説明

一酸化炭素ガス供給機構および一酸化炭素ガス供給方法、ならびにガス処理装置およびガス処理方法

【課題】一酸化炭素ガスを貯蔵することなく、一酸化炭素ガスを供給することができる一酸化炭素ガス供給機構を提供すること。
【解決手段】チャンバー内に配置されたウエハWに所定の処理を行うためのCOガスを供給するCOガス供給機構31は、蟻酸を供給する蟻酸供給部43と、蟻酸供給部43から供給された蟻酸を分解してCOガスを生成するCOガス生成部44と、COガス生成部44で生成したCOガスをチャンバー1内のウエハWに供給するCOガス供給部としてのCOガス配管45を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理容器内に配置された半導体基板等の被処理体にエッチング処理等の所定のガス処理を施すために一酸化炭素ガスを供給する一酸化炭素ガス供給機構および一酸化炭素ガス供給方法、ならびにこのような一酸化炭素ガス供給機構および一酸化炭素ガス供給方法を含むガス処理装置およびガス処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいては一般的に、半導体ウエハを収容するチャンバー内に処理ガスを供給して、半導体ウエハに対してエッチング処理や成膜処理等の種々のガス処理を施すといったことが行われており、このようなガス処理には処理ガスとして一酸化炭素ガスが用いられている(例えば特許文献1参照)。一酸化炭素ガスは通常、特許文献2に開示されている方法等により大量に生産され、これをガスボンベ等の容器に充填した状態で需要家に供給される。したがって、半導体デバイスの製造プロセスに一酸化炭素ガスを適用する場合には、このようなガスボンベ等に充填した状態で大量に貯蔵しておき、このガスボンベ等を一酸化炭素ガス供給ラインに接続してチャンバー内に一酸化炭素ガスを供給するようにしている。
【0003】
ところで、一酸化炭素ガスは強い毒性を有しているため、少量でも人体に取り込まれると死に至らせる危険性があり、一方で、一酸化炭素ガスは無味・無臭・無色の気体で肌への刺激性も少ないため、その存在を検知しにくい。したがって、前述のように一酸化炭素ガスをガスボンベ等の容器に充填した状態で大量に貯蔵すると、ガスボンベからの漏洩等によって事故につながるおそれがあるため、COガスの貯蔵量を極力少なく抑えることが望ましい。
【特許文献1】特開平11−330057号公報
【特許文献2】特開2003−176118号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、一酸化炭素ガスを貯蔵することなく、一酸化炭素ガスを供給することができる一酸化炭素ガス供給機構および一酸化炭素ガス供給方法を提供することを目的とする。また、このような一酸化炭素ガス供給機構を備えたガス処理装置、このような一酸化炭素ガス供給方法を含むガス処理方法、ならびにこのようなガス処理方法を実行させるためのプログラムを記憶した記憶媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の第1の観点では、処理容器内に配置された被処理体に所定の処理を行うための一酸化炭素ガスを供給する一酸化炭素ガス供給機構であって、蟻酸を供給する蟻酸供給部と、前記蟻酸供給部から供給された蟻酸を分解して一酸化炭素ガスを生成する一酸化炭素ガス生成部と、前記一酸化炭素ガス生成部で生成した一酸化炭素ガスを前記処理容器内の被処理体に供給する一酸化炭素ガス供給部とを具備することを特徴とする一酸化炭素ガス供給機構を提供する。
【0006】
本発明の第2の観点では、処理容器内に配置された被処理体に所定の処理を行うための一酸化炭素ガスを供給する一酸化炭素ガス供給方法であって、蟻酸を分解して一酸化炭素ガスを生成する工程と、生成した一酸化炭素ガスを前記処理容器内の被処理体に供給する工程とを有することを特徴とする一酸化炭素ガス供給方法を提供する。
【0007】
本発明の第3の観点では、内部に被処理体が配置される処理容器と、前記処理容器内に一酸化炭素ガスを供給する一酸化炭素ガス供給機構とを具備し、前記処理容器に被処理体を配置した状態で少なくとも一酸化炭素ガスを供給して被処理体に所定の処理を施すガス処理装置であって、前記一酸化炭素ガス供給機構は、 蟻酸を供給する蟻酸供給部と、前記蟻酸供給部から供給された蟻酸を分解して一酸化炭素ガスを生成する一酸化炭素ガス生成部と、前記一酸化炭素ガス生成部で生成した一酸化炭素ガスを前記処理容器内の被処理体に供給する一酸化炭素ガス供給部とを有することを特徴とするガス処理装置を提供する。
