説明

ホイール式建設機械

【課題】 簡単な構成によって発熱原因となるブレーキ機構を冷却することにより、アクスル装置に対する信頼性、組立作業性等を向上する。
【解決手段】 ケーシング13を形成する蓋体15の上面15Aに、走行時に前側から流入する冷却風によってケーシング13内の潤滑油38を冷却する放熱フィン39を設け、この放熱フィン39には、冷却風を左,右のブレーキ機構33と対向する位置に設けた各側方フィン45に向けて導くために傾斜したフィン40〜44を形成する。従って、放熱フィン39は、各フィン40〜44の傾斜形状により、走行時に流入する冷却風を左,右のブレーキ機構33を冷却する側方フィン45に向け導くことができ、各ブレーキ機構33を狙って冷却することができる。これにより、多くの熱を発生する左,右のブレーキ機構33を集中的に冷却することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばアクスル装置を介して左,右のホイールを回転駆動するホイールローダ等のホイール式建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ホイール式建設機械としては、例えばホイールローダ等が知られている。このホイールローダは、後部車体の前側に前部車体が左,右方向に揺動可能に連結され、前部車体には、アーム、バケット等からなる作業装置が取付けられている。また、後部車体には、エンジン、トルクコンバータ、トランスミッション、油圧ポンプ等が搭載され、該エンジンの動力がトルクコンバータを介してトランスミッションに伝達されるようになっている。
【0003】
さらに、各車体の下側には、トランスミッションの出力軸にプロペラシャフトを介して接続されることにより左,右のホイールを回転駆動するアクスル装置が設けられ、該アクスル装置は、上面側が車体に対面するように配設されたケーシングと、該ケーシング内に設けられトランスミッションの出力軸の回転力を左,右のホイールに分配するデファレンシャル機構と、該デファレンシャル機構の左,右両側に位置して前記ケーシング内に設けられ左,右のホイールに制動をかけるブレーキ機構とを備え、前記ケーシング内には、前記デファレンシャル機構、ブレーキ機構等を潤滑、冷却するための潤滑油が貯留されている。
【0004】
ここで、ホイールローダは、前進してバケットを土砂の山に突っ込み、大量の土砂と共にバケットを持ち上げて積み込むという作業を繰り返し行うものである。このため、デファレンシャル機構に負荷がかかり発熱の原因になる。特に、上述した作業では、ブレーキ機構によって頻繁に制動をかけることになるから、このブレーキ機構の摩擦熱による温度上昇によって、シール部材やパッキンの寿命が短くなる虞がある。
【0005】
そこで、アクスル装置には、ケーシング内にオイルクーラを設け、該ケーシング内の潤滑油を積極的に冷却する構成としたものがある(例えば、特許文献1参照)。また、他のデファレンシャル機構のケーシングには、その底面に放熱フィンを設ける構成としたものがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−240821号公報
【特許文献2】実開昭63−92864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した特許文献1の発明のように、ケーシング内にオイルクーラを内蔵するためには、ケーシングを大きくする必要があり、アクスル装置が大型化するという問題がある。また、オイルポンプ等の周辺機器が増えるから、組立作業性の低下、コストの上昇等を招くという問題がある。
【0008】
また、特許文献2の発明では、ケーシングの底面に放熱フィンを設けているが、不整地で作業を行うホイールローダに適用した場合には、各放熱フィン間に土砂が詰まってしまい放熱効果が得られなくなるという問題がある。
【0009】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、簡単な構成によって発熱原因となるブレーキ機構を冷却することができ、アクスル装置に対する信頼性、組立作業性等を向上できるようにしたホイール式建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるホイール式建設機械は、駆動源を備えた車体と、該車体の下側に設けられ前記駆動源に接続されることにより左,右のホイールを回転駆動するアクスル装置とからなり、前記アクスル装置は、密閉容器として形成され上面側が前記車体に対面するように配設されたケーシングと、該ケーシング内に設けられ前記駆動源の回転力を前記左,右のホイールに分配するデファレンシャル機構と、該デファレンシャル機構の左,右両側に位置して前記ケーシング内に設けられ前記左,右のホイールに制動をかける左,右のブレーキ機構と、前記デファレンシャル機構とブレーキ機構を潤滑、冷却するために前記ケーシング内に貯留された潤滑油とを備えてなる。
