説明

ペロブスカイト酸化物薄膜の製造方法及びペロブスカイト酸化物薄膜

【課題】 液相法によって所要機能を有するペロブスカイト酸化物薄膜を製造する方法、及びペロブスカイト酸化物薄膜を提供する。
【解決手段】 成膜対象のペロブスカイト酸化物を主成分とし、平均直径が略5nm以上略15nm以下の適宜直径のナノ結晶粒子を所定溶媒中に分散させた分散液を調製し(ステップS1)、この分散液中に、対象電極としての所定材料の基板と対向電極とを浸漬させ、両電極間に所定の電圧を印加することによって前記基板の表面に前記ナノ結晶粒子を、乾燥時の厚さが数十nm〜数百nmとなるように堆積させる(ステップS2)。そして、この基板を略400℃以上略800℃以下の適宜温度で焼成する(ステップS3)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば圧電体として有用なペロブスカイト酸化物を用いて薄膜を製造する方法、及び該方法により製造されたペロブスカイト酸化物薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
Pb(Zr,Ti)O3(以後、PZTという。)又は(Pb,La)(Zr,Ti)O3(以後、PLZTという。)を用いた強誘電体からなる薄膜は、コンデンサ、サーミスタ、フィルタ及びメモリ等、種々の強誘電体デバイスの製造に用いられているが、鉛を含有しない材料使用の要求からPZT又はPLZTの機能に匹敵する機能を有するチタン酸バリウム(BaTiO3)を用いた薄膜の開発がなされている。
【0003】
そのようなチタン酸バリウムを用いて薄膜を製造する方法として、後記する特許文献1にはMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)といった気相法を用いる方法が開示されている。
【0004】
すなわち、β−ジケトン系有機金属錯体であるBa(DPM)2(DPM:ジピバロイルメタン((CH33・C・CO・CH2・CO・C・(CH33))、Sr(DPM)2、Ti(O−iPr)2(DPM)2をそれぞれ適宜の溶媒に溶解させた3つの液体材料を予め用意しておき、各液体材料を所要の流量で混合器に導入して混合した後、得られた混合液を気化器に導入し、そこで所要温度まで昇温させて気化させることによって原料ガスを生成する。
【0005】
気化器には搬送ガスも導入されるようになっており、生成された原料ガスは搬送ガスによって、基板が収納された反応炉内へ給送される。この反応炉には酸素も供給されるようになっており、また、反応炉内の基板は加熱器によって略450℃に加熱されるようになっている。
【0006】
そして、反応炉内に給送された原料ガスは反応炉に供給される酸素と混合され、加熱器によって加熱された基板の表面で酸化・分解反応が進行することにより、基板表面にBST(チタン酸バリウム・ストロンチウム)膜が堆積する。このようにして生成されたBST膜はアモルファス構造であるので、500℃から600℃で30分間程度アニール化処理することにより単結晶化させる。
【特許文献1】特開2000−232102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このようにペロブスカイト型の結晶構造を有する金属酸化物、すなわちペロブスカイト酸化物の薄膜を気相法で製造する従来の方法にあっては、気相法を実施するための製造装置に要するコストが高いのに加え、当該製造装置によって一度に処理できる基板の枚数が少ないため製造コストが嵩むという問題があった。
【0008】
一方、例えば有機金属化合物を所要の溶媒に溶解させた溶液を基板の表面又は該基板上に形成された基層の表面に塗布する液相法にあっては、かかる問題を解決することはできるものの、塗布した後に基板を略1000℃以上の高温で焼成しなければならず、そのような高温で焼成した薄膜は前記基板又は基層と当該薄膜との界面で反応が生起され、焼成した膜の機能が低下又は損失するという問題があった。
