説明

位置管理システムおよび位置管理プログラム

【課題】 位置検知が必要な空間内の様々な検知対象物の3次元位置情報をより精度良く認識する位置管理システムおよび位置管理プログラムを提供する。
【解決手段】 本発明の位置管理システムAは、位置が検知される検知対象物41,42に設けられた、互いの検知能を補完し合う二種以上の検知用タグ(超音波タグ26、RFIDタグ36)と、検知用タグの種類別に設けられ、検知用タグからの信号を受信すると当該検知用タグに付された固有のタグIDと、自己に付されている装置IDと、を含む検知結果データを生成する検知装置21,31と、取得した検知結果データと、検知装置21,31の配置データとに基づいて処理することで検知対象物41,42の位置を特定する位置データ処理装置1とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置管理システムおよび位置管理プログラムに関し、より詳しくは、複数の検知対象物の特性に応じて設けられたタグからの情報に基づき、各検知対象物の位置などを検知する位置管理システムおよび位置管理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タグを用いて検知対象物の位置を検知する様々な技術が知られている。例えば、特許文献1には、所定間隔で床面に配置された複数のIDタグからのIDデータを、移動体などの検知対象物に取り付けられたIDリーダで読み取ることによって検知対象物の位置を検知する発明が記載されている。
【0003】
また、検知対象物の位置を検知する方法としては、カメラ画像を解析する方法、超音波または赤外線を用いる方法、RFIDタグを用いる方法などが広く用いられている。
【特許文献1】特開2001−183455号公報(段落0012〜0017、図1〜図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術には、以下に示す問題があるために検知対象物の位置を常時、高精度に特定することができなかった。
【0005】
すなわち、特許文献1の技術では、検知対象物の2次元位置を検知することはできるものの、その3次元位置を検知することができない。このため、例えば、3次元上の位置検知が必要な作業や移動をロボットに実行させることは困難であると考えられる。
【0006】
また、カメラ画像を解析する方法や、超音波または赤外線を用いる方法には、カメラ、超音波検知装置、赤外線検知装置などの検知手段と検知対象物との間に、検知対象物以外の物体(障害物)が存在すると、当該障害物の陰に隠れた検知対象物の位置を検知することができなくなるというオクルージョンの問題があるために、検知対象物の位置を常時、高精度に特定することができなかった。
【0007】
ここで、カメラ画像のみから複数の検知対象物の位置検知を行うと、計算コストが増大するのみならず、照明などの光環境によっては位置検知の精度が不十分となってしまう場合がある。
また、カメラ画像を解析する方法の一つとして、検知対象物に付けられたマーカを探索して位置検知を行う方法も知られているが、一般的には、単にマーカからでは位置検知はできるものの、形状や重量などの検知対象物固有の情報を取得することはできない。
【0008】
他方、超音波タグまたは赤外線タグを用いた位置検知システムを構築した場合、これらのタグ自体に外部電源から電力を供給する必要がある。このため、タグが設けられる物体のサイズや空間内の存在位置によっては外部電力を供給できず、超音波タグや赤外線タグが利用できないためにその位置検知が不可能となるケースも生じる。また、外部電力の供給が必要なタグは、コップや椅子、本などの頻繁に移動させられる物体にも不適である。
【0009】
本発明は、前記の問題点に鑑みてなされたものであり、位置検知が必要な空間内の様々な検知対象物の3次元位置情報をより精度良く認識する位置管理システムおよび位置管理プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決した本発明に係る位置管理システムは、位置検知対象物に設けられた、互いの検知能を補完し合う二種以上の検知用タグと、検知用タグの種類別に設けられ、検知用タグからの信号を受信すると当該検知用タグに付された固有のタグIDと、自己に付されている装置IDと、を含む検知結果データを生成する検知装置と、取得した検知結果データと、検知装置の配置データとに基づいて処理することで検知対象物の位置を特定する位置データ処理装置と、を備える構成とした。
【0011】
ここで、本発明において、「二種以上の検知用タグ」とは、互いの検知能を補完し合うものであり、二種の場合は例えば、超音波タグとRFIDタグとの組み合わせが好適である。超音波タグは、オクルージョンや外部電力を確保しなければならないといった問題があるが、RFIDタグにはこれらの問題がない。他方、RFIDタグは、位置検出精度がそれほど高くないが、超音波タグは高精度の位置検出が可能である。そして、これら二種以上の検知用タグから、検知対象物ごとに少なくとも一種を選択して取り付ける。この選択は、検知対象物および各タグの特性に基づいて行うのがよい。
【0012】
本発明の位置管理システムをこのような構成とすれば、検知装置は、検知対象物に設けられた検知用タグからの信号を精度よく受信することができる。したがって、検知装置は、かかる信号に含まれている検知用タグの固有のタグIDを確実に取得することが可能となる。そのため、検知装置は、取得したタグIDと、予め記憶しておいた自己の装置IDとを含めた検知結果データを生成することができ、その検知結果データを取得した位置データ処理装置は、検知結果データと、検知装置の配置データとに基づいて処理することで、検知用タグが設けられた検知対象物の位置を高精度に特定することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の位置管理システムによれば、他物体の陰に位置するなど、オクルージョンの問題が生じるおそれのある検知対象物に、互いの検知能を補完し合う二種以上の検知用タグと、その検知装置を適用することで、当該検知対象物の位置の特定そのものが不可能になるといった事態を防止するとともに、高精度な3次元位置の特定を可能としている。
すなわち、本発明はオクルージョンの問題を防止することができ、位置検知が必要な空間内の様々な検知対象物の3次元位置情報を確実かつ精度良く認識することが可能となった。
また、様々な検知対象物の3次元位置をより精度良く認識できる本発明を応用すれば、移動体のナビゲーションやマニピュレーション作業の確実性および精度の向上が実現する。
【0014】
さらに、本発明の位置管理プログラムによれば、コンピュータを、検知空間内に存在する様々な検知対象物の3次元位置情報を検知し、検知対象物の位置を高精度に特定するために機能させることができる。その結果、いわゆるオクルージョンの問題を解決することができるとともに、検知対象物の位置を高精度に特定することができる。
