説明

ペースト組成物および誘電体組成物、ならびに誘電体組成物を用いたキャパシタ

【課題】線膨張係数が低く、空隙率が小さく、組成が均一なペースト組成物および誘電体組成物と、ハンドリングがしやすく、誘電率が大きい可撓性を有するキャパシタ用層間絶縁膜を提供する。
【解決手段】特定の種類から選ばれる無機フィラー、芳香族ポリアミド、および溶剤を含有してなるペースト組成物であって、前記無機フィラーの含有量が5重量%以上75重量%以下であり、前記無機フィラーの平均粒径が0.005μm以上1μm以下であり、溶剤の含有量は85重量%以下であり、リン酸エステル骨格を有する化合物を含有しているペースト組成物である。または、特定の種類から選ばれる無機フィラー、芳香族ポリアミド、リン酸エステル骨格を有する化合物を含み、前記無機フィラーの含有量が40重量%以上95重量%以下であり、前記無機フィラーの平均粒径が0.005μm以上1μm以下である誘電体組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャパシタとしての機能と可撓性を有し、回路材料用の層間絶縁膜に好適に用いることができるペースト組成物、誘電体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、軽量化、低コスト化のために、モジュールやパッケージの実装の高密度化が進められている。高密度実装の一つの手段として、キャパシタなどの受動部品をモジュール基板内、実装基板内やトランジスター作製後の半導体ウェハ上に作り込む方法がある。キャパシタの静電容量は層間絶縁膜の誘電率に比例するため、大容量化には誘電率が大きい層間絶縁膜を用いることが有利である。従来、高誘電率無機フィラーを樹脂中に分散したペースト組成物を塗布、乾燥、硬化させてキャパシタ用層間絶縁膜を得るという方法が知られている(特許文献1参照)。上記方法による高誘電率無機フィラー含有のキャパシタ用層間絶縁膜は、高誘電率無機フィラーの充填率を増やすことにより比誘電率を大きくすることができる。
【0003】
また、キャパシタ用層間絶縁膜に用いるベース樹脂は、耐熱性や信頼性に優れ既存の設備を有効に利用できるといった観点から、熱硬化性樹脂を用いる場合が多い。高周波化に伴う信号減衰の問題から、熱硬化性樹脂の中でも低誘電正接である樹脂を用いる場合が多い。しかしながら、低誘電正接である樹脂は、分子の極性を減らすと共に、硬化物の分子骨格および側鎖が剛直で分子の運動性が低くなる構造を有するため、可撓性が低く、取り扱い性、作業性などの物理的特性が不十分である場合がある。
【0004】
可撓性を有する熱硬化性複合誘電体フィルムを形成する技術としては、特許文献2に示された方法がある。この方法では、樹脂硬化後の可撓性を得るために樹脂成分としてエラストマーを用いている。このため、熱膨張係数が大きくなり、積層する電極材料やその他の絶縁材料などとの間で温度変動時に応力が発生しやすく、層間剥離など信頼性の低下を招きやすいという問題があった。
【0005】
他方、芳香族ポリアミドに高誘電率を有する無機フィラーを含有させて高誘電率膜フィルムを得る方法が知られている(特許文献3参照)。この方法では、ペースト組成物中の高誘電率無機粒子が一粒子ずつ均一に分散されにくいため、粘度調整のために溶剤量が、例えば90体積%程度と多くなる。溶剤量が多くなると溶剤を抜くための時間が長くなったり、誘電率を下げる要因ともなる大きな空隙ができやすかった。
【特許文献1】特開2005−38821号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2002−356619号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平2−206623号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
かかる状況に鑑み、本発明は、可撓性を有するためにハンドリングがしやすく、線膨張係数が低く、空隙率が小さく、組成が均一な誘電体組成物と誘電率が大きいキャパシタ用層間絶縁膜を提供することができるペースト組成物、誘電体組成物を提供するものであり、さらに、これら組成物を用いたキャパシタおよびそれを搭載した回路基板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、無機フィラー、芳香族ポリアミド、および溶剤を含有してなるペースト組成物であって、無機フィラーの含有量が5重量%以上75重量%以下であり、無機フィラーの平均粒径が0.005μm以上1μm以下であり、溶剤の含有量が85重量%以下であり、リン酸エステル骨格を有する化合物を含有しているペースト組成物である。また本発明のもう一つの態様は、無機フィラー、芳香族ポリアミド、リン酸エステル骨格を有する化合物を含み、無機フィラーの含有量が40重量%以上95重量%以下であり、無機フィラーの平均粒径が0.005μm以上1μm以下である誘電体組成物である。ペースト組成物および誘電体組成物のいずれの場合も、上記の無機フィラーはチタン酸バリウム系、チタン酸ジルコン酸バリウム系、チタン酸ストロンチウム系、チタン酸カルシウム系、チタン酸ビスマス系、チタン酸マグネシウム系、チタン酸バリウムネオジミウム系、チタン酸バリウム錫系、マグネシウムニオブ酸バリウム系、マグネシウムタンタル酸バリウム系、チタン酸鉛系、ジルコン酸鉛系、チタン酸ジルコン酸鉛系、ニオブ酸鉛系、マグネシウムニオブ酸鉛系、ニッケルニオブ酸鉛系、タングステン酸鉛系、タングステン酸カルシウム系、マグネシウムタングステン酸鉛系、二酸化チタン系の各材料から選ばれる少なくとも1種である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のペースト組成物、誘電体組成物は、可撓性を有するためにハンドリングがしやすく、線膨張係数が低く、空隙率が小さく、組成が均一であり、また誘電率が大きいため、キャパシタ用層間絶縁膜に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のペースト組成物および誘電体組成物を以下詳細に説明する。
【0010】
