説明

マイクロ化学チップ

【課題】微少量の液体を正確に搬送することが出来るマイクロポンプを備えたマイクロ化学チップを提供する。
【解決手段】少なくとも1個以上の流路とマイクロポンプ2と試料注入部3と反応部4が形成されたマイクロ化学チップを、前記流路が前記マイクロポンプ2の内部に形成され、前記マイクロポンプ2が、第1、第2の屈曲型導電性高分子アクチュエータの両端部を接合することにより、中央部が開閉する構造とした開閉型アクチュエータを用いており、前記試料注入部3と前記反応部4が導電性高分子膜を用いて形成され、かつ前記試料注入部3と前記反応部4が前記マイクロポンプ2によりつながれた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,液体を正確に微小量で搬送するためのマイクロポンプを用いたマイクロ化学チップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年,通常は実験室で行う様々な化学実験や分析を、数センチ角サイズのマイクロ化学チップ上で行う方法が注目されている。この方法は、マイクロTAS(Total Analysis System)と呼ばれる。マイクロTASは、試料の節約、分析の高速化、前処理を含めた測定の自動化、装置のポータブル化や低コスト化が可能となることから、リアルタイム診断や患者のベットサイドモニタ等の医療分野、DNA解析などのバイオ分野、希少材料を微少量で化学合成するなどといった工業化学分野などでの応用が期待されている。
【0003】
マイクロTASに用いるマイクロ化学チップには、ガラスやシリコン基板の表面に微細な流路が形成され、さらにその途中又は終端部には処理部が形成されている。試料及び試薬である液体は微細な流路を通じて流通され、処理部で試料中の成分の混合、分離、反応、検出などの化学プロセスが行われる。なお、上記流路などの形成には、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術が用いられる。
【0004】
今後、マイクロTASを用いた高度な化学反応・分析システムを構築するためには、上記マイクロ化学チップ内に形成した微細な流路を通じて、試料及び試薬である微量な液体を正確に処理部へと流通させることが不可欠である。
【0005】
液体を流通させる方法として、流路内の液体に泳動電圧を印加することにより生じる電気浸透流を利用して、流路中の液体を流通させる方法が知られている(特許文献1)。しかしながらこの方法を用いると、流路内の液体に電極を介して電圧をかけるため、電極表面で測定試料や試薬の電気分解が生じて、試料組成や試薬組成が変化してしまうことがある。
【0006】
測定試料や試薬にダメージを与えずに液体を流通させる方法として、マイクロ化学チップの外部に送液ポンプまたは吸引ポンプを用いる方法がある。しかしこの方法では、外部にポンプを設けるため、制御の応答性、連続的な変化、耐久性、医療現場において必要な静粛性などの点で問題がある。さらに装置全体が大きくなることや、マイクロ化学チップとの接続部での液漏れの恐れもある。そのためマイクロ化学チップ内に高性能なマイクロポンプを形成し、試料及び試薬である微量な液体を正確に処理部へと流通させる手段が検討されている。
【0007】
マイクロ化学チップ内に形成されるマイクロポンプとして、MEMS技術を用いたダイアフラム型ポンプがある。ダイアフラム型ポンプとは、流路または流路につながる空間に形成したダイアフラムの容積を変化させることにより発生した圧力で液体を流通させるもので、容積を大きくすることにより流路の入り口から液体を導入し、容積を小さくすることで流路の出口から液体を吐出するものである(特許文献2)。しかしながら、この方法においては、十分な圧力を発生させるために、シリコンやガラスなど硬い無機材料で形成されたダイアフラム上に圧電ディスクを接着してダイアフラムを変形させるため、高電圧の印加が必要となる。また、ダイアフラム型ポンプを用いた方法では、流路に残留した気泡が存在すると圧力損失が生じるため性能が低下する。気泡の残留をなくすために流路の形状を工夫する検討がなされているが、構造や作製プロセスが複雑になるといった課題がある。
【0008】
簡単な構造で、微細な流路内の液体を流通させる方法として、ポリマー材料を用いた方法がある。特許文献3には、流路上部に温度変化により体積が変化するポリマー組成物を形成し、レーザー照射などによりポリマー組成物の温度を変化させることにより、流路内の液体を流通させる方法が提案されている。この方法では、レーザー照射による温度上昇で流路上部に形成したポリマー組成物の体積が増加すると流路が閉状態となり、温度を低下させると流路が開状態となる。そして、レーザー照射部を液体の流通方向に移動させることにより、上記開閉部が流通方向に移動し、順次開状態から閉状態に切り替わることにより、流路内を液体が流通する。この方法は、簡単なマイクロ化学チップの構造で液体の流通を可能にするものであり、かつ安価で加工しやすいポリマー組成物を用いているため、作製が容易であり、低コスト化およびディスポーザブル化も可能とするものである。しかしながら、微細な流路内に開閉部を形成するためには、ポリマー組成物の微少な領域のみを温度上昇させる必要があり、そのためにはレーザーを用いなくてはならず、測定装置全体が高価で、サイズも大きなものになるといった課題がある。
