説明

レーダー装置

【課題】車両に搭載されるレーダー装置に必要とされる性能を満たしながら、短時間で測定を完了することができるレーダー装置を提供する。
【解決手段】制御処理部は、第1の測定方式による測定を開始し、対象物が測定範囲内に存在するとき、対象物との相対位置及び相対速度を測定する。そして、制御処理部は、第1の測定方式によって測定した対象物の相対位置に基づいて再測定範囲を決定する。制御処理部は、再測定範囲を決定すると、再測定範囲のみを第1の測定方式よりも分解能の高い第2の測定方式で測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダー装置に関し、より特定的には、放射した電磁波と当該電磁波の反射波とに基づき、対象物との相対位置及び相対速度を測定するレーダー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両によって引き起こされる事故などを防止するために、車両の周囲の対象物を測定するレーダー装置が開発され、実用化されている。車両に搭載するのに適している従来のレーダー装置として、例えば、特許文献1に記載されるようなパルスレーダー装置が挙げられる。
【0003】
特許文献1に記載のパルスレーダー装置は、パルス状の電磁波を送信し、送信された電磁波と、送信された電磁波が対象物によって反射されたパルス状の反射波とに基づいて測定対象との相対距離や相対速度などを測定するパルスレーダー装置である。特許文献1に記載されているパルスレーダー装置は、予め定められた数のパルス状の反射波のレベルを積分し、積分した反射波のレベルに基づいて測定をしている。反射波のレベルを積分することによって、積分回数に応じて最大測定範囲が広がることが一般的に知られているからである。また、一般的なパルスレーダー装置において、送信する電磁波のパルス幅を短くすることにより、距離分離能が高まることも一般的に知られている。したがって、車両に搭載されるパルスレーダー装置に必要とされる距離分離能と最大測定範囲とを満たすために、送信する電磁波のパルス幅を短くし、受信したパルス状の反射波を予め定められた回数だけ積分することが従来からされている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のような従来のレーダー装置において、距離分離能を高くすると1度の測定に必要な時間が増大してしまう。距離分離能を高くすると、必要な測定範囲の全てを測定するための走査回数が増加するためである。さらに、従来のレーダー装置では、積分回数を多くすることによっても、1度の測定に必要な時間が増大してしまう。積分回数を多くすると、積分回数の多さに応じて受信しなければならない反射波の数が増加するためである。つまり、従来のレーダー装置において、距離分離能の高さと最大測定範囲の広さを両立させようとすると、1度の測定に必要な時間が長くなってしまう。
【特許文献1】特開2003−329764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、車両に搭載されるレーダー装置に必要とされる性能を満たしながら、短時間で測定を完了することができるレーダー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために以下に示す特徴を有する。
【0007】
第1の発明は、放射手段によって放射された電磁波と受信手段によって受信された反射波とに基づき、対象物との相対位置及び相対速度をそれぞれ測定するレーダー装置であって、電磁波と反射波とに基づき、対象物との相対位置及び相対速度をそれぞれ測定する第1の測定手段と、第1の測定手段によって相対位置が測定されたとき、電磁波と反射波とに基づき、当該相対位置を含む予め定められた測定範囲のみを走査し、第1の測定手段よりも高い分解能で対象物との相対位置及び相対速度をそれぞれ測定する第2の測定手段とを備える。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、第2の測定手段は、第1の測定手段によって相対位置が測定された対象物が予め定められた相対速度よりも速い相対速度で接近しているとき、当該対象物との相対位置及び相対速度を即座に測定する。
【0009】
第3の発明は、第1乃至第2のいずれか1つの発明において、反射波の通過周波数帯域を制限する濾波手段と、第1の測定手段が測定をするとき、濾波手段の通過周波数帯域を予め定められた狭帯域に設定し、第2の測定手段が測定をするとき、濾波手段の通過周波数帯域を予め定められた広帯域に設定する設定手段とをさらに備え、第1の測定手段及び第2の測定手段のそれぞれは、電磁波と設定手段によって設定された通過周波数帯域に周波数帯域を制限された反射波とに基づき、対象物との相対位置を測定する。
【0010】
第4の発明は、第3の発明において、反射波を受信する度に、濾波手段によって通過周波数帯域が制限された当該反射波のレベルを予め設定された回数ずつ積算する積算手段と、第1の測定手段によって測定された相対位置に応じて積算手段の積算回数を設定する積算回数設定手段とを含み、第2の測定手段は、電磁波と積算手段によってレベルが積算された反射波とに基づき、対象物との相対位置を測定する。
【0011】
第5の発明は、第1乃至第4のいずれか1つの発明において、第1の測定手段は、FM−CW方式を用いて対象物との相対距離及び相対速度をそれぞれ測定する。
【0012】
第6の発明は、第1乃至第4のいずれか1つの発明において、第1の測定手段は、FSK方式を用いて対象物との相対距離及び相対速度をそれぞれ測定する。
【0013】
第7の発明は、第5乃至第6のいずれか1つの発明において、受信手段は、反射波を受信する複数のアンテナを含み、第1の測定手段は、複数のアンテナによってそれぞれ受信された複数の反射波に基づき、対象物の相対位置の方向を測定する。
【0014】
第8の発明は、第7の発明において、第1の測定手段は、複数のアンテナによってそれぞれ受信された複数の反射波の位相に基づき、対象物の相対位置の方向を測定する。
【0015】
第9の発明は、第7の発明において、第1の測定手段は、複数のアンテナによってそれぞれ受信された複数の反射波のレベルに基づき、対象物の相対位置の方向を測定する。
【0016】
第10の発明は、第1乃至第9のいずれか1つの発明において、第2の測定手段は、パルスドップラー方式を用いて対象物との相対距離を測定する。
【0017】
第11の発明は、第1乃至第9のいずれか1つの発明において、第2の測定手段は、PSK方式を用いて対象物との相対距離を測定する。
【0018】
第12の発明は、第10乃至第11のいずれか1つの発明において、受信手段は、反射波を受信する複数のアンテナを含み、第2の測定手段は、複数のアンテナによってそれぞれ受信された複数の反射波に基づき、対象物との相対位置の方向を測定する。
【0019】
第13の発明は、第12の発明において、第2の測定手段は、複数のアンテナによってそれぞれ受信された複数の反射波の位相に基づき、位相比較モノパルス方式を用いて、対象物との相対位置の方向を測定する。
【0020】
第14の発明は、第12の発明において、第2の測定手段は、複数のアンテナによってそれぞれ受信された複数の反射波のレベルに基づき、振幅比較モノパルス方式を用いて、対象物との相対位置の方向を測定する。
【0021】
第15の発明は、第1乃至第14のいずれか1つの発明において、本発明に係るレーダー装置を移動体に搭載する。
【0022】
第16の発明は、第15の発明において、本発明に係るレーダー装置を車両に搭載する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、車両に搭載されるレーダー装置に必要とされる性能を満たしながら、短時間で測定を完了することができるレーダー装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態におけるレーダー装置1の概略構成を示すブロック図である。図1に示すレーダー装置1は、基準信号発生部101と、変調部102と、分岐部103と、放射部104と、第1の受信部105aと、第2の受信部105bと、90度移相部106と、第1の混合部107aと、第2の混合部107bと、第3の混合部107cと、第4の混合部107dと、第1の可変帯域制限フィルタ108aと、第2の可変帯域制限フィルタ108bと、第3の可変帯域制限フィルタ108cと、第4の可変帯域制限フィルタ108dと、制御処理部109とを備える。以下、本実施形態に係るレーダー装置1の各構成要素の動作の概要を説明する。
【0025】
基準信号発生部101は、制御処理部109から与えられる指示に応じた周波数の基準信号を生成する。
【0026】
変調部102は、制御処理部109から与えられる指示に応じて、基準信号発生部101によって生成された基準信号を変調した信号を生成する。
【0027】
分岐部103は、制御処理部109から与えられる指示に応じたタイミングで、変調部102によって生成された信号を放射部104、90度移相部106、第1の混合部107a及び第3の混合部107cへそれぞれ分配する。
【0028】
放射部104は、分岐部103によって分配された信号を電磁波として放射する。
【0029】
第1の受信部105a及び第2の受信部105bは、互いに略同一の水平線上に配置され、放射部104によって放射された電磁波が対象物によって反射された反射波をそれぞれ受信する。
【0030】
90度移相部106は、分岐部103によって分配された信号の位相を90度だけずらした信号を生成する。より詳細には、90度移相部106は、分岐部103によって分配された信号の位相を90度だけ進めた信号又は遅らせた信号を生成する。
【0031】
第1の混合部107a〜第4の混合部107dは、第1の受信部105a及び第2の受信部105bによってそれぞれ受信された反射波と、分岐部103によって分配された信号、又は、90度移相部106によって生成された信号とをそれぞれ混合した信号を生成する。
【0032】
第1の可変帯域制限フィルタ108a〜第4の可変帯域制限フィルタ108dは、それぞれ第1の混合部107a〜第4の混合部107dによって生成された信号の通過周波数帯域を制限し、制御処理部109から指示される周波数帯域の信号のみを通過させる。
【0033】
制御処理部109は、対象物との相対位置及び相対速度を、第1の測定方式及び第2の測定方式を切り換えながらそれぞれ測定する。より具体的には、制御処理部109は、第1の測定方式を用いて対象物との相対位置及び相対速度を測定し、第1の測定方式による測定結果に基づいて、対象物の近傍を第1の測定方式よりも分解能の高い第2の測定方式を用いて測定する。制御処理部109は、第1の測定方式と第2の測定方式とを切り換えながら対象物との相対位置及び相対速度をそれぞれ測定するために、上述した各構成要素に対してそれぞれ指示を与える。第1の測定方式、第2の測定方式及び制御処理部109の詳細な説明については、後述する。