また、本発明の位置管理プログラムによれば、コンピュータを、高精度な移動経路を作成するために機能させることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の特徴は、使用態様、使用場所、大きさなど、検知対象物の特性に合った検知用タグを適用することで、物体の位置検知が不能になることを防止しつつ、可能な限りより確実かつ精度の高い位置検知をも成立させる点にある。以下、図1〜図10を用いて本発明を詳細に説明する。
【0016】
(1)位置管理システムの実施の形態
はじめに、図1〜図3を適宜参照して、本発明の実施の形態に係る位置管理システムAについて説明する。参照する図面において、図1は、本発明の位置管理システムAの原理を説明する構成図であり、図2は、一実施形態に係る位置管理システムAの構成を示す構成図であり、図3は、一実施形態に係る位置管理システムAの位置関係を示す平面図である。
【0017】
図1に示すように、位置管理システムAは、検知対象物41,42および自律移動体であるロボット5と、これらに備えられその位置を検知させるための超音波タグ26およびRFIDタグ36と、超音波タグ26およびRFIDタグ36の種類別に設けられた超音波タグ検知装置21およびRFIDタグ検知装置31(以下、それぞれ単に「検知装置21」、「検知装置31」という。)と、位置データ処理装置1と、を備えている。
また、この位置管理システムAの位置データ処理装置1は、検知結果データや配置データなどを記憶する処理装置用記憶部12と、検知装置21,31やロボット5と検知結果データや発信命令などの送受信を行い、さらにネットワーク1200を介して端末1300と接続される入出力部11と、マップ生成部14を備えた主制御部13とを備えている。
ここで、本発明においては、超音波タグ26と検知装置21を用いた検知システムを超音波タグシステム2といい、RFIDタグ36と検知装置31を用いた検知システムをRFIDタグシステム3という。
【0018】
かかる構成の位置管理システムAを応用すれば、[発明の効果]の欄で記述したように、移動体のナビゲーションやマニピュレーション作業の確実性および精度を向上させることができる。
以下、超音波タグシステム2およびRFIDタグシステム3を用いた位置管理システムAについて説明する。
【0019】
(2)超音波タグシステムおよびRFIDタグシステム
(2−1)超音波タグおよびRFIDタグ
超音波タグ26およびRFIDタグ36は、特許請求の範囲に記載した「二種以上の検知用タグ」に相当し、検知装置21および検知装置31は、特許請求の範囲に記載した、検知用タグの種類別に設けられた「検知装置」に相当するものである。
超音波タグ26およびRFIDタグ36は、それぞれ汎用の超音波タグおよびRFIDタグを用いることができる。
【0020】
超音波タグ26を用いた超音波タグシステム2は、数cm程度の非常に高い精度で検知対象物41の位置を測定することができる。そのため、位置精度の観点からは、全ての検知用タグを超音波タグ26にすることが好ましいとも考えられる。しかし、超音波タグ26は、超音波の送受信を行うために常時電力を供給する必要があるので、本発明では、図2、図3に示すように、検知対象物41(備え付けの本棚41a)や壁など、超音波タグ26が外部電力に常に接続可能である検知対象物に設けている。
なお、本明細書においては、かかる超音波タグ26を備えた検知対象物を「検知対象物41」といい、後記するRFIDタグ36を備えた検知対象物を「検知対象物42」という。したがって、このようなカテゴリーで分ければ、ロボット5は検知対象物41に含まれる。
【0021】
超音波タグ26を用いた超音波タグシステム2で使用する周波数帯としては、20kHz以上の周波数帯域を使用する(例えば、40kHz)。この周波数帯域は、通信環境などに応じて良好な位置検出ができるように適宜選択されたものが使用される。
【0022】
一方、RFIDタグ36を用いたRFIDタグシステム3は、超音波タグシステム2と比較すると、検知対象物42の位置を測定する精度は若干粗い。しかし、検知装置31から送信された電波を受信することで起電することができるので、電源を確保する必要がない。そのため、本発明では、例えば、人、植木、書類などの電源を確保しにくい検知対象物や移動する検知対象物にRFIDタグ36を設けている。なお、人にRFIDタグ36を設けるには、例えば、RFIDタグ36が設けられたネームプレートなどを付することで行うことができる。
【0023】
RFIDタグ36を用いたRFIDタグシステム3で使用する周波数帯域としては、例えば、860〜960MHzや2.45GHzなどが使用される。RFIDタグシステム3で使用する電波は、超音波と比較して回折し易いため、送受信機間に障害物があっても、通信状態が維持される可能性が高い。
【0024】
(2−2)検知装置
検知装置21は、所定距離内にある超音波タグ26の固有のタグIDを含む超音波信号を取得することで、当該超音波タグ26の高精度な位置検知を行う。
また、RFIDタグ36の通信エリアは予め分かっており、単独または複数の検知装置31が特定のRFIDタグ36の信号を受信することで、当該RFIDタグ36の位置が比較的大まかに判明する。
【0025】
検知装置21,31は、超音波タグ26またはRFIDタグ36と無線通信による信号の送受信を行うことができる検知装置であればよく、汎用の検知装置を用いることができる。
図1に示すように、検知装置21および検知装置31は、それぞれ送受信部22,32と、検知結果データ生成部23,33と、インターフェース24,34と、を備えている。
【0026】
(2−3)送受信部
送受信部22,32は、アンテナなどを含んで構成され、それぞれ、超音波タグ26およびRFIDタグ36に向けて発信命令を含む超音波信号または電波信号の送信や、複数の超音波タグ26およびRFIDタグ36から送信される固有のタグIDを含む超音波信号または電波信号の受信を行う。
【0027】
(2−4)検知結果データ生成部
また、検知結果データ生成部23,33は、それぞれ超音波タグ26、RFIDタグ36から受信した信号に基づき検知結果データを作成する。検知装置用記憶部25,35は、各検知装置21,31のID情報など必要な情報を記憶する。
このような検知結果データ生成部23,33は、使用する検知装置21,31に一般的なCPUを備えることで実現することができる。
【0028】
(2−5)インターフェース
そして、インターフェース24,34は、位置データ処理装置1から発信された発信命令の受信、および、検知結果データ生成部23,33のそれぞれから取得した検知結果データの位置データ処理装置1への送信、を行う。
【0029】
(3)位置データ処理装置
次に、適宜図1〜図4を参照して、位置管理システムAの要部である位置データ処理装置1について説明する。図4は、位置管理システムAの位置データ処理装置1のブロック図である。
図4に示すように、位置データ処理装置1は、入出力部11、処理装置用記憶部12、およびマップ生成部14と移動経路作成部15を有する主制御部13を備えている。
