説明

マイクロ波照射を用いた発泡成形品の製造方法

【課題】マイクロ波照射を用いた発泡成形品の製造において接着工程を別途実施することなく簡便に、織物や皮革等のシート材と強固に一体接着されて外観の良好な発泡成形品を得ること。
【解決手段】内部空洞にシート材とホットメルト樹脂フィルムとを積層して配置した型内に、少なくとも熱硬化性樹脂と水を含む混合物を封入した後、マイクロ波を照射することによって前記樹脂の発泡・硬化及び成形を行い、同時に、成形品の表面への前記シート材の接着を行うことを特徴とする、表面にシート材が接着された発泡成形品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を照射することによって型内で熱硬化性樹脂の発泡・硬化及び成形を行うことによる発泡成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂又は繊維強化フェノール樹脂は優れた耐熱性と汎用性により車両用部材や建材など様々な用途に使用され、その需要は増加している。このような構造材料としては、さらに軽量性や、機械的強度、難燃性、断熱性、耐久性等により優れた材料が求められているが、これらの課題を解消した材料として、発泡フェノール樹脂を中心材として、その表面に、繊維強化プラスチック層や、樹脂化粧板、木材突き板、合板といった外皮部材を接着剤等で貼り合わせたサンドイッチ構造体が提供されている。さらに、高付加価値化のためにデザイン性を生かした材料開発が求められており、意匠性に優れた織物や皮革などを成形体表面に接着することも考えられている。
【0003】
しかしながら、中心材となる発泡フェノール樹脂は、通常では機械的強度が弱く、脆くてそのまま外皮部材と接着させると、接着不良が生じたり、中心材と外皮部材の特性の相違により機械的強度等の物性が低下するという問題があった。また、接着工程が別途必要になるため製造上煩雑であり、さらに成形品が曲面形状を持つ場合その接着操作に高い技術力が要求されるという問題もあった。
【0004】
特許文献1では、繊維強化プラスチック層、木材突き板、樹脂化粧板等の外皮層をあらかじめ型の内面に配置し、その内部に、フェノール樹脂を含むペースト状の樹脂を塗布して型を締めた後、マイクロ波を照射し、前記ペースト樹脂を発泡・硬化せしめ、表面にスキン層を持った発泡フェノール成形品を成形する方法が記載されている。
【0005】
特許文献2では、型内に、面状の繊維強化材を配置しフェノール樹脂混和物を流し込んだ後、型締めをし、マイクロ波加熱によりフェノール樹脂混和物を発泡させることによって、フェノール樹脂混和物を面状の繊維強化材中に浸透させ、発泡層とともに硬化させて発泡フェノール成形品を一体に形成する方法が記載されている。
【0006】
これらの方法は樹脂に含まれる水を、マイクロ波照射による内部加熱によって極めて短時間で水蒸気に変化させることによって、水蒸気による発泡を行うと同時に、その熱で樹脂を硬化させて成形品を製造するものである。得られる成形品は1μm程度の無数の気泡を持つ多孔質構造を有しており、軽量で断熱性に優れた材料である。
【0007】
以上の製造工程はわずか数分〜10分程度で完了し、従来の外部加熱による熱伝導方式による発泡成形方法と比較するときわめて短時間で進行するので、省エネルギー、低コストでの発泡成形が可能になる。また、水を利用した発泡形式であるため、フロンガスや炭化水素ガスといった環境上問題がある発泡剤を使用しなくとも材料の多孔質化が可能である。さらには、15cm以上の厚みのある材料であっても成形が可能であり、複雑な形状の成形も容易である。
【0008】
しかしながら、これらの方法でも中心材の発泡フェノール樹脂と外皮層との結合力が十分ではない場合があったため、工程を複雑にすることなく、両者の接着をさらに強固にすることが求められている。また、特許文献1及び2には開示されていない織物や皮革といったシート材との一体接着を可能とする技術の開発も求められている。
【0009】
マイクロ波照射を用いた発泡成形方法では、従来、特許文献2に記載されているように、成形品を効率よく離型するために、成形型の内部にポリオレフィン系等の離型フィルムが敷設される。しかしながらこの離型フィルムが存在するために、発生した水蒸気が外部に逃げにくくなり成形品表面にボイドが発生しやすい。また、フィルムが動いて皺を作りやすく、皺が発生した状態で硬化が進行すると成形品表面に凹凸が形成されてしまうことになる。この凹凸は成形品に亀裂が生じる原因になり、大きな強度低下を招くとともに、外観も損ねることになる。さらに、得られる成形品の表面は平滑性が十分ではなく、また、当該表面に複雑かつ微細な曲面形状を形成することは極めて困難であった。
【0010】
フェノール樹脂は耐熱性や機械的強度をさらに向上させるため、あるいは種々の性能を付加するために、充填材や繊維強化材と複合化して成形することが行われている。特許文献1及び2では、フェノール樹脂に対して、パーライト、クレー、焼石膏、水酸化アルミニウム、タルク、カーボンミルドファイバー、チョップドストランドマット、ガラスクロス、チョップドストランド、三次元ガラス繊維織物といった無機質の充填材や繊維強化材を難燃性、断熱性、防音性、機械的強度、剛性、軽量化のために配合することが記載されている。しかしながら、これらガラス繊維等の無機材料には廃棄処理やリサイクル性の問題があった。
【特許文献1】特開平7−148851号公報
【特許文献2】特開平11−20029号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
第一の本発明は、上記現状に鑑み、マイクロ波照射を用いた発泡成形品の製造において接着工程を別途実施することなく簡便に、織物や皮革等のシート材と強固に一体接着されて外観の良好な発泡成形品を得ることができる製造方法の提供を目的とする。
【0012】
第二の本発明は、マイクロ波照射を用いた発泡成形品の製造において、離型フィルムを使用せずに、成形品表面の平滑性及び成形品強度の向上、並びに複雑微細な曲面形状の形成が可能な製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
