説明

低損失旋回による航続距離延長制御システム及び方法

【課題】前輪舵角と駆動力差モーメントとの最適な組み合わせによって旋回時に必要な横力を発生させることにより、コーナリング抵抗を低減することによってエネルギー消費を低減する低損失旋回による航続距離延長制御システムを提供すること。
【解決手段】航続距離延長制御システム100は、最適駆動力差モーメントNz*を算出する最適駆動力差モーメント演算手段101と、前輪舵角δfを算出する前輪舵角演算手段102と、各モータに配分するトルク指令値を算出し、その各トルク指令値に基づき各モータを個別に制御するトルク配分制御手段103とからなる。ドライバーが旋回半径に応じてアクティブステアリングを操作すると、前輪舵角のみで旋回する場合に必要となる前輪舵角指令δh*がアクティブステアリングから出力される。駆動力Faccはドライバーのアクセル操作から指令値として入力されるものとしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低損失旋回による航続距離延長制御システム及び方法に関し、より詳細には、前輪舵角と駆動力差モーメントとの組み合わせによって旋回時に必要な横力を発生させる低損失旋回による航続距離延長制御システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化や化石燃料枯渇問題、大気汚染を始めとした環境問題が取り上げられている。ハイブリッド自動車(HV:Hybrid Vehicle)や電気自動車(EV:Electric Vehicle)は大気汚染の原因となる温室効果ガスの排出を従来の内燃機関自動車と比較し、大きく低減させることが可能である。
【0003】
これらのことからエコカーと呼ばれる自動車への関心が非常に高まっている。エコカーとして注目度の高い電気自動車はモータを駆動力とすることにより、内燃機関自動車と比較し以下の優位点がある(非特許文献1参照)。
・小型高出力のため分散配置ができ、駆動力差を発生させることが可能
・内燃機関に比べてトルク応答が数百倍速い
・電流値の測定により正確なトルクの検出が可能
これらの特性は、車両姿勢制御の面でも非常に有効である。そのため、モータのトルク応答の速さを利用したスリップ率推定(特許文献1参照)や、前後輪独立操舵システムなども用いた車両姿勢制御(特願2009−011298号明細書参照)も行われてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−142108号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Y. Hori: ‘‘Future Vehicle by Electricity and Control-Research on Four-Wheel-Motored: UOT Electric March II’’, IEEE Trans. IE, Vol.51, No.5.2004
【非特許文献2】Rajesh Rajamani, ‘‘Vehicle Dynamics and Control’’, Springer
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、内燃機関の自動車と比較した優位点は多く挙げられるが、電気自動車が普及しない要因として、インフラの整備や価格が従来の自動車より高いなどが挙げられている。だが、最も大きな要因は、一充電走行距離が短いことが挙げられる。電気自動車は、先にも挙げたようにモータを駆動力としているので、一充電走行距離はバッテリーの容量に依存する。つまり、バッテリーの容量が大きくならない限り、走行距離の問題を解決することは不可能である。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、前輪アクティブステアリング機構を用いて前輪舵角と駆動力差モーメントとの最適な組み合わせによって旋回時に必要な横力を発生させることにより、必要な横力を前輪舵角のみで発生させていた従来法に対し、コーナリング抵抗を低減することによってエネルギー消費を低減する低損失旋回による航続距離延長制御システム(RECS:Range Extention Control System)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の本発明は、モータトルクによって駆動される駆動輪を左右に有する自動車の操舵輪舵角と駆動輪間のトルク配分とを制御する低損失旋回による航続距離延長制御システムであって、ドライバーが操作するステアリングホイールの中立位置からの回転角と所定のステアリングレシオとによって操舵輪舵角を決定する操舵輪制御手段と、前記回転角と車体速度から、旋回時の損失が最小になる最適駆動力差モーメントを算出する最適駆動力差モーメント演算手段と、前記最適駆動力差モーメントとアクセルから入力された駆動力指令から、駆動輪間に配分するトルクを算出し、前記算出されたトルクに基づき各駆動輪を制御するトルク配分制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、モータトルクによって駆動される駆動輪を左右に有する自動車に用いる、操舵輪舵角と駆動輪間のトルク配分とを制御する低損失旋回による航続距離延長制御システムであって、ドライバーが操作するステアリングホイールの中立位置からの回転角に対し、任意の操舵輪舵角を与えることができる操舵輪制御手段と、前記回転角と車体速度から、旋回時の損失が最小になる最適駆動力差モーメントを算出する最適駆動力差モーメント演算手段と、前記最適駆動力差モーメントから最適操舵輪舵角を算出する最適操舵輪舵角演算手段と、前記最適駆動力差モーメントとアクセルから入力された駆動力指令値から、駆動輪間に配分するトルク指令を算出し、前記算出されたトルク指令に基づき各駆動輪を制御するトルク配分制御手段とを備え、前記操舵輪制御手段は、前記最適操舵輪舵角に基づき前記操舵輪舵角を決定することを特徴する。