【0011】
そして、上述した課題を解決するために、請求項1の発明が採用する構成の特徴は、前記ケーシングには、その上面側に形成された開口部を閉塞する蓋体を設け、前記ケーシングの蓋体には、その上面側に位置して前記車体の走行時に前側から流入する冷却風によって前記潤滑油を冷却する放熱フィンを設け、前記放熱フィンは、冷却風を前記左,右のブレーキ機構と対向する位置に導く傾斜フィンを有する構成としたことにある。
【0012】
請求項2の発明は、前記ケーシングには、前記蓋体の左,右方向の側方であって前記左,右のブレーキ機構と対向する位置に側方フィンを設け、前記放熱フィンは、走行時の冷却風を前記左,右の側方フィンに向けて導く構成としたことにある。
【0013】
請求項3の発明は、前記ケーシング内には、前記各ブレーキ機構の左,右方向の外側に位置して減速機構を設け、前記ケーシングには、前記各側方フィンの左,右方向の外側であって前記左,右の減速機構と対向する位置に外側フィンを設け、前記放熱フィンは、走行時の冷却風を前記左,右の外側フィンに向けて導く構成としたことにある。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、作業時、走行時にはデファレンシャル機構とブレーキ機構が発熱し潤滑油の温度が上昇するが、この潤滑油の熱はケーシングを介して蓋体に設けた放熱フィンから外部に放出することができる。しかも、放熱フィンは、走行時に流入する冷却風を傾斜フィンにより、制動時の摩擦によって多くの熱を発生する左,右のブレーキ機構と対向する位置に導くことができ、該各ブレーキ機構を狙って冷却することができる。
【0015】
この結果、傾斜フィンを有した放熱フィンを蓋体に取付けるだけでデファレンシャル機構とブレーキ機構を冷却することができ、特に、多くの熱を発生する左,右のブレーキ機構を集中的に冷却することができる。これにより、これらの熱劣化、焼付き、シール部材の損傷等を防止でき、アクスル装置の耐久性、信頼性等を向上することができる。
【0016】
また、放熱フィンは、傾斜フィンで冷却風の向きを変えているだけであるから、簡単な構成でブレーキ機構を冷却することができ、部品点数の増大を抑えて、組立作業性の向上、コストの低減等を図ることができる。また、放熱フィンは、ケーシングの上側に位置する蓋体に設けているから、不整地で作業を行う場合でも、放熱フィン間に土砂等が詰まるのを防止でき、放熱効果を持続することができる。さらに、放熱フィンは、蓋体の上面に設けているから、既存の蓋体を放熱フィンが設けられた蓋体に変更するだけで、ブレーキ機構の冷却効率を簡単に高めることができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、左,右のブレーキ機構と対向する位置に設けた側方フィンは、ブレーキ機構が発する熱を外部に放出することができる。しかも、この側方フィンには、放熱フィンの傾斜フィンによって冷却風が積極的に導かれるから、ブレーキ機構やその周囲を効率よく冷却することができる。
【0018】
請求項3の発明によれば、左,右の減速機構と対向する位置に設けた外側フィンは、減速機構が発する熱を外部に放出することができる。しかも、この外側フィンには、放熱フィンの傾斜フィンによりブレーキ機構の周囲を経由して冷却風が導かれるから、このときの冷却風によって減速機構やその周囲を効率よく冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係るホイールローダを示す正面図である。
【図2】図1中の前側アクスル装置を拡大して示す外観斜視図である。
【図3】アクスル装置の中央付近を拡大して示す平面図である。
【図4】図3のアクスル装置の内部構造を示す一部破断の平面図である。
【図5】図3中の矢示V−V方向からみた要部拡大の断面図である。
【図6】放熱フィンが設けられた蓋体を示す平面図である。
【図7】本発明の第1の変形例による放熱フィンが設けられた蓋体を示す平面図である。