【0009】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、液相法によって所要の機能を有するペロブスカイト酸化物薄膜を製造する方法、及び当該方法により製造されたペロブスカイト酸化物薄膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、所定の基板又は適宜の基板の表面に成膜した所定の基層上に、直径がナノメートル(nm)サイズの結晶粒子(以後、ナノ結晶粒子ともいう)を堆積させることにより、1000℃未満の温度で焼成して結晶を生長させるとともに生長した各結晶の結晶方位が揃ったエピタキシャルな膜を生成することができ、これによって単結晶膜と同等の機能を示すという知見を得て本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、(1)本発明に係るペロブスカイト酸化物薄膜の製造方法は、一般式MTiO3で表される第1ペロブスカイト酸化物(Mは、Ba、Sr若しくはCa、又はそれらの混合物を表す)を主成分としたエピタキシャルな薄膜を製造する方法において、前記第1ペロブスカイト酸化物を主成分とし、適宜直径の結晶粒子群を所定の溶媒に分散させた分散液を調製する工程と、前記結晶粒子群の調製に用いた第1ペロブスカイト酸化物とは異なる適宜の第2ペロブスカイト酸化物を主成分とした単結晶からなる第1基板上、又は、適宜の第2基板上に形成され、前記第2ペロブスカイト酸化物を主成分としたエピタキシャルな基層上に、前記分散液中の結晶粒子群を堆積させる堆積工程と、堆積させて得られた第1基板又は第2基板を1000℃未満の適宜温度で焼成する焼成工程とを実施することを特徴とする。
【0012】
本発明のペロブスカイト酸化物薄膜の製造方法にあっては、例えばBaTiO3というような成膜対象の第1ペロブスカイト酸化物を主成分とし、ナノメートルサイズの適宜直径を有する結晶粒子群を所定の溶媒に分散させた分散液を調製する。
【0013】
そのような分散液を調製するには、例えばTiおよび他の金属のアルコキシドをアルコール系混合溶媒に互いに等モル量溶解させた前駆体溶液を適宜温度で加水分解する工程を含むゾル−ゲル法によって行うことができる。
【0014】
次に、例えばSrTiO3というように、第1ペロブスカイト酸化物とは異なる適宜の第2ペロブスカイト酸化物を主成分とした単結晶からなる第1基板上に、前述した分散液中の結晶粒子群を堆積させる。結晶粒子群を堆積するには後述する電気泳動電着法、又は、分散液中に基板を浸漬させる、所謂ディップ法によって行うことができる。
結晶粒子群の堆積はまた、例えばシリコンといった適宜の第2基板上に形成され、前記第2ペロブスカイト酸化物を主成分としたエピタキシャルな基層上に実施することもできる。
【0015】
このような第1基板又は基層を構成する第2ペロブスカイト酸化物は、結晶の単位格子の構造が第1ペロブスカイト酸化物を構成する結晶の単位格子の構造と略同一の立方晶又は正方晶であり、また、両者の格子定数が十分に近いものが選択される。
ここで格子定数が十分に近いとは、両格子定数の差が10%以内であることをいう。
これによって、堆積工程において、第1ペロブスカイト酸化物を主成分とする結晶粒子がその方位を第1基板又は基層の結晶方位と略揃った様態で堆積されるのである。
【0016】
このようにして結晶粒子群を堆積させた後、得られた第1基板又は第2基板を1000℃未満の適宜温度で焼成することによって、第1ペロブスカイト酸化物が所要の機能を発揮するように活性化させる。
【0017】
このように従来の焼成温度に比べて低い温度で焼成するため、第1基板の表面又は前述した基層の表面と第1ペロブスカイト酸化物薄膜との界面において反応が発生することが防止され、第1ペロブスカイト酸化物薄膜の機能が低下することが回避される。
【0018】
一方、かかる焼成工程中、堆積された結晶粒子の内、第1基板又は基層の結晶方位と揃っていない結晶粒子が回動等を行って、その結晶方位が第1基板又は基層の結晶方位と揃うため、エピタキシャルな薄膜が形成される。
また、焼成工程によって結晶粒子が成長するため、第1ペロブスカイト酸化物薄膜が緻密化される。
これによって、第1ペロブスカイト酸化物薄膜上に他のペロブスカイト酸化物薄膜を重層させる積層構造を、両薄膜間の界面での反応を防止しつつ構築することができる。
【0019】
(2)また、本発明に係るペロブスカイト酸化物薄膜の製造方法は必要に応じて、前記分散液として、平均直径が略5nm以上略15nm以下の適宜寸法の結晶粒子群を分散させたものを用いることを特徴とする。
【0020】
本発明のペロブスカイト酸化物薄膜の製造方法にあっては、前述した分散液として、平均直径が略5nm以上略15nm以下の適宜寸法の結晶粒子群を分散させたものを用いる。
