ミラー装置及びミラー装置の製造方法
【課題】焦点可変で且つ高精度の一様な近似放物面形状を得ることができるようにしたミラー装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ミラー装置30は、薄板状のミラー部31aと、ミラー部31aを懸架するサスペンション31bを有し、ミラー部31aの周縁の少なくとも一部を包囲し、かつサスペンション31bによりミラー部31aをその表面に垂直な方向へ移動可能に支持するベース部31cと、から成るミラー基板31と、ミラー基板31のベース部31cの表面に配設した支持基板32と、を備え、支持基板32が、ミラー基板31の周縁の内側に対向してミラー部31aの表面に当接する支持部32aと、支持部32aより外側でミラー部31aに対向して形成された固定電極部32bを有している。
【解決手段】ミラー装置30は、薄板状のミラー部31aと、ミラー部31aを懸架するサスペンション31bを有し、ミラー部31aの周縁の少なくとも一部を包囲し、かつサスペンション31bによりミラー部31aをその表面に垂直な方向へ移動可能に支持するベース部31cと、から成るミラー基板31と、ミラー基板31のベース部31cの表面に配設した支持基板32と、を備え、支持基板32が、ミラー基板31の周縁の内側に対向してミラー部31aの表面に当接する支持部32aと、支持部32aより外側でミラー部31aに対向して形成された固定電極部32bを有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焦点が可変で近似放物面ミラーを備えたミラー装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光MEMS(Micro Electro Mechanical System)と光マイクロシステムは、盛んに研究されており、大きく成長し続けている。特に、データ通信や高分解能画像ディスプレイ等の種々のアプリケーションにおいて著しい発展がみられる。これは、カメラ等の光学機器の機能向上及び小型化が注目されていることによるものである。
【0003】
例えばカメラにおいては、レンズによる屈折光を利用した光学系では色収差の問題が発生するが、ミラーによる反射光を利用した光学系では色収差は発生しない。しかしながら、上述したどちらの光学系においても、焦点距離を調節するためにはレンズまたはミラーを移動させる必要があり、光学系を移動することに起因して、光学性能を保持したままで小型化することは困難である。
【0004】
さらに、ミラーによる反射光を利用した光学系では、色収差は発生しないものの、ミラーの形状が非一様な球面或いは非一様な放物面である場合には、収差が発生し、集光性が低下することが知られている。また、ミラーの形状が一様な放物面である場合には、入射する平行光を収差なく一点に集光させることが可能であり、また点光源から出射する光を平行光とすることができる。
【0005】
他方、一様な近似放物面形状で且つ焦点可変のマイクロミラーを使用すれば、集光性に優れた小型の光学系を構成することが可能である。例えば、非特許文献1,2では、焦点可変のマイクロミラー装置が報告されている。
図15(A)は、従来のマイクロミラー装置70の構成例における非動作時の、(B)は動作時の、概略断面図である。
図15(A)において、マイクロミラー装置70は、マイクロミラー71と、マイクロミラー71の周縁を支持する固定部72と、マイクロミラー71の下部に配設される固定電極73と、から構成されている。マイクロミラー71の周縁は固定部72に対して支持されていると共に、その下方に間隔をあけて固定電極73が配置されている。マイクロミラー71は、薄膜の円板からなるシリコン窒化膜(Si3N4)等を用いて形成することができる。マイクロミラー71の周縁の固定部72に対する支持は、サスペンションなどによる部分的な支持や周縁を不動に固定保持(非特許文献3,4参照)することで行われる。
このように構成されたマイクロミラー装置70において、マイクロミラー71と固定電極73との間に電圧を印加すると、マイクロミラー71が静電引力によって変形する。具体的には、図15(B)に示すように、マイクロミラー71を静電引力によって下方に向かって放物面状に変形させて、焦点可変の放物面形状を有する反射面を形成することができる。
【0006】
マイクロミラー71の周縁が固定部72に対してサスペンションなどによって部分的に支持されている場合の放物面物面形状の一例を図16に示す。
図16は、図15のマイクロミラー71の変形状態を示すグラフである。図16から明らかなように、マイクロミラー71においては、実際の変形形状は、符号Aで示すように、一様な近似放物面形状Bに対して各所で5%から100%以上のずれを生じてしまう。
【0007】
非特許文献3,4には、マイクロミラー71の周縁が固定部72に対して固定保持されている以外は、図15のマイクロミラー装置70と同様の焦点可変のマイクロミラー装置が報告されている。このマイクロミラー装置の動作もおおよそ図15に示したマイクロミラー装置70と同様である。
図17は、従来のマイクロミラー71の周縁が固定部72に対して固定保持されている場合の変形状態を示すグラフである。実際のマイクロミラー71の変形形状Aは、一様な近似放物面形状Bから大きくずれてしまう。
【0008】
【非特許文献1】Y. Shao, D.L. Dickensheets and P. Himmer, "3-D MOEMS m-irror for laser beam pointing and focus control", IEEE J. Sel. Topi. Qua-ntum Electron., vol.10, No.3, pp. 528-534, 2004年8月16日
【非特許文献2】Y. Shao,"MEMS 3D-scan mirror for an endoscopic confocal microscope", Ph.D. Thesis, p.82, Montana State University, November14, 2005
【非特許文献3】U. M. Mescheder, C. Estan, G. Somogyi and M. Freudenre-ich, "Distortion optimized focusing mirror device with large aperture", Sensor Actuators, Vol.A130-131, pp.20-27, 2005年11月14日
【非特許文献4】Greger W, Arnold D, Juurischka R, Schoth A, Muller C, Wilde J and Reinecke H, "A new approach for focusing deformable mirror f-abricated in polymer technology", IEEE/LEOS Int. Conf. Optical MEMS, pp.45-46, 2005年8月1日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1及び2のマイクロミラー装置70では、張力の加わったシリコン窒化膜からなるマイクロミラー71の固定部72の内部に二重の電極を設けて、放物面に近い形状を発生させている。さらに、マイクロミラー71の固定部72の周辺を穴あけ加工して、固定部72周辺の変形を改善している。
しかしながら、従来のマイクロミラー装置70では、何れの場合も精度のよい一様な放物面形状のミラーが得られていないという課題がある。
【0010】
本発明は上記課題に鑑み、簡単な構成により、焦点可変で且つ高精度の一様近似放物面等の形状を得ることができるようにしたミラー装置及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明のミラー装置は、薄板状のミラー部と、ミラー部を懸架するサスペンションを有し、ミラー部の周縁の少なくとも一部を包囲し、かつサスペンションによりミラー部をその表面に垂直な方向へ移動可能に支持するベース部と、から成るミラー基板と、ミラー基板のベース部の表面に配設される支持基板と、を備え、支持基板が、ミラー基板の周縁の内側に対向してミラー部の表面に当接する支持部と、支持部より外側でミラー部に対向して形成された固定電極部と、を有しており、固定電極部とミラー部との間に電圧を印加することにより、ミラー部の支持部より外側の領域を静電引力により、対応する固定電極側に向かって変位させて、ミラー部の支持部より内側の領域を断面放物線状に変形させることを特徴とする。
【0012】
上記構成において、好ましくは、ミラー部は円形に形成され、サスペンションがミラー部の中心に関して等角度間隔に配置され、支持部がミラー部と同心の環状に形成される。ミラー部は長方形に形成されてもよく、この場合、サスペンションがミラー部の互いに対向する端縁に関して配置され、支持部がミラー部の互いに対向する端縁の内側に沿って配置される。
好ましくは、ミラー基板は半導体層から構成され、ミラー基板のベース部が絶縁層を介して半導体基板上に形成される。好ましくは、支持基板はガラス基板または半導体基板から構成される。
固定電極部は、支持基板の表面に形成された凹陥部内に配置されてもよい。
ミラー部の支持部より内側の領域の静電引力による変形量は、好ましくは、電圧に対応して変化し、一様な近似放物面状に変形したミラー部の焦点距離が変更可能である。
【0013】
本発明のミラー装置によれば、支持基板の固定電極部とミラー部との間に電圧を印加することにより、ミラー部の支持部より外側の領域が静電引力によって固定電極部に向かって変位する。よって、ミラー部の支持部より内側の領域には、支持部を中心とする上向きの一定の曲げモーメントが作用する。従って、ミラー部の支持部より内側の領域は、中心を頂点とする上方に向かって凹状の精度の高い一様な近似放物面形状に変形する。その際、印加電圧を適宜に調整することによって、静電引力の大きさが調整される。これにより、上述した曲げモーメントの大きさが調整され、ミラー部の支持部より内側の領域の一様な近似放物面形状による焦点距離が調整される。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明のミラー装置の製造方法は、犠牲層を介して上層を備えた第1の基板に対して上層側から犠牲層に達するエッチングによりミラー部及びサスペンションを画成する溝部を形成すると共に、第1の基板側から犠牲層に達するエッチングにより第1の基板のミラー部に対応する領域を除去してミラー基板を作製する第一の段階と、第2の基板の表面に対して支持部を形成する第二の段階と、第2の基板の表面の支持部の外側に固定電極部を形成して支持基板を作製する第三の段階と、第三の段階で作製された支持基板上に第一の段階で作製されたミラー基板を反転し、ミラー基板の上層のベース部を支持基板の表面に対して陽極接合する第四の段階と、を含んでいることを特徴とする。
【0015】
上記構成において、好ましくは、第二の段階において、支持基板の支持部となるべき表面領域の周囲に凹陥部を形成することにより、各支持部を画成する。
第三の段階において、各支持部の上面に、ミラー部の表面への接合を阻止する金属層を形成してもよい。金属層が、固定電極部と同じ材料により固定電極部と同時に形成されてもよい。ミラー基板を半導体基板を用いて構成してもよく、支持基板をガラス基板または半導体基板を用いて構成してもよい。
