説明

ワイドバンドギャップ半導体デバイス

【課題】製造が容易であり、デバイス特性の変動を抑制できるワイドバンドギャップ半導体デバイスを得る。
【解決手段】SiC基板1上にAlN格子緩和層2、GaNチャネル層3、及びAlGaN電子供給層4が順に設けられている。これらは、1.42eVより広いバンドギャップを持つ半導体材料からなる。AlGaN電子供給層4に、トランジスタを含む活性領域9が設けられている。SiC基板1は、光学的な不純物又は格子欠陥により着色され、可視光領域の光を吸収する。従って、このデバイスは波長360nm〜830nmの可視光領域の光に対して不透明である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造が容易であり、デバイス特性の変動を抑制できるワイドバンドギャップ半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ワイドバンドギャップ半導体デバイスは、シリコンやGaAs半導体デバイスに比べて高耐圧及び高効率で青色発光や高温動作が可能であるため、省エネルギーや高性能半導体デバイスとして盛んに用いられるようになってきた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−64492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のワイドバンドギャップ半導体デバイスの基板は、バンドギャップEg=3.4eVのGaNやEg=3.26eVのSiCからなるため透明である。従って、ウェハプロセスにおいて基板を認識できなかった。また、ウェハやアセンブルの検査工程で表面に焦点を合わせようとして、誤って裏面に焦点を合わせて誤診断してしまう場合があった。半導体表面を保護するSiNやSiOの保護膜が見え難く、膜厚の測定が難しかった。
また、遮光されていない環境下で使用する場合、外界の光が基板内に透過しデバイス特性を変動させる。半導体の活性領域で発生する光が透明な基板内を透過・反射し同一基板内のデバイス特性を変動させるという問題もあった。
【0005】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は製造が容易であり、デバイス特性の変動を抑制できるワイドバンドギャップ半導体デバイスを得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るワイドバンドギャップ半導体デバイスは、1.42eVより広いバンドギャップを持つ半導体材料からなる半導体基板と、前記半導体基板上に設けられ、1.42eVより広いバンドギャップを持つ半導体材料からなる半導体層と、前記半導体層に設けられ、トランジスタを含む活性領域とを備え、波長360nm〜830nmの可視光領域の光に対して不透明であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、製造が容易であり、デバイス特性の変動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1に係るワイドバンドギャップ半導体デバイスを示す上面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係るワイドバンドギャップ半導体デバイスを示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係るワイドバンドギャップ半導体デバイスを示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態3に係るワイドバンドギャップ半導体デバイスを示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態3に係るワイドバンドギャップ半導体デバイスの変形例1を示す上面図である。
【図6】本発明の実施の形態3に係るワイドバンドギャップ半導体デバイスの変形例2を示す上面図である。
【図7】本発明の実施の形態3に係るワイドバンドギャップ半導体デバイスの変形例3を示す上面図である。
【図8】本発明の実施の形態4に係るワイドバンドギャップ半導体デバイスを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態に係るワイドバンドギャップ半導体デバイスについて図面を参照して説明する。同じ又は対応する構成要素には同じ符号を付し、説明の繰り返しを省略する場合がある。
【0010】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るワイドバンドギャップ半導体デバイスを示す上面図であり、図2はその断面図である。本実施の形態のデバイスは光デバイスではなく、トランジスタを含む活性領域を有する電子デバイスである。
【0011】
SiC基板1は100μm〜500μm程度の厚さを持つ。このSiC基板1上にAlN格子緩和層2、GaNチャネル層3、及びAlGaN電子供給層4が順に設けられている。AlN格子緩和層2は、SiC基板1とGaNチャネル層3の格子不整合を緩和する。GaNチャネル層3には二次元電子ガスが形成される。AlGaN電子供給層4はショットキーバリアを形成すると共に電子を供給する。
【0012】
