説明

ポリマーMEMSアクチュエータ、光スイッチ及びポリマーMEMSアクチュエータの製造方法

【課題】本発明は、ポリマー材料を用いてアクチュエータを単純な構造で実現することにより破損や故障し難くすること、また、その製造工程及び工数を削減することを目的とする。
【解決手段】本発明のポリマーMEMSアクチュエータ1は、シリコン基板10の上にポリマー材料により電気で駆動可能な微小機械構造を成しており、シリコン基板10の上に固定した導電材料による第1の電極11と、光反射用の鏡14が固定された先端部がシリコン基板10上の空間で当該基板10に対して垂直方向に可動可能なポリマー材料によるポリマー可動部12と、このポリマー可動部12及びシリコン基板10の上に、ポリマー可動部12で第1の電極11と電気的に絶縁状態に固定した導電材料による第2の電極13とを備えて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン基板上にポリマー材料を用いて、電気で駆動可能な微小機械構造であるMEMS(マイクロ電子機械システム)を形成したポリマーMEMSアクチュエータ、光スイッチ及びポリマーMEMSアクチュエータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MEMS(Micro Electro Mechanical System)は、電気と機械を融合した超小型システム(微小機械構造)であり、半導体(LSI)の製造技術を応用した微細加工技術で製造される。LSIがシリコン基板上に電子回路を集積させるのに対し、MEMSはシリコン基板上に微小機械構造を造りこむ技術である。このMEMS技術は、微細加工・組み合わせ技術の集大成で、世の中のあらゆる分野の既存製品の超小型化に貢献するため、潜在的に応用可能な製品は無数にあると言われている。
【0003】
MEMS技術は、例えばシリコン基板上にポリマー等の絶縁材料によって複数の光導波路がマトリクス状に形成された光通信デバイスに、光スイッチを形成する場合に用いられている。その光スイッチは、各光導波路に伝送される光を通過又は反射させて伝送経路を変更する制御を行うように鏡を駆動するものであり、MEMSアクチュエータによって実現されている。最近では、MEMSアクチュエータを、特許文献1に記載のように、シリコン基板上にポリマー等の絶縁材料で形成する技術がある。
【0004】
この内容として、基板上に固定された固定コームと、基板から分離された可動コームと、基板上に固定されたポストと、基板から分離された状態でポストに連結されて可動コームを可動可能に支持するバネと、を備えるMEMSコームアクチュエータであることが開示されている。更に、前記固定コーム、可動コーム、ポスト及びバネは基板上に形成された絶縁物質層に構成され、固定コーム及び可動コームの表面には各々導電性金属コーティング膜が形成される。
【0005】
そして、基板を備える段階と、基板上にシリカまたはポリマーよりなる所定厚さの絶縁物質層を形成する段階と、絶縁物質層及び基板を選択的にエッチングして絶縁物質層に固定コーム、可動コーム、ポスト及びバネを形成し、固定コーム及び可動コームの表面に各々導電性金属コーティング膜を形成する段階と、を備えるMEMSコームアクチュエータの製造方法であることが開示されている。また、固定コームと可動コームは、双方とも櫛歯状で互いに歯の凹凸部分が、凸部が凹部にギャップを介して入り組む対向状態に配設されている。
【特許文献1】特開2005−519784号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1においては、MEMSアクチュエータの固定コームと可動コームを絶縁物質層で形成するが、それら形状が双方とも櫛歯状で互いに歯の凹凸部分が、凸部が凹部にギャップを介して入り組む対向状態に配設されているので、構造が複雑であり、また、絶縁物質層をエッチングして固定コームと可動コーム並びにポスト及びバネを形成しなければならない。つまり、アクチュエータの構造が複雑であるがゆえ、破損や故障し易く、また、複雑な構造を絶縁物質層をエッチングして形成しなければならないので、その製造工程及び工数が嵩むという課題があった。
