説明

ヘリウム用密閉形圧縮機

【課題】ヘリウム用密閉形圧縮機において、コロナ放電によるコイルエンド部の絶縁破壊を防止して信頼性を向上すること。
【解決手段】ヘリウム用密閉形圧縮機100は、作動ガスとしてヘリウムガスを用い、圧縮機部2とコイルエンド部3c、3dを有するステータ3a及びロータ3bからなるモータ部3とを密閉容器1内に収納すると共に、圧縮機部2の吐出口から密閉容器1内に吐出したヘリウムガスをコイルエンド部3c、3dを通してから密閉容器1外に吐出する。コイルエンド部3c、3dを構成するコイル3eの表面に絶縁被膜となるワニス処理層が複数層に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘリウム用密閉形圧縮機に係り、特にヘリウムガスが満たされる密閉容器内にコイルエンド部を有するモータ部を収納したヘリウム用密閉形圧縮機に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来のヘリウム用密閉形圧縮機は、作動ガスとしてヘリウムガスを用い、圧縮機部とモータ部とを上下に配置して密閉容器内に収納し、フレームにて密閉容器内を吐出室とモータ室とに区画し、フレームの外周面と密閉容器の内壁面との間に吐出室とモータ室とを連通する矩形状の第1通路を設け、ステータの外周面と密閉容器の内壁面との間にモータ上部室とモータ下部室とを連通する第2通路を設けている。そして、圧縮機部は、固定スクロールと旋回スクロールとをそれぞれのラップを互いに内側にして噛み合わせ、旋回スクロールを旋回運動させて固定スクロールの外周部の吸入口よりヘリウムガスを吸入し固定スクロールの中央部の吐出口よりヘリウムガスを吐出室内を通してモータ室内へ吐出する構成としている。また、このヘリウム用密閉形圧縮機は、ヘリウムガスを冷却するための油インジェクション管を密閉容器に貫通して固定スクロールの鏡板部に設けた油注入用ポートに接続した油注入機構部と、モータ部を回転数制御するインバータとを備えている。
【0003】
係るヘリウム用密閉形圧縮機に関連するものとして、例えば、特開2006―29251号公報(特許文献1)が挙げられる。
【0004】
【特許文献1】特開2006―29251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヘリウム用スクロール圧縮機においては、コイルエンド部の周囲にヘリウムガスが充満するため、ヘリウムガス雰囲気におけるコロナ放電が生じやすく、これによってモータコイルエンド部の絶縁性が低下する、というヘリウム用途に固有な課題があることが分かった。特に、モータ部の回転数をインバータで制御する場合には、インバータ側で高圧なサージ電圧が発生し、その高圧なサージ電圧がコイルエンド部に作用することとなるため、コロナ放電が生じやすかった。
【0006】
しかしながら、従来のヘリウム用スクロール圧縮機においては、コイルエンド部を構成するコイルの表面に形成されたワニス処理層が単層であり、コロナ放電の防止について十分に配慮されている、とは言えなかった。
【0007】
本発明の目的は、コロナ放電によるコイルエンド部の絶縁破壊を防止して信頼性を向上できるヘリウム用密閉形圧縮機を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の目的を達成するための本発明の第1の態様は、作動ガスとしてヘリウムガスを用い、圧縮機部と、コイルエンド部を有するステータ及びロータからなるモータ部と、を密閉容器内に収納すると共に、前記圧縮機部の吐出口から前記密閉容器内に吐出したヘリウムガスを前記コイルエンド部を通してから当該密閉容器外に吐出するヘリウム用密閉形圧縮機において、前記コイルエンド部を構成するコイルの表面に絶縁被膜となるワニス処理層を複数層に形成したことにある。
【0009】