【0030】
(3−1)入出力部
図4に示すように、入出力部11は、基地局1000やネットワーク1200を介して、ロボット5や端末1300との間で各種データの送受信を行うためのインターフェースである。
【0031】
(3−2)処理装置用記憶部
処理装置用記憶部12は、自律移動体データ記憶部121およびタグ情報記憶部122を備えており、前記した超音波タグシステム2およびRFIDタグシステム3で得られた検知結果データの他、ロボット5を制御するための各種データを記憶する。
【0032】
(3−2−1)自律移動体データ記憶部
自律移動体データ記憶部121は、ロボット5の状態に関するデータである自律移動体データをロボット5(ロボット5が複数ある場合はロボット5ごと)に関連付けてデータベース化し、記憶する。
自律移動体データは、少なくともロボットID、現在位置データおよび移動速度データを含み、その他、当該ロボット5の寸法や、バッテリ残量、駆動系異常の有無などに関するデータや後記する主制御部13で作成した移動経路データも含んでいる。なお、移動経路データとその作成については、後に詳述する。
また、この自律移動体データ記憶部121は、端末1300から入力された、ロボット5に実行させるタスクに関する種々のタスクデータも記憶する。
【0033】
(3−2−2)タグ情報記憶部
そして、タグ情報記憶部122は、検知装置21,31から取得した検知結果データや、検知装置21,31の配置データなどを記憶するものである。
【0034】
(3−3)主制御部
主制御部13は、処理装置用記憶部12などに予め記憶されたプログラムに従って種々の演算等を行うものである。
図4および図6に示すように、主制御部13は、マップ生成部14と、必要に応じて移動経路作成部15と移動指示部16と、を備える。
かかる主制御部13は、一般的なCPUを備えることによって具現できる。
なお、図6においては、処理装置用記憶部12は省略して図示している。また、図4においては、移動指示部16は省略して図示している。
【0035】
(3−3−1)マップ生成部
マップ生成部14は、検知装置21,31から取得した検知結果データを基に検知空間マップを生成するものである。
なお、本発明において「マップ」とは、検知対象物の位置を記録したデータをいう。そして、この「位置」は、座標であってもよいことはもちろん、検知装置のIDなど、位置関係を特定できる他のデータでもよい。
図6に示すように、マップ生成部14は、位置データ作成手段141および検知空間マップ作成手段142を備える。マップ生成部14による検知空間マップの作成などについては、後に詳述する。
【0036】
(3−3−2)移動経路作成部
移動経路作成部15は、ロボット5のナビゲーションを行う場合に、マップ生成部14で生成された検知空間マップに基づいてロボット5の移動経路データを作成するものである。
移動経路作成部15によるロボット5の移動経路の作成などについては後に詳述する。
【0037】
(4)ロボット
次に、検知対象物であり自律移動体であるロボット5について、図2および図5を参照して説明する。なお、図5は、図2のロボット5を示すブロック図である。
図2に示されているロボット5は、自律移動型の二足歩行ロボットである。
このロボット5は、検知空間DAに配置されており、位置データ処理装置1の主制御部13から送信された移動経路データに基づいて検知空間DA内を移動したり、別途に送信されたタスク実行命令信号に基づいて種々のタスクを実行したりするものである。
【0038】
このロボット5は、図2に示すように、頭部51、腕部52、脚部53を有している。頭部51、腕部52、脚部53は、それぞれアクチュエータにより駆動され、自律移動制御部550(図5参照)により二足移動の制御がなされる。この二足移動についての詳細は、例えば特開2001−62760号公報に開示されている。
【0039】
また、ロボット5は、図5に示すように、前記した頭部51、腕部52、脚部53に加えて、カメラCM,CM、スピーカSP、マイクMC、画像処理部510、音声処理部520、制御部540、自律移動制御部550、無線通信部560、およびロボット用記憶部570を有している。
【0040】
(4−1)カメラ
カメラCM,CMは、映像をデジタルデータとして取り込むことができるものであり、例えばカラーCCD(Charge-Coupled Device)カメラが使用される。カメラCM,CMは、左右に平行に並んで配置され、撮影した画像は画像処理部510に出力される。このカメラCM,CMと、スピーカSPおよびマイクMCは、いずれも頭部51の内部に配設されている。
ロボット5は、位置管理システムAのナビゲーションによって目標物である書類Oに近づくと、このカメラCM,CMを使って書類Oを直接確認することができる。
【0041】
(4−2)画像処理部
画像処理部510は、カメラCM,CMが撮影した画像を処理して、撮影された画像からロボット5の周囲の状況を把握するため、周囲の障害物や目標物、あるいは人物の認識を行う部分である。この画像処理部510は、ステレオ処理部511a、移動体抽出部511b、および顔認識部511cを含んで構成される。
【0042】
ステレオ処理部511aは、左右のカメラCM,CMが撮影した2枚の画像の一方を基準としてパターンマッチングを行い、左右の画像中の対応する各画素の視差を計算して視差画像を生成し、生成した視差画像および元の画像を移動体抽出部511bに出力する。なお、この視差は、ロボット5から撮影された物体までの距離を表すものである。
【0043】
移動体抽出部511bは、ステレオ処理部511aから出力されたデータに基づき、撮影した画像中の移動体を抽出するものである。移動するロボット5を抽出するのは、移動する物体は人物であると推定して、人物の認識をするためである。
ロボット5の抽出をするために、移動体抽出部511bは、過去の数フレーム(コマ)の画像を記憶しており、最も新しいフレーム(画像)と、過去のフレーム(画像)を比較して、パターンマッチングを行い、各画素の移動量を計算し、移動量画像を生成する。そして、視差画像と、移動量画像とから、カメラCM,CMから所定の距離範囲内で、移動量の多い画素がある場合に、その位置に人物がいると推定し、その所定距離範囲のみの視差画像として、ロボット5を抽出し、顔認識部511cへロボット5の画像を出力する。
【0044】
顔認識部511cは、抽出したロボット5から肌色の部分を抽出して、その大きさ、形状などから顔の位置を認識する。なお、同様にして、肌色の領域と、大きさ、形状などから手の位置も認識される。
認識された顔の位置は、ロボット5が移動するときの情報として、また、その人とのコミュニケーションを取るため、制御部540に出力されるとともに、無線通信部560に出力されて、基地局1000を介して、位置データ処理装置1に送信される。
【0045】
(4−3)音声処理部
音声処理部520は、音声合成部521aと、音声認識部521bとを有している。