【0009】
一方、ポリマー組成物を用いて微細な流路内の液体を流通する手段として、ポリマーアクチュエータを用いる方法が考えられる。ポリマーアクチュエータには、ゲルを電界によって屈曲させるもの(特許文献4)、誘電性エラストマー薄膜間に強電界を印加してこれを変形させるもの(非特許文献1)、酸化還元反応によって導電性高分子を伸縮させるもの(特許文献5)等がある。ゲルを電界によって屈曲させる方式のアクチュエータは、発生応力が小さく、電界を印加し続けないと屈曲性が保てないので消費電力が多くなるというという課題を有する。また、誘電性エラストマー薄膜を用いるものは、数百〜数キロボルトの高電圧が変形に必要であり、マイクロTASに利用する場合には電圧が高過ぎるために感電などの危険性が課題となる。一方、導電性高分子の酸化還元に伴う伸縮を利用した導電性高分子アクチュエータは比較的単純な構造を持ち、数ボルトの低電圧で駆動が可能であり、発生応力も十分強いという特徴を有している。
【0010】
特許文献5には、酸化還元反応によって導電性高分子を伸縮させるアクチュエータをマイクロポンプに応用する方法が開示されている。このアクチュエータは、カチオンの出入りにより伸縮するカチオン駆動層とアニオンの出入りにより伸縮するアニオン駆動層を積層して構成されるバイモルフ層を有する導電性高分子アクチュエータを複数個用いて構成され、カチオン駆動層を内側にして互いに対向させるように第1、第2の導電性高分子アクチュエータを配置し、さらにそれぞれの先端部を結合して構成されている。それぞれのアクチュエータは、電気化学的酸化によって、内側に設置した第1、第2のカチオン駆動層が収縮し、外側に設置した第1、第2のアニオン駆動層が膨潤することにより開口部が開く動作を行う。逆に、電気的還元によって、内側に設置した第1、第2のカチオン駆動層が膨潤し、外側に設置した第1、第2のアニオン駆動層が収縮することにより開口部が閉じる動作となる。これらの動作により、電印加による導電性高分子へのカチオンおよびアニオンの出入りにより、開口部の開閉を行う開閉運動アクチュエータとしている。そして、この開閉運動アクチュエータを複数個連続して配置し、さらにそれらの開口内部に伸縮自在の1本のチューブを配置し、それぞれのアクチュエータに任意の位相差をもった電圧を印加することより蠕動運動を行わせてチューブ内部に導入した液体を流通させることが出来るマイクロポンプとなる。
【特許文献1】特開平8−261986号公報
【特許文献2】国際公開第01/066947号パンフレット
【特許文献3】特許第3798011号公報
【特許文献4】特開平11−206162号公報
【特許文献5】特開2008−236950号公報
【非特許文献1】R.Pelrine,R.Kornbluh,Q.Pei and J.Joseph:Science,287,836−839(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記アクチュエータは、導電性高分子の伸縮を行うために,外部からカチオンおよびアニオンの出入りをさせなくてはならないため、アクチュエータの周辺にはカチオンやアニオンを供給するための駆動電解質液と電極が必要である。マイクロTAS用マイクロポンプへの応用を考えると、マイクロ化学チップ内の微細な流路の周辺に駆動電解質液を存在させなくてはならないため試料及び試薬である微量な液体と混合させないための工夫が必要となり(例えば、駆動電解質液用の液室を新たに形成するなど)、電極の形成位置を考慮すると、マイクロ化学チップの構造が非常に複雑になってしまう。
【0012】
アクチュエータ開口部の内側に形成したカチオン駆動層には内側からカチオンの出入りが必要である。マイクロポンプとして、アクチュエータの開口内部に伸縮自在の1本のチューブを配置して蠕動運動させる場合には、液体の流れるチューブとアクチュエータを構成する導電性高分子によるカチオン駆動層の内側面の間にカチオンを出入りさせるための駆動電解質液層が存在することになる。つまり、アクチュエータの開閉運動によりチューブ(流路に相当)を伸縮させる際に、アクチュエータを構成する導電性高分子によるカチオン駆動層とチューブの間に存在する駆動電解質液層により圧力損失が生じることになり、微量な液体を正確に流通させることが困難となる。