本発明で用いる無機フィラーは、無機物の中にあって比較的比誘電率が大きい材料であるために、一般に高誘電率無機フィラーと称される無機物であり、本発明では無機フィラーの誘電特性としては、比誘電率が50〜30000のものを用いることが好ましい。比誘電率が50未満の無機フィラーを用いると比誘電率が十分大きい誘電体組成物が得られない。また、比誘電率が30000を越えるものでは、比誘電率の温度特性が悪くなる傾向がある。ここでいう無機フィラーの比誘電率とは、無機フィラーを原料粉末として、加熱、焼成して得られる焼結体の比誘電率をさす。焼結体の比誘電率は、例えば以下の手順によって測定する。無機フィラーをポリビニルアルコールのようなバインダー樹脂、有機溶剤もしくは水を混合して、ペースト組成物を作製したのち、ペレット成型器の中に充填して、乾燥させ、ペレット状固形物を得る。そのペレット状固形物を、例えば900〜1200℃程度で焼成することにより、バインダー樹脂を分解、除去し、無機フィラーを焼結させ、無機成分のみからなる焼結体を得ることができる。このとき、焼結体の空隙は十分小さく、理論密度と実測密度から計算した空隙率が1%以下となっていることが必要である。この焼結体ペレットに上下電極を形成し、静電容量および寸法の測定結果から、比誘電率を計算する。
【0011】
無機フィラーは、比誘電率を大きくしやすいことから、チタン酸バリウム系、チタン酸ジルコン酸バリウム系、チタン酸ストロンチウム系、チタン酸カルシウム系、チタン酸ビスマス系、チタン酸マグネシウム系、チタン酸バリウムネオジミウム系、チタン酸バリウム錫系、マグネシウムニオブ酸バリウム系、マグネシウムタンタル酸バリウム系、チタン酸鉛系、ジルコン酸鉛系、チタン酸ジルコン酸鉛系、ニオブ酸鉛系、マグネシウムニオブ酸鉛系、ニッケルニオブ酸鉛系、タングステン酸鉛系、タングステン酸カルシウム系、マグネシウムタングステン酸鉛系、二酸化チタン系の材料から少なくとも1種選ばれる。ここでチタン酸バリウム系とは、チタン酸バリウム結晶内の一部の元素を他の元素で置換したり、結晶構造内に他の元素を侵入させたりした、チタン酸バリウムを母材とする固溶体を含めた総称である。その他のチタン酸ジルコン酸バリウム系、チタン酸ストロンチウム系、チタン酸カルシウム系、チタン酸ビスマス系、チタン酸マグネシウム系、チタン酸バリウムネオジミウム系、チタン酸バリウム錫系、マグネシウムニオブ酸バリウム系、マグネシウムタンタル酸バリウム系、チタン酸鉛系、ジルコン酸鉛系、チタン酸ジルコン酸鉛系、ニオブ酸鉛系、マグネシウムニオブ酸鉛系、ニッケルニオブ酸鉛系、タングステン酸鉛系、タングステン酸カルシウム系、マグネシウムタングステン酸鉛系もいずれも同様で、それぞれを母材とする固溶体を含めた総称である。
【0012】
なお、これら無機フィラーは、これらのうち1種を単独で用いたり、2種以上を混合して用いたりすることができる。高い比誘電率を有する誘電体組成物を得る場合には、商業的利便性との両立の点から、主としてチタン酸バリウムからなる化合物を用いることが好ましい。但し、誘電特性や温度安定性を向上させる目的で、シフター、デプレッサー剤などを少量添加して用いてよい。
【0013】
本発明で用いる無機フィラーの平均粒径は、0.005μm以上1μm以下であることが必要であり、0.01μm以上0.8μm以下であることが好ましい。無機フィラーの平均粒径が0.005μm以上では、分散後の再凝集が起こりにくく、ペースト組成物の分散安定性が良く、かつペースト組成物を固化して得られる誘電体組成物において均一な組成が得やすくなる。無機フィラーの平均粒径が0.01μm以上であると、無機フィラーの有する高誘電率特性を組成物にしたときに大きく低下させることが少なく、ペースト組成物を固化して得られる誘電体組成物の誘電率が大きくなりやすい。無機フィラーの平均粒径が1μm以下であると、ペースト組成物中で無機フィラーが沈降しにくくなり、ペースト組成物の保存安定性を確保しやすくなる。さらに、この無機フィラーを有するペースト組成物を固化して得られる誘電体組成物を含むフィルムを薄くした場合に、膜厚の均一化を容易にし、このフィルムを層間絶縁膜とするキャパシタの静電容量が大きくなりやすい。無機フィラーの平均粒径が、0.8μm以下であると、誘電体組成物を含むフィルムを銅箔などの他の基材と密着させる際に、膜厚や形状が変化しやすく、高い密着性が得やすくなる。
【0014】
無機フィラーがマルチモーダルであると、無機フィラーを高充填化しやすくなり好ましい。マルチモーダルとは、対象とする粒子(フィラー)の粒径分布において、複数の極大値を有するような粒子群の状態を言う。マルチモーダル状態にある粒子を高密度に充填しようとすると、大きな粒子が形成する間隙に小さい粒子が入り込むことが幾何学的に可能となり、単一粒径を有する粒子群に比べ理論的な限界充填密度が向上する。一方、マルチモーダルに対し、粒径分布中に一つの極大値しか有しない粒子群の状態をユニモーダルと言う。粒径分布の最大値(極大値)が異なっているユニモーダル状態にある粒子群を複数種類混合して用いることで、マルチモーダル状態にある粒子群を容易に得ることができる。例えば、粒径分布の最大値(極大値)が異なっている2種類の粒子を混合して得られる粒子群の状態をバイモーダルと言う。本発明の誘電体組成物を得るための樹脂を硬化させる熱処理温度(例えば300℃以下)では、セラミックスを作製する場合のような高温(例えば1000℃)ではないため、無機フィラーの焼結や粒成長はおきない。このため、ペースト組成物、誘電体組成物のいずれの状態においても、原料に用いた無機フィラーの一次粒径は変化せず、保持される。すなわち、原料に用いる無機フィラーがマルチモーダル状態にあれば、ペースト組成物、誘電体組成物においても無機フィラーはマルチモーダル状態となる。一次粒径とは、凝集を解した状態における粒子の粒径を言う。
【0015】
