説明

リーチ型フォークリフトにおける駆動輪のトラクション制御方法およびそのシステム

【課題】スリップし易い床面であっても安定した速度で走行することができる、リーチ型フォークリフトの駆動輪のトラクション制御方法およびシステムを提供する。
【解決手段】検出器3が検出した駆動輪2の回転速度と、検出器5L,5Rが検出した従動輪4L,4Rの回転速度を用いて算出された駆動輪2の理論回転速度との差をとり、スリップ量を得る算出器81と;スリップ量から所定の許容スリップ量を差し引いて比例積分演算し、その値を駆動輪2の最大回転速度から差し引いて、スリップが防止され得る目標回転速度を得る演算器82と;目標回転速度と駆動輪2の回転速度との差を比例積分演算して、第1の目標トルクを得る演算器83と;アクセル角度に応じた指示回転速度と駆動輪2の回転速度との差を比例積分演算して、第2の目標トルクを得る演算器85と;両目標トルクを比較し、値の小さい方を駆動輪2に対する指示トルクとする比較器86と;を含むようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一の駆動輪と左右一対の従動輪とを備えたリーチ型フォークリフトにおける駆動輪のトラクション制御方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
図4に示す如く、リーチ型フォークリフトFは主に、本体部11と、本体部11の前部に設けられた左右一対のストラドルアーム12,12と、ストラドルアーム12,12間に設けられて前後に移動可能なマスト13と、マスト13に案内されたフォーク14と、フォーク14を昇降させるリフトシリンダ15と、を備えている。
【0003】
本体部11は、ハンドル16によって操舵可能な単一の駆動輪17を備えている。ストラドルアーム12は、それぞれ従動輪18を備えている。
【0004】
このリーチ型フォークリフトFでは、フォーク14に積載した荷の重量とマスト13の位置とに応じて重心の位置が大きく移動し、それによって駆動輪17に作用する荷重が大きく変化する。例えば、フォーク14に積載した荷の重量が最大で、マスト13の位置が最大限前方にリーチされた場合には、駆動輪17に作用する荷重が最も小さくなる。
【0005】
駆動輪17に作用する荷重が小さい状態で、リーチ型フォークリフトFが濡れた床面や冷凍倉庫内の凍結した床面等の摩擦係数の低い床面を走行すると、駆動輪17がスリップし、特にひどい場合には走行不能となる。
【0006】
そこで、従来のリーチ型フォークリフトFでは、駆動輪17のスリップ量を検出し、そのスリップ量に応じて駆動輪17の駆動トルクを低減させるように制御する、所謂トラクション制御が行なわれている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−34106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記トラクション制御では、スリップ量に応じて直接的に駆動トルクが制御されるため、スリップし易い床面では速度安定性が悪く、減速・加速が繰り返される問題があった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、スリップし易い床面であっても安定した速度で走行することができる、リーチ型フォークリフトの駆動輪のトラクション制御方法およびシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明は、単一の駆動輪と左右一対の従動輪とを備えたリーチ型フォークリフトにおける駆動輪のトラクション制御方法であって、前記駆動輪の実際の回転速度と、前記従動輪の実際の回転速度を用いて算出された前記駆動輪の理論上の回転速度との差をとり、スリップ量を得るステップと、前記スリップ量から所定の許容スリップ量を差し引いたものを比例積分演算し、その演算結果の値を前記駆動輪の最大回転速度から差し引いて、スリップが防止され得る目標回転速度を得るステップと、前記駆動輪の実際の回転速度と前記目標回転速度との差を比例積分演算して、第1の目標トルクを得るステップと、前記第1の目標トルクと、アクセル角度に基づいて算出された指示回転速度と前記駆動輪の実際の回転速度との差を比例積分演算して得られた第2の目標トルクとを比較し、値の小さい方を前記駆動輪に対する指示トルクとするステップと、を含んでいることを特徴とする駆動輪のトラクション制御方法を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、単一の駆動輪と