説明

モータ式動力装置

【課題】 モータ式動力装置において、重量の増加を伴う特別の補強を行うことなく、ディファレンシャルギヤの両端部を支持するケースの剛性を高める。
【解決手段】 モータ式動力装置の減速機12およびディファレンシャルギヤ13を収納するミッションケースを、モータケース18に結合される第1ケース16と、第1ケース16に結合される第2ケース14とで構成し、ディファレンシャルギヤ13の左端部を第2ケース14に支持するとともに、右端部を第2ケース14の内面に結合される第3ケース24に支持する。ディファレンシャルギヤ13が減速機12から受ける荷重の作用する方向において、パーキング機構89のパーキングポール91を枢支する支軸90の両端を第1ケース16および第3ケース24に支持したので、支軸90により第1ケース16および第3ケース24を一体に連結して該第3ケース24の剛性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータのロータシャフトの回転を減速機を介してディファレンシャルギヤに伝達し、前記ディファレンシャルギヤの一対の出力軸の一方を前記ロータシャフトの内部に配置したモータ式動力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
かかるモータ式動力装置は、下記特許文献1により公知である。このモータ式動力装置のハウジングは、右から左に右サイドハウジング、モータハウジング、ギヤハウジングおよび左サイドハウジングを結合して構成されており、右サイドハウジングおよびモータハウジングの右半部内に電動モータが収納され、モータハウジングの左半部、ギヤハウジングおよび左サイドハウジング内に減速機およびディファレンシャルギヤが収納されている。そしてディファレンシャルギヤの左右両端部は、左サイドハウジングおよびギヤハウジングにそれぞれ支持される。
【特許文献1】特開2005−278319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、減速機およびディファレンシャルギヤを収納するモータハウジングの左半部、ギヤハウジングおよび左サイドハウジングのうち、中央のギヤハウジングを、モータハウジングの左半部および左サイドハウジングの間に挟むことなく、左サイドハウジングの内面に固定したインターミディエイトケースとし、このインターミディエイトケースにディファレンシャルギヤの右端を支持することで、モータ式動力装置の小型化を図ることができる。
【0004】
しかしながら、このように構成すると、モータハウジングの左半部および左サイドハウジングの間に挟まれたギヤハウジングに比べて、左サイドハウジングの内面に固定されたインターミディエイトケースの剛性が低くなるため、そこに右端を支持されたディファレンシャルギヤの支持剛性も低くなり、減速機からディファレンシャルギヤへの動力伝達がスムーズに行われなくなる可能性がある。
【0005】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、モータ式動力装置において、重量の増加を伴う特別の補強を行うことなく、ディファレンシャルギヤの両端部を支持するケースの剛性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、電動モータのロータシャフトの回転を減速機を介してディファレンシャルギヤに伝達し、前記ディファレンシャルギヤの一対の出力軸の一方を前記ロータシャフトの内部に配置したモータ式動力装置において、前記減速機および前記ディファレンシャルギヤを収納するミッションケースを、前記電動モータを収納するモータケースに結合される第1ケースと、前記第1ケースに結合される第2ケースとで構成し、前記ディファレンシャルギヤの一端部を前記第2ケースに支持するとともに、他端部を前記第2ケースの内面に結合される第3ケースに支持し、前記ディファレンシャルギヤが前記減速機から受ける荷重の作用する方向において、パーキング機構のパーキングポールを枢支する支軸の両端を前記第1ケースおよび前記第3ケースに支持したことを特徴とするモータ式動力装置が提案される。
【0007】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記パーキングポールの支軸は大径部および小径部を有する段付き軸であり、前記大径部を前記第1ケースに支持して前記小径部を前記第3ケースに支持したことを特徴とするモータ式動力装置が提案される。
【0008】
また請求項3に記載された発明によれば、電動モータのロータシャフトの回転を減速機を介してディファレンシャルギヤに伝達し、前記ディファレンシャルギヤの一対の出力軸の一方を前記ロータシャフトの内部に配置したモータ式動力装置において、前記減速機および前記ディファレンシャルギヤを収納するミッションケースを、前記電動モータを収納するモータケースに結合される第1ケースと、前記第1ケースに結合される第2ケースとで構成し、前記ディファレンシャルギヤの一端部を前記第2ケースに支持するとともに、他端部を前記第2ケースの内面に結合される第3ケースに支持し、前記ディファレンシャルギヤが前記減速機から受ける荷重の作用する方向において、前記第3ケースを前記第2ケースに結合したことを特徴とするモータ式動力装置が提案される。
【0009】