【図8】本発明の第2の変形例による放熱フィンが設けられた蓋体を示す平面図である。
【図9】本発明の第3の変形例による放熱フィンが設けられた蓋体を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態に係るホイール式建設機械の代表例として、ホイールローダを例に挙げ、図1ないし図6に従って詳細に説明する。
【0021】
図1において、1はホイール式建設機械としてのホイールローダで、該ホイールローダ1は、後部車体2と、該後部車体2の前側に左,右方向に揺動可能に連結された前部車体3と、前記後部車体2、前部車体3の左,右両側に設けられた後ホイール4、前ホイール5と、前記前部車体3の前側に俯仰動可能に設けられた作業装置6と、後述のアクスル装置11,12とにより大略構成されている。
【0022】
ここで、後部車体2には、駆動源となるエンジン7、トルクコンバータ8、トランスミッション9、図示しない油圧ポンプ等が搭載されている。そして、トランスミッション9は、プロペラシャフト9A,9Bを介してアクスル装置11,12に接続されている。また、後部車体2の上側には、オペレータが搭乗するキャブ10が設けられている。
【0023】
11は後部車体2の下側に位置して設けられた後側アクスル装置で、この後側アクスル装置11は、左,右方向に延びて形成され、その左,右の両端部に後ホイール4が取付けられている。
【0024】
一方、12は前部車体3の下側に位置して設けられた前側アクスル装置で、この前側アクスル装置12は、後側アクスル装置11と同様に、左,右方向に延びて形成され、その左,右の両端部に前ホイール5が取付けられている。
【0025】
ここで、後側アクスル装置11と前側アクスル装置12とは、ほぼ同様に構成されているから、前側アクスル装置12の構成について詳細に説明し、後側アクスル装置11の構成の説明は省略するものとする。
【0026】
まず、前側アクスル装置12は、プロペラシャフト9Bに接続されることにより左,右の前ホイール5を回転駆動するものである。また、前側アクスル装置12は、図2ないし図4に示すように、後述のケーシング13、入力軸18、ピニオンギヤ20、デファレンシャル機構21、遊星歯車減速機構27、左,右のアクスルシャフト32、ブレーキ機構33、放熱フィン39、側方フィン45、外側フィン46等により構成されている。
【0027】
13は前側アクスル装置12の外形をなすケーシングである。このケーシング13は、左,右方向の中間部に位置し、デファレンシャル機構21、ブレーキ機構33等を収容する本体ケースとしてのデファレンシャルケース14(以下、デフケース14という)と、該デフケース14の上面側に設けられた開口部14Aを閉塞する蓋体15と、前記デフケース14の左,右両側に取付けられ、内部に後述の遊星歯車減速機構27、アクスルシャフト32等が配置されたアクスルチューブ16とにより密閉容器として構成されている。また、ケーシング13は、内部の熱を外部に放出できるように、熱伝導性のよい材料、例えば鉄材、アルミニウム材等の金属材料により形成されている。
【0028】
そして、ケーシング13は、前部車体3の下側に配置され、デフケース14の上面と蓋体15とが前部車体3の底面と隙間をもって対面している。これにより、ホイールローダ1が前進走行したときには、走行風が冷却風となって前部車体3とデフケース14、蓋体15との隙間に前側から流入するようになっている。
【0029】
ここで、デフケース14は、図4、図5に示すように、左,右方向を軸線とする略円筒状に形成されている。また、デフケース14の開口部14Aは、左,右方向の中央に位置して前,後方向に延びる略四角形状に形成されている。また、デフケース14の左,右両側には、側端部から所定寸法だけ奥まった位置を縮径することで円環状の隔壁14Bが形成されている。これにより、デフケース14内は、後述のデファレンシャル機構21を収容する中央のギヤ室14Cと、該ギヤ室14Cの左,右両側に位置して後述のブレーキ機構33を収容するブレーキ室14Dとに仕切られている。
【0030】
また、デフケース14の後側には、トランスミッション9側に突出するように突出筒14Eが設けられ、該突出筒14E内には、後述の入力軸18が回転自在に配置されている。さらに、デフケース14の上部には、開口部14Aの左,右両側に沿うようにしてほぼ平坦なフィン形成部14Fが形成され、該各フィン形成部14Fは、ブレーキ機構33と対向するように配置され、その上面には後述の側方フィン45が形成されている。