音声合成部521aは、制御部540が決定し、出力してきた発話行動の指令に基づき、文字情報から音声データを生成し、スピーカSPに音声を出力する部分である。音声データの生成には、予め記憶している文字情報と音声データとの対応関係を利用する。
音声認識部521bは、マイクMCから音声データが入力され、予め記憶している音声データと文字情報との対応関係に基づき、音声データから文字情報を生成し、制御部540に出力するものである。
【0046】
(4−4)制御部
制御部540は、後記する位置データ処理装置1に送信する信号を生成するとともに、位置データ処理装置1から出力された移動経路データに沿った移動、および種々のタスク命令信号に基づいて、ロボット5の各部(画像処理部510、音声処理部520、自律移動制御部550および無線通信部560)を制御するものである。
この制御部540は、一般的なCPUを備えることで具現できる。
【0047】
かかる制御部540は、ロボット状態データを定期的に生成して無線通信部560に出力する。ロボット状態データは、ロボットID、および移動有無データを含んでおり、無線通信部560を介して位置データ処理装置1に送信される。
移動有無データは、ロボット5が移動しているか否かに関するデータであり、例えば、後記する脚部制御部551cが脚部53を駆動している場合には「移動している」、脚部制御部551cが脚部53を駆動していない場合には「移動していない」とする。
【0048】
(4−5)自律移動制御部
自律移動制御部550は、頭部制御部551a、腕部制御部551b、脚部制御部551cを有している。
頭部制御部551aは、制御部540の指示に従い頭部51を駆動し、腕部制御部551bは、制御部540の指示に従い腕部52を駆動し、脚部制御部551cは、制御部540の指示に従い脚部53を駆動する。
【0049】
(4−6)無線通信部
無線通信部560は、位置データ処理装置1とデータの送受信を行う通信装置である。無線通信部560は、公衆回線通信装置561aおよび無線通信装置561bを有している。
公衆回線通信装置561aは、携帯電話回線やPHS(Personal Handyphone System)回線などの公衆回線を利用した無線通信部である。一方、無線通信装置561bは、IEEE802.11b規格に準拠する無線LANなどの、近距離無線通信による無線通信部である。
無線通信部560は、位置データ処理装置1からの接続要求に従い、公衆回線通信装置561aまたは無線通信装置561bを選択して位置データ処理装置1とデータ通信を行う。
【0050】
(4−7)ロボット用記憶部
ロボット用記憶部570は、ロボット5の移動制御に必要な種々のデータを記憶するものである。すなわち、位置データ処理装置1から送信された移動経路データが記憶される。また、必要に応じて各検知装置21,31の配置データもこのロボット用記憶部570に記憶してもよい。なお、ロボット用記憶部570に記憶された移動経路データは、無線通信部560を介して更新可能である。
【0051】
このような構成のロボット5は、種々の制御を行いながら、ロボット用記憶部570に格納された移動経路データに沿って目標物である書類Oに到達するまで移動する。このとき、ロボット5は、移動中に位置データ処理装置1から送信されるロボット5の位置データやロボット用記憶部570に記憶された移動経路データあるいは配置データなどを比較し、必要に応じて移動方向を修正することもできる。
【0052】
目標物である書類Oに到達したロボット5は、カメラCM,CMにより目標物である書類Oの最終確認を行う。このとき、種々のタスクがあればこれを実行する。
種々のタスクとしては、例えば、書類Oを回収するなどのタスクを実行し、目標物がRFIDタグ36を所持する人物等であれば、「○○様、受付はこちらです。ご案内いたします。」などと話すタスクや社内案内を行うタスクを実行する。
【0053】
(5)位置管理システムの具体例と検知対象物の位置検知
(5−1)位置管理システムの具体例
次に、前記した超音波タグシステム2およびRFIDタグシステム3と、ロボット5とを用いて構成した位置管理システムAの具体例と、かかる位置管理システムAにおける検知対象物41,42の位置検知について詳細に説明する。
【0054】
具体例として図2に示す本発明に係る位置管理システムAでは、天井6に複数の検知装置21・・・、および検知装置31・・・をグリッド状に配置した検知空間DA内に、超音波タグ26a,26b(図3参照)が備えられたロボット5、RFIDタグ36aが備えられた目標物である書類O、超音波タグ26c〜26fが備えられた障害物である据え置きの本棚41a、RFIDタグ36b〜36fが備えられた障害物である机42a、鉢植えの植木42b〜42eを配している。
【0055】
なお、図2の具体例では、外部電力をとることのできる本棚41a(検知対象物41)やロボット5には、超音波タグ26a〜26fを備え、外部電力をとることのできない書類O、机42aや鉢植えの植木42b〜42e(検知対象物42)には、RFIDタグ36a〜36fを備えている。
【0056】
また、この位置管理システムAでは、両検知装置21,31を、それぞれ検知空間DAの天井6において50cm間隔でグリッド状に配置した。この配置間隔は、検知空間DAの広さ、用いるタグシステムの通信距離、検知空間DA内の検知対象物41,42の数などに応じて適宜設定される。なお、本実施形態では、検知装置21と検知装置31を交互に配置した。このように配置することで、障害物に通信を阻害されることなく、1つの検知対象物41,42について異種のタグシステム2,3でそれぞれ位置検知できる可能性が高くなる。また、このように両検知装置21,31を等間隔のグリッド状に配置すると、検知装置21,31の配置位置の記憶/照合を容易にすることができる。
なお、本発明の位置管理システムAにおいては、検知空間DAの形状や位置検出の精度要求などに応じて、天井6における検知装置21,31の配置密度を変えることもできる。
【0057】
そして、このような構成の位置管理システムAにおける超音波タグ26が設けられたロボット5やその他の検知対象物41などの位置検知は、図2および図3に示すように、同一線上にない任意に選択された3個の検知装置21を用いることによって行うことができる。
例えば、ロボット5であれば、同一直線上にない3個の検知装置21A,21B,21Cを用いて超音波タグ26aと超音波タグ26bの位置を測定することで位置検知を行うことができる。
なお、検知装置21に付した符号「A,B,C」は、異なる位置に配置された検知装置21であることを示す。
【0058】
(5−2)検知対象物の位置検知
次に、本発明の位置管理システムAによる超音波タグ26aの位置を測定する手法について以下に説明する。なお、超音波タグ26bやその他の超音波タグ26についても同様の手法で位置を測定することができる。
【0059】
超音波タグ26aの位置検知は、図2および図3に示すように、検知空間DAの基準となる{(F1×L1),・・・,(F10×L10)}のグリッド状に設けられた検知装置21・・・のうち、同一のタグ信号を検知した同一線上にない3個の検知装置21A,21B,21Cの配置構造を配置データとして用い、三辺法によって算出することによって超音波タグ26aの位置を算出することができる。