尚、実施の形態のミッションケース14は本発明の第2ケースに対応し、実施の形態のモータ/ミッションケース16は本発明の第1ケースに対応し、実施の形態のモータセンターケース18およびモータサイドケース20は本発明のモータケースに対応し、実施の形態のインターミディエイトケース24は本発明の第3ケースに対応し、実施の形態の左ドライブシャフト48およびセンターシャフト49は本発明の出力軸に対応する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の構成によれば、モータ式動力装置の減速機およびディファレンシャルギヤを収納するミッションケースを、電動モータを収納するモータケースに結合される第1ケースと、第1ケースに結合される第2ケースとで構成し、ディファレンシャルギヤの一端部を第2ケースに支持するとともに、他端部を第2ケースの内面に結合される第3ケースに支持したものにおいて、ディファレンシャルギヤが減速機から受ける荷重の作用する方向において、パーキング機構のパーキングポールを枢支する支軸の両端を第1ケースおよび第3ケースに支持したので、前記支軸により第1ケースおよび第3ケースを一体に連結して該第3ケースの剛性を高めることができる。これにより、第2、第3ケースによるディファレンシャルギヤの両端の支持が強固なものとなり、減速機からディファレンシャルギヤへの動力伝達をスムーズに行うことができる。
【0011】
また請求項2の構成によれば、パーキングポールの支軸を大径部および小径部を有する段付き軸で構成し、その大径部を第1ケースに支持して小径部を第3ケースに支持したので、強固なモータケースに結合されて高い剛性を有する第1ケースに支軸の大径部を支持することで、支軸による第3ケースの補強効果を一層高めることができる。
【0012】
また請求項3の構成によれば、モータ式動力装置の減速機およびディファレンシャルギヤを収納するミッションケースを、電動モータを収納するモータケースに結合される第1ケースと、第1ケースに結合される第2ケースとで構成し、ディファレンシャルギヤの一端部を第2ケースに支持するとともに、他端部を第2ケースの内面に結合される第3ケースに支持したものにおいて、ディファレンシャルギヤが減速機から受ける荷重の作用する方向において、第3ケースを第2ケースに結合したので、ディファレンシャルギヤの他端部からの第3ケースに伝達される荷重を効果的に第2ケースに伝達し、第2ケースおよび第3ケース全体としての剛性を効果的に高めることができる。これにより、ディファレンシャルギヤの両端の支持が強固なものとなり、減速機からディファレンシャルギヤへの動力伝達をスムーズに行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0014】
図1〜図14は本発明の実施の形態を示すもので、図1はモータ式動力装置の縦断面図(図2の1−1線断面図)、図2は図1および図3の2−2線矢視図、図3は図2の3−3線断面図、図4は図1および図3の4−4線矢視図、図5は図1および図3の5−5線矢視図、図6は図1および図3の6−6線矢視図、図7は図1の7部拡大図、図8は図1の8部拡大図、図9は図2の9部拡大図。図10は図9の10−10線断面図、図11は図3の11−11線矢視図、図12は図3の12−12線矢視図、図13は図3に対応する車両の旋回時の作用説明図、図14は図1に対応する車両の旋回時の作用説明図である。
【0015】
図1および図3に示すように、電機自動車のパワーユニットとして使用されるモータ式動力装置は、電動モータ11と減速機12とディファレンシャルギヤ13とを一体に備えるもので、その外郭は車幅方向左端に位置するミッションケース14と、ミッションケース14の右端にボルト15…で結合されるモータ/ミッションケース16と、モータ/ミッションケース16の右端にボルト17…結合されるモータセンターケース18と、モータセンターケース18の右端にボルト19…で結合されるモータサイドケース20と、モータサイドケース20の右端にボルト21…で結合されるセンターシャフトベアリングサポート22と、ミッションケース14の内面にボルト23…で結合されるインターミディエイトケース24とで構成される。電動モータ11はモータ/ミッションケース16、モータセンターケース18およびモータサイドケース20の内部に収納され、減速機12およびディファレンシャルギヤ13は、ミッションケース14およびモータ/ミッションケース16の内部に収納される。
【0016】
電動モータ11は、モータセンターケース18の内周面に固定されたステータ25と、ステータ25の内部に回転自在に配置されたロータ26とで構成される。ステータ25は、円周方向に配置された積層鋼板よりなる複数のステータコア27…と、それらのステータコア27…の外周にそれぞれ巻回された複数のコイル28…とで構成される。またロータ26は、モータ/ミッションケース16およびモータサイドケース20にそれぞれボールベアリング29,30で回転自在に支持されたロータシャフト31と、ロータシャフト31に固定された積層鋼板よりなるロータコア32と、ロータコア32の外周部に埋設された複数の永久磁石33…とで構成される。ロータコア32には、それを軸方向に貫通する複数の貫通孔32a…が形成される。
【0017】
減速機12は、ミッションケース14およびモータ/ミッションケース16にそれぞれローラベアリング34およびボールベアリング35で支持された減速機シャフト36を備えており、減速機シャフト36には第2減速ギヤ37、パーキングギヤ38およびファイナルドライブギヤ39が設けられる。そしてロータシャフト31の左端に設けた第1減速ギヤ40が減速機シャフト36の第2減速ギヤ37に噛合し、減速機シャフト36のファイナルドライブギヤ39がディファレンシャルギヤ13のファイナルドリブンギヤ41に噛合する。
【0018】
ディファレンシャルギヤ13は、ミッションケース14およびインターミディエイトケース24にそれぞれテーパローラベアリング42,43を介して回転自在に支持されたディファレンシャルケース44と、ディファレンシャルケース44にピニオンピン45を介して回転自在に支持された一対のディファレンシャルピニオン46,46と、これらのディファレンシャルピニオン46,46の両方に同時に噛合する一対のディファレンシャルサイドギヤ47,47とを備えており、ディファレンシャルケース44の外周に前記ファイナルドリブンギヤ41が固定される。
【0019】