【0031】
一方、蓋体15は、図2、図3に示すように、デフケース14の開口部14Aを閉塞することができるように略長方形状の板体により形成されている。そして、蓋体15は、図5に示すように、その周囲が複数本のボルト17を用いてデフケース14の開口部14Aに取付けられている。また、蓋体15の上面15Aには、後述の放熱フィン39が設けられている。
【0032】
さらに、アクスルチューブ16は、デフケース14側となる基端側が該デフケース14とほぼ同じ直径寸法をもった短尺な円筒状の筒部16Aとなり、該筒部16Aから先端側が縮径されて左,右方向の外側に延びている。また、筒部16Aは、後述の遊星歯車減速機構27に対向して位置し、その内部は、遊星歯車減速機構27を収容する減速機構室16Bとなっている。そして、左,右のアクスルチューブ16は、基端側の筒部16Aが複数本のボルト17を用いてデフケース14の両端部に取付けられている。
【0033】
18はデフケース14の突出筒14E内に各軸受19を介して回転可能に設けられた入力軸である(図4参照)。この入力軸18は、外部に突出したフランジ部18Aがプロペラシャフト9Bに接続されている。また、入力軸18の内部側には、ベベルギヤからなるピニオンギヤ20が設けられている。
【0034】
21はデフケース14のギヤ室14C内に収容されたデファレンシャル機構で、該デファレンシャル機構21は、トランスミッション9の出力軸の回転力を左,右の前ホイール5に分配するものである。そして、デファレンシャル機構21は、デフケース14の各隔壁14Bに軸受19を介して左,右方向を軸線として回転可能に支持されたギヤケース22と、該ギヤケース22内に固定されたスパイダ22Aに回転可能に設けられた複数のピニオンギヤ23と、該各ピニオンギヤ23と噛合う2個のサイドギヤ24と、一端側が該サイドギヤ24とスプライン結合され、他端側がアクスルシャフト32に向けて左,右方向に延びた2本の回転軸25とにより構成されている。また、ギヤケース22の外周側には、入力軸18のピニオンギヤ20に噛合うベベルリングギヤ26が設けられている。
【0035】
これにより、デファレンシャル機構21は、トランスミッション9による回転力が入力軸18、ピニオンギヤ20、ベベルリングギヤ26を介してギヤケース22に伝わると、各ピニオンギヤ23、サイドギヤ24を介して左,右の回転軸25を適宜に回転駆動するものである。
【0036】
27は左,右のアクスルチューブ16の減速機構室16B内に設けられた遊星歯車減速機構で、該各遊星歯車減速機構27は、回転軸25の回転を減速して後述のアクスルシャフト32に伝達するものである。また、各遊星歯車減速機構27は、回転軸25の他端側に一体形成されたサンギヤ28と、アクスルチューブ16の内周側に固着して設けられたリングギヤ29と、前記サンギヤ28とリングギヤ29とに噛合する複数のプラネットギヤ30(1個のみ図示)と、該各プラネットギヤ30を回転可能に支持するキャリア31とにより大略構成されている。
【0037】
また、32は左,右のアクスルチューブ16内にそれぞれ回転可能に設けられたアクスルシャフトで、該各アクスルシャフト32は、基端側が遊星歯車減速機構27のキャリヤ31にスプライン結合されている。一方、各アクスルシャフト32の先端側は、アクスルチューブ16から突出し、その端部には前ホイール5が取付けられている。
【0038】
33はデフケース14の左,右のブレーキ室14D内に設けられた左,右のブレーキ機構で、該各ブレーキ機構33は、例えば湿式多板型のブレーキ機構として構成されている。また、ブレーキ機構33は、回転軸25の外周側にハブ34を介してスプライン結合された複数枚のブレーキディスク35と、該各ブレーキディスク35に対面してデフケース14に回転不能に取付けられたブレーキプレート36と、外部からの油圧力によって前記ブレーキプレート36をブレーキディスク35に押付けるピストン37とにより大略構成されている。
【0039】
そして、各ブレーキ機構33は、例えばブレーキペダル(図示せず)を足踏み操作し、油圧力によってピストン37を軸方向に移動させることにより、ブレーキプレート36をブレーキディスク35に押付けて摩擦力で制動力を発生し、前ホイール5にブレーキをかけるものである。
【0040】
38はケーシング13内に貯留された潤滑油(図5参照)で、該潤滑油38は、デファレンシャル機構21、遊星歯車減速機構27、ブレーキ機構33の摺接部、噛合い部を潤滑、冷却するものである。