また、本発明の第2の態様は、作動ガスとしてヘリウムガスを用い、圧縮機部とコイルエンド部を有するステータ及びロータからなるモータ部とを上下に配置して密閉容器内に収納し、フレームにて前記密閉容器内を吐出室とモータ室とに区画し、前記フレームの外周面と前記密閉容器の内壁面との間に、前記吐出室と前記モータ室とを連通する矩形状の第1通路を設け、前記ステータの外周面と前記密閉容器の内壁面との間に、当該ステータの上方のモータ上部室と当該ステータの下方の底部に油溜まりを有するモータ下部室とを連通する第2通路を設け、前記圧縮機部は、円板状鏡板に渦巻状のラップを直立した固定スクロールと円板状鏡板に渦巻状のラップを直立した旋回スクロールとをそれぞれのラップを互いに内側にして噛み合わせ、前記旋回スクロールを旋回運動させて前記固定スクロールの外周部の吸入口よりヘリウムガスを吸入し、前記固定スクロールの中央部の吐出口よりヘリウムガスを前記吐出室内へ吐出するように構成し、前記ヘリウムガスを冷却するための油インジェクション管を密閉容器に貫通して前記固定スクロールの鏡板部に設けた油注入用ポートに接続した油注入機構部を備えたヘリウム用密閉形圧縮機において、前記コイルエンド部を構成するコイルの表面に絶縁被膜となるワニス処理層を複数層に形成すると共に、
前記第1通路の下流側にある前記コイルエンド部の外径を拡大して、当該コイルエンド部のコイル密度を粗くすると共に、当該エンドコイル部の外周と前記密閉容器の内壁面との隙間寸法を前記第1通路の開口部の高さ寸法より小さくしたことにある。
【0010】
係る本発明の第1及び第2の態様におけるより好ましい具体的構成例は次の通りである。
(1)前記コイルエンド部を構成するコイルとしてエナメル被覆されたコイルを用いると共に、前記ワニス処理層にエポキシ系ワニス材を用いたこと。
【0011】
また、本発明の第3の態様は、作動ガスとしてヘリウムガスを用い、圧縮機部と、コイルエンド部を有するステータ及びロータからなるモータ部と、を密閉容器内に収納すると共に、フレームにて前記密閉容器内を吐出室とモータ室とに区画し、前記圧縮機部は、円板状鏡板に渦巻状のラップを直立した固定スクロールと円板状鏡板に渦巻状のラップを直立した旋回スクロールとをそれぞれのラップを互いに内側にして噛み合わせ、前記旋回スクロールを旋回運動させて、ヘリウムガスを前記固定スクロールの外周部の吸入口より吸入して前記固定スクロールの中央部の吐出口より前記吐出室内へ吐出するように構成し、前記モータ部を回転数制御するインバータを備えたヘリウム用密閉形スクロール圧縮機において、前記コイルエンド部を構成するコイルの表面に絶縁被膜となるワニス処理層を複数層に形成したことにある。
【0012】
係る本発明の第3の態様におけるより好ましい具体的構成例は次の通りである。
(1)前記密閉容器内の運転圧力が1.5MPaGから3.0MPaGの範囲に設定したこと。
【0013】
係る本発明の第2及び第3の態様におけるより好ましい具体的構成例は次の通りである。
(1)前記ステータはステータコアとこのステータコアの両側に突出する前記エンドコイル部とを有し、前記ステータコアの外周面と前記密閉容器の内壁面との間に当該ステータコアの上方と下方とを連通する通路を有するように当該ステータコアの外周面にコアーカット部を形成し、前記エンドコイル部の外径を前記コアーカット部における前記ステータコアの外径とほぼ等しい外径まで拡大して当該エンドコイル部のコイル密度を粗くしたこと。
【発明の効果】
【0014】
係る本発明のヘリウム用密閉形圧縮機によれば、コロナ放電によるコイルエンド部の絶縁破壊を防止して信頼性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の複数の実施形態について図を用いて説明する。各実施形態の図における同一符号は同一物または相当物を示す。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態のヘリウム用スクロール圧縮機を図1から図7を用いて説明する。
【0016】
まず、図1を参照しながら、本実施形態のヘリウム用密閉形スクロール圧縮機100の基本的な構成に関して説明する。図1は本発明の第1実施形態のヘリウム用密閉形スクロール圧縮機100の縦断面図である。
【0017】
ヘリウム用密閉形スクロール圧縮機100は、作動ガスとしてヘリウムガスが用いられ、密閉容器1内に圧縮機部2とモータ部3とを上下に位置して回転軸14で連接して収納すると共に、密閉容器1の底部に貯留された潤滑油23を圧縮機部2の圧縮室8に注入する油インジェクション機構部60を備えている。