左側のディファレンシャルサイドギヤ47に右端をスプライン結合された左ドライブシャフト48が、ディファレンシャルケース44およびミッションケース14を貫通して車幅方向左側に延出する。また右側のディファレンシャルサイドギヤ47に左端をスプライン結合されたセンターシャフト(ハーフシャフト)49が、ディファレンシャルケース44、ミッションケース14および中空のロータシャフト31の内部を貫通して車幅方向右側に延出する。またセンターシャフトベアリングサポート22にボールベアリング50を介して右端を支持された前記センターシャフト49に、右ドライブシャフト51がスプライン結合される。
【0020】
従って、電動モータ11を駆動すると、そのロータシャフト31のトルクが第1減速ギヤ40→第2減速ギヤ37→減速機シャフト36→ファイナルドライブギヤ39→ファイナルドリブンギヤ41→ディファレンシャルケース44→ディファレンシャルピニオン46,46→ディファレンシャルサイドギヤ47,47に伝達され、車両の旋回状態等に応じて、左ドライブシャフト48とセンターシャフト49および右ドライブシャフト51とに所定の比率で配分される。
【0021】
次に、電動モータ11、減速機12およびディファレンシャルギヤ13の潤滑系を説明する。
【0022】
図1〜図3および図7に示すように、電動モータ11、減速機12およびディファレンシャルギヤ13にオイルを供給するオイルポンプ61はトロコイドポンプよりなり、モータ/ミッションケース16の左側面に形成した円形のポンプ室16aに回転自在に支持されるアウターロータ62と、アウターロータ62の内歯に噛合する外歯を有するインナーロータ63と、インナーロータ63を回転自在に支持するポンプシャフト64と、モータ/ミッションケース16の左側面にボルト65で固定されてポンプ室16aを閉塞するポンプカバー66とを備えており、右端がモータ/ミッションケース16に支持されたポンプシャフト64はポンプカバー66に設けたボールベアリング67を貫通し、その左端に設けられたポンプ駆動ギヤ68が前記第1減速ギヤ40に噛合する。
【0023】
オイルポンプ61の吸入ポート16bは、モータ/ミッションケース16に設けたオイル吸入通路16cおよびストレーナ69を介して、モータ/ミッションケース16およびミッションケース14の底部のオイル貯留室71に連通する。オイルポンプ61の吐出ポート16dは、モータ/ミッションケース16に設けたオイル吐出通路16eと、リリーフバルブ70(図3参照)とを介してモータ/ミッションケース16およびミッションケース14の底部のオイル貯留室71に連通するとともに、パイプ材よりなるオイル通路72(図3参照)およびインターミディエイトケース24に形成したオイル供給通路24aを介してディファレンシャルケース44の右端を支持するテーパローラベアリング43に連通する。
【0024】
またオイルポンプ61の吐出ポート16dからモータ/ミッションケース16の内部を上方に延びる高圧オイル供給通路16f(図1および図3に鎖線で、図5に破線で図示)は、中空の減速機シャフト36の内部に形成したオイル供給通路36aを通過して、ミッションケース14のオイル供給通路14a,14bに連通する。オイル供給通路14aに分岐したオイルはオイル供給パイプ73から吐出され、ファイナルドライブギヤ39およびファイナルドリブンギヤ41の噛合部、ボールベアリング35およびボールベアリング29を潤滑してオイル貯留室71に戻される。またオイル供給通路14bに分岐したオイルは、ローラベアリング34およびディファレンシャルギヤ13を潤滑した後にオイル貯留室71に戻され、またオイル供給通路14bからオイル供給通路14cに分岐したオイルは左側のテーパローラベアリング43を潤滑してオイル貯留室71に戻される。
【0025】
モータ/ミッションケース16の高圧オイル供給通路16fの上端から分岐するオイル供給通路16gは、モータセンターケース18の壁部内に形成したオイル供給通路18aから、モータサイドケース20の壁部内に形成したオイル供給通路20a,20b,20cへ経て、ロータシャフト31の右端を支持するボールベアリング30を潤滑した後、モータサイドケース20の壁部内に形成したオイル戻し通路20d,20e、モータセンターケース18の壁部内に形成したオイル戻し通路18b、モータ/ミッションケース16の壁部内に形成したオイル戻し通路16i、ミッションケース14の壁部内に形成したオイル戻し通路14fおよび開口14gを介してオイル貯留室71に戻される。またモータサイドケース20のオイル供給通路20cから分岐したオイル供給通路20fは、センターシャフトベアリングサポート22に形成したオイル供給通路22aを経てセンターシャフト49の右端を支持するボールベアリング50を潤滑した後、前記オイル戻し通路20dに合流してオイル貯留室71に戻される。
【0026】
図3から明らかなように、モータ/ミッションケース16、モータセンターケース18およびモータサイドケース20で区画された電動モータ収納室74は、電動モータ11のステータ25およびロータ26によって右室74aおよび左室74bに仕切られる。ロータコア32に形成された貫通孔32a…によって右室74aおよび左室74bは相互に連通するが、ロータ26が高速回転する運転中には前記貫通孔32a…をオイルが実質的に通過できなくなる。そこで、モータセンターケース18の壁部内に形成したオイル連通孔18cにより、右室74aおよび左室74bが相互に連通する。またモータセンターケース18のオイル連通孔18cの左端は、モータ/ミッションケース16およびミッションケース14で区画されたミッション収納室75の下部(つまりオイル貯留室71)に、モータ/ミッションケース16およびミッションケース14に形成したオイル連通路16h,14dおよび開口14eを介して連通する。
【0027】
図8および図11から明らかなように、電動モータ11のレゾルバ76は、ロータシャフト31の右端に設けられた円板状のレゾルバロータ77と、その外周を囲むようにボルト78…でモータサイドケース20に固定された複数のレゾルバコイル79…とで構成される。レゾルバロータ77の外周には複数の凸部77a…および凹部77b…が交互に形成されており、それら凸部77a…および凹部77b…とレゾルバコイル79…との間のエアギャップの大きさを磁気的に検出することで、電動モータ11の回転位置を検出することができる。