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、ポリマー材料を用いてアクチュエータを単純な構造で実現することにより破損や故障し難くすること、また、その製造工程及び工数を削減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、発明者は、基板上にポリマー材料を用いて、長手状の一端が固定され、他端が基板に対して垂直方向に移動可能な片持ち梁構造で且つ単純なバイメタルに類似する構造であるポリマーMEMSアクチュエータを作製することとした。
【0009】
具体的には、基板上にポリマー材料により電気で駆動可能な微小機械構造であるMEMSを形成して成るポリマーMEMSアクチュエータであって、前記基板上に固定した導電材料による第1の電極と、光反射用の鏡が固定された先端部が前記基板上の空間で当該基板に対して垂直方向に可動可能なポリマー材料によるポリマー可動部と、前記基板上に前記第1の電極と対向するようにポリマー部材を介在して該第1の電極と電気的に絶縁状態に固定した導電材料による第2の電極と、を備えたことを特徴とするポリマーMEMSアクチュエータである。
【0010】
この構成によれば、第1の電極と第2の電極との間に所定電位差の電圧を印加すると、静電気力によって、移動可能な第2の電極が固定された第1の電極に引き寄せられる。これに伴ってポリマー可動部の先端部の鏡も同方向に移動して基板側で保持状態となる。電圧印加を解除すると第2の電極が元の位置に戻るので鏡も元の位置に戻る。このような簡単な構造でポリマーMEMSアクチュエータを実現したので、従来の複雑な構造のものと比較して破損や故障し難くなる。また、静電気力を利用するため、消費電力が少ない。
本発明のポリマーMEMSアクチュエータは、前記ポリマー部材は、前記ポリマー可動部であることが望ましい。
【0011】
この構成によれば、第2の電極が第1の電極の方へ移動した際に、ポリマー可動部が双方の電極の間に介在するのでショートを防止することができ、この防止を行う絶縁部材をポリマー可動部で兼ねることができるので、その分、ポリマーMEMSアクチュエータの構造並びに製造方法を簡単にすることができる。
【0012】
また、具体的には、基板上にポリマー材料によって光を伝送する光導波路が縦横で交差するマトリクス状に形成されており、これら光導波路に伝送される光を該交差位置で通過又は反射させて伝送経路を変えるスイッチング制御を行う光スイッチにおいて、前記交差位置に、請求項1に記載のポリマーMEMSアクチュエータを配設し、このポリマーMEMSアクチュエータの前記第1の電極及び第2の電極への電圧印加の有無を制御することにより前記スイッチング制御を行うことを特徴とする光スイッチである。
【0013】
この構成によれば、ポリマーMEMSアクチュエータもポリマー材料によって形成できるので、それら光導波路の交差位置にも容易に形成して配設することが可能となり、縦横の光導波路の本数が多くてもポリマーMEMSアクチュエータを集積化することが可能となる。
【0014】
更に、具体的には、基板上にポリマー材料により電気で駆動可能な微小機械構造であるMEMSを形成するポリマーMEMSアクチュエータの製造方法であって、前記基板上に導電材料によって長手膜状の第1の電極を形成する第1の電極形成工程と、前記第1の電極形成工程で形成された第1の電極の上と前記基板上にレジスト層を形成したのち露光及び現像により当該レジスト層を該第1の電極上に凸状に成形し、これを犠牲層とする犠牲層形成工程と、前記犠牲層形成工程で形成された犠牲層及び前記第1の電極を含む前記基板上にネガ型のポリマー材料を塗布してポリマー層を形成し、このポリマー層を露光及び現像により、前記基板上の一部から前記第1の電極及び前記犠牲層の上面に架かって長手状に延びる形状に成形し、これをポリマー可動部とする可動部形成工程と、前記可動部形成工程で形成されたポリマー可動部の先端部以外の上面部分から後端側面を介して前記基板上まで長手状に繋がり、且つ該ポリマー可動部を挟んで前記第1の電極と電気的に絶縁状態とされた導電材料による膜を形成し、この膜を第2の電極とする第2の電極形成工程と、前記第2の電極形成工程を経た後、前記ポリマー可動部の先端部に光を反射する鏡面を形成する鏡面形成工程と、前記鏡面形成工程での鏡面形成後に、前記犠牲層を除去する除去工程と、を順に備えるポリマーMEMSアクチュエータの製造方法である。
