説明

ベルト式無段変速機

【課題】既存部品と可動シーブに作用する力を利用し、コスト増を招くことなく変速比ロック機能を発揮させること。
【解決手段】ベルト式無段変速機は、プライマリプーリ42と、セカンダリプーリ43と、ベルト44と、ボール14,14と、カッター切り上がり円弧溝15と、ロック固定用スナップリング16と、ロック解除用スナップリング17と、を備える。ロック固定用スナップリング16は、可動シーブ筒状軸42fが最ハイ変速比によるロック位置へ向かうとき、プライマリ可動シーブ42bが受ける油圧推力に基づきボール14,14に締結力を入力する。ロック解除用スナップリング17は、可動シーブ筒状軸42fが最ハイ変速比のロック位置から離れるとき、プライマリ可動シーブ42bが受けるベルト反力に基づきボール14,14に解除力を入力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プライマリプーリの対向する一対のシーブ面と、セカンダリプーリの対向する一対のシーブ面と、にベルトが巻き掛けられたベルト式無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト式無段変速機は、高速走行時、プライマリプーリにより必要なベルトクランプ力を確保し、伝達トルクの変動に対して最ハイ変速比を維持する。このとき、プライマリプーリへのプライマリ圧がユニット内での最大油圧になるため、オイルポンプからのポンプ吐出圧に基づいて調圧するライン圧を、少なくともプライマリ圧まで上げる必要がある。そのため、高速走行を長時間にわたって維持する高速巡航中においては、オイルポンプの駆動トルクを下げることができず、オイルポンプの駆動トルクをエンジンから得るエンジン搭載車の場合、燃費の向上を図ることができない。
【0003】
そこで、ベルト式無段変速機において、所定の変速比位置にてプライマリ可動シーブをプライマリ固定シーブに対してロックする変速比ロック機構が提案されている。従来の変速比ロック機構としては、油圧封入によりプライマリ可動シーブを所定の変速比位置にて固定する油圧式変速比ロック機構(例えば、特許文献1参照)、あるいは、噛み合い係止によりプライマリ可動シーブを所定の変速比位置にて固定する噛み合い式変速比ロック機構(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−51154号公報
【特許文献2】特開2006−170387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、油圧式変速比ロック機構を採用した従来のベルト式無段変速機にあっては、プライマリ圧室に油圧を封入するためのバルブ構造の追加が必要となる。また、噛み合い式変速比ロック機構を採用した従来のベルト式無段変速機にあっては、プライマリ可動シーブを噛み合い係止させるための油圧モータや係合爪構造の追加が必要となる。このため、何れの変速比ロック機構を採用しても、部品点数の増加となりコスト増を招く、という問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、既存部品と可動シーブに作用する力を利用し、コスト増を招くことなく変速比ロック機能を発揮させることができるベルト式無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のベルト式無段変速機は、プライマリプーリと、セカンダリプーリと、ベルトと、介在部品と、軸方向テーパ溝と、介在部品自由度規制部材と、を備える手段とした。
前記プライマリプーリは、固定シーブと可動シーブを有し、固定シーブ軸に嵌合する可動シーブ筒状軸が軸方向に摺動する。
前記セカンダリプーリは、固定シーブと可動シーブを有し、固定シーブ軸に嵌合する可動シーブ筒状軸が軸方向に摺動する。
前記ベルトは、前記プライマリプーリの一対のシーブ面と前記セカンダリプーリの一対のシーブ面に巻き掛けられ、駆動源からの駆動力を伝達する。
前記介在部品は、前記固定シーブ軸に有する固定側軸方向溝と、前記可動シーブ筒状軸の内径側に有する前記可動側軸方向溝と、の間に介装され、前記可動シーブ筒状軸がロー変速比からハイ変速比までの変速領域を軸方向にスライド動作するときの摺動抵抗を低減する。
前記軸方向テーパ溝は、前記固定側軸方向溝と前記可動側軸方向溝のうち少なくとも一方の溝に形成され、最ハイ変速比領域または最ロー変速比領域における前記2つの軸方向溝による溝間の深さを、変速比の限界側に向かうほど徐々に浅くする。
前記介在部品自由度規制部材は、前記固定シーブ軸または前記可動シーブ筒状軸に対する前記溝に沿った相対移動を僅かな自由度を残して規制する位置に設けられ、前記可動シーブ筒状軸が最ハイ変速比または最ロー変速比によるロック位置へ向かうとき、前記可動シーブが受ける油圧推力に基づき前記介在部品に締結力を入力し、前記可動シーブ筒状軸が最ハイ変速比または最ロー変速比のロック位置から離れるとき、前記可動シーブが受けるベルト反力に基づき前記介在部品に解除力を入力する。
【発明の効果】
【0008】
よって、プライマリプーリまたはセカンダリプーリの可動シーブ筒状軸が、最ハイ変速比または最ロー変速比によるロック位置へ向かうとき、可動シーブが受ける油圧推力に基づく締結力が、介在部品自由度規制部材から介在部品に入力される。このため、締結力が加えられた介在部品が、溝間の深さが徐々に浅くなる軸方向テーパ溝に押し込まれ、介在部品と可動シーブと固定シーブの接触面間にて摩擦抵抗力が増加する。この摩擦抵抗力が増加した介在部品をロック部材とし、可動シーブが最ハイ変速比または最ロー変速比の位置にロック固定される。
一方、プライマリプーリまたはセカンダリプーリの可動シーブ筒状軸が、最ハイ変速比または最ロー変速比によるロック位置から離れるとき、可動シーブに作用するベルト反力に基づく解除力が、介在部品自由度規制部材から介在部品に入力される。このため、介在部品が、加えられた解除力により軸方向テーパ溝から離脱し、可動シーブは、最ハイ変速比または最ロー変速比の位置からロック解除される。
ここで、可動シーブの固定シーブに対する軸方向位置を固定するロック部材として用いられる介在部品(例えば、ボール、コロ、その他)は、可動シーブ筒状軸がロー変速比からハイ変速比までの変速領域を軸方向にスライド動作するときの摺動抵抗を低減するための既存部品である。