【0028】
ロータシャフト31の外周に嵌合するレゾルバロータ77は、その軸方向両側に圧入された一対のストッパ80,81に挟まれて固定されており、その左側のストッパ80の外周に突設した円形のフランジ80aが、前記ボルト78…でモータサイドケース20に共締めされた円環状の磁気シールド82の内周に僅かな隙間を存して対向する。磁気シールド82は、電動モータ11が発生する磁気がレゾルバコイル79…に作用して検出精度に影響を与えるのを防止するためのもので、電動モータ11およびレゾルバコイル79…間を遮るように配置される。
【0029】
ロータシャフト31の右端をモータサイドケース24に支持するボールベアリング30は、複数のボール30a…を支持するインナーレース30bおよびアウターレース30cを備えており、インナーレース30bおよびアウターレース30c間にオイルの流通を阻止するシールド30dが設けられる。従って、モータサイドケース20のオイル供給通路20cから供給されたオイルは、ボールベアリング30のシールド30dと、ストッパ80のフランジ80aと、磁気シールド82とによって区画された第1油室83に保持されてボールベアリング30を効果的に潤滑することができる。
【0030】
またセンターシャフトベアリングサポート22のオイル供給通路22aから供給されたオイルは、ストッパ80のフランジ80aと、磁気シールド82と、センターシャフト49およびセンターシャフトベアリングサポート22間に配置されたシール部材84とによって区画された第2油室85に保持され、ボールベアリング50を効果的に潤滑することができる。
【0031】
次に、電動モータ収納室74およびミッション収納室75のブリージングについて説明する。
【0032】
図3に示すように、前記第2油室85はモータサイドケース20のブリーザ通路20g,20hに連通し、前記電動モータ収納室74の右室74aはブリーザ通路20iを介して前記ブリーザ通路20hに連通し、更に前記ブリーザ通路20hはモータセンターケース18のブリーザ通路18dおよびモータ/ミッションケース16のブリーザ通路16jを介してミッション収納室75の上部である第1ブリーザ室86に連通する。第1ブリーザ室86の上方には小容積の第2ブリーザ室87が形成され、第1、第2ブリーザ室86,87は連通孔16mで連通し、第2ブリーザ室87はブリーザパイプ88を介して外気に連通する。また電動モータ収納室74の左室74bとミッション収納室75とは、モータ/ミッションケース16に形成した連通孔16k(図2、図3および図5参照)を介して連通する。
【0033】
図6から明らかなように、オイル供給通路18a、オイル戻し通路18b、オイル連通路18cおよびブリーザ通路18dは、モータセンターハウジング18の壁部内に円周方向に離間して形成されている。
【0034】
次に、電動モータ11のロータシャフト31の回転を拘束するパーキング機構89の構造を説明する。
【0035】
図2、図3、図9および図10から明らかなように、前記パーキングギヤ38を拘束して電動モータ11のロータシャフト31の回転を阻止するパーキング機構89は、モータ/ミッションケース16およびインターミディエイトケース24間に架設された支軸90に一端を枢支されたパーキングポール91を備えており、そのパーキングポール91は先端の係止爪91aがパーキングギヤ38の係止凹部38a…から離反する方向に捩じりばね92で付勢される。
【0036】
モータ/ミッションケース16およびミッションケース14間に駆動軸93およびストッパ軸94が架設されており、ミッションケース14から外部に突出する駆動軸93に固定した操作レバー95が図示せぬ車室内のシフトレバーに連結される。駆動軸93にはディテントプレート96が固定されるとともに、一対の駆動レバー97,97が相対回転自在に支持されており、駆動レバー97,97の先端に、パーキングポール91の被押圧部91bに当接可能な駆動ピン98が固定される。ディテントプレート96の外周面には前記ストッパ軸94が係合する溝96aと、波状に連なる複数の凹部96b…とが形成される。駆動レバー97,97は駆動軸93に対して捩じりばね99で図9の反時計方向に、つまり駆動ピン98がパーキングポール91の被押圧部91bに当接する方向に付勢される。
【0037】
モータ/ミッションケース16およびミッションケース14間に架設した支軸100にディテントアーム101の一端が枢支されており、その他端に固定した一対の支持板102,102間に設けた係止ピン103がディテントプレート96の凹部96b…の何れかに係合するように、ディテントアーム101が駆動軸93との間に設けたコイルばね104で付勢される。
【0038】
従って、シフトレバーをパーキング位置に操作すると、操作レバー95が図9の鎖線位置から実線位置へと反時計方向に揺動し、駆動軸93がディテントプレート96および駆動レバー97,97と共に鎖線位置から実線位置へと反時計方向に揺動する。このとき、ディテントプレート96の揺動可能範囲は、溝96aとストッパ軸94との係合により規制される。そして駆動レバー97,97の揺動により、その先端に設けた駆動ピン98がパーキングポール91の被押圧部91bを押圧することで、パーキングポール91が支軸90まわりに時計方向に揺動し、その係止爪91aがパーキングギヤ38の一つの係合凹部38aに係合しようとするが、係止爪91aに対してパーキングギヤ38の係合凹部38aの位相が一致していないときには、駆動レバー97,97は捩じりばね99を圧縮しながら図9の鎖線位置に留まって待機する。そして係止爪91aに対してパーキングギヤ38の係合凹部38aの位相が一致した瞬間、捩じりばね99の弾発力で駆動レバー97,97が実線位置へと揺動し、その駆動ピン98がパーキングポール91の被押圧部91bを押圧することで係止爪91aがパーキングギヤ38の係合凹部38aに係合し、パーキングギヤ38の回転が拘束される。