【0021】
このように微小直径であり、運動の自由度が大きい結晶粒子群を第1基板上又は基層上に堆積させるため、結晶粒子はよりその方位を第1基板又は基層の結晶方位と揃えて堆積され易い。
【0022】
また、微小直径の結晶粒子にあってはより低い温度で焼成しても所要の機能を発揮させる活性化を行うことができる。従って、第1基板又は基層との界面における反応を更に防止することができる。
【0023】
(3)また、本発明に係るペロブスカイト酸化物薄膜の製造方法は必要に応じて、前記焼成工程は略400℃以上略800℃以下の適宜温度で行うことを特徴とする。
【0024】
本発明のペロブスカイト酸化物薄膜の製造方法にあっては、略400℃以上略800℃以下の適宜温度で焼成を行う。
このように、従来の焼成温度より低い温度で焼成するため、第1基板又は基層との界面における反応を防止することができる。
また、焼成工程によって結晶粒子が成長するため、第1ペロブスカイト酸化物薄膜が緻密化される。これによって、第1ペロブスカイト酸化物薄膜上に他のペロブスカイト酸化物薄膜を重層させる積層構造を、両薄膜間の界面での反応を防止しつつ構築することができる。
【0025】
(4)更に、本発明に係るペロブスカイト酸化物薄膜の製造方法は必要に応じて、前記堆積工程は、導電性の第1基板又は導電性の基層が形成された導電性の第2基板を用い、前記分散液中に浸漬された前記第1基板又は第2基板に所定の電圧を印加することによって行うことを特徴とする。
【0026】
本発明のペロブスカイト酸化物薄膜の製造方法にあっては、分散液中に浸漬された導電性の第1基板、又は導電性の基層が形成された導電性の第2基板に所定の電圧を印加して、分散液中の結晶粒子を第1基板上、又は第2基板に形成された基層上に堆積させる、所謂電気泳動電着によって堆積工程を実施する。
【0027】
電気泳動電着にて結晶粒子を堆積させる場合、所要形状のマスクを用いることによって堆積物をマスクに応じた形状になすことができる。また、印加する電圧、印加時間等を調整することにより、堆積物の厚さを容易に制御することができる。
【0028】
(5)一方、本発明に係るペロブスカイト酸化物薄膜は、一般式MTiO3で表される第1ペロブスカイト酸化物(Mは、Ba、Sr若しくはCa、又はそれらの混合物を表す)を主成分としたエピタキシャルな薄膜であって、前記第1ペロブスカイト酸化物を主成分とし、適宜直径の結晶粒子群を所定の溶媒に分散させた分散液中の前記結晶粒子群を、当該結晶粒子群の調製に用いた第1ペロブスカイト酸化物とは異なる第2ペロブスカイト酸化物を主成分とした単結晶からなる第1基板上、又は、適宜の第2基板上に形成され、前記第2ペロブスカイト酸化物を主成分としたエピタキシャルな基層上に堆積させ、得られた第1基板又は第2基板を1000℃未満の適宜温度で焼成してなることを特徴とする。
【0029】
本発明のペロブスカイト酸化物薄膜にあっては、第1ペロブスカイト酸化物を主成分とし、適宜直径の結晶粒子群を所定の溶媒に分散させた分散液中の前記結晶粒子群を、当該結晶粒子群の調製に用いた第1ペロブスカイト酸化物とは異なる第2ペロブスカイト酸化物を主成分とした単結晶からなる第1基板上、又は、適宜の第2基板上に形成され、前記第2ペロブスカイト酸化物を主成分としたエピタキシャルな基層上に堆積させ、得られた第1基板又は第2基板を1000℃未満の適宜温度で焼成してなるため、前述した如く堆積工程において、第1ペロブスカイト酸化物を主成分とする結晶粒子がその方位を第1基板又は基層の結晶方位と揃えて堆積され易い。
【0030】
また、従来の焼成温度に比べて低い温度で焼成されているため、第1基板の表面又は基層の表面と第1ペロブスカイト酸化物薄膜との界面において反応が発生することが防止され、第1ペロブスカイト酸化物薄膜の機能が低下することが回避される。
【0031】
一方、かかる焼成中、堆積された結晶粒子の内、第1基板又は基層の結晶方位と揃っていない結晶粒子が回動等を行って、その結晶方位が第1基板又は基層の結晶方位と揃うため、エピタキシャルな薄膜が得られる。
また、焼成工程によって結晶粒子が成長するため、第1ペロブスカイト酸化物薄膜が緻密化される。
【0032】
(6)また、本発明に係るペロブスカイト酸化物薄膜は必要に応じて、前記結晶粒子群の平均直径は略5nm以上略15nm以下の適宜寸法であることを特徴とする。
【0033】