【0013】
アクチュエータ開口部の内側に形成した導電性高分子によるカチオン駆動層とチューブとの間に存在する駆動電解質液層は液体であるため、アクチュエータが開閉運動をした際に、チューブとの間に存在する駆動電解質液層の厚みが変化してしまう。すると、駆動電解質液層から導電性高分子によるカチオン駆動層へのカチオンの供給量も変化してしまう。その結果、アクチュエータの伸縮量(すなわち開閉量)が印加電圧で制御できなくなり、チューブを押す量(圧力)がばらついてしまう。この問題は、上記マイクロポンプをマイクロTASといった非常に微量な液体を正確に流通させることが必要な用途へ応用する際に、より顕著な課題となる。さらに、前記アクチュエータは、アクチュエータ内部に前記チューブのようなアクチュエータとは別部材で作製された流路を組み込んでいる。この構成を、MEMS技術を用いた微細なデバイスであるマイクロ化学チップに応用するためには、内部に直径数十ミクロン程度の細孔をあけた非常に細いチューブの作製と、前記チューブをアクチュエータ内部に組み込む必要があるが、いずれの技術も非常に難しい。
【0014】
本発明は、導電性高分子の酸化還元に伴う伸縮を利用した導電性高分子アクチュエータを用いて、液体を正確に微小量で搬送するためのマイクロポンプを用いたマイクロ化学チップを実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明は、基板上に、少なくとも1個以上の流路と反応部とマイクロポンプと試料注入部が形成されたマイクロ化学チップにおいて、前記流路が前記マイクロポンプ内部に形成されており、前記マイクロポンプが、第1、第2の屈曲型導電性高分子アクチュエータの両端部を接合することにより、中央部が開閉する構造とした開閉型アクチュエータを用いており、前記試料注入部と前記反応部が導電性高分子膜を用いて形成され、かつ前記試料注入部と前記反応部が前記マイクロポンプによりつながれた構成であることを特徴とする。
【0016】
このように、マイクロ化学チップの試料注入部と反応部を、マイクロポンプを構成する導電性アクチュエータと同じ材料で形成してマイクロポンプとー体とした構成とすることにより、マイクロポンプ内に形成した流路への試料注入部からの流体の導入や反応部への導出が容易となる。
【0017】
また、前記マイクロポンプの構成として、前記第1、第2の屈曲型の導電性高分子アクチュエータが、電極膜、固体電解質膜、酸化還元反応により膨張収縮する導電性高分子膜、支持体膜を順に積層した構成であり、前記開閉型のアクチュエータが、前記第1、第2の屈曲型の導電性高分子アクチュエータの支持体膜を内側に対向しており、前記電極膜が、前記開閉型アクチュエータの接合した両端に対して略垂直方向に短冊状に分割されていることを特徴とする。
【0018】
前記マイクロポンプは、前記短冊状に分割した電極膜に順次電圧を印加することにより、前記開閉型アクチュエータを蠕動運動させ、その際に生じる第1、第2の屈曲型の導電性高分子アクチュエータの支持体膜の間の空隙を前記流路として直接流体を流通させることを特徴とする。
【0019】
このように、導電性高分子の伸縮を行うために必要なカチオンおよびアニオンを、導電性高分子膜上に形成した固体電解質膜から供給するため、試料及び試薬である微量な液体と混合させないための工夫は必要なく、構造も簡単となる。また流路が直接マイクロポンプ内に形成された構造であるため、圧力損失や、印加電圧により流路内に発生させる圧力のばらつきも小さくすることが出来、微量な液体を正確に流通させることが可能となる。さらに、アクチュエータ内部に非常に細いチューブを組み込むプロセスの必要なく、作製プロセスが容易になる。
【0020】
また、前記試料注入部と前記反応部が、第1、第2の屈曲型導電性高分子アクチュエータの両端部を接合することにより、中央部が開閉する構造とした開閉型アクチュエータを用いていることを特徴とする。
【0021】
このように、前記試料注入部と前記反応部を前記屈曲型導電性高分子アクチュエータと同じ構成とすることにより、電圧を印加することにより、マイクロポンプの動きに合わせて変形させること可能となり、従来のように前記試料注入部や前記反応部を固定部として用いる場合に生じる、マイクロポンプなどの駆動部との接続部近傍での液漏れなどが生じず、高い信頼性を有する。
【0022】
また、前記導電性高分子膜が、ポリアニリン、ポリピロール、又はポリチオフェン基体のπ共役高分子、又はその誘導体である有機導電性高分子であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、上述したように、導電性高分子アクチュエータを用いたマイクロポンプ内に直接流路を形成したマイクロポンプを用いているため、液体を正確に微小量で搬送することが出来る。また、試料注入部と反応部を前記マイクロポンプでつないでー体とした構成とすることにより、高性能なマイクロ化学チップが実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(第1の実施形態)