第三の本発明は、マイクロ波照射を用いた発泡成形品の製造において、廃棄処理やリサイクル性の問題を回避しながらも、従来品と同等の性能を有する発泡成形品を製造することができる製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の構成によって前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち第一の本発明は、内部空洞にシート材とホットメルト樹脂フィルムとを積層して配置した型内に、少なくとも熱硬化性樹脂と水を含む混合物を封入した後、マイクロ波を照射することによって前記樹脂の発泡・硬化及び成形を行い、同時に、成形品の表面への前記シート材の接着を行うことを特徴とする、表面にシート材が接着された発泡成形品の製造方法に関する。
【0016】
前記方法において、前記熱硬化性樹脂がフェノール樹脂であることが好ましい。
【0017】
前記方法において、前記シート材が、有機織物、無機織物、ニット生地、不織布、皮革、紙、樹脂フィルム、合板、及び化粧板からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0018】
前記方法において、前記ホットメルト樹脂フィルムは、融点が80℃以上のものであることが好ましい。
【0019】
前記方法において、前記混合物が、さらに充填材及び/又は強化繊維を含有することが好ましい。
【0020】
前記方法において、前記型が、シリコーンゴム製の型であることが好ましい。
【0021】
第二の本発明は、シリコーンゴム製の型内に、少なくとも熱硬化性樹脂と水を含む混合物を封入した後、マイクロ波を照射することによって前記樹脂の発泡・硬化及び成形を行うことを特徴とする、発泡成形品の製造方法に関する。
【0022】
前記方法において、前記混合物が、さらに充填材及び/又は強化繊維を含有することが好ましい。
【0023】
第三の本発明は、少なくとも熱硬化性樹脂と水と充填材及び/又は強化繊維とを含む混合物を型内に封入した後、マイクロ波を照射することによって前記樹脂の発泡・硬化及び成形を行うことからなる発泡成形品の製造方法であって、
前記充填材及び/又は強化繊維として、天然由来有機フィラー及び天然繊維からなる群より選択される少なくとも1種を使用することを特徴とする製造方法に関する。
【0024】
前記方法において、前記充填材及び/又は強化繊維として、竹粉、籾殻、麻繊維、及び、天然繊維を含む繊維廃棄物からなる群より選択される少なくとも1種を使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
第一の本発明ではホットメルト樹脂フィルムを利用することによって発泡・硬化及び成形と同時にシート材の接着をも行うので、接着工程を別途実施する必要がなく、きわめて簡便に、シート材と一体接着された発泡成形品を得ることができる。
【0026】
また、マイクロ波照射により急激に進行する熱硬化性樹脂の爆発的な発泡・硬化に伴い型内には極めて高い内部圧力が発生するので、ホットメルト樹脂フィルムはシート材及び発泡した樹脂に強く押しつけられることになり、アンカー効果により非常に高い接着力を達成することができる。同時に、曲面形状に対しても強固に接着することが可能となる。また、非常に高い接着力によって、成形品の強度を向上させることもできる。
【0027】
さらに、ホットメルト樹脂フィルムを使用することによって、発泡・硬化時に熱硬化性樹脂がシート材を透過しシート材の外表面に滲出するのを防止することもできるので、織物や皮革といったシート材のデザイン性や触感を生かして外観の良好な成形品を製造することができる。
【0028】
第二の本発明では気体透過性、水蒸気透過性、及び離型性に優れたシリコーンゴム型を使用するので、離型フィルムを使用する必要がなくなる。そのため、フィルムの皺に起因する成形品表面の凹凸の発生を回避することができる。また、マイクロ波照射により発生する水蒸気が型を容易に透過することから、成形体表面にボイドが生じることもない。この結果、強度が大きく、かつ表面の平滑性に優れた成形品を製造することができる。
【0029】
さらに、シリコーンゴムは弾力性に優れているため、複雑微細な曲面形状であっても型の形状を忠実に再現した成形品を得ることができる。
【0030】
第三の本発明では、充填材又は強化繊維として天然由来有機フィラーや天然繊維を使用するので、廃棄処理やリサイクルの問題を回避することができる。
【0031】
一般に天然由来有機フィラーや天然繊維は無機質の充填材や強化繊維(特にガラス繊維や炭素繊維)と比較すると補強効果に劣るものと考えられているが、マイクロ波照射による発泡成形においては、天然物質が持つマイクロ波を吸収しやすい特性のために加熱ムラが低減し発泡効率が向上したり、また成形時の高い内部圧力により天然物質に存在する孔や空隙に熱硬化性樹脂が十分に含浸したりするために、予想外にも、極めて優れた補強効果を達成することができる。外部加熱による発泡成形法では内部圧力はさほど高くならないため孔や空隙への含浸が不十分となり、本発明の製法と匹敵する補強効果を達成することは困難である。
【0032】
安価かつ入手容易な天然物質によって、ガラス繊維等と同等の補強効果が得られることはコストや環境保護の観点から極めて好ましいことである。
【0033】
また、天然物質を配合すると、マイクロ波照射により発生する水蒸気等のガスの流れが阻害されることがないので、材質が均一で、表面平滑性に優れ外観が良好な成形品を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
まず第一の本発明について詳細に説明する。
【0035】
第一の本発明では、表面にシート材が一体接着された発泡成形品を製造するにあたって、内部にシート材とホットメルト樹脂フィルムとを積層してなる型内に、少なくとも熱硬化性樹脂と水を含む混合物を封入した後、マイクロ波を照射することによって前記樹脂の発泡・硬化及び成形を行い、同時に、成形品の表面への前記シート材の接着をも達成する。
【0036】