本発明のペロブスカイト酸化物薄膜にあっては、結晶粒子群の平均直径は略5nm以上略15nm以下の適宜寸法であるため、結晶粒子群の運動の自由度が大きく、当該結晶粒子はよりその方位を第1基板又は基層の結晶方位と略揃えた状態で堆積され、より均一にエピタキシャルな薄膜を形成することができる。
また、微小直径の結晶粒子にあってはより低い温度で焼成しても所要の機能を発揮させる活性化を行うことができる。従って、第1基板又は基層との界面における反応を更に防止することができる。
【0034】
(7)また、本発明に係るペロブスカイト酸化物薄膜は必要に応じて、堆積させて得られた第1基板又は第2基板を略400℃以上略800℃以下の適宜温度で焼成してなることを特徴とする。
【0035】
本発明のペロブスカイト酸化物薄膜にあっては、堆積させて得られた第1基板又は第2基板を略400℃以上略800℃以下の適宜温度で焼成してなるため、第1基板又は基層との界面における反応を防止することができる。
【0036】
また、焼成によって結晶粒子が成長するため、第1ペロブスカイト酸化物薄膜が緻密化される。これによって、第1ペロブスカイト酸化物薄膜上に他のペロブスカイト酸化物薄膜を重層させる積層構造を、両薄膜間の界面での反応を防止しつつ構築することができる。
【0037】
(8)更に、本発明に係るペロブスカイト酸化物薄膜は必要に応じて、前記第1基板又は前記第2基板及び基層は導電性になしてあり、前記分散液中に浸漬された第1基板又は第2基板に所定の電圧を印加することによって当該第1基板又は第2基板に結晶粒子群を堆積させてなることを特徴とする。
【0038】
本発明のペロブスカイト酸化物薄膜にあっては、分散液中に浸漬された第1基板または第2基板に所定の電圧を印加することによって当該第1基板又は基層に結晶粒子群を堆積させてなるため、所要形状のマスクを用いることによって堆積物をマスクに応じた形状になすことができる。また、印加する電圧、印加時間等を調整することにより、堆積物の厚さを容易に制御することができる。
【0039】
(9)ところで、本発明に係るペロブスカイト酸化物薄膜は、前記第1ペロブスカイト酸化物はチタン酸バリウムであることを特徴とする。
本発明のペロブスカイト酸化物薄膜にあっては、前記第1ペロブスカイト酸化物はチタン酸バリウムであるので、強誘電体の薄膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明に係るペロブスカイト酸化物薄膜の製造方法を図1に基づいて説明する。
図1は、本発明に係るペロブスカイト酸化物薄膜の製造手順を示すフローチャートである。
図1に示したように、成膜対象のペロブスカイト酸化物を主成分とし、平均直径が略5nm以上略15nm以下、好ましくは略5nm以上略10nm以下の適宜直径のナノ結晶粒子を所定溶媒中に分散させた分散液を調製する(ステップS1)。
【0041】
かかるナノ結晶粒子には、後述する基層とすべく所要量のNbを導入させてもよい。Nbの導入はナノ結晶粒子を調製する際に行ってもよいし、ナノ結晶粒子の分散液に添加しておき、後述する堆積を行う際に行うようにしてもよい。
【0042】
次に、この分散液中に、例えば、対象電極としての所定材料の基板と対向電極とを浸漬させ、両電極間に所定の電圧を印加することによって前記基板の表面に前記ナノ結晶粒子を、乾燥時の厚さが数十nm〜数百nmとなるように堆積させる(ステップS2)。
【0043】
なお、かかる堆積は、前述した分散液に基板を所定時間浸漬させるディップ法によっても行うことができる。
このようにして堆積させた基板を分散液から取り出して乾燥させた後、酸化雰囲気中又は中性雰囲気中、略400℃以上略800℃以下の適宜温度で焼成して所要の薄膜を得る(ステップS3)。
【0044】
これによって、基板上に各ナノ結晶粒子の結晶方位が揃ったエピタキシャルな薄膜を生成することができ、該薄膜は、単結晶的物性、結晶異方性物性といった所要の機能を発揮する。
また、焼成温度が略400℃以上略800℃以下と低いため、生成した薄膜と基板との界面において反応が発生することが回避される。
以下、前述した各工程について詳述する。
【0045】
(ナノ結晶粒子分散液の調製)