以下、本発明によるマイクロ化学チップの第1の実施形態について詳細に説明する。
【0025】
図1は、本実施形態で用いるマイクロ化学チップの上面図である。図2は、図1のマイクロ化学チップにおけるX1方向、X2方向、Y2方向の断面図である。図3は、図1のマイクロ化学チップのY1方向の断面図である。
【0026】
図1に示したように、マイクロ化学チップ1は、マイクロポンプ2、試料注入部3、反応部4から構成されている。試料注入部3は試料注入口5を、反応部4は排出口6を有している。マイクロポンプ2は、4個の開閉型アクチュエータ13a、13b、13c、13dを接続させた状態で構成されている。マイクロ化学チップ1は、試料注入口5より試料注入口部3に試料液を導入し、開閉型アクチュエータ13a、13b、13c、13dを順番に駆動させることにより、蠕動運動により試料液を試料注入部3から反応部4に搬送する。
【0027】
図2(a)は図1におけるX1方向の断面図すなわちマイクロポンプ2の断面図である。図2(b)は、マイクロポンプ2の動作時のX1方向の断面図である。
【0028】
マイクロポンプ2は、図(a)に示したように、電極膜21、固体電解質膜31、導電性高分子膜41、支持体膜51の積層構造からなる屈曲型の導電性高分子アクチュエータ11と、電極膜22、固体電解質膜32、導電性高分子膜42、支持体膜52の積層構造からなる屈曲型の導電性高分子アクチュエータ12を、それぞれの支持体膜51、52を内側にして、両端部を接着剤70で接合した構成の開閉型アクチュエータ13の構造を有する。ここで、支持体膜51、52には導電性高分子膜41,42より硬い材料を用いている。そして、電極膜21と導電性高分子膜41および電極膜22と導電性高分子膜42の間に電圧を印加(例えば−1.5V)することにより、導電性高分子膜41、42を伸張する作用により、屈曲型アクチュエータ11a、12aを上下に屈曲させ、その結果として、図2(b)に示したように開閉型アクチュエータ13a の中央部を開かせ、流路100を形成することができる。なお、開状態の開閉型アクチュエータ13は、開状態にするために印加した電圧と逆位相の電圧(+1.5V)を印加することにより、図2(a)の閉状態に戻すことが出来る。
【0029】
図2(c)は、図1におけるX2方向の断面図すなわち試料注入部3の中央付近の断面図である。試料注入部3は、中央部の導電性高分子膜41と固体電解質膜31が除去された構造である。ここには示していないが、反応部4も同様の構造をしている。
【0030】
図3(a)は、図1のマイクロ化学チップのY1方向の断面図である。試料注入部3および反応部4は、Y1方向にも中央部の導電性高分子膜41と固体電解質膜31が除去された構造である。試料注入部3のこの部分に試料液を導入し保持することができる。また反応部4では、試料液を保持し、必要な化学反応を起こさせることが出来る。
【0031】
図3(b)は、マイクロポンプ2の動作時のY1方向の断面図である。開閉型アクチュエータ13a,13bに電圧を印加した場合を示している。開閉型アクチュエータ13a,13bに電圧を印加して、図2(b)に示したように中央部を開かせることにより、試料注入部3より、反応部4に向けて、流路100を形成することが出来る。
【0032】
電極膜21、22としては、導電性高分子膜のポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)の混合体が用いられる。膜厚はいずれも0.5μmで、キャスト法により作製される。
【0033】
電極膜21、22は、導電性高分子に限られるものではなく、炭素および金、白金、ニッケル、チタンなどの金属または合金でもよい。
【0034】
固体電解質膜31、32は、有機ポリマーとイオン液体としての混合物を用いる。膜厚はいずれも0.5μmである。有機ポリマーには、ポリフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体[P(VDF/HFP)]の有機ポリマーを用いた。イオン液体には、カチオンとして、エチルメチルイミダゾリウム(EMI)、アニオンとして、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[(CF3SO22-](TFSI)を用いた。混合比は、重量比で2:8である。
【0035】