【0041】
39はケーシング13の上面側となる蓋体15に設けられた複数枚の放熱フィンを示し、該各放熱フィン39は、鋳造、溶接等の手段を用いて蓋体15の上面15Aに一体的に突設されている。また、各放熱フィン39は、その1つ目の機能としてデファレンシャル機構21、ブレーキ機構33等によって加温された潤滑油38の熱をケーシングの外部に放出して冷却するものである。
【0042】
また、本発明の特徴部分となる2つ目の機能として、ホイールローダ1の走行時に前部車体3と前側アクスル装置12との間に前側から流入する冷却風を、左,右のブレーキ機構33と対向する位置、即ち、ブレーキ機構33の上側に配置された後述の側方フィン45に向けて導くものである。さらに、各放熱フィン39は、走行時の冷却風を側方フィン45を経由して後述の外側フィン46に向けても導くことができる。
【0043】
ここで、放熱フィン39は、形状が異なる複数種類の板状突起を左,右対称となるように並べて形成されている。具体的に述べると、放熱フィン39は、図6に示す如く、冷却風の上流側(前側)に位置して左,右方向の外側寄りに配置され、上流部分が前,後方向に真直ぐに延びた直線フィン40Aとなり、下流部分が左,右方向の外側に屈曲して傾斜した傾斜フィン40Bとなった略へ字状の第1フィン40と、該第1フィン40の傾斜フィン40Bの下流側(後側)に所定の間隔をもって平行に配置された傾斜フィンをなす第2フィン41、第3フィン42と、上流部分が第2フィン41、第3フィン42よりも左,右方向の内側寄りに位置して前,後方向に真直ぐに延びた直線フィン43Aとなり、下流部分が左,右方向の外側に傾斜して第3フィン42の下流側に所定の間隔をもって平行に配置された傾斜フィン43Bとなった略へ字状の第4フィン43と、該第4フィン43の傾斜フィン43Bの下流側に所定の間隔をもって平行に配置された傾斜フィンをなす第5フィン44とにより構成され、最下流側に位置する左,右の第5フィン44は中央寄り位置で一体的に固着されている。
【0044】
これにより、放熱フィン39は、図3中の矢示のように、前側から冷却風が流入すると、この冷却風に潤滑油38からケーシング13に伝達された熱を各フィン40〜44から放出し、該ケーシング13内のデファレンシャル機構21等を冷却することができる。一方で、放熱フィン39は、流入する冷却風を各フィン40〜44の傾斜形状によって左,右方向の外側、即ち、各ブレーキ機構33と対面する位置に導くことにより、ここに配置された後述の各側方フィン45に冷却風を集中的に供給することができる。
【0045】
45はデフケース14の上側に設けられた複数枚、例えば4枚の側方フィンで、該各側方フィン45は、蓋体15の左,右方向の側方であってブレーキ機構33と対向する位置となるデフケース14の各フィン形成部14Fに設けられている。また、側方フィン45は、フィン形成部14Fの上面に左,右方向に延びて立設され、前,後方向に間隔をもってほぼ平行に並べられている。
【0046】
ここで、各側方フィン45は、制動時の摩擦によって多くの熱を発生するブレーキ機構33と対面する位置に設けているから、各側方フィン45にはブレーキ機構33が発する熱が集中的に伝わることになる。従って、各側方フィン45は、左,右方向に延びて形成することにより、放熱フィン39によって左,右方向の外側に導かれる冷却風を受承することができ、この冷却風に放熱してブレーキ機構33を冷却することができる。また、左,右方向に延びて形成された各側方フィン45は、冷却風をさらに左,右方向の外側に導くことができ、各側方フィン45の外側に位置する後述の外側フィン46にも冷却風を導くことができる。
【0047】
46は左,右のアクスルチューブ16に設けられた左,右の外側フィンである。この左,右の外側フィン46は、各側方フィン45の左,右方向の外側であって左,右の遊星歯車減速機構27と対向する位置、即ち、筒部16Aの外周面に設けられている。また、外側フィン46は、筒部16Aの外周面を全周に亘って延びた鍔状に形成されている。
【0048】
ここで、各外側フィン46は、各ギヤ28,29,30間の摩擦によって熱を発生する遊星歯車減速機構27と対面する位置に設けているから、各外側フィン46には遊星歯車減速機構27が発する熱が集中的に伝わることになる。従って、各外側フィン46は、放熱フィン39から側方フィン45を経由して左,右方向の外側に導かれる冷却風を受承し、これとは別に、前側から流入する冷却風を受承することにより、これらの冷却風に放熱して遊星歯車減速機構27を冷却することができる。