薄膜に係るペロブスカイト酸化物は、一般式MTiO3で表すことができ、Mは、Ba、Sr又はCaを表す。従って、BaTiO3、SrSiO3、CaTiO3は、対象とするペロブスカイト酸化物に含まれる。さらに、Mは、Ba、Sr又はCaの混合系を表し、したがって、例えば、Ba1-xCaxTiO3、Ba1-x-yCaxSryTiO3などの構造式で表されるものも本発明の対象とするペロブスカイト酸化物に含まれる。
【0046】
ペロブスカイト酸化物によるエピタキシャルな薄膜の製造において出発原料となるのは、対象とするペロブスカイト酸化物のナノ結晶粒子である。
かかるナノ結晶粒子群の平均直径は、前述した如く略5nm以上略15nm以下が好ましく、より好ましくは、略5nm以上略10nm以下である。
【0047】
ここで、平均直径が略5nm未満のナノ結晶粒子にあっては高濃度分散液の作製が困難であり、単位体積の分散液中に含まれる結晶粒子質量が小さいという不都合がある一方、平均直径が略15nmを超えるナノ結晶粒子にあっては、低温でのエピタキシャル化が困難であり、1000℃を越える温度で焼成しなければならないという不都合がある。
【0048】
一方、平均直径を略10nm以下にした場合、適切な濃度を持つ分散液の作製が容易であり、かつ低温でのエピタキシャル化が可能という優れた効果を奏する。
かかる直径のナノ結晶粒子を調製するには、例えばゾル−ゲル法を用いることができる。
【0049】
ここで、ゾル−ゲル法とは、チタン酸バリウムの場合、Tiおよび他の金属のアルコキシド(好ましくは、例えば、チタンイソプロポキシド、バリウムエトキシドなど)をアルコール系混合溶媒(好ましくはメタノール/メトキシエタノール混合溶媒)に等モル量(好ましくは、0.5〜1.2mol/L)溶解した前駆体溶液を適宜温度(好ましくは−30°〜0℃)で加水分解する工程を含むものである。
【0050】
具体的には次のような操作を行う。
図2は、ゾル−ゲル法にてナノ結晶粒子液を調製する手順を示すフローチャートである。
図2に示したように、例えば、容量比でメタノール:2−メトキシメタノール(以後、EGMMEという)=3:2となるように混合した混合液に、ジエトキシバリウム(Ba(OC252)を添加して略24時間撹拌した後、これにテトライソプロポキシチタン(Ti(O-i-C374)をモル濃度比で、Ba:Ti=1:1になるように添加して略24時間撹拌することによって前駆体溶液を調製する。このとき前駆体溶液の濃度は1.1mol/Lである。なお、前駆体溶液の調製操作は窒素ガス雰囲気中で実施する。
【0051】
次に、体積比で純水:EGMME=1:1になるように両者を混合させた加水分解用溶液を予め用意しておき、この加水分解用溶液を加水分解用溶液中の水がBaに対してモル濃度比で例えば10倍となるように添加しつつ、略−30℃で10分間、前記前駆体溶液の加水分解を行うことによって、バリウム−酸化チタン酸が重合してなり、直径が数nm〜十数nmのコロイド、即ちナノサイズのコロイドを生成させた後、90℃で1時間程度、エージングを行ってゲル化させる。
そして、得られたゲルから分離した液体を除去し、適宜の溶媒を添加した後、超音波を24時間程度印加することによってナノ結晶粒子の分散液を得る。
【0052】
前述した溶媒としては、エタノール、プロパノール、EGMME等を用いることができる。
このとき、例えば、エージングの温度をより高温にすることによりナノ結晶粒子の直径を小さくすることができ、エージングの温度をより低温にすることによりナノ結晶粒子の直径を大きくすることができる。
【0053】
また、このようにして調製した分散液には所要の直径より大きな直径のナノ結晶粒子が存在する場合があるが、分散液を適宜時間静置することによって当該ナノ結晶粒子を沈殿させ、上部液層部分を分取することによって当該ナノ結晶粒子を除去することができる。
【0054】
(堆積)
基板への堆積は電気泳動電着(EPD)法にて行うことができる。
図3は、堆積に用いる電気泳動装置の構成を説明する模式的説明図であり、図中、1は貯留槽である。貯留槽1内には、前述した如くナノ結晶粒子を分散させた分散液Sが貯留してあり、該分散液S中に、正極4及び負極3が所定の距離を隔てて対向配置してある。正極4及び負極3には電源装置2から直流電圧が所定時間だけ印加されるようになっており、電源装置2から正極4及び負極3に直流電圧が印加された場合、分散液S中のナノ結晶粒子P,P,…が電気泳動によって負極3(又は正極4)の表面に移動してそこに堆積し、薄膜を形成する。