前記熱硬化性樹脂としては、マイクロ波照射により発生する水蒸気等のガスによって発泡し、その際の内部温度で硬化し得る樹脂を使用することができる。具体的には、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ユリア樹脂等の、損失係数の大きな液状樹脂が挙げられるが、得られる発泡成形品の物性に優れていることから、フェノール樹脂が好ましく、特にレゾール型のフェノール樹脂が好ましい。成形型に封入する際の熱硬化性樹脂は通常ペースト状のものとする。
【0037】
熱硬化性樹脂とともに、その硬化に必要な成分、例えば硬化剤や硬化触媒を適宜配合する。例えば、フェノール樹脂を用いる場合には、フェノール樹脂専用の硬化剤(具体的には酸)を併用することが好ましい。
【0038】
水はマイクロ波照射により加熱され水蒸気に変化することによって発泡剤としての役割を果たす成分である。水は別途添加する必要はなく、市販の熱硬化性樹脂や硬化剤、あるいは後述する天然由来有機フィラーや天然繊維等の成分に含まれている水であってもよい。特に市販のフェノール樹脂には揮発分として水が含まれている。その配合量は熱硬化性樹脂の固形分100重量部に対して、15〜20重量部程度でよい。水分が少ないほど加熱速度は大きくなり好ましい。
【0039】
熱硬化性樹脂と水を含む混合物には、充填材及び/又は強化繊維を配合することもできる。このような充填材及び/又は強化繊維としては特に限定されないが、例えば、特許文献1及び2に記載されているパーライト、クレー、焼石膏、水酸化アルミニウム、タルク、カーボンミルドファイバー、チョップドストランドマット、ガラスクロス、チョップドストランド、三次元ガラス繊維織物のほか、フライアッシュ、フライアッシュバルーン、シランバルーンといった無機質のものや、天然由来有機フィラーや天然繊維、球状発泡スチロール、ポリエステル、アラミド等の合成繊維による織物、ニット、不織布生地等、種々のものが挙げられる。天然由来有機フィラー、天然繊維については第三の本発明で詳述するが、第三の本発明と同様の理由により、第一の本発明においても充填材及び/又は強化繊維としては、天然由来有機フィラー、天然繊維が好ましい。なお、熱硬化性樹脂が酸硬化型の樹脂である場合には、充填材や強化繊維は酸性を示すものが好ましい。
【0040】
そのほか、従来公知の整泡剤や、水以外の発泡剤(例えばフロンガスや炭化水素ガス)を適宜配合することができる。整泡剤を配合すると、発泡時の気泡形状が整えられ、独立気泡が増加し、かさ比重が小さくなることで、断熱性及び機械的強度が向上する。本発明では発泡剤を添加する必要はないが、かさ比重の小さな成形品を製造する場合には発泡剤を使用するほうが好ましい。
【0041】
ホットメルト樹脂フィルムは、従来、縫製の代わりに生地同士や皮革同士を結合させたり、自動車の内装材において各種ボートと不織布等とを接着させたりするのに幅広く使用されているものである。熱可塑性であると同時に、加熱すると溶融し(ホットメルト性)、冷却することによって固化し、接着する性質を有する。
【0042】
本発明では、ホットメルト樹脂フィルムはマイクロ波照射により生じた熱によって溶融し、シート材料の凹凸に侵入した後、冷却することによって、シート材と強力に接着し、かつ発泡・硬化したフェノール樹脂とも強力に接着する。水蒸気発生による極めて高い内部圧力により各部材が強力に密着することで非常に高い接着力を達成することができ、これによって成形品の強度をも向上させることができる。さらに、ホットメルト樹脂フィルムは発泡・硬化時に熱硬化性樹脂が織物等のシート材の外表面に滲出するのを防止する役割も果たす。
【0043】
ホットメルト樹脂の種類としては特に限定されず、例えば、ポリウレタン、酢酸ビニル樹脂、ポリアミドなど種々のものを使用することができる。ホットメルト樹脂の融点としては、80℃以上であることが好ましい。上限はおよそ150℃以下であることが好ましい。80℃未満であると、溶融時に粘度が低下しすぎることによってフィルムに孔が空き、シート材が織物等の、空隙を有するものである場合には、その孔から熱硬化性樹脂がシート材表面に沁み出してしまうという恐れがある。なかでも、熱硬化性樹脂がフェノール樹脂である場合には、一般に、およそ100〜120℃の範囲にあるものがより好ましい。しかしながら、製造する発泡成形品の厚みが、例えば4〜6mm程度と小さい場合には、樹脂量が少なくことと厚みが逃げなくいため内部の熱が逃げやすいため、前記融点が80℃程度であっても本発明の効果を達成することができる。熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合は、発泡時の温度がフェノール樹脂の場合よりも高くなるため、ホットメルト樹脂の融点はおよそ140〜150℃の範囲が好ましい。
【0044】
ホットメルト樹脂フィルムの厚みとしては特に限定されないが、例えば50〜100μm程度のものを使用できる。厚みが薄すぎると、フィルムに孔が空き、熱硬化性樹脂がシート材表面に沁み出してしまう可能性が高くなる。また厚すぎると曲面形状を忠実に再現する際に支障が生じる場合がある。
【0045】
ただし、ホットメルト樹脂フィルムとしては独立した形態を持つものに限定されず、織物等のシート材に予めホットメルト樹脂フィルムがラミネート加工されたものも使用することができる。
【0046】
シート材としては特に限定されないが、本発明では、有機織物、無機織物、ニット生地、不織布、皮革、紙、樹脂フィルム、合板、及び化粧板といった各種のものを発泡成形品の表面に極めて強固に接着することができる。ホットメルト樹脂フィルムを用いる本発明の方法によるとシート材表面への熱硬化性樹脂の沁みだしを防止することができるので、有機織物、無機織物、ニット生地、不織布といった、熱硬化性樹脂が通過しうる空隙が存在するシート材についても外観上問題なく接着することができ、これらシート剤のデザイン性や風合い、触感等を活用した発泡成形品を製造することができる。また、本発明では有機織物、無機織物、ニット生地、不織布、皮革、紙、樹脂フィルムといった伸縮性を持つシート材を用いると、曲面形状を持つ成形品においてもシート材が皺なく、かつ強固に接着することができる。また、シート材として、織物等の表面に透明樹脂(例えば、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂)をコーティングしてなる材料を用いることもできる。