【0034】
以上が、本実施形態に係るレーダー装置1の各構成要素の概要の説明である。尚、本発明では、対象物との相対距離と対象物が存在する方向(角度)とを対象物との相対位置として測定するものとする。対象物が存在する方向とは、レーダー装置1から見た対象物の水平面上の相対位置の方向に相当する。
【0035】
次に、本実施形態に係るレーダー装置1に用いられる第1の測定方式について説明をする。図2は、第1の測定方式において、放射部104から放射される電磁波の周波数と、それぞれの周波数の電磁波を放射するタイミングとを説明する図である。
【0036】
第1の測定方式では、放射部104から放射される電磁波の周波数を図2に示すように互いに異なる複数の周波数に段階的に切り換えることにより、対象物との相対距離、相対速度及び対象物が存在する方向をそれぞれ測定する。本実施形態の説明では、一例として、切り換える周波数の数を3つとする。また、この3つの周波数をそれぞれfr1、fr2及びfr3とする。
【0037】
レーダー装置1が第1の測定方式で測定するときの電磁波を放射するための動作について説明をする。基準信号発生部101は、制御処理部109から与えられる指示に応じて、第1の測定方式における電磁波の搬送波の周波数として予め定められた周波数の基準信号を生成する。
【0038】
変調部102は、制御処理部109から与えられる指示に応じたタイミング及び間隔で、基準信号発生部101によって生成される基準信号を変調した信号を生成することにより、図2に示されるようなタイミング及び間隔tsで互いに異なる周波数に切り換わる信号を生成する。尚、それぞれの周波数の信号を生成する間隔tsは、必ずしも図2に示すように一定でなくてもよい。
【0039】
分岐部103は、制御処理部109から与えられる指示に応じて、放射部104、90度移相部106、第1の混合部107a及び第3の混合部107cのそれぞれに対して、変調部102によって生成された信号を分配する。より詳細には、分岐部103は、第1の測定方式による測定をするときには、変調部102によって生成された信号を放射部104、90度移相部106、第1の混合部107a及び第3の混合部107cのそれぞれに対して常に分配する。
【0040】
放射部104は、分岐部103によって分配された信号を電磁波として放射する。これにより、図2に示すように互いに異なる周波数に切り換わる電磁波が、放射部104から放射される。
【0041】
次に、レーダー装置1が第1の測定方式による測定時において反射波を受信するときの動作について説明をする。放射部104から放射された電磁波が対象物で反射した反射波は、第1の受信部105a及び第2の受信部105bによってそれぞれ受信される。
【0042】
90度移相部106は、分岐部103によって分配される信号の位相を90度だけずらした信号を生成する。
【0043】
第1の混合部107aは、分岐部103によって分配される信号と、第1の受信部105aによって受信される反射波とを混合した信号を生成する。第2の混合部107bは、90度移相部106によって生成された信号と第1の受信部105aによって受信された反射波とを混合した信号を生成する。第3の混合部107cは、分岐部103によって分配される信号と、第2の受信部105bによって受信される反射波とを混合した信号を生成する。第4の混合部107dは、90度移相部106によって生成された信号と第2の受信部105bによって受信された反射波とを混合した信号を生成する。
【0044】
つまり、第1の測定方式による測定をしているときにおいて、第1の混合部107a〜第4の混合部107dが反射波と混合する信号の周波数は、放射部104から放射される電磁波の周波数と等しくなる。より具体的には、放射部104から周波数fr1の電磁波が放射されているときは、第1の混合部107a〜第4の混合部107dが反射波と混合する信号の周波数は周波数fr1となる。また、放射部104から周波数fr2の電磁波が放射されているときは、第1の混合部107a〜第4の混合部107dが反射波と混合する信号の周波数は周波数fr2となる。また、放射部104から周波数fr3の電磁波が放射されているときは、第1の混合部107a〜第4の混合部107dが反射波と混合する信号の周波数は周波数fr3となる。
【0045】
尚、第1の混合部107a〜第4の混合部107dによって生成された信号は、それぞれの混合部が取得した信号の差周波数を有する信号(ビート周波数信号)となる。
【0046】
第1の可変帯域制限フィルタ108a〜第4の可変帯域制限フィルタ108dは、第1の混合部107a〜第4の混合部107dによって生成された信号の内、制御処理部109から指示される第1の測定方式に適した周波数帯域の信号のみをそれぞれ通過させる。尚、第1の測定方式に適した周波数帯域とは、放射部104から放射された電磁波が対象物で反射されることによって生じるドップラーシフトのシフト量の範囲の他に、最大測定範囲、距離分解能及び速度分解能などを考慮して予め定められる周波数帯域、或いは、相対的に狭い狭帯域であってもよい。
【0047】
制御処理部109は、第1の可変帯域制限フィルタ108a〜第4の可変帯域制限フィルタ108dを通過した信号に対してそれぞれA/D変換処理した後、IQ検波(直交検波)やFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)処理をする。
【0048】
より詳細には、制御処理部109は、A/D変換処理をした信号の内、第1の可変帯域制限フィルタ108a及び第2の可変帯域制限フィルタ108bをそれぞれ通過した第1の信号の組に基づいてIQ検波をし、IQ検波することによって得られた信号に対してFFT処理をする。また、制御処理部109は、A/D変換処理をした信号の内、第1の可変帯域制限フィルタ108c及び第2の可変帯域制限フィルタ108dをそれぞれ通過した第2の信号の組に基づいてIQ検波をし、IQ検波することによって得られた信号に対してFFT処理をする。そして、制御処理部109は、これらの処理結果に基づいて、さらに演算処理をすることにより対象物との相対距離、相対速度及び対象物が存在する方向をそれぞれ測定する。
【0049】
尚、制御処理部109は、上述した第1及び第2の信号の組のそれぞれに対して、従来から知られている2次元FFT処理などをすることによっても、上述したようにそれぞれの組に対してIQ検波をすることによって得られた信号に対してFFT処理をしたときと同じ処理結果を得ることができる。このように同じ処理結果が得られることは、第2の測定方式で測定をするときも同様である。
【0050】
第1の測定方式における対象物との相対距離、相対速度及び対象物が存在する方向の内、対象物との相対距離を測定するための制御処理部109の演算処理について説明をする。
【0051】
本実施形態に係るレーダー装置1は、第1の受信部105a及び第2の受信部105bの2つの受信部を備えている。第1の測定方式における相対距離の測定方法では、レーダー装置1が備えている受信部の内、いずれか一方の受信部のみによって受信された反射波に基づいて相対距離を測定することができる。本実施形態の説明では、第1の受信部105aによって受信された反射波に基づいて相対速度を測定する場合を一例として説明する。
【0052】
第1の測定方式において対象物との相対距離を測定するための制御処理部109の演算処理について説明をするために、第1の受信部105aによって受信される反射波について始めに説明をする。第1の測定方式において、周波数fr1及びfr2の電磁波が対象物で反射し、第1の受信部105aにおいて受信される反射波の一例を示す数式が、それぞれ式(1)及び式(2)である。
【0053】
【数1】

【数2】

【0054】
上記式(1)及び式(2)において、Vfr1及びVfr2が、それぞれ周波数fr1及び周波数fr2で放射された電磁波が対象物で反射した反射波の一例を示す。また、Rは対象物との相対距離である。また、fd1及びfd2は、それぞれ周波数fr1及びfr2で放射された電磁波が対象物で反射した反射波のドップラー周波数である。そして、cは光速である。
【0055】
第1の混合部107a及び第2の混合部107bは、第1の受信部105a及び第2の受信部105bによって受信された反射波と、分岐部103から分配された信号や90度移相部106によって生成された信号とを混合する。
【0056】
より具体的には、第1の混合部107aは、放射部104から周波数fr1の電磁波が放射されているとき、分岐部103によって分配される周波数fr1の信号と、周波数fr1の信号に対する反射波Vfr1とを混合した信号を生成する。また、第2の混合部107bは、放射部104から周波数fr1の電磁波が放射されているとき、90度移相部106によって生成された信号(周波数fr1)と、周波数fr1の信号に対する反射波Vfr1とを混合した信号を生成する。一方、第1の混合部107aは、放射部104から周波数fr2の電磁波が放射されているとき、分岐部103によって分配される周波数fr2の信号と、周波数fr2の信号に対する反射波Vfr2とを混合した信号を生成する。また、第2の混合部107bは、放射部104から周波数fr2の電磁波が放射されているとき、90度移相部106によって生成された信号(周波数fr2)と、周波数fr2の信号に対する反射波Vfr2とを混合した信号を生成する。
【0057】
周波数fr1及び周波数fr2の電磁波が放射されているそれぞれのときにおいて、第1の混合部107aによって生成された信号の低周波成分を示す数式の一例が、それぞれ式(3)及び式(4)である。
【0058】
【数3】

【数4】

【0059】
式(3)の信号Vd1は、放射部104から周波数fr1の電磁波が放射されているときに第1の混合部107aによって生成された信号を示す。そして、式(4)の信号Vd2は、放射部104から周波数fr2の電磁波が放射されているときに第1の混合部107aによって生成された信号を示す。尚、第2の混合部107bによって生成される信号の数式の一例も同様に式(3)及び式(4)で示される。ただし、本実施形態では、第1の混合部107aが分岐部103から分岐された信号と反射波とを混合するのに対して、第2の混合部107bは90度移相部106によって生成された信号と反射波とを混合する点が異なる。しかしながら、制御処理部109は、この異なる点も考慮した上で後述するFFT処理をするため、誤った測定結果を得ることはない。
【0060】
信号Vd1と信号Vd2との位相差は、式(3)及び式(4)から導くことができる。信号Vd1と信号Vd2との位相差を示す数式の一例を式(5)として示す。尚、式(5)は、式(3)及び式(4)におけるドップラー周波数fd1とドップラー周波数fd2とがほぼ等しいと見なすことにより導出される。ドップラー周波数fd1とドップラー周波数fd2とがほぼ等しいと見なせる理由は、fd1/fd2=fr1/fr2であり、fr1とfr2との差は、各々の値と比較して十分に小さいため、略等しいと考えることができるからである。