このとき、堆積対象の電極の表面に所要パターンのマスクを予め形成しておくことにより、所要パターンのナノ結晶粒子膜を生成することができる。
なお、膜厚は印加時間及び/又は印加電圧によって調整することができる。
【0055】
図3に示したように、チタン酸バリウムを主成分とするナノ結晶粒子P,P,…にあっては、有機溶媒に分散させた場合はプラスに帯電しているので、電気泳動によって負極3に堆積する。
【0056】
従って、このような電気泳動を実施するに先立って、ナノ結晶粒子P,P,…が堆積する側の電極、図3にあっては負極3を、本発明に係るペロブスカイト酸化物薄膜の基板とすべく、例えばSrTiO3といったペロブスカイト型の結晶構造を有する単結晶に微量のNbをドープしてなる基板によって構成しておく。
【0057】
このように、ペロブスカイト型の結晶構造を有する単結晶の基板上に、BaTiO3のナノ結晶粒子を堆積させるため、各ナノ結晶粒子はその結晶方位を基板の結晶方位と揃えて堆積し易い。
また、堆積された際に結晶方位が揃っていない場合であっても、後述するような焼成操作中に、当該ナノ結晶粒子が回動して結晶方位が揃うものと考えられる。
【0058】
ところで、前述した負極3は、例えばシリコンというように半導電性を有する材料を用いてなる基板の表面に、SrTiO3に微量のNbをドープしてなるペロブスカイト型の結晶構造を有し、エピタキシャルで導電性を具備する基層を形成してなるものであってもよい。
【0059】
かかる基層は、例えば、Sr(OC252及びTi(O-i-C374をEGMMEといった有機溶媒に溶解させた溶液に適量の無水酢酸及び粘性調整剤、例えばポリエチレングリコール(PEG)を加え、例えばスピンコート法によりシリコン基板の表面に塗布した後、この基板を1000℃程度の温度で焼成することによって形成することができる。
【0060】
また、前同様の操作を行って調製したSrTiO3のナノ結晶粒子の分散液を予め用意しておき、電気泳動電着法にて堆積させた後、酸化雰囲気中又は中性雰囲気中、略400℃以上略800℃以下の適宜温度で焼成することによってSrTiO3の基層を作製してもよい。
【0061】
なお、このような基板又は基層に用いる材料としては、SrTiO3以外にも、例えばLa0.5Sr0.5CoO3、La0.7Sr0.3MnO3、LaNiO3、BaPbO3というように、その結晶の単位格子の構造が薄膜に係るペロブスカイト酸化物(第1ペロブスカイト酸化物)を構成する結晶の単位格子の構造と略同一の立方晶又は正方晶であり、また、両者の格子定数が十分に近いペロブスカイト酸化物(第2ペロブスカイト酸化物)を用いることができる。
ここで格子定数が十分に近いとは、両格子定数の差が10%以内であることをいう。
【0062】
ところで、図3に示した電気泳動装置では、正極4及び負極3を分散液S中に浸漬させるようになしてあるが、本発明はこれに限らず、貯留槽1の内周壁に正極4を着脱可能に予め固定しておくようにしてもよいし、貯留槽1の内周壁を正極で構成するようになしてもよい。
一方、100nm以下の厚さであって、マスクを用いない場合は、前述した分散液に基板を所定時間浸漬させるディップ法によっても行うことができる。
【0063】
(焼成)
次に、このような電気泳動電着法によってナノ結晶粒子の薄膜が形成された基板を焼成することによって、所要の機能を発揮し得るようになす、所謂活性化を行ってペロブスカイト酸化物薄膜を得る。
【0064】
焼成は略400℃以上略800℃以下の適宜温度で行う。かかる焼成によって薄膜を構成する各ナノ結晶粒子が生長するため、薄膜が緻密化される。
【0065】
ここで、焼成温度が略400℃未満の場合は、焼成された薄膜が所要の機能を発揮することができず、焼成温度が略800℃を超えた場合は、基板の表面又は前述した基層の表面とペロブスカイト酸化物薄膜との界面において反応が発生するため、ペロブスカイト酸化物薄膜の機能が低下又は損失する。
【0066】
このように、略400℃以上略800℃以下と従来の焼成温度に比べて低い温度で焼成することができるため、基板の表面又は前述した基層の表面とペロブスカイト酸化物薄膜との界面において反応が発生することが防止され、ペロブスカイト酸化物薄膜の機能が低下することが回避される。
【0067】
更に、前述した如くペロブスカイト酸化物薄膜が緻密化されることにより、チタン酸バリウムからなる当該ペロブスカイト酸化物薄膜上に他のペロブスカイト酸化物薄膜を重層させる積層構造を、両薄膜間の界面での反応を防止しつつ構築することができる。