【0008】
本発明の第4の観点では、処理容器内に被処理体を配置する工程と、被処理体に所定の処理が施されるように前記処理容器内に一酸化炭素ガスを供給する工程とを含むガス処理方法であって、前記一酸化炭素ガスを供給する工程は、蟻酸を分解して一酸化炭素ガスを生成する工程と、生成した一酸化炭素ガスを前記処理容器内の被処理体に供給する工程とを有することを特徴とするガス処理方法を提供する。
【0009】
上記第1、3の観点において、前記一酸化炭素ガス生成部は、蟻酸が供給された際に以下の(1)式に示す脱水反応を生じさせて一酸化炭素ガスを生成させる触媒物質を含む反応部を有するものとすることができる。
HCOOH→HO+CO ……(1)
【0010】
上記第1、3の観点において、前記反応部は、粉状または粒状の触媒物質が充填されたものとすることができる。また、前記反応部は、蟻酸を通流させる配管を有し、前記配管の内壁に触媒物質がコーティングされている構成とすることができる。前記触媒物質としてAlを用いることができ、この場合には、前記反応部は、蟻酸を通流させる配管を有し、前記配管はアルミニウム製であり内面に陽極酸化処理が施されている構成をとることもできる。
【0011】
上記第1、3の観点において、前記一酸化炭素ガス生成部は、前記反応部で生成した生成物から水を除去する水除去部をさらに有する構成とすることができ、この場合に、前記水除去部は、前記生成物を脱水剤に接触させて前記生成物から水を除去するものとすることができる。前記脱水剤としてはシリカゲルを用いることができる。
【0012】
上記第2、4の観点において、前記一酸化炭素ガスを生成する工程は、蟻酸を触媒物質に接触させて以下の(1)式に示す脱水反応を生じさせるものとすることができる。
HCOOH→HO+CO ……(1)
【0013】
上記第2、4の観点において、前記触媒物質としてAlを用いることができ、この場合には、180〜300℃の温度で蟻酸を触媒物質としてのAlに接触させることが好ましい。
【0014】
上記第2、4の観点において、前記脱水反応によって生成した生成物から水を除去する工程をさらに有することができ、前記水を除去する工程は、前記生成物を脱水剤に接触させて前記生成物から水を除去するようにすることができる。 前記脱水剤としてシリカゲルを用いることができる。
【0015】
前記反応部は、前記処理容器内に設けることができる。前記反応部が前記処理容器の壁部に設けられ、前記壁部の前記反応部に対応する部分はアルミニウム製であり蟻酸と接触する面に陽極酸化処理が施されているように構成することができる。また、前記処理容器はその中にガスを導入するためのシャワーヘッドを有し、前記反応部は、前記シャワーヘッド内に設けられ、前記シャワーヘッドの前記反応部に対応する部分はアルミニウム製であり蟻酸と接触する面に陽極酸化処理が施されているように構成することができる。
【0016】
本発明の第5の観点では、コンピュータ上で動作し、ガス処理装置を制御するプログラムが記憶された記憶媒体であって、前記制御プログラムは、実行時に、請求項26から請求項32のいずれかのガス処理方法が行われるように、コンピュータに前記ガス処理装置を制御させることを特徴とする記憶媒体を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、前記蟻酸供給部から供給された蟻酸を分解して一酸化炭素ガスを生成する一酸化炭素ガス生成部し、生成した一酸化炭素ガスを前記処理容器内の被処理体に供給するので、一酸化炭素ガスをボンベ等に貯留しておく必要がなく、したがって、一酸化炭素ガスが漏洩する危険性を極力少なくして、安全性を十分に確保することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明する。
ここでは、一酸化炭素供給機構をガス処理装置としてのプラズマエッチング装置に適用した場合を例にとって説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る一酸化炭素(CO)ガス供給機構を備えたプラズマエッチング装置を示す概略断面図である。
【0019】