この結果、既存部品と可動シーブに作用する力を利用し、コスト増を招くことなく変速比ロック機能を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1のベルト式無段変速機を搭載したエンジン車の駆動系と制御系を示す全体システム図である。
【図2】実施例1のベルト式無段変速機のプライマリプーリに採用された最ハイ変速比ロック機構Aにおける最ロー変速比状態を示す断面図である。
【図3】実施例1のベルト式無段変速機のプライマリプーリに採用された最ハイ変速比ロック機構Aにおける最ハイ変速比でのロック固定作用を示す断面図である。
【図4】実施例1のベルト式無段変速機のプライマリプーリに採用された最ハイ変速比ロック機構Aにおける最ハイ変速比でのロック固定作用を示す要部拡大断面図である。
【図5】実施例1のベルト式無段変速機のプライマリプーリに採用された最ハイ変速比ロック機構Aにおける最ハイ変速比からのロック解除作用を示す断面図である。
【図6】実施例1のベルト式無段変速機のプライマリプーリに採用された最ハイ変速比ロック機構Aにおける最ハイ変速比からのロック解除作用を示す要部断面図である。
【図7】実施例1のCVTコントロールユニットにて実行されるユニット要素圧制御処理の構成および流れを示すフローチャートである。
【図8】最ハイ変速比ロック機構を備えていないベルト式無段変速機を搭載した比較例のエンジン車において加速から巡航に移行したときの車速・変速比・ライン圧PL・プライマリ圧Ppri・セカンダリ圧Psecの各特性を示すタイムチャートである。
【図9】実施例1のベルト式無段変速機における変速比と油圧(ライン圧PL・プライマリ圧Ppri・セカンダリ圧Psec)の関係の一例を示す油圧特性図である。
【図10】実施例1のベルト式無段変速機を搭載したエンジン車において加速から巡航に移行したときの変速比・ライン圧PL・プライマリ圧Ppri・セカンダリ圧Psecの各特性を示すタイムチャートである。
【図11】他の実施例のベルト式無段変速機のプライマリプーリに採用された最ハイ変速比ロック機構A’における最ハイ変速比状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のベルト式無段変速機を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1のベルト式無段変速機を搭載したエンジン車の駆動系と制御系を示す全体システム図である。以下、図1に基づき全体システム構成を説明する。
【0012】
実施例1のベルト式無段変速機を搭載したエンジン車の駆動系は、図1に示すように、エンジン1と、トルクコンバータ2と、前後進切替機構3と、ベルト式無段変速機構4と、終減速機構5と、駆動輪6,6と、を備えている。
【0013】
前記エンジン1は、ドライバーのアクセル操作による出力トルクの制御以外に、外部からのエンジン制御信号によりエンジン回転数や燃料噴射量が制御可能である。このエンジン1には、スロットルバルブ開閉動作や燃料カット動作等により出力トルク制御を行う出力トルク制御アクチュエータ10を有する。
【0014】
前記トルクコンバータ2は、トルク増大機能を有する流体伝動装置であり、トルク増大機能を必要としないとき、エンジン出力軸11(=トルクコンバータ入力軸)とトルクコンバータ出力軸21を直結可能なロックアップクラッチ20を有する。このロックアップクラッチ20は、ロックアップ要求時、直結状態を保つロックアップ圧により油圧締結される。トルクコンバータ2は、エンジン出力軸11にコンバータハウジング22を介して連結されたタービンランナ23と、トルクコンバータ出力軸21に連結されたポンプインペラ24と、ワンウェイクラッチ25を介して設けられたステータ26と、を構成要素とする。
【0015】
前記前後進切替機構3は、ベルト式無段変速機構4への入力回転方向を前進走行時の正転方向と後退走行時の逆転方向で切り替える機構である。この前後進切替機構3は、ダブルピニオン式遊星歯車30と、前進クラッチ31と、後退ブレーキ32と、を有する。前記ダブルピニオン式遊星歯車30は、サンギヤがトルクコンバータ出力軸21に連結され、キャリアが変速機入力軸40に連結される。前進クラッチ31は、前進走行時にクラッチ圧により締結し、ダブルピニオン式遊星歯車30のサンギヤとキャリアを直結する。前記後退ブレーキ32は、後退走行時にブレーキ油圧により締結し、ダブルピニオン式遊星歯車30のリングギヤをケースに固定する。
【0016】
前記ベルト式無段変速機構4は、ベルト接触径の変化により変速機入力軸40の入力回転数と変速機出力軸41の出力回転数の比である変速比を無段階に変化させる無段変速機能を有する。このベルト式無段変速機構4は、プライマリプーリ42と、セカンダリプーリ43と、ベルト44と、を有する。
【0017】
前記プライマリプーリ42は、プライマリ固定シーブ42a(固定シーブ)と、プライマリ可動シーブ42b(可動シーブ)と、により構成される。プライマリ固定シーブ42aには、固定シーブ軸42eが一体に形成される。プライマリ可動シーブ42bには、固定シーブ軸42eと同軸心配置で中空円筒状の可動シーブ筒状軸42fが一体に形成される。そして、固定シーブ軸42eに可動シーブ筒状軸42fを嵌合することで、プライマリ圧室45に導かれるプライマリ圧により、固定シーブ軸42eに対して可動シーブ筒状軸42fが軸方向に摺動する。なお、プライマリプーリ42には、プライマリ固定シーブ42aに対する最ハイ変速比の軸方向位置にてプライマリ可動シーブ42bをロックする最ハイ変速比ロック機構Aを備えている。
【0018】
前記セカンダリプーリ43は、セカンダリ固定シーブ43a(固定シーブ)と、セカンダリ可動シーブ43b(可動シーブ)と、により構成される。セカンダリ固定シーブ43aには、固定シーブ軸43eが一体に形成される。セカンダリ可動シーブ43bには、固定シーブ軸43eと同軸心配置で中空円筒状の可動シーブ筒状軸43fが一体に形成される。そして、固定シーブ軸43eに可動シーブ筒状軸43fを嵌合することで、セカンダリ圧室46に導かれるセカンダリ圧により、固定シーブ軸43eに対して可動シーブ筒状軸43fが軸方向に摺動する。
【0019】
前記ベルト44は、プライマリプーリ42のV字形状をなす一対のプライマリシーブ面42c,42dと、セカンダリプーリ43のV字形状をなす一対のセカンダリシーブ面43c,43dと、に巻き掛けられている。このベルト44は、環状リングを内から外へ多数重ね合わせた2組の積層リングと、打ち抜き板材により形成され、2組の積層リングに対する挟み込みにより互いに連接して環状に設けられた多数のエレメントと、により構成される。