【0016】
本発明のミラー装置の製造方法によれば、ミラー基板と支持基板を作製し、これらの基板を陽極接合するという簡単な工程で、精度の高い一様な近似放物面形状を有しているミラー装置を作製することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のミラー装置によれば、簡単な構成により、焦点可変で且つ高精度の一様な近似放物面形状を得ることができる。
【0018】
本発明のミラー装置の製造方法によれば、ミラー基板と支持基板を作製し、これらの基板を陽極接合するという簡単な工程で、精度の高い一様な近似放物面形状を有しているミラー装置を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面に示した実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
(ミラー装置)
図1は本発明の第1の実施形態に係るミラー装置の構成を模式的に示す図で、(A)は斜視透視図、(B)は平面図であり、図2(A)は図1のミラー装置10の非動作時の、(B)が動作時の概略断面図である。
図1に示すように、ミラー装置10は、ミラー基板11と、ミラー基板11を支持する支持部12aと固定電極部12bとを備えた支持基板12と、を含んで構成されている。
【0020】
ミラー基板11はSi基板等から構成されており、薄板状のミラー部11aと、ミラー部11aの周縁を包囲し且つ複数個のサスペンション11bによりミラー部11aを支持するベース部11cと、を含んでいる。
【0021】
ミラー部11aは、図示の場合、円形に形成されている。ミラー部11aの周縁とベース部11cとは、殆どの部分が空隙部11gによって分離され、ミラー部11aの周縁で空隙部11gによって分離されていない箇所が複数個のバネとなるサスペンション11bによってベース部11cと接続されている。つまり、ミラー部11aは、サスペンション11bを介してベース部11cに懸架され、上下方向に移動可能に支持されている。
ここで、サスペンション11bは、線状、ジグザグ線状等のバネ形状を有している。各サスペンション11bは、ミラー部11aの中心に関して等角度間隔に配置されることにより、ミラー部11aの各半径方向に関して一様な変形を妨げないようになっている。
【0022】
支持基板12はガラス基板等から構成されており、図2(A)に示すように、上述したミラー基板11の下方に、所定の間隔gをあけて平行に配置されている。ミラー部11aが円形の場合には、支持基板12は、その上面から上方に突出する環状の支持部12a及びこの支持部12aの外側に環状に配置された固定電極部12bを備えている。
【0023】
支持部12aは、ミラー基板11のミラー部11aの中心と同心の環状に形成されており、ミラー部11aの周縁より内側でミラー部11aを下方から支持する。
【0024】
固定電極部12bは、支持部12aの外側で支持基板12の表面に形成されており、ミラー部11aの周縁の支持部12aより外側の外側領域11dに対向するように配置されている。ミラー基板11と固定電極部12bとの間に、電圧を印加するミラー駆動電源18が接続される。
これにより、ミラー駆動電源18からミラー部11aと固定電極部12bとの間に電圧が印加されると、固定電極部12bとミラー部11aの外側領域11dとの間に静電引力Pが作用する。この際、静電引力Pは、支持部12aによる支持点より距離Lだけ外側の位置で、ミラー部11aの外側領域11dに作用し、下方へ移動させる。従って、ミラー部11aは、支持部12aによる支持点より内側の内側領域11eが、支持点を中心とする一定の曲げモーメントM0を受けて、図2(B)に示すように、中心が上方に向かって移動するように変形する。
【0025】
(円形ミラー部の変形)
ここで、ミラー部11aの変形について考察する。
図3は、両端が固定された梁の荷重印加時の変位量を計算するための模式図である。
図3に示すように、先ず、両端が固定された梁20の両端に曲げモーメントMが作用したとき、梁20の長手方向の位置をx,高さをy,ヤング率をE,断面二次モーメントをIとすると、下記(1)式で表わされるたわみ曲線の微分方程式が成立する。
【数1】
従って、曲げモーメントMがxの関数の場合には、たわみ曲線はxの三次以上の曲線となってしまう。
これに対して、曲げモーメントMが一定(M0)であれば、上記式(1)をyについて解くと、yは下記(2)式で表わされ、梁20のたわみが近似放物線となることが分かる。
【数2】
即ち、梁20の両端の外側に一定の荷重を加えたとき、梁20の両端には一定の曲げモーメントM0が作用して、一様な近似放物線状に変形することになる。
【0026】
次に、図1に示すミラー装置10のミラー部11aの変位量を計算する方法について説明する。
図4は、環状の支持部に支持された円板21の荷重印加時の変形を計算するために用いるモデル図であって、(A)はミラー装置モデルの斜視図で、(B)は平面図、(C)は断面図である。
図4(A)に示すように、梁20の代わりに、円板21がその周縁21aの内側で環状の支持部22により支持され、周縁21aに下向きの荷重Pが印加される場合には、円板21の中心軸を通る任意の断面において、前述した梁20の場合と同様の曲げモーメントMが発生するので、円板21の支持部22より内側の領域が同様に一様な近似放物面形状に変形することになる。即ち、円板21において、円板中心を原点とし、光軸をz(下向きに正)、支点から作用点までの長さをL、作用点の変位をr(r2=x2+y2)とし、荷重分布をP(r)、曲げこわさをDとすると、この曲げこわさDは、板厚h、ポアソン比νとしたとき、下記(3)式で与えられる。
【数3】
【0027】
円板21のたわみ曲線の微分方程式は、下記(4)式で与えられる。
【数4】
この式の一般解は、Zsを特解、C1,C2,C3,C4を任意定数としたとき、下記(5)式で与えられる。
【数5】
なお、特解Zsは、P(r)=Crnのとき、下記(6)式で与えられる。
【数6】
そして、周方向の曲げモーメント,半径方向の曲げモーメント,たわみ角及び剪断力を計算し、初期条件及び境界条件を考慮すると、円板のたわみ曲線は下記(7)式で表わされる。
【数7】
【0028】
上記円板のたわみ曲線が図1に示したミラー部11aの内側領域11eのたわみに相当する。よって上記(7)式から、図2(B)に示すようにミラー部11aの内側領域11eの中心が上方に向かって移動して高精度で一様な近似放物面形状に変形することが導かれる。つまり、ミラー部11aの内側領域11eは静電引力Pによって支持部12aによる支持点の周りに一定の曲げモーメントM0を受けて近似放物面形状に変形する
【0029】
ここで、静電引力Pは、印加電圧をV,真空の誘電率をε0,ミラー部11aの面積をS,ミラー部11aの移動量をu(r)とすると、下記(8)式で表わされる。
【数8】
曲げモーメントM0は、静電引力Pの作用点から支持部12aによる支持点までの距離をL1とすると、M0=P×L1で表わされる。
【0030】
(円形ミラーの設計例)
表1は、円形のミラー部11aのたわみ量に影響があるパラメータとバネ定数の関係を纏めた表である。円形のミラー部11aを備えたミラー装置10におけるミラー部11aの直径、支持部12aの円の直径、ミラー部11aのバネ定数及びサスペンション11bのバネ定数の設計例を示している。サスペンション11bの個数は4個とした。Siのヤング率が162GPa、ポアソン比が0.22、真空の誘電率が8.85×10−12F/m、ミラーの厚さが10μmとして算出した。サスペンション11bのバネ定数はミラー部11aのバネ定数の百分の一程度に設計した。
【表1】
【0031】
(ミラー装置の変形例)
次に、本発明の第2の実施形態に係るミラー装置について説明する。
図5は本発明の第2の実施形態に係るミラー装置15の構成を模式的に示す図であり、(A)は斜視透視図、(B)は平面図である。
図5(A)に示すように、ミラー装置15は、ミラー基板11のミラー部11aを長方形とした点でミラー装置10と異なっている。
【0032】
支持基板12は、ミラー部11aを支持する支持部12c,12dを備えている。二つの支持部12c,12dは直方体形状を有しており、それぞれ、それらの長手方向がミラー部11aの両短辺側に平行に配置されている。支持部12c,12dの長手方向の寸法は、ミラー部11aの短辺寸法(b)程度でよい。ミラー部11aの中央から支持部12c,12dまでの長辺側の長さはa、短辺の長さはbである。
【0033】
二つの固定電極部12e,12fは、長方形の電極であり、それぞれ、それらの長手方向が二つの支持部12c,12dの外側に配置されている。つまり、二つの固定電極部12e,12fは、ミラー部11aの短辺側の下部に配置されている。二つの固定電極部12e,12fは、互いに接続されてミラー駆動電源18に接続されている。
【0034】
図5(B)に示すように、ミラー部11aの長方形の各頂点にサスペンション11bが配置され、ミラー部11aがベース部11cに懸架される。ミラー駆動電源18等の他の構成は、ミラー装置10と同じであるので説明は省略する。
【0035】
(長方形ミラー部の変形)
長方形の形状を有するミラー部11aの鏡の作用について説明する。
長方形ミラー部11aを梁に見立て、たわみ曲線の計算を行う。梁の場合の曲げモーメントM0は、下記(9)式で与えられる。
【数9】
ここで、Pは静電引力であり、Lは静電引力の作用点から支持部12dによる支持点までの距離である(図2(A)参照)。
【0036】
(1)式より、境界条件x=aのときy=0、対称性からx=0,dy/dx=0であるから下記(10)式を得る。
【数10】
【0037】
断面二次モーメントIは、I=bh3/12で与えられることから、(10)式は下向きを正に置き直すと、下記(11)で表わされる。
【数11】
ここで、bはミラー部11aの短辺の長さ、hはミラー部11aの厚さである。これにより、(11)式の変数P,L,a,b,hを設定することで、長方形の形状を有しているミラー部11aのたわみ形状を変化させることができる。
【0038】
(長方形ミラーの設計例)
表2は、長方形のミラー部11aのたわみ量に影響があるパラメータとバネ定数の関係を纏めた表である。長方形のミラーのたわみ量に影響があるミラー部11aの長さ、支持部12aによる支持間隔、ミラー部11aのバネ定数及びサスペンション11bのバネ定数の計算例を示している。2辺を支持した長方形ミラーの幅(短辺b)はたわみに無関係であるから500μmとし、サスペンション11bの個数は4個とした。Siのヤング率、ポアソン比、真空の誘電率、ミラー部11aの厚さは、円形のミラー部11aと同じ値を用いた。サスペンション11bのバネ定数はミラーのバネ定数の百分の一程度に設計した。
【表2】
【0039】
本発明のミラー装置10,15によれば、ミラー部11aの駆動手段、即ちミラー部11a,支持部12a及び固定電極部12bを、後述するように所謂MEMS技術によって作製することができる。これにより、ミラー装置10,15全体が小型に構成され、且つミラー部11aが高精度に一様な近似放物面状に形成されると共に、焦点距離が変更可能である。
