アンテナ10は、GPS衛星から送信されたGPS信号を含むRF信号を受信するアン
テナであり、受信したRF信号をSAW20に出力する。
【0058】
SAW(Surface Acoustic Wave)20は、アンテナ10で受信されたRF信号のうち
、所定の周波数帯域成分だけを通過させる帯域通過フィルタであり、通過させた信号をL
NA30に出力する。
【0059】
LNA(Low Noise Amplifier)30は、SAW20を通過した信号を増幅するローノ
イズアンプであり、増幅した信号をRF回路部40に出力する。
【0060】
RF回路部40は、LNA30で増幅された信号と所定周波数の発振信号とを乗算する
ことで、アンテナ10、SAW20、LNA30を通過したRF信号を中間周波信号(以
下、「IF信号」と称す。)にダウンコンバートする。そして、IF信号を増幅等した後
、A/D変換器でデジタル信号に変換してベースバンド処理回路部50に出力する。
【0061】
ベースバンド処理回路部50は、RF回路部40から出力されたIF信号をFFT演算
等することにより相関検出処理等を行ってGPS信号を捕捉・抽出し、データを復号して
航法メッセージや時刻情報等を取り出し、疑似距離の演算や測位演算等を行う。尚、GP
S信号は、C/Aコード(Clear and Acquisition 又は Coarse and Access)と呼ばれる
スペクトラム拡散変調された信号である。
【0062】
ベースバンド処理回路部50は、相関検出処理等を行う回路や相関検出を行うための拡
散符号を発生させる回路、データを復号する回路の他、ベースバンド処理回路部50乃至
RF回路部40の各部を統括的に制御して、後述するベースバンド処理を含む各種演算処
理を行うCPU(Central Processing Unit)51と、ROM(Read Only Memory)53
と、RAM(Random Access Memory)55とを備えて構成される。
【0063】
図3(A)、図3(B)は、ベースバンド処理回路部50が備えるROM53及びRA
M55に格納されたデータの一例を示す図である。ROM53には、CPU51により読
み出され、ベースバンド処理(図10参照)として実行されるベースバンド処理プログラ
ム531と、選定組合せのリセット条件が定められたリセット条件テーブル533とが記
憶されている。
【0064】
ベースバンド処理とは、CPU51が、捕捉したGPS信号に基づき、4つの捕捉衛星
からなる衛星組合せを抽出し、その衛星組合せの中から選定組合せを選定して、当該選定
組合せによる測位結果をマップマッチング処理部60に出力する処理である。そして、C
PU51は、マップマッチング処理部60からマップマッチングの結果を入力し、入力し
たマップマッチング結果と、先の衛星組合せそれぞれによる測位結果とに基づいて、最適
組合せの判定を行う。このベースバンド処理については、フローチャートを用いて詳細に
後述する。
【0065】
図4は、リセット条件テーブル533のテーブル構成例を示す図である。リセット条件
テーブル533には、リセット条件の番号5331と、リセット条件5333と、選定組
合せ選定方法5335とのデータが対応付けて記憶されている。
【0066】
具体的に説明すると、番号5331が「1」のリセット条件5333は、「前回のリセ
ットから30秒が経過したこと」である。これは、定期的にリセットを行う趣旨である。
番号5331が「2」のリセット条件5333は、「移動方向の変化が90°より大きい
こと」である。これは、ナビゲーション装置1の移動方向が急激に変化した場合に、リセ
ットを行う趣旨である。番号5331が「3」のリセット条件5333は、「選定組合せ
のDOP値が6より大きいこと」である。これは、選定組合せに含まれる捕捉衛星の天空
配置が良好でない場合に、リセットを行う趣旨である。
【0067】
番号5331が「4」のリセット条件5333は、「選定組合せを構成する捕捉衛星が
発したGPS信号のSN比(SNR)の平均が10より大きいこと」である。これは、選
定組合せに含まれる捕捉衛星が送信したGPS信号にノイズが多く含まれる場合に、リセ
ットを行う趣旨である。番号5331が「5」のリセット条件5333は、「選定組合せ
を構成する捕捉衛星が発したGPS信号の信号強度の和が8未満であること」である。こ