【0020】
前記終減速機構5は、ベルト式無段変速機構4の変速機出力軸41からの変速機出力回転を減速すると共に差動機能を与えて左右の駆動輪6,6に伝達する機構である。この終減速機構5は、変速機出力軸41とアイドラ軸50と左右のドライブ軸51,51に介装され、減速機能を持つ第1ギヤ52と、第2ギヤ53と、第3ギヤ54と、第4ギヤ55と、差動機能を持つディファレンシャルギヤ56を有する。
【0021】
実施例1のベルト式無段変速機を搭載したエンジン車の制御系は、図1に示すように、両調圧方式による油圧制御ユニットである変速油圧コントロールユニット7と、電子制御ユニットであるCVTコントロールユニット8と、を備えている。
【0022】
前記変速油圧コントロールユニット7は、プライマリ圧室45に導かれるプライマリ圧Ppriと、セカンダリ圧室46に導かれるセカンダリ圧Psecと、を作り出すユニットである。この変速油圧コントロールユニット7は、オイルポンプ70と、レギュレータ弁71と、ライン圧ソレノイド72と、第1減圧弁73と、第1ソレノイド74と、第2減圧弁75と、第2ソレノイド76と、を備えている。
【0023】
前記レギュレータ弁71は、オイルポンプ70から吐出圧を元圧とし、ライン圧PLを調圧する弁である。このレギュレータ弁71は、ライン圧ソレノイド72を有し、オイルポンプ70から圧送された油の圧力を、CVTコントロールユニット8からの指令に応じて所定のライン圧PLに調圧し、ライン圧油路77に導く。このオイルポンプ70は、トルクコンバータ出力軸21からのエンジン駆動トルクを受けてポンプ駆動する。
【0024】
前記第1減圧弁73は、レギュレータ弁71により作り出されたライン圧PLを元圧とし、プライマリ圧室45に導くプライマリ圧Ppriを減圧制御により調圧するノーマリーハイのスプールバルブである。この第1減圧弁73は、CVTコントロールユニット8からの指示電流により動作する第1ソレノイド74を備える。
【0025】
前記第2減圧弁75は、レギュレータ弁71により作り出されたライン圧PLを元圧とし、セカンダリ圧室46に導くセカンダリ圧Psecを減圧制御により調圧するノーマリーハイのスプールバルブである。この第2減圧弁75は、CVTコントロールユニット8からの指示電流により動作する第2ソレノイド76を備える。
【0026】
前記CVTコントロールユニット8は、変速比制御やライン圧制御や前後進切替制御やロックアップ制御、等を行うユニットである。このCVTコントロールユニット8は、プライマリ回転センサ80、セカンダリ回転センサ81、セカンダリ圧センサ82、油温センサ83、インヒビタースイッチ84、ブレーキスイッチ85、アクセル開度センサ86、車速センサ87、タービン回転センサ88等からのセンサ・スイッチ情報を入力する。なお、エンジンコントロールユニット90からエンジン回転センサ91からのエンジン回転数情報等の必要情報を入力し、エンジンコントロールユニット90へエンジン回転数制御指令やフューエルカット指令やフューエルカットリカバー指令等を出力する。このCVTコントロールユニット8で行われる、変速比制御・ライン圧制御・前後進切替制御・ロックアップ制御の概略を説明する。
【0027】
前記変速比制御は、変速機入力回転数やアクセル開度等に応じて決められる目標変速比を達成するようにプライマリ圧室45へのプライマリ圧Priと、セカンダリ圧室46へのセカンダリ圧Psecを設定する。そして、設定したプライマリ圧Priとセカンダリ圧Psecを得る指示電流を第1ソレノイド74と第2ソレノイド76に出力する制御である。
【0028】
前記ライン圧制御は、ベルト式無段変速機の各油圧要素(ロックアップクラッチ20、前進クラッチ31、後退ブレーキ32、プライマリプーリ42、セカンダリプーリ43)での必要油圧のうち最大油圧を目標ライン圧として設定する。そして、設定した目標ライン圧を得る指示電流をライン圧ソレノイド72に出力する制御である。
【0029】
前記前後進切替制御は、選択されているレンジ位置に応じて前進クラッチ31と後退ブレーキ32を締結/解放する制御である。また、前記ロックアップ制御は、走行状況がロックアップ領域であるか否かの判断に応じてロックアップクラッチ20を締結/解放する制御である。
【0030】
図2〜図6は、実施例1のベルト式無段変速機のプライマリプーリ42に採用された最ハイ変速比ロック機構Aの詳細を示す。以下、図2〜図4に基づいて最ハイ変速比ロック機構Aの構成を説明する。
【0031】
前記最ハイ変速比ロック機構Aは、図2〜図6に示すように、固定側軸方向溝12と、可動側軸方向溝13と、ボール14,14(介在部品)と、カッター切り上がり円弧溝15(軸方向テーパ溝)と、ロック固定用スナップリング16(介在部品自由度規制部材)と、ロック解除用スナップリング17(介在部品自由度規制部材)と、を備えている。
【0032】
前記固定側軸方向溝12は、プライマリプーリ42の固定シーブ軸42eに有するもので、固定シーブ軸42eの外周の適宜箇所(例えば、外周の1〜3箇所)に軸方向に形成された半円溝である。
【0033】
前記可動側軸方向溝13は、プライマリプーリ42の可動シーブ筒状軸42fの内径側に有するもので、可動シーブ筒状軸42fの内周の適宜箇所(固定側軸方向溝12に対応する箇所)に軸方向に形成された半円溝である。
【0034】
前記ボール14,14は、平行溝である固定側軸方向溝12と可動側軸方向溝13を合わせることにより形成される円柱状空間に介装される。このボール14,14は、プライマリ可動シーブ42bの可動シーブ筒状軸42fがロー変速比からハイ変速比までの変速領域を軸方向にスライド動作するときの摺動抵抗を低減する介在部品として設けられる。
【0035】
前記カッター切り上がり円弧溝15は、固定側軸方向溝12に形成され、かつ、円形状溝カッターを用いて固定側軸方向溝12の切削溝加工をするとき、加工終了位置に残される溝である。このカッター切り上がり円弧溝15は、最ハイ変速比領域における可動側軸方向溝13による溝間の深さを、最ハイ変速比の限界側に向かうほど徐々に浅くする軸方向テーパ溝としての機能を有する。
【0036】