【0061】
【数5】

【0062】
そして、式(5)を変形することによって以下に示す式(6)を導出することができる。
【0063】
【数6】

式(6)から明らかなように、信号Vd1と信号Vd2との位相差Δφを求めることができれば、対象物との相対距離Rを測定することができる。
【0064】
位相差Δφは、第1の混合部107a及び第2の混合部107bによってそれぞれ混合された信号に基づいてIQ検波及びFFT処理をすることにより求めることができる。より詳細には、制御処理部109は、周波数fr1の信号が放射部104から放射されている期間において、第1の可変帯域制限フィルタ108a及び第2の可変帯域制限フィルタ108bをそれぞれ通過した信号に基づいてIQ検波及びFFT処理をすることにより、信号Vd1の位相を求める。ここで、信号Vd1の位相を位相φ1とする。さらに、制御処理部109は、周波数fr2の信号が放射部104から放射されている期間において、第1の可変帯域制限フィルタ108a及び第2の可変帯域制限フィルタ108bをそれぞれ通過した信号に基づいてIQ検波及びFFT処理をすることにより、信号Vd2の位相を求める。ここで、信号Vd2の位相を位相φ2とする。制御処理部109は、位相φ1と位相φ2との差を、上述した位相差Δφとして算出する。そして、算出した位相差Δφを式(6)に代入することにより対象物との相対距離を演算して測定する。
【0065】
制御処理部109は、信号Vd1と信号Vd2との位相差Δφを求めるときと同様に、周波数fr2の電磁波に対する反射波及び周波数fr3の電磁波に対する反射波に基づいてそれぞれ生成された2つの信号の位相差を算出することによっても対象物との相対距離を測定することができる。また、周波数fr1の電磁波に対する反射波及び周波数fr3の電磁波に対する反射波に基づいてそれぞれ生成された2つの信号の位相差を算出することによっても対象物との相対距離を測定することができる。以下、周波数fr1の電磁波に対する反射波及び周波数fr2の電磁波に対する反射波に基づいてそれぞれ生成された信号の位相差をΔφ1、周波数fr2の電磁波に対する反射波及び周波数fr3の電磁波に対する反射波に基づいてそれぞれ生成された信号の位相差をΔφ2、周波数fr1の電磁波に対する反射波及び周波数fr3の電磁波に対する反射波に基づいてそれぞれ生成された信号の位相差をΔφ3とする。また、位相差Δφ1〜Δφ3を用いて求めた相対距離をそれぞれ相対距離R1〜R3とする。
【0066】
制御処理部109は、図2に示すように放射部104から放射される電磁波の周波数を切り換えながら、上述した相対距離R1〜R3をそれぞれ求める。そして、制御処理部109は、相対距離R1〜R3を平均した相対距離を算出し、平均した相対距離を対象物とのより正確な相対距離とする。これが、第1の測定方式における対象物との相対距離の測定の方法の説明である。次に、第1の測定方式における対象物との相対速度の測定の方法を説明する。
【0067】
第1の測定方式では、以下に示す式(7)によって対象物との相対速度を測定することができる。
【0068】
【数7】

【0069】
式(7)から明らかなように、ドップラー周波数fd1又はドップラー周波数fd2を求めることができれば対象物との相対速度を測定することができる。ドップラー周波数fd1及びドップラー周波数fd2は、上述した信号Vd1及び信号Vd2に対してそれぞれFFT処理をすることにより求めることができる。より詳細には、制御処理部109は、IQ検波をした信号Vd1及び信号Vd2に対してそれぞれFFT処理をしてドップラー周波数fd1又はドップラー周波数fd2を求める。そして、制御処理部109は、求めたドップラー周波数fd1又はドップラー周波数fd2を式(7)に代入して対象物との相対速度を測定する。
【0070】
以上が、第1の測定方式における対象物との相対距離及び相対速度の測定方法の説明である。尚、制御処理部109が、第1の測定方式で相対速度を測定するときにおいて、ドップラー周波数を求めるためのIQ検波をした信号Vd1及びVd2として、第1の測定方式において相対距離を測定するときにIQ検波をした信号をそれぞれ用いてもよいことは言うまでもない。
【0071】
また、上述した対象物との相対距離及び相対速度の測定方法は、一般的に、FSK方式と呼ばれることもある。ただし、第1の測定方式として用いることができる方法は、FSK方式に限られるものではなく、FM−CW方式、或いは、2周波CW方式を用いて対象物との相対距離や相対速度などを測定してもよい。
【0072】
また、上述したドップラー周波数fd1及びドップラー周波数fd2は、それぞれ周波数fr1及び周波数fr2の電磁波が放射部104から放射されているときにおける反射波に基づいて生成された信号Vd1及びVd2のドップラー周波数である。これと同様に、制御処理部109は、第1の測定方式による測定時において、周波数fr3の電磁波が放射部104から放射されているときにおける反射波に基づいて生成された信号のドップラー周波数を用いても対象物との相対速度を求めることができるのは言うまでもない。
【0073】
また、上述した第1の測定方式における相対距離及び相対速度の測定の方法では、周波数fr1と周波数fr2との周波数差及び周波数fr2と周波数fr3との周波数差をそれぞれ数百kHzまで縮めたとしても、数百メートルの広い範囲を最大測定範囲とすることができる。周波数差を縮めることができるということは、基準信号発生部101によって生成された基準信号を変調部102によって変調するときに必要となるVCO(Voltage Controlled Oscillator:電圧制御発振器)の発振可能な周波数帯域が狭くてもよいことを示す。そして、発振可能な周波数帯域が狭いVCOは一般的に低コストで実現することができる。つまり、上述した第1の測定方式における相対距離及び相対速度の測定の方法によれば、低コストで最大測定範囲の広い測定をすることも可能である。
【0074】
次に、第1の測定方式における対象物が存在する方向の測定方法について説明をする。図3は、第1の測定方式における対象物が存在する方向を測定するときの方法を説明する図である。尚、図3には、図1に示すブロック図の一部を引用している。また、第1の測定方式では、上述したように3つの周波数(fr1、fr2及びfr3)を切り換えながら電磁波を放射して測定をするが、以下の説明では、説明の便宜のため、1つの周波数fr1の電磁波を放射している期間において対象物が存在する方向を測定する場合を一例として説明する。
【0075】
放射部104から放射された周波数fr1の電磁波が対象物で反射した反射波は、図3に示すように第1の受信部105a及び第2の受信部105bによってそれぞれ受信される。第1の受信部105aによって受信される反射波をRf1とし、第2の受信部105bによって受信される反射波をRf2とする。
【0076】
ここで、図3に示すように角度ψの方向から反射波が到来する、すなわち、角度ψの方向に対象物が存在すると仮定すると、第1の受信部105a及び第2の受信部105bのそれぞれから対象物までの距離には、距離bだけ差が生じる。したがって、第1の受信部105aによって受信される反射波Rf1と第2の受信部105bによって受信される反射波Rf2との間には、距離bに応じた位相差、換言すれば、第1の受信部105aと第2の受信部105bとの間隔dに応じた位相差が生じる。この位相差を位相差Δθとする。そして、位相差Δθを求めることができれば、以下に示す式(8)により、角度ψ、すなわち、対象物が存在する方向を算出して測定することができる。
【0077】
【数8】

【0078】
この位相差Δθは、反射波Rf1と反射波Rf2に対してそれぞれIQ検波及びFFT処理をすることによって求めることができる。反射波Rf1と反射波Rf2に対するIQ検波は、90度移相部106及び第1の混合部107a〜第4の混合部107dを用いてすることができる。
【0079】
より詳細には、上述したように第1の混合部107aは、反射波Rf1と分岐部103によって分配された周波数fr1の信号とを混合した信号を生成する。また、第2の混合部107bは、反射波Rf1と90度移相部106によって生成された信号(周波数fr1)とを混合した信号を生成する。また、第3の混合部107cは、反射波Rf2と分岐部103によって分配された周波数fr1の信号とを混合した信号を生成する。また、第4の混合部107dは、反射波Rf2と90度移相部106によって生成された信号(周波数fr1)とを混合した信号を生成する。
【0080】
そして、制御処理部109は、第1の混合部107a〜第4の混合部107dのそれぞれによって生成された信号を第1の可変帯域制限フィルタ108a〜第4の可変帯域制限フィルタ108dをそれぞれ介して取得する。そして、制御処理部109は、90度移相部106、第1の混合部107a〜第4の混合部107dからなる回路を介して反射波Rf1及び反射波Rf2に基づいてそれぞれ生成された信号を取得し、取得した信号に基づいて上述したようにIQ検波及びFFT処理をすることにより、位相差Δθを求める。そして、制御処理部109は、求めた位相差Δθを式(8)に代入して、対象物が存在する方向を算出して測定する。
【0081】
以上が、第1の測定方式において、対象物が存在する方向を測定する方法の説明である。尚、上述した第1の測定方式において対象物の存在する方向を測定する方法の説明では、第1の受信部105a及び第2の受信部105bによってそれぞれ受信された反射波の位相差に基づいて、対象物の存在する方向を測定するものとした。しかしながら、本実施形態に係るレーダー装置1は、第1の受信部105a及び第2の受信部105bによってそれぞれ受信された反射波のレベルの差に基づいて、対象物の存在する方向を測定してもよい。
【0082】
また、上述した第1の測定方式における対象物が存在する方向を測定する方法では、第1の受信部105a及び第2の受信部105bの2つの受信部によって受信された反射波に基づいて測定する場合を一例として説明した。しかしながら、本実施形態に係るレーダー装置1において対象物が存在する方向を測定するときには、3以上の複数の受信部を用いて、対象物が存在する方向を測定してもよい。
【0083】
次に、本実施形態に係るレーダー装置1に用いられる第2の測定方式について説明をする。図4は、第2の測定方式において、レーダー装置1が対象物との相対位置及び相対速度をそれぞれ測定するための動作を説明するタイミングチャートである。より詳細には、図4(a)は、放射部104が間欠的な波形の電磁波を放射するタイミングを示す。図4(b)は、90度移相部106、第1の混合部107a及び第3の混合部107cへの信号の分配タイミングを示す。図4(c)は、第1の受信部105a又は第2の受信部105bが反射波を受信するタイミングの一例を示す。図4(d)は、分岐部103によって分配された信号と、第1の受信部105a及び第2の受信部105bの少なくともいずれか一方によって受信された反射波とをそれぞれ混合することによって生成された信号のレベル(相関)を示す。