【0047】
本発明で用いる成形型は、マイクロ波を反射せず、かつ吸収しにくく透過する素材からなるものがよい。また、発泡・硬化時の高い内部圧力に耐えられるような強度と弾性率を有する素材が好ましい。具体的にはFRP(繊維強化プラスチック)製の成形型が好ましい。金属はマイクロ波を反射してしまうので使用できない。また、マイクロ波照射により発生する水蒸気等のガスを通すために、成形型にはガス抜きを設ける。ただし、ここでいう成形型は、熱硬化性樹脂と水を含む混合物を内部に封入するための成形型のことをいう。実施例10で後述するように当該成形型の内部に第二の型を配置することによって、中空部分を有する発泡成形品を製造することができるが、この際に用いる第二の型としては金属製のものを使用することもできる。これによって、中空部分において高度の寸法精度を達成することができるとともに、金属表面でのマイクロ波反射により成形材料によるマイクロ波吸収を促進することもできる。
【0048】
成形型が成形品の所望の形状を有する場合には、当該成形型の内部に離型フィルムを敷設することによって発泡・硬化を行うことができる。また、成形型として、成形品を内包できるような大きめのサイズのものを用いる場合には、当該成形型の内部に、成形品の形状を有するシリコーンゴム製の型を設置して発泡・成形を行うこともできる。シリコーンゴム製の型については第二の本発明に関して後述する。
【0049】
第一の本発明による製造方法の具体的な手順を図1に沿って説明する。
【0050】
まず、FRP製の成形型1内に、離型フィルム(これは図示されていない)を敷設するか、又はシリコーンゴム製の型2を設置した後、下部のシート材3aを配置し、それに積層して下側のホットメルト樹脂フィルム4aを配置する。すなわち、外側から、成形型1、離型フィルム又はシリコーンゴム型2、シート材3a、ホットメルト樹脂フィルム4aの順序で配置される。
【0051】
図1では、シート材3、ホットメルト樹脂フィルム4を上下にそれぞれ1枚ずつ配置しているが、これは成形品の上面と下面にシート材を接着するためであり、この態様に限定されない。シート材3とホットメルト樹脂フィルム4の枚数や配置位置は、成形品に接着すべきシート材の位置や面積に応じて適宜決定する。図1のシリコーンゴム製の型2は、その上部内面に波形の曲面形状を有している。こうすると、得られる成形品の上面はこの曲面形状を再現した形状を有することになるが、この態様に限定されない。
【0052】
別途、熱硬化性樹脂と必要に応じて水、強化繊維、充填材、整泡材、発泡剤とを混合し、適当な機械を用いて攪拌する。この際、脱泡がしやすいよう、混合物の粘度はある程度低く設定しておくことが望まれる。最後に硬化剤や硬化触媒を添加し、攪拌した後、得られたペースト状の混合物5を直ちに成形型1内に流し込む。この際、熱硬化性樹脂を含む混合物5は下側のホットメルト樹脂フィルム4aの上に配置される。さらに、混合物5の上に、上側のホットメルト樹脂フィルム4bを配置し、それに積層して上側のシート材3bを配置する。
【0053】
急激な水蒸気発生による高い内部圧力に耐えられるよう成形型1を型締めした後、マイクロ波照射装置を用いて、成形型1全体に対して、マイクロ波を数分〜10分程度照射する。この短い時間の間に、熱硬化性樹脂の発泡・硬化、及び成形と、成形体表面へのシート材3a,3bの接着が進行することになる。
【0054】
マイクロ波を成形型に照射する際には、できるだけ均一に照射されるようにする。一般的に工業利用されるマイクロ波の周波数は2450MHzであり、波長は約12cmであるから、波長による加熱ムラを生じる可能性がある。そのため、対象物を回転させたり、マイクロ波を拡散するための金属製ファンを回転させたりしてなるべく均一に照射するようにする。
【0055】
マイクロ波の出力電力は大きいほど発泡・硬化反応が速く進行するため短時間での成形が可能になるが、逆に発泡の制御は難しくなるため、照射時間と関連づけて調整すればよい。さらには、成形品の形状やサイズ、あるいは熱硬化性樹脂の種類や、硬化剤の量、充填材又は強化繊維の種類等を考慮して調整を行う。
【0056】
照射後必要に応じてアフターキュアを行った後、得られた成形品を成形型から取り出す。離型フィルムを用いずにシリコーンゴム型を用いた場合においても容易に離型することができる。
【0057】
得られた成形品は、中心材が多孔質性を有する発泡硬化物であり、当該硬化物にシート材がホットメルト樹脂フィルムを介して接着されている構造を有している。本発明では、発泡・硬化に伴い高い内部圧力が発生するために、曲面形状を有する成形品であっても、伸縮性のあるシート材(例えば織物や皮革)が強固に、かつ皺なく接着されている。
【0058】
次に第二の本発明について説明を行う。
【0059】
第二の本発明では、型内に、少なくとも熱硬化性樹脂と水を含む混合物を封入した後、マイクロ波を照射することによって前記樹脂の発泡・硬化、及び成形を行うにあたって、前記型としてシリコーンゴム製のものを用いる。
【0060】
シリコーンゴムは、通常離型フィルムを構成するポリエチレン等と比較すると気体透過性や水蒸気透過性に非常に優れている(ポリエチレンのおよそ数百倍)ので、発生する水蒸気等のガスが容易にシリコーンゴム型を通して外部に抜けることになる。したがって、成形品の表面にボイドが発生しにくくなる。
【0061】
また、当該シリコーンゴム型は離型性も優れているので、離型フィルムを使用する必要がない。そのため、離型フィルムの皺によって成形品の表面に凹凸が生じることもなくなる。この結果、強度が大きくなり、かつ表面の平滑性に優れた成形品を製造することができる。しかしながら、内部圧力によってシリコーンゴム型は多少変形してしまうので、成形品が平面形状である場合や、寸法精度が要求される場合には、シリコーンゴム型と離型フィルムを併用することが好ましい。
【0062】