れは、選定組合せに含まれる捕捉衛星が送信したGPS信号の強度が小さい場合に、リセ
ットを行う趣旨である。これらのリセット条件5333に従ってリセットを行うことで、
誤差が累積することが効果的に防止される。尚、各条件の値は一例であり、適宜設定され
る設計事項である。
【0068】
また、選定組合せ選定方法5335としては、例えば「捕捉衛星が発したGPS信号の
信号強度の和が最大の衛星組合せを選定すること」を示す「信号強度最大」が設定されて
いる。これにより、選定組合せが、信号強度が大きく、測位の信頼性が高い衛星組合せに
変更されることになる。
【0069】
ベースバンド処理において、CPU51は、リセット条件テーブル533を参照し、リ
セット条件5333の何れかが成立したか否かを判定する。そして、リセット条件533
3が成立したと判定した場合は、当該リセット条件5333に対応付けられている選定組
合せ選定方法5335に従って、抽出した衛星組合せの中から選定組合せを選定する。尚
、リセット条件5333は、番号5331の小さい順に判定され、1つでも成立すると判
定された場合には、選定組合せ選定方法5335に従って選定組合せが選定される。
【0070】
RAM55には、計測結果についてのデータである計測データ551と、計測結果の履
歴についてのデータである計測履歴データ553と、最適組合せについてのデータである
最適組合せデータ555と、選定組合せについてのデータである選定組合せデータ557
と、マップマッチング結果についてのデータであるマップマッチングデータ559とが記
憶される。
【0071】
図5は、計測データ551のデータ構成例を示す図である。計測データ551には、抽
出された各衛星組合せそれぞれについて、捕捉衛星の番号5511と、計測結果5513
と、捕捉衛星の信号強度の和である信号強度5515とのデータが対応付けて記憶される

【0072】
計測結果5513には、計測されたナビゲーション装置1(GPS受信機)の測位位置
、速度及び移動方向が記憶される。測位位置は、例えば地球基準座標系における3次元の
座標値で表される。また、移動方向は、真北を0度とし、真東を90度とする360度で
表される。ベースバンド処理において、CPU51は、抽出した衛星組合せについての計
測結果に基づいて、計測データ551を随時更新する。
【0073】
図6は、計測履歴データ553のデータ構成例を示す図である。計測履歴データ553
には、選定組合せを構成する捕捉衛星の番号5531と、計測結果5533と、マップマ
ッチング結果位置5535とのデータが対応付けて、新しい順に5レコード分記憶される
。ベースバンド処理において、CPU51は、選定組合せについての計測結果と、マップ
マッチング処理部60から入力したマップマッチング結果とに基づいて、計測履歴データ
553を随時更新する。
【0074】
計測履歴データ553は、CPU51が、直前の選定組合せについての計測結果と、現
在の選定組合せについての計測結果とを比較する際に利用する。具体的には、リセット条
件5333が成立したか否かを判定する際に、例えば直前の選定組合せについての計測結
果に含まれる移動方向と、現在の選定組合せについての計測結果に含まれる移動方向とを
比較することで、移動方向の変化が90°よりも大きいか否かを判定する。
【0075】
図7は、最適組合せデータ555のデータ構成例を示す図である。最適組合せデータ5
55には、最適組合せを構成する捕捉衛星の番号が記憶される。ベースバンド処理におい
て、CPU51は、今回最適組合せと判定した衛星組合せに基づいて、最適組合せデータ
555を随時更新する。
【0076】
図8は、選定組合せデータ557のデータ構成例を示す図である。選定組合せデータ5
57には、選定組合せを構成する捕捉衛星の番号が記憶される。ベースバンド処理におい
て、CPU51は、選定組合せとして選定した衛星組合せに基づいて、選定組合せデータ
557を随時更新する。
【0077】
図9は、マップマッチングデータ559のデータ構成例を示す図である。マップマッチ
ングデータ559には、例えば地球基準座標系における3次元の座標値で表されるマップ
マッチング結果位置が記憶される。ベースバンド処理において、CPU51は、マップマ