このエッチング装置100は、被処理体である半導体ウエハW(以下、ウエハWと記す)を収容する処理容器としてのチャンバー1と、ウエハWの表面に形成されたSiO膜やSiCO系材料からなる低誘電率層間絶縁膜(low−k膜)などをエッチングするための処理ガスをチャンバー1内に供給する処理ガス供給機構30とを有している。
【0020】
チャンバー1は、例えばアルミニウム製で気密に構成され、小径の上部1aと大径の下部1bとを有する段つき円筒状をなしており、このチャンバー1内には、ウエハWを水平に支持する支持テーブル2が設けられている。支持テーブル2は、例えばアルミニウムで構成されており、セラミックス製の絶縁板3を介して導体の支持台4に支持されている。支持テーブル2内には、冷却媒体流路(図示せず)が設けられ、この冷却媒体流路に適宜の冷却媒体を流すことによってウエハWを所定の温度に冷却可能となっている。支持テーブル2および支持台4は、ボールねじ7を含むボールねじ機構により昇降可能となっており、支持テーブル2の下方の駆動部分は、ステンレス鋼(SUS)製のベローズ8で覆われている。ベローズ8の外側にはベローズカバー9が設けられている。
【0021】
チャンバー1は接地されており、支持テーブル2には、マッチングボックス11を介してRF電源10が接続されている。RF電源10からは例えば13.56MHzの高周波電力が支持テーブル2に供給されるようになっている。
【0022】
支持テーブル2の表面上には、ウエハWを静電吸着するための静電チャック6が設けられている。この静電チャック6は、絶縁体6bの間に電極6aが介在されて構成されており、電極6aには直流電源12が接続されている。そして、電極6aに電源12から電圧が印加されることにより、クーロン力によってウエハWが吸着される。
【0023】
支持テーブル2の上方の外周には、セラミックス製のフォーカスリング5が設けられ、フォーカスリング5の外側にはバッフル板13が設けられている。バッフル板13は、支持台4、ベローズ8を通してチャンバー1と導通している。
【0024】
チャンバー1の下部1bの側壁には、排気ポート19が形成されており、この排気ポート19には排気系20が接続されている。そして排気系20に設けられた真空ポンプを作動させることによりチャンバー1内を所定の真空度まで減圧することができるようになっている。
【0025】
チャンバー1の上部1aの周囲には、同心状に、ダイポールリングマグネット21が配置されており、支持テーブル2とシャワーヘッド16との間の空間にウエハWと水平に磁界を及ぼすようになっている。
【0026】
チャンバー1の天壁部分には、支持テーブル2に対向するようにシャワーヘッド16が設けられている。シャワーヘッド16は、後述する処理ガス供給機構30からの処理ガスを導入するためのガス導入部16aを上部に有し、導入した処理ガスを拡散させるための空間17を内部に有し、拡散した処理ガスをチャンバー1内に吐出するための多数のガス吐出孔18aを備えたシャワープレート18を下部に有している。
【0027】
処理ガス供給機構30は、反応ガスとしての一酸化炭素(CO)ガスを供給するCOガス供給機構31と、反応ガスとしてのCxyガス、例えばC48ガスを供給するC48ガス供給機構32と、希釈ガスとしてのアルゴン(Ar)ガスを供給するArガス供給機構33と、COガス供給機構31からのCOガス、C48ガス供給機構32からのC48ガスおよびArガス供給機構33からのArガスを合流させてシャワーヘッド16のガス導入部16aに導く、配管等の処理ガス供給ライン34とを備えている。
【0028】
48ガス供給機構32は、C48ガスの供給元であるC48ガス供給源35と、C48ガス供給源35からのC48ガスを処理ガス供給ライン34に導くC48ガス供給ライン36とを有し、C48ガス供給ライン36には、C48ガスの流量を調整するマスフローコントローラ37およびバルブ38が設けられている。Arガス供給機構33は、Arガスの供給元であるArガス供給源39と、Arガス供給源39からのArガスを処理ガス供給ライン34に導くArガス供給ライン40とを有し、Arガス供給ライン40には、Arガスの流量を調整するマスフローコントロー41およびバルブ42が設けられている。
【0029】
COガス供給機構31は、蟻酸(HCOOH)を供給する蟻酸供給部43と、蟻酸供給部43から供給された蟻酸を分解して一酸化炭素(CO)ガスを生成するCOガス生成部44と、COガス生成部44で生成したCOガスをチャンバー1に導くCOガス供給部として機能するCOガス配管45を有している。COガス配管45にはバルブ46が介装されている。