さらにシリコーンゴムは弾力性に優れているから、極めて複雑かつ微細な曲面形状、例えば木目等の模様であっても、その形状を忠実に再現した成形品を製造することが可能である。
【0063】
シリコーンゴム型は、市販されている硬化用のシリコーン樹脂や、その硬化剤を使用し、適当な型に入れて硬化させることによって容易に製造することができる。
【0064】
第二の本発明ではホットメルト樹脂フィルムやシート材の使用は必須ではないが、その他の成分や手順については第一の本発明に準ずる。
【0065】
次に第三の本発明について説明を行う。
【0066】
第三の本発明では、少なくとも熱硬化性樹脂と水と充填材及び/又は強化繊維とを含む混合物を型内に封入した後、マイクロ波を照射することによって前記樹脂の発泡・硬化、及び成形を行うことにより発泡成形品を製造するにあたって、充填材及び/又は強化繊維として、天然由来有機フィラー及び天然繊維からなる群より選択される少なくとも1種を使用することを特徴とする。
【0067】
従来、繊維強化プラスチックで使用する強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等の無機物や合成物が一般的であるが、本発明では、通常用いられることがない天然由来有機フィラーや天然繊維を使用することによってガラス繊維等を使用した場合と同等の補強効果を達成することができることを見出した。
【0068】
天然由来有機フィラーとは、無機質のフィラーや、化学合成による有機フィラーを除外することを意図しており、その具体的な種類は特に限定されないが、例えば、竹粉、籾殻、竹繊維、おが屑、木屑等の、植物に由来するフィラーが挙げられる。特に竹粉は、マイクロ波を吸収しやすい特性があるため、発熱による発泡効率を向上させる作用を有しており、また、大きな表面積による接着面積増大による補強効果も高い。籾殻についても、マイクロ波を強く吸収しやすい特性があるために、発熱による発泡効率を向上させる作用を有しており、また、発泡時に発生した水蒸気の流れを均一化するので均一加熱の効果があり、成形品表面のボイド発生を低減させる。
【0069】
天然繊維としては、麻、綿、羊毛等の天然繊維による織物、ニット、不織布生地や、これら織物の耳糸や反糸、布団綿、裁断くずといった繊維廃棄物等が挙げられる。天然繊維が短繊維や繊維廃棄物の場合には熱硬化性樹脂と混合して用いればよい。
【0070】
天然繊維が織物やニット形状の場合には、適当な大きさに裁断して熱硬化性樹脂と積層することによって成形すればよい。マイクロ波照射を用いた内部加熱方式による発泡成形では、極めて高い内部圧力が生じるために、熱硬化性樹脂が完全に織物の隙間に含浸することによって、高い強度を持つ成形品を得ることができる。また、天然繊維はマイクロ波を強く吸収するため発泡効率を向上させ、また、発泡時に発生した水蒸気の流れを均一化して外観性を向上させることができる。なお、織物を使用する場合には樹脂が含浸しやすいように密度の粗い目抜きの織物が好ましい。
【0071】
天然繊維として繊維廃棄物のリサイクル品を使用する場合には、繊維が一部塊状となっているが、上述した高い内部圧力のために、糸同士の隙間に熱硬化性樹脂が十分に含浸するため、十分な補強効果を達成することができる。また、天然繊維の一部にポリエステル繊維やアクリル繊維などの合成繊維が含まれていてもよい。
【0072】
天然由来有機フィラーや天然繊維の使用量としては通常の強化繊維プラスチックを配合する場合と同様であり、特に限定されない。
【0073】
なお天然由来有機フィラーや天然繊維に存在する隙間や孔に熱硬化性樹脂を十分に含浸させるために、熱硬化性樹脂はある程度低粘度のものを使用することが望ましい。
【0074】
第三の本発明ではホットメルト樹脂フィルムの使用は必須ではないが、その他の成分や手順については第一の本発明に準ずる。
【実施例】
【0075】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(基本条件)
以下では別記のない限り下記の条件を使用した。
・レゾール型フェノール樹脂:昭和高分子(株)製BRL−191(粘度(25℃):2750〜3750mPa・s、不揮発分:76〜80重量%、揮発分のうち約15重量%が水、残りが遊離フェノールである)
・フェノール樹脂用硬化剤:第一工業製薬(株)製レジノールPS−63(フェノールスルホン酸が約63重量%、遊離硫酸が1重量%以下、遊離フェノールが5重量%、残りが水):8重量%(各成分の配合量はフェノール樹脂に対する重量比で示す。以下同様。)
・フライアッシュ:(株)関電パワーテック製I種(JISA6201−1999):20重量%
・パーライト:三井金属鉱業(株)製:3重量%
・竹粉:国産孟宗竹から製造した竹粉:2重量%
・麻織物(日本製麻(株)製の黄麻繊維の織物、密度38本/10cm、目付255g/cm2)2PLY:適当な大きさに裁断したものを用いて積層複合化した。
・整泡剤:第一工業製薬(株)製フロンティアK−54(ヒマシ油アルキレンオキサイド付加物及びビスフェノールAホルムアルデヒド縮合物の配合物):2重量%
・発泡剤:ジエチルエーテル(沸点35℃):3重量%
ホットメルト樹脂フィルムとしては、別記のない限り、ポリウレタン樹脂製のフィルム(日本マタイ(株)製エルファン−UH、厚み100μm、融点100℃)を使用した。
【0076】
成形型としては、ガラス織物を複数枚と不飽和ポリエステル樹脂を積層して作製したFRP製成形型を使用した。
【0077】
成形型の内部に設置するシリコーンゴム型としては、シリコーン樹脂及びその硬化剤を混合した後、所定の型内で常温又は加熱下で硬化させることによって成形したものを使用した。シリコーン樹脂としては、信越化学工業(株)製のKE112(一般的な型取り用(縮合タイプ))を使用し、硬化剤としては、信越化学工業(株)製のCAT−112及びCAT−RMを使用した。
【0078】
マイクロ波加熱装置としては、三菱電機(株)製の家庭用電子レンジRO−BV6を使用した。ただし、一部の大型成形品や空筒形状の成形品については、適宜、富士電波(株)製の工業用マイクロ波加熱装置を使用した。
【0079】
マイクロ波の照射は200Wで5分間行った。マイクロ波の照射後は、60℃で3時間維持することによってアフターキュアを行った。十分に冷却したものを曲げ試験に供した。