次に、本発明方法によってペロブスカイト酸化物薄膜を製造した結果について説明する。
【実施例1】
【0068】
ペロブスカイト酸化物薄膜としてチタン酸バリウム(BaTiO3)の成膜に適用させた場合について説明する。
薄膜の形成には、(001)SrTiO3にNbを導入してなる基板、及びBaTiO3からなり平均直径が8nmから10nmのナノ結晶粒子を用いた。ナノ結晶粒子は、図2に示したゾル−ゲル法に従って調製した。
【0069】
前記ナノ結晶粒子をエタノールに分散させた分散液を予め用意しておき、この分散液に負極たる前記基板及び正極を相互に1.0cmの距離を隔てて対向させた状態で浸漬させ、両極に5Vの電圧を5分間印加して、基板の表面にナノ結晶粒子を電気泳動電着させた。なお、正極にはPt/Ti/SiO2/Siにて構成した基板を用いた。
そして、この基板を空気中、800℃又は600℃で30分間焼成してBaTiO3薄膜を得た。なお、昇温速度は20℃/分とした。
【0070】
図4は、電気泳動電着した後の基板の表面状態を示すSEM画像図である。
図4から明らかな如く、基板の表面には複数のナノ結晶粒子が均一に堆積されていた。
なお、このときの膜厚は略100nmであった。
【0071】
一方、図5は、800℃で焼成して得られたBaTiO3薄膜のSEM画像図である。
図5から明らかな如く、基板上にBaTiO3のナノ結晶粒子が略均一に堆積されており、堆積されたナノ結晶粒子は焼成操作によって直径が50nm程度に生長していた。
次に、このように形成した薄膜がエピタキシャルなものであるか否かを検討した結果について説明する。
【0072】
図6は、800℃で焼成した薄膜についてXRD測定を行った結果を示すグラフであり、図7は、600℃で焼成した薄膜についてXRD測定を行った結果を示すグラフである。なお、両図中、白丸印はBaTiO3を示しており、黒丸印はSrTiO3を示している。
【0073】
両図6、図7から明らかなように、(001)面及び(002)面において基板たるSrTiO3及び薄膜たるBaTiO3に係る鋭尖なピークが現れている一方、その他の領域、特に30°付近の領域に他のピークが現れていない。従って、当該薄膜の基板と平行な面は、エピタキシャルなものであると言える。
【0074】
図8は、800℃で焼成した薄膜についてポールフィギュア測定を行った結果を示すものであり、(a)は2次元的に、(b)は3次元的に表している。
ポールフィギュア測定は、あおり角を0°から90°まで2.5°ずつ変化させ、各あおり角においてφスキャンを行うことによって実施した。
【0075】
図8(a)及び(b)から明らかなように、4回対称の鋭尖な回折ピークが現れており、薄膜構成粒子の面内の結晶方位も揃っており、基板に対しエピタキシャル的であることを示していた。
【0076】
なお、前述した電気泳動電着によってナノ結晶粒子を基板上又は基層上に堆積させる堆積工程と、前述した焼成工程とを所要回数繰り返すことにより、数百nmから1μm程度の厚さのエピタキシャルな薄膜を形成することができる。
【0077】
更に、前述したゾル−ゲル法に則して、SrTiO3からなり、平均直径が略5nm以上略15nm以下の適宜寸法のナノ結晶粒子を調製しておき、前述した如くBaTiO3のナノ結晶粒子にて構成したエピタキシャルな薄膜上に、SrTiO3のナノ結晶粒子にて構成したエピタキシャルな薄膜を、前述した堆積工程及び焼成工程を行うことによって形成することもできる。そして、BaTiO3のナノ結晶粒子にて構成したエピタキシャルな薄膜とSrTiO3のナノ結晶粒子にて構成したエピタキシャルな薄膜とを交互に重層させる操作を所要回数繰り返すことによって所要の積層構造を形成することができる。
【0078】
なお、SrTiO3のナノ結晶粒子には所要量のNbを導入しておくことによって当該薄膜層を電極層とすることができる。このとき、各層の堆積工程において所要のマスクを用いることによって、所要の積層構造になすことができる。
また、BaTiO3のナノ結晶粒子に代えてCaTiO3のナノ結晶粒子を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明に係るペロブスカイト酸化物薄膜の製造手順を示すフローチャートである。
【図2】ゾル−ゲル法にてナノ結晶粒子液を調製する手順を示すフローチャートである。