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の低損失旋回による航続距離延長制御システムにおいて、前記旋回時の損失は、走行抵抗と前記車体速度との積と、前記駆動力差モーメントと前記自動車の垂直方向周りの角速度であるヨーレートとの積との和であることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の低損失旋回による航続距離延長制御システムにおいて、前記左右の駆動輪は、それぞれ別のモータによって駆動されていることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の低損失旋回による航続距離延長制御システムにおいて、車体速度をドライバーからの車体速度指令に制御するように駆動力を算出する駆動力算出手段をさらに備え、前記制御するトルク配分制御手段は、アクセルから入力された前記駆動力指令に替えて、前記駆動力算出手段によって算出された駆動力を使用することを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、モータトルクによって駆動される駆動輪を左右に有する自動車の操舵輪舵角と駆動輪間のトルク配分とを制御する低損失旋回による航続距離延長制御方法であって、ドライバーが操作するステアリングホイールの中立位置からの回転角と所定のステアリングレシオとによって操舵輪舵角を決定する操舵輪制御ステップと、前記回転角と車体速度から、旋回時の損失が最小になる最適駆動力差モーメントを算出する最適駆動力差モーメント演算ステップと、前記最適駆動力差モーメントから最適操舵輪舵角を算出する操舵輪舵角演算ステップと、前記最適駆動力差モーメントとアクセルから入力された駆動力指令から、駆動輪間に配分するトルクを算出し、前記算出されたトルクに基づき各駆動輪を制御するトルク配分制御ステップとを備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の発明は、モータトルクによって駆動される駆動輪を左右に有する自動車に用いる、操舵輪舵角と駆動輪間のトルク配分とを制御する低損失旋回による航続距離延長制御ステップであって、ドライバーが操作するステアリングホイールの中立位置からの回転角に対し、任意の操舵輪舵角を与えることができる操舵輪制御ステップと、前記回転角と車体速度から、旋回時の損失が最小になる最適駆動力差モーメントを算出する最適駆動力差モーメント演算ステップと、前記最適駆動力差モーメントから最適操舵輪舵角を算出する最適操舵輪舵角演算ステップと、前記最適駆動力差モーメントとアクセルから入力された駆動力指令値から、駆動輪間に配分するトルク指令を算出し、前記算出されたトルク指令に基づき各駆動輪を制御するトルク配分制御ステップとを備え、前記操舵輪制御ステップは、前記最適操舵輪舵角に基づき前記操舵輪舵角を決定することを特徴する。
【0015】
請求項8に記載の発明は、請求項6又は7に記載の低損失旋回による航続距離延長制御方法において、前記旋回時の損失は、走行抵抗と前記車体速度との積と、左右の駆動力差モーメントと前記自動車の垂直方向周りの角速度であるヨーレートとの積との和であることを特徴とする。
【0016】
請求項9に記載の発明は、請求項6乃至8のいずれかに記載の低損失旋回による航続距離延長制御方法において、前記左右の駆動輪は、それぞれ別のモータによって駆動されていることを特徴とする。
【0017】
請求項10に記載の発明は、請求項6乃至9のいずれかに記載の低損失旋回による航続距離延長制御方法において、車体速度をドライバーからの車体速度指令に制御するように駆動力を算出する駆動力算出ステップをさらに備え、前記制御するトルク配分制御ステップは、アクセルから入力された前記駆動力指令に替えて、前記駆動力算出ステップによって算出された駆動力を使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、前輪アクティブステアリング機構を用いて前輪舵角と駆動力差モーメントとの最適な組み合わせによって旋回時に必要な横力を発生させることにより、必要な横力を前輪舵角のみで発生させていた従来法に対し、コーナリング抵抗を低減することによってエネルギー消費を低減する効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】一般的な4輪車の車両モデルを示す図である。
【図2】前輪舵角により生じるコーナリング抵抗を示す図である。
【図3】図3(a)は速度V=10[km/h]、旋回半径R=20[m]での駆動力差モーメントと損失の関係を示す図であり、(b)は速度V=30[km/h]、旋回半径R=50[m]での駆動力差モーメントと損失の関係を示す図であり、(c)は速度V=60[km/h]、旋回半径R=50[m]での駆動力差モーメントと損失の関係を示す図である。
【図4】(a)は前輪舵角δfと左右の駆動力差モーメントNzの実験車両での変化を測定した結果を示す図であり、(b)は旋回における損失と前輪舵角の実験車両での変化を測定した結果を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る低損失旋回による航続距離延長制御システムの制御ブロック図である。
【図6】(a)は前輪舵角δf、(b)は駆動力差モーメントNz、(c)は車体速度、(e)は損失P、(f)は消費エネルギーの時間変化のシミュレーション結果を示す図であり、(d)は車体軌道のシミュレーション結果を示す図である。
【図7】(a)は前輪舵角δf、(b)は駆動力差モーメントNz、(c)は車体速度、(e)は損失P、(f)は消費エネルギーの時間変化の実験結果を示す図であり、(d)は車体軌道の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0021】