【0040】
(ミラー装置の構成例)
次に、ミラー装置の具体的な構成例について説明する。
図6はミラー装置30の構成を示す平面図であり、図7は図6のX−X方向の断面図である。
図6及び図7に示すように、ミラー装置30は、図1及び図5に示したミラー装置10,15と同様に、ミラー基板31と支持基板32とから構成されている。ミラー基板31はSi基板等から構成されており、薄板状のミラー部31aと、ミラー部31aの周縁を包囲し且つサスペンション31bにより支持するベース部31cと、を含んでいる。ミラー基板31に用いるSi基板は、所謂SOI(Silicon On Insulator)ウェハを用いることができる。ミラー部31aは、例えば図6に示すように円形に形成されている。ミラー部31aの周縁とベース部31cとは、殆どの部分が空隙部31gによって分離され、ミラー部31aの周縁で空隙部31gによって分離されていない箇所が複数個のバネとなるサスペンション11bによってベース部31cと接続されている。図示の場合は、四個のサスペンション31bによりベース部31cに懸架され、上下方向に移動可能に支持されている。サスペンション31bは、図示するようにジグザグ線状や線状等のバネ形状を有している。
【0041】
各サスペンション31bは、ミラー部31aの中心に関して等角度間隔に配置されることで、ミラー部31aの各半径方向に関して一様な変形を妨げないようになっている。
【0042】
ミラー基板31のベース部31cの上面には、犠牲層31dを介してSi基板31eが形成されている。これにより、ベース部31cがSi基板31eにより補強される。ここで、ミラー部31aそしてサスペンション31b及びベース部31cは、その厚さが、例えば10μm程度に選定されている。
【0043】
支持基板32はガラス基板等から構成されており、図7に示すように、ガラス基板の表面に、上方に突出する環状の支持部32aと、この支持部32aの外側に環状に配置された固定電極部32bと、を備えている。ここで、支持部32aは、ガラス基板の表面に形成された凹陥部32c,32dによってそれぞれ内縁及び外縁が画成されており、その上面はガラス基板の表面と同じ高さである。
【0044】
これにより、ミラー基板31のミラー部31aは、支持部32aの上端に支持されると共に、凹陥部32c,32dによって、ミラー基板31のミラー部31aが、ガラス基板の凹陥部32c,32dの底面に対して所定の間隔gをあけて平行に配置されることになる。
【0045】
ここで、間隔gは、例えば2〜15μm程度に選定されており、支持部32aの半径aは、50〜1000μm程度に選定されている。
【0046】
上記凹陥部32c,32dと同時に、支持基板32の表面には、凹陥部32dの外側にさらに別の凹陥部32eも形成される。この凹陥部32eは、電極配線溝として利用されるものである。
【0047】
支持基板32の固定電極部32bは、その外側の凹陥部32dの底面に環状に配置されている。これにより、固定電極部32bは、支持部32aの外側でミラー部31aの周縁の支持部32aより外側の領域31fに対向するように配置されている。
なお、ミラー装置30のミラー部31aの形状は円形に限らず長方形でもよい。ミラー部31aの形状を長方形とした場合には、固定電極部32bの形状は、図5に示す固定電極部12e,12fの形状と同様な形状とすればよい。
【0048】
従って、本発明によるミラー装置10,15,30は、従来のMEMS技術を利用しないミラー装置と比較して、高精度で一様な近似放物面形状を形成することができると共に、小型,軽量に構成される。ミラー基板11,31又は支持基板12,32上において例えば処理回路と集積化することにより、高性能化,高速化,低消費電力化,低コスト化を実現することができる。
【0049】
(ミラー装置の製造方法)
ミラー装置30の製造方法について説明する。ミラー装置30は、図6及び図7に示した構成として説明する。
最初に、ミラー基板31の製造について説明する。
図8は、図7に示したミラー基板31の製造方法を順次に示す模式的な断面図である。
ミラー基板31として、SOI構造を有する第1の基板40を用いる。第1の基板40においては、シリコン基板41上にSiO2から成る犠牲層42と上層Si層43が順に積層されている。具体的には、例えば、厚さが200μmのシリコン基板41の表面に、厚さ2μmのSiO2から成る犠牲層42を介して、厚さ10μmの上層Si層43が形成されている。
そして、図8(A)に示すように、この第1の基板40の下面に、例えばポジレジストのマスクパターン44を形成して、誘導結合プラズマによるイオンエッチング(ICP−RIE法と呼ぶ)等により、犠牲層42に達するエッチング45を行う。
これにより、ミラー部31aに対応するシリコン基板41の領域を、一部を残して除去する。
【0050】
続いて、図8(B)に示すように、第1の基板40の上面、即ち上層Si層43の表面に、高解像ポジレジストのマスクパターン46を形成して、同様にICP−RIE法等により、犠牲層42に達するエッチング47を行う。このエッチング47により、上層Si層43に、ミラー部31a,サスペンション31b及びベース部31cを形成する。
【0051】
その後、図8(C)に示すように、この第1の基板40の下面に関して、例えば気相フッ酸等により、シリコン基板41のエッチング45を行ない、残った領域を除去すると共にミラー部31aに対応する犠牲層42の領域を除去する。
これにより、ミラー部31aはシリコン基板41から解放され、浮いた状態でサスペンション31bにより支持された状態となる。
以上で、ミラー基板31が作製される。
【0052】
(支持基板の製造方法)
次に、支持基板32の製造について説明する。
図9は、図7に示した支持基板32の製造方法を順次に示す模式的な断面図である。
第2の基板、例えばガラス基板50を用意して、図9(A)に示すように、このガラス基板50の表面に、Cr膜51をスパッタリング等により形成する。このCr膜51は、例えば厚さ250〜300nm程度に選定されている。
そして、図9(B)に示すように、このCr膜51の表面に、例えばポジレジストのマスクパターン52を形成して、Crエッチング53を行う。この場合、Cr膜51をエッチングするエッチャントとして、例えばHCl04(70%)4.5gと、H2O89cm3と、硝酸二アンモニウムセリウム(II)20gとからなる混合溶液を使用することができる。
【0053】
その後、図9(C)に示すように、50%のHF溶液を使用して、ガラス基板50の表面に対して、例えば深さ3μm程度の等方性エッチング54を行う。
これにより、ガラス基板50の表面に、凹陥部32c,32d,32eが形成されると共に、凹陥部32c,32dの間に、支持部32aが画成されることになる。
【0054】
続いて、Cr膜51及びマスクパターン52を除去した後、図9(D)に示すように、ガラス基板50の表面全体に亘って、例えば厚さ40μm程度のCr膜55及び厚さ60μm程度のAu膜56を形成する。
ここで、Au膜56のガラス基板50への密着性が良くないため、Au膜56及びガラス基板50の双方に対する密着性の良好なCr膜55等を介在させて、間接的にAu膜56のガラス基板50への密着性を高めるようにしている。
【0055】
最後に、図9(E)に示すように、Cr膜55及びAu膜56をパターンエッチングして、凹陥部32d内に固定電極部32bを、また凹陥部32e内に電極配線32fを形成する。
なお、支持部32a上のCr膜55及びAu膜56もエッチングされずに残される。この場合、Au膜56をエッチングするエッチャントとして、I2を1.2gとNH4Iを8gとH2Oを40cm3とCH3OHを60cm3とからなる混合溶液を使用することができる。固定電極部32bを形成するためには、所謂リフトオフプロセス法等を利用してもよい。
以上で、支持基板32が作製される。
【0056】
(ミラー基板と支持基板の接合方法)
図10はミラー基板31及び支持基板32の陽極接合を示す模式的な断面図である。
図10に示すように、図8に示す方法によって作製されたミラー基板31が反転された状態で、図9に示す方法によって作製された支持基板32上に載置され、ヒータ57により加熱されると共に、電源58により電圧が印加されて陽極接合が行われる。陽極接合の条件は、例えば400℃,100Vである。これは、電圧を例えば200〜300V程度と高くすると、ミラー部31aがガラス基板50に引き込まれて接合してしまうので、このような接合を排除するためである。ミラー装置30では、接合面全体を気密性良く密着させる必要はないので、低電圧の陽極接合でも、接合が可能である。
【0057】
このとき、支持部32aの上面には、Cr膜55及びAu膜56が在るので、支持部32aの上面がミラー部31aの表面に接合してしまうことがない。これにより、ミラー部31aが曲げモーメントにより放物面状に変形する際に、支持部32aの影響を受けることなく、円滑に変形することが可能である。
【0058】
例えば、上述した実施形態においては、ミラー基板31がSi基板41、犠牲層42、及び上層Si層43とから構成されているが、これに限らず、他の半導体基板及び上層半導体層から構成されていてもよい。支持基板32がガラス基板から構成されているが、これに限らず、他の基板から構成されていてもよいことは明らかである。
【0059】
以上述べたように、本発明によれば、簡単な構成により、焦点可変で且つ高精度の一様な近似放物面形状を得ることができるようにした、極めて優れたミラー装置10,15,30及びその製造方法が提供される。
【実施例1】
【0060】
実施例1として、厚さが10μmの円形のミラー部31aを備えたミラー装置30を、図8〜10を用いて説明した製造方法によって種々の寸法で製作した。ミラー基板31の材料はSOI基板を用い、支持基板32の材料はパイレックス(登録商標)ガラスを用いた。
ここで、ミラー部31aの直径を500μmとして、対応する支持部32bの円の直径を100μm及び200μmとした。ミラー部31aの直径を1000μmとした場合、対応する支持部の円直径を300μm及び400μmとした。ミラー部31aの直径を1500μmとした場合、対応する支持部32bの円の直径を600μmとした。支持間隔gは何れの場合も10μmとした。
【0061】
図11は、実施例1のミラー装置30の走査電子顕微鏡像を示す図であり、(A)がミラー基板31の表面要部を、(B)が支持基板32の表面要部をそれぞれ示している。図11から明らかなように、微細加工によってミラー基板31及び支持基板32が精度良く製作されていることが分かる。
【0062】
上記実施例1で製作したミラー装置30の動作特性を説明する。
ミラー装置30のミラー部31aと固定電極部32bとの間に正弦波(1Hz)を種々の電圧を印加して形状測定を行った。形状測定には白色光干渉計(ザイゴ社)を用いた。
図12は、実施例1のミラー部31aの断面形状における印加電圧依存性を示す図である。測定した円形ミラー部31aの直径は1000μmであり、支持部32bの円の直径が400μmである。図の横軸はミラー部31aの直径方向の寸法(mm)であり、図の縦軸はミラー部31aの変形量(μm)である。
図12から明らかなように、100V以下の印加電圧ではミラー部31aの支持への接触が弱く、形状が傾いていた。100V以上の印加電圧ではミラー部31aの支持への接触が強いので形状が安定であり、印加電圧の増大と共にミラー部31aの中央部が上方へ膨らむことが分かる。