【0015】
この方法によれば、ポリマー可動部の下方の犠牲層が除去されることで、ポリマー可動部の一端部のみが基板上に固定された状態、つまり片持ち梁構造となるので、その固定された一端部と長手方向で対向し、鏡面の形成された先端部が、基板の上方で同基板の上面に対して垂直な方向に可動できるアクチュエータを形成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ポリマー材料を用いてアクチュエータを単純な構造で実現することにより破損や故障し難くすること、また、その製造工程及び工数を削減するポリマーMEMSアクチュエータ、光スイッチ及びポリマーMEMSアクチュエータの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係るポリマーMEMSアクチュエータの構成を示す断面図である。本実施形態のポリマーMEMSアクチュエータ1は、シリコン基板10の上にポリマー材料により電気で駆動可能な微小機械構造であるMEMSを有する構成を成している。このMEMSは、シリコン基板10の上面に長手板状に形成された第1の電極11と、この第1の電極11及びシリコン基板10の上面に形成された所定の厚みを有する胴部12a及びこの胴部12aから先端方向に長手状に延びる長手可動部12bを有するポリマー材料によるポリマー可動部12と、このポリマー可動部12の上面から後端側面を介してシリコン基板10の上面に架かって固着され、且つポリマー可動部12を挟んで第1の電極11と電気的に絶縁状態とされた第2の電極13と、ポリマー可動部12及び第2の電極13の先端部に固定され、光を反射する鏡面14aを表裏面に有する鏡14とを備えて構成されている。但し、第1及び第2の電極11,13は、金、銀、錫、アルミニュウムや銅などの導電材料によって形成されている。
【0019】
更に詳細には、ポリマー可動部12は、胴部12aの殆どの裏面が第1の電極11に固定され、後端部分の裏面がシリコン基板10の上面に固定され、この固定された胴部12aから先端方向に長手板状に延びる長手可動部12bが、シリコン基板10の上方で同基板10の上面に対して垂直方向(以降、上下方向とも称す)に可動可能な片持ち梁構造となっている。また本例では、ポリマー可動部12の厚さは1〜20μm、第1及び第2の電極11,13の厚さは50〜300μm、鏡14の高さは10〜200μmであるとする。
【0020】
つまり、ポリマー可動部12を挟んで絶縁状態に配設された第1及び第2の電極11,13に、図示せぬ電源から電圧を印加することより双方を所定の電位差とした場合、各電極11,13に生じる静電気力によって、矢印Y1で示すように、移動可能な第2の電極13が固定された第1の電極11へ引き寄せられ、必然的にポリマー可動部12も第2の電極13と供に下方へ移動し、第1の電極11に引き寄せられた状態で保持する。従ってポリマー可動部12の長手可動部12bの先端部に固定された鏡14も同様に下方に移動して保持状態となる。この状態で第1及び第2の電極11,13の間には絶縁体であるポリマー可動部12が介在するので各電極11,13間のショートは生じない。一方、電圧印加を解除すれば静電気力は働かなくなるので第2の電極13及びポリマー可動部12は元の位置に戻り、必然的に鏡14もに元の位置に戻る。
【0021】
次に、このようなポリマーMEMSアクチュエータ1の製造方法を、図2〜図7を参照して説明する。
最初に、図2(a)〜(d)に示す第1の電極形成工程において、(a)に示すように、シリコン基板10の上面に銅を蒸着して金属膜11−0を形成する。次に、(b)に示すように、金属膜11−0の上にシリコン酸化材料を所定の厚さ塗布してレジスト膜15−0を形成し、(c)に示すように、そのレジスト膜15−0を露光及び現像して所定形状にパターニングする。これによって形成されたレジストパターン膜15は長手板状を成す。次に、(d)に示すように、そのレジストパターン膜15を利用して金属エッチングを行った後、レジストパターン膜15を除去すると、レジストパターン膜15と同形状の金属膜が残り、これが第1の電極11となる。
【0022】