【0022】

【0023】

【0024】

【0025】

【0026】
本願明細書では前輪アクティブ操舵機構を有し、後輪駆動自動車を想定している。
【0027】

【0028】

【0029】

【0030】

【0031】

【0032】
式(22)に式(23)、式(35)をそれぞれ代入し、従来の旋回方法である駆動力差モーメント0[Nm]から、実験車両が発生させることが可能な最大駆動力差モーメント1400[Nm]まで損失の変化をシミュレーションした。図3(a)〜(c)に、異なる車体速度での駆動力差モーメントと損失の関係を示す。Cf、Crは、Cf=11200、Cr=31600をノミナル値として用いた。従来法の前輪舵角のみの旋回による損失を100%とした。速度V=10[km/h]においては旋回半径R=20[m]となるような前輪舵角、駆動力差モーメントを与え、速度V=30[km/h]、V=60[km/h]においては、旋回半径R=50[m]となるように前輪舵角、駆動力差モーメントを与えている。
【0033】
図3(a)のときは、駆動力差モーメントを用いない場合に旋回損失が最も小さくなる。図3(b)においては適切な駆動力差モーメントを使い、不足するヨーモーメントを前輪舵角により補い旋回を行なうことにより、旋回損失が最小化される。図3(c)においては、車両の最大駆動力差モーメントを用いる場合に旋回損失が最も小さくなる。
【0034】
図4(a)に前輪舵角δfと左右の駆動力差モーメントNzの実験車両での変化を測定した結果を示し、図4(b)に旋回における損失と左右の駆動力差モーメントNzの実験車両での変化を測定した結果を示す。車体速度V=15[km/h]、旋回半径8[m]となるように速度及び前輪舵角指令値を与え、駆動力差モーメントを0から600[Nm]まで入力した。実験車両では駆動力差モーメントを600[Nm]以上出力可能だが、それ以上の駆動力差を用いても提案法におけるコーナリング抵抗の減少分より駆動力差による損失の方が大きくなり損失が単調増加する領域である。尚、駆動力差モーメントは式(11)に示したTDLを用いて左右の駆動力として与えた。図4(a)より駆動力差モーメントを用いるにつれ前輪舵角が減少すること、また図4(b)より、駆動力差モーメントを100[Nm]となるように与えたとき損失が最小となることが分かる。
【0035】
以上より、旋回における損失は車体速度、旋回半径及び駆動力差モーメントに依存することが確認できる。
【0036】
〈2・4〉制御回路構成
図5に、本発明の実施形態に係る低損失旋回による航続距離延長制御システムの制御ブロック図を示す。RECS100は、最適駆動力差モーメントNz*を算出する最適駆動力差モーメント演算手段101と、前輪舵角δfを算出する前輪舵角演算手段102と、TDLに基づき各モータに配分するトルク指令値を算出し、その各トルク指令値に基づき各モータを個別に制御するトルク配分制御手段103とからなる。
【0037】
ドライバーが旋回半径に応じてアクティブステアリングを操作すると、前輪舵角のみで旋回する場合に必要となる前輪舵角指令δh*がアクティブステアリングから出力される。また、車体速度Vの制御偏差から必要な駆動力Faccを算出する。尚、この駆動力Faccはドライバーのアクセル操作から指令値として入力されるものとしてもよい。
【0038】
RECS100は、前輪舵角指令δh*および車体速度Vから損失Pを最小化する駆動力差モーメントNzを算出し、算出した駆動力差モーメントNzを式(35)に代入して必要な前輪舵角δfを算出している。
【0039】
また、各駆動輪のトルクは最適駆動力差モーメント演算手段101によって算出された最適駆動力差モーメントNz*および駆動力Faccから式(11)に示すTDLを用いて算出している。
【0040】
本発明のように、損失Pを最小化する駆動力差モーメントNzに対して前輪舵角δfが決まる場合、従来のように単に前輪舵角を与えるだけのステアリング機構では、旋回半径を決める前輪舵角δhと実際の前輪の舵角である前輪舵角δfとを同時に入力することはできない。また、何らかの方法で前輪舵角δh、δfを入力できたとしても、従来と同様の操作感覚でそれら異なる2つの値を同時に正確に入力することは困難である。
【0041】
そこで本発明では、ドライバーが従来の自動車と同じ操作感覚でステアリングを操作する、すなわち前輪舵角δhを入力するだけで前輪舵角δfを実際の前輪舵角とするために、ステアバイワイヤシステムおよびアクティブステアリング機構を用いている。これにより、駆動力差モーメントNzに対して常に正確な前輪舵角δfを実現できるので、損失をより正確に制御可能になる。
【0042】