【0030】
蟻酸供給部43は、蟻酸(HCOOH)48を貯留する蟻酸貯留容器47を有しており、この蟻酸貯留容器47からは配管49が延びている。配管49には流量制御のためのマスフローコントローラ(MFC)50とバルブ51が設けられている。蟻酸貯留容器47内の蟻酸は、加熱、バブリング、または気化器等の適宜の手段によりガス状とされ、この蟻酸ガスが配管49に導かれる。COガス生成部44は、反応槽52と、水除去槽55とを有している。
【0031】
蟻酸の分解反応としては、金属触媒や酸化物触媒の存在下で、以下の(1)式に示す脱水反応と(2)式に示す脱水素反応が生じ得ることが知られている(V. A. Komarov et al. , Russian Journal of Physical
Chemistry 36 (1962) p1045)。
HCOOH → HO + CO ……(1)
HCOOH → H + CO ……(2)
COを生成させるには、上記(1)式の脱水反応が重要であるが、上記(1)式の脱水反応を進行させる触媒物質としてはAlを好適に用いることができる。上記文献によると、触媒物質としてAlを用いた場合には、大部分を上記(1)式の反応とすることができ、COの発生割合を高くすることができる。
【0032】
このため、反応槽52には上記(1)式の蟻酸の脱水反応を生じさせる触媒物質としてAl粒53を貯留する。また、上記(1)式が生じた場合には、COの他に水(HO)も発生するので、水除去槽55を設けてその水を除去する。水除去槽55は、蟻酸の脱水反応により生じた水を除去するための脱水剤56として例えばシリカゲルが貯留されている。
【0033】
上記蟻酸供給部43の配管49は、反応槽52の下端部に接続されており、この配管49から反応槽52へガス状の蟻酸が供給される。また、反応槽52の上端と水除去槽55の下端部が配管54により繋がれており、上記COガス配管45は水除去槽55の上端に接続されている。したがって、蟻酸ガスが反応槽52内を上昇していく間にCO生成反応が生じ、また、この際の生成物質であるCOとHOが水除去槽55を上昇していく間に水が除去される。
【0034】
エッチング装置100はマイクロプロセッサ(コンピュータ)からなるプロセスコントローラ60を有しており、エッチング装置100の各構成部がこのプロセスコントローラ60に接続されて制御される構成となっている。また、プロセスコントローラ60には、オペレータがエッチング装置100の各構成部を管理するためにコマンドの入力操作などを行うキーボードや、エッチング装置100の各構成部の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなるユーザーインターフェース61が接続されている。さらに、プロセスコントローラ60には、エッチング装置100で実行される各種処理をプロセスコントローラ60の制御にて実現するための制御プログラムや、処理条件に応じてエッチング装置100の各構成部に所定の処理を実行させるための制御プログラムすなわちレシピや、各種データベース等が格納された記憶部62が接続されている。レシピは記憶部62の中の記憶媒体に記憶されている。記憶媒体は、ハードディスク等の固定的に設けられているものであってもよいし、CDROM、DVD、フラッシュメモリ等の可搬性のものであってもよい。また、他の装置から、例えば専用回線を介してレシピを適宜伝送させるようにしてもよい。
【0035】
そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース61からの指示等にて任意のレシピを記憶部62から呼び出してプロセスコントローラ60に実行させることで、プロセスコントローラ60の制御下で、エッチング装置100での所望の処理が行われる。
【0036】
このように構成されたエッチング装置100においては、まず、エッチング対象膜であるSiO膜またはLow−k膜が形成されたウエハWがチャンバー1内に搬入され、支持テーブル2に載置される。そして、排気系20により排気ポート19を介してチャンバー1内を排気し、所定の真空度に保持する。
【0037】