【0018】
圧縮機部2は、鏡板5aに渦巻状のラップ5bを直立した固定スクロール5と、鏡板6aに渦巻状のラップ6bを直立した旋回スクロール6とを有し、これらのラップ5b、6bを互いに内側にして噛み合わせ、旋回スクロール6を回転軸14に連設する偏心軸14aに係合し、旋回スクロール6を自転することなく固定スクロール5に対し旋回運動させる。固定スクロール5には、中心部に開口する吐出口10と、外周部に開口する吸入口15とが設けられている。圧縮機部2は、旋回スクロール6の旋回運動により、吸入口15より作動ガスを吸入し、固定スクロール5及び旋回スクロール6にて形成される圧縮室8を中心に移動させ容積を減少して作動ガスを圧縮し、この圧縮された作動ガスを吐出口10より圧縮機部2上方の吐出室1a内に吐出する。
【0019】
モータ部3は、密閉容器1との間に複数の弓形状通路(第2通路)25a〜25d(図3参照)を形成するステータ3aと、このステータ3aの内側に回転可能に設けられたロータ3bとを備えている。ステータ3aは、ステータコア3fと、このステータコア3fから上下に突出するコイルエンド部3c、3dとを有している。複数の弓形状通路25a〜25dは、ステータコア3fの外周面に複数のコアーカット部3q〜3tを形成することにより構成される。
【0020】
そして、ヘリウム用密閉形スクロール圧縮機100は、インジェクション油と共に吐出された作動ガスを、圧縮機部2と密閉容器1との間に形成された矩形状通路(第1通路)18を通して圧縮機部2下方のモータ室1bの上部モータ室1b1に導き、さらにステータコア3aと密閉容器1との間に形成された弓形状通路25bを通してモータ部3下方の下部モータ室1b2に導き、さらにステータコア3aと密閉容器1との間に形成された他の弓形状通路25cを通してモータ部3上方の上部モータ室1b1に導き、さらに吐出管20を通して外部に吐出するように構成されている。この吐出管20は矩形状通路18の反対側に位置して設けられている。弓形状通路25bは、この矩形状通路18の直下に鉛直方向に対向して設けられている。
【0021】
次に、図1から図3を参照しながら、ヘリウム用密閉形スクロール圧縮機100の全体構成に関してさらに具体的に説明する。図2は図1のA−A断面図、図3は図1のB−B断面図である。
【0022】
本実施形態では、上述したように作動ガスとしてヘリウムガスを用いており、この作動ヘリウムガスを冷却するための油インジェクション管31を密閉容器1の上蓋1cに貫通して固定スクロール5の鏡板部5aに設けた油注入用ポート22に接続している。油インジェクション管31から油注入用ポート22を通して圧縮機部2の圧縮途中の圧縮室8へ油を注入する。また、密閉容器1の底部には底部の潤滑油23を器外へ取出す油取り出し管30が設けられている。
【0023】
圧縮機部2は、固定スクロール5と旋回スクロール6とを互いに噛み合わせて圧縮室8を形成している。固定スクロール5は、円板状の鏡板5aと、これに直立したインボリュート曲線あるいはこれに近似の曲線に形成されたラップ5bとからなり、その中心部に吐出口10、外周部に吸入口15を備えている。旋回スクロール6は、円板状の鏡板6aと、これに直立し、固定スクロールのラップ5bと同一形状に形成されたラップ6bと、鏡板の反ラップ面に形成されたボス部6cとからなっている。
【0024】
フレーム7は、密閉容器1内を、圧縮機部2側の吐出室1aと、モータ部3側のモータ室1bとに区画している。矩形状通路18は、固定スクロール5及びフレーム7の外縁部と密閉容器1の内壁面1mとの間に形成された通路18a、18bで構成されている。このフレーム7は、中央部に軸受部40を設けており、この軸受部40に回転軸14を支承している。また、このフレーム7は固定スクロール5を複数本のボルト81によって固定している。
【0025】
回転軸14の上端部を構成する偏心軸14aは、ボス部6cに旋回運動が可能なように挿入されている。旋回スクロール6はオルダムリングおよびオルダムキーよりなるオルダム機構38によってフレーム7に支承され、旋回スクロール6は固定スクロール5に対して、自転しないで旋回運動をするように形成されている。回転軸14は、モータ軸14bを一体に連設しており、モータ部3に直結されている。