次に、図3(e)〜(g)に示す犠牲層形成工程において、(e)に示すように、シリコン基板10及び第1の電極11の上面にシリコン酸化材料を所定の厚さ塗布することによりポジ型のフォトレジスト層17−0を形成する。次に、(f)に示すように、フォトレジスト層17−0の上方に所定のマスクパターン部18aを有するフォトマスク18を配置し、複数の矢印で示すように、そのフォトマスク18の上から紫外線を照射する。これによって、マスクパターン部18a以外の部分に紫外線が照射されて露光される。そして、(g)に示すように、現像を行うとフォトレジスト層17−0の紫外線照射部分以外が凸状に残る。これが犠牲層17となる。
【0023】
次に、図4(h)〜(j)に示す可動部形成工程において、(h)に示すように、犠牲層17を含むシリコン基板10の上全面にネガ型のポリマー材料(SU8:化学増幅型ネガレジスト)を所定の厚さ塗布してポリマー層12−0を形成する。次に、(i)に示すように、ポリマー層12−0の上方に所定のマスクパターン部21aを有するフォトマスク21を配置し、複数の矢印で示すように、フォトマスク21の上から紫外線を照射する。これによって、マスクパターン部21a以外の部分に紫外線が照射されて露光される。そして、(j)に示すように、現像を行うとネガ型なのでポリマー層12−0の紫外線照射部分が残る。即ち、シリコン基板10の一部から第1の電極11及び犠牲層17の上面に架かって長手状に延びる形状に残る。これがポリマー可動部12となる。
【0024】
次に、図5(k)〜(o)に示す第2の電極形成工程において、(k)に示すように、ポリマー可動部12、犠牲層17及び第1の電極11を含むシリコン基板10の上にシリコン酸化材料を所定の厚さ塗布してポジ型のレジスト層23−0を形成する。次に、(l)に示すように、レジスト層23−0の上方に所定のマスクパターン部24aを有するフォトマスク24を配置し、複数の矢印で示すように、フォトマスク24の上から紫外線を照射する。これによって、マスクパターン部24a以外の部分に紫外線が照射されて露光される。(m)に示すように、現像を行うとレジスト層23−0の紫外線照射部分以外が残る。つまり、マスクパターン領域のポリマー可動部12及びシリコン基板10が露出する。
【0025】
次に、(n)に示すように、その露出した部分に、銅を蒸着して金属膜13−0を形成し、(o)に示すように、金属膜13−0以外のレジスト層23−0を除去する。これによって、ポリマー可動部12の上面から後端側面を介してシリコン基板10の上面に架かって固着され、且つポリマー可動部12を挟んで第1の電極11と電気的に絶縁状態とされた金属膜が残り、これが第2の電極13となる。
【0026】
次に、図6(p)〜(t)に示す鏡面形成工程において、(p)に示すように、第2の電極13の形成後の全面にミラー層14−0を成膜し、(q)ではそのミラー層14−0の上に、ミラー形成用のマスクパターン部25aを有するフォトマスク25を配置し、複数の矢印で示すように、そのフォトマスク25の上から紫外線を照射する。これによって、マスクパターン部25a以外の部分に紫外線が照射されて露光される。次に、(r)に示すように、現像を行い、鏡のベースとなるミラー構造14bを形成する。(s)では、その形成したミラー構造14bに金属膜を選択的に形成するために、ミラー構造14bの形成後の全面をマスキング用材料26で覆い、(t)でミラー構造14bの部分のみのマスキング用材料26を除去するためのフォトマスク25を用いて露光を行う。
【0027】
次に、図7(u)〜(x)に示す鏡面形成工程及び除去工程において、(u)に示すように、露光を行った部分のマスキング用材料26を現像で除去することによって、ミラー構造14bのみが露出されたマスキングとなる。次に、(v)に示すように、ミラー構造14bが露出した基板上全面に反射膜となる金属膜14a−0を形成した後、(w)に示すように、ミラー構造14b以外の金属膜14a−0を除去して鏡面14aを形成する。これによって鏡面14aを有する鏡14が形成される。最後に、(x)に示すように、犠牲層17を除去する。
【0028】