【0043】

【0044】
3.シミュレーションおよび実験による検証
以下、本発明の有効性をシミュレーション及び実験にて示す。
〈3・1〉実験車両
実験車両には独自に製作した電気自動車FPEV2−Kanonを用いた。本実験車両は、駆動用モータとして4輪に東洋電機製造製アウターローター型インホイールモータを搭載している。このモータは、ダイレクトドライブ方式を採用しているため、減速ギアのバックラッシュの影響を受けずに路面からの反力が直接モータへ伝わる。そのため、本発明の各種制御法を実装するに当たり非常に適している。
【0045】
前輪用モータとして±500[Nm]、後輪用モータとして±340[Nm]と特性の異なるモータを搭載している。これらインホイールモータを分散配置して駆動力差モーメントを発生させることによって、ヨーモーメント制御を可能にしている。
【0046】
ステアリング機構は、前後輪独立操舵方式を採用している。また、前後輪独立操舵用モータとしてmaxon社製の250Wモータを前後に搭載し、アクティブステアリング機構を実現している。また、前輪ステアリング機構はステアリングシャフトを取り外すことにより、ステアバイワイヤ方式を実現している。
【0047】
バッテリーには、大容量かつ高速充電可能なリチウムイオン電池を搭載している。1モジュール当たり16[V]のバッテリーを10個直列に接続し、チョッパを介し2倍に電圧を昇圧し、インバータへと給電するシステムとなっている。
【0048】
車両制御のコントローラとしてdSPACE製のAUTOBOXを搭載している。本願明細書において示す実施形態では、駆動力とし後輪2輪のインホイールモータ及び、ステアリング機構として前輪アクティブ操舵機構を用いている。
【0049】
〈3・2〉シミュレーションによる検証
本節では、航続距離延長制御システムを用いた旋回を行い、従来の旋回方法との消費エネルギーを比較する。シミュレーションにおいて、車両は実験車両を想定している。車両モデルとして2次元車両モデルを用いた。また、一定速における消費エネルギーの変化を比較するため車体速制御系を構築した。
【0050】