【0026】
固定スクロール5の吸入口15には密閉容器2の上蓋1cを貫通して吸入管17が接続されている。吐出口10が開口している吐出室1aは、圧縮機部2の外縁部(固定スクロール5及びフレーム7の外縁部)の通路18(18a、18b)を介してモータ室1bと連通している。このモータ室1bは、密閉容器1の中央部を構成するケーシング部1dを貫通する吐出管19と連通されている。吐出管19は通路18a、18bに対してほぼ反対側の位置に設置されている。この両者18、19の位置関係は、通路18を通過した作動ガスとインジェクション油の混合体が、その通路18の鉛直方向となる弓形状通路25bへ向かう下方向の流れ経路と、ステータ上面やその周囲のコイルエンド部3cとの衝突によって水平方向に向かう流れ経路との二手に分かれる。水平方向の流れ経路は、容器内壁に沿って弓形状通路25a、25dへ向かう流れ経路と、中央部を通って吐出管19に向かう流れ経路とに分流される。
【0027】
モータ部3は、ステータ3aとケーシング部1dの内壁面1mとの間に作動ガスとインジェクション油との混合体の流路部となる弓形状通路25bを形成し、その他の流路部としての弓形状通路25a、25c、25dを形成している。弓形状通路25bでは主に作動ガスとインジェクション油との混合体が下方向に向う流れとなり、弓形状通路25cでは作動ガスのみが上方向に向う流れとなる。また、ステータ3aとロータ3bとのエアーギャップ26もガス通路となり、エアーギャップ26を介して空間1b1と空間1b2とが連通している。
【0028】
このような容器内部のモータ室1b1、1b2の作動ガスとインジェクション油の混合体の流れによって、60℃〜70℃の比較的低温なインジェクション油を含む作動ガスによるモータ部3への直接冷却が可能となる。また、作動ガス中の油は、そのモータ室1b1、1b2にて作動ガスから分離されて下方に流れ、密閉容器1の底部に貯留される。
【0029】
ハーメ端子部70は、密閉容器1に取付けられ、モータリード線3mを介してモータ部3に電力を供給する。
【0030】
なお、吸入管17と固定スクロール5との間には高圧部と低圧部とをシールするOリング53が設けられている。また、吸入管17内には、逆止弁手段13が設けられている。逆止弁13は、圧縮機停止時の回転軸14の逆転を防止すると共に、密閉容器1内の潤滑油23が低圧側に流出するのを防止するためのものである。
【0031】
また、旋回スクロール6の鏡板6aの背面には、圧縮機部2とフレーム7で囲まれた空間36(以下背圧室と呼ぶ)が形成される。この背圧室36には旋回スクロール6の鏡板6aに穿設した細孔6dを介して吸入圧力Psと吐出圧力Pdの中間の圧力Pbが導入され、旋回スクロール6を固定スクロール5に押付ける軸方向の付与力を与えている。
【0032】
潤滑油23は密閉容器1の底部に溜められる。この潤滑油23は、密閉容器1内の高圧圧力と背圧室36の中間圧力Pbとの差圧により油吸上管27へ吸上げられ、回転軸14内を流れ、旋回軸受32、横穴51を介して主軸受40、補助軸受39へ給油される。主軸受40、補助軸受39へ給油された油は、背圧室36を経て、穴6dを介してスクロールラップの圧縮室8へ注入されて圧縮ガスと混合され、ヘリウムガスと共に吐出室1aへ吐出される。
【0033】
次に、図1を参照しながら、ヘリウム用密閉形スクロール圧縮機100の油インジェクションによる注油系統に関して説明する。
【0034】
密閉容器1の底部に溜められた潤滑油23は、密閉容器1内の圧力(吐出圧力Pd)と圧縮室8の圧力(吐出圧力Pdより低い圧力)との差圧によって油取り出し管30の流入部30aから油取り出し管30内に流入していく。油取り出し管30の油入り口部30a内へ流入した油は外部油配管51を通って油冷却器33へ至り、ここで適宜冷却された後、油配管52a、52bを介して油インジェクション管31およびポート22を経て差圧を利用し流入せしめ圧縮室8へ注入される。なお、図1において、271は油流量調節弁である。
【0035】