このような本実施形態のポリマーMEMSアクチュエータの製造方法によれば、最後に、ポリマー可動部12の下方の犠牲層17が除去されることで、ポリマー可動部12の後端側の胴部12aのみが第1の電極11及びシリコン基板10の上に固定され、この固定された胴部12aから先端方向に長手板状に延びる長手可動部12bを有する片持ち梁構造となる。従って、ポリマー可動部12の長手可動部12bの先端部に固定された鏡14が、シリコン基板10の上方で同基板上面に対して垂直な方向に可動できるポリマーMEMSアクチュエータ1を形成することができる。
【0029】
このポリマーMEMSアクチュエータ1は、第1の電極11と第2の電極13の間にポリマー可動部12を電気的に絶縁状態に介在させ、双方の電極11,13間に所定電位差の電圧を印加した静電気力による電極移動に伴い、ポリマー可動部12を上下に移動可能とした簡単な構造である。従って、従来のアクチュエータのように構造が複雑であるがゆえ、破損や故障し易く、また、複雑な構造を絶縁物質層のエッチングで形成することによる製造工程及び工数の嵩みの問題が無くなる。
【0030】
換言すれば、本実施形態のポリマーMEMSアクチュエータ1によれば、ポリマー材料を用いてアクチュエータを単純な構造で実現することができるので、破損や故障し難くなり、また、その製造工程及び工数を削減することができる。
【0031】
また、ポリマーMEMSアクチュエータ1において、ポリマー可動部12の長手可動部12bにおける第1の電極11への当接面全面(下面全面)を図示はしないが複数の凹凸状態とすることで、各電極11,13間への電圧印加時の静電気力で長手可動部12bが第1の電極11に当接状態となった場合に、その当接面積が極力少なくなるようにすることが好ましい。
【0032】
上記の当接状態では、ポリマー可動部12が第1の電極11と異なる陽極又は陰極に帯電して、電圧印加を解除しても長手可動部12bが第1の電極11から離れなくなることがある。しかし、上記のように当接面積を極力少なくすることで、その帯電による吸着力が減少するので電圧印加を解除すれば長手可動部12bが第1の電極11から離れて元の位置に戻ることになる。
【0033】
また、長手可動部12bの下面全面を複数の凹凸状態に形成する場合、犠牲層形成工程において、犠牲層17を形成する際に犠牲層17の上面全面を複数の凹凸状に形成すればよい。これによって、犠牲層17の上に長手可動部12bを形成した際に、必然的に長手可動部12bの下面全面が複数の凹凸状態に形成されることになる。
【0034】
なお、上述のポリマーMEMSアクチュエータ1は、第1及び第2の電極11,13間に所定電位差の電圧を印加した静電気力(引力)によって、図1に矢印Y1で示したように、ポリマー可動部12に固着された第2の電極13が上から下へ動作し、電圧印加解除時に逆方向に動作して元の位置に戻る構造であった。しかし、第1及び第2の電極11,13に同電位の電圧を印加すれば、双方に斥力の静電気力が働くので矢印Y1と逆方向に動作可能な構造とすることができる。
【0035】
次に、図8に示すように、このようなポリマーMEMSアクチュエータ1を用いた光スイッチ30を説明する。
【0036】
この光スイッチ30は、シリコン基板31の上にポリマー材料によって、光を伝送する光導波路32,33が縦横に交差するマトリクス状に形成されている。より詳述すると、シリコン基板10の縦方向の端面間に4本の光導波路32が一定隣接間隔で形成され、また、横方向の端面間に4本の光導波路33が一定隣接間隔で形成されており、各々の光導波路32,33が直交状態に交差するマトリクス状に配設されている。但し、光導波路32,33を形成するポリマー材料には、光伝送損失が低損失となる全フッ素化ポリイミド等が用いられているとする。
【0037】
縦横の各光導波路32,33の交差位置には、光導波路32,33に対して45度の角度で溝34が形成されており、溝34には鏡14が移動自在に挿入された状態でポリマーMEMSアクチュエータ1が配設されている。溝34は、縦横双方の光導波路32,33を所定間隙で切断した状態で形成されている。但し、その溝34の間隙は、各光導波路32,33の光伝送に全く影響を与えない寸法としてある。
【0038】