【0039】
このとき、コイルばね104で付勢されたディテントアーム101の係止ピン103がディテントプレート96の凹部96b…の一つに係合することで、ディテントプレート96の戻りが規制される。シフトレバーをパーキング位置から移動させると、パーキング機構89の各構成要素が図9の実線位置から鎖線位置へと移動することで、パーキングブレーキが解除される。
【0040】
ところで、ディファレンシャルギヤ13のファイナルドリブンギヤ41は減速機12のファイナルドライブギヤ39から、図4に矢印Aで示す噛合反力を受け、その噛合反力はディファレンシャルギヤ13の両端を支持するミッションケース14およびインターミディエイトケース24により受け止められる。このとき、インターミディエイトケース24の剛性が不足しているとディファレンシャルギヤ13の支持が不安定になり、ファイナルドリブンギヤ41およびファイナルドライブギヤ39の噛合状態が悪化してスムーズな動力伝達が行われなくなる可能性がある。
【0041】
しかしながら、前記噛合反力が作用する方向(図4の矢印A参照)において、剛性の高いモータ/ミッションケース16とインターミディエイトケース24とがパーキングポール91の支軸90で一体に連結されているので、この支軸90によってインターミディエイトケース24の剛性を高めることができ、よってディファレンシャルギヤ13の支持剛性を高めて動力伝達をスムーズに行わせることができる。
【0042】
図3および図10から明らかなように、前記支軸90は右側の大径部90aと左側の小径部90bとを有する段付き軸で構成されており、大径部90aが比較的に剛性の高いモータ/ミッションケース16に支持され、かつ小径部90bが比較的に剛性の低いインターミディエイトケース24に支持されているため、支軸90によるインターミディエイトケース24の補強効果を一層高めることができる。
【0043】
更に、図4から明らかなように、ミッションケース14の内面に6本のボルト23…で固定されたインターミディエイトケース24は、図中左上部分と右下部分とに上部開口24bおよび下部開口24cを備えており、それら上部開口24bおよび下部開口24cの部分でミッションケース14およびインターミディエイトケース24は接触せずに離れている。しかしながら、噛合反力が作用する矢印Aの方向において、ミッションケース14およびインターミディエイトケース24は3本のボルト23…で結合されているため、上部開口24bおよび下部開口24cを設けたことによるインターミディエイトケース24の剛性低下を最小限に抑え、ディファレンシャルギヤ13の支持剛性を確保することができる。
【0044】
図3、図11および図12から明らかなように、モータサイドケース20にはセンターシャフトベアリングサポート22で閉塞される開口20jが形成されており、その開口20jを通して前記レゾルバ76にアクセス可能である。モータサイドケース20に5本のボルト21…で結合されるセンターシャフトベアリングサポート22には、蓋部材105(図3参照)で開閉される開口22bが形成されており、レゾルバ76に結線するためのカプラ106が前記開口22bに臨むように1本のボルト107で固定される。センターシャフトベアリングサポート22を固定する5本のボルト21…のうちの1本のボルト21(1)は、その一部がカプラ106の後ろ側に隠れている。
【0045】
ところで、レゾルバ76のメンテナンスのためにモータサイドケース20からセンターシャフトベアリングサポート22を分離するとき、センターシャフトベアリングサポート22から予めカプラ106を取り外しておかないと、モータサイドケース20側に固定されたレゾルバ76とカプラ106とを接続するハーネス106aが引っ張られて損傷する可能性がある。
【0046】
しかしながら、本実施の形態によれば、予めボルト107を緩めてセンターシャフトベアリングサポート22からカプラ106を分離しないと、モータサイドケース20にセンターシャフトベアリングサポート22を固定する5本のボルト21…のうちの1本21(1)が露出しないので、必ずカプラ106をセンターシャフトベアリングサポート22から取り外した後に、センターシャフトベアリングサポート22をモータサイドケース20から取り外すことになり、カプラ106のハーネス106aの損傷を確実に防止することができる。
【0047】
また電動モータ11のロータシャフト31の回転位置を検出するレゾルバ76を、ディファレンシャルギヤ13および電動モータ11間に配置することなく、電動モータ11の反ディファレンシャルギヤ13側、つまりモータサイドケース20とセンターシャフトベアリングサポート22との間に配置したので、センターシャフトベアリングサポート22をモータサイドケース20から分離するだけでレゾルバ76を完全に露出させ、そのメンテナンスを容易に行うことができる。
【0048】
図1および図7に示すように、モータ/ミッションケース16にロータシャフト31の左端を支持するボールベアリング29は、複数のボール29a…を支持するインナーレース29bおよびアウターレース29cを備えており、インナーレース29bおよびアウターレース29c間にオイルの流通を阻止するシールド29dが設けられる。ボールベアリング29は、インナーレース29bの左端がロータシャフト31の第1減速ギヤ40側に設けた大径部31aの端面に当接した状態で、右端がロータシャフト31の外周に形成した円周溝31bに嵌合するサークリップ108により係止され、更にその右側に環状のストッパリング109が圧入により固定される。このとき、ストッパリング109の左側面には前記サークリップ108が嵌合する凹部109aが形成される。
【0049】