(曲げ強度試験)
以下の条件により3点曲げ試験を行い、最大曲げ強度を算出した。
1.試験機:材料試験機(島津製作所(株)製オートグラフAG−1000B)
2.たわみ速度:5mm/分
3.支点間距離:100mm
4.試験試料:厚みt=8〜12mm、幅b=24.5〜25.5mm、長さL=270〜275mm
5.最大曲げ強度の算出式:最大曲げ強度=3*Pmax(最大曲げ荷重)*L/2*b*t2
なお数点の試験試料を作製して試験を行い、以下の表ではその平均値を示した。
【0080】
(第一の本発明について)
実施例1(曲面形状への綿織物の一体接着成形試験)
波形の曲面形状を有する成形品を製造するために、波形の曲面形状を有するシリコーンゴム型を用い、シート材としては播州織産地の綿の先染織物を使用して、上記の手順に従って、ホットメルト樹脂フィルムを介した綿織物の一体接着成形試験を実施したところ、シリコーンゴム型に応じた波形を表面に有し、その曲面に沿って綿の先染織物が皺なく、きれいに強固に一体接着した成形品を製造することができた。これは、フェノール樹脂の発泡・硬化時の極めて高い圧力により、織物が引っ張られた状態でシリコーンゴム型に押さえつけられて成形されるためである。
【0081】
また、当該成形品の織物の表面にはフェノール樹脂は沁み出していなかった。
【0082】
この発泡成形品における織物と発泡フェノール樹脂との接着界面を顕微鏡(倍率70倍)により観察したところ、織物と、発泡・硬化したフェノール樹脂との間にホットメルト樹脂がフィルム状に存在していることが分かった(図2)。このことより、ホットメルト樹脂フィルムがフェノール樹脂の織物側への沁み出しを完全に防止していることが理解できる。また、ホットメルト樹脂フィルムが織物の凹凸に沿って変形しており、それとともにその下のフェノール樹脂も前記凹凸の形状に対応した形状で硬化していることも観察できた。これらによるアンカー効果によって、織物とホットメルト樹脂フィルム、及びホットメルト樹脂フィルムとフェノール樹脂とがそれぞれ、極めて強力に結合することになると考えられる。
【0083】
比較例1
ホットメルト樹脂フィルムを使用することなく実施例1を再現したところ、得られた成形品の表面にはフェノール樹脂が沁み出していた。これは、マイクロ波照射による発泡において成形型の内部圧力が非常に高くなることから、織物の狭い糸間や繊維間の隙間にフェノール樹脂が含浸して抜けてしまうことによって、織物の表面に現れてしまうことが原因と考えられる。
【0084】
実施例2(曲面形状への皮革材料の一体接着成形試験)
シート材として牛革シートを用いて実施例1と同様に一体接着成形試験を実施したところ、シリコーンゴム型に応じた波形を表面に有するとともに、牛皮シートが波形形状に沿って変形し、一体接着した成形品を製造することができた。
【0085】
実施例3(ホットメルト樹脂フィルムをラミネートした織物を用いた一体接着成形試験)
本実施例では、織物等のシート材とホットメルト樹脂フィルムとを成形型内で積層する代わりに、予め織物(播州織産地の綿織物)にホットメルト樹脂フィルム(融点が100℃のポリウレタン樹脂)をラミネートしてなる積層材料を用いて、平板状の成形型内で一体接着成形試験を実施したところ、一体接着した成形品を製造することができた。このような材料を使用すれば、成形型内部で行われる1回の積層工程を省略することができる。
【0086】
実施例4(透明樹脂を表面コーティングした織物の一体接着成形試験)
シート材として、織物(播州織産地の綿の先染織物)の片面に薄く透明樹脂(ビニルエステル樹脂)をコーティングしてなるシート材を用いて、平板状の成形型内で一体接着成形試験を実施したところ、一体接着した成形品を製造することができた。なお、透明樹脂がコーティングしてなる表面が成形品の外表面を構成する。これにより、織物のデザイン性を活かしつつ、表面に付着した汚れを除去しやすい成形品を得ることができる。
【0087】
実施例5(合板の一体接着成形試験)
シート材として合板を用い、全体的に緩やかに湾曲した板状の成形型内で一体接着成形試験を実施したところ、一体接着した成形品を製造することができた。
【0088】
実施例6(綿織物の一体接着による成形品の強度向上効果)
シート材として、綿織物((株)色染社製;綿ブロード、未シル、織密度:タテ130本/インチ、ヨコ70本/インチ、番手:タテ40s、ヨコ40s、目付:122.5g/m2)を使用し、実施例1の手順に準じて、曲げ試験用の試料に相当する一体接着成形品を製造した。ただし、麻織物の積層複合は行わなかった。
【0089】
比較品として、綿織物を使用せずにホットメルト樹脂フィルムのみを接着した成形品を作製した。
【0090】
曲げ強度、及びかさ比重を測定した結果を表1に示す。
【0091】
【表1】

表1の結果より、綿織物を一体接着することによって成形品の曲げ強度は約60%向上し、曲げ比強度は約50%向上していることが分かる。
【0092】
曲げ試験後の一体成形品を観察すると、綿織物がフェノール樹脂中心材から剥離(界面剥離)せずに、中心材とともに破壊(凝集破壊)を起こしていた。このことから、綿織物とフェノール樹脂中心材との接着力がきわめて大きいことが分かる。この強力な接着力のために、一体成形品の曲げ強度が著しく向上したものと考えられる。
【0093】
実施例7(種々のホットメルト樹脂シートを用いた一体接着成形試験)
シート材としては実施例6で使用した綿織物を使用し、ホットメルト樹脂フィルムとしては(i)基本条件のポリウレタン製のもの、(ii)EVA(酢酸ビニル樹脂)製のフィルム(日本マタイ(株)製エルファン−OH、厚み100μm、融点80℃)、又は(iii)ポリアミド製のフィルム(日本マタイ(株)エルファン−NT、厚み100μm、融点120℃)を使用して、平板状の成形型内で一体接着成形試験を実施したところ、いずれのフィルムであっても一体接着した材料を成形することができた。
【0094】
しかしながら、得られた成形品の表面外観を観察したところ、EVA樹脂フィルムを使用した場合にはフェノール樹脂が綿織物の表面に沁み出しており、外観上の問題があった。一方、ポリウレタンフィルムやポリアミドフィルムを使用した場合にはそのような沁みだしは生じておらず、強固に接着していた。