このような溝34に挿入されている鏡14は、光スイッチ30のスイッチング制御手段(図示せず)によって、第1及び第2の電極11,13間に所定電位差の電圧印加が制御されることによって、電圧印加時に図1に矢印Y1で示したように下方に移動して下方に位置する状態となり、電圧未印加時に上方に位置する状態となる。また、電圧未印加時は、鏡14が上方位置に在り、各光導波路32,33の伝送光を溝34の部分で反射する状態となる。電圧印加時は、鏡14が下方に移動して各光導波路32,33の伝送光を溝34の部分で通過する状態となる。このようなスイッチング制御は、光スイッチ30に配設された個々のポリマーMEMSアクチュエータ1に対して行われるようになっている。
【0039】
次に、光スイッチ30の動作を説明する。例えば、図8の各々のポリマーMEMSアクチュエータ1の内、右上角の1つのポリマーMEMSアクチュエータ1の第1及び第2の電極11,13に対して電圧未印加状態とされており、これによって鏡14が上方位置に在るとする。この場合に、矢印Y2で示すように、光が縦方向の光導波路32に入力されると、その光は光導波路32へ伝送され、鏡14で90度反射されて横方向の光導波路33へ伝送ルートを変え、矢印Y3で示す方向に出力される。
【0040】
一方、上記の右上角の1つのポリマーMEMSアクチュエータ1のみの第1及び第2の電極11,13に対して電圧印加状態とされており、これによって鏡14が下方位置に在るとする。この場合は、矢印Y2で示すように縦方向の光導波路32に入力された光は、最初の溝34の部分は通過し、次の縦方向の光導波路32を伝送する。この伝送光は、右上角の直下のポリマーMEMSアクチュエータ1の鏡14で90度反射されて横方向の光導波路33へ伝送ルートを変え、矢印Y4で示す方向に出力される。
【0041】
このように、光スイッチ30において、縦横の光導波路32,33の交差位置にポリマーMEMSアクチュエータ1を配設して光伝送ルート変更のスイッチング制御が行えるようにした。光スイッチ30は、シリコン基板10の上にポリマー材料でマトリクス状に縦横の光導波路32,33を形成するが、ポリマーMEMSアクチュエータ1もポリマー材料によって形成できるので、それら光導波路32,33の交差位置にも容易に形成して配設することが可能となり、縦横の光導波路32,33の本数が多くてもポリマーMEMSアクチュエータ1を集積化することが可能となる。
【0042】
また、上記では、第1及び第2の電極11,13に対して電圧未印加時は、鏡14が伝送光を反射状態、電圧印加時は、鏡14が下方に移動して伝送光を通過状態としたが、これを逆にして、電圧未印加時は、鏡14が各光導波路32,33の上方に在って伝送光を通過状態、電圧印加時は、鏡14が下方に移動して伝送光を反射状態とするようにしてもよい。上記実施形態では、各光導波路32,33が直交に交差していることを前提としたが、斜めに交差していてもよい。この場合、伝送光は交差する角度で反射する。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のポリマーMEMSアクチュエータ、光スイッチ及びポリマーMEMSアクチュエータの製造方法は、加速度により構造体がひずみ、静電容量が変わることで加速度を検知する加速度センサ、薄い膜が圧力差によりたわみ、それを静電容量変化としてとらえる事で圧力を検知する圧力センサ、入射した光の反射の有無を可動ミラーで制御する構成のスイッチ、センサ及びディスプレイ等に使われる光MEMSスキャナ、多数の微小鏡(マイクロミラー)を平面に配列した表示素子であるDMD(デジタルマイクロディスプレイ)等に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態に係るポリマーMEMSアクチュエータの構成を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るポリマーMEMSアクチュエータの製造方法による第1の電極形成工程の説明図である。
【図3】本発明の実施形態に係るポリマーMEMSアクチュエータの製造方法による犠牲層形成工程の説明図である。
【図4】本発明の実施形態に係るポリマーMEMSアクチュエータの製造方法による可動部形成工程の説明図である。
【図5】本発明の実施形態に係るポリマーMEMSアクチュエータの製造方法による第2の電極形成工程の説明図である。