有機ポリマーは、ポリフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体[P(VDF/HFP)]に限るものではなく、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、パーフルオロスルホン酸(Nafion,ナフィオン)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリロニトリル(PAN)の少なくとも一種以上を含む有機ポリマーであれば良い。
【0036】
イオン液体材料は、エチルメチルイミダゾリウム(EMI)やビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[(CF3SO22-](TFSI)に限るものではなく、揮発性が低く、かつ導電性高分子膜への出入り可能なものであれば良い。
【0037】
導電性高分子膜41、42には、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)の混合体に、ポリエチレングリコール(分子量200万)を0.5重量パーセント添加したものを用いる。作製にはキャスト法を用いる。膜厚はいずれも10μmである。ポリエチレンングリコールを添加することにより、導電性高分子膜の膜強度および固体電解質膜との密着性向上させることが出来る。
【0038】
ポリエチレングリコールの添加量や分子量はこれに限るものではない。添加量は0.05重量パーセントから10重量パーセントであれば良い。また、分子量も5000から500万の範囲であればよい。
【0039】
導電性高分子膜材料は、前記材料に限るものではなく、ポリアニリン、ポリピロール、又はポリチオフェン基体のπ共役高分子、又はその誘導体である有機導電性高分子であれば良い。また作製もキャスト法に限らず、電界重合法などを用いても良い。
【0040】
支持体膜51、52としては、金膜を用いる。膜厚は0.5μmで、スパッタ法を用いて作製する。
【0041】
支持体膜51、52は金に限られるものではなく、白金などの貴金属膜または合金膜、酸化シリコン、酸化チタンなどの金属酸化物膜、または前記屈曲型導電性高分子アクチュエータを構成する導電性高分子膜より大きなヤング率を有する高分子膜であればよい。
【0042】
接着剤には、エポキシ系樹脂を用いる。なお、接着剤はエポキシ系材料に限られるものではなく、マイクロ化学チップで用いる試料や試薬で接着剤成分が溶出しないものであれば良い。
【0043】
導電性高分子の酸化還元反応を利用した屈曲型の導電性高分子アクチュエータ11,12は、メモリー機能を有するため、電圧印加をやめても、図2(b)に示した流路100は開いたままで、その大きさも変わらない。そして、流路100は逆位相(この場合は+1.5V)を印加すると流路100は閉じて、図2(a)に示した状態となる。このように、本発明のマイクロポンプは、流路の開閉機能、すなわちバルブの機能も有しており、マイクロバルブとしても有用である。
【0044】
図4に、本発明のマイクロ化学チップにおける電気接続の概略図を示す。なお、マイクロ化学チップ1は図1に示した構成であるが、図4ではその詳細な構成は省略している。
【0045】
マイクロ化学チップ1を構成するマイクロポンプ2の動作は制御装置により制御される。
【0046】
マイクロ化学チップ1の電気接続は、接続電極60、61、62、63、64、65、66が形成された基板10にマイクロ化学チップ1の一部を接着剤で固定して行っている。なお、接続電極には金を用いている。
【0047】
接続電極60は図2(a)および図3(a)で示したマイクロポンプ2において、導電性高分子膜41,42と接続している。接続電極60は共通電極のアースである。また、接続電極61、62、63、64は開閉型アクチュエータ13a,13b、13c、13dのそれぞれの電極膜21aと22a、21bと22b、21cと22c、21dと22dと接続し、個別に電圧を制御する。なお、マイクポンプ2と接続電極60、61、62、63、64、との電気的な接続は、直径50μmの金線を用いて、前記金線を導電性ペーストでマイクロポンプ2の導電性高分子膜41、42、電極膜21、22および接続電極60、61、62、63、64に固定することで行っている。
【0048】
反応部4で行われる化学反応は、反応部4に測定用電極を形成して、接続電極65,66と接続して評価装置81で電気的に評価される。接続方法は、上述したマイクロポンプ2の接続方法と同じである。なお反応部4での化学反応の評価は、電気的な評価に限るものではなく光学評価装置などを用いても良い。
【0049】
なお、接続電極60、61、62、63、64、65、66は金に限るものではなく、アルミニウムなどの他の金属材料や酸化物材料など導電性を有するものであれば何でもよい。
【0050】
次に、本発明のマイクロ化学チップ1に用いるマイクロポンプ2の蠕動運動の動作について説明する。
【0051】