チャンバー1内が所定の真空度に保持された時点で、COガス供給機構31、C48ガス供給機構32およびArガス供給機構33により、処理ガスであるCOガス、C48ガスおよびArガスを処理ガス供給ライン34およびシャワーヘッド16を介してチャンバー1内に所定の流量で供給し、チャンバー1内を所定の圧力、例えば4.0〜8.0Pa(30〜60mTorr)に保持する。この際のC48ガスの流量は例えば1〜4mL/min(sccm)に設定し、チャンバー1内のC48ガスの分圧は例えば0.093〜0.465Pa(0.07〜0.35mTorr)に設定し、チャンバー1内に供給されるC48ガスに対するCOガスの比は例えば35〜200の範囲に設定する。
【0038】
この状態で、RF電源10から支持テーブル2に、周波数が例えば13.56MHz、パワーが例えば500〜2500Wの高周波電力を供給するとともに、支持テーブル2の温度を0〜40℃に保持する。なお、この際には、直流電源12から静電チャック6の電極6aに所定の電圧を印加し、ウエハWはクーロン力によって吸着しておく。支持テーブル2に高周波電力を印加することにより、シャワーヘッド16と支持テーブル2との間に高周波電界が形成される。一方、チャンバー1の上部1aには、ダイポールマグネット21により磁界が形成されているため、ウエハWが存在するチャンバー1内にはマグネトロン放電が生じて処理ガスがプラズマ化し、この処理ガスのプラズマによりウエハW上に形成されたSiO膜またはlow−k膜がプラズマエッチングされる。
【0039】
本実施形態では、このようなプラズマエッチングの際、COガス供給機構31において、蟻酸供給部43の蟻酸貯留容器47に貯留されている蟻酸を、加熱、バブリング、気化器等により蟻酸ガスにし、この蟻酸ガスを配管49を通流させてCOガス生成部44の反応槽52に供給する。反応槽52では上記(1)式の蟻酸の脱水反応を効率良く進行させるために触媒物質としてAl粒が充填されており、蟻酸ガスがこのAl粒に接触しながら下から上へ流れ、その間に大部分がCOとHOに分解する。この際の反応を効率良く進行させるためには、反応温度を180〜300℃の範囲にすることが好ましい。温度が180℃未満であると上記(1)式の脱水素反応が生じ難く、300℃を超えると上記(2)式の脱水素反応が起こりやすくなってCOガスの発生割合が低下する傾向となる。この反応に必要な温度を確保するために、反応槽52にはヒーター(図示せず)が設けられている。
【0040】
このようにして、蟻酸ガスを分解させた場合にはCOとともにHOも発生するため、HOを除去する目的で反応槽52によって生成したガスを配管54に通流させて水除去槽55に供給する。水除去槽55には脱水剤56として例えばシリカゲルが充填されており、反応槽52で生成した主にCOとHOからなる生成ガスが脱水剤56に接触しながら下から上へ流れ、その間にHOがシリカゲルに吸着されて残存したCOガスをCOガス供給配管45を通過させてチャンバー1内に供給する。HOをシリカゲルに効率良く吸着させるためには、COとHOからなる生成ガスの温度およびシリカゲルの温度を充分に低くすることが望ましい。そのため、配管54および水除去槽55を冷却水等の冷媒で冷却することが望ましい。
【0041】
本実施形態では、このように、蟻酸の脱水反応を利用してCOガスを生成するので、COガスをチャンバー1内への供給に必要な量のみ生成することができ、従来のように大量のCOガスが貯蔵されたボンベ等のCOガス貯蔵部を用いる必要がない。このため、COガスが装置外に漏洩する危険性を極力少なくして、安全性を十分に確保することが可能となる。
【0042】
次に、COガス供給機構の他の例について説明する。
図2は他の例に係るCOガス供給機構の一部を示す図である。ここでは、反応槽52の代わりに配管72の内壁にAlコーティング73を施した反応部71を用いた例を示す。蟻酸供給部43から供給された蟻酸は、反応部71を通過する間に、触媒物質であるAlコーティング73に接触し、脱水反応が生じてCOとHOに分解する。このときの反応に必要な温度を確保するために、配管72にはヒーター(図示せず)が設けられている。
【0043】
次に、COガス供給機構のさらに他の例について説明する。
図3はさらに他の例に係るCOガス供給機構の一部を示す図である。ここでは、反応槽52の代わりにAl配管75の内壁を陽極酸化処理してAlからなる陽極酸化被膜76が形成された反応部74を用いた例を示す。蟻酸供給部43から供給された蟻酸は、反応部74を通過する間に、触媒物質であるAlからなる陽極酸化被膜76に接触し、脱水反応が生じてCOとHOに分解する。このときの反応に必要な温度を確保するために、Al配管74にはヒーター(図示せず)が設けられている。