AlGaN電子供給層4上にゲート電極5、ソース電極6、及びドレイン電極7が形成されている。ソース電極6は、SiC基板1を貫通するビア8により基板裏面に電気的に接続されている。このように半導体層に、トランジスタを含む活性領域9が設けられている。活性領域9を保護するために、AlGaN電子供給層4上にSiNやSiOからなる保護膜10が設けられている。
【0013】
本実施の形態では、SiC基板1は、光学的な不純物が添加(ドープ)されて着色されている。不純物としては、色中心となるEu(ユウロピウム)などの希土類元素や、Fe,Crなどの遷移金属が有効である。その他、電気抵抗、誘電率、熱伝導率、熱膨張係数、エピ層の結晶性など、デバイス特性に影響を与えない不純物であればよい。
【0014】
また、SiC基板1に放射線を照射して格子欠陥を発生させることでSiC基板1を着色してもよい。例えば10MeVの電子線を10E16/cm〜10E18/cm、18MeVのプロトンを10E13/cm〜10E14/cm、中性子を10E16/cm〜10E18/cm照射する。その他、格子欠陥を発生させる放射線であれば重粒子やガンマ線など線源の種類に寄らず、線量も透明度を考慮して自由に選択することができる。
【0015】
光学的な不純物又は格子欠陥により着色されたSiC基板1が波長360nm〜830nmの可視光領域の光を吸収し、その透過率を数%以下に下げる。従って、本実施の形態のデバイスは可視光領域の光に対して不透明である。
【0016】
このため、ウェハプロセスにおいて自動的に基板を認識できる。従って、従来のラインを改造せず、ウェハ認識工程を追加することなく、自動でウェハプロセスを流すことができる。また、デバイスの裏面より下の部分が見え難くなるため、検査工程での焦点合わせのミスを無くすことができる。また、半導体表面を保護する保護膜が見え易くなるため、保護膜の成膜精度が向上する。よって、製造が容易である。
【0017】
また、遮光されていない環境下で使用する場合でも、外界の光が基板内に入るのを防ぐことができる。そして、活性領域で発生する光が基板内を透過・反射するのを防ぐことができる。よって、デバイス特性の変動を抑制できる。
【0018】
実施の形態2.
図3は、本発明の実施の形態2に係るワイドバンドギャップ半導体デバイスを示す断面図である。実施の形態1のようにSiC基板1を着色する代わりに、本実施の形態ではSiC基板1とAlN格子緩和層2の間に光吸収層11を設けている。
【0019】
光吸収層11は、SiC基板1、AlN格子緩和層2、GaNチャネル層3、及びAlGaN電子供給層4よりも狭いバンドギャップを持つ半導体材料からなり、可視光領域の光を吸収する。光吸収層11の材料は、SiC基板1等と格子整合する材料が好ましく、例えばInN,InAs,InGaN,GaAsN,Siなどである。また、超格子バッファー層を用いれば、格子定数がかなり異なった材料でも使用することができる。
【0020】
光吸収層11が可視光領域の光を吸収するため、本実施の形態のデバイスは可視光領域の光に対して不透明である。従って、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0021】
実施の形態3.
図4は、本発明の実施の形態3に係るワイドバンドギャップ半導体デバイスを示す断面図である。実施の形態1のようにSiC基板1を着色する代わりに、本実施の形態ではAlGaN電子供給層4の表面上の全面に保護膜として多層膜12を設けている。
【0022】
多層膜12は、異なる屈折率の複数の絶縁膜を積層したものであり、可視光領域の光を吸収する。多層膜12の材料は、例えばZnO,Al,MgO,SiO,AlN,ポリイミド,BCB(Benzo Cyclo Butene)などである。
【0023】
一般的な保護膜はSiN,SiOなどの透明膜であるため、一般的なデバイスは可視光領域の光に対して透明である。一方、本実施の形態では、多層膜12が可視光領域の光を吸収するため、本実施の形態のデバイスは可視光領域の光に対して不透明である。従って、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0024】
なお、可視光領域の光を吸収することができれば、多層膜12ではなく単層膜でもよい。ただし、多層膜12の方が、可視光領域の光に対する吸収係数を増大させることができ、不透明化の効果が高い。
【0025】
また、デバイス全体に多層膜12を設けたが、活性領域9や配線以外の隙間領域だけに多層膜12を設けて遮光してもよい。この場合、わずかに透明なSiC基板1が見えるが、面積の大部分を多層膜12が覆うため同じ効果が得られる。
【0026】
図5は、本発明の実施の形態3に係るワイドバンドギャップ半導体デバイスの変形例1を示す上面図である。上記の多層膜12の代わりに、活性領域9以外の領域にAu,Al,WSi,TaNなどの金属膜13を設けている。この金属膜13は追加プロセスで形成してもよいが、ウェハプロセス中に他の金属部分と同時に形成すれば工程を削減できる。このように活性領域9以外の領域であれば、保護膜として、誘電体や有機膜ではなく、金属膜13を使用することができる。金属膜13を形成した領域はほぼ完全に不透明になる。
【0027】
図6は、本発明の実施の形態3に係るワイドバンドギャップ半導体デバイスの変形例2を示す上面図である。図7は、本発明の実施の形態3に係るワイドバンドギャップ半導体デバイスの変形例3を示す上面図である。このように金属膜13をドット状又は格子状に形成してもよい。これにより、金属膜13の形成面積が小さくなるため、デバイスの寄生容量や電磁誘導の影響を抑えることができる。
【0028】
実施の形態4.