図5は、本発明のマイクロ化学チップ1に用いるマイクロポンプ2の基本動作の概略図である。図1に示したマイクロポンプ2のY1方向の断面図に相当する。図5において、マイクロポンプ2を流れる液体は、図中左から右に流れていく。図6は、図5の基本動作を発生させる電圧波形図である。
【0052】
以下に図5および図6を参照しながら、本発明のマイクロ化学チップ1に用いるマイクロポンプ2の基本動作である蠕動運動を説明する。なお、導電性高分子膜41、42は、アースに接続している。駆動周波数は0.5Hzである。
【0053】
図5(a)および図6(a)は初期状態である。まず始めに電極膜21aおよび電極膜22aに、制御装置80より所定の電圧(−1.5V)を印加することにより、開閉型アクチュエータ13aの電極膜21aと電極膜22aの間の部分の流路100aを開く(図5(b)および図6(b))。これにより流路100aに流体110が進入する。
【0054】
次に、電極膜21aと電極膜22aの間の電圧印加をやめるとともに、電極膜21bおよび電極膜22bに電圧(-1.5V)を印加し(図6(c))、開閉型アクチュエータ13bの電極膜21bと電極膜22bの間の部分の流路100bも開く。これにより図5(c)の状態となり、流路100bにも液体が進入する。なお、上述したように、導電性高分子の酸化還元反応を利用した屈曲型の導電性高分子アクチュエータは、メモリー機能を有するため、電極膜21aと電極膜22aの間の電圧印加をやめても、流路100aは開いたままである。
【0055】
その後、電極膜21bと電極膜22bの間の電圧印加をやめ、電極膜21cおよび電極膜22cに電圧(-1.5V)を印加し、開閉型アクチュエータ13cの電極膜21cと電極膜22cの間の部分の流路100cを開き、さらに電極膜21aおよび電極膜22bに逆位相の電圧(+1.5V)を印加して、開閉型アクチュエータ13aの電極膜21aと電極膜22aの間の部分の流路100aを閉じる(図6(d)および図7(d))。
【0056】
最後に、電極膜21cと電極膜22cの間の電圧印加をやめ、電極膜21dおよび電極膜22dに電圧を印加し(−1.5V)、開閉型アクチュエータ13dの電極膜21dと電極膜22dの間の部分の流路100dを開くとともに、電極膜21bおよび電極膜22bに逆位相の電圧を印加して(+1.5V)、開閉型アクチュエータ13bの電極膜21bと電極膜22bの間の部分の流路を閉じる(図5(e)および図6(e))。
【0057】
これらの動作を繰り返すことにより、マイクロポンプ2に蠕動運動を行わせることにより、流路内の液体を移動させることができる。なお、図5および図6に示した基本動作の場合は、移動させる液体の量は、同じ位相の電圧を印加する電極膜が2つ分の流路の体積となっている。つまり、本発明のマイクロ化学チップ1に用いるマイクロポンプ2により移動させる液体の量は、電圧印加により同時に開かせる流路の数、すなわち同じ位相の電圧を印加し、逆位相をかけない電極膜の数で決めることができる。
【0058】
マイクロ化学チップ1のサイズは、1mm×5mmであり、マイクロポンプ上部に形成されている短冊形の電極膜21のサイズは、0.8mm×0.2mmである。本実施形態でのマイクロ化学チップでは、試料注入部3(体積:5nl)に導入した液体を1.3秒で輸送可能である。
【0059】
輸送する液体量は、マイクロポンプ2のサイズに依存するため、用途に応じて,マイクロポンプ2の大きさを変化させれば、ナノリットルからマイクロリットルの液体を郵送可能である。また、移動速度は、マイクロポンプ2への印加電圧の駆動周波数に依存する。マイクロポンプ2の駆動周波数は、導電性高分子膜41,42の駆動速度が律速となる。本実施の形態では0.5Hzで駆動させたが、その100倍の50Hzまでは高速化が可能である。
【0060】
屈曲型導電性アクチュエータ11、12の屈曲動作により生じる流路100の体積は、屈曲型導電性アクチュエータ11、12の印加電圧にも比例する。すなわち、本発明のマイクロ化学チップ1に用いるマイクロポンプ2は、移動させる液体の流量を、印加電圧の大きさでも制御することが可能である。
【0061】
本発明の実施の形態において、マイクロポンプ2に印加する電圧波形を図7に示したような方形波としたが、これに限るものではなく、正弦波などでも良い。
【0062】
(第2の実施形態)
以下、本発明のマイクロポンプを用いたマイクロ化学チップの第2の実施形態について詳細に説明する。
【0063】
図7は、本発明のマイクロ化学チップ200の上面図である。図8は、図7におけるマイクロ化学チップ200のY2方向の断面図である。
【0064】