前記ロック固定用スナップリング16は、可動側軸方向溝13の端部位置のリング溝に設定された介在部品自由度規制部材である。この円形断面形状を持つロック固定用スナップリング16は、図4に示すように、プライマリ可動シーブ42bの可動シーブ筒状軸42fが最ハイ変速比によるロック位置へ向かうとき、プライマリ可動シーブ42bが受ける油圧推力に基づく締結力(実施例1では油圧推力と同方向の力)をボール14,14に入力する。ここで、「油圧推力」とは、最ハイ変速比を得るためのプライマリ圧Ppriと、プライマリ可動シーブ42bが受けるプライマリ圧Ppriの受圧面積を掛け合わせた力をいう(図3)。
【0037】
前記ロック解除用スナップリング17は、ロック固定用スナップリング16の設定位置から乖離した可動側軸方向溝13の中間部位置のリング溝に設定された介在部品自由度規制部材である。つまり、ロック固定用スナップリング16とロック解除用スナップリング17の間にはボール14,14が配置され、このボール14,14の移動自由度を所定量だけ確保する軸方向規制間隔を介在させて設定される。この円形断面形状を持つロック解除用スナップリング17は、図6に示すように、プライマリ可動シーブ42bの可動シーブ筒状軸42fが最ハイ変速比のロック位置から離れるとき、プライマリ可動シーブ42bが受けるベルト反力に基づく解除力(実施例1ではベルト反力と同方向の力)をボール14,14に入力する。ここで、「ベルト反力」とは、変速比を最ハイ変速比からロー側へ変更する際のセカンダリ圧Psecの上昇に伴い、プライマリプーリ42に対する接触径を小さくするようにベルト44の位置が移動するとき、プライマリ可動シーブ42bがベルト44から受ける軸方向の力をいう(図5)。
【0038】
図7は、実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行されるユニット要素圧制御処理の構成および流れを示す(ユニット要素圧制御手段)。以下、図7の各ステップについて説明する。
【0039】
ステップS1では、エンジン回転数やアクセル開度等の情報に基づきベルト式無段変速機への入力トルクTinを演算し、ステップS2へ進む。
【0040】
ステップS2では、ステップS1での入力トルクTinの演算に続き、変速機入力回転数やアクセル開度等に応じて決められる目標変速比を、入力トルクTinにて達成するようにセカンダリ圧室46へのセカンダリ圧Psecを演算し、ステップS3へ進む。
【0041】
ステップS3では、ステップS2でのセカンダリ圧Psecの演算に続き、変速機入力回転数やアクセル開度等に応じて決められる目標変速比を、入力トルクTinにて達成するようにプライマリ圧室45へのプライマリ圧Priを演算し、ステップS4へ進む。
【0042】
ステップS4では、ステップS3でのプライマリ圧Priの演算に続き、ステップS1で演算された入力トルクTinに基づき、入力トルクTinに対して滑りのない前進クラッチ31または後退ブレーキ32のクラッチ圧Pcを演算し、ステップS5へ進む。
【0043】
ステップS5では、ステップS4でのクラッチ圧Pcの演算に続き、ステップS1で演算された入力トルクTinに基づき、入力トルクTinに対して滑りのないロックアップクラッチ20のロックアップ圧PLUを演算し、ステップS6へ進む。
【0044】
ステップS6では、ステップS5でのロックアップ圧PLUの演算に続き、演算されたプライマリ圧Priが、他の要素圧(セカンダリ圧Psec、クラッチ圧Pc、ロックアップ圧PLU)を超えているか否かを判断する。YES(プライマリ圧Pri>他の要素圧)の場合はステップS8へ進み、NO(プライマリ圧Pri≦他の要素圧)の場合はステップS7へ進む。
ここで、「要素圧」とは、ベルト式無段変速機のユニット内で用いられる各油圧要素における必要油圧をいう。
【0045】
ステップS7では、ステップS6でのプライマリ圧Pri≦他の要素圧であるとの判断、あるいは、ステップS9でのT=0であるとの判断、あるいは、ステップS10でのタイマー値リセット処理、あるいは、ステップS11でのT<Tsであるとの判断に続き、ステップS2〜ステップS5にて演算された全要素圧(セカンダリ圧Psec、プライマリ圧Pri、クラッチ圧Pc、ロックアップ圧PLU)のうち、最大油圧を選択することで通常の目標ライン圧PL*を演算し、ステップS14へ進む。
【0046】
ステップS8では、ステップS6でのプライマリ圧Pri>他の要素圧であるとの判断に続き、出力される変速比指令が最ハイ変速比指令であるか否かを判断する。YES(最ハイ変速比指令)の場合はステップS11へ進み、NO(最ハイ変速比以外の指令)の場合はステップS9へ進む。
【0047】
ステップS9では、ステップS8での最ハイ変速比以外の指令であるとの判断に続き、最ハイ変速比継続タイマー値Tが0を超えているか否かを判断する。YES(T>0)の場合はステップS10へ進み、NO(T=0)の場合はステップS7へ進む。
【0048】
ステップS10では、ステップS9でのT>0であるとの判断に続き、最ハイ変速比継続タイマー値Tを、T=0のリセットし、ステップS7へ進む。
【0049】
ステップS11では、ステップS8での最ハイ変速比指令であるとの判断に続き、最ハイ変速比指令であるとの判断毎に最ハイ変速比継続タイマー値Tを増加し、増加した最ハイ変速比継続タイマー値Tが、最ハイ変速比位置でプライマリ可動シーブ42bのロックを確認するために予め設定したタイマー設定値Ts以上であるか否かを判断する。YES(T≧Ts)の場合はステップS12へ進み、NO(T<Ts)の場合はステップS7へ進む。
【0050】
ステップS12では、ステップS11でのT≧Tsであるとの判断に続き、ステップS3にて演算されたプライマリ圧Priから、最ハイ変速比ロックによるロック力により許容されるプライマリ圧低下量ΔPriを差し引いて補正プライマリ圧Pri'を演算し、ステップS13へ進む。なお、補正プライマリ圧Pri'の演算に際し、1回の制御サイクルで低下する油圧低下量を決めておき、T≧Tsであるとの判断後、ステップS3にて演算されたプライマリ圧Priから緩やかに油圧を低下させ、最終的にプライマリ圧低下量ΔPriまで低下させるようにする。
【0051】
ステップS13では、ステップS12でのプライマリ圧Priの低下補正に続き、ステップS2にて演算されたセカンダリ圧Psecと、ステップS12にて演算された補正プライマリ圧Pri'と、ステップS4にて演算されたクラッチ圧Pcと、ステップS5にて演算されたロックアップ圧PLUのうち、最大油圧を選択することでロック時の目標ライン圧PL*を演算し、ステップS14へ進む。