【0044】
次に、COガス供給機構の別な例について説明する。
図4はCOガス供給機構の別な例を示す図である。ここでは、チャンバー1に組込んだCOガス生成部44′を有するCOガス生供給機構31′を示す。すなわち、COガス生成部44′は、シャワーヘッド16のシャワープレート18の下に設けられたAlからなる板状の反応部82と、さらにその下に設けられた粒状の脱水剤85が充填された水除去部84とを有している。反応部82にはシャワープレート18のガス吐出孔18aに連続するガス通過孔83を有している。なお、シャワープレート18にはヒーター81が埋設されている。
【0045】
このように構成されたCOガス生供給機構31′においては、蟻酸供給部43から供給された蟻酸ガスが配管49を通って処理ガス供給ライン34に至り、ガス導入部16aを介してシャワーヘッド16に導かれる。そして、蟻酸ガスは、シャワープレート18のガス吐出孔18aから吐出された後、COガス生成部44′の反応部82のガス通過孔83を通過し、その間に脱水反応が生じてCOガスとHOに分解する。そして、このように分解したガスがCOガス生成部44′の水除去部85を通過して主にCOガスがチャンバー1内に供給される。
【0046】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、触媒物質としてAlを用い蟻酸に脱水反応を生じさせてCOガスを生成したが、触媒物質としてはFe、MgO、CuO等の他の物質を用いることができる。また、TiO、WO、WO、ThO、SiO、P、AlPOもCOガスの生成量を多くできるため、これらの物質を用いてもよい。ただし、AlがCOガスの生成量割合が最も多いため、より好ましい。また、触媒物質を用いずに温度を上昇させることにより蟻酸ガスからCOガスを生成することができるが、温度を上昇させると上記(2)式の脱水素反応も生じるようになり、COの生成量という点からは触媒物質を用いることが好ましい。
【0047】
上記実施形態では、他の処理ガスと合流させてチャンバー内にCOガスを供給したが、COガスを他の処理ガスと別個にチャンバー内に供給してもよい。また、上記実施形態では、蟻酸に脱水反応を生じさせてCOとHOに分解させた後、水を除去する際に脱水剤としてシリカゲルを用いた例を示したが、これに限らずP等の他の脱水剤を用いることができる。さらに、水が処理に悪影響を与えない、または処理に水が必要な場合には水を除去しなくてもよい。
【0048】
このような場合には、チャンバー内に、COガス生成部の反応部を設けることができ、チャンバー内にAl等の触媒を設置してもよい。具体的には、チャンバーの壁部を反応部として用い、その壁部の反応部に対応する部分をアルミニウム製とし、蟻酸と接触する面に陽極酸化処理が施された構成とすることができる。また、チャンバー内のシャワーヘッドを反応部として用い、シャワーヘッドの反応部に対応する部分をアルミニウム製とし、蟻酸と接触する面に陽極酸化処理が施された構成としてもよい。また、このような陽極酸化処理を施したアルミニウムの部材をチャンバー内に配置してもよい。また、このような陽極酸化処理が施されたアルミニウムの代わりに、他の触媒として機能する材料、例えばSiO製の部材を用いてもよい。
【0049】
さらに、上記実施形態では、半導体ウエハに形成されたSiO膜やlow−k膜のエッチング処理に本発明を適用した場合について示したが、これに限らず、他の材料からなる膜のエッチング処理にも適用可能なことはもちろんのこと、エッチング処理以外にも、基板に形成された金属膜の表面の酸化物の還元、CVDによる半導体ウエハへの金属膜の成膜、CVDによる半導体ウエハへの炭素を含む膜、例えば、WNCやTaC等からなるバリアメタルカーバイド、ダイアモンドやカーボンナノチューブ、グラファイトナノファイバーからなるカーボン膜の成膜など、COガスの供給が必要な用途に広く適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、処理容器内にCOガスを供給して被処理体に所定の処理を施すガス処理装置全般に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態に係る一酸化炭素(CO)ガス供給機構を備えたプラズマエッチング装置を示す概略断面図。