ッチング処理部60から入力したマップマッチング結果に基づいて、マップマッチングデ
ータ559を随時更新する。
【0078】
マップマッチング処理部60は、GPS受信部2を含むナビゲーション装置1全体の制
御や、マップマッチング処理を行う機能部であり、ホストCPU61と、ROM63と、
RAM65とを備えて構成される。
【0079】
ROM63には、ナビゲーション装置1を制御するためのシステムプログラムや、マッ
プマッチング処理を行うためのマップマッチングプログラム、表示部80にナビゲーショ
ン画面を表示させるためのアプリケーションプログラム等の各種プログラムの他、マップ
マッチング処理を行うための地理情報や地図情報のデータ等が記憶されている。ホストC
PU61は、ベースバンド処理回路部50のCPU51とデータ授受を行いながら、これ
らのプログラムやデータに従って各種処理を実行する。
【0080】
操作部70は、例えばタッチパネルやボタンスイッチ等により構成される入力手段であ
り、押下されたキーやボタンの信号をホストCPU61に出力する。この操作部70の操
作により、目的地の入力等の各種指示入力がなされる。
【0081】
表示部80は、LCD(Liquid Crystal Display)等により構成され、ホストCPU6
1から入力される表示信号に基づいた各種表示を行う表示装置である。表示部80には、
ナビゲーション画面等が表示される。
【0082】
3.処理の流れ
次に、処理の流れについて説明する。
【0083】
図10は、ROM53に記憶されているベースバンド処理プログラム531がCPU5
1により読み出されて実行されることで、ベースバンド処理回路部50において実行され
るベースバンド処理の流れを示すフローチャートである。尚、ベースバンド処理に先立ち
、GPS受信部2において、アンテナ10によるRF信号の受信や、RF回路部40によ
るIF信号へのダウンコンバート等を経て、ベースバンド処理回路部50においてGPS
信号の復調・復号が随時なされる状態にあるとする。
【0084】
ベースバンド処理において、先ずCPU51は、捕捉したGPS信号に基づき、捕捉衛
星の組合せを衛星組合せとして抽出する(ステップA1)。そして、CPU51は、抽出
した衛星組合せそれぞれを用いて、ナビゲーション装置1(GPS受信機)の現在の位置
、速度及び移動方向の計測を行い(ステップA3)、RAM55の計測データ551を更
新する。
【0085】
次いで、CPU51は、計測が初回であったか否かを判定し(ステップA5)、初回で
あったと判定した場合は(ステップA5;Yes)、計測データ551に記憶されている
信号強度5515が最大の衛星組合せを選定組合せとして選定し(ステップA7)、RA
M55の計測履歴データ553及び選定組合せデータ557を更新する。
【0086】
次いで、CPU51は、計測データ551に記憶されている選定組合せの測位結果をマ
ップマッチング処理部60のホストCPU61に出力する(ステップA9)。そして、C
PU51は、ホストCPU61からマップマッチング結果を入力し(ステップA11)、
RAM55の計測履歴データ553及びマップマッチングデータ559を更新する。
【0087】
次いで、CPU51は、今回最適組合せ判定処理を行う(ステップA13)。具体的に
は、マップマッチングデータ559に記憶されているマップマッチング結果位置と、計測
データ551の計測結果5513に記憶されている測位位置それぞれとの間の距離を算出
する。そして、算出した距離が最も小さい測位位置に対応する衛星組合せを、今回最適組
合せとして判定する。
【0088】
次いで、CPU51は、判定した今回最適組合せでRAM55の最適組合せデータ55
5を更新する(ステップA15)。そして、CPU51は、処理を終了するか否かを判定
し(ステップA17)、まだ終了しないと判定した場合は(ステップA17;No)、ス
テップA1に戻る。また、処理を終了すると判定した場合は(ステップA17;Yes)
、CPU51は、ベースバンド処理を終了する。
【0089】
一方、ステップA5において、計測が初回ではなかったと判定した場合は(ステップA
5;No)、CPU51は、計測データ551に記憶されている衛星組合せと、最適組合
せデータ555に記憶されている現在(前回)の最適組合せとを照査することで、ステッ