【0084】
レーダー装置1が第2の測定方式で測定するときの電磁波を放射するための動作について説明をする。基準信号発生部101は、制御処理部109から与えられる指示に応じて、第2の測定方式における搬送波の周波数として予め定められた周波数の基準信号を生成する。
【0085】
変調部102は、第2の測定方式による測定をしているときは、制御処理部109の指示に応じて、基準信号発生部101によって生成された基準信号を変調せずに分岐部103へ伝送する。
【0086】
分岐部103は、図4(a)に示すように、制御処理部109から与えられる指示に応じて、変調部102から伝送される信号を、放射間隔Hkの開始タイミングが到来する度に間隔Phで放射部104に分配する。尚、放射部104に分配される基準信号を図4(a)に示すように間欠的な波形にするためには、分岐部103の内部に設けられている基準信号の伝送経路上にスイッチング回路を組み込み、制御処理部109からの指示に応じて、分岐部103が当該スイッチング回路の開状態と閉状態とを図4(a)に示すタイミングと間隔で切り換えることにより、連続的な波形の基準信号を間欠的に放射部104へ伝送してもよい。また、予め定められたタイミングで生成される矩形パルスやガウスパルスと基準信号とを混合することにより間欠的な波形の信号を生成してもよい。
【0087】
放射部104は、分岐部103から信号を分配される度に、分配された信号を電磁波として放射する。これにより、図4(a)に示すタイミング(放射間隔Hkの開始タイミング)と間隔Phで、間欠的な波形の電磁波が放射部104から放射される。
【0088】
次に、レーダー装置1が第2の測定方式による測定時において反射波を受信するときの動作について説明をする。放射部104から放射された電磁波が対象物で反射した反射波は、第1の受信部105a及び第2の受信部105bによってそれぞれ受信される。
【0089】
分岐部103は、制御処理部109から与えられる指示に応じて、図4(b)に示すように時間差td1〜時間差td4のそれぞれの開始タイミングが到来したとき、予め定められた間隔Bhで変調部102によって生成された信号を90度移相部106、第1の混合部107a及び第3の混合部107cへそれぞれ分配する。
【0090】
時間差td1〜時間差td4は、90度移相部106、第1の混合部107a及び第3の混合部107cへ繰り返し分配される信号が、放射部104から電磁波が放射される度に長くなるようにそれぞれ予め定められている。より具体的には、始めに90度移相部106、第1の混合部107a及び第3の混合部107cへ信号が分配されるタイミングは、放射部104から電磁波が放射される開始タイミング、すなわち、間隔Phの開始タイミングから時間差td1が経過したときである。そして、2度目に90度移相部106、第1の混合部107a及び第3の混合部107cへ信号が分配されるタイミングは、間隔Phの開始タイミングから時間差td2が経過したときである。この時間差td2は、時間差td1の2倍の長さとなる。そして、3度目に90度移相部106、第1の混合部107a及び第3の混合部107cへ信号が分配されるタイミングは、間隔Phの開始タイミングから時間差td3が経過したときである。この時間差td3は、時間差td1の3倍の長さとなる。そして、4度目に90度移相部106、第1の混合部107a及び第3の混合部107cへ信号が分配されるタイミングは、間隔Phの開始タイミングから時間差td4が経過したときである。この時間差td4は、時間差td1の4倍の長さとなる。
【0091】
そして、5度目に90度移相部106、第1の混合部107a及び第3の混合部107cへ信号が分配されるタイミングは、間隔Phの開始タイミングから時間差td1になる。すなわち、放射部104へ信号が4度分配されると、次の時間差は、始めの時間差td1となる。つまり、本実施形態に係るレーダー装置1は、一例として、第2の測定方式による測定時に、4度の電磁波の放射と、4度の90度移相部106、第1の混合部107a及び第3の混合部107cへの信号の分配とをするのに必要な期間を1つの周期Tとして、当該周期Tにおける動作を繰り返す。尚、分岐部103が、90度移相部106、第1の混合部107a及び第2の混合部107cへ信号を分配するタイミングを図4(b)に示すように変化させる理由については後述する。
【0092】
90度移相部106は、分岐部103によって分配される信号の位相を90度だけずらした信号を生成する。
【0093】
第1の混合部107a〜第4の混合部107dのそれぞれは、反射波と分岐部103によって分配される信号とを混合した信号を生成する。尚、以下の説明では、上述した1つの周期Tにおいて、2度目に放射部104へ信号を分配してから、時間差td2が経過したときに、第1の受信部105a及び第2の受信部105bによって対象物で反射した反射波が受信されるものとして説明を続ける。
【0094】
第1の可変帯域制限フィルタ108a〜第4の可変帯域制限フィルタ108dは、それぞれ第1の混合部107a〜第4の混合部107dによって生成された信号の内、制御処理部109から指示され、予め定められた第2の測定方式に適した周波数帯域の信号のみを通過させる。
【0095】
制御処理部109は、第1の可変帯域制限フィルタ108a〜第4の可変帯域制限フィルタ108dを通過した信号を取得してA/D変換処理をする。そして、制御処理部109は、この処理結果を用いて、第1の測定方式とは異なる処理をさらにすることにより、第2の測定方式で対象物との相対位置、相対速度及び対象物が存在する方向をそれぞれ測定する。
【0096】
次に、第2の測定方式において対象物との相対距離を測定するための制御処理部109の演算処理について説明する。尚、第2の測定方式において対象物との相対速度及び対象物が存在する方向を測定するための制御処理部109の演算処理については後述する。
【0097】
第2の測定方式では、電磁波が1度放射されてから当該電磁波の反射波を受信するまでの時間に基づいて対象物との相対距離を測定する。この時間をΔtdとしたときに、対象物との相対距離を求めるための数式の一例を式(9)として以下に示す。
【0098】
【数9】

【0099】
本実施形態では、時間Δtdを求めるために、分岐部103が、90度移相部106、第1の混合部107a及び第3の混合部107cへ信号を分配するタイミングを上述したように時間差td1〜td4へそれぞれ変化させる。この理由について説明する。
【0100】
本実施形態に係るレーダー装置1では、上述したように分岐部103によって分配される信号と、第1の受信部105a及び第1の受信部105bによってそれぞれ受信された反射波とをそれぞれ混合した信号が、第1の混合部107a〜第4の混合部107dによって生成される。したがって、分岐部103から第1の混合部107a〜第4の混合部107dが、分岐部103によって分配された信号を取得するタイミングと対象物で反射した反射波を取得するタイミングとが一致したときにのみ、それぞれの混合部によって生成される信号のレベルが、互いのタイミングが一致しないときよりも高くなる。つまり、第1の混合部107a〜第4の混合部107dによって生成され、第1の可変帯域制限フィルタ108a〜第4の可変帯域制限フィルタ108dから制御処理部109へ通過した信号のレベルが予め定めた閾値よりも高いとき、制御処理部109は対象物で反射した反射波を受信したと判断することができる。
【0101】
そして、対象物で反射した反射波を受信するタイミング、すなわち、制御処理部109へ通過した信号のレベルが予め定めた閾値よりも高くなるタイミングは、放射部104によって電磁波が放射されてから、90度移相部106、第1の混合部107a及び第3の混合部107cへ信号が分配されるタイミング、すなわち、間隔Phの開始タイミングからいずれかの時間差td1〜td4が経過したときである。また、間隔Phの開始タイミングは、放射部104から電磁波が放射されるタイミングである。したがって、上述した時間差td1〜時間差td4の内、対象物で反射した反射波を受信したタイミングと一致する時間差は、電磁波が放射されてから対象物で反射した反射波を受信するまでの時間となる。つまり、制御処理部109は、対象物で反射した反射波を受信したと判断したときの時間差を時間差td1〜td4の中から特定し、特定した時間差を上記時間Δtdとして、式(9)を用いて対象物との相対距離を測定する。
【0102】
上述した説明では、時間差td1〜時間差td4は、1つの周期Tにおいて時間差td1〜時間差td4まで順番に変化すると、次の周期Tでは再び時間差td1〜時間差td4まで順番に変化することを説明した。そして、第2の測定方式では、これらの時間差の内、反射波を受信したと判断したタイミングと一致する時間差から対象物との相対距離を求める。すなわち、これらの時間差td1〜時間差td4は、それぞれ対象物との相対距離に対応している。以下、上述した時間差にそれぞれ対応する相対距離をレンジビンと称する。そして、上述した1つの周期Tにおいて、時間差を変化させながら対象物との相対距離を測定するということは、これらの時間差にそれぞれ対応するレンジビンをレーダー装置1に近いレンジビンから順番に走査することになる。したがって、本実施形態に係るレーダー装置1は、1つの周期Tにおいて、測定範囲に含まれる全てのレンジビンを最小測定距離から最大測定距離までそれぞれ順番に1度走査して、対象物との相対距離を測定する動作を繰り返している。また、1つのレンジビンの長さが、レーダー装置1の第2の測定方式における相対距離の分解能に相当する。
【0103】
以上が、第2の測定方式における対象物との相対距離の測定方法の説明である。尚、この測定方法は、一般的に、パルスドップラー方式と呼ばれることもある。また、本実施形態に係るレーダー装置1では、第2の測定方式による測定時に、一般的に知られているPSK方式を用いて対象物の相対距離を測定してもよい。また、上述した説明では、時間差td1〜時間差td4の長さは、それぞれ間隔Phの長さ(間隔Bhの長さ)の整数倍である場合を一例として説明した。しかしながら、時間差td1〜時間差td4の長さは、間隔Phの長さ(間隔Bhの長さ)の整数倍に限られるものではなく、ある定数の整数倍としてもよい。時間差td1〜時間差td4の長さがより短くなるような定数を選ぶことにより測定範囲に含まれるレンジビンの数が多くなり、相対距離の分解能が高くなる。
【0104】
