説明

マイクロポンプおよびマイクロポンプの製造方法

【課題】効率の良い流速を得ることができる流路形状を有するマイクロポンプを提供する。
【解決手段】結晶面方位が<100>のシリコン基板2に、加圧室3と該加圧室3に連通した吸入側流路4、吐出側流路5が形成されるマイクロポンプにおいて、加圧室3及び吸入側流路4、吐出側流路5の内壁の少なくとも一部が<111>面であり、かつ加圧室3と吸入側流路4、吐出側流路5との幅及び深さが異なることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロポンプおよびマイクロポンプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プリンタ、ファクシミリ、複写機等の画像形成装置として用いるインクジェット記録装置において記録ヘッドとして使用する液滴吐出ヘッド(インクジェット記録ヘッド)やマイクロポンプなどの液体輸送装置が知られている。
【0003】
上記マイクロポンプとして、例えば、アクチュエータにて加圧室の体積を変動させ、発生する差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合を一定方向の流速とするために、加圧室前後の流路断面積や流路形状を、加圧室前後で異なるように接続されたマイクロポンプが提案されている。このような加圧室前後の流路体積が異なるマイクロポンプとしては、流路体積を変える手段として流路の幅寸法や断面積を変更したものが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、表面が(100)面のシリコン基板の表面にオリフィス、インク流路及びインク室を形成する溝が一体的に作製されたインクジェットプリンタヘッドが開示されている。特許文献1においては、断面積の異なるインク流路及びインク室を、1回の工程で寸法制御性良く作製する目的で、結晶面方位<100>のSiを用いて異方性ウエットエッチングを行うことにより、エッチング進行と共に54.7°の角度を持って発現する<111>面を、エッチングマスク幅寸法にて制御することで、エッチストップによる流路深さが制御することが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の流路の幅寸法や断面積を変更する構成においては、流路幅や断面積が大きくなるほど平面上でのスペースが必要となり、マイクロポンプの微細化に不利となるという問題があった。
【0006】
また、上記特許文献1に記載の技術は、流路深さの制御を目的としているが、当該技術では、流路深さはインク流路、インク室全て同一深さでしか製作することができず、大流量化や、効率の良い流速を得たい場合等において各流路で深さを変更したい場合には、工程を増加させる必要があることから製造が煩雑になり、コスト、寸法制御性の利点が損なわれてしまうという問題があった。
【0007】
ここで、流路深さを多段で形成することができれば、深さ方向の体積が増加するため平面上でのスペースが不要となりマイクロポンプの微細化に繋げることができるが、流路を多段で作成することは、工程の増加や煩雑化に繋がり、深さ寸法の制御性やコスト面で不利になるという問題があった。
【0008】
そこで本発明は、結晶面方位が<100>のシリコン基板に、加圧室と該加圧室に連通した流路が形成されるマイクロポンプにおいて、加圧室及び流路の内壁の少なくとも一部が<111>面であり、かつ加圧室と流路との幅及び深さが異なるマイクロポンプを提供することを目的とする。また、当該マイクロポンプを簡易な工程により作製するマイクロポンプの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、請求項1に記載のマイクロポンプは、結晶面方位が<100>のシリコン基板に、加圧室と該加圧室に連通した流路が形成されるマイクロポンプにおいて、加圧室及び流路の内壁の少なくとも一部が<111>面であり、かつ加圧室と流路との幅及び深さが異なるものである。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のマイクロポンプにおいて、流路の幅及び深さは、流路の吸入側から吐出側に向かって段階的に異なるものである。
【0011】
また、請求項3に記載のマイクロポンプの製造方法は、結晶面方位が<100>のシリコン基板に、加圧室と該加圧室に連通した流路が形成されるマイクロポンプの製造方法において、シリコン基板上に成膜されたエッチングマスクの開口幅を流路の複数の位置で段階的に異なるように結晶異方性エッチングを行う工程を含むようにしている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、加圧室と加圧室前後の流路(吸入側流路、吐出側流路ともいう)との平面上及び深さ方向の体積を異なるものとすることで加圧室の変動により発生する流速を、効率良く一定方向に得ることができる。
【0013】
また、吸入側流路、吐出側流路における流路の幅および深さを流路の吸入側から吐出側に向かって段階的に異なる(例えば、広くかつ深くする)ようにすることで、流速を、さらに効率良く一定方向に得ることができる。
【0014】
また、1度の工程により、加圧室と加圧室前後の流路の平面上及び深さ方向の体積を異なるように、かつ流路の幅および深さを段階的に異なるように多段形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】アルカリ性異方性エッチングを説明するための図である。