【0063】
表3は実際のミラー部31aの印加電圧0V,100V,150V,200V,215Vにおける高低差を示す表である。表3から明らかなように、印加電圧0V,100V,150V,200V,215Vにおける高低差は、それぞれ、150nm,840nm,1700nm,2600nm(2.6μm)であることが分かった。これらの高低差は、設計値と良く一致していることが判明した。
【表3】
【0064】
表4は、印加電圧とミラー部31aの各所における放物面に対する変形量の平均二重偏差と焦点距離を示す表である。表4に示すように、原理的に一様な近似放物面になるミラー部31aの支持内部領域では、平均二乗偏差が安定して数nm程度の誤差であった。さらに、印加電圧が100V,150V,200V,215Vの場合、焦点距離が140mm,77mm,36mm,24mmと変動していることが分かる。支持外部領域では印加電圧を大きくすることに伴う変化量の増大によって、放物面との誤差も大きくなっていっている。これから、焦点距離は24mmから無限大(∞)の範囲で可変にすることができた。
【表4】
【実施例2】
【0065】
ミラー部31aを長方形とした以外は、実施例1と同様にして実施例2のミラー装置30を製作した。ミラー部31aにおける長方形の長辺の長さを1000μm,1500μmとし、短辺の長さを400μmとした。
【0066】
図13は、実施例2のミラー装置30の走査電子顕微鏡像を示す図であり、(A)がミラー基板31の表面要部を、(B)が支持基板32の表面要部をそれぞれ示している。
図13から明らかなように、微細加工によってミラー基板31及び互いに平行な直線状の支持部32aを有する支持基板31が精度良く製作されていることが分かる。
【0067】
上記実施例2で製作したミラー装置30の動作特性を説明する。
図14は、実施例2のミラー部31aの断面形状における印加電圧依存性を示す図である。測定した長方形のミラー部の長辺の長さは1000μmである。図の横軸はミラー部31aの長辺方向の寸法(mm)であり、図の縦軸は、ミラー部31aの変形量(μm)である。
図14から明らかなように、印加電圧によってミラー部31aへの支持部32aの接触が強く、形状が安定であり、印加電圧を50Vから200Vまで50V毎に増加させると、印加電圧の増大と共に、ミラー部31aの中央部が上方へ膨らむことが分かる。
【0068】
表5は、印加電圧が0V,100V,200Vにおけるミラー部31aの高低差を示す表である。表5に示すように、印加電圧0V,100V,200Vにおける高低差は、それぞれ、75nm,400nm,1900nm(1.9μm)であることが分かった。これらの高低差は、設計値と良く一致していることが判明した。
【表5】
【0069】
表6は、実施例2において、印加電圧とミラー部31aの各所における放物面に対する変形量の平均二重偏差と焦点距離を示す表である。
表6から明らかなように、印加電圧が0V〜200Vでは、原理的に一様な近似放物面になるミラー部31aの支持内部領域では、平均二乗偏差が安定して約1.1nm以下程度の非常に小さい誤差であった。ミラー部の全領域では、印加電圧が0V,50V,100V,150V,200Vの場合、平均二乗偏差が、それぞれ、2.58nm,4.53nm,10.7nm,23.3nm,51.1nmと小さかった。
さらに、実施例2のミラー装置30では、印加電圧を0V,50V,100V,150V,200Vと変化させたときに得られる焦点距離が、それぞれ、710mm,370mm,150mm,70mm,32mmと変動していることが分かった。
【表6】
【0070】
本発明は、上記実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。上述した実施形態における、ミラー部31a及び支持部32aの形状や各寸法は、所望の放物線特性に応じて適宜に設計することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施形態に係るミラー装置の構成を示す概略斜視図である。
【図2】図1のミラー装置において、(A)は非動作時の、(B)は動作時の概略断面図である。
【図3】両端が固定された梁の荷重印加時の変位量を計算するための模式図である。
【図4】環状の支持部に支持された円板の荷重印加時の変形を説明する、(A)は概略斜視図,(B)は平面図、(C)は断面図である。
【図5】第2の実施形態に係るミラー装置の構成を模式的に示す図で、(A)は斜視図、(B)は平面図である。
【図6】ミラー装置の構成を示す平面図である。
【図7】図6のX−X方向の断面図である。
【図8】図7に示したミラー基板の製造方法を順次に示す模式的な断面図である。
【図9】図7に示した支持基板の製造方法を順次に示す模式的な断面図である。
【図10】ミラー基板及び支持基板の陽極接合を示す模式的な断面図である。
【図11】実施例1のミラー装置の走査電子顕微鏡像であり、(A)はミラー基板の表面要部を、(B)は支持基板の表面要部をそれぞれ示している。
【図12】実施例1のミラー部の断面形状における印加電圧依存性を示す図である。
【図13】実施例1のミラー装置の走査電子顕微鏡像であり、(A)はミラー基板の表面要部を、(B)は支持基板の表面要部をそれぞれ示している。
【図14】実施例2のミラー部の断面形状における印加電圧依存性を示す図である。
【図15】従来のマイクロミラーの構成例において、(A)は非動作時の、(B)は動作時の概略断面図である。
【図16】従来のマイクロミラー装置において、ミラーの周縁がサスペンションによって支持されている場合の変形状態を示すグラフである。
【図17】従来のマイクロミラー装置において、ミラーの周縁が固定保持されている場合の変形状態を示すグラフである。
【符号の説明】
【0072】
10,15,30:ミラー装置
11,31:ミラー基板
11a,31a:ミラー基板のミラー部
11b,31b:ミラー基板のサスペンション
11c,31c:ミラー基板のベース部
11d,31f:ミラー基板の外側領域
11e:ミラー基板の内側領域
11g,31g:ミラー基板の空隙部
12,32:支持基板
12a,12c,12d,32a:支持基板の支持部
12b,12e,12f,32b:支持基板の固定電極部
18:ミラー駆動電源
20:梁
21:円板
21a:周縁
22:支持部
31d:犠牲層
31e:Si基板
32c,32d,32e:ミラー基板の凹陥部
40:第1の基板
41:シリコン基板
42:犠牲層
43:上層Si層
44,46,52:マスクパターン
45,47,53,54:エッチング
50:第2の基板(ガラス基板)
51,55:Cr膜
56:Au膜
57:ヒータ
58:電源
【技術分野】
【0001】
本発明は、焦点が可変で近似放物面ミラーを備えたミラー装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光MEMS(Micro Electro Mechanical System)と光マイクロシステムは、盛んに研究されており、大きく成長し続けている。特に、データ通信や高分解能画像ディスプレイ等の種々のアプリケーションにおいて著しい発展がみられる。これは、カメラ等の光学機器の機能向上及び小型化が注目されていることによるものである。
【0003】
例えばカメラにおいては、レンズによる屈折光を利用した光学系では色収差の問題が発生するが、ミラーによる反射光を利用した光学系では色収差は発生しない。しかしながら、上述したどちらの光学系においても、焦点距離を調節するためにはレンズまたはミラーを移動させる必要があり、光学系を移動することに起因して、光学性能を保持したままで小型化することは困難である。
【0004】
さらに、ミラーによる反射光を利用した光学系では、色収差は発生しないものの、ミラーの形状が非一様な球面或いは非一様な放物面である場合には、収差が発生し、集光性が低下することが知られている。また、ミラーの形状が一様な放物面である場合には、入射する平行光を収差なく一点に集光させることが可能であり、また点光源から出射する光を平行光とすることができる。
【0005】
他方、一様な近似放物面形状で且つ焦点可変のマイクロミラーを使用すれば、集光性に優れた小型の光学系を構成することが可能である。例えば、非特許文献1,2では、焦点可変のマイクロミラー装置が報告されている。
図15(A)は、従来のマイクロミラー装置70の構成例における非動作時の、(B)は動作時の、概略断面図である。
図15(A)において、マイクロミラー装置70は、マイクロミラー71と、マイクロミラー71の周縁を支持する固定部72と、マイクロミラー71の下部に配設される固定電極73と、から構成されている。マイクロミラー71の周縁は固定部72に対して支持されていると共に、その下方に間隔をあけて固定電極73が配置されている。マイクロミラー71は、薄膜の円板からなるシリコン窒化膜(Si3N4)等を用いて形成することができる。マイクロミラー71の周縁の固定部72に対する支持は、サスペンションなどによる部分的な支持や周縁を不動に固定保持(非特許文献3,4参照)することで行われる。
このように構成されたマイクロミラー装置70において、マイクロミラー71と固定電極73との間に電圧を印加すると、マイクロミラー71が静電引力によって変形する。具体的には、図15(B)に示すように、マイクロミラー71を静電引力によって下方に向かって放物面状に変形させて、焦点可変の放物面形状を有する反射面を形成することができる。
【0006】
マイクロミラー71の周縁が固定部72に対してサスペンションなどによって部分的に支持されている場合の放物面物面形状の一例を図16に示す。
図16は、図15のマイクロミラー71の変形状態を示すグラフである。図16から明らかなように、マイクロミラー71においては、実際の変形形状は、符号Aで示すように、一様な近似放物面形状Bに対して各所で5%から100%以上のずれを生じてしまう。
【0007】
非特許文献3,4には、マイクロミラー71の周縁が固定部72に対して固定保持されている以外は、図15のマイクロミラー装置70と同様の焦点可変のマイクロミラー装置が報告されている。このマイクロミラー装置の動作もおおよそ図15に示したマイクロミラー装置70と同様である。
図17は、従来のマイクロミラー71の周縁が固定部72に対して固定保持されている場合の変形状態を示すグラフである。実際のマイクロミラー71の変形形状Aは、一様な近似放物面形状Bから大きくずれてしまう。
【0008】
【非特許文献1】Y. Shao, D.L. Dickensheets and P. Himmer, "3-D MOEMS m-irror for laser beam pointing and focus control", IEEE J. Sel. Topi. Qua-ntum Electron., vol.10, No.3, pp. 528-534, 2004年8月16日
【非特許文献2】Y. Shao,"MEMS 3D-scan mirror for an endoscopic confocal microscope", Ph.D. Thesis, p.82, Montana State University, November14, 2005