【0095】
参考例1(成形材料の温度)
マイクロ波照射時の成形材料についてその温度の計測を以下のようにして行った。
【0096】
すなわち、ポリカップに入れた配合樹脂に対して所定の時間マイクロ波を照射することにより発泡をさせ、当該時間が経過後直ちにその発泡材料をマイクロ波加熱装置から取り出し、その直後に材料の温度を熱電対により測定した。また、当該材料の発泡倍率の計測も行った。なお、マイクロ波出力は、200Wである。
【0097】
その結果を図3及び図4に示す。図3より、成形材料の温度は照射時間の経過により上昇するが、成形に要する時間(5分)では100〜110℃程度の範囲内にあることが分かる。また、図4により、発泡倍率も照射後1分で急激に上昇しており、温度上昇と同様の傾向を示していることが分かる。
【0098】
以上から、実施例7で用いたEVAフィルムは融点が80℃であるために100〜110℃の温度条件で完全に溶融し、粘度が著しく低下した結果、極めて高い内部圧力のためにフィルムに孔が開き、そこからフェノール樹脂が流出し、シート材表面に現れたものと考えられる。一方、融点が100℃以上のポリウレタンフィルム及びポリアミドフィルムは溶融するが孔が開くことはなく、中心材とシート材双方に接着したものと考えられる。
【0099】
本発明における接着力は主としてアンカー効果に起因するため、ホットメルト樹脂フィルムの種類には影響されず、たとえEVAフィルムであっても、融点が100℃程度以上のグレードを使用すれば沁みだしの問題は回避することができる。
【0100】
(第二の本発明について)
実施例8
波形の曲面形状を有するシリコーンゴム型を用い、シート材やホットメルト樹脂フィルムは使用せずに、発泡成形試験を実施したところ、シリコーンゴム型に応じた波形を表面に有する発泡成形品を製造することができた。成形品表面にはボイドや凹凸がなく、非常に平滑性に優れていた。
【0101】
実施例9
表面に木材の微細な木目模様を有するシリコーンゴム型を用い、シート材やホットメルト樹脂フィルムは使用せずに発泡成形試験を実施したところ、シリコーンゴム型に応じた木目が表面に忠実に再現された発泡成形品を製造することができた。
【0102】
実施例10
曲面形状を有するシリコーンゴム型を用い、さらにその内部に第二のシリコーンゴム型を配置して、シート材やホットメルト樹脂フィルムは使用せずに発泡成形試験を実施したところ、第二のシリコーンゴム型に応じた中空部分を有する発泡成形品を製造することができた。
【0103】
(第三の本発明について)
実施例11(天然由来有機フィラー又は天然繊維の複合効果)
基本条件で麻織物を使用せずに、天然由来有機フィラー又は天然繊維として(i)反毛(綿、羊毛等の天然繊維とアクリル、ポリエステル等の合成繊維との混合物)、(ii)播州織産地の捨て耳糸(織物製造時に生成される副産物;綿95%以上、ポリエステル5%以下)、又は(iii)国産うるち米の籾殻をそれぞれ5重量%追加配合して、曲げ試験用の試料に相当する成形品を製造した。ただし、シート材もホットメルト樹脂フィルムも使用していない。いずれの場合であっても、得られた成形品の表面にボイドが発生していなかった。また、その表面の拡大観察により各強化材にフェノールが十分に含浸していることが分かった。耳糸や反毛の場合には糸同士の隙間にも十分に含浸していた。
【0104】
比較品として、麻織物も強化材も使用せずに同様の成形品を作製した。
【0105】
曲げ強度、及びかさ比重を測定した結果を表2に示す。
【0106】
【表2】

表2の結果より、強化材として反毛を配合すると曲げ強度は約55%、曲げ比強度は約27%向上し、捨て耳糸を配合すると曲げ強度は約84%、曲げ比強度は約82%向上し、籾殻を配合すると曲げ強度は約7%低下するが曲げ比強度は約5%向上することが分かる。いずれの強化材でも曲げ比強度の向上を達成することができるが、特に捨て耳糸の効果が非常に大きい。これは捨て耳糸には綿繊維が多く配合されており、天然繊維である綿繊維はフェノール樹脂との接着性が良いためと考えられる。また、籾殻は成形品のかさ比重を小さくすることができ、軽量化の効果が得られる。
【0107】
実施例12(強化繊維としての麻織物の積層複合化による効果)
麻織物の積層複合化による強度向上効果を確認するために、基本条件で樹脂の配合量を種々変化させてかさ比重を変化させた配合品を作製し、曲げ試験用の試料に相当する繊維強化成形品を製造した。ただし、シート材もホットメルト樹脂フィルムも使用していない。得られた成形品の表面ではボイドが発生していなかった。また、その表面や断面を拡大観察すると麻織物の隙間にフェノール樹脂が十分に含浸していることが分かった。
【0108】
比較品として、麻繊維を使用せずに同様の成形品を作製した。得られた成形品の表面では大量にボイドが発生していた。
【0109】
曲げ強度、及びかさ比重を測定した結果を表3に示す。
【0110】
【表3】

表3の結果より、強化繊維として麻織物を用い積層複合化することによって成形品の曲げ強度及び曲げ比強度は約3倍に増加することが分かる。
【0111】
参考例2(強化繊維としてのガラス織物の積層複合化による効果)
麻織物の代わりに、ガラス織物(日本板硝子(株)製YEM2160T1、目付:200g/m2)2PLYを使用して実施例12と同様に、曲げ試験用の試料に相当する繊維強化成形品を製造した。得られた成形品の表面を拡大観察するとガラス織物にフェノール樹脂が十分に含浸していることが分かった。
【0112】
比較品として、ガラス繊維を使用せずに同様の成形品を作製した。
【0113】
曲げ強度、及びかさ比重を測定した結果を表4に示す。
【0114】
【表4】

表4の結果より、強化繊維としてガラス織物を用い積層複合化すると、成形品の曲げ強度は約3.1倍に、曲げ比強度は3.3倍に増加することが分かる。しかし破壊面を観察すると界面破壊が生じていたことから、ガラス繊維とフェノール樹脂との接着性は良好でないものと考えられる。
【0115】
参考例3(無機フィラーの複合効果)