内部にセンターシャフト49を収納する中空のロータシャフト31は必然的に薄肉なるため、必要な強度を確保するには高硬度の材質で構成する必要がある。そのため、ロータシャフト31の外周に雄ねじを加工することが困難であり、前記雄ねじに螺合するナットと大径部31aとの間にボールベアリング29を挟んで固定することが不可能になる。しかしながら、本実施の形態では、ロータシャフト31に圧入したストッパリング109とロータシャフト31の大径部31aの端面との間にボールベアリング29のインナーレース29bを挟んで固定することで、ロータシャフト31に雄ねじを加工する必要をなくし、ロータシャフト31の強度および加工性を両立させながらボールベアリング29を確実に固定することができる。
【0050】
しかも、ボールベアリング29およびストッパリング109間のロータシャフト31に形成した円周溝31bにサークリップ108を装着したので、ロータシャフト31に圧入したストッパリング109が万一緩んだ場合でも、サークリップ108によってボールベアリング29を所定位置に保持することができる。更に、ロータシャフト31にストッパリング109を圧入したことで、ロータシャフト31の剛性が高まってボールベアリング29による支持を確実なものにすることができる。
【0051】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の潤滑作用およびブリージング作用について説明する。
【0052】
電動モータ11のロータシャフト31に設けた第1減速ギヤ40に噛合するポンプ駆動ギヤ68によりオイルポンプ61のポンプシャフト64が回転すると、アウターロータ62およびインナーロータ63間に形成した作動室の容積が連続的に変化し、オイル貯留室71のオイルがオイル吸入通路16cおよび吸入ポート16bを介して吸入され、吐出ポート16dからモータ/ミッションケース16の内部に形成された高圧オイル供給油路16fに吐出される。高圧オイル供給油路16fは上方に向かって略直線状に延びており、その上端付近で二股に分岐したオイルの一部は減速機シャフト36の内部に形成したオイル供給通路36aを通過してミッションケース14のオイル供給通路14a,14bに供給され、減速機12やディファレンシャルギヤ13を潤滑するとともに、前記分岐したオイルの他の一部はオイル供給通路16g,18a,20a,20b,20cを経て、ロータシャフト31の右端部やセンターシャフト49の右端部を潤滑する。
【0053】
このように、オイルポンプ61に連なる高圧オイル供給油路16fを上方に向かって略直線状に延ばしたので、その高圧オイル供給通路16fを短くかつ単純な形状にしてオイルの流通抵抗を減少させ、オイルポンプ61の駆動負荷を低減することができる。しかも高圧オイル供給油路16fの上端近傍から二股に分岐させたオイルを電動モータ収納部74側およびミッション収納部75側の被潤滑部に重力で供給するので、貯留したオイルを撥ね上げて被潤滑部に供給する場合に比べてエネルギーロスを最小限に抑えることができるだけでなく、必要最小限の量のオイルで電動モータ収納部74側およびミッション収納部75側の被潤滑部を均等に潤滑することができる。
【0054】
電動モータ11により駆動されるオイルポンプ61から吐出されたオイルの一部は、ミッション収納室75に供給されて各ギヤや各ベアリングを潤滑・冷却した後、ミッションケース14およびモータ/ミッションケース16の底部のオイル貯留室71に戻される。またオイルポンプ61から吐出されたオイルの他の一部は、電動モータ収納室74に供給されて各ベアリングや電動モータ11を潤滑・冷却した後、電動モータ収納室74の底部に戻される。このとき、電動モータ収納室74の右室74aおよび左室74bはオイル連通路18c(図3参照)を介して連通しているので、右室74aおよび左室74bのオイルレベルは同じになる。また電動モータ収納室74の底部とミッション収納室75のオイル貯留室71とはオイル連通路16h,14dおよび開口14e(図3参照)を介して連通しているので、電動モータ収納室74のオイルレベルとミッション収納室75のオイル貯留室71のオイルレベルとは同じになる(図1および図3のオイルレベルL参照)。
【0055】
ところで、車両が左旋回すると、車幅方向右向きの遠心力が作用するため、図13に示すように、ミッション収納室75のオイルが前記開口14eおよびオイル連通路14d,16hを通過して電動モータ収納室74に流入する。このとき、仮に電動モータ収納室74およびミッション収納室75の隔壁を構成するモータ/ミッションケース16に単純な開口よりなる連通孔を形成すると、ミッション収納室75のオイルの殆ど全量が電動モータ収納室74に流入してしまうため、ミッション収納室75に殆どオイルが残留しなくなってディファレンシャルギヤ13等の潤滑に支障を来すだけでなく、電動モータ収納室74のオイル量が過剰になり、ロータ26によるオイルの攪拌抵抗が大きくなって駆動力の損失が増加する問題がある。
【0056】
しかしながら、本実施の形態によれば、ミッション収納室75および電動モータ収納室74を連通させる開口14e(図3参照)が、隔壁を構成するモータ/ミッションケース16からミッション収納室75側にオイル連通路16h,14dの長さだけ離れた位置に形成されているため、図13に示すように、車両が左旋回した場合でも、前記開口14eとモータ/ミッションケース16との間にオイルを保持することができる。これにより、ミッション収納室75に必要最小限のオイルを保持してディファレンシャルギヤ13等の潤滑性能を確保しながら、電動モータ収納室74に過剰のオイルが流入してロータ26によるオイルの攪拌抵抗が増加するのを防止することができる。
【0057】
また電動モータ収納室74およびミッション収納室75がオイル連通路16h,14dで相互に連通するのでオイルの行き来が可能になり、電動モータ収納室74をオイルサーバとして利用することで油面管理を安定させることができる。
【0058】