【非特許文献3】U. M. Mescheder, C. Estan, G. Somogyi and M. Freudenre-ich, "Distortion optimized focusing mirror device with large aperture", Sensor Actuators, Vol.A130-131, pp.20-27, 2005年11月14日
【非特許文献4】Greger W, Arnold D, Juurischka R, Schoth A, Muller C, Wilde J and Reinecke H, "A new approach for focusing deformable mirror f-abricated in polymer technology", IEEE/LEOS Int. Conf. Optical MEMS, pp.45-46, 2005年8月1日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1及び2のマイクロミラー装置70では、張力の加わったシリコン窒化膜からなるマイクロミラー71の固定部72の内部に二重の電極を設けて、放物面に近い形状を発生させている。さらに、マイクロミラー71の固定部72の周辺を穴あけ加工して、固定部72周辺の変形を改善している。
しかしながら、従来のマイクロミラー装置70では、何れの場合も精度のよい一様な放物面形状のミラーが得られていないという課題がある。
【0010】
本発明は上記課題に鑑み、簡単な構成により、焦点可変で且つ高精度の一様近似放物面等の形状を得ることができるようにしたミラー装置及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明のミラー装置は、薄板状のミラー部と、ミラー部を懸架するサスペンションを有し、ミラー部の周縁の少なくとも一部を包囲し、かつサスペンションによりミラー部をその表面に垂直な方向へ移動可能に支持するベース部と、から成るミラー基板と、ミラー基板のベース部の表面に配設される支持基板と、を備え、支持基板が、ミラー基板の周縁の内側に対向してミラー部の表面に当接する支持部と、支持部より外側でミラー部に対向して形成された固定電極部と、を有しており、固定電極部とミラー部との間に電圧を印加することにより、ミラー部の支持部より外側の領域を静電引力により、対応する固定電極側に向かって変位させて、ミラー部の支持部より内側の領域を断面放物線状に変形させることを特徴とする。
【0012】
上記構成において、好ましくは、ミラー部は円形に形成され、サスペンションがミラー部の中心に関して等角度間隔に配置され、支持部がミラー部と同心の環状に形成される。ミラー部は長方形に形成されてもよく、この場合、サスペンションがミラー部の互いに対向する端縁に関して配置され、支持部がミラー部の互いに対向する端縁の内側に沿って配置される。
好ましくは、ミラー基板は半導体層から構成され、ミラー基板のベース部が絶縁層を介して半導体基板上に形成される。好ましくは、支持基板はガラス基板または半導体基板から構成される。
固定電極部は、支持基板の表面に形成された凹陥部内に配置されてもよい。
ミラー部の支持部より内側の領域の静電引力による変形量は、好ましくは、電圧に対応して変化し、一様な近似放物面状に変形したミラー部の焦点距離が変更可能である。
【0013】
本発明のミラー装置によれば、支持基板の固定電極部とミラー部との間に電圧を印加することにより、ミラー部の支持部より外側の領域が静電引力によって固定電極部に向かって変位する。よって、ミラー部の支持部より内側の領域には、支持部を中心とする上向きの一定の曲げモーメントが作用する。従って、ミラー部の支持部より内側の領域は、中心を頂点とする上方に向かって凹状の精度の高い一様な近似放物面形状に変形する。その際、印加電圧を適宜に調整することによって、静電引力の大きさが調整される。これにより、上述した曲げモーメントの大きさが調整され、ミラー部の支持部より内側の領域の一様な近似放物面形状による焦点距離が調整される。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明のミラー装置の製造方法は、犠牲層を介して上層を備えた第1の基板に対して上層側から犠牲層に達するエッチングによりミラー部及びサスペンションを画成する溝部を形成すると共に、第1の基板側から犠牲層に達するエッチングにより第1の基板のミラー部に対応する領域を除去してミラー基板を作製する第一の段階と、第2の基板の表面に対して支持部を形成する第二の段階と、第2の基板の表面の支持部の外側に固定電極部を形成して支持基板を作製する第三の段階と、第三の段階で作製された支持基板上に第一の段階で作製されたミラー基板を反転し、ミラー基板の上層のベース部を支持基板の表面に対して陽極接合する第四の段階と、を含んでいることを特徴とする。
【0015】
上記構成において、好ましくは、第二の段階において、支持基板の支持部となるべき表面領域の周囲に凹陥部を形成することにより、各支持部を画成する。
第三の段階において、各支持部の上面に、ミラー部の表面への接合を阻止する金属層を形成してもよい。金属層が、固定電極部と同じ材料により固定電極部と同時に形成されてもよい。ミラー基板を半導体基板を用いて構成してもよく、支持基板をガラス基板または半導体基板を用いて構成してもよい。
【0016】
本発明のミラー装置の製造方法によれば、ミラー基板と支持基板を作製し、これらの基板を陽極接合するという簡単な工程で、精度の高い一様な近似放物面形状を有しているミラー装置を作製することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のミラー装置によれば、簡単な構成により、焦点可変で且つ高精度の一様な近似放物面形状を得ることができる。
【0018】
本発明のミラー装置の製造方法によれば、ミラー基板と支持基板を作製し、これらの基板を陽極接合するという簡単な工程で、精度の高い一様な近似放物面形状を有しているミラー装置を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面に示した実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
(ミラー装置)
図1は本発明の第1の実施形態に係るミラー装置の構成を模式的に示す図で、(A)は斜視透視図、(B)は平面図であり、図2(A)は図1のミラー装置10の非動作時の、(B)が動作時の概略断面図である。
図1に示すように、ミラー装置10は、ミラー基板11と、ミラー基板11を支持する支持部12aと固定電極部12bとを備えた支持基板12と、を含んで構成されている。
【0020】
ミラー基板11はSi基板等から構成されており、薄板状のミラー部11aと、ミラー部11aの周縁を包囲し且つ複数個のサスペンション11bによりミラー部11aを支持するベース部11cと、を含んでいる。
【0021】
ミラー部11aは、図示の場合、円形に形成されている。ミラー部11aの周縁とベース部11cとは、殆どの部分が空隙部11gによって分離され、ミラー部11aの周縁で空隙部11gによって分離されていない箇所が複数個のバネとなるサスペンション11bによってベース部11cと接続されている。つまり、ミラー部11aは、サスペンション11bを介してベース部11cに懸架され、上下方向に移動可能に支持されている。
ここで、サスペンション11bは、線状、ジグザグ線状等のバネ形状を有している。各サスペンション11bは、ミラー部11aの中心に関して等角度間隔に配置されることにより、ミラー部11aの各半径方向に関して一様な変形を妨げないようになっている。
【0022】
支持基板12はガラス基板等から構成されており、図2(A)に示すように、上述したミラー基板11の下方に、所定の間隔gをあけて平行に配置されている。ミラー部11aが円形の場合には、支持基板12は、その上面から上方に突出する環状の支持部12a及びこの支持部12aの外側に環状に配置された固定電極部12bを備えている。
【0023】
支持部12aは、ミラー基板11のミラー部11aの中心と同心の環状に形成されており、ミラー部11aの周縁より内側でミラー部11aを下方から支持する。
【0024】
固定電極部12bは、支持部12aの外側で支持基板12の表面に形成されており、ミラー部11aの周縁の支持部12aより外側の外側領域11dに対向するように配置されている。ミラー基板11と固定電極部12bとの間に、電圧を印加するミラー駆動電源18が接続される。
これにより、ミラー駆動電源18からミラー部11aと固定電極部12bとの間に電圧が印加されると、固定電極部12bとミラー部11aの外側領域11dとの間に静電引力Pが作用する。この際、静電引力Pは、支持部12aによる支持点より距離Lだけ外側の位置で、ミラー部11aの外側領域11dに作用し、下方へ移動させる。従って、ミラー部11aは、支持部12aによる支持点より内側の内側領域11eが、支持点を中心とする一定の曲げモーメントM0を受けて、図2(B)に示すように、中心が上方に向かって移動するように変形する。
【0025】
(円形ミラー部の変形)
ここで、ミラー部11aの変形について考察する。
図3は、両端が固定された梁の荷重印加時の変位量を計算するための模式図である。
図3に示すように、先ず、両端が固定された梁20の両端に曲げモーメントMが作用したとき、梁20の長手方向の位置をx,高さをy,ヤング率をE,断面二次モーメントをIとすると、下記(1)式で表わされるたわみ曲線の微分方程式が成立する。
【数1】
従って、曲げモーメントMがxの関数の場合には、たわみ曲線はxの三次以上の曲線となってしまう。
これに対して、曲げモーメントMが一定(M0)であれば、上記式(1)をyについて解くと、yは下記(2)式で表わされ、梁20のたわみが近似放物線となることが分かる。
【数2】
即ち、梁20の両端の外側に一定の荷重を加えたとき、梁20の両端には一定の曲げモーメントM0が作用して、一様な近似放物線状に変形することになる。
【0026】
次に、図1に示すミラー装置10のミラー部11aの変位量を計算する方法について説明する。
図4は、環状の支持部に支持された円板21の荷重印加時の変形を計算するために用いるモデル図であって、(A)はミラー装置モデルの斜視図で、(B)は平面図、(C)は断面図である。
図4(A)に示すように、梁20の代わりに、円板21がその周縁21aの内側で環状の支持部22により支持され、周縁21aに下向きの荷重Pが印加される場合には、円板21の中心軸を通る任意の断面において、前述した梁20の場合と同様の曲げモーメントMが発生するので、円板21の支持部22より内側の領域が同様に一様な近似放物面形状に変形することになる。即ち、円板21において、円板中心を原点とし、光軸をz(下向きに正)、支点から作用点までの長さをL、作用点の変位をr(r2=x2+y2)とし、荷重分布をP(r)、曲げこわさをDとすると、この曲げこわさDは、板厚h、ポアソン比νとしたとき、下記(3)式で与えられる。
【数3】
【0027】
円板21のたわみ曲線の微分方程式は、下記(4)式で与えられる。
【数4】
この式の一般解は、Zsを特解、C1,C2,C3,C4を任意定数としたとき、下記(5)式で与えられる。