【図2】本発明に係るマイクロポンプの平面概略図の一例である。
【図3】図2に示すマイクロポンプの断面概略図の一例である。
【図4】図2に示すマイクロポンプの断面概略図の他の例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る構成を図1から図4に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0017】
本実施形態に係るマイクロポンプは、アクチュエータにて加圧室の体積を変動させ、発生する差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合を一定方向の流速とするために、加圧室前後の流路断面積や流路形状を、加圧室前後で異なるように接続されたマイクロポンプであって、より具体的には、結晶面方位が<100>のシリコン基板2に、加圧室3と該加圧室3に連通した吸入側流路4、吐出側流路5が形成され、加圧室3及び吸入側流路4、吐出側流路5の内壁の少なくとも一部が<111>面であり、かつ加圧室3と吸入側流路4、吐出側流路5との幅及び深さが異なるものである。
【0018】
また、本実施形態に係るマイクロポンプは、以下に述べるように、結晶面方位が<100>のシリコン基板2上に成膜されたエッチングマスク1の開口幅を吸入側流路4、吐出側流路5の複数の位置で段階的に異なるようにアルカリ性異方性ウエットエッチングを行うことにより生成され、これにより、加圧室3と吸入側流路4、吐出側流路5との幅及び深さが異なり、かつ各流路内での幅および深さは、同時かつ多段に変化し、異なるエッチングマスク1の開口幅毎に異なるものとなるようにしている。
【0019】
(アルカリ性異方性エッチング)
先ず、図1(a),(b)を用いてアルカリ性異方性エッチングについて説明する。本実施形態では、結晶面方位<100>のシリコン基板2を使用するため、アルカリ性異方性エッチング(結晶異方性エッチング)を行うと、結晶面によるエッチング速度の違いにより、エッチングマスク1との境界面よりシリコン基板2の表面から約54.7°の角度で、事実上エッチングされない<111>面が出現する。
【0020】
図1(a)に示す例について説明する。ここで、図1(a)のXは次式(1)で与えられる。
X=d/(tan54.7°) …(1)
【0021】
(1)式において、例えば、d=50μm、tan54.7°≒1.412を代入すると、Xは、約35μmと算出できる。また、図1(a)における、Xとエッチングマスク開口幅(S)との間には、次式(2)の関係が成り立つため、エッチングマスク開口幅Sは約70μmとなる。
S=2X …(2)
【0022】
したがって、エッチングマスク開口幅を約70μmとしてアルカリ性異方性エッチングを行うことで、エッチング深さが50μmに到達した時点で、シリコン基板2がエッチングされない<111>面のみのV溝形状で構成されるため、これ以上エッチング時間を延ばしても事実上エッチングを停止することが可能になる。
【0023】
次に、図1(b)に示す例について説明する。ここで、図1(b)のXは、図1(a)の場合と同様に次式(3)で与えられる。
X=d/(tan54.7°) …(3)
【0024】
同様に、例えば、d=50μm、tan54.7°≒1.412を代入すると、Xは、約35μmと算出できる。また、図1(b)における、X、Yおよびエッチングマスク開口幅Sとの間には、次式(4)の関係が成り立つ。
S=2X+Y …(4)
【0025】
したがって、エッチング底面幅であるYの所望寸法分だけエッチングマスク開口幅Sに加えれば、エッチング底面幅の値だけエッチング可能な<100>面が残存し、シリコン基板2がエッチングされない<111>面のみのV溝形状で構成されることがなくなることから、エッチングが停止すること無くエッチング深さを、図1(a)の場合よりも増やすことが可能となる。
【0026】
(マイクロポンプの製造方法)
図2〜図4を用いて、本発明に係るマイクロポンプの構成およびマイクロポンプの製造方法について具体的に説明する。
【0027】
ここで、図2(a)〜(c)は、本実施形態に係るマイクロポンプの平面概略図を示しており、図3(a)は図2(a)におけるA−A´間、図3(b)は図2(b)におけるA−A´間、図3(c)は図2(c)におけるA−A´間の断面概略図をそれぞれ示している。また、図4(a)は図2(c)におけるB−B´間、図4(b)は図2(c)におけるC−C´間、図4(c)は図2(c)におけるD−D´間、図4(d)は図2(c)におけるE−E´間の断面概略図をそれぞれ示している。
【0028】
本実施形態のマイクロポンプにおける流速は、図2のAからA´方向である。このような流速となるマイクロポンプにおける加圧室3と、加圧室3につながる吸入側流路4と吐出側流路5を形成するため、先ず、結晶面方位<100>のシリコン基板2上にエッチングマスク1を成膜し、リソグラフィーとエッチング技術(図示せず)により、加工部分のエッチングマスク1を除去し、シリコン基板2を露出させる(図2(a),図3(a))。
【0029】
このとき、エッチング深さを同時に多段で形成するために、図4(a)〜(d)に示すようにエッチングマスク開口幅Sを流路のそれぞれの位置で変更して形成するようにする。具体的には、例えば、エッチングマスク開口幅を、それぞれS1=70μm,S2=140μm,S3=210μm,S4=500μmとする。なお、上記例では、加圧室部分となるS4のエッチングマスク開口寸法を、V溝形状でエッチストップしないように500μmと設定しているが、特に限られるものではなく、加圧室として必要な容量を得られる寸法に適宜設定すればよい。