つまり、検知装置21から得られたロボット5や検知対象物41の検知空間DAにおける位置は、かかる配置データに基づき、マップ生成部14の位置データ作成手段141(図6参照)で下記式(1)〜(3)に示す三辺法の連立方程式を解くことにより算出することができる。
(XA−x)2+(YA−y)2+(ZA−z)2=lA2 ・・・(1)
(XB−x)2+(YB−y)2+(ZB−z)2=lB2 ・・・(2)
(XC−x)2+(YC−y)2+(ZC−z)2=lC2 ・・・(3)
但し、
(XA,YA,ZA),(XB,YB,ZB),(XC,YC,ZC)は、それぞれ検知空間DA内における検知装置21A,21B,21Cの座標である。
また、(x,y,z)は、検知された超音波タグ26aの検知空間DAにおける座標である。
そして、lA〜lCは、それぞれ、検知装置と検知対象物の距離データである。
なお、RFIDタグ36に関しては、その通信エリアは予め分かっているため、単独または複数の検知装置31が特定のRFIDタグ36の信号を受信することで、その位置が比較的大まかに分かる。
【0060】
(6)超音波タグシステムの動作およびRFIDタグシステムの動作
続いて、適宜図1〜図3を参照して超音波タグシステム2の動作およびRFIDタグシステム3の動作についての説明を行う。
【0061】
(6−1)超音波タグシステムの動作
図1に示すように、超音波タグシステム2においては、主制御部13が、インターフェース24を呼び出し、これに応じてインターフェース24が超音波発信指令を出力する。超音波発信指令を受信した超音波タグ26は、自己の固有のID(タグID)を含む超音波信号を送受信部22に向けて発信する。
【0062】
検知結果データ生成部23は、インターフェース24から超音波発信命令が発信されてから送受信部22から超音波にのせて送信される検知対象データを受信するまでの時間を計測することで、超音波タグ26と送受信部22間の距離lを算出する。
なお、図3に示すように、超音波タグ26a,26bをロボット5の背面コンピュータケース上部角2箇所に備えることで、検知装置21によって測定される物体位置から当該ロボット5の向きを検知することができる。
さらに、図示はしないが、電源を確保することのできる部屋の壁に超音波タグ26を備えることでロボット5が壁にぶつかることなく正確に移動することができる。
【0063】
検知結果データ生成部23は、このようにして算出した超音波タグ26との距離l、タグIDと当該検知装置21の装置IDを含めて検知結果データを作成し、この検知結果データをインターフェース24を介して後記する位置データ処理装置1に出力する。
【0064】
なお、各超音波タグ26に割り当てられられているタグIDは、時分割方式で主制御部13が発信命令を出力する場合は、当該主制御部13からの発信命令に含まれるIDに相当する超音波タグ26のみが発信動作を行う。なお、時分割方式の替わりに周波数分割方式で主制御部13が発信命令を出力するようにしてもよい。なお、時分割方式や周波数分割方式による発信動作は、後記するRFIDタグシステム3においても同様に採用することができる。
【0065】
また、位置データ処理装置1は、取得したタグIDから、そのタグIDが付された検知対象物41の形状や大きさなどの特徴を含めた「固有情報」を検索し、取得する。この固有情報は、処理装置用記憶部12のタグ情報記憶部122に格納されている。また、検知装置21に備えられた検知装置用記憶部25に予め記憶させておき、検知結果データを生成するときに当該検知結果データに含ませておくという態様としてもよい。
【0066】
(6−2)RFIDタグシステムの動作
図1に示すように、RFIDタグシステム3においては、主制御部13が、インターフェース34を呼び出し、これに応じてインターフェース34がRFID発信指令を出力する。RFID発信指令を受信したRFIDタグ36は、RFIDタグ36のタグIDを含む電波信号を送受信部32に向けて発信する。
【0067】
検知装置31からの信号を受信したRFIDタグ36は起電し、そのタグIDを検知装置31に向けて発信する。検知結果データ生成部33は、RFIDタグ36のタグIDおよび自己の装置IDを含めて検知結果データを生成し、この検知結果データを位置データ処理装置1に出力する。
【0068】
前記した超音波タグ26による場合と同様に、位置データ処理装置1は、取得したタグIDから、そのタグIDが付された検知対象物42の形状や大きさなどの特徴を含めた「固有情報」を検索し、取得する。なお、この固有情報は、超音波タグシステム2と同様に、処理装置用記憶部12のタグ情報記憶部122に格納されている。また、検知装置31に備えられた検知装置用記憶部35に予め記憶させておき、検知結果データを生成するときに当該検知結果データに含ませておくという態様としてもよい。
【0069】
なお、直進性の強い超音波とは異なり、RFIDタグ36から発信される電波は、回折し易いといった性質を有している。そのため、RFIDタグ36を備えた書類Oが他物体の陰に位置してしまった場合など、超音波タグシステム2では全く位置検知できない状態となっても、当該書類Oの位置検知を行うことができる可能性が高くなる。
【0070】
特に、本発明の位置管理システムAのように、検知空間DAの天井6全体に複数の検知装置31を配置すれば、障害物などによって一部の検知装置31がRFIDタグ36の位置検知を行うことができなった場合であっても、他の検知装置31を用いることによってRFIDタグ36の位置検知が可能であること、および、電波が回折し得ることからオクルージョンの問題の回避に貢献する。
【0071】
このように、位置管理システムAでは、他物体の陰に位置するおそれのある検知対象物についてはRFIDタグシステム3のような回折する性質を有する電波を用いるシステムを適用することで、オクルージョンの問題を解決することができる。また、外部電力が得られ、かつ、オクルージョンの問題が生じないような検知対象物には、超音波タグシステム2のような、より高精度に3次元位置検知が可能なシステムを適用することで、検知空間DA内の様々な検知対象物41,42の3次元位置を確実または精度良く検知することを可能としている。
また、様々な物体の3次元位置をより精度良く認識できる本発明を応用すれば、移動体のナビゲーションやマニピュレーション作業の確実性および精度の向上を図ることができる。
【0072】
(7)ロボットのナビゲーション
(7−1)位置管理システムの適用例
以下、適宜図2および図3を参照しつつ、図6〜図10を参照して、本発明に係る位置管理システムAをロボット5のナビゲーションに適用した例について説明する。
参照する図面において、図6は、位置データ処理装置の主制御部のブロック図であり、図7〜図9は、ロボットの移動経路の作成について説明する説明図であり、図10は、人工ポテンシャル法を用いて作成した移動経路を示す模式図である。