【0052】
ステップS14では、ステップS7またはステップS13での目標ライン圧PL*の演算に続き、ステップS7またはステップS13での目標ライン圧PL*を得るライン圧指令を出力すると共に、演算された全要素圧(セカンダリ圧Psec、プライマリ圧Pri、クラッチ圧Pc、ロックアップ圧PLU)を得る油圧指令を出力し、リターンへ進む。
【0053】
次に、作用を説明する。
実施例1のベルト式無段変速機における作用を、「最ハイ変速比ロック機構Aによるロック固定作用」、「最ハイ変速比ロック機構Aによるロック解除作用」、「ユニット要素圧制御作用」、「最ハイ変速比ロックと油圧制御の組み合わせによる燃費向上作用」に分けて説明する。
【0054】
[最ハイ変速比ロック機構Aによるロック固定作用]
ロック解除状態のプライマリ可動シーブ42bを最ハイ変速比位置に固定する際、スムーズにロック状態に移行させるロック固定性が要求される。以下、これを反映する最ハイ変速比ロック機構Aによるロック固定作用を、図2〜図4に基づき説明する。
【0055】
プライマリプーリ42の固定シーブ軸42eと可動シーブ筒状軸42fの間に介装される介在部品であるボール14,14は、軸方向規制間隔を介在させて設定されたロック固定用スナップリング16とロック解除用スナップリング17の間に配置される。このため、例えば、図2に示すような最ロー変速比側では、軸方向規制間隔内で軸方向(図2では左右方向)にボール14,14の移動自由度が確保される。しかし、軸方向規制間隔を超えるボール14,14の移動自由度は、ロック固定用スナップリング16とロック解除用スナップリング17により規制されることになる。
【0056】
よって、プライマリ可動シーブ42bの可動シーブ筒状軸42fが、例えば、最ロー変速比の位置(図2)から最ハイ変速比によるロック位置(図3)へ向かう変速ストローク時には、高圧のプライマリ圧Ppriをプライマリ圧室45に導き、プライマリ可動シーブ42bを油圧推力で押す。このとき、ボール14,14は、ロック固定用スナップリング16とロック解除用スナップリング17によりプライマリ可動シーブ42bとの相対位置が規制されているため、固定側軸方向溝12と可動側軸方向溝13に沿って移動する。
【0057】
そして、最ハイ変速比領域までボール14,14が移動すると、カッター切り上がり円弧溝15によりボール14,14が停止し、図4に示すように、プライマリ可動シーブ42bが受ける油圧推力に基づく締結力Bが、ロック固定用スナップリング16からボール14,14に入力される。このため、油圧推力と同方向に締結力Bが加えられたボール14,14が、溝間の深さが徐々に浅くなるカッター切り上がり円弧溝15に押し込まれ、図4に示すように、可動シーブ筒状軸42fと固定シーブ軸42eの接触面間にて溝側のボール14により軸間の間隔を押し広げようとする力Cが作用する。そして、油圧推力の上昇にしたがって溝側のボール14により両軸42e,42fを押圧する力が大きくなるので、溝側のボール14と両軸42e,42fの接触面における摩擦抵抗力が増加する。
【0058】
そして、くさび効果により摩擦抵抗力が増加した溝側のボール14をロック部材とし、プライマリ可動シーブ42bが最ハイ変速比の位置にロック固定される。ここで、プライマリ可動シーブ42bの軸方向位置を固定するロック部材として用いられるボール14,14は、可動シーブ筒状軸42fがロー変速比からハイ変速比までの変速領域を軸方向にスライド動作するときの摺動抵抗を低減するための既存部品である。
【0059】
このように、実施例1では、既存部品であるボール14,14とプライマリ可動シーブ42bに作用する油圧推力を利用してロック固定する最ハイ変速比ロック機構Aを採用した。このため、コスト増を招くことなく、プライマリ可動シーブ42bを最ハイ変速比の位置にスムーズにロック固定する機能が発揮される。
【0060】
[最ハイ変速比ロック機構Aによるロック解除作用]
プライマリ可動シーブ42bを最ハイ変速比ロック状態から離脱する際、スムーズにロック解除状態に復帰させるロック解除性が要求される。以下、これを反映する最ハイ変速比ロック機構Aによるロック解除作用を、図5および図6に基づき説明する。
【0061】
プライマリ可動シーブ42bが最ハイ変速比の位置でロックされているとき、最ハイ変速比よりロー側変速比を目標変速比とする変速指令が出力されると、プライマリ圧Ppriを低下し、セカンダリ圧Psecを上昇させる変速油圧制御が行われる。この変速油圧制御では、プライマリプーリ42側のベルト滑りを防止するため、セカンダリ圧Psecを上昇させてセカンダリプーリ43側でベルト44が引っ張られる。このセカンダリ圧Psecの上昇に伴いプライマリプーリ42側では、図5の矢印Dに示すように、ベルト接触径を小さくするように、ベルト44が押し下げられる。この押し下げられたベルト44によるベルト反力が、図5の矢印Eに示すように、プライマリ可動シーブ42bに対し軸方向(図5の左方向)に作用し、プライマリ可動シーブ42bは、ベルト反力によりロー変速比側に押されて移動する。
【0062】
そして、プライマリ可動シーブ42bが僅かに移動することで、ロック解除用スナップリング17が溝側のボール14に接触すると、図6に示すように、プライマリ可動シーブ42bに作用するベルト反力に基づく解除力Fが、ロック解除用スナップリング17から溝側のボール14に入力される。このため、ベルト反力と同じ方向に加えられた解除力Fが摩擦抵抗によるロック力を超えると、溝側のボール14がカッター切り上がり円弧溝15から離脱し、プライマリ可動シーブ42bは、くさび効果による最ハイ変速比のロック位置からロック解除される。
【0063】
このように、実施例1では、既存部品であるボール14,14とプライマリ可動シーブ42bに作用するベルト反力を利用してロック解除する最ハイ変速比ロック機構Aを採用した。このため、コスト増を招くことなく、プライマリ可動シーブ42bを最ハイ変速比の位置からスムーズにロック解除する機能が発揮される。
【0064】
[ユニット要素圧制御作用]
ベルト式無段変速機に最ハイ変速比ロック機能を持たせる狙いは、プライマリ圧を低減することに伴いユニット要素圧の元圧であるライン圧を低減することにある。以下、これを反映するユニット要素圧制御作用を、図7に基づき説明する。