次に、第2の測定方式における対象物との相対速度の測定方法を図4を参照しながら説明する。図4には、レーダー装置1の動作の内、2つの周期Tにおけるレーダー装置1の動作を示している。そして、図4(d)は、それぞれの放射間隔Hkにおいて、2つ目のレンジビンに対応する時間に反射波を受信する相対距離に対象物が存在する場合を一例として示している。すなわち、図4(d)に示す期間において、制御処理部109は反射波を受信したことを2度だけ判断する。以下、制御処理部109によって受信したと判断された反射波をそれぞれ1度目に受信した反射波及び2度目に受信した反射波と記載する。第2の測定方式において、1度目に受信した反射波と2度目に受信した反射波とに基づいて相対速度を測定するための数式の一例を、式(10)に示す。
【0105】
【数10】

【0106】
式(10)において、Δξは1度目に受信した反射波の位相と2度目に受信した反射波の位相との位相差を示す。また、Δtvは1度目に反射波を受信してから2度目に反射波を受信するまでの時間を示す。制御処理部109は、1度目に受信した反射波に基づく信号をA/D変換した後、IQ検波及びFFT処理をして1度目に受信した反射波の位相を求める。そして、制御処理部109は、2度目に受信した反射波に基づく信号をA/D変換をした後、IQ検波及びFFT処理をして2度目に受信した反射波の位相を求める。制御処理部109は、1度目に受信した反射波の位相と2度目に受信した反射波の位相との位相差Δξを求める。さらに、制御処理部109は、1度目の反射波を受信した時間と2度目に反射波を受信した時間との時間差Δtvを求める。そして、制御処理部109は、求めた位相差Δξと時間差Δtvとを式(10)に代入することにより、対象物との相対速度を算出して測定する。
【0107】
以上が、第2の測定方式における対象物との相対速度を測定する方法の説明である。この方法によれば、反射波を少なくとも2度受信することにより対象物との相対速度を測定することができるため、測定時間を短縮することができる。尚、この対象物との相対速度を測定する方法は、一般的に、パルスペア方式と呼ばれることもある。また、第2の測定方式でも、前述の第1の測定方式と同様の構成を用いるので、第1の測定方式と同様にIQ検波をすることが可能である。本実施形態では、第2の測定方式でもIQ検波をするため、ドップラー周波数成分に含まれる正負の周波数成分の符号の内、実際の対象物との相対速度に対応する成分の符号を特定することができる。すなわち、第2の測定方式における対象物との相対速度の測定方法では、相対速度の測定だけでなく、対象物がレーダー装置1に対して近づいているか、又は、遠ざかっているかの判断を同時にすることができる。
【0108】
次に、第2の測定方式における対象物が存在する方向を測定する方法を説明する。第2の測定方式では、図4(a)に示すように間欠的な波形の電磁波を放射部104から放射して測定をする。そして、放射部104から放射される電磁波は、基準信号発生部101によって生成される基準信号の一部の波形を有する間欠的な波形の信号である。つまり、第2の測定方式において放射部104から放射される電磁波は、第1の測定方式において放射部104から放射される電磁波と同様に位相を有する信号である。したがって、本実施形態では、第2の測定方式において対象物が存在する方向を測定する方法としては、第1の測定方式において対象物が存在する方向を測定する方法と同様の方法を用いるものとする。すなわち、1つのレンジビンの走査をする度に第1の受信部105a及び第2の受信部105bによってそれぞれ受信される反射波に基づいて、第1の測定方式と同様の方法で対象物の存在する方向を測定する。尚、第2の測定方式において、上述したように間欠的な波形の信号を用いて対象物の存在する方向を測定する方法は、一般的に、位相比較モノパルス方式と呼ばれることもある。
【0109】
以上が、第2の測定方式において、対象物との相対位置及び相対速度を測定する方法の説明である。尚、この説明では、最小測定距離から最大測定距離までの測定範囲を4つのレンジビンに分割して走査する場合を一例として説明した。しかしながら、本実施形態では、測定範囲内のレンジビンの数は、必ずしも4でなくともよく、3以下であってもよいし、5以上であってもよい。測定範囲内のレンジビンの数を増やすと、レンジビンの長さを短くすることになるので距離分解能の高い測定をすることができる。しかしながら、測定範囲内のレンジビンの数を増やすと、1つの周期における走査回数が増大するため、測定範囲内の全てのレンジビンを1度走査するのに要する時間が増大する。したがって、本実施形態に係るレーダー装置1の設計者などが好ましいと考える測定期間に応じて、レンジビンの数や測定範囲の広さを予め定めてもよい。
【0110】
また、上述した間隔Ph及び間隔Bhを本実施形態に係るレーダー装置1の設計者などが定める測定期間に応じて自由に予め定めてもよい。
【0111】
また、上述した第2の測定方式における相対速度を測定する方法では、1度目に電磁波を放射してから2度目に電磁波を放射するまでの期間、すなわち、上述した放射間隔Hkの長さに比例して速度の測定精度が変化する。したがって、第2の測定方式における上述した放射間隔Hkを必要な相対速度の測定精度に応じて定めてもよい。ただし、第2の測定方式では、放射間隔Hkを長くしすぎると、測定可能な最大相対速度の範囲が狭くなることもある。したがって、必要な相対速度の測定精度及び最大相対速度の測定範囲を考慮して、上述した第2の測定方式における放射間隔Hkを予め定めてもよい。相対速度の測定精度及び最大相対速度の測定範囲をそれぞれ予め定めるときの放射間隔Hkの具体的な一例としては、10μsecが挙げられる。また、第2の測定方式において、相対速度を複数回測定した後、測定した相対速度の平均値を算出して、より正確な相対速度としてもよい。
【0112】
また、上述した第2の測定方式では、放射部104から放射される電磁波として1度の放射時間が極めて短い電磁波、すなわち、UWB(Ultra Wide Band)の電磁波を用いて測定をしてもよい。これにより、測定可能な相対距離の最短測定距離を短くすることができ、且つ、距離分解能を細かくすることができる。本発明において用いられるUWBの電磁波の定義の一つとしては、比帯域幅(信号レベルが10[dB]以上となる帯域幅÷当該帯域幅の中心周波数)が20%以上、或いは、帯域幅が500[MHz]以上という定義が一例としてあげられる。ただし、他の定義によってUWBとして定義される電磁波を用いてもよい。
【0113】
また、1度の放射時間が極めて短い電磁波を生成する方法として、LVDS(Low Voltage Differential Signaling:低電圧差動信号)を用いてもよい。これにより、一般的に知られているコモンモードノイズを低減することができる。
【0114】
また、上述した第2の測定方式の説明では、反射波を受信したか否かを、分配された信号及び受信した反射波を混合した信号と予め定められた閾値とを比較して判断する場合を一例として説明した。これによれば、操作するレンジビンに対応する時間差(上記説明では、時間差td1〜時間差td4)のそれぞれが到来したときに、制御処理部109が取得した信号のA/D変換を開始するマッチドフィルタ方式を用いて反射波を受信したか否かを判断することができる。これにより、サンプリングレートが相対的に低いA/D変換器を用いて精度及びSN比のよい測定をすることができる。サンプリングレートが相対的に高いA/D変換器は、一般的にコストが高くなるため、一般的に知られているマッチドフィルタ方式を用いることにより、本実施形態に係るレーダー装置1を低コストなA/D変換器を用いて実現することができる。
【0115】
ただし、本実施形態に係るレーダー装置1において、反射波を受信したか否かを判断するために用いることができる方法は、マッチドフィルタ方式に限られるものではなく、一般的に知られている高速等価サンプリング方式を用いてもよい。また、可能であれば、高速なサンプリングレートでA/D変換することができるA/D変換器を用いて、第1の受信部105a及び第2の受信部105bによって受信された反射波を第1の可変帯域制限フィルタ108a〜第4の可変帯域制限フィルタ108dを介して制御処理部109が取得し、取得した信号を直接A/D変換して、A/D変換された信号の立ち上がりエッジを検出することにより反射波を受信したか否かを判断してもよい。
【0116】
また、直接A/D変換した信号のレベルと予め定められた閾値とを比較することにより、反射波を受信したか否かを判断する方法では、第1の可変帯域制限フィルタ108a〜第4の可変帯域制限フィルタ108dによって制限される周波数帯域の幅に応じて相対距離の測定精度が変化する場合がある。したがって、この場合には、第2の測定方式において第1の可変帯域制限フィルタ108a〜第4の可変帯域制限フィルタ108dが制限する周波数帯域の幅を必要な相対距離の測定精度に応じて定めてもよい。
【0117】
また、上述した第1の測定方式及び第2の測定方式における対象物が存在する方向を測定するときに用いることができる測定方式は、上述した説明の方式に限られるものではない。対象物が存在する方向を測定する他の方法としては、一般的に知られているビームスキャン方式を一例として挙げることができる。これにより、複数の対象物がほぼ同一の相対距離に存在したときに対象物が存在する方向の測定結果に生じる誤差を低減することができる。
【0118】
第2の測定方式における対象物が存在する方向を測定する方法では、第1の受信部105aによって受信される反射波Rf1と第2の受信部105bによって受信される反射波Rf2との間に生じる距離bに応じた位相差、すなわち、第1の受信部105aと第2の受信部105bとの間隔dに応じた位相差に基づいて対象物が存在する方向を測定する。しかしながら、本実施形態に係るレーダー装置1では、第1の受信部105aによって受信される反射波Rf1と第2の受信部105bによって受信される反射波Rf2との間で距離bに応じて生じるレベルの差、すなわち、第1の受信部105aと第2の受信部105bとの間隔dに応じて生じるレベルの差に基づいて対象物が存在する方向を測定してもよい。この方法は、一般的に、振幅比較モノパルス方式と呼ばれることもある。
【0119】
さらに、上述した第1の測定方式及び第2の測定方式における対象物が存在する方向を測定する方法では、第1の受信部105a及び第2の受信部105bの2つの受信部(複数の受信部)によって受信された反射波に基づいて測定する場合を一例として説明した。しかしながら、本実施形態に係るレーダー装置1において対象物が存在する方向を測定するときには、3以上の複数の受信部を用いて、フェイズドアレー方式やDBF(Digital Beam Forming:デジタルビームフォーミング)方式などによって、対象物が存在する方向を測定してもよい。また、複数の受信部を用いて上述した位相比較モノパルス方式又は振幅比較モノパルス方式(第1の測定方式では、複数の受信部によって受信されたそれぞれの反射波のレベル差又は位相差に基づく測定方式)による測定をしてもよい。
【0120】
また、第1の測定方式及び第2の測定方式による測定時において、対象物との相対距離、相対速度及び対象物が存在する方向の測定は、どのような順番で測定してもよい。
【0121】