また車両が左旋回すると、図14に示すように、ミッション収納室75のオイルが開口14gおよびオイル戻し通路14f,16i,18b,20e,20dを通過して第1、第2油室83,85に流入する。このとき、仮に電動モータ収納室74およびミッション収納室75の隔壁を構成するモータ/ミッションケース16に単純な開口よりなる連通孔を形成すると、ミッション収納室75のオイルの殆ど全量が第1、第2油室83,85に流入してしまうため、ミッション収納室75に殆どオイルが残留しなくなってディファレンシャルギヤ13等の潤滑に支障を来す問題がある。
【0059】
しかしながら、本実施の形態によれば、ミッション収納室75および第1、第2油室 83,85を連通させる開口14g(図1参照)が、隔壁を構成するモータ/ミッションケース16からミッション収納室75側にオイル戻し通路16i,14fの長さだけ離れた位置に形成されているため、図14に示すように、車両が左旋回した場合でも、前記開口14gとモータ/ミッションケース16との間にオイルを保持することができる。これにより、ミッション収納室75に必要最小限のオイルを保持してディファレンシャルギヤ13等の潤滑性能を確保することができる。
【0060】
しかも、第1、第2油室83,85とミッション収納室75とがオイル戻し通路20d,20e,18b,16i,14fで連通するので、第1、第2油室83,85からミッション収納室75へのオイルの回収を安定させ、各部のオイルの配分を適正化することができる。
【0061】
またレゾルバ76の電動モータ11側に磁気シールド82を配置したので、電動モータ11が発生する磁気を磁気シールド82で遮蔽することで、レゾルバ76の検出精度を高めることができる。そして前記磁気シールド82を挟んで、その左側にシールド30d付きのボールベアリング30によって第1油室83を区画し、その右側にシール部材84を介して第2油室85を区画したので、第1油室83に保持したオイルでロータシャフト31を支持するボールベアリング30を効果的に潤滑するとともに、第2油室85に保持したオイルでセンターシャフト49を支持するボールベアリング50を効果的に潤滑することができる。
【0062】
回転数が高いロータシャフト31を支持するボールベアリング30は第1油室83に貯留したオイルによる潤滑が必要であるが、回転数が低いセンターシャフト49を支持するボールベアリング50は第2油室85を通過するオイルによる潤滑で充分である。よって、第2油室85の空間を利用してオイルバッファリング機能を持たせ、オイルおよびエアの分離と、オイルの早期リターンとを可能にすることができる。
【0063】
前記ボールベアリング30,50を潤滑したオイルが電動モータ収納室74に流入するとロータ26によるオイルの攪拌抵抗が増加する問題があるが、第1油室83と電動モータ収納室74との間をボールベアリング30で仕切り、かつそのボールベアリング30にオイルの流通を低減するシールド30dを設けたので、第1油室83から電動モータ収納室74へのオイルの流入を確実に低減することができる。しかも第2油室85と第1油室83との間をレゾルバ76の磁気シールド82を利用して遮蔽したので、第2油室85から第1油室83を経て電動モータ収納室74に流入するオイルの量も減少させることができ、ロータ26によるオイルの攪拌抵抗を一層効果的に減少させることができる。
【0064】
更に、第2油室85の上部はブリーザ通路20gに連通しているので、第2油室85においてオイルとエアーとを効果的に分離することができる。
【0065】
図3において、相互に連通する第1、第2油室83,85のブリージングエアは、ブリーザ通路20g→ブリーザ通路20h→ブリーザ通路18d→ブリーザ通路16jの経路でミッション収納室75の上部の第1ブリーザ室86に連通する。また電動モータ収納室74の右室74aのブリージングエアは、ブリーザ通路20i→ブリーザ通路18d→ブリーザ通路16jの経路でミッション収納室75の上部の第1ブリーザ室86に連通する。また電動モータ収納室74の左室74bのブリージングエアは、モータ/ミッションケース16を貫通する連通孔16k(図2、図3および図5参照)を通過してミッション収納室75の上部の第1ブリーザ室86に連通する。
【0066】
上述のようにして電動モータ収納室74から第1ブリーザ室86に供給されたブリージングエアは、ミッション収納室75において発生したブリージングエアと合流し、そこから連通孔16m(図2および図3参照)を通過して第2ブリーザ室87に供給され、そこでブリージングエアに含まれるオイルミストが最終的に分離されて重力でオイル貯留室71に戻され、第2ブリーザ室87からエアだけブリーザパイプ88を介して大気に放出される。
【0067】
以上のように、モータ/ミッションケース16で仕切られた電動モータ収納室74およびミッション収納室75のうち、電動モータ収納室74を電動モータ11のロータ26を挟んでミッション収納室75側の左室75bとミッション収納室75と反対側の右室75aとに区画し、左室75bをモータ/ミッションケース16に形成した連通孔16kを介してミッション収納室75に連通させ、右室75bおよび第1、第2油室83,85をモータサイドケース20、モータセンターケース18およびモータ/ミッションケース16の壁部内に形成したブリーザ通路20g,20h,20i,18d,16jを介してミッション収納室75の上部の第1ブリーザ室86に連通させ、第1ブリーザ室86を連通孔16mを介して第2ブリーザ室87に連通させ、更に第2ブリーザ室87をブリーザパイプ88を介して大気に連通させたので、ミッション収納室75の一部である第1、第2ブリーザ室86,87で電動モータ収納室74およびミッション収納室75の両方において発生したブリージングエアからオイルミストを分離することができ、電動モータ収納室74およびミッション収納室75にそれぞれブリーザ装置を設ける場合に比べて、ブリーザ装置の構造を簡素化することができる。
【0068】