【0065】
変速比が1よりロー側であり、プライマリ圧Ppriが他の要素圧以下であるときには、図7のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS7→ステップS14へと進む流れが繰り返される。
【0066】
プライマリ圧Ppriが他の要素圧を超えているが、最ハイ変速比指令が出力されていないときには、図7のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS8→ステップS9→ステップS7→ステップS14へと進む流れが繰り返される。
【0067】
プライマリ圧Ppriが他の要素圧を超え、かつ、最ハイ変速比指令が出力されているが、時間条件が成立しないときには、図7のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS8→ステップS11→ステップS7→ステップS14へと進む流れが繰り返される。
【0068】
上記何れの場合であっても、プライマリ可動シーブ42bが最ハイ変速比位置でロック状態でないとの判断に基づき、プライマリ圧Ppriとライン圧PLの通常制御が行われる。すなわち、ステップS7において、ステップS2〜ステップS5にて演算された全要素圧(セカンダリ圧Psec、プライマリ圧Pri、クラッチ圧Pc、ロックアップ圧PLU)のうち、最大油圧を選択することで通常の目標ライン圧PL*が演算される。次のステップS14では、ステップS3で演算されたプライマリ圧Priを得るプライマリ圧指令が出力されると共に、ステップS7での目標ライン圧PL*を得るライン圧指令が出力される。
【0069】
一方、プライマリ圧Ppriが他の要素圧を超え、かつ、最ハイ変速比指令が出力され、かつ、時間条件が成立しているときには、図7のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS8→ステップS11→ステップS12→ステップS13→ステップS14へと進む流れが繰り返される。
【0070】
このように、プライマリ圧Ppriが複数のユニット要素圧のうち最大油圧であるとき、最ハイ変速比指令条件と時間条件の成立により、プライマリ可動シーブ42bが最ハイ変速比位置でロック状態であると判断される。そして、プライマリ可動シーブ42bが最ハイ変速比位置でロック状態であるとの判断に基づき、プライマリプーリ42のプライマリ圧室45に導かれるプライマリ圧Ppriの低下制御を行うと共にライン圧PLの低下制御が行われる。すなわち、ステップS12では、ステップS3にて演算されたプライマリ圧Priからプライマリ圧低下量ΔPriを差し引いて補正プライマリ圧Pri'が演算される。次のステップS13では、ステップS12にて演算された補正プライマリ圧Pri'と、他の演算された要素圧のうち、最大油圧を選択することでロック時の目標ライン圧PL*が演算される。次のステップS14では、ステップS12で演算された補正プライマリ圧Pri'を得るプライマリ圧指令が出力されると共に、ステップS13での目標ライン圧PL*を得るライン圧指令が出力される。
【0071】
そして、プライマリ圧Ppriとライン圧PLを低減するユニット要素圧制御が行われている途中において、変速比指令が最ハイ変速比指令からロー側変速比指令に変更されると、図7のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS8→ステップS9→ステップS10→ステップS7→ステップS14へと進む流れが繰り返される。すなわち、ステップS10にて最ハイ変速比継続タイマー値Tをリセットし、プライマリ圧Ppriとライン圧PLの通常制御に復帰する。
【0072】
[最ハイ変速比ロックと油圧制御の組み合わせによる燃費向上作用]
エンジン車の場合、最ハイ変速比ロック機能を生かして燃費を改善させる燃費向上性が要求される。以下、これを反映する最ハイ変速比ロックと油圧制御の組み合わせによる燃費向上作用を、図8〜図10に基づき説明する。
【0073】
まず、最ハイ変速比ロック機構を備えていないベルト式無段変速機を搭載したエンジン車を比較例とする。この比較例の場合、高速走行時、プライマリプーリにより必要なベルトクランプ力を確保し、伝達トルクの変動に対して最ハイ変速比を維持する。このとき、プライマリプーリへのプライマリ圧がユニット内での最大油圧になるため、オイルポンプからのポンプ吐出圧に基づいて調圧するライン圧を、少なくともプライマリ圧まで上げる必要がある。
【0074】
そのため、高速走行を長時間にわたって維持する高速巡航中においては、図8に示すように、最ハイ変速比を保ちながら、ライン圧PL>プライマリ圧Ppri>セカンダリ圧Psecという関係を維持することになる。つまり、プライマリ圧Ppri以上のライン圧PLを確保し続ける必要があるため、高速巡航時に頻度が高い最ハイ変速比にて必要油圧の増加を招く。したがって、最ハイ変速比を長時間にわたって維持するような高速巡航中にオイルポンプの駆動トルクを下げることができず、オイルポンプの駆動トルクをエンジンから得るエンジン搭載車の場合、燃費の向上を図ることができない。
【0075】
これに対し、実施例1では、最ハイ変速比位置でプライマリ可動シーブ42bをロックするハイ変速比ロック機構Aを備え、かつ、図7に示すフローチャートにしたがってユニット要素圧制御を実行するようにした。
【0076】
すなわち、図9に示すように、最ハイ変速比(最HI)のロック位置では、プライマリ圧Priが、通常のプライマリ圧Priからプライマリ圧低下量ΔPriを差し引いた油圧とされ、ライン圧PLが、通常のライン圧PLからライン圧低下量ΔPLを差し引いた油圧とされる。
【0077】
例えば、図10に示すように、時刻t0から時刻t1まで加速し、時刻t1にて加速から高速巡航に移行する。そして、時刻t1から所定時間遅れた時刻t2になったときにプライマリ可動シーブ42bが最ハイ変速比位置でロック状態であると判断されると、時刻t2からプライマリ圧Priとライン圧PLの低下を開始する。そして、時刻t3にてプライマリ圧Priとライン圧PLの低下を終了すると、時刻t3以降の巡航中においては、最ハイ変速比を保ちながら、ライン圧PL>セカンダリ圧Psec>プライマリ圧Ppriという関係を維持することになる。つまり、高速走行を長時間にわたって維持する高速巡航時には、プライマリ圧Ppriを低下させることに伴い最大油圧となったセカンダリ圧Psec以上のライン圧PLを確保するだけでよい。このため、図10のハッチングに示すように、高速巡航時に頻度が高い最ハイ変速比にて必要油圧の低減を図ることができる。