【数5】
なお、特解Zsは、P(r)=Crnのとき、下記(6)式で与えられる。
【数6】
そして、周方向の曲げモーメント,半径方向の曲げモーメント,たわみ角及び剪断力を計算し、初期条件及び境界条件を考慮すると、円板のたわみ曲線は下記(7)式で表わされる。
【数7】
【0028】
上記円板のたわみ曲線が図1に示したミラー部11aの内側領域11eのたわみに相当する。よって上記(7)式から、図2(B)に示すようにミラー部11aの内側領域11eの中心が上方に向かって移動して高精度で一様な近似放物面形状に変形することが導かれる。つまり、ミラー部11aの内側領域11eは静電引力Pによって支持部12aによる支持点の周りに一定の曲げモーメントM0を受けて近似放物面形状に変形する
【0029】
ここで、静電引力Pは、印加電圧をV,真空の誘電率をε0,ミラー部11aの面積をS,ミラー部11aの移動量をu(r)とすると、下記(8)式で表わされる。
【数8】
曲げモーメントM0は、静電引力Pの作用点から支持部12aによる支持点までの距離をL1とすると、M0=P×L1で表わされる。
【0030】
(円形ミラーの設計例)
表1は、円形のミラー部11aのたわみ量に影響があるパラメータとバネ定数の関係を纏めた表である。円形のミラー部11aを備えたミラー装置10におけるミラー部11aの直径、支持部12aの円の直径、ミラー部11aのバネ定数及びサスペンション11bのバネ定数の設計例を示している。サスペンション11bの個数は4個とした。Siのヤング率が162GPa、ポアソン比が0.22、真空の誘電率が8.85×10−12F/m、ミラーの厚さが10μmとして算出した。サスペンション11bのバネ定数はミラー部11aのバネ定数の百分の一程度に設計した。
【表1】
【0031】
(ミラー装置の変形例)
次に、本発明の第2の実施形態に係るミラー装置について説明する。
図5は本発明の第2の実施形態に係るミラー装置15の構成を模式的に示す図であり、(A)は斜視透視図、(B)は平面図である。
図5(A)に示すように、ミラー装置15は、ミラー基板11のミラー部11aを長方形とした点でミラー装置10と異なっている。
【0032】
支持基板12は、ミラー部11aを支持する支持部12c,12dを備えている。二つの支持部12c,12dは直方体形状を有しており、それぞれ、それらの長手方向がミラー部11aの両短辺側に平行に配置されている。支持部12c,12dの長手方向の寸法は、ミラー部11aの短辺寸法(b)程度でよい。ミラー部11aの中央から支持部12c,12dまでの長辺側の長さはa、短辺の長さはbである。
【0033】
二つの固定電極部12e,12fは、長方形の電極であり、それぞれ、それらの長手方向が二つの支持部12c,12dの外側に配置されている。つまり、二つの固定電極部12e,12fは、ミラー部11aの短辺側の下部に配置されている。二つの固定電極部12e,12fは、互いに接続されてミラー駆動電源18に接続されている。
【0034】
図5(B)に示すように、ミラー部11aの長方形の各頂点にサスペンション11bが配置され、ミラー部11aがベース部11cに懸架される。ミラー駆動電源18等の他の構成は、ミラー装置10と同じであるので説明は省略する。
【0035】
(長方形ミラー部の変形)
長方形の形状を有するミラー部11aの鏡の作用について説明する。
長方形ミラー部11aを梁に見立て、たわみ曲線の計算を行う。梁の場合の曲げモーメントM0は、下記(9)式で与えられる。
【数9】
ここで、Pは静電引力であり、Lは静電引力の作用点から支持部12dによる支持点までの距離である(図2(A)参照)。
【0036】
(1)式より、境界条件x=aのときy=0、対称性からx=0,dy/dx=0であるから下記(10)式を得る。
【数10】
【0037】
断面二次モーメントIは、I=bh3/12で与えられることから、(10)式は下向きを正に置き直すと、下記(11)で表わされる。
【数11】
ここで、bはミラー部11aの短辺の長さ、hはミラー部11aの厚さである。これにより、(11)式の変数P,L,a,b,hを設定することで、長方形の形状を有しているミラー部11aのたわみ形状を変化させることができる。
【0038】
(長方形ミラーの設計例)
表2は、長方形のミラー部11aのたわみ量に影響があるパラメータとバネ定数の関係を纏めた表である。長方形のミラーのたわみ量に影響があるミラー部11aの長さ、支持部12aによる支持間隔、ミラー部11aのバネ定数及びサスペンション11bのバネ定数の計算例を示している。2辺を支持した長方形ミラーの幅(短辺b)はたわみに無関係であるから500μmとし、サスペンション11bの個数は4個とした。Siのヤング率、ポアソン比、真空の誘電率、ミラー部11aの厚さは、円形のミラー部11aと同じ値を用いた。サスペンション11bのバネ定数はミラーのバネ定数の百分の一程度に設計した。
【表2】
【0039】
本発明のミラー装置10,15によれば、ミラー部11aの駆動手段、即ちミラー部11a,支持部12a及び固定電極部12bを、後述するように所謂MEMS技術によって作製することができる。これにより、ミラー装置10,15全体が小型に構成され、且つミラー部11aが高精度に一様な近似放物面状に形成されると共に、焦点距離が変更可能である。
【0040】
(ミラー装置の構成例)
次に、ミラー装置の具体的な構成例について説明する。
図6はミラー装置30の構成を示す平面図であり、図7は図6のX−X方向の断面図である。
図6及び図7に示すように、ミラー装置30は、図1及び図5に示したミラー装置10,15と同様に、ミラー基板31と支持基板32とから構成されている。ミラー基板31はSi基板等から構成されており、薄板状のミラー部31aと、ミラー部31aの周縁を包囲し且つサスペンション31bにより支持するベース部31cと、を含んでいる。ミラー基板31に用いるSi基板は、所謂SOI(Silicon On Insulator)ウェハを用いることができる。ミラー部31aは、例えば図6に示すように円形に形成されている。ミラー部31aの周縁とベース部31cとは、殆どの部分が空隙部31gによって分離され、ミラー部31aの周縁で空隙部31gによって分離されていない箇所が複数個のバネとなるサスペンション11bによってベース部31cと接続されている。図示の場合は、四個のサスペンション31bによりベース部31cに懸架され、上下方向に移動可能に支持されている。サスペンション31bは、図示するようにジグザグ線状や線状等のバネ形状を有している。
【0041】
各サスペンション31bは、ミラー部31aの中心に関して等角度間隔に配置されることで、ミラー部31aの各半径方向に関して一様な変形を妨げないようになっている。
【0042】
ミラー基板31のベース部31cの上面には、犠牲層31dを介してSi基板31eが形成されている。これにより、ベース部31cがSi基板31eにより補強される。ここで、ミラー部31aそしてサスペンション31b及びベース部31cは、その厚さが、例えば10μm程度に選定されている。
【0043】
支持基板32はガラス基板等から構成されており、図7に示すように、ガラス基板の表面に、上方に突出する環状の支持部32aと、この支持部32aの外側に環状に配置された固定電極部32bと、を備えている。ここで、支持部32aは、ガラス基板の表面に形成された凹陥部32c,32dによってそれぞれ内縁及び外縁が画成されており、その上面はガラス基板の表面と同じ高さである。
【0044】
これにより、ミラー基板31のミラー部31aは、支持部32aの上端に支持されると共に、凹陥部32c,32dによって、ミラー基板31のミラー部31aが、ガラス基板の凹陥部32c,32dの底面に対して所定の間隔gをあけて平行に配置されることになる。
【0045】
ここで、間隔gは、例えば2〜15μm程度に選定されており、支持部32aの半径aは、50〜1000μm程度に選定されている。
【0046】
上記凹陥部32c,32dと同時に、支持基板32の表面には、凹陥部32dの外側にさらに別の凹陥部32eも形成される。この凹陥部32eは、電極配線溝として利用されるものである。
【0047】
支持基板32の固定電極部32bは、その外側の凹陥部32dの底面に環状に配置されている。これにより、固定電極部32bは、支持部32aの外側でミラー部31aの周縁の支持部32aより外側の領域31fに対向するように配置されている。
なお、ミラー装置30のミラー部31aの形状は円形に限らず長方形でもよい。ミラー部31aの形状を長方形とした場合には、固定電極部32bの形状は、図5に示す固定電極部12e,12fの形状と同様な形状とすればよい。
【0048】
従って、本発明によるミラー装置10,15,30は、従来のMEMS技術を利用しないミラー装置と比較して、高精度で一様な近似放物面形状を形成することができると共に、小型,軽量に構成される。ミラー基板11,31又は支持基板12,32上において例えば処理回路と集積化することにより、高性能化,高速化,低消費電力化,低コスト化を実現することができる。
【0049】
(ミラー装置の製造方法)
ミラー装置30の製造方法について説明する。ミラー装置30は、図6及び図7に示した構成として説明する。
最初に、ミラー基板31の製造について説明する。
図8は、図7に示したミラー基板31の製造方法を順次に示す模式的な断面図である。
ミラー基板31として、SOI構造を有する第1の基板40を用いる。第1の基板40においては、シリコン基板41上にSiO2から成る犠牲層42と上層Si層43が順に積層されている。具体的には、例えば、厚さが200μmのシリコン基板41の表面に、厚さ2μmのSiO2から成る犠牲層42を介して、厚さ10μmの上層Si層43が形成されている。
そして、図8(A)に示すように、この第1の基板40の下面に、例えばポジレジストのマスクパターン44を形成して、誘導結合プラズマによるイオンエッチング(ICP−RIE法と呼ぶ)等により、犠牲層42に達するエッチング45を行う。
これにより、ミラー部31aに対応するシリコン基板41の領域を、一部を残して除去する。
【0050】
続いて、図8(B)に示すように、第1の基板40の上面、即ち上層Si層43の表面に、高解像ポジレジストのマスクパターン46を形成して、同様にICP−RIE法等により、犠牲層42に達するエッチング47を行う。このエッチング47により、上層Si層43に、ミラー部31a,サスペンション31b及びベース部31cを形成する。
【0051】
その後、図8(C)に示すように、この第1の基板40の下面に関して、例えば気相フッ酸等により、シリコン基板41のエッチング45を行ない、残った領域を除去すると共にミラー部31aに対応する犠牲層42の領域を除去する。
これにより、ミラー部31aはシリコン基板41から解放され、浮いた状態でサスペンション31bにより支持された状態となる。
以上で、ミラー基板31が作製される。
【0052】
(支持基板の製造方法)
次に、支持基板32の製造について説明する。
図9は、図7に示した支持基板32の製造方法を順次に示す模式的な断面図である。
第2の基板、例えばガラス基板50を用意して、図9(A)に示すように、このガラス基板50の表面に、Cr膜51をスパッタリング等により形成する。このCr膜51は、例えば厚さ250〜300nm程度に選定されている。