【図6】本発明の実施形態に係るポリマーMEMSアクチュエータの製造方法による鏡面形成工程の説明図である。
【図7】本発明の実施形態に係るポリマーMEMSアクチュエータの製造方法による鏡面形成工程及び除去工程の説明図である。
【図8】本発明の実施形態に係るポリマーMEMSアクチュエータを用いた光スイッチの構成を示す平面図である。
【符号の説明】
【0045】
1:ポリマーMEMSアクチュエータ
10,31:シリコン基板
11:第1の電極
11−0:金属膜
12:ポリマー可動部
12−0:ポリマー層
12a:胴部
12b:長手可動部
13:第2の電極
13−0:金属膜
14:鏡
14a:鏡面
14a−0:金属膜
14b:ミラー構造
14−0:ミラー層
15−0:レジスト膜
15:レジストパターン膜
17:犠牲層
17−0:フォトレジスト層(ポジ型)
18,21,24,25:フォトマスク
18a,21a,24a,25a:マスクパターン部
23−0:レジスト層
26:マスキング用材料
30:光スイッチ
32,33:光導波路
34:溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にポリマー材料により電気で駆動可能な微小機械構造であるMEMSを形成して成るポリマーMEMSアクチュエータであって、
前記基板上に固定した導電材料による第1の電極と、
光反射用の鏡が固定された先端部が前記基板上の空間で当該基板に対して垂直方向に可動可能なポリマー材料によるポリマー可動部と、
前記基板上に前記第1の電極と対向するようにポリマー部材を介在して該第1の電極と電気的に絶縁状態に固定した導電材料による第2の電極と、
を備えたことを特徴とするポリマーMEMSアクチュエータ。
【請求項2】
前記ポリマー部材は、前記ポリマー可動部であることを特徴とする請求項1に記載のポリマーMEMSアクチュエータ。
【請求項3】
基板上にポリマー材料によって光を伝送する光導波路が縦横で交差するマトリクス状に形成されており、これら光導波路に伝送される光を該交差位置で通過又は反射させて伝送経路を変えるスイッチング制御を行う光スイッチにおいて、
前記交差位置に、請求項1又は2に記載のポリマーMEMSアクチュエータを配設し、このポリマーMEMSアクチュエータの前記第1の電極及び第2の電極への電圧印加の有無を制御することにより前記スイッチング制御を行うことを特徴とする光スイッチ。
【請求項4】
基板上にポリマー材料により電気で駆動可能な微小機械構造であるMEMSを形成するポリマーMEMSアクチュエータの製造方法であって、
前記基板上に導電材料によって長手膜状の第1の電極を形成する第1の電極形成工程と、
前記第1の電極形成工程で形成された第1の電極の上と前記基板上にレジスト層を形成したのち露光及び現像により当該レジスト層を該第1の電極上に凸状に成形し、これを犠牲層とする犠牲層形成工程と、
前記犠牲層形成工程で形成された犠牲層及び前記第1の電極を含む前記基板上にネガ型のポリマー材料を塗布してポリマー層を形成し、このポリマー層を露光及び現像により、前記基板上の一部から前記第1の電極及び前記犠牲層の上面に架かって長手状に延びる形状に成形し、これをポリマー可動部とする可動部形成工程と、
前記可動部形成工程で形成されたポリマー可動部の先端部以外の上面部分から後端側面を介して前記基板上まで長手状に繋がり、且つ該ポリマー可動部を挟んで前記第1の電極と電気的に絶縁状態とされた導電材料による膜を形成し、この膜を第2の電極とする第2の電極形成工程と、
前記第2の電極形成工程を経た後、前記ポリマー可動部の先端部に光を反射する鏡面を形成する鏡面形成工程と、
前記鏡面形成工程での鏡面形成後に、前記犠牲層を除去する除去工程と、
を順に備えるポリマーMEMSアクチュエータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−223227(P2009−223227A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70303(P2008−70303)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(502191550)フォトニックサイエンステクノロジ株式会社 (24)
【Fターム(参考)】