図7に示したように、本発明のマイクロ化学チップ200は、試料注入部A300、試料注入部B400、反応部500、マイクロポンプA600およびマイクロポンプB700より構成される。また、本発明のマイクロ化学チップ200は、試料注入口301および試料注入口401より試料注入部A300および試料注入部B400に導入した試料液310および試料液410を、マイクロポンプA600およびマイクロポンプB700を用いて、第1の実施形態で説明した動作により、必要な量を反応部500に移動させて化学反応させ、排出口501より排出させることができる。
【0065】
なお、本発明のマイクロ化学チップ200を構成するマイクロポンプA600およびマイクロポンプB700は、すべて、屈曲型導電性高分子アクチュエータによる開閉型アクチュエータ用いて形成されている。これにより、実施形態1で説明したように、蠕動運動により液体を流通させることができる。
【0066】
図8(a)は、図7におけるマイクロ化学チップ200において、試料注入部A300、試料注入部B400、反応部500、マイクロポンプA600およびマイクロポンプB700のいずれにも電圧を印加していない状態の断面図である。マイクロポンプA600およびマイクロポンプB700の構成は、実施形態1におけるマイクロポンプ2と同じであるが、試料注入部A300、試料注入部B400、反応部500は、実施の形態1の場合と異なる。
【0067】
図8(a)に示したように、試料注入部A300、試料注入部B400、反応部500のいずれも、中央部の導電性高分子膜341、441、541と固体電解質膜331、431、531が除去され、その両端に開閉型のアクチュエータ313a,313b、413a、413b、513a、513bが形成されている。
【0068】
図8(b)は、試料注入部A300、試料注入部B400、反応部500に電圧を印加した場合のY3方向の断面図である。試料注入部A300、試料注入部B400、反応部500は、開閉型アクチュエータ313a,313b、413a、413b、513a、513bが形成されていることから、電圧を印加することにより、試料液などを収容する際のキャビティ320、420、520を形成することができる。キャビティ320、420、520の大きさは印加電圧により制御することができる。さらに、試料注入部A300、試料注入部B400、反応部500をアクチュエータ構造として、電圧印加により変形可能な構造としたことにより、試料液を試料注入部A300およびB400より、マイクロポンプA600およびB700へのスムーズな導入や、マイクロポンプA600およびB700から反応部500へのスムーズな導入が可能となる。
【0069】
マイクロポンプA600のサイズは、1mm×5mmで、マイクロポンプ上部に形成されている短冊形の電極膜621、721のサイズは、0.8mm×0.2mmである。
【0070】
試料注入部A300、試料注入部B400、反応部500のサイズは、いずれも1mm×1mmで、形成されている短冊形の電極膜321、421、521のサイズは、0.8mm×0.2mmである。
【0071】
本実施の形態において、マイクロポンプと試料注入部および反応部を略直線状に配置したが,これに限るものではなく、反応部にマイクロポンプが接続できる方向であれば、どのような配置でも良い。
【0072】
本実施の形態において、マイクロポンプと試料注入部および反応部の横幅を同じとしたが、これに限るものではない。特に、試料注入部および反応部の横幅を大きくすれば開閉型のアクチュエータ部分開口のサイズが大きくなるため、多量の試料液を用いる際に有利である。
【0073】
本発明のマイクロ化学チップを用いる際には、試料や薬液を流路内の材料が反応したりしないように、使用前に前処理として、流路内を不活性にするための表面処理をしておくことが有効である。例えば、フッ素材料により表面処理などが有効である。
【0074】
本発明のマイクロ化学チップに用いるマイクロポンプ、試料注入部および反応部のサイズは上記サイズに限るものではない。導電性高分子膜を用いた場合にパターニング可能なサイズである10μm程度のものからから、導電性高分子膜がキャスト法や電界重合法により作製可能な大きさである10cm程度のものであれば良い。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明に係るマイクロ化学チップは、医療診断用や薬品応答性検出用として、試薬や試料などの液体を流通させるために有用である。
【0076】
本発明のマイクロポンプは、簡単な構成であるため、特に使い捨てのマイクロ化学チップに適用することも可能である。
【0077】
さらに、本発明に係るマイクロ化学チップは、マイクロTASに使用することができる。例えば、血液、髄液、唾液、尿などの生態試料の分析用マイクロTASに使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明のマイクロ化学チップの上面図
【図2】図1のマイクロ化学チップにおける断面図
【図3】図1のマイクロ化学チップにおける断面図