図8は、本発明の実施の形態4に係るワイドバンドギャップ半導体デバイスを示す断面図である。実施の形態1のようにSiC基板1を着色する代わりに、本実施の形態では凹凸構造14,15を設けている。
【0029】
凹凸構造14は、AlGaN電子供給層4の表面の活性領域9以外の領域に設けられている。凹凸構造14の作製方法は、パターンニングによるエッチングや、結晶の異方性を利用した異方性エッチング、格子欠陥である転位のエッチング速度を利用したエッチングなどがある。
【0030】
また、凹凸構造15は、SiC基板1の裏面に設けられている。凹凸構造15の作製方法は、凹凸構造14と同じ作製方法に加え、サンドブラストで表面荒れを作製する方法がある。SiC基板1をインゴットから切り出す時点で発生する凹凸をそのまま使用する方法してもよい。
【0031】
凹凸構造14,15は可視光領域の光を吸収するため、本実施の形態のデバイスは可視光領域の光に対して不透明である。また、デバイスの屈折率は空気の屈折率よりも高いため、わずかに基板裏面で光を散乱させることにより、表面では全反射が発生し光閉じ込め効果により見かけ上、不透明に見える。このため、デバイスの裏面より下の部分が見え難くなる。従って、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0032】
なお、SiC基板1、AlN格子緩和層2、GaNチャネル層3、及びAlGaN電子供給層4の構成材料は、これらの物質に限定されず、GaAsの1.42eVより広いバンドギャップを持つ半導体材料であればよい。ただし、SiC等の材料を用いることで、通常のSiデバイスに比べて熱伝導率が良くなる。従って、チャネル温度の上昇による温度劣化を防ぐことができるため、信頼性が向上する。
【0033】
また、上記の実施の形態ではデバイスを可視光領域の光に対して不透明にしたが、これに限らず、用途により、赤外領域、紫外領域、又は赤外領域から紫外領域全体にわたり不透明にしてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 SiC基板(半導体基板)、2 AlN格子緩和層(半導体層)、3 GaNチャネル層(半導体層)、4 AlGaN電子供給層(半導体層)、9 活性領域、11 光吸収層、12 多層膜(保護膜)、13 金属膜(保護膜)、14,15 凹凸構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.42eVより広いバンドギャップを持つ半導体材料からなる半導体基板と、
前記半導体基板上に設けられ、1.42eVより広いバンドギャップを持つ半導体材料からなる半導体層と、
前記半導体層に設けられ、トランジスタを含む活性領域とを備え、
波長360nm〜830nmの可視光領域の光に対して不透明であることを特徴とするワイドバンドギャップ半導体デバイス。
【請求項2】
前記半導体基板は、光学的な不純物又は格子欠陥により着色され、前記可視光領域の光を吸収することを特徴とする請求項1に記載のワイドバンドギャップ半導体デバイス。
【請求項3】
前記半導体基板と前記半導体層の間に設けられ、前記半導体基板及び前記半導体層よりも狭いバンドギャップを持つ半導体材料からなり、前記可視光領域の光を吸収する光吸収層を更に備えることを特徴とする請求項1に記載のワイドバンドギャップ半導体デバイス。
【請求項4】
前記半導体基板の表面上に設けられ、前記可視光領域の光を吸収する保護膜を更に備えることを特徴とする請求項1に記載のワイドバンドギャップ半導体デバイス。
【請求項5】
前記保護膜は、前記活性領域以外の領域に設けられていることを特徴とする請求項4に記載のワイドバンドギャップ半導体デバイス。
【請求項6】
前記保護膜は、異なる屈折率の複数の絶縁膜を積層した多層膜であることを特徴とする請求項4又は5に記載のワイドバンドギャップ半導体デバイス。
【請求項7】
前記保護膜は、ドット状又は格子状の金属膜であることを特徴とする請求項5に記載のワイドバンドギャップ半導体デバイス。
【請求項8】
前記半導体層の表面と前記半導体基板の裏面の少なくとも一方に凹凸構造が設けられ、
前記凹凸構造は、前記可視光領域の光を吸収することを特徴とする請求項1に記載のワイドバンドギャップ半導体デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−48191(P2013−48191A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186428(P2011−186428)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】