本発明のペースト組成物、誘電体組成物中に含まれる無機フィラーの平均粒径の測定は、誘電体組成物を形成し、その薄膜の膜厚方向に膜断面を切り出した超薄切片に対してXMA測定、および透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行うことにより測定できる。無機フィラーと芳香族ポリアミドなどの有機成分で電子線に対する透過率が異なるので、TEM観察像中で無機フィラーと有機成分ではコントラストの違いにより識別できる。複数種の無機フィラーが使用されている場合の各無機フィラーの同定はXMA測定に基づく元素分析および電子線回折像観察による結晶構造解析を行うことにより可能である。このようにして得られた無機フィラーと有機成分の面積の分布を画像解析により求め、無機フィラーの断面を円形と近似して面積から粒径を算出できる。粒径の評価は倍率5000倍と40000倍のTEM画像について行えばよい。算出された粒径の分布を倍率が5000倍のTEM画像において0.1μm刻みのヒストグラム、倍率が40000倍のTEM画像において0.01μm刻みのヒストグラムで表す。得られたヒストグラムの各カラムに対し、その中心値と度数の積を求める。次にそれらの積の和を度数の総和で除したものを平均粒径とする。なお、粒径分布の評価法としては上記の方法でTEMのかわりに走査型電子顕微鏡(SEM)を用いても良い。
【0016】
また、他の手法として、無機フィラーのブラウン運動による散乱光の揺らぎを測定する動的光散乱法、無機フィラーを電気泳動したときの散乱光のドップラー効果を測定する電気泳動光散乱法などによって平均粒径を測定することができる。レーザー回折、散乱式の粒度分布測定装置としては例えば堀場製作所製LA−920や島津製作所製SALD−1100、日機装製MICROTRAC−UPA150等がある。
【0017】
無機フィラーの作製方法は、固相反応法、水熱合成法、超臨界水熱合成法、ゾルゲル法、しゅう酸塩法などの方法が挙げられる。最大の平均粒径を有する無機フィラーの作製方法としては、高い比誘電率と品質安定性の点から、固相反応法、あるいはしゅう酸塩法、水熱合成法を用いることが好ましい。また、最小の平均粒径を有する無機フィラーの作製方法は、小粒径化が容易であるという理由から、水熱合成法、超臨界水熱合成法、ゾルゲル法、アルコキシド法のいずれかを用いることが好ましい。
【0018】
無機フィラーの形状は、球状、略球状、楕円球状、針状、板状、鱗片状、棒状、立方体(サイコロ)状などが挙げられるが、特に、球形あるいは略球形であることが好ましい。球状あるいは略球状の無機フィラーは、最も比表面積が少ないために充填時に無機フィラー凝集や樹脂流動性低下などを生じにくいからである。これらのうち1種を単独で用いたり、2種以上を混合して用いることができる。
【0019】
低線膨張係数、および高比誘電率を得るためには、これらの無機フィラーを高充填率で樹脂に含有させることが望ましい。
【0020】
ペースト組成物中の無機フィラーの含有量は5重量%以上75重量%以下である必要があり、10重量%以上50重量%以下であることがより好ましい。無機フィラーの含有量が5重量%以上であると、無機フィラーの添加による高誘電率化の効果が現れ、10重量%以上であると効果がより顕著となる。無機フィラーの含有量が75重量%以下であると、無機フィラーの分散を良好にし易くなり、50重量%以下であると、ペースト組成物を乾燥、固化して得た誘電体組成物中の空隙率を小さくし易くなる。
【0021】
本発明のペースト組成物はリン酸エステル骨格を有する化合物を含有している。リン酸エステル骨格を有する化合物は、無機フィラーの表面と相互作用し、分散剤として機能し、無機フィラーの凝集を抑制し良好な分散を実現する効果がある。無機フィラーの分散が良好であると、無機フィラーの凝集により、無機フィラー粒子間にできる空隙の発生を抑制でき、無機フィラー添加による高誘電率化の効果を十分に発揮できる。リン酸エステル骨格を有する化合物の含有量は、無機フィラーに対し、0.1重量%以上30重量%以下であることが好ましく、0.5重量%以上15重量%以下であることがより好ましい。無機フィラーに対するリン酸エステル骨格を有する化合物の含有量が、0.1重量%以上であると無機フィラーに対する分散効果が現れやすくなり、0.5重量%以上であると比較的比表面積が大きい平均粒径が0.5μm以下の無機フィラーに対しても分散効果が現れやすくなる。無機フィラーに対するリン酸エステル骨格を有する化合物の含有量が、30重量%以下では、ペースト組成物固化後の誘電体組成物中に占めるリン酸エステル骨格を有する化合物の割合が小さくなるため、無機フィラーの添加による高誘電率化の効果が出やすくなり、15重量%以下となると、ペースト組成物を乾燥、固化して得た誘電体組成物をキャパシタの層間絶縁膜として用いた場合に膜厚を非常に薄くした場合にもリーク電流を非常に小さく抑えやすくなる。
【0022】
リン酸エステル骨格を有する化合物を有していればよく、無機フィラーの分散に有効であるものであればその他の分散剤を含有することは特に妨げられない。必要に応じてリン酸エステル骨格を有する化合物とその他の分散剤を混合して用いても良い。高誘電率特性を有しているものの多くの無機フィラーの表面は塩基性である場合が多いので、リン酸エステル骨格を有する化合物以外にも酸価の高い分散剤を好ましく用いることができる。また、分散剤に加え、リン酸や酢酸など酸性のものや、その他塩基性のものをpH調整剤として添加しても良い。
【0023】
本発明のペースト組成物中の全溶剤量は、組成物全量の85重量%以下であることが好ましい。より好ましくは70重量%以下、さらにより好ましくは55重量%以下である。また1重量%以上が好ましい。溶剤量が55重量%以下では、乾燥時の溶剤揮発による空隙の発生が抑制されて、誘電体組成物の比誘電率を高くすることができる。また吸湿の原因となりうる空隙量が小さいために、湿度、水分の影響による物性変化が小さくできる。さらに保存耐久性が優れている。溶剤量が85重量%より多いと、溶剤を除去する乾燥工程および芳香族ポリアミドの固化工程で空隙部が増加し、誘電体組成物の比誘電率が低下することが多い。溶剤量が1重量%未満では溶剤が少ないため、ペースト組成物の粘度や均一性が損なわれる。
【0024】
なお、無機フィラーの充填率が高くなるにつれて、上記溶剤量による影響は大きくなり、無機フィラーがペースト組成物に含まれる溶剤を除く成分の総重量の80重量%以上の場合に、本発明の効果が特に大きい。
【0025】