この様にして圧縮室8へ注入された油は、圧縮室8内において作動ガスの冷却作用およびスクロールラップ先端部等の摺動部を潤滑する役目を果す。そして、油インジェクションによる注油系統から圧縮室8へ供給された油及び主軸受40、補助軸受39を通して圧縮室8へ給油された油は、作動ガスと共に吐出口10より吐出室1aへ吐出され、ヘリウムガスとミスト状油との混合流体の流れとなる。この混合流体は、矩形状通路18a、18bを介してモータ室1bに移動することになり、前述したようにモータ室1bで作動ガスから分離されて弓形状通路25などを介して流下し密閉容器2の底部に溜まる。
【0036】
次に、図1、図4から図7を参照しながら、モータ部3のコイルエンド部3c、3dに関してさらに具体的に説明する。図4は図1のモータ部3に用いるステータ3aを横にした状態の断面図、図5は図1のモータ部3に用いるステータ3aの平面図、図6は図4の本実施形態のコイルエンド部3c、3dにおけるコイル部分の断面拡大図、図7は図4の従来例のコイルエンド部3c’、3d’におけるコイル部分の断面拡大図である。
【0037】
図4及び図5の実線で示す本実施形態のコイルエンド部3c、3dは、一点差線で示す従来例のコイルエンド部3c’、3d’より、その外径寸法Dc及び高さ寸法Lm1,Lm2が大きく形成され、そのコイル密度が粗く形成されている。これによって、コイル整形時の電工作業におけるコイル整形量を従来例より緩和することができ、電工作業時のコイルの傷の発生を抑制することができる。従って、コイル傷の発生に起因するコロナ放電の発生を抑制することができる。
【0038】
なお、本実施形態では、コイルエンド部3cの高さ寸法Lm1はコイルエンド部3dの高さ寸法Lm2寸法と同等としている。また、ステータ外径Dsと高さ寸法Lm1、Lm2との関係をLm1/Ds=Lm2/Ds=0.26〜0.30とすることが実用的に適切である。
【0039】
また、エンドコイル部3c、3dは、コアーカット部3q〜3tにおけるステータコア3fの外径Lcとほぼ等しい外径Dcまで拡大されている。これによって、弓形状通路25a〜25dの通路面積を確保しつつ、コイル整形量の緩和を図ることができる。
【0040】
さらには、図1に示すように、エンドコイル部3c、3dの外周と密閉容器1の内壁面1mとの隙間寸法S1が矩形状通路18bの開口部の高さ寸法H1より小さくなるようにエンドコイル部3c、3dの外径が拡大されている。これにより、矩形状通路18bの開口部から流下する油とヘリウムガスとの混合体がコイルエンド部3c上面に直接衝突することになり、密閉容器1内における油分離性が向上でき、密閉容器1から外部に油が流出する、いわゆる油上りの量を格段に低減できる。特に、ガス流量が最大となる過負荷圧力条件においては、衝突分離性能が発揮しやすくなるので、油上り量はさらに低減できる。ヘリウム用密閉形圧縮機は主に半導体製造装置に用いられるクライオポンプ装置に使用されているが、油上り量の低減により、ヘリウム圧縮機ユニットに搭載される油吸着器(アドゾーバ)の寿命が延びることになり、ヘリウム圧縮機ユニットのメンテナンス時間の長寿命化及びメンテナンスコストの低減にも効果が波及されることになり、ヘリウム用密閉形圧縮機に固有の効果が得られる。
【0041】
さらには、本実施形態のコイルエンド部3c、3dを構成するコイル3eの表面には、図6に示すように、絶縁被膜となるワニス処理層50が複数層に形成されている。ワニス処理層50のワニス塗料材は、電気絶縁性の高いエポキシ系ワニス材が用いられている。この複数層のワニス処理層50は、ワニス処理を複数回(図示例では、2回)実施することにより形成された第1ワニス処理層50aと第2ワニス処理層50bとからなっている。このワニス処理は、各コイルエンド部3c、3dをワニス槽に浸漬して取出し、これを複数回繰り返すことにより行われる。これに対し、従来例のコイルエンド部3c’、3d’を構成するコイル3eの表面には、図7に示すように、絶縁被膜となるワニス処理層50’が単層に形成されている。
【0042】