【0078】
したがって、最ハイ変速比を長時間にわたって維持するような高速巡航中にオイルポンプ70の駆動トルクを下げることができ、オイルポンプ70の駆動トルクをエンジン1から得るエンジン車の場合、燃費の向上が図られる。
【0079】
次に、効果を説明する。
実施例1のベルト式無段変速機にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0080】
(1) 固定シーブ(プライマリ固定シーブ42a)と可動シーブ(プライマリ可動シーブ42b)を有し、固定シーブ軸42eに嵌合する可動シーブ筒状軸42fが軸方向に摺動するプライマリプーリ42と、
固定シーブ(セカンダリ固定シーブ43a)と可動シーブ(セカンダリ可動シーブ43b)を有し、固定シーブ軸43eに嵌合する可動シーブ筒状軸43fが軸方向に摺動するセカンダリプーリ43と、
前記プライマリプーリ42の一対のシーブ面(プライマリシーブ面42c,42d)と前記セカンダリプーリ43の一対のシーブ面(セカンダリシーブ面43d,43c)に巻き掛けられ、駆動源(エンジン1)からの駆動力を伝達するベルト44と、
前記固定シーブ軸42eに有する固定側軸方向溝12と、前記可動シーブ筒状軸42fの内径側に有する前記可動側軸方向溝13と、の間に介装され、前記可動シーブ筒状軸(可動シーブ筒状軸42f)がロー変速比からハイ変速比までの変速領域を軸方向にスライド動作するときの摺動抵抗を低減する介在部品(ボール14,14)と、
前記固定側軸方向溝12と前記可動側軸方向溝13のうち少なくとも一方の溝に形成され、最ハイ変速比領域または最ロー変速比領域における前記2つの軸方向溝12,13による溝間の深さを、変速比の限界側に向かうほど徐々に浅くする軸方向テーパ溝(カッター切り上がり円弧溝15)と、
前記固定シーブ軸42eまたは前記可動シーブ筒状軸42fに対する前記溝12,13,15に沿った相対移動を僅かな自由度を残して規制する位置に設けられ、前記可動シーブ筒状軸(可動シーブ筒状軸42f)が最ハイ変速比または最ロー変速比によるロック位置へ向かうとき、前記可動シーブが受ける油圧推力に基づき前記介在部品に締結力を入力し、前記可動シーブ筒状軸(可動シーブ筒状軸42f)が最ハイ変速比または最ロー変速比のロック位置から離れるとき、前記可動シーブが受けるベルト反力に基づき前記介在部品に解除力を入力する介在部品自由度規制部材(ロック固定用スナップリング16、ロック解除用スナップリング17)と、
を備える。
このため、既存部品(ボール14,14)と可動シーブ(プライマリ可動シーブ42b)に作用する力(油圧推力、ベルト反力)を利用し、コスト増を招くことなく変速比ロック機能(最ハイ変速比ロック機能)を発揮させることができる。
【0081】
(2) 前記軸方向テーパ溝は、前記固定側軸方向溝12と前記可動側軸方向溝13のうち少なくとも一方の溝を円弧溝(カッター切り上がり円弧溝15)に形成されている。
このため、上記(1)の効果に加え、固定側軸方向溝12と可動側軸方向溝13のうち少なくとも一方の溝の溝加工を行うだけで自動的に円弧溝(カッター切り上がり円弧溝15)が形成されるというように、別加工を要することなく、軸方向テーパ溝を容易に形成することができる。
【0082】
(3) 前記固定側軸方向溝12と前記可動側軸方向溝13により形成される平行溝範囲内で、前記介在部品自由度規制部材は、前記介在部品(ボール14,14)の軸方向移動量を所定量の範囲に規制するために予め前記介在部品(ボール14,14)と共に設定されている要素部品(ロック固定用スナップリング16、ロック解除用スナップリング17)である。
このため、上記(1)または(2)の効果に加え、介在部品(ボール14,14)の自由度規制部材として設けられていた既存の要素部品(例えば、2つのスナップリング)を利用し、介在部品自由度規制部材を容易に設定することができる。
【0083】
(4) 前記プライマリプーリ42の可動シーブ(プライマリ可動シーブ42b)が最ハイ変速比の位置でロック状態であると判断されると、前記プライマリプーリ42のプライマリ圧室45に導かれるプライマリ圧Ppriの低下制御を行う共にライン圧PLの低下制御を行うユニット要素圧制御手段(図7)と、
を有する。
このため、上記(1)〜(3)の効果に加え、高速巡航時に頻度が高い最ハイ変速比のとき、プライマリ圧Ppriとライン圧PLの低下に伴って、最ハイ変速比が維持されている限りエンジン1によるオイルポンプ70の駆動トルクを下げ続けることで、燃費の向上を達成することができる。
【0084】
以上、本発明のベルト式無段変速機を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0085】
実施例1では、プライマリプーリ42側に最ハイ変速比ロック機構Aを設け、プライマリ可動シーブ42bを最ハイ変速比位置にてロックする例を示した。しかし、セカンダリプーリ43側に最ロー変速比ロック機構を設け、セカンダリ可動シーブ43bを最ロー変速比位置にてロックする例としても良い。さらに、プライマリ可動シーブ42bを最ハイ変速比位置にてロックすると共に、セカンダリ可動シーブ43bを最ロー変速比位置にてロックする例としても良い。なお、最ロー変速比ロック機構は、例えば、通常走行域において最ロー変速比を維持する制御を行うような電動車両等において有用である。
【0086】
実施例1では、介在部品として、ボール14,14を用いる例を示した。しかし、介在部品としては、ローラを用いる例としても良い。さらに、ボールやローラ以外の転動部品を用いる例であっても良い。要するに、介在部品としては、固定側軸方向溝と可動側軸方向溝の間に介装され、可動シーブがロー変速比からハイ変速比までの変速領域を軸方向にスライド動作するときの摺動抵抗を低減する部品であれば良い。
【0087】
実施例1では、軸方向テーパ溝として、固定側軸方向溝12に形成したカッター切り上がり円弧溝15を用いる例を示した。しかし、軸方向テーパ溝は、可動側軸方向溝に形成した例であっても良いし、固定側軸方向溝と可動側軸方向溝の両方に形成した例であっても良い。さらに、カッター切り上がり円弧溝以外の形状によるテーパ溝としても良い。要するに、軸方向テーパ溝としては、固定側軸方向溝と可動側軸方向溝のうち少なくとも一方の溝に形成され、最ハイ変速比領域または最ロー変速比領域における2つの軸方向溝による溝間の深さを、変速比の限界側に向かうほど徐々に浅くする溝であれば良い。