またモータ/ミッションケース16に形成した連通孔16kはインターミディエイトケース24の背面に開口するので、電動モータ収納室74の左室74bから連通孔16kを通過してミッション収納室75に流入したブリージングエアをインターミディエイトケース24の背面に衝突させ、オイルミストを効果的に分離することができる。しかも、ミッション収納室75の内部には減速機12およびディファレンシャルギヤ13が収納されているため、それらの部品によってラビリンスが構成され、ミッション収納室75におけるオイルミストの分離効果が促進される。
【0069】
また第1、第2油室83,85および電動モータ収納室74の右室74aを第1ブリーザ室86に連通させる全長の長いブリーザ通路18d,16jは小径(8mm)に形成され、電動モータ収納室74の左室74bを第1ブリーザ室86に連通させる全長の短い連通孔16kは大径(16mm)に形成されている。その理由は以下の通りである。
【0070】
車両の左旋回や右傾斜により電動モータ収納室74の右室74a側にオイルが偏ったとき、そのオイルは電動モータ11のロータ26に撹拌されてオイルミストが発生し易くなる。従って、電動モータ収納室74の右室74aを第1ブリーザ室86に連通させるブリーザ通路18d,16jを、長くかつ小径に形成することで、エアに含まれるオイルミストが通過し難くしてオイルミストの分離効果を高めている。
【0071】
一方、車両の右旋回時や左傾斜時には、左側に偏ったオイルはミッション収納室75に流入するため、電動モータ収納室74の左室74bに溜まるオイルの量は少なくなり、左室74bにおいて電動モータ11のロータ26に撹拌されて発生するオイルミストの量は少なくなる。従って、電動モータ収納室74の左室74bを第1ブリーザ室86に連通させる連通孔16kを、短くかつ大径に形成しても、第1ブリーザ室86に流入するオイルミストの量は少量に抑えられる。
【0072】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】モータ式動力装置の縦断面図(図2の1−1線断面図)
【図2】図1および図3の2−2線矢視図
【図3】図2の3−3線断面図
【図4】図1および図3の4−4線矢視図
【図5】図1および図3の5−5線矢視図
【図6】図1および図3の6−6線矢視図
【図7】図1の7部拡大図
【図8】図1の8部拡大図
【図9】図2の9部拡大図
【図10】図9の10−10線断面図
【図11】図3の11−11線矢視図
【図12】図3の12−12線矢視図
【図13】図3に対応する車両の旋回時の作用説明図
【図14】図1に対応する車両の旋回時の作用説明図
【符号の説明】
【0074】
11 電動モータ
12 減速機
13 ディファレンシャルギヤ
14 ミッションケース(第2ケース)
16 モータ/ミッションケース(第1ケース)
18 モータセンターケース(モータケース)
20 モータサイドケース(モータケース)
24 インターミディエイトケース(第3ケース)
31 ロータシャフト
48 左ドライブシャフト(出力軸)
49 センターシャフト(出力軸)
89 パーキング機構
90 支軸
90a 大径部
90b 小径部
91 パーキングポール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータ(11)のロータシャフト(31)の回転を減速機(12)を介してディファレンシャルギヤ(13)に伝達し、前記ディファレンシャルギヤ(13)の一対の出力軸(48,49)の一方を前記ロータシャフト(31)の内部に配置したモータ式動力装置において、
前記減速機(12)および前記ディファレンシャルギヤ(13)を収納するミッションケースを、前記電動モータ(11)を収納するモータケース(18,20)に結合される第1ケース(16)と、前記第1ケース(16)に結合される第2ケース(14)とで構成し、前記ディファレンシャルギヤ(13)の一端部を前記第2ケース(14)に支持するとともに、他端部を前記第2ケース(14)の内面に結合される第3ケース(24)に支持し、前記ディファレンシャルギヤ(13)が前記減速機(12)から受ける荷重の作用する方向において、パーキング機構(89)のパーキングポール(91)を枢支する支軸(90)の両端を前記第1ケース(16)および前記第3ケース(24)に支持したことを特徴とするモータ式動力装置。
【請求項2】
前記パーキングポール(91)の支軸(90)は大径部(90a)および小径部(90b)を有する段付き軸であり、前記大径部(90a)を前記第1ケース(16)に支持して前記小径部(90b)を前記第3ケース(24)に支持したことを特徴とする、請求項1に記載のモータ式動力装置。
【請求項3】
電動モータ(11)のロータシャフト(31)の回転を減速機(12)を介してディファレンシャルギヤ(13)に伝達し、前記ディファレンシャルギヤ(13)の一対の出力軸(48,49)の一方を前記ロータシャフト(31)の内部に配置したモータ式動力装置において、
前記減速機(12)および前記ディファレンシャルギヤ(13)を収納するミッションケースを、前記電動モータ(11)を収納するモータケース(18,20)に結合される第1ケース(16)と、前記第1ケース(16)に結合される第2ケース(14)とで構成し、前記ディファレンシャルギヤ(13)の一端部を前記第2ケース(14)に支持するとともに、他端部を前記第2ケース(14)の内面に結合される第3ケース(24)に支持し、前記ディファレンシャルギヤ(13)が前記減速機(12)から受ける荷重の作用する方向において、前記第3ケース(24)を前記第2ケース(14)に結合したことを特徴とするモータ式動力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−121552(P2009−121552A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294537(P2007−294537)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】