【0051】
【表1】

【0052】
表1に1[kWh]当たりに換算した走行距離を示す。本願明細書では、機械的損失のみで比較を行うため、チョッパやインバータ、モータの効率は全て100%として扱っている。走行距離は速度を測定時間で積分を行い、エネルギーも同様にパワーを測定時間で積分を行った。そして、1[kWh]当たりに換算した走行距離は、求めた走行距離をエネルギーで除算することにより求めた。モータ出力は、実験車両の5[kWh]、市販されている電気自動車の16[kWh]を想定し等速で円旋回を行ったときの走行距離の変化を比較した。本発明の制御方法を用いると、従来法に対し1[kWh]当たり300[m]走行距離が延長されている。
【0053】
〈3・3〉実験による検証
図7(a)〜(f)に、実機によるシミュレーションと同様の実験による検証結果を示す。図7(a)は前輪舵角δf、図7(b)は駆動力差モーメントNz、図7(c)は車体速度、図7(e)は損失P、図7(f)は従来の旋回方法と本発明の旋回方法の消費エネルギーの差の積分値、の時間変化をそれぞれ示しており、図7(d)は車体軌道を示している。実験は、アスファルトより路面摩擦係数が低いグラウンドで行った。実験における車体速制御系の極はシミュレーションと同様にK=−1[rad/s]としている。実験において、従来法と提案法が同じ走行軌跡となるようにCf、Crの調整を行った。これらの条件で定常円旋回を行い、消費エネルギーの変化を検証した。実験結果の車体速と損失は、ノイズ除去のため位相遅れのないローパスフィルタを用いオフラインで処理を行っている。
【0054】
図7(a)、(b)より、前輪舵角が減少し駆動力差モーメントが発生し式(27)を満たしていることがわかる。図7(d)より、旋回軌跡を比較すると従来法と提案法でほぼ同様の旋回が行われている。図7(e)より、損失が減少していることが分かる。図7(f)より、10[s]間の旋回で約600[Ws]の消費エネルギーが減少していることが分かる。
【0055】
〈3・2〉のシミュレーションと同様の計算方法を用いて1[kWh]当たりに換算した走行距離を導出し、その値を表2に示す。本発明の制御方法を用いると、従来法に対し1[kWh]当たり約600[m]の走行距離が延長される。
【0056】
【表2】