【図2】他の例に係るCOガス供給機構の一部を示す図。
【図3】さらに他の例に係るCOガス供給機構の一部を示す図。
【図4】COガス供給機構の別な例を示す図。
【符号の説明】
【0052】
1;チャンバー(処理容器)
31、31′;一酸化炭素(CO)ガス供給機構
43;蟻酸供給部
44、44′;COガス生成部
45;COガス配管(COガス供給部)
47;蟻酸貯留容器
49;配管
52;反応槽
53;水除去槽
56、85;脱水剤
60;プロセスコントローラ
62;記憶部
71、74;反応部
72;配管
73;Alコーティング
75;Al配管
76;陽極酸化被膜
81;ヒーター
82;反応部
83;ガス通過孔
84;水除去部
100:エッチング装置(ガス処理装置)
W:ウエハ(被処理体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器内に配置された被処理体に所定の処理を行うための一酸化炭素ガスを供給する一酸化炭素ガス供給機構であって、
蟻酸を供給する蟻酸供給部と、
前記蟻酸供給部から供給された蟻酸を分解して一酸化炭素ガスを生成する一酸化炭素ガス生成部と、
前記一酸化炭素ガス生成部で生成した一酸化炭素ガスを前記処理容器内の被処理体に供給する一酸化炭素ガス供給部と
を具備することを特徴とする一酸化炭素ガス供給機構。
【請求項2】
前記一酸化炭素ガス生成部は、蟻酸が供給された際に以下の(1)式に示す脱水反応を生じさせて一酸化炭素ガスを生成させる触媒物質を含む反応部を有することを特徴とする請求項1に記載の一酸化炭素ガス供給機構。
HCOOH→HO+CO ……(1)
【請求項3】
前記反応部は、粉状または粒状の触媒物質が充填されていることを特徴とする請求項2に記載の一酸化炭素ガス供給機構。
【請求項4】
前記反応部は、蟻酸を通流させる配管を有し、前記配管の内壁に触媒物質がコーティングされていることを特徴とする請求項2に記載の一酸化炭素ガス供給機構。
【請求項5】
前記触媒物質はAlであることを特徴とする請求項2に記載の一酸化炭素ガス供給機構。
【請求項6】
前記反応部は、蟻酸を通流させる配管を有し、前記配管はアルミニウム製であり内面に陽極酸化処理が施されていることを特徴とする請求項5に記載の一酸化炭素ガス供給機構。
【請求項7】
前記一酸化炭素ガス生成部は、前記反応部で生成した生成物から水を除去する水除去部をさらに有することを特徴とする請求項2に記載の一酸化炭素ガス供給機構。
【請求項8】
前記水除去部は、前記生成物を脱水剤に接触させて前記生成物から水を除去することを特徴とする請求項7に記載の一酸化炭素ガス供給機構。
【請求項9】
前記脱水剤としてシリカゲルを用いることを特徴とする請求項8に記載の一酸化炭素ガス供給機構。
【請求項10】
処理容器内に配置された被処理体に所定の処理を行うための一酸化炭素ガスを供給する一酸化炭素ガス供給方法であって、
蟻酸を分解して一酸化炭素ガスを生成する工程と、
生成した一酸化炭素ガスを前記処理容器内の被処理体に供給する工程と
を有することを特徴とする一酸化炭素ガス供給方法。
【請求項11】
前記一酸化炭素ガスを生成する工程は、蟻酸を触媒物質に接触させて以下の(1)式に示す脱水反応を生じさせることを特徴とする請求項10に記載の一酸化炭素ガス供給方法。
HCOOH→HO+CO ……(1)
【請求項12】
前記触媒物質としてAlを用いることを特徴とする請求項11に記載の一酸化炭素ガス供給方法。
【請求項13】
180〜300℃の温度で蟻酸を触媒物質としてのAlに接触させることを特徴とする請求項12に記載の一酸化炭素ガス供給方法。
【請求項14】
前記脱水反応によって生成した生成物から水を除去する工程をさらに有することを特徴とする請求項11に記載の一酸化炭素ガス供給方法。
【請求項15】
前記水を除去する工程は、前記生成物を脱水剤に接触させて前記生成物から水を除去することを特徴とする請求項14に記載の一酸化炭素ガス供給方法。
【請求項16】
前記脱水剤としてシリカゲルを用いることを特徴とする請求項15に記載の一酸化炭素ガス供給方法。
【請求項17】
内部に被処理体が配置される処理容器と、
前記処理容器内に一酸化炭素ガスを供給する一酸化炭素ガス供給機構と
を具備し、
前記処理容器に被処理体を配置した状態で少なくとも一酸化炭素ガスを供給して被処理体に所定の処理を施すガス処理装置であって、
前記一酸化炭素ガス供給機構は、