プA1において抽出した衛星組合せの中に最適組合せがあるか否かを判定する(ステップ
A19)。
【0090】
そして、最適組合せがないと判定した場合は(ステップA19;No)、CPU51は
、再び計測データ551を参照し、最適組合せを構成する捕捉衛星を3以上含む衛星組合
せがあるか否かを判定し(ステップA21)、衛星組合せがないと判定した場合は(ステ
ップA21;No)、ステップA7へと処理を移行する。
【0091】
一方、ステップA21において、最適組合せを構成する捕捉衛星を3以上含む衛星組合
せがあると判定した場合は(ステップA21;Yes)、CPU51は、当該衛星組合せ
のうち、信号強度5515が最大の衛星組合せを選定組合せとして選定し(ステップA2
3)、RAM55の計測履歴データ553及び選定組合せデータ557を更新する。そし
て、CPU51は、ステップA9へと処理を移行する。このような処理を行うことで、抽
出した衛星組合せの中に現在(前回)の最適組合せが含まれていない場合であっても、現
在(前回)の最適組合せに近似する衛星組合せが選定組合せとして選定されるため、測位
精度の低下が効果的に防止される。
【0092】
また、ステップA19において、最適組合せがあると判定した場合は(ステップA19
;Yes)、CPU51は、最適組合せデータ555に記憶されている現在(前回)の最
適組合せを選定組合せとして選定し(ステップA25)、RAM55の計測履歴データ5
53及び選定組合せデータ557を更新する。
【0093】
次いで、CPU51は、ROM53のリセット条件テーブル533を参照し、何れかの
リセット条件5333が成立したか否かを条件の番号5331順に判定し(ステップA2
7)、何れの条件も成立しなかったと判定した場合は(ステップA27;No)、ステッ
プA9へと処理を移行する。
【0094】
一方、ステップA27において、リセット条件5333が成立したと判定した場合は(
ステップA27;Yes)、CPU51は、計測データ551に記憶されている衛星組合
せの中から、当該リセット条件5333に対応する選定組合せ選定方法5335に従って
選定組合せを選定し(ステップA29)、RAM55の計測履歴データ553及び選定組
合せデータ557を更新する。そして、CPU51は、ステップA9へと処理を移行する

【0095】
4.作用効果
本実施形態によれば、捕捉したGPS信号に基づいて4つの補正衛星の組合せである衛
星組合せが抽出され、各衛星組合せそれぞれについて、当該衛星組合せを用いた場合の現
在位置が計測される。そして、抽出された衛星組合せのうち、前回最適組合せと判定され
た衛星組合せが選定組合せとして選定され、当該選定組合せについての計測結果がマップ
マッチング処理部60に出力される。そして、抽出された衛星組合せそれぞれの計測結果
と、マップマッチング処理部60から入力されたマップマッチング結果である位置情報と
に基づいて、マップマッチング結果に最近接する計測結果となった衛星組合せを今回の最
適組合せとして判定する。
【0096】
この一連の処理を繰り返し行う。尚、基本的には、この処理の間隔(測位間隔)は、従
来のGPS受信機と同様1秒である。最適組合せは、測位結果がマップマッチング結果に
最も近い位置であったため、測位誤差が少ない、即ち、抽出された組合せの中で、マルチ
パス環境における測位誤差の影響が最も少ない(例えば、直接観測可能範囲に含まれる捕
捉衛星の数が最も多い)組合せと推察される。帰納的に考えると、1秒間の間に、受信環
境、すなわちマルチパス環境が急激に変化し、直接観測可能範囲に含まれる捕捉衛星の数
が大きく異なることは稀と考えられる。そこで、前回最適組合せと判定した4つの捕捉衛
星を今回も捕捉できているのであれば、その4つの捕捉衛星による測位が最適であると考
えられる。本実施形態によれば、正にこの考えを実現したナビゲーション装置1並びにG
PS受信機が実現され、マルチパス環境を考慮に入れた高精度な測位を行うことができる

【0097】
5.変形例
5−1.適用例
本発明は、車載用のナビゲーション装置の他、携帯型のナビゲーション装置や、GPS
機能を有する携帯型電話機等の電子機器に適用することが可能である。
【0098】
5−2.マップマッチング処理
本実施形態では、マップマッチング処理をマップマッチング処理部60が行うものとし