【0073】
なお、以下に説明する位置管理システムAの適用例では、超音波タグシステム2またはRFIDタグシステム3によって検知対象物41,42、ロボット5および書類Oの位置検知を行い、その結果を基に位置データ処理装置1が検知空間マップを作成し、さらに、その検知空間マップを基にロボット5の移動経路データを作成し、ロボット5を所定の位置に置かれた書類Oまでナビゲートしてこれを取りに行かせることを想定している。ここで、以下に説明する移動経路Bの作成の説明においては、検知空間DA内に配置されている検知対象物41,42やロボット5のうち、書類Oを目標物とし、備え付けの本棚41aおよび植木42b〜42eを障害物と想定しているが、これら目標物や障害物は、ロボット5が実行するタスク命令の内容によって適宜に変更するものである。
【0074】
図2に示すように、位置管理システムAは、検知空間DAに配置されたロボット5と、このロボット5と無線通信によって接続された無線LANなどのアクセスポイントとなる基地局1000と、基地局1000にルーター1100を介して接続されたサーバなどの位置データ処理装置1と、位置データ処理装置1にLANなどのネットワーク1200を介して接続された端末1300と、ロボット5と、目標物である書類Oと、備え付けの本棚41aと、机42aと、鉢植えの植木42b〜42eと、を備えている。
【0075】
図2に示すような適用例において、ロボット5をナビゲーションするためには、ロボット5の高精度な自己位置認識が必要であること、および、ロボット5自身がバッテリを備えていることから、当該ロボット5にはRFIDタグ36ではなく、超音波タグ26a,26bを備えている。なお、これら超音波タグ26a,26bは、通信時の送受信波にノイズが重畳せず、最も通信状態が良好になる位置に備えるのが好ましい。したがって、本適用例では、図3に示すように、ロボット5の背面コンピュータケース上部角2箇所に設けている。
【0076】
次に、図6を参照して、位置データ処理装置1が、検知空間DA内の各検知対象物41,42の位置を検知し、ロボット5の移動経路Bを作成し、ロボット5に移動命令信号を出力するまでの処理の一例について説明する。
【0077】
(7−2)検知対象物の位置を特定する手段
(7−2−1)検知結果データの取得
図6に示すように、位置データ作成手段141は、まず、入出力部11を介して検知装置21,31から送信されてきた検知結果データを取得する。なお、この検知結果データには、超音波タグ26、RFIDタグ36に付された固有のタグIDと、これらのタグIDに対応する検知対象物41,42の個別データおよび装置IDが含まれている。
【0078】
(7−2−2)配置データの読み出し
そして、位置データ作成手段141は、タグ情報記憶部122(図6においては不図示)に記憶させている検知装置21,31に割り振られた装置IDごとの配置位置を示す配置データを読み出し、これら配置データと検知結果データに基づき以下の処理を行う。
【0079】
(7−2−3)位置データの作成
位置データ作成手段141は、入力された検知結果データに含まれている検知装置21,31の装置IDと、入力された配置データとを照合して、検知空間DAにおける超音波タグ26とRFIDタグ36の位置を前記した三辺法などによって算出して位置データを作成し、その位置データを検知空間マップ作成手段142に出力する。
【0080】
(7−2−4)検知空間マップの作成
次いで、検知空間マップ作成手段142は、入力された超音波タグ26および/またはRFIDタグ36の位置(位置データ)と配置データを基に検知空間マップを作成し、作成した検知空間マップを出力する。
【0081】
(7−2−5)検知空間マップの出力
そして、検知空間マップ作成手段142は、作成した検知空間マップを端末1300とタグ情報記憶部122に出力する。これによって、利用者は、端末1300から検知空間DA内の各物体の配置状況を確認することができる。また、移動経路を作成する場合にあっては、検知空間マップを移動経路作成部15に出力する。
前記のような検知空間DA内の各物体の位置検知および検知空間マップの作成は、所定のタイミングで繰り返し行われ、各記憶部25,35,12などには最新のデータが逐次記憶されていく。
【0082】
続いて、本発明の位置管理システムAによってロボット5の移動経路Bを作成する場合の一例について、図7〜図10を参照して説明する。
【0083】
(7−3)移動経路を作成する手段
移動経路Bを作成する場合、移動経路作成部15は、入力された検知空間マップに基づいて、ロボット5の移動経路Bを作成する。
【0084】
ここで、移動経路作成部15でロボット5の移動経路Bの作成を行う手法としては、例えば、人工ポテンシャル法を用いることができる。
人工ポテンシャル法は、空間のサイズや存在する物体の数などにかかわらず柔軟に移動経路を逐次自動作成することができるという利点がある。特に、人工ポテンシャル法は、構造物に関する情報を取得しやすい屋内や工場内などに有利である。人工ポテンシャル法による移動経路Bの作成は、以下のようにして行われる。
【0085】
(a)まず、移動経路作成部15に入力された検知空間マップ、超音波タグ26およびRFIDタグ36の位置データ、および、超音波タグ26またはRFIDタグ36が付されている検知対象物41,42の個別データ等を用いて、ロボット5の位置と目標物である書類Oの位置を特定する。
【0086】
(b)次に、移動経路作成部15は、図7に示すように、検知空間DA内に引力ポテンシャル場を設定する。引力ポテンシャル場とは、ロボット5を目標物のある目標位置(xo,yo)に近づけるために設定されるものである。具体的には、検知空間DA内の各物体を2次元平面(図7のx−y平面)に投影した上で、目標物の位置(xo,yo)で最も引力ポテンシャルUa(x,y)が低くなるように設定され(例えば、引力ポテンシャル「0(ゼロ)」)、目標物から離れた位置(x,y)ほど引力ポテンシャルUa(x,y)が高くなるように設定される。このような引力ポテンシャル場は、例えば、下記式(4)に基づいて設定できる。ここで、kpは正の重み係数であり、kpは例えば、ロボット5の移動前の初期位置における引力ポテンシャルが「1」となるように定められる。
【0087】
【数1】

【0088】
(c)次に、図8に示すように、移動経路作成部15は、ロボット5の目標物までの移動に障害となる本棚41a、机42a、鉢植えの植木42b〜42eなどの位置を特定するとともに、これら障害物のx−y座標に基づき、障害物のある領域とその近辺の領域について高いポテンシャル(例えば、障害物領域はポテンシャル値「1」)となるような斥力ポテンシャルUb(x,y)を設定する。斥力ポテンシャルUb(x,y)は、ロボット5を障害物に近づけないために設定されるものである。斥力ポテンシャルUb(x,y)は、例えば、下記式(5)に基づいて設定される。ここで、ηは、正の重み定数である。Poは、正の定数であり、斥力ポテンシャルUb(x,y)を発生させる「しきい値」である。定数Poは、どの程度の距離まで斥力ポテンシャルUb(x,y)の計算を行うかを決める値であり、定数ηは、斥力ポテンシャルUb(x,y)の大きさを調整するための値である。定数Poおよび定数ηは、検知空間DA内の物体の数、主制御部13の計算能力、斥力ポテンシャル計算の収束までの要求時間などに応じて適宜決定される。ロボット5の位置検出精度にもよるが、例えば、定数ηが大きければロボット5は移動中に障害物に接触する可能性が低くなり、定数ηが小さければロボット5はより狭い部分を通過できるようになる。