【0049】
本実施の形態によるホイールローダ1は上述の如き構成を有するもので、次に、その動作について説明する。
【0050】
まず、キャブ10に搭乗したオペレータは、周囲のレバー、ペダル類(いずれも図示せず)を操作して走行用のトランスミッション9を作動し、このトランスミッション9の出力軸の回転力をプロペラシャフト9B、入力軸18、デファレンシャル機構21、遊星歯車減速機構27を介して左,右のアクスルシャフト32に伝達する。これにより、各アクスルシャフト32に接続された左,右の前ホイール5を回転駆動することができる。同様に、トランスミッション9の出力軸の回転を、プロペラシャフト9Aから後側アクスル装置11に伝えることにより、左,右の後ホイール4を回転駆動することができる。
【0051】
このように、前,後のホイール5,4を回転駆動することにより、作業現場に向けてホイールローダ1を走行させることができる。この走行時に左,右いずれかの方向に曲がった場合には、デファレンシャル機構21の各ピニオンギヤ23が自転しつつ各サイドギヤ24に回転力を伝達する。これにより、例えば左方向に曲がるときには、内輪側となる左側のホイール5,4の回転数を、外輪側となる右側のホイール5,4の回転数よりも低下させることができ、内,外のホイール5,4間の回転数差によってスムーズに曲がることができる。
【0052】
また、走行時には、ブレーキペダル(図示せず)を操作することにより、ブレーキ機構33によってアクスルシャフト32に制動力を発生し、減速または停車することができる。一方、走行しつつ作業装置6を操作することにより、土砂の積み込み作業等を行うことができる。
【0053】
ここで、トランスミッション9の出力軸の回転力を各ホイール4,5に伝えるアクスル装置11,12は、摺接部、噛合い部等の摩擦熱等によって温度上昇を生じる。そこで、前側アクスル装置12を例に挙げ、各部の冷却方法について説明する。
【0054】
まず、ホイールローダ1の走行時には、デファレンシャル機構21、遊星歯車減速機構27、ブレーキ機構33が熱を発し、これらを冷却したために潤滑油38の温度が上昇する。この潤滑油38の熱は、例えばケーシング13を伝って放熱フィン39に伝わり、走行時に前側から流入する冷却風に放出することができ、潤滑油38を冷却することができる。
【0055】
また、ケーシング13内で走行時に熱を発生するデファレンシャル機構21、遊星歯車減速機構27、ブレーキ機構33のうち、特に、ブレーキ機構33は、制動時の摩擦によって多くの熱を発生してしまう。このために、前側アクスル装置12を効果的に冷却するためには、ブレーキ機構33を狙って冷却することが望まれる。
【0056】
そして、本実施の形態では、走行時に前側から冷却風が流入すると、蓋体15の上面15Aに設けた放熱フィン39は、流入する冷却風を各フィン40〜44の傾斜形状によって左,右方向の外側に位置する各側方フィン45に向けて導く。これにより、ブレーキ機構33と対向する位置に設けられた各側方フィン45は、導かれた冷却風に熱を放散することで、ブレーキ機構33を狙って冷却することができる。さらに、各アクスルチューブ16の筒部16Aに設けた各外側フィン46は、放熱フィン39から側方フィン45を経由して導かれた冷却風と前側から流入する冷却風とを受承することにより、これらの冷却風によって放熱フィン39から離れた遊星歯車減速機構27を冷却することができる。
【0057】
かくして、本実施の形態によれば、ケーシング13を形成する蓋体15の上面15Aに、走行時に前側から流入する冷却風によってケーシング13内の潤滑油38を冷却する放熱フィン39を設けている。この上で、放熱フィン39には、冷却風を左,右のブレーキ機構33と対向する位置に設けた各側方フィン45に向けて導くための傾斜したフィン40〜44を形成する構成としている。
【0058】
従って、放熱フィン39を形成する各フィン40〜44の傾斜形状により、走行時に流入する冷却風を左,右のブレーキ機構33を冷却するための側方フィン45に向け導くことができ、該各ブレーキ機構33を狙って冷却することができる。
【0059】
この結果、傾斜したフィン40〜44を有した放熱フィン39を蓋体15に取付けるだけでデファレンシャル機構21とブレーキ機構33を冷却することができ、特に、多くの熱を発生する左,右のブレーキ機構33を集中的に冷却することができる。これにより、これらの熱劣化、焼付き、シール部材の損傷等を防止でき、前側アクスル装置12の耐久性、信頼性等を向上することができる。