本発明で用いられる溶剤は、芳香族ポリアミドを溶解するものを適宜選択することができる。溶剤は、例えば、N−メチルピロリドン、メチルセロソルブ、N,N−ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、ジオキサン、アセトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン、トルエン、クロロベンゼン、トリクロロエチレン、ベンジルアルコール、メトキシメチルブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルおよびそのアセテートなど、メシチレン、アセトニルアセトン、メチルシクロヘキサノン、ジイソブチルケトン、メチルフェニルケトン、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、イソホロン、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクタム、エチレングリコールアセテート、3−メトキシ3−メチルブタノールおよびそのアセテート、3−メトキシブチルアセテート、2−エチルヘキシルアセテート、シュウ酸エステル、マロン酸ジエチル、マレイン酸エステル、炭酸プロピレン、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール等、これらのうちの1種類以上を含有する有機溶剤混合物が好ましく用いられる。
【0026】
本発明では、より好ましくは用いられる溶剤のうち少なくともその1種がラクトン構造を有し、その含有量が、用いられる溶剤全量に対し10重量%以上100重量%以下であることが好ましい。ラクトン構造を有する溶剤のうち、最も好ましい溶剤はγ−ブチロラクトンである。ラクトン構造を有する溶剤の含有量が、10重量%以上100重量%以下であると、誘電体組成物中の空隙率が小さくなるため、誘電特性の安定性の阻害要因となる水分吸着サイト量が小さくなり好ましい。また誘電体組成物中の空隙率がより小さくなり、無機フィラーを高充填した場合に比誘電率が大きくなる効果が顕著になることから、ラクトン構造を有する溶剤の含有量が用いられる溶剤全量に対し50重量%以上100重量%以下であることがより好ましい。
【0027】
本発明のペースト組成物および後述する本発明の誘電体組成物には、さらに、シリカ粒子が含まれていることが好ましい。その含有量は芳香族ポリアミドに対し、0.5重量%以上5重量%以下含まれていることが好ましい。シリカ粒子が芳香族ポリアミドに対し、0.5重量%含まれていると、ペースト組成物から得られる誘電体組成物をフィルム状に形成し、ロール状に巻き取る時や、巻き取ったものを巻き出して使用する際に、フィルム間の滑り性が良くなる。5重量%より多く含まれていると、無機フィラーの芳香族ポリアミドへの充填の妨げとなる場合がある。また用いられるシリカ粒子の粒径は5nm以上300nm以下が好ましい。5nm以上では、芳香族ポリアミドへの分散が行いやすくなり、300nm以下ではフィルム表面を平滑にし易くなる。
【0028】
本発明のペースト組成物は必要に応じて、架橋剤、架橋促進剤、溶解調整剤、界面活性剤、安定剤、消泡剤などの添加剤を含有することもできる。
【0029】
本発明のペースト組成物は、無機フィラーを樹脂と溶剤を有する溶液へ分散することによって得られる。例えば、液状樹脂、もしくは樹脂溶液に無機フィラーを加えて混合分散する方法や、予め無機フィラーを適当な溶剤中に分散した分散液を作製し、その分散液と液状樹脂、もしくは樹脂溶液を混合するレットダウン法などによって作製される。また、液状樹脂、もしくは樹脂溶液または溶剤中へ無機フィラーを分散させる方法は特に限定されず、例えば、超音波分散、ボールミル、ロールミル、ビーズミル、クレアミックス、ホモジナイザー、メディア分散機などの方法を用いることができるが、特に、分散性の点でボールミル、ホモジナイザーを用いることが好ましい。
【0030】
本発明で用いる芳香族ポリアミドは、HN−Ar−NHOC−Ar−COで示される繰り返し単位を70モル%以上含む重合体を有するものが好ましい。ここでAr、Arは各々少なくとも一個の芳香環を含み、Ar、Arは同一でも異なっていてもよい。具体例として、次のものが挙げられる。
【0031】
【化1】

【0032】
また、これらの芳香環の環上の水素の一部が、ハロゲン基(特に塩素)、ニトロ基、C〜Cのアルキル基(特にメチル基)、C〜Cのアルコキシ基などの置換基で置換されていてもよい。また、Xは、−O−、−CH−、−SO−、−S−、−CO−などである。これらは単独または共重合の形で含まれる。ハロゲン基、アルキル基や−CH−を有するポリマーは、置換基の無いポリマーよりも、ポリマー溶液中における溶解性が大きく、無機フィラーとの相性がよくなり、好ましい。例えば、以下に挙げられる構造等を70モル%以上含むポリマーが挙げられる。
【0033】
【化2】

【0034】
また、芳香族ポリアミドには、物性を損わない程度に他のポリマーがブレンドされていてもよく、ポリマー溶液には滑剤、酸化防止剤、その他の添加剤等が含まれていても良い。
【0035】
本発明の誘電体組成物中の無機フィラーの含有量は、40重量%以上95重量%以下である必要があり、50重量%以上80重量%以下であることがより好ましい。無機フィラーの含有量が40重量%以上であると、無機フィラーの添加による高誘電率化の効果が現れ、50重量%以上であると効果がより顕著となる。無機フィラーの含有量が95重量%以下であると、誘電体組成物中の無機フィラーが均一分散した状態になりやすくなり、80重量%以下であると、ペースト組成物を乾燥、固化して得た誘電体組成物中の空隙率を小さくしやすい。
【0036】
本発明の誘電体組成物の空隙率が0体積%以上10体積%以下であることが好ましく、0体積%以上5体積%以下であることがより好ましい。空隙率が0体積%以上10%体積%以下であると、吸湿の影響が小さくなり環境変化における誘電率変化が小さくなり、キャパシタの層間絶縁材料に用いた場合に環境変化による静電容量の変動が小さくなる。空隙率が0体積%以上5体積%以下の場合は、空隙の存在による誘電率の低下が小さくなり、無機フィラー添加による高誘電率化の効果が顕著になる。
【0037】