左右一対の従動輪とを備えたリーチ型フォークリフトにおける駆動輪のトラクション制御システムであって、前記駆動輪の実際の回転速度を検出する駆動輪速度検出器と、前記従動輪の実際の回転速度を検出する従動輪速度検出器と、前記駆動輪速度検出器によって検出された前記駆動輪の実際の回転速度と、前記従動輪速度検出器によって検出された前記従動輪の実際の回転速度を用いて算出された前記駆動輪の理論上の回転速度との差をとり、スリップ量を得るスリップ量算出器と、前記スリップ量算出器によって算出された前記スリップ量から所定の許容スリップ量を差し引いたものを比例積分演算し、その演算結果の値を前記駆動輪の最大回転速度から差し引いて、スリップが防止され得る目標回転速度を得る目標速度演算器と、前記駆動輪速度検出器によって検出された前記駆動輪の実際の回転速度と、前記目標速度演算器によって演算された前記目標回転速度との差を比例積分演算して、第1の目標トルクを得る第1の目標トルク演算器と、アクセル角度に基づいて算出された指示回転速度と、前記駆動輪速度検出器によって検出された前記駆動輪の実際の回転速度との差を比例積分演算して、第2の目標トルクを得る第2の目標トルク演算器と、前記第1の目標トルク演算器によって演算された前記第1の目標トルクと、前記第2の目標トルク演算器によって演算された前記第2の目標トルクとを比較し、値の小さい方を前記駆動輪に対する指示トルクとする比較器と、を含んでいることを特徴とする駆動輪のトラクション制御システムを提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るリーチ型フォークリフトにおける駆動輪のトラクション制御システムによれば、スリップ量から所定の許容スリップ量を差し引いたものを比例積分演算し、その演算結果の値を駆動輪の最大回転速度から差し引いて、スリップが防止され得る目標回転速度が演算される。そして、駆動輪の実際の回転速度と目標回転速度との差を比例積分演算して、第1の目標トルクが演算される。
【0012】
フォークリフトがスリップしている場合は主に、第1の目標トルクが駆動輪に対する指示トルクとなる。この第1の目標トルクは、スリップ量に応じて直接的に得られたものではなく、スリップが防止され得るように演算された目標回転速度を実現するトルクとして得られたものである。つまり、第1の目標トルクは、スリップが防止され得る回転速度を実現するトルクとして演算されている分、スリップ量に応じて直接的に演算された場合と比較して、より安定した回転速度を生じさせることができる。
【0013】
それゆえ、本発明に係るトラクション制御システムおよび方法によれば、スリップし易い床面であっても、減速・加速が繰り返されるようなことなく、安定した速度でリーチ型フォークリフトを走行させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の好ましい一実施形態につき説明する。
図1は、本発明に係るリーチ型フォークリフトにおける駆動輪のトラクション制御システムの一例を示す概略図である。図2は、理論上の駆動輪の回転速度の算出方法を説明するための図である。図3は、図1のトラクション制御システムによる作用を説明するための図である。
【0015】
[構成]
図1Aに示すように、本実施形態のリーチ型フォークリフトにおける駆動輪のトラクション制御システム1は、駆動輪2の回転速度を検出する駆動輪用エンコーダ(駆動輪速度検出器)3と、従動輪4L,4Rの回転速度を検出する従動輪用エンコーダ(従動輪速度検出器)5L,5Rとを備えている。
【0016】
トラクション制御システム1はさらに、各エンコーダ3,5L,5Rからの回転速度信号SD,SL,SRと、アクセル装置7からの指示回転速度信号SAとを受け、駆動輪2を駆動するモータ6に対して指示トルク信号STを出力するトラクション制御部8を備えている。
【0017】
トラクション制御部8は、図1Bに示す如く、スリップ量算出器81と、目標速度演算器82と、第1の目標トルク演算器83とを備えている。
【0018】
スリップ量算出器81は、各エンコーダ3,5L,5Rからの回転速度信号SD,SL,SRを受ける。スリップ量算出器81は、従動輪用エンコーダ5L,5Rからの回転速度信号SL,SRに基づいて、従動輪4L,4Rの回転速度VL,VRを得る(図2参照)。従動輪4L,4Rおよび駆動輪2の配置寸法AL,AR,Bは既知であるから、回転速度VL,VRが求まると、そのときの車体の旋回中心Pの位置が得られる。なお、この旋回中心Pの位置は、駆動輪2の中心Pdを原点としたときの位置である。これにより、スリップ量算出器81は、駆動輪2の理論上の回転速度VD1を幾何学的に算出することができる。