本実施形態では、複数層のワニス処理層50を形成するため、モータ部3の上下のコイルエンド部3c、3dの外径Dcとステータ3aの外径Dsとの比となるDc/Ds値を約0.95に設定し、コイル3eの密度を従来例より粗くしている。コイル3eの密度は、概略、コイル断面積/全体占有面積で表現され、この値が大きいほどコイル3e相互間の隙間が小さくなり、コイル3e相互間で接触する可能性が増大する。コイル3e相互間で接触すると、コイル3eに傷が発生する要因になる。従来例のコイル3eの密度は約50%であるのに対し、本実施形態のコイル3eの密度は約40%であり、比率で約2割の低減となっている。この点からも、本実施形態では、電工作業時のコイル傷の発生を抑制することができこととなり、コイル傷の発生に起因するコロナ放電の発生を抑制することができる。
【0043】
本実施形態のコイルエンド部3c、3d及び従来例のコイルエンド部3c’、3d’のコイル3eは、エナメル被覆(ポリエステル系フィルム絶縁材)の電線が用いられている。エナメル被覆のコイル3eをワニス槽に浸漬して第1回目のワニス処理を行うことにより、コイル3eの表面に厚さ寸法Δ1の第1ワニス処理層50a、ワニス処理層50’が形成される。この厚さ寸法Δ1は、例えば、数μm程度である。第1回目のワニス処理による第1ワニス処理層50a、ワニス処理層50’を形成するだけでは、コイル3eを覆っていない非ワニス処理部または極めて薄いワニス処理部が部分的に発生する場合があり、コロナ放電の発生の原因ともなっていた。特に、コイル3eの表面のエナメル被覆に微小なピンホール(母線露出部)がある場合、このピンホールと非ワニス処理部または極めて薄いワニス処理部とが重なると、特にコロナ放電が発生しやすかった。
【0044】
そこで、本実施形態では、第1ワニス処理層50aを形成したコイルエンド部3c、3dを浸漬して第2回目のワニス処理を行うことにより、コイル3eの表面に厚さ寸法Δ2の複数層のワニス処理層50を形成している。この複数層のワニス処理層50は第1ワニス処理層50aと第2ワニス処理層50bとからなっている。この厚さ寸法Δ2は、従来例のワニス処理層50’の厚さ寸法Δ1に対して、約2倍の絶縁被膜の厚さになっている。この第2ワニス処理層50bは、第1ワニス処理層50aにおける非ワニス処理部または極めて薄いワニス処理部を覆うように形成されるので、コロナ放電の発生を防止することができる。また、コイル3eの密度を粗くしたことにより、コイル3e間の隙間L3〜L5が従来例の隙間L1〜L2より広がり、ワニス処理時にワニス材が浸透しやすくなって、コイル3e表面に生ずる微小なピンホールがある場合でも、その微小なピンホール部を確実に被覆でき、モータ全体としての絶縁性が飛躍的に向上できる。
【0045】
コイルエンド部3c、3dのコイル3eの表面に複数層のワニス処理層50を形成すると、この部分からの放熱特性が低下する。そこで、本実施形態では、上述したように、油インジェクションによるモータ冷却を図っていること、矩形状通路18bから流下する油とヘリウムガスとの混合体がコイルエンド部3c上面に直接衝突することによりコイル3eへの油の冷却効果を促進すること、コイル3eの密度を粗くすることによりコイル3e間に油を浸透しやすくしてコイル3eへの油の冷却効果を促進すること、などの対策を講じている。これによって、過負荷条件時などの過酷試験条件においても、コイルエンド部3c、3dの温度上昇を防止でき、モータ寿命の低下やモータ焼損による信頼性の低下を防止することができる。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図8から図10を用いて説明する。図8は本発明の第2実施形態のヘリウム用密閉形スクロール圧縮機100の縦断面図、図9は第2実施形態の複数層のワニス処理層及び従来例の単層のワニス処理層の各コロナ開始電圧特性を示す図、図10は第2実施形態及び従来例の各運転範囲を示す図である。この第2実施形態は、次に述べる点で第1実施形態と相違するものであり、その他の点については第1実施形態と基本的には同一であるので、重複する説明を省略する。
【0046】
この第2実施形態は、インバータ400によって駆動されるヘリウム用密閉形スクロール圧縮機の例である。この第2実施形態では、密閉容器1のケーシング部2bには、モータ部3にモータリード線3mを介して接続されたハーメチック端子70が設置されている。このハーメチック端子70には、商用電源500から配線450、インバータ400及び配線390を通して商用電源電圧が供給される。
【0047】