【図3】堆積に用いる電気泳動装置の構成を説明する模式的説明図である。
【図4】電気泳動電着した後の基板の表面状態を示すSEM画像図である。
【図5】800℃で焼成して得られたBaTiO3薄膜のSEM画像図である。
【図6】800℃で焼成した薄膜についてXRD測定を行った結果を示すグラフである。
【図7】600℃で焼成した薄膜についてXRD測定を行った結果を示すグラフである。
【図8】800℃で焼成した薄膜についてポールフィギュア測定を行った結果を示すものである。
【符号の説明】
【0080】
1 貯留槽
2 電源装置
3 負極
4 正極
S 分散液
P ナノ粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式MTiO3で表される第1ペロブスカイト酸化物(Mは、Ba、Sr若しくはCa、又はそれらの混合物を表す)を主成分としたエピタキシャルな薄膜を製造する方法において、
前記第1ペロブスカイト酸化物を主成分とし、適宜直径の結晶粒子群を所定の溶媒に分散させた分散液を調製する工程と、
前記結晶粒子群の調製に用いた第1ペロブスカイト酸化物とは異なる適宜の第2ペロブスカイト酸化物を主成分とした単結晶からなる第1基板上、又は、適宜の第2基板上に形成され、前記第2ペロブスカイト酸化物を主成分としたエピタキシャルな基層上に、前記分散液中の結晶粒子群を堆積させる堆積工程と、
堆積させて得られた第1基板又は第2基板を1000℃未満の適宜温度で焼成する焼成工程と
を実施することを特徴とするペロブスカイト酸化物薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記分散液として、平均直径が略5nm以上略15nm以下の適宜寸法の結晶粒子群を分散させたものを用いる請求項1記載のペロブスカイト酸化物薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記焼成工程は略400℃以上略800℃以下の適宜温度で行う請求項1又は2記載のペロブスカイト酸化物薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記堆積工程は、導電性の第1基板又は導電性の基層が形成された導電性の第2基板を用い、前記分散液中に浸漬された前記第1基板又は第2基板に所定の電圧を印加することによって行う請求項1から3のいずれかに記載のペロブスカイト酸化物薄膜の製造方法。
【請求項5】
一般式MTiO3で表される第1ペロブスカイト酸化物(Mは、Ba、Sr若しくはCa、又はそれらの混合物を表す)を主成分としたエピタキシャルな薄膜であって、
前記第1ペロブスカイト酸化物を主成分とし、適宜直径の結晶粒子群を所定の溶媒に分散させた分散液中の前記結晶粒子群を、当該結晶粒子群の調製に用いた第1ペロブスカイト酸化物とは異なる第2ペロブスカイト酸化物を主成分とした単結晶からなる第1基板上、又は、適宜の第2基板上に形成され、前記第2ペロブスカイト酸化物を主成分としたエピタキシャルな基層上に堆積させ、得られた第1基板又は第2基板を1000℃未満の適宜温度で焼成してなることを特徴とするペロブスカイト酸化物薄膜。
【請求項6】
前記結晶粒子群の平均直径は略5nm以上略15nm以下の適宜寸法である請求項5記載のペロブスカイト酸化物薄膜。
【請求項7】
堆積させて得られた第1基板又は第2基板を略400℃以上略800℃以下の適宜温度で焼成してなる請求項5又は6記載のペロブスカイト酸化物薄膜。
【請求項8】
前記第1基板又は前記第2基板及び基層は導電性になしてあり、前記分散液中に浸漬された第1基板又は第2基板に所定の電圧を印加することによって当該第1基板又は第2基板に結晶粒子群を堆積させてなる請求項5から7のいずれかに記載のペロブスカイト酸化物薄膜。
【請求項9】
前記第1ペロブスカイト酸化物はチタン酸バリウムである請求項5から8のいずれかに記載のペロブスカイト酸化物薄膜。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−64942(P2010−64942A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235302(P2008−235302)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】