【0088】
実施例1では、介在部品自由度規制部材として、可動側軸方向溝13に設けられ、介在部品であるボール14,14の移動自由度を所定量だけ確保する軸方向規制間隔を介在させた乖離位置にそれぞれ設定したロック固定用スナップリング16およびロック解除用スナップリング17を用いる例を示した。しかし、介在部品自由度規制部材として、図11に示すように、ローラ18の自由度を規制しながら保持するローラ保持穴19aを有するローラリテーナプレート19を用いても良い。なお、この場合、カッター切り上がり円弧溝15は、可動側軸方向溝13に形成され、ローラ18に入力される締結力と解除力は、油圧推力とベルト反力の作用方向に対し反対方向になる。要するに、介在部品自由度規制部材としては、可動シーブのスライド動作に伴う介在部品の自由度を規制可能な位置に設けられ、可動シーブ筒状軸が最ハイ変速比または最ロー変速比によるロック位置へ向かうとき、可動シーブが受ける油圧推力に基づく締結力を介在部品に入力し、可動シーブ筒状軸が最ハイ変速比または最ロー変速比のロック位置から離れるとき、可動シーブが受けるベルト反力に基づく解除力を介在部品に入力する部材であれば良い。このとき、油圧推力に基づく締結力は、油圧推力と同方向(実施例1)であっても反対方向(図11)であっても良い。同様に、ベルト反力に基づく解除力は、ベルト反力と同方向(実施例1)であっても反対方向(図11)であっても良い。
【0089】
実施例1では、本発明のベルト式無段変速機をエンジン車に適用し、最ハイ変速比の位置にてプライマリプーリをロックすることで燃費性能を向上させる例を示した。しかし、本発明のベルト式無段変速機は、ハイブリッド車や電気自動車や燃料電池車等の他の車両の駆動系に適用することができる。例えば、エンジンとモータを駆動源とするハイブリッド車の場合には、燃費性能と電費性能を向上させることができる。例えば、モータを駆動源とする電気自動車や燃料電池車の場合には、電費性能を向上させることができる。
【符号の説明】
【0090】
A 最ハイ変速比ロック機構
1 エンジン(駆動源)
4 ベルト式無段変速機構
12 固定側軸方向溝
13 可動側軸方向溝
14,14 ボール(介在部品)
15 カッター切り上がり円弧溝(軸方向テーパ溝、円弧溝)
16 ロック固定用スナップリング(介在部品自由度規制部材)
17 ロック解除用スナップリング(介在部品自由度規制部材)
18 ローラ(介在部品)
19 ローラリテーナプレート(介在部品自由度規制部材)
19a ローラ保持穴
40 変速機入力軸
41 変速機出力軸
42 プライマリプーリ
42a プライマリ固定シーブ(固定シーブ)
42b プライマリ可動シーブ(可動シーブ)
42c,42d プライマリシーブ面
42e 固定シーブ軸
42f 可動シーブ筒状軸
43 セカンダリプーリ
43a セカンダリ固定シーブ(固定シーブ)
43b セカンダリ可動シーブ(可動シーブ)
43c,43d セカンダリシーブ面
43e 固定シーブ軸
43f 可動シーブ筒状軸
44 ベルト
45 プライマリ圧室
46 セカンダリ圧室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定シーブと可動シーブを有し、固定シーブ軸に嵌合する可動シーブ筒状軸が軸方向に摺動するプライマリプーリと、
固定シーブと可動シーブを有し、固定シーブ軸に嵌合する可動シーブ筒状軸が軸方向に摺動するセカンダリプーリと、
前記プライマリプーリの一対のシーブ面と前記セカンダリプーリの一対のシーブ面に巻き掛けられ、駆動源からの駆動力を伝達するベルトと、
前記固定シーブ軸に有する固定側軸方向溝と、前記可動シーブ筒状軸の内径側に有する前記可動側軸方向溝と、の間に介装され、前記可動シーブ筒状軸がロー変速比からハイ変速比までの変速領域を軸方向にスライド動作するときの摺動抵抗を低減する介在部品と、
前記固定側軸方向溝と前記可動側軸方向溝のうち少なくとも一方の溝に形成され、最ハイ変速比領域または最ロー変速比領域における前記2つの軸方向溝による溝間の深さを、変速比の限界側に向かうほど徐々に浅くする軸方向テーパ溝と、
前記固定シーブ軸または前記可動シーブ筒状軸に対する前記溝に沿った相対移動を僅かな自由度を残して規制する位置に設けられ、前記可動シーブ筒状軸が最ハイ変速比または最ロー変速比によるロック位置へ向かうとき、前記可動シーブが受ける油圧推力に基づき前記介在部品に締結力を入力し、前記可動シーブ筒状軸が最ハイ変速比または最ロー変速比のロック位置から離れるとき、前記可動シーブが受けるベルト反力に基づき前記介在部品に解除力を入力する介在部品自由度規制部材と、
を備えることを特徴とするベルト式無段変速機。
【請求項2】
請求項1に記載されたベルト式無段変速機において、
前記軸方向テーパ溝は、前記固定側軸方向溝と前記可動側軸方向溝のうち少なくとも一方の溝を円弧溝に形成されていることを特徴とするベルト式無段変速機。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載されたベルト式無段変速機において、
前記固定側軸方向溝と前記可動側軸方向溝により形成される平行溝範囲内で、前記介在部品自由度規制部材は、前記介在部品の軸方向移動量を所定量の範囲に規制するために予め前記介在部品と共に設定されている要素部品であることを特徴とするベルト式無段変速機。
【請求項4】
請求項1から請求項3までの何れか1項に記載されたベルト式無段変速機において、
前記プライマリプーリの可動シーブが最ハイ変速比の位置でロック状態であると判断されると、前記プライマリプーリのプライマリ圧室に導かれるプライマリ圧の低下制御を行うと共にライン圧の低下制御を行うユニット要素圧制御手段と、
を有することを特徴とするベルト式無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−197903(P2012−197903A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63630(P2011−63630)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】