【図4】本発明のマイクロ化学チップにおける電気接続の概略図
【図5】本発明のマイクロ化学チップに用いるマイクロポンプの基本動作の概略図
【図6】基本動作を発生させる電圧波形図
【図7】本発明のマイクロ化学チップの上面図
【図8】マイクロ化学チップにおける断面図
【符号の説明】
【0079】
1 マイクロ化学チップ
2 マイクロポンプ
3 試料注入部
4 反応部
5 試料注入口
6 排出口
10 基板
11a,11b、11c,11d 屈曲型の導電性高分子アクチュエータ
12a,12b、12c,12d 屈曲型の導電性高分子アクチュエータ
13a,13b、13c,13d 開閉型アクチュエータ
21a,21b、21c,21c 電極膜
22a,22b、22c,22d 電極膜
31,32 固体電解質膜
41,42 導電性高分子膜
51,52 支持体膜
60 接続電極(アース)
61,62,63,64,65 接続電極
70 接着剤
80 制御装置
81 評価装置
100a、100b,100c,100d 流路
200 マイクロ化学チップ
300 試料注入部A
310 試料液A
313a,313b 開閉型アクチュエータ
320 キャビティ
321,322 電極膜
331,332 固体電解質膜
341,342 導電性高分子膜
351,352 支持体膜
370 接着剤
400 試料注入部B
410 試料液B
413a,413b 開閉型アクチュエータ
420 キャビティ
421,422 電極膜
431,432 固体電解質膜
441,442 導電性高分子膜
451,452 支持体膜
470 接着剤
500 反応部
513a,513b,513c,513d 開閉型アクチュエータ
520 キャビティ
521,522 電極膜
531,532 固体電解質膜
541,542 導電性高分子膜
551,552 支持体膜
600 マイクロポンプA
613a,613b,613c,613d 開閉型アクチュエータ
621,622 電極膜
631,632 固体電解質膜
641,642 導電性高分子膜
651,652 支持体膜
700 マイクロポンプB
713a,713b,713c,713d 開閉型アクチュエータ
721,722 電極膜
731,732 固体電解質膜
741,742 導電性高分子膜
751,752 支持体膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個以上の流路とマイクロポンプと試料注入部と反応部が形成されたマイ クロ化学チップにおいて、
前記流路が前記マイクロポンプ内部に形成されており、
前記マイクロポンプが、第1、第2の屈曲型導電性高分子アクチュエータの両端部を 接合することにより、中央部が開閉する構造とした開閉型アクチュエータを用いており 、
前記試料注入部と前記反応部が導電性高分子膜を用いて形成され、
かつ前記試料注入部と前記反応部が前記マイクロポンプによりつながれた構成である
ことを特徴とするマイクロ化学チップ。
【請求項2】
前記マイクロポンプを構成する前記第1、第2の屈曲型の導電性高分子アクチュエータが、電極膜、固体電解質膜、酸化還元反応により膨張収縮する導電性高分子膜、支持体膜を順に積層した構成であり、
前記開閉型のアクチュエータが、前記第1、第2の屈曲型の導電性高分子アクチュエ ータの支持体膜を内側に対向しており、
前記電極膜が、前記開閉型アクチュエータの接合した両端に対して略垂直方向に短冊 状に分割されていることを特徴とするマイクロ化学チップ。
【請求項3】
前記マイクロポンプが、
前記短冊状に分割した電極膜に順次電圧を印加することにより、前記開閉型アクチュ エータを蠕動運動させ、その際に生じる第1、第2の屈曲型の導電性高分子アクチュエ ータの支持体膜の間の空隙を前記流路として直接流体を流通させることを特徴とするマ イクロ化学チップ。
【請求項4】
前記試料注入部と前記反応部が、第1、第2の屈曲型導電性高分子アクチュエータの 両端部を接合することにより、中央部が開閉する構造とした開閉型アクチュエータを用 いていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ化学チップ。
【請求項5】
前記導電性高分子膜が、ポリアニリン、ポリピロール、又はポリチオフェン基体のπ 共役高分子、又はその誘導体である有機導電性高分子であることを特徴とする請求項1 に記載のマイクロ化学チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−175360(P2010−175360A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17547(P2009−17547)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】