主な空隙発生のメカニズムは以下のようである。ペースト組成物から誘電体組成物を得るための加熱固化するプロセスでは、脱溶剤などにより芳香族ポリアミドに収縮が起きるが、無機フィラーの近傍では無機フィラーには収縮が起きないために、空隙の発生は芳香族ポリアミドの収縮によるものである。したがって、発生空隙量は、芳香族ポリアミドの収縮の大きさに依存する。また発生空隙量は、ペースト組成物中の溶剤の量や溶剤の揮発速度からも影響を受ける。空隙率を10体積%以下と小さくするためには、例えば加熱時の揮発速度が遅い高沸点溶剤や樹脂との相互作用が強い溶剤を用いることで達成できる。上記の空隙率を達成できる溶剤としては、γ−ブチロラクトンなどがある。溶剤量は、全ペースト組成物に対し85重量%以下にした場合に、空隙率を10体積%以下にしやすい。その他、揮発速度を抑えるために低温で長時間の加熱を行うことや、減圧下で加熱行うことなども有効な手段である。
【0038】
誘電体組成物の空隙率の測定方法は、ガス吸着法、水銀圧入法、陽電子消滅法、小角X線散乱法など、用途に合わせて適宜選択することができるが、本発明では、誘電体組成物の密度から、下記(1)〜(3)の手順で空隙率を求める。
(1)重さを量った定形基板上にペースト組成物を塗布、脱溶剤、固化して得られた誘電体組成物の重さを量る。
(2)基板の重さをW1、基板と誘電体組成物の重さをW2、誘電体組成物の密度をD、体積をVとすると、誘電体組成物の密度D=(W2−W1)/Vとなる。
(3)熱重量測定装置(TGA)を用いて、該誘電体組成物を大気雰囲気中、昇温速度10℃/分にて、900℃まで昇温、900℃で30分間保持して脱バインダーを行い、誘電体組成物中に含まれる無機フィラーと樹脂の割合を測定した。無機フィラーの体積をWc、比重をρc、樹脂の体積をWp、比重をρp、空隙率をPとすると、空隙率Pは、以下の式で求められる。
【0039】
空隙率P(体積%)={(V−Wc/ρc−Wp/ρp)/V}×100 。
【0040】
本発明の誘電体組成物は可撓性を有するのが好ましい。本発明でいう可撓性を有するとは、誘電体組成物をシート状やフィルム状に形成し、以下の式の曲率半径rで180°曲げた場合に、破壊が発生しない性質を有することである。
曲率半径r=(誘電体組成物の厚さ)×200 。
【0041】
誘電体組成物が可撓性を有すると、単独膜としてフィルム状に形成したものをコアに巻き取ることができるため、生産性、ハンドリング性に優れる。また、数十μm以下の薄い膜とした場合に、取り扱い時に割れなどの破壊が生じにくく、誘電体組成物を層間絶縁材料とするキャパシタなどを製造する際にハンドリング性に優れる。
【0042】
発明のペースト組成物から得られる誘電体組成物の形態は特に限定されず、膜状、棒状、球状など、用途に合わせて選択することができるが、特に膜状であることが好ましい。ここでいう膜とは、フィルム、シート、板、ペレットなども含まれる。もちろん、導通のためのビアホール形成、インピーダンスや静電容量あるいは内部応力の調整、または、放熱機能付与など、用途にあわせたパターン形成を行うこともできる。
【0043】
誘電体組成物は、被着体上に形成しても良いし、単独膜としてフィルム状に形成しても良い。被着体としては、例えば、基板としてはシリコンウェハ、セラミックス類、ガリウムヒ素、有機系回路基板、無機系回路基板、およびこれらの基板に回路の構成材料が配置されたものから選択できるが、これらに限定されない。有機系回路基板の例としては、ガラス布・エポキシ銅張積層板などのガラス基材銅張積層板、ガラス不織布・エポキシ銅張積層板などのコンポジット銅張積層板、ポリエーテルイミド樹脂基板、ポリエーテルケトン樹脂基板、ポリサルフォン系樹脂基板などの耐熱・熱可塑性基板、ポリエステル銅張フィルム基板、ポリイミド銅張フィルム基板などのフレキシブル基板が挙げられる。
【0044】
また、無機系回路基板の例は、アルミナ基板、窒化アルミニウム基板、炭化ケイ素基板などのセラミック基板、アルミニウムベース基板、鉄ベース基板などの金属系基板が挙げられる。回路の構成材料の例は、銀、金、銅などの金属を含有する導体、無機系酸化物などを含有する抵抗体、ガラス系材料および/または樹脂などを含有する低誘電体、樹脂や高誘電率無機フィラーなどを含有する高誘電体、ガラス系材料などを含有する絶縁体などが挙げられる。
【0045】
ペースト組成物を被着体に塗布する方法としてはスピンナーを用いた回転塗布、スプレー塗布、ロールコーティング、スクリーン印刷、ブレードコーター、ダイコーター、カレンダーコーター、メニスカスコーター、バーコーターなどの方法がある。また、塗布膜厚は、塗布手法、組成物の固形分濃度、粘度などによって異なるが通常、乾燥後の膜厚が、0.5から30μmになるように塗布される。
【0046】
本発明の誘電体組成物から膜状形成物(例えばフィルム)を得るには、支持体上にペースト組成物を塗布する方法を用いることができる。例えば、ガラスなどの平滑な支持体上にペースト組成物をたらし、スペーサーを介してガラスやメタルのバーにより流延させる。支持体上に形成された膜成物が自己保持性をもつまで乾燥させる。この際、溶剤が急激に揮発して、空隙の発生や面荒れを起こさないように調整する必要があり、50〜180℃の範囲で行われる。自己保持性を持つフィルムは支持体から剥離され、湿式浴中へ導入される。この浴は一般に水系媒体からなるものであり、水の他に有機溶剤や無機塩などを含有しても良い。湿式浴中でフィルム中の残存溶剤や無機塩が抽出される。湿式浴中へ導入する際に、フィルムの周囲を口の字型のフレームなどで固定し、フィルムの面方向への収縮やシワの発生を防ぐことが好ましい。浴から出たフィルムは次いで乾燥や熱処理が行われる。これらの処理は80〜320℃で行われる。
【0047】
本発明のペースト組成物及び誘電体組成物の用途は特に限定されないが、例えば、プリント配線基板の内蔵キャパシタ用層間絶縁材料に用いられる他、多層基板の層間絶縁膜、周波数フィルター、無線用アンテナ、電磁シールドなど、多種の電子部品、装置への適用が可能である。
【0048】
本発明の誘電体組成物を層間絶縁層とするキャパシタの製造方法は特に限定されないが、例えば、基板上に形成された電極上に、ペースト組成物を塗布、乾燥、固化し、誘電体組成物膜を形成し、その上に電極を形成することでキャパシタを形成できる。基板には、ガラスエポキシ基板など、前記した被着体などの中から適宜選択することができる。電極は、銅箔などの金属箔や、めっきで形成された金属層、金属などの粉末が分散された導電性ペーストから形成される導体層などを適宜用いることができる。その他の製造方法としては、単独膜として形成された誘電体組成物を有するフィルムを、電極材料と熱圧着などで密着させて形成する方法もある。この際、表面に電極が形成された基板に熱圧着してもよい。