無機フィラーであるフライアッシュの複合効果を確認するために、基本条件に従った成形品と、フライアッシュを除外したこと以外は基本条件に従った比較成形品とを製造した。ただし、シート材もホットメルト樹脂フィルムも使用していない。
【0116】
曲げ強度、及びかさ比重を測定した結果を表5に示す。
【0117】
【表5】

表5の結果より、フライアッシュ(20重量%)の配合により曲げ強度は約64%、曲げ比強度は約89%以上向上し、かさ比重は約13%低下することが分かる。
【0118】
複合したフライアッシュの粒径は数μm〜約30μmであり、比表面積が非常に大きいことから、樹脂との接着面積が大きくなる。そのため、破壊による亀裂進展を防ぎ、成形品の強度を向上することができる。また、フライアッシュはマイクロ波の吸収性が良好で、高く発熱するため、樹脂の発泡を促進させてかさ比重を小さくする効果もある。
【0119】
参考例4(マイクロ波照射による加熱効果)
表6に示した各試料を、体積が200cm3となるようガラスビーカーに充填し、家庭用電子レンジを用いて600Wで1分間マイクロ波を照射した直後、熱電対をガラスビーカー内に挿入して内部温度を測定した。それによって示された各試料の上昇温度を表6に示す。
【0120】
【表6】

表6の結果より、耳糸、反毛、籾殻、竹粉といった天然由来有機フィラーや天然繊維はマイクロ波を吸収しやすく、上昇温度が高いことが分かる。
【0121】
実施例13
エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、グレード806)100重量部、希釈剤(ジャパンエポキシレジン(株)製、YED216)10重量部、エポキシ樹脂用硬化剤(ジャパンエポキシレジン(株)製、イソホロン)22重量部、籾殻(約5%程度の水を含有)5重量%(上記配合樹脂に対して)を用いて前記と同様の手順で発泡成形を行った。ただし、マイクロ波の照射条件は600Wで90秒間とした。成形材料の温度は約140〜150℃の範囲内にあった。得られた成形材料の外観を確認したところ、無数の気泡が生成していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明により得られたシート材が接着された発泡成形品は、新幹線車両の内装材や、自動車の内装材(例えば肘掛け部材)、家具、小物入れ、織物壁材といった、デザイン性や風合いを生かした成形材料として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】第一の本発明の一体成形方法でマイクロ波照射前の材料を型内に配置した状態を示す概念図
【図2】実施例1の織物と一体接着した発泡成形品における接着界面の断面を拡大した顕微鏡写真
【図3】マイクロ波照射時間と成形材料の温度の関係を示すグラフ
【図4】マイクロ波照射時間と成形材料の発泡倍率の関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0124】
1 FRP製型
2 シリコーンゴム製型
3a,3b シート材
4a,4b ホットメルト樹脂フィルム
5 熱硬化性樹脂を含む混合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空洞にシート材とホットメルト樹脂フィルムとを積層して配置した型内に、少なくとも熱硬化性樹脂と水を含む混合物を封入した後、マイクロ波を照射することによって前記樹脂の発泡・硬化及び成形を行い、同時に、成形品の表面への前記シート材の接着を行うことを特徴とする、表面にシート材が接着された発泡成形品の製造方法。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂がフェノール樹脂である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記シート材が、有機織物、無機織物、ニット生地、不織布、皮革、紙、樹脂フィルム、合板、及び化粧板からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記ホットメルト樹脂フィルムは、融点が80℃以上のものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記混合物が、さらに充填材及び/又は強化繊維を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記型が、シリコーンゴム製の型である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
シリコーンゴム製の型内に、少なくとも熱硬化性樹脂と水を含む混合物を封入した後、マイクロ波を照射することによって前記樹脂の発泡・硬化及び成形を行うことを特徴とする、発泡成形品の製造方法。
【請求項8】
前記混合物が、さらに充填材及び/又は強化繊維を含有する請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
少なくとも熱硬化性樹脂と水と充填材及び/又は強化繊維とを含む混合物を型内に封入した後、マイクロ波を照射することによって前記樹脂の発泡・硬化及び成形を行うことからなる発泡成形品の製造方法であって、
前記充填材及び/又は強化繊維として、天然由来有機フィラー及び天然繊維からなる群より選択される少なくとも1種を使用することを特徴とする製造方法。
【請求項10】
前記充填材及び/又は強化繊維として、竹粉、籾殻、麻繊維、及び、天然繊維を含む繊維廃棄物からなる群より選択される少なくとも1種を使用する請求項9記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−137204(P2009−137204A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−317319(P2007−317319)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【出願人】(594008121)株式会社エフタックル (2)
【Fターム(参考)】