また、下記式(5)において、P(x,y)は、検知空間DA内の任意の座標(x,y)から、障害物があると認識される座標までの最近接距離を表し、下記式(6)で算出される。座標(xm,ym)は、障害物が占める領域内の全ての座標を表す。
【0089】
【数2】

【0090】
【数3】

【0091】
(d)そして、移動経路作成部15は、(a)から(c)で設定された引力ポテンシャルUa(x,y)と斥力ポテンシャルUb(x,y)とを合成して図9に示すような合成ポテンシャルマップを作成する。
【0092】
(e)図10に示すように、作成された合成ポテンシャルマップを用いることにより、障害物である本棚41aや鉢植えの植木42b〜42eを避けて、目標物である書類Oまでロボット5を移動させるための最短・最良の経路を、ロボット5の現在位置から合成ポテンシャルが低くなる位置をたどっていくことで、算出することができる。
なお、図2、図10に示すように、目標物である書類Oが、障害物である机42aの上に置かれた状態であるときなどは、移動経路Bを作成する際には、机42aの斥力ポテンシャルUb(x,y)を考慮しないか、考慮しても移動経路B作成時にはこれを反映させず、移動経路Bを作成した後に、書類Oが机42a上に置かれていることをロボット5に認識させるようにするとよい。
【0093】
なお、人工ポテンシャル法によって移動経路Bを算出する際に、処理装置用記憶部12の自律移動体データ記憶部121に記録されているロボット5、本棚41a、机42a、鉢植えの植木42b〜42eの寸法を参照して、移動させるロボット5が、作成した移動経路B上を移動することができるか否かについても判定している。このようにすることで、ロボット5が作成した移動経路B上を移動することができないなどの不具合を未然に防ぐことができる。
前記(a)〜(e)の手順による移動経路の作成は、任意に設定された所定の時間間隔(例えば0.1秒間隔など)や移動距離ごとに更新するように構成することで、ロボット5をより高精度に移動させることができる。
【0094】
移動経路作成部15は、このようにして作成した移動経路Bを移動経路データとして入出力部11と自律移動体データ記憶部121(図6においては不図示)に出力する。
【0095】
(7−4)移動経路を自律移動体に伝える手段
入出力部11からの移動経路データを端末1300に出力することで移動経路Bが表示される。また、ロボット5を移動させるときは、移動経路データを移動指示部16に出力する。
【0096】
移動指示部16は、移動経路作成部15から入力された移動経路データを基に移動命令信号を生成し、当該移動命令信号を入出力部11や基地局1000(図1参照)を介してロボット5に無線送信する。
【0097】
ロボット5は、無線通信部560によってかかる移動経路データを含む移動命令信号を受信し、含まれている移動経路データをロボット5の制御部540やロボット用記憶部570に出力する。制御部540は、移動経路データとして入力された移動経路Bに基づいて、各アクチュエータ等を駆動させて目標物Oまで自律二足移動を行う。この際、自己の視覚センサや自己位置検出システムを用いてもよい。
【0098】
このように、本発明の位置管理システムAによれば、ロボット5が移動を開始する前に予め移動経路を作成しているので、従来の位置管理システムのように場当たり的な移動経路の探索・作成を行わなくて済む。その結果、従来の位置管理システムと比較してスムーズにロボット5を移動させることができる。また、本発明の位置管理システムAによれば、ロボット5が移動を開始する前に予め全検知対象物41,42の位置が特定でき、また、移動経路が作成されているので、目標物である書類Oまでのスムーズな移動が可能となる。
【0099】
(8)その他の緒言
以上、本発明の位置管理システムについて述べてきたが、本発明の位置管理システムは前記の内容に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において変更・改変して用いることができることはいうまでもない。
【0100】
二種以上の検知システムの具体例として、超音波タグシステム2およびRFIDタグシステム3を具体的に示したが、その位置を検知させ得る検知システムであればこれらに限定されることはなく、例えば、赤外線タグシステムとRFIDタグシステム、画像システムとRFIDシステムを組み合わせて位置管理システムAを構築してもよい。
【0101】
また、例えば、前記の説明において、移動経路Bの作成を位置データ処理装置1で行うこととしたが、位置データ処理装置1の構成要素の全てまたは一部がロボット5内に設けられた構成としてもよい。
【0102】
さらに、例えば、ロボット5の構成に、ロボット5自身の向きを検出し、向きデータを取得するためのジャイロセンサ(不図示)や、ロボット5自身の現在位置を検出し、現在位置データを取得するためのGPS受信器(不図示)を併用してもよい。
この場合において、現在位置データは、ロボット5の現在位置(座標)に関するデータであり、GPS受信器からも得ることができる。
【0103】
位置データ処理装置1は、受信した向きデータと現在位置データを、ロボット5の移動経路Bを作成する際に参照することでより正確にロボット5の位置や向きを把握することができる。したがって、ロボット5の移動の際に生じる誤差を補正することが可能となる。
【0104】
なお、ロボット5の移動経路Bを作成する手段として、人工ポテンシャル法を用いる場合について説明したが、移動経路Bを作成するにあたっては、これに限定されることはなく、例えば、周知のグラフ探索法を用いてもよい。グラフ探索法を用いた場合でも、人工ポテンシャル法を用いた場合と同様に最短経路の探索とそれに基づく移動経路Bの決定を行うことができる。
【0105】
また、消費電力や各種のタグを設けるコストを低減させるために、ロボット5、書類O、本棚41aなどが備える超音波タグ26やRFIDタグ36から送信される検知結果データに、これらが設けられた検知対象物41,42の寸法などの特徴を示すデータを含ませることもできる。
【0106】
また、本発明の実施形態において、特許請求の範囲に記載の「自律移動体」の一例として二足歩行ロボットであるロボット5を挙げて説明したが、本発明の自律移動体は、二足歩行ロボットに限定されることはなく、例えば、位置データ処理装置1からのタスク命令信号に従って移動可能な掃除機、電動の車イスなどにも用いることが可能である。
【0107】