【0049】
本発明のキャパシタは基板の表面のみならず、多層基板の内部に形成することもでき、その場合は実装密度向上に有用であったり、同じ基板に実装するLSIの直下など至近距離に形成でき、LSIとの間のインダクタンス成分を極小化できる。
【0050】
本発明のキャパシタを含む回路基板の構成は特に限定されないが、導体層、絶縁体層が積層されてなる基板の表層もしくは内層に本発明のキャパシタが形成されたものなどがある。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。透過率及び誘電特性等の評価は下記の方法に従って測定した。
【0052】
(1)誘電特性
誘電体組成物の静電容量、比誘電率、誘電正接は以下のようにして測定した。面積6cm×6cmのフィルム状の誘電体組成物の片側全面に蒸着法により下部電極を形成した。続いて逆側に直径10mmの円形パターンの測定用電極と内径11.5mmのリング状パターンのガード電極を蒸着法により形成した。下部電極、測定用電極、ガード電極は共にアルミニウム電極である。誘電体組成物の膜厚は10μm〜20μmの範囲とした。測定用電極と下部電極に挟まれた部分が測定対象領域となる。測定対象領域の1kHzにおける静電容量をインピーダンスアナライザ4284A(アジレントテクノロージー(株)製)を用いて測定した。比誘電率は静電容量と測定対象領域の寸法から算出した。
【0053】
(2)膜厚
誘電体組成物の膜厚は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた断面観察像から測定した。
【0054】
(3)空隙率
5cm×5cmの大きさにカットした誘電体組成物の重さをW1、誘電体組成物の密度をD、体積をVとすると、誘電体組成物の密度D=W1/Vとなる。体積Vは、この膜面積と上記(2)の膜厚の測定方法で求めた膜厚から求めた。
熱重量測定装置(TGA)を用いて、誘電体組成物を大気雰囲気中、昇温速度10℃/分にて、900℃まで昇温、900℃で30分間保持して脱バインダーを行い、誘電体組成物中に含まれる無機フィラーと樹脂の割合を測定した。無機フィラーの体積をWc、比重をρc、樹脂の体積をWp、比重をρp、空隙率をPとし、空隙率Pを、以下の式から算出した。
【0055】
空隙率P(体積%)={(V−Wc/ρc−Wp/ρp)/V}×100 。
【0056】
(4)可撓性
誘電体組成物をフィルム状に形成し、曲率半径r=(誘電体組成物の厚さ)×200の式で得られる曲率半径rで90°と180°に曲げ、目視でフィルムに生じる割れやクラックなどの異常を観察した。90°曲げで形状に異常が発生しない場合を可撓性有り、さらに180°曲げでも形状に異常が発生しない場合を可撓性大とした。
【0057】
また実施例等で用いた化合物のうち、略語を使用しているものについて、以下に示す。
NMP:N−メチルピロリドン 。
【0058】
実施例1
チタン酸バリウム(堺化学工業(株)製、BT−05、平均粒径:0.5μm)532重量部、N−メチルピロリドン(NMP)95重量部、分散剤(リン酸エステル骨格を有する酸基を持つコポリマー、ビックケミー・ジャパン(株)製、BYK−W9010)5重量部をホモジナイザーを用いて混練し、分散液A−1を得た。
【0059】
NMPに芳香族ジアミン成分として80モル%に相当する2−クロルパラフェニレンジアミンと、20モル%に相当する4,4’−ジアミノジフェニルエ−テルとを溶解させ、これに100モル%に相当する2−クロルテレフタル酸クロリドを添加し、2時間撹拌して重合を完了した。次いで水中にて洗浄を行い、芳香族ポリアミドポリマーを分離し、乾燥を行った。その後、NMPに対し固形分濃度10.8%となるように溶かした。この溶液に、一次粒径16nmの乾式シリカをポリマー当たり1.8重量%添加し、芳香族ポリアミド樹脂溶液B−1を得た。
【0060】
分散液A−1を50重量部と、芳香族ポリアミド樹脂溶液B−1を382重量部とをボールミルを用いて混合し、ペースト組成物全量に対する無機フィラーの含有量が10重量%であり、ペースト組成物全量に対する含有溶剤量が81重量%であるペースト組成物を作製した。
【0061】
真空脱泡したペースト組成物をガラス板上にメタルバーコーターを用いて流延し、120℃で7分間乾燥させ、プリベーク膜を得た。プリベーク膜をガラス板から剥離後、プリベーク膜の周囲をフレームで固定し、流水中に10分間浸し、280℃で1分間熱処理を行った。フレームを外して、厚さ15μmのフィルム状誘電体組成物を得た。誘電体組成物中の無機フィラーの含有量は50重量%となる。
【0062】
この誘電体組成物E−1の空隙率は22%、1kHzにおける比誘電率は7であった。上記の可撓性試験を行い、目視でフィルム状の誘電体組成物を観察したところ、90°曲げおよび180°曲げのいずれでも異常は見つからず、可撓性大であった。
【0063】
実施例2
50重量部の分散液A−1と、215重量部の芳香族ポリアミド樹脂溶液B−1をボールミルを用いて混合し、ペースト組成物全量に対する無機フィラーの含有量が16重量%であり、ペースト組成物全量に対する含有溶剤量が75重量%であるペースト組成物を作製した。
【0064】
実施例1と同様にして、上記のペースト組成物から厚さ15μmのフィルム状の誘電体組成物を得た。この誘電体組成物中の無機フィラーの含有量は64重量%となる。この誘電体組成物の空隙率は26%、1kHzにおける比誘電率は9であった。また、上記の可撓性試験を行い、目視でフィルム状の誘電体組成物を観察したところ90°曲げおよび180°曲げのいずれでも異常は見つからず、可撓性大であった。
【0065】
実施例3
50重量部の分散液A−1と、164重量部の芳香族ポリアミド樹脂溶液B−1をボールミルを用いて混合し、ペースト組成物全量に対する無機フィラーの含有量が20重量%であり、ペースト組成物全量に対する含有溶剤量が72重量%であるペースト組成物を作製した。
【0066】