例えば、米国地域などの商用電源480Vにおいては、インバータ駆動により発生するサージ電圧は、最大で、2×480×√2=約1400Vの高電圧がハーメ端子70ひいてはコイルエンド部3c、3dのコイル3e間に作用することになる。高圧なサージ電圧がコイルエンド部3c、3dのコイル3e間に作用しても、第1実施形態と同様に、ワニス絶縁材料の被膜厚さが従来の1回実施に対して複数倍の厚く設定されること、コイル部のエナメル線にピンホールなどが介在していてもワニス絶縁材の皮膜が確実になされることにより、コロナ放電による絶縁破壊作用を防止でき、またコイル3eの傷によるレアーショートを防止できる。
【0048】
本実施形態では、インバータ400によって密閉容器内の運転圧力が1.5MPaGから3.0MPaGの範囲に設定している。これによって、コロナ放電の発生を確実に防止することができる。
【0049】
そのことを、図9及び図10を用いて具体的に説明する。図9はヘリウムガスの雰囲気圧力とコロナ放電開始電圧との関係を示す。C特性がワニス処理1回の従来例であり、B特性が2回ワニス処理したこの第2実施形態の場合であり、A特性が3回のワニス処理を実施した場合である。このように、コロナ放電開始電圧は、ワニス処理回数の影響とともに雰囲気圧力に大きく影響することが判明し、また、複数層のワニス処理をすると共にモータ部3の周囲のヘリウムガスの圧力(すなわち、密閉容器1内の圧力)を1.5MPaGとすることにより、極めて高いコロナ放電開始電圧とすることができることが判明した。この結果から、インバータ制御するヘリウム用スクロール圧縮機においては、図10に示すように運転中の容器内圧力を1.5MPaG以上設定すれば、インバータ駆動により発生するサージ電圧によるモータ絶縁破壊を確実に防止できる。なお、上限の3.0MPaGは、密閉容器1の強度上の制約である。
【0050】
潤滑油23は密閉容器1の底部に溜められており、下部コイルエンド部3dの高さLm2を大きくして油面23cにコイルエンド部3dの下端部が浸かるようにしてある。これによって、モータ部3の冷却がより確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第1実施形態のヘリウム用密閉形スクロール圧縮機の縦断面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1のB−B断面図である。
【図4】図1のモータ部に用いるステータを横にした状態の断面図である。
【図5】図1のモータ部に用いるステータの平面図である。
【図6】図4の本実施形態のコイルエンド部におけるコイル部分の断面拡大図である。
【図7】図4の従来例のコイルエンド部におけるコイル部分の断面拡大図である。
【図8】本発明の第2実施形態のヘリウム用密閉形スクロール圧縮機の縦断面図である。
【図9】第2実施形態の複数層のワニス処理層及び従来例の単層のワニス処理層の各コロナ開始電圧特性を示す図である。
【図10】第2実施形態及び従来例の各運転範囲を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1…密閉容器、1a…吐出室、1b、1b1、1b2…モータ室、1d…ケーシング部、2…圧縮機部、3…モータ部、3a…ステータ、3b…ロータ、3c、3d…コイルエンド部、3f…ステータコア、3m…主電源用リード線、3q〜3t…コアーカット部、5…固定スクロール、6…旋回スクロール、7…フレーム、8…圧縮室、10…吐出口、14…回転軸、14a…偏心軸、15…吸入口、17…吸入管、18、18a,18b…矩形状通路(第1通路)、20…吐出管、22…ポート、23…潤滑油、25…第ニ通路、25a〜25d…弓形状通路(第2通路)、30…油取り出し管、31…油インジェクション管、32…旋回軸受、38…オルダム機構、39…補助軸受、40…主軸受、50…ワニス処理層、50a…第1ワニス処理層、50b…第2ワニス処理層、60…油インジェクション機構部、400…インバータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動ガスとしてヘリウムガスを用い、
圧縮機部と、コイルエンド部を有するステータ及びロータからなるモータ部と、を密閉容器内に収納すると共に、