【0019】
また、スリップ量算出器81は、駆動輪用エンコーダ3からの回転速度信号SDに基づいて、駆動輪2の実際の回転速度VDを得る。そして、スリップ量算出器81は、駆動輪2の実際の回転速度VDと理論上の回転速度VD1との差をとり、スリップ量sを算出する。
【0020】
目標速度演算器82は、スリップ量算出器81が算出したスリップ量sから、所定の許容スリップ量s0を差し引いたものを比例積分演算する。目標速度演算器82はさらに、その演算結果の値を駆動輪2の最大回転速度から差し引いて、スリップが防止され得る目標回転速度Vを得る。ここで、許容スリップ量s0は、トラクション制御の要求精度に応じて適宜設定されるものである。また、比例積分演算に用いられるゲインは、当該演算によってスリップが防止され得る目標回転速度Vが求まるように、制御対象の諸特性に応じて適宜設定される。
【0021】
第1の目標トルク演算器83は、駆動輪用エンコーダ3からの回転速度信号SDに基づいて、駆動輪2の実際の回転速度VDを得る。第1の目標トルク演算器83は、駆動輪2の実際の回転速度VDと、目標速度演算器82が演算した目標回転速度Vとの差を比例積分演算して、第1の目標トルクT1を得る。
【0022】
トラクション制御部8はさらに、図1Bに示す如く、指示回転速度算出器84と、第2の目標トルク演算器85と、比較器86とを備えている。
【0023】
指示回転速度算出器84は、アクセル装置7から、アクセル角度に応じた指示回転速度信号SAを受ける。指示回転速度算出器84は、指示回転速度信号SAに基づき、そのときオペレータがアクセル装置7を介して指示している回転速度(指示回転速度)VAを算出する。
【0024】
第2の目標トルク演算器85は、駆動輪用エンコーダ3からの回転速度信号SDに基づいて、駆動輪2の実際の回転速度VDを得る。第2の目標トルク演算器85は、駆動輪2の実際の回転速度VDと、指示回転速度算出器84が算出した指示回転速度VAとの差を比例積分演算して、第2の目標トルクT2を得る。
【0025】
比較器86は、第1の目標トルク演算器83が演算した第1の目標トルクT1と、第2の目標トルク演算器86が演算した第2の目標トルクT2とを比較する。そして、比較器86は、値が小さい方の目標トルクを駆動輪2に対する指示トルクTとし、その指示トルクTに応じた指示トルク信号STをモータ6に対して送信する。
【0026】
[作用・効果]
上記のように構成されたトラクション制御システム1によれば、次のようにトラクション制御が実行される。
【0027】
まず、スリップが生じていない状態では、アクセル装置7からの指示回転速度VAを実現するためのトルク、つまり第2の目標トルク演算器85によって演算された第2の目標トルクT2が、モータ6に対する指示トルクTとされ、モータ6はこの指示トルクTに応じて駆動輪2を駆動する。
【0028】
そして、例えばアクセル角度一定の状態で、スリップが生じだすと(つまり駆動輪2の実際の回転速度VDと理論上の回転速度VD1とに差が生じだすと)、目標速度演算器82によって演算される目標回転速度Vは低下し始める(図3参照)。スリップ量sが増大するにつれて目標回転速度Vは低下し、それによって、第1の目標トルク演算器83によって演算される第1の目標トルクT1が低下する。
【0029】
第1の目標トルクT1が第2の目標トルクT2よりも小さくなると、モータ6に対する指示トルクTは第1の目標トルクT1となる。それゆえ、モータ6は、スリップが生じている間主に、この第1の目標トルクT1に応じて駆動輪2を駆動することになる。
【0030】
ここで、第1の目標トルクT1は、スリップ量sに応じて直接的に演算されたものではなく、スリップが防止され得る回転速度として目標速度演算器82が演算した目標回転速度Vを実現するトルクである。つまり、第1の目標トルクT1は、スリップが防止され得る回転速度を実現するトルクとして演算されている分、スリップ量sに応じて直接的に演算された場合と比較して、より安定した回転速度を生じさせることができる。
【0031】
したがって、トラクション制御システム1によれば、スリップし易い床面であっても、減速・加速が繰り返されるようなことなく、安定した速度でリーチ型フォークリフトを走行させることができる。
【0032】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は次のように変形して実施することができる。