そして、図9(B)に示すように、このCr膜51の表面に、例えばポジレジストのマスクパターン52を形成して、Crエッチング53を行う。この場合、Cr膜51をエッチングするエッチャントとして、例えばHCl04(70%)4.5gと、H2O89cm3と、硝酸二アンモニウムセリウム(II)20gとからなる混合溶液を使用することができる。
【0053】
その後、図9(C)に示すように、50%のHF溶液を使用して、ガラス基板50の表面に対して、例えば深さ3μm程度の等方性エッチング54を行う。
これにより、ガラス基板50の表面に、凹陥部32c,32d,32eが形成されると共に、凹陥部32c,32dの間に、支持部32aが画成されることになる。
【0054】
続いて、Cr膜51及びマスクパターン52を除去した後、図9(D)に示すように、ガラス基板50の表面全体に亘って、例えば厚さ40μm程度のCr膜55及び厚さ60μm程度のAu膜56を形成する。
ここで、Au膜56のガラス基板50への密着性が良くないため、Au膜56及びガラス基板50の双方に対する密着性の良好なCr膜55等を介在させて、間接的にAu膜56のガラス基板50への密着性を高めるようにしている。
【0055】
最後に、図9(E)に示すように、Cr膜55及びAu膜56をパターンエッチングして、凹陥部32d内に固定電極部32bを、また凹陥部32e内に電極配線32fを形成する。
なお、支持部32a上のCr膜55及びAu膜56もエッチングされずに残される。この場合、Au膜56をエッチングするエッチャントとして、I2を1.2gとNH4Iを8gとH2Oを40cm3とCH3OHを60cm3とからなる混合溶液を使用することができる。固定電極部32bを形成するためには、所謂リフトオフプロセス法等を利用してもよい。
以上で、支持基板32が作製される。
【0056】
(ミラー基板と支持基板の接合方法)
図10はミラー基板31及び支持基板32の陽極接合を示す模式的な断面図である。
図10に示すように、図8に示す方法によって作製されたミラー基板31が反転された状態で、図9に示す方法によって作製された支持基板32上に載置され、ヒータ57により加熱されると共に、電源58により電圧が印加されて陽極接合が行われる。陽極接合の条件は、例えば400℃,100Vである。これは、電圧を例えば200〜300V程度と高くすると、ミラー部31aがガラス基板50に引き込まれて接合してしまうので、このような接合を排除するためである。ミラー装置30では、接合面全体を気密性良く密着させる必要はないので、低電圧の陽極接合でも、接合が可能である。
【0057】
このとき、支持部32aの上面には、Cr膜55及びAu膜56が在るので、支持部32aの上面がミラー部31aの表面に接合してしまうことがない。これにより、ミラー部31aが曲げモーメントにより放物面状に変形する際に、支持部32aの影響を受けることなく、円滑に変形することが可能である。
【0058】
例えば、上述した実施形態においては、ミラー基板31がSi基板41、犠牲層42、及び上層Si層43とから構成されているが、これに限らず、他の半導体基板及び上層半導体層から構成されていてもよい。支持基板32がガラス基板から構成されているが、これに限らず、他の基板から構成されていてもよいことは明らかである。
【0059】
以上述べたように、本発明によれば、簡単な構成により、焦点可変で且つ高精度の一様な近似放物面形状を得ることができるようにした、極めて優れたミラー装置10,15,30及びその製造方法が提供される。
【実施例1】
【0060】
実施例1として、厚さが10μmの円形のミラー部31aを備えたミラー装置30を、図8〜10を用いて説明した製造方法によって種々の寸法で製作した。ミラー基板31の材料はSOI基板を用い、支持基板32の材料はパイレックス(登録商標)ガラスを用いた。
ここで、ミラー部31aの直径を500μmとして、対応する支持部32bの円の直径を100μm及び200μmとした。ミラー部31aの直径を1000μmとした場合、対応する支持部の円直径を300μm及び400μmとした。ミラー部31aの直径を1500μmとした場合、対応する支持部32bの円の直径を600μmとした。支持間隔gは何れの場合も10μmとした。
【0061】
図11は、実施例1のミラー装置30の走査電子顕微鏡像を示す図であり、(A)がミラー基板31の表面要部を、(B)が支持基板32の表面要部をそれぞれ示している。図11から明らかなように、微細加工によってミラー基板31及び支持基板32が精度良く製作されていることが分かる。
【0062】
上記実施例1で製作したミラー装置30の動作特性を説明する。
ミラー装置30のミラー部31aと固定電極部32bとの間に正弦波(1Hz)を種々の電圧を印加して形状測定を行った。形状測定には白色光干渉計(ザイゴ社)を用いた。
図12は、実施例1のミラー部31aの断面形状における印加電圧依存性を示す図である。測定した円形ミラー部31aの直径は1000μmであり、支持部32bの円の直径が400μmである。図の横軸はミラー部31aの直径方向の寸法(mm)であり、図の縦軸はミラー部31aの変形量(μm)である。
図12から明らかなように、100V以下の印加電圧ではミラー部31aの支持への接触が弱く、形状が傾いていた。100V以上の印加電圧ではミラー部31aの支持への接触が強いので形状が安定であり、印加電圧の増大と共にミラー部31aの中央部が上方へ膨らむことが分かる。
【0063】
表3は実際のミラー部31aの印加電圧0V,100V,150V,200V,215Vにおける高低差を示す表である。表3から明らかなように、印加電圧0V,100V,150V,200V,215Vにおける高低差は、それぞれ、150nm,840nm,1700nm,2600nm(2.6μm)であることが分かった。これらの高低差は、設計値と良く一致していることが判明した。
【表3】
【0064】
表4は、印加電圧とミラー部31aの各所における放物面に対する変形量の平均二重偏差と焦点距離を示す表である。表4に示すように、原理的に一様な近似放物面になるミラー部31aの支持内部領域では、平均二乗偏差が安定して数nm程度の誤差であった。さらに、印加電圧が100V,150V,200V,215Vの場合、焦点距離が140mm,77mm,36mm,24mmと変動していることが分かる。支持外部領域では印加電圧を大きくすることに伴う変化量の増大によって、放物面との誤差も大きくなっていっている。これから、焦点距離は24mmから無限大(∞)の範囲で可変にすることができた。
【表4】
【実施例2】
【0065】
ミラー部31aを長方形とした以外は、実施例1と同様にして実施例2のミラー装置30を製作した。ミラー部31aにおける長方形の長辺の長さを1000μm,1500μmとし、短辺の長さを400μmとした。
【0066】
図13は、実施例2のミラー装置30の走査電子顕微鏡像を示す図であり、(A)がミラー基板31の表面要部を、(B)が支持基板32の表面要部をそれぞれ示している。
図13から明らかなように、微細加工によってミラー基板31及び互いに平行な直線状の支持部32aを有する支持基板31が精度良く製作されていることが分かる。
【0067】
上記実施例2で製作したミラー装置30の動作特性を説明する。
図14は、実施例2のミラー部31aの断面形状における印加電圧依存性を示す図である。測定した長方形のミラー部の長辺の長さは1000μmである。図の横軸はミラー部31aの長辺方向の寸法(mm)であり、図の縦軸は、ミラー部31aの変形量(μm)である。
図14から明らかなように、印加電圧によってミラー部31aへの支持部32aの接触が強く、形状が安定であり、印加電圧を50Vから200Vまで50V毎に増加させると、印加電圧の増大と共に、ミラー部31aの中央部が上方へ膨らむことが分かる。
【0068】
表5は、印加電圧が0V,100V,200Vにおけるミラー部31aの高低差を示す表である。表5に示すように、印加電圧0V,100V,200Vにおける高低差は、それぞれ、75nm,400nm,1900nm(1.9μm)であることが分かった。これらの高低差は、設計値と良く一致していることが判明した。
【表5】
【0069】
表6は、実施例2において、印加電圧とミラー部31aの各所における放物面に対する変形量の平均二重偏差と焦点距離を示す表である。
表6から明らかなように、印加電圧が0V〜200Vでは、原理的に一様な近似放物面になるミラー部31aの支持内部領域では、平均二乗偏差が安定して約1.1nm以下程度の非常に小さい誤差であった。ミラー部の全領域では、印加電圧が0V,50V,100V,150V,200Vの場合、平均二乗偏差が、それぞれ、2.58nm,4.53nm,10.7nm,23.3nm,51.1nmと小さかった。
さらに、実施例2のミラー装置30では、印加電圧を0V,50V,100V,150V,200Vと変化させたときに得られる焦点距離が、それぞれ、710mm,370mm,150mm,70mm,32mmと変動していることが分かった。
【表6】
【0070】
本発明は、上記実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。上述した実施形態における、ミラー部31a及び支持部32aの形状や各寸法は、所望の放物線特性に応じて適宜に設計することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施形態に係るミラー装置の構成を示す概略斜視図である。
【図2】図1のミラー装置において、(A)は非動作時の、(B)は動作時の概略断面図である。
【図3】両端が固定された梁の荷重印加時の変位量を計算するための模式図である。
【図4】環状の支持部に支持された円板の荷重印加時の変形を説明する、(A)は概略斜視図,(B)は平面図、(C)は断面図である。
【図5】第2の実施形態に係るミラー装置の構成を模式的に示す図で、(A)は斜視図、(B)は平面図である。
【図6】ミラー装置の構成を示す平面図である。
【図7】図6のX−X方向の断面図である。
【図8】図7に示したミラー基板の製造方法を順次に示す模式的な断面図である。
【図9】図7に示した支持基板の製造方法を順次に示す模式的な断面図である。
【図10】ミラー基板及び支持基板の陽極接合を示す模式的な断面図である。
【図11】実施例1のミラー装置の走査電子顕微鏡像であり、(A)はミラー基板の表面要部を、(B)は支持基板の表面要部をそれぞれ示している。
【図12】実施例1のミラー部の断面形状における印加電圧依存性を示す図である。
【図13】実施例1のミラー装置の走査電子顕微鏡像であり、(A)はミラー基板の表面要部を、(B)は支持基板の表面要部をそれぞれ示している。
【図14】実施例2のミラー部の断面形状における印加電圧依存性を示す図である。
【図15】従来のマイクロミラーの構成例において、(A)は非動作時の、(B)は動作時の概略断面図である。
【図16】従来のマイクロミラー装置において、ミラーの周縁がサスペンションによって支持されている場合の変形状態を示すグラフである。
【図17】従来のマイクロミラー装置において、ミラーの周縁が固定保持されている場合の変形状態を示すグラフである。
【符号の説明】
【0072】
10,15,30:ミラー装置
11,31:ミラー基板
11a,31a:ミラー基板のミラー部
11b,31b:ミラー基板のサスペンション