前記圧縮機部の吐出口から前記密閉容器内に吐出したヘリウムガスを前記コイルエンド部を通してから当該密閉容器外に吐出するヘリウム用密閉形圧縮機において、
前記コイルエンド部を構成するコイルの表面に絶縁被膜となるワニス処理層を複数層に形成した
ことを特徴とするヘリウム用密閉形圧縮機。
【請求項2】
作動ガスとしてヘリウムガスを用い、
圧縮機部とコイルエンド部を有するステータ及びロータからなるモータ部とを上下に配置して密閉容器内に収納し、
フレームにて前記密閉容器内を吐出室とモータ室とに区画し、
前記フレームの外周面と前記密閉容器の内壁面との間に、前記吐出室と前記モータ室とを連通する矩形状の第1通路を設け、
前記ステータの外周面と前記密閉容器の内壁面との間に、当該ステータの上方のモータ上部室と当該ステータの下方の底部に油溜まりを有するモータ下部室とを連通する第2通路を設け、
前記圧縮機部は、円板状鏡板に渦巻状のラップを直立した固定スクロールと円板状鏡板に渦巻状のラップを直立した旋回スクロールとをそれぞれのラップを互いに内側にして噛み合わせ、前記旋回スクロールを旋回運動させて前記固定スクロールの外周部の吸入口よりヘリウムガスを吸入し、前記固定スクロールの中央部の吐出口よりヘリウムガスを前記吐出室内へ吐出するように構成し、
前記ヘリウムガスを冷却するための油インジェクション管を密閉容器に貫通して前記固定スクロールの鏡板部に設けた油注入用ポートに接続した油注入機構部を備えたヘリウム用密閉形圧縮機において、
前記コイルエンド部を構成するコイルの表面に絶縁被膜となるワニス処理層を複数層に形成すると共に、
前記第1通路の下流側にある前記コイルエンド部の外径を拡大して、当該コイルエンド部のコイル密度を粗くすると共に、当該エンドコイル部の外周と前記密閉容器の内壁面との隙間寸法を前記第1通路の開口部の高さ寸法より小さくした
ことを特徴とするヘリウム用密閉形スクロール圧縮機。
【請求項3】
請求項1または2において、前記コイルエンド部を構成するコイルとしてエナメル被覆されたコイルを用いると共に、前記ワニス処理層にエポキシ系ワニス材を用いたことを特徴とするヘリウム用密閉形圧縮機。
【請求項4】
作動ガスとしてヘリウムガスを用い、
圧縮機部と、コイルエンド部を有するステータ及びロータからなるモータ部と、を密閉容器内に収納すると共に、
フレームにて前記密閉容器内を吐出室とモータ室とに区画し、
前記圧縮機部は、円板状鏡板に渦巻状のラップを直立した固定スクロールと円板状鏡板に渦巻状のラップを直立した旋回スクロールとをそれぞれのラップを互いに内側にして噛み合わせ、前記旋回スクロールを旋回運動させて、ヘリウムガスを前記固定スクロールの外周部の吸入口より吸入して前記固定スクロールの中央部の吐出口より前記吐出室内へ吐出するように構成し、
前記モータ部を回転数制御するインバータを備えたヘリウム用密閉形スクロール圧縮機において、
前記コイルエンド部を構成するコイルの表面に絶縁被膜となるワニス処理層を複数層に形成した
ことを特徴とするヘリウム用密閉形圧縮機。
【請求項5】
請求項4において、前記密閉容器内の運転圧力が1.5MPaGから3.0MPaGの範囲に設定したことを特徴とするヘリウム用密閉形圧縮機。
【請求項6】
請求項2または4において、前記ステータはステータコアとこのステータコアの両側に突出する前記エンドコイル部とを有し、前記ステータコアの外周面と前記密閉容器の内壁面との間に当該ステータコアの上方と下方とを連通する通路を有するように当該ステータコアの外周面にコアーカット部を形成し、前記エンドコイル部の外径を前記コアーカット部における前記ステータコアの外径とほぼ等しい外径まで拡大して当該エンドコイル部のコイル密度を粗くしたことを特徴とするヘリウム用密閉形圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−51050(P2008−51050A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−230085(P2006−230085)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】