以上が、本実施形態に係る第1の測定方式及び第2の測定方式の説明である。次に、本実施形態に係る制御処理部109が、第1の測定方式を用いて対象物との相対位置及び相対速度を測定し、第1の測定方式による測定結果に基づいて対象物の近傍の再測定範囲を決定し、決定した再測定範囲を第1の測定方式よりも分解能の高い第2の測定方式を用いて測定する方法について説明する。
【0122】
まず始めに、上述した再測定範囲を決定するための制御処理部109の動作について説明する。図5は、レーダー装置1を搭載した車両Rsの前方の測定範囲内に対象物B及びSが存在する場合を一例として示す図である。また、図5において、対象物Bは車両Rsに近づいている、すなわち、対象物Bと車両Rsとの相対速度の符号が負であると仮定する。また、図5において、対象物Sは車両Rsから遠ざかっている、すなわち、対象物Sと車両Rsとの相対速度の符号が正であると仮定する。
【0123】
図6は、図5に示す仮定の下で、第1の測定方式で対象物との相対距離を測定するときにおいて、第1の受信部105a又は第2の受信部105bのいずれか一方によって反射波が受信されたときに、制御処理部109が、第1の混合部107a及び第2の混合部107bによってそれぞれ生成された信号に基づいてIQ検波することによって得られた信号をFFT処理することによって得られたスペクトラムの一例を示す図である。より詳細には、図6(a)は、1つ目の周波数fr1の電磁波に対する反射波を受信したときに、制御処理部109が、IQ検波することによって得られた信号をFFT処理することによって得られたスペクトラムの一例を示す図である。そして、図6(b)は、2つ目の周波数fr2の電磁波に対する反射波を受信したときに、制御処理部109が、IQ検波することによって得られた信号をFFT処理することによって得られたスペクトラムの一例を示す図である。図6に示すスペクトラムは、それぞれ第1の受信部105a又は第2の受信部105bによって受信された信号のドップラー周波数のスペクトラムに相当する。
【0124】
図7は、制御処理部109が図6に示すスペクトラムの信号に基づいて対象物との相対距離を測定した後に再測定範囲Shを決定する方法を説明する図である。制御処理部109は、図6(a)及び(b)に示すスペクトラムのピークを生ずる周波数の位相差に基づいて上述したように対象物との相対距離を算出して測定する。より詳細には、制御処理部109は、図6(a)に示す周波数faの信号の位相と図6(b)に示す周波数fbの信号の位相との位相差を式(6)のΔφとして代入することにより、図7に示す対象物Bとの相対距離を算出する。同様に、制御処理部109は、図6(a)に示す周波数fa’の信号の位相と図6(b)に示す周波数fb’の信号の位相との位相差を式(6)のΔφとして代入することにより、図7に示す対象物Sとの相対距離を算出する。ここで、図7において、対象物Bとの相対距離を相対距離Bkとし、対象物Sとの相対距離を相対距離Skとする。
【0125】
そして、制御処理部109は、相対距離Bk及び相対距離Skをそれぞれ測定すると、図7に示すように、測定した相対距離をそれぞれ中心とする予め定めた広さの再測定範囲Shを設定する。以上が、制御処理部109が、上述した再測定範囲を決定するための動作の説明である。尚、実際に決定した再測定範囲Shを第2の測定方式で測定するときには、図7に示すように再測定範囲Shのそれぞれを全て含むレンジビンについてのみ測定をする。また、再測定範囲Shの広さは、第1の測定方式における相対距離の距離分解能と測定精度とを加算したものに正の定数を乗じることによって定めてもよい。また、この定数は、どのような値の正の定数を用いてもよいが、具体的な一例としては、1.2及び2.0などであってもよい。
【0126】
次に、図8に示すフローチャートを用いて、制御処理部109の処理を説明する。ステップS101において制御処理部109は、第1の測定方式で測定をするために、上述したように基準信号発生部101、変調部102、分岐部103及び第1の可変帯域制限フィルタ108a〜第4の可変帯域制限フィルタ108dへ指示を与えて、レーダー装置1が第1の測定方式で測定するための準備をする。
【0127】
ステップS102において、制御処理部109は、第1の測定方式による測定を開始して、対象物との相対位置及び相対速度を測定する。
【0128】
ステップS103において、制御処理部109は、第1の測定方式による測定において対象物を検出することができたか否か、すなわち、予め定めた閾値を越えるレベルの反射波に基づく信号を取得したか否かを判断する。制御処理部109は、ステップS103において、対象物を検出できたと判断したとき、ステップS104へ処理を進める。一方、制御処理部109は、ステップS103において、対象物を検出できないと判断したとき、ステップS102へ処理を戻す。
【0129】
ステップS104において、制御処理部109は、取得した信号に基づいて、上述した方法で再測定範囲を決定する。尚、制御処理部109は、ステップS104において、上述したように第1の測定方式における相対距離の距離分解能と測定精度に基づいて再測定範囲を決定してもよい。
【0130】
ステップS105において、制御処理部109は、第2の測定方式で測定をするために、上述したように基準信号発生部101、変調部102、分岐部103及び第1の可変帯域制限フィルタ108a〜第4の可変帯域制限フィルタ108dへ指示を与えて、レーダー装置1が第2の測定方式で測定するための準備をする。
【0131】
ステップS106において、制御処理部109は、ステップS104において決定した再測定範囲のみについて、第2の測定方式を用いて対象物とのより正確な相対位置及び相対速度を測定する。
【0132】
ステップS107において、制御処理部109は、ステップS102及びステップS106の少なくともいずれか一方において測定した相対位置及び相対速度を本実施形態に係るレーダー装置1を搭載する車両の他のECU(Electric Control Unit)等へ出力する。尚、このECU等は、ステップS102及びステップS106の少なくともいずれか一方において測定された相対位置及び相対速度に基づいて、測定した対象物の種類等(歩行者、対向車、或いは、先行車等)を分析してもよい。
【0133】
以上が、本実施形態に係るレーダー装置1の説明である。本実施形態に係るレーダー装置1は、第1の測定方式を用いて対象物の近傍の再測定範囲を予め決定し、決定した再測定範囲のみを分解能の高い第2の測定方式を用いて相対距離を測定する。第2の測定方式による測定では、対象物との相対位置及び相対速度を第1の測定方式よりも高い分解能で測定するためにレンジビンの数を比較的多くして測定をする。このため、第2の測定方式のみを用いて高い分解能で測定範囲の全てを走査して測定をすると測定時間が増大してしまう。しかしながら、本実施形態に係るレーダー装置1では、第1の測定方式を用いて第2の測定方式で測定をする前に予め再測定範囲を決定することにより、第2の測定方式による測定範囲を予め定めることができる。これにより、第2の測定方式による測定範囲は対象物の近傍のみになる。したがって、本実施形態に係るレーダー装置1によれば、車両に搭載されるレーダー装置に必要とされる性能を満たしながら、短時間で対象物の相対位置及び相対速度を精度よく測定することができる。
【0134】
尚、図5〜7の説明では、第1の測定方式を用いて測定した相対距離のみに基づいて、再測定範囲を決定する場合を一例として説明した。しかしながら、本実施形態に係るレーダー装置1は、相対距離だけでなく対象物が存在する方向にも基づいて、再測定範囲を決定してもよい。この場合、制御処理部109は、図9に示すように第1の測定方式を用いて相対距離及び対象物が存在する方向を測定して、測定した相対距離及び方向で定まる位置を中心とする予め定められた大きさの範囲を再測定範囲とするとよい。
【0135】
また、第1の測定方式及び第2の測定方式において、対象物の存在する方向を測定する方法として、ビームフォーマーを用いて再測定範囲を設定してもよい。ビームフォーマーでは、測定する角度範囲の一端から他端までを走査していき、対象物の存在する方向に対応する角度で反射波のレベルのピークが生じる。このため、再測定範囲を設定するときは、測定した相対距離と反射波のレベルのピークが生じる角度に対応する方向とによって定まる位置を中心とする予め定められた大きさの範囲を再測定範囲とするとよい。また、ビームフォーマーの他に、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法やESPRIT法などを用いてもよい。
【0136】
また、上述した第1の測定方式及び第2の測定方式における対象物が存在する方向の測定方法は、いずれの方式においても水平面上の対象物が存在する方向を測定するための方法である。しかしながら、本実施形態に係るレーダー装置1では、この水平面上の対象物が存在する方向を測定するための方法及び構成を水平面と直交する垂直平面における対象物が存在する方向の測定に応用してもよい。この場合は、第1の受信部105a及び第2の受信部105bをそれぞれ垂直方向に設置することで、水平面と直交する垂直平面上の対象物が存在する方向を測定することができる。そして、上述した水平面上の対象物が存在する方向の測定方法と、垂直平面上の対象物を測定する測定方法とを用いて、対象物の相対位置及び相対速度を立体的に測定してもよい。さらに、本実施形態に係るレーダー装置1において、対象物の相対位置及び相対速度を立体的に測定するときにおいて、図5〜7を参照しながら説明したように、再測定範囲を決定してもよい。
【0137】
また、上述した図8のフローチャートの説明では、相対距離の測定についてのみ説明をした。しかしながら、本実施形態に係るレーダー装置1は、第1の測定方式及び第2の測定方式のそれぞれによる測定時には、相対距離の測定だけでなく、相対速度の測定及び対象物の存在する方向の測定を並行してもよいのは言うまでもない。
【0138】
また、上述した図8のフローチャートの説明では、第1の測定方式及び第2の測定方式によるそれぞれの測定を交互にする場合を一例として説明した。しかしながら、レーダー装置1では、第1の測定方式によって対象物が検出されたとき、当該対象物の相対速度を測定し、測定した相対速度が予め定めた閾値よりも大きく、且つ、対象物がレーダー装置1に接近していると判断したときには、即座に、第2の測定方式によって当該対象物の近傍を再測定し、相対位置及び相対速度を測定してもよい。
【0139】
(第1の実施形態の変形例)
放射部104から放射される電磁波や第1の受信部105a及び第2の受信部105bによって受信される反射波は、それぞれ空間を伝搬することによって距離に応じてレベルが減衰してしまう。そして、この減衰量は、伝搬距離の長さに比例して多くなる。このため、レーダー装置の最大測定範囲が狭くなってしまう場合がある。したがって、第1の実施形態の変形例に係るレーダー装置では、受信した反射波に基づく信号のレベルを積算することにより、制御処理部109が取得する反射波に基づく信号のレベルを高める。これにより、最大測定範囲を広くすることができる。以下に、第1の実施形態の変形例に係るレーダー装置について詳細に説明する。