【0060】
また、放熱フィン39は、傾斜したフィン40〜44で冷却風の向きを変えているだけであるから、簡単な構成でブレーキ機構33を冷却することができ、部品点数の増大を抑えて、組立作業性の向上、コストの低減等を図ることができる。
【0061】
また、放熱フィン39は、ケーシング13の上側に位置する蓋体15に設けているから、不整地で作業を行う場合でも、フィン40〜44間に土砂等が詰まるのを防止でき、放熱効果を持続して信頼性を向上することができる。さらに、放熱フィン39は、蓋体15の上面15Aに設けているから、既存の蓋体(図示せず)を放熱フィン39が設けられた蓋体15に変更するだけで、ブレーキ機構33の冷却効率を簡単に高めることができる。
【0062】
一方、左,右のブレーキ機構33と対向するデフケース14のフィン形成部14Fには、側方フィン45を左,右方向に延びて設けているから、この側方フィン45によりブレーキ機構33が発する熱を中心に外部に放出することができる。しかも、この側方フィン45には、放熱フィン39によって冷却風を積極的に供給することができるから、ブレーキ機構33やその周囲を効率よく冷却することができる。
【0063】
さらに、左,右の遊星歯車減速機構27と対向する各アクスルチューブ16の筒部16Aには、鍔状の外側フィン46を設けているから、この外側フィン46により遊星歯車減速機構27が発する熱を中心に外部に放出することができる。しかも、この外側フィン46には、放熱フィン39により側方フィン45を経由して冷却風を積極的に供給することができるから、遊星歯車減速機構27やその周囲を効率よく冷却することができる。
【0064】
なお、実施の形態では、放熱フィン39、側方フィン45および外側フィン46を前側アクスル装置12に設けた場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、放熱フィン39、側方フィン45および外側フィン46を後側アクスル装置11に設ける構成としてもよい。
【0065】
また、実施の形態では、放熱フィン39を、直線フィン40Aと傾斜フィン40Bからなる略へ字状の第1フィン40と、該第1フィン40の傾斜フィン40Bの下流側に配置された傾斜フィンをなす第2フィン41、第3フィン42と、直線フィン43Aと傾斜フィン43Bからなる略へ字状の第4フィン43と、該第4フィン43の傾斜フィン43Bの下流側に配置された傾斜フィンをなす第5フィン44とにより構成した場合を例に挙げて説明した。
【0066】
しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば図7に示す第1の変形例のように構成してもよい。即ち、放熱フィン51は、直線フィンが無く、傾斜フィンだけからなる第1フィン52〜第5フィン56によって形成する構成としてもよい。
【0067】
また、図8に示す第2の変形例のように構成してもよい。即ち、放熱フィン61は、直線フィン62A〜64Aと傾斜フィン62B〜64Bとからなる第1フィン62〜第3フィン64と傾斜フィンだけからなる第4フィン65とによって形成する構成としてもよい。
【0068】
また、実施の形態では、放熱フィン39をなす第1フィン40と第4フィン43を、直線フィン40A,43Aと傾斜フィン40B,43Bとの間で折り曲げて形成し、第2フィン41、第3フィン42、第5フィン44を真直ぐに形成した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、図9に示す第3の変形例のように構成してもよい。即ち、放熱フィン71は、傾斜フィン72A〜76Aに向け滑らかな円弧状をなした第1フィン72〜第5フィン76によって構成してもよい。
【0069】
また、実施の形態では、蓋体15の上面15Aに放熱フィン39を一体的に設けた場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば蓋体15と別部材からなる板体に放熱フィン39を設け、この板体を蓋体15の上面15Aにボルト止め、溶接等の手段で取付ける構成としてもよい。
【0070】