実施例1と同様にして、上記のペースト組成物から厚さ15μmのフィルム状の誘電体組成物を得た。誘電体組成物中の無機フィラーの含有量は70重量%となる。この誘電体組成物の空隙率は23%、1kHzにおける比誘電率は11であった。また、上記の可撓性試験を行い、目視でフィルム状の誘電体組成物を観察したところ90°曲げおよび180°曲げのいずれでも異常は見つからず、可撓性大であった。
【0067】
実施例4
50重量部の分散液A−1と、42重量部の芳香族ポリアミド樹脂溶液B−1をボールミルを用いて混合し、ペースト組成物全量に対する無機フィラーの含有量が46重量%であり、ペースト組成物全量に対する含有溶剤量が49重量%であるペースト組成物を作製した。
【0068】
実施例1と同様にして、上記のペースト組成物から厚さ15μmのフィルム状の誘電体組成物を得た。誘電体組成物中の無機フィラーの含有量は90重量%となる。この誘電体組成物の空隙率は26%、1kHzにおける比誘電率は25であった。また、可撓性の評価において90°曲げまでは割れやクラックを生じず、可撓性は確認できたが、180°折り曲げた際に割れが生じた。
【0069】
実施例5
50重量部の分散液A−1と、24重量部の芳香族ポリアミド樹脂溶液B−1をボールミルを用いて混合し、ペースト組成物全量に対する無機フィラーの含有量が57重量%であり、ペースト組成物全量に対する含有溶剤量が39重量%であるペースト組成物を作製した。
【0070】
実施例1と同様にして、上記のペースト組成物からフィルム状の誘電体組成物を得た。誘電体組成物中の無機フィラーの含有量は93重量%となる。この誘電体組成物の空隙率は27%、1kHzにおける比誘電率は33であった。また、可撓性の評価において90°曲げまでは割れやクラックを生じず、可撓性は確認できたが、180°折り曲げた際に割れが生じた。
【0071】
実施例6
芳香族ポリアミド樹脂溶液B−1をNMPを用いて希釈し、固形分濃度7.3%の芳香族ポリアミド樹脂溶液B−2を作製した。50重量部の分散液A−1と、322重量部の芳香族ポリアミド樹脂溶液B−2をボールミルを用いて混合し、ペースト組成物全量に対する無機フィラーの含有量が11重量%であり、ペースト組成物全量に対する含有溶剤量が82重量%であるペースト組成物を作製した。
【0072】
実施例1と同様にして、上記のペースト組成物から厚さ15μmのフィルム状の誘電体組成物を得た。誘電体組成物中の無機フィラーの含有量は64重量%となる。この誘電体組成物の空隙率は33%、1kHzにおける比誘電率は8であった。また、上記の可撓性試験を行い、目視でフィルム状の誘電体組成物を観察したところ180°曲げても異常は見つからず、可撓性大であった。
【0073】
実施例7
芳香族ポリアミド樹脂溶液B−1の作製時に得た芳香族ポリアミドポリマーを、固形分濃度が20%となるようにNMPに溶解させた。この溶液に、一次粒径16nmの乾式シリカをポリマー当たり1.8重量%添加し、芳香族ポリアミド樹脂溶液B−3を得た。
【0074】
50重量部の分散液A−1と、118重量部の芳香族ポリアミド樹脂溶液B−3をボールミルを用いて混合し、ペースト組成物全量に対する無機フィラーの含有量が25重量%であり、ペースト組成物全量に対する含有溶剤量が61重量%であるペースト組成物を作製した。
【0075】
実施例1と同様にして、上記のペースト組成物から厚さ15μmのフィルム状の誘電体組成物を得た。誘電体組成物中の無機フィラーの含有量は64重量%となる。この誘電体組成物の空隙率は18%、1kHzにおける比誘電率は13であった。また、上記の可撓性試験を行い、目視でフィルム状の誘電体組成物を観察したところ180°曲げても異常は見つからず、可撓性大であった。
【0076】
実施例8
チタン酸バリウム(堺化学工業(株)製、BT−05、平均粒径:0.5μm)532重量部、γ−ブチロラクトン95重量部、分散剤(リン酸エステル骨格を有する酸基を持つコポリマー、ビックケミー・ジャパン(株)製、BYK−W9010)5重量部をホモジナイザーを用いて混練し、分散液A−2を得た。50重量部の分散液A−2と、118重量部の芳香族ポリアミド樹脂溶液B−3をボールミルを用いて混合し、ペースト組成物全量に対する無機フィラーの含有量が25重量%であり、ペースト組成物全量に対する含有溶剤量が61重量%であるペースト組成物を作製した。
【0077】
実施例1と同様にして、上記のペースト組成物から厚さ15μmのフィルム状の誘電体組成物を得た。誘電体組成物中の無機フィラーの含有量は64重量%となる。この誘電体組成物の空隙率は9%、1kHzにおける比誘電率は15であった。また、上記の可撓性試験を行い、目視でフィルム状の誘電体組成物を観察したところ180°曲げても異常は見つからず、可撓性大であった。
【0078】
実施例9
チタン酸バリウム(戸田工業(株)製、T−BTO−020RF、平均粒径:0.02μm)693重量部、γ−ブチロラクトン300重量部、分散剤(リン酸エステル骨格を有する酸基を持つコポリマー、ビックケミー・ジャパン(株)製、BYK−W9010)7重量部をウルトラアペックスミル(寿工業(株)製)を用いて混練し、分散液A−3を得た。50重量部の分散液A−3と、97重量部の芳香族ポリアミド樹脂溶液B−3をボールミルを用いて混合し、ペースト組成物全量に対する無機フィラーの含有量が24重量%であり、ペースト組成物全量に対する含有溶剤量が63重量%であるペースト組成物を作製した。
【0079】
実施例1と同様にして、上記のペースト組成物から厚さ15μmのフィルム状の誘電体組成物を得た。誘電体組成物中の無機フィラーの含有量は64重量%となる。この誘電体組成物の空隙率は4%、1kHzにおける比誘電率は11であった。また、上記の可撓性試験を行い、目視でフィルム状の誘電体組成物を観察したところ180°曲げても異常は見つからず、可撓性大であった。
【0080】
比較例1
5重量部の分散液A−1と、89重量部の芳香族ポリアミド樹脂溶液B−1をボールミルを用いて混合し、ペースト組成物全量に対する無機フィラーの含有量が4重量%であり、ペースト組成物全量に対する含有溶剤量が85重量%であるペースト組成物を作製した。
【0081】
実施例1と同様にして、厚さ15μmのフィルム状の誘電体組成物を得た。誘電体組成物中の無機フィラーの含有量は30重量%となる。この誘電体組成物の空隙率は27%、1kHzにおける比誘電率は4であった。また、上記の可撓性試験を行い、目視でフィルム状の誘電体組成物を観察したところ180°曲げても異常は見つからず、可撓性大であった。