て説明したが、ベースバンド処理回路部50が行うことにしても良い。具体的には、ベー
スバンド処理プログラム531のサブルーチンとしてマップマッチングプログラム532
をROM53に記憶させておく(図11参照)。そして、CPU51が、ベースバンド処
理において、図10のステップA9及びA11の代わりに、マップマッチングプログラム
532を実行することで、マップマッチング処理を行うようにする。また、この際に必要
となる地理情報や地図情報等のデータを、ROM53に記憶しておくことは言うまでもな
い。この場合も、一連の処理を繰り返し実行することで、マルチパス環境を考慮に入れた
高精度な測位を実現することができる。また、マップマッチング処理部60を個別に設け
る必要がなく、1つのプロセッサ(CPU51)による処理で高精度な測位を実現できる

【0099】
5−3.測位結果の出力
本実施形態では、選定組合せとして選定された衛星組合せについての測位結果だけをマ
ップマッチング処理部60に出力するものとして説明したが、抽出した全ての衛星組合せ
についての測位結果をマップマッチング処理部60に出力することにしても良い。この場
合は、マップマッチング処理部60が、入力された全ての測位結果の中から最適な測位結
果を選定し、当該測位結果に基づいてマップマッチング処理を行うことになる。測位結果
を選定する基準としては、DOP値が最小の衛星組合せや、衛星信号の強度の和が最大の
衛星組合せ、衛星信号のSN比の平均が最小の衛星組合せ、前回のマップマッチング処理
結果の位置からの変位(位置、進行方向)が考えられる。
【0100】
5−4.リセット条件
本実施形態では、何れか一のリセット条件が成立した場合に、選定組合せを変更するも
のとして説明したが、2以上のリセット条件が成立した場合に、選定組合せを変更するこ
とにしても良い。具体的には、例えば図4のリセット条件テーブル533において、番号
5331が「1」〜「5」のリセット条件5333のうち、2以上のリセット条件533
3が成立して初めて、選定組合せ選定方法5335に従って選定組合せを変更するように
する。
【0101】
また、リセット条件は、図4のリセット条件テーブル533に示したものに限られるわ
けではない。例えば、前回の選定組合せにより計測された測位位置と、今回の選定組合せ
により計測された測位位置との距離が極端に大きいこと(距離>閾値)を、リセット条件
としても良い。
【0102】
5−5.選定組合せ選定方法
また、選定組合せ選定方法は、図4のリセット条件テーブル533に示したものに限ら
れるわけではない。例えば、DOP値が最小である衛星組合せを選定することや、衛星信
号のSN比の平均が最小である衛星組合せを選定することにしても良い。
【0103】
また、複数の条件を組み合わせて選定組合せ選定方法としても良い。例えば、DOP値
が所定値未満で、且つ、衛星信号の強度の和が所定値以上である衛星組合せを選定するこ
とや、衛星信号の強度の和が所定値以上で、且つ、衛星信号のSN比の平均が所定値未満
である衛星組合せを選定することにしても良い。
【0104】
5−6.抽出した衛星組合せに最適組合せが含まれない場合の選定組合せの選定
本実施形態では、抽出した衛星組合せに最適組合せが含まれない場合に、信号強度の大
きさに基づいて選定組合せを選定するものとして説明したが、この場合も「5−5.選定
組合せ選定方法」で説明したのと同様に、DOP値が最小である衛星組合せを選定するこ
とや、衛星信号のSN比が最小である衛星組合せを選定することにしても良い。また、こ
れらの条件を組み合わせた選定方法に従って選定組合せを選定することにしても良い。こ
れにより、抽出した衛星組合せの中に現在(前回)の最適組合せが含まれていない場合で
あっても、GPS衛星の天空配置が良好な組合せや、各GPS信号の信号強度が大きい衛
星組合せ、各GPS信号のSN比が良好な衛星組合せ等が選定組合せとして選定されるこ
とで、測位精度の低下が効果的に防止される。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】最適組合せ判定の説明図。
【図2】ナビゲーション装置の機能構成を示す図。
【図3】図3(A)はROMの構成を示す図。図3(B)はRAMの構成を示す図。