また、本発明の位置データ処理装置1は、自律移動体の移動に利用するまでもなく、単に検知空間DA内のロボット5を含む検知対象物41,42の位置を把握して、例えば、別の場所にいる利用者にモニター表示によって、これらの配置態様を知らせるという利用法もある。
【0108】
さらに、位置管理システムAの位置データ処理装置1においては、検知装置21,31の配置を、処理装置用記憶部12内に記憶された配置データを基に装置IDを照合することでその位置を算出しているが、本発明における位置データ処理装置1の動作としてはこれに限定されるものではない。
すなわち、検知装置21,31に備えられた検知装置用記憶部25,35に、個々の検知装置21,31の配置データを記憶しておき、検知結果データを位置データ処理装置1に送信する際に当該検知結果データに配置データを含めた場合であっても、当該位置データ処理装置1は、前記で説明したハードウェアを用いることによって、検知対象物41,42の位置を高精度に特定することや移動経路Bを作成することができる。
【0109】
なお、位置データ処理装置1は、一般的なコンピュータを、前記した各手段として機能させる位置管理プログラムとして実現することもできる。この位置管理プログラムは、通信回線を介して配布することも可能であるし、CD−ROM等の記録媒体に書き込んで配布することも可能である。
【0110】
以上、説明したように、二種以上の検知用タグと、当該検知用タグの種類に応じて備えられた検知装置を複数備えた位置データ処理装置と、前記構成のロボットで構成される位置管理システムによれば、カメラや超音波センサを備えた完全自律型のナビゲーションシステム、磁気マーカや特定の形状のマーカを参照する環境内マーカ参照型のナビゲーションシステム、環境配置カメラによるナビゲーションシステム、あるいは、従来の超音波や赤外線を用いたナビゲーションシステムのいずれにおいても解決することができなかったオクルージョンの問題の防止と、空間内の様々な検知対象物の3次元位置を確実にまたは精度良く認識することの両立が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明の位置管理システムの原理を説明する構成図である。
【図2】一実施形態に係る位置管理システムの構成を示す構成図である。
【図3】一実施形態に係る位置管理システムの位置関係を示す平面図である。
【図4】位置管理システムの位置データ処理装置のブロック図である。
【図5】ロボットを示すブロック図である。
【図6】位置データ処理装置の主制御部のブロック図である。
【図7】ロボットの移動経路の作成について説明する説明図である。
【図8】ロボットの移動経路の作成について説明する説明図である。
【図9】ロボットの移動経路の作成について説明する説明図である。
【図10】人工ポテンシャル法を用いて作成した移動経路を示す模式図である。
【符号の説明】
【0112】
A 位置管理システム
1 位置データ処理装置
11 入出力部
12 処理装置用記憶部
13 主制御部
14 マップ生成部
15 移動経路作成部
16 移動指示部
2 超音波タグシステム
21 超音波タグ検知装置
22 送受信部
23 検知結果データ生成部
24 インターフェース
25 検知装置用記憶部
26 超音波タグ
3 RFIDタグシステム
31 RFIDタグ検知装置
32 送受信部
33 検知結果データ生成部
34 インターフェース
35 検知装置用記憶部
36 RFIDタグ
41,42 検知対象物
41a 本棚
42a 机
42b〜42e 鉢植えの植木
5 ロボット
6 天井
O 書類
121 自律移動体データ記憶部
122 タグ情報記憶部
141 位置データ作成手段
142 検知空間マップ作成手段
146 検知空間マップ出力手段
1000 基地局
1100 ルーター
1200 ネットワーク
1300 端末
B 移動経路
DA 検知空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置が検知される検知対象物に設けられた、互いの検知能を補完し合う二種以上の検知用タグと、
前記検知用タグの種類別に設けられ、前記検知用タグからの信号を受信すると当該検知用タグに付された固有のタグIDと、自己に付されている装置IDと、を含む検知結果データを生成する検知装置と、
取得した前記検知結果データと、前記検知装置の配置データとに基づいて処理することで前記検知対象物の位置を特定する位置データ処理装置と、
を備えることを特徴とする位置管理システム。
【請求項2】
前記検知用タグは、超音波タグとRFIDタグであり、各タグは、前記位置検知対象物の特性に応じて選択的に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の位置管理システム。
【請求項3】
二種以上の前記検知装置は、検知空間の天井に所定の間隔でグリッド状かつ交互に設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の位置管理システム。
【請求項4】
前記位置検知対象物には少なくとも1つの自律移動体を含み、かつ、
前記位置データ処理装置は、さらに前記自律移動体の移動始点および移動終点の情報と前記位置検知対象物の位置情報とに基づいて移動経路を作成し、当該移動経路を前記自律移動体に伝えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の位置管理システム。
【請求項5】
位置が検知される検知対象物に設けられた、互いの検知能を補完し合う二種以上の検知用タグと、当該検知用タグの種類別に設けられ、前記検知用タグからの信号を受信すると当該検知用タグに付された固有のタグIDと、自己に付されている装置IDと、を含む検知結果データを生成する検知装置と、を備えた位置管理システムにおいて、
検知空間に存在する前記検知対象物の位置を管理するためにコンピュータを、
前記検知装置から取得した検知結果データと、前記検知装置の配置データとに基づいて、前記検知対象物の位置を特定する手段、
として機能させることを特徴とする位置管理プログラム。
【請求項6】
前記検知対象物には少なくとも1つの自律移動体を含み、かつ、
特定した前記検知検知対象物の位置に基づいて前記自律移動体の移動経路を作成するためにコンピュータを、さらに、
前記自律移動体の移動始点および移動終点の情報と前記位置検知対象物の位置情報とに基づいて前記移動経路を作成する手段、
作成した前記移動経路を前記自律移動体に伝える手段、
として機能させることを特徴とする請求項5に記載の位置管理プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−17414(P2007−17414A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−202292(P2005−202292)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】