【0140】
図10は、本発明の第1の実施形態の変形例に係るレーダー装置2の概略構成を示すブロック図である。レーダー装置2は、第1の実施形態に係るレーダー装置1と比較して、第1の積算部110a〜第4の積算部110dをさらに備える点で相異する。したがって、レーダー装置2において、第1の実施形態に係るレーダー装置1と同一の構成については、同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0141】
第1の積算部110a〜第4の積算部110dは、上述した第2の測定方式における測定をしているときにのみ、それぞれ第1の可変帯域制限フィルタ108a〜第4の可変帯域制限フィルタ108dを通過した信号を予め定められた回数だけ積算する。つまり、第1の積算部110a〜第4の積算部110dは、上述した第1の測定方式における測定をしているときは、第1の可変帯域制限フィルタ108a〜第4の可変帯域制限フィルタ108dをそれぞれ通過した信号を積算せずに制御処理部109へ直接伝送する。
【0142】
第1の積算部110a〜第4の積算部110dは、第2の測定方式による測定をしているとき、制御処理部109からの指示に応じて、同一のレンジビンの走査を予め定められた回数だけ繰り返し、当該回数と同じ回数だけ受信される反射波のレベルを積算することを全てのレンジビンについてする。そして、制御処理部109は、同一のレンジビンの走査を予め定められた回数だけ繰り返す度に、第1の積算部110a〜第4の積算部110dによってそれぞれレベルを積算された反射波に基づく信号を取得して、上述した演算処理をする。つまり、レーダー装置2は、1つのレンジビンに対応する反射波を予め定められた回数だけ受信してレベルを積算することにより、1つのレンジビンに対応する反射波のレベルを高める。これにより、レーダー装置2は、相対的に遠距離のレンジビンに対応する反射波のレベルを高めることができ、第1の実施形態に係るレーダー装置1と比較して、最大測定範囲を広くすることができる。
【0143】
ただし、積算回数を増加させることは、1つのレンジビンに対する走査回数が増加するため、測定範囲の全てを1度走査するための測定時間の増加を招く場合もある。したがって、第1の実施形態の変形例に係るレーダー装置2において、制御処理部109は、走査するレンジビン、すなわち、走査する測定距離に応じて第1の積算部110a〜第4の積算部110dの積算回数を変化させてもよい。
【0144】
より具体的には、第1の実施形態の変形例において、レーダー装置2に対して相対的に近い距離のレンジビンに対応する反射波のレベルの積算回数を減少させ、相対的に遠い距離のレンジビンに対応する反射波のレベルの積算回数を増加させてもよい。これは、相対的に近い距離のレンジビンに対応する反射波は伝搬距離が短いのでレベルの減衰量が相対的に低いと考えられ、相対的に遠い距離のレンジビンに対応する反射波は伝搬距離が長いのでレベルの減衰量が相対的に高いと考えられるからである。
【0145】
図11は、レーダー装置2が受信する反射波のレベルと測定距離との対応関係に基づいて、制御処理部109が変化させる積算回数の一例を示す図である。第1の実施形態の変形例では、図11に示すように実験などによって定めた積算回数を用いてもよいし、レーダー方程式などに基づいて理論的に定めた積算回数を用いてもよい。
【0146】
尚、第1の実施形態の変形例に係るレーダー装置2では、上述したように第2の測定方式における測定時間の増加を招く場合もある。しかしながら、第1の実施形態の変形例に係るレーダー装置2においても、図7のフローチャートに示すように、再測定範囲のみを第2の測定方式で測定すれば、積算回数の増加が測定時間に与える影響を最小限にすることができる。
【0147】
以上が、本発明に係るレーダー装置の説明である。尚、図12に示すように1以上の本発明に係るレーダー装置を測定範囲に含める方向や距離などに応じて車両に搭載してもよい。また、本発明に係るレーダー装置では、図13に示すようにレーダーの中心軸と、対象物の存在する方向を測定する範囲、すなわち、角度の測定範囲の中心軸とは、必ずしも一致しなくてもよい。
【0148】
また、第2の測定方式では、位相を有する信号を電磁波として放射する場合を一例として説明した。しかしながら、本発明に係るレーダー装置は、第2の測定方式における測定をしているときに、位相を有さないインパルス信号を電磁波として放射して測定をしてもよい。このときには、反射波も位相を有さないため、上述した第2の測定方式における対象物との相対速度の測定方法で対象物との相対速度を測定することができない。したがって、本発明に係るレーダー装置が、第2の測定方式においてインパルス信号を放射して測定をするときは、測定した相対距離を時間で微分することによって、対象物との相対速度を求めてもよい。
【0149】
ただし、相対距離を時間で微分することによって相対速度を測定する方法では、相対速度の測定精度が比較的悪くなる場合もある。このため、第2の測定方式においてインパルス信号を放射して測定をするときは、第1の測定方式によって予め測定した対象物との相対速度と、第2の測定方式によって測定した対象物との相対速度との差が予め定められた範囲内にあるか否かを判断してもよい。そして、第2の測定方式によって測定した対象物との相対速度が、予め定められた範囲内にあるとき、第2の測定方式によって測定した対象物の相対速度として、第1の測定方式によって測定した対象物の相対速度を代わりに用いてもよい。
【0150】
また、上述した第1の実施形態及び第1の実施形態の変形例では、第1の測定方式による測定で対象物を検出するまで第2の測定方式で測定を開始することはしない場合を一例として説明をした。しかしながら、上述した第1の測定方式による測定では、対象物との相対距離によっては位相が検出できなくなり、対象物の測定をすることが困難になる場合がある。このため、本発明に係るレーダー装置は、相対的に近い距離については、第1の測定方式による測定で対象物を検出できたか否かに関わらずに、すなわち、第1の測定方式による測定結果に関わらずに、第2の測定方式による測定をしてもよい。本発明に係るレーダー装置を車両に搭載するときには、相対的に近い距離や搭乗者の死角に存在する歩行者、子供或いはカートなどの測定に重点を置くこともある。第1の測定方式による測定結果に関わらずに、第2の測定方式による測定をすることにより、相対的に近い距離や搭乗者の死角に存在する歩行者、子供或いはカートなどを確実に測定することができる。このときの相対的に近い距離の範囲の一例としては、0.1〜5[m]が挙げられる。
【0151】
また、上述した第1の測定方式では、周波数fr1、周波数fr2及び周波数fr3の周波数差が比較的に狭い狭帯域の周波数の信号を用いて最大測定範囲の広い測定をする場合を一例として説明した。しかしながら、このように狭帯域の信号を用いて測定をすると、距離分解能が悪くなり、且つ、最小測定範囲が大きくなるため、相対的に近距離の対象物を測定することが困難になる。したがって、本発明に係るレーダー装置では、第1の測定方式によって測定が困難な測定範囲については、第1の測定方式による測定結果に関わらずに第2の測定方式によって測定をしてもよい。これにより、第1の測定方式では測定が困難な測定範囲も確実に測定することができる。
【0152】
また、上述した第1の測定方式及び第2の測定方式では、それぞれ互いに異なる測定方式で対象物との相対距離及び相対速度を測定する場合を一例として説明した。したがって、第1の測定方式及び第2の測定方式では、放射する電磁波の搬送波の周波数帯域を互いに異なる周波数帯域にしてもよい。第1の測定方式及び第2の測定方式におけるそれぞれの搬送波の周波数帯域の組み合わせのより具体的な例を図14に示す。図14におけるISMとは、同じ周波数帯域の内、国際電気通信連合(ITU)によって決定された周波数帯域を示す。
【0153】
また、本発明における第1の測定方式及び第2の測定方式で用いられる電磁波の周波数帯域について次のことが言える。第1の測定方式では、一例として、上述したように電磁波の周波数差を縮めることにより搬送波周波数を中心として、相対的に狭い周波数帯域の電磁波を用いて測定をする。これに対して、第2の測定方式では、一例として、上述したように短いパルス幅の電磁波を用いることにより測定をする。そして、短いパルス幅の電磁波は、一般的に広い周波数帯域を有する。つまり、本発明では、一例として、第1の測定方式では相対的に狭い周波数帯域の狭帯域信号を用いて測定をし、第2の測定方式では相対的に広い周波数帯域の広帯域信号を用いて測定をする。これにより、本発明に係るレーダー装置は、上述したように、車両に搭載されるレーダー装置に必要とされる性能を満たしながら、短時間で測定を完了することができる。
【0154】
また、本発明において説明した実施形態及びその変形例は、どのように組み合わせてもよいことは言うまでもない。
【0155】
また、上述した説明では、本発明に係るレーダー装置は、車両に搭載されるときを一例として説明をした。しかしながら、本発明に係るレーダー装置は、車両だけでなく、車両を含む移動体であればどのようなものに搭載してもよい。
【0156】
また、上述した第1の実施形態では、第1の可変帯域制限フィルタ108a〜第4の可変帯域制限フィルタ108dがそれぞれアナログ信号に対して処理をすることを前提として説明をした。しかしながら、第1の可変帯域制限フィルタ108a〜第4の可変帯域制限フィルタ108dはそれぞれデジタル信号を処理するものとしてもよい。第1の可変帯域制限フィルタ108a〜第4の可変帯域制限フィルタ108dとしてそれぞれデジタルフィルタを用いるときには、制御処理部109の内部ではなく、第1の可変帯域制限フィルタ108a〜第4の可変帯域制限フィルタ108dのそれぞれの前段にA/D変換器を設けるとよい。
【0157】
さらに、制御処理部109の内部にA/D変換器を設け、デジタル信号を扱う第1の可変帯域制限フィルタ108a〜第4の可変帯域制限フィルタ108dの機能を制御処理部109に一体化してもよい。これにより、レーダー装置1を省スペース化することができる。また、第1の実施形態の変形例における第1の積算部110a〜第4の積算部110dについても第1の可変帯域制限フィルタ108a〜第4の可変帯域制限フィルタ108dと同様にデジタル信号を処理するものとしてもよいし、デジタル信号を扱う第1の積算部110a〜第4の積算部110dの機能を制御処理部109に一体化してもよいことは言うまでもない。
【0158】