蟻酸を供給する蟻酸供給部と、
前記蟻酸供給部から供給された蟻酸を分解して一酸化炭素ガスを生成する一酸化炭素ガス生成部と、
前記一酸化炭素ガス生成部で生成した一酸化炭素ガスを前記処理容器内の被処理体に供給する一酸化炭素ガス供給部と
を有することを特徴とするガス処理装置。
【請求項18】
前記一酸化炭素ガス生成部は、蟻酸が供給された際に以下の(1)式に示す脱水反応を生じさせて一酸化炭素ガスを生成させる触媒物質を含む反応部を有することを特徴とする請求項17に記載のガス処理装置。
HCOOH→HO+CO ……(1)
【請求項19】
前記反応部は、粉状または粒状の触媒物質が充填されていることを特徴とする請求項18に記載のガス処理装置。
【請求項20】
前記反応部は、蟻酸を通流させる配管を有し、前記配管の内壁に触媒物質がコーティングされていることを特徴とする請求項18に記載のガス処理装置。
【請求項21】
前記触媒物質はAlであることを特徴とする請求項18に記載のガス処理装置。
【請求項22】
前記反応部は、蟻酸を通流させる配管を有し、前記配管はアルミニウム製であり蟻酸接触する内面に陽極酸化処理が施されていることを特徴とする請求項21に記載のガス処理装置。
【請求項23】
前記反応部は、前記処理容器内に設けられていることを特徴とする請求項21に記載のガス処理装置。
【請求項24】
前記反応部は前記処理容器の壁部に設けられ、前記壁部の前記反応部に対応する部分はアルミニウム製であり蟻酸と接触する面に陽極酸化処理が施されていることを特徴とする請求項23に記載のガス処理装置。
【請求項25】
前記処理容器はその中にガスを導入するためのシャワーヘッドを有し、前記反応部は、前記シャワーヘッド内に設けられ、前記シャワーヘッドの前記反応部に対応する部分はアルミニウム製であり蟻酸と接触する面に陽極酸化処理が施されていることを特徴とする請求項23に記載のガス処理装置。
【請求項26】
前記一酸化炭素ガス生成部は、前記反応部で生成した生成物から水を除去する水除去部をさらに有することを特徴とする請求項18に記載のガス処理装置。
【請求項27】
前記水除去部は、前記生成物を脱水剤に接触させて前記生成物から水を除去することを特徴とする請求項26に記載のガス処理装置。
【請求項28】
前記脱水剤としてシリカゲルを用いることを特徴とする請求項27に記載のガス処理装置。
【請求項29】
処理容器内に被処理体を配置する工程と、
被処理体に所定の処理が施されるように前記処理容器内に一酸化炭素ガスを供給する工程と
を含むガス処理方法であって、
前記一酸化炭素ガスを供給する工程は、
蟻酸を分解して一酸化炭素ガスを生成する工程と、
生成した一酸化炭素ガスを前記処理容器内の被処理体に供給する工程と
を有することを特徴とするガス処理方法。
【請求項30】
前記一酸化炭素ガスを生成する工程は、蟻酸を触媒物質に接触させて以下の(1)式に示す脱水反応を生じさせることを特徴とする請求項29に記載のガス処理方法。
HCOOH→HO+CO ……(1)
【請求項31】
前記触媒物質としてAlを用いることを特徴とする請求項30に記載のガス処理方法。
【請求項32】
180〜300℃の温度で蟻酸を触媒物質としてのAlに接触させることを特徴とする請求項31に記載のガス処理方法。
【請求項33】
前記脱水反応によって生成した生成物から水を除去する工程をさらに有することを特徴とする請求項30に記載のガス処理方法。
【請求項34】
前記水を除去する工程は、前記生成物を脱水剤に接触させて前記生成物から水を除去することを特徴とする請求項33に記載のガス処理方法。
【請求項35】
前記脱水剤としてシリカゲルを用いることを特徴とする請求項34に記載のガス処理方法。
【請求項36】
コンピュータ上で動作し、ガス処理装置を制御するプログラムが記憶された記憶媒体であって、前記制御プログラムは、実行時に、請求項29から請求項35のいずれかのガス処理方法が行われるように、コンピュータに前記ガス処理装置を制御させることを特徴とする記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−62236(P2009−62236A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232694(P2007−232694)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】