【図4】リセット条件テーブルのテーブル構成例を示す図。
【図5】計測データのデータ構成例を示す図。
【図6】計測履歴データのデータ構成例を示す図。
【図7】最適組合せデータのデータ構成例を示す図。
【図8】選定組合せデータのデータ構成例を示す図。
【図9】マップマッチングデータのデータ構成例を示す図。
【図10】ベースバンド処理の流れを示すフローチャート。
【図11】変形例におけるROMの構成を示す図。
【図12】マルチパスの説明図。
【符号の説明】
【0106】
1 ナビゲーション装置、 2 GPS受信部、 10 アンテナ、 20 SAW、
30 LNA、 40 RF回路部、 50 ベースバンド処理回路部、
51 CPU、 53 ROM、 55 RAM、 60 マップマッチング処理部、
61 ホストCPU、 63 ROM、 65 RAM、 70 操作部、
80 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プログラム実行可能なプロセッサに、受信した複数の衛星信号に基づく現在位置の計測
を繰り返し実行させるためのプログラムであって、
受信した衛星信号から、現在位置の計測に使用可能な衛星信号の組合せを抽出する抽出
ステップと、
前記抽出した衛星信号の組合せそれぞれについて、当該組合せを用いた場合の現在位置
を計測する計測ステップと、
前記抽出した衛星信号の組合せのうち、前回最適組合せと判定した組合せを選定組合せ
として選定する選定ステップと、
前記選定した選定組合せについての前記計測ステップでの計測結果を、前記プロセッサ
との間でデータ授受が可能なマップマッチング処理部に出力する出力ステップと、
前記抽出した衛星信号の組合せそれぞれの前記計測ステップでの計測結果と、前記出力
に対する前記マップマッチング処理部からの処理結果である位置情報とに基づいて、前記
抽出した衛星信号の組合せの中から今回の最適組合せを判定する判定ステップと、
を含む一連の処理を前記プロセッサに繰り返し実行させるためのプログラム。
【請求項2】
プログラム実行可能なプロセッサに、受信した複数の衛星信号に基づく現在位置の計測
を繰り返し実行させるためのプログラムであって、
受信した衛星信号から、現在位置の計測に使用可能な衛星信号の組合せを抽出する抽出
ステップと、
前記抽出した衛星信号の組合せそれぞれについて、当該組合せを用いた場合の現在位置
を計測する計測ステップと、
前記抽出した衛星信号の組合せのうち、前回最適組合せと判定した組合せを選定組合せ
として選定する選定ステップと、
前記選定した選定組合せについての前記計測ステップでの計測結果に基づいて所定のマ
ップマッチング処理を行い、現在位置を補正するマップマッチング処理ステップと、
前記抽出した衛星信号の組合せそれぞれの前記計測ステップでの計測結果と前記マップ
マッチング処理により補正された現在位置とに基づいて、前記抽出した衛星信号の組合せ
の中から今回の最適組合せを判定する判定ステップと、
を含む一連の処理を前記プロセッサに繰り返し実行させるためのプログラム。
【請求項3】
前記選定ステップで選定した選定組合せが所定のリセット条件を満たすか否かを判定す
る判定ステップと、
前記判定ステップで満たすと判定された場合に、選定組合せを、前記抽出ステップで抽
出した組合せの中から択一的に選定した組合せに変更する変更ステップと、
を前記一連の処理に含めて更に前記プロセッサに実行させるための請求項1又は2に記
載のプログラム。
【請求項4】
前記判定ステップは、1)前記選定ステップで選定した選定組合せの各衛星信号を発し
たそれぞれの衛星の天空配置、2)当該各衛星信号の信号強度、3)当該各衛星信号のS
N比の内の少なくとも1つに基づいて、当該選定組合せが所定のリセット条件を満たすか
否かを判定するステップである請求項3に記載のプログラム。
【請求項5】
前記判定ステップは、少なくとも、前回の選定組合せの前回の計測結果と、今回の選定
組合せの今回の計測結果との変化に基づいて、今回の選定組合せが所定のリセット条件を
満たすか否かを判定するステップである請求項3又は4に記載のプログラム。
【請求項6】
前記計測ステップは、現在位置及び進行方向を計測するステップであり、
前記判定ステップは、少なくとも、前回の選定組合せの前回の計測結果に含まれる進行