一方、実施の形態では、駆動源をエンジン7、動力伝達機構をトルクコンバータ8、トランスミッション9により構成し、このトランスミッション9を各アクスル装置11,12に連結する構成とした場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えばトルクコンバータ8、トランスミッション9を廃止し、エンジン7の出力軸に油圧ポンプを設け、この油圧ポンプと油圧モータで油圧閉回路を構成し、油圧モータの出力軸を無段の動力伝達機構を介して各アクスル装置11,12に接続する構成としてもよい。
【0071】
さらに、実施の形態では、ホイール式建設機械としてトランスミッション9と前,後のホイール5,4との間にアクスル装置12,11を備えたホイールローダ1を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば前,後にホイールを有する油圧ショベル、鉱山用大型ダンプトラック、トラクタ等の他のホイール式建設機械にも広く適用できるものである。また、油圧モータと後ホイールとの間にアクスル装置を備えたロードローラ等に適用してもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 ホイールローダ(ホイール式建設機械)
2 後部車体
3 前部車体
4 後ホイール
5 前ホイール
7 エンジン(駆動源)
8 トルクコンバータ
9 トランスミッション
11 後側アクスル装置
12 前側アクスル装置
13 ケーシング
14 デファレンシャルケース(本体ケース)
14F フィン形成部
15 蓋体
15A 上面
16 アクスルチューブ
16A 筒部
21 デファレンシャル機構
27 遊星歯車減速機構
32 アクスルシャフト
33 ブレーキ機構
38 潤滑油
39,51,61,71 放熱フィン
40,62,72 第1フィン
40A,43A,62A,63A,64A 直線フィン
40B,43B,62B,63B,64B,72A,73A,74A,75A,76A 傾斜フィン
41,53 第2フィン(傾斜フィン)
42,54 第3フィン(傾斜フィン)
43,75 第4フィン
44,56 第5フィン(傾斜フィン)
45 側方フィン
46 外側フィン
52 第1フィン(傾斜フィン)
55,65 第4フィン(傾斜フィン)
63,73 第2フィン
64,74 第3フィン
76 第5フィン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源を備えた車体と、該車体の下側に設けられ前記駆動源に接続されることにより左,右のホイールを回転駆動するアクスル装置とからなり、
前記アクスル装置は、密閉容器として形成され上面側が前記車体に対面するように配設されたケーシングと、該ケーシング内に設けられ前記駆動源の回転力を前記左,右のホイールに分配するデファレンシャル機構と、該デファレンシャル機構の左,右両側に位置して前記ケーシング内に設けられ前記左,右のホイールに制動をかける左,右のブレーキ機構と、前記デファレンシャル機構とブレーキ機構を潤滑、冷却するために前記ケーシング内に貯留された潤滑油とを備えてなるホイール式建設機械において、
前記ケーシングには、その上面側に形成された開口部を閉塞する蓋体を設け、
前記ケーシングの蓋体には、その上面側に位置して前記車体の走行時に前側から流入する冷却風によって前記潤滑油を冷却する放熱フィンを設け、
前記放熱フィンは、冷却風を前記左,右のブレーキ機構と対向する位置に導く傾斜フィンを有する構成としたことを特徴とするホイール式建設機械。
【請求項2】
前記ケーシングには、前記蓋体の左,右方向の側方であって前記左,右のブレーキ機構と対向する位置に側方フィンを設け、前記放熱フィンは、走行時の冷却風を前記左,右の側方フィンに向けて導く構成としてなる請求項1に記載のホイール式建設機械。
【請求項3】
前記ケーシング内には、前記各ブレーキ機構の左,右方向の外側に位置して減速機構を設け、前記ケーシングには、前記各側方フィンの左,右方向の外側であって前記左,右の減速機構と対向する位置に外側フィンを設け、前記放熱フィンは、走行時の冷却風を前記左,右の外側フィンに向けて導く構成としてなる請求項1または2に記載のホイール式建設機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−69457(P2011−69457A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222414(P2009−222414)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】