11c,31c:ミラー基板のベース部
11d,31f:ミラー基板の外側領域
11e:ミラー基板の内側領域
11g,31g:ミラー基板の空隙部
12,32:支持基板
12a,12c,12d,32a:支持基板の支持部
12b,12e,12f,32b:支持基板の固定電極部
18:ミラー駆動電源
20:梁
21:円板
21a:周縁
22:支持部
31d:犠牲層
31e:Si基板
32c,32d,32e:ミラー基板の凹陥部
40:第1の基板
41:シリコン基板
42:犠牲層
43:上層Si層
44,46,52:マスクパターン
45,47,53,54:エッチング
50:第2の基板(ガラス基板)
51,55:Cr膜
56:Au膜
57:ヒータ
58:電源
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板状のミラー部と、該ミラー部を懸架するサスペンションを有し該ミラー部の周縁の少なくとも一部を包囲しかつ上記サスペンションにより上記ミラー部をその表面に垂直な方向へ移動可能に支持するベース部と、から成るミラー基板と、
上記ミラー基板のベース部の表面に配設される支持基板と、
を備え、
上記支持基板が、上記ミラー基板の周縁の内側に対向してミラー部の表面に当接する支持部と、上記支持部より外側で上記ミラー部に対向して形成された固定電極部と、を有しており、
上記固定電極部と上記ミラー部との間に電圧を印加することにより、上記ミラー部の支持部より外側の領域を静電引力によって、対応する固定電極側に向かって変位させて、上記ミラー部の支持部より内側の領域を断面放物線状に変形させることを特徴とする、ミラー装置。
【請求項2】
前記ミラー部が円形に形成されており、前記サスペンションが前記ミラー部の中心に関して等角度間隔に配置されていて、
前記支持部が前記ミラー部と同心の環状に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のミラー装置。
【請求項3】
前記ミラー部が長方形に形成されており、前記サスペンションが前記ミラー部の互いに対向する端縁に関して配置されていて、
前記支持部が前記ミラー部の互いに対向する端縁の内側に沿って配置されていることを特徴とする、請求項1に記載のミラー装置。
【請求項4】
前記ミラー基板が、半導体層から構成されており、
前記ミラー基板のベース部が、絶縁層を介して半導体基板上に形成されていることを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載のミラー装置。
【請求項5】
前記支持基板が、ガラス基板または半導体基板から構成されていることを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載のミラー装置。
【請求項6】
前記固定電極部が、前記支持基板の表面に形成された凹陥部内に配置されていることを特徴とする、請求項1〜5の何れかに記載のミラー装置。
【請求項7】
前記ミラー部の支持部より内側の領域の静電引力による変形量が、前記電圧に対応して変化し、一様な近似放物面状に変形した前記ミラー部の焦点距離が変更可能であることを特徴とする、請求項6に記載のミラー装置。
【請求項8】
犠牲層を介して上層を備えた第1の基板に対して、上層側から上記犠牲層に達するエッチングによりミラー部及びサスペンションを画成する溝部を形成すると共に、上記第1の基板側から上記犠牲層に達するエッチングにより、上記第1の基板の上記ミラー部に対応する領域を除去して、ミラー基板を作製する第一の段階と、
第2の基板の表面に対して支持部を形成する第二の段階と、
上記第2の基板の表面の上記支持部の外側に固定電極部を形成して支持基板を作製する第三の段階と、
上記第三の段階で作製された支持基板上に上記第一の段階で作製されたミラー基板を反転して上記ミラー基板の上層のベース部を上記支持基板の表面に対して陽極接合する第四の段階と、
を含んでいることを特徴とする、ミラー装置の製造方法。
【請求項9】
前記第二の段階にて、前記支持基板の前記支持部となるべき表面領域の周囲に凹陥部を形成することにより各支持部を画成することを特徴とする、請求項8に記載のミラー装置の製造方法。
【請求項10】
前記第三の段階にて、各支持部の上面に前記ミラー部の表面への接合を阻止する金属層を形成することを特徴とする、請求項8又は9に記載のミラー装置の製造方法。
【請求項11】
前記金属層が、前記固定電極部と同じ材料により前記固定電極部と同時に形成されることを特徴とする、請求項10に記載のミラー装置の製造方法。
【請求項12】
前記ミラー基板が半導体基板を用いて構成されており、前記支持基板がガラス基板または半導体基板を用いて構成されていることを特徴とする、請求項8〜11の何れかに記載のミラー装置の製造方法。
【請求項1】
薄板状のミラー部と、該ミラー部を懸架するサスペンションを有し該ミラー部の周縁の少なくとも一部を包囲しかつ上記サスペンションにより上記ミラー部をその表面に垂直な方向へ移動可能に支持するベース部と、から成るミラー基板と、
上記ミラー基板のベース部の表面に配設される支持基板と、
を備え、
上記支持基板が、上記ミラー基板の周縁の内側に対向してミラー部の表面に当接する支持部と、上記支持部より外側で上記ミラー部に対向して形成された固定電極部と、を有しており、
上記固定電極部と上記ミラー部との間に電圧を印加することにより、上記ミラー部の支持部より外側の領域を静電引力によって、対応する固定電極側に向かって変位させて、上記ミラー部の支持部より内側の領域を断面放物線状に変形させることを特徴とする、ミラー装置。
【請求項2】
前記ミラー部が円形に形成されており、前記サスペンションが前記ミラー部の中心に関して等角度間隔に配置されていて、
前記支持部が前記ミラー部と同心の環状に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のミラー装置。
【請求項3】
前記ミラー部が長方形に形成されており、前記サスペンションが前記ミラー部の互いに対向する端縁に関して配置されていて、
前記支持部が前記ミラー部の互いに対向する端縁の内側に沿って配置されていることを特徴とする、請求項1に記載のミラー装置。
【請求項4】
前記ミラー基板が、半導体層から構成されており、
前記ミラー基板のベース部が、絶縁層を介して半導体基板上に形成されていることを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載のミラー装置。
【請求項5】
前記支持基板が、ガラス基板または半導体基板から構成されていることを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載のミラー装置。
【請求項6】
前記固定電極部が、前記支持基板の表面に形成された凹陥部内に配置されていることを特徴とする、請求項1〜5の何れかに記載のミラー装置。
【請求項7】
前記ミラー部の支持部より内側の領域の静電引力による変形量が、前記電圧に対応して変化し、一様な近似放物面状に変形した前記ミラー部の焦点距離が変更可能であることを特徴とする、請求項6に記載のミラー装置。
【請求項8】
犠牲層を介して上層を備えた第1の基板に対して、上層側から上記犠牲層に達するエッチングによりミラー部及びサスペンションを画成する溝部を形成すると共に、上記第1の基板側から上記犠牲層に達するエッチングにより、上記第1の基板の上記ミラー部に対応する領域を除去して、ミラー基板を作製する第一の段階と、
第2の基板の表面に対して支持部を形成する第二の段階と、
上記第2の基板の表面の上記支持部の外側に固定電極部を形成して支持基板を作製する第三の段階と、
上記第三の段階で作製された支持基板上に上記第一の段階で作製されたミラー基板を反転して上記ミラー基板の上層のベース部を上記支持基板の表面に対して陽極接合する第四の段階と、
を含んでいることを特徴とする、ミラー装置の製造方法。
【請求項9】
前記第二の段階にて、前記支持基板の前記支持部となるべき表面領域の周囲に凹陥部を形成することにより各支持部を画成することを特徴とする、請求項8に記載のミラー装置の製造方法。
【請求項10】
前記第三の段階にて、各支持部の上面に前記ミラー部の表面への接合を阻止する金属層を形成することを特徴とする、請求項8又は9に記載のミラー装置の製造方法。
【請求項11】
前記金属層が、前記固定電極部と同じ材料により前記固定電極部と同時に形成されることを特徴とする、請求項10に記載のミラー装置の製造方法。
【請求項12】
前記ミラー基板が半導体基板を用いて構成されており、前記支持基板がガラス基板または半導体基板を用いて構成されていることを特徴とする、請求項8〜11の何れかに記載のミラー装置の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図15】
【図16】
【図17】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図15】
【図16】
【図17】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−96997(P2010−96997A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267909(P2008−267909)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年6月12日 社団法人電気学会発行の「電気学会研究会資料 センサ・マイクロマシン部門総合研究会「Technical Meeting on Sensors and Micromachines 2008」」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「2008 米国電子電気学会/エルイーオーエス 光学エムイーエムエスおよびナノ光工学に関する国際会議(2008年8月11日−14日 ドイツ フライブルグ 会議センター 講堂)‘‐W2.3‐’」(米国電子電気学会 カタログ番号:CFP08MOE‐CDR ISBN:978‐1‐4244‐1918‐0 国会図書館:2007909044)に発表
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年6月12日 社団法人電気学会発行の「電気学会研究会資料 センサ・マイクロマシン部門総合研究会「Technical Meeting on Sensors and Micromachines 2008」」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「2008 米国電子電気学会/エルイーオーエス 光学エムイーエムエスおよびナノ光工学に関する国際会議(2008年8月11日−14日 ドイツ フライブルグ 会議センター 講堂)‘‐W2.3‐’」(米国電子電気学会 カタログ番号:CFP08MOE‐CDR ISBN:978‐1‐4244‐1918‐0 国会図書館:2007909044)に発表
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
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