トラクション制御システム1においては、理論上の駆動輪2の回転速度VD1を算出する際、左右の従動輪4L,5Lの回転速度差から旋回中心Pを求めたが、ポテンショメータ等により検出した駆動輪2の操舵角に基づいて旋回中心Pを求めてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係るリーチ型フォークリフトにおける駆動輪のトラクション制御システムの一例を示す概略図である。
【図2】理論上の駆動輪の回転速度の算出方法を説明するための図である。
【図3】図1のトラクション制御システムによる作用を説明するための図である。
【図4】従来のリーチ型フォークリフトの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
P 旋回中心
Pd 駆動輪の中心
s スリップ量
s0 許容スリップ量
SA 指示回転速度信号
SD,SL,SR 回転速度信号
ST 指示トルク信号
T 指示トルク
T1 第1の目標トルク
T2 第2の目標トルク
V 目標回転速度
VA 指示回転速度
VD 実際の回転速度
VD1 理論上の回転速度
VL,VR 回転速度
1 トラクション制御システム1
2 駆動輪
3 駆動輪用エンコーダ(駆動輪速度検出器)
4L,4R 従動輪
5L,5R 従動輪用エンコーダ(従動輪速度検出器)
6 モータ
7 アクセル装置
8 トラクション制御部
81 スリップ量算出器
82 目標速度演算器
83 第1の目標トルク演算器
84 指示回転速度算出器
85 第2の目標トルク演算器
86 比較器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の駆動輪と左右一対の従動輪とを備えたリーチ型フォークリフトにおける駆動輪のトラクション制御方法であって、
前記駆動輪の実際の回転速度と、前記従動輪の実際の回転速度を用いて算出された前記駆動輪の理論上の回転速度との差をとり、スリップ量を得るステップと、
前記スリップ量から所定の許容スリップ量を差し引いたものを比例積分演算し、その演算結果の値を前記駆動輪の最大回転速度から差し引いて、スリップが防止され得る目標回転速度を得るステップと、
前記駆動輪の実際の回転速度と前記目標回転速度との差を比例積分演算して、第1の目標トルクを得るステップと、
前記第1の目標トルクと、アクセル角度に基づいて算出された指示回転速度と前記駆動輪の実際の回転速度との差を比例積分演算して得られた第2の目標トルクとを比較し、値の小さい方を前記駆動輪に対する指示トルクとするステップと、
を含んでいることを特徴とする駆動輪のトラクション制御方法。
【請求項2】
単一の駆動輪と左右一対の従動輪とを備えたリーチ型フォークリフトにおける駆動輪のトラクション制御システムであって、
前記駆動輪の実際の回転速度を検出する駆動輪速度検出器と、
前記従動輪の実際の回転速度を検出する従動輪速度検出器と、
前記駆動輪速度検出器によって検出された前記駆動輪の実際の回転速度と、前記従動輪速度検出器によって検出された前記従動輪の実際の回転速度を用いて算出された前記駆動輪の理論上の回転速度との差をとり、スリップ量を得るスリップ量算出器と、
前記スリップ量算出器によって算出された前記スリップ量から所定の許容スリップ量を差し引いたものを比例積分演算し、その演算結果の値を前記駆動輪の最大回転速度から差し引いて、スリップが防止され得る目標回転速度を得る目標速度演算器と、
前記駆動輪速度検出器によって検出された前記駆動輪の実際の回転速度と、前記目標速度演算器によって演算された前記目標回転速度との差を比例積分演算して、第1の目標トルクを得る第1の目標トルク演算器と、
アクセル角度に基づいて算出された指示回転速度と、前記駆動輪速度検出器によって検出された前記駆動輪の実際の回転速度との差を比例積分演算して、第2の目標トルクを得る第2の目標トルク演算器と、
前記第1の目標トルク演算器によって演算された前記第1の目標トルクと、前記第2の目標トルク演算器によって演算された前記第2の目標トルクとを比較し、値の小さい方を前記駆動輪に対する指示トルクとする比較器と、
を含んでいることを特徴とする駆動輪のトラクション制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−37079(P2010−37079A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204176(P2008−204176)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000232807)日本輸送機株式会社 (320)
【Fターム(参考)】