【0082】
比較例2
芳香族ポリアミド樹脂溶液B−1をNMPを用いて希釈し、固形分濃度2.4%の芳香族ポリアミド樹脂溶液B−4を作製した。5重量部の分散液A−1と、100重量部の芳香族ポリアミド樹脂溶液B−4をボールミルを用いて混合し、ペースト組成物全量に対する無機フィラーの含有量4重量%であり、ペースト組成物全量に対する含有溶剤量が94重量%であるペースト組成物を作製した。
【0083】
実施例1と同様にして、上記のペースト組成物から厚さ15μmのフィルム状の誘電体組成物を得た。誘電体組成物中の無機フィラーの含有量は63重量%となる。この誘電体組成物の空隙率は45%、1kHzにおける比誘電率は4であった。また、上記の可撓性試験を行い、目視でフィルム状の誘電体組成物を観察したところ180°曲げても異常は見つからず、可撓性大であった。
【0084】
比較例3
50重量部の分散液A−1と、4.3重量部の芳香族ポリアミド樹脂溶液B−1をボールミルを用いて混合し、ペースト組成物全量に対する無機フィラーの含有量78重量%であり、ペースト組成物全量に対する含有溶剤量が21重量%であるペースト組成物を作製した。実施例1と同様にして、上記のペースト組成物から誘電体組成物を作製しようと試みたが、流動性が低く、膜を形成することができなかった。
【0085】
比較例4
チタン酸バリウム(堺化学工業(株)製、BT−05、平均粒径:0.5μm)538重量部、NMP95重量部をホモジナイザーを用いて混練し、分散液A−4を得た。
【0086】
50重量部の分散液A−4と、25重量部の芳香族ポリアミド樹脂溶液B−3と、18重量部のNMPをボールミルを用いて混合し、ペースト組成物全量に対する無機フィラーの含有量46重量%であり、ペースト組成物全量に対する含有溶剤量が49重量%であるペースト組成物を作製した。ペースト組成物をしばらく放置すると、沈降が生じ、沈降物と液状物の分離が生じた。
【0087】
実施例1と同様にして、上記のペースト組成物から誘電体組成物を作製したが、流動性が低く、均一な膜厚を有するフィルムを作製することが困難であった。流水中に浸した際に割れが生じ、破片状の誘電体組成物しか得られなかった。誘電体組成物中の無機フィラーの含有量は90重量%である。膜厚のばらつきが大きいため、比誘電率、空隙率を測定することができなかった。
【0088】
比較例5
チタン酸バリウム(堺化学工業(株)製、BT−05、平均粒径:0.5μm)532重量部、NMP95重量部、分散剤(不飽和ポリアミノアミドと酸性ポリエステルの塩の溶液、ビックケミー・ジャパン(株)製、BYK−W980)5重量部をホモジナイザーを用いて混練し、分散液A−5を得た。
【0089】
50重量部の分散液A−5と、42重量部の芳香族ポリアミド樹脂溶液B−1をボールミルを用いて混合し、ペースト組成物全量に対する無機フィラーの含有量46重量%であり、ペースト組成物全量に対する含有溶剤量が49重量%であるペースト組成物を作製した。ペースト組成物をしばらく放置すると、沈降が生じ、沈降物と液状物の分離が生じた。
【0090】
実施例1と同様にして、上記のペースト組成物から誘電体組成物を作製したが、流動性が低く、均一な膜厚を作製することが困難であった。流水中に浸した際に割れが生じ、破片状の誘電体組成物しか得られなかった。誘電体組成物中の無機フィラーの含有量は90重量%である。膜厚のばらつきが大きいため、比誘電率、空隙率を測定することができなかった。
【0091】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機フィラー、芳香族ポリアミド、および溶剤を含有してなるペースト組成物であって、無機フィラーの含有量が5重量%以上75重量%以下であり、無機フィラーの平均粒径が0.005μm以上1μm以下であり、溶剤の含有量が85重量%以下であり、無機フィラーがチタン酸バリウム系、チタン酸ジルコン酸バリウム系、チタン酸ストロンチウム系、チタン酸カルシウム系、チタン酸ビスマス系、チタン酸マグネシウム系、チタン酸バリウムネオジミウム系、チタン酸バリウム錫系、マグネシウムニオブ酸バリウム系、マグネシウムタンタル酸バリウム系、チタン酸鉛系、ジルコン酸鉛系、チタン酸ジルコン酸鉛系、ニオブ酸鉛系、マグネシウムニオブ酸鉛系、ニッケルニオブ酸鉛系、タングステン酸鉛系、タングステン酸カルシウム系、マグネシウムタングステン酸鉛系、二酸化チタン系の各材料から選ばれる少なくとも1種であり、リン酸エステル骨格を有する化合物を含有しているペースト組成物。
【請求項2】
さらにシリカ粒子を含んでいる請求項1記載のペースト組成物。
【請求項3】
ラクトン構造を有する溶剤を少なくとも1種含有している請求項1記載のペースト組成物。
【請求項4】
無機フィラー、芳香族ポリアミド、リン酸エステル骨格を有する化合物を含み、無機フィラーの含有量が40重量%以上95重量%以下であり、無機フィラーの平均粒径が0.005μm以上1μm以下であり、無機フィラーがチタン酸バリウム系、チタン酸ジルコン酸バリウム系、チタン酸ストロンチウム系、チタン酸カルシウム系、チタン酸ビスマス系、チタン酸マグネシウム系、チタン酸バリウムネオジミウム系、チタン酸バリウム錫系、マグネシウムニオブ酸バリウム系、マグネシウムタンタル酸バリウム系、チタン酸鉛系、ジルコン酸鉛系、チタン酸ジルコン酸鉛系、ニオブ酸鉛系、マグネシウムニオブ酸鉛系、ニッケルニオブ酸鉛系、タングステン酸鉛系、タングステン酸カルシウム系、マグネシウムタングステン酸鉛系、二酸化チタン系の各材料から選ばれる少なくとも1種である誘電体組成物。
【請求項5】
さらにシリカ粒子を含む請求項4記載の誘電体組成物。
【請求項6】
請求項4記載の誘電体組成物を含有する可撓性フィルム。
【請求項7】
請求項4記載の誘電体組成物を層間絶縁層とするキャパシタ。
【請求項8】
請求項7記載のキャパシタを含む回路基板。

【公開番号】特開2007−217623(P2007−217623A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−42044(P2006−42044)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】