【0057】
また、アクティブステアリング機構を使用しないで通常のステアリング機構を使用する場合、すなわち、ステアリングの回転角のみから前輪舵角δfを決める場合について説明する。ステアリング機構を使用する場合、車体速度V、前輪舵角δfから、最適駆動力差モーメントNz*および前輪舵角δhを決定する。そして、各駆動輪のトルクは最適駆動力差モーメントNz*および駆動力Faccから式(11)に示すTDLを用いて算出する。
【0058】
この場合、前輪舵角δhはシステム側では使用しないが、通常、ドライバーは旋回半径を決める前輪舵角δhに応じてステアリング操作を行うため、ドライバーはステアリング操作に対する実際の車両の向きや軌跡から前輪舵角δhを認識し、その前輪舵角δhに応じてステアリング操作を行う。
【0059】
尚、本願明細書では後輪駆動自動車について説明したが、本発明は、各種パラメータを前輪駆動自動車に適合させれば、前輪駆自動車においても同様の効果を奏することは明らかである。
【符号の説明】
【0060】
100 航続距離延長制御システム
101 最適駆動力差モーメント演算手段
102 操舵輪舵角演算手段
103 制御するトルク配分制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータトルクによって駆動される駆動輪を左右に有する自動車の操舵輪舵角と駆動輪間のトルク配分とを制御する低損失旋回による航続距離延長制御システムであって、
ドライバーが操作するステアリングホイールの中立位置からの回転角と所定のステアリングレシオとによって操舵輪舵角を決定する操舵輪制御手段と、
前記回転角と車体速度から、旋回時の損失が最小になる最適駆動力差モーメントを算出する最適駆動力差モーメント演算手段と、
前記最適駆動力差モーメントとアクセルから入力された駆動力指令から、駆動輪間に配分するトルクを算出し、前記算出されたトルクに基づき各駆動輪を制御するトルク配分制御手段と
を備えたことを特徴とする低損失旋回による航続距離延長制御システム。
【請求項2】
モータトルクによって駆動される駆動輪を左右に有する自動車に用いる、操舵輪舵角と駆動輪間のトルク配分とを制御する低損失旋回による航続距離延長制御システムであって、
ドライバーが操作するステアリングホイールの中立位置からの回転角に対し、任意の操舵輪舵角を与えることができる操舵輪制御手段と、
前記回転角と車体速度から、旋回時の損失が最小になる最適駆動力差モーメントを算出する最適駆動力差モーメント演算手段と、
前記最適駆動力差モーメントから最適操舵輪舵角を算出する最適操舵輪舵角演算手段と、
前記最適駆動力差モーメントとアクセルから入力された駆動力指令値から、駆動輪間に配分するトルク指令を算出し、前記算出されたトルク指令に基づき各駆動輪を制御するトルク配分制御手段と
を備え、前記操舵輪制御手段は、前記最適操舵輪舵角に基づき前記操舵輪舵角を決定することを特徴する低損失旋回による航続距離延長制御システム。
【請求項3】
前記旋回時の損失は、走行抵抗と前記車体速度との積と、前記駆動力差モーメントと前記自動車の垂直方向周りの角速度であるヨーレートとの積との和であることを特徴とする請求項1又は2に記載の低損失旋回による航続距離延長制御システム。
【請求項4】
前記左右の駆動輪は、それぞれ別のモータによって駆動されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の低損失旋回による航続距離延長制御システム。
【請求項5】
車体速度をドライバーからの車体速度指令に制御するように駆動力を算出する駆動力算出手段をさらに備え、前記制御するトルク配分制御手段は、アクセルから入力された前記駆動力指令に替えて、前記駆動力算出手段によって算出された駆動力を使用することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の低損失旋回による航続距離延長制御システム。
【請求項6】
モータトルクによって駆動される駆動輪を左右に有する自動車の操舵輪舵角と駆動輪間のトルク配分とを制御する低損失旋回による航続距離延長制御方法であって、
ドライバーが操作するステアリングホイールの中立位置からの回転角と所定のステアリングレシオとによって操舵輪舵角を決定する操舵輪制御ステップと、
前記回転角と車体速度から、旋回時の損失が最小になる最適駆動力差モーメントを算出する最適駆動力差モーメント演算ステップと、
前記最適駆動力差モーメントから最適操舵輪舵角を算出する操舵輪舵角演算ステップと、
前記最適駆動力差モーメントとアクセルから入力された駆動力指令から、駆動輪間に配分するトルクを算出し、前記算出されたトルクに基づき各駆動輪を制御するトルク配分制御ステップと
を備えたことを特徴とする低損失旋回による航続距離延長制御方法。
【請求項7】
モータトルクによって駆動される駆動輪を左右に有する自動車に用いる、操舵輪舵角と駆動輪間のトルク配分とを制御する低損失旋回による航続距離延長制御ステップであって、
ドライバーが操作するステアリングホイールの中立位置からの回転角に対し、任意の操舵輪舵角を与えることができる操舵輪制御ステップと、
前記回転角と車体速度から、旋回時の損失が最小になる最適駆動力差モーメントを算出する最適駆動力差モーメント演算ステップと、
前記最適駆動力差モーメントから最適操舵輪舵角を算出する最適操舵輪舵角演算ステップと、
前記最適駆動力差モーメントとアクセルから入力された駆動力指令値から、駆動輪間に配分するトルク指令を算出し、前記算出されたトルク指令に基づき各駆動輪を制御するトルク配分制御ステップと
を備え、前記操舵輪制御ステップは、前記最適操舵輪舵角に基づき前記操舵輪舵角を決定することを特徴する低損失旋回による航続距離延長制御方法。
【請求項8】
前記旋回時の損失は、走行抵抗と前記車体速度との積と、左右の駆動力差モーメントと前記自動車の垂直方向周りの角速度であるヨーレートとの積との和であることを特徴とする請求項6又は7に記載の低損失旋回による航続距離延長制御方法。
【請求項9】
前記左右の駆動輪は、それぞれ別のモータによって駆動されていることを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載の低損失旋回による航続距離延長制御方法。
【請求項10】
車体速度をドライバーからの車体速度指令に制御するように駆動力を算出する駆動力算出ステップをさらに備え、前記制御するトルク配分制御ステップは、アクセルから入力された前記駆動力指令に替えて、前記駆動力算出ステップによって算出された駆動力を使用することを特徴とする請求項6乃至9のいずれかに記載の低損失旋回による航続距離延長制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−188561(P2011−188561A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48443(P2010−48443)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】