方向と、今回の選定組合せの今回の計測結果に含まれる進行方向との変化に基づいて、今
回の選定組合せが所定のリセット条件を満たすか否かを判定するステップである請求項3
又は4に記載のプログラム。
【請求項7】
前記変更ステップは、前記抽出ステップで抽出した組合せそれぞれの、a)当該組合せ
の各衛星信号を発したそれぞれの衛星の天空配置、b)当該組合せの各衛星信号の信号強
度、c)当該組合せの各衛星信号のSN比の内の少なくとも1つに基づいて、今回の選定
組合せを、当該抽出した組合せの中から択一的に選定した組合せに変更するステップであ
る請求項3〜6の何れか一項に記載のプログラム。
【請求項8】
前記変更ステップは、少なくとも、前回の選定組合せの前回の計測結果と、前記抽出ス
テップで抽出した組合せそれぞれについての今回の計測結果とに基づいて、今回の選定組
合せを、当該抽出した組合せの中から択一的に選定した組合せに変更するステップである
請求項3〜7の何れか一項に記載のプログラム。
【請求項9】
前記選定ステップは、前回最適組合せと判定した組合せが今回前記抽出ステップで抽出
した組合せの中に含まれていない場合に、当該抽出した組合せそれぞれの、a)当該組合
せの各衛星信号を発したそれぞれの衛星の天空配置、b)当該組合せの各衛星信号の信号
強度、c)当該組合せの各衛星信号のSN比の内の少なくとも1つに基づいて、当該抽出
した組合せの中から今回の選定組合せとする組合せを選定するステップである請求項1〜
8の何れか一項に記載のプログラム。
【請求項10】
前記選定ステップは、少なくとも、前回最適組合せと判定した組合せが今回前記抽出ス
テップで抽出した組合せの中に含まれていない場合に、前回最適組合せと判定した組合せ
の各衛星信号を発した衛星と同じ衛星が発した衛星信号を最も多く含む衛星信号の組合せ
を、今回の選定組合せとして選定するステップである請求項1〜9の何れか一項に記載の
プログラム。
【請求項11】
受信した複数の衛星信号に基づく現在位置の計測を繰り返し実行する測位回路であって

受信した衛星信号から、現在位置の計測に使用可能な衛星信号の組合せを抽出する抽出
手段と、
前記抽出された衛星信号の組合せそれぞれについて、当該組合せを用いた場合の現在位
置を計測する計測手段と、
前記抽出された衛星信号の組合せのうち、前回最適組合せと判定した組合せを選定組合
せとして選定する選定手段と、
前記選定された選定組合せについての前記計測手段による計測結果を、データ授受が可
能なマップマッチング処理部に出力する出力手段と、
前記抽出された衛星信号の組合せそれぞれの前記計測手段による計測結果と、前記出力
に対する前記マップマッチング処理部からの処理結果である位置情報とに基づいて、前記
抽出された衛星信号の組合せの中から今回の最適組合せを判定する判定手段と、
を備えた測位回路。
【請求項12】
受信した複数の衛星信号に基づく現在位置の計測を繰り返し実行する測位回路であって

受信した衛星信号から、現在位置の計測に使用可能な衛星信号の組合せを抽出する抽出
手段と、
前記抽出された衛星信号の組合せそれぞれについて、当該組合せを用いた場合の現在位
置を計測する計測手段と、
前記抽出された衛星信号の組合せのうち、前回最適組合せと判定した組合せを選定組合
せとして選定する選定手段と、
前記選定された選定組合せについての前記計測手段による計測結果に基づいて所定のマ
ップマッチング処理を行い、現在位置を補正するマップマッチング処理手段と、
前記抽出された衛星信号の組合せそれぞれの前記計測手段による計測結果と前記マップ
マッチング処理により補正された現在位置とに基づいて、前記抽出した衛星信号の組合せ
の中から今回の最適組合せを判定する判定手段と、
を備えた測位回路。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の測位回路を具備した電子機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2008−45896(P2008−45896A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−219349(P2006−219349)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】