また、上述した第1の実施形態及び第1の実施形態の変形例では、図1及び図10に示すように、第1の受信部105a及び第2の受信部105bに対してそれぞれ混合部を2つずつ設ける構成を一例として説明した。しかしながら、本実施形態では、図15に示すように、第1の受信部105a及び第2の受信部105bのいずれか一方と後段の回路とを接続する経路を切換部111で切り換える構成としてもよい。図15に示す構成のレーダー装置において、第1の測定方式で対象物の存在する方向を測定するときには、上述したように1つの周波数の電磁波を放射している期間において、少なくとも1度は切換部111によって経路を切り換え、2つの受信部によって受信された信号の位相又は振幅を比較するとよい。また、図15に示す構成のレーダー装置において、第2の測定方式で対象物の存在する方向を測定するときには、制御処理部109は、放射部104に対して、1つのレンジビンに対して少なくとも2回の電磁波の放射をさせながら、1度目に放射された電磁波の反射波を受信するタイミングが経過したとき、切換部111に対して経路を切り換える指示を与え、2度目に放射された電磁波の反射波を受信するとよい。そして、制御処理部109は、上述した方法と同様に、1度目に放射された電磁波に対する反射波及び2度目に放射された電磁波に対する反射波のそれぞれの位相又は振幅を比較することにより対象物の存在する方向を測定してもよい。
【0159】
また、上述した第1の実施形態及び第1の実施形態の変形例では、第1の測定方式による測定結果に基づいて再測定範囲を設定し、設定した再測定範囲を第2の測定方式によって測定する場合、すなわち、第1の測定方式及び第2の測定方式を交互に用いて測定する場合を一例として説明した。このように第1の測定方式及び第2の測定方式による測定を交互に繰り返すときにおいて、第1の測定方式による相対位置及び相対速度をそれぞれ測定して再測定範囲を設定するまでに必要な時間が比較的に長く、第1の測定方式によって相対位置及び相対速度をそれぞれ測定して、再測定範囲を設定するまでの処理を完了するタイミングが、次に第2の測定方式で測定を開始するタイミングに間に合わない場合が発生する可能性もある。この場合には、第2の測定方式で測定するための再測定範囲を定めるために、例えば、2つ前の第1の測定方式による測定で得られた相対位置及び相対速度の測定結果を用いてもよい。これにより、第1の測定方式による相対位置及び相対速度の測定が、次に第2の測定方式で測定するための再測定範囲の設定を開始するタイミングに間に合わない場合が発生したとしても、第2の測定方式で測定をするための再測定範囲を設定することができる。この場合、最も始めに第2の測定方式で測定をするとき、すなわち、第1の測定方式による測定結果が得られていないときには、例えば、予め定めておいた初期再測定範囲を第2の測定方式で測定するものとしてもよい。
【0160】
また、上述した第1の測定方式及び第2の測定方式のそれぞれにおける説明では、反射波の位相を検出する方法として、2つの信号の組に基づいてIQ検波及びFFT処理をする場合を一例として説明した。しかしながら、本実施形態において反射波の位相を検出するときには、必ずしも2つの信号の組に基づいて位相を検出しなくてもよく、制御処理部109が取得する4つの信号の内、いずれか1つの信号に対してFFT処理などをして位相を検出してもよい。これにより、IQ検波をするための構成、すなわち、90度移相部106及び第2の混合部107b及び第4の混合部107dを省略して低コストで本発明に係るレーダー装置を提供することができる。ただし、このようにいずれか1つの信号に基づいて反射波の位相を検出するときには、相対速度の符号を判別することが困難になる。すなわち、対象物が、本発明に係るレーダー装置に対して近づいてきているのか、遠ざかっているかの判別が困難になる。したがって、上述したように1つの信号に基づいて位相を検出する構成を採用するときには、測定した相対距離を時間で微分することによって相対速度を測定してもよい。
【0161】
また、上述した第1の実施形態及び第1の実施形態の変形例の説明は、一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の改良をしてもよいことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明によれば、対象物の相対位置及び相対速度を短時間で精度よく測定することができ、例えば、車両に搭載されるレーダー装置などに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0163】
【図1】第1の実施形態に係るレーダー装置の概略構成を示すブロック図
【図2】第1の測定方式において放射される電磁波を説明する図
【図3】第1の測定方式において対象物の存在する方向を測定する方法を説明する図
【図4】第2の測定方式における測定方法を説明する図
【図5】対象物の位置関係を示す図
【図6】反射波のスペクトラムを示す図
【図7】再測定範囲を決定する方法を説明する図
【図8】第1の実施形態に係る制御処理部の処理を説明するフローチャート
【図9】再測定範囲を決定する方法を説明する図
【図10】第1の実施形態の変形例に係るレーダー装置の概略構成を示すブロック図
【図11】積算回数の定める方法の一例を示す図
【図12】本発明に係るレーダー装置の車両における搭載可能な位置を示す図
【図13】レーダー装置の中心軸と角度の測定範囲の中心軸とを説明する図
【図14】搬送波の周波数の組み合わせを説明する図
【図15】受信部の接続の仕方の一例を示す図
【符号の説明】
【0164】
1 レーダー装置
2 レーダー装置
101 基準信号発生部
102 変調部
103 分岐部
104 放射部
105a 第1の受信部
105b 第2の受信部
106 90度移相部
107a 第1の混合部
107b 第2の混合部
107c 第3の混合部
107d 第4の混合部
108a 第1の可変帯域制限フィルタ
108b 第2の可変帯域制限フィルタ
108c 第3の可変帯域制限フィルタ
108d 第4の可変帯域制限フィルタ
109 制御処理部
110a 第1の積算部
110b 第2の積算部
110c 第3の積算部
110d 第4の積算部
111 切換部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射手段によって放射された電磁波と受信手段によって受信された反射波とに基づき、対象物との相対位置及び相対速度をそれぞれ測定するレーダー装置であって、
前記電磁波と前記反射波とに基づき、対象物との相対位置及び相対速度をそれぞれ測定する第1の測定手段と、
前記第1の測定手段によって相対位置が測定されたとき、前記電磁波と前記反射波とに基づき、当該相対位置を含む予め定められた測定範囲のみを走査し、前記第1の測定手段よりも高い分解能で前記対象物との相対位置及び相対速度をそれぞれ測定する第2の測定手段とを備える、レーダー装置。
【請求項2】
前記第2の測定手段は、前記第1の測定手段によって相対位置が測定された対象物が予め定められた相対速度よりも速い相対速度で接近しているとき、当該対象物との相対位置及び相対速度を即座に測定する、請求項1に記載のレーダー装置。
【請求項3】
前記反射波の通過周波数帯域を制限する濾波手段と、
前記第1の測定手段が測定をするとき、前記濾波手段の通過周波数帯域を予め定められた狭帯域に設定し、前記第2の測定手段が測定をするとき、前記濾波手段の通過周波数帯域を予め定められた広帯域に設定する設定手段とをさらに備え、
前記第1の測定手段及び前記第2の測定手段のそれぞれは、前記電磁波と前記設定手段によって設定された通過周波数帯域に周波数帯域を制限された前記反射波とに基づき、前記対象物との相対位置を測定する、請求項1乃至2のいずれか1つに記載のレーダー装置。
【請求項4】
前記第2の測定手段は、
前記反射波を受信する度に、前記濾波手段によって通過周波数帯域が制限された当該反射波のレベルを予め設定された回数ずつ積算する積算手段と、
前記第1の測定手段によって測定された相対位置に応じて前記積算手段の積算回数を設定する積算回数設定手段とを含み、
前記第2の測定手段は、前記電磁波と前記積算手段によってレベルが積算された前記反射波とに基づき、前記対象物との相対位置を測定する、請求項3に記載のレーダー装置。
【請求項5】
前記第1の測定手段は、FM−CW方式を用いて前記対象物との相対距離及び相対速度をそれぞれ測定する、請求項1乃至4のいずれか1つに記載のレーダー装置。
【請求項6】
前記第1の測定手段は、FSK方式を用いて前記対象物との相対距離及び相対速度をそれぞれ測定する、請求項1乃至4のいずれか1つに記載のレーダー装置。
【請求項7】
前記受信手段は、前記反射波を受信する複数のアンテナを含み、
前記第1の測定手段は、複数のアンテナによってそれぞれ受信された複数の前記反射波に基づき、前記対象物の相対位置の方向を測定する、請求項5乃至6のいずれか1つに記載のレーダー装置。
【請求項8】
前記第1の測定手段は、複数のアンテナによってそれぞれ受信された複数の前記反射波の位相に基づき、前記対象物の相対位置の方向を測定する、請求項7に記載のレーダー装置。
【請求項9】
前記第1の測定手段は、複数のアンテナによってそれぞれ受信された複数の前記反射波のレベルに基づき、前記対象物の相対位置の方向を測定する、請求項7に記載のレーダー装置。
【請求項10】
前記第2の測定手段は、パルスドップラー方式を用いて前記対象物との相対距離を測定する請求項1乃至9のいずれか1つに記載のレーダー装置。
【請求項11】
前記第2の測定手段は、PSK方式を用いて前記対象物との相対距離を測定する、請求項1乃至9のいずれか1つに記載のレーダー装置。
【請求項12】
前記受信手段は、前記反射波を受信する複数のアンテナを含み、
前記第2の測定手段は、複数のアンテナによってそれぞれ受信された複数の前記反射波に基づき、前記対象物との相対位置の方向を測定する、請求項10乃至11のいずれか1つに記載のレーダー装置。
【請求項13】
前記第2の測定手段は、複数のアンテナによってそれぞれ受信された複数の前記反射波の位相に基づき、位相比較モノパルス方式を用いて、前記対象物との相対位置の方向を測定する、請求項12に記載のレーダー装置。
【請求項14】
前記第2の測定手段は、複数のアンテナによってそれぞれ受信された複数の前記反射波のレベルに基づき、振幅比較モノパルス方式を用いて、前記対象物との相対位置の方向を測定する、請求項12に記載のレーダー装置。
【請求項15】
移動体に搭載される、請求項1乃至14のいずれか1つに記載のレーダー装置。
【請求項16】
車両に搭載される、請求項15に記載のレーダー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−192359(P2009−192359A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33057(P2008−33057)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】