【0030】
また、エッチングマスクについては、酸化膜あるいは窒化膜などのアルカリ性水溶液に対して、シリコン基板とのエッチングスピードに選択性を持つ膜種を成膜してエッチングマスクとすれば良いが、酸化膜は窒化膜よりもアルカリ性水溶液に対するシリコン基板との選択性が劣ることから、寸法制御の観点から窒化膜をエッチングマスクとするほうが好ましい。
【0031】
その後、KOH(水酸化カリウム)、TMAH(テトラメチルアンモニアハイドロオキサイド)、EDP(エチレンジアミンピロカテコール)等のアルカリ性水溶液にて、シリコン基板を200μmエッチングする時間で処理する(図2(b),図3(b))。
【0032】
このとき、<100>の結晶面方位を持つシリコン基板2は<111>の結晶面方位が出現する約54.7°の角度で異方性エッチングされるが、エッチングマスク1の開口幅を変更した領域では、図1を用いて説明したように、深さが段階的に多段に形成される(図4)。
【0033】
ここで、エッチング深さは流速方向に順テーパー状に拡がるため、吐出方向の流速を得やすい形状にすることができる(図3(b))。具体的には、例えば、エッチングマスク開口幅SをそれぞれS1=70μm,S2=140μm,S3=210μm,S4=500μmとしているため、上記(1)〜(4)式より、実際のエッチング深さは、d1=50μm,d2=100μm,d3=150μm,d4=200μmで形成される。
【0034】
なお、S4の領域では、エッチングマスク開口幅寸法から350μm以上のエッチング深さまでエッチングされることになるが、本実施形態では、エッチング時間設定を200μmとしているため、エッチングマスク開口幅には依存せず、エッチング時間に依存する。また、S1,S2,S3の領域については、エッチングマスク開口幅をそれぞれ変更しているため、エッチングマスク開口幅に依存したエッチング深さの異なるV溝形状が形成された時点でエッチングが事実上停止しており、エッチング深さはエッチング時間に依存せず、エッチングマスク開口幅に依存する。
【0035】
図2(b),図3(b)に示す工程後、エッチングマスク1を除去する(図2(C),図3(C))。なお、エッチングマスク1の除去は、エッチングマスク種に応じて、Siとの選択性のあるドライエッチングや、弗化水素酸あるいは熱燐酸等のウエットエッチングで除去すれば良い。
【0036】
また、エッチングマスク1を除去すると、エッチングマスク開口幅を段階的に変更していることで、エッチングマスクが90°の凸となる箇所ができる。この凸部直下のシリコン基板2の形状は、異方性エッチングにより凸部分がエッチングされ、流速方向に順テーパー状に拡がるため、吐出方向の流速を得やすい形状にすることができる(図2(c))。
【0037】
以上の工程後は、陽極接合や直接接合等の接合技術を用いて、シリコン基板上に別のシリコン基板やガラス基板等を貼り付け、更に、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などのアクチュエータ素子を貼付することにより、マイクロポンプを製造することができる。
【0038】
以上の実施形態では、流路深さを4段階に分けて制御する例について説明したが、本発明は、これに限られるものではなく、エッチングマスク幅寸法が異なるエッチングマスクを所望数配置することにより、任意の段階で流路深さを作成することができるものである。
【0039】
また、以上説明した本発明に係るマイクロポンプを液体輸送装置として、インクタンクからのインクが満たされる液室と、外界へインクを吐出させる吐出孔とに連通させることにより構成される液滴吐出ヘッドに適用することが好適である。さらに、このように構成した液滴吐出ヘッドを記録ヘッドとして備えた画像形成装置に適用することも好適である。
【0040】
尚、上述の実施形態は本発明の好適な実施の例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 エッチングマスク
2 シリコン基板
3 加圧室
4 吸入側流路
5 吐出側流路
【先行技術文献】
【特許文献】
【0042】
【特許文献1】特開平3−158242号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶面方位が<100>のシリコン基板に、加圧室と該加圧室に連通した流路が形成されるマイクロポンプにおいて、
前記加圧室及び前記流路の内壁の少なくとも一部が<111>面であり、かつ前記加圧室と前記流路との幅及び深さが異なることを特徴とするマイクロポンプ。
【請求項2】
前記流路の幅及び深さは、前記流路の吸入側から吐出側に向かって段階的に異なることを特徴とする請求項1に記載のマイクロポンプ。
【請求項3】
結晶面方位が<100>のシリコン基板に、加圧室と該加圧室に連通した流路が形成されるマイクロポンプの製造方法において、
前記シリコン基板上に成膜されたエッチングマスクの開口幅を前記流路の複数の位置で段階的に異なるように結晶異方性エッチングを行う工程を含むことを特徴とするマイクロポンプの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−1938(P2011−1938A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147840(P2009−147840)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】